(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091932
(43)【公開日】2024-07-05
(54)【発明の名称】二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240628BHJP
B29C 55/12 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
C08J5/18 CFG
B29C55/12
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024071994
(22)【出願日】2024-04-26
(62)【分割の表示】P 2020127808の分割
【原出願日】2020-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 知治
(57)【要約】
【課題】吸湿伸び率と熱水収縮率を同時に抑制したポリアミド系樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】フィルム面における任意の方向を0°とし、その方向に対して時計回りに10°ずつの18方向のそれぞれにおいて、20℃、40%RHで24時間調湿後に測定される長さに対して、さらに20℃、80%RHで48時間調湿した後に測定される長さは、伸び率が1.5%以下であり、前記18方向のそれぞれにおいて、100℃、5分間の熱水処理後の収縮率が4.5%以下であることを特徴とする二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム面における任意の方向を0°とし、その方向に対して時計回りに10°ずつの18方向のそれぞれにおいて、20℃、40%RHで24時間調湿後に測定される長さに対して、さらに20℃、80%RHで48時間調湿した後に測定される長さは、伸び率が1.5%以下であり、
前記18方向のそれぞれにおいて、100℃、5分間の熱水処理後の収縮率が4.5%以下であることを特徴とする二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム。
【請求項2】
製膜時の縦方向(MD)および横方向(TD)の引張強度がそれぞれ170MPa以上であることを特徴とする請求項1記載の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム。
【請求項3】
製膜時の縦方向(MD)および横方向(TD)の引張伸度がそれぞれ70%以上であることを特徴とする請求項1または2記載の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム。
【請求項4】
前記18方向のそれぞれにおける収縮率について、これらの最大値と最小値の差が2.5%以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム。
【請求項5】
炭素数が10以上であるモノマー成分を含むポリアミド樹脂を1~10質量%含有することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム。
【請求項6】
ポリアミド系樹脂が、植物由来の原料から得られたポリアミド樹脂を含むことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを用いたラミネートフィルム。
【請求項8】
請求項7記載のラミネートフィルムを用いた製袋品。
【請求項9】
請求項1~6のいずれかに記載の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを製造するための方法であって、未延伸フィルムを二軸延伸する工程、二軸延伸フィルムを縦方向(MD)に弛緩する工程、および、弛緩工程後に縦方向(MD)に再延伸する工程を含むことを特徴とする二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの製造方法。
【請求項10】
二軸延伸を同時二軸延伸法により実施することを特徴とする請求項9記載の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの製造方法。
【請求項11】
弛緩工程における縦方向(MD)の弛緩率を2~10%とし、弛緩工程後の縦方向(MD)再延伸工程における延伸倍率を0.01~2%とすることを特徴とする請求項9または10記載の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの製造方法。
【請求項12】
弛緩工程後の縦方向(MD)再延伸工程における温度を50℃以上とすることを特徴とする請求項9~11のいずれかに記載の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムは、引張強度、突刺強度、ピンホール強度、耐衝撃強度などの機械的強度に優れ、かつ耐熱性に優れている。このため、二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを基材とし、これにポリオレフィン樹脂からなるシーラントフィルムをドライラミネートや押出しラミネートなどの方法で貼合した積層フィルムは、ボイルやレトルト等の殺菌処理用の包装材料をはじめとして、幅広い分野に使用されている。
【0003】
しかしながら、ポリアミド系樹脂フィルムは、アミド基を持つことから吸湿性が高く、吸湿するとフィルムが伸びる場合がある。なかでも横方向(TD)の伸び率が高くなる傾向にあり、ポリアミド系樹脂フィルムを包装材料の分野で用いる場合は、多色印刷加工の工程中に長さが変化してしまい、印刷後の図柄が合わなくなることがある。
特にチューブラー法で生産されるポリアミド系樹脂フィルムは、吸湿による寸法変化が大きい傾向にある。
一方、テンター式で生産されるポリアミド系樹脂フィルムは、ボーイング現象(弓型に変形する現象)の影響により、斜め方向の伸び率に差が生じてしまい、製袋するためにフィルムを半折して重ねた際に、重ねられた印刷図柄の位置が合わなかったり、蓋材で用いる際には、図柄と容器の位置が合わなくなる問題が生じる場合がある。
【0004】
また、ポリアミド系樹脂フィルムは、延伸時の残留応力の影響で、熱水に曝すと収縮する特性を持っており、この収縮についてもボーイング現象の影響で、特にフィルムの横方向の端部において異方性が生じ、収縮率が高くなる傾向にある。
【0005】
このようなポリアミド系樹脂フィルムの問題に対して、特許文献1、2には、吸湿における長さの変化を抑制する手法が開示され、特許文献3には、熱水処理時の収縮率の異方性を小さくする手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-121136号公報
【特許文献2】特開2006-88690号公報
【特許文献3】国際公開第2015/129713号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1においては、吸湿伸びの抑制に取り組まれているが、加工適性が求められる現在においては、開示されたポリアミド系樹脂フィルムは、吸湿伸びの抑制が不十分であり、さらには実用強度が低下してしまう欠点がある。
特許文献2においては、吸湿伸びおよび熱水収縮率の異方性低減に取り組まれているが、印刷の図柄や袋の形状に美麗性を求める現在では、開示されたポリアミド系樹脂フィルムは、不十分なものとなっている。
また、特許文献3に開示されたポリアミド系樹脂フィルムは、熱水収縮率が低下し異方性は抑制できているものの、吸湿伸びが大きくなる傾向にあった。
【0008】
このように、ポリアミド系樹脂フィルムの実用的な強度を維持しつつ、吸湿時には伸びて、熱水処理時には収縮するという相反する性質をそれぞれ同時に低減し、また熱水処理時の収縮の異方性をも低減する手法は見出されていない。本発明の課題は、吸湿伸びと熱水収縮という相反する性質を同時に抑制したポリアミド系樹脂フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0010】
(1)フィルム面における任意の方向を0°とし、その方向に対して時計回りに10°ずつの18方向のそれぞれにおいて、20℃、40%RHで24時間調湿後に測定される長さに対して、さらに20℃、80%RHで48時間湿度した後に測定される長さは、伸び率が1.5%以下であり、
前記18方向のそれぞれにおいて、100℃、5分間の熱水処理後の収縮率が4.5%以下であることを特徴とする二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム。
(2)製膜時の縦方向(MD)および横方向(TD)の引張強度がそれぞれ170MPa以上であることを特徴とする(1)記載の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム。
(3)製膜時の縦方向(MD)および横方向(TD)の引張伸度がそれぞれ70%以上であることを特徴とする(1)または(2)記載の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム。
(4)前記18方向のそれぞれにおける収縮率について、これらの最大値と最小値の差が2.5%以下であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム。
(5)炭素数が10以上であるモノマー成分を含むポリアミド樹脂を1~10質量%含有することを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム。
(6)ポリアミド系樹脂が、植物由来の原料から得られたポリアミド樹脂を含むことを特徴とする(1)~(5)のいずれかに記載の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルム。
(7)上記(1)~(6)のいずれかに記載の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを用いたラミネートフィルム。
(8)上記(7)記載のラミネートフィルムを用いた製袋品。
(9)上記(1)~(6)のいずれかに記載の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを製造するための方法であって、未延伸フィルムを二軸延伸する工程、二軸延伸フィルムを縦方向(MD)に弛緩する工程、および、弛緩工程後に縦方向(MD)に再延伸する工程を含むことを特徴とする二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの製造方法。
(10)二軸延伸を同時二軸延伸法により実施することを特徴とする(9)記載の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの製造方法。
(11)弛緩工程における縦方向(MD)の弛緩率を2~10%とし、弛緩工程後の縦方向(MD)再延伸工程における延伸倍率を0.01~2%とすることを特徴とする(9)または(10)記載の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの製造方法。
(12)弛緩工程後の縦方向(MD)再延伸工程における温度を50℃以上とすることを特徴とする(9)~(11)のいずれかに記載の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリアミド系樹脂フィルムは、吸湿伸び率と熱水収縮率とが同時に抑制され、また、熱水収縮率の異方性も抑制され、寸法安定性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを構成するポリアミド系樹脂の主成分としては、ラクタムをモノマー成分とする開環重合や、ω-アミノ酸、二塩基酸とジアミン等をモノマー成分とする縮合重合によって得られるポリアミド樹脂を挙げることができる。
【0013】
具体的には、ラクタム類としては、ε-カプロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム、ラウリルラクタムなどを挙げることができる。
ω-アミノ酸類としては、6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、9-アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸などを挙げることができる。
二塩基酸類としては、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジオン酸、ドデカジオン酸、ヘキサデカジオン酸、エイコサンジオン酸、エイコサジエンジオン酸、2,2,4-トリメチルアジピン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、キシリレンジカルボン酸などを挙げることができる。
ジアミン類としては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、2,2,4(または2,4,4)-トリメチルヘキサメチレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス-(4,4′-アミノシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミン等を挙げることができる。
【0014】
これらのモノマーを重合して得られる重合体または共重合体として、たとえばポリアミド6、7、10、11、12、46、410、56、66、69、610、611、612、6T、6I、810、9T、1010、1012、10T、MXD6(メタキシレンジパンアミド6)などの重合体や、6/66、6/12、6/6T、6/6I、6/MXD6などの共重合体を挙げることができる。中でも、耐熱性と機械特性のバランスに優れるポリアミド6を主原料にすることが好ましい。
【0015】
吸湿伸び率を抑制するために、ポリアミド系樹脂は、炭素数が10以上であるモノマー成分を含むポリアミド樹脂を含有することが好ましい。また、熱水収縮率抑制の観点で、炭素数が10以上であるモノマー成分を含むポリアミド樹脂の含有量は、1~10質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましく、2~5質量%であることが最も好ましい。
【0016】
炭素数が10以上であるモノマー成分を含むポリアミド樹脂としては、ポリアミド10、11、12などの重合体や、ポリアミド410、610、611、612、810、1010、1012などの重合体が挙げられ、中でも、環境を配慮する面から、植物由来のモノマーを重合したポリアミド樹脂が好ましい。
【0017】
本発明の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムは、上記したポリアミド樹脂単独からなるものでも、あるいは、2種以上を混合または複層にしたものでもよい。
【0018】
本発明の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムは、上記ポリアミド樹脂の未延伸フィルムを二軸延伸してなるものである。未延伸フィルムや一軸延伸フィルムは、引張強度が低く、異方性が大きいため、包装袋を作製する際の基材として適当なものではない。
【0019】
本発明の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムは、フィルム面における任意の方向を0°とし、その方向に対して時計回りに10°ずつの18方向のそれぞれにおいて、20℃、40%RHで24時間調湿後に測定される長さに対して、さらに20℃、80%RHで48時間調湿した後に測定される長さは、伸び率が1.5%以下であることが必要であり、1.3%以下であることが好ましく、1.2%以下であることがさらに好ましい。二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムは、上記伸び率(吸湿伸び率)が1.5%を超えると、印刷加工やラミネート加工においてトラブルが生じる可能性があり、製袋加工後の袋は、外観が損なわれる可能性がある。
【0020】
また、本発明の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムは、前記18方向のそれぞれにおいて、100℃、5分間の熱水処理後の収縮率が4.5%以下であることが必要であり、4.0%以下であることが好ましく、3.5%以下であることがさらに好ましい。上記収縮率(熱水収縮率)が4.5%を超える二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムからなる袋は、ボイル処理やレトルト処理などの熱水殺菌処理で収縮して印刷図柄の寸法が変化するため、外観が損なわれる可能性がある。
本発明の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムは、前記18方向のそれぞれにおける熱水収縮率について、これらの最大値と最小値の差が2.5%以下であることが好ましく、2.3%以下であることがより好ましく、2.2%以下であることがさらに好ましい。上記差が2.5%を超える二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムからなる袋は、ボイル処理やレトルト処理などの熱水殺菌処理でカールしてしまい、外観が損なわれる可能性がある。
【0021】
また、本発明の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムは、包装袋として用いた際の実用的な強度や破袋防止の観点で、製膜時の縦方向(MD)および横方向(TD)の引張強度がそれぞれ170MPa以上であることが好ましく、180MPa以上であることがより好ましく、200MPa以上であることがさらに好ましい。二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムは、引張強度がそれぞれ170MPa未満であると、実用強度が足らず、袋にした際に破袋の原因となる可能性がある。
また、本発明の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムは、包装袋として用いた際の破袋防止の観点で、製膜時の縦方向(MD)および横方向(TD)の引張伸度がそれぞれ70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムは、引張伸度がそれぞれ70%未満であると、袋にした際に破袋の原因となる可能性がある。
【0022】
二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの厚みは、特に限定されないが、一般的には、5~100μmであり、5~50μmであることが好ましく、5~30μmであることがより好ましい。ポリアミド系樹脂フィルムは、厚みが5μm未満では機械的強度が不足し、100μmを超えると重量増加や透明性低下などの問題が生じることがある。
【0023】
また、二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの少なくとも片方の面には、コロナ処理やプラズマ処理、オゾン処理などの公知の表面処理がなされることが好ましい。表面処理されたポリアミド系樹脂フィルム面上にラミネートされたシーラントなどの他フィルムは、ポリアミド系樹脂フィルムとの密着力が向上する。
【0024】
本発明の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムは、本発明の特性を損なわない範囲において、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、離形剤、強化剤等を含有してもよい。例えば、熱安定剤や酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール類、燐化合物、ヒンダードアミン類、硫黄化合物、銅化合物、アルカリ金属ハロゲン化物等が挙げられる。
また、本発明の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムは、フィルムのスリップ性などの向上のために、各種無機系滑剤や有機系滑剤を含有してもよい。滑剤の具体例としては、クレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイド、層状ケイ酸塩、エチレンビスステアリン酸アミド等が挙げられる。
【0025】
次に、本発明の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの製造方法について説明をする。
本発明において、二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを製造する方法は、未延伸フィルムを二軸延伸する工程、二軸延伸フィルムを縦方向(MD)に弛緩する工程、および、弛緩工程後に縦方向(MD)に再延伸する工程を含むことが好ましい。
【0026】
まず、ポリアミド系樹脂を押出機にて溶融した後、溶融シートとしてTダイより押出し、表面温度0~25℃に温調した冷却ドラム上に密着させて急冷し、連続した未延伸フィルムを得る。
【0027】
本発明において、未延伸フィルムの二軸延伸は、得られるフィルムの寸法安定性をバランスよく高めるために、同時二軸延伸法により実施することが好ましい。逐次二軸延伸法は、縦延伸と横延伸を個別に実施するため、得られるフィルムの端部の異方性が大きくなることがある。
同時二軸延伸は、テンター方式により実施することが好ましい。チューブラー方式で得られるフィルムは、吸湿時の伸び率が大きく寸法安定性が劣り、また、厚み精度を高めることが困難であり、フィルムの品質安定性や生産性の面でも、テンター式同時二軸延伸法の方が優れている。
テンター式同時二軸延伸は、例えば、パンタグラフ方式テンター、スクリュー方式テンター、リニアモーター式テンターなどのテンターを用いて行うことができる。なかでも、個々のクリップがリニアモーター方式で単独に駆動されるリニアモーター式テンターは、可変周波数ドライバを制御することで、縦方向の延伸倍率や縦方向の弛緩率を任意に細かく設定でき、しかも正確に滑らかに制御できる柔軟性を有している。このリニアモーター式テンターを用いる同時二軸延伸法は、ボーイング現象が低減され、横方向の物性の均一性が向上した二軸延伸フィルムが得られることから、最も好ましい延伸法である。
【0028】
得られた未延伸フィルムは、二軸延伸するに先立って吸水処理することが望ましい。吸水処理は、未延伸フィルムを、20~80℃に温調された温水槽に送り、10分間以下の条件で実施する。この吸水処理により、未延伸フィルムは、適度に可塑化し、ポリアミド樹脂の結晶化が抑制されることで、延伸工程におけるフィルムの切断を防止することができる。
上記処理により吸水した未延伸フィルムの水分率は、樹脂の混合比により一概には言えないが、1.0~7.0質量%であることが好ましく、1.5~5.0質量%であることがより好ましい。未延伸フィルムは、水分率が1.0質量%未満であると、結晶化が進み切断するおそれがある。一方、未延伸フィルムは、水分率が7.0質量%を超えると、吸水処理中に折れしわが生じ、蛇行などのトラブルが生じやすくなり、また得られる二軸延伸ポリアミドフィルムは、強度が低下したり、横方向におけるフィルムの厚みムラが増大することがある。
【0029】
吸水処理された上記未延伸フィルムは、延伸前に予熱することが好ましい。予熱温度は、使用する樹脂の割合にもよるが、200~230℃であることが好ましく、215~230℃であることがより好ましい。予熱温度が200℃未満であると、得られるフィルムは、ボーイング現象が大きくなり、フィルム端部の吸湿伸び率および熱水収縮率の異方性が大きくなり、一方、予熱温度が230℃を超えると、フィルムは、白化や切断が生じることがある。
【0030】
予熱された未延伸フィルムの同時二軸延伸は、170~210℃で行うことが好ましく、190~200℃で行うことがより好ましい。延伸温度が170℃未満であると、得られるフィルムは、収縮応力が大きくなり、また熱水収縮率が高くなる場合があり、延伸温度が210℃を超えると、フィルムは厚みが不均一となり、品質が劣る場合がある。
【0031】
同時二軸延伸において、未延伸フィルムを延伸する倍率は、縦方向(MD)の延伸倍率および横方向(TD)の延伸倍率が、それぞれ2.5~4.5倍であることが好ましい。また、縦延伸倍率と横延伸倍率との積で表される面積延伸倍率は、7~12倍であることが好ましい。面積延伸倍率が7倍未満であると、得られる二軸延伸フィルムは、機械特性が劣る場合があり、一方、面積延伸倍率が12倍を超えると、得られる二軸延伸フィルムは、収縮応力が高くなり、熱水処理時の収縮率が高くなり、寸法安定性に劣る場合がある。
【0032】
また、延伸する際に公知の手法でボーイング現象を低減することが好ましい。手法としては、未延伸フィルムの延伸において、フィルムの中央部に対して端部の延伸温度を上げる等により、横方向で温度勾配を設ける手法や、MD延伸を先行して行う手法が挙げられる。
【0033】
二軸延伸されたフィルムは熱処理することが好ましい。熱処理温度は、200~225℃であることが好ましく、210~220℃であることがより好ましい。熱処理温度が200℃未満であると、得られる二軸延伸フィルムは、熱水収縮率が高くなる場合があり、熱処理温度が220℃を超えると、二軸延伸フィルムは、吸湿伸び率が高くなり、引張伸度などの機械特性が低下したり、白化したりする。
熱処理ゾーンは、熱処理温度の異なる複数のゾーンにより構成されていることが好ましく、延伸直後のフィルムが入る熱処理ゾーン前半部は、熱処理温度を比較的低温とし、熱処理ゾーン後半部にかけて熱処理温度を高くすることが好ましい。このように、熱処理ゾーンの後半部の熱処理温度を、前半部の熱処理温度よりも高くすることで、二軸延伸ポリアミドフィルムのボーイング現象を低減することができる。
【0034】
二軸延伸されたフィルムは、上記熱処理ゾーンの後半部において、弛緩処理を行うことが好ましい。弛緩処理を行うことによって、二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの熱水収縮率を低下することができる。弛緩処理におけるフィルムの弛緩率は、縦方向(MD)および横方向(TD)に2~10%であることが好ましく、2~6%であることがより好ましく、4~6%であることがさらに好ましい。弛緩率が2%未満であると、得られるフィルムは、熱水収縮率が高くなったり、寸法安定性が損なわれる場合がある。一方、弛緩率が10%を超えると、得られるフィルムは、吸湿伸び率が高くなり、また、弛緩するまでに時間を要し、生産効率が低下してしまう。
【0035】
上記熱処理ゾーンの後半部で弛緩処理を行った後に、縦方向(MD)に再延伸することが好ましい。再延伸処理を行うことによって、二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの熱水収縮率と吸湿伸び率を調整することができる。再延伸処理におけるフィルムの縦方向(MD)の延伸倍率は、0.01~2%であることが好ましい。吸湿伸びを抑制する観点で、再延伸の倍率は0.01%以上が好ましく、0.05%以上がより好ましく、0.10%以上が好ましい。再延伸の倍率が0.01%未満であると、得られるフィルムは、吸湿伸び率が高くなり、寸法安定性が損なわれる場合がある。熱水収縮率を抑制する観点で、再延伸の倍率は2%以下が好ましく、1%以下がより好ましく、0.5%以下が好ましい。再延伸の倍率が2%を超えると、得られるフィルムは、熱水収縮率が高くなる場合がある。
【0036】
上記再延伸工程は、50℃以上の温度で実施することが好ましい。再延伸工程の温度が50℃未満であると、得られるフィルムは、熱水収縮率が高くなり、寸法安定性が損なわれる。
【0037】
このように、熱処理ゾーンの後半部において、弛緩率を調整して弛緩処理した後、再延伸倍率と温度を調整して再延伸することで、得られる二軸延伸フィルムにおける熱水収縮率と吸湿伸び率のバランスを調整することができる。
【0038】
本発明の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを用いて、例えば、ポリエチレンフィルムやポリプロピレンフィルム等のシーラントフィルムと貼り合せて、ラミネートフィルムとすることができる。また、このラミネートフィルムを用いて、例えば、袋状に熱シールや超音波シールなど公知の方法で融着させることで、包装袋などの製袋品を作成することができる。
【0039】
上記包装袋は、特に食品、飲料等の包装袋として好適に用いることができる。特に、包装袋を構成する二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムは、吸湿伸び率が小さいため、印刷中および印刷後の吸湿で印刷が歪むことなく、印刷図柄がずれることなく、袋にすることが可能である。また、内容物を充填した後の包装袋は、内容物の殺菌のため熱水処理をしても、二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムの熱水収縮率が小さいため、ひねりや反りが低減されたものとなる。
【実施例0040】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0041】
実施例、比較例において以下の樹脂を用いた。
・PA6:ポリアミド6、ユニチカ社製A1030BRF
・PA11:ポリアミド11、アルケマ社製Rilsan BMN O PA11
・PA12:ポリアミド12、アルケマ社製Rilsamid AMNO TLD PA12
・PA46:ポリアミド46、DSM社製Stanyl-PA46
・PA410:ポリアミド410、DSM社製EcoPaXX PA410
・PA610:ポリアミド610、アルケマ社製Hiprolon 70 NN PA610
・PA612:ポリアミド612、アルケマ社製Hiprolon 90 NN PA612
・PA1010:ポリアミド1010、アルケマ社製Hiprolon 200 NN PA1010
・PA1012:ポリアミド1012、アルケマ社製Hiprolon 400 NN PA1012
【0042】
特性の測定は下記方法によりおこなった。
(1)吸湿伸び率
20℃、40%RHに設定したエスペック社製ビルドインチャンバー室内で、得られたロール状の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムから、縦方向(MD)に120cm、横方向(TD)に120cmの大きさの試料を1枚切り出した。
試料を20℃、40%RH環境下で24時間調湿した後、試料の中心を円の中心として直径90mmの円を黒色油性インキで描き、MDを0°とし、その方向に対して時計回りに10°ずつの18方向において、それぞれの方向の直径A1(円の中心を通る円周2点間の長さ)を、キーエンス社製画像寸法測定器IM-7010を用いて測定した。
次いで、試料を、20℃、80%RHに設定された同チャンバーで48時間調湿し、同様に、それぞれの方向の直径A2を測定した。
各方向における吸湿伸び率を、下記の式より算出した。
吸湿伸び率(%)=(A2-A1)/(A1)×100
【0043】
(2)熱水収縮率
上記(1)と同様にして、23℃、50%RHに設定された室内で、二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムから試料を切り出した。
試料を23℃、50%RHに設定された室内で2時間調湿したのち、(1)と同様にして、円を描き、それぞれの方向の直径B1を測定した。
次いで、試料を、100℃熱水中で5分間熱水処理した後、23℃、50%RHに設定した室内で2時間調湿し、同様に、それぞれの方向の直径B2を測定した。
各方向における熱水収縮率を下記の式より算出した。また熱水収縮率の最大値と最小値の差を算出した。
熱水収縮率(%)=(B1-B2)/(B1)×100
【0044】
(3)引張強度および引張伸度
島津製作所社製引張試験機AG-ISを用いて、二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムのMDとTDの引張強度および引張伸度を測定した。測定条件は、ロードセル:1kN、試料幅:10mm、掴み具間距離:100mm、試験速度:500mm/minである。
【0045】
実施例1
ポリアミド6(PA6)を温度260℃でTダイより溶融押出しし、15℃のドラム上で冷却して、厚さ150μmの実質的に無配向の未延伸フィルムを得た。
得られた未延伸フィルムを40℃の温水槽に10秒間浸漬、その後60℃の温水槽に100秒間浸漬して吸水処理を行なった。
吸水処理された未延伸フィルムを、同時二軸延伸機に導き、220℃で予熱した後、延伸温度195℃、MD延伸倍率3.0倍、TD延伸倍率3.3倍の条件で同時二軸延伸した。
次に、同時二軸延伸後のフィルムを、215℃に設定された熱処理ゾーンで4秒間熱処理し、フィルムのMD、TDにそれぞれ5.0%の弛緩処理を施し、70℃でMDに0.3%の再延伸処理し、厚さ15μmの二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを得て、ロール状に採取した。
【0046】
実施例2~26、比較例1~11
表1、2のように、ポリアミド系樹脂の組成、フィルムの製造条件を変更した以外は実施例1と同様に行い、厚さ15μmの二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを得た。
【0047】
実施例27
ポリアミド6(PA6)を温度260℃でTダイより溶融押出しし、15℃のドラム上で冷却して、厚さ180μmの実質的に無配向の未延伸フィルムを得た。
未延伸フィルムをMD延伸機に導き、延伸温度100℃、MD延伸倍率3.0倍の条件でMD延伸した。次に、このMD延伸フィルムをテンターに導入し、TD延伸温度135℃、TD延伸倍率4.0倍の条件でTD延伸した。
次に、逐次二軸延伸後のフィルムを、220℃に設定された熱処理ゾーンで4秒間熱処理し、フィルムのMDに2.0%、TDに5.0%の弛緩処理を施し、MDに0.3%の再延伸処理し、厚さ15μmの二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを得て、ロール状に採取した。
【0048】
比較例12、13
表2のように、ポリアミド系樹脂の組成、フィルムの製造条件を変更した以外は実施例27と同様に行い、厚さ15μmの二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを得た。
【0049】
比較例14
ポリアミド6(PA6)を温度260℃で環状ダイより溶融押出し、水冷固化して、厚さ135μmの実質的に無配向のチューブ状の未延伸フィルムを得た。
次に、チューブフィルムを、低速ニップロールと高速ニップロールの速度差およびその間に存在する空気圧により、延伸温度80℃、MD延伸倍率3.0倍、TD延伸倍率3.3倍の条件でMDとTDに同時に二軸延伸した。
次に、チューブラー延伸後のフィルムを、210℃に設定された熱処理ゾーンで100秒間熱処理し、フィルムのTDに5.0%の弛緩処理を施し、厚さ15μmの二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを得て、ロール状に採取した。
【0050】
比較例15、16
表2のように、ポリアミド系樹脂の組成を変更した以外は比較例14と同様に行い、厚さ15μmの二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムを得た。
【0051】
実施例、比較例におけるフィルム製造条件および得られたフィルムの特性を表1、2にまとめて示す。
【0052】
【0053】
【0054】
実施例1~27の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムは、吸湿伸び率と熱水収縮率が低減され、熱水収縮率の異方性が抑制されたものであった。特に、炭素数が10以上であるモノマー成分を含むポリアミド樹脂を含有する実施例9~25の二軸延伸ポリアミド系樹脂フィルムは、吸湿伸び率を低減することができた。
一方、比較例1~3のフィルムは、再延伸処理を行わないため、吸湿伸び率が高くなった。比較例4のフィルムは、MD再延伸倍率が高いため、また、比較例5のフィルムは、MDの弛緩処理を行わないため、いずれも熱水収縮率が高くなった。
比較例6のフィルムは、再延伸時の温度が低く、熱水収縮率が高くなった。
比較例7のフィルムは、熱処理温度が低く、熱水収縮率が高くなった。一方、比較例8のフィルムは、熱処理温度が高く、吸湿伸び率が高くなった。
また、比較例9~11のフィルムは、炭素数が11であるモノマー成分を含むポリアミド樹脂PA11を含有するが、比較例9のフィルムは、再延伸処理を行わないため、吸湿伸び率が高くなった。比較例10のフィルムは、MD再延伸倍率が高いため、また、比較例11のフィルムは、MDの弛緩処理を行わないため、いずれも熱水収縮率が高くなった。
実施例27において、再延伸することにより、逐次二軸延伸法によっても、吸湿伸び率と熱水収縮率が低減されたフィルムが得られたが、再延伸しない比較例12、13や、チューブラー法によりフィルムを延伸した比較例14~16では、吸湿伸び率と熱水収縮率を同時に満足するフィルムは得られなかった。