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特開2024-92025生体インプラントおよび生体インプラントの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092025
(43)【公開日】2024-07-05
(54)【発明の名称】生体インプラントおよび生体インプラントの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 8/00 20060101AFI20240628BHJP
   A61F 2/30 20060101ALI20240628BHJP
   A61F 2/44 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
A61C8/00 Z
A61F2/30
A61F2/44
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024074606
(22)【出願日】2024-05-02
(62)【分割の表示】P 2021574097の分割
【原出願日】2021-01-28
(31)【優先権主張番号】P 2020014698
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100156177
【弁理士】
【氏名又は名称】池見 智治
(74)【代理人】
【識別番号】100130166
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 宏明
(72)【発明者】
【氏名】加茂 道正
(72)【発明者】
【氏名】石水 敬大
(72)【発明者】
【氏名】山下 満好
(72)【発明者】
【氏名】澤瀬 隆
(72)【発明者】
【氏名】黒嶋 伸一郎
(57)【要約】
【課題】生体の骨などの被埋入部に強固に固定できるチタン合金製の生体インプラントを提供する。
【解決手段】生体インプラントは、生体の一部である被埋入部に埋入される。インプラントは、少なくとも外周表面がチタン合金製であるインプラント体を含む。インプラント体は被埋入部に埋入される。インプラント体の外周表面に対して垂直な切断面を撮像して得られた画像に対して画像処理を行って、25.4μmの測定長でのインプラント体の表面の輪郭を示す第1曲線を取得し、第1曲線に対して5μmのカットオフ値で長波長成分を除去して第2曲線を取得し、第2曲線を用いて算術平均粗さを算出した場合に、当該算術平均粗さである表面粗さRaが0.2μm以上である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の一部である被埋入部に埋入される生体インプラントであって、
前記被埋入部に埋入される、少なくとも外周表面がチタン合金製であるインプラント体を備え、
前記インプラント体の前記外周表面に対して垂直な切断面を撮像して得られた画像に対して画像処理を行って、25.4μmの測定長での前記インプラント体の前記外周表面の輪郭を示す第1曲線を取得し、前記第1曲線に対して5μmのカットオフ値で長波長成分を除去して第2曲線を取得し、前記第2曲線を用いて算術平均粗さを算出した場合に、前記算術平均粗さが0.2μm以上である、生体インプラント。
【請求項2】
生体の一部である被埋入部に埋入される生体インプラントであって、
前記被埋入部に埋入される、少なくとも外周表面がチタン合金製であるインプラント体を備え、
前記インプラント体の前記外周表面に対して垂直な切断面を撮像して得られた画像に対して画像処理を行って、25.4μmの測定長での前記インプラント体の前記外周表面の輪郭を示す第1曲線を取得した場合に、前記測定長に対する前記第1曲線の長さの比は1.5以上である、生体インプラント。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の生体インプラントであって、
前記チタン合金はα+β型合金を含む、生体インプラント。
【請求項4】
請求項3に記載の生体インプラントであって、
前記チタン合金は、チタン6アルミニウム4バナジウム合金を含む、生体インプラント。
【請求項5】
請求項3に記載の生体インプラントであって、
前記チタン合金は、チタン6アルミニウム7ニオブ合金、または、チタン6アルミニウム2ニオブ1タンタル合金を含む、生体インプラント。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一つに記載の生体インプラントであって、
前記算術平均粗さが0.6μm以下である、生体インプラント。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一つに記載の生体インプラントであって、
前記インプラント体の前記外周表面は多孔部を有しており、前記多孔部の内側にも、前記算術平均粗さが0.2μm以上の表面を有する、生体インプラント。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一つに記載の生体インプラントであって、
前記生体インプラントは、歯科用インプラント、脊椎用インプラント、人工関節用インプラントのいずれかである、生体インプラント。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一つに記載の生体インプラントの製造方法であって、
少なくとも外周表面がチタン合金製である処理前インプラント体を準備する工程と、
少なくとも、フッ化アンモニウム、硫酸および過酸化水素水を含む混酸を用いて、前記処理前インプラント体の外周表面にエッチングを行う工程と
を含む、生体インプラントの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の生体インプラントの製造方法であって、
前記処理前インプラント体の前記外周表面に前記エッチングを行う前記工程は、
前記処理前インプラント体にマクロ粗面処理を施して処理途中インプラント体とする工程と、
前記処理途中インプラント体に前記エッチングを行う工程と、
を含む、生体インプラントの製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の生体インプラントの製造方法であって、
前記マクロ粗面処理は、ブラスト処理を含む、生体インプラントの製造方法。
【請求項12】
請求項10または11に記載の生体インプラントの製造方法であって、
前記処理途中インプラント体の表面粗さは1μm以上かつ3μm以下である、生体インプラントの製造方法。
【請求項13】
請求項10から請求項12のいずれか一つに記載の生体インプラントの製造方法であって、
前記マクロ粗面処理は、溶射工程を含む、生体インプラントの製造方法。
【請求項14】
請求項9から請求項13のいずれか一つに記載の生体インプラントの製造方法であって、
前記エッチングの処理時間は10秒以上かつ10分以下である、生体インプラントの製造方法。
【請求項15】
請求項9から請求項14のいずれか一つに記載の生体インプラントの製造方法であって、
前記処理前インプラント体を準備する前記工程は、3次元積層造形による多孔部の形成工程を含む、生体インプラントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体インプラントおよび生体インプラントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン合金は、軽量、非磁性、優れた耐食性、高強度を有することから、整形外科用インプラントや歯科用インプラントに、広く使用されている。整形外科用インプラントは、例えば脊椎用インプラント、人工関節用インプラントであり、骨に埋入される金属本体を含み、この金属本体の表面に、金属ビーズ等の金属粒子を付着させミクロンからミリスケールの凹凸を形成させた上で、エッチング液を用いて、金属粒子表面にミクロンからナノスケールの粗面化処理をしている。
【発明の概要】
【0003】
生体インプラントが開示される。一実施の形態においては、生体インプラントは、生体の一部である被埋入部に埋入される生体インプラントであって、少なくとも外周表面がチタン合金製であるインプラント体を備える。インプラント体は被埋入部に埋入される。インプラント体の外周表面に対して垂直な切断面を撮像して得られた画像に対して画像処理を行って、25.4μmの測定長でのインプラント体の外周表面の輪郭を示す第1曲線を取得し、第1曲線に対して5μmのカットオフ値で長波長成分を除去して第2曲線を取得し、第2曲線を用いて算術平均粗さを算出した場合に、当該算術平均粗さが0.2μm以上である。
【0004】
他の一実施の形態においては、生体インプラントは、生体の一部である被埋入部に埋入される生体インプラントであって、少なくとも外周表面がチタン合金製であるインプラント体を備える。インプラント体は被埋入部に埋入される。インプラント体の外周表面に対して垂直な切断面を撮像して得られた画像に対して画像処理を行って、25.4μmの測定長でのインプラント体の外周表面の輪郭を示す第1曲線を取得した場合に、測定長に対する第1曲線の長さの比は1.5以上である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】インプラントの構成の一例を概略的に示す図である。
図2】表面粗化処理の一例を示すフローチャートである。
図3】表面粗さRaと除去トルク値との関係を示すグラフである。
図4】表面粗さの測定方法の一例を示すフローチャートである。
図5】インプラント体の切断面の撮像画像の一例を示す図である。
図6】インプラント体の切断面の撮像画像の一例を示す図である。
図7】インプラント体の表面の撮像画像の一例を示す図である。
図8】インプラント体の切断面の撮像画像を二値化した画像の一例を示す図である。
図9】表面粗さの小さいインプラント体の切断面の撮像画像の一例を示す図である。
図10】表面粗さの大きいインプラント体の切断面の撮像画像の一例を示す図である。
図11】多孔体の撮像画像の一例を示す図である。
図12】エッチング処理前の図11に示す多孔体の強拡大撮像画像の一例を示す図である。
図13】エッチング処理後の図11に示す多孔体の強拡大撮像画像の一例を示す図である。
図14】表面粗さRlrと除去トルク値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0006】
従来から、生体インプラントと骨との固定力の更なる向上が望まれている。そこで、本開示は、生体の骨などの被埋入部に強固に固定できるチタン合金製の生体インプラントを提供する。
【0007】
図1は、インプラント1の構成の一例を概略的に示す図である。インプラント1は例えば歯科用のインプラントであり、インプラント体2を含んでいる。インプラント体2は骨などの生体の一部(以下、被埋入部と呼ぶ)に埋入されて、インプラント1を体内に固定する。インプラント体2はインプラント1と連続した一体のものであっても良いし、別の部材と組合されてインプラント1を構成しても良い。
【0008】
図1に例示するインプラント体2は、一方向に延在する略円柱形状を有しており、その外周表面には、ねじ部3が形成されている。ねじ部3は、インプラント体2の径方向外側に突出するねじ山を含んでおり、このねじ山はインプラント体2の先端側から頭部側に向かって螺旋状に形成される。インプラント体2は不図示の工具によって、被埋入部に螺合される。
【0009】
インプラント1が歯科用のインプラントである場合、フィクスチャーと呼ばれる場合がある。
【0010】
歯科医は、歯の欠損が生じている部位、または不具合が生じた歯を患者の口から除去して、その代替えとしてインプラント1を埋入する。
【0011】
埋入直後のインプラント1は、ねじ部3と骨との間の摩擦抵抗力により固定されている。この埋入直後の固定力を初期固定力と呼ぶが、初期固定力は生体反応(いわゆる骨のリモデリング)により、経時的に減少する。一方、埋入後のインプラント体2の表面には、生体反応によって形成される新生骨が接触する。形成した新生骨の増加に伴い、インプラント体2と骨との固定力は徐々に増加する。
【0012】
一般に新生骨形成による固定力が十分に得られるまでの期間には、歯冠などの上部構造を装着しない治療期間をとる。つまり、新生骨形成による固定力の向上は、治療期間および、患者が咬合を喪失している期間の短縮に直結する。このため、インプラント表面には新生骨形成による強固な骨固定力を獲得する能力が求められる。
【0013】
発明者等は、このインプラント体2と被埋入部(例えば顎の骨)との間の骨固定力を獲得する能力は、インプラント体2のサブミクロンスケールの表面状態に依存することを明らかにした。以下において、インプラント体2のサブミクロンスケールの表面状態と骨固定力との関係を詳細に説明する。
【0014】
なお、図1の例では、歯科用のインプラント1を例示しているものの、本実施の形態にかかるインプラント1は歯科用のインプラントに限らない。本実施の形態は例えば整形外科用のインプラントに適用されてもよい。
【0015】
具体的な一例として、本実施の形態は、脊椎を固定するためのインプラントに適用されてもよい。このようなインプラント1は、複数の脊椎に埋入する複数のインプラント体2と、各インプラント体2の頭部に設けられたアタッチメントと、当該アタッチメントに結合して複数のインプラント体2同士を連結するロッドとを含んでいる。この場合、インプラント体2はボーンスクリューまたはペディクルスクリューとも呼ばれる。各インプラント体2が脊椎に埋入し、ロッドが複数のアタッチメントに結合することにより、複数の脊椎を互いに固定することができる。
【0016】
また、インプラント1は、例えば人工関節用のインプラントであってもよい。この場合、インプラント1は、人工関節を構成する一対のコンポーネントと、各コンポーネントを骨に固定するためインプラント体2とを含む。インプラント体2は、ねじ部を含まない棒状や凸面状であっても良い。
【0017】
要するに、インプラント1のインプラント体2は、生体の一部(例えば骨)に埋入される部材であればよく、インプラント1の種別は問わない。例えばインプラント1は医療用のインプラントに限らず、装飾などの身体改造用のインプラントであってもよい。
【0018】
このインプラント体2はチタン合金製である。ここでいうチタン合金製とは、少なくともインプラント体2の外周表面がチタン合金により構成されていることをいう。チタン合金としては、α型合金を採用してもよく、β合金を採用してもよく、α+β型合金を採用してもよい。α型合金は主としてα相を有するチタン合金であり、β型合金は主としてβ相を有するチタン合金である。α+β型合金は、α相およびβ相が共存するチタン合金である。α相は、稠密六方構造と呼ばれる結晶構造を有しており、β相は、体心立方構造を有している。α+β型合金は、例えば、Ti(チタン)-6Al(アルミニウム)-4V(バナジウム)、Ti-6Al-7Nb(ニオブ)、Ti-6Al-2Nb-1Ta(タンタル)、Ti-3Al-2.5V、Ti-5Al-2.5Fe(鉄)およびTi-5Al-3Mo(モリブデン)-4Zr(ジルコニウム)を含む。チタン合金として、Ti-6Al-4Vを採用すれば、軽量、非磁性、優れた耐食性および高強度を有するインプラント体2を提供することができる。
【0019】
このインプラント体2を強固に被埋入部に固定すべく、インプラント体2の外周表面には表面粗化処理が施されてもよい。例えば、数十ミクロンメーターからミリメーターオーダーの粗面化処理(以下、マクロ粗面処理)を施した上で、酸エッチングを行う。
【0020】
図2は、インプラント体に対する表面粗化処理の一例を示すフローチャートである。以下では、インプラント体2の表面粗化処理前の部材を処理前インプラント体と呼ぶ。図2の例では、まずステップS1にて、処理前インプラント体を準備する。次に、ステップS2にて、処理前インプラント体の外周表面にマクロ粗面処理が施される。マクロ粗面処理の具体的な一例には、ブラスト処理が採用され得る。ブラスト処理とは、微細な研磨材を加工対象面に吹き付ける処理であり、これにより、加工対象面の表面粗さを増加させることができる。研磨材はメディアとも呼ばれ得る。砂状のメディアを用いる場合は、ブラスト処理は、特にサンドブラスト処理とも呼ばれ得る。
【0021】
例えば、処理前インプラント体は所定のブラスト装置に搬入される。当該ブラスト装置は例えば遠心力または風力を利用して研磨材を処理前インプラント体の外周表面の全周に向かって飛ばし、当該研磨材を処理前インプラント体の外周表面に衝突させる。研磨材としては、例えば、アルミナ、ホウ素およびホウ砂の少なくともいずれか一つを採用することができる。ここでは、一例としてホウ砂を採用する。以下では、インプラント体2として完成する前の部材のうちマクロ粗面処理後の部材を処理途中インプラント体と呼ぶ。
【0022】
このマクロ粗面処理により、処理途中インプラント体の外周表面の表面粗さを、処理前インプラント体の表面粗さよりも増加させることができる。つまり、処理途中インプラント体の外周表面には、研磨材に応じた凹凸が形成される。より具体的には、このブラスト処理により、処理途中インプラント体の外周表面には1μm以上かつ3μm以下の表面粗さが形成される。言い換えれば、1μmから3μm程度の表面粗さを形成できるように、ブラスト処理における各種条件(例えば研磨材の大きさ、研磨材の速度、研磨材の量および処理時間など)が設定される。この処理途中インプラント体の外周表面の表面粗さは、一般的なISO25178に基づき測定できる。なお、粗さ測定は、JIS B0601およびJIS B0633に基づいて測定しても良い。
【0023】
次にステップS3にて、処理途中インプラント体の外周表面にウェットエッチング処理が施される。ウェットエッチング処理とは、処理途中インプラント体の外周表面にエッチング液を接触させることによって、エッチング液と処理途中インプラント体との化学反応(腐食作用)を利用し、処理途中インプラント体の外周表面を粗面化する処理である。
【0024】
処理途中インプラント体は所定のエッチング装置に搬入される。エッチング装置には、例えばエッチング液を貯留する貯留部が設けられており、このエッチング液に処理途中インプラント体が浸漬される。エッチング液としては、例えば、フッ化アンモニウム、硫酸および過酸化水素水を含む混酸を採用できる。処理途中インプラント体が所定時間(例えば数分程度)に亘ってエッチング液に浸漬することにより、処理途中インプラント体の外周表面がエッチングされ、インプラント体2を作製することができる。このエッチング処理により、インプラント体2の外周表面には、数百nmオーダーの微細な凹凸が形成される。
【0025】
インプラント体2の外周表面が複雑な多孔部であったとしても、エッチング液は当該多孔部の内側表面にも接触できるので、当該多孔部の内側表面にも数百nmオーダーの凹凸を一様に形成することができる。
【0026】
以上の表面粗化処理により、インプラント体2の外周表面の表面粗さを増加させることができる。
【0027】
次に、このインプラント体の外周表面の表面粗さRaと、インプラント体が被埋入部に埋入されたときの固定力との関係について検討する。図3は、表面粗さRaと除去トルク値との関係を示すグラフである。この対応関係は以下の実験によって得られた。
【0028】
まず、表面粗さの異なる複数のインプラント体を作製した。具体的には、純チタン製の6つのインプラント体およびTi-6Al-4V製の4つのインプラント体2を作製した。純チタン製のインプラント体の形状はインプラント体2と同様である。この純チタン製のインプラント体にも、インプラント体2に対する表面粗化処理と類似の表面粗化処理を行った。ただし、そのブラスト処理の条件およびエッチング処理の条件を種々異ならせて、6つの純チタン製のインプラント体を作製した。同様に、ブラスト処理の条件およびエッチング処理の条件を種々異ならせて、4つのインプラント体2を作製した。
【0029】
具体的には、純チタン製のインプラント体については、以下の処理を行った。即ち、ブラスト処理では、研磨材として、ホウ砂およびアルミナを適宜に採用した。また、エッチング液としては、塩酸および硫酸を含む混酸と、シュウ酸とを適宜に採用した。また、エッチング処理の処理時間等も適宜に変更した。また、あるインプラント体については、これら2種のエッチング液を用いたエッチング処理を連続して行って純チタン製のインプラント体を作製した。
【0030】
Ti-6Al-4V製のインプラント体2についてのブラスト処理では、ホウ砂およびアルミナを研磨材として適宜に採用した。また、エッチング液としては、塩酸および硫酸を含む混酸と、フッ化水素および硝酸を含む混酸と、フッ化アンモニウム、硫酸および過酸化水素水を含む混酸とを適宜に採用した。また、あるインプラント体については、エッチング処理を行わずにインプラント体2を作製した。
【0031】
次に、作製した純チタン製のインプラント体およびインプラント体2の各々を、日本白色家兎(週齢20週から31週、体重3.5kgから4.0kg)の脛骨に埋入した。埋入後、生体反応による新生骨再生によって、インプラント体と骨との固定力は、数週間の期間をかけて、徐々に大きくなる。
【0032】
ここでは、脛骨への各インプラント体の埋入から4週間経過後において、インプラント体2を当該脛骨から除去するのに要する除去トルク値を測定するトルク試験を行って、固定力を評価した。このトルク試験は金属製骨ねじの機械的試験方法JIS T0311を参考に実施した。具体的には、埋入から4週間経過後の当該兎の当該脛骨を取り出して、インプラント体2を含んだ骨片を所定の固定部材に固定し、インプラント体に対して除去方向のトルクを印加することで行われる。除去方向とは、インプラント体を骨片から取り外す方向である。トルク試験機は、固定部材と、駆動部と、トルク検出部とを含んでいる。固定部材は骨片を固定する。駆動部には、インプラント体にトルクを印加する工具が着脱可能に取り付けられる。駆動部はモータを含んでおり、当該工具を回転させてインプラント体にトルクを印加する。トルク検出部は、例えば、モータを流れる電流を検出し、当該電流に基づいてトルク値を算出する。駆動部は、インプラント体に印加するトルクを徐々に増加させる。トルク検出部は、インプラント体が当該骨片から取り外されたときのトルク値を除去トルク値として出力する。
【0033】
以上のように、各インプラント体の除去トルク値をトルク試験機で測定した。各インプラント体に対する測定数は、各7から10(飼育中の死亡例は除外)である。
【0034】
並行して、各インプラント体の表面粗さを次のようにして測定した。測定には、固定力測定に用いた各インプラント体と同一条件で作製したインプラント体を用いた。
【0035】
マクロ粗面処理を施した表面を一般的な粗さ測定の手法(例えばJIS B 0633およびJIS B 0601)で評価する場合、得られる面粗さはマクロ粗面処理など酸エッチング処理以前に存在する凹凸に大きく依存し、酸エッチングにより形成されるサブミクロンオーダーの凹凸を適切に評価できない。そこで、我々は、処理表面の断面を作製し、走査型電子顕微鏡にて凹凸情報を取得し、フィルタリング処理により、酸エッチング処理以前に存在する凹凸を除去する手法(以下単にフィルタリング処理と記す)を用いて、酸エッチングにより形成されるサブミクロンメーターオーダーの凹凸を評価する手法を確立した。
【0036】
図4は、表面粗さの測定方法を示すフローチャートである。前述の図3の表面粗さRaは、この測定方法で測定されたものである。まずステップS11にて、作業員はインプラント体の表面に対して垂直な切断面、例えば各インプラント体の中心軸A(図1参照)を含む切断面で、各インプラント体を切断した。
【0037】
次にステップS12にて、走査型電子顕微鏡により、各インプラント体の切断面を例えば5000倍の倍率で撮像した。ここでは、HITACHI(登録商標)製の走査型電子顕微鏡S-3400Nを用い、ねじ部3の一部を撮像した。
【0038】
図5および図6は、撮像画像の一例を概略的に示す図である。図5は、インプラント体2の切断面を100倍の倍率で撮像して得られた撮像画像を示している。図6は、インプラント体2の切断面を5000倍の倍率で撮像して得られた撮像画像を示している。図6は、図5の撮像領域R1を示している。図5の例では、撮像領域R1はインプラント体の外周表面におけるねじ部3の谷部に相当する。撮像領域R1の横方向の長さは25.4μmであり、縦方向の長さは19.1μmである。
【0039】
各撮像画像において、インプラント体を示す画素群の画素値は、背景を示す画素値とは異なる画素値を有している。図5および図6の例では、インプラント体2の画素値は背景の画素値よりも高い。
【0040】
図7は、インプラント体2の外周表面を撮像して得られる撮像画像を示している。この撮像画像は、走査型電子顕微鏡がインプラント体2の表面を5000倍の倍率で撮像して得られた画像である。図6および図7から理解できるように、インプラント体2の外周表面には、精細な凹凸が形成されている。
【0041】
走査型電子顕微鏡によって取得された図6の撮像画像は、所定の画像処理装置に入力される。画像処理装置は電子回路であって、画像処理能力を提供するために、少なくとも1つのプロセッサを含む。プロセッサは、例えば、関連するメモリに記憶された指示を実行することによって1以上のデータ計算手続または処理を実行するように構成された1以上の回路またはユニットを含む。他の実施形態において、プロセッサは、1以上のデータ計算手続きまたは処理を実行するように構成されたファームウェア(例えば、ディスクリートロジックコンポーネント)であってもよい。なお、当該画像処理装置の全ての機能あるいは当該画像処理装置の一部の機能は、その機能の実現にソフトウェアが不要なハードウェア回路によって実現されてもよい。
【0042】
図4を再び参照して、ステップS13にて、画像処理装置は撮像画像に対して画像処理を行って、インプラント体2の外周表面の輪郭を示す第1曲線を取得する。具体的な一例として、まず画像処理装置は、撮像画像に対して二値化処理を行って二値化画像を取得する。図8は、二値化画像の一例を概略的に示す図である。画像処理装置はこの二値化画像に基づいて第1曲線を取得する。画像処理装置は二値化画像に対して、例えばキャニー法等のエッジ抽出処理を行ってエッジ画像を取得し、このエッジ画像にHilditch等の細線化処理を行って、第1曲線を取得する。この第1曲線は、25.4μmの測定長におけるインプラント体2の外周表面の輪郭曲線である。なお、第1曲線の取得方法はこれに限るものではなく、他のアルゴリズムまたは、手技的なトレースにより第1曲線を取得してもよい。
【0043】
ここでは、三谷商事株式会社製の画像処理ソフト「WinROOF(商標)」を用いて画像処理を行った。画像処理装置は当該ソフトによって規定された各種手順を実行することにより、上述の画像処理を行って第1曲線を取得する。当該ソフトを実行する画像処理装置は、以下に述べる操作を実現する機能を有する。
【0044】
さて、第1曲線は、ブラスト処理によって形成された1μmから3μm程度の表面粗さを示すうねり成分と、エッチング処理によって形成された数百nmの表面粗さを示す凹凸成分とを含んでいる。ここでは、このうねり成分を除去して凹凸成分を抽出する。
【0045】
図4を再び参照して、ステップS14にて、画像処理装置はうねり成分、すなわち長波長成分を第1曲線から除去する。具体的には、画像処理装置は第1曲線に対して、5μmのカットオフ値でガウシアンフィルタを適用して、第2曲線を取得する。つまり、ブラスト処理によって生じる表面粗さ(うねり成分)の周期よりも短い5μmのカットオフ値を採用して、第1曲線に対してハイパスフィルタ処理を行うことで、ブラスト処理に起因したうねり成分を第1曲線から除去して第2曲線を取得する。よって、この第2曲線は主としてエッチング処理によって形成された表面粗さ(凹凸成分)を示す。
【0046】
次に、ステップS15にて、画像処理装置は第2曲線を用いて算術平均粗さ(以下、表面粗さRaと呼ぶ)を算出する。この算術平均粗さは、第2曲線の高さ方向の平均値と第2曲線上の各点との差の絶対値を、平均して得られる値である。
【0047】
図3は、上述のようにして測定された表面粗さRaおよび除去トルク値の関係を示すグラフである。図3においては、純チタン製のインプラント体のデータを菱形のプロット点で示し、Ti-6Al-4V製のインプラント体2のデータを丸のプロット点で示している。
【0048】
図3に示すように、表面粗さRaが0.2μm未満であるインプラント体についての除去トルク値は、おおよそ0.3強Nm以下であるのに対して、表面粗さRaが0.2μm以上であるインプラント体についての除去トルク値は、おおよそ0.4Nm以上である。また、図3から理解できるように、除去トルク値は0.2μmの表面粗さRaを境界として急峻に変化している。
【0049】
したがって、インプラント体2の表面粗さRaは0.2μm以上であることが望ましい。これによって、強固にインプラント体2を被埋入部に固定することができる。
【0050】
図9および図10は、表面粗さRaの異なるインプラント体の切断面の撮像画像の一例を示す図である。図9は、表面粗さRaが0.14μmであるインプラント体2の切断面を示しており、図10は、表面粗さRaが0.30μmであるインプラント体2の切断面を示している。図9のインプラント体2の外周表面は、比較的長い周期で緩やかな凹凸を呈している。一方で、図10のインプラント体2の外周表面は、比較的短い周期で急峻な凹凸を呈しており、またその深さも深い。被埋入部が骨である場合には、インプラント体2の周囲の骨が時間の経過とともにその凹凸を埋めるようにインプラント体2の外周表面に入り込むので、インプラント体2が被埋入部により強固に固定される。
【0051】
上述の観点に鑑みれば、表面粗さRaが0.2μmとなる前後で除去トルク値が急峻に増加するのは、表面粗さRaが0.2μmとなったときに、インプラント体2が被埋入部と十分に噛み合うことができる程度の凹凸がインプラント体2の外周表面に形成されたためと考察される。
【0052】
一方、従来の方法を用いて、純チタンとTi-6Al-4Vに対して、同一の酸エッチング処理を行った。これらの表面について、本願の定義における表面粗さRaを測定したところ、Ti-6Al-4Vでは0.14μmであった。従来には、サブミクロンオーダーの表面粗さの好適な範囲に関する考察はなく、また、同一の酸エッチング手法を用いた場合の純チタンとTi合金によって形成される表面形態の差異についての考察もない。つまり、従来の製造方法を単に適用しTi-6Al-4Vなどのチタン合金製生体インプラントを作製しても、好適な面粗さを得ることができず、生体骨などの被埋入部には強固に固定されない。
【0053】
また、従来では酸エッチング処理以前に存在するミクロンレベルの凹凸を考慮して面粗さを評価していない。従来の複数の製造条件でインプラント体を作製したところ、その表面粗さRaはいずれも0.1μm以下であった。つまり、従来の製造方法を単に適用しチタン合金製生体インプラントを作製しても、生体骨などの被埋入部には強固に固定されない。
【0054】
さらに、市場に存在する主要なチタン合金製の歯科インプラントの表面の粗さを本願の手法で測定したところ、本開示には全ては含まれていないが調査した範囲でTi-6Al-4V製の表面粗さRaが0.2μmを超える歯科インプラントは存在しなかった。
【0055】
すなわち、従来存在するチタン合金製インプラントでは、本願の測定手法で測定したとき表面粗さRaが0.2μmを超えておらず、生体骨などの被埋入部に強固に固定されないことが明らかになった。
【0056】
表面粗さRaが0.2μm以上となるチタン合金製のインプラント体2は例えば次の条件で作製される。まず、Ti-6Al-4V製の処理前インプラント体を作製する。次に、この処理前インプラント体に対して、マクロ粗面処理としてブラスト処理(ステップS2)を施して、処理途中インプラント体を作製する。次に、フッ化アンモニウム、過酸化水素水および硝酸の混酸をエッチング液として使用して、処理途中インプラント体に対してエッチング処理(ステップS3)を施す。酸の構成は例えば20w/v%フッ化アンモニウム、6w/v%過酸化水素、硫酸(全酸濃度30w/v%)である。処理時間は、例えば10秒から10分までの時間、より好ましくは、30秒から3分までの時間、さらに好ましくは、1分程度に設定する。これによって、表面粗さRaが0.3μmであるTi-6Al-4V製のインプラント体2を作製することができた。
【0057】
本実施の形態では、チタン合金製のインプラント体2の表面粗さRaは0.2μm以上である。よって、インプラント体2を十分な固定力で被埋入部に埋入固定することができる。しかも、チタン合金は、純チタンとは異なる種々の優れた特性を示す。例えばTi-6Al-4Vは、軽量、優れた耐食性および高強度、高疲労強度を有する。要するに本実施の形態によれば、優れた特性を有するチタン合金を用いつつも、チタン合金製のインプラント体2を、純チタン製のインプラント体と同程度の高い固定力で被埋入部に埋入固定することができる。
【0058】
しかも、本実施の形態では、インプラント体2の外周表面の第1曲線を用いるのではなく、5μmのカットオフ値でガウシアンフィルタを第1曲線に適用することにより、うねり成分を第1曲線から除去している。そして、うねり成分が除去された第2曲線についての算術平均粗さである表面粗さRaを用いている。つまり、うねり成分による影響を除いて、除去トルク値と表面粗さRaとの対応関係(相関)を求めている。これにより、図3に示すような0.2μmの表面粗さRaを境界とした除去トルク値の急峻な変化が具現化される。つまり、本実施の形態の技術は、従来のように、うねり成分を含んだインプラント体2の表面粗さと固定力との対応関係に拘泥した技術とは一線を画す。
【0059】
エッチング条件と、うねり成分を除去して、求めた表面粗さRaの関係の例示として、例えば、Ti-6Al-4Vに対して、「フッ化アンモニウム+硫酸+過酸化水素」のエッチング液で30秒、1分、2分処理した時、表面粗さRaは順に0.29、0.30、0.24μmであった。なお、エッチング処理前の表面粗さRaは0.10μmであった。
【0060】
これらの条件で作製したインプラント体に対して前述のトルク試験を実施したところ、抜去トルク0.40Nm以上の骨との高い固定力を示した。
【0061】
また、Ti-6Al-7Nb合金に対して「フッ化アンモニウム+硫酸+過酸化水素」のエッチング液で1分処理した時、表面粗さRaは0.25μmであった。また、Ti-6Al-2Nb-1Ta合金に対して同じエッチング液で1分処理した時、表面粗さRaは0.26μmであった。
【0062】
これと比較して、Ti-6Al-4Vに対して従来の方法「1wt%フッ化ナトリウム+0.25N塩酸」のエッチング液で25℃で5分間処理した時、表面粗さRaは0.10μm、「0.1wt%フッ化ナトリウム+0.25N塩酸」のエッチング液で処理した場合は、0.04μm、「0.5wt%フッ化ナトリウム+1N塩酸+2wt%硫酸ナトリウム」のエッチング液で処理した場合は、0.04μmであった。
【0063】
また、従来の別の方法「フッ化水素+硝酸」または120℃の「塩酸+硫酸」のエッチング液で5分処理した時、表面粗さRaは順に0.06、0.14μmであった。
【0064】
また、上述の例では、エッチング液を用いたエッチング処理により、インプラント体2の外周表面に精細な凹凸を形成している。これによれば、インプラント体2の外周表面に多孔部が形成されていたとしても、エッチング液は当該多孔部の内側に入り込むことができるので、当該多孔部の内側の表面にも、表面粗さRaが0.2μm以上の精細な凹凸を一様に形成することができる。よって、インプラント体2の外周表面の全域に精細な凹凸を形成することができる。したがって、インプラント体2が全域で十分に被埋入部と噛み合うことができ、より強固に被埋入部に埋入できる。
【0065】
なお、上述の例では、マクロ粗面処理としてブラスト処理を行っている。マクロ粗面処理として、ブラスト処理に替えて、あるいは、ブラスト処理とともに、他の多孔部形成処理を行ってもよい。例えば、溶射処理(=溶射工程)により、インプラント体2の外周表面に多孔部を形成してもよい。あるいは、生体適合性が高い金属粒子、金属繊維および金属ワイヤの少なくとも一つをインプラント体2の外周表面に分散付着させることにより、インプラント体2の外周表面に多孔部を形成してもよい。
【0066】
あるいは、例えば整形外科用などのインプラントでは、電子ビームまたはレーザ等を用いた3次元積層造形により、インプラント体2の外周表面に多孔部を形成する場合がある。このような3次元積層造形によれば、複雑な骨形状(例えば頭蓋骨または人工股関節の臼蓋置換部位の形状など)を形成できるとともに、その表面に多孔部を形成することができる。また、3次元積層造形を脊椎ケージや脊椎デバイス、人工膝関節等にも適用できる。図11は、3次元積層造形により作製した直径約5mm×長さ約10mmの円柱状のTi-6Al-4V製の多孔体5の撮像画像を示す図である。図11の多孔体5では、気孔径が約640μmの孔が気孔率64%で形成されている。なお、3次元積層造形では、多孔体5付きの全体形状を有するインプラント体2を作成できることから、3次元積層造形により多孔部を形成する形成工程は、ステップS1の準備工程およびステップS2のマクロ粗面処理の両方を含んだステップに相当する。
【0067】
この多孔体5に対して「フッ化アンモニウム+硫酸+過酸化水素」のエッチング液で酸エッチングを行ったところ、多孔体5の内部表面においても、ブラスト処理後の表面にエッチング処理を行った場合と同等のサブミクロンオーダーの表面粗さを得た。図12は、エッチング処理を行う前の多孔体5の孔内面の強拡大SEM写真であり、撮影倍率は5000倍である。この多孔体5の孔内面を、上述したうねり成分を除く測定方法により測定した表面粗さRaは0.08μmであった。これに対して、図13は、エッチング処理を行った後の多孔体5の孔内面のSEM写真(5000倍)であり、その表面粗さRaは0.35μmであった。このように、複雑な形状を有する多孔体に対しでも、エッチング液を用いたエッチング処理により、当該多孔体の表面粗さRaを0.2μm以上とすることができる。
【0068】
表面粗さRaの範囲の上限値は例えば0.6μmである。つまり、表面粗さRaは0.2μm以上かつ0.6μm以下であるとよい。表面粗さRaがこの範囲であれば、除去トルク値は十分に大きく、インプラント体2を強固に被埋入部に埋入することができる。
【0069】
ところで、インプラント体2と被埋入部が十分に噛み合うには、インプラント体2の外周表面における凹凸の周期も重要な要素の一つである。この凹凸の周期は短い方がよい。言い換えれば、凹凸の空間周波数は高い方がよい。
【0070】
そこで、インプラント体2の外周表面の凹凸の周期を含んだ指標として、次に説明する表面粗さRlrを導入する。表面粗さRlrとは、インプラント体2の輪郭曲線である第1曲線の長さの、測定長に対する比である。第1曲線の長さとは、第1曲線を仮想的に延ばして1本の直線にしたときの長さである。インプラント体2の外周表面の凹凸の周期が短いほど第1曲線は長くなり、表面粗さRlrは大きくなる。換言すると、表面粗さRaが一定であれば、表面粗さRlrが大きいほど、凹凸の周期は短い。
【0071】
図14は、表面粗さRlrと除去トルク値との関係の一例を示すグラフである。図14のグラフは、上述した合計10個のインプラント体を用いて求められた。表面粗さRlrは、撮像画像に対する画像処理によって算出される。具体的には、まず、画像処理装置は既述のように、撮像画像に基づいて第1曲線を取得する。次に、画像処理装置は第1曲線の長さを算出する。例えば画像処理装置は、撮像画像において第1曲線を示す各画素の隣り合う二者の距離を順に算出し、当該距離の合計を第1曲線の長さとして求める。次に、画像処理装置はこの第1曲線の長さを測定長(=25.4μm)で除算して、表面粗さRlr(=第1曲線の長さ/測定長)を算出する。画像処理装置はインプラント体ごとに表面粗さRlrを算出する。
【0072】
図14は、測定したインプラント体の表面粗さRlrと、そのインプラント体についての除去トルク値をプロットすることで得られた。なお、図14の例では、純チタン製のインプラント体のデータを白丸のプロット点で示し、チタン合金製のインプラント体2のデータを黒丸のプロット点で示している。
【0073】
図14から理解できるように、表面粗さRlrが1.5未満であるときには、除去トルク値は、おおよそ0.3強Nm以下であるのに対して、表面粗さRlrが1.5以上であるときには、除去トルク値は、おおよそ0.4Nm以上である。また、図14から理解できるように、除去トルク値は、おおよそ1.5の表面粗さRlrを境界として急峻に変化している。
【0074】
よって、インプラント体2の表面粗さRlrは1.5以上であることが望ましい。これにより、より強固にインプラント体2を骨に固定することができる。
【0075】
以上のように、インプラント1およびその製造方法は詳細に説明されたが、上記した説明は、全ての局面において例示であって、この開示がそれに限定されるものではない。また、上述した各種変形例は、相互に矛盾しない限り組み合わせて適用可能である。そして、例示されていない多数の変形例が、この開示の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。
【0076】
例えばエッチング処理に替えて、あるいは、エッチング処理とともに、レーザ加工処理に行ってもよい。これにより、インプラント体2の表面粗さRaを0.2μm以上としてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 インプラント
2 インプラント体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【手続補正書】
【提出日】2024-05-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の一部である被埋入部に埋入される生体インプラントであって、
前記被埋入部に埋入され、前記被埋入部に接する外周表面を有し、かつ、少なくとも前記外周表面が、チタン6アルミニウム4バナジウム合金を含むチタン合金製であるインプラント体を備え、
前記インプラント体の前記外周表面に対して垂直な切断面を撮像して得られた画像に対して画像処理を行って、25.4μmの測定長での前記インプラント体の前記外周表面の輪郭を示す第1曲線を取得し、前記第1曲線に対して5μmのカットオフ値で長波長成分を除去して第2曲線を取得し、前記第2曲線を用いて算術平均粗さを算出した場合に、前記算術平均粗さが0.2μm以上である、生体インプラント。
【請求項2】
請求項1に記載の生体インプラントであって、
前記算術平均粗さが0.6μm以下である、生体インプラント。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の生体インプラントであって、
前記インプラント体の前記外周表面は多孔部を有しており、前記多孔部の内側にも、前記算術平均粗さが0.2μm以上の表面を有する、生体インプラント。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一つに記載の生体インプラントであって、
前記測定長に対する前記第1曲線の長さの比は1.5以上である、生体インプラント。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一つに記載の生体インプラントであって、
前記チタン合金はα+β型合金を含む、生体インプラント。
【請求項6】
請求項5に記載の生体インプラントであって、
前記チタン合金は、チタン6アルミニウム7ニオブ合金、または、チタン6アルミニウム2ニオブ1タンタル合金を含む、生体インプラント。
【請求項7】
請求項1から請求項のいずれか一つに記載の生体インプラントであって、
前記生体インプラントは、歯科用インプラント、脊椎用インプラント、人工関節用インプラントのいずれかである、生体インプラント。
【請求項8】
請求項1から請求項のいずれか一つに記載の生体インプラントの製造方法であって、
少なくとも外周表面がチタン合金製である処理前インプラント体を準備する工程と、
少なくとも、フッ化アンモニウム、硫酸および過酸化水素水を含む混酸を用いて、前記処理前インプラント体の外周表面にエッチングを行う工程と
を含む、生体インプラントの製造方法。
【請求項9】
請求項に記載の生体インプラントの製造方法であって、
前記処理前インプラント体の前記外周表面に前記エッチングを行う前記工程は、
前記処理前インプラント体にマクロ粗面処理を施して処理途中インプラント体とする工程と、
前記処理途中インプラント体に前記エッチングを行う工程と、
を含む、生体インプラントの製造方法。
【請求項10】
請求項に記載の生体インプラントの製造方法であって、
前記マクロ粗面処理は、ブラスト処理を含む、生体インプラントの製造方法。
【請求項11】
請求項または10に記載の生体インプラントの製造方法であって、
前記処理途中インプラント体の表面粗さは1μm以上かつ3μm以下である、生体インプラントの製造方法。
【請求項12】
請求項から請求項11のいずれか一つに記載の生体インプラントの製造方法であって、
前記マクロ粗面処理は、溶射工程を含む、生体インプラントの製造方法。
【請求項13】
請求項から請求項12のいずれか一つに記載の生体インプラントの製造方法であって、
前記エッチングの処理時間は10秒以上かつ10分以下である、生体インプラントの製造方法。
【請求項14】
請求項から請求項13のいずれか一つに記載の生体インプラントの製造方法であって、
前記処理前インプラント体を準備する前記工程は、3次元積層造形による多孔部の形成工程を含む、生体インプラントの製造方法。