(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009167
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
B25J 13/08 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
B25J13/08 Z
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023197630
(22)【出願日】2023-11-21
(62)【分割の表示】P 2022540282の分割
【原出願日】2021-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2020130055
(32)【優先日】2020-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】山岡 宣章
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴之
(57)【要約】
【課題】生産時の力制御において、ロボットの発振や作業の失敗を起こすことのない最適な力制御パラメータを自動調整可能にすること。
【解決手段】ワークを把持するハンドを先端に有するロボットアームと、ハンドに把持されたワークが受ける力及びモーメントを検出する力検出器と、所定の力制御パラメータ及び力検出器の検出値に基づいて、ワークの位置誤差及び姿勢誤差を修正するようにロボットアームの力制御を行いながら、ハンドに把持されたワークを目標対象物に対して移動させる制御装置と、を備え、制御装置は、目標対象物に対するワークの移動を複数回実行することによって、力制御パラメータを自動調整するパラメータ自動調整部を有し、パラメータ自動調整部は、目標対象物に対するワークの移動を、複数の位置誤差方向及び複数の姿勢誤差方向のうちの少なくとも複数の姿勢誤差方向から実行することによって、力制御パラメータを自動調整する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを把持するハンドを先端に有するロボットアームと、
前記ハンドに把持された前記ワークが受ける力及びモーメントを検出する力検出器と、
所定の力制御パラメータ及び前記力検出器の検出値に基づいて、前記ワークの位置誤差及び姿勢誤差を修正するように前記ロボットアームの力制御を行いながら、前記ハンドに把持された前記ワークを目標対象物に対して移動させる制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記目標対象物に対する前記ワークの移動を複数回実行することによって、前記力制御パラメータを自動調整するパラメータ自動調整部を有し、
前記パラメータ自動調整部は、前記目標対象物に対する前記ワークの移動を、複数の位置誤差方向及び複数の姿勢誤差方向のうちの少なくとも前記複数の姿勢誤差方向から実行することによって、前記力制御パラメータを自動調整する、ロボットシステム。
【請求項2】
前記パラメータ自動調整部は、前記目標対象物に対する前記ワークの移動を、複数の位置誤差方向及び複数の姿勢誤差方向のうちの少なくとも前記複数の姿勢誤差方向から実行し、そのうちの前記力検出器の検出値が最も振動的であった条件によって前記力制御パラメータを自動調整する、請求項1に記載のロボットシステム。
【請求項3】
前記目標対象物に対する前記ワークの移動動作は、前記ワークを前記目標対象物が有する嵌合穴に嵌合させる嵌合動作、前記ワークを前記目標対象物の平面に対して面合せする面合せ動作、及び前記ワークを前記目標対象物が有する係合穴の形状に一致するように探索させる探索動作のうちのいずれかである、請求項1又は2に記載のロボットシステム。
【請求項4】
前記力検出器は、力覚センサである、請求項1~3のいずれか1項に記載のロボットシステム。
【請求項5】
前記ロボットアームは、前記ロボットアームを駆動するアクチュエータと、前記アクチュエータのトルクを検出するトルクセンサと、を有し、
前記力検出器は、前記トルクセンサの検出値に基づいて、前記ワークが受ける力及びモーメントを検出する、請求項1~4のいずれか1項に記載のロボットシステム。
【請求項6】
前記ロボットアームは、前記ロボットアームを駆動するアクチュエータを有し、
前記力検出器は、前記アクチュエータに印加される電流値に基づいて、前記ワークが受ける力及びモーメントを検出する、請求項1~4のいずれか1項に記載のロボットシステム。
【請求項7】
ワークを把持するハンドを先端に有するロボットアームの動作を制御して前記ワークを目標対象物に向けて移動させ、所定の力制御パラメータと、前記ハンドに把持された前記ワークが受ける力及びモーメントを検出する力検出器の検出値と、に基づいて、前記目標対象物に対する前記ワークの位置誤差及び姿勢誤差を修正するように前記ロボットアームの力制御を行うロボット制御装置であって、
前記対象物に対する前記ワークの移動を複数回実行することによって、前記力制御パラメータを自動調整するパラメータ自動調整部を有し、
前記パラメータ自動調整部は、前記目標対象物に対する前記ワークの移動を、複数の位置誤差方向及び複数の姿勢誤差方向のうちの少なくとも前記複数の姿勢誤差方向から実行することによって、前記力制御パラメータを自動調整する、ロボット制御装置。
【請求項8】
前記パラメータ自動調整部は、前記目標対象物に対する前記ワークの移動を、複数の位置誤差方向及び複数の姿勢誤差方向のうちの少なくとも前記複数の姿勢誤差方向から実行し、そのうちの前記力検出器の検出値が最も振動的であった条件によって前記力制御パラメータを自動調整する、請求項7に記載のロボット制御装置。
【請求項9】
前記目標対象物に対する前記ワークの移動動作は、前記ワークを前記目標対象物が有する穴に嵌合させる嵌合動作、前記ワークを前記目標対象物の平面に対して面合せする面合せ動作、及び前記ワークを前記目標対象物が有する係合穴の形状に一致するように探索させる探索動作のうちのいずれかである、請求項7又は8に記載のロボット制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ロボットシステム及びロボット制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットを用いた部品の組立工程においては、ロボットアームの先端のハンドによって把持したワークの嵌合作業、面合せ作業、探索作業が行われる。嵌合作業は、把持したワークを目標対象物の嵌合穴に嵌合させる作業である。面合せ作業は、把持したワークを目標対象物の平面に突き当てて面合せする作業である。探索作業は、ワークが目標対象物の穴形状や位相に一致するように、把持したワークの位置を探索する作業である。
【0003】
従来、このようなロボットによる部品の組立作業を精度良く実行するため、ハンドに把持されたワークが受ける力及びモーメントを検出する力検出器がロボットアームに設けられる。組立作業を行う際は、その力検出器の検出値に基づいて、ワークに掛かる力がオペレータの設定した目標力に一致するように、ロボットの力制御が行われる。力制御の種類としては、インピーダンス制御、ダンピング制御、ハイブリッド制御が知られている。
【0004】
ロボットを力制御することによって適切に作業を実行するためには、ワークに掛かる力とロボットの挙動との関係を定めた力制御パラメータを適切に設定することが重要である。近年は、力制御を自動的に複数回実行することによって、力制御パラメータを自動調整する技術も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、力制御パラメータの自動調整を実行しても、調整された後の力制御パラメータが最適ではない場合がある。これは、力制御パラメータの調整時とロボットを実際に稼働させる生産時とで力制御の条件が異なり、ロボットの位置及び姿勢の誤差方向が異なることが原因であると考えられる。
【0007】
また、ロボットの位置及び姿勢もしくはハンドの形状等によっては、力制御の応答性を表す力制御ゲインの最適値が、位置及び姿勢の修正方向に依存することがある。そのため、力制御パラメータが、ロボットの発振限度の高い位置及び姿勢誤差の条件で調整されると、生産時にロボットが発振する場合がある。ロボットが発振すると、生産品質に影響を与えるおそれがある。最悪の場合には、ロボット自体、ハンド及び周辺機器等が破損するおそれがある。
【0008】
さらに、探索作業については、力制御パラメータの調整時に、複数の位置及び姿勢誤差条件で正しい位置及び姿勢を見つけられるかどうかの動作確認を行う必要がある。生産時に複数の誤差条件で確認しないと、生産時に探索に失敗する可能性がある。
【0009】
したがって、生産時の力制御において、ロボットの発振や作業の失敗を起こすことのない最適な力制御パラメータが自動調整可能であることが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様は、ワークを把持するハンドを先端に有するロボットアームと、前記ハンドに把持された前記ワークが受ける力及びモーメントを検出する力検出器と、所定の力制御パラメータ及び前記力検出器の検出値に基づいて、前記ワークの位置誤差及び姿勢誤差を修正するように前記ロボットアームの力制御を行いながら、前記ハンドに把持された前記ワークを目標対象物に対して移動させる制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記目標対象物に対する前記ワークの移動を複数回実行することによって、前記力制御パラメータを自動調整するパラメータ自動調整部を有し、前記パラメータ自動調整部は、前記目標対象物に対する前記ワークの移動を、複数の位置誤差方向及び複数の姿勢誤差方向のうちの少なくとも前記複数の姿勢誤差方向から実行することによって、前記力制御パラメータを自動調整する、ロボットシステムである。
【0011】
本開示の他の一態様は、ワークを把持するハンドを先端に有するロボットアームの動作を制御して前記ワークを目標対象物に向けて移動させ、所定の力制御パラメータと、前記ハンドに把持された前記ワークが受ける力及びモーメントを検出する力検出器の検出値と、に基づいて、前記目標対象物に対する前記ワークの位置誤差及び姿勢誤差を修正するように前記ロボットアームの力制御を行うロボット制御装置であって、前記対象物に対する前記ワークの移動を複数回実行することによって、前記力制御パラメータを自動調整するパラメータ自動調整部を有し、前記パラメータ自動調整部は、前記目標対象物に対する前記ワークの移動を、複数の位置誤差方向及び複数の姿勢誤差方向のうちの少なくとも前記複数の姿勢誤差方向から実行することによって、前記力制御パラメータを自動調整する。
【発明の効果】
【0012】
一態様によれば、生産時の力制御において、ロボットの発振や作業の失敗を起こすことのない最適な力制御パラメータが自動調整可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】嵌合作業を行うロボットシステムを示す模式図である。
【
図2】ロボットとロボット制御装置の内部構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】力制御パラメータの自動調整作業を示すフローチャートである。
【
図4】力制御パラメータの自動調整時のワークと目標対象物との姿勢誤差を示す側面図である。
【
図5A】
図4に示すワークと目標対象物との姿勢誤差を示す平面図である。
【
図5B】
図5Aに対して姿勢誤差方向を90deg異ならせたワークと目標対象物とを示す平面図である。
【
図5C】
図5Aに対して姿勢誤差方向を180deg異ならせたワークと目標対象物とを示す平面図である。
【
図5D】
図5Aに対して姿勢誤差方向を270deg異ならせたワークと目標対象物とを示す平面図である。
【
図6】力制御パラメータの自動調整時のワークと目標対象物との位置誤差を示す側面図である。
【
図7】面合せ作業を行うロボットシステムを示す模式図である。
【
図8】探索作業を行うロボットシステムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、嵌合作業を行うロボットシステム1を示す模式図である。ロボットシステム1は、ロボット2と、ロボット2を制御するロボット制御装置3と、オペレータがロボット制御装置3を介してロボット2を手動操作するための教示操作盤4と、を有する。
【0015】
ロボット2は、複数のロボットアーム21を有する垂直多関節ロボットである。複数のロボットアーム21は、複数の駆動軸によってそれぞれ回転可能に連結されている。駆動軸は、ロボット制御装置3によって制御されるサーボモータ等からなるアクチュエータ24(
図2参照)によってそれぞれ回転駆動される。ロボットアーム21の先端には、ハンド22及び力検出器23が設けられる。
【0016】
ハンド22は、ロボット制御装置3によって駆動制御されることによって、ワークを把持する。嵌合作業において、ワークは、ハンド22によって把持されるワークW1と、作業台100上のワークW2と、を有する。ワークW1は、例えば円柱形状を有する。ワークW2は、ロボット2の動作によってワークW1を嵌合させる目標対象物である。ワークW2は、ワークW1を嵌合可能な円柱状の嵌合穴MHを有する。ワークW2は、嵌合穴MHの開口部が上方を向くように、作業台100上に載置される。
【0017】
力検出器23は、ハンド22の根元部の近傍に配置される。力検出器23は、ハンド22に把持されたワークW1が受ける力及びモーメントを検出する。具体的には、力検出器23は、力覚センサによって構成される。より具体的には、力検出器23は、X,Y,Z軸方向の並進力とそれらの軸周りのモーメントを検出可能な6軸センサを用いることができる。力検出器23の検出値は、ロボット制御装置3の制御部31に出力される。
【0018】
ロボット制御装置3は、
図2に示すように、制御部31と、アーム駆動部32と、パラメータ自動調整部33と、記憶部34と、を含んで構成される。このロボット制御装置3は、一般的なロボット2の動作制御のための制御装置としての機能に加えて、力制御パラメータを自動調整するための制御装置としての機能を含む。本明細書では、ロボット制御装置3における力制御パラメータを自動調整するための機能について説明し、一般的なロボット2の動作を制御するための機能の詳細については省略する。
【0019】
制御部31は、アーム駆動部32に対して所定のジョブに基づく移動指令を出力し、ロボット2の動作を制御する制御装置である。制御部31は、記憶部34に記憶される所定の力制御パラメータ及び力検出器23の検出値に基づいて、ハンド22に把持されたワークW1の位置誤差及び姿勢誤差を修正するようにロボットアーム21の力制御を行いながら、ワークW1をワークW2に対して移動させる。
【0020】
アーム駆動部32は、制御部31からの移動指令に基づいて、ロボット2の各駆動軸のアクチュエータ24に駆動のための電流を印加する。これによって、ロボット2の各ロボットアーム21が駆動し、ロボット2は様々に姿勢を変化させる。
図2に示すように、ロボット2は、アクチュエータ24のトルクを検出するためのトルクセンサ25を有する。トルクセンサ25は、アクチュエータ24のトルクの検出値を力検出器23に出力する。
図2には1つのアクチュエータ24及び1つのトルクセンサ25のみが示されている。しかし、アクチュエータ24及びトルクセンサ25の組は、ロボット2の複数の駆動軸にそれぞれ設けられる。
【0021】
パラメータ自動調整部33は、制御部31を介してロボット2の動作を制御し、力制御パラメータを自動調整する。力制御パラメータは、ロボット2の力制御の応答性を表す力制御ゲイン、速度指令値、及び力指令値等を含む。自動調整された力制御パラメータは、記憶部34に記憶されている力制御パラメータ(初期パラメータ)に上書きされる。パラメータ自動調整部33による力制御パラメータの具体的な調整動作の詳細については後述する。
【0022】
教示操作盤4は、ロボット制御装置3の制御部31に接続される。教示操作盤4は、オペレータの手動操作によって、ロボット2の動作プログラムの再生、ジョグ操作によるロボット2の教示、力制御パラメータの自動調整等の各種動作の実行を指示する。
図4において、教示操作盤4は、制御部31に対して有線によって接続されるが、無線によって接続されてもよい。
【0023】
次に、ロボット制御装置3のパラメータ自動調整部33による力制御パラメータの自動調整作業について、
図3に示すフローチャート、
図4及び
図5A~
図5Dに基づいてさらに説明する。以下に示すパラメータ自動調整部33による力制御パラメータの自動調整作業は、例えば、ロボットシステム1の初期立ち上げ時、ワークの種類が変更された時、及びロボットアーム21の先端のハンド22が別の構造を有するハンドに交換された時に、教示操作盤4を介したオペレータからの指示によって実行される。
【0024】
まず、制御部31は、パラメータ自動調整部33による所定のパラメータ自動調整フローに従って、ハンド22に把持されたワークW1を、目標対象物であるワークW2に対して移動させ、ワークW2の嵌合穴MHに嵌合する動作を複数回実行する。具体的には、パラメータ自動調整部33は、オペレータによる教示操作盤4の手動操作によるロボット2の動作時に、記憶部34から力制御パラメータの初期パラメータを読み出す。制御部31は、その初期パラメータに基づいて、制御部31を介してアーム駆動部32に移動指令を出力し、ハンド22によって把持したワークW1をワークW2の嵌合穴MHに嵌合させるようにロボット2を動作させる1回目の嵌合動作を実行する(ステップS1)。
【0025】
図4は、ハンド22に把持されたワークW1が、初期パラメータによるロボット2の力制御によって、ワークW2の嵌合穴MHに嵌合する直前の状態を示す側面図である。
図5Aは、その平面図である。
図4及び
図5Aに示すように、初期パラメータに基づいてロボット2が力制御された際、ロボット2は、ワークW1を嵌合穴MHに対して傾斜して配置した姿勢を示している。具体的には、ワークW1の軸線W1aは、ワークW2の嵌合穴MHの軸線W2aに対して、Y軸周りの-X軸方向(
図4及び
図5Aの左方向)に角度E1だけ傾いている。
【0026】
ワークW1を嵌合穴MHに適正に嵌合させるためには、ロボット2は、ワークW1の軸線W1aと嵌合穴MHの軸線W2aとが一致する姿勢を示している必要がある。そのため、角度E1は、嵌合開始時におけるロボット2が修正すべき姿勢誤差を表している。この角度E1は、ワークW1を嵌合穴MHに適正に嵌合させるために必要なロボット2の姿勢の変化量、すなわち、姿勢誤差の修正量(E)である。
【0027】
ここで、嵌合開始時のロボット姿勢を表す回転行列をTA、嵌合後のロボット姿勢を表す回転行列をTBとすると、inv(TB)×TAが姿勢誤差の修正量(E)を表す回転行列となる。invは逆行列である。パラメータ自動調整部33は、この姿勢誤差の修正量(E)を算出し、記憶部34に記憶する(ステップS2)。
【0028】
なお、パラメータ自動調整部33には、姿勢誤差の修正量の閾値が予め設定されている。ステップS2において算出された姿勢誤差の修正量(E)の絶対値が閾値以下である場合、パラメータ自動調整部33は、姿勢誤差の修正量(E)を予め決められた値に設定する。姿勢誤差がない場合又は姿勢誤差が小さすぎる場合に意図的に姿勢誤差を与えるためである。予め決められた値は、例えば閾値である。すなわち、閾値が0.5degに設定され、ステップS2において算出された姿勢誤差の修正量が0.5deg以下である場合には、姿勢誤差の修正量(E)は0.5degに設定される。
【0029】
次に、制御部31は、1回目の嵌合動作を実行した時と同じ位置及びロボット2の姿勢誤差の修正量(E)と同じ絶対値で、姿勢誤差方向を変えて2回目の嵌合動作を実行する(ステップS3)。
【0030】
このステップS3では、パラメータ自動調整部33は、TB×T(90)×inv(TB)×TAの回転行列が示す姿勢から嵌合を実行している。T(90)は、1回目の嵌合動作に対して、嵌合方向周り(嵌合穴MHの軸線W2a周り)に90deg回転させる行列である。これによって、
図5Bに示すように、ロボット2は、ワークW1の軸線W1aがワークW2の嵌合穴MHの軸線W2aに対して、X軸周りの+Y軸方向(
図5Bの下方向)に角度E1だけ傾いた位置から嵌合を行う。
【0031】
次に、制御部31は、2回目の嵌合動作を実行した時と同じ位置及びロボット2の姿勢誤差の修正量(E)と同じ絶対値で、再び姿勢誤差方向を変えて3回目の嵌合動作を実行する(ステップS4)。
【0032】
このステップS4では、パラメータ自動調整部33は、TB×T(180)×inv(TB)×TAの回転行列が示す姿勢から嵌合を実行している。T(180)は、1回目の嵌合動作に対して、嵌合方向周り(嵌合穴MHの軸線W2a周り)に180deg回転させる行列である。これによって、
図5Cに示すように、ロボット2は、ワークW1の軸線W1aがワークW2の嵌合穴MHの軸線W2aに対して、Y軸周りの+X軸方向(
図5Cの右方向)に角度E1だけ傾いた位置から嵌合を行う。
【0033】
次に、制御部31は、3回目の嵌合動作を実行した時と同じ位置及びロボット2の姿勢誤差の修正量(E)と同じ絶対値で、再び姿勢誤差方向を変えて4回目の嵌合動作を実行する(ステップS5)。
【0034】
このステップS5では、パラメータ自動調整部33は、TB×T(270)×inv(TB)×TAの回転行列が示す姿勢から嵌合を実行している。T(270)は、1回目の嵌合動作に対して、嵌合方向周り(嵌合穴MHの軸線W2a周り)に270deg回転させる行列である。これによって、
図5Dに示すように、ロボット2は、ワークW1の軸線W1aがワークW2の嵌合穴MHの軸線W2aに対して、X軸周りの-Y軸方向(
図5Dの上方向)に角度E1だけ傾いた位置から嵌合を行う。
【0035】
1回目の嵌合動作から4回目の嵌合動作の各嵌合動作において、パラメータ自動調整部33は、制御部31を介して力検出器23から出力される検出値を記録している。パラメータ自動調整部33は、4方向(4姿勢)の嵌合動作が終了した後に、各嵌合動作時の力検出器23の検出値から振動量を求め、その検出値のデータが最も振動的であった方向(姿勢)を選出する(ステップS6)。
【0036】
振動量を求める方法としては、例えば、力検出器23の検出値をフーリエ変換し、その結果に基づいて特定の周波数の振幅を求める方法がある。また、力検出器23の検出値の変化量の最大値又は平均値を求めることによって振動量を求めてもよい。
【0037】
パラメータ自動調整部33は、ステップS6において、力検出器23の検出値のデータが最も振動的であった方向(姿勢)を選出した後、その方向(姿勢)の姿勢誤差のみで調整した力制御パラメータ1~Nを求め(ステップS7)、各力制御パラメータを性能が上がるように変更する(ステップS8)。Nは力制御パラメータの種類の数である。力制御パラメータの種類は、力制御ゲイン、速度指令値、力指令値等である。力制御パラメータの調整は、これらのパラメータを1種類ずつ行ってもよいし、複数種類のパラメータに対して同時に行ってもよい。
【0038】
このようにしてステップS8において力制御パラメータを変更した後、制御部31は、4方向(4姿勢)の嵌合動作のうちで、最も振動的であった方向(姿勢)の姿勢誤差によって、再びワークW1をワークW2の嵌合穴MHに嵌合させるようにロボット2を動作させる(ステップS9)。
【0039】
力制御の性能が向上するように力制御パラメータを変更しすぎると、振動が大きくなる等のロボット2の不安定化を招き易い。例えば、力制御ゲインを上げると、発生した力に対する応答が早くなるため、嵌合時の姿勢誤差の修正が速くなり、嵌合に要する時間が短くなる。その反面、力制御ゲインを上げ過ぎると、ノイズを増幅させてロボット2が発振してしまうことがある。そのため、パラメータ自動調整部33は、ステップS9において嵌合動作を実行した後、上記した方法によって力検出器23の検出値から振動量を求め、ロボット2が発振しているかどうかを判断する(ステップS10)。なお、ロボット2が発振したかどうかは、振動量が、前回のパラメータ自動調整時の振動量よりも大きくなったこと、又は、予め設定された振動量の閾値を超えたこと等によって判断することができる。
【0040】
ステップS10において、ロボット2が発振していないと判断された場合(ステップS10;NO)、パラメータ自動調整部33は、ステップS8からの処理に戻る。すなわち、パラメータ自動調整部33は、力制御パラメータの性能がさらに上がるように力制御パラメータを変更し、その後、最も振動的であった姿勢誤差で嵌合動作を再度実行する。その後、ステップS10において、ロボット2が発振しているかどうかを再度判断する。ステップS8及びステップS9の処理は、ステップS10においてロボット2が発振していると判断されるまで繰り返される。
【0041】
一方、ステップS10において、ロボット2が発振していると判断された場合(ステップS10;YES)、パラメータ自動調整部33は、変更された力制御パラメータを1つ前の値に戻す(ステップS11)。
【0042】
これによって、力制御パラメータは、ロボット2が発振を起こさない限界の値に設定される。パラメータ自動調整部33は、設定した力制御パラメータを記憶部34に出力して上書き保存した後、力制御パラメータの自動調整作業を終了する。
【0043】
ロボット2のような垂直多関節ロボットの場合では、動作方向によって振動の具合が変化する。また、ロボットアーム21の先端に設けられたハンド22の形状によっては、振動し易い動作が存在することがある。ロボット2が振動すると、力制御の性能が変化する。しかし、以上のように、このロボットシステム1では、パラメータ自動調整部33が、ワークW1の移動を、複数の姿勢誤差方向から実行することによって力制御パラメータを自動調整する。パラメータ自動調整部33は、複数の姿勢誤差方向のうちの最も振動的であった姿勢誤差の条件で力制御パラメータの調整を行う。これによって、ロボット2は、最も厳しい姿勢誤差の条件において安定して嵌合動作を行うことができた力制御パラメータに基づいて嵌合動作を行うため、条件の緩い他の姿勢誤差の条件においても安定した嵌合動作を実行することができる。したがって、このロボットシステム1及びロボット制御装置3によれば、生産時の力制御において、ロボット2の発振や嵌合作業の失敗を起こすことのない最適な力制御パラメータを自動調整することができる。
【0044】
ロボットアーム21は、ロボットアーム21を駆動するアクチュエータ24と、アクチュエータ24のトルクを検出するトルクセンサ25と、を有し、力検出器23は、トルクセンサ25の検出値に基づいて、ワークW1が受ける力及びモーメントを検出している。そのため、アクチュエータ24のトルクからワークW1が受ける力及びモーメントを容易に検出可能である。
【0045】
また、力検出器23は、アクチュエータ24に印加される電流値に基づいて、ワークW1が受ける力及びモーメントを検出してもよい。これによれば、トルクセンサ25は必ずしも設けられなくてもよいため、ロボット2の構成を簡素化することができる。
【0046】
以上の実施形態では、パラメータ自動調整部33は、ワークW1の移動を、複数の姿勢誤差方向から実行することによって力制御パラメータを自動調整している。しかし、パラメータ自動調整部33は、
図6に示すように、ワークW1の移動を、複数の位置誤差方向及び姿勢誤差方向の両方から実行することによって力制御パラメータを自動調整してもよい。
図6に示す場合では、初期パラメータに基づいてロボット2が力制御された際、ロボット2は、ワークW1を嵌合穴MHに対して傾斜して配置した姿勢を示すとともに、嵌合穴MHの中心から僅かに側方にずれている。具体的には、ワークW1の軸線W1aは、ワークW2の嵌合穴MHの軸線W2aに対して、Y軸周りの-X軸方向(
図6の左方向)に角度E1だけ傾いているとともに、ワークW1は、嵌合穴MHの軸線W2aに対して、-X軸方向に距離E2だけずれている。
【0047】
以上の実施形態では、ロボット2によるワークW2に対するワークW1の移動動作が、ワークW1をワークW2が有する嵌合穴MHに嵌合させる嵌合動作である場合について説明した。しかし、ロボット2によるワークW2に対するワークW1の移動動作は、
図7に示すロボットシステム1Aのように、ハンド22によって把持したワークW1をワークW2の平面SFに対して面合せする面合せ動作であってもよい。さらに、ロボット2によるワークW2に対するワークW1の移動動作は、
図8に示すロボットシステム1Bのように、ワークW1をワークW2が有する係合穴EHの形状や位相に一致するように探索させる探索動作であってもよい。
【0048】
以上の実施形態では、力制御パラメータの自動調整時のワークW2に対するワークW1の移動を、90degずつ変更した4方向(4姿勢)から実行している。しかし、変更する方向(姿勢)は、4つに限定されず、2以上の方向(姿勢)であればよい。また、変更する角度も、90degに限定されない。
【0049】
以上の実施形態では、力制御パラメータの自動調整を行うパラメータ自動調整部33は、ロボット2の動作を制御するためにロボット2に電気的に接続されるロボット制御装置3に設けられている。しかし、ロボット制御装置3のパラメータ自動調整部33の機能又は全ての機能は、PC(パーソナルコンピュータ)及びタブレット端末等の外部端末によって実現されてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1,1A,1B ロボットシステム
2 ロボット
21 ロボットアーム
22 ハンド
23 力検出器
24 アクチュエータ
25 トルクセンサ
3 ロボット制御装置
31 制御部
33 パラメータ自動調整部
W1 ワーク
W2 ワーク(目標対象物)
MH 嵌合穴
SF 平面
EH 係合穴
【手続補正書】
【提出日】2023-12-18
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本開示は、制御装置に関する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
本開示の一態様は、ロボットアームを制御する制御装置であって、所定の力制御パラメータを記憶する少なくとも1つのメモリと、少なくとも1つのプロセッサと、を備え、
前記少なくとも1つのプロセッサは、前記ロボットアームに生じる力及びモーメントに関する情報を取得し、前記所定の力制御パラメータ及び前記力及びモーメントに関する情報に基づいて、目標対象物に対する前記ロボットアームの移動を、位置誤差方向及び姿勢誤差方向のうちの少なくとも前記姿勢誤差方向から複数回実行することによって、前記力制御パラメータを調整する、制御装置である。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0050
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0050】
1,1A,1B ロボットシステム
2 ロボット
21 ロボットアーム
23 力検出器
3 ロボット制御装置
31 制御部
34 記憶部(メモリ)
W1 ワーク
W2 ワーク(目標対象物)
MH 嵌合穴
SF 平面
EH 係合穴
【手続補正6】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットアームを制御する制御装置であって、
所定の力制御パラメータを記憶する少なくとも1つのメモリと、
少なくとも1つのプロセッサと、を備え、
前記少なくとも1つのプロセッサは、
前記ロボットアームに生じる力及びモーメントに関する情報を取得し、
前記所定の力制御パラメータ及び前記力及びモーメントに関する情報に基づいて、目標対象物に対する前記ロボットアームの移動を、位置誤差方向及び姿勢誤差方向のうちの少なくとも前記姿勢誤差方向から複数回実行することによって、前記力制御パラメータを調整する、制御装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つのプロセッサは、前記目標対象物に対する前記ロボットアームの移動を、複数の位置誤差方向及び複数の姿勢誤差方向のうちの少なくとも前記複数の姿勢誤差方向から実行し、そのうちの前記ロボットアームが前記力及びモーメントに関する情報に基づいて最も振動的であった条件によって前記力制御パラメータを自動調整する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記目標対象物に対する前記ロボットアームの移動動作は、前記ロボットアームが把持するワークを前記目標対象物が有する嵌合穴に嵌合させる嵌合動作、前記ワークを前記目標対象物の平面に対して面合せする面合せ動作、及び前記ワークを前記目標対象物が有する係合穴の形状に一致するように探索させる探索動作のうちのいずれかである、請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記ロボットアームは、力及びモーメントを検出する力検出器を有し、
前記少なくとも1つのプロセッサは、前記力検出器から前記力及びモーメントに関する情報を取得する、請求項1又は2に記載の制御装置。