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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091551
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】封着材料
(51)【国際特許分類】
   C03C 8/24 20060101AFI20240627BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
C03C8/24
H01L23/30 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023214049
(22)【出願日】2023-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2022207676
(32)【優先日】2022-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000178826
【氏名又は名称】日本山村硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104639
【弁理士】
【氏名又は名称】早坂 巧
(72)【発明者】
【氏名】森田 陽子
(72)【発明者】
【氏名】池田 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】前田 浩三
【テーマコード(参考)】
4G062
4M109
【Fターム(参考)】
4G062AA08
4G062BB07
4G062CC10
4G062DA01
4G062DA10
4G062DB01
4G062DC01
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4G062DC03
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4G062HH11
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4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
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4G062MM31
4G062NN29
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4G062NN34
4G062PP11
4M109AA03
4M109BA07
4M109CA26
4M109EA18
(57)【要約】
【課題】 酸化鉛を実質的に含まず、400℃以下の焼成温度でガラス状態を維持したまま封着材料として使用できるガラス組成物の提供。
【解決手段】 酸化鉛を含まず、酸化物換算のモル%表記で、TeO:63~82%、ZnO+CuO:5~25%、Bi:0.1~9%、及びRO(RはMg、Ca,Sr、Baのいずれか1種または2種以上):1~15%、を含んでなることを特徴とする、封着用ガラス組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉛を実質的に含まず、
酸化物換算のモル%表記で、
TeO :63~82%
ZnO+CuO :5~25%
Bi :0.1~9%、及び
RO(RはMg、Ca,Sr、Baのいずれか1種または2種以上):1~15%
を含んでなることを特徴とする、
封着用ガラス組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の封着用ガラス組成物であって、
酸化物換算のモル%表記で、
TeO :65~80%
ZnO+CuO :8~20%
Bi :4~7%
RO(RはMg、Ca、Sr、Baのいずれか1種または2種以上):2~12%
を含んでなることを特徴とする、封着用ガラス組成物。
【請求項3】
ZnOの含有量が5~25%、BaOの含有量が1~15%である、請求項1に記載の封着用ガラス組成物。
【請求項4】
の含有量が0~3%である、請求項1に記載の封着用ガラス組成物。
【請求項5】
TeOとBiとのモル比(TeO/Bi)が8~16である、請求項1に記載の封着用ガラス組成物。
【請求項6】
WO+MoO+Nbの含有量が1~12%であり、且つNbの含有量が4%以下である、請求項1に記載の封着用ガラス組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかの封着用ガラス組成物からなるガラス粉末とフィラー粉末とを含んでなる封着材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は封着材料に関し,より詳しくは,ICパッケージ等のような電子デバイスの封着やステンレス等の金属同士の接着、或いは電子部品に形成された電極,抵抗体等の保護や絶縁用の被覆等のためにそれら対象物に使用される封着材料であって,実質的に鉛を含有せず、低い温度で好ましく用いることのできる封着材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ICパッケージを封着するために用いられる封着材料は,できるだけ低温で封着できること,封着のための焼成時に十分な流動性があること,パッケージ材等の熱膨張係数に近い熱膨張係数を有していること,などが求められている。電極,抵抗体の保護や絶縁用の被覆のために使用される封着材料も,同様に低温で焼成できることが求められている。
【0003】
低温で封着や被覆等ができる封着材料としては一般にPbOーB系やPbOーBーBi系のガラスが使用され、パッケージ材等の対象物の熱膨張係数と合わせるため,これにチタン酸鉛固溶体フィラーのような低膨張性セラミックを添加したものが提案されてきた。
【0004】
しかし鉛を含むガラスは,環境上の観点から,近年使用が避けられてきており,鉛を含有しないガラスの開発が盛んである。
【0005】
鉛を含まない低融点ガラスとしては,リン酸塩ガラス,アルカリケイ酸塩ガラス,ビスマス系ガラスなどが知られている。それらの中でも低温での焼成可能性及び化学的耐久性の観点からビスマス系ガラスが着目され,数多くのビスマス系ガラスが開発されている。
【0006】
しかし,これまで開発されてきたビスマス系ガラスには軟化点が高いものが多く、それらは封着材として使用するには性能が不十分である。他方、ビスマス系ガラスで軟化点が低いものの場合は,焼成時に結晶化が起こりやすいという難点があった。封着工程中に結晶化が起こると流動性が失われてしまい、封着不良をもたらすことになる。また、フィラーも添加量によっては結晶化の誘因となり得るため、フィラーの添加量が制限される。このためビスマスを含有し且つ低軟化点のガラスにおいて、封着材の熱膨張係数を調節するために必要な割合までフィラーを配合することは困難で、例えば、熱膨張係数が小さい対象物に適合するようフィラーを十分に配合して封着材の熱膨張係数を低くするといったことができない、という問題もあった。
【0007】
低融点ガラスとして、特許文献1には,酸化ビスマス及び酸化タングステンを多く含む酸化テルル系ガラス組成物が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には,封着材料として使用される、酸化ビスマス及び酸化ホウ素を多く含む酸化テルル系ガラス組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2019-031403号公報
【特許文献2】特許6357937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1に開示されている酸化テルル系ガラス組成物は、アルカリ金属の含有量が多く、そのためガラスの耐水性が低いという問題がある。
【0011】
また上記特許文献2に開示されているガラス組成物は、ホウ素の含有量が多く、軟化点が高すぎるか、又はガラスの安定性に欠けるため、400℃で焼成してもフロー(流動)させることができない。さらに、同文献に開示されている組成物は、選択した具体的組成によっては、非結晶性のガラスであったり、結晶化を起こしたガラスとなったりし、ガラスとしての形態の安定性に欠けるという問題もある。
【0012】
本発明は、焼成時、特に400℃以下という低温での焼成時における流動性に優れ、そのような低温での焼成時においてガラス状態を維持でき且つ鉛を含まない、という特徴を有するガラス組成物の提供を課題とする。
【0013】
また、本発明は、上記の各特徴を有し、且つ耐水性を改善したガラス組成物の提供を更なる課題とする。
【0014】
更に、本発明は、上記の各特徴を有すると共に耐酸を高めたガラス組成物の提供を、追加の課題とする。
【0015】
本発明者は上記課題の解決のため検討を行った。その結果、400℃以下という低温での焼成温度において優れた流動性を示し、そのような温度での焼成工程で結晶化を起こさずに、もとのガラス状態(非晶質)を維持したまま封着材として使用できるという特性を備えたガラス組成物を見出すと共に、当該特性を備えつつ高い耐酸性及び高い耐水性を併せ持つガラス組成物を更に見出した。即ち本発明は、以下に示すガラス組成物及びこれを含んでなる封着材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
1.酸化鉛を実質的に含まず、
酸化物換算のモル%表記で、
TeO :63~82%
ZnO+CuO :5~25%
Bi :0.1~9%、及び
RO(RはMg、Ca,Sr、Baのいずれか1種または2種以上):1~15%
を含んでなることを特徴とする、
封着用ガラス組成物。
2.上記1に記載の封着用ガラス組成物であって、
酸化物換算のモル%表記で、
TeO :65~80%
ZnO+CuO :8~20%
Bi :4~7%
RO(RはMg、Ca、Sr、Baのいずれか1種または2種以上):2~12%
を含んでなることを特徴とする、封着用ガラス組成物。
3.ZnOの含有量が5~25%、BaOの含有量が1~15%である、上記1に記載の封着用ガラス組成物。
4.Bの含有量が0~3%である、上記1に記載の封着用ガラス組成物。
5.TeOとBiとのモル比(TeO/Bi)が8~16である、上記1
に記載の封着用ガラス組成物。
6.WO+MoO+Nbの含有量が1~12%であり、且つNbの含有量が4%以下である、上記1に記載の封着用ガラス組成物。
7.上記1~6のいずれかの封着用ガラス組成物からなるガラス粉末とフィラー粉末とを含んでなる封着材料。
【発明の効果】
【0017】
上記本発明は、酸化鉛を実質的に含有しない非結晶性のガラス組成物であって、低温、特に400℃以下という低温での焼成工程に付しても流動性を阻害する結晶化を起こさず、優れた流動性を示すことができるという性能を有するガラス組成物を提供することから、もとの非晶質のガラス状態を維持したまま対象物を封着、接着及び被覆するのに適した封着材料の提供を可能にする。更に本発明は、当該性能を備えたガラス組成物であって、特に耐酸性及び耐水性を高めたガラス組成物、並びに当該ガラス組成物を含んでなる封着材料の提供も可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態に係る封着用ガラス組成物について、各成分の含有量及びそれらの範囲の限定理由等について以下に説明する。なお、以下において各成分の含有量は全てモル%表示である
【0019】
TeOはガラスを形成する酸化物であり、必須成分として本発明のガラス組成物に63~82%の範囲で含有させることができる。TeOの含有量が63%未満の場合、ガラスが形成されないおそれがあり、またたとえガラスが得られたとしても軟化点の高いガラスとなり、所望の温度(400℃以下)での封着等の目的での使用ができなくなるおそれがある。またTeOの含有量が82%を超えると、封着時に結晶化が起こって流動性が低くなってしまうおそれがある。本発明のガラス組成物の形成性、封着温度、封着時の流動性等の要素を考慮すると、TeOの含有量は、65~80%であることがより好ましく、70~80%であることが更に好ましい。
【0020】
ZnO及びCuOはガラスの形成性を高める成分であり、それらの一方又は双方を必須成分として、本発明のガラス組成物に合計量5~25%の範囲で含有させることができる。ZnO及びCuOの合計量が5%未満の場合、400℃以下での封着時にガラスが結晶化して流れなくなるおそれがある。しかし合計量が25%を超える場合は、ガラスが形成できないおそれがある。本発明ガラス組成物の形成性、ガラス状態の安定性、流動性等の要素を考慮すると、ZnO及びCuOの一方又は双方を、合計量として8~20%含有させることがより好ましく、4~10%含有させることが更に好ましい。
【0021】
また、ZnOとCuOを比べると、ZnOはガラスの形成性を高めると共に流動性を高める成分として、より好ましい働きを示す。このため、上記の合計含有量の範囲内で、ZnOのみを含有させるようにすることも更に好ましい。
【0022】
Biは、ガラス状態を安定させ、且つガラスの軟化点を下げるのに効果のある成分であり、必須成分として本発明のガラス組成物に0.1~9%の範囲で含有させることができる。Biが0.1%未満では、軟化点の高いガラスとなり、400℃以下での封着時における流動性が低くなる。またBiが9%を超えると、かえってガラス状態が不安定となり、焼成時に結晶が析出しやすくなり、結晶が析出した場合は流動性が低下してしまう。本発明のガラス組成物の形成性、安定性、軟化点等の要素を考慮すると、Biの含有量は、3~8%であることがより好ましく、4~7%であることが更に好ましい。
【0023】
MgO、CaO、SrO、及びBaOはガラスの形成性や安定性を高めるように働く成分であり、それらのうち少なくとも1種以上を、必須成分として本発明のガラス組成物に合計量1~15%の範囲で含有させることができる。MgO、CaO、SrO、及びBaOの合計含有量が1%未満の場合、400℃以下での封着時に本発明のガラス組成物が結晶化して流れなくなるおそれがある。また合計含有量が15%を超える場合は、かえってガラスが形成されなくなるおそれがある。本発明のガラス組成物の形成性、流動性等の要素を考慮すると、MgO、CaO、SrO、及びBaOのうち1種以上を合計量として2~12%含有させることがより好ましく、4~10%含有させることが更に好ましい。
【0024】
また、MgO、CaO、SrO、及びBaOのうちでは、BaOが、ガラスを安定化させる成分として特に好ましい。このため、上記の合計含有量の範囲内で、それらの4種のうちBaOのみを含有させるようにすることも更に好ましい。
【0025】
本発明のガラス組成物には、PbOは実質的に含有させない。ここで、「実質的に含有させない」とは、それらの何れかを構成成分とする原料は本願のガラス組成物の製造に使用しないとの意味であり、ガラスを作製する原材料等に不純物として含まれている程度であれば、実質的に含まないとして許容される。より具体的には、PbOの含有量は、500ppm以下であれば不純物とみなされる。
【0026】
は本発明のガラス組成物の任意成分として含有させ得る。Bはガラス状態の安定性の向上に有効な成分ではあるが、ガラスの軟化点を高める成分でもある。本発明のガラス組成物の軟化点、流動性を考慮すると、Bを含有させる場合でもその含有量は、3%以下が好ましく、1%以下とすることがより好ましく、実質的に含有させないこと、具体的には0.1%以下とすることが更に好ましい。
【0027】
LiO、NaO、及びKOも、本発明のガラス組成物の任意成分として含有させ得る。これらはガラスの軟化点を下げる成分であるが、ガラスの耐水性を低下させる成分でもあるため、含有させる場合でも合計含有量を1%以下とすることが好ましく、実質的に含有させないこと、具体的には0.1%以下とすることが更に好ましい。
【0028】
SiO及びAlも、本発明のガラス組成物の任意成分として含有させ得る。これらはガラスを形成する成分ではあるが、含有させると得られたガラスが結晶化しやすくなる。このためSiO及びAlの合計含有量は1%以下とすることが好ましく、実質的に含有させないこと、具体的には0.1%以下とすることが更に好ましい。
【0029】
更に、Vも、本発明のガラス組成物の任意成分としてとして含有させ得る。Vは、ガラスを形成する成分であり、軟化点を下げる成分でもある。但し、バナジウムは人体に影響を及ぼすことが一般に知られている物質であり(五酸化バナジウムは、労働安全衛生法 特定化学物質障害予防規則の対象とされている)ことから、特にガラスの製造工程における曝露の懸念を回避するという観点からは、含有させるとしても1%以下とすることが好ましく、0.5%以下とすることがより好ましく、実質的に含有させなくてもよい。Vについて「実質的に含有させない」とは、これを構成成分とする原料は本願のガラス組成物の製造に使用しないとの意味であり、ガラスを作製する原材料等に不純物として含まれている程度であれば、その含有は許容される。より具体的には、Vの含有量は、500ppm以下であれば不純物とみなされる。
【0030】
本発明の封着用ガラス組成物では,TeOの含有量とBiの含有量のモル比(TeO/Bi)が8~16であることが好ましい。このモル比が8未満の場合,ガラス状態が不安定な組成物となり、焼成時に結晶が析出しやすくなるおそれがある。またこのモル比が16を超えると、軟化点が高い組成物となり、流動性が低下するおそれがある。ガラスの形成性、安定性、軟化点等の要素を考慮すると、モル比(TeO/Bi)は10~15であることがより好ましい。
【0031】
一般には、ガラス転移点や軟化点等の熱特性を示す温度が低い程、耐酸性や耐水性等の化学的安定性も低い傾向があることが知られている。しかしながら更なる検討の結果、上記組成を有する本発明のガラス組成物であって、WO、MoO及びNbから選ばれる酸化物を所定のモル割合で含有させることにより、上述のガラス転移点や軟化点等の好ましい熱特性を維持しつつ、耐酸性を向上できる(従って、同時に高い耐水性も向上できる)ことを見出した。
【0032】
この目的に合致するWO、MoO及びNbの好ましい合計含有量(WO+MoO+Nb)は、好ましくは1~12%、より好ましくは、1~11%、更に好ましくは2~10%であり、このうちNbの含有量は、好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下である。
【0033】
WO、MoO及び/又はNbをこのような割合で含有させた本発明のガラス組成物は、上記の好ましい温度特性を備え、併せて耐酸性及び耐水性が高められた組成物であるため、製造工程においてメッキ処理等のような酸への暴露を伴う製品や酸性の使用環境で使用される製品の製造にも利用の可能性が広がったガラス組成物及び封着材料として提供することができる。
【0034】
更に、製造時におけるガラスの安定性の向上や、400℃以下での焼成工程における結晶化の防止,特に熱膨張係数の調整のため結晶化を防止しつつ後述のフィラーを添加できるようにするため,上述の必須成分の合計含有量は98%以上であることが好ましい。
【0035】
本発明のガラス組成物は、使用時の利便性のため粉末の形態としておくことが好ましい。粉末形態としたときの本発明のガラス組成物の粒子径については特に限定はないが、焼成時の流動性を考慮すると、50%粒子径を2~15μmとすることが好ましく、5~13μmとすることがより好ましい。
【0036】
なお、本発明において「50%粒子径」(D50)とは、体積基準の粒度分布において,小粒子径側から数えて累積量が試料全体の50%となるときの粒子径であり、レーザー解析・散乱式粒度分布計を用いて測定することができる。
【0037】
本発明のガラス組成物からなるガラス粉末には、封着材料として対象物に使用した際の熱膨張係数の調整や、硬化後の封着材料の強度を向上させる目的で、セラミックフィラーを添加することができる。セラミックフィラーの添加量は、ガラス組成物との合計量を100質量部としたときそのうち40質量部(40質量%)以下となる範囲で、適宜調節することができる。
【0038】
セラミックフィラーとしては、リン酸タングステン酸ジルコニウム、β-ユークリプタイト、コーディエライト、ジルコン、リン酸ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、ムライト、β-スポジュメン、アルミナ、セルシアン、ウィレマイト、シリカ(α-クォーツ、クリストバライト、トリジマイト)等を用いることができる。セラミックフィラーには、リン酸タングステン酸ジルコニウムを主として用いることが望ましい。
【0039】
セラミックフィラーは、通常は粉末の形態であり、その50%粒子径は特に限定はないか、15~25μmとすることが好ましく、15~20μmとすることがより好ましい。
【0040】
本発明のガラス組成物は、粉末の形態としたものをそのまま封着材料として使用することもできるが、粉末状のガラス組成物を有機バインダー及び/又は有機溶剤に分散させたスラリーやペーストのような懸濁体として使用することもできる。
【0041】
本発明のガラス組成物と共に使用できる有機バインダーに特に制限はなく、本発明のガラス組成物の具体的用途に応じて公知のバインダーから適宜採用することができる。例えば、エチルセルロース等のセルロース樹脂等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0042】
本発明のガラス組成物と共に使用できる有機溶剤に特に制限はなく、例えば用いるバインダーの種類や量に応じて公知の有機溶剤から適宜選択することができる。例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類のほか、ターピネオール(α-ターピネオール又はα-ターピネオールを主成分としたβ-ターピネオール、γ-ターピネオールの混合体)等の有機溶剤が挙げられるが、これらに限定されない。これらの溶剤は単独で用いても良いし、2種以上を併用することもできる。
【0043】
以下に実施例を参照して、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、これら実施例に限定されない。
【実施例0044】
(ガラス、ガラス粉末及びガラスブロックの製造)
表1~3に示すように、実施例1~13及び比較例1~2のガラス組成となるように原料を調合、混合した。得られた混合物を白金るつぼに入れ、800~900℃の温度で1時間溶融した。次いで、熔融ガラスの大部分を双ロール法で急冷してガラスフレークを得ると共に、残り部分は、予め加熱しておいたカーボン板に流し出してブロックを作製した。ブロックは、予想されるガラス転移点より約50℃高い温度に設定した電気炉に入れ、徐冷を行った。また上記ガラスフレークはポットミルに入れ、粉砕してガラス粉末とした。
【0045】
ガラス粉末の50%粒子径を、レーザー回折・散乱式粒度分布測定機(型名「MT-3000」,日機装株式会社製)を用いて測定した。各実施例及び比較例のガラス粉末のD50は表1~3に示す。
【0046】
実施例1~13及び比較例1~2のガラス組成物につき、上記で作製したガラス粉末を用いて、ガラス転移点、軟化点、結晶化温度を測定した。またガラス粉末を焼成してフロー径を測定すると共に、XRD測定を実施し、結晶の有無を調査した。更に、上記ガラスブロックを用いて熱膨張係数を測定した。各方法は下記の通りであり、結果は表1~3に示す。
【0047】
(物性の評価方法)
1.ガラス転移点、軟化点、結晶化温度
ガラス粉末約60~80mgを白金セルに充填し、DTA測定装置(リガク社製ThermoPlusTG8120)を用いて、室温から20℃/分で昇温させてガラス転移点(℃)、軟化点(℃)、結晶化温度(℃ )を測定した。結晶化については、ガラス粉末を400℃の温度で1時間焼成した後、X線回析装置にて結晶の存在が確認されたものを×、ガラス相のみ検出されたものを○として判定した。
【0048】
2.ガラス組成物の熱膨張係数α
上記で得られたガラスブロックを約5×5×15mmに切り出し、研磨して熱膨張率測定用のサンプルとした。TMA測定装置を用いて、室温から10℃/分でサンプルを昇温したときに得られる熱膨張曲線から、50℃と300℃の2点に基づく熱膨張係数(×10-7/℃)を求めた。
【0049】
3.フローボタン試験
ガラス粉末8gをφ20mmの円柱に乾式プレス成形し、ステンレス基板上で400℃で1時間焼成した。得られた焼成体の最大径をフロー径として測定した。
【0050】
4.耐水性試験
実施例1のガラス粉末を15g程度、温度60℃、湿度90%の恒温恒湿槽に入れ、1,4,14,30日後に取り出し、400℃の温度で1時間焼成した。焼成後、フローボタンが発泡していないか確認した。恒温恒湿槽中で30日間経過後に焼成したフローボタンが発泡していないガラス組成物は〇(良好)、発泡したガラス組成物は×(不良)と判定判別した。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
(フィラーとの混合物の調整)
表4に示す割合で、実施例1のガラス組成物の粉末と、フィラーとしてセラミック(リン酸タングステン酸ジルコニウム)粉末との80:20(質量/質量)混合粉末を調製し、実施例14の封着材料とした。この混合粉末8gをφ20mmの円柱に乾式プレス成形し、ステンレス基板上で400℃で1時間焼成した。得られた焼成体の最大径をフロー径として測定した。また、上記焼成体から約5×5×15mmのブロックを切り出し、研磨して熱膨張係数測定用のサンプルとした。TMA測定装置を用いて室温から10℃/分でサンプルを昇温したときに得られる熱膨張曲線から、50℃と300℃の2点に基づく熱膨張係数(×10-7/℃)を求めた。結果を表4に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
表1の結果からも明らかなように、実施例1~13のガラス組成物は、軟化温度が400℃以下にあり、400℃での焼成でも実際に十分な流動性を示していることがわかる。またDTA測定では、実施例のガラス組成物は、結晶化温度は最低でも458℃と高く、特に実施例1~9のガラス組成物には結晶化ピークが検出されないか又は500℃以上であり、400℃以下での焼成では結晶化しないガラス組成物が得られている。400℃での焼成後のXRD測定でも、実施例1~9のガラス組成物に結晶の形成は見られなかった。また実施例1のガラス組成物について耐水性を試験したところ、開始から30日後もフローボタンに発泡は見られず、良好な耐水性を有することが確認された。
【0057】
これに対し、比較例1のガラス組成物は、軟化温度が400℃を超えており、400℃で焼成しても流動しない。また比較例2のガラス組成物も、400℃での焼成で流動は示したが、耐水性試験の開始から4日後の時点で既にフローボタンの発泡が認められ、耐水性の低いことが確認された。
【0058】
熱膨張係数α(50-300℃)が172×10-7/℃の実施例1のガラス組成物とフィラーとの質量比80:20の混合物である実施例14の封着材料は、85×10-7/℃の熱膨張係数を示し、フィラーの配合により封着材料の熱膨張係数を大幅に調整できることが確認された
【0059】
(耐酸性試験)
追加の試験として、上記実施例の一部のガラス組成物につき、耐酸性を調べた。
実施例2~4、7及び8の各ガラス組成物粉末8gをφ20mmの円柱に乾式プレス成形し、ステンレス基板上で400℃にて1時間焼成してフローボタンを作製した。焼成体を3×3×10mmの大きさに切り出し、100℃×30分乾燥後、重量を測定した。これを1N 硝酸に室温で2時間浸漬した後、100℃×30分乾燥し、重量を測定し、重量の減少率(%)を算出した。結果を表5に示す。
【0060】
【表5】
【0061】
〔追加実施例〕 実施例15~27
(ガラス、ガラス粉末及びガラスブロックの製造)
表6~表8に示すガラス組成となるように原料を調合、混合した。得られた混合物につき、実施例1~13と同様に、ガラスフレークを作製しポットミル中で粉砕してガラス粉末にすると共に、予め加熱しておいたカーボン板に残り部分を流し出してブロックを作製した。ブロックは、予想されるガラス転移点より約50℃高い温度に設定した電気炉に入れ、徐冷を行った。
【0062】
得られたガラス粉末の50%粒子径、ガラス転移点、軟化点、結晶化温度、熱膨張係数、及びフロー径の測定は、実施例1~13と同様にして行うと共に、実施例2~4、7及び8の各ガラス組成物について行ったのと同様にして耐酸性を測定した。
結果は表6~表8に示す。
【0063】
【表6】
【0064】
【表7】
【0065】
【表8】
【0066】
表6~表8に見られる通り、実施例15~27のガラス組成物は、軟化温度が400℃より低く、400℃における焼成でのフローボタンの形成に示されているように、同温度で十分な流動性を示す。このことから、400℃での流動性を阻害するような結晶化は生じていないことが分かる(このため、結晶化については未確認)。また、実施例2~4、7及び8の各ガラス組成物に比べ、WO、MoO及び/又はNbを含有する実施例15~27の各ガラス組成物は、400℃での流動性という特性を維持しながらも、1N硝酸による減量率が顕著に低く、耐酸性が高められたガラスであることが確認できる。このことは同時に、これらの実施例のガラス組成物が耐水性も高いものであることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の封着用ガラス組成物は、400℃以下の低温で焼成ができる封着材料であり、そのような低温焼成時でも流動性に優れるため対象物表面によく広がって密封性を確保でき、ICパッケージや水晶振動子パッケージ等の電子部品の封着に適した封着材料として利用することができる。