(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091833
(43)【公開日】2024-07-05
(54)【発明の名称】コイル部品
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20240628BHJP
H01F 17/00 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
H01F17/04 A
H01F17/00 D
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024067953
(22)【出願日】2024-04-19
(62)【分割の表示】P 2020169776の分割
【原出願日】2020-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(72)【発明者】
【氏名】生石 正之
(57)【要約】
【課題】コイルの比抵抗を低減できるとともに、応力を確実に緩和することができるコイル部品を提供する。
【解決手段】コイル部品は、素体と、素体内に設けられたコイルとを備え、素体は、第1方向に積層された複数の磁性層を有し、コイルは、第1方向に積層された複数のコイル配線を有し、コイル配線は、第1方向に直交する平面に沿って延在し、コイル配線は、第1方向に積層された第1コイル導体層および第2コイル導体層を有し、第1コイル導体層のグレインサイズは、第2コイル導体層のグレインサイズよりも小さく、コイル配線の延在方向に直交する断面において、第2コイル導体層は、第1コイル導体層の第1方向の一方側に隣り合い、かつ、第1コイル導体層と第1コイル導体層の第1方向の他方側に隣り合う磁性層との間の少なくとも一部に、空隙部を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素体と、
前記素体内に設けられたコイルと
を備え、
前記素体は、第1方向に積層された複数の磁性層を有し、
前記コイルは、前記第1方向に積層された複数のコイル配線を有し、
前記コイル配線は、前記第1方向に直交する平面に沿って延在し、
前記コイル配線は、前記第1方向に積層された第1コイル導体層および第2コイル導体層を有し、
前記第1コイル導体層のグレインサイズは、前記第2コイル導体層のグレインサイズよりも小さく、
前記コイル配線の延在方向に直交する断面において、前記第2コイル導体層は、前記第1コイル導体層の前記第1方向の一方側に隣り合い、かつ、前記第1コイル導体層と前記第1コイル導体層の前記第1方向の他方側に隣り合う前記磁性層との間の少なくとも一部に、空隙部を有する、コイル部品。
【請求項2】
素体と、
前記素体内に設けられたコイルと
を備え、
前記素体は、第1方向に積層された複数の磁性層を有し、
前記コイルは、前記第1方向に積層された複数のコイル配線を有し、
前記コイル配線は、前記第1方向に直交する平面に沿って延在し、
前記コイル配線は、前記第1方向に積層された第1コイル導体層および第2コイル導体層を有し、
前記第1コイル導体層に含まれる金属酸化物の割合は、前記第2コイル導体層に含まれる金属酸化物の割合よりも少なく、
前記コイル配線の延在方向に直交する断面において、前記第2コイル導体層は、前記第1コイル導体層の前記第1方向の一方側に隣り合い、かつ、前記第1コイル導体層と前記第1コイル導体層の前記第1方向の他方側に隣り合う前記磁性層との間の少なくとも一部に、空隙部を有する、コイル部品。
【請求項3】
前記第1コイル導体層に含まれる金属酸化物の割合は、前記第2コイル導体層に含まれる金属酸化物の割合よりも少ない、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記断面において、前記第2コイル導体層は、複数の部分に分かれており、隣り合う部分の間には、空隙部が存在する、請求項1から3の何れか一つに記載のコイル部品。
【請求項5】
前記断面において、前記第1コイル導体層の断面積に対する前記第2コイル導体層の断面積の割合は、100%以下である、請求項1から4の何れか一つに記載のコイル部品。
【請求項6】
前記断面において、前記第2コイル導体層と前記第2コイル導体層の前記第1方向の一方側に隣り合う前記磁性層との間の一部に、空隙部を有する、請求項1から5の何れか一つに記載のコイル部品。
【請求項7】
前記断面において、前記第1コイル導体層と前記第1コイル導体層と隣り合う前記磁性層との間の前記空隙部の断面積は、前記第2コイル導体層と前記第2コイル導体層と隣り合う前記磁性層との間の前記空隙部の断面積よりも大きい、請求項6に記載のコイル部品。
【請求項8】
前記断面において、前記第1コイル導体層と前記第2コイル導体層との間の一部に、空隙部を有する、請求項1から7の何れか一つに記載のコイル部品。
【請求項9】
前記断面において、前記第2コイル導体層の厚みは、前記第1コイル導体層の厚みよりも小さい、請求項1から8の何れか一つに記載のコイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コイル部品としては、特開2014-150096号公報(特許文献1)に記載されたものがある。このコイル部品は、積層体と積層体内に設けられたコイルとを有する。積層体は、複数の絶縁体層を有し、コイルは、複数の導体パターンを有する。絶縁体層および導体パターンは互いに積層され、複数の導体パターンが接続されてコイルを形成する。
【0003】
導体パターンは、導体で形成された導体部分と、導体部分の内部に導体部分と異なる材質で形成された異材質部とを有する。異材質部の熱収縮率は、導体部分の熱収縮率よりも小さい。したがって、導体パターン内においてその熱収縮率を調整することにより、導体パターンが局所的に収縮することを防止している。これにより、積層体に局所的に応力が加わることを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来のコイル部品のように、異材質部が導体パターンの内部に形成されているだけでは、応力の緩和は不十分であった。そして、本願発明者は、鋭意検討の結果、絶縁体層(積層体)と導体パターン(コイル)の応力を緩和するには、絶縁体層と導体パターンの境界部分での機械的接合を切断することが最も効果的であることを見出した。
【0006】
そこで、本開示は、コイルの比抵抗を低減できるとともに、応力を確実に緩和することができるコイル部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本開示の一態様であるコイル部品は、
素体と、
前記素体内に設けられたコイルと
を備え、
前記素体は、第1方向に積層された複数の磁性層を有し、
前記コイルは、前記第1方向に積層された複数のコイル配線を有し、
前記コイル配線は、前記第1方向に直交する平面に沿って延在し、
前記コイル配線は、前記第1方向に積層された第1コイル導体層および第2コイル導体層を有し、
前記第1コイル導体層の比抵抗は、前記第2コイル導体層の比抵抗よりも小さく、
前記コイル配線の延在方向に直交する断面において、前記第2コイル導体層は、前記第1コイル導体層の前記第1方向の一方側に隣り合い、かつ、前記第1コイル導体層と前記第1コイル導体層の前記第1方向の他方側に隣り合う前記磁性層との間の少なくとも一部に、空隙部を有する。
【0008】
前記態様によれば、コイル配線は、第1方向に積層された第1コイル導体層および第2コイル導体層を有しているので、コイルの比抵抗を低減できる。また、第1コイル導体層と第1コイル導体層の第1方向の他方側に隣り合う磁性層との間の少なくとも一部に、空隙部を有するので、コイル配線の第1方向の他方側の面の少なくとも一部において磁性層との機械的接合を切断することができる。したがって、磁性層とコイル配線の線膨張係数の差により発生する応力を確実に緩和することができる。
【0009】
好ましくは、コイル部品の一実施形態では、前記断面において、前記第2コイル導体層は、複数の部分に分かれており、隣り合う部分の間には、空隙部が存在する。
【0010】
前記実施形態によれば、空隙部の領域が多くなり、応力をより確実に緩和することができる。
【0011】
好ましくは、コイル部品の一実施形態では、前記断面において、前記第1コイル導体層の断面積に対する前記第2コイル導体層の断面積の割合は、100%以下である。
【0012】
ここで、第2コイル導体層は、1つでもよく、または、複数の部分に分かれていてもよい。第2コイル導体層が、複数の部分に分かれている場合、第2コイル導体層の断面積とは、複数の部分の断面積の総和をいう。
【0013】
前記実施形態によれば、比抵抗の大きな第2コイル導体層の断面積を小さくでき、コイル配線の比抵抗の増大を抑制できる。
【0014】
好ましくは、コイル部品の一実施形態では、前記断面において、前記第2コイル導体層と前記第2コイル導体層の前記第1方向の一方側に隣り合う前記磁性層との間の一部に、空隙部を有する。
【0015】
前記実施形態によれば、空隙部の領域が多くなり、応力をより確実に緩和することができる。
【0016】
好ましくは、コイル部品の一実施形態では、前記断面において、前記第1コイル導体層と前記第1コイル導体層と隣り合う前記磁性層との間の前記空隙部の断面積は、前記第2コイル導体層と前記第2コイル導体層と隣り合う前記磁性層との間の前記空隙部の断面積よりも大きい。
【0017】
ここで、第1コイル導体層と磁性層との間の空隙部、および、第2コイル導体層と磁性層との間の空隙部は、それぞれ、1つでもよく、または、複数の部分に分かれていてもよい。空隙部が、複数の部分に分かれている場合、空隙部の断面積とは、複数の部分の断面積の総和をいう。
【0018】
前記実施形態によれば、コイル配線の第1方向の一方側と他方側とで空隙部の断面積に差がつくので、応力の緩和度合いが安定し、インピーダンス値/インダクタンス値が安定する。
【0019】
好ましくは、コイル部品の一実施形態では、前記断面において、前記第1コイル導体層と前記第2コイル導体層との間の一部に、空隙部を有する。
【0020】
前記実施形態によれば、空隙部の領域が多くなり、応力をより確実に緩和することができる。
【0021】
好ましくは、コイル部品の一実施形態では、前記第1コイル導体層に含まれる金属酸化物の割合は、前記第2コイル導体層に含まれる金属酸化物の割合よりも少ない。
【0022】
前記実施形態によれば、第1コイル導体層の比抵抗を第2コイル導体層の比抵抗よりも容易に小さくできる。
【0023】
好ましくは、コイル部品の一実施形態では、前記断面において、前記第2コイル導体層の厚みは、前記第1コイル導体層の厚みよりも小さい。
【0024】
前記実施形態によれば、比抵抗の大きな第2コイル導体層の厚みを小さくでき、コイル配線の比抵抗の増大を抑制できる。
【発明の効果】
【0025】
本開示の一態様であるコイル部品によれば、コイルの比抵抗を低減できるとともに、応力を確実に緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】コイル部品の第1実施形態を示す斜視図である。
【
図5A】コイル部品の製造方法を示す断面図である。
【
図5B】コイル部品の製造方法を示す断面図である。
【
図5C】コイル部品の製造方法を示す断面図である。
【
図5D】コイル部品の製造方法を示す断面図である。
【
図5E】コイル部品の製造方法を示す断面図である。
【
図11】コイル部品の第2実施形態を示す拡大断面図である。
【
図12A】コイル部品の製造方法を示す断面図である。
【
図12B】コイル部品の製造方法を示す断面図である。
【
図12C】コイル部品の製造方法を示す断面図である。
【
図12D】コイル部品の製造方法を示す断面図である。
【
図12E】コイル部品の製造方法を示す断面図である。
【
図12F】コイル部品の製造方法を示す断面図である。
【
図13】コイル部品の第3実施形態を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本開示の一態様であるコイル部品を図示の実施の形態により詳細に説明する。なお、図面は一部模式的なものを含み、実際の寸法や比率を反映していない場合がある。
【0028】
<第1実施形態>
(構成)
図1は、コイル部品の第1実施形態を示す斜視図である。
図2は、
図1のX-X断面図であり、W方向の中心を通るLT断面図である。
図3は、コイル部品の分解平面図であり、下図から上図にわたってT方向に沿った図を表している。なお、L方向は、コイル部品1の長さ方向であり、W方向は、コイル部品1の幅方向であり、T方向は、コイル部品1の高さ方向である。以下、T方向の順方向を上側といい、T方向の逆方向を下側ともいう。
【0029】
図1と
図2と
図3に示すように、コイル部品1は、素体10と、素体10の内部に設けられたコイル20と、素体10の表面に設けられコイル20に電気的に接続された第1外部電極31および第2外部電極32とを有する。
【0030】
コイル部品1は、第1、第2外部電極31、32を介して、図示しない回路基板の配線に電気的に接続される。コイル部品1は、例えば、ノイズ除去フィルタとして用いられ、パソコン、DVDプレーヤー、デジタルカメラ、TV、携帯電話、カーエレクトロニクスなどの電子機器に用いられる。
【0031】
素体10は、略直方体状に形成されている。素体10の表面は、第1端面15と、第1端面15の反対側に位置する第2端面16と、第1端面15と第2端面16の間に位置する4つの側面17とを有する。第1端面15および第2端面16は、L方向に対向している。
【0032】
素体10は、複数の磁性層11を含む。磁性層11は、第1方向としてのT方向に積層される。磁性層11は、例えば、Ni-Cu-Zn系のフェライト材料などの磁性材料からなる。磁性層11の厚みは、例えば、5μm以上でかつ30μm以下である。なお、素体10は、部分的に非磁性層を含んでいてもよい。
【0033】
第1外部電極31は、素体10の第1端面15の全面と、素体10の側面17の第1端面15側の端部とを覆う。第2外部電極32は、素体10の第2端面16の全面と、素体10の側面17の第2端面16側の端部とを覆う。第1外部電極31は、コイル20の第1端に電気的に接続され、第2外部電極32は、コイル20の第2端に電気的に接続される。なお、第1外部電極31は、第1端面15と1つの側面17に渡って形成されるL字形状であってもよく、第2外部電極32は、第2端面16と1つの側面17に渡って形成されるL字形状であってもよい。
【0034】
コイル20は、T方向に沿って、螺旋状に巻回されている。コイル20は、例えば、AgまたはCuなどの導電性材料からなる。コイル20は、複数のコイル配線21と複数の引出導体層61,62とを有する。
【0035】
2層の第1引出導体層61と、複数のコイル配線21と、2層の第2引出導体層62とは、T方向に順に積層され、ビア導体を介して電気的に順に接続される。複数のコイル配線21は、T方向に順に接続されて、T方向に沿った螺旋を形成する。第1引出導体層61は、素体10の第1端面15から露出して第1外部電極31に接続され、第2引出導体層62は、素体10の第2端面16から露出して第2外部電極32に接続される。なお、第1、第2引出導体層61,62の層数は、特に限定されず、例えば、それぞれ1層であってもよい。
【0036】
コイル配線21は、T方向に直交する平面に沿って延在している。コイル配線21は、平面上に1ターン未満に巻回された形状に形成されている。引出導体層61,62は、直線形状に形成されている。コイル配線21の厚みは、例えば、10μm以上でかつ40μm以下である。第1、第2引出導体層61,62の厚みは、例えば、30μmであるが、コイル配線21の厚みより薄くてもよい。
【0037】
コイル配線21は、2層の磁性層11の間に挟まれている。つまり、コイル配線21と磁性層11は、交互に積層されている。コイル配線21は、2層の磁性層11の間に挟まれているため、コイル配線21の延在方向(巻回方向)に直交する断面において、コイル配線21の形状は、楕円形となっている。
【0038】
第1、第2引出導体層61,62は、それぞれ、コイル配線21と異なる層に設けられている。第1、第2引出導体層61,62は、それぞれ、2層の磁性層11の間に挟まれている。
【0039】
図4は、
図2のコイル配線21の周囲の拡大断面図である。
図4に示すように、コイル配線21は、第1方向に積層された第1コイル導体層71および第2コイル導体層72を有する。上記構成によれば、コイル配線は、第1方向に第1コイル導体層と第2コイル導体層が第1方向に積層されているので、コイルの比抵抗を低減できる。
【0040】
第1コイル導体層71の比抵抗は、第2コイル導体層72の比抵抗よりも小さい。ここで、それぞれの比抵抗の大小は、それぞれの比抵抗を直接的に測定して求めるのは難しい。しかしながら、これに限らず、第1コイル導体層71および第2コイル導体層72の組成を分析してそれぞれの組成からそれぞれの比抵抗の大小を間接的に導き出してもよい。または、第1コイル導体層71および第2コイル導体層72のグレインサイズ(結晶粒サイズ)を測定してそれぞれのグレインサイズからそれぞれの比抵抗の大小を間接的に導き出してもよい。例えば、グレインサイズが小さいと、比抵抗は大きくなる。
【0041】
コイル配線21の延在方向に直交する断面(以下、コイル配線21の横断面という。)において、第2コイル導体層72は、第1コイル導体層71のT方向の一方側に隣り合い、かつ、第1コイル導体層71と第1コイル導体層71のT方向の他方側に隣り合う磁性層11との間の少なくとも一部に、空隙部51を有する。この実施形態では、T方向の一方側とは、T方向の逆方向(つまり、下側)をいい、T方向の他方側とは、T方向の順方向(つまり、上側)をいう。
【0042】
具体的に述べると、コイル配線21の上面21aは、上側の磁性層11と離隔し、コイル配線21の上面21aと上側の磁性層11との間に、空隙部51を有する。コイル配線21の下面21bは、下側の磁性層11と接触している。
【0043】
コイル配線21の横断面において、第1コイル導体層71の形状は、楕円形であり、第2コイル導体層72は、薄膜状である。第2コイル導体層72は、第1コイル導体層71の下面の全てを覆っている。第2コイル導体層72の左右幅は、第1コイル導体層71の左右幅と同じである。第2コイル導体層72の下面は、下側の磁性層11と接触している。
【0044】
上記構成によれば、第1コイル導体層71と上側の磁性層11との間の少なくとも一部に、空隙部51を有するので、コイル配線21の上面21aの少なくとも一部において磁性層11との機械的接合を切断することができる。したがって、磁性層11とコイル配線21の線膨張係数の差により発生する応力を確実に緩和することができる。これにより、内部応力によるインダクタンス(インピーダンス値)の劣化を解消でき、高いインピーダンス値(インダクタンス値)を確保できる。
また、コイル配線21の下面21bは、下側の磁性層11と接触しているので、コイル配線21の素体10に対する位置を安定できる。
【0045】
好ましくは、コイル配線21の横断面において、第1コイル導体層71の断面積に対する第2コイル導体層72の断面積の割合は、100%以下である。上記構成によれば、比抵抗の大きな第2コイル導体層72の断面積を小さくでき、コイル配線21の比抵抗の増大を抑制できる。
【0046】
好ましくは、コイル配線21の横断面において、第2コイル導体層72の厚みt2は、第1コイル導体層71の厚みt1よりも小さい。ここで、厚みt1,t2とは、コイル配線21の横断面において、コイル配線21の左右幅方向の中心線Mにおける厚みをいう。上記構成によれば、比抵抗の大きな第2コイル導体層72の厚みを小さくでき、コイル配線21の比抵抗の増大を抑制できる。
【0047】
好ましくは、第1コイル導体層71に含まれる金属酸化物の割合は、第2コイル導体層72に含まれる金属酸化物の割合よりも少ない。具体的に述べると、第1コイル導体層71および第2コイル導体層72は、例えば、主成分としてAg(銀)を含む。金属酸化物は、例えば、Ca(カルシウム)、Mg(マグネシウム)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Al(アルミニウム)、Y(イットリウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ni(ニッケル)、Nb(ニオブ)、Zr(ジルコニア)、Bi(ビスマス)の内、いずれか1つ以上の酸化物である。上記構成によれば、第1コイル導体層71の比抵抗を第2コイル導体層72の比抵抗よりも容易に小さくできる。なお、第1コイル導体層71に金属酸化物が含まれなくてもよい。
【0048】
(製造方法)
次に、
図5Aから
図5Eを用いて、コイル部品1の製造方法の一例を説明する。
図5Aから
図5Eは、コイル配線21の延在方向に直交するLT断面を示す。
【0049】
まず、未焼成磁性層、未焼成第1コイル導体層、未焼成第2コイル導体層、および、焼失層を準備する。
【0050】
未焼成磁性層は、磁性層11の焼成前の状態である。未焼成磁性層は、磁性シートから構成される。未焼成磁性層は、磁性材料を含む。磁性材料は、特に限定されないが、例えば、Fe2O3、ZnO、CuOおよびNiOを含むフェライト材料を用いることができる。
【0051】
未焼成第1コイル導体層は、第1コイル導体層71の焼成前の状態であり、未焼成第2コイル導体層は、第2コイル導体層72の焼成前の状態である。未焼成第1コイル導体層および未焼成第2コイル導体層は、導体ペーストから構成される。未焼成第1コイル導体層および未焼成第2コイル導体層は、AgまたはCuなどの金属粒子を主成分として、上述の金属酸化物を含む。未焼成第1コイル導体層の金属酸化物の割合は、未焼成第2コイル導体層の金属酸化物の割合よりも少ない。第2コイル導体層の金属酸化物の割合は、好ましくは、主成分に対して0.02wt%以上1.0wt%以下である。
【0052】
このように、未焼成第2コイル導体層の金属酸化物の割合は、未焼成第1コイル導体層の金属酸化物の割合よりも多いので、未焼成第2コイル導体層の焼成開始温度を未焼成第1コイル導体層の焼成開始温度よりも高くして、未焼成第2コイル導体層の焼成を未焼成第1コイル導体層の焼成よりも遅らせることができる。
【0053】
焼失層は、焼成により焼失する。焼失層は、例えば、樹脂材料から構成される。なお、焼失層は、焼成により焼失すれば如何なる材料から構成されていてもよい。
【0054】
図5Aに示すように、第1未焼成磁性層111上に未焼成第2コイル導体層172を印刷積層する。
図5Bに示すように、未焼成第2コイル導体層172上に未焼成第1コイル導体層171を印刷積層する。
【0055】
図5Cに示すように、未焼成第1コイル導体層171の上面および側面を覆うように、焼失層151を印刷積層する。
図5Dに示すように、未焼成第1コイル導体層171、未焼成第2コイル導体層172、および、焼失層151を覆うように、第1未焼成磁性層111上に第2未焼成磁性層112を積層する。このとき、第2未焼成磁性層112の押圧により、未焼成第1コイル導体層171、未焼成第2コイル導体層172および焼失層151は、台形から楕円形に変形する。
【0056】
以上の工程を繰り返して、複数の未焼成磁性層、未焼成第1コイル導体層および未焼成第2コイル導体層を積層した未焼成積層体を形成する。
【0057】
その後、未焼成積層体を焼成する。以下、焼成工程について詳細に説明する。
【0058】
まず、焼成初期段階(150℃~300℃)で、焼失層151が焼失することで、未焼成第1コイル導体層171と第2未焼成磁性層112の接着力がなくなる。これにより、未焼成第1コイル導体層171と第2未焼成磁性層112との界面に僅かな空隙部51の起点ができる。
【0059】
その後、焼成温度(300℃~500℃)が上がると、未焼成第1コイル導体層171が先に焼成され、収縮する。この時点では、未焼成第2コイル導体層172は変化がない。つまり、未焼成第2コイル導体層172と第1未焼成磁性層111との接着力も維持されている。一方、未焼成第1コイル導体層171は、第2未焼成磁性層112との接着力が無いので、未焼成第2コイル導体層172の方へ偏りならが収縮し、空隙部51が広がる。
【0060】
さらに焼成温度(450℃~700℃)が上がると、未焼成第2コイル導体層172が焼成され、収縮する。この際、未焼成第2コイル導体層172と第1未焼成磁性層111との間の接着力は維持されているので、それらの界面には空隙部が形成されにくい。一方、先に焼結した未焼成第1コイル導体層171は、未焼成第2コイル導体層172に引き寄せられ、空隙部51の空間は広がる。
【0061】
さらに焼成温度(800℃~950℃)が上がると、未焼成磁性層111,112が焼成され、収縮する。この際、空隙部51の空間は縮まるが、焼成が完了した段階では、空隙部51は残る。
【0062】
以上の焼成工程を経て、
図5Eに示すように、焼失層151が焼失して空隙部51が形成され、未焼成磁性層111,112が焼成されて磁性層11が形成され、未焼成第1コイル導体層171が焼成されて第1コイル導体層71が形成され、未焼成第2コイル導体層172が焼成されて第2コイル導体層72が形成される。これにより、
図2に示すコイル部品1が製造される。
【0063】
このように、未焼成第1コイル導体層171と第2未焼成磁性層112の接着力と、未焼成第2コイル導体層172と第1未焼成磁性層111との接着力に差をつけることで、接着力の弱いコイル配線21の上面21a側に空隙部51を設け、さらに、接着力の強いコイル配線21の下面21b側に空隙部を生じさせないようにしている。
【0064】
なお、接着力に差をつける方法、つまり、未焼成第1コイル導体層171の焼成温度と未焼成第2コイル導体層172の焼成温度に差をつける方法として、金属酸化物の割合の多少に限られず、金属粒子の平均粒径の大小や、金属粒子の表面のコーティングの有無や、バインダの量の多少により差をつけることができる。例えば、金属粒子の平均粒径を大きくし、または、金属粒子の表面をコーティングし、または、バインダの量を多くすることで、焼成温度を上げることができる。
【0065】
なお、第1実施形態のコイル部品1は、
図5Aから
図5Eの製造方法により製造されているが、これに限らず、他の異なる製造方法により製造されてもよい。つまり、空隙部51の起点を形成する方法として、上述の焼失層151を用いているが、これに限らず、如何なる方法を用いてもよい。
【0066】
また、第1実施形態では、空隙部51は、コイル配線21の上面21a側に設けられているが、コイル配線21の下面21b側に設けられていてもよい。
【0067】
(変形例)
図6は、
図4のコイル配線21の変形例を示す模式断面図である。
図6に示すように、このコイル配線21Aでは、第2コイル導体層72は、第1コイル導体層71の下面の一部を覆っている。つまり、第2コイル導体層72の左右幅は、第1コイル導体層71の左右幅よりも小さい。そして、第1コイル導体層71の下面のうちの第2コイル導体層72に覆われていない部分は、下側の磁性層11と離隔し、下側の磁性層11との間にも、空隙部51が存在する。このように、空隙部51は、コイル配線21Aの上面21aから下面21bの一部にまで延在している。したがって、空隙部51を大きくでき、応力をより緩和することができる。また、第2コイル導体層72の面積を小さくでき、コイル配線21Aの比抵抗の増大を抑制できる。
【0068】
図7は、
図6のコイル配線21Aの変形例を示す模式断面図である。
図7に示すように、このコイル配線21Bでは、第1コイル導体層71の下面のうちの第2コイル導体層72に覆われていない部分は、下側の磁性層11と接触している。つまり、第2コイル導体層72の左右両側は、第1コイル導体層71に覆われている。そして、コイル配線21Bの下面21bの全ては、下側の磁性層11に接触している部分が多くなっている。したがって、第1コイル導体層71の面積を大きくでき、コイル配線21Bの比抵抗の増大を抑制できる。
【0069】
図8は、
図6のコイル配線21Aの変形例を示す模式断面図である。
図8に示すように、このコイル配線21Cでは、第2コイル導体層72は、複数の部分に分かれており、隣り合う部分の間には、空隙部52が存在する。具体的に述べると、第2コイル導体層72は、コイル配線の延在方向と垂直な方向において複数に分かれている。したがって、空隙部51,52の領域が多くなり、応力をより確実に緩和することができる。
なお、コイル配線21Cの横断面において、第1コイル導体層71の断面積に対する第2コイル導体層72の断面積の割合は、100%以下であることが好ましいが、第2コイル導体層72の断面積とは、複数の部分の断面積の総和をいう。
【0070】
図9は、
図4のコイル配線21の変形例を示す模式断面図である。
図9に示すように、このコイル配線21Dでは、第2コイル導体層72と第2コイル導体層72の下方側に隣り合う下側の磁性層11との間の一部に、空隙部53を有する。したがって、空隙部51,53の領域が多くなり、応力をより確実に緩和することができる。なお、コイル配線21Dの横断面において、空隙部53は、1つまたは複数存在していてもよい。
【0071】
また、第1コイル導体層71と第1コイル導体層71と隣り合う上側の磁性層11との間の空隙部51の断面積は、第2コイル導体層72と第2コイル導体層72と隣り合う下側の磁性層11との間の空隙部53の断面積よりも大きい。空隙部53は、複数の部分に分かれているが、空隙部53の断面積とは、複数の部分の断面積の総和をいう。したがって、コイル配線の第1方向の一方側と他方側とで空隙部の断面積に差がつくので、応力の緩和度合いが安定し、インピーダンス値/インダクタンス値が安定する。
【0072】
図10は、
図4のコイル配線21の変形例を示す模式断面図である。
図10に示すように、このコイル配線21Eでは、第1コイル導体層71と第2コイル導体層72との間の一部に、空隙部54を有する。したがって、空隙部51,54の領域が多くなり、応力をより確実に緩和することができる。なお、コイル配線21Eの横断面において、空隙部54は、1つまたは複数存在していてもよい。
【0073】
<第2実施形態>
図11は、コイル部品の第2実施形態を示す拡大断面図である。第2実施形態は、第1実施形態(
図4)とは、素体の構成およびコイル配線の形状が相違する。この相違する構成を以下に説明する。
【0074】
図11に示すように、第2実施形態のコイル部品1Aでは、素体10Aは、コイル配線21Fを上下から挟む上側の磁性層11および下側の磁性層11に加えて、コイル配線21Fと同一層に設けられている中間の磁性層11を有する。つまり、中間の磁性層11は、上側の磁性層11と下側の磁性層11に挟まれている。このため、コイル配線21Fの横断面において、コイル配線21Fの形状は、略台形となっている。そして、第1コイル導体層71の上面と上側の磁性層11との間、および、第1コイル導体層71の側面と中間の磁性層11との間に、空隙部51が設けられている。したがって、中間の磁性層11を設けることで、コイル配線21Fの厚みを保持でき、コイル配線21Fの直流抵抗値(Rdc)を低減できる。
【0075】
次に、コイル部品1Aの製造方法の一例を説明する。第2実施形態を第1実施形態と比較すると、第1実施形態ではシート積層工法を用いているが、第2実施形態では印刷積層工法を用いている点が相違する。
【0076】
まず、未焼成磁性層、未焼成第1コイル導体層、未焼成第2コイル導体層、および、焼失層を準備する。ここで、未焼成磁性層は、磁性ペーストから構成され、それ以外は、第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0077】
図12Aに示すように、第1未焼成磁性層111上に未焼成第2コイル導体層172を印刷積層する。
図12Bに示すように、未焼成第2コイル導体層172上に未焼成第1コイル導体層171を印刷積層する。
【0078】
図12Cに示すように、未焼成第1コイル導体層171の上面および側面を覆うように、焼失層151を印刷積層する。
図12Dに示すように、未焼成第1コイル導体層171、未焼成第2コイル導体層172、および、焼失層151と同一層となるように、第1未焼成磁性層111上に第2未焼成磁性層112を印刷積層する。
【0079】
図12Eに示すように、第2未焼成磁性層112上に第3未焼成磁性層113を印刷積層する。このとき、第3未焼成磁性層113を積層しても、第2未焼成磁性層112を設けているため、未焼成第1コイル導体層171、未焼成第2コイル導体層172および焼失層151の形状を、略台形のまま保持できる。
【0080】
以上の工程を繰り返して、複数の未焼成磁性層、未焼成第1コイル導体層および未焼成第2コイル導体層を積層した未焼成積層体を形成する。その後、未焼成積層体を焼成する。この焼成工程については、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0081】
図12Fに示すように、焼失層151が焼失して空隙部51が形成され、未焼成磁性層111,112,113が焼成されて磁性層11が形成され、未焼成第1コイル導体層171が焼成されて第1コイル導体層71が形成され、未焼成第2コイル導体層172が焼成されて第2コイル導体層72が形成される。これにより、
図11に示すコイル部品1Aが製造される。
【0082】
なお、第2実施形態のコイル部品1Aは、
図12Aから
図12Fの製造方法により製造されているが、これに限らず、他の異なる製造方法により製造されてもよい。また、第2実施形態のコイル部品1Aの変形例として、第1実施形態の
図6から
図10に示す変形例を採用してもよい。
【0083】
<第3実施形態>
図13は、コイル部品の第3実施形態を示す拡大断面図である。第3実施形態は、第2実施形態(
図11)とは、コイル配線の形状が相違する。この相違する構成を以下に説明する。
【0084】
図13に示すように、第3実施形態のコイル部品1Bでは、コイル配線21Gは、複数(この実施形態では2層)の第1コイル導体層71を有し、複数の第1コイル導体層71は、T方向に積層され、T方向に隣り合う第1コイル導体層71は、互いに面接触している。具体的に述べると、T方向に隣り合う第1コイル導体層71において、下側の第1コイル導体層71の上面は、上側の第1コイル導体層71の下面と面接触している。
【0085】
第2コイル導体層72は、複数の第1コイル導体層71の下方側に隣り合う。つまり、第2コイル導体層72は、最も下側の第1コイル導体層71の下面と接触している。
【0086】
空隙部51は、複数の第1コイル導体層71と複数の第1コイル導体層71の上方側に隣り合う磁性層11との間に設けられている。つまり、空隙部51は、最も上側の第1コイル導体層71の上面に面している。さらに、空隙部51は、複数の第1コイル導体層71の側面に面するように延在している。
【0087】
上記構成によれば、複数の第1コイル導体層71を備えるので、コイル配線21Gのアスペクト比を大きくでき、これにより、コイル配線21Gの直流抵抗値(Rdc)を低減できる。なお、第1コイル導体層71は、2層に限らず、3層以上積層していてもよい。
【0088】
なお、本開示は上述の実施形態に限定されず、本開示の要旨を逸脱しない範囲で設計変更可能である。例えば、第1から第3実施形態のそれぞれの特徴点を様々に組み合わせてもよい。コイル配線の数量やコイル導体層の数量の増減は、設計変更可能である。
【符号の説明】
【0089】
1,1A,1B コイル部品
10,10A 素体
11 磁性層
15 第1端面
16 第2端面
17 側面
20 コイル
21,21A~21G コイル配線
21a 上面
21b 下面
31 第1外部電極
32 第2外部電極
51~54 空隙部
61 第1引出導体層
62 第2引出導体層
71 第1コイル導体層
72 第2コイル導体層
111,112,113 未焼成磁性層
151 焼失層
171 未焼成第1コイル導体層
172 未焼成第2コイル導体層