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  • -非晶質固体分散体を含む複合物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091760
(43)【公開日】2024-07-05
(54)【発明の名称】非晶質固体分散体を含む複合物
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/10 20060101AFI20240628BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240628BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
A61K9/10
A61K47/38
A61K47/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2024065705
(22)【出願日】2024-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】石丸 光男
(72)【発明者】
【氏名】藁品 彰吾
(72)【発明者】
【氏名】星野 貴史
(57)【要約】
【課題】ポリビニルピロリドン以外のキャリヤーを含む固体分散体と、固体分散体の外側にあるHPMCASを少なくとも含み、薬物の溶出性の一層高い複合物を提供する。
【解決手段】薬物に加えて、ビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート及び第1ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートからなる群から選ばれるキャリヤーを少なくとも含む固体分散体と、前記固体分散体の外側にある第2ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを少なくとも含む複合物を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物に加えて、ビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート及び第1ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートからなる群から選ばれるキャリヤーを少なくとも含む固体分散体と、前記固体分散体の外側にある第2ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを少なくとも含む複合物。
【請求項2】
前記キャリヤーが、20℃における2質量%水溶液のウベローデ型粘度計による粘度として1.0~50.0mPa・sを有するメチルセルロースである請求項1に記載の複合物。
【請求項3】
前記キャリヤー100質量部に対して、前記薬物が10~100質量部、第2ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートが10~100質量部である請求項1又は請求項2に記載の複合物。
【請求項4】
前記薬物が、水難溶性薬物である請求項1又は請求項2に記載の複合物。
【請求項5】
薬物に加えて、ビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート及び第1ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートからなる群から選ばれるキャリヤーを少なくとも含む固体分散体を製造する工程と、
前記固体分散体に、第2ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを添加する工程
を少なくとも含む複合物の製造方法。
【請求項6】
前記固体分散体に、前記第2ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを添加する工程が、前記固体分散体と前記第2ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの混合、前記第2ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの存在下での前記固体分散体の造粒、又は前記第2ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートによる前記固体分散体のコーティングを含む請求項5に記載の複合物の製造方法。
【請求項7】
前記キャリヤーが、20℃における2質量%水溶液のウベローデ型粘度計による粘度として1.0~50.0mPa・sを有するメチルセルロースである請求項5又は請求項6に記載の複合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを固体分散体の外側に含む複合物に関する。
【背景技術】
【0002】
固体分散体は、例えば、薬物とキャリヤーを溶媒に溶解させた後に、溶媒を除去、析出させることで製造できる(特許文献1)。固体分散体は、薬物が非晶質(アモルファス)の状態でキャリヤーに分子分散し、薬物の溶解性が見かけ上顕著に上昇して生物学的利用能が改善される。
【0003】
薬物を非晶質で分散している固体分散体は、経口摂取後の薬物の吸収性を向上できる反面、固体分散体の保管中に薬物の再結晶を生じる物理安定性の問題がある。この安定性を高めるため、固体分散体の外側に安定化剤を含む医薬組成物が提案され、ポリビニルピロリドン(以下「PVP」とも称する)をキャリヤーとして含む固体分散体と、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル(別名:ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、以下「HPMCAS」とも称する)を外部安定化剤として含む医薬組成物の実験結果が報告されている(特許文献2)。
【0004】
また、PVPをキャリヤーとして含む固体分散体において、外部安定化剤としてHPMCASに換えてヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下「HPMC」とも称する)を用いても同様な安定化効果が得られたことから、HPMCASによる安定化はアセテート基及びサクシネート基と固体分散体との分子間相互作用によるものではないと報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-98179号公報
【特許文献2】特表2023-515764号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics 2021,169,189-199
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2は、「最も好ましくは、ポリビニルピロリドンが固体分散体マトリックス剤として使用される。」と記載し、実際にキャリヤーとしてPVPを使用するが、PVP以外は多数の候補を例示するだけで、PVP以外のキャリヤーを含む固体分散体と外側HPMCASとの関係については不明である。非特許文献1もキャリヤーとしてPVPを使用しており、他のキャリヤーを使用した場合の結果については不明である。
本発明は、PVP以外のキャリヤーを含む固体分散体と、前記固体分散体の外側にあるHPMCASを少なくとも含み、薬物の溶出性の一層高い医薬組成物を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、薬物の溶出性は、固体分散体中のキャリヤーの種類に依存するだけでなく、キャリヤーと、固体分散体の外部に存在するHPMCASとの関係性に依存することを見出し、特に、固体分散体のキャリヤーとして今まで殆ど使用されていなかったメチルセルロースとHPMCASの組合せが薬物の溶出性を大きく改善することを見出し、本発明を完成した。
本発明の一つの態様では、薬物に加えて、ビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート及び第1ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートからなる群から選ばれるキャリヤーを少なくとも含む固体分散体と、前記固体分散体の外側にある第2ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを少なくとも含む複合物を提供する。
本発明の別の態様では、薬物に加えて、ビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート及び第1ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートからなる群から選ばれるキャリヤーを少なくとも含む固体分散体を製造する工程と、前記固体分散体に、第2ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを添加する工程を少なくとも含む複合物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い初期溶出性を含めて溶出性の高い複合物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1及び4、比較例1及び4における溶出時間とニフェジピンの溶出率(%)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(1)固体分散体
固体分散体は、薬物とキャリヤーを少なくとも含む。
固体分散体に含まれる薬物は、経口投与可能であれば特に限定されるものではなく、1種類を用いても2種類以上の混合物を用いてもよい。かかる薬物としては、例えば、中枢神経系薬物、循環器系薬物、呼吸器系薬物、消化器系薬物、抗生物質、鎮咳去たん剤、抗ヒスタミン剤、解熱鎮痛消炎剤、利尿剤、自律神経作用薬、抗マラリア剤、止潟剤、向精神剤、ビタミン類及びその誘導体等が挙げられる。
【0012】
中枢神経系薬物としては、例えば、ジアゼパム、イデベノン、アスピリン、イブプロフェン、パラセタモール、ナプロキセン、ピロキシカム、ジクロフェナック、インドメタシン、スリンダック、ロラゼパム、ニトラゼパム、フェニトイン、アセトアミノフェン、エテンザミド、ケトプロフェン及びクロルジアゼポキシド等が挙げられる。
循環器系薬物としては、例えば、モルシドミン、ビンポセチン、プロプラノロール、メチルドパ、ジピリダモール、フロセミド、トリアムテレン、ニフェジビン、アテノロール、スピロノラクトン、メトプロロール、ビンドロール、カプトプリル、硝酸イゾソルビト、塩酸デラプリル、塩酸メクロフェノキサート、塩酸ジルチアゼム、塩酸エチレフリン、ジギトキシン、塩酸プロプラノロール及び塩酸アルプレノロール等が挙げられる。
【0013】
呼吸器系薬物としては、例えば、アムレキサノクス、デキストロメトルファン、テオフィリン、プソイドエフェドリン、サルブタモール及びグアイフェネシン等が挙げられる。
消化器系薬物としては、例えば、2-[〔3-メチル-4-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)-2-ピリジル〕メチルスルフィニル]ベンゾイミダゾール及び5-メトキシ-2-〔(4-メトキシ-3,5-ジメチル-2-ピリジル)メチルスルフィニル〕ベンゾイミダゾール等の抗潰瘍作用を有するベンゾイミダゾール系薬物、シメチジン、ラニチジン、塩酸ピレンゼピン、パンクレアチン、ビサコジル並びに5-アミノサリチル酸等が挙げられる。
【0014】
抗生物質としては、例えば、塩酸タランピシリン、塩酸バカンピシリン、セファクロル及びエリスロマイシン等が挙げられる。
鎮咳・去たん剤としては、例えば、塩酸ノスカピン、クエン酸カルベタペンタン、臭化水素酸デキストロメトルファン、クエン酸イソアミニル及びリン酸ジメモルファン等が挙げられる。
抗ヒスタミン剤としては、例えば、マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸ジフェンヒドラミン及び塩酸プロメタジン等が挙げられる。
解熱鎮痛消炎剤としては、例えば、イブプロフェン、ジクロフェナクナトリウム、フルフェナム酸、スルピリン、アスピリン及びケトプロフェン等が挙げられる。
利尿剤としては、例えば、カフェイン等が挙げられる。
【0015】
自律神経作用薬としては、例えば、リン酸ジヒドロコデイン、dl-塩酸メチルエフェドリン、塩酸プロプラノロール、硫酸アトロピン、塩化アセチルコリン、ネオスチグミン等が挙げられる。
抗マラリア剤としては、例えば、塩酸キニーネ等が挙げられる。
止潟剤としては、例えば、塩酸ロペラミド等が挙げられる。
向精神剤としては、例えば、クロルプロマジン等が挙げられる。
ビタミン類及びその誘導体としては、例えば、ビタミンA、ビタミンB1、フルスルチアミン、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、パントテン酸カルシウム及びトラネキサム酸等が挙げられる。
【0016】
固体分散体は、特に水難溶性薬物の溶解性を改善することができる。ここで、水難溶性薬物とは、第十八改正日本薬局方に記載された水に「溶けにくい」、「極めて溶けにくい」「ほとんど溶けない」とされる薬物をいう。「溶けにくい」とは、固形の医薬品1g又は1mLをビーカーにとり、水を投入し20±5℃で5分ごとに強く30秒間振り混ぜるとき、100mL以上1000mL未満で30分以内に溶ける度合いをいう。「極めて溶けにくい」とは、同様に1000mL以上10000mL未満で溶ける度合いをいう。「ほとんど溶けない」とは、同様に30分以内に溶けるために10000mL以上要するものをいう。
また、上記の医薬品試験において、水難溶性薬物が解けるということは、薬物が溶媒に溶ける又は混和することを示し、繊維等を認めないか又は認めても極めてわずかであることをいう。
【0017】
水難溶性薬物の具体例としては、例えば、イトラコナゾール、ケトコナゾール、フルコナゾール、ミトコナゾール、ポサコナゾール等のアゾール系化合物、ニフェジピン、ニトレンジピン、アムロジピン、ニカルジピン、ニルバジピン、フェロジピン、エフォニジピン等のジヒドロピリジン系化合物、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン等のプロピオン酸系化合物、インドメタシン、アセメタシン等のインドール酢酸系化合物のほかに、グリセオフルビン、フェニトイン、カルバマゼピン、ジピリダモール、アパルタミド、テラプレビル、ベムラフェニブ、イヴァカフトール、ルマカフトール、テザカフトール、エレキサカフトール、エナシデニブ、ドラビリン、エンザルタミド、イボシデニブ、レプレチニブ、デュークラバシチニブ、プルトブルチニブ等が挙げられる。
【0018】
固体分散体に含まれるキャリヤーは、ビニルピロリドン-酢酸ビニル(VP/VA)共重合体、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下「HPMC」とも称する)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(以下「HPMCP」とも称する)及びヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル(以下「HPMCAS」とも称する)からなる群から選ばれる。
【0019】
ビニルピロリドン-酢酸ビニル(VP/VA)共重合体は、ビニルピロリドン(VP)モノマー単位と酢酸ビニル(VA)モノマー単位のモル比率が好ましくは5:5~7:3、より好ましくは6/4である共重合体であり、ビニルピロリドン単位/酢酸ビニル単位のモル比率が6/4であるビニルピロリドン/酢酸ビニルランダム共重合体(BASF社製“KOLLIDON”(登録商標)VA64)が挙げられる。
【0020】
メチルセルロースとしては、メトキシ基の置換度(degree of substitution:DS)は、好ましくは1.54~2.03であり、より好ましくは1.64~2.03である。DSは、置換度(degree of substitution)を表し、セルロースのグルコース環単位当たりに存在するアルコキシ基の個数である。
メチルセルロースにおけるメトキシ基のDSは、第十八改正日本薬局方に基づき測定して得られた結果を換算することによって求めることができる。
【0021】
メチルセルロースとしては、広い粘度範囲のメチルセルロースを使用できるが、驚くことに特に粘度の低いメチルセルロースが薬物のより高い溶出性に寄与できることを見出した。メチルセルロースの20℃における2質量%水溶液のウベローデ型粘度計による粘度は、好ましくは1.0~50.0mPa・s、より好ましくは1.0~20.0mPa・s、さらに好ましくは2.0~8.0mPa・sである。
20℃における2質量%水溶液の粘度は、粘度が600mPa・s以上の場合においては、第十八改正日本薬局方に記載の一般試験法の粘度測定法の回転粘度計に従い、単一円筒型回転粘度計を用いて測定することができる。一方、粘度が600mPa・s未満の場合においては、第十八改正日本薬局方に記載の一般試験法粘度測定法の毛細管粘度計法に従い、ウベロ-デ型粘度計を用いて測定することができる。
【0022】
HPMCとしては、メトキシ基の置換度(DS)は、特に限定されないが、有機溶媒への溶解性の観点から、好ましくは1.0~2.2、より好ましくは1.5~2.2、更に好ましくは1.7~2.2である。なお、メトキシ基の置換度(DS)は、無水グルコース単位当たりのメトキシ基の平均個数をいう。
HPMCのヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(molar substitution:MS)は、特に限定されないが、有機溶媒への溶解性の観点から、好ましくは0.10~1.00、より好ましくは0.20~0.80、更に好ましく0.20~0.65である。ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)は、無水グルコース単位1モル当たりのヒドロキシプロポキシ基の平均置換モル数をいう。
HPMCにおけるメトキシ基のDS及びヒドロキシプロポキシ基のMSは、第十八改正日本薬局方に基づき測定して得られた結果を換算することによって求めることができる。
【0023】
HPMCの置換度タイプとしては、有機溶媒への溶解性の観点から、第十八改正日本薬局方におけるヒプロメロースに記載の2910タイプ(メトキシ基:28.0~30.0%、ヒドロキシプロポキシ基:7.0~12.0%)、2906タイプ(メトキシ基:27.0~30.0%、ヒドロキシプロポキシ基:4.0~7.5%)、2208タイプ(メトキシ基:19.0~24.0%、ヒドロキシプロポキシ基:4.0~12.0%)が好ましく、2910タイプ及び2906タイプがより好ましく、2910タイプが特に好ましい。
【0024】
HPMCの20℃における2質量%水溶液の粘度は、特に限定されないが、好ましくは1.0~50mPa・s、より好ましくは1.0~20mPa・s、さらに好ましくは2.0~8.0mPa・sである。
20℃における2質量%水溶液の粘度は、粘度が600mPa・s以上の場合においては、第十八改正日本薬局方に記載の一般試験法の粘度測定法の回転粘度計に従い、単一円筒型回転粘度計を用いて測定することができる。一方、粘度が600mPa・s未満の場合においては、第十八改正日本薬局方に記載の一般試験法粘度測定法の毛細管粘度計法に従い、ウベロ-デ型粘度計を用いて測定することができる。
【0025】
HPMCPとしては、メトキシ基のDSは、特に限定されないが、好ましくは1.10~2.20、より好ましくは1.30~2.10、更に好ましくは1.60~2.00、最も好ましくは1.80~2.00である。ヒドロキシプロポキシ基のMSは、特に限定されないが、好ましくは0.10~1.00、より好ましくは0.10~0.80、更に好ましくは0.15~0.60、最も好ましくは0.20~0.50である。HPMCPにおけるカルボキシベンゾイル基のDSは、好ましくは0.10~2.50、より好ましくは0.10~1.00、更に好ましくは0.40~0.80である。
なお、HPMCPにおけるメトキシ基、カルボキシベンゾイル基のDS及びヒドロキシプロポキシ基のMSは、第十八改正日本薬局方の医薬品各条「ヒプロメロース」及び「ヒプロメロースフタル酸エステル」に記載されている方法により得られた値から換算することができる。HPMCPにおけるメトキシ基、カルボキシベンゾイル基のDSは、置換度(degree of substitution)を表し、無水グルコース1単位当たりのメトキシ基、カルボキシベンゾイル基の平均個数をいう。また、HPMCPにおけるヒドロキシプロポキシ基のMSは、置換モル数(molar substitution)を表し、無水グルコース1モル当たりのヒドロキシプロポキシ基の平均モル数をいう。
【0026】
HPMCPを10質量%含むメタノール/塩化メチレン混合液(質量比1:1)の20℃における粘度は、特に限定されないが、好ましくは10.0~300.0mPa・s、より好ましくは15.0~250.0mPa・s、更に好ましくは15.0~220.0mPa・sである。HPMCPを10質量%含むメタノール/塩化メチレン混合液(質量比1:1(の20℃における粘度は、ウベローデ粘度計を用いて、第十八改正日本薬局方の医薬品各条「ヒプロメロースフタル酸エステル」に記載の方法により測定することができる。
【0027】
キャリヤーとして用いるHPMCASとして、固体分散体の外側に存在させるHPMCASと同じ置換度、粘度等を有する必要はないが、後述する固体分散体の外側に存在させるHPMCASと同じ範囲のものが使用できる。
【0028】
ビニルピロリドン-酢酸ビニル(VP/VA)共重合体、メチルセルロース、HPMC、HPMCP及びHPMCASからなる群から選ばれるキャリヤー100質量部に対して、薬物は、好ましくは10~100質量部、より好ましくは15~80質量部、さらに好ましくは15~50質量部である。固体分散体内のキャリヤーと、固体分散体の外側にあるヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートが、薬物の非晶化状態の好ましい高い保存安定性を与えるからである。
【0029】
固体分散体は、例えば、薬物(好ましくは難水溶性薬物)とキャリヤーを溶媒に溶解させた後に、噴霧乾燥させるスプレードライ法や、薬物と高分子を加熱溶融して押し出す加熱溶融押出法等により製造できる。本発明に関する固体分散体はいずれの方法を用いて製造した固体分散体に対しても適用することができる。
【0030】
例えば、スプレードライ法とは薬物とキャリヤーとなるポリマーを溶媒と共に含んだスプレードライ原液を小さな液滴に分解(噴霧)し、液滴から蒸発により溶媒を急速に除去する方法を広く指す。溶媒を除去するための駆動力は一般的に液滴を乾燥する温度にて、原液の分圧を溶媒の蒸気圧にくらべて低くすることで得られる。好ましい態様としては、液滴の高温乾燥ガスとの混合する、溶媒除去装置内での圧力を不完全真空に維持するなどの方法が挙げられる。
【0031】
溶媒は、薬物及びキャリヤー、後述する必要に応じて使用する添加剤を溶解させることができればよい。好適な溶媒としては、例えば、水、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、メチルアセテート、エチルアセテート、テトラヒドロフラン、ジクロロメタンが挙げられ、一種又は二種以上の混合物を用いても良い。固体分散体の溶液が水混和性の溶媒を含む場合、固体分散体の溶液に水を添加できる。
【0032】
薬物とキャリヤーを溶媒と共に含んだスプレードライ原液は、多様なノズル機構の下でスプレードライすることができる。たとえば、種々のタイプのノズルを使用することができる。好ましい様態としては、二流体ノズル、噴水型ノズル、フラットファン型ノズル、圧力ノズル、ロータリーアトマイザーなどが挙げられる。
スプレードライ原液は広範囲の流量、温度において送ることができる。また、スプレー時に加圧する場合、広範囲の圧力においてスプレーすることが可能である。一般に、液滴の比表面積の増加に伴って、溶媒蒸発の速度が増加する。そのため、ノズルを出るときの液滴は好ましくは500μm未満、より好ましくは400μm未満、更に好ましくは5~200μmであり、そのような噴霧を可能にする流量、温度、圧力が好ましい。スプレー後の原液は急速に凝固する。
【0033】
スプレー後のスプレードライ原液は、急速に凝固し固体分散体となる。凝固した固体分散体は一般にスプレードライ室内に約5~60秒間とどまり、その間に溶媒が固体粉末から除去される。スプレードライの際の温度としては入口温度が約20℃~150℃、出口温度が約0℃~85℃が好ましい。
【0034】
固体分散体中の残存溶媒分は少ない方がよい。これは非晶質固体分散体内の薬物分子の運動性が抑制され、安定性が増すためである。残留溶媒分のさらなる除去が必要である場合には2次乾燥を行うことができる。好適な2次乾燥方法としては、トレイ乾燥、流動層乾燥、ベルト乾燥、マイクロ波乾燥などが挙げられる。
【0035】
固体分散体は、必要に応じて賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑択剤、凝集防止剤等、通常この分野で常用され得る種々の添加剤を含むことができる。
【0036】
賦形剤としては、例えば、白糖、乳糖、マンニトール、グルコース等の糖類、でんぷん、結晶セルロース等が挙げられる。
結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、マクロゴール類、アラビアゴム、ゼラチン、でんぷん等が挙げられる。
崩壊剤としては、例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース又はその塩、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドン、結晶セルロース及び結晶セルロース・カルメロースナトリウム等が挙げられる。
滑択剤、凝集防止剤としては、例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、二酸化ケイ素(コロイダルシリカ)、ステアリン酸、ワックス類、硬化油、ポリエチレングリコール類、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
【0037】
加熱溶融押出法とは、原料のガラス転移温度以上の熱をかけることによって、混錬押出することにより、非晶質固体分散体を得る方法である。加熱溶融押出は、加熱溶融押出機を用いて行うことができる。加熱溶融押出機としては、キャリヤーとなるポリマーと活性成分、可塑剤、界面活性剤を系内で加熱しながらピストン又はスクリューで剪断力を加えて溶融して混錬後、ダイから押し出す構造の押出機であれば特に制限はないが、より均一な押出成形体を得る為には、二軸型の押出機が好ましい。
また、ダイの形状を選択することにより、円形や四角形等の形状の他、柱状やフィルム状等の所望の形状に押出して、加熱溶融押出物を得ることができる。
【0038】
加熱溶融押出機の具体例としては、東洋精機社製のキャピログラフ(一軸ピストン型押出装置)やライストリッツ(Leistritz)社製のNano-16(二軸スクリュー型押出装置)、サーモフィッシャーサイエンティフィック(ThermofisherScientific)社製のProcess11(二軸スクリュー型押出装置)及びPharma11(二軸スクリュー型押出装置)等が挙げられる。
加熱溶融温度は、薬物(好ましくは難水溶性薬物)及びキャリヤーの安定性の観点から、好ましくは50~200℃、より好ましくは60~180℃、更に好ましくは80~160℃、特に好ましくは80~150℃である。
加熱溶融押出条件は、特に制限されないが、一軸ピストン型押出装置の場合は、押出速度が好ましくは1~1000mm/分、より好ましくは10~500mm/分であり、二軸スクリュー型押出装置の場合は、スクリュー回転数が好ましくは1~1000rpm、より好ましくは、1~500rpmである。
加熱溶融押出物は、ダイ吐出口以降から室温(25~30℃)による自然冷却又は冷送風により冷却される。
【0039】
冷却後の加熱溶融押出成型物は、必要に応じて、切断機によって0.1~5mm以下のペレット化するか、更に粉砕して粒状及び粉状になるまで粒度調整を行ってもよい。
切断機としては、押出成形物の粉砕性の観点から、容易にペレット化可能なペレタイザー、ナイフミル等が好ましい。
粉砕機としては、粉砕には機器の構造上、品温が高くなりにくいジェットミル、ナイフミル、ピンミル等が好ましい。
なお、切断機及び粉砕機内が高温化してしまう場合は、原料が熱により軟化し粒同士が固着してしまうため、送風等により冷却しながら粉砕することが好ましい。
【0040】
(2)HPMCASの後末添加
製造された固体分散体は、その外側にHPMCASを配合することによって溶出性を向上させることができる。
HPMCASは、例えば、特開昭54-61282号公報に記載の方法を用いて製造できる。原料となるヒプロメロース(別名ヒドロキシプロピルメチルセルロース、以下、「HPMC」ともいう。)を氷酢酸に溶解し、エステル化剤として無水酢酸と無水コハク酸、反応触媒として酢酸ナトリウムを添加して加熱反応させる。反応終了後、反応液に多量の水を添加してHPMCASを析出させ、その析出物を水洗後、乾燥する。
【0041】
HPMCASにおけるメトキシ基のDSは、好ましくは1.10~2.20、より好ましくは1.40~2.00、更に好ましくは1.60~2.00である。
HPMCASにおけるヒドロキシプロポキシ基のMSは、好ましくは0.10~1.00、より好ましくは0.20~0.80、更に好ましくは0.20~0.65である。
HPMCASにおけるアセチル基のDSは、好ましくは0.10~2.50、より好ましくは0.10~1.00、更に好ましくは0.20~0.80である。
HPMCASにおけるスクシニル基のDSは、好ましくは0.10~2.50、より好ましくは0.10~1.00、更に好ましくは0.10~0.60である。
なお、HPMCASにおけるメトキシ基、ヒドロキシプロポキシ基、アセチル基及びスクシニル基のモル置換度は、第十八改正日本薬局方の医薬品各条「ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル」に記載されている方法により得られた値から換算することができる。
【0042】
HPMCASの体積平均粒子径は、乾式のレーザー回折式粒度分布測定装置により、測定することができる。体積平均粒子径は、例えば「改訂増補粉体物性図説」粉体工学会・日本粉体工業技術協会編、日経技術図書、1985年、第88頁に記載されているように、式{Σ(nD)/Σn}1/3を用いて計算される。式中、Dは粒子の直径、nはその直径の粒子数、Σnは全粒子数を表す。
乾式のレーザー回折式粒度分布測定装置は、圧縮空気で粉体サンプルを噴出させ、それにレーザー光を照射し、その回折強度により体積平均粒子径を測定する装置であり、例えば、英国マルバーン社製のマスターサイザーやドイツSympatec社のHELOS装置等が挙げられる。
【0043】
体積粒子径において、D50は累積50%の粒子径を意味する。
後述するHPMCASの固体分散体の後末添加方法として、物理混合、造粒等によりHPMCAS粉末を使用する場合のHPMCASの平均粒子径(D50)は、特に限定されないが、固体分散体との混合均一性の観点から好ましく2mm以下、より好ましくは1~500μm、更に好ましくは2~300μmである。
【0044】
20℃における、HPMCASを2質量%含む希(0.1mol/L)水酸化ナトリウム水溶液の粘度は、好ましくは1.1~20mPa・s、より好ましくは1.5~3.6mPa・sである。粘度が1.1mPa・s未満の場合、スプレー時にミストが細かくなり回収できなくなる可能性がある。一方、粘度が20mPa・sを超える場合は、液組成物の粘度が増加することでスプレードライ時の生産性が著しく減少する。粘度の測定方法は、第十八改正日本薬局方のHPMCASの一般試験法に記載の方法により測定することができる。
【0045】
固体分散体内のキャリヤー100質量部に対して、固体分散体の外側にあるHPMCASは、キャリヤーの量よりも多くないことが好ましく、好ましくは10~100質量部、より好ましくは10~90質量部、さらに好ましくは20~85質量部である。固体分散体内のキャリヤーと、固体分散体の外側にあるヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートが、薬物の非晶化状態の好ましい高い保存安定性を与えるからである。
また、キャリヤー100質量部に対して、10~100質量部の薬物と10~100質量部の固体分散体の外側にあるHPMCASが好ましく、15~80質量部の薬物と10~90質量部の固体分散体の外側にあるHPMCASがより好ましく、15~50質量部の薬物と20~85質量部の固体分散体の外側にあるHPMCASがさらに好ましい。固体分散体内のキャリヤーと、固体分散体の外側にあるヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートが、薬物の非晶化状態の好ましい高い保存安定性を与えるからである。
【0046】
固体分散体とHPMCASの配合は物理混合、造粒あるいはコーティングによって行われ、固体分散体の外側にHPMCASを含む複合物(組成物)を調製することができる。
物理混合として、例えば、少なくとも固体分散体とHPMCASを乳鉢等で物理的に混合する方法、袋内で手混合する方法、又は混合容器を回転させることで容器内の粉粒体を混合する方法が挙げられる。混合容器を用いる混合機としては、V形状の容器を用いるV型混合機、リボン型混合機、コンテナー型混合器又はタンブラー型混合器等が挙げられる。このとき、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑択剤、凝集防止剤等、通常この分野で常用され得る種々の添加剤を配合してもよい。添加剤の例としては、固体分散体に関して上述した添加剤と同様である。
【0047】
造粒方法として、特に制限されないが、乾式造粒法、湿式造粒法等が挙げられ、一般的に用いられる造粒機を用いて行うことができる。
造粒機としては、ローラーコンパクター等の乾式造粒機や高速撹拌造粒機、流動層造粒機、動流動層造粒機、噴霧乾燥造粒機等の湿式造粒機挙げられるが、これらに限定されない。混合時間及び造粒時間は、特に制限されないが、通常1~120分間である。
【0048】
例えばローラーコンパクター等の圧密造粒機等を用いてローラー圧縮が行われる乾式造粒では、固体分散体及びHPMCASの他に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑択剤、凝集防止剤等、通常この分野で常用され得る種々の添加剤を配合することができる。添加剤の例としては、固体分散体に関して上述した添加剤と同様である。
ロール圧力は粉体物性等により異なるが、好ましくは1~30MPa、より好ましくは2~12MPaであり、ロール回転数は、好ましくは1~50rpm、より好ましくは2~20rpmである。スクリュー回転数は、好ましくは1~100rpm、より好ましくは2~50rpmである。ローラー圧縮により得られた圧縮造粒物のフレークをコーミル、クイックミル、パワーミル、グラニュマイスター、ロールグラニュレーター等の粉砕機や解砕機で所定の粒度へ粉砕・整粒することで打錠末とすることができる。HPMCASは造粒時に加えても、造粒後に加えても良い。
【0049】
湿式造粒において、HPMCASは被造粒粉体中に含まれるか、造粒液中に分散あるいは溶解した状態で添加できる。造粒は、造粒機を用いることにより行うことができる。例えば、流動層造粒機を用いて造粒を行う場合、造粒の進行効率及び造粒物の品質の観点から、吸気温度は好ましくは50~100℃であり、かつ/又は排気温度は好ましくは25~80℃である。
【0050】
造粒物の平均粒子径は、その後の打錠性及びカプセル充填性の観点から好ましくは50~500μmであり、より好ましくは150~250μmである。造粒物の平均粒子径は、レーザー回折法等によって測定される値(体積基準の累積粒度分布曲線の50%累積値)である。造粒液には通常、結合剤が溶解可能な精製水、エタノール等の有機溶媒やそれらの混合溶液が使用される。
【0051】
得られた造粒物は、噴霧と乾燥を同時に行うことができる造粒機(例えば流動層造粒機)を用いて乾燥を行った場合にはさらに乾燥する必要はないが、乾燥を行わなかった場合や乾燥を行うことができない造粒機(例えば湿式撹拌造粒機)を使用した場合は、公知の方法により乾燥を行うことが好ましい。乾燥は、乾燥機(乾燥器)を用いて行うことができる。乾燥機(乾燥器)としては、流動層乾燥機、気流乾燥機、箱型乾燥機、振動乾燥機、自然対流式定温乾燥器、送風定温乾燥器、送風定温恒湿器等が挙げられる。乾燥温度は、好ましくは40~120℃である。
【0052】
乾燥後の造粒物の水分量は、錠剤の安定性の観点から、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下である。造粒物の水分量は、加熱乾燥式水分計(MX-50、エー・アンド・デイ社製)を用いて、造粒物の仕込み量5g、加熱温度105℃、加熱時間60分間の条件で測定できる。HPMCASは造粒時に加えても、造粒後に加えても良い。
【0053】
物理混合によりHPMCASを固体分散体粉末に添加した場合は物理混合物、造粒によりHPMCASを固体分散体粉末に添加した場合は造粒後の顆粒を打錠し、錠剤とすることができる。
打錠は、打錠機を用いて行うことができる。打錠機としては、例えば、ロータリー式打錠機、単発式打錠機などが挙げられる。打錠時の打錠圧は、錠剤硬度及び打錠障害の観点から、2~40kNが好ましい。錠剤の大きさ及び質量などの製剤設計は所望のとおりに適宜設定できる。例えば、錠剤径(錠剤の直径)は、取り扱い性及び服用性の観点から、好ましくは6~12mmである。錠剤の質量は特に限定されず、一錠あたり、好ましくは70~700mgである。
【0054】
錠剤又は顆粒が、例えば添加剤を含むがHPMCASを含まない場合は、HPMCASを含む腸溶性コーティング用組成物によってコーティングを行うことにより、固体分散体の外側にHPMCASを添加することができる。なお、上述の方法で得られた固体分散体を含有する物理混合粉末、顆粒、錠剤等がHPMCASを含む場合であっても、HPMCASを含む腸溶性コーティング用組成物によってコーティングを行ってもよい。コーティングに用いるHPMCASは、HPMCASが固体分散体内に存在する場合及び/又は固体分散体の外側に存在する場合でもそれらと同じ置換度、粘度等を有する必要はないが、前述した固体分散体の外側に存在させるHPMCASと同じ範囲のものが使用できる。HPMCASでコーティングした顆粒は、上述の方法を用いてさらに打錠を行ってもよい。
HPMCASを含む腸溶性コーティング用組成物には必要に応じて、可塑剤、中和剤、滑沢剤、他のコーティング基剤、界面活性剤、甘味料、顔料、消泡剤等の通常この分野で常用され得る種々の添加剤を通常用いられる量で配合しても良い。
【0055】
コーティングは、例えば、コーティング装置を用いるスプレーコーティング等、公知の方法により行うことができる。コーティング装置としては、パンコーティング装置、ドラムタイプコーティング装置、流動層コーティング装置、撹拌流動コーティング装置、転動流動コーティング装置等が挙げられ、これらの装置に付帯するスプレー装置としてはエアースプレー、エアレススプレー、3流体スプレー等いずれをも用いることができる。コーティング中における品温はスプレーされるコーティング用組成物が連続的に乾燥できる条件であれば、特に限定されないが、好ましくは20~80℃、より好ましくは25~60℃である。
【0056】
乾燥は、溶媒を除去することができれば特に制限されず、前記コーティング装置内で、又は前記コーティング装置から取り出して、加熱等を行うことにより行うことができる。乾燥に用いる送風温度は、薬物を含有する芯部を所望のレベルの湿り気に保ちながら、十分な速度でコーティング層を乾燥させる観点から、好ましくは25~90℃である。
【0057】
また、準安定状態である固体分散体においては、溶媒を使用しない乾式コーティングも有効なコーティング手法の一つである。例えば、HPMCASを用いた乾式コーティングには被膜形成を促進する可塑剤や付着防止剤、湿潤剤等が併用される。コーティング装置にはコーティング組成物を連続的に散布することのできる遠心転動コーティング装置、パンコーティング装置、流動層コーティング装置などが挙げられ、攪拌の観点から遠心転動コーティング装置が好ましい。乾式コーティングにおける被コーティング顆粒及び錠剤の品温は好ましくは30℃以上、より好ましくは40~80℃、さらに好ましくは50~80℃である。
【実施例0058】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1(メチルセルロース:薬物=100:20にHPMCAS-1を25後末添加)
<固体分散体の製造>
アセトン63質量部を撹拌羽根で撹拌しながら、ニフェジピン(ダイト社製)1.67質量部を加え、溶解させた。加えて、メチルセルロース(メトキシ基のDS1.77、2質量%水溶液の20℃粘度4.04mPa・s)8.33質量部を添加して分散させ、精製水27質量部を加えて完全に溶解してスプレードライ原液とした。
調製したスプレードライ原液をミニスプレードライヤーB-290(Buchi社製)を用いて、入口温度90℃、出口温度50℃、ノズルガス流量473L/hr、スプレー速度5.3g/minの条件でスプレードライし、固体分散体を製造した。
【0059】
<複合物の調製>
製造した固体分散体を73.8質量部、HPMCAS(メトキシ基のDS1.88、ヒドロキシプロポキシ基のMS0.24、アセチル基のDS0.54、スクシニル基のDS0.28、希(0.1mol/L)水酸化ナトリウム水溶液を溶媒とする2質量%溶液の20℃粘度2.87mPa・s、以下「HPMCAS-1」とも称する)を15.2質量部、アドソリダー(登録商標)101(二酸化ケイ素、フロイント産業社製)を0.5質量部、クロスカルメロースナトリウム(Ac-Di-Sol SD-711、Signet Chemical社製)を10質量部、ステアリン酸マグネシウム(太平化学産業社製)を0.5質量部秤取り、乳鉢内で十分に混合し、HPMCASを固体分散体の外側に含む複合物を調製した。
【0060】
<溶出試験>
調製した複合物について、ニフェジピン含量が40mg(44.4mg/L)になるように秤量し、240分間の溶出試験を行った。試験液には第十八改正日本薬局方記載の崩壊試験第2液(pH6.8,900mL)を使用し、日本薬局方溶出試験機(NTR-6100A型、富山産業社製)を用いた。固体分散体は非常に細かく、凝集しやすいため、パドル回転数及び位置を表1の条件に固定して評価を行った。
【0061】
【表1】
【0062】
ニフェジピンの定量は、UVスペクトル測定で得られた吸光度(波長325nm、光路長10mm)から、既知の濃度で作成した濃度換算直線(検量線)から算出した。結果を表2に示す。
【0063】
実施例2(HPMC:薬物=100:33にHPMCAS-1を67後末添加)
<固体分散体の製造>
エタノール72質量部を撹拌羽根で撹拌しながら、ニフェジピン2.5質量部を加え、溶解させた。次に、ヒプロメロース(HPMC)(メトキシ基のDS1.89、ヒドロキシプロポキシ基のMS0.24、2質量%水溶液の20℃粘度3.04mPa・s)を7.5質量部添加して分散させ、精製水18質量部を加えて完全に溶解してスプレードライ原液とした。
調製したスプレードライ原液をミニスプレードライヤーB-290(Buchi社製)を用いて、入口温度120℃、出口温度68℃、ノズルガス流量357L/hr、スプレー速度6.5g/minの条件でスプレードライし、固体分散体を製造した。
【0064】
<複合物の調製>
製造した固体分散体を49.2質量部、HPMCAS-1を24.6質量部、結晶セルロースを15.2質量部、アドソリダー(登録商標)101を0.5質量部、クロスカルメロースナトリウムを10質量%、ステアリン酸マグネシウムを0.5質量部秤取り、乳鉢内で十分に混合し、HPMCASを固体分散体の外側に含む複合物を調製した。
<溶出試験>
調製した複合物について、ニフェジピン含量が80mg(88.8mg/L)になるように秤量した以外は、実施例1と同様の方法で溶出試験を行った。結果を表2に示す。
【0065】
実施例3(HPMCP:薬物=100:33にHPMCAS-1を67後末添加)
<固体分散体の製造>
アセトン90質量部を撹拌羽根で撹拌しながら、ニフェジピン2.5質量部を加え、溶解させた。次に、HPMCP(メトキシ基のDS1.89、ヒドロキシプロポキシ基のMS0.25、カルボキシベンゾイル基のDS0.67、メタノールとジクロロメタンの質量比1:1の混合溶液を溶媒とする10質量%溶液の20℃粘度43.2mPa・s)を7.5質量部加えて完全に溶解してスプレードライ原液とした。
調製したスプレードライ原液をミニスプレードライヤーB-290(Buchi社製)を用いて、入口温度80℃、出口温度50℃、ノズルガス流量357L/hr、スプレー速度4.4g/minの条件でスプレードライし、固体分散体を製造した。
<複合物の調製>
実施例2と同様の方法でHPMCASを固体分散体の外側に含む複合物を調製した。
<溶出試験>
実施例1と同様の方法で溶出試験を行った。結果を表2に示す。
【0066】
実施例4(VP/VAコポリマー:薬物=100:20にHPMCAS-1を25後末添加)
メチルセルロースの代わりにビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体(VP/VAコポリマー)(Kollidon(登録商標)VA64、BASF社製)を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でスプレードライ原液及び固体分散体、複合物を調製し、溶出試験を行った。結果を表2に示す。
【0067】
実施例5(メチルセルロース:薬物=100:25にHPMCAS-1を50後末添加)
<固体分散体の製造>
アセトン63質量部を撹拌羽で撹拌しながら、グリセオフルビン(東京化成工業社製)2.0質量部を加え、溶解させた。加えて、メチルセルロースを8.0質量部添加して分散させ、精製水27質量部を加えて完全に溶解してスプレードライ原液とした。
調製したスプレードライ原液をミニスプレードライヤーB-290(Buchi社製)を用いて、入口温度90℃、出口温度50℃、ノズルガス流量473L/hr、スプレー速度5.5g/minの条件でスプレードライし、固体分散体を回収した。
【0068】
<複合物の調製>
製造した固体分散体を62.5質量部、HPMCAS-1を24.6質量部、結晶セルロースを2.9質量部、アドソリダー(登録商標)101を0.5質量部、クロスカルメロースナトリウムを10質量部、ステアリン酸マグネシウムを0.5質量部秤取り、乳鉢内で十分に混合し、HPMCASを固体分散体の外側に含む複合物を調製した。
<溶出試験>
調製した複合物について、グリセオフルビン含量が50mg(55.6mg/L)とした以外は実施例1と同様の方法で溶出試験を行った。結果を表2に示す。
【0069】
実施例6(メチルセルロース:薬物=100:25にHPMCAS-1を50後末添加)
グリセオフルビンの代わりにニフェジピンを用いたこと以外は実施例5と同様の方法でスプレードライ原液及び固体分散体、複合物を調製し、溶出試験を行った。結果を表2に示す。
【0070】
実施例7(メチルセルロース:薬物=100:33にHPMCAS-1を67後末添加)
<固体分散体の製造>
アセトン63質量部を撹拌羽根で撹拌しながら、ニフェジピンを2.5質量部加え、溶解させた。加えて、メチルセルロースを7.5質量部添加して分散させ、精製水27質量部を加えて完全に溶解してスプレードライ原液とした。実施例1と同様の条件でスプレードライし、固体分散体を回収した。
<複合物の調製>
製造した固体分散体を49.2質量部、HPMCAS-1を24.6質量部、結晶セルロースを15.2質量部、アドソリダー(登録商標)101を0.5質量部、クロスカルメロースナトリウムを10質量部、ステアリン酸マグネシウムを0.5質量部秤取り、乳鉢内で十分に混合し、HPMCASを固体分散体の外側に含む複合物を調製した。
<溶出試験>
実施例1と同様の方法で溶出試験を行った。結果を表2に示す。
【0071】
実施例8(HPMCAS-2:薬物=100:33にHPMCAS-1を67後末添加)
<固体分散体の製造>
HPMCAS(メトキシ基のDS1.90、ヒドロキシプロポキシ基のMS0.24、アセチル基のDS0.49、スクシニル基のDS0.38、体積平均粒子径(D50)278μm、希(0.1mol/L)水酸化ナトリウム水溶液を溶媒とする2質量%溶液の20℃粘度3.08mPa・s、以下「HPMCAS-2」とも称する)75質量部、ニフェジピン25質量部を袋の中で十分に手混合し、Volumetric Feeder(Thermo Fisher SCIENTIFIC社製)に充填した。Volumetric Feederから5.6g/mimの速度でHPMCAS-2とニフェジピン混合粉体を供給し、加熱溶融押出法で固体分散体を製造した。加熱溶融押出機にはProcess11(Thermo Fisher SCIENTIFIC社製)を用いて、バレル温度を160℃、スクリュー回転数を200rpmとした。得られた押出物はVariCutペレタイザー(Thermo Fisher SCIENTIFIC社製)を用いてペレタイズ後、目開き0.3mmのメッシュを搭載したGENA(奈良機械製作所社製)を用いて粉砕し、固体分散体粉末とした。
<複合物の調製>
製造した固体分散体粉末を49.2質量%、HPMCAS-1を24.6質量部、結晶セルロースを15.2質量部、アドソリダー(登録商標)101を0.5質量部、クロスカルメロースナトリウムを10質量部、ステアリン酸マグネシウムを0.5質量部秤取り、乳鉢内で十分に混合し、HPMCASを固体分散体の外側に含む複合物を調製した。
<溶出試験>
実施例2と同様の方法で溶出試験を行った。結果を表2に示す。
【0072】
比較例1(メチルセルロース:薬物=100:20に結晶セルロース25後末添加)
実施例1で作製した複合物のうち、HPMCAS-1を結晶セルロースに変更して固体分体の外側にHPMCASを含まない複合物を製造し、実施例1と同様の方法で溶出試験を実施した。結果を表2に示す。
【0073】
比較例2(HPMC:薬物=100:33に結晶セルロース67後末添加)
実施例2で作製した複合物のうち、HPMCAS-1を結晶セルロースに変更して固体分体の外側にHPMCASを含まない複合物を製造し、実施例2と同様の方法で溶出試験を実施した。結果を表2に示す。
【0074】
比較例3(HPMCP:薬物=100:33に結晶セルロース67後末添加)
実施例3で作製した複合物のうち、HPMCAS-1を結晶セルロースに変更して固体分体の外側にHPMCASを含まない複合物を製造し、実施例3と同様の方法で溶出試験を実施した。結果を表2に示す。
【0075】
比較例4(VP/VAコポリマー:薬物=100:20に結晶セルロース25後末添加)
実施例4で作製した複合物のうち、HPMCAS-1を結晶セルロースに変更して固体分体の外側にHPMCASを含まない複合物を製造し、実施例4と同様の方法で溶出試験を実施した。結果を表2に示す。
【0076】
比較例5(メチルセルロース:薬物=100:25に結晶セルロース50後末添加)
実施例5で作製した複合物のうち、HPMCAS-1を結晶セルロースに変更して固体分体の外側にHPMCASを含まない複合物を製造し、実施例5と同様の方法で溶出試験を実施した。結果を表2に示す。
【0077】
比較例6(メチルセルロース:薬物=100:25に結晶セルロース50後末添加)
実施例6で作製した複合物のうち、HPMCAS-1を結晶セルロースに変更して固体分体の外側にHPMCASを含まない複合物を製造し、実施例6と同様の方法で溶出試験を実施した。結果を表2に示す。
【0078】
比較例7(メチルセルロース:薬物=100:33に結晶セルロース67後末添加)
実施例7で作製した複合物のうち、HPMCAS-1を結晶セルロースに変更して固体分体の外側にHPMCASを含まない複合物を製造し、実施例7と同様の方法で溶出試験を実施した。結果を表2に示す。
【0079】
比較例8(メチルセルロース:薬物=100:33にHPMC67後末添加)
実施例7で作製した複合物のうち、HPMCAS-1をHPMCに変更して固体分体の外側にHPMCASを含まない複合物を製造し、実施例7と同様の方法で溶出試験を実施した。結果を表2に示す。
【0080】
比較例9(HPMCAS-2:薬物=100:33に結晶セルロース67後末添加)
実施例8で作製した複合物のうち、HPMCAS-1を結晶セルロースに変更して固体分散体の外側にHPMCASを含まない複合物を製造し、実施例8と同様の方法で溶出試験を実施した。結果を表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
図1は、溶出時間とニフェジピンの溶出率(%)の関係を示すグラフである。グラフには、メチルセルロース:薬物の質量比100:20を含む固体分散体に、質量比で当該メチルセルロース100に対してHPMCAS-1を25後末添加した実施例1の結果と、質量比でメチルセルロース100に対して結晶セルロースを25後末添加した以外は実施例1と同じ比較例1の結果、VP/VAコポリマー:薬物の質量比100:20を含む固体分散体に、質量比で当該VP/VAコポリマー100に対してHPMCAS-1を25後末添加した実施例4の結果と、質量比でVP/VAコポリマー100に対して結晶セルロースを25後末添加した以外は実施例4と同じ比較例4の結果がプロットされている。これらの結果は、固体分散体の外側にあるHPMCASの存在が、初期溶出性を含めて溶出性を大きく改善することを示す。また、外側にあるHPMCASは、固体分散体による溶出性の改善は、キャリヤーの種類の影響を受けることを示す。
【0083】
固体分散体のキャリヤーとして、メチルセルロース(実施例1、5、6、7)、HPMC(実施例2)、HPMCP(実施例3)、ビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体(実施例4)、HPMCAS-2(実施例8)を用いると、固体分散体の外側のHPMCAS-1と組合せて高い溶出性が得られた。驚くことに、最初の15分間の初期溶出性も顕著に高かった。薬物としてニフェジピンに換えてグリセオフルビンを用いた実施例5においても高い溶出性が得られた。固体分散体をスプレードライ法ではなく加熱溶融押出法を用いて得た実施例8においても良好な溶出性が得られた。
固体分散体のキャリヤーとしてメチルセルロースを用い、固体分散体の外側のHPMCと組合せた比較例8は、固体分散体の外側のHPMCASと組合せた実施例6よりも溶出性に劣った。
図1