(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091678
(43)【公開日】2024-07-05
(54)【発明の名称】水性塗料組成物および塗装物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 175/04 20060101AFI20240628BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20240628BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240628BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D7/20
C09D7/63
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024061366
(22)【出願日】2024-04-05
(62)【分割の表示】P 2021094447の分割
【原出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】515096952
【氏名又は名称】日本ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(74)【代理人】
【識別番号】100190713
【弁理士】
【氏名又は名称】津村 祐子
(72)【発明者】
【氏名】田西 一磨
(72)【発明者】
【氏名】小川 弘隆
(72)【発明者】
【氏名】松田 智明
(72)【発明者】
【氏名】山下 聡一朗
(57)【要約】
【課題】耐水性に優れる塗膜が得られる水性塗料組成物を提供する。
【解決手段】水酸基含有樹脂(a1)および水性溶媒(a2)を含む主剤(A)と、ポリイソシアネート化合物(b1)および水酸基を有さない有機溶媒(b2)を含む硬化剤(B)と、を含み、前記主剤(A)および前記硬化剤(B)の少なくとも一方は、さらに、1以上のエポキシ基を有するシランカップリング剤を含む、水性塗料組成物である。前記シランカップリング剤の含有量は、例えば、前記水酸基含有樹脂(a1)および前記ポリイソシアネート化合物(b1)の合計の固形分100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基含有樹脂(a1)および水性溶媒(a2)を含む主剤(A)と、
ポリイソシアネート化合物(b1)および水酸基を有さない有機溶媒(b2)を含む硬化剤(B)と、を含み、
前記主剤(A)および前記硬化剤(B)の少なくとも一方は、さらに、1以上のエポキシ基を有するシランカップリング剤を含む、水性塗料組成物。
【請求項2】
前記シランカップリング剤の含有量は、前記水酸基含有樹脂(a1)および前記ポリイソシアネート化合物(b1)の合計の固形分100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下である、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
プライマーサーフェイサーとして用いられる水性塗料組成物であって、
前記シランカップリング剤の含有量は、前記水酸基含有樹脂(a1)および前記ポリイソシアネート化合物(b1)の合計の固形分100質量部に対して、1質量部以上8質量部以下である、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
クリヤー塗膜形成用の水性塗料組成物であって、
前記シランカップリング剤の含有量は、前記水酸基含有樹脂(a1)および前記ポリイソシアネート化合物(b1)の合計の固形分100質量部に対して、1.2質量部以上10質量部以下である、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
被塗物に、水性プライマーサーフェイサー(X)を塗装して、下地塗膜を形成する工程(I)と、
前記下地塗膜上に、水性着色ベース塗料組成物(Y)を塗装して、着色ベース塗膜を形成する工程(II)と、
前記着色ベース塗膜上に、水性クリヤー塗料組成物(Z)を塗装して、クリヤー塗膜を形成する工程(III)と、を備え、
前記水性プライマーサーフェイサー(X)および前記水性クリヤー塗料組成物(Z)の少なくとも一方は、1以上のエポキシ基を有するシランカップリング剤を含む、塗装物品の製造方法。
【請求項6】
前記水性プライマーサーフェイサー(X)は、第1水酸基含有樹脂(a11)および第1水性溶媒(a21)を含む第1主剤(A1)と、
第1ポリイソシアネート化合物(b11)および水酸基を有さない第1有機溶媒(b21)を含む第1硬化剤(B1)と、を含み、
前記シランカップリング剤は、前記第1主剤(A1)および前記第1硬化剤(B1)の少なくとも一方に含まれており、
前記シランカップリング剤の含有量は、前記第1水酸基含有樹脂(a11)および前記第1ポリイソシアネート化合物(b11)の合計の固形分100質量部に対して、1質量部以上8質量部以下である、請求項5に記載の塗装物品の製造方法。
【請求項7】
前記水性クリヤー塗料組成物(Z)は、第2水酸基含有樹脂(a12)および第2水性溶媒(a22)を含む第2主剤(A2)と、
第2ポリイソシアネート化合物(b12)および水酸基を有さない第2有機溶媒(b22)を含む第2硬化剤(B2)と、を含み、
前記シランカップリング剤は、前記第2主剤(A2)および前記第2硬化剤(B2)の少なくとも一方に含まれており、
前記シランカップリング剤の含有量は、前記第2水酸基含有樹脂(a12)および前記第2ポリイソシアネート化合物(b12)の合計の固形分100質量部に対して、1.2質量部以上10質量部以下である、請求項5に記載の塗装物品の製造方法。
【請求項8】
前記水性プライマーサーフェイサー(X)および前記水性クリヤー塗料組成物(Z)は、ともに前記シランカップリング剤を含む、請求項5~7のいずれか一項に記載の塗装物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗料組成物および塗装物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の塗装には、鮮映性や仕上がり外観が向上し易い点で、溶剤系の塗料が用いられている。
近年、環境に対する関心が高まり、溶剤系塗料に替わって、水性塗料の需要が高まっている。(例えば、特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、水性塗料によって形成される塗膜は、一般に耐水性に劣る。
本発明の目的は、耐水性に優れる塗膜が得られる水性の塗料組成物を提供することである。本発明の目的は、また、上記塗料組成物により形成される塗膜を有する塗装物品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記態様[1]~[8]を提供する。
[1]
水酸基含有樹脂(a1)および水性溶媒(a2)を含む主剤(A)と、
ポリイソシアネート化合物(b1)および水酸基を有さない有機溶媒(b2)を含む硬化剤(B)と、を含み、
前記主剤(A)および前記硬化剤(B)の少なくとも一方は、さらに、1以上のエポキシ基を有するシランカップリング剤を含む、水性塗料組成物。
【0006】
[2]
前記シランカップリング剤の含有量は、前記水酸基含有樹脂(a1)および前記ポリイソシアネート化合物(b1)の合計の固形分100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下である、上記[1]に記載の水性塗料組成物。
【0007】
[3]
プライマーサーフェイサーとして用いられる水性塗料組成物であって、
前記シランカップリング剤の含有量は、前記水酸基含有樹脂(a1)および前記ポリイソシアネート化合物(b1)の合計の固形分100質量部に対して、1質量部以上8質量部以下である、上記[1]に記載の水性塗料組成物。
【0008】
[4]
クリヤー塗膜形成用の水性塗料組成物であって、
前記シランカップリング剤の含有量は、前記水酸基含有樹脂(a1)および前記ポリイソシアネート化合物(b1)の合計の固形分100質量部に対して、1.2質量部以上10質量部以下である、上記[1]に記載の水性塗料組成物。
【0009】
[5]
被塗物に、水性プライマーサーフェイサー(X)を塗装して、下地塗膜を形成する工程(I)と、
前記下地塗膜上に、水性着色ベース塗料組成物(Y)を塗装して、着色ベース塗膜を形成する工程(II)と、
前記着色ベース塗膜上に、水性クリヤー塗料組成物(Z)を塗装して、クリヤー塗膜を形成する工程(III)と、を備え、
前記水性プライマーサーフェイサー(X)および前記水性クリヤー塗料組成物(Z)の少なくとも一方は、1以上のエポキシ基を有するシランカップリング剤を含む、塗装物品の製造方法。
【0010】
[6]
前記水性プライマーサーフェイサー(X)は、第1水酸基含有樹脂(a11)および第1水性溶媒(a21)を含む第1主剤(A1)と、
第1ポリイソシアネート化合物(b11)および水酸基を有さない第1有機溶媒(b21)を含む第1硬化剤(B1)と、を含み、
前記シランカップリング剤は、前記第1主剤(A1)および前記第1硬化剤(B1)の少なくとも一方に含まれており、
前記シランカップリング剤の含有量は、前記第1水酸基含有樹脂(a11)および前記第1ポリイソシアネート化合物(b11)の合計の固形分100質量部に対して、1質量部以上8質量部以下である、上記[5]に記載の塗装物品の製造方法。
【0011】
[7]
前記水性クリヤー塗料組成物(Z)は、第2水酸基含有樹脂(a12)および第2水性溶媒(a22)を含む第2主剤(A2)と、
第2ポリイソシアネート化合物(b12)および水酸基を有さない第2有機溶媒(b22)を含む第2硬化剤(B2)と、を含み、
前記シランカップリング剤は、前記第2主剤(A2)および前記第2硬化剤(B2)の少なくとも一方に含まれており、
前記シランカップリング剤の含有量は、前記第2水酸基含有樹脂(a12)および前記第2ポリイソシアネート化合物(b12)の合計の固形分100質量部に対して、1.2質量部以上10質量部以下である、上記[5]に記載の塗装物品の製造方法。
【0012】
[8]
前記水性プライマーサーフェイサー(X)および前記水性クリヤー塗料組成物(Z)がともに、前記シランカップリング剤を含む、上記[5]~[7]のいずれか一項に記載の塗装物品の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐水性に優れる塗膜が得られる水性塗料組成物が提供される。本発明によれば、また、上記水性塗料組成物により形成される塗膜を有する塗装物品の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態に係る水性塗料組成物は、主剤(A)および硬化剤(B)を含む2液型である。主剤(A)は、水酸基含有樹脂(a1)および水性溶媒(a2)を含む。硬化剤(B)は、ポリイソシアネート化合物(b1)および水酸基を有さない有機溶媒(b2)を含む。主剤(A)および硬化剤(B)の少なくとも一方は、さらに、1以上のエポキシ基を有するシランカップリング剤(以下、エポキシ基含有シランカップリング剤と称す。)を含む。
【0015】
主剤(A)と硬化剤(B)とを混合すると、主剤(A)に含まれる水酸基含有樹脂(a1)がポリイソシアネート化合物(b1)によって架橋されて、硬化塗膜が得られる。このとき、エポキシ基含有シランカップリング剤もまた、水酸基含有樹脂(a1)およびポリイソシアネート化合物(b1)の少なくとも一方と反応し、架橋構造を形成する。これにより、硬化塗膜の架橋密度が高まる。その結果、耐水性が向上する。
【0016】
[水性塗料組成物]
本実施形態に係る水性塗料組成物は、例えば、下地塗膜形成用の塗料(いわゆる、水性プライマーサーフェイサー)、着色ベース塗膜形成用の塗料(着色ベース塗料組成物)およびクリヤー塗膜形成用の塗料(水性クリヤー塗料組成物)として用いられる。複層塗膜を形成する際、そのうちの少なくとも1層を形成する塗料として、本実施形態に係る水性塗料組成物を用いることにより、複層塗膜全体の耐水性が向上する。
【0017】
シランカップリング剤は、さらに、硬化塗膜と塗布の対象物との密着性も向上させる。そのため、水性塗料組成物は、特に自動車用の水性プライマーサーフェイサーとして適している。プライマーサーフェイサーは、被塗物に直接塗布されるためである。水性塗料組成物はまた、自動車塗装の補修用の各種塗膜の形成に適している。補修用の塗膜は、被塗物に加えて、既存の塗膜との高い密着性が求められるためである。
【0018】
耐水性がより向上する点で、複層塗膜を形成する場合、エポキシ基含有シランカップリング剤を含む水性プライマーサーフェイサーと、エポキシ基含有シランカップリング剤を含む水性クリヤー塗料組成物とが、併用されることが好ましい。
【0019】
以下、下地塗膜形成用の水性塗料組成物を、水性プライマーサーフェイサー(X)と称する。水性プライマーサーフェイサー(X)に含まれる主剤(A)を第1主剤(A1)、硬化剤(B)を第1硬化剤(B1)と称する。第1主剤(A1)に含まれる水酸基含有樹脂(a1)を第1水酸基含有樹脂(a11)、水性溶媒(a2)を第1水性溶媒(a21)と称する。第1硬化剤(B1)に含まれるポリイソシアネート化合物(b1)を第1ポリイソシアネート化合物(b11)、有機溶媒(b2)を第1有機溶媒(b21)と称する。
【0020】
以下、クリヤー塗膜形成用の水性塗料組成物を、水性クリヤー塗料組成物(Z)と称する。水性クリヤー塗料組成物(Z)に含まれる主剤(A)を第2主剤(A2)、硬化剤(B)を第2硬化剤(B2)と称する。第2主剤(A2)に含まれる水酸基含有樹脂(a1)を第2水酸基含有樹脂(a12)、水性溶媒(a2)を第2水性溶媒(a22)と称する。第2硬化剤(B2)に含まれるポリイソシアネート化合物(b1)を第2ポリイソシアネート化合物(b12)、有機溶媒(b2)を第2有機溶媒(b22)と称する。
【0021】
以下、第1主剤(A1)および第2主剤(A2)を、主剤(A)と総称する。第1硬化剤(B1)および第2硬化剤(B2)を、硬化剤(B)と総称する。第1水酸基含有樹脂(a11)および第2水酸基含有樹脂(a12)を、水酸基含有樹脂(a1)と総称する。第1水性溶媒(a21)および第2水性溶媒(a22)を、水性溶媒(a2)と総称する。第1ポリイソシアネート化合物(b11)および第2ポリイソシアネート化合物(b12)をポリイソシアネート化合物(b1)と総称する。第1有機溶媒(b21)および第2有機溶媒(b22)を、有機溶媒(b2)と総称する。
【0022】
水性塗料組成物は、当業者において通常用いられる方法を用いて調製される。水性塗料組成物は、例えば、ニーダーまたはロール等を用いた混練混合法、サンドグラインドミルまたはディスパー等を用いた分散混合法により、各成分が混合されることにより調製される。
【0023】
<エポキシ基含有シランカップリング剤>
シランカップリング剤は、通常、反応性シリル基および有機官能基の両方を有する。エポキシ基含有シランカップリング剤は、有機官能基として1以上のエポキシ基を有する。エポキシ基含有シランカップリング剤は、2以上のエポキシ基を有していてもよい。
【0024】
エポキシ基は、エーテル結合を有する三員環(オキシラン環)である。エポキシ基は、高い反応性を有し、水酸基含有樹脂(a1)および/またはポリイソシアネート化合物(b1)と反応する。そのため、得られる硬化塗膜の架橋密度が高まる。
【0025】
エポキシ基は、例えば、下記の構造式(1)により表わされる。
【0026】
【0027】
エポキシ基は、脂環式であってもよい。脂環式エポキシ基としては、例えば、下記の構造式(2)により表わされる、エポキシシクロヘキシル基が挙げられる。
【0028】
【0029】
エポキシ基含有シランカップリング剤は、その他の有機官能基を有していてもよい。ただし、エポキシ基含有シランカップリング剤が主剤(A)に含まれる場合、有機官能基として、イソシアネート基が含まれないことが望ましい。主剤(A)と硬化剤(B)との混合前に、水酸基含有樹脂(a1)とエポキシ基含有シランカップリング剤とが反応してしまうと、硬化塗膜の架橋密度が高くなり難いためである。エポキシ基含有シランカップリング剤が硬化剤(B)に含まれる場合、有機官能基として、水酸基およびアミノ基(1級、2級および3級アミノ基、エポキシ基が結合したアミノ基を含む。)が含まれないことが望ましい。主剤(A)と硬化剤(B)との混合前に、ポリイソシアネート化合物(b1)とエポキシ基含有シランカップリング剤とが反応してしまうと、硬化塗膜の架橋密度が高くなり難いためである。望ましい他の有機官能基としては、例えば、アクリルアミド基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基、ビニル基、スチリル基およびメルカプト基が挙げられる。
【0030】
反応性シリル基は、加水分解によりシラノール基を生成する限り特に限定されない。反応性シリル基としては、例えば、トリアルコキシシリル基(アルコキシ基に含まれる炭素数は1~7が好ましい)、ジアルコキシアルキルシリル基(アルコキシ基に含まれる炭素数は1~7が好ましく、アルキル基に含まれる炭素数は1~7が好ましい)が挙げられ、より具体的には、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリプロポキシシリル基、トリス(2-メトキシエトキシ)シリル基、ジメトキシアルキルシリル基、ジエトキシアルキルシリル基、ジプロポキシアルキルシリル基、ビス(2-メトキシエトキシ)アルキルシリル基(上記アルキル基は、炭素数1~7の直鎖状または分枝状アルキル基であってよい)が挙げられる。複数の反応性シリル基は、同種であってよく、異種であってよい。なかでも、耐水性がより向上し易い点で、トリアルコキシシリル基が好ましく、アルコキシ基に含まれる炭素数が1~3のトリアルコキシシリル基がより好ましく、トリエトキシシリル基が特に好ましい。
【0031】
エポキシ基含有シランカップリング剤は、主剤(A)および硬化剤(B)の少なくとも一方に含まれる。なかでも、ポリイソシアネート化合物(b1)との混合性に優れる点で、エポキシ基含有シランカップリング剤は、硬化剤(B)に含まれることが好ましい。
【0032】
エポキシ基含有シランカップリング剤の含有量は、水酸基含有樹脂(a1)およびポリイソシアネート化合物(b1)の合計の固形分100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、1.1質量部以上がより好ましく、1.2質量部以上が特に好ましい。エポキシ基含有シランカップリング剤の含有量がこの範囲であると、耐水性はより向上し易い。エポキシ基含有シランカップリング剤の含有量は、水酸基含有樹脂(a1)およびポリイソシアネート化合物(b1)の合計の固形分100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましく、6質量部以下が特に好ましい。エポキシ基含有シランカップリング剤の含有量がこの範囲であると、エポキシ基含有シランカップリング剤を含む剤の貯蔵安定性が向上し易い。
【0033】
水性塗料組成物が水性プライマーサーフェイサー(X)である場合、エポキシ基含有シランカップリング剤の含有量は、第1水酸基含有樹脂(a11)および第1ポリイソシアネート化合物(b11)の合計の固形分100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、1.1質量部以上がより好ましく、1.2質量部以上が特に好ましい。エポキシ基含有シランカップリング剤の含有量は、第1水酸基含有樹脂(a11)および第1ポリイソシアネート化合物(b11)の合計の固形分100質量部に対して、8質量部以下が好ましく、6質量部以下がより好ましく、5質量部以下が特に好ましい。
【0034】
水性塗料組成物が水性クリヤー塗料組成物(Z)である場合、エポキシ基含有シランカップリング剤の含有量は、第2水酸基含有樹脂(a12)および第2ポリイソシアネート化合物(b12)の合計の固形分100質量部に対して、1.2質量部以上が好ましく、1.3質量部以上がより好ましく、2質量部以上が特に好ましい。エポキシ基含有シランカップリング剤の含有量は、第2水酸基含有樹脂(a12)および第2ポリイソシアネート化合物(b12)の合計の固形分100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましく、6質量部以下が特に好ましい。
【0035】
水性塗料組成物は、エポキシ基含有シランカップリング剤以外の他のシランカップリング剤を含んでもよい。ただし、耐水性の観点から、全シランカップリング剤に占めるエポキシ基含有シランカップリング剤の割合は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上が好ましい。上記の通り、主剤(A)に含まれる他のシランカップリング剤は、イソシアネート基を有しないことが望ましい。硬化剤(B)に含まれる他のシランカップリング剤は、水酸基およびアミノ基(1級、2級および3級アミノ基、エポキシ基が結合したアミノ基を含む。)を有しないことが望ましい。
【0036】
<主剤(A)>
主剤(A)は、水酸基含有樹脂(a1)および水性溶媒(a2)を含む。主剤(A)の固形分量は特に限定されない。主剤(A)の固形分濃度は、例えば、30質量%以上60質量%以下である。
【0037】
(水酸基含有樹脂(a1))
水酸基含有樹脂(a1)は、水性溶媒(a2)に分散したエマルションの形態を有している。主剤(A)における水酸基含有樹脂(a1)の粒子径は特に限定されない。粘度制御のし易さ、および得られる塗膜の外観の点で、水酸基含有樹脂(a1)の平均粒子径は、0.01μm以上1.0μm以下が好ましく、0.05μm以上0.5μm以下がより好ましい。平均粒子径は、動的光散乱法により測定される、体積基準の粒度分布における50%径(メジアン径、D50)である。
【0038】
水酸基含有樹脂(a1)の固形分濃度は、例えば、主剤(A)に含まれる全固形分の15質量%以上95質量%以下である。水酸基含有樹脂(a1)の固形分濃度が上記の範囲であると、得られる塗膜の強度が高まり易い。水酸基含有樹脂(a1)の固形分濃度は、主剤(A)に含まれる全固形分の20質量%以上であってよく、25質量%以上であってよい。水酸基含有樹脂(a1)の固形分濃度は、主剤(A)に含まれる全固形分の85質量%以下であってよく、80質量%以下であってよい。
【0039】
水酸基含有樹脂(a1)の水酸基価は、5mgKOH/g以上200mgKOH/g以下が好ましく、50mgKOH/g以上150mgKOH/g以下がより好ましい。水酸基含有樹脂(a1)の水酸基価が上記の範囲であると、得られる塗膜の強度が十分に高くなるとともに、耐水性も向上し易い。
【0040】
水酸基含有樹脂(a1)の酸価は特に限定されず、例えば、5mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であってよく、10mgKOH/g以上50mgKOH/g以下であってよい。水酸基含有樹脂(a1)の酸価が上記の範囲であると、水酸基含有樹脂(a1)の水分散性が高まるとともに、得られる塗膜の耐水性も向上し易い。
【0041】
水酸基含有樹脂(a1)の数平均分子量は特に限定されず、例えば、1,000以上100,000以下であってよく、2,000以上50,000以下であってよく、3,000以上10,000以下であってよい。水酸基含有樹脂(a1)の数平均分子量が上記の範囲であると、水性塗料組成物の粘度の過度な上昇が抑制されて、得られる塗膜の外観が向上するとともに、その強度も十分に高くなり易い。
【0042】
水酸基価および酸価は、いずれも固形分を基準としており、JIS K 0070に準じて測定することができる。数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定される、スチレンホモポリマー換算値である。
【0043】
水酸基含有樹脂(a1)は、1以上、好ましくは2以上の水酸基を有する限り特に限定されない。水酸基含有樹脂(a1)としては、例えば、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリカーボネートポリオールが挙げられる。なかでも、得られる塗膜の外観、耐候性、耐薬品性等の諸物性が良好になり易い点で、アクリルポリオールが好ましい。
【0044】
水酸基含有樹脂(a1)は、例えば、1種以上の原料モノマーを乳化重合することによって得られる。乳化重合は、当業者において一般的に行われる方法により行われる。具体的には、必要に応じてアルコール等の有機溶剤を含む水性媒体に乳化剤を混合し、得られた混合物を加熱および撹拌させながら、原料モノマーおよび重合開始剤を滴下する。また、原料モノマー、乳化剤および水を予め乳化した乳化混合物を、水性媒体中に滴下してもよい。上記水性媒体は、水性溶媒(a2)と同じでも異なっていてもよい。
【0045】
アクリルポリオールのエマルションは、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー、酸基含有エチレン性不飽和モノマー、水酸基含有エチレン性不飽和モノマー、およびスチレン系モノマーを含む原料モノマー混合物を、乳化重合することにより得られる。
【0046】
(水性溶媒(a2))
水性溶媒としては、純水、イオン交換水、水道水、工業水などの各種水が挙げられる。主剤(A)は、水性溶媒とともに、有機溶媒を含んでもよい。有機溶媒としては、例えば、ジエチレングリコールジブチルエーテル(ジブチルジグリコール)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、酢酸ブチル、エチルジグリコールアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、n-ブチルアルコール、メトキシプロパノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンが挙げられる。
【0047】
(その他)
主剤(A)は、必要に応じて、水酸基を含有しない樹脂を含み得る。主剤(A)はまた、水酸基含有樹脂(a1)および水性溶媒(a2)以外に、必要に応じて、各種添加剤を含み得る。添加剤としては、例えば、分散剤、消泡剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤、酸化防止剤、粘性調整剤、表面調整剤、造膜助剤、防錆剤および増粘剤が挙げられる。なかでも、得られる塗膜の外観がさらに向上し易い点で、粘性調整剤および/または表面調整剤が含まれることが好ましい。
【0048】
粘性調整剤としては、例えば、架橋樹脂粒子(分子内に架橋構造を有する高分子化合物)、無機系粘性剤、セルロース誘導体、ウレタン会合型粘性剤が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。粘性調整剤の量は、例えば、水酸基含有樹脂(a1)の固形分の0.1質量%以上50質量%以下であってよく、0.5質量%以上30質量%以下であってよい。
【0049】
表面調整剤としては、例えば、シリコーン系、アクリル系、ビニル系、フッ素系の表面調整剤が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。表面調整剤の量は、例えば、水酸基含有樹脂(a1)の固形分の0.1質量%以上10質量%以下であってよく、0.2質量%以上8質量%以下であってよい。
【0050】
(主剤(A)の調製方法)
主剤(A)は、上記成分を当業者に知られた方法によって混合することによって、調製することができる。混合方法としては、水性塗料組成物の調製と同様の方法が挙げられる。
【0051】
<硬化剤(B)>
硬化剤(B)は、ポリイソシアネート化合物(b1)および水酸基を有さない有機溶媒(b2)を含む。硬化剤(B)の固形分量は特に限定されない。硬化剤(B)の固形分濃度は、例えば、20質量%以上70質量%以下である。
【0052】
(ポリイソシアネート化合物(b1))
ポリイソシアネート化合物(b1)は、1分子中に平均で2個以上のイソシアネート基を有するものであれば特に限定されない。ポリイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイシシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)等の脂環式ポリイソシアネート;4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;これらの変性体(例えば、ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトンイミン、ビューレット体、イソシアヌレート等)が挙げられる。
【0053】
ポリイソシアネート化合物(b1)の含有量は、例えば、硬化剤(B)の全固形分の20質量%以上であってよく、30質量%以上であってよい。
【0054】
(有機溶媒(b2))
有機溶媒(b2)は、水酸基を有さない限り特に限定されない。有機溶媒(b2)としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル(DMM)、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールジイソプロピルエーテル、プロピレングリコールジ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールジイソブチルエーテル、プロピレングリコールジアリルエーテル、プロピレングリコールジフェニルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DPDM)、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジ-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールジアリルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジ-n-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールジイソブチルエーテル、トリプロピレングリコールジアリルエーテル、ブチレングリコールジメチルエーテル、ブチレングリコールジエチルエーテル、ブチレングリコールジ-n-ブチルエーテル、2-ブトキシエチルジエトキシエチルエーテル、2-ブトキシエチルトリエトキシエーテル、2-ブトキシエチルテトラエトキシエチルエーテル等のグリコールエーテル系有機溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルアセテート、3-メトキシブチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のアセテート系有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系有機溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、安息香酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル(EEP)、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル等のエステル系有機溶剤;が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0055】
(その他)
硬化剤(B)は、ポリイソシアネート化合物(b1)以外の硬化剤を含み得る。他の硬化剤の含有量は、例えば、すべての硬化剤の合計固形分量の10質量%以下である。
【0056】
(硬化剤(B)の調製方法)
硬化剤(B)は、上記成分を当業者に知られた方法によって混合することによって、調製することができる。混合方法としては、水性塗料組成物の調製と同様の方法が挙げられる。
【0057】
<希釈成分(C)>
水性塗料組成物には、さらに希釈成分(C)が混合されてもよい。希釈成分(C)としては、水性溶媒(a2)と同じものが挙げられる。希釈成分(C)は、水性溶媒(a2)と同じであってよく、異なっていてもよい。
【0058】
希釈成分(C)の混合量は、水性塗料組成物の粘度、塗装方法等を考慮して適宜設定される。希釈成分(C)の混合量は、例えば、水酸基含有樹脂(a1)の固形分100質量部に対して、10質量部以上70質量部以下である。
【0059】
<顔料(D)>
水性プライマーサーフェイサー(X)は、さらに顔料(D)を含んでもよい。顔料(D)の含有量は、例えば、水性プライマーサーフェイサー(X)の主剤(A1)に含まれる樹脂固形分100質量部に対して、100質量部以上300質量部以下であり、120質量部以上200質量部以下であってよい。
【0060】
顔料(D)は特に限定されない。顔料(D)としては、例えば、二酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、銅フタロシアニンブルー等の着色顔料;アルミニウム片、マイカ片等の光輝性顔料;炭酸カルシウム、クレー、タルク、酸化バリウム、シリカ等の体質顔料:トリポリリン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム、リン酸亜鉛等の防錆顔料;が挙げられる。
【0061】
なかでも、下地塗膜の研磨性および造膜性の観点から、少なくとも体質顔料が含まれることが好ましい。体質顔料の割合は、例えば、全顔料の合計100質量部に対して、30質量%以上100質量%以下であり、40質量%以上70質量%以下であってよい。
【0062】
[塗装物品の製造方法]
塗装物品は、被塗物に、水性プライマーサーフェイサー(X)を塗装して、下地塗膜を形成する工程(I)と、下地塗膜上に、水性着色ベース塗料組成物(Y)を塗装して、着色ベース塗膜を形成する工程(II)と、着色ベース塗膜上に、水性クリヤー塗料組成物(Z)を塗装して、クリヤー塗膜を形成する工程(III)と、を備える方法により製造される。
【0063】
水性プライマーサーフェイサー(X)および水性クリヤー塗料組成物(Z)の少なくとも一方は、1以上のエポキシ基を有するシランカップリング剤を含む。これにより、複層塗膜全体の耐水性が向上する。なかでも、水性プライマーサーフェイサー(X)および水性クリヤー塗料組成物(Z)の双方が、エポキシ基含有シランカップリング剤を含むことが好ましい。
【0064】
(I)下地塗膜を形成する工程
本工程では、被塗物に、水性プライマーサーフェイサー(X)を塗装して、下地塗膜を形成する。
【0065】
(水性プライマーサーフェイサー(X)の調製方法)
第1水酸基含有樹脂(a11)と第1水性溶媒(a21)とを混合して、第1主剤(A1)を調製する。別途、第1ポリイソシアネート化合物(b11)と水酸基を有さない第1有機溶媒(b21)とを混合して、第1硬化剤(B1)を調製する。
【0066】
得られた第1主剤(A1)と第1硬化剤(B1)とを混合して、水性プライマーサーフェイサー(X)を調製する。第1主剤(A1)と第1硬化剤(B1)との混合は、塗装の直前に行われる。第1主剤(A1)と第1硬化剤(B1)とは、混合された後、塗装装置に供給されてもよいし、塗装装置内で混合されてもよい。混合方法は、上記の通りである。
【0067】
第1主剤(A1)と第1硬化剤(B1)とは、第1水酸基含有樹脂(a11)の水酸基当量と第1ポリイソシアネート化合物(b11)のイソシアネート基当量とが、イソシアネート基当量/水酸基当量=1/0.5~1/2になるように混合される。
【0068】
水性プライマーサーフェイサー(X)がエポキシ基含有シランカップリング剤を含む場合、第1主剤(A1)および第1硬化剤(B1)の少なくとも一方に、エポキシ基含有シランカップリング剤が添加される。シランカップリング剤は、第1水酸基含有樹脂(a11)および第1ポリイソシアネート化合物(b11)の合計の固形分100質量部に対して、1質量部以上8質量部以下になるように、添加される。
【0069】
(塗装方法)
調製された水性プライマーサーフェイサー(X)を、被塗物上に塗装する。水性プライマーサーフェイサー(X)の塗布量は特に限定されず、塗膜に求められる性能に応じて適宜設定される。水性プライマーサーフェイサー(X)は、例えば、硬化後の下地塗膜の厚さが20μm以上100μm以下になるように、塗布される。
【0070】
水性プライマーサーフェイサー(X)の塗装方法は、特に限定されない。塗装方法としては、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、回転霧化塗装、カーテンコート塗装が挙げられる。これらの方法と静電塗装とを組み合わせてもよい。補修の場合、局所的な塗装が容易である点で、エアスプレー塗装が好ましい。塗装は複数回行われてもよい。
【0071】
水性プライマーサーフェイサー(X)が塗装された後、加熱して、塗膜を硬化させる。硬化条件は、塗布量や組成に応じて適宜設定される。硬化は、例えば、40℃以上70℃以下の温度で、30分から60分間程度行われる。通常、硬化後に、下地塗膜は研磨および脱脂される。研磨は、サンドペーパー等を用いて行われる。
【0072】
補修する場合、水性プライマーサーフェイサー(X)を塗装する前に、必要に応じて、被塗物の対象部位とその周辺が研磨され、パテで凹凸が埋められる。続いて、当該部分は再度研磨される。
【0073】
(被塗物)
被塗物の形状は特に限定されない。被塗物は、平板状であってよく、立体形状を有していてもよい。被塗物の材質も特に限定されない。被塗物の材質としては、例えば、金属、樹脂、ガラスが挙げられる。金属としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛またはこれらの合金が挙げられる。
【0074】
金属製の被塗物は、表面処理されていてもよい。表面処理としては、例えば、リン酸塩処理、クロメート処理、ジルコニウム化成処理、複合酸化物処理が挙げられる。金属製の被塗物は、表面処理後、さらに電着塗料によって塗装されていてもよい。電着塗料は、カチオン型であってよく、アニオン型であってよい。
【0075】
樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂が挙げられる。樹脂製の被塗物は、脱脂処理されていることが好ましい。
【0076】
被塗物としては、具体的には、乗用車、トラック、オートバイ、バス等の自動車車体、あるいは、これらの一部が挙げられる。
【0077】
(II)着色ベース塗膜を形成する工程
本工程では、下地塗膜上に、水性着色ベース塗料組成物(Y)を塗装して、着色ベース塗膜を形成する。水性着色ベース塗料組成物(Y)の塗装は、複数回行われてもよい。
【0078】
(水性着色ベース塗料組成物(Y)の調製方法)
水性着色ベース塗料組成物(Y)は、硬化タイプであってよく、ラッカータイプであってよい。水性着色ベース塗料組成物(Y)は、さらに顔料を含む。顔料としては、例えば、顔料(D)で例示された着色顔料および/または光輝性顔料が挙げられる。
【0079】
硬化タイプの水性着色ベース塗料組成物(Y)は、硬化性の樹脂(例えば、上記の主剤(A))と硬化剤(例えば、上記の硬化剤(B))とを含み、加熱によって硬化塗膜が形成される。硬化タイプの水性着色ベース塗料組成物(Y)は、さらに、シランカップリング剤(例えば、エポキシ基含有シランカップリング剤)を含んでいてもよい。
【0080】
ラッカータイプの水性着色ベース塗料組成物(Y)は、水と、有機溶剤と、これに溶解または分散したバインダー樹脂とを含み、水および有機溶剤の揮発によって、硬化塗膜が形成される。バインダー樹脂の濃度は特に限定されず、組成や用途に応じて適宜設定される。
【0081】
バインダー樹脂は特に限定されない。バインダー樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、アミノアルキド樹脂、アルキド樹脂、アミノ樹脂、イソシアネート樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、カシュー樹脂、シリコーン樹脂、スチレン樹脂、スチレン化アルキド樹脂、セルロース系樹脂(例えば、硝酸セルロースなど)、尿素樹脂、ビニル樹脂、フェノール樹脂、フタル酸樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、および、これらの変性樹脂(例えば、ロジン変性、フェノール変性、エポキシ樹脂変性、スチレン変性、アクリル変性、ウレタン変性)が挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは、2種以上を組み合わせて用いられる。有機溶剤としては、例えば、ナフサ、キシレン、トルエン、アセトンが挙げられる。
【0082】
(塗装方法)
水性着色ベース塗料組成物(Y)の塗装方法は特に限定されず、水性プライマーサーフェイサー(X)と同様の方法が挙げられる。水性着色ベース塗料組成物(Y)の塗布量は特に限定されず、例えば、硬化後の着色ベース塗膜の厚さが10μm以上100μm以下になるように、塗布される。塗装後、塗膜を硬化させる。硬化条件は、水性着色ベース塗料組成物(Y)の組成によって、適宜設定される。
【0083】
(III)クリヤー塗膜を形成する工程
本工程では、着色ベース塗膜上に、水性クリヤー塗料組成物(Z)を塗装して、クリヤー塗膜を形成する。
【0084】
(水性クリヤー塗料組成物(Z)の調製方法)
第2水酸基含有樹脂(a12)と第2水性溶媒(a22)とを混合して、第2主剤(A2)を調製する。別途、第2ポリイソシアネート化合物(b12)と水酸基を有さない第2有機溶媒(b22)とを混合して、第2硬化剤(B2)を調製する。
【0085】
得られた第2主剤(A2)と第2硬化剤(B2)とを混合して、水性クリヤー塗料組成物(Z)を調製する。第2主剤(A2)と第2硬化剤(B2)との混合は、塗装の直前に行われる。第2主剤(A2)と第2硬化剤(B2)とは、混合された後、塗装装置に供給されてもよいし、塗装装置内で混合されてもよい。混合方法は、上記の通りである。
【0086】
第2主剤(A2)と第2硬化剤(B2)とは、第2水酸基含有樹脂(a12)の水酸基当量と第2ポリイソシアネート化合物(b12)のイソシアネート基当量とが、イソシアネート基当量/水酸基当量=1/0.5~1/1.5になるように混合される。
【0087】
水性クリヤー塗料組成物(Z)がエポキシ基含有シランカップリング剤を含む場合、第2主剤(A2)および第2硬化剤(B2)の少なくとも一方に、エポキシ基含有シランカップリング剤が添加される。シランカップリング剤は、第2水酸基含有樹脂(a12)および第2ポリイソシアネート化合物(b12)の合計の固形分100質量部に対して、1.2質量部以上10質量部以下になるように、添加される。
【0088】
(塗装方法)
調製された水性クリヤー塗料組成物(Z)を、水性着色ベース塗膜上に塗装する。水性クリヤー塗料組成物(Z)の塗布量は特に限定されず、塗膜に求められる性能に応じて適宜設定される。水性クリヤー塗料組成物(Z)は、例えば、硬化後のクリヤー塗膜の厚さが20μm以上100μm以下になるように、塗布される。
【0089】
水性クリヤー塗料組成物(Z)の塗装方法は特に限定されず、水性プライマーサーフェイサー(X)と同様の方法が挙げられる。なかでも、エアスプレー塗装が好ましい。塗装は複数回行われてもよい。
【0090】
水性クリヤー塗料組成物(Z)が塗装された後、加熱して、塗膜を硬化させる。硬化は、例えば、40℃以上100℃以下の温度で、15分から60分間程度行われる。
このようにして、下地塗膜と着色ベース塗膜とクリヤー塗膜とをこの順に備える塗装物品が得られる。
【実施例0091】
以下、実施例を用いて本実施形態をより詳細に説明するが、本実施形態は実施例により何ら制限されるものではない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り質量基準による。
【0092】
[調製例]
表1に示す配合に基づき、エポキシ基(Ep基)含有シランカップリング剤を含む硬化剤HAからHE、エポキシ基含有シランカップリング剤を含まない比較硬化剤Ha、エポキシ基に替えてアミノ基を有するシランカップリング剤を含む比較硬化剤Hbを調製した。得られた硬化剤の貯蔵安定性を、以下の方法により評価した。評価結果を表1に示す。
【0093】
表1に示された各成分は、以下の通りである。
ポリイソシアネート化合物A:バーノックDNW-5500(DIC社製)
ポリイソシアネート化合物B:Bayhydur ultra 304(住化コベストロ社製)
シランカップリング剤A:3-グリキドキシプロピルトリメトキシシラン
シランカップリング剤B:3-グリキドキシプロピルトリエトキシシラン
シランカップリング剤C:N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン
【0094】
(1)貯蔵安定性の評価
(1-1)増粘性
試料(硬化剤)の液温を、23℃に調整した。次いで、アネスト岩田株式会社製の粘度カップNK-2を、この試料に沈めて、引き上げた。引き上げた瞬間から、試料がすべて排出されるまでの時間を計測した。これを、初期値T0(秒)とした。
【0095】
次に、試料を金属容器に入れて、密閉した。この金属容器を50℃の恒温室に30日間保管した。その後、金属容器を恒温室から取り出して、液温が23℃になるように調整した。続いて、上記と同様にして、引き上げから試料が排出されるまでの時間(T(秒))を計測した。T-T0を算出し、以下の基準により評価した。
【0096】
最良:T-T0が1秒以内
良:T-T0が1秒超5秒以内
可:T-T0が5秒超10秒以内
不良:T-T0が10秒超
【0097】
(1-2)色相
試料を金属容器に入れて、密閉した。この金属容器を50℃の恒温室に30日間保管した。その後、金属容器を恒温室から取り出して、試料を、気泡が入らないよう注意しながら試験管に入れて密栓した。試料とガードナー色数標準液とを並べて、拡散昼光の下で側面から透かして観察し、評価した。試料の色が一致した場合は、ガードナー色数標準液の色数を記録した。試料の色が二つのガードナー色数標準液の間にある場合は、より試料に近い方のガードナー色数を記録した。判断基準は、以下の通りである。
【0098】
最良:ガードナー色数が1
可:ガードナー色数が2以上3以下
不可:ガードナー色数4以上
【0099】
【0100】
硬化剤HAからHEは、エポキシ基含有シランカップリング剤を含むものの、貯蔵安定性は、シランカップリング剤を含まない硬化剤Haと同程度に良好であった。一方、エポキシ基に替えてアミノ基を有するシランカップリング剤を含む比較硬化剤Hbは、貯蔵安定性に劣る。
【0101】
上記の調製例では、硬化剤(B)に各種シランカップリング剤を添加して評価を行ったが、主剤(A)にシランカップリング剤を添加する場合であっても、エポキシ基含有シランカップリング剤による貯蔵安定性への影響は小さいと考えられる。
【0102】
[実施例1]
以下のようにして、水性プライマーサーフェイサー(X)、水性着色ベース塗料組成物(Y)および水性クリヤー塗料組成物(Z)を調製し、塗装物品を作製した。
【0103】
(1)水性プライマーサーフェイサー(X)の調製
顔料(D)を含む第1主剤(A1)として、nax E-CUBE WBプラサフ ヴィータ グレー(日本ペイント社製、固形分約56%)を準備した。第1主剤(A1)は、水酸基含有樹脂(a11)としてアクリルポリオールをエマルションの形態で含有し、水性溶媒(a21)として純水を含む。水酸基含有樹脂(a11)の固形分濃度は、第1主剤(A1)に含まれる全固形分の24.4%である。
第1硬化剤(B1)として、上記で調製された硬化剤HAを準備した。
希釈成分(C)として、純水を準備した。
【0104】
第1主剤(A1)100部と、硬化剤HA12.5部と、希釈成分(C)適量とを、ディスパーを用いて混合して、プライマーサーフェイサーを調製した。シランカップリング剤の含有量は、水酸基含有樹脂(a11)およびポリイソシアネート化合物(b11)の合計の固形分100質量部に対して、1.18質量部とした。
【0105】
(2)水性着色ベース塗料組成物(Y)の調製
nax E-CUBE WB412 サイレントブラック(日本ペイント社製、固形分約22%)100部、nax E-CUBE WB 911 S-バインダー(補助剤、日本ペイント社製、固形分約26%)50部、および、nax E-CUBE WB R20 標準希釈剤(希釈成分、日本ペイント社製)45部を混合して、ラッカータイプのベースコート塗料を調製した。
【0106】
(3)水性クリヤー塗料組成物(Z)の調製
第2主剤(A2)として、nax E-CUBE WB(2:1)NNクリヤー(日本ペイント社製、固形分濃度約38%)と、純水(水性溶媒(a22))との混合物を準備した。水酸基含有樹脂(a12)は、混合物中でエマルションの形態で存在している。水酸基含有樹脂(a12)の固形分濃度は、第2主剤(A2)に含まれる全固形分の91.5%であった。
【0107】
第2硬化剤(B2)として、上記で調製された硬化剤HAを準備した。
希釈成分(C)として、純水を準備した。
【0108】
第2主剤(A2)100部と、硬化剤HA50部と、希釈成分(C)適量とを、ディスパーを用いて混合して、水性クリヤー塗料組成物(Z)を調製した。シランカップリング剤の含有量は、水酸基含有樹脂(a12)およびポリイソシアネート化合物(b12)の合計の固形分100質量部に対して、1.35質量部とした。
【0109】
(III)塗装物品の作製
(III-1)下地塗膜の形成
60cm×40cmの鋼板(被塗物)に、エアスプレーガンにより水性プライマーサーフェイサー(X)を塗装し、指で触れて塗料が付着しなくなるまでエアブロー乾燥を行った。この塗装および乾燥を、さらに2回繰り返した。続いて、この鋼板を60℃に設定されたオーブンで30分加熱して、下地塗膜(硬化膜厚45μm)を形成した。次いで、得られた塗膜の表面を研磨した。最後に、塗膜の表面を脱脂した。
【0110】
(III-2)水性ベース塗膜の形成
下地塗膜を備える被塗物に、エアスプレーガンにより水性着色ベース塗料組成物(Y)を塗装し、指で触れて塗料が付着しなくなるまでエアブロー乾燥を行った。この塗装および乾燥を、さらに2回繰り返して、水性着色ベース塗膜(硬化膜厚20μm)を形成した。
【0111】
(III-3)クリヤー塗膜の形成
下地塗膜および着色ベース塗膜を備える被塗物に、エアスプレーガンにより水性クリヤー塗料組成物(Z)を3回塗装した。各塗装は、1分間間隔をあけて行った。その後、被塗物を、温度23±2℃、湿度50±2RH%の環境下で15分間静置した。次いで、上記被塗物を70℃設定のオーブンで20分間加熱して、クリヤー塗膜(硬化膜厚50μm)を形成した。
【0112】
[実施例2~8、比較例1~2]
第1硬化剤(B1)および第2硬化剤(B2)の種類を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、水性プライマーサーフェイサー(X)および水性クリヤー塗料組成物(Z)を調製し、塗装物品を作製した。
【0113】
[評価方法]
塗装物品を、以下の方法により評価した。評価結果を、表2に示す。表2におけるシランカップリング剤の含有量は、水酸基含有樹脂(a11)およびポリイソシアネート化合物(b11)の合計の固形分100質量部に対する配合量である。
(2)塗膜性能
(2-1)密着性
硬化されたクリヤー塗膜に、NTカッター(エヌティー株式会社製)により、鋼板に達する切れ目(縦11本、横11本、2mm間隔)を入れ、100個のマス目を作った。すべてのマス目を覆うように、テープ(ニチバン株式会社製、セロテープ(登録商標)、24mm幅)を貼り付けて、上から爪等で強く密着させた。次いで、テープを、塗膜との成す角が約45°になるように引っ張りながら、剥離した。テープ剥離後の塗膜を、目視により評価した。評価基準は、以下の通りである。
【0114】
10点:切れ目1本ごとが細かく、その両側が滑らかであり、かつ、切れ目同士の交点およびマス目内に剥がれがみられない
8点:切れ目同士の交点にわずかに剥がれがあるが、マス目内に剥がれはみられず、剥がれの面積は全マス目の面積の5%未満
6点:マス目内および切れ目同士の交点に剥がれがあり、剥がれの面積は全マス目の面積の5%以上15%未満
4点:マス目内の剥がれ幅が広く、剥がれの面積は全マス目の面積の15%以上35%未満
2点:マス目内の剥がれ幅がより広く、剥がれの面積は全マス目の面積の35%以上65%未満
0点:剥がれの面積は全マス目の面積の65%以上
【0115】
(2-2)耐水性1(浸水試験後の密着性評価)
循環機能の付いた恒温水槽を40℃に設定し、脱イオン水で満たした。ここに、塗装物品を3/4程度、浸漬した。240時間浸漬した後、塗装物品を引き上げて、水滴を軽くふき取った。引き上げた後、塗装物品を室温(23℃)で24時間放置して、上記の密着性評価(2-1)と同様にして、評価した。
【0116】
(2-3)耐水性2(浸水試験後のブリスター評価)
循環機能の付いた恒温水槽を40℃に設定し、脱イオン水で満たした。ここに、塗装物品を3/4程度、浸漬した。240時間浸漬した後、塗装物品を引き上げて、水滴を軽くふき取った。引き上げた後、塗装物品を室温(23℃)で1時間放置して、塗膜を目視により評価した。評価基準は、以下の通りである。
最良:異常なし
良:極小のブリスターが発生しているが、実用上問題ない
可:部分的に1mm以上のブリスターが発生している
不良:全体に1mm以上のブリスターが発生している
【0117】