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特開2024-91540アノードフリー金属電池セル用固体電解質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091540
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】アノードフリー金属電池セル用固体電解質
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0565 20100101AFI20240627BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240627BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20240627BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M10/052
H01M10/054
H01B1/06 A
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023212829
(22)【出願日】2023-12-18
(31)【優先権主張番号】22216077.2
(32)【優先日】2022-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】510010894
【氏名又は名称】ベレノス・クリーン・パワー・ホールディング・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ヨアン・メタン
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5G301CA11
5G301CA12
5G301CA16
5G301CA17
5G301CA27
5G301CD01
5H029AJ05
5H029AJ06
5H029AJ14
5H029AL11
5H029AL12
5H029AL13
5H029AM16
5H029CJ08
5H029CJ28
5H029HJ10
5H029HJ14
(57)【要約】
【課題】 アノードフリー金属電池セル用固体電解質を提供すること。
【解決手段】 本発明は、アノードフリー金属電池セル用の固体電解質(SSE)に関し、金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は周期表のIb族、IIb族、又はIIIa族の金属であり、SSEは、非水性溶媒、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は周期表のIb族、IIb族、又はIIIa族の金属の金属塩、アルミニウムベースハロゲン化化合物AlX、及びビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンを含み、式中、Xはハロゲン原子であり、nは1~6である。本発明は、このようなSSEの製造方法に更に関し、該方法は、液体前駆体を調製すること、及び液体前駆体を20℃~80℃の温度に曝露し、液体前駆体を固化させて、それにより、固体電解質を得ること、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードフリー金属電池セル用の固体電解質であって、前記金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は周期表のIb族、IIb族、又はIIIa族の金属であり、前記固体電解質は、非水性溶媒及びアルカリ金属、アルカリ土類金属又は周期表のIb族、IIb族、又はIIIa族の金属の金属塩を含み、前記固体電解質はアルミニウムベースハロゲン化化合物AlX及び/又はこれらの高分子型、及びビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI)アニオンを更に含み、式中、Xはハロゲン原子であり、nは1~6であることを特徴とする、固体電解質。
【請求項2】
Xは塩化物で、nは3であり、前記アルミニウムベースハロゲン化化合物はAlClである、請求項1に記載の固体電解質。
【請求項3】
前記金属は、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛又は銀である、請求項1に記載の固体電解質。
【請求項4】
前記金属塩と前記アルミニウムベースハロゲン化化合物及び/又はこれらの高分子型とのモル比は、1:2~50:1である、請求項1に記載の固体電解質。
【請求項5】
前記金属塩は、アニオンを含み、前記金属塩のアニオンはFSIである、請求項1に記載の固体電解質。
【請求項6】
アニオンを含む少なくとも1種のさらなる金属塩を更に含み、前記少なくとも1種のさらなる金属塩のアニオンは、FSI、ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド(TFSI)、ジシアナミド(DCA)、過塩素酸(ClO)、ジフルオロビス(オキサラト)ボレート(DFOB)、又はヘキサフルオロホスフェート(PF)である、請求項5に記載の固体電解質。
【請求項7】
前記非水性溶媒は、ニトリル、エーテル、エステル、カーボネート、スルホン、アミド、及びイオン液体からなる群より選択される、請求項5に記載の固体電解質。
【請求項8】
前記非水性溶媒は、アセトニトリル、ジメトキシエタン、又はイオン液体である、請求項7に記載の固体電解質。
【請求項9】
前記非水性溶媒は、アニオンを含むイオン液体であり、前記イオン液体のアニオンはFSIである、請求項1に記載の固体電解質。
【請求項10】
アノードフリー金属電池セル用の固体電解質の製造方法であって、前記金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は周期表のIb族、IIb族、又はIIIa族の金属であり:
-アルミニウムベースハロゲン化化合物AlXと金属塩を非水性溶媒に加え、それにより、液体前駆体を得ること、
-前記液体前駆体を、液体前駆体を固化させるのに十分な期間にわたり20℃~80℃の温度に曝露し、それにより、前記固体電解質を得ること、を含み、
式中、Xはハロゲン原子であり、nは1~6であり、前記金属塩は、前記アルカリ金属、前記アルカリ土類金属又は周期表のIb族、IIb族、又はIIIa族の前記金属の金属塩であり、前記液体前駆体は、ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI)アニオンを含む、方法。
【請求項11】
液体前駆体中の金属塩の濃度は、0.5~6Mである、請求項10に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項12】
前記アルミニウムベースハロゲン化化合物AlX及び/又は前記金属塩は、前記非水性溶媒中に少なくとも部分的に溶解する、請求項10に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項13】
Xは塩化物であり、nは3であり、前記アルミニウムベースハロゲン化化合物はAlClである、請求項10に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項14】
前記金属塩は、アニオンを含み、前記金属塩のアニオンはFSIであり、及び/又は前記非水性溶媒は、アニオンを含むイオン液体であり、前記イオン液体のアニオンはFSIである、請求項10に記載の固体電解質の製造方法。
【請求項15】
アノードフリー金属電池セル中の前記金属層のインサイツ堆積のための、請求項1に記載の固体電解質の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アノードフリー金属電池セル用の固体電解質に関する。本発明は、アノードフリー金属電池セル用の固体電解質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、携帯電話、無線家庭用品及び電気自動車ならびに電動二輪車などの電池を必要とする種々の装置のための電池の開発及び改善は、研究及び興味の対象の重要な分野になってきている。特に、二次電池の分野は、より小さく、より薄い、改善された寿命を有する電池の開発により進歩を続けている。
【0003】
これらの最近の進展に応じて、活物質としてリチウム金属を有するリチウム二次電池が注目されている。リチウム金属は、低いレドックス電位(標準水素電極に対して-3.045V)ならびに高い重量エネルギー密度(3860mAh/g)を有することが知られ、これは、リチウム金属を陰極(負極)として興味深い材料にしている。
【0004】
リチウム箔を負極集電体に接着することにより、リチウム金属を陰極として使用することが知られている。しかし、リチウムはアルカリ金属であるので、その高反応性のために、水及び酸素と反応する。これは、このような電池は、例えば、環境への漏出時に爆発のリスクがあるために危険と見なされるという欠点を有する。リチウム箔の取扱は更に、危険でもある。
【0005】
加えて、リチウム金属の大気中への曝露時に、通常、酸化の結果として酸化物層が形成される。このような酸化物層は、絶縁体として機能し、それにより、電気抵抗を高め、従って、電池の性能を低下させる。
【0006】
この問題を解決するために、アノードフリー電池セルが開発されてきた。このような電池セルは通常、負極集電体のみを含み、負極として金属(例えば、リチウム)層が電池の充電中に負極集電体上にインサイツで形成(堆積)され、電池の放電中に消費される。
【0007】
米国特許出願公開第2016/0261000号明細書(特許文献1)は、負極集電体、セパレーター及び正極を含むアノードフリー再充電可能電池を開示している。電池は、非水性溶媒、溶媒混合液又は高分子中に溶解した活性金属カチオン(例えば、リチウムイオン)を含む塩又は塩混合物を含む液体電解質を更に含む。セパレーターは、電解質と共に注入できる。電池の充電中に、負極が負極集電体の表面上にインサイツで形成される。
【0008】
上記電解質の欠点は、電解質が液体であり、これが、電池からの電解質の漏出につながり、機能喪失をもたらす場合があることである。別の欠点は、金属(例えば、リチウム)イオンが溶媒と相互作用し、それにより、負極層としてのインサイツでの堆積に利用できるイオンの量が減少することである。
【0009】
米国特許出願公開第2020/0203757号明細書(特許文献2)は、陽極、陰極集電体、及びセパレーターならびに電極間に挿入された電解質を含むリチウム二次電池を開示している。電解質は、ゲル高分子電解質であり、架橋できる。ゲル高分子電解質は、高分子マトリックス、及び有機溶媒混合物に溶解したリチウム塩を含む。リチウム金属層は、充電中に陰極集電体上にインサイツで形成される。
【0010】
ゲル高分子電解質の欠点は、そのリチウムイオン伝導度が、通常1mS/cm未満などのように、低いことが知られていることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2016/0261000号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2020/0203757号明細書
【発明の概要】
【0012】
前述の欠点の1つ又は複数を克服することが、本発明の1つの目的である。アノードフリー金属電池セル用の改善された固体電解質を提供することは、本発明の1つの目的である。特に化学的、物理的及び電気化学的に、より安定性のある固体電解質を提供することは、本発明の1つの目的である。
【0013】
使用中の電池セル中で、電解質と金属イオンとの間の相互作用を減らす、又は最小化することを可能にする固体電解質を提供することは、1つの目的である。
【0014】
当該技術分野のアノードフリー電池セル用の電解質と比較して、電池セルの性能を改善する、及び/又は電池セルの寿命を延長するアノードフリー電池セル用の固体電解質を提供することはさらなる1つの目的である。
【0015】
限られた数の処理ステップを含む、アノードフリー金属電池セル用の改善された固体電解質を製造する方法を提供することも、本発明の1つの目的である。
【0016】
本発明の第1の態様では、添付の特許請求の範囲で述べられるように、アノードフリー金属電池セル用の固体電解質(SSE)が提供される。
【0017】
アノードフリー金属電池セルの金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は周期表のIb族、IIb族、又はIIIa族の金属である。金属は、有利には、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛又は銀である。
【0018】
固体電解質は非水性溶媒を含む。換言すれば、SSEは、少なくとも1種、例えば、2種以上の非水性溶媒を含む。
【0019】
固体電解質は金属塩を更に含む。換言すれば、SSEは、少なくとも1種、例えば、2種以上の金属塩を含む。金属塩は、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は周期表のIb族、IIb族、又はIIIa族の金属塩である。
【0020】
金属塩の金属は、有利には、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛又は銀である。換言すれば、金属塩は、有利には、リチウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、又は銀塩である。
【0021】
SSEが2つ以上の金属塩を含む場合、これらの金属は、同じであっても、又は異なってもよい。例えば、限定されないが、SSEは、2種のリチウム塩、又はリチウム塩とマグネシウム塩の組み合わせを含み得る。
【0022】
周知のように、有利には、金属塩はアニオンを含む。有利には、周知のように、金属塩は、カチオンも含む。有利には、カチオンは、金属塩の金属のカチオンである。例えば、金属塩がリチウム塩である場合、カチオンはリチウムカチオン(Li)である。
【0023】
固体電解質は、アルミニウムベースハロゲン化化合物AlX及び/又はこれらの高分子型を更に含み、式中、Xはハロゲン原子である。有利には、nは1~6、例えば、1~3である。有利には、Xは、塩化物、臭化物、又はヨウ化物、好ましくは塩化物である。有利には、AlXの高分子型は、(AlXであり、式中、mは2以上である。
【0024】
有利には、Xは塩化物で、nは3であり、アルミニウムベースハロゲン化化合物はAlClである。有利には、Xは塩化物で、nは3で、mは2以上であり、アルミニウムベースハロゲン化化合物の高分子型は(AlClである。
【0025】
発明者らは、意外にも、固体電解質中のアルミニウムベースハロゲン化化合物AlX及び/又はこれらの高分子型の存在は、非水性溶媒を保護できることを発見した。特に、及びアノードフリー金属電池セルで使用中に、アルミニウムベースハロゲン化化合物AlX及びこれらのいずれかの高分子型は、どれが存在する場合でも、SSEの非水性溶媒と、電池セルの充放電時にSSEを通って移動する金属イオンとの間のいずれの相互作用も低減し、さらには最小化する。従って、SSE中のアルミニウムベースハロゲン化化合物AlX及び/又はこれらの高分子型の存在は、好都合にも、SSEの機能を維持可能にする。その存在はまた、アノードフリー電池セル中の金属イオンの減少を好都合にも低減し、それにより、アノードフリー電池セルの性能及び寿命を高める。
【0026】
固体電解質は、ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI)アニオンを更に含む。発明者らは、意外にも、SSE中のFSIアニオンの存在は、アルミニウムベースハロゲン化化合物AlX及び/又はこれらの高分子型を含む電解質の固体状態の性質を維持可能にすることを発見した。
【0027】
換言すれば、FSIアニオンが存在しなければ、電解質の実質的な固体状態の性質を実現できない、即ち、電解質は液体電解質のままであることに気付いた。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、発明者らは、FSIアニオンの存在は、FSIアニオンのフッ化物原子と、アルミニウムベースハロゲン化化合物AlX又はいずれかのこれらの高分子型のいずれがSSE中に存在するかにかかわらずこれらとの間の強力な相互作用の確立を可能にすると考えている。この強力な相互作用は、好都合にも、AlX及び/又はこれらの高分子型の固体状態マトリックス中で1種又は複数のFSIアニオンのネットワークを提供する。ネットワーク中の1種又は複数のFSIアニオンの存在は、AlX及び/又はこれらの高分子型の固体状態マトリックス中のFSIアニオンを固定することで、電解質により高い輸率を与え、それにより、従来のSSEと比較して、本発明の固体電解質が使用される電池セル全体の高められた効率に寄与すると発明者らは考えている。
【0028】
有利には、固体電解質中の金属塩とアルミニウムベースハロゲン化化合物及び/又はこれらの高分子型のモル比は、1:2~50:1、好ましくは1:1~30:1、例えば、2:1~20:1、より好ましくは3:1~10:1である。
【0029】
有利には、固体電解質中のFSIアニオンとアルミニウムベースハロゲン化化合物及び/又はこれらの高分子型のモル比は、1:2~50:1、好ましくは1:1~30:1、例えば、2:1~20:1、より好ましくは3:1~10:1である。
【0030】
本開示の固体電解質の第1の実施形態では、金属塩のアニオンはFSIである。例えば、金属塩の金属は、リチウム(Li)であり、金属塩は、有利には、LiFSIである。
【0031】
必要に応じ、第1の実施形態では、SSEは、少なくとも1種のさらなる金属塩、例えば、第2、第3、又は第4の金属塩を含み得る。任意のさらなる金属塩はまた、周知のように、カチオン及びアニオンを含む。有利には、少なくとも1種のさらなる金属塩のアニオンは、FSI、ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド(TFSI)、ジシアナミド(DCA)、過塩素酸(ClO)、テトラクロロアルミン酸ナトリウム(AlCl)、ジフルオロビス(オキサラト)ボレート(DFOB)、又はヘキサフルオロホスフェート(PF)である。
【0032】
例えば、SSEは、異なるカチオンを有し、両方ともアニオンとしてFSIを有する2種の金属塩、例えば、LiFSI及びNaFSIを含み得る。例えば、SSEは、少なくとも1種はアニオンとしてFSIを有する3種の金属塩を含み得る。有利には、SSEが3種の金属塩を含む場合、これらの1種は、アニオンとしてFSIを含み、他の2種の金属塩は、同じ又は異なるカチオン及び/又は同じ又は異なるアニオンを有し、第1のFSI含有金属塩としてLiFSI、ならびに第2及び第3の金属塩として、それぞれ、LiTFSI及びLiPFなどを有する。
【0033】
有利には、金属塩又は2種以上の金属塩の少なくとも1種のアニオンがFSIである場合、非水性溶媒は、ニトリル、エーテル、エステル、カーボネート、スルホン、アミド、及びイオン液体からなる群より選択される。限定されないが、非水性溶媒の好ましい例には、アセトニトリル、ジメトキシエタン及びイオン液体が挙げられる。
【0034】
イオン液体は、別の溶媒中に溶解される塩を必要とせずに中程度の温度で液体形態の塩として当該技術分野で既知である。イオン液体は通常、イオン-カチオン及びアニオンから構成される。有利には、非水性溶媒がイオン液体の場合、それは、有機カチオン及び無機又は有機アニオンを含む。
【0035】
本開示の固体電解質の第2の実施形態では、非水性溶媒は、イオン液体のアニオンがFSIであるイオン液体である。
【0036】
必要に応じ、第1の実施形態では、SSEは、少なくとも1種のさらなる非水性溶媒を含み得る。有利には、少なくとも1種のさらなる非水性溶媒は、ニトリル、エーテル、エステル、カーボネート、スルホン、アミド、及びイオン液体からなる群より選択される。少なくとも1種のさらなる非水性溶媒の好ましい例には、アセトニトリル、ジメトキシエタン及びイオン液体が挙げられる。
【0037】
第2又はさらなる非水性溶媒の1種がイオン液体である場合、これらのアニオンは、有利には、FSI、TFSI、DCA、AlCl、ClO、DFOB、又はPFである。例えば、SSEは、それぞれ、アニオンとしてFSIを有し、及び異なるカチオンを有する、非水性溶媒として2種のイオン液体を含み得る。あるいは、それぞれのイオン液体は、異なるアニオンで、その内の1種はFSIであるアニオン、及び同じカチオンを有し得る。換言すれば、非水性溶媒としての第2の又はさらなるイオン液体のアニオンは、FSI以外であってよい。
【0038】
有利には、非水性溶媒又は2種以上の非水性溶媒の少なくとも1種がFSIアニオンを有するイオン液体である場合、SSEの金属塩のアニオンは、TFSI、DCA、DFOB、ClO、AlCl、又はPFである。
【0039】
本開示の固体電解質の第3の実施形態では、第1及び第2の実施形態の組み合わせを含む。換言すれば、第3の実施形態では、金属塩又は2種以上の金属塩の少なくとも1種のアニオンはFSIであり、非水性溶媒、又は2種以上の非水性溶媒の少なくとも1種は、イオン液体であり、これらのアニオンはFSIである。
【0040】
本発明の第2の態様では、添付の特許請求の範囲で述べられるように、アノードフリー金属電池セル用の固体電解質(SSE)の製造方法が提供される。
【0041】
アノードフリー金属電池セルの金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は周期表のIb族、IIb族、又はIIIa族の金属である。有利には、金属は、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛又は銀である。
【0042】
方法は、液体前駆体を調製すること、及び液体前駆体を固化させることを含む。液体前駆体は、アルミニウムベースハロゲン化化合物AlXと金属塩を非水性溶媒に加えることにより得られる、又は調製される。
【0043】
アルミニウムベースハロゲン化化合物AlXは、有利には、本明細書で前述のようである。有利には、nは1~6、例えば、1~3である。有利には、Xは、塩化物、臭化物、又はヨウ化物、好ましくは塩化物である。
【0044】
有利には、Xは塩化物で、nは3であり、アルミニウムベースハロゲン化化合物はAlClである。代わりに又は追加して、アルミニウムベースハロゲン化化合物は、MAlXであり得、Xはハロゲン原子、nは1~6であり、Mは金属カチオンであり、yは少なくとも1である。有利には、金属カチオンは、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は周期表のIb族、IIb族、又はIIIa族の金属である。特に、金属カチオンは、リチウムカチオン、ナトリウムカチオン、又はマグネシウムカチオンである。例えば、金属カチオンがナトリウムである場合、yは3であり、XはFであり、nは6であり、アルミニウムベースハロゲン化化合物はNaAlFである。
【0045】
金属塩は、有利には、本明細書で前述のようである。有利には、金属塩は、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は周期表のIb族、IIb族、又はIIIa族の金属の金属塩である。
【0046】
非水性溶媒は、有利には、本明細書で前述のようである。例えば、非水性溶媒はイオン液体であり得る。有利には、好適なイオン液体は、本明細書で前述のようである。
【0047】
液体前駆体は、ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI)アニオンを更に含む。有利には、液体前駆体中のFSIアニオンは、これらのアニオンとして金属塩(又は2種以上の金属塩の少なくとも1種)、及び/又はFSIアニオンを有するイオン液体である非水性溶媒(又は2種以上の非水性溶媒の少なくとも1種)により提供されるか、又はこれらを介して存在する。
【0048】
有利には、アルミニウムベースハロゲン化化合物AlX及び/又は金属塩は、非水性溶媒中に少なくとも部分的に溶解する。
【0049】
有利には、液体前駆体中の金属塩の濃度は、0.5~6Mである。
【0050】
液体前駆体は、高温への曝露により固化される。有利には、温度は、20℃~120℃、好ましくは、20℃~100℃、より好ましくは、20℃~80℃である。このような温度への液体前駆体の曝露時に、固体電解質が得られる。有利には、液体前駆体は、液体前駆体を固化させるのに十分な期間(即ち、持続期間)にわたり20℃~120℃の温度に曝露される。
【0051】
有利には、液体前駆体の20℃~120℃への温度に曝露時に、アルミニウムベースハロゲン化化合物AlXは固化し、それにより、得られたSSEは、アルミニウムベースハロゲン化化合物AlX及び/又はこれらの高分子型を含む。アルミニウムベースハロゲン化化合物AlXの高分子型は、有利には、本明細書で前述のようである。
【0052】
本発明の第3の態様では、アノードフリー金属電池セル中の金属層の堆積のための、第1の態様による固体電解質(SSE)の使用が提供される。
【0053】
本発明の利点としては、限定されないが、固体電解質がアノードフリー金属電池セル中での金属層の堆積を可能とし、それにより、電解質の溶媒との相互作用による金属イオンの減少を低減するということが挙げられる。換言すれば、SSEは、好都合にも、実質的に化学的及び電気化学的に安定性があり、それにより、SSEが使用される電池セルの寿命を延長する。
【0054】
本発明のSSEの製造方法の利点は、限られた数の処理ステップを方法が有することである。さらなる利点は、方法は、極めて高い温度又は高圧もしくは減圧を必要としないで、中程度又は軽い処理条件で実施できるという点である。
以下で、添付図面を参照しながら本発明の態様をより詳細に記載するが、同じ参照番号は同じ特徴を示す。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】本発明による固体電解質のラマンスペクトルを示す。
図2】本発明による別の固体電解質のラマンスペクトルを示す。
図3】本発明によるさらなる固体電解質のラマンスペクトルを示す。
図4】個別の電極として銅箔及びLi箔、及び本発明のSSEを有する電気化学セルの電圧(V)及び続いて起こる堆積リチウムの溶解を、銅箔上のセル容量の関数として示す。
図5】個別の電極として銅箔及びLi箔、及び本発明のSSEを有する、及び参照液体電解質を有する、それぞれの電気化学セルの電圧(V)を、第1のリチウム堆積後のリチウム溶解の間のセル容量の関数として示す。
図6】活物質のグラム当りの比電荷による本発明のSSEを有する電池セルの電圧を示す。
【発明を実施するための形態】
【0056】
上記で説明したように、本開示の固体電解質(SSE)は、少なくとも1種の金属塩、及び少なくとも1種の非水性溶媒を含む。
【0057】
SSEはまた、アルミニウムベースハロゲン化化合物AlX及び/又はこれらの高分子型を更に含み、式中、Xはハロゲン原子であり、nは1~6である。
【0058】
代わりに又は追加して、アルミニウムベースハロゲン化化合物は、MAlXであり得、Xはハロゲン原子、nは1~6であり、Mは金属カチオンであり、yは少なくとも1である。有利には、金属カチオンは、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は周期表のIb族、IIb族、又はIIIa族の金属である。特に、金属カチオンは、リチウムカチオン、ナトリウムカチオン、又はマグネシウムカチオンである。例えば、金属カチオンがナトリウムである場合、yは3であり、XはFであり、nは6であり、アルミニウムベースハロゲン化化合物はNaAlFである。
【0059】
固体電解質は、少なくとも1種のビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI)アニオンを更に含む。
【0060】
有利には、及び第1の実施形態によると、固体電解質中のFSIアニオン源は、金属塩である。
【0061】
有利には、SSEが1種の金属塩を含む場合、金属塩は、アニオンとしてFSIアニオンを有する。FSIアニオンを有する金属塩は、有利には、第1の実施形態として本明細書で前述のようである。
【0062】
有利には、SSEが2種以上の金属塩を含む場合、複数の金属塩の少なくとも1種は、アニオンとしてFSIを有する。有利には、他の金属塩のアニオン、即ち、FSIアニオンを有さない金属塩は、当該分野で既知のアニオンとし得る。非限定例には、ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド(TFSI又は(SOCFN)、ジシアナミド(DCA)、過塩素酸(ClO)、ヘキサフルオロホスフェート(PF)、ジフルオロビス(オキサラト)ホスフェート(DFBOP)、ジフルオロビス(オキサラト)ボレート(DFOB)、テトラフルオロボレート(BF)、 六フッ化ヒ酸(AsF)、テトラクロロアルミン酸ナトリウム(AlCl)、(フルオロメチルスルホニル)(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(FTFSI)、及びトリフルオロメタンスルホネート(CFSO)が挙げられる。
【0063】
有利には、金属塩のカチオンは、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は周期表のIb族、IIb族、又はIIIa族の金属のイオンである。有利には、アルカリ金属は、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)又はカリウム(K)である。有利には、アルカリ土類金属は、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、又はカルシウム(Ca)である。有利には、Ib族金属は、銀(Ag)又は金(Au)である。有利には、IIb族金属は、亜鉛(Zn)又はカドミウム(Cd)である。有利には、IIIa族金属は、アルミニウム(Al)である。
【0064】
アニオンとしてFSIを有する金属塩の好ましい例は、LiFSI、NaFSI、KFSI、Mg(FSI)及びAl(FSI)、特に、LiFSIである。
【0065】
更なる第1の実施形態では、SSEが2種以上の金属塩を含む場合、それらは、同じ又は異なるカチオン及び/又は同じ又は異なるアニオンを有してもよく、少なくとも1種の金属塩は、アニオンとしてFSIを有する。例えば、SSEが2種の金属塩を含む場合、それらは、異なるカチオン及び同じアニオン、例えば、LiFSI及びNaFSIを有してもよい。例えば、SSEが2種の金属塩を含む場合、それらは、同じカチオン及び異なるアニオンを有してもよく、それらの1種はFSIで、例えば、LiFSI及びLiTFSIである。
【0066】
SSEは、1種又は複数の非水性溶媒を含む。非水性溶媒は、有利には、本明細書で前述のようである。好適な溶媒の非限定例には、アセトニトリル、ジメトキシエタン(1,2-ジメトキシエタンとしても知られる)、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、テトラヒドロフラン、ジエチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、2-メチルテトラヒドロフラン、1-3 ジオキソラン、テトラメチルスルホン(スルホラン)、ジメチルスルホン(DMSO)、及びイオン液体が挙げられる。有利には、非水性溶媒として好適なイオン液体は、本明細書で前述のようである。
【0067】
第1の実施形態による非水性溶媒として好適なイオン液体のカチオンの非限定例は、1-ブチル-1-メチルピロリジニウム、N-ブチル-N-メチルピロリジニウム、1-プロピル-1-メチルピロリジニウム、N-プロピル-N-N-メチルピロリジニウム、及び1-エチル-1-メチルピロリジニウムである。
【0068】
有利には、第1の実施形態によると、イオン液体は、アニオンとしてFSIを有さない。好適なアニオンの非限定例には、TFSI、DCA、ClO、PF、DFBOP、DFOB、BF、FTFSI、AlCl、AsF、及びCFSOが挙げられる。
【0069】
第2の実施形態によると、固体電解質中のFSIアニオン源は、非水性溶媒である。有利には、FSIアニオンを含む非水性溶媒は、イオン液体である。
【0070】
有利には、SSEが1種の非水性溶媒を含む場合、非水性溶媒は、アニオンとしてFSIアニオンを有するイオン液体である。FSIアニオンを有するイオン液体は、有利には、第2の実施形態として発明の概要セクションで前述のようである。
【0071】
有利には、SSEが2種以上の非水性溶媒を含む場合、複数の非水性溶媒の少なくとも1種は、FSIアニオンを有するイオン液体である。
【0072】
有利には、SSEが2種以上の非水性溶媒を含む場合、複数の非水性溶媒の少なくとも1種は、アニオンとしてFSIを有するイオン液体である。有利には、他の溶媒、即ち、FSIアニオンを有するイオン液体ではない溶媒は、本明細書で前述のようである。非限定例には、アセトニトリル、ジメトキシエタン(1,2-ジメトキシエタンとしても知られる)、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、テトラヒドロフラン、ジエチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、2-メチルテトラヒドロフラン、1-3 ジオキソラン、テトラメチルスルホン、ジメチルスルホン、及びFSI以外のアニオンを有するイオン液体が挙げられる。
【0073】
FSI以外のアニオンを有するイオン液体のアニオンの非限定例には、TFSI、DCA、ClO、PF、DFBOP、DFOB、BF、FTFSI、AlCl、AsF、及びCFSOが挙げられる。
【0074】
非水性溶媒として好適な、即ち、アニオンとしてFSI、又は第2の実施形態により本明細書で前述のような別のアニオンを有するイオン液体のカチオンの非限定例には、1-ブチル-1-メチルピロリジニウム、N-ブチル-N-メチルピロリジニウム、1-プロピル-1-メチルピロリジニウム、N-プロピル-N-N-メチルピロリジニウム、及び1-エチル-1-メチルピロリジニウムが挙げられる。
【0075】
FSIアニオンを有するイオン液体の非限定例は、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムFSI、N-ブチル-N-メチルピロリジニウムFSI、1-プロピル-1-メチルピロリジニウムFSI、N-プロピル-N-N-メチルピロリジニウムFSI、及び1-エチル-1-メチルピロリジニウムFSIである。
【0076】
SSEは、1種又は複数の金属塩を更に含む。有利には、金属塩のカチオンは、本明細書で前述のようである。金属塩の好適なアニオンの非限定例には、TFSI、DCA、ClO、PF、DFBOP、DFOB、BF、FTFSI、AlCl、AsF、及びCFSOが挙げられる。
【0077】
第3の実施形態によると、固体電解質中のFSIアニオン源は、金属塩及び非水性溶媒である。有利には、FSIアニオンを含む非水性溶媒は、イオン液体である。
【0078】
有利には、FSIアニオン源としての金属塩は、第1の実施形態として本明細書で前述のようである。SSEは、1種又は複数の更なる金属塩、例えば、第2、第3、又は第4の金属塩を含み得る。SSEが複数の金属塩、例えば、少なくとも2種の金属塩を含む場合、それらは、有利には、第1の実施形態として本明細書で前述のようである。
【0079】
有利には、FSIアニオン源としての非水性溶媒は、第2の実施形態として本明細書で前述のようである。SSEは、1種又は複数の更なる非水性溶媒を含み得る。SSEが複数の非水性溶媒、例えば、少なくとも2種の非水性溶媒を含む場合、それらは、有利には、第2の実施形態として本明細書で前述のようである。
【0080】
実施例
実施例1
8.00gのアセトニトリル(ACN)中に、金属塩としての11.22gのLiFSI、及び2.66gのAlClを加えることにより、第1の液体前駆体を調製した。次に、液体前駆体を20℃の温度で24時間保持し、固体電解質(SSE)を得た。
【0081】
SSEは、SSEの総重量を基準として、51.28重量%のLiFSI、12.16重量%のAlCl及び36.56重量%のACNを含んだ。
【0082】
組成物中のAlCl及び/又は1種又は複数のこれらの高分子型の存在をラマン分光分析により分析した。SSE試料による湿気吸収を最小限にするために、SSEをシリコンウエハ中に堆積させ、密閉プラスチックポーチ中に入れた。
【0083】
ラマンスペクトルを532nmの波長を有する緑色レーザーを用いて取得した。図1は、取得したスペクトルを示す。517.7cm-1のピークは、シリコンウエハに由来する。スペクトルの平均特徴値は、385cm-1の位置の幅広のピーク2である。このピーク2は、(AlClとして表記されるAlClの高分子型に帰属し、「より高次のAlCl高分子」とも呼ばれる。それは、固体電解質のスペクトル中の唯一の顕著な特徴である。しかし、これは、SSE中の(限られた量の)AlClの存在の可能性を排除しない。
【0084】
実施例2
4.00gのアセトニトリル(ACN)中に、金属塩としての5.62gのLiFSI、及び2.00gのAlClを加えることにより、第2の液体前駆体を調製した。次に、液体前駆体を20℃の温度で24時間保持し、(第2の)固体電解質(SSE)を得た。
【0085】
SSEは、SSEの総重量を基準として、48.38重量%のLiFSI、17.21重量%のAlCl及び34.41重量%のACNを含んだ。
【0086】
組成物中のAlCl及び/又は1種又は複数のこれらの高分子型の存在をラマン分光分析により分析した。SSE試料による湿気吸収を最小限にするために、SSEをシリコンウエハ中に堆積させ、密閉プラスチックポーチ中に入れた。
【0087】
ラマンスペクトルを532nmの波長を有する緑色レーザーを用いて取得した。図2は、取得したスペクトルを示す。517.7cm-1のピーク3は、シリコンウエハに由来する。スペクトルの平均特徴値は、385cm-1の位置の幅広のピーク4である。このピーク4は、(AlClとして表記されるAlClの高分子型に帰属し、固体電解質のスペクトル中で唯一の顕著な特徴である。しかし、これは、SSE中の(限られた量の)AlClの存在の可能性を排除しない。
【0088】
実施例1のSSEを得るために使用された液体前駆体と比較して、実施例2のSSEを得るために使用された液体前駆体は、より多い量(重量%で)のAlClを有し、これは、ピーク2より高い強度を有するピーク4を生ずる。
【0089】
実施例3
9.00gのジメトキシエタン(DME)中に、金属塩としての9.35gのLiFSI、及び2.22gのAlClを加えることにより、第3の液体前駆体を調製した。得られた懸濁液をその後、60℃に10分間加熱し、成分の均質混合物を得て、それにより、液体前駆体を得た。次に、液体前駆体を20℃の温度で24時間保持し、(第3の)固体電解質(SSE)を得た。
【0090】
SSEは、SSEの総重量を基準として、45.46重量%のLiFSI、10.78重量%のAlCl及び43.76重量%のDMEを含んだ。
【0091】
組成物中のAlCl及び/又は1種又は複数のこれらの高分子型の存在をラマン分光分析により分析した。SSE試料による湿気吸収を最小限にするために、SSEをシリコンウエハ中に堆積させ、密閉プラスチックポーチ中に入れた。
【0092】
ラマンスペクトルを532nmの波長を有する緑色レーザーを用いて取得した。図3は、取得したスペクトルを示す。517.7cm-1のピーク5は、シリコンウエハに由来する。スペクトルの平均特徴値は、385cm-1の位置の幅広のピーク6である。このピーク6は、AlClの高分子型に帰属し、固体電解質のスペクトル中で唯一の顕著な特徴である。しかし、これは、SSE中の(限られた量の)AlClの存在の可能性を排除しない。
【0093】
実施例3は、SSE中のAlCl及び/又は1種又は複数のこの高分子型の存在は、溶媒(これは、実施例1及び2で使用した)としてのACNの使用に関連しないことを示す。
【0094】
実施例4
2種のアノードフリーリチウム金属電池セルを調製した。第1の電池セルは、まだ電解質として固化されていない、液体前駆体を用いて調製した。第2の電池セルは、同じ電解質組成物を用いて調製したが、これは、20℃で24時間固化した後のものである。従って第2の電池セルは、本発明によるSSEを用いて調製された。
【0095】
11.00gのACN及び1.00gのトルエン(非水性溶媒)中に、金属塩としての12.00gのLiFSI、及び5.00gのAlCl、0.40gのLiClを加えることにより、液体前駆体を調製した。換言すれば、液体前駆体及びSSE前駆体(即ち、固化した液体前駆体)の両方は、電解質の総重量を基準として、40.82重量%のLiFSI、17.01重量%のAlCl、1.36重量%のLiCl、37.41重量%のACN、及び3.40重量%のトルエンを含んだ。
【0096】
銅箔上に積層された25μm厚さのリチウム箔を、正極及び正極集電体として使用した。銅箔を負極集電体として使用した。ポリフッ化ビニリデンの2つの層の間に挟まれたポリエチレンの1つの層を含む、3層セラミックを含むセパレーターを、正極と負極集電体との間に設けた。
【0097】
その後、アノードフリーリチウム金属電池セルを1時間放電させて、1mAで、又はリチウム表面に対して0.15mA/cmで、0.5Vに充電した。次に、電池セルを充放電を50回まで繰り返した(即ち、50回の充電/放電サイクル)。1、2、3、4、5及び50サイクル後に、両電池セルに対しクーロン効率を測定した。結果を表1に示す。
【0098】
表1:アノードフリーLi金属電池セルのクーロン効率
【0099】
表1から、本開示のSSEを有する電池セルは、銅箔負極集電体上のリチウムの良好な堆積を示し、固体形態である以外は、同じ電解質組成物を有する電池セルで測定した最も高いクーロン効率の既に2倍を超える1サイクル後のクーロン効率(38.2%対17.2%)をもたらすことが明らかである。
【0100】
更に、本発明のSSEを有する電池セルに対するクーロン効率は、充放電サイクル毎に増加し、50サイクル後には92.7%に達する。しかし、液体電解質を有する電池セルのクーロン効率は、2サイクル後にクーロン効率の初期低下を受け、その後、わずかに増加するが、その値は極めて低いままであり、固体電解質を含むアノードフリーリチウム金属電池セルで得た値よりはるかに低い。
【0101】
実施例5
本発明のSSEを含むアノードフリーリチウム金属電池セルの性能を、参照電解質を含むアノードフリーリチウム金属電池セルと合わせて評価するために、2つのアノードフリー電気化学セルを調製した。第1の電気化学セルは、本発明によるSSEを用いて調製し、第2の電気化学セルは、参照液体電解質を用いて調製した。
【0102】
非水性溶媒としての20.25gのDME中に、第1の金属塩としての12.65gのLiFSI、第2の金属塩としての19.42gのLiTFSI、3.00gのAlCl、及び界面活性剤としての2.02gのHFEを加えることにより、液体前駆体を調製した。
【0103】
参照液体電解質は、液体電解質の総重量を基準として、40.00重量%のLiFSI、界面活性剤としての30.00重量%のHFE、及び30.00重量%のDMEを含んだ。従って参照液体電解質は、AlClを含まなかった。
【0104】
電気化学セルは、個別の電極としての2つのリチウム箔の間に挟まれた銅箔を含むバイスタックポーチセルとして調製した。ポリフッ化ビニリデンの2つの層の間に挟まれたポリエチレンの1つの層を含む、3層セラミックを含むセパレーターを、正極と負極集電体との間に設けた。
【0105】
液体前駆体を液体状態で電池セル内に備え、次に、60℃の温度で24時間保持し、それにより、固体電解質(SSE)を得た。これは、SSEの総重量を基準として、22.07重量%のLiFSI、33.87重量%のLiTFSI、5.23重量%のAlCl、3.53重量%のHFE、及び35.31重量%のDMEを含んだ。
【0106】
Cu負極集電体上へのインサイツリチウム堆積をガルバノスタット方式により1mAで1時間実施した(Cu表面に対して0.066mA/cm)。
【0107】
次に、電池セルの充放電中のセル容量による電池セルの電圧(又はLi/Liに対する電位)を室温で測定した。
【0108】
図4は、個別の電極として銅箔及びLi箔、及び本発明のSSEを有する電気化学セルに対するリチウム堆積及び溶解の結果を示す。測定された電圧は、堆積したリチウムの第1の溶解(8a)、銅箔上の第2のリチウム堆積(7)及び堆積したリチウムの第2の溶解(8b)に対して、セル容量の関数として示される。
【0109】
図5は、参照電気化学セル(液体電解質;線10)に対する、及び本発明のSSEを有する電気化学セル(線9)に対する、堆積したリチウムの第1のリチウム溶解を示す。電気化学セルは、銅箔及びLi箔を個別の電極として有した。曲線9、10の容量比は、第1サイクルのクーロン効率を表す。1mAhの容量は、100%のクーロン効率に相当する。参照電池セルは、48%のみのクーロン効率を有したが、本発明のSSEを有する電池セルは、90%のクーロン効率を有することは、図5から明らかである。
【0110】
実施例6
さらなるアノードフリー電池セルを実施例5のSSEを用いて調製した。再度、液体前駆体を電池セル内に備え、60℃で24時間保持してSSEを得た。
【0111】
アノードフリー電池セルを、NCAを活物質として含む正極を挟む負極集電体として2つの銅箔を含むバイスタックポーチセルとして調製した。ポリフッ化ビニリデンの2つの層の間に挟まれたポリエチレンの1つの層を含む、3層セラミックを含むセパレーターを、正極と負極集電体との間に設けた。
【0112】
次に、電池セルを5mAでガルバノスタット方式により充放電し(正極表面に対し0.39mA/cm)、セル電位を活物質のグラム当りの比電荷の関数として、室温で測定した。図6に結果を示し、線11は充電曲線並びに線12は放電曲線を表す。予測値170mAh/gのうち158mAh/gが使用可能であることは図6から明らかである。換言すれば、初期インサイツリチウム堆積で12mAh/gのみが失われる。
【符号の説明】
【0113】
1 ラマンスペクトル中のシリコンウエハのピーク
2 ラマンスペクトル中の高分子型のAlClのピーク
3 ラマンスペクトル中のシリコンウエハのピーク
4 ラマンスペクトル中の高分子型のAlClのピーク
5 ラマンスペクトル中のシリコンウエハのピーク
6 ラマンスペクトル中の高分子型のAlClのピーク
7 第1のリチウム堆積の曲線
8a 第1のリチウム溶解の曲線
8b リチウム溶解の曲線
9 リチウム溶解の曲線
10 リチウム溶解の曲線
11 充電曲線
12 放電曲線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【外国語明細書】