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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091966
(43)【公開日】2024-07-05
(54)【発明の名称】害虫捕獲器
(51)【国際特許分類】
   A01M 1/02 20060101AFI20240628BHJP
【FI】
A01M1/02 A
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024073089
(22)【出願日】2024-04-26
(62)【分割の表示】P 2020172802の分割
【原出願日】2020-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000112853
【氏名又は名称】フマキラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉丸 勝郎
(57)【要約】
【課題】飛翔害虫と匍匐害虫の両方を多数捕獲でき、しかも設置も容易な捕獲器を提供する。
【解決手段】害虫捕獲器1は、誘引成分を収容するとともに、誘引された虫を収容する収容部2と、害虫侵入口41aと、害虫案内部3と、収容部2に侵入した害虫が外に出ることを抑制する脱出抑制部41と、雨よけとして機能するフード部5とを備えている。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
害虫捕獲器において、
害虫を誘引する誘引成分を収容するとともに、誘引された害虫を収容する収容部と、
前記収容部の上部で開口する害虫侵入口と、
虫を前記害虫侵入口へ向けて案内する害虫案内部と、
前記収容部に侵入した害虫が外に出ることを抑制する脱出抑制部と、
前記害虫侵入口を上方から覆い、雨よけとして機能するフード部とを備える、害虫捕獲器。
【請求項2】
請求項1に記載の害虫捕獲器において、
前記フード部には、その外周側に下方へ窪むように形成された複数の窪み部が周方向に互いに間隔をあけて設けられている、害虫捕獲器。
【請求項3】
請求項2に記載の害虫捕獲器において、
前記フードは、前記窪み部により前記害虫案内部に支持されている、害虫捕獲器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛翔害虫や匍匐害虫を捕獲する害虫捕獲器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種害虫を捕獲する害虫捕獲器が知られている。例えば、特許文献1には、全体形状が略ピラミッド形状をなす容器本体及び屋根からなる害虫捕獲器が開示されている。容器本体の頂面には、所定深さを有する捕獲室が形成されており、容器本体の各側面から登ってきた害虫は捕獲室に落下して捕獲される。
【0003】
また、特許文献2には、誘引捕獲液が収容された容器と、容器の上端部に取り付けられる蓋とを備えたハチ類誘引捕獲器が開示されている。蓋には、容器の内部に連通する開口部が形成されており、外部から飛来して誘引捕獲液に誘引されたハチが蓋の開口部から容器の内部に侵入することによって捕獲される。
【0004】
また、特許文献3には、害虫誘引捕獲剤を収容する容器に上向きの穴と下向きの穴とを形成し、当該容器を地面から浮き上がらせた状態で設置することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3179567号公報
【特許文献2】特開2007-174964号公報
【特許文献3】特開2003-70403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1の害虫捕獲器は地面を歩行する匍匐害虫を捕獲対象としているので、飛翔害虫に対する捕獲効果は殆ど期待できない。また、特許文献2のハチ類誘引捕獲器は、高い位置に吊るして使用されるものなので、匍匐害虫に対する捕獲効果は殆ど期待できない。
【0007】
一方、特許文献3には、害虫捕獲器が飛翔害虫と匍匐害虫の両方に使えると記載されているが、例えば、アリ、ワラジムシ、ダンゴムシ等を捕獲するためには、容器をなかば地面に埋める必要があるため、設置の手間がかかるだけでなく、容器を埋めることが可能な場所でなければ設置できず、設置場所の設定自由度が低かった。また、特許文献3の捕獲器において、捕獲できる虫の総数を増やすために薬液を増量しようとした場合、容器が大型化するとともに液面が高くなるので、それだけアリ、ワラジムシ、ダンゴムシ等が入りにくくなる。すなわち、特許文献3の捕獲器は、捕獲できる虫の総数を多くすることが難しかった。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、飛翔害虫と匍匐害虫の両方を多数捕獲でき、しかも設置も容易な捕獲器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第1の発明は、設置面に設置される害虫捕獲器において、害虫を誘引する誘引成分を収容するとともに、誘引された害虫を収容する収容部と、前記設置面よりも上に位置する前記収容部の上部で開口する害虫侵入口と、前記設置面から上方へ延びるように形成され、前記設置面の匍匐害虫を前記害虫侵入口へ向けて案内する害虫案内部と、前記収容部に侵入した飛翔害虫が外に出ることを抑制する脱出抑制部とを備えることを特徴とする。この場合、収容部の下部は設置面に接していてもよいし、設置面から上へ離れていてもよい。
【0010】
この構成によれば、害虫捕獲器を設置面に置くだけで容易に設置することが可能になる。害虫捕獲器が設置されると、収容部に収容されている誘引成分は害虫侵入口から外部に放出されるので、例えば設置面近傍を歩行する匍匐害虫が害虫捕獲器に誘引される。害虫案内部が設置面から延びていて、設置面と害虫案内部との間に特に障害等が存在していないので、誘引された匍匐害虫は容易に害虫案内部に達し、害虫案内部を歩行する。そして、害虫案内部が害虫侵入口へ向けて上へ延びているので、誘引成分により誘引された匍匐害虫が誘引成分によって誘引される方向へ歩行していくと、自然に害虫侵入口に達し、害虫侵入口から収容部に侵入して捕獲される。これにより、匍匐害虫を多数捕獲することができる。
【0011】
また、害虫侵入口から外部に放出された誘引成分によって飛翔害虫が害虫侵入口へ誘引される。害虫侵入口の近傍まで誘引された飛翔害虫は誘引成分が収容されている収容部内へ害虫侵入口から侵入する。飛翔害虫が収容部内に一旦侵入すると、脱出抑制部によって外へ出るのが抑制されるので、収容部に侵入したままとなる。これにより、飛翔害虫を多数捕獲することができる。
【0012】
第2の発明は、前記害虫侵入口は、匍匐害虫と飛翔害虫の両方が侵入可能に形成されていることを特徴とする。このような害虫侵入口は開口径や開口面積によって決定できる。
【0013】
この構成によれば、匍匐害虫と飛翔害虫を共通の害虫侵入口によって収容部に侵入させることができる。つまり、例えば1つの害虫侵入口が匍匐害虫と飛翔害虫の侵入口を兼ねているので、害虫捕獲器の構成がシンプルになる。また、収容部に形成される開口部の開口面積が小さくて済むので、誘引成分が誤ってこぼれるなどのトラブルを減らすことができる。さらに、開口面積が小さくなる分、収容部に侵入した害虫が外部に出にくくなる。
【0014】
第3の発明は、屋外の地面に設置されることを特徴とする害虫捕獲器である。例えば庭や畑等に害虫捕獲器を設置することができる。
【0015】
この構成によれば、害虫捕獲器を地面に埋めたり、高い場所に吊るしたりする必要が無く、害虫捕獲器の設置が簡単であり、飛翔害虫と匍匐害虫の両方を捕獲することができる。
【0016】
第4の発明は、前記収容部は、前記誘引成分を含んだ捕獲液を収容し、前記害虫侵入口から侵入した匍匐害虫及び飛翔害虫を当該捕獲液によって捕獲することを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、捕獲液によって匍匐害虫及び飛翔害虫捕獲するので、例えば粘着剤等によって捕獲する場合に比べ、大量の害虫を捕獲することができる。
【0018】
第5の発明は、前記脱出抑制部は、前記害虫侵入口の周囲に設けられ、当該害虫侵入口の径方向に延びており、前記脱出抑制部と前記害虫案内部とは一体成形されていることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、脱出抑制部が害虫侵入口の周囲に設けられることで、飛翔害虫がより一層外へ出にくくなる。
【0020】
第6の発明は、前記脱出抑制部は、前記害虫侵入口の周方向に連続して設けられていることを特徴とする。
【0021】
第7の発明は、前記害虫案内部は、前記脱出抑制部の周囲に設けられていることを特徴とする。
【0022】
第8の発明は、前記害虫案内部には、所定以上の傾斜角度を持った匍匐害虫用の登坂面が形成されており、前記登坂面には、匍匐害虫の脚の爪が引っ掛かって係合する複数の係合部が上下方向に並んで設けられていることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、匍匐害虫が登坂面に脚を置くと、その先端の爪が登坂面の係合部に引っ掛かった状態で係合する。登坂面には複数の係合部が上下方向に並んでいるので、匍匐害虫は、当該匍匐害虫が有する複数の脚の爪を各係合部に係合させながら、登坂面を登ることが可能になる。よって、所定以上の傾斜角度を持った急な登坂面でも殆ど脚を滑らせることなく、匍匐害虫が登坂面の上の方にたどり着くので、捕獲率を向上させることができる。登坂面が階段状をなしていてもよく、この場合、係合部は、階段状をなす部分における踏面で構成することができる。当該踏面には凹部を形成することができる。踏面の奥行方向の寸法は0.5mm以上に設定することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、害虫捕獲器が設置される設置面から害虫侵入口まで延びる匍匐害虫用の害虫案内部を設けるとともに、収容部に侵入した飛翔害虫が外に出ることを抑制する脱出抑制部を設けたので、設置を容易にしながら、飛翔害虫と匍匐害虫の両方を多数捕獲することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態に係る害虫捕獲器を上方から見た斜視図である。
図2】上記害虫捕獲器の側面図である。
図3】上記害虫捕獲器の平面図である。
図4】上記害虫捕獲器を上方から見た分解斜視図である。
図5】上記害虫捕獲器を下方から見た分解斜視図である。
図6図3におけるVI-VI線断面図である。
図7図3におけるVII-VII線断面図である。
図8】害虫案内部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0027】
図1図3は、本発明の実施形態に係る害虫捕獲器1を示すものである。害虫捕獲器1は、設置面100(図2に仮想線で示す)に設置されて使用される器具である。設置とは、害虫捕獲器1を単に置いて非固定状態で使用することを含むとともに、害虫捕獲器1を固定して動かないようにして使用することも含む。害虫捕獲器1の最大外径は、例えば10cm~20cm程度に設定することができるが、害虫捕獲器1の大きさはこれに限られるものではない。
【0028】
設置面100は、例えば屋外の地面(庭や畑、運動場等)であってもよいし、屋内の床面等であってもよい。害虫捕獲器1を地面に設置する場合、砂や土の上に設置してもよいし、芝生や草が生えた上に設置してもよい。害虫捕獲器1を床面に設置する場合、コンクリート製の床や木製の床、樹脂製シートが貼られた床等に設置してもよい。設置面100は水平であってもよいし、害虫捕獲器1が滑らない程度に傾斜していてもよい。設置面100は平坦面であってもよいし、凹凸がある面であってもよい。設置面100は、例えば机や台の上等であってもよい。害虫捕獲器1は、水平な面に設置してもよいし、多少傾斜した面に設置してもよい。また、害虫捕獲器1は設置面100に設置して使用するのが好ましいが、例えば竿や木の枝等に吊り下げて使用してもよい。害虫捕獲器1を吊り下げる場合には、紐や糸等を害虫捕獲器1に付ければよい。
【0029】
害虫捕獲器1は、各種害虫を誘引して捕獲する器具であり、図4及び図5に示すように、誘引した害虫を収容する収容部2と、階段状に形成された部分を有する害虫案内部3と、雨よけ等として機能するフード部5とを備えている。収容部2は、誘引した複数種の害虫を複数匹収容可能な大きさを有するとともに、誘引成分を含んだ捕獲液を収容可能に構成されている。捕獲液の詳細については後述するが、誘引成分を含んでいることから、害虫を誘引する効果と、誘引して収容部2に収容された匍匐害虫及び飛翔害虫を捕獲する効果とを発揮する液体である。
【0030】
収容部2は、底壁部20と、底壁部20の周縁部から上方へ延びるとともに底壁部20の周方向に連続した周壁部21とを備えている。底壁部20と周壁部21とは一体成形されている。収容部2は、樹脂材を射出成形した部材で構成されていてもよいし、樹脂製シートを真空成形、圧空成形した部材で構成されていてもよい。
【0031】
図6及び図7に示すように、底壁部20は、設置面100から上方に所定寸法だけ離れて配置される。設置面100が平坦な水平面であると仮定した場合、底壁部20と設置面100とは互いに平行である。これに限らず、底壁部20を設置面100に接触させた状態で配置してもよく、この場合、底壁部20が設置面100に沿って延びることになる。また、この実施形態では底壁部20が略円形であるが、これに限らず、楕円形であってもよいし、多角形であってもよい。
【0032】
周壁部21の上端部には径方向外方へ突出して周方向に延びるフランジ部21aが形成されている。フランジ部21aは周壁部21の全周に連続して設けられていてもよいし、断続して設けられていてもよい。フランジ部21aは省略してもよい。
【0033】
害虫案内部3は、当該害虫案内部3の略下半部を構成する下側部30と、当該害虫案内部3の略上半部を構成する上側部40とを備えている。下側部30と上側部40とは一体成形されている。害虫案内部3は、樹脂材を射出成形した部材で構成されていてもよいし、樹脂製シートを真空成形または圧空成形、両者を組み合わせた成形方法で成形した部材で構成されていてもよい。樹脂製シートの厚みは、例えば0.5mm以上とすることができ、厚みの上限は1.5mm以下とすることができる。
【0034】
収容部2の中心部を通って上下方向に延びる中心線200(図6に示す)を想定したとき、下側部30は中心線200の周方向に連続して延びるとともに、下側へ行くほど径が拡大した形状とされている。中心線200は鉛直線である。下側部30は、収容部2の周壁部21の周囲を囲むように配置されており、収容部2の周壁部21の外面と、下側部30の内面との間には空間ができている。下側部30の下端部は、収容部2の底壁部20よりも下方に位置しており、設置面100に接触する部分(接触部)となっている。なお、下側部30の下端部と、収容部2の底壁部20とが、上下方向で同じ位置にあってもよい。ただしこの場合、底壁部20と設置面100の間に石などの異物があったり、設置面100に凹凸があったりすると、下側部30の下端部が設置面100から浮いてしまおそれがある。この点、実施形態のように、下側部30の下端部が、収容部2の底壁部20よりも下方に位置しているので、底壁部20と設置面100の間の凹凸や異物の有無等にかかわらず、下側部30の下端部を設置面100に確実に接触させることができる。下側部30の下端部の周方向全体が設置面100に接触していてもよいし、一部のみが設置面100に接触していてもよい。害虫案内部3の外径は、その下端部が最も大きいので、害虫捕獲器1を設置面100に設置したときに安定させることができる。
【0035】
図6及び図7に示すように、下側部30の上端部には、径方向内方へ延びるとともに、周方向に連続して延びる環状の下側延出板部31が設けられている。下側延出板部31の直下方に収容部2のフランジ部21aが配置されるようになっている。図5及び図6に示すように、下側延出板部31の径方向外端部近傍には、下方へ突出する複数の係止爪31aが周方向に互いに間隔をあけて設けられている。係止爪31aは、収容部2のフランジ部21aの径方向外方を通って当該フランジ部21aの下側に達するように形成されており、フランジ部21aに対して下方から引っ掛かるようにして係止する。係止爪31aをフランジ部21aに係止させることにより、収容部2を害虫案内部3と一体化して使用可能な状態にすることができる。収容部2と害虫案内部3との結合構造は、上述した係止爪31aを用いる構造以外の構造であってもよい。また、フランジ部21aが無い場合には、収容部2を害虫案内部3とを接着してもよい。
【0036】
上側部40は、下側部30と同様に、中心線200の周方向に連続して延びるとともに、下側へ行くほど径が拡大した形状とされているが、下側部30よりも全体的に小径とされている。すなわち、上側部40の下端部の外径は、下側延出板部31の内径と略一致しており、上側部40の下端部と下側延出板部31の径方向内端部とが連続している。
【0037】
また、上側部40は収容部2の上方に位置しており、収容部2の蓋の一部となっている。上側部40が径方向内方へ行くほど上に位置するように傾斜しているので、収容部2の底壁部20から上側部40までの距離は、径方向内方へ行くほど長くなる。つまり、収容部2の高さが径方向内方へ行くほど高くなるので、収容部2の害虫収容空間が広くなり、収容部2に収容可能な害虫の数を増やすことができる。
【0038】
害虫案内部3の上側部40の上端部には、径方向内方へ延びるとともに、周方向に連続して延びる環状の上側延出板部41が設けられている。言い換えると、害虫案内部3は、上側延出板部41の周囲に設けられることになる。この上側延出板部41は、害虫案内部3と一体成形されている。尚、害虫案内部3と上側延出板部41とは別部材であってもよく、この場合、一方を他方に対して接着や嵌合構造等によって一体化すればよい。
【0039】
上側延出板部41の径方向の寸法(幅)は、下側延出板部31の同方向の寸法よりも長く設定されている。この上側延出板部41も収容部2の上方に位置しているので、上側延出板部41によっても収容部2の蓋の一部が構成される。上側延出板部41は水平であってもよいが、径方向内方へ行くほど緩やかに下降傾斜していてもよい。
【0040】
上側延出板部41には、匍匐害虫及び飛翔害虫を収容部2に侵入させるための害虫侵入口41aが形成されている。上側延出板部41は設置面100よりも上に位置しているので、その上側延出板部41に形成されている害虫侵入口41aも設置面100よりも上に位置することになり、収容部2の上部で開口する。害虫侵入口41aは、匍匐害虫と飛翔害虫の両方が侵入可能に形成されている。害虫侵入口41aから侵入可能な匍匐害虫及び飛翔害虫の例については後述する。そのような害虫侵入口41aの形状としては、例えば円形、楕円形、長円形、多角形を挙げることができ、これらのうち、いずれの形状であってもよいが、本実施形態では円形としている。匍匐害虫と飛翔害虫の両方が侵入可能な害虫侵入口41aの寸法としては、例えば円形の場合には、直径が20mm以上、好ましくは30mm以上である。楕円形、長円形の場合には、長径及び短径の両方を上記寸法以上とすることができる。多角形の場合、全ての辺の長さを上記寸法以上とすることができる。本実施形態では、害虫侵入口41aが上側延出板部41の中心部に1つだけ設けられているが、これに限らず、上側延出板部41の中心部から径方向に偏位した部分に害虫侵入口41aが設けられていてもよいし、2以上の任意の数の害虫侵入口41aが上側延出板部41に設けられていてもよい。複数の害虫侵入口41aを設ける場合、害虫侵入口41aの形状及び寸法を同じにしてもよいし、互いに異ならせてもよい。
【0041】
上側延出板部41は、収容部2に侵入した飛翔害虫が外に出ることを抑制する脱出抑制部である。すなわち、害虫侵入口41aから収容部2に侵入した飛翔害虫は、捕獲液に捕獲される前であれば収容部2内の捕獲液面よりも上の空間を飛ぶおそれがある。また、収容部2に侵入した飛翔害虫が捕獲液に接触したとしても、羽ばたくことによって捕獲液から逃げるおそれもある。上側延出板部41が害虫侵入口41aの周囲に設けられていて、当該害虫侵入口41aの径方向に延びていることにより、収容部2内の捕獲液面よりも上の空間を飛ぶ飛翔害虫は、上側延出板部41の下面に当たることによって上方への自由な移動が阻止され、しかも、害虫侵入口41aは上側延出板部41で囲まれるようにして開口していて開口面積が限定されているので、飛翔害虫が害虫侵入口41aから外へ出にくくなる。本実施形態では、上側延出板部41が害虫侵入口41aの周方向に連続して設けられているが、これに限らず、害虫侵入口41aの周方向に断続して設けられていてもよい。
【0042】
害虫案内部3は、害虫捕獲器1が設置される設置面100から上方へ延びるように形成され、当該設置面100を歩行している匍匐害虫を害虫侵入口41aへ向けて案内する部分である。具体的には、害虫案内部3は、下側部30の外周面で構成される下側登坂面32と、上側部40の外周面で構成される上側登坂面42とを有している。下側登坂面32及び上側登坂面42は、所定以上の傾斜角度を持った匍匐害虫用の登坂面であるが、飛翔害虫が登坂することもある。匍匐害虫は節足動物であり、したがって、害虫案内部3は節足動物用の登坂面を形成する部材であり、節足動物用登坂部材と呼ぶことや、節足動物を上方へ案内する部材でもあることから、節足動物用案内部材と呼ぶこともできる。
【0043】
下側登坂面32は、設置面100から上方へ向けて延びるとともに、図6に示す中心線200まわりにも延びている。この実施形態では、下側登坂面32は、中心線200まわりに連続した円錐面状をなしているが、これに限らず、中心線200まわりに非連続、即ち下側登坂面32が中心線200まわりに断続して設けられていてもよい。
【0044】
図8に示すように、下側登坂面32には、節足動物の脚の爪が引っ掛かって係合する複数の係合部33、33、…が上下方向に並んで設けられている。係合部33、33、…を設けることで、下側登坂面32にシボ模様等を形成しなくても、節足動物の登坂が可能になる。尚、下側登坂面32にシボ模様等を形成してもよい。
【0045】
すなわち、下側登坂面32は、当該下側登坂面32の下端部から上端部まで連続した階段状に形成されている。係合部33は、階段状をなす部分における踏面で構成されており、下側部30の周方向に連続して形成されている。係合部33の奥行方向の寸法Dは、0.5mm以上に設定されている。また、階段状をなす部分には、下の踏面から上の踏面まで上下方向に延びる蹴込み面34が形成されている。係合部33及び蹴込み面34は、下側部30の周方向に連続して設けられている。
【0046】
図8に示すように、係合部33の奥行方向の寸法Dを0.5mm以上に設定することで、複数種の節足動物の脚の爪が引っ掛かるのに十分な係合部33の奥行寸法を確保できる。この寸法Dは本願発明者らが、例えば、アリ、ダンゴムシ、ハサミムシ等で登坂試験した結果に基づく寸法である。アリ、ダンゴムシ、ハサミムシ等の脚の先端にある爪の寸法は、短くても0.3mm程度であり、よって、この爪が完全に引っ掛かる程度の係合部33の奥行方向の寸法Dとして、0.3mmよりも長く設定する必要があり、複数のアリ、ダンゴムシ、ハサミムシ等の登坂しやすさを高めることができるのは0.5mm以上であった。係合部33の奥行方向の寸法Dは、0.7mm以上がより好ましく、1.0mm以上がより好ましい。
【0047】
係合部33の奥行方向の寸法Dの上限値は、例えば5.0mm以下とすることができる。その理由は、係合部33の奥行方向の寸法Dが長すぎると、節足動物が段差部を障害物であるとして認識しやすくなり、登坂を試みなくなる傾向にあるためである。この上限値についても、複数のアリ、ダンゴムシ、ハサミムシ等で登坂試験した結果に基づいている。
【0048】
係合部33の奥側には、下方へ窪む凹部33aが設けられている。凹部33aは、係合部33の奥側へ向かって深くなるように形成されている。凹部33aの内面は湾曲した面で構成されている。凹部33aは、下側部30の周方向に延びる凹条部または溝部と呼ぶこともできる。
【0049】
一方、係合部33の手前側部分には、当該係合部33の手前側の端部へ行くほど上に位置するように傾斜した傾斜面33bが形成されている。傾斜面33bは、係合部33の手前側の端部まで延びており、蹴込み面34の上端部と連続した面となっている。傾斜面33bの手前側の端部と、蹴込み面34の上端部との境界部分は円弧状の面で構成されており、鋭いエッジが形成されていない。これにより、使用者の手等が係合部33に触れても安全である。傾斜面33bの奥側は凹部33aの内面と連続している。なお、このような係合部33の構造は、例えばシボ加工のような高度な成形精度を必要としないので、成形方法を問わず形成することができる。
【0050】
ここで、図8に示すように、上下方向に並ぶ複数の係合部33、33、…の手前側の端部を繋ぐように延びる第1仮想面301と、傾斜面33bを第1仮想面301と交差するまで延長した第2仮想面302とを想定する。この場合、鉛直方向の断面上に存在する複数の係合部33の手前側の端部を繋ぐように延びる第1仮想面301を設定することができ、この第1仮想面301は図8の紙面と直交する方向に延びる平面とすることができる。第1仮想面301は、水平面300に対して角度αを持って交差している。
【0051】
角度αは下側登坂面32の傾斜角度であり、所定以上の傾斜角度となっている。所定以上の傾斜角度としては、例えば40゜以上である。すなわち、傾斜角度が40゜未満であれば、樹脂製の平坦な登坂面であっても節足動物が登坂できる場合がある。ところが、傾斜角度が40゜以上になると、樹脂製の平坦な登坂面や、樹脂製の単純な階段構造は、登坂できない節足動物が複数種存在する。これは、節足動物の脚の爪が、樹脂材の平滑な面には引っ掛からないためである。そこで、40゜以上の傾斜角度を持った登坂面に係合部30を設けることで、多種の節足動物を登坂させることが可能になる。角度αは、50゜以上とすることができる。角度αを90゜に近づければ近づけるほど、害虫案内部3の高さを変更することなく、害虫案内部3の下端部の外径を小さくすることができるので、省スペースに害虫捕獲器1を設置したいという消費者ニーズに合致した製品とすることができる。また、角度αの上限は80゜とすることができるが、これに限られるものではない。
【0052】
第1仮想面301と第2仮想面302とのなす角度のうち、第1仮想面301及び第2仮想面302の交差部分の上側に形成される角度βは、90゜未満、即ち鋭角である。これにより、傾斜面33bが係合部33の奥側へ行くほど下に位置するように急な傾斜角度になるので、節足動物の脚の爪が係合部33により一層引っ掛かりやすくなる。角度βが90゜を超えるということは、傾斜面33bが水平に近づくということであり、傾斜面33bが水平に近づくと節足動物の脚の爪が係合面33に接触したとしても、登坂時に下向きの力が加わると爪が滑りやすくなる。このことも、複数のアリ、ダンゴムシ、ハサミムシ等で登坂試験した結果に基づいている。上記角度βは、80゜未満にするのが好ましく、これにより、匍匐害虫の登坂容易性がより一層高まる。
【0053】
図1図2等に示すように、上側登坂面42は、下側延出板部31の径方向内端部から上方へ向けて延びるとともに、図6に示す中心線200まわりにも延びている。上側登坂面42にも下側登坂面32と同様に節足動物の脚の爪が引っ掛かって係合する複数の係合部43、43、…が上下方向に並んで設けられている。
【0054】
上側登坂面42の傾斜角度も下側登坂面32の傾斜角度と同様に設定することができる。上側登坂面42の傾斜角度と下側登坂面32の傾斜角度とは同じであってもよいし、異なっていてもよい。上側登坂面42の傾斜角度を下側登坂面32の傾斜角度よりも大きくすること、反対に小さくすることも可能である。また、下側登坂面32と上側登坂面42とを連続させて1つの登坂面とすることもできる。また、登坂面を3つ以上設けることもできる。
【0055】
次に、フード部5について説明する。図1等に示すように、フード部5は、害虫侵入口41aを上方から覆うための部材であり、樹脂材や耐水性を有する紙等で構成されている。図3に示すように、平面視でフード部5の外縁部は下側登坂面32と重複しており、これにより、フード部5によって害虫侵入口41aだけでなく、上側登坂面42及び下側登坂面32の一部も覆うことが可能になっている。これにより、雨等が害虫侵入口41aから侵入しにくくなる。
【0056】
フード部5の裏面には、上下方向に延びる複数の柱状部50が周方向に互いに間隔をあけて設けられている。各柱状部50の下端部が上側延出板部41の上面に固着されることにより、フード部5と害虫案内部3とを一体化することができる。この状態で、フード部5の本体部分は、害虫侵入口41aから上方へ離れていて、フード部5の本体部分と、害虫案内部3との間に、害虫が通過可能な空間が形成されている。
【0057】
フード部5の外周側には、下方へ窪むように形成された複数の窪み部51が周方向に互いに間隔をあけて設けられている。窪み部51の下端部は、上側部40の上側登坂面42の一部に接触している。この窪み部51によってもフード部5が害虫案内部3に支持されている。尚、フード部5は省略してもよい。また、フード部5の形状は上述した形状に限られるものではなく、例えば平板状のものであってもよい。
【0058】
(登坂試験)
次に、匍匐害虫を用いた下側登坂面32の登坂試験の結果について説明する。実施例は、図8に示すような複数の係合部33が設けられた下側登坂面32を有する節足動物用登坂部材である。この実施例における寸法Dは0.8mmとした。また、実施例における蹴込み面34の上下方向の寸法は6mmである。また、下側登坂面32の傾斜角度は50゜である。節足動物用登坂部材は真空成形で成形したものである。
【0059】
比較例は、傾斜角度が50゜の面に一般的な階段を形成したものである。比較例の踏面は水平であり、奥行方向の寸法は0.8mmとした。また、比較例における蹴込み面の上下方向の寸法は6mmである。供試虫はダンゴムシである。比較例も真空成形で成形したものである。
【0060】
供試虫を実施例の下側登坂面32に10匹置き、また、同様に比較例の階段にも供試虫を10匹置いた。置いた箇所から上部まで登坂できた供試虫の数をカウントした。その結果、比較例では全ての供試虫の脚が滑って登坂できず、登坂できた供試虫は0匹であったのに対し、実施例では脚を滑らせる供試虫は少なく、8匹が登坂した。寸法Dを0.5mmとしても同様な結果が得られた。尚、ダンゴムシは匍匐害虫の中で登坂能力の低い虫であるため、ダンゴムシが登坂できる登坂面であれば、他の匍匐害虫、例えばアリやハサミムシ、ゴキブリ等も登坂可能であると推定できる。
【0061】
(捕獲液の構成)
収容部2に収容される捕獲液は、匍匐害虫及び飛翔害虫を誘引する作用を持った液剤であるとともに、匍匐害虫及び飛翔害虫を収容部2内で捕獲するための液剤であることから、害虫の誘引捕獲液と呼ぶこともできる。捕獲液の収容量は特に限定されるものではないが、例えば100ml以上に設定することができる。特に本実施形態の捕獲液は、自然界で匍匐害虫及び飛翔害虫を誘引する樹液の発酵臭を人工的に再現したものであり、人工樹液とも呼べるものである。捕獲液は、人工樹液の成分として、糖と、酵母と、アルコールと、水とを含んでいる。更に本実施形態の捕獲液は、脱出防止成分(捕獲成分)として食品添加系界面活性剤(非イオン系界面活性剤)を含んでいる。
【0062】
糖は、例えば単糖類、二糖類及び多糖類のうち、任意の1つのみを使用することができるし、任意の2つ以上を混合して使用することもできる。使用可能な単糖類としては、例えばブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)、ガラクトース等を挙げることができる。使用可能な二糖類としては、例えばショ糖(スクロース)、麦芽糖(マルトース)、乳糖(ラクトース)等を挙げることができる。使用可能な多糖類としては、グリコシド結合によって単糖分子が多数重合した物質を挙げることができ、例えばデンプン等である。
【0063】
この実施形態では、果糖ブドウ糖液糖を使用している。果糖ブドウ糖液糖の含有量は、例えば1w/v%以上75w/v%以下とすることができる。酵母は、例えばドライイーストを挙げることができる。酵母の含有量は、例えば0.001質量%以上5質量%以下とすることができる。酵母を加えていることにより、糖が酵母によってアルコール発酵されてアルコールと二酸化炭素を発生する。
【0064】
アルコールは、エタノール、ブタン-2,3-ジオールおよびグリセリンのうち、少なくとも1つを使用することができ、これらのうち、任意の複数種を混合して用いることもできる。アルコールの含有量は、例えば0.01w/v%以上15w/v%以下とすることができる。なお、アルコールは酵母の発酵により生成するので省略することができるが、アルコールを添加しておけば発酵の初期段階でも誘引性を良好に発揮できる。
【0065】
捕獲液には、酢酸が含まれていてもよい。酢酸の含有量は、例えば0.005w/v%以上0.5w/v%以下とすることができる。また、捕獲液には、乳酸が含まれていてもよい。乳酸の含有量は、例えば0.005w/v%以上5w/v%以下とすることができる。なお、酢酸および乳酸は、アルコールとエステルを形成するため、これらが同時に配合されていると長期保存により組成が変動する可能性がある。このため、長期の保存性の観点からは、酢酸および乳酸、またはアルコールの少なくともどちらかを省略した方が好ましい。
【0066】
また、捕獲液には、プロピオン酸ナトリウムが含まれていてもよい。プロピオン酸ナトリウムの含有量は、例えば0.005w/v%以上0.5w/v%以下とすることができる。
【0067】
脱出防止成分として人工樹液に添加する界面活性剤は、酵母へ悪影響を与えないという点で非イオン界面活性剤が好ましく、わけても本実施形態のように食品添加系界面活性剤が好ましい。食品添加系界面活性剤は、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラートおよびポリオキシエチレンソルビタンモノオレアートのうち、少なくとも1つを使用することができ、これらのうち、任意の複数種を混合して用いることもできる。食品添加系界面活性剤の含有量は、例えば0.001w/v%以上1.0w/v%以下とすることができる。界面活性剤は食品添加系のものであるため、酵母の発酵に悪影響を与えにくく、使用開始時点で酵母による発酵を素早く立ち上げることが可能になるとともに、長期間に亘って高い誘引効果が得られる。食品添加系界面活性剤としては、例えば、東京化成工業株式会社製のTween20、Tween80等を使用することができる。
【0068】
(捕獲液の発酵性)
捕獲液は酵母としてドライイーストを含んでいるので、酵母の作用によって発酵する。発酵によって生じた臭気等によって害虫の誘引効果を高めることができる。捕獲液処方1及び捕獲液処方2をそれぞれ表1、表2に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
捕獲液は、先に果糖およびブドウ糖を水に溶かし、その後、エタノール、酢酸、乳酸、食品添加系界面活性剤、ドライイーストを加えることによって得られる。表1に示す捕獲液処方1と、表2に示す捕獲液処方2とは、ドライイーストが異なっている。捕獲液処方1のドライイーストは、共立食品 徳用ドライイースト3g入り(共立ドライイーストという)であり、また、捕獲液処方2のドライイーストは、日清食品 日清スーパーカメリヤ真空パウチ3g入り(日清ドライイーストという)である。尚、ドライイーストは、他社製品であってもよい。
【0072】
捕獲液の発酵確認試験方法について説明する。供試剤20gにドライイースト100mgを加えて捕獲液を得た後、すぐに10.2Lの容器に入れる。捕獲液を容器に入れた直後から時間の測定を開始する。容器は、内径が20cm×30cmのガラスシリンダーの上下をガラス板で覆って密閉状態にしたものである。試験時の雰囲気温度は24.5℃、湿度は47%であった。一定時間経過後に、容器内の二酸化酸素濃度を測定した。測定機器は、GM70 VAISALA社製であり、起動後、15分以上経過してから使用した。なお、ブランク空気中の二酸化炭素濃度は220~300ppm程度であった。
【0073】
【表3】
【0074】
表3に、捕獲液処方1の二酸化炭素濃度、捕獲液処方1におけるTween20を含有しない場合の二酸化炭素濃度、捕獲液処方2の二酸化炭素濃度、捕獲液処方2におけるTween20を含有しない処方の二酸化炭素濃度を、それぞれ1時間経過後、24時間経過後、48時間経過後で測定した結果を示す。表3から明らかなように、共立ドライイーストを含有する捕獲液処方1および日清ドライイーストを含有する捕獲液処方2の両方で発酵が進んでいることが確認された。また、Tween20の有無にかかわらず、発酵が進んでおり、Tween20がドライイーストによる発酵を阻害しないことが分かる。Tween80の場合も同様な結果が得られる。
【0075】
捕獲液処方3及び捕獲液処方4を表4に示す。捕獲液処方3、4を得る方法は捕獲液処方1を得る方法と同じである。以下、同様である。
【0076】
【表4】
【0077】
捕獲液処方3はブドウ糖を含まない処方であり、また、捕獲液処方4はアルコールを含まない処方である。捕獲液処方3、4の二酸化炭素濃度の測定結果を表5に示す。
【0078】
【表5】
【0079】
捕獲液処方3、4ともに1時間経過後の二酸化炭素濃度が高く、発酵が初期から促進されている。また、捕獲液処方3、4ともに48時間経過後の二酸化炭素濃度も高く、発酵が長時間持続することが分かる。
【0080】
捕獲液処方5を表6に示す。捕獲液処方5は、アルコール、乳酸、酢酸を含有しない処方である。
【0081】
【表6】
【0082】
捕獲液処方6を表7に示す。捕獲液処方6は、アルコールおよび乳酸を含有せず、酢酸の濃度が0.01%の処方である。
【0083】
【表7】
【0084】
捕獲液処方7を表8に示す。捕獲液処方7は、アルコールおよび乳酸を含有せず、酢酸の濃度が0.05%の処方である。
【0085】
【表8】
【0086】
捕獲液処方5~7の二酸化炭素濃度の測定結果を表9に示す。
【0087】
【表9】
【0088】
捕獲液処方5~7の全てで55時間経過後の二酸化炭素濃度が高く、発酵が長時間持続することが分かる。
【0089】
【表10】
【0090】
捕獲液処方8を表10に示す。捕獲液処方8は、アルコールおよび酢酸を含有せず、乳酸の濃度が0.05%の処方である。
【0091】
【表11】
【0092】
捕獲液処方9を表11に示す。捕獲液処方9は、アルコールおよび酢酸を含有せず、乳酸の濃度が0.1%の処方である。
【0093】
【表12】
【0094】
捕獲液処方10を表12に示す。捕獲液処方10は、アルコールおよび乳酸を含有せず、酢酸の濃度が0.1%の処方である。
【0095】
【表13】
【0096】
捕獲液処方11を表13に示す。捕獲液処方11は、アルコールおよび乳酸を含有せず、酢酸の濃度が0.3%の処方である。
【0097】
捕獲液処方8~11の二酸化炭素濃度の測定結果を表14に示す。
【0098】
【表14】
【0099】
捕獲液処方8~11の全てで66時間経過後の二酸化炭素濃度が高く、発酵が長時間持続することが分かる。したがって、乳酸と酢酸の両方を含有していなくても、一方を含有していることで発酵を長時間継続することができる。
【0100】
(捕獲液の表面張力)
表面張力は、デュヌイ表面張力試験器(株式会社 伊藤製作所)を用いて測定した。測定時の雰囲気温度は25.8℃、湿度は32%であった。以下の表面張力の測定値は、3回測定した平均値である。
【0101】
表15に比較例1の処方を示す。比較例1の処方は、表1に示す捕獲液処方1から食品添加系界面活性剤を除いた処方となっている。
【0102】
【表15】
【0103】
比較例1の処方の表面張力は、61.0mN/mであった。なお、イオン交換水の表面張力は、72.5mN/mである。
【0104】
下の表16に示す捕獲液処方12は、捕獲液処方1に対してTween20を0.5質量%とした処方である。捕獲液処方13は、捕獲液処方1に対してTween20を0.25質量%とした処方である。捕獲液処方14は、捕獲液処方1に対してTween20を0.10質量%とした処方である。捕獲液処方15は、捕獲液処方1に対してTween20を0.05質量%とした処方である。捕獲液処方16は、捕獲液処方1に対してTween20を0.01質量%とした処方である。捕獲液処方17は、捕獲液処方1に対してTween80を0.5質量%とした処方である。表16に捕獲液処方12~17の表面張力を示す。
【0105】
【表16】
【0106】
表16に示すように、界面活性剤を添加することで捕獲液の表面張力を比較例の処方に比べて大幅に低下させることができる。そして比較例1(食品添加系界面活性剤を除いたもの)に供試虫(ハチおよびゴキブリ)を入れたところ、5分以上に渡って暴れ脱出しようとし続けることが観察されたが、食品添加系界面活性剤を配合した捕獲液処方12~17に供試虫を入れたところ、3分以内に行動を停止し水面に浮いた状態となった。このように界面活性剤を添加して表面張力を低下させることにより、害虫の行動を停止させることができるので、収容部2からの脱出を防止し捕獲効果を向上させることができる。なお、表面張力の低下が行動停止につながるメカニズムは十分に明らかになってはいないが、以下のように考えられる。即ち、捕獲液の表面張力を低下させることにより、当該捕獲液が虫体や羽に付着しやすくなるため、羽および体が重くなって液面から飛び立つ事ができなくなる。そして、当該虫が液面で暴れているうちに、虫体に付着した捕獲液が気門を塞ぎ、窒息する。このように、捕獲液によって誘引された害虫が捕獲液の液面に落下すると、液面の表面張力が界面活性剤によって低下しているので、液面の害虫は脱出することができない。従って、捕獲液に添加した界面活性剤は、脱出防止成分であると言うこともできる。
【0107】
捕獲液は殺虫成分を含有していない。したがって、安全性が高く、一般家庭の庭や畑等で使用することができる。尚、捕獲液に殺虫成分が混合されていてもよい。
【0108】
(害虫捕獲試験)
上記実施形態に係る害虫捕獲器1を広島県廿日市市の広場に設置し、1ヶ月放置した。時期は夏である。捕獲液の処方は、表1に示す捕獲液処方1である。害虫捕獲器1の角度αは60゜、係合部33の奥行方向の寸法Dは0.8mm、蹴込み面34の上下方向の寸法は6mmである。設置面を基準とした害虫侵入口41aの高さは50mmである。捕獲液の量は、100mlである。
【0109】
設置から1ヶ月後、害虫捕獲器1を回収し、収容部2に収容されている害虫の数をカウントした。その結果、アリが534匹、ダンゴムシが146匹、ナメクジが21匹、ショウジョウバエが300匹以上、モリチャバネゴキブリが30匹捕獲されていた。このように、1つの収容部2に多数の害虫を収容することができる。ショウジョウバエが300匹以上捕獲されているということは、上側延出板部41による飛翔害虫の脱出抑制効果が高いということである。また、登坂能力の低いダンゴムシが146匹も捕獲されているということは、係合部33、43による脚の滑り止め効果が高いということである。また、捕獲液は多種の害虫に対して十分な誘引効果を発揮するとともに、捕獲効果も発揮する。
【0110】
次に、一般家庭で3つの上記害虫捕獲器1を用意し、それらを互いに間隔をあけて庭に設置し、2週間放置した。時期は夏である。捕獲液の処方や各部の寸法等は上記と同じである。各害虫捕獲器1には、表17に示す害虫が捕獲されていた。
【0111】
【表17】
【0112】
上記一般家庭とは別の広場で同様に害虫捕獲器1を3つ設置し、2週間放置した。時期は夏である。捕獲液の処方や各部の寸法等は上記と同じである。各害虫捕獲器1には、表18に示すように多種の害虫が多数捕獲されていた。
【0113】
【表18】
【0114】
表17及び表18に示すように、多くの種類の飛翔害虫及び匍匐害虫を1つの収容部2に収容することができる。尚、設置場所や時期、気候等によって捕獲される害虫の種類や数は異なることが想定されるが、表17、表18に示すように多種の飛翔害虫及び匍匐害虫を1つの害虫捕獲器1で捕獲することが可能である。
【0115】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、この実施形態によれば、害虫捕獲器1を設置面100に置くだけで容易に設置することが可能になる。害虫捕獲器1が設置されると、収容部2に収容されている誘引成分は害虫侵入口41aから外部に放出されるので、例えば設置面100近傍を歩行する匍匐害虫が害虫捕獲器1に誘引される。害虫案内部3が設置面100から延びていて、設置面100と害虫案内部3との間に特に障害等が存在していないので、誘引された匍匐害虫は容易に害虫案内部3に達し、害虫案内部3を歩行する。
【0116】
このとき、害虫案内部3の下側登坂面32と上側登坂面42とにそれぞれ複数の係合部33、43が上下方向に並ぶように設けられているので、匍匐害虫が下側登坂面32及び上側登坂面42を容易に登坂し、害虫侵入口41aに達する。また、誘引成分により誘引された害虫が誘引成分によって誘引される方向へ歩行していくと、自然に害虫侵入口41aに達する。これにより、多数の匍匐害虫が害虫侵入口41aから収容部2に侵入して捕獲される。
【0117】
また、害虫侵入口41aから外部に放出された誘引成分によって飛翔害虫が害虫侵入口41aへ誘引される。害虫侵入口41aの近傍まで誘引された飛翔害虫は誘引成分が収容されている収容部2内へ害虫侵入口41aから侵入する。飛翔害虫が収容部2内に一旦侵入すると、上側延出板部41によって外へ出るのが抑制されるので、収容部2に侵入したままとなる。これにより、飛翔害虫が多数捕獲される。
【0118】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0119】
以上説明したように、本発明は、例えば一般家庭の庭や畑等で使用することができる。
【符号の説明】
【0120】
1 害虫捕獲器
2 収容部
3 害虫案内部(節足動物用登坂部材)
32 下側登坂面
33 係合部
33a 凹部
33b 傾斜面
41 上側延出板部(脱出抑制部)
41a 害虫侵入口
42 上側登坂面
43 係合部
100 設置面
301 第1仮想面
302 第2仮想面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8