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特開2024-91931D-アロースを有効成分として含む、腎細胞癌を治療又は予防するための組成物、及びそれを用いた癌を治療又は予防する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091931
(43)【公開日】2024-07-05
(54)【発明の名称】D-アロースを有効成分として含む、腎細胞癌を治療又は予防するための組成物、及びそれを用いた癌を治療又は予防する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7004 20060101AFI20240628BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240628BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20240628BHJP
【FI】
A61K31/7004
A61P35/00
A23L33/125
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024071975
(22)【出願日】2024-04-25
(62)【分割の表示】P 2022510561の分割
【原出願日】2021-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2020051807
(32)【優先日】2020-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】304028346
【氏名又は名称】国立大学法人 香川大学
(71)【出願人】
【識別番号】722010585
【氏名又は名称】セトラスホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】田岡 利宜也
(72)【発明者】
【氏名】筧 善行
(72)【発明者】
【氏名】杉元 幹史
(72)【発明者】
【氏名】張 霞
(72)【発明者】
【氏名】松岡 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】何森 健
(72)【発明者】
【氏名】吉原 明秀
(57)【要約】
【課題】本発明は、簡便かつ苦痛の少ない投与手段で適用され、効果的な抗癌作用を発揮する組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、D-アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物を有効成分として含み、経腸管投与(例えば、経口投与)されることを特徴とする、腎細胞癌を治療又は予防するための組成物を提供する。また、本発明は、D-アロースを有効成分として含む腎細胞癌を治療又は予防するための組成物を、それを必要とする対象に経腸管投与(例えば、経口投与)することを含む、対象における腎細胞癌を治療又は予防する方法を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
D-アロースを有効成分として含み、経腸管投与されることを特徴とする、腎細胞癌を治療又は予防するための組成物。
【請求項2】
前記経腸管投与が、経口投与である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記D-アロースが、1mg/kg体重/日~1000mg/kg体重/日で、投与される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記D-アロースが、D-アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
D-アロースの誘導体が、D-アロースのカルボニル基がアルコール基となった糖アルコール、D-アロースのアルコール基が酸化したウロン酸、D-アロースのアルコール基がアミノ基で置換されたアミノ糖、及びD-アロースの任意のヒドロキシ基が水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、低級アルキル基、低級アルコキシ基、低級アルカノイル基、低級アルカノイルオキシ基、低級アルコキシカルボニル基、モノ又はジ低級アルキル置換アミノ基、アラルキル基、アリール基又はヘテロアリール基で置換されたD-アロース誘導体からなる群から1又は複数選択されるD-アロース誘導体である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
医薬品である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
食品である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記食品が、保健機能食品またはダイエタリーサプリメントである、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記保健機能食品が、特定保健用食品または栄養機能食品である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
D-アロースを有効成分として含む腎細胞癌を治療又は予防するための組成物を、それを必要とする対象に経腸管投与すること
を含む、対象における腎細胞癌を治療又は予防する方法。
【請求項11】
前記経腸管投与が、経口投与である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記D-アロースが、1mg/kg体重/日~1000mg/kg体重/日で、投与される、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記D-アロースが、D-アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物である、請求項10~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
D-アロースの誘導体が、D-アロースのカルボニル基がアルコール基となった糖アルコール、D-アロースのアルコール基が酸化したウロン酸、D-アロースのアルコール基がアミノ基で置換されたアミノ糖、及びD-アロースの任意のヒドロキシ基が水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、低級アルキル基、低級アルコキシ基、低級アルカノイル基、低級アルカノイルオキシ基、低級アルコキシカルボニル基、モノ又はジ低級アルキル置換アミノ基、アラルキル基、アリール基又はヘテロアリール基で置換されたD-アロース誘導体からなる群から1又は複数選択されるD-アロース誘導体である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物が、医薬品として経口投与される、請求項10~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物が、食品として経口投与される、請求項10~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記食品が、保健機能食品またはダイエタリーサプリメントである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記保健機能食品が、特定保健用食品または栄養機能食品である、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
D-アロースを有効成分として含み、経腸管投与されることを特徴とする、腎細胞癌を治療又は予防するための組成物、及びそれを用いた腎細胞癌を治療又は予防する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在のところ、癌の治療では患者体内の新生物細胞を根絶するために外科手術、化学療法および/または放射線療法を必要とする。これらのアプローチにはいずれも、患者にとってかなり不都合な点がある。化学療法に関しては、各種の抗腫瘍薬・制ガン剤が知られているが、一般的にその副作用が問題となっている。そのため、副作用が低減されているかまたは前述の副作用を生じない、癌を治療するのに有用な新規化合物、組成物および方法が切望されている。さらに、特異性がより高くかつ毒性がより低い癌細胞特異的な療法を提供する癌の治療方法も必要とされている。
【0003】
また、現在では疾患の治療のみならず、その予防を目的とした薬剤又は食品(機能性食品)に対する意識や期待も高まっている。通常、食品に含まれるいくつかの「糖」も疾患の治療や予防に効果があることが知られており、例えば、糖と癌との関係では、オリゴ糖が整腸作用を持つことを利用して便秘を解消し大腸癌などになりにくい効果を有することや、最近ではアガリクスなどの多糖体が癌抑制効果を持つことなどが報告されている。糖鎖と癌転移などの関連の報告はあるが、「単糖そのもの」が癌細胞増殖抑制効果を持つことについてはほとんど報告されていない。例えば、特許文献1に記載されているように、癌の予防に有効である多糖類「アラビノキシランを主成分とする水溶性多糖類を有効成分とする大腸癌抑制剤」が知られている。また、「オリゴ糖」が整腸作用を持つことを利用して便秘を解消し大腸癌などになりにくい効果をもつことや、最近ではアガリスクなどの多糖体が癌抑制効果を持つことなどの報告、糖鎖と癌転移関連の報告もある。
【0004】
近年、単糖の中でも「希少糖」が注目されており、その様々な生理活性が明らかにされつつある。希少糖は「自然界にその存在量が少ない単糖とその誘導体」と定義されるものであり、医学分野においてもその応用と実用化の期待が高まっている。
【0005】
例えば、特許文献2は、希少糖の一つであるD-アロースを有効成分として配合した生体内抗酸化剤を報告している。これは、D-アロースを有効成分とする生体内抗酸化剤を含有するヒトを含む哺乳類に用いる医薬組成物であり、肝臓癌または皮膚癌の治療に用いられ得ることが記載されている。
【0006】
また、特許文献3は、インビトロの実験において、D-アルロースが、ヒト肝臓癌細胞、ヒト乳腺癌細胞またはヒト神経芽細胞などの癌細胞株に対し、グルコーストランスポーターであるGLUT1の発現を抑制することを報告している。GLUT1は、正常細胞においても発現しているグルコーストランスポーターであるが、癌細胞になるとその発現量が著しく増加することが知られており、癌細胞においてGLUT1の発現を減少することができれば、癌細胞によるD-グルコースの取り込みが減少し、抗癌作用を発揮すると期待されている。
【0007】
しかしながら、希少糖の一つであるD-アルロースが、ヒト癌細胞に対するインビトロにおける抗腫瘍効果が報告されているが、インビボ、特に臨床においても使用可能な程度に抗癌効果を発揮し得るか十分な結果が示されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2787252号公報
【特許文献2】特許第5330976号公報
【特許文献3】国際公開第2016/152293号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、簡便かつ苦痛の少ない投与手段で適用され、効果的な抗癌作用を発揮する組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが鋭意研究を行った結果、経腸管投与、例えば経口投与によっても、D-アロースが生体内に生着した腎細胞癌組織に効率的に取り込まれ、抗癌作用を発揮し得ることを初めて見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
【0011】
[1] D-アロースを有効成分として含み、経腸管投与されることを特徴とする、腎細胞癌を治療又は予防するための組成物。
[2] 前記経腸管投与が、経口投与である、請求項1に記載の組成物。
[3] 前記D-アロースが、1mg/kg体重/日~1000mg/kg体重/日で、投与される、請求項1又は2に記載の組成物。
[4] 前記D-アロースが、D-アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
[5] D-アロースの誘導体が、D-アロースのカルボニル基がアルコール基となった糖アルコール、D-アロースのアルコール基が酸化したウロン酸、D-アロースのアルコール基がアミノ基で置換されたアミノ糖、及びD-アロースの任意のヒドロキシ基が水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、低級アルキル基、低級アルコキシ基、低級アシル基、低級アルカノイルオキシ基、低級アルコキシカルボニル基、モノ又はジ低級アルキル置換アミノ基、アラルキル基、アリール基又はヘテロアリール基で置換されたD-アロース誘導体からなる群から1又は複数選択されるD-アロース誘導体である、請求項4に記載の組成物。
[6] 医薬品である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
[7] 食品である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
[8] 前記食品が、保健機能食品またはダイエタリーサプリメントである、請求項7に記載の組成物。
[9] 前記保健機能食品が、特定保健用食品または栄養機能食品である、請求項8に記載の組成物。
【0012】
[10] D-アロースを有効成分として含む腎細胞癌を治療又は予防するための組成物を、それを必要とする対象に経腸管投与すること
を含む、対象における腎細胞癌を治療又は予防する方法。
[11] 前記経腸管投与が、経口投与である、請求項10に記載の方法。
[12] 前記D-アロースが、1mg/kg体重/日~1000mg/kg体重/日で、投与される、請求項10又は11に記載の方法。
[13] 前記D-アロースが、D-アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物である、請求項10~12のいずれか1項に記載の方法。
[14] D-アロースの誘導体が、D-アロースのカルボニル基がアルコール基となった糖アルコール、D-アロースのアルコール基が酸化したウロン酸、D-アロースのアルコール基がアミノ基で置換されたアミノ糖、及びD-アロースの任意のヒドロキシ基が水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、低級アルキル基、低級アルコキシ基、低級アルカノイル基、低級アルカノイルオキシ基、低級アルコキシカルボニル基、モノ又はジ低級アルキル置換アミノ基、アラルキル基、アリール基又はヘテロアリール基で置換されたD-アロース誘導体からなる群から1又は複数選択されるD-アロース誘導体である、請求項13に記載の方法。
[15] 前記組成物が、医薬品として経口投与される、請求項10~14のいずれか一項に記載の方法。
[16] 前記組成物が、食品として経口投与される、請求項10~14のいずれか一項に記載の方法。
[17] 前記食品が、保健機能食品またはダイエタリーサプリメントである、請求項16に記載の方法。
[18] 前記保健機能食品が、特定保健用食品または栄養機能食品である、請求項17に記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明者らが鋭意研究を行った結果、経腸管投与、例えば経口投与によっても、D-アロースが生体内の腎細胞癌細胞に効率的に取り込まれ、抗癌作用を発揮し得ることを初めて見出した。これは、腹腔内投与や、静脈注射などの、医者の管理の下投与しなければならない患者に苦痛を強いる投与法とは異なり、安全性、簡便性及び苦痛の低減などの観点において極めて優れた発明である。本願発明により、簡便かつ苦痛を与えない新たな腎細胞癌の治療が提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、腎細胞癌異種移植マウスモデルへのD-アロース投与後の腫瘍中D-アロース濃度の推移を示すグラフである。(A)ヒト腎細胞癌細胞株(Caki-1)異種移植マウスモデルへのD-アロース腹腔内投与(400mg/kg 体重)後の腫瘍中D-アロース濃度、(B)ヒト腎細胞癌細胞株(ACHN)異種移植マウスモデルへのD-アロース腹腔内投与(400mg/kg 体重)後の腫瘍中D-アロース濃度、(C)ヒト腎細胞癌細胞株(Caki-1)異種移植マウスモデルへのD-アロース経口投与(400mg/kg 体重)後の腫瘍中D-アロース濃度、(D)ヒト腎細胞癌細胞株(ACHN)異種移植マウスモデルへのD-アロース経口投与(400mg/kg 体重)後の腫瘍中D-アロース濃度。
図2図2は、D-アロース経口投与による腎細胞癌異種移植マウスモデルにおける腫瘍体積の推移及びマウス体重の推移を示すグラフである。(A)腫瘍体積の変化(%)、(B)マウス体重の変化(%)を示す。*P<0.05。
図3図3は、コントロール群又はD-アロース経口投与群の腎細胞癌異種移植マウスモデルからそれぞれ摘出した腫瘍組織のHE染色像(倍率:200倍)を示す。(A)コントロール群、(B)D-アロース 400mg/kg 体重/日 経口投与群。
図4図4は、コントロール群又はD-アロース経口投与群の腎細胞癌異種移植マウスモデルからそれぞれ摘出した腫瘍組織のHE染色像から算出された核分裂の程度を比較した結果を示す。
図5図5は、コントロール群又はD-アロース経口投与群の腎細胞癌異種移植マウスモデルからそれぞれ摘出した腎臓組織のHE染色像(倍率:100倍)を示す。(A)コントロール群、(B)D-アロース400mg/kg 体重/日 経口投与群。
図6図6は、コントロール群又はD-アロース経口投与群の腎細胞癌異種移植マウスモデルからそれぞれ摘出した肝臓組織のHE染色像(倍率:100倍)を示す。(A)コントロール群、(B)D-アロース400mg/kg 体重/日 経口投与群。
図7図7は、D-アロース投与による大腸癌異種移植マウスモデルにおける腫瘍体積の推移を示すグラフである。(A)D-アロース腹腔内投与による大腸癌異種移植マウスモデルにおける腫瘍体積(mm)の推移、(B)D-アロース経口投与による大腸癌異種移植マウスモデルにおける腫瘍体積(mm)の推移。*P<0.05。***P<0.01。
図8図8は、D-アロースの添加の有無によるヒト腎細胞癌細胞株(Caki-1、ACHN)における細胞内活性酸素種(ROS)産生量を比較した結果を示す。(A)ヒト腎細胞癌細胞株Caki-1、(B)ヒト腎細胞癌細胞株ACHN。
図9図9は、D-アロースによるヒト腎細胞癌細胞株(Caki-1、Caki-2)におけるTXNIP発現量の変化を示す。(A)ヒト腎細胞癌細胞株Caki-1、(B)ヒト腎細胞癌細胞株Caki-2。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに限定されない。なお、本明細書において引用されている先行技術文献は、本明細書においても援用され、その全体が本明細書において取り込まれる。
【0016】
一実施態様において、本発明はD-アロースを有効成分として含み、経腸管投与されることを特徴とする、腎細胞癌を治療又は予防するための組成物を提供する。本発明の組成物は、医薬品として提供されるものであってもよく、食品として提供されるものであってもよい。本発明の食品としての組成物は、例えば、保健機能食品(例えば、特定保健用食品または栄養機能食品)、またはダイエタリーサプリメントであってもよい。
【0017】
一実施態様において、D-アロースを有効成分として含む腎細胞癌を治療又は予防するための組成物を、それを必要とする対象に経腸管投与すること、を含む、対象における腎細胞癌を治療又は予防する方法を提供する。
【0018】
本発明で用いられ得るD-アロースは、自然界に大量に存在するD-グルコース(ブドウ糖)に比べて圧倒的に存在量が少ない。糖の基本単位である単糖(炭素数が6つの単糖(ヘキソース)は全部で34種類あり、アルドースが16種類、ケトースが8種類、糖アルコールが10種類ある)のうち、自然界に大量に存在するD-グルコース(ブドウ糖)に代表される「天然型単糖」に対して、自然界に微量にしか存在しない単糖(アルドース、ケトース)およびその誘導体(糖アルコール)を「希少糖」と定義付けられている。現在、大量生産が可能な希少糖は、D-プシコースとD-アロースである。D-アロースは、アルドースに分類されるD-アロースのD体であり、六炭糖である。
【0019】
「D-アロース」を得る方法としては、L-ラムノース・イソメラーゼを用いてD-プシコースから合成する方法や、D-プシコース含有溶液にD-キシロース・イソメラーゼを作用させて得る方法などが開示されているが、本発明におけるD-アロースは、それらの方法に限定されず、化学的な処理方法により異性化されたものなど、何れの方法によって得られたものでもよい。D-アロースの原料となるD-プシコースは、フラクトースを酵素(エピメラーゼ)処理して得られる製法が一般的であるが、それに限定されず、当該酵素を生産する微生物を利用した製法により得られたものでも良いし、天然物から抽出されたものや、天然物の中に含まれるものをそのまま用いても良く、化学的な処理方法により異性化されたものでも良い。また、酵素を利用してD-プシコースを精製する方法は公知である。
【0020】
D-アロースは、D-アロース含有シロップの形態で用いることもできる。D-アロース含有シロップは、一般的なシロップ(液糖)に適宜混合することでも得られるが、市販品「レアシュガースウィート」(発売元:(株)レアスウィート、販売者:松谷化学工業(株))として、一般店頭で販売されている「食品」であり、容易に入手することができる。
【0021】
D-アロース含有シロップを得る方法は、例えば、単糖(D-グルコースやD-フラクトース)にアルカリを作用させ、ロブリー・ドブリュイン-ファン エッケンシュタイン転位反応やレトロアルドール反応とそれに続くアルドール反応を起こさせ(以上の反応をアルカリ異性化反応と呼ぶ)、生じた各種単糖(希少糖含む)を含むシロップを広く「希少糖含有シロップ」と呼ぶことができ、D-グルコースおよび/もしくはD-フラクトースを原料として、D-グルコースおよび/もしくはD-フラクトース含量が55~99質量%になるまでアルカリ異性化したシロップが例示される。上記の「レアシュガースウィート」は、異性化糖を原料とし、国際公開第2010/113785号に開示される手法により得られる希少糖を含有するシロップであり、希少糖として主にD-プシコースおよびD-アロースが含まれるように製造されたものである。当該手法により得られる希少糖含有シロップに含まれる希少糖は、全糖に対する割合でD-プシコース0.5~17質量%、D-アロース0.2~10質量%である。高橋らの文献(応用糖質科学、第5巻、第1号、44-49(2015))によると、D-プシコース5.4g/100g、D-ソルボース5.3g/100g、D-タガトース2.0g/100g、D-アロース1.4g/100g、D-マンノース4.3g/100gが含まれるシロップであることが報告されている。
【0022】
前記希少糖含有シロップの製造に使用される原料としては、でん粉、砂糖、異性化糖、フラクトース、グルコースなどが挙げられる。異性化糖とは、特定組成比のD-グルコースとD-フラクトースを主組成分とする混合糖として広く捉えられ、一般的には、でん粉をアミラーゼ等の酵素または酸により加水分解して得られた、主にブドウ糖からなる糖液を、グルコースイソメラーゼまたはアルカリにより異性化したブドウ糖および果糖を主成分とする液状の糖のことを指す。JAS規格においては、果糖含有率(糖のうちの果糖の割合)が50%未満のものを「ブドウ糖果糖液糖」、50%以上90%未満のものを「果糖ブドウ糖液糖」、90%以上のものを「高果糖液糖」、およびブドウ糖果糖液糖にブドウ糖果糖液糖を超えない量の砂糖を加えたものを「砂糖混合果糖ブドウ糖液糖」とよぶが、本発明の希少糖含有シロップの原料としては、何れの異性化糖を用いても構わない。
【0023】
例えば、D-フラクトースを原料とした希少糖含有シロップは、D-プシコース5.2%、D-アロース1.8%、グルコース15.0%、D-フラクトース69.3%を含んでいる。また、異性化糖を原料とした希少糖含有シロップは、D-プシコース3.7%、D-アロース1.5%、グルコース45.9%、D-フラクトース37.7%を含み、D-グルコースを原料とすると、D-プシコース5.7%、D-アロース2.7%、グルコース47.4%、D-フラクトース32.1%を含んでいるが、原料および処理方法の違いにより含有糖組成は変化する。これらのシロップからD-アロースを分離精製して使用しても良いが、シロップのままでの使用も考えられる。
【0024】
一実施態様において、本発明に用いられ得るD-アロースは、D-アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物であってもよい。一般に、ある出発化合物から分子の構造を化学反応により変換した化合物を出発化合物の誘導体と呼称する。本明細書において、「D-アロースの誘導体」は、出発化合物としてのD-アロースの分子構造を化学反応により変換して得られる化合物;及び、D-アロースと類似の化合物(例えばD-グルコース)を出発化合物として、その出発化合物の分子構造を化学反応により変換して得られる化合物であって、D-アロースの分子構造を化学反応により変換して得られる化合物と同一の構造を有する化合物(「D-アロースの構造類似体」という。)を含む意味で用いられる。D-アロースを含む六炭糖の誘導体には、糖アルコール(単糖類を還元すると、アルデヒド基およびケトン基はアルコール基となり、炭素原子と同数の多価アルコールとなる)や、ウロン酸(単糖類のアルコール基が酸化したもので、天然ではD-グルクロン酸、ガラクチュロン酸、マンヌロン酸が知られている)、アミノ糖(糖分子のOH基がNH基で置換されたもの、グルコサミン、コンドロサミン、配糖体などがある)などが一般的であるが、それらに限定されるものではない。D-アロースの誘導体は、D-アロースのカルボニル基がアルコール基となった糖アルコール、D-アロースのアルコール基が酸化したウロン酸、D-アロースのアルコール基がアミノ基で置換されたアミノ糖から選ばれるD-アロース誘導体であってもよい。
【0025】
他の実施態様において、D-アロースの誘導体は、D-アロースの任意のヒドロキシ基(例えば、2位、3位、4位、5位及び/又は6位のヒドロキシ基)が水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、低級アルキル基、低級アルコキシ基、低級アルカノイル基、低級アルカノイルオキシ基、低級アルコキシカルボニル基、モノ又はジ低級アルキル置換アミノ基、アラルキル基、アリール基又はヘテロアリール基で置換されたD-アロース誘導体であってもよい。
【0026】
ハロゲン原子は、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素の各原子を示す。低級アルキル基及び低級アルコキシ基、低級アルコキシカルボニル基、モノ又はジ低級アルキル置換アミノ基におけるアルキル部分は、直鎖、分岐もしくは環状のC1~C6アルキル基を示し、具体的例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、シクロプロピル、シクロブチル、2-メチルシクロプロピル、シクロプロピルメチル、シクロペンチル、シクロヘキシル等を挙げることが出来る。
【0027】
低級アルカノイル基及び低級アルカノイルオキシ基の低級アルカノイル部分は、直鎖、分岐もしくは環状のC1~C7アルカノイル基を示し、具体的例としては、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、シクロプロピルカルボニル、シクロブチルカルボニル、2-メチルシクロプロピルカルボニル、シクロヘキシルカルボニル等を挙げることができる。
【0028】
アラルキル基は、C7~C20のアラルキル基を示し、具体的例としては、ベンジル、フェネチル、α-メチルベンジル、ベンズヒドリル、トリチル、ナフチルメチル等を挙げることが出来る。
【0029】
アリール基は、C6~C14のアリール基を示し、具体的例としては、フェニル、ナフチル等を挙げることが出来る。
【0030】
ヘテロアリ-ル基は、C3~C8のヘテロアリ-ル基であって、同一または異なってN、O、S各原子の1~4個を含む単環、多環または縮合環であり、具体的例として、2-ピリジル、3-ピリジル、4-ピリジル、2-キノニル、3-キノニル、4-キノニル、5-キノニル、6-キノニル、7-キノニル、8-キノニル、2-インドリル、3-インドリル、4-インドリル、5-インドリル、6-インドリル、7-インドリル、2-フリル、3-フリル、2-チエニル、3-チエニル、2-ピロリジル、3-ピロリジル、2-イミダゾリル、4-イミダゾリル、5-イミダゾリル、2-オキサゾリル、4-オキサゾリル、5-オキサゾリル、2-チアゾリル、4-チアゾリル、5-チアゾリル等を挙げることが出来る。
【0031】
一実施態様において、本発明において用いられ得るD-アロースの誘導体は、例えば2-デオキシ-D-アロース、5-デオキシ-D-アロース、6-デオキシ-D-アロース、3-デオキシ-D-アロース(3-デオキシ-D-グルコース)等のD-アロースの誘導体等であってもよい。
【0032】
なお、本明細書において、「D-アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物」を単に「D-アロース」と省略して記載することもある。また、本発明において用いられ得る「D-アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物」は、薬理学的に許容され得るその塩または/および水和物も含まれる意味で解釈される。
【0033】
本明細書において、「食品」は、食品全般を意味するが、いわゆる健康食品を含む一般食品の他、特定保健用食品や栄養機能食品等の保健機能食品をも含むものであり、さらにダイエタリーサプリメント(サプリメント、栄養補助食品)、飼料、食品添加物等も本発明の食品に包含される。本発明の腎細胞癌を治療又は予防するための組成物は、D-アロースという食品を有効成分とし、経腸管投与されることを特徴とするものであり、腎細胞癌を治療又は予防に用いることができる甘味料、調味料、食品添加物、食品素材、飲食品、健康飲食品、医薬品・医薬部外品又は飼料の形態で用いられてもよく、いずれの形態で用いても、経腸管投与(例えば経口投与)によって腎細胞癌を治療又は予防することを可能とする。
【0034】
一実施態様において、本発明の組成物は、経腸管投与されることを特徴としている。本明細書において、「経腸管投与」とは、腸管から本発明の組成物の成分を吸収するように投与する態様であり、例えば、経口投与、又は経管投与(例えば経鼻法(鼻から胃、十二指腸、又は空腸まで挿入したカテーテル等を介した投与);又は経瘻孔法(頸部又は腹部に作製した瘻孔に挿入したカテーテル等を介した胃、十二指腸、又は空腸への投与))であってもよく、本発明において、経口投与であることが好ましい。本発明の組成物は、経口投与可能であることから、簡便かつ苦痛を与えない腎細胞癌の治療が提供可能となる。
【0035】
一実施態様において、本発明は、D-アロースが、1mg/kg体重/日~1000mg/kg体重/日で投与されるものであってもよく、年令、症状により適宜増減することも可能である。通常、経腸管投与、例えば経口投与された物質は、消化管を介して吸収されたのちに送達されるので、直接注射(例えば、腹腔内注射、静脈注射等)と比較して、目的の組織に送達される割合が大幅に減少する。しかしながら、本発明の組成物に含まれるD-アロースは、1mg/kg体重/日~1000mg/kg体重/日で投与されても、非経腸管投与、例えば腹腔内投与された場合と比較しても、同等又は約20%減少する程度でD-アロースが腎細胞癌に取り込まれ、抗癌作用を発揮し得ることを本発明者らは発見した。一方、他の癌である大腸癌では、D-アロースが経口投与されても、腹腔内投与された場合に見られた抗癌作用が発揮されなかった。これらのことから、経腸管投与されたD-アロースは、少なくとも腎細胞癌に効率的に送達され、抗癌作用を発揮し得る。従って、経腸管投与で摂取可能な1mg/kg体重/日~1000mg/kg体重/日、例えば、10mg/kg体重/日~800mg/kg体重/日、50mg/kg体重/日~500mg/kg体重/日の用量で投与可能である。
【0036】
希少糖D-アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物を食品の一成分として使用した場合、日常の食生活のなかで、希少糖D-アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物の有効量を安全に摂取することができる。その根拠として希少糖D-アロースは、アルドースであり、その面からヒトに投与できる安全性の高い化合物である。
【0037】
本明細書において、「医薬品」とは、医薬品及び医薬部外品を含む意味で用いられる。
【0038】
本発明の組成物において、D-アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物は、一般的賦形剤、安定剤、保存剤、結合剤、崩壊剤等の適当な添加剤を配合し、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤や、溶液剤、シロップ剤、エリキシル剤、または油性ないし水性の懸濁等の適宜な剤型を選んで製剤化されて提供されてもよい。
【0039】
固形製剤としては、D-アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物とともに、製剤学上許容されている添加物を含み、例えば充填剤類や増量剤類、結合剤類、崩壊剤類、溶解促進剤類、湿潤剤類、または潤滑剤類等を必要に応じて選択して混合し、製剤化することができる。本発明の-アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物に賦形剤、崩壊剤、結合剤、および滑沢剤等を加えて混合し、圧縮整形することにより製造することができる。賦形剤には、乳糖、デンプン、あるいはマンニトール等が一般に用いられる。崩壊剤としては、炭酸カルシウムやカルボキシメチルセルロースカルシウム等が一般に用いられる。結合剤には、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、あるいはポリビニルピロリドンが用いられる。滑沢剤としては、タルクやステアリン酸マグネシウム等が公知である。
【0040】
錠剤は、マスキングや、腸溶性製剤とするために、公知のコーティングを施すことができる。コーティング剤には、エチルセルロースやポリオキシエチレングリコール等を用いることができる。
【0041】
本発明の組成物は、上述の医薬品(医薬組成物)の他に、食品(例えば、医療用食品、特定保健用食品、健康補助食品、健康食品、栄養機能食品、サプリメント、ダイエタリーサプリメント、またはハーブティなど)としても提供可能である。D-アロースは、1mg/kg体重/日~1000mg/kg体重/日の用量(例えば、50kgの成人の場合、50mg~50g/日)で経腸管投与されても、腎細胞癌へ効率的に取り込まれ、その他の組織には特に影響を与えないことから、腎細胞癌を治療するのみならず、予防することにも利用され得る。
【0042】
本発明を適用可能な腎細胞癌は、腎臓において発生した原発性の腎細胞癌のみならず、転移性の腎細胞癌であってもよい。本発明を適用可能な対象は、例えば、転移進行癌又は局所進行癌などの切除不能癌を有する対象であってもよい。また、本発明を適用可能な対象は、ヒトを含む動物(ヒト、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ等の哺乳類、ニワトリ等の鳥類等)である。
【0043】
一実施態様において、本発明は、公知の抗癌剤、放射線療法及び/又は手術(例えば、外科手術)と併用してもよい。本発明に用いられ得る抗癌剤としては、特に限定されないが、例えば、分子標的薬、アルキル化剤、代謝拮抗剤、プラチナ製剤、ホルモン剤、トポイソメラーゼ阻害薬、微小管作用抗癌剤、免疫賦活剤、抗癌性抗生物質等が挙げられ、これらを組み合わせて用いても良い。分子標的薬としては、例えば低分子化合物や抗体などであってもよく、例えば免疫チェックポイント阻害剤(例えば、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、CTLA-1阻害剤、KIR阻害剤、LAG3阻害剤、CD137阻害剤、CCR4阻害剤など)や、EGFR阻害剤(例えば、抗EGFR抗体)、VEGFR阻害剤(例えば、抗VEGFR抗体)、GD2阻害剤(例えば、GD2抗体)であってもよい。分子標的薬としては、例えば、イブリツモマブチウキセタン、ニボルマブ、イピリマブ、ペムブロリズマブ、デュルバルマブ、アベルマブ、アテゾリズマブ、トレメリムマブ、リルルマブ、BMS986016、ウレルマブ、イマチニブ、エベロリムス、エルロチニブ、ゲフィチニブ、スニチニブ、セツキシマブ、ソラフェニブ、ダサチニブ、タミバロテン、トラスツズマブ、トラスツズマブ エムタンシン、トレチノイン、パニツムマブ、ベバシズマブ、ボルテゾミブ、ラパチニブ、リツキシマブ、ベムラフェニブ、アレクチニブ等が挙げられる。アルキル化剤としては、例えば、イホスファミド、カルボコン、シクロホスファミド、ダカルバジン、チオテパ、テモゾロミド、ニムスチン、ブスルファン、プロカルバジン、メルファラン、ラニムスチン等が挙げられる。代謝拮抗剤としては、例えば、エノシタビン、カペシタビン、カルモフール、クラドリビン、ゲムシタビン、シタラビン、シタラビンオクホスファート、テガフール、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム、ドキシフルリジン、ネララビン、ヒドロキシカルバミド、フルオロウラシル、フルダラビン、ペメトレキセド、ペントスタチン、メルカプトプリン、メトトレキサート等が挙げられる。プラチナ製剤としては、例えば、オキサリプラチン、カルボプラチン、シスプラチン、ネダプラチン等が挙げられる。ホルモン剤としては、例えば、アナストロゾール、エキセメスタン、エストラムスチン、エチニルエストラジオール、クロルマジノン、ゴセレリン、タモキシフェン、デキサメタゾン、トレミフェン、ビカルタミド、フルタミド、プレドニゾロン、ホスフェストロール、ミトタン、メチルテストステロン、メドロキシプロゲステロン、メピチオスタン、リュープロレリン、レトロゾール等が挙げられる。トポイソメラーゼ阻害薬としては、例えば、イリノテカン、エトポシド、ノギテカン等が挙げられる。微小管作用抗癌剤としては、例えば、エリブリン、ドセタキセル、ノギテカン、パクリタキセル、ビノレルビン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンブラスチン等が挙げられる。免疫賦活剤としては、例えば、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、インターロイキン、ウベニメクス、レンチナン、乾燥BCG等が挙げられる。抗癌性抗生物質としては、例えば、アクチノマイシンD、アクラルビシン、アムルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ジノスタチンスチマラマー、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、ブレオマイシン、ペプロマイシン、マイトマイシンC、ミトキサントロン、リポソーマルドキソルビシン等が挙げられる。
【0044】
また、本発明の癌治療用細胞組成物と併用される放射線療法は、当業者にとって公知の放射線療法を適用すればよい。
【実施例0045】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0046】
[実施例]
<腎細胞癌異種移植マウスの作製方法>
本実験は2種類のヒト腎細胞癌細胞株を(Caki-1、ACHN)を用いた。各細胞は10%ウシ胎児血清、およびHEPES緩衝液とpenicillin-streptomycinを含むRPMI-1640培養液(2000mg D-グルコース/L)を使用し、37℃で5% COの湿潤環境で培養した。腎細胞癌異種移植マウスモデルは培養細胞をMEM培養液で1.0×10 cells/mLの細胞懸濁液に調製し、Female athymic nude mice(BALB/c nu/nu、6週齢)の大腿部皮下組織に0.1mL注入し、その1週間後に腫瘍体積が200mm以上であることを確認し、その後の実験に用いた。
【0047】
<腎細胞癌異種移植マウスモデルへのD-アロース経口投与後の腫瘍中D-アロース濃度の推移>
【0048】
希少糖D-アロースを400mg/kg/0.2mLに生理食塩水を用いて溶液化し、2種類のヒト腎細胞癌細胞株(Caki-1、ACHN)の異種移植マウスモデルに腹腔内投与(図1(A)及び(B))、又は経口投与した(図1(C)及び(D))D-アロース投与前、投与後1時間目、2時間目、および4時間目のマウスより腫瘍を核出した。腫瘍は1mL PBS中で超音波破砕し、3000回転5分間の遠心分離にて得られた上澄み中の単糖をABEE(4-aminobenzoic acid ethyl ester)標識しHPLC(high performance liquid chromatography)でD-アロースを定量分析した(図1)。
【0049】
D-アロースの腹腔内投与の結果(図1(A)及び(B))と同様に、腎細胞癌異種移植マウスモデルへのD-アロースの経口投与後1時間で、Caki-1及びACHN由来のいずれの腫瘍においてもD-アロースが検出された(図1(C)及び(D))。Caki-1では投与後1時間目に、ACHNでは2時間目後に最高値となり、以後のD-アロース腫瘍内濃度は低下した(図1(C)及び(D))。驚くべきことに、D-アロースは、経口投与しても、腹腔内投与した場合の約8割の濃度のD-アロースが腫瘍内で検出された。このことより、D-アロースは、経口投与された場合であっても、効率的に腎細胞癌へ送達又は取り込まれ得ることが示唆された。
【0050】
<D-アロース経口投与による腎細胞癌異種移植マウスモデルにおける腫瘍体積の推移>
【0051】
ヒト腎細胞癌細胞株であるCaki-1を用いて作製した腎細胞癌異種移植マウスモデルの腫瘍サイズが200mm以上となった日を「day0」とし、day1よりD-アロースを含む溶液を経口投与した。
【0052】
0.2mLの生理食塩水、又は400mg/kgのD-アロースを溶解した0.2mLの生理食塩水を、2群(コントロール群;D-アロース群)に分けたそれぞれのマウスの食道にネラトンを経由して注入した。投与は毎日1回、計32日間継続して行った。マウスの体重と腫瘍の長短径を週2回測定した。なお、腫瘍体積は、腫瘍の長径×短径×短径×0.5で算出した。経口投与開始後32日目にマウスから腫瘍と共に肝臓と腎臓を摘出し、その後の実験に用いた。
【0053】
Caki-1を用いて作製した異種移植マウスモデルにおいて、D-アロース投与群の腫瘍体積は、コントロール群と比較して、8日目以降で有意に小さかった(図2(A))。また、D-アロース投与群の32日目の腫瘍体積は、D-アロース投与前の腫瘍体積よりも有意に小さく、D-アロースの経口投与によって腫瘍増殖抑制効果に加え、腫瘍縮小効果も期待される結果が得られた(Mann-Whitney U test)。観察期間中、コントロール群及びDーアロース投与群の両者において、体重に有意差は無かった(図2(B))。
【0054】
上記の腎細胞癌異種移植マウスモデル(コントロール群及びD-アロース投与群、投与開始32日目)から腫瘍、腎臓及び肝臓を摘出し、それぞれの組織を4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液で固定し、パラフィン包埋し、4μm厚に薄切した。薄切切片をヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)し、観察した(図3図5及び図6)。
【0055】
病理専門医が評価した結果、D-アロース経口投与群の腎細胞癌異種移植マウスモデルから摘出した腫瘍(Caki-1細胞)は、核分裂が減少していることが確認された(図3及び図4)。
【0056】
また、コントロール群とD-アロース経口投与群から摘出された腎臓組織及び肝臓組織のHE染色像には特に差が見られず(図5及び図6)、腎臓組織及び肝臓組織においてD-アロースは影響を与えないと考えられる。
【0057】
[比較例]
<大腸癌異種移植マウスの作製方法>
Male athymic nude mice (BALB/c Nude (nu/nu) mice)の大腿部皮下組織に、ヒト大腸癌細胞株(DLD-1)を2.0×10 個含む細胞懸濁液を注入し、腫瘍体積が約100~150mmに達した日を「day0」とし、D-アロース又はD-グルコースの投与を開始した。
【0058】
<D-アロースの腹腔内投与による大腸癌異種移植マウスモデルにおける腫瘍体積の推移>
腫瘍体積が約100mmに達した大腸癌異種移植マウスにおいて、400mg/kgのD-アロース又はD-グルコースを腹腔内投与した。溶媒として生理食塩水を用い、0.2mlに調整し、1日1回、計30日間投与した。6日毎に腫瘍体積を測定した。その結果、D-アロース投与群の腫瘍体積は、D-グルコース群と比較して、投与開始18日目以降に有意に小さかった(Mann-Whitney U test)(図7(A))。
【0059】
<D-アロース経口投与による大腸癌異種移植マウスモデルにおける腫瘍体積の推移>
腫瘍体積が約100~150mmに達した大腸癌異種移植マウスにおいて、100mg/kgのD-アロース又はD-グルコースを経口投与した。溶媒として蒸留水を用い、0.2mlに調製し、1日1回、計30日間投与した。6日毎に腫瘍体積を測定した。その結果、D-アロース投与群とD-グルコース投与群の腫瘍体積に有意な差は認められなかった(Mann-Whitney U test)(図7(B))。
【0060】
<D-アロースがヒト腎細胞癌細胞株(Caki-1、ACHN)の細胞内活性酸素種(ROS)産生に及ぼす影響>
100mm dishに対し、ヒト腎細胞癌細胞株(Caki-1又はACHN)5.0×10個を播種し、24時間培養後にDMSO又はD-アロース(50mM)で1時間共培養したのち、10μM 2,7-Dichlorofluorescin diacetate(DCF-DA;D6883、Sigma-Aldrich、USA)を添加し、37℃で30分間静置した。細胞はトリプシン化により回収され、5分間3500×gで遠心分離し集められたのち、細胞を氷冷PBSで再懸濁し、CytoFLEX S(Beckman Coulter、CA、USA)を用いてDCF-DA蛍光を検出した。全ての実験を3回実施し、データはCytExpertソフトウェアを使用して分析し、平均値±SEとして示した(図8)。
【0061】
その結果、2種類のヒト腎細胞癌細胞株において、50mM D-アロースの1時間の共培養は、細胞内ROSを有意に上昇させることが明らかとなった。
【0062】
<D-アロースがヒト腎細胞癌細胞株(Caki-1、Caki-2)のTXNIP発現に及ぼす影響>
100mm dishに対し、ヒト腎細胞癌細胞株(Caki-1又はCaki-2)5.0×10個を播種し、24時間培養後に、D-アロース(10、25、50mM)で共培養した。処置48時間後に細胞を回収し、タンパク質を抽出し、各タンパク質濃度をBio-Rad Protein Assay Kit(Bio-Rad, Laboratories, Inc. USA)で測定した。タンパク質サンプル(40μg)を10% Mini-PROTAN TGX Precast Gel(Bio-Rad)上で電気泳動させ、Trans-Blot Turbo transfer system(Bio-Rad)を使用しPVDF Western Blotting Membranesに転写した。1時間のブロッキング処理後(Superblock T20、Thermo、Rockford. IL、USA)、抗TXNIP抗体(D5F3E, CST, USA. 1:1000)を1次抗体としてiBind Flex Western System(Thermo)を使用し反応させた。ローディングコントロールとしてβ-actin(ab8227, abcam, CamBridge, UK, 1:1000)を使用した。
【0063】
その結果、D-アロースは2つのヒト腎細胞癌細胞株において、D-アロースの用量依存性にTXNIPの発現を増加させることが明らかとなった(図9)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2024-05-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
[1] D-アロースを有効成分として含み、経腸管投与されることを特徴とする、腎細胞癌を治療又は予防するための組成物。
[2] 前記経腸管投与が、経口投与である、項目1に記載の組成物。
[3] 前記D-アロースが、1mg/kg体重/日~1000mg/kg体重/日で、投与される、項目1又は2に記載の組成物。
[4] 前記D-アロースが、D-アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物である、項目1~3のいずれか1項に記載の組成物。
[5] D-アロースの誘導体が、D-アロースのカルボニル基がアルコール基となった糖アルコール、D-アロースのアルコール基が酸化したウロン酸、D-アロースのアルコール基がアミノ基で置換されたアミノ糖、及びD-アロースの任意のヒドロキシ基が水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、低級アルキル基、低級アルコキシ基、低級アシル基、低級アルカノイルオキシ基、低級アルコキシカルボニル基、モノ又はジ低級アルキル置換アミノ基、アラルキル基、アリール基又はヘテロアリール基で置換されたD-アロース誘導体からなる群から1又は複数選択されるD-アロース誘導体である、項目4に記載の組成物。
[6] 医薬品である、項目1~5のいずれか一項に記載の組成物。
[7] 食品である、項目1~5のいずれか一項に記載の組成物。
[8] 前記食品が、保健機能食品またはダイエタリーサプリメントである、項目7に記載の組成物。
[9] 前記保健機能食品が、特定保健用食品または栄養機能食品である、項目8に記載の組成物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
[10] D-アロースを有効成分として含む腎細胞癌を治療又は予防するための組成物を、それを必要とする対象に経腸管投与すること
を含む、対象における腎細胞癌を治療又は予防する方法。
[11] 前記経腸管投与が、経口投与である、項目10に記載の方法。
[12] 前記D-アロースが、1mg/kg体重/日~1000mg/kg体重/日で、投与される、項目10又は11に記載の方法。
[13] 前記D-アロースが、D-アロースおよび/またはその誘導体および/またはその混合物である、項目10~12のいずれか1項に記載の方法。
[14] D-アロースの誘導体が、D-アロースのカルボニル基がアルコール基となった糖アルコール、D-アロースのアルコール基が酸化したウロン酸、D-アロースのアルコール基がアミノ基で置換されたアミノ糖、及びD-アロースの任意のヒドロキシ基が水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、低級アルキル基、低級アルコキシ基、低級アルカノイル基、低級アルカノイルオキシ基、低級アルコキシカルボニル基、モノ又はジ低級アルキル置換アミノ基、アラルキル基、アリール基又はヘテロアリール基で置換されたD-アロース誘導体からなる群から1又は複数選択されるD-アロース誘導体である、項目13に記載の方法。
[15] 前記組成物が、医薬品として経口投与される、項目10~14のいずれか一項に記載の方法。
[16] 前記組成物が、食品として経口投与される、項目10~14のいずれか一項に記載の方法。
[17] 前記食品が、保健機能食品またはダイエタリーサプリメントである、項目16に記載の方法。
[18] 前記保健機能食品が、特定保健用食品または栄養機能食品である、項目17に記載の方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療用途のために被検体に経腸管投与するための組成物であって、前記治療用途が腎細胞癌の治療の用途であるD-アロースと、前記D-アロースとは異なる抗癌剤と、を有する組成物。
【請求項2】
D-アロースを含む、腎細胞癌を治療するための組成物であって、前記D-アロースとは異なる抗癌剤が投与されている又は投与される被検体に、経腸管投与されることを特徴とする、組成物。
【請求項3】
前記D-アロースが、1mg/kg体重/日~1000mg/kg体重/日の用量で、投与される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記抗癌剤が、分子標的薬、アルキル化剤、代謝拮抗剤、プラチナ製剤、ホルモン剤、トポイソメラーゼ阻害薬、微小管作用抗癌剤、免疫賦活剤、及び抗癌性抗生物質からなる群から選択される少なくも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記経腸管投与が、経口投与である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
医薬品である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。