(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091757
(43)【公開日】2024-07-05
(54)【発明の名称】ハードコート層付き有色樹脂基材接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 65/16 20060101AFI20240628BHJP
B32B 37/06 20060101ALI20240628BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240628BHJP
B32B 37/16 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
B29C65/16
B32B37/06
B32B27/00 C
B32B37/16
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024065571
(22)【出願日】2024-04-15
(62)【分割の表示】P 2019175576の分割
【原出願日】2019-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】青木 陽祐
(57)【要約】
【課題】ハードコート層付き有色樹脂基材と、各種材料からなる成型品基体を、レーザー光の照射によって、良好な接合強度で接合すること。
【解決手段】ハードコート層付き有色樹脂基材1として、透明樹脂基材11の一方の面に、有色ハードコート層13が積層されているハードコート層付き有色樹脂基材1を用い、ハードコート層付き有色樹脂基材1を、有色ハードコート層13を成型品基体2の表面の側に向けて、積層することにより接合用積層体を得る積層工程と、接合用積層体にレーザー光を照射することにより、有色ハードコート層13を、成型品基体2の表面に、直接接合するか、或いは、接合用樹脂3を介して接合する、レーザー光照射工程と、を含んでなる、ハードコート層付き有色樹脂基材接合体の製造方法とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハードコート層付き有色樹脂基材が、成型品基体に接合されてなる、ハードコート層付き有色樹脂基材接合体の製造方法であって、
前記ハードコート層付き有色樹脂基材として、透明樹脂基材の一方の面に、有色ハードコート層が積層されているハードコート層付き有色樹脂基材を用い、
該ハードコート層付き有色樹脂基材を、前記有色ハードコート層を前記成型品基体の表面の側に向けて、前記成型品基体上に積層することにより接合用積層体を得る積層工程と、
前記接合用積層体にレーザー光を照射することにより、前記有色ハードコート層を、前記成型品基体の表面に、直接接合するか、或いは、接合用樹脂を介して接合する、レーザー光照射工程と、を含んでなる、
ハードコート層付き有色樹脂基材接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコート層付き有色樹脂基材接合体の製造方法に関する。尚、本明細書において、「ハードコート層付き有色樹脂基材接合体」とは、有色の樹脂基材であって表面にハードコート層を備える「ハードコート層付き有色樹脂基材」が、各種の「成型品基体」に接合されてなる積層体全般のことを言うものとする。
【0002】
上記の「ハードコート層付き有色樹脂基材接合体」の具体例としては、プライバシー性向上を目的としたスモークガラス等の表面にハードコート層が積層されている車両用窓ガラスが、炭素繊維強化樹脂(CFRP)等からなる車体の窓枠に接合されてなる接合構造を、その一例として挙げることができる。
【背景技術】
【0003】
省エネルギーを主たる目的とした車両の軽量化のために、自動車等の車両用の窓として、無機ガラスに替えて、より軽量な樹脂性の有機ガラスが採用されるケースが増えている(特許文献1参照)。しかしながら、有機ガラスは、耐傷性が必ずしも十分ではない場合が多く、これを車両用の窓として用いる場合、通常は、その表面に上述のハードコート層を設けることが必須とされている。
【0004】
有機ガラスにハードコート層を形成する方法として、通常、硬化性樹脂によるコーティングや、ハードコート層付きフィルムによる転写、又は該ハードコート層付きフィルムの貼着が行われている。又、上述のハードコート層付きフィルムとしては、基材フィルム上にハードコート層と接着剤層とが積層一体化されてなる、熱転写フィルムが広く用いられている(特許文献2参照)。
【0005】
ここで、特許文献2にも記載されている通り、ハードコート層を備える樹脂基材を、接着剤で成型品基体に接合する際に、ハードコート層と成型品基体の界面での接合強度が不足しやすいことが問題となっていた。
【0006】
この問題を解決するために、例えば、ハードコート層付きの樹脂基材を、成型品基体に積層した状態で、レーザー光を照射することによって、ハードコート層付きの樹脂基材と成型品基体を一体化させる製造方法とすることが考えられる。
【0007】
しかしながら、ハードコート層付きの樹脂基材が、例えば、上述のスモークガラス等、有色の樹脂基材である場合に、有色の樹脂層にレーザー光が吸収されてしまい、ハードコート層と成型品基体の界面における接合を、レーザー光を照射することによっては、良好な接合強度で行えない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2018-134750号公報
【特許文献2】特開2014-208493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ハードコート層付き有色樹脂基材と、各種材料からなる成型品基体を、レーザー光の照射によって、良好な接合強度で接合することができる、ハードコート層付き有色樹脂基材接合体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、成型品基体に積層するハードコート層付き有色樹脂基材について、透明の樹脂基材の一方の面に積層するハードコート層を有色ハードコート層とする構成とし、当該有色ハードコート層を成型品基体の側に向けて積層した状態で、レーザー光の照射を行うことにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
【0011】
(1) ハードコート層付き有色樹脂基材が、成型品基体に接合されてなる、ハードコート層付き有色樹脂基材接合体の製造方法であって、前記ハードコート層付き有色樹脂基材として、透明樹脂基材の一方の面に、有色ハードコート層が積層されているハードコート層付き有色樹脂基材を用い、該前記ハードコート層付き有色樹基材を、前記有色ハードコート層を前記成型品基体の表面の側に向けて、前記成型品基体上に積層することにより接合用積層体を得る積層工程と、前記接合用積層体にレーザー光を照射することにより、前記有色ハードコート層を、前記成型品基体の表面に、直接接合するか、或いは、接合用樹脂を介して接合する、レーザー光照射工程と、を含んでなる、ハードコート層付き有色樹脂基材接合体の製造方法。
【0012】
(1)のハードコート層付き有色樹脂基材接合体の製造方法においては、有色樹脂基材として、透明樹脂基材の一方の面に、有色のハードコート層が積層されている有色樹脂基材を用いることにより、有色ハードコート層と成型品基体との界面に、レーザー光のエネルギーを減衰させずに到達させることができるようにした。これにより、(1)のハードコート層付き有色樹脂基材接合体の製造方法によれば、ハードコート層付き有色樹脂基材と、各種材料からなる成型品基体とを、レーザー光の照射を行う接合方法によって、良好な接合強度で接合することができる。
【0013】
(2) 前記ハードコート層付き有色樹脂基材として、前記透明樹脂基材の他方の面には透明ハードコート層が積層されているハードコート層付き有色樹脂基材を用いる、(1)に記載のハードコート層付き有色樹脂基材接合体の製造方法。
【0014】
(2)のハードコート層付き有色樹脂基材接合体の製造方法においては、一方の面に有色のハードコート層が、他方の面には透明ハードコート層が形成されている、非対称な層構成からなる有色樹脂基材を用いることとした。これによれば、有色の樹脂ガラス等の両面にハードコート性が要求される場合において、(1)の製造方法の奏する上記効果を同様に享受して、両面にハードコート層を備えるハードコート層付き有色樹脂基材と、各種材料からなる成型品基体とを、レーザー光の照射を行う接合方法によって、良好な接合強度で接合することができる。
【0015】
(3) 前記成型品基体の主たる材料が、前記有色ハードコート層とは異種の樹脂材料、又は、金属材料であって、前記接合用樹脂が、熱可塑性樹脂を含んでなる弾性体であり、前記有色ハードコート層を、前記弾性体を介して接合する、(1)又は(2)に記載のハードコート層付き有色樹脂基材接合体の製造方法。
【0016】
(3)のハードコート層付き有色樹脂基材接合体の製造方法によれば、例えば、成型品基体が炭素繊維強化樹脂(CFRP)等、有色ハードコート層とは異種の樹脂材料であるか、或いは、アルミニウム、ステンレス等の金属であることにより、従来、良好な接合強度を得ることが困難であった有色樹脂基材と成型品基体の組合せからなる接合体においても、良好な接合強度で両者を接合することができる。
【0017】
(4) 前記弾性体を形成する前記熱可塑性樹脂が、オレフィン系エラストマー又はポリエステル系エラストマーである、(3)に記載のハードコート層付き有色樹脂基材接合体の製造方法。
【0018】
(4)のハードコート層付き有色樹脂基材接合体の製造方法によれば、(3)の製造方法の奏する上記各効果を、より好ましい水準で、より高い確度で享受することができる。
【0019】
(5) 前記成型品基体が、開口枠を有し、前記積層工程においては、前記ハードコート層付き有色樹脂基材を前記開口枠に嵌合させる、(1)から(4)の何れかに記載のハードコート層付き有色樹脂基材接合体の製造方法。
【0020】
(5)のハードコート層付き有色樹脂基材接合体の製造方法によれば、ハードコート層付きの樹脂基材の表面積に対して、成型品基体側の接合部の面積が狭小となる開口枠部分への接合においても、(1)から(4)の何れかに記載のハードコート製造方法の奏する上記各効果を享受して、ハードコート層付きの樹脂基材の成型品基体の表面への接合を、良好な接合強度で行うことができる。又、本発明の製造方法は、レーザー光の照射による接合方法であることにより、接合部以外の箇所に与える好ましくない影響を最小限に抑えながら、上記のように狭小な接合部に局所的に必要なエネルギー量を効率よく正確に付与することができる点においても、開口枠への有色樹脂基材の接合に好適である。
【0021】
(6) 前記成型品基体が、車両用基体であり、前記ハードコート層付き有色樹脂基材が車両用窓ガラス、エンブレム、ピラー、フロントモールディング、ルーフ、ボンネット、ドア、ドアトリム、シート、若しくはフロントパネル、又はこれらのパーツの一部である、(1)から(5)の何れかに記載のハードコート層付き有色樹脂基材接合体の製造方法。
【0022】
(6)のハードコート層付き有色樹脂基材接合体の製造方法によれば、車両用基体に各種の車両用パーツを接合してなる車両用の接合体の接合において、(1)から(5)の何れかに記載のハードコート製造方法の奏する上記各効果を享受して、車両用基体へ各種パーツを良好な接合強度で接合することができる。
【0023】
(7) 透明樹脂基材の一方の面に、有色ハードコート層が積層されていて、前記樹脂基材の他方の面に、透明ハードコート層が積層されている、ハードコート層付き有色樹脂基材。
【0024】
(7)のハードコート層付き有色樹脂基材を用いることにより、有色の樹脂ガラス等の両面にハードコート性が要求される場合において、両面にハードコート層を備えるハードコート層付き有色樹脂基材と、各種材料からなる成型品基体と、を良好な接合強度で接合することができる。
【0025】
(8) 前記有色ハードコート層の表面の一部に、接合用樹脂が更に積層されている、(7)に記載のハードコート層付き有色樹脂基材。
【0026】
(8)のハードコート層付き有色樹脂基材を用いることにより、例えば、成型品基体が炭素繊維強化樹脂(CFRP)等、有色ハードコート層とは異種の樹脂材料であるか、或いは、アルミニウム、ステンレス等の金属であることにより、従来、良好な接合強度を得ることが困難であった成型品基体に対しても、良好な接合強度によって接合することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ハードコート層を備えるハードコート層付き有色樹脂基材と、各種材料からなる成型品基体とが良好な接合強度で接合されているハードコート層付き有色樹脂基材接合体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明のハードコート層付き有色樹脂基材接合体の製造方法の実施態様を説明することを企図して、当該ハードコート層付き有色樹脂基材接合体を、成型品基体とハードコート層付き有色樹脂基材とに分解して示した分解斜視図である。
【
図2】本発明のハードコート層付き有色樹脂基材接合体の製造方法において行われるレーザー光照射工程の実施態様を模式的に示す図面である。
【
図3】
図2に示すハードコート層付き有色樹脂基材接合体の断面図であり、本発明の製造方法を実施する際に、レーザー光が照射される部分の層構成を模式的に示す図面である。
【
図4】本発明のハードコート層付き有色樹脂基材接合体を構成するハードコート層付き有色樹脂基材の層構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではない。本発明は、その目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0030】
<ハードコート層付き有色樹脂基材接合体>
本発明のハードコート層付き有色樹脂基材接合体10は、
図3に示すように、ハードコート層付き有色樹脂基材1が、好ましくは、熱可塑性樹脂等からなる接合用樹脂3を間に介して、成型品基体2に接合される構成からなる接合体である。但し、成型品基体2が、例えば、熱可塑樹脂である場合等、レーザー光によってハードコート層を直接接合することが可能な材料からなるものである場合には、本発明のハードコート層付き有色樹脂基材接合体において接合用樹脂3は必須ではない。
【0031】
本発明のハードコート層付き有色樹脂基材接合体の技術的範囲には、ハードコート層付き有色樹脂基材1が、直接、成型品基体2に直接接合されているか、或いは、接合用樹脂3を介して接合されている構成を含んでなる、車両、建造物、その他の構造体が全て含まれる。
【0032】
ハードコート層付き有色樹脂基材接合体10を構成するハードコート層付き有色樹脂基材1は、透明樹脂基材11の少なくとも一方の表面に有色ハードコート層13が設けられているフィルム状又は板状の樹脂基材である。
図3に示すように、ハードコート層付き有色樹脂基材接合体10においては、ハードコート層付き有色樹脂基材1は、有色ハードコート層13が積層されている側の面が、成型品基体2の表面に対向する面となるように配置されている。
【0033】
[ハードコート層付き有色樹脂基材]
ハードコート層付き有色樹脂基材1は、全体として有色の外観を有する樹脂基材である。ハードコート層付きのスモークガラス等、ハードコート層付きの樹脂基材において有色の外観が求められる場合、従来、その骨格部として主たる部分を構成する樹脂基材としては、有色の樹脂ガラス等が用いられていた。しかしながら、本発明のハードコート層付き有色樹脂基材1は、基材部分については、敢えて、主たる部分を構成する樹脂基材を、透明樹脂基材とし、その一方の面のハードコート層を有色ハードコート層とすることにより、ハードコート層付きの樹脂基材全体としての有色の外観を実現している。
【0034】
ハードコート層付き有色樹脂基材1は、透明樹脂基材11の一方の面に有色ハードコート層13が積層されていることを必須の構成とする。この場合、他方の面へのハードコート層の積層は任意ではあるが、両面にハードコート層が必要な場合は、他方の面には、透明ハードコート層12が積層される。上記何れの層構成である場合においても、ハードコート層付き有色樹脂基材接合体10を構成する際には、ハードコート層付き有色樹脂基材1は、有色ハードコート層13を備える一方の面が、成型品基体2の表面に対向する面となるように配置される。
【0035】
尚、有色ハードコート層13及び透明ハードコート層12は、何れも、透明樹脂基材11との界面となる側に、通常、透明樹脂基材11との間における必要な密着性を維持するための接着層(図示せず)が更に設けられている。この接着層は、各ハードコート層の側から順に、プライマー層とヒートシール層とが配置されてなる2層構成の接着層であることが好ましい(特許文献2参照)。
【0036】
尚、ハードコート層付き有色樹脂基材1の全体形状は、平板状のものが代表的であるがこれに限られず、用途に応じて適宜選択することができる。例えば、曲面を含む形状に成形された各種の樹脂製の部材をハードコート層付き有色樹脂基材とする場合にも本発明を適用することができる。
【0037】
又、ハードコート層付き有色樹脂基材1の成型品基体2への接合は、上述の通り、両者の接合部分に熱可塑性樹脂を含んでなる接合用樹脂3を配置し、これを介して、両者が接合される構成とすることができる。これにより、上述のように成型品基体2が直接の接合が困難な材料からなる場合においても、ハードコート層付き有色樹脂基材1を良好な接合強度で成型品基体2に接合することができる。
【0038】
(透明樹脂基材)
ハードコート層付き有色樹脂基材1を構成する透明樹脂基材11としては、用途に応じて、様々な樹脂を主材料とする「透明性を有する」樹脂基材を適宜選択することができる。但し、本発明に係るハードコート層付き有色樹脂基材1の透明樹脂基材11としては、有機ガラスを特に好ましく用いることができる。尚、本発明における「有機ガラス」とは、JIS R3211:2015に「有機ガラス」として定義されているもの、及び、それに準じる材料及び層構成からなり、本発明特有の作用効果を同様に奏しうるものことを言うものとする。「有機ガラス」の代表的な具体例としては、ポリカーボネート樹脂を主たる材料とする硬質合成樹脂を挙げることができる。
【0039】
透明樹脂基材11としては、具体的に、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、又は、ポリエステル樹脂等を主材料とする有機ガラスを好ましく用いることができる。又、これらの中でも耐衝撃性に優れることから、ポリカーボネート樹脂を主材料とする有機ガラスを、ハードコート層付き有色樹脂基材1構成する透明樹脂基材11として特に好ましく用いることができる。
【0040】
ここで、本発明における「透明樹脂基材」とは、「透明性を有する」基材のことを言い、尚且つ、「透明性を有する」とは、完全な透明のみに限定されず半透明であることをも含む概念である。即ち、本明細書において「透明性を有する」とは、具体的には、可視光域から赤外線領域に亘る波長700nm~波長1500nmにおける光線透過率が、何れの波長においても70%以上であることを言い、好ましくは、波長800nm~波長1300nmにおける光線透過率が何れの波長においても80%以上であることを言う。又、接合のために照射するレーザーの波長が予め特定されている場合であれば、少なくとも、当該波長における、光線透過率が70%以上である樹脂基材を、本発明における「透明樹脂基材」として用いることもできる。
【0041】
(ハードコート層)
透明ハードコート層12及び有色ハードコート層13(以下、両者をまとめて「ハードコート層」とも言う)は、何れも、硬化性樹脂を含んでなる樹脂組成物(以下、「硬化性樹脂組成物」とも言う)からなる層である。そして、これらの各ハードコート層は、ハードコート層付き有色樹脂基材1が、成型品基体2に接合されてなるハードコート層付き有色樹脂基材接合体10において、当該ハードコート層付き有色樹脂基材1の両最表面にハードコート層を形成して、各表面に良好な耐傷性を付与する。
【0042】
ハードコート層(透明ハードコート層12、有色ハードコート層13)を形成する硬化性樹脂組成物の主たる材料とする硬化性樹脂しては、熱硬化性樹脂、或いは、電離放射線硬化性樹脂を、適宜選択して用いることができる。
【0043】
ハードコート層(透明ハードコート層12、有色ハードコート層13)を形成するための硬化性樹脂組成物のベース樹脂として熱硬化性樹脂を用いる場合、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、尿素樹脂、熱硬化性アクリル樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0044】
ハードコート層(透明ハードコート層12、有色ハードコート層13)を形成するための硬化性樹脂組成物のベース樹脂として電離放射線硬化性樹脂を用いる場合、従来から電離放射線硬化性を有する樹脂として慣用されている重合性オリゴマーやプレポリマーの中から適宜選択して用いることができる。そのような重合性オリゴマーやプレポリマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つオリゴマーやプレポリマー、例えば、エポキシ(メタ)アクリレート系、ウレタン(メタ)アクリレート系やポリエーテル系ウレタン(メタ)アクリレートやカプロラクトン系ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート系、ポリエーテル(メタ)アクリレート系のオリゴマーやプレポリマー等を好ましく用いることができる。
【0045】
ハードコート層(透明ハードコート層12、有色ハードコート層13)を形成するための硬化性樹脂として電離放射線硬化性樹脂を用いる場合、これらの樹脂に照射する電離放射線としては、電磁波又は荷電粒子線のうち、分子を重合或いは架橋し得るエネルギー量子を有するもの、例えば、紫外線(UV)又は電子線(EB)を選択することができる。又、その他、X線、γ線等の電磁波、α線、イオン線等の荷電粒子線も選択することができる。
【0046】
又、硬化性樹脂組成物は、耐候性及びハードコート性を向上させ、優れた透明性を得る観点から、シリコーン化合物を含有させることができる。シリコーン化合物としては、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、(メタ)アクリロイル基、アリル基等の反応性官能基を有する反応性シリコーン化合物、或いはこれらの反応性官能基を有しない非反応性シリコーン化合物の何れも使用することができる。
【0047】
又、ハードコート層(透明ハードコート層12、有色ハードコート層13)を形成する硬化性樹脂組成物は、更に、ハードコート性や耐候性を向上させるために、耐傷フィラーや、耐候剤を含有することが好ましい。特に、透明ハードコート層12に含有させることができる耐傷フィラーとしては、無機系と有機系のフィラーがあり、無機物では、例えば、アルミナ、シリカ、カオリナイト、酸化鉄、ダイヤモンド、炭化ケイ素等の無機粒子が挙げられる。これらの無機系の耐傷フィラーのうち、シリカ粒子は好ましいものの一つである。シリカ粒子は、ハードコート性を向上させ、且つ、ハードコート層の透明性を阻害しないからである。シリカ粒子としては、従来公知のシリカ粒子から適宜選択して用いることが可能であり、コロイダルシリカ粒子等も好適に挙げられる。コロイダルシリカ粒子は、添加量が増えた場合であっても、透明性に影響を及ぼすことが少ない。
【0048】
又、有色ハードコート層13については、上記の各硬化性樹脂組成物に所望の色味の顔料を適宜選択して適量添加することにより、各種の色を付与することができる。例えば、有色ハードコート層13に黒味を付与する場合であれば、カーボンブラック、青味を付与する場合であればシニアンブルー、黄色を付与する場合であればキナクリドンを用いることができる。
【0049】
ここで、本発明における「透明ハードコート層」とは、「透明性を有する」ハードコート層のことを言い、「透明性を有する」とは、具体的な定義も含め、上述した通りであり、完全な透明のみに限定されず半透明であることをも含む概念である。
【0050】
又、本発明における「有色ハードコート層」とは、少なくとも可視光域の何れかの波長域の光を吸収する半透明及び非透明な層であることを言う。具体的には、波長400nm~波長700nmにおける透過率が、何れの波長においても70%未満であることが好ましい。又、ハードコート層付き有色樹脂基材と成型品基体の接合のために照射するレーザーの波長が予め特定されている場合であれば、少なくとも、当該波長における、光線吸収率が80%以上であるハードコート層を本発明における「有色ハードコート層」とすることもできる。
【0051】
(ハードコート層付き有色樹脂基材の製造方法)
ハードコート層付き有色樹脂基材1の製造は、例えば、透明樹脂基材11上に、例えば、基材フィルム上にハードコート層と接着層とが積層一体化されてなる、転写用ハードコートフィルム積層体(熱転写フィルム)を、接着層を介して転写する製造方法により得ることができる。
【0052】
上記の転写用ハードコートフィルム積層体は、ハードコート層付き有色樹脂基材1と、ハードコート層付き有色樹脂基材1を支持する支持基材である基材フィルムとが積層されてなる樹脂フィルムである。この転写用ハードコートフィルム積層体を構成するハードコート層付き有色樹脂基材1が、有機ガラス等からなる透明樹脂基材11の表面に転写されてハードコート層(透明ハードコート層12、有色ハードコート層13)が形成される。
【0053】
[成型品基体]
成型品基体2とする部材の種類は、特に限定されない。耐傷性等のハードコート性が必要になるもので、例えば、自動車等の各種車両の窓や、その他の内外装用の部品、太陽電池カバー又は太陽電池基板、一般住居や公共施設の建築構造物の外装材や内装材、家電製品の部材等を広く成型品基体として用いることができる。
【0054】
但し、本発明は、成型品基体2が、ハードコート層付き有色樹脂基材1とは異種の樹脂材料、又は、金属材料からなるものであるときに、特に従来方法に対する優位性が顕著に発現する。そのような観点から、成型品基体2の材料は、ハードコート層付き有色樹脂基材1とは異種の樹脂材料、又は、金属材料であることがより好ましい。ハードコート層付き有色樹脂基材1とは異種の樹脂材料とは、透明樹脂基材11及び有色ハードコート層13を形成する主たる樹脂材料と異なる種類の樹脂材料のことを意味するものであるが、特に接合強度の向上を阻害する有色ハードコート層13を形成する主たる樹脂材料と異種の材料であることが上記の優位性の発現のより重要な要件となる。
【0055】
成型品基体2を構成する樹脂の具体例としては、上述した炭素繊維強化樹脂(CFRP)等の機能性樹脂の他、成型品として汎用的に使用されているポリプロピレン等のポリオレフィン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体等を代表的な例として挙げることができる。又、成型品基体2を構成する金属の具体例としては、アルミニウム、ステンレス、鉄、マグネシウム、チタン等を挙げることができる。尚、成型品基体2の形状は、成型品の用途に応じて適宜選択することができ、板状のものには限られない。又、成型品基体2は、ハードコート層付き有色樹脂基材1を嵌合するための開口枠を有するものであることがより好ましい。接合面が相対的に狭小となるこのような実施形態においても、本発明は、ハードコート層付き有色樹脂基材1と成型品基体2との接合強度を十分に向上させることができるからである。
【0056】
[接合用樹脂]
ハードコート層付き有色樹脂基材1と成型品基体2との間に接合用樹脂3を介在させる場合、この接合用樹脂3としては、各種の熱可塑性樹脂をフィルム状に製膜した樹脂フィルムを用いることができる。この樹脂フィルムとしては、ハードコート層付き有色樹脂基材1及び成型品基体2に対して溶着可能であり、両者の接合部分において弾性を有する樹脂層を形成可能な弾性材料であれば、ハードコート層付き有色樹脂基材1と成型品基体2の材質に対応させて、適宜最適な樹脂材料からなるものを選択することができる。
【0057】
接合用樹脂3の主たる材料とする熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブテン樹脂、エチレン-プロピレン共重合体樹脂、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体樹脂等、或いは、それらの何れかをベース樹脂とする各種のオレフィン系エラストマー、或いは、ポリエステル系エラストマー、スチレン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、塩素化ポリエチレン系エラストマー、クロロスルフォン化エチレン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、シリコーンゴム系エラストマー、アクリルゴム系エラストマー、フッ素ゴム系エラストマー等から適宜選択することができる。これらの中でも、オレフィン系エラストマー、或いは、ポリエステル系エラストマーをからなる樹脂フィルムを、接合用樹脂3として、特に好ましく用いることができる。
【0058】
[車両用の接合体]
ハードコート層付き有色樹脂基材接合体10は、車両用の接合体として使用することが好ましく、具体的には、車両用の窓ガラス、エンブレム、ピラー、フロントモールディング、ルーフ、ボンネット、ドア(特にバックドア又はサイドドア)等の外装パーツや、ドアトリム、シート、フロントパネル等の内装パーツ、又はこれらのパーツの一部を構成するハードコート層付き有色樹脂基材1を、成型品基体2としての車両用基体に接合した接合体として実施することができる。これらの実施態様によれば、各種のパーツが車両用基体に強固に接合した接合体を車両用途に提供することが可能となる。
【0059】
又、ハードコート層付き有色樹脂基材接合体10の特に好ましい実施形態の一例として、車両用の窓ガラスを有機ガラスで構成し、これを車両用基体に接合した、車両用の窓ガラス接合体を挙げることができる。この場合、車両用の窓ガラスを構成する有機ガラスが、ハードコート層付き有色樹脂基材接合体10を構成するハードコート層付き有色樹脂基材1に該当し、同様に、炭素繊維強化樹脂やアルミニウム等の各種金属からなる車両用基体が成型品基体2に該当する。この場合において、車両用の窓ガラスとして用いられるハードコート層付き有色樹脂基材1を、その輪郭が車両用基体である成型品基体2の開口(窓枠等)の外縁に整合するように嵌合させて、上記態様で接合することにより、本発明のハードコート層付き有色樹脂基材接合体10を、車両用の窓ガラス接合体に適用することができる。
【0060】
尚、ハードコート層付き有色樹脂基材接合体10は、車両用窓ガラスとして、自動車のバックウインドウやフロントウインドウ、サイドウインドウ、サンルーフ用の天窓に広く適用することが可能である他、自動車以外の車両の窓、及び、その他のハードコート層付きの部材の基体への接合に広く適用することが可能である。
【0061】
[ハードコート層付き有色樹脂基材接合体の製造方法]
本発明のハードコート層付き有色樹脂基材接合体は、以下に詳細を説明する積層工程とレーザー光照射工程とを、順次行う製造方法により製造することができる。
【0062】
(積層工程)
積層工程は、例えば、
図1に模式的に示すよう態様で、成型品基体2の表面に、必要に応じて適切な接合用樹脂3を介して、ハードコート層付き有色樹脂基材1を、積層する工程である。この際に、ハードコート層付き有色樹脂基材1は、有色ハードコート層13を成型品基体2の表面に向けて積層する。このようにして得た積層体を、ハードコート層付き有色樹脂基材接合体10を構成する接合用積層体とし、これを次工程であるレーザー光照射工程に付すことによって一体化する。
【0063】
(レーザー光照射工程)
レーザー光照射工程は、例えば、
図2及び
図3に模式的に示すよう態様で、積層工程で得た上記の接合用積層体に、レーザー光を照射することにより、ハードコート層付き有色樹脂基材1と成型品基体2とを接合する工程である。
【0064】
このレーザー光照射工程において用いるレーザー光は、上記の接合が可能な光エネルギーを、上記の接合用積層体の接合界面に制御可能に適量で付与できるものであれば、特定波長のレーザー光に限定されない。但し、
図2に示すように、レーザー光照射機器20によって、レーザー光Lを、接合部分に局所的に照射する方法が本発明の実施形態としては特に好ましい。
【0065】
例えば、有色ハードコート層13が、カーボンブラックを含有する黒色の層であって、レーザー光Lの波長700nm~1500nmにおける透過率が、何れの波長においても20%程度である場合であれば、
図2に示すような態様で照射されたレーザー光Lは、その波長にかかわらず、透明性を有する透明ハードコート層12及び透明樹脂基材11を、ほぼ全量のエネルギーを維持したまま透過し、有色ハードコート層13に到達する。そして、有色ハードコート層13は、レーザー光Lを吸収することによって加熱されるか、或いは、適度に有色ハードコート層13を透過して更にその下層の部分が加熱され、これにより、ハードコート層付き有色樹脂基材1と成型品基体2とを良好な接合強度で接合させることができる。
【0066】
これに対して、ハードコート層付き有色樹脂基材1の骨格を構成する樹脂基材、或いは、成型品基体2との接合界面との反対側の面に配置されるハードコート層にカーボンブラックを添加して、全体として同様の有色を有するものとした場合には、
図2に示すレーザー光Lは、成型品基体との接合界面に到達する前に、上記何れかの有色層に吸収されることによってエネルギーが減衰してしまうため、ハードコート層付き有色樹脂基材1と成型品基体2とを良好に接合させることができない。
【実施例0067】
<ハードコート層付き有色樹脂基材の作成>
[実施例・比較例1に用いるハードコート層付き有色樹脂基材]
透明なポリカーボネート製の有機ガラス(厚さ4mm)の片面に、ベース樹脂としてアクリレート系のオリゴマーを用いカーボンブラックを添加した樹脂組成物を硬化させてなる有色ハードコート層を設け、他方の片面に、ベース樹脂としてアクリレート系のオリゴマーを用いた樹脂組成物を硬化させてなる透明ハードコート層を設けた「ハードコート層付き有機ガラス」を、実施例の「ハードコート層付き有色樹脂基材」として用いた。この樹脂基材のサイズは、100mm×50mmとした。
【0068】
[比較例2に用いるハードコート層付き有色樹脂基材]
カーボンブラックを含有する暗色のポリカーボネート製の有機ガラス(厚さ4mm)の両面に、ベース樹脂としてアクリレート系のオリゴマーを用いた樹脂組成物を硬化させてなる透明ハードコート層を設けた「ハードコート層付き有機ガラス」を、比較例の「ハードコート層付き有色樹脂基材」として用いた。この樹脂基材のサイズは、実施例と同じく100mm×50mmとした。
【0069】
<外観の確認>
実施例と比較例の「ハードコート層付き有色樹脂基材」の外観を、両面からの視認により確認したところ、何れも黒に近い外観であり、人の視認によっては、色味の区別が極めて困難な程度に外観の色味は近似していた。
【0070】
<ハードコート層付き有色樹脂基材接合体の作成>
[積層及びレーザー光照射]
実施例及び比較例用のそれぞれの上記「ハードコート層付き有色樹脂基材」と、下記の「接合用樹脂」、「成型品基体」をこの順で積層配置して得た積層体を、レーザー光の照射による溶融接合により一体化した。尚、実施例においては、「ハードコート層付き有色樹脂基材」は、有色ハードコート層の側の面を接合用樹脂に対面させた。一方、比較例1においては、透明ハードコート層の側の面を接合用樹脂に対面させた。実施例及び何れの比較例においても、レーザー光の照射条件は同一条件とし、具体的には、波長900nm~1100nmのレーザー光を、照射時間2秒間、照射量0.3kW、その間0.1秒のONOFFを繰り返すパルス条件で
図2に示すような態様で照射した。
【0071】
[接合用樹脂]
ポリエステル樹脂系の熱可塑性エラストマー(「ハイトレルHTD-741H」(東レ・デュポン社製))をベース樹脂とする樹脂組成物を、厚さ50μmに製膜して得た樹脂フィルムを、実施例及び比較例の「ハードコート層付き有色樹脂基材接合体」を製造するために用いる、「接合用樹脂」として用いた。この樹脂フィルムのサイズは、10mm×25mmとした。
【0072】
[成型品基体]
厚さ2mmの25mm×100mm形状のCRTP(樹脂PPS)を、試験用の成型品基体として用いた。
【0073】
<接合強度の確認>
本発明の製造方法で得ることができる「ハードコート層付き有色樹脂基材接合体」における「ハードコート層付き有色樹脂基材」と「成型品基体」との接合強度を確認したところ、実施例の「ハードコート層付き有色樹脂基材接合体」は、良好な強度での接合が可能であったが、比較例1、2の「ハードコート層付き有色樹脂基材接合体」においては、上記照射条件では、何れも、同様の接合強度を得ることができなかった。又、両比較例において、段階的に上記の照射量を増加させていったところ、実施例同様の接合強度を得ることはできるにいたったが、その場合には、ハードコート層にレーザー光の照射痕跡が視認可能に形成されてしまっていた。
【0074】
以上の確認結果より、本発明のハードコート層付き有色樹脂基材接合体の製造方法によれば、ハードコート層を備えるハードコート層付き有色樹脂基材と、各種材料からなる成型品基体との接合強度を、有意に向上させることができることが確認された。