(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091611
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】破骨細胞分化抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/28 20060101AFI20240627BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20240627BHJP
A61P 19/10 20060101ALI20240627BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240627BHJP
【FI】
A61K36/28
A61P19/08
A61P19/10
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023217913
(22)【出願日】2023-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2022207058
(32)【優先日】2022-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591035391
【氏名又は名称】株式会社武蔵野免疫研究所
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】川戸 貴行
(72)【発明者】
【氏名】小菅 康弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀樹
【テーマコード(参考)】
4B018
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD61
4B018ME05
4C088AB26
4C088BA08
4C088CA03
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA96
4C088ZA97
(57)【要約】
【課題】副作用が少なく、安全性が確立された、新規な骨吸収の抑制作用を有する薬剤を提供することを目的とする。
【解決手段】センダングサ属の植物またはその抽出物を有効成分として含有することを特徴とする、破骨細胞の分化抑制剤または破骨細胞の骨吸収機能抑制剤により上記目的を達成する。
【選択図】
図4B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センダングサ属の植物またはその抽出物を有効成分として含有することを特徴とする、破骨細胞の分化抑制剤。
【請求項2】
センダングサ属の植物またはその抽出物を有効成分として含有することを特徴とする、破骨細胞の骨吸収機能抑制剤。
【請求項3】
破骨細胞前駆細胞におけるRANK発現を低下させることにより、RANKL誘導性の破骨細胞の分化を抑制し、または破骨細胞の骨吸収機能を抑制することを特徴とする、請求項1記載の破骨細胞の分化抑制剤または請求項2記載の破骨細胞の骨吸収機能抑制剤。
【請求項4】
骨芽細胞におけるオステオプロテジェリン(OPG)の遺伝子発現を促進することにより、RANKL誘導性の破骨細胞の分化を抑制し、または破骨細胞の骨吸収機能を抑制することを特徴とする、請求項1記載の破骨細胞の分化抑制剤または請求項2記載の破骨細胞の骨吸収機能抑制剤。
【請求項5】
センダングサ属の植物がビデンス・ピローサである、請求項1記載の破骨細胞の分化抑制剤または請求項2記載の破骨細胞の骨吸収機能抑制剤。
【請求項6】
請求項1記載の破骨細胞の分化抑制剤または請求項2記載の破骨細胞の骨吸収機能抑制剤を含む、骨吸収性疾患の予防および/または治療をするための医薬組成物。
【請求項7】
請求項1記載の破骨細胞の分化抑制剤または請求項2記載の破骨細胞の骨吸収機能抑制剤を含む、骨吸収性疾患を予防するための食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な破骨細胞の分化抑制剤または破骨細胞の骨吸収性機能抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
骨組織は骨形成と骨吸収が常に繰り返されることで、骨量や骨質が維持されている(
図1)。骨吸収の主役を担う破骨細胞の形成には、破骨細胞分化因子として同定されている”Receptor Activator of Nuclear factor κB”(以下、RANK)のリガンド分子であるRANKLが必須とされている。単核の破骨細胞前駆細胞が発現するRANKにRANKLが結合すると、RANK/RANKLシグナルが細胞内に伝達されて細胞の融合が促進し、破骨細胞分化マーカーである酒石酸耐性酸フォスファターゼ(TRAP)陽性で多核の巨細胞を特徴とする成熟破骨細胞へと分化する。
一方、骨芽細胞は、骨形成の中心的な役割を担うだけでなく破骨細胞の分化にも密接に関与している。すなわち骨芽細胞は、RANKLとRANKLのデコイ受容体であるオステオプロテジェリン(osteoprotegerin)(OPG)を産生し、RANKL誘導性の破骨細胞分化を調節している(
図2)。
また、成熟破骨細胞では、骨の無機質溶解を担うH
+産生に関与する炭酸脱水酵素II型(CA2)や骨有機質を水解するマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP9)とカテプシンK(CK)などの骨吸収関連酵素の産生が活発となり、骨吸収能が高まることが知られている(
図3)。
従来、アサイベリー類、シソ科植物、キョウチクトウなどにおいてRANKL誘導性の破骨細胞分化抑制機能が見られることが報告されている(非特許文献1~3)。
骨吸収性疾患である骨粗鬆症、関節リウマチ、歯周病では、RANKL誘導性の破骨細胞の分化と骨吸収の活性化が認められる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Brito C, Stavroullakis AT, Ferreira AC, Li K, Oliveira T, Nogueira-Filho G, Prakki A. Extract of acai-berry inhibits osteoclast differentiation and activity. Arch Oral Biol. 2016;68:29-34.
【非特許文献2】Kim JH, Kim M, Jung HS, Sohn Y. Leonurus sibiricus L. ethanol extract promotes osteoblast differentiation and inhibits osteoclast formation. Int J Mol Med. 2019;44(3):913-926.
【非特許文献3】Jiang T, Yan W, Kong B, Wu C, Yang K, Wang T, Yan X, Guo L, Huang P, Jiang M, Xi X, Xu X. The extract of Trachelospermum jasminoides (Lindl.) Lem. Vines inhibits osteoclast differentiation through the NF-κB, MAPK and AKT signaling pathways. Biomed Pharmacother. 2020;129:110341
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、骨吸収性疾患の予防・治療の観点から、副作用が少なく、安全性が確立された、新規な骨吸収の抑制作用を有する薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、センダングサ属の植物の抽出物を用いて、RANKL誘導性の破骨細胞分化のモデルに多用されるマウス単球由来RAW264.7細胞を破骨細胞前駆細胞として用いて、試験研究したところ、前記抽出物が破骨細胞の分化抑制作用を有し、また破骨細胞の骨吸収機能を抑制する作用を有することを見いだし、本発明を完成した。
本発明は以下の態様を提供する。
〔1〕センダングサ属の植物またはその抽出物を有効成分として含有することを特徴とする、破骨細胞の分化抑制剤。
〔2〕センダングサ属の植物またはその抽出物を有効成分として含有することを特徴とする、破骨細胞の骨吸収機能抑制剤。
〔3〕破骨細胞前駆細胞におけるRANK発現を低下させることにより、RANKL誘導性の破骨細胞の分化を抑制し、または破骨細胞の骨吸収機能を抑制することを特徴とする、前記〔1〕記載の破骨細胞の分化抑制剤または前記〔2〕記載の破骨細胞の骨吸収機能抑制剤。
〔4〕骨芽細胞におけるオステオプロテジェリン(OPG)の遺伝子発現を促進することにより、RANKL誘導性の破骨細胞の分化を抑制し、または破骨細胞の骨吸収機能を抑制することを特徴とする、前記〔1〕記載の破骨細胞の分化抑制剤または前記〔2〕記載の破骨細胞の骨吸収機能抑制剤。
〔5〕センダングサ属の植物がビデンス・ピローサである、前記〔1〕記載の破骨細胞の分化抑制剤または前記〔2〕記載の破骨細胞の骨吸収機能抑制剤。
〔6〕前記〔1〕記載の破骨細胞の分化抑制剤または前記〔2〕記載の破骨細胞の骨吸収機能抑制剤を含む、骨吸収性疾患の予防および/または治療をするための医薬組成物。
〔7〕前記〔1〕記載の破骨細胞の分化抑制剤または前記〔2〕記載の破骨細胞の骨吸収機能抑制剤を含む、骨吸収性疾患を予防するための食品。
【発明の効果】
【0006】
本発明び破骨細胞の分化抑制剤または破骨細胞の骨吸収機能抑制剤により、骨吸収性疾患の予防および/または治療をするための薬剤または食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】骨組織において骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収が行われていることを示す模式図である。
【
図2】単核の破骨細胞前駆細胞が発現するRANKにRANKLが結合すると、RANK/RANKLシグナルが細胞内に伝達されて細胞の融合が促進し、多核の巨細胞を特徴とする成熟破骨細胞へと分化すること、骨芽細胞が、RANKLとそのデコイ受容体であるオステオプロテジェリン(osteoprotegerin)(OPG)の両方を産生し、RANKL誘導性の破骨細胞分化を調節していることを示す模式図である。
【
図3】成熟破骨細胞では、骨の無機質溶解を担うH
+産生に関与する炭酸脱水酵素II型(CA2)や骨有機質を水解するマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP9)とカテプシンK(CK)などの骨吸収関連酵素の産生が活発となり、骨吸収能が高まる。
【
図4A】0.01~0.6mg/mLのMBPの添加条件下における、RANKL誘導した破骨細胞前駆細胞RAW264.7細胞の培養4日目のTRAP染色像である。コントロールにおいてTRAP陽性細胞が融合した破骨細胞様細胞が確認されるが、その大きさはMBPの濃度依存的に小型化することが観察された。
【
図4B】MBP添加条件下におけるRANKの遺伝子発現を示すグラフである。コントロールに比べて0.4mg/mL以上のMBPで有意に低下した。
【
図5】MBP添加条件下における破骨細胞前駆細胞であるRAW264.7細胞(培養4日目)のMMP9、CA2およびCKの遺伝子発現を示すグラフである。
【
図6】MBP添加条件下における骨芽細胞であるMG63細胞(培養4日目)のOPGとRANKLの遺伝子発現を示すグラフである。
【
図7】RAW264.7細胞とMG63細胞の細胞増殖へのMBP添加の効果を示すグラフである。
【
図8】RAW264.7細胞とMG63細胞に対するMBPの細胞障害率を示すグラフである。
【
図9】RAW264.7細胞をRANKL(25ng/mL)とMBP(25~100μg/mL、すなわち0.025~0.1mg/mL)の存在下で4日間培養し、細胞溶解液中のCA2タンパク質と培養上清中のMMP9とCKタンパク質量をELISAで検出した。すべてのデータは平均値±平均値の標準誤差で示した(n=6)。*p<0.05、**p<0.01(0μg/mLのMBPとの比較)。
【
図10】RAW264.7細胞をRANKL(25ng/mL)とMBP(25~100μg/mL、すなわち0.025~0.1mg/mL)の存在下で4日間培養した。Alexa Fluor 488-phalloidinで標識したアクチンと4′,6-diamidino-2-phenylindole(DAPI)で標識した核の蛍光顕微鏡写真である(スケールバー=100μm)。
【
図11A】25ng/mLまたは3.1ng/mLのRANKL存在下、または25ng/mLのRANKLと100μg/mL、すなわち0.1mg/mLのMBP存在下で、RANKL誘導した破骨細胞前駆細胞RAW264.7の培養4日目のTRAP染色像である。
【
図11B】TRAP陽性多核細胞を、長径について、>300μmまたは<300μmの2群に分け、カウントした各細胞数を示すグラフである。すべてのデータは平均値±平均値の標準誤差で示した(n=6)。25ng/mLのRANKLとの比較では、*p<0.05、**p<0.01であった。
【
図12】リン酸カルシウムコートプレート上のRAW264.7細胞を除去した後、撮像した吸収ピットの顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(センダングサ属植物)
本発明に使用されるセンダングサ属植物は、特開2001-178390号公報及び特開2001-233727号公報に記載されるように、学名ではビデンス(Bidens)属と言われる一群の植物である。種類も多岐に亘り互いに交配するので変種も多く、植物学上も混乱が見られ、学名、和名、漢名、の対応も交錯していて同定することは極めて困難であるが、本発明で用いられるセンダングサ属植物は以下に掲げるものを包含する。
【0009】
Bidens pilosa L.(コセンダングサ、コシロノセンダングサ、咸豊草)
Bidens pilosa L. var. minor (Blume)Sherff(シロバナセンダングサ、シロノセンダングサ、コシロノセンダングサ、コセンダングサ、咸豊草)
Bidens pilosa L. var. bisetosa Ohtani et S.Suzuki(アワユキセンダングサ)
Bidens pilosa L. f. decumbens Scherff(ハイアワユキセンダングサ)
Bidens pilosa L. var. radiata Scherff(タチアワユキセンダングサ、ハイアワユキセンダングサを含むこともある)
Bidens pilosa L. var. radiata Schultz Bipontinus (シロノセンダングサ、オオバナノセンダングサ)
Bidens biternata Lour. Merrill et Sherff(センダングサ)
Bidens bipinnata L.(コバノセンダングサ、センダングサ)
Bidens cernua L.(ヤナギタウコギ)
Bidens frondosa L.(アメリカセンダングサ、セイタカタウコギ)
Bidens maximowicziana Oett(羽叶鬼針草)
Bidens parviflora Willd(ホソバノセンダングサ)
Bidens radiata Thuill. var. pinnatifida(Turcz.)Kitamura(エゾノタウコギ)
Bidens tripartita L.(タウコギ)
【0010】
上記センダングサ属植物の中で、特にビデンス・ピローサ(Bidens pilosa)類が、効果の観点から好ましい。
【0011】
上記センダングサ属植物の使用部位は、根、地上部(茎、葉、花等)または全草いずれの部位を用いてもよい。特に、葉及び茎の部分を使用することが効力の点において好ましい。
上記センダングサ属植物は、生で用いても良いが、乾燥物、あるいは加工乾燥物でもよい。通常、生の植物を天日乾燥または熱風(例えば70~80℃)乾燥したもの、または蒸気で、例えば1時間~1時間半程度蒸した後、乾燥したものを使用する。また、特開2001-178390の方法により加工乾燥した物を用いてもよい。
【0012】
さらに、常温または加温下に水または含水溶媒を添加して抽出したものを用いてもよい。抽出方法としては例えば、浸漬して静置、またはソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出物を得ることもできる。
【0013】
抽出若しくは固液分離後に、濃縮物として使用する場合、濃度を調整した後そのまま用いてもよい。また、抽出物は、脱色、不要物除去のため活性炭処理、HP20等の樹脂処理、低温放置、瀘過等の処理を施してから用いてもよい。さらに当該抽出物を適当な分離手段、例えばゲル瀘過法やシリカゲルカラムクロマト法、または逆相若しくは順相の高速液体クロマト法により活性の高い画分を分画して用いることもできる。本発明においてセンダングサ属植物にはこのような分画物も含むものとする。また使用目的に応じて他の成分を混合してもよい。
【0014】
上記のように得られた加工乾燥物を抽出前または後に酵素により処理を行ってもよい。酵素処理は酵素の種類によって異なるが、通常20~90℃の温度範囲で、1~50時間程度行うことが好ましい。また、反応液のpHは酵素の種類にもよるが、通常3.5~9.0程度、好ましくは3.5~6.0の範囲に調整して処理することが好ましい。加工乾燥物をそのまま用いる場合には、加工乾燥物1kgに対して、1~30Lの水または30%以上含水の親水性有機溶媒(例えば、エタノール、メタノール等)を添加して酵素処理を行ってもよい。
【0015】
酵素の種類は、多糖類加水分解酵素が特に好ましく、セルラーゼ、ペクチナーゼ、ヘミセルラーゼ、キシラナーゼ、マンナーゼ、マセレイティングエンザイム、アミラーゼ、グルコシダーゼ、プルラナーゼがより好ましい。セルラーゼとペクチナーゼを組み合わせて使用することが最も好ましい。
本発明において酵素はAsp.nigerなどの菌類由来のものを初めとして様々な由来のものを使用することができる。また、酵素を含有する微生物の培養液、麹などの培養物そのもの、あるいはそれらの抽出物を用いてもよい。
使用する酵素の量は、基質の全質量(乾燥質量)に対して、0.001~10質量%程度添加することが好ましい。2種類以上使用する場合には合計がこの範囲となればよい。
酵素処理終了後、酵素を高温(90~120℃)で失活させることが好ましい。失活後、フィルタープレスまたは遠心分離等の工程を加えて固液分離し、清澄な液相を使用することが好ましい。
【0016】
また酵素処理後、抽出溶媒によりさらに抽出処理を行ってもよい。
酵素を作用させる前またはさせた後、抽出に使用される溶媒の例としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、グリセリン等のアルコール類、並びにこれらの含水物、アセトン、エチルメチルケトン、クロロホルム、塩化メチレン及び酢酸エチル、並びにそれらの含水物を用いてもよい。また、上記溶媒を二種以上含む混合物であってもよい。溶媒の添加量は、例えば用いる植物の合計乾燥重量1kgに対して1L~100L程度使用することができる。本発明において特に水(熱水を含む)抽出が好ましい。
【0017】
抽出時の温度は、通常、室温~沸点程度で行うことができる。また、抽出時間は、温度や溶媒にもよるが、室温~沸点程度で抽出を行う場合には、1~300時間程度の範囲にわたって行うことができる。
抽出液は必要により溶媒を留去濃縮して濃縮物または固形物(乾燥物)としてもよい。
濾液または抽出液を濃縮し、乾燥することにより、本発明のセンダングサ属植物の抽出物を得ることができる。
【0018】
(破骨細胞の分化抑制剤)
RANKL誘導性の破骨細胞分化のモデルに多用されるマウス単球由来RAW264.7細胞を破骨細胞前駆細胞として用いて、ビデンス・ピローサ抽出物存在下に培養を行ったところ、ビデンス・ピローサ抽出物の添加量(濃度)に応じて、RAW264.7細胞から誘導される破骨細胞の大きさが小型化し、またRANK遺伝子の発現が低下することが観察された。これらの結果から、ビデンス・ピローサ抽出物は、破骨細胞前駆細胞のRANK遺伝子発現を低下させ、RANKL誘導性の破骨細胞への分化を抑制すると考えられる。
またさらに、ビデンス・ピローサ抽出物は骨芽細胞によるOPGの遺伝子発現を増加させることも見いだされた。骨芽細胞の破骨細胞分化調節機能に及ぼすビデンス・ピローサ抽出物の直接的な作用、すなわちRANKLとOPGの遺伝子発現に及ぼす影響は、本発明で明らかにされた新たな知見である。さらに、これらにより、ビデンス・ピローサ抽出物は破骨細胞分化調節因子の発現バランスを、分化促進(RANKL)側よりも分化抑制(OPG)側に変化させ、骨芽細胞を介してRANKL誘導性の破骨細胞分化を抑制すると考えられる。
【0019】
(破骨細胞の骨吸収機能抑制剤)
成熟破骨細胞では、骨の無機質溶解を担うH+産生に関与する炭酸脱水酵素II型(CA2)や骨有機質を水解するマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP9)とカテプシンK(CK)などの骨吸収関連酵素の産生が活発となり、骨吸収能が高まることが知られている。RAW264.7細胞における、CA2、MMP9、CKの遺伝子発現は、ビデンス・ピローサ抽出物の添加量(濃度)に応じて減少することが実験的に観察された。また、これらの骨吸収関連酵素のタンパク質レベルにおける抑制も確認された。これらのことから、ビデンス・ピローサ抽出物は破骨細胞のこれらの酵素による骨吸収機能を抑制する作用があると考えられる。
破骨細胞が骨表層に定着して骨表面との間に密閉空間を形成して、酸やタンパク分解酵素の濃度を維持することにより、骨吸収が始まる。この破骨細胞の骨表層への定着においてアクチンリングと呼ばれる特徴的な細胞骨格構造が形成される。ビデンス・ピローサ抽出物は、破骨細胞の大型化を抑制し、小型化するが、小型化した破骨細胞は依然としてアクチンリングを形成し、骨吸収が見られる。これらのことから、ビデンス・ピローサ抽出物は骨芽細胞と破骨細胞の代謝を完全に止めることなく、骨粗しょう症、リュウマチ、歯周病などの進行を緩やかに抑制し、骨量や骨質を維持する可能性があることが示唆された。
【0020】
(骨吸収性疾患の予防または治療用医薬組成物)
骨粗鬆症、関節リウマチ、慢性歯周炎は、骨吸収を主兆候とする疾患(骨吸収性疾患)であり、破骨細胞の活性化亢進により骨代謝のバランスが相対的に崩れて、破骨細胞による骨吸収あるいは骨の破壊が進行すると考えられる。
本発明の破骨細胞の分化抑制剤または骨吸収機能抑制剤を含む医薬組成物は、破骨細胞の過剰な活性化等に起因する上述の骨吸収性疾患において、RANKL誘導性の破骨細胞の分化抑制機能あるいは骨吸収抑制機能を発揮することにより、これらの疾患における骨吸収あるいは骨破壊に基づく病態を予防あるいは治療する効果を奏すると考えられる。
【0021】
(予防または治療用医薬組成物の形態/投与量/投与方法)
本発明の予防または治療用医薬組成物の投与経路は、特に限定されず、経口投与、髄腔内、静脈内、動脈内、筋肉内、皮下または皮内等への注射、吸入、直腸内、鼻腔内投与及び点鼻、点耳、点眼、経皮投与等が挙げられる。なかでも、本発明の医薬は経口投与するのが好ましい。
本発明の予防または治療用医薬組成物の投与量は、神経障害性疼痛の症状の程度、患者の年齢や体重などの諸条件に応じて適宜選択可能である。経口で投与する場合には、センダングサ属植物エキス固形分に換算して、0.001~5g/kg体重/日程度投与することが好ましく、0.01~2g/kg体重/日程度投与することがさらに好ましい。
【0022】
経口で投与する場合には、センダングサ属植物エキスの乾固物をそのまま、あるいはデキストリン等の賦形剤を添加して、粉末、錠剤顆粒剤、ハードカプセル等の剤形に形成して投与してもよい。また、上述のとおり、水または湯に植物乾燥物を添加してその場で抽出して飲用することも可能である。錠剤等に成型する場合には従来知られている担体、倍散剤、崩壊剤、滑沢剤等を用いることができる。
経皮投与する場合には、例えば、クリーム、ローション、ゲル、軟膏、溶液、チック剤等の剤形に形成して皮膚に適用してもよい。
【0023】
(食品組成物あるいは食品形態)
本発明は、さらにセンダングサ属植物の乾燥物若しくは抽出物を有効成分として含む破骨細胞分化抑制剤または破骨細胞の骨吸収抑制剤を含む食品組成物を提供する。
食品の形態は特に限定されず、いずれの食品であってもよい。例えば、センダングサ属植物の抽出物の乾固物をそのまま、あるいはデキストリン等の賦形剤を添加して、粉末、錠剤顆粒剤、ハードカプセル等の剤形に形成してサプリメント食品としてもよい。また、お茶、ジュースなどの飲料品であってもよい。
これらの食品組成物の摂取、特に継続的な摂取により、骨吸収性疾患を予防することができると考えられる。
【実施例0024】
製造例1 ビデンス・ピローサ抽出物の製造方法
ビデンス・ピローサ抽出物を以下の方法により製造した。
宮古島で栽培されたビデンス・ピローサ(Bidens pilosa L. var. radiate Sch)の加工乾燥物(特開2001-178390の方法により加工した乾燥物)100kgを1800Lの熱水に2時間浸漬後、pH4.5、50℃に調整してセルラーゼ(阪急バイオインダストリー(株)のセルロシンAC-40)とペクチナーゼ(セルロシンPE-60)各200gを添加して攪拌後、一夜置いた。その後、90℃で1時間加熱して酵素を失活させ、濾過して固形物を除去し、濾液を減圧濃縮した。減圧濃縮物に、デキストリン8kgを添加混合し、噴霧乾燥した。得られた乾燥粉末物(以下、MBP(乾燥物)とも呼ぶ)は40kgであった。なお、以下の実験において、MBPの量を述べる場合には、乾燥粉末中のビデンス・ピローサの固形物量に換算した値を述べる。例えば、「MBP1g」とは、「デキストリンを含まないビデンス・ピローサエキスの乾燥固形物に換算した1g」を意味し、これはデキストリンを含む粉末の1.25gに相当する。
【0025】
実施例1 RANKL誘導性の破骨細胞の分化・成熟に及ぼすMBPの影響
(材料および方法)
破骨細胞前駆細胞としてRAW264.7細胞を、骨芽細胞様細胞としてMG63細胞を、6wellまたは96well培養プレートに1.25×10
4cells/cm
2の細胞密度で播種し、10%ウシ胎児血清(FBS)と1%抗生物質を含むDMEM培地で一昼夜培養した。細胞の定着を確認した後に、0(control)、0.01、0.05、0.1、0.15、0.2、0.4または0.6mg/mLのMBPを含む培地に交換し、37℃、5%CO
2存在下で4日間培養した。なお、RAW264.7細胞の培養には、培地に25ng/mLのRANKL(R&D Systems社、米国ミネソタ州ミネアポリス)を添加した。
破骨細胞の形成はTRAP染色法で確認した。
破骨細胞前駆細胞として4日培養したRAW264.7細胞から抽出した全RNAからcDNAを作成後、これを鋳型とする定量PCRを行い、遺伝子発現を調べた。
(結果)
培養4日目のTRAP染色像では、コントロールと0.01~0.4mg/mLのMBPの添加の条件でTRAP陽性を示しかつ細胞が融合した破骨細胞様細胞が確認され、その大きさは0.1mg/mL以上のMBPで顕著に小型化した(
図4A)。
また、RANKの遺伝子発現は、MBP添加で抑制される傾向にあり、コントロールに比べて0.4mg/mL以上のMBPで有意に低下した(
図4B)。これらの結果から、MBPは破骨細胞前駆細胞のRANK発現を低下させ、RANKL誘導性の破骨細胞の分化・成熟を抑制すると考えられた。
【0026】
実施例2-1 破骨細胞における骨吸収関連酵素の発現に及ぼすMBPの影響(1)
(材料および方法)
実施例1における破骨細胞前駆細胞として4日培養したRAW264.7細胞から抽出した全RNAからcDNAを作成後、実施例1と同様に定量PCRを行い、CA2、MMP-9、CKの遺伝子発現を調べた。
(結果)
培養4日目のRAW264.7細胞におけるMMP9とCA2の遺伝子発現は、コントロールに比べて0.05mg/mL以上のMBPの添加で有意に減少した。また、CKの遺伝子発現はコントロールに比べて、0.1mg/mL以上のMBPの添加で有意に減少した(
図5)。
【0027】
実施例2-2 破骨細胞における骨吸収関連酵素の産生に及ぼすMBPの影響(2)
酵素結合免疫吸着アッセイを以下のように行った。実施例1の条件で培養したRAW264.7細胞の培養4日目に、6ウェルプレートの各ウェルから培養上清(MMP-9とCKレベル測定用)と細胞(CA2レベル測定用)を回収した。0.05% Triton X-100、0.5mM phenylmethylsulphonyl fluoride、0.5mM ethylenediaminetetraacetic acid、25mM Tris-HCl(pH7.4)を含む抽出バッファー1mLで細胞を溶解した。超音波処理で細胞膜を破砕し、遠心分離でサンプルを清澄化し、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)用の細胞抽出物を得た。MMP9、CK、およびCA2のタンパク質濃度は、ELISAキット(MMP9;R&D Systems, Minneapolis, MN, USA;CK;LSBio, Shirley, MA, USA;CA2;MyBiosource, San Diego, CA, USA)を用いて、メーカーのプロトコールに従って測定した。各標的タンパク質の濃度は、キットに含まれるコントロールペプチドを用いて作成した標準曲線に基づいて算出した。すべてのデータは平均値±平均値の標準誤差(n=6)で示した。0μg/mLのMBPとの比較では*p<0.05,**p<0.01。このアッセイを2回繰り返したが、同様の結果が得られた。
【0028】
(結果)
MBPは、RANKL存在下で培養した細胞におけるCA2、MMP9、CKのタンパク質発現を有意に抑制した(
図9)。
これらの結果から、MBPは骨の有機質溶解に関連する酵素(MMP9とCK)ならびに無機質溶解に関連する酵素(CA2)の発現を抑制し、破骨細胞の骨吸収機能を低下させると考えられる。
【0029】
実施例3 骨芽細胞における破骨細胞分化調節因子の発現に及ぼすMBPの影響
(材料および方法)
実施例1における骨芽細胞様細胞として4日培養したMG63細胞から抽出した全RNAからcDNAを作成後、実施例1と同様に定量PCRを行い、RANKLおよびOPGの遺伝子発現を調べた。
(結果)
培養4日目のMG63細胞におけるRANKLの遺伝子発現量はコントロールに比べて0.05~0.2mg/mLのMBP添加でやや高く、0.4mg/mL以上のMBPではやや低くなる傾向が認められたが、いずれも有意差は認められなかった。一方、OPGの遺伝子発現はコントロールに比べて0.05mg/mL以上のMBP添加で有意に増加した(
図6)。
これらの結果から、MBPは骨芽細胞による破骨細胞分化調節因子の発現バランスを、分化促進(RANKL)側よりも分化抑制(OPG)側に優位へと変化させ、RANKL誘導性の破骨細胞分化を抑制する可能性が示唆された。
【0030】
実施例4 細胞増殖に及ぼすMBPの影響
(材料および方法)実施例1における破骨細胞前駆細胞として培養したRAW264.7細胞、ならびに骨芽細胞様細胞として培養したMG63細胞の増殖と細胞障害率は、well底面が細胞で8割ほど覆われた時点でMBP添加培地に交換した36時間後に、Cell Couniting Kit-8とCytotoxicity LDH Assay kitを用いて調べた。(結果)
RAW264.7細胞とMG63細胞の細胞増殖は、MBP添加培地に交換して36時間後に増加する傾向が認められ、コントロールに比べてRAW264.7細胞では0.4と0.6mg/mL、MG63細胞では0.6mg/mLのMBP添加で有意に増加した(
図7)。また、細胞障害率は、RAW264.7細胞とMG63細胞ともにいずれの濃度のMBP添加もコントロールとの間に有意差は認められなかった(
図8)。これらの結果から、MBPは細胞毒性を示すことなく、破骨細胞前駆細胞と骨芽細胞に作用を示すと考えられた。
MBPはRANKと骨有機質分解関連酵素の発現を低下させるとともに、骨芽細胞によるOPGの発現を促進することで、RANKL誘導性の骨吸収を抑制する可能性が考えられた。
【0031】
(結論)
以上の実験結果から、MBPは、破骨細胞前駆細胞と骨芽細胞に対して以下の2つの作用を示すことで、骨吸収性疾患に認められるRANKL誘導性の骨吸収優位の状況を改善すると考えられ、骨吸収性疾患に対する予防または治療効果を奏すると考えられる。
(1)破骨細胞の分化・成熟と骨吸収機能の抑制作用:MBPは破骨細胞前駆細胞の破骨細胞への分化・成熟(
図4)と骨吸収関連酵素の発現(
図5)を抑制。
(2)骨芽細胞を介した破骨細胞分化の抑制作用:MBPは骨芽細胞におけるRANKLのおとり受容体OPGの発現(
図6)を促進。
【0032】
実施例5 アクチンリングに対するMBPの影響
(材料および方法) RAW264.7細胞を8ウェルスライド(WATOSON(登録商標) BIO LAB)に1×10
4cells/cm
2の密度で播種し、実施例1の培養条件で4日間培養した。細胞を、3.7%ホルムアルデヒドを用いて室温(15-25℃)で15分間固定し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄した。その後、細胞を0.1% Triton
TM X- 100を用いて室温で15分間透過処理し、PBSで2回洗浄した。1%ウシ血清アルブミンを含むブロッキング溶液で非特異的結合を室温で30分間ブロックした後、Alexa Fluor 488-phalloidin(登録商標)で細胞を染色した。Alexa Fluor 488-phalloidin(登録商標)の濃度は、1%ウシ血清アルブミンを含むPBSで66 nMに調整し、室温で45分間染色した。その後、スライドをVECTASHIELD Antifade Mounting Medium with DAPI(登録商標)でシールした。BZ-810蛍光顕微鏡を用いて、アクチンフィラメントと核の画像を撮影した(
図10)。
(結果)
25ng/mLのRANKL単独存在下では、アクチンリングに囲まれた大きな多核細胞が観察されたが、25、50、100μg/mLのMBPを添加すると、リングを持つ細胞のサイズが減少した。しかし、MBP抽出物存在下では、リングは無傷のままであった(
図10)。このことから、ビデンス・ピローサ抽出物によって多核細胞は小型化しているものの、骨吸収機能は維持していると考えられる。
【0033】
実施例6 TRAP陽性破骨細胞様細胞の形成に対するMBPの影響
(材料および方法)
25ng/mLから3.1mg/mLのRANKL濃度、あるいは25ng/mLのRANKLに100μg/mLのMBPエキスを加えた濃度で細胞を培養し、TRAP陽性多核細胞の形成をモニターした。
(結果)
TRAP陽性細胞は、RANKL濃度が最も低い3.1ng/mL、または25ng/mLのRANKLに100μg/mLのMBP抽出物を添加した場合には少なかった(
図11A)。次に、TRAP陽性細胞を長径(long diameter)(>300μmまたは<300μm)に基づいてグループ分けし、各群の細胞数を各培養条件で比較した。長径が300μmを超えるTRAP陽性細胞の数は、25ng/mL RANKL単独で処理した細胞に比べて、25ng/mL RANKLと100μg/mL MBPで処理した細胞、および3.2ng/mL RANKL単独で処理した細胞で有意に少なかった(
図11B)。しかし、長径300μm未満のTRAP陽性細胞数は、これらの条件間で有意差は認められなかった(
図11C)。
結論として、MBPは、大きなTRAP陽性破骨細胞様細胞の形成を抑制し、これはRANKL濃度低下と同様の効果を示した。このことから、ビデンス・ピローサ抽出物は、RAMK/RANKL結合に何らかの作用を及ぼし、多核細胞の大型化を抑制していると考えられる。
【0034】
実施例7 ピット形成に対するMBPの影響
(材料および方法)
骨吸収アッセイキット48(登録商標)(コスモ・バイオ社製)に含まれるリン酸カルシウムコートプレートに細胞を播種し、実施例1と同じ条件で4日間培養した。プレートを5%次亜塩素酸ナトリウムで処理して細胞を除去した後、BZ-810顕微鏡を用いてリン酸カルシウムの脱灰を示すピットの形成を調べた。
(結果)
RANKL存在下では大きな吸収ピットが観察され、MBPを50μg/mLあるいは100μg/mL添加すると減少した(
図12)。MBPを添加しても、RANKL単独で観察された小さな吸収ピットの数は変わらなかった(
図12)。
MBPは大きな吸収ピットの形成を抑制した一方で、小型の多核細胞でも吸収ピットが確認されていることから、ビデンス・ピローサ抽出物は骨吸収機能を低下させることはなく、安全に多核細胞を小型化させていると考えられる。