(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091661
(43)【公開日】2024-07-05
(54)【発明の名称】プロペラシャフト
(51)【国際特許分類】
B60K 17/22 20060101AFI20240628BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240628BHJP
F16C 33/80 20060101ALI20240628BHJP
F16J 15/447 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
B60K17/22 Z
F16C19/06
F16C33/80
F16J15/447
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024059845
(22)【出願日】2024-04-03
(62)【分割の表示】P 2021026516の分割
【原出願日】2021-02-22
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】市川 勝一
(72)【発明者】
【氏名】堤 大喜
(72)【発明者】
【氏名】増田 肇幸
(72)【発明者】
【氏名】石倉 健一郎
(57)【要約】
【課題】センターベアリングの内部に泥水等が侵入することをできるだけ抑制することが可能なプロペラシャフトを提供する
【解決手段】プロペラシャフト(ここではスタブ軸8)の押さえ環26の開放部側の位置に、押さえ環26の開放部に近接するように延びる開放部を備える遮水カバー30を設けた。これによれば、遮水カバー30をスタブ軸8の押さえ環26の開放部側の位置に固定し、遮水カバー30の開放部を押さえ環26の開放部に近接するように延ばしたので、押さえ環26の開放部側から斜め方向に泥水等が飛翔してきても、押さえ環26の開放部に泥水等が侵入する恐れが抑制され、結果としてセンターベアリング19の内部に泥水等が侵入する現象を生じ難くなる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源の駆動力を伝達するプロペラシャフトにおいて、
第1端部と第2端部とを有したシャフトと、
前記シャフトの外周面に固定された内輪と、前記内輪の外周に配置された転動体と、前記転動体の外周に配置された外輪とを有したセンターベアリングと、
前記シャフトの回転軸線に沿って前記シャフトの前記外周面を囲むように筒状に形成され、前記センターベアリングの前記外輪を保持する内環と、
前記シャフトの前記外周面と前記内環の内周面の間の環状隙間に配置され、前記シャフトの回転軸線で見て、前記内環の前記内周面に固定され、前記シャフトに沿って前記センターベアリングに向かう方向に延びる第1環状領域部と、前記第1環状領域部から続き前記シャフトに向かう方向に延びる第2環状領域部と、前記第2環状領域部から続き前記シャフトに沿って前記センターベアリングとは反対側に向かう方向に延びる第3環状領域部を有する押さえ環と、
前記押さえ環を境にして前記センターベアリングとは反対側の前記シャフトの前記外周面に配置され、前記シャフトの回転軸線で見て、前記シャフトの前記外周面に固定され、前記シャフトに沿って前記押さえ環に向かう方向に延びる第1カバー領域部と、前記第1カバー領域部から続き前記シャフトから遠ざかる方向に延びる第2カバー領域部と、前記第2カバー領域部から続き前記シャフトに沿って前記押さえ環に向かう方向に延びる第3カバー領域部を有するダストカバーと、
前記押さえ環と前記ダストカバーの組み合わせによって、前記押さえ環の前記第1環状領域部と前記第3環状領域部の間に、前記ダストカバーの前記第3カバー領域部が延出され、前記ダストカバーの前記第1カバー領域部と前記第3カバー領域部の間に、前記押さえ環の前記第3環状領域部が延出されると共に、
前記ダストカバーを境にして前記押さえ環とは反対側の前記シャフトの前記外周面に配置され、前記シャフトの回転軸線で見て、前記シャフトの前記外周面に固定され、前記シャフトに沿って延びる第1遮水領域部と、前記第1遮水領域部から続き前記シャフトから遠ざかる方向に延びる第2遮水領域部と、前記第2遮水領域部から続き前記シャフトに沿って前記ダストカバーに向かう方向に延び、前記ダストカバーの前記第2カバー領域部及び前記第3カバー領域部の一部を外側から覆う第3遮水領域部を有する遮水カバーと
を備えることを特徴とするプロペラシャフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のプロペラシャフトに係り、特にセンターベアリングを介して車体に支持されたプロペラシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体の下面に取り付けられて、プロペラシャフトに装着されるセンターベアリングを弾性的に支持するプロペラシャフトの支持装置として、例えば特開2016-124422号公報(特許文献1)に記載されているものが知られている。
【0003】
特許文献1のプロペラシャフトの支持装置は、断面が略U字形に屈曲した環状の弾性支持部材と、その外周端部に一体に加硫接着された外環と、弾性支持部材の内周部に一体に加硫接着され、センターベアリングの外輪に圧入される内環と、この内環の内側に嵌合されて一体化されると共に、センターベアリングの外輪が軸方向に移動するのを規制する押さえ環を備えている。
【0004】
そして、このセンターベアリング支持装置は、外環が車体の下側のブラケットに嵌着され、内環がプロペラシャフトの外周に取り付けられるセンターベアリングの外輪に嵌着されることによって、センターベアリングを車体の下側にゴム状弾性材料からなる弾性支持部材を介して弾性的に支持し、この弾性支持部材によって、走行中におけるプロペラシャフト側と車体側との間で振動吸収及び緩衝を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載のプロペラシャフトの支持装置は、内環の内周に固定された押さえ環の「U」字状の内部空間に、プロペラシャフト部と共に回転する押さえ環の内部側に延びるダストカバーの端面を挿入して、押さえ環の内部壁とダストカバーの端面との間でラビリンスシールを形成している。
【0007】
しかしながら特許文献1では、ラビリンスシールを形成しているものの、押さえ環の内部壁とダストカバーの端面部との間に隙間が形成されているため、その隙間に向かって飛翔してきた泥水等が、センターベアリングの内部に侵入する事象を生じる恐れがある。
【0008】
本発明の目的は、センターベアリングの内部に泥水等が侵入することをできるだけ抑制することが可能なプロペラシャフトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
動力源の駆動力を伝達するプロペラシャフトにおいて、
第1端部と第2端部とを有したシャフトと、
シャフトの外周面に固定された内輪と、内輪の外周に配置された転動体と、転動体の外周に配置された外輪とを有したセンターベアリングと、
シャフトの回転軸線に沿ってシャフトの外周面を囲むように筒状に形成され、センターベアリングの外輪を保持する内環と、
シャフトの外周面と内環の内周面の間の環状隙間に配置され、シャフトの回転軸線で見て、内環の内周面に固定され、シャフトに沿ってセンターベアリングに向かう方向に延びる第1環状領域部と、第1環状領域部から続きシャフトに向かう方向に延びる第2環状領域部と、第2環状領域部から続きシャフトに沿ってセンターベアリングとは反対側に向かう方向に延びる第3環状領域部を有する押さえ環と、
押さえ環を境にしてセンターベアリングとは反対側のシャフトの外周面に配置され、シャフトの回転軸線で見て、シャフトの外周面に固定され、シャフトに沿って押さえ環に向かう方向に延びる第1カバー領域部と、第1カバー領域部から続きシャフトから遠ざかる方向に延びる第2カバー領域部と、第2カバー領域部から続きシャフトに沿って押さえ環に向かう方向に延びる第3カバー領域部を有するダストカバーと、
押さえ環とダストカバーの組み合わせによって、押さえ環の第1環状領域部と第3環状領域部の間に、ダストカバーの第3カバー領域部が延出され、ダストカバーの第1カバー領域部と第3カバー領域部の間に、押さえ環の第3環状領域部が延出されると共に、
ダストカバーを境にして押さえ環とは反対側のシャフトの外周面に配置され、シャフトの回転軸線で見て、シャフトの外周面に固定され、シャフトに沿って延びる第1遮水領域部と、第1遮水領域部から続きシャフトから遠ざかる方向に延びる第2遮水領域部と、第2遮水領域部から続きシャフトに沿ってダストカバーに向かう方向に延び、ダストカバーの第2カバー領域部及び第3カバー領域部の一部を外側から覆う第3遮水領域部を有する遮水カバーとを備える
ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ダストカバーを挟むように、遮水カバーをスタブ軸の押さえ環の開放部側の位置に固定し、遮水カバーの開放部を押さえ環の開放部に近接するように延ばしたので、押さえ環の開放部側から斜め方向に泥水等が飛翔してきても、遮水カバーによって押さえ環の開放部に泥水等が侵入する恐れが抑制され、結果としてセンターベアリングの内部に泥水等が侵入する現象を生じ難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明が適用されるプロペラシャフトの外観を示す外観図である。
【
図2】
図1に示すプロペラシャフトの支持装置付近を拡大して断面した拡大断面図である。
【
図3】
図2に示すプロペラシャフトの支持装置付近を更に拡大して断面した拡大断面図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態になるプロペラシャフトの支持装置付近の断面図である。
【
図5】
図4に示すプロペラシャフトの支持装置付近を拡大して断面した拡大断面図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態になるプロペラシャフトの支持装置付近の断面図である。
【
図7】本発明の第3の実施形態になるプロペラシャフトの支持装置付近の断面図である。
【
図8】本発明の第4の実施形態になるプロペラシャフトの支持装置付近の断面図である。
【
図9】本発明の第5の実施形態になるプロペラシャフトの支持装置付近の断面図である。
【
図10】本発明の第6の実施形態になるプロペラシャフトの支持装置付近の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
【0013】
先ず、本発明を説明する前に、本発明の基礎となるプロペラシャフトの構成について
図1~
図3を用いて説明する。以下に説明するプロペラシャフトは、本出願人が既に提案しているものである。
【0014】
図1に示すように、本発明が適用されるプロペラシャフトは、四輪駆動やフロントエンジンリアドライブの駆動方式を用いる自動車に適用され、内燃機関等の動力源に結合されたトランスミッションに接続されるドライブシャフト1と、デファレンシャルギアに接続されるドリブンシャフト2と、ドライブシャフト1とドリブンシャフト2とを接続する等速ジョイント3と、ドライブシャフト1の等速ジョイント3側に設けられて、自動車のフロア部材である、例えば、クロスメンバ4の下部に固定された支持装置5とから主として構成されている。
【0015】
ドライブシャフト1は、鋼管製の駆動側チューブ6と、駆動側チューブ6の前端部に溶接によって軸方向から固定されたカルダンジョイント7と、駆動側チューブ6の後端部に溶接によって軸方向から固定されたスタブ軸8とから構成されている。
【0016】
ドリブンシャフト2は、鋼管製の従動側チューブ9と、従動側チューブ9の前端部に溶接によって軸方向から固定され、内部に前記スタブ軸8の端部が挿通される等速ジョイントケーシング10と、従動側チューブ9の後端部に溶接によって軸方向から固定されたカルダンジョイント11とから主として構成されている。
【0017】
スタブ軸8は、
図2及び
図3に示すように、鉄系金属によって段差径状に形成され、駆動側チューブ6の後端部に固定されたスタブ大径部8aから軸方向へ漸次小径に形成されたスタブ中径部8b及びスタブ小径部8cを有している。
【0018】
また、スタブ大径部8aとスタブ中径部8bとの間には、スタブ大径部8aより小径であって、且つスタブ中径部8bより大径に形成されたスタブ第2大径段部8dが形成され、このスタブ第2大径段部8dと前記スタブ中径部8bとの間に前記スタブ第2大径段部8dより小径であって、且つスタブ中径部8bより大径に形成されたスタブ中径段部8eとから主として構成され、スタブ中径段部8eとスタブ中径部8bとの間には、段差面8fが形成されている。また、スタブ小径部8cは、延出された先端部の外周に、等速ジョイント3の後述するインナーレース12が固定されている。
【0019】
図2示すように、等速ジョイント3は、ドリブンシャフト2の前端部に固定され、ほぼ円筒状に形成されたアウターレースである等速ジョイントケーシング10と、等速ジョイントケーシング10の内周側に配置された前記インナーレース12と、等速ジョイントケーシング10とインナーレース12との間に転動自在に設けられた複数のトルク伝達ボール13と、このトルク伝達ボール13を保持するケージ14とから主として構成されている。
【0020】
図2に示すように、等速ジョイントケーシング10は、内周側に軸方向にわたって形成された複数の溝部10aが周方向のほぼ等間隔位置に形成され、この等速ジョイントケーシング10の内周側と対向するインナーレース12の外周側には、軸方向にわたって形成された複数の凹部12aが溝部10aに対応して周方向にわたってほぼ等間隔位置に形成されている。
【0021】
また、等速ジョイント3の内部にグリース等の潤滑油が充填されており、等速ジョイントケーシング10の前端側に、この等速ジョイントケーシング10の内部を封止するゴム製のブーツ15が取り付けられている。
【0022】
ブーツ15は、ゴム材によって、段差径状の円筒状に形成され、等速ジョイントケーシング10の先端部の外周に嵌着された本体部15aと、この本体部15aの先端部15bから内周側へほぼ折り返し状に折曲形成され、スタブ軸8のスタブ小径部8cの外周に先端が嵌着された折り返し部15cとから構成されている。また、本体部15aの内部に芯材15dが埋設されている。
【0023】
図2、
図3に示すように、支持装置5は、車体のクロスメンバ4に取り付けられる環状部材である取付ブラケット16と、この取付ブラケット16の内側に固定された弾性部材17と、この弾性部材17の内周側に固定された支持部材である金属製の内環18と、この内環18の内部に保持されたセンターベアリング19とから主として構成されている。
【0024】
内環18は、シャフトを構成するスタブ軸8の回転軸線に沿ってスタブ軸8の外周側を囲む筒状に形成されている。つまり、スタブ軸8は内環18の内部を挿通し、内環18の内周面とスタブ軸8の外周面の間に環状隙間を形成している。この環状隙間にセンターベアリング19、押さえ環26が収納されている。
【0025】
弾性部材17は、ゴム材によって車体前方側に開口する形で縦断面が横U字形状に形成され、外周面が取付ブラケット16の内周面に圧入固定された金属製の円環状圧入固定部20の内周面に加硫接着されると共に、内周面が内環18の外周面に加硫接着されている。
【0026】
内環18は、薄肉な金属板を段差径状の円筒状に形成され、スタブ軸8のスタブ中径段部8eの外周側に形成された大径環状部18aと、この大径環状部18aより連続的に形成され、スタブ中径部8bの外周側に設けられた中径環状部18bと、この中径環状部18bに連続的に形成された小径環状部18cとから構成されている。
【0027】
センターベアリング19は、スタブ軸8のスタブ中径部8bの外周に圧入された内輪21と、内環18の中径環状部18bの内周に保持された外輪22と、内輪21と外輪22との対向面の中央に形成された円弧状の保持溝の間に転動自在に保持された複数の鋼製ボール23とを備えている。また、内輪21と外輪22の幅方向の両端部に円環状のオイルシール24、25が取り付けられている。
【0028】
内環18の大径環状部18aの内周側には、車体前方側に開口する押さえ環26が圧入固定されている。一方、押さえ環26の車体前方側に位置するスタブ軸8のスタブ第2大径段部8dに圧入固定され、押さえ環26の開口された内部に他端部が延出するダストカバー27が設けられている。また、押さえ環26の内周面とスタブ中径段部8eの外周面との間にゴム材で円環状に形成され、内部に芯材が埋設された環状シール部材28が設けられている。
【0029】
したがって、押さえ環26がダストカバー27の他端部を包囲する形で配置されて、スタブ軸8のスタブ中径段部8eの外周面への泥水等の浸入経路が複雑化されることによって、いわゆるラビリンスシールが形成され、スタブ軸8のスタブ中径段部8eの外周面への泥水などの浸入を抑制している。更に押さえ環26の内周面とスタブ中径段部8eの外周面との間に環状シール部材28が配置されていることによって、車両前方から前記センターベアリング19の内部への泥水等の浸入を防止している。
【0030】
そして、スタブ軸8のスタブ中径部8bの外周に圧入され、センターベアリング19を軸方向に位置決め固定する保持部材29が設けられている。保持部材29は、
図3に示すように、薄肉な金属板をプレス成形によって断面ほぼコ字形状に折曲形成され、スタブ中径部8bの外周面に圧入された一端部29aと、この一端部29aの後端縁から径方向へ延びて前記センターベアリング19の方向へ折り返し状に折曲された他端部29bとから構成されている。
【0031】
一端部29aは、ほぼ円筒状に形成され、センターベアリング19側の先端部位2
9cが拡径状に折り曲げ形成されていると共に、この先端部位29cの先端縁29dがセンターベアリング19の内輪21の一側面21aに軸方向から当接してこの内輪21を段差面8fと共同して狭持状態に保持している。したがって、センターベアリング19の内輪21が軸方向に固定されるため、全体を強固に保持することができる。
【0032】
他端部29bは、径方向の外側へ折り曲げした折曲部位29eと、この折曲部位29eの外周縁からセンターベアリング19の外輪22方向に延出した円筒部位29fとから構成されて、折曲部位29eと円筒部位29fとによって内環18の小径部18cを包囲して前記センターベアリング19の内部を遮蔽するようになっている。
【0033】
つまり、保持部材29は、他端部29bが内環18の小径環状部18cの外周を包囲することによって、センターベアリング19の内部への浸入経路が複雑化されて、いわゆるラビリンスシールが形成されている。これにより、内環18の車体後方側からセンターベアリング19内部への泥水などの浸入を防止することができる。
【0034】
尚、ラビリンスシールによって車体後方側からの泥水の浸入を防止することができるため、内環18の小径環状部18cと保持部29bとの間に、センターベアリング19内部への泥水などの浸入を防止する環状シール部材を廃止することもできる。
【0035】
このような構成のプロペラシャフトにおいては、押さえ環26がダストカバー27の他端部を包囲する形で配置されて、ラビリンスシールが形成されているものの、押さえ環26の内部壁とダストカバー27の他端部との間に隙間が形成されているため、その隙間に向かって飛翔してきた泥水等が、センターベアリング19の内部に侵入する事象を生じる恐れを有している。
【0036】
つまり、
図2の押さえ環26の開放部側に斜め方向に泥水等が速度を有して飛翔してくると、押さえ環26の内部壁とダストカバー27の他端部との間に形成された隙間から泥水等がセンターベアリングの内部に侵入する現象を生じる。
【実施例0037】
そこで、本実施形態では、プロペラシャフト、ここではスタブ軸の押さえ環の開放部側でダストカバーを挟んだ位置に、押さえ環の開放部に近接するように延びる開放部を備える遮水カバーを設けたことを特徴としている。
【0038】
このように、遮水カバーをスタブ軸の押さえ環の開放部側の位置に固定し、遮水カバーの開放部を押さえ環の開放部に接触しない程度に近接するように延ばしたので、押さえ環の開放部側に斜め方向に泥水等が飛翔してきても、遮水カバーによって押さえ環の開放部から泥水等が侵入する恐れが抑制され、結果としてセンターベアリングの内部に泥水等が侵入する現象を生じ難くなる。
【0039】
以下、本発明の第1の実施形態について、
図4及び
図5を用いて詳細に説明する。尚、
図面においては、本実施形態に密接に関係する部分について参照番号を付しており、これ以外の本実施形態に密接に関係しない部分については参照番号を付していない。これらについては
図2及び
図3の記載を参照されたい。ここで、
図4はプロペラシャフトの支持部の構成を示し、
図5はその拡大部分を示している。
【0040】
図4及び
図5において、スタブ軸8の回転軸線に平行な面で断面したとき、押さえ環26は、3つの領域部、すなわち第1環状領域部26a、第1環状領域部26aから続く第2環状領域部26b、及び第2環状領域部26bから続く第3環状領域部26cから形成されている。
【0041】
第1環状領域部26aは、内環18の大径環状部18aに圧入、固定されており、第2環状領域部26bは、スタブ軸8の側に近づくように延び、センターベアリング19の外輪23が、図面で左側、つまりダストカバー27側に移動しないように規制し、更に第3環状領域部26cは、センターベアリング19とは反対側に延びて、環状シール部材28が径方向、及び軸方向に移動するのを規制している。
【0042】
ここで、第1環状領域部26a、第2環状領域部26b、及び第3環状領域部26cは、断面が略「U」字状に形成され、スタブ軸8の回転軸線に沿って、第1環状領域部26aと第3環状領域部26cによって開放部が形成されている。そして、第1環状領域部26aと第3環状領域部26cは、センターベアリング19とは反対側に向かって延びている。
【0043】
また、ダストカバー27は、3つの領域部、すなわち第1カバー領域部27a、第1カバー領域部27aから続く第2カバー領域部27b、及び第2カバー領域部27bから続く第3カバー領域部27cから形成されている。ダストカバー27は、押さえ環26を境にしてセンターベアリング19とは反対側に配置されている。
【0044】
第1カバー領域部27aは、スタブ軸8のスタブ第2大径段部8dに圧入、固定されており、第2カバー領域部27bは、スタブ軸8の回転軸線に対して径方向で外側に向かって延び、更に第3カバー領域部27cは、径方向でスタブ軸8の回転軸線から離れる方向に、徐々に拡開(外径が徐々に大きくなる)するように形成されている。
【0045】
ここで、第1カバー領域部27a、第2カバー領域部27b、及び第3カバー領域部27cは、断面が略「U」字状に形成され、スタブ軸8の回転軸線に沿って、第1カバー領域部27aと第3カバー領域部27cによって開放部が形成されている。そして、第1カバー領域部27aと第3カバー領域部27cは、センターベアリング19の側に向かって延びている。
【0046】
したがって、
図4に示すように、押さえ環26とダストカバー27とは互いの開放部が向き合い、それぞれの開放部の空間内に、第3環状領域部26cと第3カバー領域部27cが延出される構成となる。
【0047】
すなわち、押さえ環26の開放部(第1環状領域部26aと第3環状領域部26cによって形成されている)と、ダストカバー27の開放部(第1カバー領域部27aと第3カバー領域部27cによって形成されている)とが、互いに向き合うように配置されている。
【0048】
そして、押さえ環26とダストカバー27を組み合わせることによって、ダストカバー27の第3カバー領域部27cが、押さえ環26の開放部を形成する第1環状領域部26aと第3環状領域部26cの間の空間に延びている。これによって、押さえ環26の第2環状領域部26bとダストカバー27の第3カバー領域部27cの先端27tの間でラビリンスが形成されることになる。
【0049】
同様に、押さえ環26の第3環状領域部26cが、ダストカバー27の開放部を形成する第1カバー領域部27aと第3カバー領域部27cの間の空間に延びている。これによって、ダストカバー27の第2カバー領域部27bと押さえ環26の第3環状領域部26cの先端26tの間でラビリンスが形成されることになる。
【0050】
ここで、上述したようにダストカバー27の第1カバー領域部27aは、
図2に示すものに比べて、押さえ環26の側に折り曲げられてスタブ軸8に固定されている。これによって、回転軸線方向の長さを短くすることができる。
【0051】
また、
図5に示すように、ダストカバー27の第3カバー領域部27cの先端27tの付近は、回転軸線に直交する径方向で外側に向かって折り曲げられており、第3カバー領域部27cを流れる泥水が方向転換して、押さえ環26の第2環状領域部26bとダストカバー27の第3カバー領域部27cの先端27tの隙間に流れるのを抑制している。
【0052】
同様に、押さえ環26の第3環状領域部26cの先端26tの付近は、回転軸線に直交する径方向で外側に向かって折り曲げられており、第3環状領域部26cを流れる泥水が方向転換して、ダストカバー27の第2カバー領域部27bと押さえ環26の第3環状領域部26cの先端26tの隙間に流れるのを抑制している。
【0053】
次に、本実施形態の特徴である遮水カバー30について説明する。遮水カバー30は、
ダストカバー27を境にして押さえ環26とは反対側で、ダストカバー27を挟む位置でスタブ軸8に固定されている。この遮水ダストカバー30は、3つの領域部、すなわち第1遮水領域部30a、第1遮水領域部30aから続く第2遮水領域部30b、及び第2遮水領域部30bから続く第3遮水領域部30cから形成されている。
【0054】
第1遮水領域部30aは、スタブ軸8のスタブ第1大径段部8gに固定されており、第2遮水領域部30bは、スタブ軸8の回転軸線に対して径方向で外側に向かって延び、更に第3遮水領域部30cは、径方向でスタブ軸8の回転軸線から離れる方向に、徐々に拡開(外径が徐々に大きくなる)するように形成されている。
【0055】
ここで、第3遮水領域部30cとスタブ軸8の外表面によって開放部が形成されている。そして、この開放部にダストカバー27の第2カバー領域部27bと、第3カバー領域部27Cの一部が、回転軸線の方向で重なる状態で収納され、結果として第3遮水領域部30cは、ダストカバー27の第2カバー領域部27bと、第3カバー領域部27Cの一部を外側から覆う形態とされている。
【0056】
更に、
図5に示すように、スタブ軸8の回転軸線に直交する方向で見て、第3遮水領域部30cは、ダストカバー27の第3カバー領域部27cの外側に位置し、しかも、第3遮水領域部30cの端面は、押さえ環26の第1環状領域部26aの端面に近接し、隙間(g)を介して対向している。
【0057】
したがって、スタブ軸8の回転軸線でみて、第3遮水領域部30cは、第3カバー領域部27cと重なり合っている。尚、この隙間(g)は、ダストカバー27の第3カバー領域部27cの先端27tと押さえ環26の第2環状領域部26bによって形成される隙間(G)より短く決定されている。ここで、
図5からわかるように、ダストカバー27は、押さえ環26と遮水カバー30の両方で外側から覆われている。
【0058】
更に、隙間(g)は、遮水カバー30の第3遮水領域部30cの軸方向長さ(Ls)より短い長さに決められている。これによって、ダストカバー27を覆う共に、泥水の侵入経路の面積を小さくでき、押さえ環26の開放部から泥水が侵入する恐れを軽減できる。
【0059】
このように、遮水カバー30は、ダストカバー27を外側から覆うように配置されているため、押さえ環26の開放部側に向けて斜め方向に泥水等が飛翔してきても、遮水カバー30によって押さえ環26の開放部から泥水等が侵入する恐れが抑制され、結果として、センターベアリングの内部に泥水等が侵入する現象を生じ難くさせることができる。
【0060】
次に、本実施形態の他の特徴的な構成について、
図5を用いて説明を加える。
【0061】
まず、スタブ軸8の回転軸線方向で見て、遮水カバー30の第3遮水領域部30cにおいて、第3カバー領域部27cと重なり合う第3遮水領域部30cの最大外径(Ds)が、内環18の大径環状部18aの最大外径(Dr)と同等、若しくは小さい、言い換えれば、内環18の大径環状部18aの最大外径(Dr)を超えない長さに決められている。これによってスタブ軸8を駆動側チューブ6と溶接するとき遮水カバー30が邪魔になることがない。
【0062】
また、スタブ軸8の回転軸線方向で見て、遮水カバー30の第3遮水領域部30cにおいて、第3遮水領域部30cの最大外径(Ds)が、内環18の大径環状部18aの最大外径(Dr)より小さく、ダストカバー26の最大外径(Dd)よりも大きく決められている。これによって、泥水の侵入を抑制することができる。
【0063】
また、スタブ軸8の回転軸線方向で見て、遮水カバー30の第3遮水領域部30cにおいて、センターベアリング19に近づくにつれて、外径が徐々に大きくなるように決められている。これによって、泥水が遮水カバー30内に侵入した際に、遠心力によって泥水を排出し易くしている。
【0064】
更に、同様の理由で、スタブ軸8の回転軸線方向で見て、ダストカバー27の第3カバー領域部27cにおいて、センターベアリング19に近づくにつれて、外径が徐々に大きくなるように決められている。
【0065】
また、ダストカバー27の第3カバー領域部27cには、スタブ軸8の回転軸線に直交する径方向の外側に向かって延びる(外側に反り返る)先端部27tが新たに形成されている。第3環状領域部26cを流れる泥水が方向転換して、押さえ環26の第2環状領域部26bとダストカバー27の第3カバー領域部27cの先端27tの隙間に流れるのを抑制している。
【0066】
また、遮水カバー30は、第1遮水領域部30aがダストカバー27とは反対側に延びて、スタブ軸8に固定され、第3遮水領域部30cがダストカバー27の側に延びて、断面形状が、図面において略逆「Z」字状の形態とされている。少ない材料で、遮水カバー30の第3遮水領域部30cがダストカバー27の第3カバー領域部27cと重ね合わせることができる。
【0067】
また、ダストカバー27において、第1カバー領域部27aはスタブ軸8に固定されているが、第1カバー領域部27aと第3カバー領域部27cは、押さえ環26の方に向けて延びており、断面形状が略「U」字状の形態とされている。これによってスタブ軸8の軸方向長さを短縮できる。
【0068】
また、スタブ軸8には、遮水カバー30の装着時に遮水カバー30の径方向の面と突き当たる段部が、スタブ軸8のスタブ第1大径段部8gによって半径方向に延びるように設けられている。これによって、遮水カバー30を確実に位置決めして固定することができる。
【0069】
また、スタブ軸8においては、スタブ第1大径段部8gと、これより小径のスタブ第2大径段部8dとが形成され、スタブ第1大径段部8gには、遮水カバー30が固定され、スタブ第2大径段部8dには、ダストカバー27が固定されている。そして、スタブ第1大径段部8gとスタブ第2大径段部8dの間には段部が形成されているので、ダストカバー27を確実に位置決めして固定することができる。
【0070】
また、押さえ環26においては、第3環状領域部26cによって、スタブ軸8の外周に配置された環状シール部材28を径方向に押し付けることによって、管状シール部材28が移動するのを規制し、また、シール性を向上している。
そして、押さえ環26の開放部側に向けて斜め方向に泥水等が飛翔してきても、遮水カバー31の第3遮水領域部31cの先端部31tによって、泥水は径方向に移動方向を変更される。これによって、押さえ環26の開放部から泥水等が侵入する恐れが抑制され、結果として、センターベアリングの内部に泥水等が侵入する現象を生じ難くさせることができる。