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特開2024-91589混合錯体石鹸を主成分とするグリース組成物、及びその調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091589
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】混合錯体石鹸を主成分とするグリース組成物、及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/02 20060101AFI20240627BHJP
   C10M 177/00 20060101ALI20240627BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20240627BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20240627BHJP
   C10M 107/34 20060101ALN20240627BHJP
   C10M 105/36 20060101ALN20240627BHJP
   C10M 105/38 20060101ALN20240627BHJP
   C10M 105/06 20060101ALN20240627BHJP
   C10M 117/04 20060101ALN20240627BHJP
   C10M 117/02 20060101ALN20240627BHJP
   C10M 117/06 20060101ALN20240627BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20240627BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20240627BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20240627BHJP
   C10N 70/00 20060101ALN20240627BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240627BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20240627BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20240627BHJP
【FI】
C10M169/02
C10M177/00
C10M101/02
C10M107/02
C10M107/34
C10M105/36
C10M105/38
C10M105/06
C10M117/04
C10M117/02
C10M117/06
C10N50:10
C10N10:04
C10N10:02
C10N70:00
C10N30:06
C10N30:12
C10N30:08
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023216452
(22)【出願日】2023-12-22
(31)【優先権主張番号】202221074902
(32)【優先日】2022-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(71)【出願人】
【識別番号】518386656
【氏名又は名称】インディアン オイル コーポレイション リミテッド
【氏名又は名称原語表記】INDIAN OIL CORPORATION LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】ベンナムパリ、マノハ
(72)【発明者】
【氏名】ブーイン、ラダ ゴビンダ
(72)【発明者】
【氏名】クマール、ビレンダ
(72)【発明者】
【氏名】ポクリヤル、ナビーン クマール
(72)【発明者】
【氏名】ハリナライン、アジャイ クマール
(72)【発明者】
【氏名】ラマクマール、サンカラ スリ ベンカタ
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104AA13R
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB17A
4H104BB18A
4H104BB19B
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104EB05
4H104EB08
4H104EB09
4H104EB10
4H104EB11
4H104EB16
4H104FA01
4H104FA02
4H104JA01
4H104LA03
4H104LA04
4H104LA06
4H104QA18
(57)【要約】      (修正有)
【課題】優れた添加剤応答性、良好な機械的安定性、低温特性、ポンプ輸送性及び耐食性を示す、亜鉛-アルカリ/アルカリ土類金属混合錯体グリース組成物及びプロセスを提供する。
【解決手段】潤滑基油;ケン化性物質;酸化金属;アルカリ又はアルカリ土類金属の水酸化物;及び錯化酸を含む混合錯体石鹸を主成分とするグリース組成物である。前記組成物を調製する為のオープンケトルの単一工程プロセスは、a)基油に、ケン化性物質を混合する工程、b)工程a)で得られた混合物に、錯化酸、酸化亜鉛、及びアルカリ又はアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物の水溶液を加える工程、c)工程b)で得られた混合物を、継続的に撹拌しながら加熱及び脱水する工程、d)工程c)で得られた固体塊に基油を加える工程、e)工程d)で得られた混合物を冷却し、必要に応じて性能向上添加剤を加える工程、及びf)工程e)で得られた混合物を均質化する工程、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)基油、
ii)ケン化性物質、
iii)酸化亜鉛又は水酸化亜鉛、
iv)アルカリ又はアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物、
v)錯化酸、及び、
vi)必要に応じて性能向上添加剤、
を含む、亜鉛-アルカリ/アルカリ土類金属混合錯体グリース組成物。
【請求項2】
前記基油は、ISO VG2~3200の範囲の粘度を有し又はその混合物であり、
前記基油は、APIグループI~IIIの鉱物基油、APIグループIVの合成基油、エステル基油、パラフィン系基油、ナフテン系基油及び再精製基油から選択され、
前記合成基油は、ポリアルファオレフィン(PAO)、ポリアルキルグリコール(PAG)、ポリオールエステル、ジエステル及びアルキル化芳香族化合物から選択される、
請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記基油は、65.0~90.0wt%の範囲で存在し、
前記ケン化性物質は、8.0~18.0wt%の範囲で存在し、
前記アルカリ又はアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物は、0.20~3.0wt%の範囲で存在し、
前記錯化酸は、1.0~5.0wt%の範囲で存在し、及び
前記性能向上添加剤は、0.01~3wt%の範囲で存在する、
請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項4】
前記ケン化性物質は、12-ヒドロキシステアリン酸、ステアリン酸、オレイン酸又はその混合物から選択される脂肪酸であり、
前記アルカリ又はアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物は、水酸化ナトリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、消石灰、水酸化リチウム又は水酸化リチウム一水和物から選択され、
前記錯化酸は、マロン酸(C3)、コハク酸(C4)、グルタル酸(C5)、アジピン酸(C6)、ピメリン酸(C7)、スベリン酸(C8)、アゼライン酸(C9)又はセバシン酸(C10)から選択されるC3~C10のジカルボン酸であり、
前記性能向上添加剤は、錆防止剤、腐食防止剤、金属不活性化剤、金属不動態化剤、酸化防止剤、圧力添加剤、ポリマー、粘着付与剤、染料、化学マーカー、芳香付与剤、耐摩耗添加剤又はその組み合わせから選択される、
請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項5】
a)混合物を形成する為に、基油に、ケン化性物質を混合する工程、
b)工程a)で得られた混合物に、錯化酸、酸化亜鉛、及びアルカリ又はアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物の水溶液を加える工程、
c)固体塊を得るために、工程b)で得られた混合物を、継続的に撹拌しながら加熱及び脱水する工程、
d)混合物を形成する為に、工程c)で得られた固体塊に基油を加える工程、
e)工程d)で得られた混合物を冷却し、必要に応じて性能向上添加剤を加える工程、及び、
f)混合錯体グリース組成物を得るために、工程e)で得られた混合物を均質化する工程、
を含む、亜鉛-アルカリ/アルカリ土類金属混合錯体グリース組成物を調製する為のオープンケトルの単一工程プロセス。
【請求項6】
工程a)の混合は、25~80℃の範囲の温度で実行される、
請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
工程c)の加熱は、
i)1時間の間、90~100℃の範囲の温度で加熱すること、
ii)追加の1時間の間、130~140℃の範囲の温度で加熱すること、及び、
iii)更に追加の0.5~1.0時間の間、167~175℃の範囲の温度で加熱すること、
を含む、一連の特定の工程の3つの連続する工程で実行される、
請求項5に記載のプロセス。
【請求項8】
前記基油は、ISO VG2~3200の範囲の粘度を有し又はその混合物であり、
前記基油は、APIグループI~IIIの鉱物基油、APIグループIVの合成基油、エステル基油、パラフィン系基油、ナフテン系基油及び再精製基油から選択され、
前記合成基油は、ポリアルファオレフィン(PAO)、ポリアルキルグリコール(PAG)、ポリオールエステル、ジエステル及びアルキル化芳香族化合物から選択される、
請求項5に記載のプロセス。
【請求項9】
前記ケン化性物質は、12-ヒドロキシステアリン酸、ステアリン酸、オレイン酸又はその混合物から選択される脂肪酸であり、
前記錯化酸は、マロン酸(C3)、コハク酸(C4)、グルタル酸(C5)、アジピン酸(C6)、ピメリン酸(C7)、スベリン酸(C8)、アゼライン酸(C9)又はセバシン酸(C10)から選択されるC3~C10のジカルボン酸であり、
前記アルカリ又はアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物は、水酸化ナトリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、消石灰、水酸化リチウム又は水酸化リチウム一水和物から選択され、
前記性能向上添加剤は、錆防止剤、腐食防止剤、金属不活性化剤、金属不動態化剤、酸化防止剤、圧力添加剤、ポリマー、粘着付与剤、染料、化学マーカー、香料付与剤、耐摩耗添加剤又はその組み合わせから選択される、
請求項5に記載のプロセス。
【請求項10】
前記基油は、65.0~90.0wt%の範囲で存在し、
前記ケン化性物質は、8.0~18.0wt%の範囲で存在し、
前記アルカリ又はアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物は、0.20~3.0wt%の範囲で存在し、
前記錯化酸は、1.0~5.0wt%の範囲で存在し、及び
前記性能向上添加剤は、0.01~3wt%の範囲で存在する、
請求項5に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合錯体石鹸を主成分とするグリース組成物に関する。具体的には、本発明は、亜鉛-アルカリ/アルカリ土類金属混合錯体グリース組成物に関する。より具体的には、本発明は、固有の酸化安定性、極圧および耐摩耗性および耐水性を有する、亜鉛-Na/Li/Ca混合錯体石鹸を主成分とするグリース組成物に関する。また、本発明は、所望の粘度を維持するにも関わらず増粘剤の含有量が比較的低く、滑らかな質感のグリース組成物を与える、亜鉛-アルカリ/アルカリ土類金属混合錯体石鹸を主成分とするグリース組成物の調製の為の単一工程、オープンケトル、エネルギー効率の優れた工程を開示する。
【背景技術】
【0002】
リチウムグリースに匹敵し、180~300℃の滴点に適合する滴点を有する亜鉛(Zn)錯体グリースは、米国特許第11236285号明細書、欧州特許出願公開第3845622号明細書、インド特許出願第202021000297号明細書及びインドネシア特許出願第P00 2020 10687号明細書に開示されている。また、これらの先行技術の書類は、潤滑油中の酸化亜鉛とともに行う錯化剤と脂肪酸の反応を通して、亜鉛錯体グリースを製造する工程を開示する。米国特許第11236285号明細書は、NLGI2グレードのグリースを作るために約34wt%の増粘剤の含有量を必要とし、工程中に大量の金属酸化物を必要とする純粋な亜鉛錯体グリースを開示する。増粘剤の高い含有量は、亜鉛錯体グリースを、比較的密度が高く、高価にし、これは適用と生産の障害になる場合がある。この点から見て、より低い増粘剤の含有量であるグリースと、改善された特性が、これらの組成物をより実行可能にするために望まれる。
【0003】
米国特許第2457582号明細書は、微量成分としてステアリン酸亜鉛を含有するナトリウム獣脂石鹸を含む組成物を開示する。滴点は130~176℃の範囲であり、錯化剤は使用されていない。ナトリウムと亜鉛の比率は、この発明のもとで開示された組成物において、5:1~1:1に変化する。米国特許第2445936号明細書は、ナトリウムとリチウムグリースの耐水性を改善する為に、1~3%の12-ヒドロキシステアリン酸亜鉛の使用を開示する。英国特許第1039753号明細書は、表面積を改良した亜鉛酸化物微粒子を有機カルボン酸で被覆することにより、耐水性、高温安定性に優れた改良されたグリースを生じさせる潤滑ゲルの作製方法を開示する。
【0004】
しかしながら、従来技術は、いくつかの混合石鹸を主成分とするグリース組成物を開示するが、亜鉛を主成分とする混合錯体石鹸を主成分とするグリース組成物は存在していない。上述の通り報告した従来技術文献では、亜鉛錯体グリース組成物は、開示されたように高い温度で使用されることができる100%亜鉛錯体石鹸で作られ、これらのグリース組成物は、それらを比較的密度が高く高価にする、比較的高い増粘剤の含有量を有する。
【0005】
それゆえ、適合する滴点と高温の範囲で使用できる高性能特性を備えた経済的なグリース組成物と、そのようなグリース組成物の調製方法が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第11236285号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第3845622号明細書
【特許文献3】米国特許第2457582号明細書
【特許文献4】米国特許第2445936号明細書
【特許文献5】英国特許第1039753号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
混合錯体石鹸を主成分とするグリース組成物を提供することは、本願発明の第一の目的である。
【0008】
固有の酸化安定性、極圧性、耐摩耗性、および耐水性を有するリチウムを主成分とするグリースとリチウム錯体グリースの組成物と比較し、滴点が180~300℃である混合錯体石鹸を主成分とするグリース組成物を供給することは、本願発明の他の目的である。
【0009】
優れた添加剤応答性、良好な機械的安定性、低温特性、ポンプ能力、耐腐食性を有する混合錯体石鹸を主成分とするグリース組成物を供給することは、本願発明の他の目的である。
【0010】
所望の粘稠度を維持しながら、増粘剤の含有量が比較的少なく、滑らかな質感の、混合錯体石鹸を主成分とするグリース組成物を与える単一工程、オープンケトルの、エネルギー効率の高いプロセスを提供することは、本願発明のさらなる目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本概要は、簡略化された形式で、発明の詳細な説明でさらに述べられる思想の選択を導入するために提供される。
【0012】
本発明は、
i)基油、
ii)ケン化性物質、
iii)酸化亜鉛又は水酸化亜鉛、
iv)アルカリ又はアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物、
v)錯化酸、及び、
vi)必要に応じて性能向上添加剤、
を含む、潤滑の亜鉛-アルカリ/アルカリ土類金属混合錯体グリース組成物を提供する。
【0013】
また、本発明は、
a)混合物を形成する為に、基油に、ケン化性物質を混合する工程、
b)工程a)で得られた混合物に、錯化酸、酸化亜鉛、及びアルカリ又はアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物の水溶液を加える工程、
c)固体塊を得るために、工程b)で得られた混合物を、継続的に撹拌しながら加熱及び脱水する工程、
d)混合物を形成する為に、工程c)で得られた固体塊に基油を加える工程、
e)工程d)で得られた混合物を冷却し、必要に応じて性能向上添加剤を加える工程、
f)混合錯体グリース組成物を得るために、工程e)で得られた混合物を均質化する工程、
を含む、亜鉛-アルカリ/アルカリ土類金属混合錯体グリース組成物を調製する為のオープンケトルの単一工程プロセスを提供する。
【0014】
略語
ZDDP:ジアルキルジチオリン酸亜鉛
12-HSA:12-ヒドロキシステアリン酸
PAO:ポリアルファオレフィン
PAG:ポリアルキルグリコール
【発明を実施するための形態】
【0015】
NLGLグレードは、潤滑グリースの標準分類により指定されている、潤滑について使用されるグリースの相対的な硬度の測定を表す。本発明には、増粘剤の含有量を変えることにより製造できるNLGI2及び3のグレードよりも硬い及び柔らかい全てのNLGIの粘度のグレードを含む。
【0016】
本明細書で使用されるwt%は、グリース組成物の総重量に基づいている。
【0017】
本発明は、亜鉛-アルカリ/アルカリ土類金属混合錯体グリース組成物、望ましくはZn-Na混合錯体グリース組成物、及び相対的に低い増粘剤の含有量で、所望の粘度を維持しつつ滑らかな質感のグリース組成物を供給する、単一工程、オープンケトルのエネルギー効率の高いプロセスを開示する。また、本発明では、ナトリウム石鹸の親水性の性質が疎水性の亜鉛石鹸によって補われ、耐水性の錯体グリースが得られる一方で、亜鉛石鹸の低い増粘能力が、ナトリウム石鹸の良好な増粘能力により補われる。
【0018】
本発明は、
i)基油、
ii)ケン化性物質、
iii)酸化亜鉛又は水酸化亜鉛、
iv)アルカリ又はアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物、
v)錯化酸、及び、
vi)必要に応じて性能向上添加剤、
を含む、亜鉛-アルカリ/アルカリ土類金属混合錯体グリース組成物を提供する。
【0019】
本発明は、
a)混合物を形成する為に、基油に、ケン化性物質を混合する工程、
b)工程a)で得られた混合物に、錯化酸、酸化亜鉛、及びアルカリ又はアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物の水溶液を加える工程、
c)固体塊を得るために、工程b)で得られた混合物を、継続的に撹拌しながら加熱及び脱水する工程、
d)混合物を形成する為に、工程c)で得られた固体の塊に基油を加える工程、
e)工程d)で得られた混合物を冷却し、必要に応じて性能向上添加剤を加える工程、及び、
f)混合錯体グリース組成物を得るために、工程e)で得られた混合物を均質化する工程、
を含む、亜鉛-アルカリ/アルカリ土類金属混合錯体グリース組成物を調製する為のオープンケトルの単一工程プロセスを提供する。
【0020】
本発明の実施の形態によれば、基油は、ISO VG2~3200の範囲の粘度、又はその混合物を有する。
【0021】
本発明の実施の形態によれば、基油は、APIグループI~IIIの鉱物基油、APIグループIVの合成基油、エステル基油、パラフィン基油、ナフテン基油、及び再生基油から選択される;合成基油は、ポリアルファオレフィン(PAO)、ポリアルキルグリコール(PAG)、ポリオールエステル、ジエステル、及びアルキル化芳香族から選択される。
【0022】
本発明の他の実施の形態によれば、基油は、65.0~90.0wt%の範囲で存在する。
【0023】
本発明の他の実施の形態によれば、ケン化性物質は、8.0~18.0wt%の範囲で存在する。
【0024】
本発明の他の実施の形態によれば、アルカリ及びアルカリ土類金属の酸化物及び水酸化物は、0.20~3.0wt%の範囲で存在する。
【0025】
本発明の実施の形態によれば、錯化酸は、1.0~5.0wt%の範囲で存在する。
【0026】
本発明の実施の形態によれば、性能向上添加剤は、0.01~3wt%の範囲で存在する。
【0027】
本発明の実施の形態によれば、ケン化性物質は、12-ヒドロキシステアリン酸、ステアリン酸、オレイン酸又はその混合物から選択される脂肪酸である。
【0028】
本発明の実施の形態によれば、アルカリ又はアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物は、水酸化ナトリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、消石灰、水酸化リチウム、又は水酸化リチウム一水和物から選択される。
【0029】
本発明の実施の形態によれば、錯化酸は、マロン酸(C3)、コハク酸(C4)、グルタル酸(C5)、アジピン酸(C6)、ピメリン酸(C7)、スベリン酸(C8)、アゼライン酸(C9)、又はセバシン酸(C10)から選択される、C3~C10を有するジカルボン酸である。
【0030】
本発明の実施の形態によれば、工程a)の混合は、25~80℃の範囲の温度で実行される。
【0031】
本発明の他の実施の形態によれば、加熱は、
i)1時間の間、90~100℃の範囲の温度で加熱すること、
ii)追加の1時間の間、130~140℃の範囲の温度で加熱すること、及び
iii)更に追加の0.5~1.0時間の間、167~175℃の範囲の温度で加熱すること、
の工程を含む、一連の特定の工程における3つの連続するプロセスで、実行される。
【0032】
本発明の他の実施の形態によれば、性能向上添加剤は、錆防止剤及び腐食防止剤、金属不活性化剤、金属不動態化剤、酸化防止剤、圧力添加剤、ポリマー、粘着付与剤、染料、化学マーカー、芳香付与剤、耐摩耗添加剤、又はその組み合わせから選択される。
【0033】
本発明の他の実施の形態によれば、性能向上添加剤は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)から選択される多機能の性能向上添加剤である。
【0034】
開示されたグリース組成物は、固有の酸化安定性、極圧及び耐摩耗特性、耐水特性に加えて、優れた添加剤応答性、良好な機械的安定性、低温特性、ポンプ能力、及び耐食性を備えることが分かった。180℃~300℃の特別に調整された滴点を有するグリース組成物は、単一工程における、酸化亜鉛及び水酸化ナトリウムと、ヒドロキシ脂肪酸及びジカルボン酸の反応により、混合錯体石鹸のその場形成を通して作製された。
【0035】
亜鉛錯体石鹸錯体におけるナトリウムのその場の組み込みにより、高い滴点、優れた耐水性、優れたせん断安定性、固有の極圧特性、及び固有の耐摩耗性能などの優れた特性を有するグリース組成物が得られた。亜鉛錯体石鹸の疎水性は、ナトリウム石鹸の親水性を補うのを助け、これは、耐水性のグリース組成物を生じさせた。
【0036】
本発明の他の実施の形態によると、増粘剤の含有量を減らして調整されたZn-Li及びZn-Ca混合石鹸錯体グリース組成物は、滴点が比較的低いことが分かった。
【0037】
本発明によれば、Zn-Na混合錯体グリース組成物は、C2からC12望ましくはC6からC10の鎖長を有するジカルボン酸である錯化酸とともに、C12からC20望ましくはC16からC18の炭素を有するモノカルボン脂肪酸の1つ又は混合物で作成された。モノカルボン脂肪酸は、12-ヒドロキシステアリン酸(12-HSA)等のヒドロキシル官能基を有することが望ましい。その結果得られたZn-Na混合錯体グリースは、高い滴点と良好な耐水性を示すことが分かった。
【0038】
本発明の実施の形態によれば、Zn-Na混合錯体グリースは、70.0~90.0wt%の基油;5.0~20.0wt%のケン化性物質;0.20~5.0wt%の酸化亜鉛、0.20~3.0wt%の水酸化ナトリウム及び1.0~5.0wt%の1以上の錯化酸を含む。
【0039】
本発明の実施の形態によれば、単純リチウムを主成分とするグリース/リチウム錯体グリース組成物に似た滴点を備えたZn-Na混合錯体グリースは、オープンケトル内で最高温度の165~175℃を含むプロセスで作成され、これにより、単純リチウムを主成分とするグリース/リチウム錯体グリース組成物の先行技術の処理方法で報告されているさらなる高温に関連する時間と費用が節約される。
【0040】
本発明の望ましい実施の形態によれば、少なくとも1つのケン化性物質、1つの錯化酸、酸化亜鉛及び水酸化ナトリウムが採用された。より軟らかい又はより硬いグレードのグリースは、金属酸化亜鉛/水酸化ナトリウム比と、ケン化性材料と錯化酸の比を変化させることにより作成される。特別に調整された滴点は、錯化酸及びそれらの比と、金属酸化亜鉛/水酸化ナトリウム比を変化させることにより達成される。
【0041】
本発明によれば、亜鉛錯体石鹸の低い増粘能力は、ナトリウム石鹸の良好な増粘能力により補われ、ナトリウム石鹸の乏しい耐水性は、耐水性に導く亜鉛錯体石鹸の撥水性により補われる。Zn-Na混合錯体グリース組成物は、所望の粘度を得る為に、純粋な亜鉛錯体グリースと比較して、増粘剤の低い含有量しか必要としない。本発明によると、錯化酸は、滴点を上昇させるだけでなく、錯体増粘剤の増粘能力を高め、グリースの構造を改善する。
【0042】
本発明によれば、ケン化性物質は、脂肪酸、ヒドロキシ置換脂肪酸、それらのエステル、及びそれらの混合物を指す。ケン化性物質の中で、12-ヒドロキシステアリン酸及びステアリン酸が望ましく、12-ヒドロキシステアリン酸が最も望ましい。本発明の実施の形態においてケン化性物質の総量は、8wt%から18wt%の間で変化する。望ましくは、NLGIグレード2のグリースにおけるケン化性物質の総量は、10wt%から16wt%の間であり、最も望ましくは12wt%から14wt%の間である。
【0043】
本発明の実施の形態によれば、ケン化性物質は、グリース組成物を作成する為に、1.0~5.0wt%の酸化亜鉛と、0.20~3.0wt%のアルカリ又はアルカリ土類金属の酸化物もしくは水酸化物、またはそれらの混合物と反応する。アルカリ及びアルカリ土類金属の酸化物及び水酸化物の中で、水酸化ナトリウムはより望ましい。全ての金属酸化物/水酸化物の脂肪酸、及び錯化酸は、市販されているLRグレードのものである。
【0044】
本発明の1つの実施の形態によれば、リチウム錯体グリース組成物に似た滴点を有するZn-Na混合錯体グリース組成物は、1又は2の錯化酸を組み込むことにより生産され、これらはアルカリ/アルカリ性水酸化物の添加前又は添加と同時に添加される。錯化酸の総量は、1.0wt%から5.0wt%、望ましくは2.0wt%から4.0wt%、最も望ましくは2.5wt%から3.5wt%である。適切なジカルボン酸は、マロン酸(C3)、コハク酸(C4)、グルタル酸(C5)、アジピン酸(C6)、ピメリン酸(C7)、スベリン酸(C8)、アゼライン酸(C9)、セバシン酸(C10)から選択されるC3からC10のジカルボン酸である。
【0045】
本発明の実施の形態によれば、水酸化ナトリウムのペレットを溶解するために水を使用し、これは反応速度の向上に役立つが、水酸化ナトリウムの3倍を超える過剰な水を使用すると過剰な泡立ちが発生する。
【0046】
石油系のナフテン系およびパラフィン系(APIグループI~III)等の一般に使用される油は、従来技術でよく知られており、本発明に従って使用されることができる。ポリアルファオレフィン(PAO)、ポリアルキレングルコール(PAG)、及びアルキル化芳香族などの合成基油は、グリース組成物を作成するために使用される。ある場合には、より低い溶解力を有する基油は、増粘効果に悪影響を与え、グリース組成物がより軟らかくなり、これはグリース製造に関する通常の技術を有する者であれば容易に理解できる。ある場合には、ジエステル及びポリオールエステル等の油は、アルカリ/水酸化アルカリとの相互作用を避ける為に、ケン化の後に添加される。
【0047】
本発明の実施の形態によれば、添加された基油の総量は、NLGIグレード2のグリース用に、通常65.0から90.0wt%の間であり、最も望ましくは80.0~85.0wt%である。
【0048】
本発明による組成物は、望ましくはここで述べた方法により作製される。この方法は次の工程を含む:(1)周囲温度から約80℃の間の範囲の温度で、基油の第一部分、ヒドロキシ脂肪酸及び錯化酸を、適切なオープングリースケトルに加えて混合する、(2)混合を継続しながら酸化亜鉛及び水酸化ナトリウム(望ましくは水に溶けたもの)を添加する、(3)1時間かけてその塊を90~100℃まで徐々に加熱しながら、混合を継続する、(4)徐々にその塊を130~140℃の温度に上昇させ、約1時間この温度を維持する、(5)1時間かけて徐々に165~175℃の温度に上昇させ、0.5~1.0時間の間脱水する、(6)継続的に撹拌し90℃未満まで冷却しながら、基油の第二部分を添加する、(7)必要に応じて90℃未満で性能向上添加剤を加える、(8)Zn-Naグリースを得るために最終のグリースを粉砕/均質化する。
【0049】
本発明によれば、工程の特定のステップは、そのグリースを得る為に重要ではない。添加される基油、ヒドロキシ脂肪酸、及び錯化酸を添加するときの温度は重要ではないが、それらは80℃未満で添加されることが望ましい。また、基油、ヒドロキシ脂肪酸、ジカルボン酸、酸化亜鉛及び水酸化ナトリウムの添加順序は、互いに関して重要ではない。グリース組成物の処理において、単一ステップのオープンケトルのプロセスは、望ましくは、錯化酸又は酸化亜鉛若しくは水酸化ナトリウムが第2の段階で添加される2より多いステップの処理である。
【0050】
ケン化の後、水は、徐々に加熱及び一定の温度を維持することによりグリースから取り除かれる。一般的に、加熱温度は、150から180℃の間にした方がよく、最も望ましくは165から175℃の間である。さらに、180℃より高い温度への加熱は、追加の利点を与えず、生成物にさらに茶色を発生させる。水を素早く取り除くために、加熱とともに真空が適用される。水は、水酸化ナトリウムの溶解を促進し、反応の開始を助ける。しかしながら、グリースの工程においては、水が無くても可能であり、それゆえ水は工程において重要ではない。
【0051】
(実施例)
実施例は発明を説明することだけを目的としており、いかなる方法においても本発明の範囲を限定するものではない。
【0052】
亜鉛混合石鹸錯体増粘グリース組成物の開発は、高温の亜鉛錯体グリース組成物に関する私達の先の研究に基づく。亜鉛石鹸の増粘能力の不足を補うために、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の石鹸が、脂肪酸及びジカルボン酸をそれぞれの酸化物/水酸化物と反応させることにより、その場で作成された。混合亜鉛石鹸を主成分とする錯体グリース組成物の一般的な製造手順は、次の通りである:適切なオープングリースケトルに、パラフィン系基油(グループI,ISO VG150)の第一部分、脂肪酸、及び錯化酸を、周囲温度から約80℃の範囲の温度で添加し混合する。混合を継続しながら、酸化亜鉛と、アルカリ/アルカリ性酸化物/水酸化物と、水を加え、それを1時間かけて90~100℃に熱する。さらに、塊を130~140℃の温度に上昇させ、1時間の間維持する。その後、真空下で脱水するために全体の温度を1時間かけて165~175℃まで徐々に上昇させ、続いて継続的に混合しながら基油の第二部分を添加した。それを継続的に撹拌しながら90℃まで冷却し、続いて粉砕して、最終生成物を得た。必要に応じ、粉砕の前に添加剤が添加されてもよい。
【0053】
従来技術の例のグリースは、5wt%の酸化亜鉛と、25wt%の12-HSA及び4wt%のセバシン酸の反応により作成された。表1に示す通り、実施例1~5のグリース組成物は、以下の変更を除いて、従来技術の例と同一の装置と製造プロセスを使用して作製された。実施例1~5のグリース組成物は、ケン化性物質が25から15wt%に減らされ、0.5wt%の異なるアルカリ/アルカリ性酸化物/水酸化物が使用され、化学量論量の酸化亜鉛は減らされた。実施例1のグリースは、適切なオープングリースケトルにおいて、50%の全パラフィン系基油(グループI,ISO VG150)、脂肪酸、及び錯化酸を、周囲温度から約80℃の間の範囲の温度で加えられて混合し、処理された。継続的に混合しながら、酸化亜鉛と水酸化ナトリウム(同等の割合の水の水溶液)を加え、1時間かけて、塊を継続して徐々に90~100℃に加熱した。さらに、塊の温度を130~140℃に上昇させ、1時間の間維持した。その後、塊の温度を1時間かけて165~175℃に徐々に上昇させた。結果として得られた塊は、0.5から1.0時間の間、真空下で完全に脱水され、混合を継続しながら基油の第二部分が加えられた。継続的に撹拌しながら塊を90℃まで冷却し、続いて粉砕して最終生成物を得た。実施例1~5のグリース組成物の組成及び試験結果を、従来技術の実施例とともに表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
少量のナトリウム石鹸と混合された亜鉛錯体グリースの実施例1では、使用した全てのアルカリ/アルカリ性酸化物/水酸化物の中で、最も高い滴点を有するNLGIグレード2のグリースが得られた。従って、亜鉛石鹸の低い増粘能力は、ナトリウム石鹸により補われていて、また、それは、より高い滴点により証明されたように、さらに効果的な錯体に導く。同様に、実施例2のように、0.50wt%の水酸化リチウム一水和物で処理されている少量のリチウム石鹸と混合された亜鉛錯体グリースは、滴点が225℃のNLGIグレード1のグリースを生じ、リチウム石鹸は増粘能力又は収率の向上にも一定の改善をもたらすことを示す。少量のカルシウム石鹸と混合させて作成された実施例3の亜鉛錯体グリースは、NLGIグレード1~2の粘度であることも分かったが、滴点が190℃程度であることが分かった。少量のマグネシウム石鹸で作成された実施例4では、構造が貧弱でより軟らかく、滴点がより低い125℃程度であることが分かった。少量のカリウム石鹸で作成された実施例5では、グリース構造が貧弱でより軟らかく、180℃以下の低い滴点であることが分かった。
【0056】
さらに、実施例7から10では、水酸化リチウム一水和物及び消石灰が、それぞれ微量のリチウム石鹸及びカルシウム石鹸を有するZn-Li及びZn-Ca混合錯体グリース組成物を得る為に、異なる処理のレベルで使用されたことを除き、実施例1で述べたものと同じ機器と製造工程を用いて処理された。表2に示す通り、増粘剤の含有量が低く、純粋な亜鉛錯体グリースである私達の従来技術に似た組成物を有する実施例6では、滴点が260℃より高いNLGI0のより軟らかいグリースとなり、また、実施例7では、0.25wt%の水酸化リチウム一水和物で処理され、純粋な亜鉛錯体グリースよりも粘度が優れているが滴点が僅かに低いZn-Li錯体グリースを示す、混和ちょう度が331で滴点が228℃のグリース組成物が生じた。1.00wt%の水酸化リチウム一水和物の実施例8では、亜鉛錯体グリースにリチウム石鹸を配合してより軟らかい粘度とし、180℃程度の滴点を示すより軟らかいグリースを生じた。
【0057】
【表2】
【0058】
実施例3のように、0.50wt%の消石灰で処理された少量のカルシウム石鹸と混合された亜鉛錯体グリースは、滴点が180℃程度のグリースのNLGIグレード2を生じた。表2の通り、実施例9ではより軟らかいグリースと181℃の滴点を与え、さらに実施例10では滴点が180℃程度のNLGIグレード3のグリース組成物を生じた。その為、Zn-Ca混合錯体グリース中のカルシウム石鹸の含有量の増加は、増粘化を高めるだけであり、滴点は180℃程度であることが分かった。
【0059】
表1で言及した通り、Zn-Na混合の組み合わせは、他の混合亜鉛-アルカリ/アルカリ性金属石鹸の組み合わせと比較して、最良の結果を得た。さらに、亜鉛とナトリウムの比率の最適化は、所望の粘度と特性を有するグリースを得る為の増粘剤の含有量を最適化するようになされた。表3に示す通り、実施例11から15は、水酸化ナトリウムの含有量が増加し、酸化亜鉛の含有量が化学量論的に減少したことを除き、実施例1と同様の成分、装置及び製造プロセスを使用して処理された。実施例11から15のグリース組成物の組成とテストデータは、表3で与えられる。
【0060】
【表3】
【0061】
表3で示す通り、実施例11~15から、ナトリウム石鹸の含有量の増加は、グリース組成物のより良い粘度を生じさせる。表3で示す通り、ナトリウム石鹸の含有量を増加させることによる滴点への悪影響は、観測されなかった。ナトリウム石鹸の導入は、耐水性の挙動に変化をもたらした。しかしながら、耐水性の挙動は、ソーダ石鹸の親水性の特徴が亜鉛石鹸の撥水性の特徴により補われたので、正常の範囲内であることが分かった。ナトリウムの含有量が亜鉛の含有量より多い、つまり0.82:1.00である実施例14のグリースでは、水洗浄の特徴はまだ維持されるが、比較的増加した。表3に示す通り、Zn-Naの混合錯体グリース組成物の耐水性の性質は、亜鉛がナトリウムに比べて多い場合はよく維持される。実施例15では、ナトリウム石鹸の含有量のさらなる増加は、より良いグリースの粘度を生じさせる。亜鉛石鹸と比較してナトリウム石鹸を増やしていくと、水洗浄の特性に悪影響を及ぼした。Zn-Na混合錯体グリース組成物の耐水性の性質は、亜鉛がナトリウムに比べて多い場合はよく維持される。さらに、水溶性に関するナトリウム石鹸の主要な役割が明らかであるナトリウムが亜鉛よりも増加することは、耐水性の特性に影響を与える。
【0062】
錯化酸の含有量がグリースの性能に与える影響を研究する為に、実施例16から21は、セバシン酸の含有量が13wt%の12-HSA及び1.00wt%の水酸化ナトリウムを使用しながら、必要な量の酸化亜鉛とともに実行され、0.00から5.00wt%まで変化したことを除き、実施例1で言及したものと同じ装置及び製造工程を使用して処理された。表4に示す通り、0.00wt%のセバシン酸で作成された実施例16では、滴点が180℃より低くより柔らかいグレードを生じさせ、錯化酸が増粘化と滴点の増加に必要であることを示した。表4で示す通り、粘度と滴点が徐々に増加することが、錯化酸の含有量の増加を伴って観測された。結果として、錯化酸は、滴点を増加させるだけでなく、Zn-Na混合錯体増粘剤系の増粘効果を増加させることも助ける。実施例19では、3.00wt%の錯化酸で作成され、合計の増粘剤の含有量が19wt%程度であり、滴点が270℃を超えるグリースは、さらに好ましい組成物である。
【0063】
【表4】
【0064】
セバシン酸(C10)以外の異なる錯化酸の効果を明らかにするために、実施例22から28のグリース組成物は、実施例1で言及されたものと同じ装置及び製造プロセスを使用して処理された。マロン酸(C3)、コハク酸(C4)、グルタル酸(C5)、アジピン酸(C6)、ピメリン酸(C7)、スベリン酸(C8)、アゼライン酸(C9)、セバシン酸(C10)のようなC3からC10のジカルボン酸の範囲の種々の錯化酸は、Zn-Na混合錯体グリースを作製する為に3.00wt%で使用された。表5に示す通り、全てのジカルボン酸は、滴点が180から280℃の範囲であり、NLGIグレード2から3のZn-Na混合錯体グリース組成物をもたらした。異なる錯化酸のうち、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸及びセバシン酸で作られたグリース組成物は、表5に示す通り、260℃を超える滴点と、粒子の無い構造を有することが分かった。セバシン酸の使用は、表4の実施例19に示される。その為、異なるジカルボン酸の間で、C8からC10のジカルボン酸は、Zn-Na混合錯体グリース組成物に最も適することが分かった。
【0065】
【表5】
【0066】
酢酸(モノ塩基性)、フタル酸(ジ塩基性)、テレフタル酸(ジ塩基性)、シュウ酸(ジ塩基性)サリチル酸(モノ塩基性)、安息香酸(モノ塩基性)、ホウ酸(トリ塩基性)、乳酸(モノ塩基性)、クエン酸(トリ塩基性)、リンゴ酸(ジ塩基性)等の種々の一般的なモノ、ジ及びトリ塩基性有機酸は、3.00wt%の同じ処理レベルでセバシン酸の代わりに使用され、実施例1と同様に処理され、得られたグリース組成物全体は、低い錯体化を示す200℃未満の滴点を有することが分かった。
【0067】
本発明の一実施形態によれば、種々の一般的に入手可能なケン化性物質の12-ヒドロキシステアリン酸、ステアリン酸、水添ヒマシ油及び羊脂が、Zn-Na混合錯化グリース組成物の作製の為に使用され、実施例1で言及したものと同じ装置及び製造工程を使用された。最良の結果は、12-HSA及びステアリン酸で得られた。水添ヒマシ油及び羊脂は、12HSAを使用した場合よりも滴点が低く、より軟らかいグレードを得た。これは、酸化亜鉛の弱塩基性が原因で、トリグリセリドエステルを加水分解して遊離ケン化酸を取得して石鹸を形成することができないことが原因かもしれない。水添ヒマシ油又は羊脂は、エステル加水分解とそれに続くケン化の最初のステップで、水酸化ナトリウムに比例して使用されることができる。第二段階では、12-HSA、錯化酸は、グリース作製の為に酸化亜鉛と反応されることができる。12-HSAとステアリン酸は、Zn-Na混合錯体グリース組成物を作製する為により適していることが分かり、一方で12-HSAがより好ましい。
【0068】
ここで提供される実施例はNLGIグレード2又は3に該当するけれども、本発明の範囲は、さらにNLGI2及び3グレードより硬い及び軟らかい全てのNLGIの粘度のグレードを含むことを理解されるべきである。当業者であれば、本願に含まれる実施例を含め、本願を読めば、組成物及び同様の組成物を作製するための方法論に対する修正及び変更は本発明の範囲内にあり得ることを理解するだろう。
【0069】
密閉反応器の工程を明らかにする為に、グリースのバッチ(Batch)が、実施例19と同様の原材料及び成分を使用して、次のプロセスに従って作製された。密閉反応器中に、50%の全ての基油が反応器に充填され、続いて同量の水中の12-ヒドロキシステアリン酸、ジカルボン酸、酸化亜鉛及び水酸化ナトリウムを加えられた。反応器は密封されて、塊の温度は110~115℃に徐々に上昇され、継続して撹拌しながら1時間、この温度が維持された。さらに、塊の温度は130~140℃に上昇され、1時間維持された。その後、材料は、さらに1時間の間、170~175℃に熱せられた。そして、反応器は、石鹸漏れを避ける為に、慎重に減圧された。この後、混合物は、真空吸引下で完全に脱水する為に、30分間継続して撹拌しながら、170~175℃に維持された。カットバックは、残りの基油を使用して行われた。加熱が止められて、冷たい油が、冷却を促進する為に循環された。塊が90~95℃に冷却された時に、グリースはホモジナイザーで粉砕されて、滑らかで均質な生成物が得られた。クローズケトルのバッチのグリースの全ての試験データは、オープンケトルのグリースバッチ(実施例19)に似ていることが分かり、開発された組成物が、オープンケトルと密閉した反応器の工程の両方で使用されることができることを示す。しかしながら、オープンケトルの工程は、反応器を加圧する必要が無く、脱水時間が短いので、より好ましい。
【0070】
本発明の詳細な説明と請求項は、表6に示される。実施例29と30では、グリース組成物は、基油と性能向上添加剤の添加が違いを生み出す為に調整されたことを除き、実施例19と同じ装置、製造工程及び似た組成物を使用して処理された。基油の粘度は、40℃で400cStと95cStの粘度を有する2つのグループIパラフィン系基油の混合物を使用して、VG150に調整された。本発明によると、NLGI2及び3のグレードのZn-Na混合錯体グリースは、12-ヒドロキシステアリン酸(13.00wt%)、セバシン酸(3.00wt%)、酸化亜鉛(2.00wt%)及び水酸化ナトリウム(1.00wt%)の組み合わせで形成されることができる。結果として得られたグリースは、他の石鹸錯体グリース組成物の範囲である260℃を超える滴点を有することが分かった。機械的安定性は、100000ダブルストローク後+30ユニットで、優れていることが分かった。実施例19は、性能向上添加剤を使用しないZn-Na混合錯体を主成分とするグリースである。実施例29及び30は、本発明により作成されたグリース組成物が極圧の産業の用途に役立つことを明らかにする。表6に示す通り、実施例19と比較して、より優れた極圧特性及び耐摩耗特性を与える優れた添加剤反応が観察された。実施例29では、LZ5235、Hitec552等のような多機能のグリース添加剤パッケージが、IP239により、溶接荷重が180Kg~400Kg超に大幅に増加させた。実施例30で示す通り、亜鉛を主成分とする添加剤の相乗効果は、グリース組成物の極圧及び耐摩耗性を上昇させた。ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)は、表6に示す通り、溶接荷重を180Kg~500Kg超に上昇させる優れた相乗効果を示した。使用されたZDDPの添加物は、似た結果を与えるElco105、LZ677及びLZ1395等の種々の出所のものである。また、実施例29及び30では、極圧及び耐摩耗性のすぐれた結果とは別に、酸化安定性、耐食性のような他のグリースの特性が優れていることが分かり、亜鉛を含む添加物でZn-Na混合錯体グリースの相乗効果を示した。
【0071】
【表6-1】
【表6-2】
【0072】
本発明は、従来技術に比べて次の利点を有する。
●本発明では、アルカリ/アルカリ土類金属塩、望ましくは少量の錯体石鹸のようなナトリウム塩と混合された、亜鉛を主成分とする石鹸錯体グリース組成物が開示されており、これらのグリース組成物は、高い滴点、固有の酸化安定性、極圧、耐摩耗性、耐水性等の優れた特性の組み合わせで、比較的低い増粘剤の含有量を有する。
●本発明のZn-Na錯体石鹸を主成分とするグリース組成物は、180~300℃の特別に調整された滴点を有する。
●本発明のZn-Na錯体石鹸を主成分とするグリース組成物は、単一工程における、脂肪酸及び錯化酸の対応する金属酸化物及び水酸化物との反応に基づく、亜鉛-ナトリウム混合金属錯体石鹸のその場形成を通して、オープンケトルで省時間省エネルギープロセスで調整される。
●本発明では、亜鉛石鹸の低い増粘能力は、ナトリウム石鹸の優れた増粘能力で補完され、一方ナトリウム石鹸の親水性は、疎水性撥水亜鉛石鹸によって補われ、耐水性の錯体グリースが得られる。
【0073】
(付記)
(付記1)
i)基油、
ii)ケン化性物質、
iii)酸化亜鉛又は水酸化亜鉛、
iv)アルカリ又はアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物、
v)錯化酸、及び、
vi)必要に応じて性能向上添加剤、
を含む、亜鉛-アルカリ/アルカリ土類金属混合錯体グリース組成物。
【0074】
(付記2)
前記基油は、ISO VG2~3200の範囲の粘度を有し又はその混合物であり、
前記基油は、APIグループI~IIIの鉱物基油、APIグループIVの合成基油、エステル基油、パラフィン系基油、ナフテン系基油及び再精製基油から選択され、
前記合成基油は、ポリアルファオレフィン(PAO)、ポリアルキルグリコール(PAG)、ポリオールエステル、ジエステル及びアルキル化芳香族化合物から選択される、
付記1に記載のグリース組成物。
【0075】
(付記3)
前記基油は、65.0~90.0wt%の範囲で存在し、
前記ケン化性物質は、8.0~18.0wt%の範囲で存在し、
前記アルカリ又はアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物は、0.20~3.0wt%の範囲で存在し、
前記錯化酸は、1.0~5.0wt%の範囲で存在し、及び
前記性能向上添加剤は、0.01~3wt%の範囲で存在する、
付記1に記載のグリース組成物。
【0076】
(付記4)
前記ケン化性物質は、12-ヒドロキシステアリン酸、ステアリン酸、オレイン酸又はその混合物から選択される脂肪酸であり、
前記アルカリ又はアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物は、水酸化ナトリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、消石灰、水酸化リチウム又は水酸化リチウム一水和物から選択され、
前記錯化酸は、マロン酸(C3)、コハク酸(C4)、グルタル酸(C5)、アジピン酸(C6)、ピメリン酸(C7)、スベリン酸(C8)、アゼライン酸(C9)又はセバシン酸(C10)から選択されるC3~C10のジカルボン酸であり、
前記性能向上添加剤は、錆防止剤、腐食防止剤、金属不活性化剤、金属不動態化剤、酸化防止剤、圧力添加剤、ポリマー、粘着付与剤、染料、化学マーカー、芳香付与剤、耐摩耗添加剤又はその組み合わせから選択される、
付記1に記載のグリース組成物。
【0077】
(付記5)
a)混合物を形成する為に、基油に、ケン化性物質を混合する工程、
b)工程a)で得られた混合物に、錯化酸、酸化亜鉛、及びアルカリ又はアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物の水溶液を加える工程、
c)固体塊を得るために、工程b)で得られた混合物を、継続的に撹拌しながら加熱及び脱水する工程、
d)混合物を形成する為に、工程c)で得られた固体塊に基油を加える工程、
e)工程d)で得られた混合物を冷却し、必要に応じて性能向上添加剤を加える工程、及び、
f)混合錯体グリース組成物を得るために、工程e)で得られた混合物を均質化する工程、
を含む、亜鉛-アルカリ/アルカリ土類金属混合錯体グリース組成物を調製する為のオープンケトルの単一工程プロセス。
【0078】
(付記6)
工程a)の混合は、25~80℃の範囲の温度で実行される、
付記5に記載のプロセス。
【0079】
(付記7)
工程c)の加熱は、
i)1時間の間、90~100℃の範囲の温度で加熱すること、
ii)追加の1時間の間、130~140℃の範囲の温度で加熱すること、及び、
iii)更に追加の0.5~1.0時間の間、167~175℃の範囲の温度で加熱すること、
を含む、一連の特定の工程の3つの連続する工程で実行される、
付記5に記載のプロセス。
【0080】
(付記8)
前記基油は、ISO VG2~3200の範囲の粘度を有し又はその混合物であり、
前記基油は、APIグループI~IIIの鉱物基油、APIグループIVの合成基油、エステル基油、パラフィン系基油、ナフテン系基油及び再精製基油から選択され、
前記合成基油は、ポリアルファオレフィン(PAO)、ポリアルキルグリコール(PAG)、ポリオールエステル、ジエステル及びアルキル化芳香族化合物から選択される、
付記5に記載のプロセス。
【0081】
(付記9)
前記ケン化性物質は、12-ヒドロキシステアリン酸、ステアリン酸、オレイン酸又はその混合物から選択される脂肪酸であり、
前記錯化酸は、マロン酸(C3)、コハク酸(C4)、グルタル酸(C5)、アジピン酸(C6)、ピメリン酸(C7)、スベリン酸(C8)、アゼライン酸(C9)又はセバシン酸(C10)から選択されるC3~C10のジカルボン酸であり、
前記アルカリ又はアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物は、水酸化ナトリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、消石灰、水酸化リチウム又は水酸化リチウム一水和物から選択され、
前記性能向上添加剤は、錆防止剤、腐食防止剤、金属不活性化剤、金属不動態化剤、酸化防止剤、圧力添加剤、ポリマー、粘着付与剤、染料、化学マーカー、香料付与剤、耐摩耗添加剤又はその組み合わせから選択される、
付記5に記載のプロセス。
【0082】
(付記10)
前記基油は、65.0~90.0wt%の範囲で存在し、
前記ケン化性物質は、8.0~18.0wt%の範囲で存在し、
前記アルカリ又はアルカリ土類金属の酸化物又は水酸化物は、0.20~3.0wt%の範囲で存在し、
前記錯化酸は、1.0~5.0wt%の範囲で存在し、及び
前記性能向上添加剤は、0.01~3wt%の範囲で存在する、
付記5に記載のプロセス。
【外国語明細書】