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特開2024-91650多発外傷患者の外傷関連合併症の予後診断のためのPRO-ADM
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091650
(43)【公開日】2024-07-05
(54)【発明の名称】多発外傷患者の外傷関連合併症の予後診断のためのPRO-ADM
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240628BHJP
【FI】
G01N33/68
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024058795
(22)【出願日】2024-04-01
(62)【分割の表示】P 2020567573の分割
【原出願日】2019-06-06
(31)【優先権主張番号】18176268.3
(32)【優先日】2018-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】508093584
【氏名又は名称】ベー.エル.アー.ハー.エム.エス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】ウィルソン ダライアス
(72)【発明者】
【氏名】ペラ アリーン
(72)【発明者】
【氏名】エーブマイヤー シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ドレイヤー フラウケ
(57)【要約】
【課題】患者からの試料中に決定されたアドレノメデュリン(ADM)レベル、特にproADMまたはMR-proADMに基づいて、多発外傷患者におけるその後の外傷関連合併症の診断、予後診断、予測、リスク評価、および/またはリスク層別化のための方法、キット、およびさらなる手段を提供すること。
【解決手段】本発明は、多発外傷患者におけるその後の外傷関連合併症の診断、予後診断、予測、リスク評価、および/またはリスク層別化のための方法に関するものであり、当該患者の試料を提供することを含み、当該試料は、多発外傷後に患者から単離され、試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルを決定し、proADMまたはその断片(複数可)のレベルは、その後の外傷関連合併症の可能性と相関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多発外傷患者におけるその後の外傷関連合併症の診断、予後診断、予測、リスク評価、および/またはリスク層別化のための方法であって、
-前記患者の試料を提供することであって、前記試料が、前記多発外傷後に前記患者から単離されている、提供することと、
-前記試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルを決定することと、を含み、
-前記proADMまたはその断片(複数可)のレベルが、その後の外傷関連合併症の可能性と相関する、方法。
【請求項2】
前記試料が、前記多発外傷後48時間以内、好ましくは24時間以内、より好ましくは6時間以内に前記患者から単離される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多発外傷患者が17点以上の損傷重症度スコア(ISS)を有する、請求項1および2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
1.54nmol/l±20%以上、好ましくは1.54nmol/l±10%以上、より好ましくは1.54nmol/l以上のproADMまたはその断片(複数可)のレベルが、その後の外傷関連合併症を示す、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
1.54nmol/l±20%未満、好ましくは1.54nmol/l±10%未満、より好ましくは1.54nmol/l未満のproADMまたはその断片(複数可)のレベルが、その後の外傷関連合併症の不在を示す、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記外傷関連合併症が、感染症、院内感染、敗血症、および/または敗血症性ショックを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
-0.97nmol/l±20%以上、好ましくは0.97±10%以上、より好ましくは0.97nmol/l以上の重傷後24時間以内に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルが、その後の感染症、院内感染、敗血症、および/または敗血症性ショックを示し、かつ/または
-1.35nmol/l±20%以上、好ましくは1.35nmol/l±10%以上、より好ましくは1.35nmol/l以上の重傷後24~48時間に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルが、その後の感染症、院内感染、敗血症、および/または敗血症性ショックを示す、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記外傷関連合併症が、横紋筋融解症および/または臓器不全などの非感染関連合併症を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
-0.82nmol/l±20%以上、好ましくは0.82nmol/l±10%以上、より好ましくは0.82nmol/l以上の重傷後24時間以内に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルが、横紋筋融解症および/または臓器不全などのその後の非感染関連合併症を示し、かつ/または
-0.97nmol/l±20%以上、好ましくは0.97nmol/l±10%以上、より好ましくは0.97nmol/l以上の重傷後24~48時間に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルが、横紋筋融解症および/または臓器不全などのその後の非感染関連合併症を示す、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記外傷関連合併症が、死亡を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
(予測される)前記外傷関連合併症が前記多発外傷から28日以内に発生する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記試料が、全血試料、血清試料、もしくは血漿試料などの血液試料、および/または尿試料からなる群から選択される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
proADMまたはその断片(複数可)のレベルを決定することが、前記試料中のMR-proADMのレベルを決定することを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
-前記患者からの試料中の少なくとも1つの追加のバイオマーカーまたはその断片(複数可)のレベルを決定することであって、前記少なくとも1つの追加のバイオマーカーが、好ましくはPCTもしくはその断片(複数可)および/または乳酸である、決定すること、および/または
-少なくとも1つの臨床スコアを決定することであって、前記少なくとも1つの臨床スコアが、好ましくはSOFAである、決定すること、を加えて含み、
-前記少なくとも1つの追加のバイオマーカーおよび/または前記少なくとも1つの臨床スコアのレベル、ならびにproADMまたはその断片(複数可)のレベルが、その後の外傷関連合併症を示す、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
-前記多発外傷患者から単離された第1の試料中のproADMまたはその断片(複数可)の重症度レベルを、好ましくは前記多発外傷後24時間以内、より好ましくは6時間以内に決定すること、および/または
-前記患者から単離された第2の試料中のproADMまたはその断片(複数可)の重症度レベルを決定することであって、前記第2の試料が、前記第1の試料の後、好ましくは前記第1の試料の前記単離後24時間以内に単離されている、決定すること、を加えて含み、
-proADMまたはその断片(複数可)の1.54nmol/l±20%未満のレベルが、低重症度レベルに対応し、proADMまたはその断片(複数可)の1.54nmol/l±20%以上のレベルが、高重症度レベルに対応する、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
-前記第2の試料中のproADMまたはその断片(複数可)の高重症度レベルが、その後の外傷関連合併症を示すか、または
-前記第1および前記第2の試料中のproADMまたはその断片(複数可)の低重症度レベルが、好ましくは敗血症および/または敗血症性ショックなどのその後の外傷関連合併症の不在を示す、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1~14のいずれか一項に記載の方法を実行するためのキットであって、
-対象からの試料中の前記proADMまたはその断片(複数可)のレベルを決定するための、および任意選択的に加えて前記PCTまたはその断片(複数可)および/または乳酸などの少なくとも1つの追加のバイオマーカーのレベルを決定するための検出試薬と、
-1つ以上の参照レベルなどの参照データであって、
i.その後の感染症、院内感染、敗血症、および/または敗血症性ショックの診断、予後診断、予測、リスク評価、および/またはリスク層別化のための、0.97nmol/l±20%以上の重傷後24時間以内に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベル、
ii.その後の感染症、院内感染、敗血症、および/または敗血症性ショックの診断、予後診断、予測、リスク評価、および/またはリスク層別化のための、1.35nmol/l±20%以上の重傷後24~48時間に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベル、
iii.横紋筋融解症および/または臓器不全などのその後の非感染関連合併症の診断、予後診断、予測、リスク評価、および/またはリスク層別化のための、0.82nmol/l±20%以上の重傷後24時間以内に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベル、
iv.横紋筋融解症および/または臓器不全などのその後の非感染関連合併症の診断、予後診断、予測、リスク評価、および/またはリスク層別化のための、0.97nmol/l±20%以上の重傷後24~48時間に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベル、および/または
v.proADMまたはその断片(複数可)の高および/または低重症度レベルであって、低重症度レベルが1.54nmol/l±20%未満であり、高重症度レベルが1.54nmol/l±20%以上である、高および/または低重症度レベルに対応する、参照データと、を含み、
-前記参照データが、好ましくはコンピュータ可読媒体に記憶され、ならびに/またはproADMまたはその断片(複数可)の決定されたレベル、および任意選択的に加えてPCTまたはその断片(複数可)などの少なくとも1つの追加のバイオマーカーの前記決定されたレベルを、前記参照データと比較するために構成されているコンピュータで実行可能なコードの形式で用いられる、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
説明
本発明は、多発外傷患者におけるその後の外傷関連合併症の診断、予後診断、予測、リスク評価、および/またはリスク層別化のための方法に関するものであり、当該患者の試料を提供することを含み、試料は、多発外傷後に患者から単離され、当該試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルを決定し、proADMまたはその断片(複数可)の当該レベルは、その後の外傷関連合併症の可能性と相関する。
【背景技術】
【0002】
複数の外傷後の重傷患者の治療は、医療提供者の増大している、かつ重大な負担となっており[1-3]、その後全身性炎症が発症することから、敗血症の早期識別が問題になっている[4、5]。初期の外傷に起因する死亡率は低下しているにもかかわらず、その後の合併症としての敗血症の発生率は変わらず、集中治療の期間が長くなり、死亡率が高くなる可能性がある[3]。したがって、患者がその後の敗血症を発症する可能性を早期かつ正確に識別することは、臨床的に重要な価値がある可能性がある。逆に、敗血症発症を除外することは、抗生物質を差し控えるか、またはフォーカスクリーニングなどの追加の敗血症関連の調査を実施するという点でも同様に重要である。
【0003】
さらに、多発外傷患者は横紋筋融解症および臓器不全を含む、必ずしも感染症に関連しない外傷関連合併症をさらに発症する傾向があり、集中ケア治療の長期化および死亡率の上昇につながる可能性がある。このような非感染関連合併症については、このような合併症を発症するリスクのある多発外傷患者の早期識別のための方法も緊急に必要とされている。
【0004】
重大な全身性炎症の存在と敗血症発症の初期段階または非感染関連合併症とを区別するためのバイオマーカーの使用は、抗生物質療法の早期開始などの個別化された治療戦略の開始を可能にし得る。C反応性タンパク質(CRP)、プロカルシトニン(PCT)、インターロイキン(IL)-6などのバイオマーカーは、日常的な臨床使用に組み込まれているが[6、7]、乳酸、逐次臓器不全評価(SOFA)スコア、最近提案されたクイックSOFAスコアなどの他のバイオマーカーおよび臨床スコアは、最近改訂された敗血症の定義の重要な部分を形成している[8]。これらの確立されたバイオマーカーおよびスコアの存在にもかかわらず、重傷患者、特に多発外傷患者における感染症および非感染関連合併症の発症の予測および識別を支援するための、より迅速でより正確なツールに対する臨床的要件が依然として残っている。
【0005】
したがって、多発外傷患者などの重傷患者を治療する分野では、その後の外傷関連合併症の診断、予後診断、予測、リスク評価、および/またはリスク層別化のための追加の手段が必要である。
【0006】
proADMの採用は、そのような手段、特に中間領域プロアドレノメジュリン(MR-proADM)を代表するものである。最近の研究では、熱傷[9]および神経損傷[10]の後に敗血症を発症する患者で濃度が早期に上昇することが示されており、すでに感染した患者の疾患重症度の識別におけるその使用に関する広範な証拠が以前に発表されている[11~13]。
【0007】
Wangら(Chinese Journal Of Traumatology(English Edition),vol.13,no.3,1 June 2010,pages 152-157)は、proADMが敗血症の重症度およびICU患者の死亡率のマーカーとして使用できることを示している。しかしながら、Wangらは、多発外傷患者の特定のサブグループにおける敗血症を予測するためのproADMの使用について言及しておらず、したがって、この患者集団の特定のカットオフ値も調査されていない。さらに、WO2018/029214A1は、対象における合併症を予測するための方法を記載しており、対象は、例えば、健康な対象、または呼吸器疾患、尿路感染症、または悪性腫瘍を患っている対象であり得る。
【0008】
したがって、以前の調査では、損傷重症度スコア(ISS)が17点以上の患者または多発外傷患者など、重度の外傷後の患者におけるproADMの性能については取り上げられていない。ただし、患者の特定のサブグループの選択は、proADMなどのバイオマーカーのパ性能に多大な影響を与える可能性があり、その結果、特定のレベルのバイオマーカーの予測的影響は患者の参照グループに依存する。
【0009】
米国特許出願第US2013/203612(A1)号および同第US2012/094314(A1)号は、多発外傷患者の敗血症を予測するための方法に言及しているが、proADM以外のマーカーを使用している。同第US2013/203612(A1)号は膵臓結石タンパク質の使用に関するものであり、同第US2012/094314(A1)号はNT-CNPの使用を説明している。これらのバイオマーカーは両方ともproADMとは完全に無関係であり、proADMがこれらの開示に記載されている方法と同様の方法でこれらのマーカーの代替として使用できるということは示されていない。
【0010】
本明細書に開示されたデータは、(i)外傷直後の濃度を比較し、(ii)感染症関連合併症を発症するリスクのある患者を識別する性能を評価し、(iii)任意のその後の敗血症発症のリスクが低い患者を識別し、(iv)非感染関連合併症を発症するリスクがある患者を識別するために、MR-proADMの性能をすでに確立されたバイオマーカー(PCT、CRP、および乳酸)ならびに臨床重症度スコア(SOFA)と比較することを含む。
【発明の概要】
【0011】
従来技術における困難に照らして、本発明の根底にある技術的問題は、多発外傷患者におけるその後の外傷関連合併症の診断、予後診断、予測、リスク評価、および/またはリスク層別化のための手段の提供である。
【0012】
したがって、本発明は、患者からの試料中に決定されたアドレノメデュリン(ADM)レベル、特にproADMまたはMR-proADMに基づいて、多発外傷患者におけるその後の外傷関連合併症の診断、予後診断、予測、リスク評価、および/またはリスク層別化のための方法、キット、およびさらなる手段を提供することを目的としている。したがって、本発明の1つの目的は、敗血症または横紋筋融解症などのその後の外傷関連合併症の可能性が高いか、またはその高いリスクを有する多発外傷患者と、その後の外傷関連合併症のリスクが低い多発外傷患者とを区別するためのバイオマーカーまたはバイオマーカーの組み合わせの使用である。
【0013】
本発明の技術的問題の解決策は、独立請求項に提供されている。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項に提供されている。
【0014】
したがって、本発明は、多発外傷患者におけるその後の外傷関連合併症の診断、予後診断、予測、リスク評価、および/またはリスク層別化のための方法であって、
-当該患者の試料を提供することであって、試料が、多発外傷後に患者から単離される、提供することと、
-当該試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルを決定することと、を含み、
-proADMまたはその断片(複数可)の当該レベルが、その後の外傷関連合併症の可能性と相関する、方法に関する。
【0015】
本発明は、医師、看護師、救急部門などの職員などの医療従事者が、多発外傷患者が敗血症などの外傷関連合併症を発症するリスクを迅速に評価するための、新規で迅速かつ信頼性の高い試験を提供する。多発外傷後の多くの炎症マーカーおよび他の炎症の兆候の非特異的な増加に起因して、医療従事者が炎症と外傷関連合併症との発症を区別することは困難であり、これはまた、感染症、敗血症、臓器不全、ショック、および横紋筋融解症などの炎症の徴候とも関連付けられている可能性がある。驚くべきことに、本発明は、外傷関連合併症を発症するリスクが増加しているまたは高い患者を識別するための手段を提供し、また、患者から単離された試料中のproADMまたはその断片のレベルを決定することによって、そのような合併症の発症の可能性が低いか、またはそのような合併症の発症を実質的に除外することができる患者を識別するための手段を提供する。
【0016】
本発明の実施形態では、患者は、多発外傷患者ではなく、重傷患者であり得る。本発明の実施形態では、重傷患者は、多発外傷患者であり得る。本発明の実施形態では、多発外傷患者は、重傷を負っているとみなすことができる。本発明によれば、外傷関連合併症は、患者の健康における有害事象とみなすことができる。
【0017】
多発外傷発生後に早期に試料を単離することにより、これが可能になることは大きな利点であり、医療従事者に患者の状態の進行に関する早期のガイダンスを提供し、それにより例えば、治療手段の特定の薬剤の投与に関して、指示および改善された療法上の決定を可能にする。proADMのレベルはまた、多発外傷後の後の時点でも決定することができ、したがって患者の健康状態のモニタリングを可能にすることは、さらなる利点である。
【0018】
本発明の実施形態では、試料は、多発外傷後48時間以内、好ましくは24時間以内、より好ましくは6時間以内に当該患者から単離される。
【0019】
実施形態では、試料は、多発外傷後約30分、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、14時間、16時間、18時間、20時間、22時間、24時間、30時間、36時間、42時間、48時間、60時間、72時間、84時間、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日、21日、22日、23日、24日、25日、26日、27日、または28日後に当該患者から単離される。
【0020】
本発明の実施形態では、多発外傷後の複数の時点でproADMまたはその断片(複数可)を決定するために、患者から2つ以上の試料が単離されてもよい。
【0021】
本発明のさらなる実施形態では、重傷および/または多発外傷患者である可能性がある患者は、17点以上の損傷重症度スコア(ISS)を有する。好ましい実施形態では、多発外傷患者は、17点以上のISSを有する。本発明の方法は、17以上のISSを有する重傷患者において特に正確であることが示されており、そのような患者は特に不安定であり、外傷関連合併症がこれらの患者の健康状態に有害である可能性があるため、これは非常に有用である。したがって、本発明の方法は、潜在的に発生する合併症を除外することが可能である一方で、実際のニーズに焦点を合わせて、患者の改善された管理を可能にする。潜在的に発生する合併症を除外することにより、特定の療法を調整または中止して、多発外傷患者が直面する可能性のある重篤な副作用の発症を回避することができる。
【0022】
さらに、いくつかの実施形態では、本発明の方法に関係する重傷および/または多発外傷患者のグループは、ISSが15未満、16未満、17未満、18未満、19未満、または20未満の患者を含まない。さらに、いくつかの実施形態では、本発明の患者は、40%、39%、38%、37%、36%、または35%未満の熱傷全身表面積(TBSA)を有する熱傷患者を含まなくてもよい。さらに、ISSが9、10、11、12、13、または14である外傷患者は、いくつかの実施形態では、本発明の方法から除外されてもよい。本発明の実施形態では、本方法は、ISSが15以上、16以上、17以上、18以上、19以上、または20以上の患者に関する。
【0023】
熱傷などの外傷の重症度は、proADMのレベルとその外傷関連合併症の予測値に影響を与える可能性があり、その結果、多発外傷患者の正しいグループを選択することが、本発明の方法をうまく実施するための決定要因となる。したがって、外傷を有するが本発明の意味で多発外傷患者として適格ではない患者に対して本方法を実施することは、誤った結果または誤解を招く結果につながる可能性がある。しかしながら、本発明の意味での多発外傷患者は、必ずしも複数の損傷、例えば、身体の少なくとも2つの領域における2つ以上の損傷、または複数の損傷を有する状態、すなわち、1つの身体領域における2つ以上の重傷を有する状態を患っている必要はない。多発外傷患者は、TBSAの40%以上の熱傷など、多発外傷と見なされる1つの重傷のみを患っている可能性もある。
【0024】
本発明の好ましい実施形態では、1.54nmol/l±20%以上、好ましくは1.54nmol/l±10%以上、より好ましくは1.54nmol/l以上のproADMまたはその断片(複数可)のレベルが、その後の外傷関連合併症を示す。
【0025】
さらなる実施形態では、1.54nmol/l±20%未満、好ましくは1.54nmol/l±10%未満、より好ましくは1.54nmol/l未満のproADMまたはその断片(複数可)のレベルが、その後の外傷関連合併症の不在を示す。
【0026】
1.54nmol/l±20%のカットオフ値を使用することにより、外傷関連合併症を発症するリスクが高い患者を識別することが可能であり、および/または、また多発外傷の発生後の試料単離の制限された時間帯の特定の時点または時間に関係なく、および特定の外傷関連合併症に関係なく、そのような合併症を発症する可能性が低いか、またはそのような合併症を実質的に除外することができる患者を識別することが可能であることは、本発明の方法の大きな利点である。
【0027】
本発明によれば、「その後の有害事象を示す」、「その後の外傷関連合併症を示す」、「その後の有害事象の不在を示す」、および「その後の外傷関連合併症の不在を示す」の文脈における、「示す」という用語は、リスクおよび/または可能性の尺度として意図される。好ましくは、有害事象の有無の「指標」は、リスク評価として意図されており、典型的には、当該事象の絶対的な有無を明確に指すように限定的な様式で解釈されるものではない。
【0028】
したがって、「その後の有害事象を示す」、「その後の外傷関連合併症を示す」、「その後の有害事象の不在を示す」、および「その後の外傷関連合併症の不在を示す」という用語は、それぞれ有害事象/外傷関連合併症の発生のリスクの低さまたは高さを示すものとして理解することができる。いくつかの実施形態では、低リスクは、示された値を超えて検出されたproADMレベルと比較して低いリスクに関する。いくつかの実施形態では、高リスクは、示された値未満で検出されたproADMレベルと比較して高いリスクに関する。
【0029】
ただし、上記を念頭において、proADMの高および低重症度レベルの決定は、本明細書に開示のカットオフ値を使用すると、その後の有害事象の有無の決定に関して非常に信頼できるため、リスクの判定が医療専門家による適切な行為を可能にする。
【0030】
proADMまたはその断片のレベルが、多発外傷患者の文脈において、その後の外傷関連合併症の有無の可能性と相関し得ることは、まったく驚くべきことであった。本発明の多発外傷患者からの試料中のproADMレベルは、好ましくは、proADMの少なくとも2つの異なる重症度レベル(高および低)に割り当てることができる。高レベルのproADMは高重症度レベルを示し、低レベルは低重症度レベルを示す。それぞれの重症度レベルを割り当てるために使用され得るカットオフ値を決定するそれぞれの濃度は、多発外傷後の試料単離の時点、本方法によって評価されるべき外傷関連合併症、および当該試料中のproADMまたはその断片のレベルを決定するために使用される方法などの複数のパラメータに依存し得る。
【0031】
本明細書に開示のカットオフ値は、血液試料、好ましくは、Thermo Scientific BRAHMS KRYPTORアッセイの手段によって患者から得られた全血試料、または血漿もしくは血清試料中のproADMまたはその断片のタンパク質レベルの測定値を指す。したがって、本明細書に開示の値は、用いられる検出/測定方法に応じてある程度変動し得、本明細書に開示の特定の値は、他の方法によって決定される対応する値を読み取ることも意図している。
【0032】
本発明の実施形態では、低重症度レベルから高の重症度レベルへの移行を定義し得るproADMまたはその断片(複数可)の限界値またはカットオフ値は、0.1nmol/l~4nmol/lの範囲の任意の値であり得る。この範囲内の任意の値は、高および低proADM重症度レベルの適切なカットオフ値とみなすことができる。さらに、このようなカットオフ値よりも低い値は、外傷関連合併症の不在を示してもよく、このようなカットオフ値以上の値は、外傷関連の合併症を示してもよい。本発明の文脈で使用され得る適切なカットオフレベルは、限定されないが、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.55、0.6、0.65、0.7、0.75、0.8、0.85、0.9、0.95、1.0、1.05、1.1、1.15、1.2、1.25、1.3、1.35、1.4、1.45、1.5、1.55、1.6、1.65、1.7、1.75、1.8、1.85、1.9、1.95、2.0、2.05、2.1、2.15、2.2、2.25、2.3、2.35、2.4、2.45、2.5、2.55、2.6、2.65、2.7、2.75、2.8、2.85、2.9、2.95、3.0、3.05、3.1、3.15、3.2、3.25、3.3、3.35、3.4、3.45、3.5、3.55、3.6、3.65、3.7、3.75、3.8、3.85、3.9、3.95、4.0nmol/lを含む。
【0033】
本発明の実施形態では、これらの可能なカットオフ値からの偏差、例えば、±30%、29%、28%、27%、26%、25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%の偏差も主張されている。
【0034】
本発明の方法の特定の実施形態では、外傷関連合併症は、感染症、院内感染、敗血症、および/または敗血症性ショックなどの感染症関連合併症を含む。本発明の方法の特定の実施形態では、外傷関連合併症は、感染症、院内感染、敗血症、および/または敗血症性ショックを含む。さらなる実施形態では、外傷関連合併症は、感染症、院内感染、敗血症、および/または敗血症性ショックなどの感染症関連合併症を含む。実施形態では、外傷関連合併症は敗血症である。
【0035】
本発明の実施形態では、
-0.97nmol/l±20%以上、好ましくは0.97±10%以上、より好ましくは0.97nmol/l以上の重傷後24時間以内に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルは、その後の感染症、院内感染、敗血症、および/または敗血症性ショックを示し、かつ/または
-1.35nmol/l±20%以上、好ましくは1.35nmol/l±10%以上、より好ましくは1.35nmol/l以上の重傷後24~48時間に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルは、その後の感染症、院内感染、敗血症、および/もしくは敗血症性ショックを示す。
【0036】
本発明の実施形態では、
-0.97nmol/l±20%未満、好ましくは0.97±10%未満、より好ましくは0.97nmol/l未満の重傷後24時間以内に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルは、その後の感染症、院内感染、敗血症、および/または敗血症性ショックの不在を示し、かつ/または
-1.35nmol/l±20%未満、好ましくは1.35nmol/l±10%未満、より好ましくは1.35nmol/l未満の重傷後24~48時間に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルは、その後の感染症、院内感染、敗血症、および/または敗血症性ショックの不在を示す。
【0037】
本発明の実施形態では、
-0.8nmol/l以上、好ましくは0.9nmol/l以上、より好ましくは0.97nmol/l以上の重傷後24時間以内に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルは、その後の感染症、院内感染、敗血症、および/もしくは敗血症性ショックを示し、かつ/または
-1.2nmol/l以上、好ましくは1.3nmol/l以上、より好ましくは1.35nmol/l以上の重傷後24~48時間に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルは、その後の感染症、院内感染、敗血症、および/もしくは敗血症性ショックを示す。
【0038】
本発明の実施形態では、
-0.8nmol/l未満、好ましくは0.9nmol/l未満、より好ましくは0.97nmol/l未満の重傷後24時間以内に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルは、その後の感染症、院内感染、敗血症、および/または敗血症性ショックの不在を示し、かつ/または
-1.2nmol/l未満、好ましくは1.3nmol/l未満、より好ましくは1.35nmol/l未満の重傷後24~48時間に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルは、その後の感染症、院内感染、敗血症、および/または敗血症性ショックの不在を示す。
【0039】
本発明の方法の文脈で使用されるproADMまたはその断片(複数可)のカットオフは、試料単離の時点と検出または除外されるべき外傷関連合併症とに合わせて調節できることは特に有利である。したがって、本方法は、試料単離の状況およびその時点で使用できるさらなる情報、例えば、特定の外傷関連合併症を発症するリスクの増加に応じて、患者の予後診断/リスクのより正確な評価を可能にする。
【0040】
本発明のさらなる実施形態では、外傷関連合併症は、横紋筋融解症および/または臓器不全などの非感染関連合併症を含む。実施形態では、外傷関連合併症は横紋筋融解症である。
【0041】
本発明の実施形態では、
-0.82nmol/l±20%以上、好ましくは0.82nmol/l±10%以上、より好ましくは0.82nmol/l以上の重傷後24時間以内に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルは、横紋筋融解症および/または臓器不全などのその後の非感染関連合併症を示し、かつ/または
-0.97nmol/l±20%以上、好ましくは0.97nmol/l±10%以上、より好ましくは0.97nmol/l以上の重傷後24~48時間に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルは、横紋筋融解症および/または臓器不全などのその後の非感染関連合併症を示す。
【0042】
本発明の実施形態では、
-0.82nmol/l±20%未満、好ましくは0.82nmol/l±10%未満、より好ましくは0.82nmol/l未満の重傷後24時間以内に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルは、横紋筋融解症および/または臓器不全などのその後の非感染関連合併症の不在を示し、かつ/または
-0.97nmol/l±20%未満、好ましくは0.97nmol/l±10%未満、より好ましくは0.97nmol/l未満の重傷後24~48時間に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルは、横紋筋融解症および/または臓器不全など、その後の非感染関連合併症の不在を示す。
【0043】
本発明の実施形態では、
-0.7nmol/l以上、好ましくは0.8nmol/l以上、より好ましくは0.82nmol/l以上の重傷後24時間以内に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルは、横紋筋融解症および/または臓器不全などのその後の非感染関連合併症を示し、かつ/または
-0.8nmol/l以上、好ましくは0.9nmol/l以上、より好ましくは0.97nmol/l以上の重傷後24~48時間に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルは、横紋筋融解症および/または臓器不全などのその後の非感染関連合併症を示す。
【0044】
本発明の実施形態では、
-0.7nmol/l未満、好ましくは0.8nmol/l未満、より好ましくは0.82nmol/l未満の重傷後24時間以内に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルは、横紋筋融解症および/または臓器不全などのその後の非感染関連合併症の不在を示し、かつ/または
-0.8nmol/l未満、好ましくは0.9nmol/l未満、より好ましくは0.97nmol/l未満の重傷後24~48時間に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルは、横紋筋融解症および/または臓器不全などのその後の非感染関連合併症の不在を示す。
【0045】
本発明の方法のさらなる実施形態によれば、外傷関連合併症は死亡を含む。実施形態では、外傷関連合併症は死亡であり、好ましくは多発外傷から28日以内の死亡である。好ましくは、本発明の方法の文脈では、外傷関連合併症(予測される)は、多発外傷から28日以内に発生するであろう。
【0046】
さらなる実施形態では、外傷関連合併症(予測される)は、多発外傷から28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、または2日、または1日以内に発生するであろう。
【0047】
本発明の大きな利点は、外傷後合併症のリスクを推定できるだけでなく、そのような合併症の発生の時間枠を提供でき、その結果、対策を講じる必要性の緊急性および特定の対策の適否を推定できるようになることである。
【0048】
本発明の方法の結果に応じて、本方法の実施形態は、その後の療法上の決定および/または療法的行為を含み得る。そのような療法上の決定には、医療的治療の開始、変更、または修正が含まれ得る。例えば、本発明の方法がその後の外傷関連合併症を示す場合、特定の薬物療法、外科手術、または流体療法の開始または変更などの好適な療法的措置を開始することができる。本明細書に開示される任意の療法、医療的治療、または療法的行為は、本発明の方法の文脈では、その後の療法上の決定または療法的行為として、特に療法的措置が合併症に特異的である場合、例えば、敗血症の場合の抗生物質治療、または外傷関連合併症としての横紋筋融解症の場合の抗生物質治療、静脈内流体治療、透析、電解質異常(特に、カリウム、カルシウム、およびリン)の管理などとして用いることができる。さらに、患者の維持された集中的な観察およびケアは、数日、数週間、さらには数ヶ月などの長期間にわたって潜在的に望ましい可能性がある。これには、患者をICUに留置または移動すること、および/またはICUでの患者の滞在を延長することが含まれる場合がある。
【0049】
他方、本発明の方法の結果が外傷関連合併症の不在を示している場合、そのような合併症に関する特定の治療措置は必要とされない場合がある。
【0050】
逆に、本発明の方法が、その後の外傷関連合併症の不在を示している場合、これは、(静脈内)抗生物質療法などの不必要な薬物療法の中止もしくは変更、および/または集中治療ユニットからの患者の早期退院を示し得る。
【0051】
本発明の方法が感染症、院内感染、敗血症および/または敗血症性ショックを示している場合、抗生物質療法を開始することができるか、または進行中の抗生物質療法を修正または変更することができる。
【0052】
一実施形態では、本発明は加えて、本明細書に記載の診断方法の結果を患者に知らせることを含む。本発明の実施形態では、患者は少なくとも18歳である。
【0053】
本発明の好ましい実施形態では、試料は、血液試料、血清試料、血漿試料、および/または尿試料からなる群から選択される。血液、血清、または血漿中のproADMまたはその断片(複数可)を決定することは、それが特に正確であることが示されているので、特に有利である。さらに、これらの試料は、特定の時点での患者の実際の状態を非常に正確に反映する。
【0054】
本発明の実施形態では、proADMまたはその断片(複数可)のレベルを決定することは、試料中のMR-proADMのレベルを決定することを含む。本明細書に記載の任意の所与の実施形態では、MR-proADMの決定を用いることが好ましく、したがって、各実施形態の文脈において、これが考慮され得る。好ましい実施形態では、「ADM断片」は、MR-proADMであると見なされ得る。
【0055】
本発明のさらなる実施形態では、proADMまたはその断片(複数可)のレベルは、当該患者の健康におけるその後の外傷関連合併症の可能性と相関する。好ましい実施形態では、proADMまたはその断片(複数可)のレベルは、当該患者のその後の外傷関連合併症の可能性と正に相関する。言い換えれば、決定されたproADMのレベルが高いほど、その後の外傷関連合併症の可能性が高い。
【0056】
特定の実施形態によれば、本発明の方法は、
-当該患者からの試料中の少なくとも1つの追加のバイオマーカーまたはその断片(複数可)のレベルを決定することであって、少なくとも1つの追加のバイオマーカーが、好ましくはPCTまたはその断片(複数可)および/または乳酸である、決定すること、および/または
-少なくとも1つの臨床スコアを決定することであって、少なくとも1つの臨床スコアが、好ましくはSOFAである、決定すること、を追加的に含み、
-少なくとも1つの追加のバイオマーカーおよび/または少なくとも1つの臨床スコアのレベル、ならびにproADMまたはその断片(複数可)のレベルが、その後の外傷関連合併症を示す。
【0057】
本発明の文脈で決定され得るさらなる追加のマーカーは、乳酸およびCRPを含む。本発明の文脈で決定され得る臨床スコアは、SIスコア(全身性炎症スコア)、SOFA、qSOFA、SIRS、SAPS II、APACHE II、好ましくはSOFAを含む。
【0058】
本発明の方法の文脈におけるproADMまたはその断片(複数可)およびSOFAの決定は、特に外傷関連合併症が敗血症であるか、または敗血症を含む場合に、その後の外傷関連合併症の予測および/または予後診断に関して、さらなる精度を提供することが判明した。
【0059】
本発明の方法の別の実施形態では、追加のマーカーは乳酸である。驚くべきことに、本発明の文脈でのproADMおよび乳酸の組み合わせた決定は、その後の非感染関連合併症、特に横紋筋融解症の特に正確な予測を提供する。
【0060】
さらなる実施形態では、少なくとも1つの追加のバイオマーカーは、横紋筋融解症の少なくとも1つのマーカー、例えば、クレアチンキナーゼ(CK)、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、クレアチニン、ミオグロビン、アルドラーゼ、トロポニン、炭酸脱水酵素3型、脂肪酸結合タンパク質(FABP)、トランスアミナーゼ、またはカリウムである。
【0061】
本発明の実施形態では、本方法は、
-多発外傷患者から単離された第1の試料中のproADMまたはその断片(複数可)の重症度レベルを決定すること、および/または
-当該患者から単離された第2の試料竜のproADMまたはその断片(複数可)の重症度レベルを決定することであって、当該第2の試料が、第1の試料の後に単離されている、決定すること、を追加的に含み、
-1.54nmol/l±20%未満のproADMまたはその断片(複数可)のレベルが、低重症度レベルに対応し、1.54nmol/l±20%以上のproADMまたはその断片(複数可)のレベルが、高重症度レベルに対応する。
【0062】
好ましくは、第1の試料は、多発外傷患者から、多発外傷後24時間以内、より好ましくは6時間以内に単離される。第1の試料は、本発明の方法の文脈では試料単離のために開示された任意の時点で単離され得る。
【0063】
さらに、第2の試料は、第1の試料の単離後24時間以内に当該患者から単離され得る。ただし、第2の試料は、第1の試料の単離後約30分、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、14時間、16時間、18時間、20時間、22時間、24時間、30時間、36時間、42時間、48時間、60時間、72時間、84時間、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日、21日、22日、23日、24日、25日、26日、27日、または28日後の単離であり得る。
【0064】
本発明の実施形態では、高重症度レベルの第2の試料中のproADMまたはその断片(複数可)は、その後の外傷関連合併症を示す。本発明のさらなる実施形態では、第1の試料と比較して上昇した重症度レベルの、第2の試料中のproADMまたはその断片(複数可)は、その後の外傷関連合併症を示す。
【0065】
さらなる実施形態では、低重症度レベルの第1および第2の試料中のproADMまたはその断片(複数可)は、好ましくは敗血症および/または敗血症性ショックなどのその後の外傷関連合併症の不在を示す。
【0066】
さらに、低重症度レベルの第2の試料中のproADMまたはその断片(複数可)は、好ましくは敗血症および/または敗血症性ショックなどのその後の外傷関連合併症の不在を示し得る。
【0067】
本発明の実施形態では、継続的に低い重症度レベルのproADMまたはその断片(複数可)は、感染関連合併症、特に敗血症の不在を示し、好ましくは、proADMの重症度レベルが継続的に低い場合には、敗血症の発生(好ましくは、多発外傷から28日以内)を除外することができる。
【0068】
さらに、本発明は、本発明の方法を実行するためのキットであって、キットが、
-対象からの試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルを決定するための、および任意選択的に加えてPCTまたはその断片(複数可)および/または乳酸などの少なくとも1つの追加のバイオマーカーのレベルを決定するための検出試薬と、
-参照レベルなどの参照データであって、
i.その後の感染症、院内感染、敗血症、および/または敗血症性ショックの診断、予後診断、予測、リスク評価、および/またはリスク層別化のための、0.97nmol/l±20%以上の重傷後24時間以内に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベル、
ii.その後の感染症、院内感染、敗血症、および/または敗血症性ショックの診断、予後診断、予測、リスク評価、および/またはリスク層別化のための、1.35nmol/l±20%以上の重傷後24~48時間に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベル、
iii.横紋筋融解症および/または臓器不全などのその後の非感染関連合併症の診断、予後診断、予測、リスク評価、および/またはリスク層別化のための、0.82nmol/l±20%以上の重傷後24時間以内に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベル、
iv.横紋筋融解症および/または臓器不全などのその後の非感染関連合併症の診断、予後診断、予測、リスク評価、および/またはリスク層別化のための、0.97nmol/l±20%以上の重傷後24~48時間に単離された試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベル、および/または
v.proADMまたはその断片(複数可)の高および/または低重症度レベルであって、低重症度レベルが1.54nmol/l±20%未満であり、高重症度レベルが1.54nmol/l±20%以上である、高および/または低重症度レベルに対応する、参照データと、を含み、
-当該参照データが、好ましくはコンピュータ可読媒体に記憶され、および/またはproADMまたはその断片(複数可)の決定されたレベル、ならびに任意選択的に加えてPCTまたはその断片(複数可)などの少なくとも1つの追加のバイオマーカーの決定されたレベルを当該参照データと比較するために構成されているコンピュータで実行可能なコードの形式で用いられる、キットに関する。
【0069】
proADMまたはその断片(複数可)のレベルを決定するための、および任意選択的にPCT、乳酸、および/またはC反応性タンパク質、もしくはそれらの断片(複数可)のレベルを決定するための検出試薬は、好ましくは、方法を実施するのに必要なもの、例えばADMに指向されている抗体、蛍光標識などの好適な標識、好ましくはKRYPTORアッセイでの用途に好適な2つの別個の蛍光標識、試料収集チューブから選択される。
【0070】
本発明の方法の文脈で開示された実施形態および特徴はまた、本発明のキットにも適用され、他の方法にも適用される。
【0071】
本明細書に記載の方法の一実施形態では、proADMまたはその断片(複数可)、および任意選択的に加えて、例えばPCTまたはその断片(複数可)などの他のバイオマーカーのレベルは、質量分析法(MS)、発光イムノアッセイ(LIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、化学発光および蛍光イムノアッセイ、酵素イムノアッセイ(EIA)、酵素結合イムノアッセイ(ELISA)、発光ベースのビーズアレイ、磁気ビーズベースのアレイ、タンパク質マイクロアレイアッセイ、即時免疫クロマトグラフィーストリップ試験などの迅速試験フォーマット、希土類クリプテートアッセイ、ならびに自動化されたシステム/分析器からなる群から選択される方法を使用して決定される。
【0072】
本発明による方法は、均質な方法としてさらに具体化することができ、検出される抗体/複数の抗体、およびマーカー、例えば、proADMまたはその断片によって形成されているサンドイッチ複合体が、液相中で懸濁されたままである。この場合、2つの抗体が使用されると、両方の抗体が検出システムの一部で標識され、それが、両方の抗体が単一のサンドイッチに統合されている場合にシグナルの発生またはシグナルの誘発をもたらすことが好ましい。
【0073】
そのような技術は、特に蛍光増強または蛍光消光検出方法として具体化されるべきである。特に好ましい態様は、例えば、US4882 733A、EP-B10180492、またはEP-B10 539477、およびそれらで引用された従来技術に記載されているものなど、対で使用される検出試薬の使用に関する。このようにして、反応混合物中の単一の免疫複合体中に直接両方の標識成分を含む反応生成物のみが検出される測定が可能になる。
【0074】
例えば、そのような技術は、上記で引用された出願の教示を実装する、商標名TRACE(登録商標)(Time Resolved Amplified Cryptate Emission)、またはKRYPTOR(登録商標)の下で提供されている。したがって、特に好ましい態様では、本明細書で提供される方法を実行するために診断デバイスが使用される。例えば、proADMタンパク質もしくはその断片のレベル、および/または本明細書で提供される方法の任意のさらなるマーカーのレベルが決定される。特に好ましい態様では、診断デバイスは、KRYPTOR(登録商標)である。
【0075】
本明細書に記載の方法の一実施形態では、方法は、アッセイが均質相または不均質相中で実施される、イムノアッセイである。
【0076】
本明細書に記載の方法のさらなる実施形態では、加えて、方法は、感染を検出するための該患者からの試料の分子分析を含む。感染を検出するための分子分析に使用される試料は、好ましくは血液試料である。好ましい実施形態では、分子分析は、病原体に由来する1つ以上の生体分子を検出することを目的とする方法である。当該1つ以上の生体分子は、核酸、タンパク質、糖、炭水化物、脂質、およびまたはグリコシル化タンパク質などのそれらの組み合わせ、好ましくは核酸であり得る。当該生体分子は、好ましくは、1つ以上の病原体(複数可)に特異的である。好ましい実施形態によれば、そのような生体分子は、PCR、qPCR、RT-PCR、qRT-PCRなどの核酸増幅方法、または等温増幅、質量分析、酵素活性の検出、および免疫アッセイに基づく検出方法を含む群から選択される、生体分子の分析のための1つ以上の方法によって検出される。分子分析のさらなる方法は、当業者に既知であり、本発明の方法に含まれる。
【0077】
本明細書に記載の方法の一実施形態では、第1の抗体および第2の抗体は、液体反応混合物中に分散して存在し、蛍光または化学発光消光または増幅に基づく標識系の一部である第1の標識成分が、第1の抗体に結合し、当該標識系の第2の標識成分が、第2の抗体に結合し、これにより、検出される両方の抗体の当該proADMまたはその断片への結合後、測定溶液中で得られたサンドイッチ複合体の検出を可能にする測定可能なシグナルが発生する。
【0078】
本明細書に記載の方法の一実施形態では、標識系が、特にシアニンタイプの蛍光または化学発光染料と組み合わせた希土類クリプテートまたはキレートを含む。
【0079】
本明細書に記載の方法の一実施形態では、方法は、加えて、proADMまたはその断片(複数可)の決定されたレベルを、重篤な病気であると診断され、医療的治療下にある患者のproADMまたはその断片に対応する参照レベル、閾値、および/または集団平均と比較することを含み、当該比較が、コンピュータで実行可能なコードを使用してコンピュータプロセッサで実行される。
【0080】
本発明の方法は、部分的にコンピュータで実行され得る。例えば、検出されたマーカー、例えばproADMまたはその断片のレベルを参照レベルと比較するステップは、コンピュータシステムで実施することができる。コンピュータシステムでは、診断、予後診断、予測、リスク評価、および/またはリスク層別化のために示されるスコアを計算するために、マーカー(複数可)の決定されたレベルを、対象の他のマーカーレベルおよび/またはパラメータと組み合わせることができる。例えば、決定された値は、コンピュータシステムに入力されてもよい(医療従事者によって手動で、またはそれぞれのマーカーレベル(複数可)が決定されたデバイス(複数可)から自動で、のいずれか)。コンピュータシステムは、ポイントオブケア(例えば、プライマリケア、ICU、またはED)に直接あってもよく、またはコンピュータネットワークを介して(例えばインターネット、または任意選択的に病院情報システム(HIS)などの他のITシステムもしくはプラットホームと組み合わせた特化された医療クラウドシステムを介して)接続される遠隔地にあってもよい。典型的には、コンピュータシステムは、値(例えば、マーカーレベル、もしくは年齢、血圧、体重、性別などのパラメータ、またはSOFA、qSOFA、BMIなどの臨床スコアシステム)をコンピュータ可読媒体に記憶し、事前に定義および/または事前に記憶された参照レベルまたは参照値に基づきスコアを計算するであろう。得られたスコアは、ユーザ(通常は医師などの医療従事者)のために表示および/または印刷される。あるいは、または加えて、関連する予後診断、診断、評価、治療ガイダンス、患者管理ガイダンスまたは層別化は、ユーザ(典型的には医師などの医療従事者)のために表示および/または印刷されるであろう。
【0081】
本発明の一実施形態では、好ましくは電子健康記録(EHR)からのデータを使用して、機械学習アルゴリズムが敗血症、重症敗血症および敗血症性ショックのリスクがある入院患者を識別することが明らかであるソフトウェアシステムを用いることができる。機械学習アプローチは、患者からのEHRデータ(ラボ、バイオマーカーの発現、バイタル、人口統計など)を使用して、ランダムフォレスト分類器でトレーニングすることができる。機械学習は、単純なルールに基づくシステムとは異なり、明示的にプログラムされなくても、コンピュータにデータの複雑なパターンを学習する能力を提供する一種の人工知能である。以前の研究では、電子健康記録データを使用して警告を誘発して、一般的な臨床的悪化を検出していた。本発明の一実施形態では、proADMレベルの処理は、既存のデータセットとの比較のために適切なソフトウェアに組み込むことができ、例えば、proADMレベルは、有害事象の発生の診断または予後診断を支援する機械学習ソフトウェアで処理することができる。
【0082】
PCTまたはCRPなどの別のバイオマーカーと組み合わせたproADMまたはその断片の組み合わせを用いることにより、単一の多重アッセイで、または患者からの試料で行われる2つの別個のアッセイのいずれかで実現することができる。試料は、同じ試料に関係しても、異なる試料に関係してもよい。proADMおよび例えばPCTの検出および決定に用いられるアッセイはまた、同じであっても異なっていてもよく、例えば、上記のマーカーのうちの1つの決定にイムノアッセイを用いてもよい。好適なアッセイのより詳細な説明を以下に提供する。
【0083】
重篤であると診断され、治療下にある患者におけるproADMまたはその断片のカットオフ値および他の参照レベルは、先述の方法によって決定してもよい。例えば、参照値および/またはカットオフを確立するために、定量アッセイの変動性を評価する際に変動係数を使用するための方法は、当業者に既知である(George F.Reed et al.,Clin Diagn Lab Immunol.2002;9(6):1235-1239)。
【0084】
加えて、確立された技法に従って参照レベルまたはカットオフとして使用するための統計的に有意な値を示すために、機能アッセイの感度を決定することができる。研究所は、臨床的に関連するプロトコルによって、アッセイの機能的感度を独立して確立することが可能である。「機能的感度」は、変動係数(CV)が20%(またはいくつかの他の所定の%CV)を生じる濃度と見なすことができ、したがって低分析物レベルでのアッセイの精度の尺度である。したがって、CVは、標準偏差(SD)の標準化であり、少なくともアッセイのほとんどの有効範囲で、分析物の濃度の大きさに関係なく変動性の概算値を比較することを可能にする。
【0085】
さらに、ROC分析に基づく方法を使用して、2つの臨床患者グループ間の統計的に有意な差を決定することができる。受信者動作特性(ROC)曲線は、モデルの適合確率の並べ替え効率を測定して、応答レベルを並べ替える。ROC曲線はまた、診断試験の基準点の設定にも役立ち得る。対角線からの曲線が高いほど、適合度が高い。ロジスティック適合が3つ以上の応答レベルを有する場合、一般化されたROC曲線を生成する。そのようなプロットには、各応答レベルの曲線があり、これは、他の全てのレベルに対するそのレベルのROC曲線である。例えば、SASのJMP12、JMP13、Statistical Discoveryなど、好適な参照レベルおよびカットオフを確立するために、この種類の分析を可能にすることが可能なソフトウェアが利用可能である。
【0086】
PCTについても同様にカットオフ値を決定することができる。文献は、適切なカットオフを決定するために当業者が利用可能であり、例えば、Philipp Schuetz et al.(BMC Medicine.2011;9:107)は、0.1ng/mLのカットオフでは、PCTが感染症を除外するのに、非常に高い感度を有したと述べている。Terence Chan et al.(Expert Rev.Mol.Diagn.2011;11(5),487.496)は、感度および特異性に基づいて計算される正および負の尤度比などの指標はまた、診断試験の強度の評価に有用であると記載している。一般的に、値は、複数のカットオフ値(CV)に対する受信者動作特性曲線としてグラフ化される。曲線下の面積の値を使用して、診断上最も妥当なCVを決定する。この文献は、CV(アッセイおよび研究デザインによるカットオフ値)の変動、およびカットオフ値を決定するための好適な方法について記載している。
【0087】
proADMまたはその断片の集団平均レベルはまた、参照値、例えば平均proADM集団値として使用することができ、それにより、対照グループが好ましくは10人超、20、30、40、50人、またはそれ以上の対象を含む対照集団と重篤と診断された患者とを比較することができる。
【0088】
本発明の一実施形態では、PCTのカットオフレベルは、例えば、Luminex MAC Pix E-Bioscience AssayまたはBRAHMS PCT-Kryptor Assayを使用すると、血清試料中の0.01~100.00ng/mLの範囲の値であり得る。好ましい実施形態では、PCTのカットオフレベルは、0.01~100、0.05~50、0.1~20、または0.1~2ng/mL、最も好ましくは>0.05~0.5ng/mLの範囲であり得る。これらの範囲内の任意の値は、適切なカットオフ値と見なすことができる。例えば、0.01、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または100ng/mLが用いられ得る。いくつかの実施形態では、健康な対象のPCTレベルは、およそ0.05ng/mLである。
【発明を実施するための形態】
【0089】
本発明は、多発外傷患者におけるその後の外傷関連合併症の診断、予後診断、予測、リスク評価、および/またはリスク層別化のための方法に関するものであり、当該患者の試料を提供することを含み、試料は、重傷後に患者から単離され、当該試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルを決定し、proADMまたはその断片(複数可)の当該レベルは、その後の外傷関連合併症の可能性と相関する。
【0090】
本明細書に提示されるデータから明らかなように、多発外傷患者における外傷関連合併症の有無の可能性は、proADMまたはその断片(複数可)のレベルによって示される。
【0091】
本発明は、本発明の方法およびキットが、従来の方法を上回って迅速、客観的であり、使いやすく、正確である、という利点を有する。本発明の方法およびキットは、ありふれた様式で得られる血液試料もしくはさらなる生体液、または対象から得られる試料中のADM、PCT、乳酸、C反応性タンパク質、SOFA、qSOFA、APACHE II、SAPS IIのレベルを決定することができるので、病院で、ありふれた方法で容易に測定可能であるマーカーおよび臨床スコアに関する。
【0092】
本明細書で使用される場合、「患者」または「対象」は、脊椎動物であり得る。本発明の文脈において、「対象」という用語は、ヒトおよび動物の両方、特に哺乳動物、および他の生物を含む。
【0093】
本発明の意味では、「多発外傷患者」は、重傷を負い、多発外傷を患っている対象である。「多発外傷」という用語は、複数の外傷または重度の外傷に関連付けられている状態に関する。典型的には、この用語は、外傷性損傷、好ましくは、例えば、重度の熱傷に加えて重度の頭部外傷などの複数の外傷性損傷を受けた人の状態を表す。
【0094】
多発外傷という用語はまた、特定の損傷重症度スコア(ISS)、例えばISSの、12、13、14、15、16、17、18、19、20よりも大きい、好ましくは16よりも大きいスコアなどに関連付けられている傷害を指す場合がある。多発外傷は、自動車衝突(オートバイ衝突、自動車衝突)などの複数の損傷を引き起こす高速度を伴う事故に関連付けられていることが多い。多発外傷は一般に、複数の頭部損傷、視力および聴力喪失、神経損傷、複数の骨折、治癒されていない身体の傷および感染症(これらのいずれかが、生命を脅かす可能性がある)によって特徴付けられる。他の損傷には、切断された手足または脊髄損傷が含まれる場合があり、患者の大多数はある程度の外傷性脳損傷を経験している。
【0095】
損傷重症度スコア(ISS)は、外傷および多発外傷の重症度を評価するために確立された医学的スコアである(Baker SP et al.(1974).“The Injury Severity Score:a method for describing patients with multiple injuries and evaluating emergency care”.The Journal of Trauma.Lippincott Williams&Wilkins.14(3):187-196; Copes WS et al.(1988).“The Injury Severity Score revisited”.The Journal of Trauma.Lippincott Williams&Wilkins.28(1):69-77)。それは、損傷後の死亡率、罹患率、および入院時間と相関している。これは、主要な外傷または多発外傷という用語を定義するために使用される。主要な外傷(または多発外傷)は、損傷重症度スコアが15を超え、好ましくは16を超えることとして定義される。簡易式外傷指数(AIS)は、解剖学的に基づいたコンセンサスから導出されたグローバル重症度スコアリングシステムであり、すべての身体領域の各損傷を、軽度-1、中程度-2、重症-3、重篤-4、瀕死-6、即死-7(実質的に治療不可能)の6段階の順序で相対的な重症度に応じて分類するものである。頭、顔、首、胸部、腹部、脊椎、上肢、下肢、外肢などの、9つの身体領域に対応する9つのAISチャプターがある。
【0096】
ISSは簡易式外傷指数(AIS)に基づいており(以下を参照)、負傷者のISSを計算するために、身体を以下の6つのISS身体領域に分けている:頭または首(頸椎を含む)、顔(顔面骨格、鼻、口、目、耳を含む)、胸部(胸椎および横隔膜)、腹部または骨盤内容物(腹部臓器および腰椎)、四肢または骨盤帯(骨盤骨格)、体表。ISSを計算するために、最も重傷を負った3つのISS身体領域の各々で、最も高いAIS重症度コードを取り、各AISコードを二乗し、3つの二乗した数字を加算してISSとする(ISS=A2+B2+C2、式中、A、B、Cは、最も損傷した3つのISS身体領域のAISスコアである)。ISSスコアは1から75の範囲である(つまり、各カテゴリーのAISスコアは5である)。3つのスコアのいずれかが6の場合、スコアは自動的に75に設定され、これは、スコア6(「生存不能」)は、生命を維持するためのそれ以上の医療ケアの無益さを示すためである。
【0097】
本発明の実施形態では、多発外傷患者は、多発外傷患者として適格である熱傷患者を含む。このような熱傷患者は、ISSスコアが17以上であるか、熱傷に加えて少なくとも1つの追加の外傷を有している。実施形態では、多発外傷患者は、ISSが17未満の熱傷患者、および/または共存する多発外傷を伴わず、熱傷全身表面積(TBSA)が40%未満、好ましくは39%未満、38%未満、37%未満、または36%未満の熱傷患者を含まない。
【0098】
多発外傷患者の初期管理/治療および診断は通常、救急部門(ED)で提供される。EDでの外傷患者の評価に必要な時間は、治療までの時間と呼ばれている。病院または医療サービスを提供する別の機関に入院すると、外傷患者は、生命を脅かす可能性のある損傷を確認するために、頸椎、胸部、および骨盤のX線診断(一般に「外傷シリーズ」として知られる)を含む徹底的な検査を直ちに受ける必要がある。例としては、頸椎の骨折、骨盤の重度の骨折、血胸などが挙げられる。この初期の調査が完了すると、他の骨折の可能性を評価するために手足のX線写真を撮影することがある。また、重度の外傷では、患者が緊急治療を必要とする場合、CTまたは手術室に直接送られることもよくある。多発外傷のあまり目立たない兆候には、注意力、集中力と記憶力の低下、頭痛、耳鳴り、立ちくらみ、神経過敏、意思決定の障害などが含まれる。
【0099】
多発外傷患者の治療には、長い骨折の治療を含む「ダメージコントロール」整形外科手術(持続性代謝性アシドーシス、低体温症、および凝固障害の「致死的三要素」の早期回復が生存の第一目標を表す)、生理的パラメータの回復のための生命機能の安定化の後、患者を最も早い時期にICUに移送すること、これらの患者における致死的な「セカンドヒット」を防ぐための長期的な外科的介入を回避することが含まれている。多発外傷患者の治療には、以下の4つの異なる評価および管理の段階が含まれ得る:(1)ダメージコントロールを必要とする外傷患者を早期に認識する救命手術(「グランドゼロ」認識段階)、(2)出血および汚染を制御するためのサルベージ手術(「OR段階」)、(3)生理学的および免疫学的ベースライン機能を回復させるための集中治療管理(「ICU段階」)、(4)予定されている根治手術(「再建段階」)。多発外傷患者を管理するためのさらなる手段は当業者に知られており、例えば、Stahel PFら(Stahel PF et al.“Current Concepts of Polytrauma Management”.European Journal of Trauma 2005;31:200-11)によって、文献に複数回まとめられている。
【0100】
本発明の文脈では、多発外傷患者の健康における「外傷関連合併症」または「有害事象」は、多発外傷の事象に起因する可能性のある多発外傷患者の合併症または健康状態の悪化を示す事象に関連する。このような外傷関連合併症は、遠隔地にある(主に損傷を負っていない)臓器および生命システムの機能不全または傷害につながる可能性がある。このような有害事象には、限定されないが、患者の死亡および多発外傷後28日以内の患者の死亡、術後肺障害、静脈血栓症/肺塞栓症、蜂巣炎または褥瘡性潰瘍、術後出血または血腫、術後肺炎、手術部位の外科手術の再開口、創傷感染症、術後感染症、肺炎/創傷以外の術後感染症、術後GI出血または潰瘍、術後脳卒中、術後AMI、術後心臓異常、ショックまたは心呼吸停止、吸引性肺炎、術後尿路合併症、術後の身体的および代謝的障害、中枢または末梢神経系、麻酔薬/CNS薬に関連する合併症が含まれる。
【0101】
外傷関連合併症は、感染関連合併症と非感染関連合併症とに分けることができる。さらに、有害事象および外傷関連合併症の例には、臨床症状の悪化が、病巣洗浄手順、血液製剤の注輸、コロイドの注入、侵襲的機械的換気、非侵襲的機械的換気、緊急手術、腎または肝代替などの臓器代替療法、および昇圧剤療法などの療法的措置の必要性を示す状況が含まれる。感染関連合併症には、限定されないが、感染症または新たな感染症の発生、院内感染、敗血症、敗血症性ショック、および/または敗血症が含まれる。
【0102】
非感染関連合併症には、限定されないが、横紋筋融解症、臓器不全、および低血圧または高血圧、頻脈または徐脈などの患者の一般的な臨床徴候または症状の悪化が含まれる。実施形態では、外傷関連合併症という用語は、外傷関連合併症の結果である状態またはパラメータに明示的に関連しない場合がある。例えば、患者の細胞外液量状態、体液バランス、塩分バランス、および/または球状体量状態の変化は、そのような変化も患者の状態の改善を表すこともあり、したがって、それ自体が合併症ではないので、外傷関連合併症として適格ではない場合がある。さらに、そのような変化は、それ自体を合併症とみなすのではなく、むしろ合併症の結果とみなすことができる。例えば、本発明の意味で外傷関連合併症とみなすことができる腎不全または感染疾患もしくは敗血症は、体液の不均衡につながる可能性がある。したがって、実施形態では、本発明の方法は、患者の細胞外液量状態、体液バランス、塩分バランス、および/または球状体量状態の変化の診断、予後診断、予測、リスク評価、および/またはリスク層別化に関連しない。
【0103】
横紋筋融解症は、損傷した骨格筋が急速に崩壊する状態である。症状には、筋肉痛、倦怠感、嘔吐、錯乱、濃い(または「茶色」)尿、および/または不整脈が含まれる。タンパク質ミオグロビンなどの一部の筋肉分解産物は、腎臓に有害であり、腎不全を引き起こす可能性がある。
【0104】
横紋筋融解症の診断は、外傷、挫傷、または長期の固定化を患っている人に疑われることがあるが、腎機能の低下(クレアチニンレベルおよび尿素レベルの異常な上昇または増加、尿量の低下)、または尿の赤褐色変色などに起因して、後に識別されることもある。横紋筋融解症の信頼できる診断テストは、血中のクレアチンキナーゼ(CK)のレベルである。CKは損傷した筋肉によって放出され、1,000U/L(正常値(ULN)の5倍)を上回るレベルで横紋筋融解症を示し)、5,000U/Lを超えるレベルで重度の疾患を示すが、横紋筋融解症の程度に応じて100,000U/Lまでの濃度も珍しくない。CK濃度は通常、最初の筋肉損傷後12時間は着実に上昇し、1~3日間上昇したままで、その後徐々に低下する。血中または尿中のミオグロビンレベルの上昇の検出は、横紋筋融解症の診断に使用でき、ミオグロビンレベルの上昇は腎機能障害のリスクが高くなることに関連付けられている。酵素乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の濃度の上昇は、横紋筋融解症を示し、またアルドラーゼ、トロポニン、炭酸脱水酵素3型、脂肪酸結合タンパク質(FABP)などの筋肉損傷のマーカーでもある。さらに、トランスアミナーゼは通常横紋筋融解症でも増加する。横紋筋融解症の検出に使用できるさらなる診断マーカーには、高カリウムレベル、心電図検査(ECG)(カリウムレベルの上昇が心臓の伝導系に影響を及ぼしているかどうかを示し得るもの)、低カルシウムレベルが含まれる。
【0105】
横紋筋融解症の治療は、大量の静脈内輸液の投与、透析または血液濾過、重炭酸ナトリウム、マンニトール、カルシウム、インスリンおよび/またはサルブタモールの投与を含み得る。
【0106】
本明細書に記載の多発外傷患者は、救急部門もしくは集中治療ユニット、または主要な外傷センターなどの専門的な臨床現場、または救急車などの緊急輸送機関などの他のポイントオブケア環境、または当該症状の患者に対面する一般開業医に存在し得る。
【0107】
「ICU患者」患者という用語は、限定されないが、集中治療室に入室している患者に関する。集中治療室は、集中療法ユニット、または集中治療ユニット(ITU)、または重篤治療室(critical care unit)(CCU)とも称され得、集中治療医療を提供する病院または医療施設の特別部門である。ICU患者は通常、重症かつ生命を脅かす病気および傷害を患い、正常な身体機能を確保するために、専門の設備および医薬品による常時綿密なモニタリングおよびサポートを必要とする。ICU内で治療される一般的な状態には、限定されないが、多発外傷、急性または成人呼吸迫症候群(ARDS)、外傷、臓器不全、および敗血症が含まれる。
【0108】
本明細書で使用される場合、本発明の文脈における「診断」は、多発外傷に関連する対象の臨床状態の認識および(早期)検出に関する。多発外傷の重症度の評価もまた、「診断」という用語によって包含され得る。
【0109】
「予後診断」は、多発外傷に基づく対象の帰結または特定のリスクの予測に関する。これはまた、前述の対象についての回復の見込みまたは有害な帰結の見込みの推定を含み得る。
【0110】
本発明の方法はまた、モニタリング、療法モニタリング、療法指導および/または療法制御のために使用され得る。「モニタリング」は、多発外傷患者および潜在的に発生する合併症を追跡することに関し、例えば、治癒過程の進行または多発外傷患者の健康状態に対する特定の治療または療法の影響を分析することに関する。
【0111】
本発明の文脈における「療法モニタリング」または「療法制御」という用語は、例えば、療法の有効性に対するフィードバックを得ることによる、当該多発外傷患者の療法的処置のモニタリングおよび/または調節を指す。本明細書で使用される場合、「治療ガイダンス」という用語は、1つ以上のバイオマーカーの値/レベルおよび/または臨床パラメータおよび/または臨床スコアに基づく特定の療法、療法的行為、または医療的介入の適用を指す。これには、療法の調節または療法の中止が含まれる。
【0112】
本発明において、「リスク評価」および「リスク層別化」という用語は、さらなる予後に従って対象を異なるリスクグループに分類することに関する。リスク評価はまた、予防的および/または治療的措置を適用するための層別化にも関する。「療法層別化」という用語は、特に、患者を、それらの分類に応じてある特定の異なる治療措置を受けるリスク群または治療群などの、異なる群にグループ分けまたは分類することに関する。「療法層別化」という用語はまた、感染症または感染性疾患の症状を有する患者を、特定の治療措置を受ける必要がない群にグループ分けまたは分類することにも関する。
【0113】
本発明の文脈において、「proADMまたはその断片(複数可)のレベルを決定する」などは、proADMまたはその断片を決定する任意の手段を指すことが理解される。断片がproADMまたはその断片のレベルの明白な決定を可能にする限り、断片は任意の長さ、例えば少なくとも約5、10、20、30、40、50、または100アミノ酸を有し得る。本発明の特に好ましい態様において、「proADMのレベルを決定すること」は、中間領域のプロアドレノメジュリン(MR-proADM)のレベルを決定することを指す。MR-proADMは、proADMの断片および/または領域である。
【0114】
ペプチドアドレノメジュリン(ADM)は、ヒト褐色細胞腫(phenochromocytome)から単離された、52個のアミノ酸を含む血圧降下ペプチドとして発見された(Kitamuraら、1993)。アドレノメジュリン(ADM)は、185個のアミノ酸を含む前駆体ペプチド(「プレプロアドレノメジュリン」または「プレproADM」)としてコードされる。ADMの例示的なアミノ酸配列は、配列番号1に示されている。
配列番号1:プレpro-ADMのアミノ酸配列:
1 MKLVSVALMY LGSLAFLGAD TARLDVASEF RKKWNKWALS RGKRELRMSS
51 SYPTGLADVK AGPAQTLIRP QDMKGASRSP EDSSPDAARI RVKRYRQSMN
101 NFQGLRSFGC RFGTCTVQKL AHQIYQFTDK DKDNVAPRSK ISPQGYGRRR
151 RRSLPEAGPG RTLVSSKPQA HGAPAPPSGS APHFL
【0115】
ADMはプレproADMアミノ酸配列の95~146位を含み、それらのスプライス生成物である。「プロアドレノメジュリン」(「proADM」)は、シグナル配列を有さないプレproADM(アミノ酸1~21)、すなわちプレproADMのアミノ酸残基22~185を指す。「中間領域プロアドレノメジュリン」(「MR-proADM」)は、プレ-proADMのアミノ酸42~95を指す。MR-proADMの例示的なアミノ酸配列は、配列番号2に示されている。
配列番号2:MR-pro-ADMのアミノ酸配列(プレpro-ADMのAS45~92):
ELRMSSSYPT GLADVKAGPA QTLIRPQDMK GASRSPEDSS PDAARIRV
【0116】
プレproADMまたはMRproADMのペプチドおよびその断片を本明細書に記載の方法に使用できることも本明細書では想定されている。例えば、ペプチドまたはその断片は、プレproADMのアミノ酸22~41(PAMPペプチド)、またはプレproADMのアミノ酸95~146(bio-ADMとしても知られている生物学的に活性な形態を含む、成熟アドレノメジュリン)を含み得る。proADMのC末端断片(プレproADMのアミノ酸153~185)はアドレノテンシンと呼ばれる。proADMペプチドの断片またはMR-proADMの断片は、例えば、少なくとも約5、10、20、30、またはそれ以上のアミノ酸を含み得る。したがって、proADMの断片は、例えば、MR-proADM、PAMP、アドレノテンシンおよび成熟アドレノメジュリンからなる群から選択することができ、好ましくは本明細書では断片はMR-proADMである。
【0117】
これらの様々な形態のADMまたはproADMおよびそれら断片の決定は、例えば、分子の特定の部分に指向された抗体または他の親和性試薬を用いることによって、あるいは質量分析を使用してタンパク質の一部分を測定することによる分子の存在および/または量を決定することによって、これらの分子の特定のサブ領域を測定および/または検出することも包含する。
【0118】
したがって、本発明の方法およびキットはまた、ADMに加えて、少なくとも1つのさらなるバイオマーカー、マーカー、臨床スコア、および/またはパラメータを決定することも含み得る。
【0119】
本明細書で使用される場合、パラメータは、特定のシステムを定義するのを助けることができる特性、特徴、または測定可能な要因である。パラメータは、疾患/障害/臨床状態リスク、好ましくは臓器機能障害(複数可)などの健康および生理学に関する評価にとって重要な要素である。さらに、パラメータは、正常な生物学的プロセス、病原性プロセス、または治療的介入に対する薬理学的反応の指標として客観的に測定および評価される特性として定義される。例示的なパラメータは、急性生理学および長期的健康評価II(APACHE II)、簡易急性生理学スコア(SAPSIIスコア)、連続的臓器不全評価スコア(sequential organ failure assessment score)(SOFA)、クイック連続的臓器不全評価スコア(qSOFAスコア)、肥満度指数、体重、年齢、性別、IGS II、水分摂取量、白血球数、ナトリウム、カリウム、体温、血圧、ドーパミン、ビリルビン、呼吸数、酸素分圧、世界脳神経外科連合(WFNS)評価、ならびにグラスゴーコーマスケール(GCS)からなるグループから選択することができる。
【0120】
本明細書で使用される場合、「マーカー」、「代理」、「予後診断マーカー」、「因子」、または「バイオマーカー」もしくは「生物学的マーカー」などの用語は、互換的に使用され、疾患/障害/臨床状態リスク、好ましくは有害事象などの健康および生理学に関連する評価の指標として機能する測定可能かつ定量化可能な生物学的マーカー(例えば、特定のタンパク質もしくは酵素濃度、もしくはその断片、特定のホルモン濃度もしくはその断片、または生物学的物質もしくはその断片の存在)に関する。マーカーまたはバイオマーカーは、正常な生物学的プロセス、病原性プロセス、または療法的介入に対する薬理学的反応の指標として客観的に測定および評価され得る特徴として定義される。バイオマーカーは、試料中で(血液、血漿、尿、または組織検査として)測定され得る。
【0121】
当該対象の少なくとも1つのさらなるマーカーおよび/またはパラメータは、当該試料中の乳酸のレベル、当該試料中のプロカルシトニン(PCT)のレベル、当該対象の連続的臓器不全評価スコア(SOFAスコア)、当該対象の簡易急性生理学スコア(SAPSII)、当該対象の急性生理学および長期的健康評価II(APACHE II)スコア、ならびに可溶性fms様チロシンキナーゼ-1(sFlt-1)、ヒストンH2A、ヒストンH2B、ヒストンH3、ヒストンH4、カルシトニン、エンドセリン-1(ET-1)、アルギニンバソプレシン(AVP)、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)、トロポニン、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、C反応性タンパク質(CRP)、膵臓結石タンパク質(PSP)、骨髄細胞に発現するトリガー受容体1(TREM1)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-1、インターロイキン-24(IL-24)、インターロイキン-22(IL-22)、インターロイキン(IL-20)、他のIL、プレセプシン(sCD14-ST)、リポ多糖結合タンパク質(LBP)、アルファ-1-アンチトリプシン、マトリックスメタロプロテアーゼ2(MMP2)、メタロプロテイナーゼ2(MMP8)、マトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP9)、マトリックスメタロプロテイナーゼ7(MMP7、胎盤増殖因子(PlGF)、クロモグラニンA、S100Aタンパク質、S100Bタンパク質および腫瘍壊死因子α(TNFα)、ネオプテリン、アルファ-1-アンチトリプシン、プロアルギニンバソプレシン(AVP、proAVP、またはコペプチン)、プロカルシトニン、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP、pro-ANP)、エンドセリン-1、E-セレクチン、ICAM-1、VCAM-1、IP-10、CCL1/TCA3、CCL11、CCL12/MCP-5、CCL13/MCP-4、CCL14、CCL15、CCL16、CCL17/TARC、CCL18、CCL19、CCL2/MCP-1、CCL20、CCL21、CCL22/MDC、CCL23、CCL24、CCL25、CCL26、CCL27、CCL28、CCL3、CCL3L3、CCL4、CCL4L1/LAG-1、CCL5、CCL6、CCL7、CCL8、CCL9、CX3CL1、CXCL1、CXCL10、CXCL11、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CXCL15、CXCL16、CXCL17、CXCL2/MIP-2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7/Ppbp、CXCL9、IL8/CXCL8、XCL1、XCL2、FAM19A1、FAM19A2、FAM19A3、FAM19A4、FAM19A5、CLCF1、CNTF、IL11、IL31、IL6、レプチン、LIF、OSM、IFNA1、IFNA10、IFNA13、IFNA14、IFNA2、IFNA4、IFNA7、IFNB1、IFNE、IFNG、IFNZ、IFNA8、IFNA5/IFNaG、IFNω/IFNW1、BAFF、4-1BBL、TNFSF8、CD40LG、CD70、CD95L/CD178、EDA-A1、TNFSF14、LTA/TNFB、LTB、TNFa、TNFSF10、TNFSF11、TNFSF12、TNFSF13、TNFSF15、TNFSF4、IL18、IL18BP、IL1A、IL1B、IL1F10、IL1F3/IL1RA、IL1F5、IL1F6、IL1F7、IL1F8、IL1RL2、IL1F9、IL33、またはそれら断片のレベルからなる群から選択され得る。
【0122】
本明細書で使用される場合、「プロカルシトニン」または「PCT」は、プロカルシトニンペプチドの、アミノ酸残基1~116、2~116、3~116、またはそれらの断片におよぶペプチドに関する。PCTは、カルシトニンホルモンのペプチド前駆体である。したがって、プロカルシトニン断片の長さは、少なくとも12アミノ酸、好ましくは50アミノ酸超、より好ましくは110アミノ酸超である。PCTは、グリコシル化、脂質化、または誘導体化などの翻訳後修飾を含み得る。プロカルシトニンは、カルシトニンおよびカタカルシンの前駆体である。したがって、通常の条件下では、循環中のPCTレベルは、非常に低い(約0.05ng/ml未満)。
【0123】
対象の試料中のPCTのレベルは、本明細書に記載されるようにイムノアッセイによって決定することができる。本明細書で使用される場合、「プロカルシトニン」または「PCT」をコードするリボ核酸またはデオキシリボ核酸のレベルも決定してもよい。PCTの決定のための方法は、例えば、Thermo Fisher Scientific/B・R・A・H・M・S GmbHから入手した製品を使用することにより、当業者に知られている。
【0124】
乳酸、または乳酸(lactic acid)は、血液を含む体液中に生じる、式CH3CH(OH)COOHを有する有機化合物である。乳酸の血液試験は、体内の酸塩基恒常性の状態を決定するために実施される。乳酸は、細胞が十分な酸素を欠いており(低酸素症)、エネルギー生成手段の効率を低下させる必要があると、または状態によって乳酸の過剰生成もしくはクリアランスの減少が生じると蓄積され得る細胞代謝生成物である。乳酸アシドーシスは、例えば、ショック、敗血症性ショック、またはうっ血性心不全など、細胞および組織に送達される酸素量の減少に至り得る状態を有する場合、細胞および組織の酸素量が不十分なこと(低酸素症)によって生じ得、乳酸試験を使用して、低酸素症および乳酸アシドーシスの重症度の検出および評価を助けることができる。
【0125】
C反応性タンパク質(CRP)は、五量体タンパク質であり、血漿などの体液に見ることができる。CRPレベルは、炎症に応答して上昇し得る。CRP値の測定およびチャート化は、疾患の進行または治療の有効性の決定に有用であることを実証することができる。
【0126】
本明細書で使用されるとき、「連続的臓器不全評価スコア」または「SOFAスコア」は、集中治療室(ICU)に滞在中の患者の状態を追跡するために使用される1つのスコアである。SOFAスコアは、人の臓器機能の程度または不全率を決定するためのスコアリングシステムである。スコアは、6つの異なるスコアに基づき、各1つが呼吸器系、心血管系、肝臓系、凝固系、腎臓系、および神経系に対する。平均および最高の両方のSOFAスコアが帰結の予測因子である。ICUにおける最初の24~48時間のSOFAスコアの増加により、少なくとも50%~最大95%の死亡率が予測される。9未満のスコアは33%で予測死亡率を与え、一方14を超えると95%に近いかまたは95%を超え得る。
【0127】
本明細書で使用される場合、「クイックSOFAスコア」(qSOFAスコア」)は、患者の臓器機能障害または死亡リスクを示すスコアリングシステムである。スコアは、3つの基準に基づく:1)精神状態の変化、2)100mm Hg未満の収縮期血圧の低下、3)毎分22呼吸を超える呼吸数。これらの状態のうちの2つ以上を有する患者は、臓器機能不全を有するか、死亡するリスクがより高い。
【0128】
本明細書で使用される場合、「APACHE II」または「急性生理学および慢性健康評価II」は、重症度分類の採点システムである(Knausら、1985)。それは、集中治療室(ICU)への患者の入室から24時間以内に適用することができ、AaDO2またはPaO2(FiO2に依存)、体温(直腸)、平均動脈圧、動脈pH、心拍数、呼吸数、ナトリウム(血清)、カリウム(血清)、クレアチニン、ヘマトクリット、白血球数、グラスゴーコーマスケールの、12種の異なる生理学的パラメータに基づいて決定することができる。
【0129】
本明細書で使用される場合、「SAPS II」または「単純化急性生理学スコアII」は、疾患または障害の重症度を分類するためのシステムに関する(Le Gall JR et al.,Anew Simplified Acute Physiology Score(SAPS II)based on a European/North American multicenter study.JAMA.1993;270(24):2957-63を参照されたい)。SAPS IIスコアは、12種の生理学的変数および3種の疾患関連変数で構成されている。ポイントスコアは、12種のありふれた生理学的測定値、以前の健康状態に関する情報、およびICUへの入室時に得られたいくつかの情報から計算される。SAPS IIスコアはいつでも、好ましくは2日目に決定することができる。「最悪の」測定値は、最高の点数に相関する尺度として定義される。SAPS IIスコアは、0~163点の範囲である。分類システムは、以下のパラメータ、年齢、心拍数、収縮期血圧、体温、グラスゴーコーマスケール、機械的換気またはCPAP、PaO2、FiO2、尿量、血中尿素窒素、ナトリウム、カリウム、重炭酸塩、ビリルビン、白血球、慢性疾患、および入室の種類を含む。死亡率と合計SAPS IIスコアとの間にはS字形相関がある。対象の死亡率は、29点のSAPSIIスコアで10%であり、死亡率は、40点のSAPSIIスコアで25%であり、死亡率は、52点のSAPSIIスコアで50%であり、死亡率は、64点のSAPSIIスコアで75%であり、死亡率は、77点のSAPSIIスコアで90%である(Le Gall loc.cit.)。
【0130】
本明細書で使用される場合、「試料」という用語は、患者または対象から得られるかあるいは単離される、生物学的試料である。「試料」は、本明細書で使用される場合、例えば、患者などの関心対象の分析、診断、予後診断、または評価の目的で得られた体液または組織の試料を指し得る。好ましくは、試料は、本明細書では、血液、血清、血漿、脳脊髄液、尿、唾液、痰、胸水、細胞、細胞抽出物、組織試料、組織生検、便試料などの体液の試料である。特に、試料は、血液、血漿、血清、または尿である。
【0131】
本発明の実施形態は、第1の試料の単離および第2の試料の単離について言及している。本発明の方法の文脈において、「第1の試料」および「第2の試料」という用語は、本発明の方法で用いられる試料の単離の順序の相対的な決定に関する。本方法を特定する際に第1の試料および第2の試料という用語が使用されるとき、これらの試料は、採取された試料の数の絶対的な決定としてみなされるものではない。したがって、第1および/もしくは第2の試料の単離前、最中または後に、または第1もしくは第2の試料間で、患者から追加の試料を単離してもよく、これらの追加の試料は、本発明の方法で使用されてもされなくてもよい。したがって、第1の試料は、以前に得た任意の試料と見なしてもよい。第2の試料は、任意のさらなる試料またはその後の試料と見なしてもよい。
【0132】
本発明の文脈における「血漿」は、遠心分離後に得られる抗凝固剤を含有する血液の実質的に無細胞の上清である。抗凝血剤の例には、EDTAまたはクエン酸塩などのカルシウムイオン結合化合物、およびヘパリン酸塩またはヒルジンなどのトロンビン阻害剤が含まれる。無細胞血漿は、抗凝固処理された血液(例えば、クエン酸塩処理された、EDTAまたはヘパリン処理された血液)を、例えば、2000~3000gで少なくとも15分間遠心分離することによって得ることができる。
【0133】
本発明の文脈における「血清」は、血液を凝固させた後に収集される全血の液体画分である。凝固した血液(血餅)が遠心分離されると、血清が上清として得られ得る。
【0134】
本明細書で使用される場合、「尿」は、排尿(または排尿)と呼ばれる過程を通して腎臓によって分泌され、尿道を通して排泄される体の液体生成物である。
【0135】
本発明の実施形態では、外傷関連合併症は、敗血症、重症敗血症、および/または敗血症性ショックであり得る。本発明の文脈における「敗血症」は、感染に対する全身性反応を指す。あるいは、敗血症は、SIRSと確認された感染プロセスまたは感染との組み合わせとして見られ得る。敗血症は、感染症および全身性炎症反応の両方の存在によって定義される臨床症候群として特徴付けられ得る(Levy MM et al.2001 SCCM/ESICM/ACCP/ATS/SIS International Sepsis Definitions Conference.Crit Care Med.2003 Apr;31(4):1250-6)。本明細書で使用する「敗血症」という用語は、敗血症、重度敗血症、および敗血症性ショックを含むが、これらに限定されない。
【0136】
本明細書で使用する「敗血症」という用語は、敗血症、重度敗血症、および敗血症性ショックを含むが、これらに限定されない。重症敗血症は、臓器機能障害、低灌流異常、または敗血症誘発性低血圧に関連する敗血症を指す。低灌流異常には、乳酸アシドーシス、乏尿症、および精神状態の急激な変化が含まれる。敗血症誘発性低血圧は、低血圧の他の原因(例えば、心原性ショック)が存在しない場合の、約90mm Hg未満の収縮期血圧の存在またはベースラインから約40mm Hg以上のその低減によって定義される。敗血症性ショックは、低灌流異常または臓器機能不全の存在と共に、適切な輸液蘇生法にもかかわらず持続する敗血症誘発性低血圧を伴う重症敗血症として定義される(Boneら、CHEST 101(6):1644-55、1992)。
【0137】
あるいは、敗血症という用語は、感染に対する調節機能障害の宿主の応答によって引き起こされる、生命を脅かす臓器の機能障害として定義することができる。臨床的操作主義では、臓器機能障害は、好ましくは連続的臓器不全評価(SOFA)スコアの2ポイント以上の増加によって表すことができ、10%超の院内死亡率に関連している。敗血症性ショックは、敗血症のサブセットとして定義され得、特に重度の循環器、細胞、および代謝の異常は、敗血症単独よりも高い死亡リスクに関連している。敗血症性ショックの患者は、血液量減少が存在しない場合の、65mm Hg以上の平均動脈圧および2mmol/L超(>18mg/dL)の血清乳酸レベルを維持するための昇圧剤の必要性によって臨床的に識別することができる。
【0138】
本明細書で使用される「敗血症」という用語は、敗血症の発症における全ての可能な段階に関する。「敗血症」という用語には、SEPSIS-2の定義に基づく重症敗血症または敗血症性ショックも含まれる(Bone et al.,2009)。「敗血症」という用語には、SEPSIS-3の定義内に入る対象も含まれる(Singer et al.,2016)。本明細書で使用される「敗血症」という用語は、敗血症の発症における全ての可能な段階に関する。
【0139】
本明細書で使用される場合、本発明の範囲内の「感染」は、病原性または潜在的に病原性の薬剤/病原体、生命体および/または微生物による、通常は無菌の組織または体液への侵入によって引き起こされる病理学的プロセスを意味し、好ましくは細菌、ウイルス、真菌、および/または寄生虫による感染(複数可)に関する。したがって、感染症は、細菌感染症、ウイルス感染症、および/または真菌感染症であり得る。感染症は、局所感染症または全身感染症であり得る。本発明の目的では、ウイルス感染は、微生物による感染と見なしてもよい。
【0140】
さらに、感染関連合併症は「院内」感染であり得る。院内感染(nosocomial infection)は院内感染(hospital-acquired infection、HAI)とも呼ばれ、病院またはその他の医療施設で感染する感染である。病院および病院以外の両方の設定を強調するために、代わりにヘルスケア関連感染症(HAIまたはHCAI)と呼ばれることもある。このような感染症は、病院、介護施設、リハビリ施設、外来診療所、またはその他の臨床現場で感染し得る。院内感染は、さまざまな手段によって、臨床現場で感染しやすい患者に伝播し得る。医療スタッフは、汚染された機器、ベッドリネン、または空気の飛沫に加えて、感染を広げる可能性がある。感染は、外部環境、別の感染した患者、感染している可能性のあるスタッフ、または場合によっては感染源を決定できないことが原因である可能性がある。場合によっては、微生物が患者自身の皮膚微生物叢から発生し、保護皮膚バリアを外す手術または他の処置の後に日和見感染になる。患者は自分の皮膚から感染症にかかった可能性があるが、感染症は医療現場で発症するため、院内感染とみなされる。
【0141】
さらに、感染症を患っている対象は、同時に2つ以上の感染源(複数可)を患っている可能性がある。例えば、感染を患っている対象は、細菌感染およびウイルス感染、ウイルス感染および真菌感染、細菌感染および真菌感染、ならびに細菌感染、真菌感染、およびウイルス感染を患っているか、あるいは潜在的な重複感染、例えば1つ以上のウイルス感染および/または1つ以上の真菌感染に加えて1つ以上の細菌感染を含む、本明細書に列挙されている感染のうちの1つ以上を含む混合感染を患っている場合がある。
【0142】
本明細書で使用される場合、「感染症」は、細菌および/またはウイルスおよび/または真菌感染に関連する全ての疾患または障害を含む。
【0143】
本発明によれば、多発外傷患者は、生命機能および/または臓器保護のモニタリングに関して非常に厳しい制御を必要とし得、医療的治療下にあり得る。
【0144】
本発明の文脈において、「医療的治療」または「治療」という用語は、限定されないが、抗炎症戦略、療法的抗体などのADM拮抗薬、si-RNAもしくはDNAの投与、体外血液浄化、またはアフェレーシス、透析、サイトカインストームを防ぐ吸着剤を介する有害物質の除去、炎症性メディエーターの除去、血漿アフェレーシス、ビタミンCなどのビタミンの投与、手術、緊急手術、身体に十分な酸素を提供するための機械的換気および非機械的換気のような換気、例えば、病巣洗浄手順、血液製剤の注輸、コロイドの注入、腎もしくは肝代替などの臓器置換、抗生物質治療、侵襲的機械的換気、非侵襲的機械的換気、昇圧剤使用、輸液療法、アフェレーシス、ならびに臓器保護のための措置を含む、様々な治療および療法的戦略を含む。
【0145】
本発明のさらなる治療は、例えば正常血液量に達するために、および血液量増加または血液量減少を防ぐかあるいは治療するために、幹細胞、血液、または血漿のような細胞または細胞製剤の投与、ならびに患者の循環の安定化、および例えば最適な輸液管理戦略を介した内皮性グリコカリクスの保護を含む。さらに、昇圧剤、または例えばカテコールアミン、ならびに未分画ヘパリンまたはN-脱硫酸化再-N-アセチル化ヘパリンを介したアルブミンまたはヘパラナーゼの阻害は、循環および内皮層をサポートするのに有用な治療である。
【0146】
加えて、本発明の医療的治療は、限定されないが、血液凝固の安定化、抗線溶治療、iNOS阻害剤、ヒドロコルチゾンのような抗炎症剤、鎮静剤および鎮痛剤、ならびにインスリンを含む。
【0147】
人工的および機械的換気は、適切な気体交換および換気を向上し、重症低酸素血症時の救命を目的とする効果的なアプローチである。人工的換気は、対象の呼吸を補助または刺激することに関する。人工的換気は、機械的換気、用手的換気、体外式膜型人工肺(ECMO)、および非侵襲的換気(NIV)からなる群から選択され得る。機械的換気は、自発呼吸を機械的に補助または代替する方法に関する。これは、ベンチレーターと呼ばれる機械を伴い得る。機械的換気は、高頻度振動換気または部分的液体換気であり得る。
【0148】
医療的治療は、温めた静脈内輸液および温風毛布の使用を含む、低体温症を回避する方法も含む。
【0149】
医療的治療はまた、出血制御、止血帯を伴うまたは伴わない出血制御技術、創傷洗浄、局所麻酔適用、皮膚接着ストリップ、組織接着剤、縫合糸、ステープルおよび創傷被覆材を使用できる創傷閉鎖技術を含む創傷管理を含む。
【0150】
「輸液管理」とは、対象の輸液状態のモニタリングおよび制御、ならびに、例えば経口、経腸または静脈内輸液投与による循環または臓器活力を安定化させるための輸液の投与を指す。これは、流体および電解質のバランスの安定化、または血液量増加もしくは血液量減少の予防または修正、ならびに血液製剤の供給を含む。
【0151】
対象が医療的緊急事態にあり、生存または健康状態の保全のために、即時手術的介入が必要とされ得る場合、手術的緊急事態/緊急手術が必要とされる。緊急手術を必要とする対象は、急性外傷、活動性の制御されない感染、臓器移植、臓器保護もしくは臓器安定化手術、または癌を患っている対象からなる群から選択され得る。
【0152】
洗浄手順は、対象の感染、特に院内感染を防ぐための衛生的な方法であり、例えば皮膚、病室の物体、医療デバイス、診断デバイス、または部屋の空気など、患者と接触し得るすべての有機および無機質表面の消毒を含む。洗浄手順には、マウスガード、ガウン、手袋、または衛生的ロックなどの防護服およびユニットの使用、ならびに患者の訪問制限のような対策が含まれる。さらに、洗浄手順は、患者自身、および衣服または患者の洗浄を含む。
【0153】
好ましい実施形態では、「医学的治療」または「治療」という用語は、静脈内抗生物質、経口抗生物質または局所抗生物質などの抗生物質治療を含む。
【0154】
多発外傷患者の場合、最適な療法および患者管理を見つけるために、外傷関連合併症の発生の予後診断およびリスク評価だけでなく、早期診断を行うことが非常に重要であり、このような患者は不安定であることが多く、合併症の場合には早期の療法的介入が必要となるためである。療法的アプローチは非常に個人的であり、症例ごとに異なる必要がある。療法的モニタリングは、ベストプラクティス療法に必要であり、治療のタイミング、併用療法の使用、および薬物投与の最適化によって影響される。誤ったまたは省略された療法または管理は、死亡率を時間単位で増加させるであろう。
【0155】
本発明の医療的治療は抗生物質治療であり得、本発明の方法により感染症が診断された場合、または予後が診断された場合に、1つ以上の「抗生物質」または「抗生剤」が投与され得る。本発明による抗生物質または抗生物質製剤はまた、診断された感染または敗血症を治療するために使用される抗真菌または抗ウイルス化合物を潜在的に包含する。病原体を分類別に分けると、任意の所与の感染の治療に一般的に適用される抗生物質製剤は以下のとおりである。
グラム陽性適用範囲:ペニシリン、(アンピシリン、アモキシシリン)、ペニシリナーゼ耐性、(ジクロキサシリン、オキサシリン)、セファロスポリン(第1世代および第2世代)、マクロライド(エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン)、キノロン(ガチフロキサシン、モキシフロキサシン、レボフロキサシン)、バンコマイシン、スルホンアミド/トリメトプリム、クリンダマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、リネゾリド、シネルシド。
【0156】
グラム陰性適用範囲:広範囲ペニシリン(チカルシリン、クラブラン酸、ピペラシリン、タゾバクタム)、セファロスポリン(第2、第3、および第4世代)、アミノグリコシド、マクロライド、アジスロマイシン、キノロン(シプロフロキサシン)、モノバクタム(アゼトレオナム)、スルホンアミド/トリメトプリム、カルバペネム(イミペネム)、クロラムフェニコール。
【0157】
Pseudomonas適用範囲:シプロフロキサシン、アミノグリコシド、一部の第3世代セファロスポリン、第4世代セファロスポリン、広範囲ペニシリン、カルバペネム。
【0158】
真菌治療:アリルアミン、アムホテリシンB、フルコナゾールおよび他のアゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾール、ポサコナゾール、ラブコナゾール、エキノカンジン、フルシトシン、ソルダリン(sordarin)、キチンシンターゼ阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、リポペプチド、プラジミシン、リポゾーム製剤ナイスタチン、ボリコナゾール、エキノカンジン、イミダゾール、トリアゾール、チアゾール、ポリエン。
【0159】
抗ウイルス治療:アバカビル、アシクロビル(Acyclovir)(アシクロビル(Aciclovir))、活性化カスパーゼオリゴマー化薬(oligomerizer)、アデホビル、アマンタジン、アンプレナビル(アゲネラーゼ(Agenerase))、アンプリゲン、アルビドール、アタザナビル、アトリプラ、バラビル(Balavir)、シドフォビル、コンビビル、ドルテグラビル、ダルナビル、デラビルジン、ジダノシン、二本鎖RNA、ドコサノール、エドクスジン、エファビレンツ、エムトリシタビン、エンフビルチド、エンテカビル、エコリエベル(Ecoliever)、ファムシクロビル、固定用量の組み合わせ(抗レトロウイルス)、ホミビルセン、ホスアンプレナビル、ホスカルネット、ホスホネット、融合阻害剤、ガンシクロビル、イバシタビン、イミノビル(Imunovir)、イドクスウリジン、イミキモド、インジナビル、イノシン、インテグラーゼ阻害剤、インターフェロンIII型、インターフェロンII型、インターフェロンI型、インターフェロン、ラミブジン、ロピナビル、ロビリデ、マラビロク、モロキシジン、メチサゾン、モルフォリノ、ネルフィナビル、ネビラピン、ネキサビル(Nexavir)、ニタゾキサニド、ヌクレオシド類似体、ノビル、オセルタミビル(タミフル)、ペグインターフェロンアルファ-2a、ペンシクロビル、ペラミビル、プレコナリル、ポドフィロトキシン、プロテアーゼ阻害剤(薬理学)、ラルテグラビル、逆転写酵素阻害剤、リバビリン、リボザイム、リファンピシン、リマンタジン、リトナビル、RNase H、プロテアーゼ阻害剤、ピラミジン、サキナビル、ソホスブビル、スタブジン、相乗的エンハンサー(抗レトロウイルス)、テラプレビル、テノホビル、テノホビルジソプロキシル、チプラナビル、トリフルリジン、トリジビル、トロマンタジン、トルバダ(Truvada)、バラシクロビル(バルトレックス)、バルガンシクロビル、ビクリビロク、ビダラビン、ビラミジン(Viramidine)、ザルシタビン、ザナミビル(リレンザ)、ジドブジン。
【0160】
さらに、抗生剤は、細菌感染の治療のためのバクテリオファージ、合成抗微生物ペプチド、または鉄拮抗薬/鉄キレート剤を含む。また、抗VAP抗体、抗耐性クローンワクチン接種、インビトロ刺激もしくは改変Tエフェクター細胞などの免疫細胞の投与のような、病原性構造に対する療法的抗体または拮抗薬は、敗血症患者などの重篤患者の治療オプションを表す抗生剤である。感染に対する、または新たな感染の予防のためのさらなる抗生物質製剤/治療または療法的戦略には、消毒薬、除染製品、リポソームのような抗ウイルス剤、衛生、創傷手当、手術の使用が含まれる。
【0161】
先述の抗生物質製剤または治療戦略のうちのいくつかを組み合わせることも可能である。
【0162】
本発明によれば、ADMおよび任意選択的にPCTおよび/または他のマーカーまたは臨床スコアが、多発外傷患者におけるその後の外傷関連合併症の診断、予後診断、予測、リスク評価および/またはリスク層別化のためのマーカーとして用いられる。
【0163】
当業者は、上記のADM分子、またはその断片もしくは変異体のうちのいずれか1つ、ならびに標準分子の生物学的実践に従った本発明の他のマーカーの識別、測定、決定、および/または定量化のための手段を得るかあるいは開発することが可能である。
【0164】
proADMまたはその断片のレベル、ならびに本発明の他のマーカーのレベルは、マーカーの濃度を信頼して決定する任意のアッセイによって決定することができる。特に、質量分析(MS)および/またはイムノアッセイを添付の実施例に例示されているように用いることができる。本明細書で使用される場合、イムノアッセイは、抗体もしくは抗体結合断片もしくは免疫グロブリンの使用を通して溶液中の巨大分子/ポリペプチドの存在または濃度を測定する生化学的試験である。
【0165】
本発明の文脈において使用されるADM、またはPCTなどの他のマーカーを決定する方法は、本発明において意図される。例として、質量分析法(MS)、発光イムノアッセイ(LIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、化学発光および蛍光イムノアッセイ、酵素イムノアッセイ(EIA)、酵素結合イムノアッセイ(ELISA)、発光ベースのビーズアレイ、磁気ビーズベースのアレイ、タンパク質マイクロアレイアッセイ、即時免疫クロマトグラフィーストリップ試験などの迅速試験フォーマット、希土類クリプテートアッセイ、ならびに自動化されたシステム/分析器からなる群から選択される方法を用いることができる。
【0166】
抗体認識に基づいたADMおよび任意選択的な他のマーカーの決定は、本発明の好ましい実施形態である。本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、免疫グロブリン分子および免疫グロブリン(Ig)分子の免疫学的に活性な部分、すなわち抗原と特異的に結合する(免疫反応する)抗原結合部位を含有する分子を指す。本発明によると、抗体は、モノクローナル抗体ならびにポリクローナル抗体であってもよい。特に、少なくともproADMまたはその断片に特異的に結合する抗体が使用される。
【0167】
目的の分子、例えばADMまたはその断片に対するその親和性が、目的の分子を含有する試料中に含まれる他の分子に対するよりも、少なくとも50倍高い、好ましくは100倍高い、最も好ましくは少なくとも1000倍高い場合、抗体は特異的であると見なされる。所与の特異性を有する抗体をどのように開発しそして選択するかは、当該技術分野において周知である。本発明の文脈において、モノクローナル抗体が好ましい。抗体または抗体結合断片は、本明細書に定義されたマーカーまたはその断片に特異的に結合する。特に、抗体または抗体結合断片は、本明細書で定義されたペプチドのADMに結合する。したがって、本明細書に定義されたペプチドはまた、抗体が特異的に結合するエピトープであり得る。さらに、本発明の方法およびキットでは、ADMまたはproADM、特にMR-proADMに特異的に結合する抗体または抗体結合断片が使用される。
【0168】
さらに、本発明の方法およびキットでは、proADMまたはその断片、および任意選択的にPCTなどの本発明の他のマーカーに特異的に結合する抗体または抗体結合断片が使用される。例示的なイムノアッセイは、発光イムノアッセイ(LIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、化学発光および蛍光イムノアッセイ、酵素イムノアッセイ(EIA)、酵素結合イムノアッセイ(ELISA)、発光ベースのビーズアレイ、磁気ビーズベースのアレイ、タンパク質マイクロアレイアッセイ、迅速試験フォーマット、希土類クリプテートアッセイであってもよい。さらに、ポイントオブケア試験および例えば免疫クロマトグラフィーストリップ試験などの迅速試験形式に好適なアッセイを用いることができる。KRYPTORアッセイなどの自動化されたイムノアッセイも、意図される。
【0169】
あるいは、抗体の代わりに、ADMを特異的および/または選択的に認識する他の捕捉分子または分子足場が、本発明の範囲に包含され得る。本明細書では、「捕捉分子」または「分子足場」という用語は、試料からの標的分子または目的の分子、すなわち分析物(例えば、ADM、proADM、MR-proADM、およびPCT)を結合するために使用され得る分子を含む。したがって、捕捉分子は、空間的にも、表面電荷、疎水性、親水性、ルイス供与体および/または受容体の存在または非存在などの表面の特徴に関しても適切に成形され、標的分子または目的の分子に特異的に結合する必要がある。これにより、結合は、例えば、イオン、ファンデルワールス力、パイ-パイ、シグマ-パイ、疎水性もしくは水素結合相互作用、または捕捉分子もしくは分子足場と標的分子もしくは目的の分子との間の先述の相互作用または共有結合性相互作用のうちの2つ以上の組み合わせによって媒介され得る。本発明の文脈において、捕捉分子または分子足場は、例えば、核酸分子、炭水化物分子、PNA分子、タンパク質、ペプチド、および糖タンパク質からなる群から選択され得る。捕捉分子または分子足場は、例えば、アプタマー、DARピン(Designed Ankyrin Repeat Protein)を含む。アフィマーなどが含まれる。
【0170】
本発明のある特定の態様では、方法は、
a)試料を
i.当該proADMの第1のエピトープに特異的な第1の抗体またはその抗原結合断片もしくは誘導体、および
ii.当該proADMの第2のエピトープに特異的な第2の抗体またはその抗原結合断片もしくは誘導体と接触させるステップと、
b)2つの抗体またはその抗原結合断片もしくは誘導体の、当該proADMへの結合を検出するステップと、を含む、イムノアッセイである。
【0171】
好ましくは、一方の抗体を標識し、他方の抗体を固相に結合させるか、または固相に選択的に結合させることができる。アッセイの特に好ましい態様では、抗体のうちの一方が標識される一方で、他方の抗体は、固相に結合されるか、または固相に選択的に結合され得るかのいずれかである。第1の抗体および第2の抗体が、液体反応混合物中に分散して存在し得、蛍光または化学発光消光または増幅に基づく標識系の一部である第1の標識成分が、第1の抗体に結合し、当該標識系の第2の標識成分が、第2の抗体に結合し、これにより、検出される両方の抗体の当該proADMまたはその断片への結合後、測定溶液中の得られたサンドイッチ複合体の検出を可能にする測定可能なシグナルが発生する。標識系は、希土類クリプテートまたはキレートを、特にシアニンタイプの蛍光または化学発光染料と組み合わせて含むことができる。
【0172】
好ましい実施形態では、この方法は異種サンドイッチイムノアッセイとして実施され、ここで抗体の1つは任意に選択された固相、例えば被覆試験管(例えばポリスチロール試験管;被覆管;CT)またはマイクロタイター上に固定される。他の抗体は、検出可能な標識に似ているかまたは標識への選択的結合を可能にする基を有し、そして形成されたサンドイッチ構造の検出に役立つ。適切な固相を用いた一時的な遅延またはその後の固定化も可能である。
【0173】
本発明による方法は、均質な方法としてさらに具体化することができ、検出される抗体/複数の抗体、およびマーカー、ADMまたはその断片によって形成されているサンドイッチ複合体が、液相中で懸濁されたままである。この場合、2つの抗体が使用されるとき、両方の抗体が検出系の一部で標識され、それが、両方の抗体が単一のサンドイッチに統合される場合にシグナルの発生またはシグナルの誘発をもたらすことが好ましい。そのような技術は、特に蛍光増強または蛍光消光検出方法として具体化されるべきである。特に好ましい態様は、例えば、US4882733、EP0180492、またはEP0539477、およびそれらで引用された従来技術に記載のものなど、対で使用される検出試薬の使用に関する。このようにして、反応混合物中の単一の免疫複合体中に直接両方の標識成分を含む反応生成物のみが検出される測定が可能になる。例えば、そのような技術は、上記で引用された出願の教示を実装する、商標名TRACE(登録商標)(Time Resolved Amplified Cryptate Emission)、またはKRYPTOR(登録商標)の下で提供されている。したがって、特に好ましい態様では、本明細書で提供される方法を実行するために診断デバイスが使用される。例えば、proADMもしくはその断片のレベル、および/またはPCTなど、本明細書で提供される方法の任意のさらなるマーカーのレベルが決定される。特に好ましい態様において、診断デバイスはKRYPTOR(登録商標)である。
【0174】
本発明のマーカー、例えばproADMもしくはその断片、PCTもしくはその断片、または他のマーカーのレベルは、質量分析(MS)に基づく方法によっても決定することができる。そのような方法は、当該生物学的試料または例えば当該試料からのタンパク質消化物(例えばトリプシン消化物)中の例えばADMまたはPCTのうちの1つ以上の修飾または未修飾断片ペプチドの存在、量または濃度を検出すること、ならびに任意選択的にクロマトグラフィー方法を用いて試料を分離し、調製され任意選択的に分離された試料にMS分析を施すことを含み得る。例えば、特にproADMまたはその断片の量を決定するために、選択反応モニタリング(SRM)、多重反応モニタリング(MRM)または並列反応モニタリング(PRM)質量分析をMS分析に使用することができる。
【0175】
本明細書において、「質量分析」または「MS」という用語は、化合物をそれらの質量によって同定するための分析技術を指す。質量分析の質量分解および質量決定能力を向上するために、試料は、MS分析前に処理され得る。したがって、本発明は、免疫濃縮技術、試料調製に関する方法および/またはクロマトグラフィー法、好ましくは液体クロマトグラフィー(LC)、より好ましくは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、もしくは超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)と組み合わせることができるMS検出法に関する。試料調製方法は、溶解、分画、ペプチドへの試料の消化、枯渇、濃縮、透析、脱塩、アルキル化、および/またはペプチド還元のための技術を含む。ただし、これらのステップは任意選択的である。分析物イオンの選択的検出は、タンデム質量分析(MS/MS)を用いて行うことができる。タンデム質量分析は、質量選択ステップ(本明細書で使用される場合、「質量選択」という用語は、特定のm/zまたは狭い範囲のm/zを有するイオンの単離を意味する)、続いて選択されたイオンの断片化、および得られた生成物(断片)イオンの質量分析によって特徴付けられる。
【0176】
当業者は、質量分析法によって試料中のマーカーのレベルをどのように定量化するかを知っている。例えば、相対定量化「rSRM」または絶対定量化を上記のように用いることができる。
【0177】
さらに、レベル(参照レベルを含む)は、相対的定量を決定する方法または目的のタンパク質もしくはその断片の絶対定量を決定する方法などの質量分析に基づく方法によって決定することができる。
【0178】
相対定量化「rSRM」は、以下によって達成され得る。
1.試料中で検出された所与の標的断片ペプチドからのSRM(選択反応モニタリング)シグネチャーピーク面積を、少なくとも第2、第3、第4、またはそれ以上の生体試料中の標的断片ペプチドの同じSRMシグネチャーピーク面積と比較することによって、標的タンパク質の増加または減少した存在を決定する。
【0179】
2.試料中に検出された所与の標的ペプチドからのSRMシグネチャーピーク面積と、異なる別々の生物学的供給源に由来する他の試料中の他のタンパク質からのフラグメントペプチドから生じたSRMシグネチャーピーク面積とを比較することによって標的タンパク質の存在の増減を決定する。ペプチドフラグメントについての2つの試料間のSRMサインピーク面積比較は、例えば各試料中で分析されたタンパク質の量に対して正規化される。
【0180】
3.ヒストンタンパク質のレベルの、様々な細胞条件下でそれらの発現レベルを変化させない他のタンパク質のレベルへの変化を正規化するために、所与の標的ペプチドについてのSRMシグネチャーピーク面積を、同じ生体試料内の異なるタンパク質に由来する他の断片ペプチドからのSRMシグネチャーピーク面積と比較することによって、標的タンパク質の増加または減少した存在を決定する。
【0181】
4.これらのアッセイは、非修飾断片ペプチドおよび標的タンパク質の修飾断片ペプチドの両方に適用することができ、修飾には、リン酸化および/またはグリコシル化、アセチル化、メチル化(モノ、ジ、トリ)、シトルリン化、ユビキチン化が含まれる。修飾ペプチドの相対レベルは、未修飾ペプチドの相対量を決定するのと同じ方法で決定される。
【0182】
所与のペプチドの絶対定量化は、以下によって達成され得る。
1.個々の生体試料中の標的タンパク質からの所与の断片ペプチドについてのSRM/MRMシグネチャーピーク面積を、生体試料からタンパク質溶解物中にスパイクされた内部断片ペプチド標準のSRM/MRMシグネチャーピーク面積と比較する。内部標準は、調べられている標的タンパク質からの断片ペプチドの標識合成バージョンまたは標識された組換えタンパク質であり得る。この標準は、消化前(組換えタンパク質にとって必須)または後に既知量で試料中にスパイクされ、生体試料中の内部断片ペプチド標準および天然断片ペプチドの両方について別個にSRM/MRMシグネチャーピーク面積が決定され得、両方のピーク面積の比較が後に続く。これは未修飾断片ペプチドおよび修飾断片ペプチドに適用することができ、ここで修飾はリン酸化および/またはグリコシル化、アセチル化、メチル化(例えばモノ、ジ、またはトリメチル化)、シトルリン化、ユビキチン化、ここで、修飾ペプチドの絶対レベルは、未修飾ペプチドの絶対レベルを決定するのと同じ方法で決定することができる。
【0183】
2.ペプチドはまた、外部較正曲線を使用して定量化され得る。正規曲線アプローチは、内部標準として一定量の重いペプチド、および試料中にスパイクされた様々な量の軽い合成ペプチドを使用する。マトリックス効果を説明するための標準曲線を構築するために、試験試料のものと同様の代表的なマトリックスが使用される必要がある。その上、逆曲線法は、マトリックス中の内因性分析物の問題を回避し、一定量の軽いペプチドは、内因性分析物の上にスパイクされて内部標準を作り出し、様々な量の重いペプチドは、スパイクされて一組の濃度標準を作り出す。正規曲線または逆曲線のいずれかと比較される試験試料は、較正曲線を作り出すために使用されるマトリックス中にスパイクされた内部標準と同じ量の標準ペプチドでスパイクされる。
【0184】
本発明はさらに、キット、キットの使用、およびそのようなキットが使用される方法に関する。本発明は、本明細書の上記および下記に提供される方法を実施するためのキットに関する。本明細書に提供される定義、例えば方法に関して提供される定義はまた、本発明のキットにも適用される。特に、本発明は、患者の健康におけるその後の有害事象の予後診断、リスク評価、またはリスク層別化を含む療法をモニタリングするためのキットであって、当該キットが、
-対象からの試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルを決定するための、ならびに任意選択的に加えてPCT、乳酸、および/またはC反応性タンパク質もしくはそれらの断片(複数可)のレベルを決定するための検出試薬と、当該対象の当該試料中のADMの当該レベルを決定するための検出試薬と、
-低重症度レベルが、4nmol/l未満、好ましくは3nmol/l未満、より好ましくは2.7nmol/l未満であり、高重症度レベルが、6.5nmol/l超、好ましくは6.95nmol/l超、より好ましくは10.9nmol/l超である、高および/または低重症度レベルのADM、ならびに任意選択的にPCT、乳酸、および/またはC反応性タンパク質レベルに対応する参照レベルなどの参照データであって、当該参照データが、好ましくはコンピュータ可読媒体に記憶され、かつ/あるいはproADMまたはその断片(複数可)の決定されたレベル、ならびに任意選択的に加えてPCT、乳酸、および/またはC反応性タンパク質もしくはそれらの断片(複数可)の決定されたレベルを当該参照データと比較するために構成されているコンピュータで実行可能なコードの形式で用いられる、参照データと、を含む、キットに関する。
【0185】
本明細書で使用される場合、「参照データ」は、ADMおよび任意選択的にPCT、乳酸、C反応性タンパク質、および/または例えば横紋筋融解症のマーカーなどの本明細書に開示される他の適切なマーカーの参照レベルを含む。対象の試料中のADM、ならびに任意選択的にPCT、乳酸、および/またはC反応性タンパク質などの他のマーカーのレベルは、キットの参照データに含まれる参照レベルと比較することができる。参照レベルは本明細書において上記に記載されており、添付の実施例においても例示されている。参照データはまた、ADM、および任意選択的にPCT、乳酸、および/またはC反応性タンパク質のレベルが比較される参照試料を含んでもよい。参照データはまた、本発明のキットの使用方法の取扱説明書を含み得る。
【0186】
キットは、血液試料などの試料を取得するのに有用なアイテムをさらに含むことができ、例えば、キットは、容器を含むことができ、ここで、該容器は、該容器を、例えば、あらかじめ決められた量の試料を該容器に引き込むのに適している、血液単離に適し、かつ気圧よりも低い内圧を示すシリンジであるカニューレもしくはシリンジに取り付けるためのデバイスを含み、ならびに/または界面活性剤、カオトロピック塩、リボヌクレアーゼ阻害剤、イソチオシアン酸グアニジニウム、塩酸グアニジニウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、RNAse阻害タンパク質およびそれらの混合物などのキレート剤と、ニトロセルロース、シリカマトリックス、強磁性球体、カップ回収スピルオーバー、トレハロース、フルクトース、ラクトース、マンノース、ポリエチレングリコール、グリセロール、EDTA、TRIS、リモネン、キシレン、ベンゾイル、フェノール、鉱油、アニリン、ピロール、クエン酸塩、およびそれらの混合物を含むフィルターシステムと、を追加的に含む。
【0187】
本明細書で使用される場合、「検出試薬」などは、本明細書に記載の、例えば、ADM、PCT、乳酸、および/またはC反応性タンパク質のマーカー(複数可)を決定するのに好適な試薬である。このような例示的な検出試薬は、例えば、本明細書に記載のマーカーのペプチドまたはエピトープに特異的に結合するリガンド、例えば抗体またはその断片である。そのようなリガンドは、上記のようにイムノアッセイに使用することができる。マーカー(複数可)のレベルを決定するためにイムノアッセイで用いられるさらなる試薬もキットに含まれ得、本明細書において検出試薬と見なされる。検出試薬はまた、MSに基づく方法によってマーカーまたはその断片を検出するために用いられる試薬にも関係し得る。したがって、そのような検出試薬はまた、MS分析のために試料を調製するために使用される試薬、例えば酵素、化学物質、緩衝剤などであり得る。質量分析計も検出試薬と見なすことができる。本発明による検出試薬はまた、例えば、マーカー(複数可)のレベルを決定および比較するために用いられ得る較正溶液(複数可)であり得る。
【0188】
診断試験および/または予後試験の感度および特異性は、試験の分析の「品質」だけに依存するのではなく、それらはまた、異常な結果を構成するものの定義にも依存する。実際には、受信者動作特性曲線(ROC曲線)は、典型的には、「正常」集団(すなわち、感染を有さない明らかに健康な個人)、および「疾患」集団、例えば感染を有する対象における、その相対頻度に対する変数の値をプロットすることによって計算される。(ADMのような)任意の特定のマーカーについて、疾患/状態の有無にかかわらず対象についてのマーカーレベルの分布は重複する可能性があるであろう。そのような条件下では、試験は、正常と疾患を100%の正確性で完全に区別することはなく、重複の領域は、試験が正常と疾患を区別できない場所を示している可能性がある。それより下では試験が異常であると見なされ、それより上では試験が正常であると見なされ、またはそれを下回るかあるいは上回ると試験が特定の条件、例えば感染を示す、閾値が選択される。ROC曲線の下の面積は、知覚された測定値が状態の正しい識別を可能にするであろう確率の尺度である。試験結果が必ずしも正確な数を与えない場合でも、ROC曲線を使用することができる。結果をランク付けできる限り、ROC曲線を作成することができる。例えば、「疾患」試料に関する試験の結果は、程度に応じてランク付けされ得る(例えば、1=低い、2=正常、および3=高い)。このランク付けは、「正常な」集団の結果と相関し得、ROC曲線が作成され得る。これらの方法は、当該技術分野において周知であり、例えば、Hanley et al.1982.Radiology 143:29-36を参照されたい。好ましくは、閾値は、約0.5より大きい、より好ましくは約0.7より大きい、さらにより好ましくは約0.8より大きい、さらにより好ましくは約0.85より大きい、最も好ましくは約0.9より大きいROC曲線面積を提供するように選択される。この文脈における「約」という用語は、所与の測定値の+/-5%を指す。
【0189】
ROC曲線の横軸は(1-特異性)を表し、これは偽陽性の割合と共に増加する。曲線の縦軸は、感度を表し、これは真陽性率と共に増加する。したがって、選択された特定のカットオフについて、(1-特異性)の値が決定され得、そして対応する感度が得られ得る。ROC曲線下面積は、測定されたマーカーレベルが疾患または状態の正確な識別を可能にするであろう確率の尺度である。したがって、ROC曲線下面積は試験の有効性を決定するために使用することができる。
【0190】
したがって、本発明は、本明細書に記載の方法によって得られた情報に基づいた治療に好適な抗生物質の投与を含む。
【0191】
本明細書で使用される場合、「備える」および「含む」という用語またはその文法的変化形は、述べられた特徴、整数、ステップ、または構成要素を特定するものとして解釈されるべきであるが、1つの以上の追加の特徴、整数、ステップ、構成要素、またはその群の追加を除外するものではない。この用語に、「からなる」および「から本質的になる」という用語を包含する。
【0192】
したがって、「含む」/「含む」/「有する」という用語は、任意のさらなる構成要素(または同様に特徴、整数、ステップなど)が存在し得ることを意味する。「からなる」という用語は、さらなる構成要素(または同様の特徴、整数、ステップなど)が存在しないことを意味する。
【0193】
「から本質的になる」という用語またはその文法的変化形は、本明細書で使用される場合、述べられた特徴、整数、ステップ、または構成要素を特定するものと解釈されるべきであるが、1つ以上の追加の特徴、整数、ステップ、構成要素、またはその群の追加を除外しないが、それらの追加の特徴、整数、ステップ、構成要素、またはその群が、特許請求されている組成物、デバイス、または方法の基本的で新規な特徴を実質的に変化させない場合のみである。
【0194】
したがって、「から本質的になる」という用語は、特定のさらなる成分(または同様に特徴、整数、ステップなど)が存在し得ること、すなわち組成物、デバイスまたは方法の本質的な特徴に実質的に影響を及ぼさないものを意味する。言い換えれば、「から本質的になる」という用語(本明細書では「実質的に含む」という用語と互換的に使用することができる)は、必須の構成要素(または同様の特徴)に加えて組成物、デバイスまたは方法における他の構成要素の存在を可能にする。ただし、デバイスまたは方法の本質的な特徴は他の構成要素の存在によって実質的に影響されない。
【0195】
「方法」という用語は、所与のタスクを達成するための方法、手段、技術および手順を指し、これらに限定されないが、化学、生物学および生物物理学的分野の専門家に知られているこれらの方法、手段、技術および技法を含むか、または既知の方法、手段、化学、生物学および生物物理学的分野の専門家による技術および手順から容易に開発されたこれらの方法、手段、技法および手順を含む。
【0196】
以下の非限定的な実施例を参照することにより本発明をさらに説明する。
【実施例0197】
方法の実施例:
研究デザインおよび患者:
以下は、統合された臨床転写学による重傷患者の予後診断性能の改善の二次分析である:2009年12月から2012年3月までの間に、University Hospital of Zurichの外傷外科(レベル1外傷センター)に入院した患者を対象に実施された、トランスレーショナルアプローチ研究[14]。患者の選択基準は、18歳以上、損傷重症度(ISS)スコアが17点以上、損傷から入院までの時間が6時間未満の患者を含んでいた。当初の研究デザインの詳細については、以前に記載されている[14]。
【0198】
血液試料の測定および臨床データの収集:
外傷患者からの血液試料は、外傷後最初の6時間以内(ベースライン)、およびその後1、2、3、5、7、10、14、24日目に採取した。院内感染、敗血症の発症、および非感染関連合併症を含む臨床転帰は、初期の外傷後最初の28日以内に記録された。全身性炎症は、American College of Chest Physicians/Society of Critical care Medicine Consensus Conferenc[15、16]の基準に従って定義された。全身性炎症スコア(SIスコア)[17]を使用して、外傷によって誘発された全身性炎症の重症度を評価した。外傷患者におけるその後の敗血症の発症は、感染性の焦点または陽性の血液培養が陽性の場合に、2つの連続する時点の間でSIスコアが2点以上増加したと定義された。逐次臓器不全評価(SOFA)スコアはすべての時点で計算した。
【0199】
プロカルシトニン(PCT)および中間領域プロアドレノメジュリン(MR-proADM)濃度を、検出限界0.05nmol/Lおよび0.02 ng/mlで遡及的に測定した(Kryptor(登録商標)、Thermo Fisher Scientific,Germany)。CRPおよび乳酸の濃度は局所的に測定した。
【0200】
統計分析:
患者の人口統計学的特性および臨床的特徴の差は、分布の正規性に応じて、カテゴリ変数についてはχ2検定を、連続変数についてはスチューデントt検定またはMann-Whitney U検定を使用して評価した。正規および非正規分布変数は、それぞれ平均(標準偏差)および中央値[第1四分位-第3四分位]と表した。各臨床スコア(SOFAおよびISS)とバイオマーカーとの関連は、ベースラインおよび1日目に評価した。ベースラインおよび入院の最初の7日間にわたる抗生物質投与の要件とともに、手術の総数およびそれらの期間を各々の場合に記録した。院内感染の存在が識別され、外科的感染または非外科的感染を分類した。
【0201】
その後、外傷後最初の28日間の敗血症発症または非感染関連合併症の可能性を評価するために、ベースラインおよび1日目のバイオマーカーおよび臨床スコア動態のモデルを作成した。両方の時点で、MR-proADM(1.54nmol/L未満)[SIDED]、PCT(0.5ng/mL未満)、乳酸(2.0mmol/L未満)[8]およびSOFA(5点未満)の事前に確立されたカットオフ値を使用した。結果として得られたオッズ比(OR)で、異なる患者サブグループ間の有害事象の可能性を評価した。
【0202】
実施例1:患者の特徴
患者の特徴を表1に要約する。
合計77人の患者が遡及的に分析できるバイオマーカー測定に使用できる試料を有しており、そのうち74.0%(N=57)は男性で、平均年齢は41.4(17.3)歳、28日死亡率は6.5%(N=5)であった。入院時のグラスゴー昏睡尺度(GCS)の平均スコアは12.3(4.0)点で、GCSが10点未満の患者は16人(20.8%)であった。すべての患者がICUに入院し、ICU滞在期間の中央値および入院期間全体は、それぞれ12[4-21]日および25[16-38]日であった。
【0203】
患者は、初期の外傷後の最初の28日間で平均4.3(2.7)例の手術を受けており、ベースラインで71例(92.2%)の患者に緊急手術が実施されていた。1日目にさらに20例の手術が実施され、そのうち16例(80.0%)は再手術であり、4例(20.0%)はベースラインに手術を受けていない患者に対するものであった。入院中にいかなる外科的介入も必要としなかった患者はわずか2人(2.6%)であった。手術の平均時間は116.2(92.0)分であった。
【0204】
例2:敗血症および非感染関連合併症の発症
合計44人(57.9%)の患者が、28日間にわたって非感染関連合併症を発症し、横紋筋融解症の発症が最も一般的な合併症であった(N=15、34.1%)。一方、48人(64.9%)の患者が院内感染を発症し、外科的感染および非外科的感染が、それぞれ19人(38.0%)および27人(54.0%)の症例を占めていた。非外科的人工呼吸器関連肺炎は12人(44.4%)の患者で発見された。院内感染を発症した48人の患者のうち、12人(24.0%)が敗血症を発症し、診断までの平均時間は9.5(4.7)日で、そのうち10人(83.3%)が敗血症性ショックに進行していた。敗血症の発症に関する患者の特徴を表1に示す。
【0205】
ベースラインに44人(57.1%)、ベースラインまたは1日目に45人(58.4%)、入院の最初の7日間に55人(71.4%)の患者に抗生物質を投与した。ベースラインまたは1日目に抗生物質を投与された45人の患者のうち、院内感染を発症した32人(71.1%)の患者とは対照的に、その後いかなる感染症も発症しなかった11人(24.4%)の患者で抗生物質を開始した。敗血症を発症した合計11人(91.7%)の患者に、治療の最初の7日以内に抗生物質を投与した。
【0206】
例3:ベースラインでのバイオマーカーと臨床スコアとの相関
入院時のバイオマーカーとSOFAスコアとの間に有意な相関関係はなかったが、乳酸、SOFA、MR-proADM、ISSスコア間には低いが有意な関連が見られた。SOFAおよび乳酸はベースラインでのICU滞在期間と最大の相関を有していたが、PCTまたはCRPのいずれとも有意な相関はなかった。興味深いことに、乳酸も患者の入院期間の全長と最も高い相関関係を有していた。
【0207】
例4:ベースラインおよび1日目の敗血症発症の予測
ベースライン(AUROC[95%CI]:0.71[0.56~0.86]、0.73[0.56~0.90])、および1日目(AUROC[95%CI]:0.85[0.76~0.94]、0.84[0.70~0.98])の両方で敗血症発症予測と有意に関連付けられていたのは、MR-proADMおよびSOFAの2つのパラメータのみであったが、いずれのパラメータも外傷後1日目には性能の改善を示した(表2)。
【0208】
非感染関連合併症の発症にも類似性が見られ、ベースラインと1日目の両方で有意な関連を示したのはMR-proADMおよび乳酸値の2つのパラメータだけであった。逆に、CRPはどちらの時点でも有意な関連を示さなかった(表3)。
【0209】
例5:敗血症および外傷関連合併症を予測する運動モデル
その後、28日以内に敗血症の発症を含む/除外するために、または同期間内に非感染関連合併症を発症するリスクが高い患者集団を識別するために、ベースラインおよび1日目の予測性能に従ってバイオマーカーおよび臨床スコアを識別した。
【0210】
例6:28日間にわたる敗血症の発症
その後、28日間にわたる外傷関連合併症の発症を予測するために、乳酸およびMR-proADMを調査した。敗血症を発症した患者とは対照的に、ベースラインから1日目までの乳酸レベルが2mmol/L未満であると、MR-proADMが継続的に低い場合(N=16、40.0%)と比較して、外傷関連合併症の数が低い(N=7、28.0%)ことを識別することができた。逆に、MR-proADM濃度の増加(14人の患者、合併症発生率87.5%)または継続的な上昇(8人の患者、合併症発生率88.9%)により、潜在的な合併症発症のリスクがあるサブグループを正確に識別することができた。
【0211】
実施例の考察
この遡及的な分析では、重度の多発外傷後の敗血症を早期に含めることまたは除外することにおける確立された新規のバイオマーカーと臨床スコアの性能とを比較した。敗血症の発症を含めるかまたは除外するために、継続的に低いMR-proADMまたは高いSOFAレベルを維持することは、それぞれ、感染症に起因する二次合併症に基づく特定の治療戦略の開発に役立つ可能性がある。
【0212】
【表1】
【0213】
【表2】
【0214】
【表3】
【0215】
【表4】
【0216】
参考文献
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【配列表】
2024091650000001.app
【手続補正書】
【提出日】2024-04-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多発外傷患者におけるその後の外傷関連合併症の診断、予後診断、予測、リスク評価、および/またはリスク層別化のための方法であって、
-前記患者の試料を提供することであって、前記試料が、前記多発外傷後に前記患者から単離されている、提供することと、
-前記試料中のproADMまたはその断片(複数可)のレベルを決定することと、を含み、
-前記proADMまたはその断片(複数可)のレベルが、その後の外傷関連合併症の可能性と相関する、方法。
【外国語明細書】