IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 王子ホールディングス株式会社の特許一覧

特開2024-91907二軸延伸ポリプロピレンフィルム、金属層一体型ポリプロピレンフィルム、フィルムコンデンサ、及びフィルムロール
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091907
(43)【公開日】2024-07-05
(54)【発明の名称】二軸延伸ポリプロピレンフィルム、金属層一体型ポリプロピレンフィルム、フィルムコンデンサ、及びフィルムロール
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240628BHJP
   H01G 4/32 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
H01G4/32 511L
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024070957
(22)【出願日】2024-04-24
(62)【分割の表示】P 2020200404の分割
【原出願日】2020-12-02
(71)【出願人】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】中田 将裕
(72)【発明者】
【氏名】筧 明洋
(57)【要約】
【課題】二軸延伸ポリプロピレンフィルムからコンデンサ素子を製造する工程におけるシワ、巻きズレ、及び座屈の発生が抑制される、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを提供する。
【解決手段】
ポリプロピレン樹脂を主成分とする二軸配向ポリプロピレンフィルムであって、
前記二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面は、ISO25178で規定されたコア部のレベル差Skが0.03~0.08μmであり、かつ、界面の面積展開比Sdrが0.08%以上である、二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン樹脂を主成分とする二軸配向ポリプロピレンフィルムであって、
前記二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面は、ISO25178で規定されたコア部のレベル差Skが0.03~0.08μmであり、かつ、最大高さSpが0.6~1.2μmである、二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項2】
前記二軸配向ポリプロピレンフィルムの両面について、ISO25178で規定されたコア部のレベル差Skの比が、1.3以上である、請求項1に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
前記二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも前記片面は、光干渉式非接触表面形状測定機を用い、ISO25178で規定された界面の面積展開比Sdrが0.08%以上である、請求項1または2に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
前記二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも前記片面は、ISO25178で規定されたフラクタルパラメータSRCが30~60μm2であり、山の頂点密度Spdが1000~3000mm-2であり、山の頂点の主曲率の平均Spcが-600~-200mm-1である、請求項1~3のいずれか1項に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
前記二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも前記片面は、ISO25178で規定された二乗平均平方根粗さSqが0.03~0.10μmである、請求項1~4のいずれか1項に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項6】
厚さが1.0~3.0μmである、請求項1~5のいずれか1項に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルムと、
前記二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面又は両面に積層された金属層とを有する、金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
【請求項8】
巻回された請求項7に記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルムを有するか、又は、請求項7に記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルムが複数積層された構成を有する、フィルムコンデンサ。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルムが、ロール状に巻回されている、フィルムロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、金属層一体型ポリプロピレンフィルム、フィルムコンデンサ、及びフィルムロールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器、電気機器などにおいて、例えば高電圧コンデンサ、各種スイッチング電源、コンバータ及びインバータ等のフィルタ用コンデンサ及び平滑用コンデンサ等として、樹脂フィルムを利用したコンデンサが使用されている。このようなコンデンサにおいては、樹脂フィルムはコンデンサ用誘電体フィルムとして、例えば、(i)当該誘電体フィルム上に、例えば、金属蒸着または金属含有ペーストの塗工・乾燥、金属箔や金属粉の接着等の方法で、金属層等の導電層を設けた所謂「金属化フィルム」とする方法、(ii)金属層等の導電層を設けない当該誘電体フィルムと、金属箔または(i)と同様の方法等で金属層を設けた金属化フィルム等の他の導電体を積層すること、等の方法でコンデンサを構成している。コンデンサ用誘電体フィルムは、近年需要が高まっている電気自動車及びハイブリッド自動車等の駆動モーターを制御するインバータ電源機器用コンデンサとしても利用されている。
【0003】
例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車等のコンデンサの樹脂フィルムとして利用されるポリプロピレンフィルムは、近年、コンデンサの小型化及び高容量化により、フィルムの厚みを薄く、電極面積を大きくすることが要求されている。また、コストダウンの要求から、フィルムの加工幅は広くなり、薄いフィルムを広い幅で仕上げたポリプロピレンフィルムロールを提供することが求められる。
【0004】
しかしながら、ポリプロピレンフィルムは柔軟性が高いため、薄く広い幅でフィルムを搬送するとシワやタルミが発生し易い。搬送中のフィルムの平坦性の低下は、蒸着工程では蒸着膜の厚みを不均一化させる。
【0005】
ポリプロピレンフィルムの搬送中のシワを抑制する技術として、例えば、特許文献1には、ポリプロピレンフィルムをコアに巻いてなるフィルムロールであって、ロール最表層の平均硬度が84.0~94.0°、かつロール最表層の幅方向の硬度バラツキが±2.0°以内であるポリプロピレンフィルムロールが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、ポリプロピレンフィルムをコアに巻回してなるコンデンサ用ポリプロピレンフィルムロールであり、幅方向におけるロール直径の最大値と最小値の差Rと、ロールの両端の直径の差Hをそれぞれ規定したコンデンサ用ポリプロピレンフィルムロールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2018/034182号
【特許文献2】特開2015-195367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
コンデンサなどに使用されるポリプロピレンフィルムは、金属蒸着工程、スリット加工工程、素子巻き加工工程などを経て、コンデンサ素子となる。これらの各工程において、厚みが非常に薄く長尺のポリプロピレンフィルムは、搬送や巻取の際にシワや巻きズレが形成されやすいという問題がある。
【0009】
また、素子巻き工程で円筒形に巻き取られた金属層一体型ポリプロピレンフィルムロールは、扁平化工程を行うことで、扁平化されたコンデンサ素子となるが、当該扁平化工程においては、コンデンサ素子表面の滑り性が低いと、座屈(形状のたわみ)が発生しやすいという問題もある。
【0010】
このような状況下、本発明は、二軸延伸ポリプロピレンフィルムからコンデンサ素子を製造する工程におけるシワ、巻きズレ、及び座屈の発生が抑制される、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを提供することを主な目的とする。また、本発明は、当該二軸延伸ポリプロピレンフィルムを利用した、金属層一体型ポリプロピレンフィルム、フィルムコンデンサ、及びフィルムロールを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、ポリプロピレン樹脂を主成分とする二軸配向ポリプロピレンフィルムにおいて、少なくとも片面について、ISO25178で規定されたコア部のレベル差Sk及び界面の面積展開比Sdrを所定の値に設定することによって、二軸延伸ポリプロピレンフィルムからコンデンサ素子を製造する工程におけるシワ、巻きズレ、及び座屈の発生が抑制されることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0012】
すなわち、本発明には、以下のものが含まれる。
項1. ポリプロピレン樹脂を主成分とする二軸配向ポリプロピレンフィルムであって、
前記二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面は、ISO25178で規定されたコア部のレベル差Skが0.03~0.08μmであり、かつ、界面の面積展開比Sdrが0.08%以上である、二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
項2. 前記二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも前記片面は、ISO25178で規定されたフラクタルパラメータSRCが30~60μm2であり、山の頂点密度Spdが1000~3000mm-2であり、山の頂点の主曲率の平均Spcが-600~-200mm-1である、項1に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
項3. 前記二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも前記片面は、光干渉式非接触表面形状測定機を用い、ISO25178で規定された最大高さSpが0.6~1.2μmである、項1または2に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
項4. 前記二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも前記片面は、ISO25178で規定された二乗平均平方根粗さSqが0.03~0.10μmである、項1~3のいずれか1項に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
項5. 前記二軸配向ポリプロピレンフィルムの両面について、ISO25178で規定されたコア部のレベル差Skの比が、1.3以上である、項1~4のいずれか1項に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
項6. 厚さが1.0~3.0μmである、項1~5のいずれか1項に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルム。
項7. 項1~6のいずれか1に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルムと、
前記二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面又は両面に積層された金属層とを有する、金属層一体型ポリプロピレンフィルム。
項8. 巻回された項7に記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルムを有するか、又は、項7に記載の金属層一体型ポリプロピレンフィルムが複数積層された構成を有する、フィルムコンデンサ。
項9. 項1~6のいずれか1に記載の二軸延伸ポリプロピレンフィルムが、ロール状に巻回されている、フィルムロール。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、二軸延伸ポリプロピレンフィルムからコンデンサ素子を製造する工程におけるシワ、巻きズレ、及び座屈の発生が抑制される、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを提供することができる。また、本発明によれば、当該二軸延伸ポリプロピレンフィルムを利用した、金属層一体型ポリプロピレンフィルム、フィルムコンデンサ、及びフィルムロールを提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態に係る二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレン樹脂を主成分とする二軸配向ポリプロピレンフィルムであって、二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面は、ISO25178で規定されたコア部のレベル差Skが0.03~0.08μmであり、かつ、界面の面積展開比Sdrが0.08%以上であることを特徴としている。
【0015】
本実施形態に係る二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、少なくとも片面が、このような特定の表面粗さを充足していることにより、二軸延伸ポリプロピレンフィルムからコンデンサ素子を製造する工程におけるシワ、巻きズレ、及び座屈の発生が抑制されている。さらに、このような優れた効果に付随して、二軸延伸ポリプロピレンフィルムから得られたコンデンサ素子は、高温高電圧下での優れた長期耐用性を発揮し得る。
【0016】
以下、本実施形態に係る二軸延伸ポリプロピレンフィルム、当該二軸延伸ポリプロピレンフィルムを利用した、金属層一体型ポリプロピレンフィルム、フィルムコンデンサ、及びフィルムロールについて詳述する。なお、本明細書において、数値範囲の「~」とは、以上と以下とを意味する。即ち、α~βという表記は、α以上β以下、或いは、β以上α以下を意味し、範囲としてα及びβを含む。
【0017】
また、本明細書中において、「コンデンサ」なる表現は、「コンデンサ」、「コンデンサ素子」及び「フィルムコンデンサ」という概念を含む。また、「二軸延伸ポリプロピレンフィルム」を「フィルム」、「ポリプロピレンフィルムロール」を「フィルムロール」、「金属層一体型ポリプロピレンフィルム」を「金属層一体型フィルム」、及び「金属層一体型ポリプロピレンフィルムロール」を「金属層一体型フィルムロール」というように、省略して表記することがある。また、本実施形態に係る二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、微孔性フィルムではないので、多数の空孔を有していない。また、二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、2層以上の複数層で構成されていてもよいが、単層で構成されていることが好ましい。
【0018】
本実施形態に係る二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレン樹脂を主成分とする二軸配向ポリプロピレンフィルムであって、二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面は、ISO25178で規定されたコア部のレベル差Skが0.03~0.08μmであり、かつ、界面の面積展開比Sdrが0.08%以上であることを特徴としている。コア部のレベル差Sk及び界面の面積展開比Sdrは、それぞれ、表面性状について、ISO25178で規定されたパラメータである。これらのパラメータは、いずれも、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの表面について、光干渉式非接触表面形状測定機を用い、240μm×180μmの範囲内で表面形状の計測を行って取得され、Skは負荷曲線より算出される。
【0019】
コア部のレベル差Skは、前記の負荷曲線において、コア部の最大高さから最小高さを引いた値であり、等価直線の負荷面積率0%と100%の高さの差により算出される。本実施形態に係る発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも前記片面(少なくとも、前記のコア部のレベル差Sk及び界面の面積展開比Sdrを充足する片面)のコア部のレベル差Skは、好ましくは0.03~0.07、より好ましくは0.03~0.06、さらに好ましくは0.03~0.05である。
【0020】
界面の面積展開比Sdrは、複合パラメータであり、定義された領域の面積に対する測定表面積の増分から、表面積の増分比を表す(凹凸の無い平面だとゼロになる)。SaやRaで差が無くてもSdrに差が出ることがある。表面に傾斜があるとSdrは大きくなる。本実施形態に係る発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも前記片面(少なくとも、前記のコア部のレベル差Sk及び界面の面積展開比Sdrを充足する片面)の界面の面積展開比Sdrは、好ましくは0.08~0.60、より好ましくは0.09~0.40、より好ましくは0.10~0.25である。
【0021】
また、本実施形態に係る発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、本開示の二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも前記片面(少なくとも、前記のコア部のレベル差Sk及び界面の面積展開比Sdrを充足する片面)は、ISO25178で規定されたフラクタルパラメータSRCが30~60μm2であり、山の頂点密度Spdが1000~3000mm-2であり、山の頂点の主曲率の平均Spcが-600~-200mm-1であることが好ましい。
【0022】
フラクタルパラメータSRCは、比表面積とスケールの関係の両対数グラフで、直線性が成り立つスケールの上限値である。表面は、縮尺を大きくすると滑らかに見え、小さくすると粗く見える。この変化の境目となる尺度を、スムース・ラフ・クロスオーバー(Smooth-Rough Crossover:SRC)と呼ぶ。本実施形態に係る発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも前記片面(少なくとも、前記のコア部のレベル差Sk及び界面の面積展開比Sdrを充足する片面)のフラクタルパラメータSRCは、好ましくは30~60、より好ましくは30~50、さらに好ましくは30~40である。
【0023】
山の頂点密度Spdは、単位面積当たりの山頂点の数を表しており、この値が大きいと、他の物体との接触点の数が多いことを示唆している。本実施形態に係る発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも前記片面(少なくとも、前記のコア部のレベル差Sk及び界面の面積展開比Sdrを充足する片面)の山の頂点密度Spdは、好ましくは1000~3000mm-2、より好ましくは1300~2800mm-2である。
【0024】
山の頂点の主曲率の平均Spcは、表面の山頂点の主曲率の平均を表しており、この値が小さいと、他の物体と接触する点が丸みを帯びていることを示し、この値が大きいと、ほかの物体と接触する点が尖っていることを示している。本実施形態に係る発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも前記片面(少なくとも、前記のコア部のレベル差Sk及び界面の面積展開比Sdrを充足する片面)の山の頂点の主曲率の平均Spcは、好ましくは-600~-200mm-1、より好ましくは-450~-200mm-1である。
【0025】
また、本実施形態に係る発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、本開示の二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも前記片面(少なくとも、前記のコア部のレベル差Sk及び界面の面積展開比Sdrを充足する片面)は、ISO25178で規定された二乗平均平方根粗さSqが、好ましくは0.03~0.10μmであり、より好ましくは0.03~0.08μm、さらに好ましくは0.03~0.06、さらに好ましくは0.03~0.05である。
【0026】
また、本実施形態に係る発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、本開示の二軸配向ポリプロピレンフィルムのの両面について、ISO25178で規定されたコア部のレベル差Skの比(すなわち、片面のSk値と、もう片面のSk値の比であって、値のより小さいSk値で、値のより大きいSk値を除して得られる値)は、好ましくは1.3以上であり、より好ましくは1.3~1.5である。
【0027】
フラクタルパラメータSRC、山の頂点密度Spd、山の頂点の主曲率の平均Spc、最大高さSp、及び二乗平均平方根粗さSqについても、前記のコア部のレベル差Sk及び界面の面積展開比Sdrと同じく、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの表面について、光干渉式非接触表面形状測定機を用い、240μm×180μmの範囲内で表面形状の計測を行って取得される、負荷曲線より算出される。ISO25178で規定されたこれらの表面パラメータの具体的な測定方法は、実施例に記載の方法を採用する。
【0028】
ISO25178で規定された各種表面パラメータは、前記の通り、それぞれ、光干渉式非接触表面形状測定機を使用し、三次元表面粗さ評価法を用い、表面形状を計測することで求められる。「三次元表面粗さ評価法」は、フィルム表面の全面の高さを評価するため、フィルム表面の形状を三次元的に評価することになる。従って、測定対象面の局所的な微細変化や変異を把握することができ、より正確な表面粗さを評価することができる。単なる突起の高さ(一般的な中心線平均粗さRaなどによる二次元の表面粗さ評価)ではなく、三次元的な形状を用いてフィルム表面粗さを評価することにより、二軸延伸ポリプロピレンフィルムからコンデンサ素子を製造する工程におけるシワ、巻きズレ、及び座屈の発生を抑制することが可能となる。
【0029】
ISO25178で規定された前述の各種表面パラメータは、それぞれ、例えば、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを構成するポリプロピレン樹脂の分子量、分子量分布、ホモポリプロピレンの割合や、溶融温度、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの冷却ドラム温度、延伸温度、延伸速度などによって調整することができ、これらの好ましい設定値等については後述する。
【0030】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、厚さが、9.5μm以下が好ましく、6.0μm以下がより好ましく、3.0μm以下がさらに好ましく、2.9μm以下がさらに一層好ましく、2.8μm以下が特に好ましく、2.5μm以下が特に一層好ましい。また、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚さは、0.8μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましく、1.4μm以上がさらに好ましく、1.5μm以上がさらに一層好ましく、1.8μm以上が特に好ましい。特に、1.0~3.0μm、1.5~3.0μm、1.5~2.9μm等の範囲内である場合、二軸延伸ポリプロピレンフィルムが非常に薄いにもかかわらずスリット工程加工性、蒸着工程時のブロッキング抑制性及び素子巻き加工性に優れるため、好ましい。
【0031】
厚さが、9.5μm以下であると、静電容量を大きくすることができるため、コンデンサ用として好適に使用できる。また、製造上の観点から、厚さ0.8μm以上とすることができる。
【0032】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚さは、シチズンセイミツ社製の紙厚測定器MEI-11を用いて100±10kPaで測定すること以外、JIS-C2330に準拠して測定した値をいう。
【0033】
二軸延伸ポリプロピレンフィルム及び金属層一体型ポリプロピレンフィルムは、各々ロール状に巻回されており、フィルムロールの形態であることが好ましい。前記フィルムロールは、巻き芯(コア)を有していてもよいし、有していなくてもよい。前記フィルムロールは、巻き芯(コア)を有することが好ましい。前記フィルムロールの巻き芯の材質としては特に限定されない。前記材質としては、紙(紙管)、樹脂、繊維強化プラスチック(FRP)、金属等が挙げられる。前記樹脂としては、一例として、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体等が挙げられる。前記繊維強化プラスチックを構成するプラスチックとしては、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、熱可塑性樹脂等が挙げられる。前記繊維強化プラスチックを構成する繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維(ケブラー(登録商標)繊維)、カーボン繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維(ザイロン(登録商標)繊維)、ポリエチレン繊維、ボロン繊維等が挙げられる。前記金属としては、鉄、アルミニウム、ステンレス等が挙げられる。前記フィルムロールの巻き芯は、前記樹脂を紙管に含浸させてなる巻き芯も包含する。この場合、前記巻き芯の材質は樹脂として分類される。
【0034】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、主成分としてポリプロピレン樹脂を含有する。本明細書において、主成分としてポリプロピレン樹脂を含有する、とは、二軸延伸ポリプロピレンフィルム全体に対して(二軸延伸ポリプロピレンフィルム全体を100質量%としたときに)、ポリプロピレン樹脂を50質量%以上含有することをいう。二軸延伸ポリプロピレンフィルム全体に対するポリプロピレン樹脂の含有量は、好ましくは、75質量%以上であり、より好ましくは、90質量%以上である。ポリプロピレン樹脂の含有量の上限は、二軸延伸ポリプロピレンフィルム全体に対して、例えば、100質量%、98質量%等である。
【0035】
ポリプロピレン樹脂は、特に限定されず、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。ポリプロピレン樹脂は、なかでも、キャストシートとした際にβ型球晶を形成するポリプロピレン樹脂が好適である。
【0036】
ポリプロピレン樹脂の総灰分は、電気特性のために少ないほど好ましい。総灰分は、ポリプロピレン樹脂を基準として、好ましくは50ppm以下、より好ましくは40ppm以下、さらに好ましくは30ppm以下である。総灰分の下限は、たとえば2ppm、5ppmなどである。総灰分は、少ないほど、重合触媒残渣などの不純物が少ないことを意味する。
【0037】
本実施形態のポリプロピレンフィルムにおいて、ポリプロピレン樹脂は、たとえば、下記第1ポリプロピレン樹脂のみを含むことができるし、第1ポリプロピレン樹脂とともに、下記第2ポリプロピレン樹脂を含むこともできる。
【0038】
ポリプロピレン樹脂は第1ポリプロピレン樹脂を含むことができる。ポリプロピレン樹脂が第1ポリプロピレン樹脂を含む場合、第1ポリプロピレン樹脂の含有量は、ポリプロピレン樹脂100重量%に対して、好ましくは50重量%以上、より好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上である。第1ポリプロピレン樹脂の含有量は、上限に関しては、ポリプロピレン樹脂100重量%に対して、たとえば100重量%以下、99重量%以下、98重量%以下、95重量%以下などが挙げられ、ポリプロピレン樹脂100重量%に対して、好ましくは90重量%以下、より好ましくは85重量%以下、さらに好ましくは80重量%以下である。このように、本実施形態のポリプロピレンフィルムは、第1ポリプロピレン樹脂を主成分として含むことができる。第1ポリプロピレン樹脂として、たとえばアイソタクチックポリプロピレンを挙げることができる。
【0039】
第1ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量Mwは、好ましくは25万以上40万未満、より好ましくは27万以上37万以下、さらに好ましくは29万以上35万以下である。Mwが25万以上40万未満であると、ポリプロピレンフィルムの表面性状についてISO25178で規定された前記所定の各種パラメータを充足させやすい。また、Mwが25万以上35万未満であると、キャスト原反シートの厚さの制御が容易であり、厚みムラが発生し難い。
【0040】
第1ポリプロピレン樹脂の数平均分子量Mnは、好ましくは30000以上52000以下、より好ましくは32000以上50000以下、さらに好ましくは34000以上46000以下である。前記第1ポリプロピレン樹脂の数平均分子量Mnが30000以上52000以下であると、ポリプロピレンフィルムの表面性状についてISO25178で規定された前記所定の各種パラメータを充足させやすい。
【0041】
第1ポリプロピレン樹脂のz平均分子量Mzは、好ましくは750000以上1600000以下、より好ましくは1000000以上1550000以下である。前記第1ポリプロピレン樹脂のz平均分子量Mzが750000以上1600000以下であると、ポリプロピレンフィルムの表面性状についてISO25178で規定された前記所定の各種パラメータを充足させやすい。
【0042】
第1ポリプロピレン樹脂の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは5.0以上、より好ましくは6.0以上である。第1ポリプロピレン樹脂の前記Mw/Mnは、11.0以下が好ましく、10.0以下がより好ましい。前記第1ポリプロピレン樹脂のMw/Mnが5.0以上11.0以下であると、ポリプロピレンフィルムの表面性状についてISO25178で規定された前記所定の各種パラメータを充足させやすい。なお、前記分子量分布Mw/Mnは、重量平均分子量Mwの数平均分子量Mnに対する比である。
【0043】
第1ポリプロピレン樹脂の分子量分布(Mz/Mn)は、15以上70以下であることが好ましく、25以上60以下であることがより好ましく、30以上50以下であることがさらに好ましい。前記ポリプロピレン樹脂の分子量分布(Mz/Mn)が15以上70以下であると、ポリプロピレンフィルムの表面性状についてISO25178で規定された前記所定の各種パラメータを充足させやすい。なお、前記分子量分布Mz/Mnは、数平均分子量Mnに対するz平均分子量Mzの比である。
【0044】
本明細書において、前記ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、z平均分子量(Mz)、及び、分子量分布(Mw/Mn、及び、Mz/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)装置を用いて測定した値である。より具体的には、東ソー株式会社製、示差屈折計(RI)内蔵型高温GPC測定機のHLC-8121GPC-HT(商品名)を使用して測定した値である。GPCカラムとして、東ソー株式会社製の3本のTSKgel GMHHR-H(20)HTを連結して使用する。カラム温度を140℃に設定して、溶離液としてトリクロロベンゼンを1.0ml/10分の流速で流して、MwとMnの測定値を得る。東ソー株式会社製の標準ポリスチレンを用いてその分子量Mに関する検量線を作成して、測定値をポリスチレン値に換算して、Mw、Mn及びMzを得る。
【0045】
第1ポリプロピレン樹脂の230℃でのメルトフローレート(MFR)は、好ましくは8.0g/10分以下、より好ましくは6.0g/10分以下、さらに好ましくは5.5g/10分以下である。また、230℃におけるメルトフローレートは、3.5g/10分以上が好ましい。230℃でのメルトフローレートは、JIS K 7210-1999に準拠し、荷重2.16kg、230℃で測定される。前記メルトフローレートの単位g/10分は、dg/minともいう。
【0046】
第1ポリプロピレン樹脂のヘプタン不溶分は、好ましくは97.0%以上である。ヘプタン不溶分は、好ましくは98.5%以下である。ヘプタン不溶分は、多いほど樹脂の立体規則性が高いことを示す。前記ヘプタン不溶分(HI)が、97.0%以上98.5%以下であると、適度に高い立体規則性により、ポリプロピレンフィルム中でのポリプロピレン樹脂の結晶性が適度に向上し、高温下での耐電圧性が向上する。さらに、キャスト原反シート成形の際の固化(結晶化)の速度が適度となり、適度の延伸性を有する。ヘプタン不溶分(HI)の測定方法は、実施例記載の方法による。
【0047】
第1ポリプロピレン樹脂の総灰分は、電気特性のために少ないほど好ましい。総灰分は、第1ポリプロピレン樹脂を基準として、好ましくは50ppm以下、より好ましくは40ppm以下、さらに好ましくは30ppm以下である。総灰分の下限は、たとえば2ppm、5ppmなどである。
【0048】
ポリプロピレン樹脂は第2ポリプロピレン樹脂をさらに含むことができる。本実施形態のポリプロピレンフィルムは、第1ポリプロピレン樹脂に加えて第2ポリプロピレン樹脂を含むことが好ましく、ポリプロピレンフィルムを構成する樹脂が第1ポリプロピレン樹脂および第2ポリプロピレン樹脂であることがさらに好ましい。
【0049】
ポリプロピレン樹脂が第2ポリプロピレン樹脂を含む場合、第2ポリプロピレン樹脂の含有量は、ポリプロピレン樹脂100重量%に対して、50重量%以下が好ましく、49重量%以下がより好ましく、45重量%以下がさらに好ましく、40重量%以下が特に好ましい。また、ポリプロピレン樹脂が第2ポリプロピレン樹脂を含む場合、第2ポリプロピレン樹脂の含有量は、下限に関しては、例えば、ポリプロピレン樹脂100重量%に対して1重量%以上、2重量%以上、5重量%以上などが挙げられ、ポリプロピレン樹脂100重量%に対して好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上である。第2ポリプロピレン樹脂として、たとえばアイソタクチックポリプロピレンを挙げることができる。
【0050】
第2ポリプロピレン樹脂のMwは好ましくは30万以上、より好ましくは35万以上である。第2ポリプロピレン樹脂におけるMwは、好ましくは45万以下、より好ましくは40万以下である。
【0051】
第2ポリプロピレン樹脂のMnは、好ましくは40000以上54000以下、より好ましくは42000以上50000以下、さらに好ましくは44000以上48000以下である。
【0052】
第2ポリプロピレン樹脂のMzは、好ましくは1550000超え2000000以下、より好ましくは1580000以上1700000以下である。
【0053】
第2ポリプロピレン樹脂において、MwのMnに対する比(Mw/Mn)は、好ましくは5.5以上、さらに好ましくは7.0以上、特に好ましくは7.5以上である。第2ポリプロピレン樹脂におけるMw/Mnの上限は、たとえば11.0、10.0、9.0、8.5などである。Mw/MnとMwとが上述の各範囲を満たす第2ポリプロピレン樹脂を第1ポリプロピレン樹脂と併用することで、ポリプロピレンフィルムの表面性状についてISO25178で規定された前記所定の各種パラメータを充足させやすくなる。
【0054】
第2ポリプロピレン樹脂における、MzのMnに対する比(Mz/Mn)は、好ましくは30以上40以下、より好ましくは33以上36以下である。
【0055】
第2ポリプロピレン樹脂における230℃のメルトフローレートは、好ましくは4.0g/10分未満、より好ましくは3.9g/10分以下、さらに好ましくは3.8g/10分以下である。また、230℃のメルトフローレートは、1.0g/10分以上が好ましく、1.5g/10分以上がより好ましく、2.0g/10分以上がさらに好ましい。
【0056】
第2ポリプロピレン樹脂のヘプタン不溶分は、好ましくは97.5%以上、より好ましくは98.0%以上、さらに好ましくは98.5%超え、特に好ましくは98.6%以上である。また、ヘプタン不溶分は、好ましくは99.5%以下であり、より好ましくは99.0%以下である。
【0057】
第2ポリプロピレン樹脂の総灰分は、電気特性のために少ないほど好ましい。総灰分は、第2ポリプロピレン樹脂を基準として、好ましくは50ppm以下、より好ましくは40ppm以下、さらに好ましくは30ppm以下である。総灰分の下限は、たとえば2ppm、5ppmなどである。
【0058】
第1ポリプロピレン樹脂と第2ポリプロピレン樹脂との合計量は、ポリプロピレン樹脂全体を100重量%とした場合、たとえば90重量%以上であることができ、95重量%以上であることもでき、100重量%であることもできる。
【0059】
ポリプロピレン樹脂は、一般的に公知の重合方法を用いて製造することができる。本実施形態の二軸延伸ポリプロピレンフィルムに用い得るポリプロピレン樹脂を製造することができる限り、特に制限されることはない。そのような重合方法として、例えば、気相重合法、塊状重合法及びスラリー重合法を例示できる。
【0060】
重合は、1つの重合反応器を用いる単段(一段)重合であってよく、少なくとも2つ以上の重合反応器を用いた多段重合であってもよい。更に、反応器中に水素又はコモノマーを分子量調整剤として添加して行ってもよい。
【0061】
重合の際の触媒には、一般的に公知のチーグラー・ナッタ触媒を使用することができ、ポリプロピレン樹脂を得ることができる限り特に限定されない。触媒は、助触媒成分やドナーを含んでもよい。触媒や重合条件を調整することによって、分子量、分子量分布、立体規則性等を制御することができる。
【0062】
ポリプロピレン樹脂の分子量、分子量分布等は、例えば、(i)重合方法及び重合の際の温度・圧力等の各条件、(ii)重合の際の反応器の形態、(iii)添加剤の使用有無、種類及び使用量、(iv)触媒の種類及び使用量、などを適宜選択することより調整することができる。
【0063】
具体的に、ポリプロピレン樹脂の分子量、分子量分布等の調整は、例えば、多段重合反応により行うことができる。多段重合反応としては、例えば、次のような方法が例示できる。
【0064】
まず、第1重合工程において、プロピレン及び触媒が第1重合反応器に供給される。これらの成分とともに、分子量調整剤としての水素を、要求されるポリマーの分子量に到達するために必要な量で混合される。反応温度は、例えばスラリー重合の場合、70~100℃程度、滞留時間は20分~100分程度である。複数の反応器は、例えば直列に使用することができる。この場合、第1の工程の重合生成物は、追加のプロピレン、触媒、分子量調整剤とともに連続的に次の反応器に送られ、続いて、第1重合工程より低分子量あるいは高分子量に分子量を調整した第2の重合が行われる。第1及び第2の反応器の収量(生産量)を調整することによって、高分子量成分及び低分子量成分の組成(構成)を調整することが可能となる。
【0065】
また、ポリプロピレン樹脂の分子量、分子量分布等の調整は、過酸化分解によって行うこともできる。例えば、過酸化水素や有機過酸化物などの分解剤による過酸化処理による方法が例示できる。
ポリプロピレンのような崩壊型ポリマーに過酸化物を添加すると、ポリマーからの水素引抜き反応が起こり、生じたポリマーラジカルは一部再結合し架橋反応も起こすが、殆どのラジカルは二次分解(β開裂)を起こし、より分子量の小さな二つのポリマーに分かれる。すなわち、高分子量成分ほど高い確率で分解が進行する。これにより、低分子量成分が増大し、分子量分布の構成を調整することができる。
【0066】
ブレンド(樹脂混合)により低分子量成分の含有量を調整する場合には、少なくとも2種以上の異なる分子量の樹脂を、ドライ混合あるいは、溶融混合するのがよい。一般的には、主樹脂に、それより平均分子量が高いか、あるいは低い添加樹脂を1~40質量%程度混合する2種のポリプロピレン混合系が、低分子量成分量の調整が行い易いため、好ましく利用される。
【0067】
また、この混合調整の場合、平均分子量の目安として、メルトフローレート(MFR)を用いても構わない。この場合、主樹脂と添加樹脂のMFRの差は、1~30g/10分程度としておくのが、調整の際の利便性の観点から良い。
【0068】
ポリプロピレン樹脂としては、市販品を用いることもできる。
【0069】
本実施形態の二軸延伸ポリプロピレンフィルムにおいては、表面性状についてISO25178で規定された前記所定の各種パラメータを充足させる観点から、ポリプロピレン樹脂は、ホモポリプロピレン樹脂のみから構成されることが特に好ましく、さらに直鎖状ホモポリプロピレン樹脂のみから構成されることがより一層好ましい。
【0070】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレン樹脂以外の他の樹脂(以下「他の樹脂」ともいう)を含んでもよい。「他の樹脂」とは、一般的に、主成分の樹脂とされるポリプロピレン樹脂以外の樹脂であって、目的とする二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得ることができる限り特に制限されることはない。他の樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリ(1-ブテン)、ポリイソブテン、ポリ(1-ペンテン)、ポリ(1-メチルペンテン)などのポリプロピレン以外の他のポリオレフィン、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-ブテン共重合体等のα-オレフィン同士の共重合体、スチレン-ブタジエンランダム共重合体などのビニル単量体-ジエン単量体ランダム共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体などのビニル単量体-ジエン単量体-ビニル単量体ランダム共重合体等が挙げられる。二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、目的とする二軸延伸ポリプロピレンフィルムに悪影響を与えない量で含むことができる。二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレン樹脂100質量部に対して、他の樹脂を好ましくは10質量部以下含んでよく、より好ましくは5質量部以下含んでよい。また、二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレン樹脂100質量部に対して、他の樹脂を好ましくは0.1質量部以上含んでよく、より好ましくは1質量部以上含んでよい。
【0071】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、樹脂成分に加えて、更に、添加剤を少なくとも1種含有してもよい。「添加剤」とは、一般的に、ポリプロピレンに使用される添加剤であって、目的とする二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得ることができる限り特に制限されることはない。添加剤には、例えば、造核剤(α晶造核剤、β晶造核剤)、酸化防止剤、塩素吸収剤や紫外線吸収剤等の必要な安定剤、滑剤、可塑剤、難燃化剤、帯電防止剤、無機フィラー、有機フィラー等が含まれる。無機フィラーとしては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、酸化アルミニウム等が挙げられる。添加剤を用いる場合、目的とする二軸延伸ポリプロピレンフィルムに悪影響を与えない量で含むことができる。
【0072】
「造核剤」は、ポリプロピレンに一般的に用いられ、目的とする二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得ることができる限り、特に制限されることはない。
造核剤としては、α晶を優先的に造核させるα晶造核剤とβ晶を優先的に造核させるβ晶造核剤とが挙げられる。
α晶造核剤のうち有機系造核剤としては、分散型造核剤と溶解型造核剤とが挙げられる。分散型造核剤としては、リン酸エステル金属塩系造核剤、カルボン酸金属塩系造核剤、ロジン金属塩系造核剤等が挙げられる。溶解型造核剤としては、ソルビトール系造核剤、ノニトール系造核剤、キシリトール系造核剤、アミド系造核剤等が挙げられる。
β晶造核剤としては、アミド系造核剤、ジまたはポリカルボン酸金属塩系造核剤、キナクリドン系造核剤、芳香族スルホン酸系造核剤、フタロシアニン系造核剤、テトラオキサスピロ化合物系造核剤等が挙げられる。
造核剤は、ポリプロピレン原料とドライブレンド又はメルトブレンドし、ペレット化して用いることもできるし、ポリプロピレンペレットと共に押出機に投入して用いることもできる。造核剤を用いることによりフィルムの表面粗さを所望の粗さに調節することができる。造核剤の代表的市販品の例としては、例えばβ晶造核剤として、新日本理化株式会社製のエヌジェスターNU-100が挙げられる。二軸延伸ポリプロピレンフィルムがβ晶造核剤を含む場合、その含有量は、樹脂成分の質量に対して(樹脂成分を全体としたときに質量で)好ましくは1~1000質量ppm、より好ましくは50~600質量ppmである。
【0073】
「酸化防止剤」とは、一般に酸化防止剤と呼ばれ、ポリプロピレンに使用され、目的とする二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得ることができる限り、特に制限されることはない。酸化防止剤は、一般的に2種類の目的で使用される。一つの目的は、押出機内での熱劣化及び酸化劣化を抑制することであり、他の目的は、コンデンサ用フィルムとしての長期使用における劣化抑制及びコンデンサ性能向上に寄与することである。押出機内での熱劣化及び酸化劣化を抑制する酸化防止剤を「1次剤」ともいい、コンデンサ性能向上に寄与する酸化防止剤を、「2次剤」ともいう。
【0074】
これらの2つの目的に、2種類の酸化防止剤を用いてもよいし、2つの目的に1種類の酸化防止剤を使用してもよい。
【0075】
1次剤としては、例えば、2,6-ジ-ターシャリー-ブチル-パラ-クレゾール(一般名称:BHT)が挙げられる。1次剤は、通常、後述の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造方法において説明するポリプロピレン樹脂組成物の調製の際に、押出機内での熱劣化及び酸化劣化を抑制する目的で添加することができる。この目的でポリプロピレン樹脂組成物に添加される酸化防止剤は、押出機内での成形工程にてほとんどが消費され、製膜成形後のフィルム中には、ほとんど残存しない。したがって、二軸延伸ポリプロピレンフィルムが1次剤を含む場合、その含有量は、樹脂成分の質量に対して(樹脂成分を全体としたときに質量で)通常100質量ppm未満である。
【0076】
2次剤としては、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。
【0077】
「カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤」とは、通常、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤とされ、目的とする二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得ることができる限り特に制限されることはない。
【0078】
カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えば、トリエチレングリコール-ビス[3-(3-ターシャリー-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:イルガノックス245)、1,6-ヘキサンジオール-ビス[3-(3,5-ジ-ターシャリー-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:イルガノックス259)、ペンタエリスルチル・テトラキス[3-(3,5-ジ-ターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:イルガノックス1010)、2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-ターシャリー-ブチルー4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:イルガノックス1035)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-ターシャリー-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(商品名:イルガノックス1076)、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-ターシャリー-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマミド)(商品名:イルガノックス1098)などが挙げられるが、高分子量であり、ポリプロピレンとの相溶性に富み、低揮発性かつ耐熱性に優れたペンタエリスルチル・テトラキス[3-(3,5-ジ-ターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が、とりわけ好ましい。
【0079】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、長期使用時における時間と共に進行する劣化を抑制する目的で、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤(2次剤)を1種類以上含んでもよい。二軸延伸ポリプロピレンフィルムがカルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤を1種類以上含有する場合、その含有量は、樹脂成分の質量に対して(樹脂成分を全体としたときに質量で)、好ましくは4000質量ppm以上6000質量ppm以下、より好ましくは4500質量ppm以上6000質量ppm以下である。フィルム中のカルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤の含有量が4000質量ppm以上6000質量ppm以下であることが、適切な効果発現の観点から好ましい。
【0080】
ポリプロピレンと分子レベルで相溶性が良好であるカルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤を、最適な特定範囲の量を含有させた二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、長期耐用性が向上するので好ましい。
【0081】
「塩素吸収剤」とは、一般に塩素吸収剤と呼ばれ、ポリプロピレンに使用され、目的とする二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得ることができる限り、特に制限されることはない。塩素吸収剤として、例えば、ステアリン酸カルシウムなどの金属石鹸等を例示できる。そのような塩素吸収剤を用いる場合、目的とする二軸延伸ポリプロピレンフィルムに悪影響を与えない量で含むことができる。
【0082】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、二軸延伸されていることが好ましい。二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、一般的に知られている二軸延伸ポリプロピレンフィルムの製造方法により製造することができる。例えば、ポリプロピレン樹脂を、必要に応じて他の樹脂、添加剤等と共に混合することにより得られたポリプロピレン樹脂組成物からキャストシートを作製し、次いでキャストシートを二軸延伸することにより製造することができる。
【0083】
<ポリプロピレン樹脂組成物の調製>
ポリプロピレン樹脂組成物を調製する方法としては、特に制限はないが、ポリプロピレン樹脂の重合粉あるいはペレットを、必要に応じて他の樹脂、添加剤等と共に、ミキサー等を用いてドライブレンドする方法や、ポリプロピレン樹脂の重合粉あるいはペレットを、必要に応じて他の樹脂、添加剤等と共に、混練機に供給し、溶融混練してメルトブレンド樹脂組成物を得る方法などが挙げられる。
【0084】
ミキサー、混練機は、特に制限されない。混練機は、1軸スクリュータイプ、2軸スクリュータイプ、それ以上の多軸スクリュータイプの何れでもよい。2軸以上のスクリュータイプの場合、同方向回転、異方向回転のどちらの混練タイプでも構わない。
【0085】
溶融混練によるブレンドの場合、混練温度は、良好な混練さえ得られれば特に制限はないが、好ましくは170~320℃の範囲であり、より好ましくは200℃~300℃の範囲であり、さらに好ましくは230℃~270℃の範囲内である。樹脂の混練混合の際の劣化を抑制するため、混練機に窒素などの不活性ガスをパージしても構わない。溶融混練された樹脂は、一般的に公知の造粒機を用いて、適当な大きさにペレタイズすることによって、メルトブレンド樹脂組成物のペレットを得ることができる。
【0086】
ポリプロピレン樹脂組成物の調製の際に、押出機内での熱劣化及び酸化劣化を抑制する目的で、上述の添加剤の項において説明した酸化防止剤としての1次剤を添加することができる。
ポリプロピレン樹脂組成物が1次剤を含む場合、その含有量は、好ましくは樹脂成分の質量に対して(樹脂成分を全体としたときに質量で)1000質量ppm~5000質量ppmである。この目的の酸化防止剤は、押出機内での成形工程にてほとんどが消費され、製膜成形後のフィルム中には、ほとんど残存しない。
【0087】
上述の添加剤の項において説明したカルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤を2次剤としてポリプロピレン樹脂組成物に添加することができる。
ポリプロピレン樹脂組成物がカルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む場合、その含有量は、樹脂成分の質量に対して(樹脂成分を全体としたときに質量で)好ましくは100質量ppm~10000質量ppm、より好ましくは5500質量ppm~7000質量ppmである。押出機内では少なからず、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤も消費される。
ポリプロピレン樹脂組成物が1次剤を含まない場合、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤をより多く使用することができる。これは、押出機内で、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤の消費量が増えるためである。ポリプロピレン樹脂組成物が1次剤を含まず、カルボニル基を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む場合、その含有量は、樹脂成分の質量に対して(樹脂成分を全体としたときに質量で)6000質量ppm~8000質量ppm以下である。
【0088】
<キャストシートの作製>
キャストシートは、予め作製したドライブレンド樹脂組成物および/またはメルトブレンド樹脂組成物のペレット類を押出機に供給して、加熱溶融し、ろ過フィルターを通した後、好ましくは170℃~320℃、より好ましくは200℃~300℃に加熱溶融してTダイから溶融押し出し、好ましくは40℃~140℃、より好ましくは80℃~140℃、さらに好ましくは90~140℃、特に好ましくは90~120℃、より特に好ましくは90~105℃の温度(キャスト温度)に保持された少なくとも1個以上の金属ドラムで、冷却、固化させることにより得ることができる。この際、溶融押し出しされた樹脂組成物をエアーナイフで金属ドラムに押さえつけることが好ましい。なお、金属ドラムに接触する側の面が第1の面となり、反対側の面(エアーナイフ側の面)が第2の面となる。本実施形態の二軸延伸ポリプロピレンフィルムにおいては、表面性状についてISO25178で規定された前記所定の各種パラメータを充足させる観点から、溶融温度は、260~300℃の範囲内であることが特に好ましく、260~280℃の範囲内であることがより一層好ましい。さらに、同様の観点から、溶融押し出された樹脂組成物を金属ドラムで、冷却、固化させる際の金属ドラムの表面温度は95~105℃の範囲内であることが特に好ましく、95~100℃の範囲内であることがより一層好ましい。
【0089】
キャストシートの厚みは、目的とする二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得ることができる限り、特に制限されることはないが、好ましくは0.05mm~2mm、より好ましくは0.1mm~1mmである。
【0090】
なお、キャストシートの作製工程中(特に、押出機内)においては、ポリプロピレンは、少なからず熱劣化(酸化劣化)やせん断劣化を受ける。このような劣化の進行度合い、即ち分子量分布や立体規則性の変化は、押出器内の窒素パージ(酸化の抑制)、押出機内のスクリュー形状(せん断力)、キャスト時のTダイの内部形状(せん断力)、酸化防止剤の添加量(酸化の抑制)、キャスト時の巻き取り速度(伸長力)などにより抑制することが可能である。
【0091】
<延伸処理>
二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、キャストシートに延伸処理を施すことによって製造することができる。延伸方法としては逐次二軸延伸方法が好ましい。逐次二軸延伸方法としては、まずキャストシートを好ましくは100~180℃、より好ましくは140~160℃の温度に保ち、速度差を設けたロール間に通して流れ方向に3~7倍に延伸し、直ちに室温に冷却する。この縦延伸工程の温度を適切に調整することにより、β晶は融解しα晶に転移し、凹凸が顕在化する。引き続き、当該延伸フィルムをテンターに導いて好ましくは160℃以上、より好ましくは160~180℃の温度で幅方向に3~11倍に横延伸した後、緩和、熱固定を施して、ロール状に巻回する。本実施形態の二軸延伸ポリプロピレンフィルムにおいては、表面性状についてISO25178で規定された前記所定の各種パラメータを充足させる観点から、縦延伸工程における加熱温度(縦延伸温度)は、150~160℃の範囲内に設定し、かつ、縦延伸工程における延伸速度(縦延伸速度)は、65,000~75,000%/秒の範囲内に設定することが望ましい。
【0092】
ロール状に巻回されたフィルムは、20~45℃程度の雰囲気中でエージング処理を施した後、巻き戻されながら(繰り出されながら)、スリッター等で所望の製品幅にスリット加工(断裁)され、各々、再び巻回される。
【0093】
このような延伸工程によって、機械的強度、剛性に優れたフィルムとなり、また、表面の凹凸もより明確化され、微細に粗面化された二軸延伸フィルムとなる。
【0094】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムには、延伸及び熱固定工程終了後に、オンラインもしくはオフラインにてコロナ放電処理を行ってもよい。コロナ放電処理を行うことにより、金属蒸着加工工程などの後工程における接着特性を高めることができる。コロナ放電処理は、公知の方法を用いて行うことができる。雰囲気ガスとして空気、炭酸ガス、窒素ガス、及びこれらの混合ガスを用いて行うことが好ましい。
【0095】
コンデンサとして加工するために、二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面又は両面に金属層を積層し、金属層一体型ポリプロピレンフィルムとしてもよい。金属層は、電極として機能する。金属層に用いられる金属としては、例えば、亜鉛、鉛、銀、クロム、アルミニウム、銅、ニッケルなどの金属単体、それらの複数種の混合物、それらの合金などを使用することができるが、環境、経済性及びコンデンサ性能などを考慮すると、亜鉛、アルミニウムが好ましい。
【0096】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムの片面又は両面に金属層を積層する方法としては、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法を例示することができる。生産性及び経済性などの観点から、真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法として、一般的にるつぼ法式やワイヤー方式などを例示することができるが、特に限定されることはなく、適宜最適なものを選択することができる。
【0097】
蒸着により金属層を積層する際のマージンパターンも特に限定されるものではないが、コンデンサの保安性等の特性を向上させる点から、フィッシュネットパターンないしはTマージンパターンといった、いわゆる特殊マージンを含むパターンをフィルムの片方の面上に施すことが好ましい。保安性が高まり、コンデンサの破壊、ショートの防止、などの点からも効果的である。
【0098】
マージンを形成する方法はテープ法、オイル法など、一般に公知の方法が、何ら制限無く使用することができる。
【0099】
二軸延伸ポリプロピレンフィルムに金属層を形成する際には、ロール状に巻回された二軸延伸ポリプロピレンフィルムが、巻き戻され(繰り出され)、蒸着膜等の金属層が一方又は両方の面に形成され、再び、巻回される。本実施形態の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、表面性状について、ISO25178で規定された前記所定のパラメータを充足しているため、金属蒸着工程におけるシワ、巻きズレの発生が抑制されている。
【0100】
金属層一体型ポリプロピレンフィルムは、従来公知の方法で複数積層するか、素子巻き加工(巻回)してフィルムコンデンサとすることができる。
【0101】
具体的に、金属層一体型ポリプロピレンフィルムの各マージン部の中央に刃を入れてスリット加工し、表面の一方の面にマージンを有する巻取リールを作製する(スリット加工)。
次に、左マージンの巻取リールと右マージンの巻取リールを用い、幅方向に蒸着部分がマージン部よりもはみ出すように2枚重ね合わせて巻回する(素子巻き加工)。
本実施形態の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、表面性状について、ISO25178で規定された前記所定のパラメータを充足しているため、スリット加工工程や素子巻き加工工程におけるシワ、巻きズレの発生が抑制されている。
次に、巻回体から芯材を抜いてプレスし、扁平化工程を行う。本実施形態の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは、表面性状について、ISO25178で規定された前記所定のパラメータを充足しているため、扁平化工程における座屈の発生も抑制されている。
次に、両端面に外部電極を形成し、さらに、外部電極にリード線を設ける。以上により、巻回型のフィルムコンデンサが得られる。
【0102】
本実施形態のコンデンサは、本実施形態の金属化フィルムに基づく小型かつ大容量型のコンデンサであって、高温高電圧下での長期耐用性を有するものである。
【実施例0103】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り、部及び%はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0104】
〔ポリプロピレン樹脂〕
実施例及び比較例の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを製造するために使用したポリプロピレン樹脂を、表1に示す。
表1に示す樹脂A、E、Fは、プライムポリマー株式会社製の製品である。樹脂Bは、大韓油化社製のHPT-1である。樹脂Cは、大韓油化社製のS802Mである。樹脂B3は、大韓油化社製である。樹脂C1は、日本ポリプロ株式会社製のMFX6である。樹脂Dは、ボレアリス社製のHC300BFである。樹脂A、B、C、D、E、Fは、いずれも直鎖状ホモポリプロピレン樹脂である。樹脂Gは、ボレアリス社製の長鎖分岐ポリプロピレン樹脂WB135HMS(Daploy HMS-PP)である。
表1に、直鎖状ホモポリプロピレン樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、z平均分子量(Mz)、分子量分布(Mw/Mn)、分子量分布(Mz/Mn)、メルトフローレート(MFR)、及び、ヘプタン不溶分(HI)を示した。これらの値は、原料樹脂ペレットの形態での値である。測定方法は以下の通りである。
【0105】
<直鎖状ポリプロピレン樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、z平均分子量(Mz)、分子量分布(Mw/Mn)、及び、分子量分布(Mz/Mn)の測定>
GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用い、以下の条件で、各樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、z平均分子量(Mz)、分子量分布(Mw/Mn)、及び、分子量分布(Mz/Mn)を測定した。
具体的に、東ソー株式会社製、示差屈折計(RI)内蔵高温GPC装置であるHLC-8121GPC-HT型を使用した。カラムとして、東ソー株式会社製のTSKgel GMHHR-H(20)HTを3本連結して使用した。140℃のカラム温度で、溶離液として、トリクロロベンゼンを、1.0ml/minの流速で流して測定した。東ソー株式会社製の標準ポリスチレンを用いてその分子量Mに関する検量線を作成し、測定値をQ-ファクターを用いてポリプロピレンの分子量へ換算して、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及び、z平均分子量(Mz)を得た。このMwとMnの値を用いて分子量分布(Mw/Mn)を得た。また、このMzとMnの値を用いて分子量分布(Mz/Mn)を得た。
【0106】
<メルトフローレート(MFR)の測定>
各樹脂について原料樹脂ペレットの形態でのメルトフローレート(MFR)を、東洋精機株式会社のメルトインデックサを用いてJIS K 7210の条件Mに準じて測定した。具体的には、まず、試験温度230℃にしたシリンダ内に、4gに秤りとった試料を挿入し、2.16kgの荷重下で3.5分予熱した。その後、30秒間で底穴より押出された試料の重量を測定し、MFR(g/10min)を求めた。上記の測定を3回繰り返し、その平均値をMFRの測定値とした。結果を表1に示す。
【0107】
<ヘプタン不溶分(HI)の測定>
各樹脂について、10mm×35mm×0.3mmにプレス成形して約3gの測定用サンプルを作製した。次に、ヘプタン約150mLを加えてソックスレー抽出を8時間行った。抽出前後の試料質量よりヘプタン不溶分を算出した。結果を表1に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
上述の樹脂を用いて、実施例、及び、比較例の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを以下の方法で作製した。
【0110】
<二軸延伸ポリプロピレンフィルムの作製>
(実施例1)
樹脂Aと樹脂Bとをドライブレンドした。混合比率は、質量比で(樹脂A):(樹脂B)=65:35とした。その後、ドライブレンドした樹脂を用い、樹脂温度270℃で溶融した後、Tダイを用いて押出し、表面温度を96℃に保持した金属ドラムに巻きつけて固化させた。これにより、厚さ125μmのキャストシートを作製した。この際、溶融押し出しされた樹脂組成物をエアーナイフで金属ドラムに押さえつけながらキャストシートを作製した。得られた未延伸のキャストシートを145℃の温度に保ち、速度差を設けたロール間に通して、延伸速度67300%/秒で、流れ方向に5倍に延伸し、直ちに室温に冷却した。引き続き、延伸フィルムをテンターに導いて、155℃の温度で、延伸速度335%/秒で、幅方向に10倍に延伸した後、緩和、熱固定を施した。次いで、フィルム表面(金属ドラム接触面側)に25W・分/m2の処理速度で大気中でコロナ放電処理を行った後、巻き取り、30℃程度の雰囲気中でエージング処理を施した。これにより、厚さ2.5μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0111】
(実施例2)
樹脂Aと樹脂Cとを、質量比で(樹脂A):(樹脂C)=65:35にてドライブレンドした樹脂を用いたこと、及び、キャストシートの厚さを115μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、厚さ2.3μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0112】
(実施例3)
ドライブレンドした樹脂の代わりに、樹脂Dのみを用いたこと、及び、金属ドラムの温度を97℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、厚さ2.5μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0113】
(実施例4)
キャストシートの厚さを115μmとしたこと、及び、金属ドラムの温度を97℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、厚さ2.3μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0114】
(実施例5)
キャストシートの厚さを115μmとしたこと、及び、金属ドラムの温度を98℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、厚さ2.3μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0115】
(実施例6)
キャストシートの厚さを115μmとしたこと、及び、金属ドラムの温度を99℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、厚さ2.3μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0116】
(比較例1)
樹脂Aと樹脂Bとをドライブレンドした。混合比率は、質量比で(樹脂A):(樹脂B)=65:35とした。その後、ドライブレンドした樹脂を用い、樹脂温度250℃で溶融した後、Tダイを用いて押出し、表面温度を92℃に保持した金属ドラムに巻きつけて固化させた。これにより、厚さ125μmのキャストシートを作製した。この際、溶融押し出しされた樹脂組成物をエアーナイフで金属ドラムに押さえつけながらキャストシートを作製した。得られた未延伸のキャストシートを140℃の温度に保ち、速度差を設けたロール間に通して、延伸速度57600%/秒で、流れ方向に5倍に延伸し、直ちに室温に冷却した。引き続き、延伸フィルムをテンターに導いて、165℃の温度で、延伸速度305%/秒で、幅方向に10倍に延伸した後、緩和、熱固定を施した。次いで、フィルム表面(金属ドラム接触面側)に25W・分/m2の処理速度で大気中でコロナ放電処理を行った後、巻き取り、30℃程度の雰囲気中でエージング処理を施した。これにより、厚さ2.5μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0117】
(比較例2)
ドライブレンドの混合比率を(樹脂A):(樹脂B)=75:25としたこと以外は、比較例1と同様にして、厚さ2.5μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0118】
(比較例3)
樹脂A、樹脂B、及び、樹脂Gを、質量比で(樹脂A):(樹脂B):(樹脂G)=64:34:2にてドライブレンドした樹脂を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、厚さ2.5μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0119】
(比較例4)
樹脂E、樹脂B、及び、樹脂Gを、質量比で(樹脂E):(樹脂B):(樹脂G)=64:34:2にてドライブレンドした樹脂を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、厚さ2.5μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0120】
(比較例5)
樹脂Fと樹脂Cとをドライブレンドした。混合比率は、質量比で(樹脂F):(樹脂C)=75:25とした。その後、ドライブレンドした樹脂を用い、樹脂温度250℃で溶融した後、Tダイを用いて押出し、表面温度を95℃に保持した金属ドラムに巻きつけて固化させた。これにより、厚さ115μmのキャストシートを作製した。この際、溶融押し出しされた樹脂組成物をエアーナイフで金属ドラムに押さえつけながらキャストシートを作製した。得られた未延伸のキャストシートを130℃の温度に保ち、速度差を設けたロール間に通して、延伸速度46000%/秒で、流れ方向に4倍に延伸し、直ちに室温に冷却した。引き続き、延伸フィルムをテンターに導いて、160℃の温度で、延伸速度300%/秒で、幅方向に10倍に延伸した後、緩和、熱固定を施して巻き取り、30℃程度の雰囲気中でエージング処理を施した。これにより、厚さ2.3μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0121】
(比較例6)
樹脂Dと樹脂Cとを、質量比で(樹脂D):(樹脂C)=80:20にてドライブレンドした樹脂を用いたこと、金属ドラムの温度を102℃としたこと、及び、キャストシートの厚さを125μmとしたこと以外は、比較例5と同様にして、厚さ2.5μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。
【0122】
<二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚さ測定>
実施例、比較例の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの厚さを測定した。具体的に、シチズンセイミツ社製の紙厚測定器MEI-11を用いて100±10kPaで測定すること以外、JIS-C2330に準拠して測定した。結果を表2に示す。
【0123】
<ISO25178で規定された各種表面パラメータの測定>
実施例、比較例の二軸延伸ポリプロピレンフィルムについて、ISO25178で規定された「コアのレベル差」Sk、「界面の面積展開比」Sdr、「フラクタルパラメータ」SRC、「山の頂点密度」Spd、「山の頂点の主曲率の平均」Spc、「最大高さ」Sp、及び、「二乗平均平方根粗さ」Sqを、以下の方法にて測定した。なお、測定はフィルムの両方の表面それぞれについて行い、以下においては、Sqがより大きいほうの面を「A面(粗化面)」、Sqがより小さいほうの面を「B面(非粗化面)」と呼ぶ。なお、本実施例、比較例においては、「A面(粗化面)」に上述のコロナ放電処理、及び、後述のアルミニウム金属蒸着が施される。
光干渉式非接触表面形状測定機として(株)菱化システム製の「VertScan2.0(型式:R5500GML)」を使用した。WAVEモードを用い、530whiteフィルタ及び1×BODYの鏡筒を適用し、×20対物レンズを用いて、一視野あたり240μm×180μmの計測を行った。この操作を対象試料(ポリプロピレンフィルム)の流れ方向・幅方向ともに中央となる箇所から流れ方向に1cm間隔で10箇所について行った。
次に、得られたデータに対して、メディアンフィルタ(3×3)によるノイズ除去処理を行ない、その後、カットオフ値30μmによるガウシアンフィルタ処理を行い、うねり成分を除去した。これにより、粗面化表面の状態を適切に計測できる状態とした。
次に、「VertScan2.0」の解析ソフトウェア「VS-Viewer」のプラグイン機能「ベアリング」にある、「ISOパラメータ」を用いて解析を行い、それぞれの面について、Sk、Sdr、SRC、Spd、Spc、Sp、及び、Sqを求めた。ここで、A面、B面についてのそれぞれの値は、例えば、SkA、SkBのように表記する。最後に、上記10箇所で得られた各値(SkA、SkB、SdrA、SdrB、SRCA、SRCB、SpdA、SpdB、SpcA、SpcB、SpA、SpB、SqA、SqB)について、それぞれ平均値を算出した。結果を表2に示す。なお、表2には、両面のSkの比SkA/SkBも合わせて示した。
【0124】
【表2】
【0125】
実施例、比較例の二軸延伸ポリプロピレンフィルムに、金属蒸着を施して金属層一体型ポリプロピレンフィルムを作製し、さらに当該フィルムをスリット加工した後、巻取り・扁平化工程を経て、扁平型フィルムコンデンサ素子を作製した。外観品質、及び、耐電圧性能において優れたフィルムコンデンサ素子を作製するために求められる、蒸着工程でのシワ発生抑制、スリット工程でのシワ・巻きズレ発生抑制、巻取り工程でのシワ発生抑制、及び、扁平化工程での座屈発生抑制について、それぞれの工程において、以下の評価を行った。
【0126】
<蒸着工程でのシワ発生抑制状況の評価>
実施例、比較例で得られた二軸延伸ポリプロピレンフィルムを幅620mmにスリットした巻取りを用いて、コロナ放電処理を施した方のフィルム表面に、(株)アルバック製連続式真空蒸着機で、Tマージン蒸着パターンを蒸着抵抗15Ω/□にてアルミニウム蒸着を施すことにより、金属層一体型ポリプロピレンフィルムを得た。蒸着速度400m/分で、パターン蒸着はワイヤー方式による真空蒸着法に従って行い、ヘビーエッジ蒸着はるつぼ方式による真空蒸着法に従って行った。蒸着後のフィルム長さは50,000mであった。前記蒸着工程におけるシワ発生抑制状況について、蒸着機内部のフィルム走行状況を観察し、以下の通り評価した。結果を表3に示す。
A=良好 : 蒸着中、シワの発生やフィルムのばたつきは見られず、後の工程に全く支障が無い。
B=許容 : 蒸着中、流れ方向に連続的に走るシワや、フィルム端部から斜めに入るシワや、フィルムのばたつきが断続的に見られるが、程度は小さく、巻き取った後のロールではほぼ解消されており、後の工程に支障が無い。
C=不良 : 蒸着中、流れ方向に連続的に走るシワや、フィルム端部から斜めに入るシワや、フィルムのばたつきが常時見られ、程度も大きく、巻き取った後のロールにもシワが入り込んでしまうため、後の工程に大きな支障をきたす。
【0127】
<スリット工程でのシワ、及び、巻きズレ発生抑制状況の評価>
前記で得られた幅620mmの金属層一体型ポリプロピレンフィルムの各マージン部の中央に刃を入れて、スリット速度350m/分で、幅30mm、長さ10,000mの小巻取になるようにスリット加工した。その際、金属蒸着巻取繰り出し部において、蒸着面と非蒸着面とのブロッキングにより発生するフィルムの左右への蛇行に起因して、スリット中に流れ方向のシワが発生する、及び、スリット中の巻きズレのために、スリット後の小巻取りに端面ズレが発生するといった問題が起きる場合がある。それらシワ発生、及び、巻きズレ発生の抑制状況について、スリット中のフィルム走行状況、及び、スリット後の小巻取りの端面ズレを観察し、以下の通り評価した。結果を表3に示す。
A=良好 : スリット中、シワの発生は見られず、また、得られた小巻取り20個全ての端面ズレがスリット幅の1.0%以内である。
B=許容 : スリット中、流れ方向に、後の工程に影響しない程度の軽微なスジ状のシワが発生するか、もしくは、得られた小巻取り20個全ての端面ズレがスリット幅の2.0%以内であるが、1個以上が1.0%を超えるか、のいずれかである。
C=不良 : スリット中、流れ方向に、後の工程に影響を及ぼす程度の連続的なシワが発生するか、もしくは、得られた小巻取り20個のうち1個以上の端面ズレがスリット幅の2.0%を超えるか、のいずれかである。
【0128】
<素子巻き加工工程でのシワ発生抑制状況の評価>
スリット加工性評価により得られた小巻取のうち、左マージンの巻取リールと右マージンの巻取リールを用い、幅方向に蒸着部分がマージン部よりもはみ出すように2枚重ね合わせて巻回した(素子巻き加工工程)。巻回は、株式会社皆藤製作所製、自動巻取機 3KAW-N2型を用い、巻き取り張力200gにて、1360ターン行った。その際、巻き始めから巻き終わりまでを目視で観察し、シワや巻きズレが発生したものを不合格とし、合格となったものの数の製造数全体に対する割合を百分率で示し加工性の指標とした(以下素子巻収率と称する)。素子巻収率は高いほど好ましい。素子巻収率を基に、素子巻加工工程でのシワ発生抑制状況を以下の通り評価した。結果を表3に示す。
A=良好 : 素子巻収率 95%以上。
B=許容 : 素子巻収率 85%以上95%未満。
C=不良 : 素子巻収率 85%未満。
【0129】
<扁平素子成形時の座屈、及び、シワ発生抑制状況の評価>
前記素子巻き加工工程で巻き取られた円筒状素子巻取りは、同じ自動巻取機にて、0.35MPaの圧力でプレスされて扁平素子に成形される。その際、フィルム表面同士のスベリ性不良に起因して、巻芯部や外側部に、座屈と呼ばれる大きなフィルムの折れ曲がりや、座屈には至らないまでも、細かいシワが発生して、素子の形状不良が発生することがある。座屈やシワの有無の判断は、プレス後の扁平素子形状を断面から目視観察して行い、明らかな座屈やシワが発生したものを不合格とし、合格となった扁平素子数の、素子巻加工工程で合格となった素子巻取り全数に対する割合を百分率で示し、扁平素子合格率として算出した。扁平素子合格率を基に、扁平素子成形時のシワ発生抑制状況を以下の通り評価した。結果を表3に示す。
A=良好 : 扁平素子合格率 95%以上。
B=許容 : 扁平素子合格率 85%以上95%未満。
C=不良 : 扁平素子合格率 85%未満。
【0130】
<フィルムコンデンサの作製、及び、静電容量>
前記で得られた扁平素子は、0.30MPaの圧力でプレスしながら120℃にて15時間熱処理を施した後、素子端面に亜鉛金属を溶射し、その溶射された端面にリード線をはんだ付けし、その後エポキシ樹脂で封止して、フィルムコンデンサを作製した。出来上がったコンデンサの静電容量は、いずれも75μF(±5μF)であった。なお、これ以降において、フィルムコンデンサの静電容量の測定は、日置電機(株)製LCRハイテスター3522-50を用いて行った。
【0131】
<フィルムコンデンサ耐圧試験>
実施例、比較例の二軸延伸ポリプロピレンフィルムそれぞれに関して、前記で得られたフィルムコンデンサ3個ずつを用いて、高温での長期耐圧試験を、電圧条件「低」及び「高」の2条件にて、以下の通り実施した。まず試験前の初期の静電容量を室温にて測定した後、115℃の恒温槽中にて、コンデンサに直流電圧を500時間負荷し続けた。印加した直流電圧をフィルム厚さで除した電位傾度が、電圧条件「低」では300V/μm、電圧条件「高」では330V/μmになるように印加した。500時間経過後、電圧印加を止め、恒温槽からコンデンサを取り出して放冷した後、静電容量を測定し、電圧負荷前後の容量変化率を算出した。コンデンサ3個についての容量変化率の平均値に基づき、コンデンサ耐圧を以下の通り評価した。結果を表3に示す。
A=良好 : 容量変化率 -1%~+5%
B=許容 : 容量変化率 -5%~-1%
C=不良 : 容量変化率 -100%~-5%
【0132】
【表3】