(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092040
(43)【公開日】2024-07-05
(54)【発明の名称】急性非代償性心不全の治療方法及び治療システム
(51)【国際特許分類】
A61M 5/142 20060101AFI20240628BHJP
【FI】
A61M5/142 530
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024074987
(22)【出願日】2024-05-02
(62)【分割の表示】P 2021514940の分割
【原出願日】2019-05-16
(31)【優先権主張番号】62/673,298
(32)【優先日】2018-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】520452529
【氏名又は名称】リプリーヴ カーディオヴァスキュラー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】レヴィン ハワード アール
(72)【発明者】
【氏名】ハルパート アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】エンゲルマン ゾアー
(72)【発明者】
【氏名】ゲルファンド マーク
(57)【要約】
【課題】急性非代償性心不全の治療方法及び治療システムを提供する。
【解決手段】急性非代償性心不全(ADHF)、心不全又は他の体液過剰状態の患者を治療するための装置及び方法であって、患者の尿産生量を増加させるために利尿剤を患者に投与することと、利尿剤の投与後の患者による尿産生の速度又は量を監視することと、尿産生量を増加させるために患者に水和液を注入することと、患者に注入される水和液の速度又は量を調節して、患者における目標の体液喪失を達成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性非代償性心不全(ADHF)、心不全又は他の体液過剰状態を有する患者を治療するための患者体液管理システムであって、
患者(P)の尿産生を増加させるように利尿剤(15)を前記患者(P)に投与する手段と、
前記患者(P)による尿産生の速度又は量を監視する手段(12)と、
前記患者(P)に水和液を注入する手段(14)と、
前記患者内の目標の体液喪失を達成するように、尿産生(34)の実際の速度又は量に基づいて、前記患者(P)に注入される前記水和液(22)の速度又は量を調節するサブシステム(16)と、を有し、
前記サブシステム(16)は、
前記患者(P)による尿産生(12)の前記実際の速度又は量を評価し、
まず、尿産生の増加を誘発すべく前記水和液(22)を注入し、この後、前記患者内の前記目標の体液喪失を達成すべく前記水和液(22)の速度又は量を調整するように、前記水和液を注入する手段(14)を制御する、
ように構成されたコンピュータ制御システム(4)を有する、
ことを特徴とする患者体液管理システム。
【請求項2】
前記コンピュータ制御システム(4)は、閾値尿速度又は量(310)を超える尿産生に応答して、注入される前記水和液(22)の速度又は量を減少させるように更に構成される、請求項1に記載の患者体液管理システム。
【請求項3】
前記コンピュータ制御システム(4)は、最小閾値尿速度又は量を下回る尿産生に応答して、前記水和液(22)の注入を減少又は停止するように更に構成される、請求項1又は2に記載の患者体液管理システム。
【請求項4】
急性非代償性心不全(ADHF)、心不全又は他の体液過剰状態を有する患者を治療するための患者体液管理システムであって、
利尿剤(15)を患者(P)に投与する手段と、
前記患者(P)による尿産生の速度又は量を監視する手段(12)と、
前記患者(P)に水和液を注入する手段(14)と、
尿産生(34)を監視している間に前記患者(P)の中心静脈圧(CVP)を判定する手段と、
前記CVPに基づいて、前記患者(P)に注入される前記水和液(22)の速度又は量を調節するサブシステム(16)と、
を有することを特徴とする患者体液管理システム。
【請求項5】
前記CVPを判定する手段は前記CVPを推定する、請求項4に記載の患者体液管理システム。
【請求項6】
前記サブシステム(16)は、前記CVPがCVPの範囲外にある場合には前記水和液の注入速度を調整し(214、218)、前記CVPが前記範囲内にある場合には前記注入速度を維持する(210)、ように構成される、請求項4又は5に記載の患者体液管理システム。
【請求項7】
前記サブシステム(16)は、前記CVPが前記範囲を下回る場合には前記注入速度を増加させ(218)、前記CVPが前記範囲を超える場合には前記注入速度を減少させる(214)、ように構成される、請求項6に記載の患者体液管理システム。
【請求項8】
前記サブシステム(16)は、最小閾値尿速度又は量を下回る尿産生に応答して、前記水和液の注入を減少又は停止するように構成される、請求項4乃至7のいずれか一項に記載の患者体液管理システム。
【請求項9】
急性非代償性心不全(ADHF)、心不全又は他の体液過剰状態を有する患者を治療する方法であって、
利尿剤の投与後に患者(P)による尿産生の速度又は量を監視することと、
前記患者(P)の中心静脈圧(CVP)を判定することと、
前記CVP(210、214、218)及び前記尿産生の速度又は量の両方に基づき決定された速度又は量で、水和液を前記患者に注入することと、
を有することを特徴とする方法。
【請求項10】
前記監視することは、前記尿産生のリアルタイムの速度又は量を決定し、前記リアルタイムの速度又は量は、注入される前記水和液の速度又は量を決定するために使用される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
体液管理システムであって、
患者から尿を収集するように構成された尿収集装置(28、30、32)と、
水和液を前記患者内に送り出すように構成されたポンプ(18)と、
収集された前記尿を測定し、前記患者に送り込まれた前記水和液を測定するように構成された測定システム(36、38)と、
収集された前記尿に関する情報を受信し(104)、前記水和液が患者に送り込まれる速度を制御するための命令を発する(114)、ように構成されたコンピュータ制御システム(40)と、を有し、
前記速度は、前記患者内の目標の体液減少量を達成するように前記コンピュータ制御システムによって決定される、ことを特徴とする体液管理システム。
【請求項12】
前記コンピュータ制御システムは、前記患者内の体液減少量を計算するように構成される、請求項11に記載の体液管理システム。
【請求項13】
前記患者内の前記流体減少量は、測定された前記尿と測定された前記水和液との差に基づいた差として計算される、請求項13に記載の体液管理システム。
【請求項14】
前記コンピュータ制御システムは、液体の別の供給源によって前記患者に送られた輸液に関する情報を受信する(44)ように構成される、請求項12又は13に記載の体液管理システム。
【請求項15】
前記別の供給源によって前記患者に送られた輸液に関する前記情報が、前記患者内の体液減少量を計算するために使用される、請求項14に記載の体液管理システム。
【請求項16】
前記コンピュータ制御システムは、前記水和液が前記患者に送り込まれる速度を初期レベル(56)にして、次いで減少されるように(60)、制御するよう構成される、請求項10乃至15のいずれか一項に記載の体液管理システム。
【請求項17】
前記コンピュータ制御システムは、前記患者が閾値尿速度又は量を超える尿を生成していると判定した後に、前記水和液が前記患者に送り込まれる速度を低下させるように構成される、請求項10乃至15のいずれか一項に記載の体液管理システム。
【請求項18】
前記コンピュータ制御システムは、前記患者が十分な尿を生成していないと判定した後に、前記水和液の前記患者への送り込みを停止するように構成される、請求項10乃至17のいずれか一項に記載の体液管理システム。
【請求項19】
前記コンピュータ制御システムは、前記患者が十分な尿を生成していないことを示すアラート(112)を生成するように構成される、請求項10乃至18のいずれか一項に記載の体液管理システム。
【請求項20】
前記コンピュータ制御システムが、中心静脈圧(CVP)を判定する(206)ように構成される、請求項10乃至17のいずれか一項に記載の体液管理システム。
【請求項21】
前記CVPの判定は推定CVPである、請求項20に記載の体液管理システム。
【請求項22】
前記コンピュータ制御システムは、前記CVPがCVPの範囲外にある場合には前記水和液が前記患者に送り込まれる速度を調整し(214、218)、前記CVPが前記範囲内にある場合には前記速度を維持する(210)、ように構成される、請求項20又は21に記載の体液管理システム。
【請求項23】
前記水和液が前記患者に送り込まれる前記速度は、前記CVPが前記範囲を下回る場合には増加し(218)、前記CVPが前記範囲を超える場合には減少する(214)、請求項22に記載の体液管理システム。
【請求項24】
急性非代償性心不全(ADHF)、心不全又は他の体液過剰状態を有する患者を治療する方法であって、
患者の尿産生を増加させるように利尿剤を前記患者に投与すること(52、100)と、
前記利尿剤の投与後に前記患者による尿産生の速度又は量を監視すること(54、106)と、
前記尿産生の増加を誘発するように水和液を前記患者に注入すること(56、114)と、
前記患者内の目標の体液喪失を達成するように前記患者に注入される前記水和液の速度又は量を調節すること(60、114)と、
を有することを特徴とする方法。
【請求項25】
閾値尿速度又は量を超える尿産生に応答して、注入される前記水和液の速度又は量を減少させること(310)を更に有する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
最小閾値尿速度又は量を下回る尿産生に応答して、前記水和液の注入を減少又は停止することを更に有する、請求項24又は25に記載の方法。
【請求項27】
急性非代償性心不全(ADHF)に罹患していると前記患者を診断することを更に有する、請求項24乃至26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
急性非代償性心不全(ADHF)、心不全又は他の体液過剰状態を有する患者を治療する方法であって、
患者の尿産生を増加させるように利尿剤を前記患者に投与すること(200)と、
前記利尿剤の投与後に前記患者による尿産生の速度又は量を監視することと、
尿産生を監視している間に前記患者の中心静脈圧(CVP)を判定すること(206)と、
前記CVPに基づいて、水和液を前記患者に注入すること(210、214、218)と、
を有することを特徴とする方法。
【請求項29】
前記CVPの判定は推定CVPである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記CVPがCVPの範囲外にある場合には前記水和液の注入速度を調整し(214、218)、前記CVPが前記範囲内にある場合に前記注入速度を維持する(210)、ことを更に有する、請求項28又は29に記載の方法
【請求項31】
前記注入速度は、前記CVPが前記範囲を下回る場合には増加され(218)、前記CVPが前記範囲を超える場合には減少される(214)、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
最小閾値尿速度又は量を下回る尿産生に応答して、前記水和液の注入を減少又は停止することを更に有する、請求項28乃至31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
急性非代償性心不全(ADHF)に罹患していると前記患者を診断することを更に有する、請求項28乃至32のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2018年5月18日に出願された米国仮特許出願第62/673,298号の優先権を主張するものであり、その全体が参照により組み込まれる。
【0002】
本発明の分野は、心不全、特に急性非代償性心不全(ADHF)の治療である。本発明は、一般的には心不全を治療するために、特にADHFを治療するために、患者の体液(fluid)レベルを管理することに関する。
【背景技術】
【0003】
急性非代償性心不全(ADHF)は、心不全の徴候と症状が突然悪化することである。ADHFの症状には、大抵、呼吸困難、脚や足のむくみ、疲労がある。ADHFは、急性呼吸窮迫における一般的で潜在的に深刻な原因である。ADHFに苦しむ患者はしばしば入院する。ADHFの特徴は、患者における体液量過剰である。
【0004】
典型的には、患者の体液量を減少させることがADHFの治療の目的である。患者の体液量を減少させるために(うっ血解消)、迅速、安全かつ効果的な方法で体液量を減少させるべきである。ADFHの治療は、従来、利尿剤を用いて患者に排尿させて患者の体液量を減少させることからなる。利尿剤は、静脈(IV)ラインによって導入される。利尿剤による治療がうまくいかない場合は、限外ろ過(ultra-filtration)を使用して、体液量を減少させてADFHを治療することがある。
【0005】
ADFHを治療するために体液量を減少させるのと同様に、心不全の患者の体液除去は、患者のうっ血を解消するために使用される。体液レベルは、好ましくは、患者の血管内液及び血管外液の両方についてレベルを正常レベルに戻すように減少される。しかし、心不全患者では正常レベルに達することは現実的でないことが多い。したがって、これらのレベルを患者にとって現実的な程度まで低下させるように、治療が大抵行われる。これら現実的なレベルの多くは、患者における血管内液の残りの量が、重要な臓器の十分な灌流を可能にするのに必要な最小値又はそれに近いレベルまで、体液を除去することができる。これらの現実的なレベルは、依然として、患者が著しい血管外液/全体液過剰の状態にあることがある。
【0006】
利尿剤は、急性非代償性心不全(ADHF)及び慢性心不全(HF)の両方の患者における体液除去の有効な方法である。使用される利尿剤の種類、量及び時期の選択は、HF又はADHFの病期又は症状によって異なる。
【0007】
利尿剤の投与が個人の尿産生に及ぼす短期的な影響は、完全には予測できない。利尿剤の投与に応じて、ある患者は予想よりもはるかに尿の産生量が減少することがあり、それにより、入院期間が延長したり、外来患者が入院する原因になったりすることがある。別の患者は、利尿剤の投与に応じて過剰な量の尿を産生することがあり、それにより、患者の低血圧及び重要な臓器の障害が懸念される。
【0008】
利尿剤の投与に対する反応及び治療成績が大きく異なる可能性は、患者の臨床徴候及び症状に基づいて個々の患者に対する利尿剤の正しい投与量を決定しなければならない医師にとって、不確実性をもたらす。医師は、控えめな(低い)利尿剤の投与量を処方し、その後、望ましい尿量を達成するために投与量を徐々に増加させることがある。この控えめアプローチは、治療を長期化させ、患者が十分な量の尿を産生できなくなることがある。控えめなアプローチの欠点は、患者の症状が長期化し、利尿剤のゆっくりとした投与により基礎臨床状態が悪化することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、患者に輸液(fluid)を注入することによって尿産生を促進するために、利尿剤をレナルガード(RenalGuard)システムのような体液管理装置と組み合わせた、ADHF及びHFの新規な治療法を考案し、試験し、本明細書に開示する。この治療法は、体液過剰状態を治療するために輸液を追加するという点で、直観に反している。輸液を加えると、最初は状態が悪くなるように見える。しかしながら、輸液は、高い速度の尿産生を促進し、患者の脱水を回避するために添加される。輸液の注入は、尿産生を監視すると共に、患者に加えられる輸液の量を制御するためのフィードバックとして尿の産生を使用することによって制御される。体液管理装置は、患者内の体液量の正味の減少があるように、患者に加えられる輸液量を制御する。また、体液管理装置は、患者が利尿剤に反応して十分な量の尿を産生していないかどうかを検出し、輸液の注入を自動的に中止し、限外ろ過などの他の治療が適切である可能性を示唆するアラート(警告)を発する。体液管理システムの使用は、患者が低血圧になるか、さもなければ、不自然に低い血管内体液レベルに関連した問題に苦しむリスクを低減する。体液管理システムの使用は患者が低血圧になるリスクを低下させるので、医師は、利尿剤のみの治療で現実的な量又は推奨される量よりも、患者内の体液レベルをより迅速に低下させるべき、利尿剤の高い投与量を処方することができる。
【0010】
一実施形態において、本発明は、以下を含む治療レジメンにおいて具体化される。
【0011】
(a)利尿剤の最高ガイドライン推奨用量を含み得る初期治療。利尿剤のみの治療レジメンでしばしば必要とされるよりも短い期間で、低利尿を予防し、臨床的に有意な量の体積除去を達成するために、最高用量を処方してもよい。高用量の利尿剤を使用すると、血行力学的状態(血管内及び血管外液)及び治療上望ましい臨床的反応(症状の解消)の両方の低下をもたらす尿産生が生じるはずである。
【0012】
(b)高用量の利尿剤に対する患者の反応を4時間など数時間監視し、患者が、(1)十分な尿量を産生することによって利尿剤によく反応しているか、(2)いくらかの尿を産生するが量が不十分であるか、(3)別の治療が必要とされるほど少量の尿を産生しているか、を判定する。
【0013】
(c)高用量の利尿剤によく反応する患者は、体液管理装置に頼らずに治療するのがよい。いくらかの尿を産生するが量が不十分である患者は、高用量の利尿剤と組み合わせた体液管理装置を用いて治療するのがよい。体液管理システムは、利尿剤と併用すると、腎臓に尿の産生を促すように、液体(輸液)を患者の血管系に少なくとも一時的に注入することで、尿産生を促進する。いったん腎臓が促されると、腎臓は、注入される液体の量が減っても、比較的速い速度で尿を再生し続けることができる。少量の尿しか出ない患者は、強心薬、持続的腎代替療法(CRRT)、限外濾過(UF)の使用など、別の治療に切り替えるのがよい。
【0014】
一実施形態において、急性非代償性心不全(ADHF)、心不全又は他の体液過剰状態を有する患者を治療するための患者体液管理システムは、患者の尿産生を増加させるように利尿剤を患者に投与する手段と、利尿剤の投与後の患者による尿産生の速度又は量を監視する手段と、尿産生を増加させるために患者に水和液を注入する手段と、患者内の目標の体液喪失を達成するように、尿産生の実際の速度又は量に基づいて、患者に注入される水和液の速度又は量を調節するサブシステムと、を有する。サブシステムは、患者による尿産生の速度又は量を評価し、且つ、尿産生の増加を誘発すべく水和液を注入して、患者内の目標の体液喪失を達成すべく水和液の速度又は量を調整するように水和液を注入する手段を制御する、ように構成されたコンピュータ制御システムを有する。なお、本明細書において、所定の流体(尿や水和液など)の速度は流量と同義である(以下同様とする)。
【0015】
患者体液管理システムにおいて、コンピュータ制御システムは、閾値尿速度又は量を超える尿産生に応答して注入される液体の速度又は量を減少させるように、及び/又は、最小閾値尿速度又は量を下回る尿産生に応答して液体の注入を減少又は停止するように、更に構成されてもよい。
【0016】
一実施形態において、ADHF、心不全又は他の体液過剰状態を有する患者を治療するための患者体液管理システムは、患者の尿産生を増加させるために利尿剤を患者に投与する手段と、利尿剤の投与後の患者による尿産生の速度又は量を監視する手段と、患者に水和液を注入する手段と、尿産生を監視している間に患者の中心静脈圧(CVP)を判定する手段と、CVPに基づいて患者に注入される水和液の速度又は量を調節するサブシステムと、を有する。
【0017】
患者体液管理システムにおいて、CVPを判定する手段は、CVPを推定してもよい。サブシステムは、CVPがCVPの範囲外にある場合には水和液の注入速度を調節し、CVPが範囲内にある場合には注入速度を維持するように構成されてもよい。サブシステムは、CVPが範囲を下回る場合には注入速度を増加させ、CVPが範囲を超える場合には注入速度を減少させるように構成されてもよい。サブシステムは、最小閾値尿速度又は量を下回る尿産生に応答して、水和液の注入を減少又は停止するように構成されてもよい。
【0018】
一実施形態では、体液管理システムは、患者から尿を収集する尿収集装置と、水和液を患者に送り込むポンプと、収集された尿と患者に送り込まれた水和液を測定する測定システムと、収集された尿に関する情報を受け取り、水和液が患者に送り込まれる速度を制御する命令を発するコンピュータ制御システムと、を有する。この速度は、患者内の目標の体液減少量を達成するようにコンピュータ制御システムによって決定される。
【0019】
測定システムは、少なくとも1つの重量計を含んでいてもよい。コンピュータ制御システムは、患者内の体液減少量を計算するように構成されてもよい。患者内の体液減少量は、患者内への水和液の量と患者からの尿量との差として計算されてもよい。コンピュータ制御システムは、別の供給源によって患者に送られた輸液に関する情報を受信するように構成されてもよい。別の供給源によって患者に送られた輸液に関する情報は、患者内の体液減少量を計算するために使用されてもよい。コンピュータ制御システムは、水和液が患者に送り込まれる速度を初期レベルにして、次いで減少されるように制御するよう構成されてもよい。コンピュータ制御システムは、患者が閾値尿速度又は量を超える尿を生成していると判定した後に、水和液が患者に送り込まれる速度を低下させるように構成されてもよい。コンピュータ制御システムは、患者が十分な尿を生成していないと判定した後に、水和液の患者への送り込みを停止するように構成されてもよい。コンピュータ制御システムは、患者が十分な尿を生成していないことを示すアラート(警告)を生成するように構成されてもよい。コンピュータ制御システムは、中心静脈圧(CVP)を判定するように構成されてもよい。CVPの決定は、推定であってもよい。コンピュータ制御システムは、CVPがCVPの範囲外にある場合には水和液が患者に送り込まれる速度を調節し、CVPが範囲内にある場合には速度を維持するように構成されてもよい。水和液が患者に送り込まれる速度は、CVPが範囲を下回る場合には増加し、CVPが範囲を超える場合には減少する。
【0020】
一実施形態において、ADHF、心不全又は他の体液過剰状態を有する患者を治療する方法は、利尿剤の投与後に患者による尿産生の速度又は量を監視することと、尿産生を監視しながら患者のCVPを判定することと、CVPに基づいて水和液を患者に注入することと、を有する。
【0021】
一実施形態において、ADHF、心不全又は他の体液過剰状態を有する患者を治療する方法は、患者の尿産生を増加させるように利尿剤を患者に投与することと、利尿際の投与後に患者による尿産生の速度又は量を監視することと、尿産生の増加を誘発するように水和液を患者に注入することと、患者内の目標の体液喪失を達成するように患者に注入される水和液の速度又は量を調節することと、を有する。
【0022】
本方法は、閾値尿速度又は量を超える尿産生に応答して注入される水和液の速度又は量を減少させること、最小閾値尿速度又は量を下回る尿産生に応答して水和液の注入を減少又は停止すること、及び/又は、ADHFに罹患していると患者を診断すること、を有していてもよい。
【0023】
一実施形態において、ADHF、心不全又は他の体液過剰状態を有する患者を治療する方法は、患者の尿産生を増加させるように利尿剤を患者に投与することと、利尿剤の投与後に患者による尿産生の速度又は量を監視することと、尿産生を監視しながら患者のCVPを判定することと、CVPに基づいて水和液を患者に注入することと、を有する。
【0024】
本方法は、推定することによりCVPを判定すること、CVPがCVPの範囲外にある場合には水和液の注入速度を調整し、CVPが範囲内にある場合に注入速度を維持すること、CVPが範囲を下回る場合には注入速度を増加し、CVPが範囲を超える場合には注入速度を減少すること、最小閾値尿速度又は量を下回る尿産生に応答して、水和液の注入を減少又は停止すること、及び/又は、ADHFに罹患していると患者を診断すること、を有していてもよい。
【0025】
以下の図は、本発明及びその使用を説明するものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】尿産生を監視し、患者への輸液の注入を制御するように構成された、患者水和(hydration)システムの一実施形態の概略図である。
【
図2】心臓手術などのイベントの前、最中、及び後に、体液管理システムで達成される所望の尿流量のタイムラインを示すグラフである。
【
図3】コントローラによって処理されるステップの一例を示すフローチャート、及び患者による尿産生量に基づいて注入流量を決定、調整するために使用されるロジックを示す。
【
図4】コントローラによって処理されるステップの一例を示すフローチャート、及び患者による尿産生量に基づいて注入流量を決定、調整するために使用されるロジックを示す。
【
図5】例示的な治療レジメンを示すフローチャートである。
【
図6】例示的な治療レジメンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、患者Pに接続された尿収集システム12及び水和液(hydration fluid/liquid)注入システム14を含む患者体液管理システム10を示す。患者は、ADFHに罹患して入院し、静脈(IV)ラインを介して利尿剤15を投与され得る。利尿剤15は、水和液を注入するラインに付加してもよいし、別の静脈ラインを介して患者に接続された、別の生理食塩水充填バッグに付加してもよい。
【0028】
水和液注入システム14は、輸液管理システムとも呼ばれ、チューブ(ライン)24によって、水和液22(例えば生理食塩水)の輸液源20(例えば生理食塩水バッグ)に接続された、注入ポンプ18(例えば蠕動ポンプ)を備える注入コントローラ16を含む。静脈(I.V.)注射針26は、患者Pの静脈内に挿入され、チューブ24を介して注入ポンプ18に接続されている。供給源20からの輸液22は、チューブ24及び静脈注射針26を通って、患者Pの血管、例えば末梢静脈に直接流入する。患者に流入する輸液22の量又は速度は、注入ポンプ18のポンプ速度又は回転数によって決定されてもよい。
【0029】
尿収集システム12は、患者Pの膀胱内に配置されたフォーリーカテーテルのようなカテーテル28を含む。チューブ30は、カテーテル28をバッグ32のような尿収集装置に接続する。バッグ32に収集された尿34は、注入コントローラ16と通信する重量計36又は他の尿流量測定装置によって、重量を量るか又は他の方法で測定される。重量計38は、水和液22の重量を測定してもよい。
【0030】
尿34の量又は速度は、注入コントローラ16によってリアルタイムで監視される。同様に、輸液源20内の水和液22の量は、重量計38によって監視又は測定されてもよい。重量計36、38は、患者による尿産生及び患者への輸液摂取の複合変化を測定する単一の重量計であってもよい。尿産生及び輸液摂取の複合変化は、患者による正味の体液減少又は増加を示す。
【0031】
注入コントローラ16は、水和液22の重量、ポンプ18により送られた水和液22の量、或いは他の方法で、患者Pに流入する水和液22の量又は速度をリアルタイムで監視する。
【0032】
体液管理システム10は、マサチューセッツ州ミルフォードのレナルガードソリューションズ社によって開発及び販売されているレナルガード(RenalGuard)システムであってもよく、これは、過去に、ヨウ素化造影剤を必要とする処置の間、患者を腎臓損傷から保護するために使用されてきた。
【0033】
注入コントローラ16内のコンピュータ制御システム40は、所望の負の体液バランス、及び/又は尿産生の量又は速度、及び/又は尿産生と水和液の量との差の所望の量又は速度に関する入力を受け取る。負の体液バランスは、質量又は流量に関して、患者に注入する水和液22の量が、尿34の排出量よりも少ないことを意味する。体液バランスは、30分毎や1時間毎や数時間毎のように繰り返し測定すればよい。治療期間中、患者に注入される水和液の量は、高い尿産生の流れを開始させるために、最初は尿産生量よりも多くてもよい。尿産生流量が所定の高い閾値量に達した後など、治療期間の後半では、水和液の注入量を低下させてもよい。水和液の量を低下させた後も、高い尿産生流量が続くと予想される。
【0034】
コンピュータ制御システム40は、プログラム命令、患者体液管理システム10の設定、及びコンピュータ制御システム40から収集又は計算されたデータを格納するように構成された非一時メモリ、及びプロセッサを含んでいてもよい。データは、尿産生量又は尿産生速度、患者に注入された輸液の量及び注入速度、利尿剤の注入量及び注入速度、輸液の注入中の様々な時間における患者の体重、及び患者体液管理システム10で患者を治療する時間を含んでいてもよい。コンピュータ制御システム40は、キーパッドなどのユーザ入力装置44を有するコンソール42、及びコンピュータディスプレイなどのユーザ出力装置46を含んでいてもよい。
【0035】
入力装置44は、所望の体液バランスレベル、所望の尿産生レベル、及び注入バランスレベル又は尿産生レベルの計画された持続時間など、治療セッションの特定のパラメータを入力するために使用されてもよい。別の入力は、輸液源20以外の手段を介して患者が受けた治療セッション中の輸液の量であってもよい。例えば、入力装置44は、利尿剤15を患者に注入するために使用される生理食塩水で満たされたバッグに含まれる輸液の量を示す入力を受けるように構成されてもよい。
【0036】
図2は、治療セッションの期間にわたる例示的な尿流量50及び水和液52の流量のタイムラインを示すグラフである。初期期間54の間、利尿剤が患者に注入され、水和液の注入がない場合がある。この初期期間の間、尿流量は低いため、水和液22を患者に注入することが決定される。水和液22は、最初に高い流量56で注入される。利尿剤及び水和液の注入に応答して、尿産生量は、比較的高い流量58で増加するはずである。尿産生量が許容可能な高い流量62に達すると、体液監視システムは、水和液の流量を、より低い流量60又は0まで低下させてもよい。水和液の流量の低下後も、高い尿産生量が維持されることが予想される。患者の身体が正味の体液喪失を発生させるので、高い尿産生量は継続すべきである。
【0037】
図3は、ADHFを患っている患者が利尿剤を受け入れ、体液レベルが監視される治療セッションの例示的なフローチャートを示す。ステップ100において、患者は、ADHF又は他の体液過剰状態を患っていると診断される。患者は静脈ラインなどにより、利尿剤を用いて治療される。患者は、24時間のような一定の期間、体液監視システムに接続されずに、利尿剤で治療されてもよい。この間、患者の尿産生は体液レベルを減少させるので、ADHFの症状の一部を軽減する。患者を体液制御システムに接続する前の利尿剤による治療は任意である。
【0038】
ステップ102において、患者は、レナルガード(RenalGuard)システムなどの体液監視システムに接続される。患者を接続する際には、尿を採取して測定するように、フォーリーカテーテルを患者に取り付ける。同様に、供給源、例えば生理食塩水充填バッグを、静脈ラインを用いて患者に接続してもよい。ステップ104では、所望の正味尿産生量、セッションの期間、所望の正味体積除去量(注入される輸液と尿産生量との差)、及び、最小尿産生量又は速度のうちの一つ以上などの設定が、体液監視システムに入力される。例えば、期間は、12時間、18時間、24時間、30時間、又は、医師や他の医療提供者によって設定された他のいくつかの期間であってもよい。システムはまた、尿産生量又は正味体積除去量を、一定の最大又は最小閾値、例えば100ミリリットル/時(ml/hr)以下及び少なくとも50ml/hrの正味体液喪失に制限するように設定されてもよい。同様に、システムは、少なくとも30ml/hrのような最小尿産生量を検出するように設定されてもよい。
【0039】
ステップ106において、体液制御システムは、患者の尿産生量を監視する。尿産生量は、治療セッション全体において監視される。尿産生量の監視は、尿産生量及び正味体液喪失量を判定するために、経時的に尿産生を測定することを含んでもよい。正味体液喪失は、尿産生量と患者に注入された輸液量との差に基づいて判定される。コンピュータ制御システム40は、治療セッション中に尿産生量を繰り返し自動的に計算してもよい。尿産生量がわかると、コンピュータ制御システムは、注入される水和液の流量を決定したり、水和液の流量を増加させるか減少させるかを決定したりすることができる。
【0040】
ステップ108において、コンピュータ制御システム40は、尿産生量が低過ぎるか否かを判定する。この判定は、治療セッション中、例えば15分毎、30分毎、1時間毎、又は数時間毎に繰り返し行ってもよい。尿産生量が低過ぎるという判定は、現在の尿産生速度又は量と、尿産生のより低い閾値速度又は量との比較に基づいてもよい。より低い閾値量は、患者の腎臓が十分に尿を産生している最小尿産生量であってもよい。この最低尿産生量を下回る尿産生量は、利尿剤及び水和液を投与しても、患者が十分な尿を産生できないことを示す。
【0041】
ステップ110において、体液管理システムは、ステップ108での尿産生量が低過ぎるという判定に応答して、水和液の注入を自動的に停止する。ステップ112において、体液管理システムは、患者が十分な尿を産生していないこと及び/又は水和液の注入が停止したことを示す、ノイズ又は表示画像又は英数字などのアラート(警告)を生成する。医師は、体液過剰状態を治療するために、限外ろ過などの他の治療法を用いずに、患者を治療することによって、アラートに応答すればよい。
【0042】
尿産生量がステップ108で適用された閾値を超える場合、体液管理システムは、ステップ114で、水和液が患者に送り込まれる流量を制御する。コンピュータ制御システム40は、患者に高い流量にて尿を産生させることを意図した水和液を送り出すためのプログラムを実行してもよい。例えば、プログラムは、水和液注入の初期期間中に、
図2に示すような高い流量の水和液を命令し、尿産生流量が所望の閾値量62に達した後に、水和液の流量を徐々に又は迅速に減少させてもよい。ポンプ速度は、高い尿産生流量を促進するために、10ml/hrのような公称流量に設定され、尿流量が閾値量62に達した後に、その流量から減少させてもよい。また、水和液のポンプ速度は、尿産生速度又は量に基づいて自動的に調整されてもよい。例えば、尿産生流量が高閾値尿流量62を下回ると、ポンプ速度は自動的に増加してもよい。
【0043】
水和液のポンプ速度は、負の全体液流量の所望の正味流量を達成するために自動的に決定されてもよい。例えば、注入された水和液の正味流量及び尿産生流量が、100ml/時の所望の正味の負の体液減少流量又はそれに近い場合、水和液のポンプ速度は一定であってよい。正味の負の流量がより低い閾値流量を下回る場合は(ただしステップ108の流量を超える)、水和液の流量を低下させてもよい。より低い閾値流量は、所望の正味の負の体液減少量の90%、80%、75%又は何らかの他のパーセンテージであってもよい。同様に、正味の負の流量が、過剰に高い尿産生流量を示す上限閾値量を超える場合には、水和液のポンプ速度を増加させてもよい。
【0044】
ステップ116において、体液管理システムは、水和液の注入を停止することによって、治療セッションを終了する。治療セッションは、医師からの手動入力に基づいて、又は体液管理システムによって自動的に決定された期間の満了に基づいて、又は体液管理システムによって自動的に決定された所望の正味の負の体液バランス量の達成に基づいて、終了されるのがよい。
【0045】
図4は、ステップ114における水和液の注入を制御する代替技術を示すフローチャートである。
図4は、中心静脈圧(CVP)の測定又は推定を示す。CVPは血管内液量の指標であり、治療セッション中の水和液注入の正味の負の流量及び尿産生量の設定を決定するために使用することができる。CVPの推定値又は測定値を提供するために、患者の1つ以上のパラメータを監視又は測定してもよい。
【0046】
ステップ200において、ADHF又は他の体液負荷状態と診断された患者は、利尿剤で治療され、体液管理システム10に接続されて、水和液を受け取る。ステップ202において、コンピュータ制御システム40は、負の100ml/時のような初期の負の体液バランス量を確立するように設定される。この負の流量は、患者に注入された水和液と患者によって産生された尿との重量又は速度の比較に基づいて、体液管理システムによって測定されてもよい。負の流量は、産生された尿と注入された水和液との速度又は量との差であってもよい。体液管理システムは、現在の尿産生量又は速度を決定し、水和液のポンプ速度を調整して、所望の負の流量を達成する。
【0047】
ステップ204において、体液管理システムは、例えば治療セッション中に15分毎など定期的に、CVPを判定してもよい。ステップ206におけるCVPの判定は、圧力センサに接続された中心静脈カテーテルを用いて測定されてもよく、又は、体組成計(BCM:Body Composition Monitor)を用いて、心拍数及び血圧、尿産生量、尿中の化学物質などの他のパラメータから推定されてもよい。
【0048】
ステップ206で判定されたCVP値を用いて、体液管理システムは、ステップ208で、CVPが所定の範囲内にあるか否かを判定する。CVPがその範囲内にある場合、体液管理システムは、ステップ210で以前に設定されたのと同じ流量で正味の負の流量を自動的に維持し続けてもよい。正味の負の流量は、最初に設定されたマイナス(-)100ml/時、又はシステムによって設定された別の流量であってもよい。
【0049】
ステップ212において、CVPが範囲を下回る場合、体液管理システムは、ステップ214において正味の負の流量を減少させる。正味の負の流量を減少させることにより、体液管理システムは、ポンプ速度が尿産生流量に近づくように、水和液のポンプ速度を自動的に増加させるようにしてもよい。ステップ216において、CVPが範囲を超える場合、体液管理システムは、ポンプ速度が尿産生流量からさらに離れるように、例えば水和液のポンプ速度を減少させることで、ステップ218において正味の負の流量を増加させる。214及び218における正味の負の流量の変化は、例えば50ml/時のステップ変化であってもよい。
【0050】
ステップ220において、体液管理システムは、CVPを示すデータと、正味の負の流量が維持されたか、増加したか、又は減少したかを示すデータを記録する。さらに、体液管理システムは、ステップ204に戻り、ステップ206でCVPを再度確認する前に、15分などの一定期間待機する。ステップ204から220は、治療セッションの終了まで、又は体液管理システムがステップ108で尿産生流量が低過ぎると判定するまで、各期間ごとに実行される。
【0051】
図5は、例示的な治療レジメンを伴うフローチャートである。患者は、点滴用の輸液を供給するための静脈ライン及び尿を収集するためのフォーリーカテーテルによって、体液管理システムに接続される。患者に投与される利尿剤の用量は、ガイドラインで推奨されている最高用量レベル、又は患者が安全に許容し得る限り高い尿産生流量をもたらすことを意図した用量レベルなど、比較的高い用量であってもよい。ステップ302において、医師は正味体積除去量の目標を決定する。
【0052】
正味の体積流量は、輸液の注入流量と尿産生流量との差である。正味の体積流量の目標は、所望の目標を達成するために注入輸液のポンプ速度を制御し得る体液管理システムに入力されてもよい。
【0053】
ステップ304において、治療は、利尿剤の用量を患者に与えることによって開始され、体液管理システムのコントローラによって決定される流量で輸液を患者に注入すること、例えば滴下することを含んでいてもよい。利尿剤の用量は比較的高くてもよい。ステップ306において、コントローラは、例えば10分毎のように定期的に、ある期間中の尿産生の重量又は他の尿流量測定に基づいて、尿産生流量を判定する。ステップ308において、コントローラは、正味体積除去量の目標を達成するために必要な流量を実質的に上回るレベル、例えば20%を超えるレベルで、尿流量が、例えば1つ以上の10分の期間にわたって、一貫して維持されるかどうかを判定する。尿流量が十分であるかどうかの判定は、輸液の注入流量と尿産生流量との差としてコントローラによって決定される。
【0054】
尿産生流量が、正味体積除去量の目標を満たすのに十分な流量を一貫して実質的に上回る場合、目標は、ステップ310において自動的に又は手動で増加されてもよい。尿産生流量が、目標を達成するのに必要な流量を実質的に上回っていない場合、コントローラは、ステップ312において、尿産生流量が、正味体積除去量(またはいくつかの他の最小正味体液喪失量)を達成するのに必要な流量よりも少なくとも大きいかどうかを判定する。尿産生流量が、所望の正味体積除去量を達成するのに必要な流量よりも大きい場合、設定は変更されない。また、測定値の記録が行われ(ステップ314)、コントローラは、ステップ306で尿流量を再確認するのを待つ。
【0055】
尿流量が所望の正味体積除去量を達成するのに必要な流量よりも低ければ(ステップ312)、コントローラは、ステップ316において、利尿剤の用量を増加させること、及び/又はポンプ速度を増加させて患者に流れる輸液の注入流量を増加させることを、医師に提案するプロンプトを自動的に発行してもよい。コントローラは、測定値を記録し(ステップ314)、10分ごとに尿流量を再確認し、ステップ318において、24時間などの処置セッションが完了するまで、ステップ(306から316)を繰り返す。
【0056】
図6は、追加のステップを除いて、
図5に示されるものと同様の例示的な治療レジメンのフローチャートである。
図5のステップと同様の
図6のステップには、同じ参照番号が付されている。
【0057】
ステップ320において、臨床的及び生理学的パラメータなどの患者のパラメータは、コントローラによって、別の装置によって又は医療提供者によって自動的にチェックされる。このチェックは、尿流量が所望の正味体液喪失量よりも小さい場合に行われる。パラメータがパラメータの許容範囲内にあるか、又は許容範囲外にあるかが判定される。もし許容範囲外であれば、患者の血管内容量を増加させる必要がある。したがって、ステップ322において、輸液の注入量を増加させるか、又は血管内容量を増加させるために患者の血漿補充率(PRR:Plasma Refilling Rate)を待つかが決定される。患者のパラメータは、患者のCVPレベルを示すものであってもよい。
【0058】
患者のパラメータが許容可能な範囲内にある場合、コントローラは、ステップ316で患者に与えられる利尿剤用量を増加させてもよい。患者のパラメータが許容可能な範囲内にあるかどうかをチェックすることによって、コントローラは、まず、患者の血管内容量が、適切な腎臓灌流を提供し、必要な体液を他の身体器官に供給するのに十分な体液レベルにあるかどうかを判定することができる。
【0059】
患者の測定又は推定されたパラメータは、患者が治療を経て進行するにつれて治療レジームを修正し、体液体積における所望の正味除去量に到達するのに必要な期間を短縮するのに有用であり得る。
【0060】
例えば、治療の開始時に、患者は、望ましくない臨床的及び生理学的結果をもたらす可能性のある過剰な血管内容量の枯渇を防止する時間枠内に、血管内空間と、血管内空間に移動することができる血管外空間において、かなりの量の過剰な容量を有していた可能性がある。このようなかなりの量の過剰容量の観点から、レジームは、最初の4時間のような治療の経過の初期において高い所望の正味体積除去量を有してもよく、治療の後の部分の間において低い所望の正味体積除去量を有してもよい。従って、比較的高い所望の正味体積除去量を治療セッションの開始時に設定してもよく、この量は、患者内の体液レベルが全体液除去の目標に達すると、セッションの間に、例えば直線的に徐々に低下される。セッションの終わりに向かって、正味の体積除去量は、血管内容積が臨床的及び/又は生理学的に許容可能なレベルに維持される流量まで低下してもよい。
【0061】
さらに、患者は、尿量が過剰であったり、高過ぎる尿流量であったりすることがある。尿量や尿流量が高過ぎると判定された場合は、輸液の注入を一時的に中止又は遅くしたり、利尿剤の用量を減らしたりすることで、尿産生流量を遅くしてもよい。例えば、コントローラは、尿産生流量が尿産生の上限閾値を超える場合、注入速度を徐々に遅くしてもよい。
【0062】
ADHFで入院した9人の患者の試験では、利尿剤と、尿産生量に基づいて水和液が注入される上記輸液治療との組み合わせの使用により、全員がより大量の体液減少を経験した。各患者は、最初に利尿剤(フロセミド)で24時間治療された。この初期治療の直後、各患者は、体液管理システムに接続され、さらに24時間利尿剤の投与を受け続けた。各患者は、退院時に呼吸困難の有意な改善を報告した。体液管理システムの使用の有無にかかわらず、利尿に関連する有害事象はなかった。体液管理システムを用いた場合と用いなかった場合の利尿効果の概要を以下の表Aに示す。
【0063】
【0064】
利尿剤の総投与量は、体液管理システムの使用の有無で有意差はなかったが、体液管理システムの使用は尿量の2倍半(2.5倍)の増加を含む治療効果の有意な改善をもたらした。患者は、退院時の体重が85±29kgから79±23kgへと著しく減少した。ベースラインと比較した試験後30日での推算糸球体濾過量(eGFR:estimated glomerular filtration rate)の平均変化は、患者3人(33%)が25%以上増加して、8%(+42%から-22%の範囲)の平均増加を示し、本治療の長期的な影響の可能性を高めた。eGFRは腎臓の健康の指標である。
【0065】
本発明の特定の特徴は、いくつかの図面に示されており、他の図面には示されていないが、これは、本発明に応じて、各特徴が他の特徴のいずれか又は全てと組み合わされ得るという便宜のためだけのものである。例えば、患者の尿産生量を判定する他の方法、及び患者に投与された水和液の量を定量化する他の方法がある。患者に投与された水和液の量を重複して確認する方法もある。また、ここで使用される「含む」、「構成する」、「有する」及び「備える」という語は、広く包括的に解釈されるべきものであり、いかなる物理的相互接続にも限定されない。さらに、本願に開示された任意の実施形態は、唯一の可能な実施形態としてとられるべきものではない。他の実施形態は、当業者に考えられ、以下の請求項の範囲内にある。
【符号の説明】
【0066】
10 患者体液管理システム
12 尿収集システム
14 水和液注入システム
15 利尿剤
16 注入コントローラ
22 水和液
34 尿
40 コンピュータ制御システム
P 患者
【手続補正書】
【提出日】2024-05-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性非代償性心不全(ADHF)、心不全又は他の体液過剰状態を有する患者を治療するための患者体液管理システムであって、
患者(P)の尿産生を増加させるように利尿剤(15)を前記患者(P)に投与する手段と、
前記患者(P)による尿産生の速度又は量を監視する手段(12)と、
前記患者(P)に水和液を注入する手段(14)と、
前記患者内の目標の体液喪失を達成するように、尿産生(34)の実際の速度又は量に基づいて、前記患者(P)に注入される前記水和液(22)の速度又は量を調節するサブシステム(16)と、を有し、
前記サブシステム(16)は、
前記患者(P)による尿産生(12)の前記実際の速度又は量を評価し、
まず、尿産生の増加を誘発すべく前記水和液(22)を注入し、この後、前記患者内の前記目標の体液喪失を達成すべく前記水和液(22)の速度又は量を調整するように、前記水和液を注入する手段(14)を制御する、
ように構成されたコンピュータ制御システム(4)を有する、
ことを特徴とする患者体液管理システム。