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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091698
(43)【公開日】2024-07-05
(54)【発明の名称】抗ストレス用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/747 20150101AFI20240628BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20240628BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240628BHJP
   A61P 25/22 20060101ALI20240628BHJP
   A23C 9/00 20060101ALN20240628BHJP
   A23C 9/123 20060101ALN20240628BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20240628BHJP
【FI】
A61K35/747
A23L33/135
A61P25/00
A61P25/22
A23C9/00
A23C9/123
C12N1/20 E
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024062391
(22)【出願日】2024-04-08
(62)【分割の表示】P 2020510010の分割
【原出願日】2019-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2018060637
(32)【優先日】2018-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋大
(72)【発明者】
【氏名】前畑 葉月
(72)【発明者】
【氏名】久原 徹哉
(72)【発明者】
【氏名】豊田 淳
(57)【要約】
【課題】長期間投与でき、安全性が高い抗ストレス用組成物を提供すること。
【解決手段】ラクトバチルス・ヘルベティカスを有効成分とする抗ストレス用組成物を提供する。当該ストレスは精神ストレスであってもよい。また、当該組成物は不安障害、対人恐怖症、社会性の低下、適応障害の治療又は予防のために用いられてもよい。そして、当該ラクトバチルス・ヘルベティカスはラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671であってもよい。さらに、当該組成物が医薬組成物又は飲食品組成物であってもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671を有効成分とする、抗ストレス用組成物。
【請求項2】
前記ストレスが精神ストレスである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、不安障害、対人恐怖症、社会性の低下若しくは適応障害の治療又は予防のために用いられる、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が医薬組成物又は飲食品組成物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671を投与又は摂取する、ストレスの予防又は軽減、若しくは抑制方法(ヒトに対する医療行為を除く)。
【請求項6】
ストレスの予防又は軽減、若しくは抑制のために用いる、ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671。
【請求項7】
抗ストレス用組成物を製造するための、ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671の使用。
【請求項8】
ストレス緩和剤、ストレス緩和用医薬、又はストレス緩和用飲食品へのラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671の使用。
【請求項9】
ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671を投与又は摂取することを含む、ストレス緩和方法(ヒトに対する医療行為を除く)。
【請求項10】
ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671をストレスに対する感受性が高いヒトに投与することを含む、ストレス緩和方法(ヒトに対する医療行為を除く)。
【請求項11】
ストレス下において起こる、不安障害、対人恐怖症、社会性の低下若しくは適応障害の治療及び/又は予防のための、ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671の使用。
【請求項12】
ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671を対象に投与することによる、ストレス下において起こる、不安障害、対人恐怖症、社会性の低下若しくは適応障害の治療及び/又は予防方法(ヒトに対する医療行為を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、ラクトバチルス・ヘルベティカスを有効成分とする抗ストレス用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現代のストレス社会において、人々は生活環境や労働環境の変化、複雑な人間関係、身体的・精神的疲労などにより様々なストレスにさらされている。
【0003】
このようなストレスを緩和するために、様々な抗ストレス剤が開発されてきた。例えば、酸化型補酵素および/または還元型補酵素を有効成分とするストレス症状の緩和または予防剤が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-030901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなストレスは日常的に受けてしまうこともあるため、抗ストレス剤は、長期間投与でき、安全性の高いものであることが好ましい。
そこで、本技術は、長期間投与でき、安全性の高い抗ストレス用組成物を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
近年、強者によるパワーハラスメントやセクシャルハラスメント等の行為による社会構造や人間関係の複雑化により、弱者が受けるストレスが新たな社会問題となっている。このようなストレスを軽減することが求められているが、現在のところ十分な知見が得られていない。
【0007】
そこで、本発明者らは、強者からの攻撃によって弱者が受けるストレスを評価するための動物モデルを設定し、鋭意検討を行ったところ、ラクトバチルス・ヘルベティカスを投与することで、抗ストレス効果、具体的には、精神ストレスを軽減する効果があることを見出した。
【0008】
すなわち、本技術は、以下のとおりである。
〔1〕
ラクトバチルス・ヘルベティカスを有効成分とする、抗ストレス用組成物。
〔2〕
前記ストレスが精神ストレスである、前記〔1〕に記載の組成物。
〔3〕
前記組成物が、不安障害、対人恐怖症、社会性の低下若しくは適応障害を治療又は予防するために用いられる、前記〔1〕又は〔2〕に記載の組成物。
〔4〕
前記ラクトバチルス・ヘルベティカスがラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の組成物。
〔5〕
前記組成物が医薬組成物又は飲食品組成物である、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の組成物。
【発明の効果】
【0009】
本技術によれば、副作用が少なく長期間投与でき、安全性が高い抗ストレス用組成物を提供することができる。なお、本技術の効果は、ここに記載された効果に必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本技術の好ましい実施形態について説明する。ただし、本技術は以下の実施形態に限定されず、本技術の範囲内で自由に変更することができるものである。なお、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量に基づく百分率である。
【0011】
本技術は、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)を有効成分とする抗ストレス用組成物を提供することができる。
【0012】
本技術のラクトバチルス・ヘルベティカスに分類される細菌としては、ラクトバチルス属に属する細菌の中でも、ヘルベティカスに分類される細菌であるラクトバチルス・ヘルベティカス種に属する乳酸菌であれば、使用可能である。
その中でも、ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671を使用することが好ましい。
ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671は、2013年7月29日に、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に、Lactobacillus helveticus MCC1848として寄託されている(受託番号:NITE BP-01671)。この細菌は、上記保存機関より一般に入手可能である。
【0013】
ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671は、上記寄託菌に制限されず、同寄託菌と実質的に同質の細菌であってもよい。実質的に同等の細菌とは、ラクトバチルス・ヘルベティカスに分類される細菌であって、その16SrRNA遺伝子の塩基配列が、上記寄託菌と99.5%以上、好ましくは100%一致し、または上記寄託菌と同一の菌学的性質を有し、上記寄託株と実質的に同一の株も包含される(特開2015-047114号公報)。
菌株について、「上記寄託株と実質的に同等の株」とは、上記寄託株と同一の種に属し、本技術の効果である抗ストレス効果が得られる株を意味する。上記寄託株と実質的に同等の株は、例えば、当該寄託株を親株とする派生株であってよい。派生株としては、寄託株から育種された株や寄託株から自然に生じた株が挙げられる。
【0014】
実質的に同一の菌株、派生株は下記のような株が挙げられる。
(1)RAPD法(Randomly Amplified Polymorphic DNA)、PFGE法(Pulsed-field gel electrophoresis)法によりラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671と同一の菌株と判定される菌株(Probiotics in food/Health and nutritional properties and guidelines for evaluation 85 Page43に記載)
(2)ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671由来の遺伝子のみ保有し、外来由来の遺伝子を持たず、ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671とのDNAの同一性が95%以上である菌株
(3)ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671から育種された株(遺伝子工学的改変、突然変異、自然突然変異で育種された株を含む)で、NITE BP-01671の形質を有する株
【0015】
本技術のラクトバチルス・ヘルベティカスは、例えば、培養することにより増殖させることができる。培養する方法は、本技術のラクトバチルス・ヘルベティカスが増殖できる限り特に限定されず、乳酸菌の培養に通常用いられる方法を、必要により適宜修正して、用いることができる。例えば、培養温度は25~45℃でよく、30~42℃で、特に37~42℃であることが好ましい。また培養は嫌気条件下で行うことが好ましく、例えば、炭酸ガス等の嫌気ガスを通気しながら培養することができる。また、液体静置培養等の微好気条件下で培養してもよい。
【0016】
本技術のラクトバチルス・ヘルベティカスを増殖させるための培養に用いられる培地として、例えば、乳酸菌の培養に通常用いられる培地を、必要により適宜修正して、用いることができる。すなわち、炭素源としては、例えば、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、セロビオース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、デンプン、デンプン加水分解物、廃糖蜜等の糖類を資化性に応じて使用できる。窒素源としては、例えば、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムなどのアンモニウム塩類や硝酸塩類を使用できる。また、無機塩類としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化マンガン、硫酸第一鉄等を用いることができる。また、ペプトン、大豆粉、脱脂大豆粕、肉エキス、酵母エキス等の有機成分を用いてもよい。また、ビフィドバクテリウム属細菌の培養に通常用いられる培地として、具体的には、強化クロストリジア培地(Reinforced Clostridial medium)、MRS培地(de Man, Rogosa, and Sharpe medium)、mMRS培地(modified MRS medium)、TOSP培地(TOS propionate medium)、TOSP Mup培地(TOS propionate mupirocin medium)が挙げられる。
【0017】
本技術のラクトバチルス・ヘルベティカスとして、培養後、得られた培養物をそのまま用いてもよく、希釈又は濃縮して用いてもよく、培養物から回収した菌体を用いてもよい。また、本技術の効果を損なわない限り、培養後に加熱、及び凍結乾燥等の種々の追加操作を行うことができる。また、本菌体は、生菌であっても死菌であってもよいが、死菌であることが好ましく、死菌としては、加熱や凍結乾燥等により殺菌された死菌が挙げられる。その他の死菌体の調製法として、噴霧乾燥法(スプレードライ法)、レトルト殺菌法、凍結乾燥法、UHT殺菌法、加圧殺菌法、高圧蒸気滅菌法、乾熱滅菌法、流通蒸気消毒法、電磁波殺菌法、電子線滅菌法、高周波滅菌法、放射線滅菌法、紫外線殺菌法、酸化エチレンガス滅菌法、過酸化水素ガスプラズマ滅菌法、化学的殺菌法(アルコール殺菌法、ホルマリン固定法、電解水処理法)等が挙げられる。また、本菌体は、破砕物であってもよい。破砕物は、生菌を破砕したものでも死菌を破砕したものでもよく、破砕後に加熱や凍結乾燥等を施したものでもよい。
【0018】
本技術の抗ストレス用組成物は、その有効成分が、乳酸菌である、ラクトバチルス・ヘルベティカスであることから、安全性に優れ、長期間、連続的に投与しても副作用を心配する必要性も少ないため、非常に有用である。さらに、他の組成物との併用においても安全性が高い。
【0019】
後述の実施例で示すとおり、本技術のラクトバチルス・ヘルベティカスは、抗ストレス効果、具体的には精神ストレスを軽減する効果、より具体的には対人ストレス(例えば、社会的敗北ストレス)を軽減する効果を有する。したがって、本技術のラクトバチルス・ヘルベティカスは、抗ストレス用組成物として用いることが可能である。また、医薬品、飲食品等の種々の用途に使用することができ、或いは、これらに配合して使用される素材又は製剤であってもよい。
【0020】
本技術において「抗ストレス」とは、ストレスによる症状若しくは疾患の好転、悪化の防止、遅延、進行の逆転、又は治療等を意味する。また、本技術における「抗ストレス」は、ストレスにより発症する疾患の予防の意味をも包含する。なお、本技術において、「予防」とは、適用対象における症状若しくは疾患の発症の防止若しくは発症の遅延、又は適用対象における症状若しくは疾患の発症の危険性を低下させる等を意味する。
また、本技術における「ストレス」は、物理的ストレス、化学的ストレス、精神ストレス等を包含する。本技術において、「ストレス」は、好ましくは精神ストレスである。
本技術における「精神ストレス」とは、特定の状況により、精神的なストレスを感じ、精神症状、身体症状、また行動面に症状が現れる状況を意味する。症状として憂うつな気分、不安感、意欲や集中力の低下、イライラ感等、身体症状として頭痛、めまい、動悸、倦怠感等が現れる。
【0021】
本技術の抗ストレス用組成物は、好ましくは環境の変化や対人関係で受けるストレスを予防又は軽減、若しくは抑制するために用いられる。また、本技術の組成物は、好ましくは環境の変化で中長期にわたって受けるストレスによる疾患の治療又は予防、具体的には、不安障害、対人恐怖症、社会性の低下若しくは適応障害を治療又は予防するために用いることができる。
【0022】
本技術の抗ストレス用組成物は、具体的には下記のようなストレス疾患を発症している患者を投与対象とすることができる。
1)社会的地位の高い人間から低い人間が攻撃的な言葉や威圧的な態度を、中長期に渡り慢性的に受けることで陥るうつ、不安障害、対人恐怖症、社会性の低下、適応障害。
2)パワハラ、セクハラ、モラハラなど様々なハラスメントを中長期、慢性的に受けることで陥るうつ、不安障害、対人恐怖症、社会性の低下、適応障害。
3)いじめや嫌がらせを学校や会社で中長期、慢性的に受けることで陥る、うつ、不安障害、対人恐怖症、社会性の低下、適応障害。
4)環境の変化に対応できずに陥るうつ、不安障害、対人恐怖症、社会性の低下、適応障害。
5)上記の疾患により引き起こされる無快感症。
6)上記の疾患により引き起こされる多飲(喉の渇きによる)、多食。
7)強者からの攻撃行為によって敗北を感じているものの、職場や家庭、隣人付き合い等の社会的立場から現状の敗北感を解消できない又は軽減できない状況にある社会的敗北ストレスによる、うつ、不安障害、対人恐怖症、社会性の低下、適応障害。
【0023】
また、本技術の抗ストレス用組成物は、下記の対象に投与することが好ましい。
1)几帳面、真面目、責任感が強い、仕事熱心、正義感が強い、頼まれると断れない、人との争いを嫌う、人の思惑を常に気にする等、うつになりやすいとされる性格の人。
2)環境の変化に弱い人。
3)ストレスに関して感受性の高い人。
4)強者からの攻撃行為によって敗北を感じているものの、職場や家庭、隣人付き合い等の社会的立場から現状の敗北感を解消できない又は軽減できない状況にある人。
なお、本技術において「強者」とは、ストレスを受ける者よりも相対的に社会的地位や腕力が強い者のことであることが好ましい。また、本技術において「敗北感」とは、自分の非力さを感じたり、自身に能力や価値がないと思ったりすること等をいう。
【0024】
本技術のラクトバチルス・ヘルベティカスの含有量又は使用量は、本技術の効能を損なわない限り、年齢、症状等に応じて自由に設定することができる。
本技術では、ラクトバチルス・ヘルベティカスの使用量を2×10CFU/kg体重/日以上、又は2×10cells/kg体重/日以上とすることが好ましい。なお、「CFU」は「colony forming unit」、「cells」は細胞数(死菌を含む)をそれぞれ表す。
【0025】
本技術のラクトバチルス・ヘルベティカスの使用間隔(具体的には、投与又は摂取の間隔)は、特に限定されず、1日1回でもよく、複数回に分けて行ってもよい。また、本技術は、毎日継続して使用する(具体的には、投与する又は摂取させる)ことが望ましい。
本技術に用いられるラクトバチルス・ヘルベティカスは経験則的に安全性が高いので、継続して長期間摂取することができる。
【0026】
<医薬組成物>
本技術は、ラクトバチルス・ヘルベティカスを有効成分とする、医薬組成物を提供することができる。本技術の医薬組成物は、ストレスの予防又は軽減、若しくは抑制の用途に応用できる。具体的には、抗ストレス用医薬等である。
【0027】
本技術の医薬組成物は、前記ラクトバチルス・ヘルベティカスを含有する限り特に制限されない。本技術の医薬組成物としては、前記ラクトバチルス・ヘルベティカスをそのまま使用してもよく、生理的に許容される液体又は固体の製剤担体を配合し製剤化して使用してもよい。
【0028】
本技術の医薬組成物は、経口用であってよい。本技術のラクトバチルス・ヘルベティカスは長期間、連続的に投与されても副作用が生じにくいため、安心して投与することができる。
【0029】
本技術の医薬組成物の剤形は特に限定されないが、経口投与の場合、例えば、散剤、顆粒剤、錠剤、トローチ剤、カプセル剤等の固形製剤;溶液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等に製剤化することができる。非経口投与の場合、例えば、座剤、噴霧剤、吸入剤、軟膏剤、貼付剤、注射剤等に製剤化することができる。また、製剤化にあたっては、製剤担体として通常使用される賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、界面活性剤、又は注射剤用溶剤等の添加剤を使用することができる。これらの成分は、剤形に応じて当業者により適宜選択されてよい。
【0030】
本技術の医薬組成物における本技術のラクトバチルス・ヘルベティカスの含有量は、剤形、用法、患者の年齢、性別、疾患の種類、疾患の程度、及びその他の条件等により適宜設定されてよい。本技術の医薬組成物における本技術のラクトバチルス・ヘルベティカスの含有量は、通常、1×10~1×1012CFU/g若しくは1×10~1×1012CFU/mL、又は1×10~1×1012cells/g若しくは1×10~1×1012cells/mLの範囲内であることが好ましい。本技術のラクトバチルス・ヘルベティカスが死菌の場合、CFU/gまたはCFU/mLは、cells/gまたはcells/mLと置き換えることができる。
【0031】
本技術の医薬組成物の投与時期は、対象となる症状又は疾患の治療方法に従って、適宜投与時期を選択することができる。また、本技術の医薬組成物は、予防的に投与されてもよく、又は、維持療法において用いられてもよい。本技術の医薬組成物は、1日1回投与されてもよく又は1日複数回に分けて投与されてもよい。また、本技術の医薬組成物は、数日又は数週間に1回投与されてもよい。
【0032】
<飲食品組成物>
本技術はまた、ラクトバチルス・ヘルベティカスを有効成分とする、飲食品組成物を提供することができる。本技術の飲食品組成物は、ストレスの予防又は軽減、若しくは抑制の用途に応用できる。具体的には、抗ストレス用等の用途をコンセプトとする健康食品、機能性食品等である。
【0033】
本技術の飲食品組成物は前記ラクトバチルス・ヘルベティカスを含有する限り特に制限されない。飲食品組成物としては、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果汁飲料、及び乳酸菌飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調製用粉末を含む);アイスクリーム、シャーベット、かき氷等の氷菓;飴、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、及び焼き菓子等の菓子類;加工乳、乳飲料、発酵乳、ドリンクヨーグルト、及びバター等の乳製品;パン;経腸栄養食、おかゆ等の流動食、離乳食、育児用ミルク、スポーツ飲料;その他機能性食品等が例示される。また、本技術の飲食品組成物は、サプリメントであってもよく、例えばタブレット状のサプリメントであってもよい。サプリメントである場合には、一日当りの食事量及び摂取カロリーについて他の食品に影響されることなく、本技術のラクトバチルス・ヘルベティカスを摂取できる。
上記以外の市販食品としては、例えば、ベビーフード、ふりかけ、お茶潰けのり等が挙げられる。本技術の飲食品組成物は、通常の飲食品の原料に本菌体を添加することにより製造することができ、本菌体を添加すること以外は、通常の飲食品と同様にして製造することができる。本菌体の添加は、飲食品組成物の製造工程のいずれの段階で行ってもよい。また、添加した本菌体による発酵工程を経て、飲食品組成物が製造されてもよい。そのような飲食品組成物としては、乳酸菌飲料、及び発酵乳等が挙げられる。
【0034】
また、本技術の飲食品組成物には、本技術の効果を損なわない限り、公知の又は将来的に見出されるプロバイオティクス効果を有する成分又はプロバイオティクス効果を補助する成分を使用することができる。ここで、一般的に、プロバイオティクスとは、腸内で有益な働きをする細菌をいう。一方、腸内で有益な働きをする細菌の選択的な栄養源となり、それらの増殖を促進する物質をプレバイオティクスという。
例えば、本技術の飲食品組成物は、ホエイタンパク質、カゼインタンパク質、大豆タンパク質、若しくはエンドウ豆タンパク質(ピープロテイン)等の各種タンパク質若しくはその混合物、分解物;ロイシン、バリン、イソロイシン若しくはグルタミン等のアミノ酸;ビタミンB6若しくはビタミンC等のビタミン類;クレアチン;クエン酸;フィッシュオイル;又は、プレバイオティクスである、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ラクチュロース、ヒトミルクオリゴ糖(HMO)等のオリゴ糖等の成分と、本菌体とを配合して製造することができる。本技術で使用できるヒトミルクオリゴ糖としては、2’-フコシルラクトース、3-フコシルラクトース、2’,3-ジフコシルラクトース、ラクト-N-トリオースII、ラクト-N-テトラオース、ラクト-N-ネオテトラオース、ラクト-N-フコペンタオースI、ラクト-N-ネオフコペンタオース、ラクト-N-フコペンタオースII、ラクト-N-フコペンタオースIII、ラクト-N-フコペンタオースV、ラクト-N-ネオフコペンタオースV、ラクト-N-ジフコヘキサオースI、ラクト-N-ジフコヘキサオースII、6’-ガラクトシルラクトース、3’-ガラクトシルラクトース、ラクト-N-ヘキサオースおよびラクト-N-ネオヘキサオース等の中性ヒトミルクオリゴ糖、3’-シアリルラクトース、6’-シアリルラクトース、3-フコシル-3’-シアリルラクトース、ジシアリル-ラクト-N-テトラオースなどの酸性ヒトミルクオリゴ糖が使用できる。
【0035】
本技術で定義される飲食品は、保健用途が表示された飲食品として提供・販売されることも可能である。
「表示」行為には、需要者に対して前記用途を知らしめるための全ての行為が含まれ、前記用途を想起・類推させうるような表現であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体等の如何に拘わらず、全て本技術の「表示」行為に該当する。
【0036】
また、「表示」は、需要者が上記用途を直接的に認識できるような表現により行われることが好ましい。具体的には、飲食品に係る商品又は商品の包装に前記用途を記載したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引き渡しのために展示し、輸入する行為、商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に上記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁的(インターネット等)方法により提供する行為等が挙げられる。
【0037】
一方、表示内容としては、行政等によって認可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示等)であることが好ましい。また、そのような表示内容を、包装、容器、カタログ、パンフレット、POP等の販売現場における宣伝材、その他の書類等へ付することが好ましい。
【0038】
また、「表示」には、健康食品、機能性食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、医薬用部外品等としての表示も挙げられる。この中でも特に、消費者庁によって認可される表示、例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、若しくは機能性表示食品に係る制度、又はこれらに類似する制度にて認可される表示等が挙げられる。具体的には、特定保健用食品としての表示、条件付き特定保健用食品としての表示、身体の構造や機能に影響を与える旨の表示、疾病リスク減少表示、科学的根拠に基づいた機能性の表示等を挙げることができ、より具体的には、健康増進法に規定する特別用途表示の許可等に関する内閣府令(平成二十一年八月三十一日内閣府令第五十七号)に定められた特定保健用食品としての表示(特に保健の用途の表示)及びこれに類する表示が典型的な例である。
【0039】
なお、上述したような表示を行うために使用する文言は、ストレスの治療及び/又は予防等の文言のみに限られるわけではなく、それ以外の文言であっても、ストレスの治療及び/又は予防に関連する各種疾患や症状の治療及び/又は予防の効果を表す文言であれば、本技術の範囲に包含されることは言うまでもない。そのような文言としては、例えば、「仕事によりお疲れの方へ」「仕事によるストレスを感じている方へ」「対人関係に悩んでいる方へ」等需要者に対して抗ストレス効果を認識させるような種々の用途に基づく表示も可能である。
【0040】
本技術の飲食品組成物における本技術のラクトバチルス・ヘルベティカスの含有量は、飲食品組成物の態様によって適宜設定されるが、通常、飲食品中に、1×10~1×1012CFU/g若しくは1×10~1×1012CFU/mL、又は1×10~1×1012cells/g若しくは1×10~1×1012cells/mLの範囲内であることが好ましい。
【0041】
本技術の飲食品組成物は、飲食品組成物の原料に、本技術のラクトバチルス・ヘルベティカスを添加することにより製造することができる。本技術の飲食品組成物は、本技術のラクトバチルス・ヘルベティカスを添加する工程を含むこと以外は、通常の飲食品組成物と同様の方法により製造することができる。
食品又は飲料の原料としては、通常の飲料や食品に用いられている原料を使用することができる。
また、本技術のラクトバチルス・ヘルベティカスは、目的に応じて、飲食品に使用されるような他の乳酸菌と併用して使用することも可能である。
本技術の飲食品組成物には、飲食品組成物製造のための原料、及び食品添加物等、飲食品組成物の製造工程又は製造後に飲食品に添加されるものも含まれる。
本技術の飲食品組成物の製造において、本技術のラクトバチルス・ヘルベティカスの添加は、飲食品組成物の製造工程のいずれの段階で行ってもよい。例えば、一例として、一般的に乳酸菌を添加する工程において本技術のラクトバチルス・ヘルベティカスを添加してもよい。
【0042】
本技術の飲食品組成物は、粉乳を挙げることができ、特に乳幼児用調製粉乳、妊娠期・授乳期の母親向けのママ用ミルクに使用することができる。乳幼児用調製粉乳とは、0~12か月の乳児を対象とする乳児用調製粉乳、6~9か月以降の乳児および年少幼児(3歳まで)を対象とするフォローアップミルク、出生時の体重が2500g未満の新生児(低出生体重児)を対象とする低出生体重児用調製粉乳、牛乳アレルギーや乳糖不耐症等の病的状態を有する児の治療に用いられる各種治療用ミルクなどを指す。さらに、該組成物を保健機能食品や病者用食品に適用することができる。保健機能食品制度は、内外の動向、従来からの特定保健用食品制度との整合性を踏まえて、通常の食品のみならず錠剤、カプセル等の形状をした食品を対象として設けられたもので、特定保健用食品(個別許可型)と栄養機能食品(規格基準型)の2種類の類型からなる。
【0043】
本技術に係る飲食品として、妊娠期・授乳期の母親向けのママ用ミルク(調製粉乳)や栄養補助食品を挙げることができる。ママ用ミルクとは、妊娠・授乳期に必要な栄養をバランスよく配合したミルクなどを指す。
【0044】
本技術の調製粉乳は、具体的には、例えば、抗ストレス用粉乳であってよい。抗ストレス用粉乳は、例えば、以下の方法により製造できる。
【0045】
すなわち、本技術は、下記工程(A)~(C)を含む、抗ストレス用粉乳の製造方法を提供する:
(A)乳成分を含有する培地でラクトバチルス・ヘルベティカス細菌を培養し、培養物を得る工程;
(B)前記培養物を噴霧乾燥および/または凍結乾燥に供し、菌体粉末を得る工程;
(C)前記菌体粉末とプレバイオティクスを混合し、抗ストレス用の粉乳を得る工程。
ここで、前記(C)工程と同時に、又は前記(C)工程の前に、若しくは前記(C)工程の後に、乳成分を混合してもよい。
【0046】
また、本技術は、下記工程(A)を含む、抗ストレス用粉乳の製造方法を提供する:
(A)プレバイオティクス、ラクトバチルス・ヘルベティカス細菌、および乳成分を混合し、粉乳を得る工程。
【0047】
前記乳成分として、例えば牛乳、水牛乳、羊乳、山羊乳、馬乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳、脱脂粉乳、濃縮乳、全脂粉乳、クリーム、バター、バターミルク、練乳、乳タンパク質等を挙げることができる。また、乳タンパク質として、例えば、ホエイ、カゼイン等、及びこれらの加水分解物等を用いることができる。なお、前記加水分解物は、ホエイ、カゼイン等を酸、アルカリや酵素(例えばタンパク質分解酵素)等にて加水分解することで製造できる。
【0048】
また、本技術の食品組成物は、具体的には、例えば、抗ストレス用サプリメントであってよい。抗ストレス用サプリメントは、例えば、以下の方法により製造できる。
【0049】
すなわち、本技術は、下記工程(A)および(B)を含む、抗ストレス用サプリメントの製造方法を提供する:
(A)ラクトバチルス・ヘルベティカス細菌、および賦形剤を混合し、混合物を得る工程;
(B)前記混合物を打錠する工程。
【0050】
上記いずれの製造方法においても、適宜、上記工程で言及した成分以外の成分を併用してよい。
【0051】
なお、本技術は、以下の構成を採用することも可能である。
〔1〕
本技術のラクトバチルス・ヘルベティカスを有効成分とする抗ストレス用組成物。
〔2〕
本技術のラクトバチルス・ヘルベティカスを投与又は摂取する、ストレスの予防又は軽減、若しくは抑制方法。
〔3〕
ストレスの予防又は軽減、若しくは抑制のために用いる、ラクトバチルス・ヘルベティカス、又はその使用。
〔4〕
抗ストレス用組成物を製造するための、ラクトバチルス・ヘルベティカスの使用。
〔5〕
ストレス緩和剤、ストレス緩和用医薬、又はストレス緩和用飲食品へのラクトバチルス・ヘルベティカスの使用。
〔6〕
ラクトバチルス・ヘルベティカスを投与又は摂取することを含む、ストレス緩和方法。
〔7〕
ラクトバチルス・ヘルベティカスをストレスに対する感受性が高いヒトに投与することを含む、ストレス緩和方法。
〔8〕
ストレス下において起こる、不安障害、対人恐怖症、社会性の低下若しくは適応障害の治療又は予防のための、ラクトバチルス・ヘルベティカスの使用。
〔9〕
ラクトバチルス・ヘルベティカスを投与又は摂取することによる、ストレス下において起こる、不安障害、対人恐怖症、社会性の低下若しくは適応障害の治療又は予防方法。
〔10〕
好適には、前記〔1〕~〔9〕のいずれか1つにおいて、前記ストレスが精神ストレスである。
〔11〕
好適には、前記〔1〕~〔10〕のいずれか1つにおいて、前記ラクトバチルス・ヘルベティカスがラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671である。
〔12〕
好適には、前記〔1〕~〔11〕のいずれか1つにおいて、医薬用又は飲食品用である。
〔13〕
下記工程(A)~(C)を含む、抗ストレス用組成物の製造方法:
(A)乳成分を含有する培地でラクトバチルス・ヘルベティカスを培養し、培養物を得る工程;
(B)前記培養物を噴霧乾燥および/または凍結乾燥に供し、菌体粉末を得る工程;
(C)前記菌体粉末とプレバイオティクスを混合し、抗ストレス用組成物を得る工程。
〔14〕
下記工程(A)を含む、抗ストレス用組成物の製造方法:
(A)プレバイオティクス、ラクトバチルス・ヘルベティカス細菌および乳成分を混合し、抗ストレス用組成物を得る工程。
〔15〕
前記乳成分が、乳タンパク質である、前記〔13〕又は〔14〕記載の方法。
〔16〕
前記乳タンパク質が、ホエイ、ホエイ加水分解物、カゼインからなる群より選択される少なくとも1つの成分である、前記〔15〕記載の方法。
〔17〕
下記工程(A)および(B)を含む、抗ストレス用サプリメントの製造方法:
(A)ラクトバチルス・ヘルベティカス属細菌、および賦形剤を混合し、混合物を得る工程;
(B)前記混合物を打錠する工程。
【実施例0052】
以下、実施例に基づいて本技術をさらに詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本技術の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0053】
〔実験例1〕
(1)実験方法
本実験では、大きいマウスに何度も噛みつかれることにより、小さいマウスに社会的敗北を経験させる実験を行い、社会的敗北ストレスによる行動変化(逃避行動の減少、無気力状態)に対するラクトバチルス・ヘルベティカスの効果を検討した。
【0054】
本実験では、C57BL/6Jマウスを社会的敗北ストレス負荷マウスとして用いた。3週間以上同居している雄性及び雌性ICRマウスのケージに雄親のみを残し、そこへC57BL/6Jマウスを入れ、C57BL/6Jマウスが雄親マウスに20回噛みつかれるまでの時間(逃避時間)を計測した。逃避時間が増加するほど、C57BL/6JマウスがICRマウスから逃避しようとしていることを表すため、社会的敗北ストレスが軽減されていると判断した。
【0055】
社会的敗北ストレスを与え始める2日前から行動試験終了時まで、ミルナシプラン(トレドミン錠:ヤンセンファーマ社製)を投与したマウス(陽性対照)、何も与えていないマウス(媒体対照)、およびラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671の生菌体を1日1回ゾンデ針により経口投与したマウスについてそれぞれ実験を行った。
【0056】
(2)実験結果
本実験の結果を以下の表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に示すように、媒体対照では、4日目以降、社会的敗北ストレスによって逃避時間が17秒程度に落ち込んでいるが、ミルナシプランを投与したマウスでは、媒体対照に比べ逃避時間が有意に増加していた。さらに、ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671を投与したマウスでも、ミルナシプランを投与したマウスと同様の挙動を示した。したがって、ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671を摂取することで、社会的敗北ストレスの軽減効果を有することが認められた。
【0059】
〔実験例2〕
(1)実験方法
本実験では、大きいマウスに毎日攻撃されることにより、小さいマウスに慢性的な社会的敗北を反復経験させる実験を行い、複数回の社会的敗北ストレス曝露による行動変化(快感消失)に対するラクトバチルス・ヘルベティカスの効果を検討した。
【0060】
本実験では、C57BL/6Jマウスを社会的敗北ストレス負荷マウスとして用い、ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671の死菌体を、社会的敗北ストレスを与え始める2日前から、行動試験終了時まで投与した。ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671の培養はMRS培地で37℃、16時間、液体静置培養で行った。遠心分離機にて集菌後、生理食塩水に懸濁し、90℃、30分加熱することにより、死菌体を得た。死菌体はマウスの飼料(AIN-93G)に混餌することにより、マウスへの投与を行なった。ICRマウスの縄張りに、C57BL/6Jマウスを入れて5分間戦わせた後、Mケージ(夏目製作所製)に仕切り版を設置したSDケージに両者を移し、24時間同ケージ内で飼育した。この飼育を9日間継続させた。その2日後にマウスのケージに蒸留水および1%スクロース水の入ったボトルを1本ずつ設置し、それぞれ翌日までの飲水量を測定して、通常の水の摂取量に対する1%スクロース水の摂取量の比率(以下、スクロース水の摂取率という)を計算した。マウスはスクロース水を好んで摂取する習性があるが、社会的敗北ストレスを負荷したマウスは快感が消失し、甘い水を好まなくなる。そこで、スクロース水の摂取率の減少が抑えられれば、快感の消失が緩和されていると考え、社会的敗北ストレスが軽減されていると判断した。
【0061】
(2)実験結果
本実験の結果を以下の表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
表2に示すように、ストレスを負荷していない陰性対照群に比べ、ストレスを負荷した陽性対照群はスクロース水の摂取率が減少した。一方、ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671を投与した被検物質投与群は、陽性対照群に比べスクロース水の摂取率の減少が抑えられた。したがって、ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671の死菌体を摂取することで、社会性敗北ストレスの軽減効果を有することが認められた。
【0064】
〔実験例3〕
(1)実験方法
本実験では、大きいマウスに毎日攻撃されることにより、小さいマウスに慢性的な社会的敗北を反復経験させる実験を行い、複数回の社会的敗北ストレス曝露による行動変化(社会性喪失)に対するラクトバチルス・ヘルベティカスの効果を検討した。
【0065】
本実験では、C57BL/6Jマウスを社会的敗北ストレス負荷マウスとして用い、ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671の死菌体を、社会的敗北ストレスを与え始める2日前から、行動試験終了時まで投与した。なお、死菌体は〔実験例2〕と同じものを用いた。当該死菌体はマウスの飼料(AIN-93G)に混餌することにより、マウスへの投与を行った。ICRマウスの縄張りに、C57BL/6Jマウスを入れて5分間戦わせた後、Mケージ(夏目製作所製)に仕切り版を設置したSDケージに両者を移し、24時間同ケージ内で飼育した。この飼育を9日間継続させた。その2日後にICRマウスのケージへC57BL/6Jマウスを入れ、その接触度合いから、社会性を検討した。ICRマウスがいるエリアの周辺にインタラクションゾーン(ICRマウスがいる場所を囲む10cm幅のエリア)をあらかじめ設定し、C57BL/6Jマウスが当該インタラクションゾーンにいる時間を測定することで、C57BL/6Jマウスの社会性の変化を測定した。なお、当該インタラクションゾーンにいた時間は、CCD camera with an automated tracing system (Time OFCR1 software; O'Hara & Co., Tokyo, Japan)を用いて解析した。
【0066】
(2)実験結果
本実験の結果を以下の表3に示す。なお、表に示す値は以下の式によって得られた値である。
100×[C57BL/6Jマウスがインタラクションゾーン(ICRマウスあり)にいた時間]/[C57BL/6Jマウスがインタラクションゾーン外(ICRマウスなし)にいた時間]
【0067】
【表3】
【0068】
表3に示すように、ストレスを負荷していない陰性対照群に比べ、ストレスを負荷した陽性対照群はインタラクションゾーンにいる時間が減少した。すなわち、社会性が低下していた。一方、ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671を投与した被験物質投与群は、陽性対照群に比べインタラクションゾーンにいる時間が増加した。すなわち、社会性の低下が抑えられた。したがって、ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671の死菌体を摂取することで、社会性敗北ストレスの軽減効果を有することが認められた。
【0069】
〔製造例1:発酵乳〕
10%(W/W)還元脱脂粉乳(森永乳業社製)を水に溶解して得た10%(W/W)還元脱脂粉乳培地1000mLを90℃で30分間殺菌し、ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671のシードカルチャーを30mL接種し、37℃で16時間培養する。
これとは別に、乳脂肪3.0%(W/W)、無脂乳固形分9.0%(W/W)からなるベース50Lを70℃に加温し、15MPaの圧力で均質化した後、90℃で10分間殺菌し、40℃に冷却する。該殺菌したベースに、前記のとおり前培養を行ったラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671のカルチャー500mLを接種し、500mL容の樹脂容器に充填し、密封し、37℃で7時間培養した後、直ちに冷却することにより、ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671を含有する抗ストレス用組成物(発酵乳)を得ることができる。この発酵乳は、ラクトバチルス・ヘルベティカスの1日の摂取量が2×10CFU/kg体重/日以上になるように摂取することで、抗ストレス効果が期待できる。
【0070】
〔製造例2:粉末製剤〕
還元脱脂粉乳培地(13重量%脱脂粉乳、0.5重量%酵母エキス含有)を95℃で30分間殺菌したのち、ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671のシードカルチャーを接種し、37℃で16時間培養し、得られる培養物を凍結乾燥してラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671の培養物の粉末製剤を得ることができる。この粉末製剤は、ラクトバチルス・ヘルベティカスの1日の投与量が2×10CFU/kg体重/日以上になるように投与することで、抗ストレス効果が期待できる。
【0071】
〔製造例3:調製粉乳〕
脱塩牛乳乳清蛋白質粉末(ミライ社製)10kg、牛乳カゼイン粉末(フォンテラ社製)6kg、乳糖(ミライ社製)48kg、ミネラル混合物(富田製薬社製)920g、及びビタミン混合物(田辺製薬社製)32g、ラクチュロース(森永乳業社製)500g、ラフィノース(日本甜菜製糖社製)500g、ガラクトオリゴ糖液糖(ヤクルト薬品工業社製)900gを温水300kgに溶解し、さらに90℃で10分間加熱溶解し、調製脂肪(太陽油脂社製)28kgを添加して均質化した。その後、殺菌、濃縮の工程を行って噴霧乾燥し、調製粉乳約95kgを調製した。これに、澱粉に倍散したラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671の菌体粉末(1.8×1011cfu/g、森永乳業社製)100gを加えてビフィズス菌・オリゴ糖配合調製粉乳約95kgを調製する。得られた調製粉乳を水に溶解して、標準調乳濃度である総固形分濃度14%(w/V)の調乳液としたとき、調乳液中のビフィズス菌数は2.7×10cfu/100mLを得ることができる。上述のようにして得られた調整粉乳を投与することにより、抗ストレス効果が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本技術の抗ストレス用組成物は、有効成分がラクトバチルス・ヘルベティカスであることから、安全性に優れ、長期間、連続的に投与又は摂取しても副作用が少ないため、非常に有用である。
【受託番号】
【0073】
(1)ラクトバチルス・ヘルベティカス NITE BP-01671(受託番号:NITE BP-01671、受託日:2013年7月29日)、寄託先:〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8、独立行政法人 製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD)。