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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092074
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】塩化ビニル系プラスチゾル組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20240701BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20240701BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
C08L27/06
C08L33/14
C08L77/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207736
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000100780
【氏名又は名称】アイシン化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000615
【氏名又は名称】弁理士法人Vesta国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 陽星
(72)【発明者】
【氏名】三原 聡
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BD03W
4J002BD08W
4J002BG07X
4J002CL00Y
4J002EH146
4J002FD010
4J002FD026
4J002FD090
4J002FD340
4J002GJ02
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】低温の焼付け乾燥であっても硬化性と接着性を発現できること。
【解決手段】塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、塩化ビニル系樹脂と、アクリル樹脂と、ポリアミドと、可塑剤とを含有した塩化ビニル系プラスチゾル組成物であって、アクリル樹脂は、分子内に1以上の官能の水酸基を含有した液状アクリル樹脂である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂と、アクリル樹脂と、ポリアミド、可塑剤とを含有した塩化ビニル系プラスチゾル組成物であって、
前記アクリル樹脂は、分子内に1以上の官能の水酸基を含有した液状アクリル樹脂であることを特徴とする塩化ビニル系プラスチゾル組成物。
【請求項2】
前記塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニルー酢酸ビニル共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の塩化ビニル系プラスチゾル組成物。
【請求項3】
前記塩化ビニル系樹脂は、酢酸ビニル基含有量が5質量%以上、15質量%以下の範囲内のものであることを特徴とする請求項2に記載の塩化ビニル系プラスチゾル組成物。
【請求項4】
前記液状アクリル樹脂は、重量平均分子量が500以上、5000以下の範囲内のものであることを特徴とする請求項1に記載の塩化ビニル系プラスチゾル組成物。
【請求項5】
前記液状アクリル樹脂は、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、5質量部以上、60質量部以下の範囲内の配合であることを特徴とする請求項1に記載の塩化ビニル系プラスチゾル組成物。
【請求項6】
前記ポリアミドは、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、1質量部以上、20質量部以下の範囲内の配合であることを特徴とする請求項1に記載の塩化ビニル系プラスチゾル組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車等の車両の層間耐チッピング用、アンダーボディコート用、ボディーシーラ用の塗料に好適な塩化ビニル系プラスチゾル組成物に関するもので、特に、低温の焼付け乾燥であっても硬化性と接着性を発現できる塩化ビニル系プラスチゾル組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体の下側構造部、例えば、床裏部、ホイルハウス(タイヤハウス)部、ロッカーパネル部(サイドシル部)、フロントエプロン部、フロント・リアフェンダ部、ドアの下部、ガソリンタンクの底面部等においては、自動車走行時にタイヤが撥ね上げる小石や砂利等が衝突することによって、塗膜が傷付いたり剥がされたりするというチッピング現象が発生する。そこで、そのような部位には、石や砂跳ね等による塗膜の剥離や傷付きを防止して車体を保護する耐チッピング、防錆、防音等の目的で、耐チッピング塗料やアンダーコート等のコーティング塗装が施されている。
また、自動車の車体は鋼板の接合、組立により構成されるが、車体を構成する鋼板の接合部、継目部、エッジ部等では、水密、気密、防水、防錆、防塵の目的で、シーリング用塗料(ボディーシーラ、シーラント)が施工(充填、塗布)されている。
【0003】
従来、この種の耐チッピング用、アンダーコート用、シーリング用の塗料としては、ポリ塩化ビニル系樹脂を可塑剤によってゾル化したポリ塩化ビニル系プラスチゾルが使用されてきた。この塩化ビニル系プラスチゾルは、車体への塗装後に焼き付け乾燥されることで硬化した塗膜となる。
【0004】
ところで、近年、環境保全意識の向上に伴い環境負荷を抑制する目的から、自動車の生産現場である自動車工場においても、二酸化炭素排出の削減や省エネルギ化対策が進められている。その一環として、自動車に使用される塗料の塗装工程における焼付け乾燥炉のエネルギ消費により発生する二酸化炭素排出の削減が要求されており、省エネ化及び二酸化炭素排出の削減を実現するために焼付け乾燥炉の低温化や乾燥時間の短縮、即ち、塗装後の焼付け乾燥における加熱乾燥の負荷削減が求められている。しかしながら、従来の塩化ビニル系プラスチゾルでは、高温焼き付けを前提とした配合材料の選択であったことから、低温の焼付け乾燥条件では、硬化性や塗膜強度といった塗膜物性及び接着性が発現できないものとなっている。
【0005】
そこで、低温硬化型プラスチゾル組成物として、熱可塑性樹脂、可塑剤、密着剤を含むプラスチゾル組成物であって、熱可塑性樹脂は、7~12質量%の割合で酢酸ビニルが共重合した塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を含むプラスチゾル組成物が特許文献1に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-011525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、特許文献1においては、その実施例では、熱可塑性樹脂として、ペースト状の塩化ビニル系樹脂と粉末樹脂のアクリル樹脂(ポリマー粒子)の配合を開示し、密着剤として芳香族系のイソシアネートを採用している。このため、中上塗装後に黄変してしまう問題がある。一方で、芳香族系のイソシアネート以外の密着剤、例えば、ポリアミドを採用した場合は、ポリアミドが粉末状のアクリル樹脂と反応してしまうことで、接着性が発現されなくなる問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、低温の焼付け乾燥であっても硬化性と接着性を発現できる塩化プラスチゾル組成物の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明の塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、塩化ビニル系樹脂と、アクリル樹脂と、ポリアミドと、可塑剤とを含有した塩化ビニル系プラスチゾル組成物であって、前記アクリル樹脂は、分子内に1以上の官能の水酸基を含有した液状アクリル樹脂であるものである。
【0010】
上記塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニルの単独重合体や塩化ビニルの共重合体、即ち、塩化ビニルと他のビニル系単量体との共重合体が使用され、好ましくは、塩化ビニルと酢酸ビニルとの共重合体樹脂が使用される。
【0011】
上記液状アクリル樹脂は、分子内、好ましくは、分子末端に1または2以上の官能の水酸基を有し、好ましくは、重量平均分子量が500以上、5000以下、より好ましくは、800以上、4000以下、更に好ましくは、1000以上、3500以下の低分子量体である。
【0012】
上記ポリアミドとしては、分子内に反応性の一級アミン及び二級アミンを有するポリアミドアミンが好適に使用される。
上記可塑剤としては、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸-2-エチルヘキシル等のフタル酸エステル等が好適に使用される。
【0013】
請求項2の発明の塩化ビニル系プラスチゾル組成物の前記塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニルー酢酸ビニル共重合体であるものである。
【0014】
請求項3の発明の塩化ビニル系プラスチゾル組成物の前記塩化ビニル系樹脂の酢酸ビニル基含有量は、好ましくは、5質量%以上、15質量%以下、より好ましくは、6質量%以上、12質量%以下、更に好ましくは、7質量%以上、10質量%以下の範囲内のものである。
【0015】
請求項4の発明の塩化ビニル系プラスチゾル組成物の前記液状アクリル樹脂は、好ましくは、重量平均分子量が500以上、5000以下、より好ましくは、800以上、4000以下、更に好ましくは、1000以上、3500以下の範囲内のものである。
【0016】
請求項5の発明の塩化ビニル系プラスチゾル組成物の前記液状アクリル樹脂は、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、好ましくは、5質量部以上、60質量部以下、より好ましくは、10質量部以上、55質量部以下、更に好ましくは、12質量部以上、50質量部以下の範囲内の配合であるものである。
【0017】
請求項6の発明の塩化ビニル系プラスチゾル組成物の前記ポリアミドは、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、好ましくは、1質量部以上、20質量部以下、より好ましくは、2質量部以上、15質量部以下、更に好ましくは、3質量部以上、8質量部以下の範囲内の配合であるものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、塩化ビニル系樹脂と、アクリル樹脂と、ポリアミドと、可塑剤とを含有するものであり、熱可塑性樹脂として塩化ビニル系樹脂と分子内に1以上の官能の水酸基を含有した液状アクリル樹脂との組み合わせにより、低温の焼き付け乾燥条件でも硬化性が発現され、塗膜強度等の塗膜物性を確保できる。また、分子内に1以上の官能の水酸基を含有した液状アクリル樹脂であれば、密着性付与剤としてのポリアミドと反応することなく、低温の焼き付け乾燥条件でもポリアミドによる接着性が発現されることにより、接着性を確保できる。
【0019】
請求項2の発明に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、前記塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニルー酢酸ビニル共重合体であるから、請求項1に記載の効果に加えて、より低温での硬化性に優れる。
【0020】
請求項3の発明に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、前記塩化ビニル系樹脂は、酢酸ビニル基含有量が5質量%以上、15質量%以下の範囲内であるから、低温溶融性に優れ、請求項2に記載の効果に加えて、塗膜の強靭性を向上できる。
【0021】
請求項4の発明に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、前記液状アクリル樹脂は、重量平均分子量が500以上、5000以下の範囲内であるから、請求項1に記載の効果に加えて、塗布性を損なうことなく、塗膜を強靭化できる。
【0022】
請求項5の発明に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、前記液状アクリル樹脂は、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、5質量部以上、60質量部以下の範囲内の配合であるから、請求項1に記載の効果に加えて、塗布性を損なうことなく、低温の焼付け乾燥で塗膜強度を高くできる。
【0023】
請求項6の発明に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、前記ポリアミドは、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、1質量部以上、20質量部以下の範囲内の配合であるから、請求項1に記載の効果に加えて、塗布性を損なうことなく、塗膜の接着性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の実施の形態に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、少なくとも、塩化ビニル系樹脂、液状アクリル樹脂、可塑剤、及び密着性付与剤(接着性付与剤)としてのポリアミドを含むものである。
【0025】
塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルの単独重合体や塩化ビニルと他のビニル系単量体との共重合体が用いられる。金属等の被塗布物(基材)に対する接着性や密着性、低温硬化性、耐チッピング性を高める強度、伸び率の観点からすれば、共重合体の含有が好ましく、塩化ビニルと共重合させるビニル系単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等のビニルエステル類、ビニルメチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル類、ジエチルマレエート等のマレイン酸エステル類、ジブチルフマレート等のフマル酸エステル類、メチルアクリレート、エチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート等のアクリル酸またはメタクリル酸アルキルエステル類、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート等のアクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシアルキルエステル類、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド、N-ジヒドロキシエチルメタクリルアミド等のアクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシアルキルアミド類、アクリロニトリル、塩化ビニリデン等がある。塩化ビニルは-CH2ROH基をもつ架橋性コポリマーとすることもできる。
【0026】
これらの中でも、塩化ビニルと共重合させる単量体としては、低温硬化性、耐チッピング性を高める強度、伸び率、可塑剤に対する膨潤ゲル化性、金属等の被塗布物への接着性、密着性等の観点から、酢酸ビニルが好適である。更に、この共重合させる酢酸ビニルの割合は、好ましくは、5質量%以上、より好ましくは、6質量%以上、更に好ましくは、7質量%以上であれば、低温の焼き付け乾燥条件でも、液状アクリル樹脂との組み合わせで高い伸び率、強靭性、機械的強度の塗膜を得ることができる。また、共重合させる酢酸ビニルの割合は、好ましくは、15質量%以下、より好ましくは、12質量%以下、更に好ましくは、10質量%以下であれば、低温でも可塑剤の吸収性(低温溶融性、膨潤ゲル化性)や水酸基を有する液状アクリル樹脂との相溶性が良好であることにより、高い伸び率や強靭性や機械的強度の塗膜を得ることができる。平均重合度からすれば1300~3000が好ましく、より好ましくは、1500~2500である。当該範囲内であれば、低温硬化でも強靭な塗膜を形成できる。
【0027】
なお、塩化ビニル系樹脂は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を適宜組み合わせて使用することも可能であり、また、例えば、乳化重合または懸濁重合によって得られたものを使用してもよい。組成物への添加、配合には微粉末状のものを使用しても良いし、顆粒状のものであってもよい。なお、組成物中において、塩化ビニル系樹脂は粒状等の形態で分散されていてもよいし、有機系溶剤が含まれる場合にはそれに溶解されている場合もある。
【0028】
このような塩化ビニル系樹脂は、所望の塗膜特性等に応じた配合量に設定されるが、塗料組成物中の塩化ビニル系樹脂の含有量が少なすぎる場合、塗膜の強靭性、機械的強度、耐ピッチング性、接着性等が低下したり、液状アクリル樹脂の配合が相対的に増えることにより高コストになったりする一方で、含有量が多すぎる場合には、組成物の好適な構造粘性、チキソ性(チキソトロピー)が得られず、組成物の貯蔵安定性や、塗布作業性、塗布性等に劣るものとなる。塩化ビニル系樹脂は、組成物中に固形分換算で5~50質量%の範囲内の含有が好ましく、より好ましくは、10~45質量%の範囲内、更に好ましくは、15~40質量%、特に好ましくは、18~35質量%の範囲内である。それらの範囲内であれば、組成物の貯蔵安定性、塗布作業性、塗布性が良好で、また、接着性、強度、耐ピッチング性等の塗膜性能が良好となる。
【0029】
塩化ビニル系樹脂は、分散性、粘度特性等の観点から、その一次粒子径が中位径(平均粒子径)で、0.1~10μmの範囲内にあるものが好ましい。このような粒子サイズのものは、非多孔質のものとなるから、チキソトロピー効果に優れ、良好な塗布性と、粘度の経時変化が少ない良好な貯蔵安定性が得られる。より好ましくは、0.1~5μm、更に好ましくは、0.1~2μmの範囲内である。
【0030】
液状アクリル樹脂は、分子内に1または2以上の官能の水酸基を含有するものであり、好ましくは、分子末端に1または2以上の官能の水酸基を含有するものであり、水酸基を有するモノマーの共重合のものであってもよい。特に好ましくは、水酸基の数が1つで、片末端のみに1つの水酸基を有するものである。
液状アクリル樹脂は、その重量平均分子量が、好ましくは、500以上、5000以下、より好ましくは、800以上、4000以下、更に好ましくは、1000以上、3500以下のものであり、当該範囲内であれば、塩化ビニル系樹脂との相溶性もよく、高い可塑性が得られ、塗布性を損なうことなく、塗膜を強靭化できる。
【0031】
そして、液状アクリル樹脂は、好ましくは、塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、5質量部以上、60質量部以下、より好ましくは、10質量部以上、55質量部以下、更に好ましくは、12質量部以上、50質量部以下の範囲内で配合される。当該範囲内であれば、塗布性を損なうことなく、低温の焼き付け乾燥でも、塗膜強度を高くできる。
【0032】
こうした分子内に1または2以上の官能の水酸基を有する液状アクリル樹脂と塩化ビニル系樹脂と併用により、低温の焼き付け乾燥条件でも、高強度、高伸度の塗膜物性を得ることができ、また、ポリアミドを配合しても、それと反応し難いことで、接着性も担保できる。これは、液状アクリル樹脂が塩化ビニル系樹脂間に可塑剤のように配向し、また、液状アクリル樹脂の水酸基の存在によって、ポリアミドとの反応が阻害されるためと推測される。
【0033】
可塑剤としては、基本的には、この種の塩化ビニル系プラスチゾル組成物を形成するために一般に使用されている任意のものを使用することができ、例えば、フタル酸、トリメット酸、アジピン酸等の酸とオクタノール、ノナノール、高級混合アルコール等のアルコールとから合成される化合物(エステル)が使用される。具体的には、ジブチルフタレート(DBP)、ジヘキシルフタレート(DHP)、ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジ-n-オクチルフタレート(DnOP)、ジイソオクチルフタレート(DIOP)、ジデシルフタレート(DDP)、ジノニルフタレート(DNP)、ジイソノニルフタレート(DINP)、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ビス-2-エチルヘキシルフタレート(DEHP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)、C6~C10混合高級アルコールフタレート、ブチルベンジルフタレート(BBP)、オクチルベンジルフタレート、ノニルベンジルフタレート、ジメチルシクロヘキシルフタレート(DMCHP)等のフタル酸エステル系や、ジ-2-エチルヘキシルアジペート(DOA)、ジオクチルアゼレート(DOZ)、ジオクチルセバケート(DOS)等の直鎖二塩基酸エステル類や、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリオクチルホスフェート(TOF)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、モノオクチルジフェニルホスフェート、モノブチル-ジキシレニルホスフェート(B-Z-X)等のリン酸エステル系や、トリオクチルトリメリテート(TOTM)、トリ-n-オクチルトリメリテート、トリイソデシルトリメリテート、トリイソオクチルトリメリテート等の安息香酸エステル系や、ブチルフタルブチルグリコレート(BPBG)、トリブチル・クエン酸エステル、トリオクチル・アセチルクエン酸エステル、トリメット酸エステル、クエン酸エステル、セバシン酸エステル、アゼライン酸エステル、マレイン酸エステルC6~C10脂肪酸のトリ又はテトラエチレングリコールエステル、アルキルスルホン酸エステル、メチルアセチルリシノレート等のエステル類や、大豆油等の不飽和脂肪酸グリセライドの二重結合を過酸化水素や過酢酸でエポキシ化したもの(ESBO)、ブチルまたはオクチルのアルキルオレイン酸エステル等のエポキシ化合物等のエポキシ化植物油、アジピン酸のような二塩基酸のプロピレングリコールエステル単位を直鎖状に連結した平均分子量500~8000程度の粘稠な低重合度ポリエステル系(例えば、アジピン酸ポリエステル、フタル酸系ポリエステル)、メザモール(登録商標)等のアルキルスルホン酸系等を使用できる。これらの1種を単独使用しても良いし、2種以上を適宜組み合わせて使用することも可能である。
【0034】
中でも、常温で液状の物質が望ましく、フタル酸エステルは最も一般的な可塑剤で入手も容易で安価であり、また、塩化ビニル系樹脂の均一な分散を可能とし、安定した塩化ビニル系プラスチゾル組成物を形成することができる。環境負荷とならない点、取扱い易さ、溶解性、塗布性、貯蔵安定性等の観点からすると、フタル酸エステルの中でも、可塑化効率、加工性、低温溶解性(ゲル化溶融性)に優れるフタル酸ジイソノニル(DINP)または耐熱性や粘度安定性に優れるジオクチルフタレート(DOP)がより好適である。
【0035】
このような可塑剤は、プラスチゾル組成物の所望とする粘度特性、硬化性、塗膜強度等に応じて適宜選択され、また、その配合量が設定されるが、配合量が少なすぎると、プラスチゾル組成物の貯蔵安定性や塗布作業性が低下したり、塗膜の柔軟性、伸び率が低下したりする。特に、現状の焼付け条件よりも低温短時間で焼付けたときに、強度、耐衝撃性、耐チッピング性等の良好な塗膜性能を発揮できなくなる。一方で、配合量が多すぎても、垂れ等が生じやすくなり、強度、耐衝撃性、耐チッピング性等の良好な塗膜性能を発揮できなくなる。
このため、可塑剤の配合量は、塩化ビニル系樹脂(固形分)を100質量部に対し、好ましくは、40~400質量部、より好ましくは、80~250質量部、更に好ましくは、90~180質量部の範囲内で配合される。それらの範囲内であれば、良好な塗布作業性を確保でき、かつ、現状の焼付け条件よりも低温短時間で焼付けたときであっても、硬化後の塗膜を軟質にして適度な柔軟性(弾性)が得られ、強度、耐衝撃性、耐チッピング性等の塗膜性能を確保できる。
【0036】
更に、本実施の形態の塩化ビニル系プラスチゾル組成物においては、被塗布物に対する密着性(接着性、付着性)を向上させるために密着性付与剤が配合される。
本実施の形態の密着性付与剤としては、ポリアミドアミン、ポリイミドアミン、ポリアミン等が使用されるが、自動車の耐チッピング用、アンダーコート用等の塗料用途であれば、一般に、電着塗装等による下塗り塗装後に塩化ビニル系プラスチゾル組成物が施されることから、好ましくは、カチオン型電着塗装面に対して優れた接着性を発現するブロックイソシアネート(例えば、キシレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニルジイソシアネート、メチルキシレンジイソシアネート等)と併用される。塗膜の目的によっては、ブロックイソシアネートに限らず、アクリル系、イミン系、他のアミン系、ポリオール等と併用することも可能である。
【0037】
ポリアミドは、エポキシ樹脂等の硬化剤としても一般に使用される活性アミノ基やアミド基を含有するポリアミド化合物であり、一般に、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンまたは芳香族ジアミン等のポリアミン類とダイマー酸等の多塩基酸とを反応させて得られる。このようなポリアミドとしては、代表的には、リノール酸等の不飽和脂肪酸を熱重合したダイマー酸またはトリマー酸等の重合脂肪酸とポリアミンとの反応生成物であるポリアミドアミンが使用される。
こうしたポリアミドによれば、それに含有される活性アミノ基やアミド基がカチオン型電着塗装塗膜の極性基(アミノ基、カルボキシル基、水酸基等)と水素結合して、プラスチゾル組成物から形成される塗膜の密着性、接着性を向上させることができる。
【0038】
ポリアミドは、塩化ビニル系プラスチゾル組成物中に、好ましくは、0.3~2.5質量%、より好ましくは、0.4~2.0質量%、更に好ましくは、0.5~1.8質量%の範囲内で配合される。塩化ビニル系樹脂(固形分)を100質量部に対しては、好ましくは、1~20質量部、より好ましくは、2~15質量部、更に好ましくは、3~8質量部の範囲内で配合される。当該範囲内であれば、塗布性を損なうことなく、塗膜の密着性、接着性を向上できる。
【0039】
ブロックイソシアネートは、比較的低分子のポリイソシアネート成分、好ましくは、分子中にイソシアネート基(-N=C=O)を一般に2または3以上有する化合物を、メチルエチルケトンオキシム(MEKO)等の活性水素を有する化合物であるブロック剤でブロックしたものである。ポリイソシアネート成分としては、ヘキサメチレンジアミン(HDI)等の脂肪族ジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等の芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添TDI、水添MDI等の脂環式ジイソシアネート、または、これらのジイソシアネートのビューレット体、イソシアヌレート体、エチレングリコール、トリメチロールプロパン等の多価アルコールとのアダクト体、或いは、ウレタンプレポリマ等が挙げられる。これらイソシアネート化合物のブロック化剤としては、メチルエチルケトオキシム(MEKO)等のケトオキシム、アセチルアセトン、アセト酢酸エステル等の活性メチレン化合物、ε-カプロラクタム等のラクタム類、或いは、オキシベンゾイックアシッドエステル、アルキルフェノール等を使用することができるが、塩化ビニル系樹脂や可塑剤との相溶性からすればメチルエチルケトオキシムが特に好ましい。
【0040】
中でも、ジイソシアネート化合物(TDI等のジイソシアネート、ポリイソシアネート等)とポリオール(ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリマーポリオール等)とのプレポリマからなり末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマをブロック化剤でブロックしたブロックイソシアネートであるブロックウレタンプレポリマを、一般に最も好適に使用することができる。ブロックウレタンプレポリマであれば、安定性がよく、またカチオン型電着塗装面に対して優れた密着性、接着性を有する。更に、ブロックウレタンプレポリマ等の脂肪族系ブロックイソシアネートであれば、中上塗装後に黄変することもなく、外観性、塗装性能を損なうことはない。
こうしたブロックイソシアネートによれば、加熱焼付け時の温度でブロックイソシアネートのブロック剤が解離され、再生されたイソシアネート成分のイソシアネート基が、カチオン型電着塗装塗膜に残存する活性水素と結合等することによって、その電着塗装面に対し、プラスチゾル組成物から形成される塗膜の密着性、接着性を向上させることができる。
【0041】
カチオン型電着塗装膜との優れた接着性を確保するためにブロックイソシアネートを配合する場合には、塩化ビニル系プラスチゾル組成物中に、好ましくは、0.3~2.5質量%、より好ましくは、0.4~2.0質量%、更に好ましくは、0.5~1.8質量%の範囲内で配合される。塩化ビニル系樹脂(固形分)を100質量部に対しては、好ましくは、1~20質量部、より好ましくは、2~15質量部、更に好ましくは、3~8質量部の範囲内で配合される。当該範囲内であれば、塗布性を損なうことなく、塗膜の密着性、接着性を向上できる。
【0042】
特に、ポリアミドとブロックイソシアネートを併用した場合には、ポリアミドがブロックイソシアネートの解離を促進するからより優れた密着性、接着性を発現させることが可能となる。ポリアミド成分とブロックイソシアネート成分との併用系によれば、加熱焼付時の温度でブロックが解離され、再生されたイソシアネート化合物のイソシアネート基がポリアミドの活性水素(アミノ基)と反応し、重合硬化して密着性、接着性を発現する。そのため、カチオン型の電着塗装面に対して優れた密着性、接着性を示すだけでなく、低温度の焼付条件でも高い密着性、接着性を発現することができる。更に、ポリアミドとブロックイソシアネートは貯蔵安定性も良いものである。好ましくは、ポリアミドアミンとブロックポリウレタンプレポリマの併用により、塗膜の耐水性も向上できる。
活性水素を含有するアミノ化合物成分とブロックイソシアネート成分とを併用する場合には、それらの種類及び当量等に応じて、任意の割合で添加することができる。
【0043】
こうした密着性付与剤は、その全体で、塩化ビニル系プラスチゾル組成物中に、好ましくは、0.5~3質量%、より好ましくは、0.8~2.5質量%、更に好ましくは、1.0~2.0質量%の範囲内で配合される。塩化ビニル系樹脂(固形分)を100質量部に対し、好ましくは、1~30質量部、より好ましくは、3~20質量部、更に好ましくは、5~10質量部の範囲内で配合される。当該範囲内であれば、塗布性を損なうことなく、塗膜の密着性、接着性を向上できる。
【0044】
本発明を実施する場合、車両の耐チッピング用、シーリング用、アンダーコート用に用いられるこの種の塩化ビニル系プラスチゾル組成物では、必要に応じ、即ち、塩化ビニル系プラスチル組成物の塗布目的、用途、所望とする塗膜特性等に応じ、レオロジ制御剤・チキソ(チキソトロピー)剤・垂れ止め剤、水分吸収剤、溶剤等を適宜配合してもよい。
【0045】
被塗布物に塗布した際の垂れ止め性能等の付与のためのレオロジ制御剤・チキソ(チキソトロピー)剤・垂れ止め剤としては、例えば、コロイダル炭酸カルシウム(超微粒子炭酸カルシウム)、微粒子シリカ等が使用される。コロイダル炭酸カルシウムとしては、一般的に平均粒径0.1μm以下の極微細合成炭酸カルシウムまたは極微細沈降炭酸カルシウムが用いられ、基本的には、従来のこの種の塩化ビニル系プラスチゾル組成物に使用されているもの、例えば、立方体形状の沈降性炭酸カルシウム等が使用され、脂肪酸等の表面処理がなされているものが好適である。チキソ性の観点からすると、コロイダル炭酸カルシウムは、例えば、BET比表面積が10~40m2/gの範囲内、より好ましくは、13~30m2/gの範囲内のものが使用される。コロイダル炭酸カルシウムを配合する場合には、塩化ビニル系プラスチゾル組成物中に、好ましくは、1~30質量%、より好ましくは、5~25質量%、更に好ましくは、10~20質量%の範囲内で配合される。塩化ビニル系樹脂100質量部に対しては、好ましくは、10~150質量部、より好ましくは、20~120質量部、更に好ましくは、30~100質量部の範囲内で配合される。
【0046】
コロイダル炭酸カルシウム等のレオロジ制御剤・チキソ剤を添加した場合には、塩化ビニル系プラスチゾル組成物にチキソ性(チキソトロピー性)を付与し、その組成物の低剪断速度下(静止時)での粘度を高くする一方で、高剪断速度下での粘度を低くする。即ち、低剪断速度下(静止状態)では、配合されたコロイダル炭酸カルシウム微粒子がプラスチゾル組成物中で互いに緩く結合(凝集)して三次元構造(微分散コロイド状構造)を形成するため、プラスチゾル組成物の粘度を高くするが、この微粒子間の結合力は弱いため、高剪断速度下では、その高剪断力によって構造の一部また全部が破壊されて流動性が増大し、見掛けの粘度が低下する。よって、塗布作業に適した粘度、流動特性が得られる。即ち、調製や塗装の際に高速での剪断が与えられたプラスチゾル組成物は見かけの粘度が低下して塗布作業に適した粘度で塗布できる一方で、被塗布物に付着した後には、そのチキソ性(時間依存性)によって、構造が回復され、プラスチゾル組成物の粘度が元の高い状態にもどることで、塗布後の垂れを防止することができる。
【0047】
プラスチゾル組成物に吸湿された水分を捕獲し、水分による塗膜の膨れを防止する耐吸湿発泡性向上のための水分吸収剤としては、例えば、水和反応により水と結合する性質を有する酸化カルシム(CaO)や酸化マグネシウム等が好適に使用される。
水分吸収剤を配合する場合には、塩化ビニル系プラスチゾル組成物中に、好ましくは、1~5質量%、より好ましくは、1.5~4.5質量%、更に好ましくは、2~5質量%の範囲内で配合される。塩化ビニル系樹脂100質量部に対しては、好ましくは、5~30質量部、好ましくは、8~20質量部、より好ましくは、10~15質量部の範囲内である。
【0048】
酸化カルシム等の水分吸収剤を添加した場合には、炭酸カルシウム等の充填材や塩化ビニル系樹脂に含まれる残存水分を捕捉して、焼付時の塗膜の発泡を防止することができる。また、プラスチゾル組成物が塗布後に放置された場合等において、吸湿による焼付時の塗膜の発泡を防止することができる。更に、塗料粕中に比較的多く含まれる水分も、この水分吸収剤によって吸収することができる。
【0049】
配合材料の混合作業性の改善、塗布作業性や貯蔵安定性の改善、塗装後の塗膜のレベリング性(平滑性)の向上、塗膜の外観性の向上等のために用いられる溶剤(減粘剤)としては、塗布作業性、塗布性等の観点から、例えば、ナフサ、テレピン油、パラフィン、ミネラルスピリット等の石油系溶剤や、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン等の脂肪族炭化水素系溶剤や、アルコールや、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤等の比較的高沸点(好ましくは、沸点が150℃以上、220℃以下)の有機溶剤等が使用される。増粘性やチキソトロピー効果の観点からすると、非極性の炭化水素、例えば、パラフィン系炭化水素等が好ましく用いられる。
【0050】
このような溶剤の配合は、多すぎると垂れ性を損なうことになるため、パラフィン系炭化水素等の溶剤を配合する場合には、塩化ビニル系プラスチゾル組成物中に、好ましくは、1~10質量%、より好ましくは、2~9質量%、更に好ましくは、3~8質量%の範囲内で配合される。
【0051】
その他にも、顔料、レベリング剤、充填材、安定剤等を適宜配合することも可能である。
顔料としては、着色顔料、体質顔料、防錆顔料、機能性顔料等がある。更に、着色顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛有機系のアゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料、黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、二酸化チタン、カドミウムイエロー、フタロシアニンブルー等が使用できる。防錆顔料としては、例えば、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、ポリリン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛カルシウム、オルトリン酸亜鉛、ポリリン酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸アルミニウム、酸化亜鉛、リン・ケイ酸亜鉛、リン酸アルミニウム亜鉛、リン酸カルシウム亜鉛、シアナミド亜鉛カルシウム、メタホウ酸バリウム、アミノリン酸マグネシウム等が使用できる。環境保護の観点からクロム系等の有害重金属を含まない防錆顔料が望ましい。体質顔料としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、マイカ、クレー、シリカ、珪藻土、アルミナ、バリタ、ニ酸化ケイ素等が使用できる。特に、タルクは塗膜内で多くの層の積み重なりを形成し、その配列により形成される層の緻密性によって腐食因子の侵入を防止することができる。
【0052】
塗膜のレベリング性(平滑性)、塗膜の仕上がり外観性をより向上するためのレベリング剤としては、シリコン樹脂、ダイマー変性エポキシ樹脂等がある。
安定剤としては、エポキシ系安定剤、亜鉛、鉛、バリウム、スズ、カルシウム等の金属塩(金属石ケン類)、鉛等の金属の無機酸塩類、有機金属化合物等がある。最も一般的なものは、ジブチルスズジラウレート等の有機スズ系化合物、三塩基性硫酸鉛等である。なお、これらの安定剤は、ブロックイソシアネートが接着性付与剤として用いられる場合、焼付け硬化時のそのブロック剤の解離を促進する触媒としても作用する。
【0053】
増量、増粘、塗布作業性や塗布性の改善、塗膜強度向上等のための充填材としては、例えば、重質炭酸カルシウム等の炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩及び硫酸塩、マイカ、シリカ、タルク、珪藻土、カオリン、クレー、有機ベントナイト、アルミナ、石膏、セメント、転炉スラグ粉末、シラス粉末、ガラス粉末、グラファイト、ヒル石、ゼオライト、カルシウムメタシリケート、ゾノライト、チタン酸カリ、ロックウール、ガラスファイバー、カーボンファイバー、アルミニウムシリケート、アラミドファイバー、セルロース粉、粉末ゴム、塩化ビニリデン、アクリルニトリル、ポリビニリデンクロライド、またはこれらの共重合体等の合成樹脂(プラスチック)等からなる既膨張樹脂マイクロカプセル(熱膨張性微小球)等の熱可塑性樹脂バルーンやフェノールバルーン等の樹脂バルーン(軽量材)、発泡剤等が使用される。これらは1種を単独で使用してもよいし2種以上を適宜組み合わせて使用することも可能である。中でも、充填材としての中空粒子、未膨張の熱膨張性マイクロカプセル、発泡剤等は塗膜の低比重化、塗膜の厚膜化、防音性の向上、組成物に吸湿された水分の抜け道(水抜け通路)形成等に有効である。即ち、中空粒子や、未膨張の熱膨張性マイクロカプセルや、発泡剤を配合した場合には、塗膜の厚膜化によって塗布重量を増大させることなく低比重化を可能とし、防音性及び軽量性を兼ね備えた塗膜を形成できる。
【0054】
中空粒子(中空フィラ)としては、具体的には、塗布後の焼付け加熱によっても溶融、膨張及び破裂がなく所定の中空度が維持される中空状のバルーンであればよく、例えば、ホウ珪酸ソーダ系のシリカバルーン、ガラスバルーン、シラス等のガラス質火山砕屑物を焼成発泡させてなるシラスバルーン等の外殻が無機質で形成された無機系中空粒子(無機系中空粒子、無機中空体、無機質微小中空体)や、塩化ビニリデン、アクリルニトリル、ポリビニリデンクロライド、またはこれらの共重合体等の合成樹脂(プラスチック)等からなる既膨張樹脂マイクロカプセル(熱膨張性微小球)等の熱可塑性樹脂バルーンやフェノールバルーン等の樹脂バルーンまたは炭素中空球等、外殻が有機質で形成された有機系中空粒子が使用される。この中空粒子は、真比重が小さいために、塗膜の軽量化(低比重化)効果が高いものとなる。取扱性、作業性、軽量効果等の観点から、好ましくは、その真比重が0.02~0.8、より好ましくは、0.1~0.5の範囲内である。
【0055】
熱膨張性マイクロカプセルとしては、塗装後の焼付け時の加熱によってシェル(殻)が軟化すると共に、シェル中の気化物質が気体に変化してその圧力(蒸気圧)でシェルが膨張する材料から形成され、熱によって膨張が制御できるものであればよい。即ち、熱膨張性マイクロカプセルは、そのシェルが所定の温度によって軟化し、また、内部の液状物が気化するものであればよく、例えば、熱可塑性樹脂(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル塩化ビニリデン共重合体、アクリロニトリルメタクリル酸メチル共重合体、アクリルアミド、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリルアミド、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、酢酸ビニル、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリルメタクリル酸、メチル共重合体等)により構成されるシェル(殻壁、外殻)の内部(コア)に、シェルを構成する熱可塑性樹脂の軟化温度以下の沸点を有する気化物質(例えば、プロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、イソヘキサン、n-オクタン、n-デカン、n-ドデカン等の脂肪族炭化水素や、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素や、塩化メチル、塩化エチル等の塩素化炭化水素;1,1,1,2-テトラフロロエタン、1,1-ジフロロエタン等のフッ素化炭化水素等の低沸点炭化水素等)が封入された構造を有する未膨張の熱可塑性樹脂マイクロカプセルが使用される。
【0056】
この熱膨張性の熱可塑性樹脂マイクロカプセルは、コアに気化物質を包含した熱可塑性樹脂からなるシェル構造を有するカプセル状のものであり、被塗装面への塗布後に、シェルの軟化温度以上に加熱することにより所定の温度域になると、シェルが軟化し、シェルの内部に包含された気化物質が気体に変化し、そのシェル内の気体の圧力(膨張力・蒸気圧)の増加によってシェルが膨張して容積が増大し、中空状の熱可塑性樹脂マイクロバルーンとなるものである。例えば、粒子径(中位径)が5~50μmのものでは、体積変化で50~100倍程度になる。なお、熱可塑性樹脂からなるシェル(外殻)が炭酸カルシウム等の無機粉末で被覆されていてもよい。即ち、熱可塑性樹脂からなるシェル表面に無機粉体を付着したハイブリットのもの、詳しくは、シェルの熱可塑性樹脂を無機金属塩や金属酸化物、例えば、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン等で被覆したものを用いてもよい。
【0057】
発泡剤としては、例えば、ADCA(アゾジカルボンアミド)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、p-トルエンスルホニルヒドラジド(TSH)、p-トルエンスルホニルアジド、p-メチルウレタンベンゼンスルホニルヒドラジド、ベンゼンスルホニルヒドラジド(BSH)、オキシベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)等の有機発泡剤や、炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸アンモニウム等の無機発泡剤が使用できる。好ましくは、加熱型の発泡剤が使用される。加熱型の発泡剤は、加熱により発泡剤が分解してガスを生じ、発泡するものである。このような加熱型発泡剤を含有する場合には、組成物を所定部位に塗布した後、塗布膜を硬化させる時の加熱処理温度によって、発泡剤が分解して発泡するものが望ましい。なお、必要に応じ、発泡剤の発泡作用を補助する発泡助剤(例えば、サリチル酸、フタル酸、ステアリン酸、ウラリル酸、安臭香酸、尿素、亜鉛及びその化合物等)を使用することも可能であり、塗布膜を硬化させる焼付け乾燥時の加熱条件に合わせて発泡するように発泡助剤を配合してもよいが、加熱条件等によっては必ずしも発泡助剤は必要となるものではない。
【0058】
なお、こうした塗膜の低比重化を図る中空粒子、未膨張の熱膨張性マイクロカプセル、発泡剤についても2種以上を併用してもよい。
特に、組成物に熱膨張性マイクロカプセルを配合した場合には、焼付け時の加熱により熱膨張性マイクロカプセルの内部の気化物質が気化されその圧力でシェルが膨張して中空状のマイクロバルーンとなり、この膨張した中空状のマイクロバルーンによって、所定部位に塗布した組成物からなる塗布膜は膨張し厚膜化される。よって、塗布量を増大させることなく防音性が高い塗膜を形成できる。そして、熱膨張性マイクロカプセルの体積膨張を利用して厚膜化された塗膜は比重が小さく厚膜化による塗膜重量の増大が抑制される。更に、中空粒子や発泡剤を併用していると、極めて比重が小さく軽量な塗膜を形成できる。
【0059】
その他、例えば、鋼板の接合部、継目部、へミング部等に塗布、充填されるシーリング用等の用途では、防錆油が付着したままの油面鋼板等に適用される場合、油面鋼板に対する十分な接着性を得るために、ビスフェノールA型やビスフェノールF型等のエポキシ樹脂(変性タイプのものも含まれる)とその硬化剤、例えば、ジシアンジアミド、グアニジン誘導体、トリアジン誘導体、ピリミジン誘導体、4,4´-ジアミノジフェニルスルホン、酸ヒドラジド化合物、イミダゾール系化合物等の潜在性硬化剤を配合することも可能である。なお、エポキシ樹脂及びその硬化剤に加え、鋼板の亜鉛系メッキ表面、軟鋼表面、有機被膜表面等に対して塗布する場合でも高い接着性が得られるように、脂肪族系ブロックイソシアネート、チタネート系カップリング剤、有機スズ系安定剤(例えば、ジブチルスズジラウリレート、ジオクチルスズラウレート、ジブチルスズマレエート、ジブチルスズフタレート等のアルキルスズ、有機スズメルカプタイド等)を添加する場合もある。
【0060】
塩化ビニル系樹脂、液状アクリル樹脂、可塑剤、密着性付与剤としてのポリアミドアミン等のポリアミド等を含有する本実施の形態の塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、従来公知の混合分散機、混練機、例えば、ニーダー、ディスパー、プラネタリーミキサー、アトライター、ボールミル、グレンミル、ブレンダー、2軸ミキサー、縦型高速攪拌機、ロールミル、ディゾルバー等を用いて材料を均一に混合分散して調製される。
【0061】
そして、本実施の形態の塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、例えば、自動車車体等の耐チッピング用塗料組成物、アンダーコート用塗料組成物、或いは、シーリング用塗料組成物等として適用することができ、所定の部位に塗布され、焼付け乾燥によって硬化した塗膜となる。なお、塩化ビニル系樹脂、液状アクリル樹脂、可塑剤、密着性付与剤としてのポリアミドアミン等のポリアミドを含有する本実施の形態の塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、2液ではなく1液として使用できるので、取り扱いが容易である。また、加熱するまでは形状調整等が可能であるから、任意の塗布形状を選択できる。当然、塗装ロボットの使用或いは刷毛塗りが可能であり、密閉型に入れて成形させる必要がないから、開放型として膜形成でき、耐チッピング用、アンダーコート用、シーリング用として使用できる。
【0062】
本実施の形態の塩化ビニル系プラスチゾル組成物からなる塗料の所定部位への塗装形態、塗装手段としては、従来公知の塗装方法、例えば、刷毛塗り、ローラー塗装、浸漬等のコーティング塗装や、エアレススプレー、エアスプレー等のスプレー塗装、静電塗装等による施工が可能である。
例えば、耐チッピング用、アンダーコート用の場合には、自動車の床裏部、ホイルハウス部、フロント部、リアフェンダー部、フロントエプロン部等のフロアアンダーや、サイドシル部(ロッカーパネル部)、ドアの下部の側面等に塗布適用される。また、シーリング用であれば、車体を構成する鋼板の接合部、継ぎ目、エッジ部等に塗布適用される。
【0063】
そして、鋼板等の基材に塗布された塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、焼付け乾燥によって硬化され、硬化塗膜となる。特に、自動車の耐チッピング用、アンダーコート用、シーリング用の塩化ビニル系プラスチゾル組成物として、自動車の鋼板表面、例えば、自動車のホイルハウス部や床裏部等の車体の下部構造部等に塗装するにあたっては、自動車製造ラインの塗装ラインにおいて、脱脂工程、化成処理工程及び電着塗装による下塗り塗装工程を終えた鋼板の電着塗装面に塗布される。その後、その上に、車体外板部の中塗り塗装または仕上げ塗装等が実施され、そして、中塗り塗装または仕上げ塗装等の焼付け乾燥と併せて、塩化ビニル系プラスチゾル組成物のコーティング膜が加熱されることにより硬化塗膜となる。即ち、鋼板等の電着塗装面に対し塩化ビニル系プラスチゾル組成物が塗布され、その上に、中塗りや上塗りの塗料が重ねられてから焼付け硬化されることで塩化ビニル系プラスチゾル組成物による塗膜が形成されることになる。このときの塩化ビニル系プラスチゾル組成物から形成された硬化塗膜の厚み(乾燥塗膜厚み)は、例えば、300μm以上、3000μm以下である。なお、必要に応じて、中塗り塗料、上塗り塗料等の焼付け硬化よりも前で、電着塗装面に塗布した直後に塩化ビニル系プラスチゾル組成物の塗布膜を予備硬化(プレ加熱)する場合もある。
【0064】
特に、自動車製造ラインの塗装ラインにおいては、従来、140~160℃×20~40分間の焼き付け乾燥によって塩化ビニル系プラスチゾル組成物からなる硬化塗膜を形成していたところ、本実施の形態の塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、熱可塑性樹脂の塩化ビニル系樹脂及び水酸基含有液状アクリル樹脂の併用によって、上記温度より低温の焼き付け乾燥条件、例えば、100~130℃の焼き付け乾燥でも伸び率及び抗張力が高い強靭な塗膜を形成して耐チッピング性を確保できる。更に、密着性付与剤のポリアミドの配合によって接着性を確保でき、ポリアミドであれば黄変を生じない外観性の良好な塗膜を形成できる。また、これら配合材料は安価であり、塩化ビニル系樹脂と液状アクリル樹脂の組み合わせであれば低コストで済む。
【0065】
本実施の形態の塩化ビニル系プラスチゾル組成物においては、塩化ビニル系樹脂及び水酸基含有液状アクリル樹脂の併用によって低温の焼き付け乾燥条件でも強靭な塗膜を形成できるが、即ち、低温でも硬化して耐チッピング性等を確保できる塗膜強度となるが、こうした塩化ビニル系樹脂及びアクリル樹脂の併用系であっても、アクリル樹脂として水酸基含有液状アクリル樹脂を用いたことで、密着性付与剤のポリアミドがアクリル樹脂と反応してアクリル樹脂によってポリアミドの接着性発現が阻害されることはなく、ポリアミドによる高い接着性が発現されているものと考えられる。即ち、アクリル樹脂が水酸基を有する液状アクリル樹脂であることで、密着性付与剤としてポリアミドを配合しても、その水酸基を有する液状アクリル樹脂が可塑剤のように塩化ビニル系樹脂の分子間に入り込んで配向し、液状アクリル樹脂の水酸基の存在によって、アクリル樹脂とポリアミドが反応するのが阻害され、ポリアミドによる高い接着性が発現されるものと考える。そして、ポリアミドであれば黄変を生じない外観性の良好な塗膜を形成できる。
【0066】
こうして、本実施の形態の塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、低温の焼き付け乾燥条件でも塩化ビニル系樹脂及び水酸基含有液状アクリル樹脂の併用によって強靭な塗膜を形成でき、更に、水酸基含有液状アクリル樹脂であればポリアミドと反応して接着性が阻害されることがないことでポリアミドによる高接着性が発現されて塗膜の接着性が得られるものである。即ち、従来よりも低温の焼き付け乾燥で塗膜強度等の塗膜物性(機械物性)及び接着性が発現する。
特に、塩化ビニル系樹脂とアクリル樹脂との併用では、塩化ビニル系樹脂の接着機構がアクリル樹脂に阻害されることで適用できず、また、アクリル樹脂の接着機構が塩化ビニル系樹脂の接着に適用できずそれらの併用が困難であったところ、水酸基含有液状アクリル樹脂であれば、その水酸基の存在によってポリアミドと反応しないことで、ポリアミドの接着性が発現されるから、高い接着性が得られ、また、黄変を生じない外観性を確保できる。
【0067】
なお、自動車車体の耐チッピング用、アンダーコート用の塗料としての塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、小石、砂利等の衝突による衝撃を吸収、緩和し上層の塗料の剥離を防止する。自動車車体のシーリング用の塗料としての塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、接合部等に対してシール機能(水密、気密)を発揮する。
【0068】
以下、本発明の実施の形態に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物について、実施例を挙げて具体的に説明する。
本実施例に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、塩化ビニル系樹脂、液状アクリル樹脂、可塑剤、密着性付与剤、チキソ剤、水分吸収剤、減粘剤、及び充填材を配合したものである。
【0069】
【表1】
【0070】
表1の上段に示す配合量で実施例1乃至実施例8に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物を調製した。また、比較のために、表1の上段に示す配合量で比較例1乃至比較例4に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物も併せて調製した。
具体的には、本実施例1~8においては、塩化ビニル系樹脂としては、粉末状の塩化ビニルー酢酸ビニル共重合体樹脂(一次粒子径:0.1~2μm)を使用した。実施例1~実施例4では、塩化ビニル系樹脂として、酢酸ビニル残基含有量が9質量%である塩化ビニルー酢酸ビニル共重合体樹脂(平均重合度:1900)を配合し、実施例5~8では、塩化ビニル系樹脂として、酢酸ビニル残基含有量が7質量%である塩化ビニルー酢酸ビニル共重合体樹脂(平均重合度:1800)を配合した。
【0071】
本実施例1~8において、液状アクリル樹脂は、無溶剤型の液状アクリル樹脂(オリゴマ)を使用した。実施例1及び実施例2並びに実施例5及び実施例6では、アクリル酸メチルを主骨格とし、液状アクリル分子の片末端に官能基として1つの水酸基を含有した液状アクリル樹脂(官能基当量:600g/eq、重量平均分子量:1,000)を使用した。実施例3及び実施例4並びに実施例7及び実施例8では、アクリル酸-2-エチルヘキシルを主骨格とし、液状アクリル分子の片末端に官能基として2つの水酸基(1,2‐ジーオール)を含有した液状アクリル樹脂(官能基当量:970g/eq、重量平均分子量:3,500)を使用した。
【0072】
本実施例1~8においては、可塑剤として、フタル酸ジオクチル(DINP)を配合した。密着性付与剤としては、ポリアミドアミンとブロックウレタンを併用した。更に、チキソ剤としての合成炭酸カルシウム、水分吸収剤としての酸化カルシウム、減粘剤としての沸点が150~200℃の高沸点溶剤であるパラフィン系炭化水素溶剤、充填材としての重質炭酸カルシウムを配合した。
【0073】
一方、比較例1は、アクリル樹脂を配合せず、塩化ビニル系樹脂としては、酢酸ビニル残基含有量が9質量%である塩化ビニルー酢酸ビニル共重合体樹脂を配合し、液状アクリル樹脂を配合しない以外は、実施例1乃至実施例4と同じ材料を表1に示した配合量で配合した。
【0074】
比較例2も、アクリル樹脂を配合せず、塩化ビニル系樹脂としては、酢酸ビニル残基含有量が7質量%である塩化ビニルー酢酸ビニル共重合体樹脂を配合し、液状アクリル樹脂を配合しない以外は、実施例5乃至実施例8と同じ材料を表1に示した配合量で配合した。
【0075】
比較例3では、液状アクリル樹脂として、無溶剤型の液状アクリル樹脂であり、アクリル酸ブチルを主骨格とし、液状アクリル分子の末端及び分子内に官能基としてカルボキシル基(COOH基)を含有した多官能の液状アクリル樹脂(官能基当量:570g/eq、重量平均分子量:3,000)を配合し、塩化ビニル系樹脂としては、酢酸ビニル残基含有量が9質量%である塩化ビニルー酢酸ビニル共重合体樹脂を配合した。実施例における官能基が水酸基である液状アクリル樹脂に替えて官能基がカルボキシル基である液状アクリル樹脂を使用した以外は、実施例2や実施例4と同じ材料を表1に示した配合量で配合した。
【0076】
比較例4では、実施例の液状アクリル樹脂に替えて、粉末状(粉体粒子径:20~100μm)のアクリル樹脂(アクリル樹脂エマルションを噴霧乾燥したもの、重量平均分子量:70万)を使用し、また、塩化ビニル系樹脂としては、酢酸ビニル残基含有量が9質量%である塩化ビニルー酢酸ビニル共重合体樹脂を配合した。実施例における液状アクリル樹脂に替えて固体状のアクリル樹脂を使用した以外は、実施例1乃至実施例4と同じ材料を表1に示した配合量で配合した。
【0077】
そして、これら実施例1乃至実施例8及び比較例1乃至比較例4の塩化ビニル系プラスチゾル組成物により形成される塗膜の特性(性能)を調べた。具体的には、表1の下段に示したように、塗膜の伸び率、抗張力(引張強さ)、硬度、接着性についての測定を実施した。なお、これらの測定を行うにあたり、表1に示した配合材料からなる各種の塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、混合分散機のプラネタリーミキサーを用いて材料を均一に混合分散することにより調製を行った。
【0078】
伸び率及び抗張力の測定に際しては、まず、表面が平滑な厚さ0.8~1.0mmの鋼板に離型紙を貼付け、その上に調製した塩化ビニル系プラスチゾル組成物を気泡が入らないように厚さ2~3mmで塗布し、そして、乾燥機で120℃×14分間の焼付けを行った。その後、室温(常温)で20~24時間放置したのち、JIS K6251に規定されたダンベル2号形で打ち抜きを行って、伸び率及び抗張力測定用の試験片を作製した。
【0079】
伸び率及び抗張力の測定では、試験片の長軸方向の中央から片側10mmの位置に2本標線を付し(標線間距離は20mm)、標線が付された試験片を万能引張試験機につかみ間隔50mmで取付けた。そして、室温(常温)下で、引張速度50mm/分の速さで引張り、試験片の塗膜が破断した時の最大荷重及び標線間隔距離を測定し、次式(1)により伸び率(チャック間距離に対する引張前のチャック間距離の比率(%))を算出し、また、次式(2)により抗張力(引張り強さ)を算出した。
伸び率(%)=(破断時の標線間の長さ(mm)-20)÷20×100・・(1)
抗張力(MPa=N/mm2)=最大荷重(N)÷試験片の断面積(mm2)・・(2)
このときの伸び率は、それが大きいほど破断するまでの伸びが大きいことを示し、また、抗張力は、それが大きいほど破断に要する力が大きいことを示し、両者の値が大きいほど塗膜強度、強靭性が高いものといえる。
【0080】
硬度についてはJIS K6253に準拠し、室温(常温)下で、デュロメータタイプA(JIS A硬度計、高分子計器(株)製)を用いて1秒以内の測定値を測定した。
120℃×14分間の低温短時間の焼付け乾燥を行って形成された塗膜の伸び率が100%以上、かつ、抗張力が、0.2MPa以上、かつ、硬度が50以上であるものは、硬化性が良いことで塗膜強度が良好であるとして〇と評価し、伸び率が100%未満、または、抗張力が、0.2MPa未満、または、硬度が50未満であるものは、硬化性に劣り塗膜強度が不足しているとして×と評価した。
【0081】
接着性については、引っ張り剪断接着強さ試験を行った。具体的には、まず、電着塗装された鋼板からなる試験パネル(25mm×100mm×1.0mm)を2枚用意し、その1枚に調製された塩化ビニル系プラスチゾル組成物を塗布し、更に別の1枚を平行に重ね合わせて直線状に接合し、それら試験パネルを120℃×14分間の焼付け条件で乾燥機による加熱乾燥を行うことで、試験パネルに塗布した塩化ビニル系プラスチゾル組成物のコーティング膜(塗布膜)を加熱硬化させ、接着力測定用の試験サンプルを作製した。なお、ここでは、加熱硬化した塗膜の厚みが3mmとなるように塩化ビニル系プラスチゾル組成物の塗布を行った。
そして、引張り試験機(島津製作所製)を用いて、試験サンプルに対し、それが破断するまで長手方向に引張り(引張速度50mm/分)、破断した時の破断面を目視で観察し、破壊の状態、即ち、凝集破壊(CF)または界面破壊(AF)の判定を行った。試験サンプルが判断したときの破壊形態が凝集破壊(CF)であれば接着性が良好であるとして〇と評価し、破壊形態が界面破壊(AF)であった場合には接着性に劣るとして×と評価した。
【0082】
表1の下段に示したように、実施例1乃至実施例8に係るプラスチゾル組成物では、何れも、120℃×14分間の低温短時間の焼付け乾燥を行って形成された塗膜の伸び率が100%以上であり、また、抗張力が、0.6MPa以上であり、更に、硬度も50以上であり、これら高い伸び率及び高い抗張力から、また、硬度もあることから、塗膜強度が高く、強靭であることが分かる。よって、低温焼き付け乾燥でも硬化性がよく、塗膜の強度、耐チッピング性を確保できるものである。加えて、120℃×14分間の低温短時間で焼付けられた塗膜の接着強さ試験において破断時の破壊状態が凝集破壊(CF)であることから、低温焼き付け乾燥でも塗膜の接着性が確保されているものである。
【0083】
こうして、実施例1乃至実施例8に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、120℃×14分間の低温短時間の焼き付け乾燥でも、接着性が良く、かつ、硬化性がよいことで、所望の伸び率及び抗張力の塗膜物性が得られ塗膜強度の高いものである。
これは、塩化ビニル系樹脂に加えてアクリル樹脂の配合により、アクリル樹脂が水酸基を有する液状アクリル樹脂であることで、水酸基を有する液状アクリル樹脂が可塑剤のように塩化ビニル系樹脂の分子間に入り込んで配向し高い伸び率や抗張力を得ることができるうえ、密着性付与剤としてのポリアミドアミンを配合しても、液状アクリル樹脂の水酸基の存在によってアクリル樹脂とポリアミドアミンとの反応が阻害され、ポリアミドアミンによる接着性が発現されたためと推測される。
【0084】
特に、一般的には樹脂の分子量が大きくなると抗張力が上昇する傾向にあるところ、液状アクリル樹脂の配合量は共に15質量部で同一であるも、実施例3で配合した液状アクリル樹脂よりも樹脂の分子量が小さく水酸基の数が1つの液状アクリル樹脂を配合した実施例1では、実施例3よりも抗張力が高くなっている。また、液状アクリル樹脂の配合量は共に30質量部で同一であるも、実施例4で配合した液状アクリル樹脂よりも樹脂の分子量が小さく水酸基の数が1つの液状アクリル樹脂を配合した実施例2では、実施例4よりも伸び率及び抗張力が高くなっている。塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂の酢酸ビニル残基含有量を実施例1乃至実施例4とは異にした実施例5乃至実施例8の比較においても同様に、液状アクリル樹脂の配合量は共に15質量部で同一であるも、実施例7で配合した液状アクリル樹脂よりも樹脂の分子量が小さく水酸基の数が1つの液状アクリル樹脂を配合した実施例5では、実施例7よりも抗張力が高くなっており、また、液状アクリル樹脂の配合量は共に30質量部で同一であるも、実施例8で配合した液状アクリル樹脂よりも樹脂の分子量が小さく水酸基の数が1つの液状アクリル樹脂を配合した実施例6では、実施例8よりも伸び率及び抗張力が高くなっている。
【0085】
更に、実施例1と実施例2の比較や、実施例5と実施例6との比較から、末端に1つの水酸基を有する液状アクリル樹脂によれば、その配合量を増大することで、伸び率及び抗張力が増大している。
【0086】
これは、水酸基が2つの液状アクリル樹脂を用いた実施例3及び実施例4ではその液状アクリル樹脂が塩化ビニル系樹脂の分子中でランダムな配列となりやすく液状アクリル樹脂の配向性が低いのに対し、水酸基が1つの液状アクリル樹脂を用いた実施例1及び実施例2では塩化ビニル系樹脂の分子中での液状アクリル樹脂の配向性が高く、それゆえ、伸び率や抗張力を増大できるものと推測される。このため、好ましくは、水酸基を含有する液状アクリル樹脂、水酸基の数が1つのものであることにより、塗膜強度、強靭性をより高めることが可能である。
【0087】
また、実施例1乃至実施例4と、実施例5乃至実施例8との比較から、塩化ビニルー酢酸ビニル共重合体樹脂の酢酸ビニル残基含有量が実施例5乃至実施例8よりも高い実施例1乃至実施例4では、実施例5乃至実施例8よりも伸び率及び抗張力が高くなっている。これは、塩化ビニルー酢酸ビニル共重合体樹脂の酢酸ビニル残基含有量が多いと、水酸基を有する液状アクリル樹脂、特にその水酸基や、可塑剤との相溶性が高くなるためと推測される。即ち、酢酸ビニル残基含有量が高いものでは、水酸基を有する液状アクリル樹脂や可塑剤との相溶性が高く、低温でも水酸基を有する液状アクリル樹脂や可塑剤を塩化ビニル系樹脂間に取り込むことができて塩化ビニル系樹脂の可塑化を進行させることができることで、低温の焼き付け乾燥条件でも十分に伸び率及び抗張力を高くできて強靭にできると考えられる。
このため、好ましくは、塩化ビニル系樹脂は、酢酸ビニル残基含有量が5質量%以上、12質量%以下、より好ましくは、6質量%以上、12質量%以下、更に好ましくは、7質量%以上、10質量%以下の塩化ビニルー酢酸ビニル共重合体樹脂であれば、伸び率及び抗張力を高くでき、塗膜強度を向上させることができる。
【0088】
そして、本実施例1乃至本実施例8の塩化ビニル系プラスチゾル組成物から形成された塗膜は、密着性付与剤としてポリアミド及び脂肪族系のブロックウレタンの併用によって、黄変のない外観性の良好なものでもある。
【0089】
一方、比較例1乃至比較例4に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物では、120℃×14分間の低温短時間の焼付け条件では、自動車アンダーコート用、耐チッピング用、シーリング用等として要求される塗膜の物性に不足があり、実用に適さない結果となった。
【0090】
即ち、水酸基を有する液状アクリル樹脂の配合を省略した比較例1及び比較例2では、上記評価試験のうち、120℃×14分間の低温乾燥焼付け条件で得られた塗膜における伸び率が100%未満と不足していた。伸び率が不足すると、塗膜の強靭性や柔軟性に劣り、応力を分散、緩和し難いことにより、基材の振動等に対する追従性が低くて塗膜割れ、クラック、欠陥等が生じやすかったり、所望とする高い耐チッピング性を確保できなくなったりする。よって、比較例1及び比較例2に係る塩化ビニル系プラスチゾル組成物から形成される塗膜は、実施例よりも塗膜強度、耐チッピング性能等の塗膜性能に劣るものである。
【0091】
これら比較例1及び比較例2と実施例との比較から、熱可塑性樹脂として、塩化ビニル系樹脂に加え、水酸基を有する液状アクリル樹脂を併用することで、低温短時間の低負荷乾燥条件でも硬化性が良く、耐ピッチング性等を確保できる所望の高い伸び率が得られ、また、抗張力や硬度も良好であり、塗膜強度を確保できることが分かる。
【0092】
実施例の水酸基を有する液状アクリル樹脂に替えて、カルボキシル基を有する液状アクリル樹脂を配合した比較例3では、上記評価試験のうち、120℃×14分間の低温短時間の焼付け乾燥条件で得られた塗膜における接着性が不足していた。これは、カルボキシル基を有する液状アクリル樹脂では、ポリアミドと反応してポリアミドの接着性を阻害することにより、ポリアミドの接着性が発現されなかったためと考えられる。なお、カルボキシル基を有する液状アクリル樹脂を配合した比較例3は、塗膜の抗張力及び硬度も劣るものであった。
【0093】
また、実施例の水酸基を有する液状アクリル樹脂に替えて、粉末状アクリル樹脂を配合した比較例4では、上記評価試験のうち、120℃×14分間の低温短時間の焼付け乾燥条件で得られた塗膜における接着性が不足した。これは、粉末アクリル樹脂がポリアミドと反応してその接着性を阻害することにより、ポリアミドの接着性が発現されなかったためと考えられる。
【0094】
こうした比較例3や比較例4と実施例との比較から、水酸基を有する液状アクリル樹脂であれば、ポリアミドと反応することなく、ポリアミドによる接着性が発現されることによって接着性が確保されることが分かる。
本発明者らの実験研究によれば、分子内に1以上の官能の水酸基を含有した液状アクリル樹脂の重量平均分子量が500以上、5000以下の範囲内の低分子量体であれば、塩化ビニル系樹脂との相溶性もよく、高い可塑性が得られ、塗布性を損なうことなく、塗膜を強靭化できる。
特に、好ましくは、分子末端に1以上の官能の水酸基を含有する液状アクリル樹脂であり、より好ましくは、分子末端に1つの官能の水酸基を含有する液状アクリル樹脂であれば、塩化ビニル系樹脂中での配向性が高いことでより強靭な塗膜が得られる。
【0095】
また、酢酸ビニル基含有量が5質量%以上、15質量%以下の範囲内の塩化ビニルー酢酸ビニル共重合体であれば、より低温での硬化性に優れる。特に好ましくは、7質量%以上、10質量%以下の範囲内の塩化ビニルー酢酸ビニル共重合体であれば、可塑剤との相溶性が向上し、低温での可塑剤や液状アクリル樹脂の吸収性に優れて低温でも溶融粘度が増大し、低温でも塩化ビニル系樹脂の粒子の溶融が進行し完全溶融することで均一な相が得られ、また、液状アクリル樹脂の可塑様効果も得られ、高い強度、伸度及び接着性が得られる。
【0096】
こうして、実施例1乃至実施例8の塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、低温短時間の焼き付け乾燥条件でも接着性が良好で強靭な塗膜物性の塗膜を形成できるものである。
即ち、実施例1乃至実施例8の塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、熱可塑性樹脂の塩化ビニル系樹脂及び水酸基含有液状アクリル樹脂の併用によって、低コストで、低温短時間の焼き付け乾燥条件でも伸び率及び抗張力が高く強靭な塗膜を形成でき、塗膜強度、塗膜の耐チッピング性等を確保できる。また、水酸基含有液状アクリル樹脂が可塑剤のように塩化ビニル系樹脂の分子間に入り込んで配向することによるその高い伸び率からして振動耐久性にも優れるものである。更に、アクリル樹脂が水酸基含有液状アクリル樹脂であることにより、ポリアミドがアクリル樹脂と反応することなく、ポリアミドによる接着性の発現により接着性も確保される。特に、ポリアミド及び脂肪族系のブロックウレタンの併用によって、低温短時間の焼き付け乾燥条件でも高い接着性が発現され、かつ、黄変のない外観性の良好な塗膜となる。即ち、こうしたポリアミド成分とブロックウレタンとの併用系によれば、加熱焼付時の温度でブロックが解離され、再生されたイソシアネート化合物のイソシアネート基がポリアミドの活性水素(アミノ基)と反応し、重合硬化して接着性を発現する。そのため、カチオン型の電着塗装面に対しても優れた接着性を示すだけでなく、比較的低温度の焼付条件で接着性を発現することができ、更に、プラスチゾル組成物の貯蔵安定性にも優れるものとなる。加えて、ブロックポリウレタンプレポリマ及びポリアミドアミンの併用であることで、塗膜の耐水性も良好である。
【0097】
なお、実施例1乃至実施例8の塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、チキソ剤の配合によって、塗膜の垂れが生じ難く塗布性も良好で、また、水分吸収剤(脱水剤)の配合により水分による塗膜の膨れが防止されているものである。また、実施例1乃至実施例8の塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、熱可塑性樹脂の塩化ビニル系樹脂及び液状アクリル樹脂と、可塑剤と、密着性付与剤と、チキソ剤と、水分吸収剤と、減粘剤と、充填材との配合であるから、現行の1液塗布設備にも適応する。
【0098】
以上説明してきたように、上記実施の形態の塩化ビニル系プラスチゾル組成物は、塩化ビニル系樹脂と、アクリル樹脂と、ポリアミドと、可塑剤とを含有した塩化ビニル系プラスチゾル組成物であって、アクリル樹脂は、分子内に1以上の官能の水酸基を含有した液状アクリル樹脂である。
【0099】
したがって、上記実施の形態の塩化ビニル系プラスチゾル組成物によれば、熱可塑性樹脂として塩化ビニル系樹脂と分子内に1以上の官能の水酸基を含有した液状アクリル樹脂との組み合わせにより、低温の焼き付け乾燥条件でも硬化性が発現され、塗膜強度等の塗膜物性を確保できる。また、分子内に1以上の官能の水酸基を含有した液状アクリル樹脂であれば、密着性付与剤としてのポリアミドと反応することなく、低温の焼き付け乾燥条件でもポリアミドによる接着性が発現されることにより、接着性を確保できる。加えて、塩化ビニル系樹脂が安価であるから低コストで済み、貯蔵安定性も良好である。
【0100】
そして、低温の焼き付け乾燥条件(100℃~130℃)でも、高い強度、伸度等の塗膜物性を発現でき、また、接着性も良好であるから、加熱時間の短縮も可能で、二酸化炭素排出量削減、エネルギーコスト削減を図ることができる、更に、自動車等のライン生産の速度向上、生産性の向上を図ることも可能となる。
【0101】
分子内に1以上の官能の水酸基を含有した液状アクリル樹脂は、好ましくは、塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、5質量部以上、60質量部以下の範囲内の配合であれば、垂れ性を含む塗布性を損なうことなく、低温の焼付け乾燥でも塗膜強度を高くできる。
また、ポリアミドは、好ましくは、塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、1質量部以上、20質量部以下の範囲内の配合であれば、垂れ性を含む塗布性を損なうことなく、塗膜の接着性を向上できる。
【0102】
更に、塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニルー酢酸ビニル共重合体であれば、より低温での硬化性に優れる。
また、酢酸ビニル基含有量が5質量%以上、15質量%以下の範囲内であれば、塗膜の強靭性を向上できる。
加えて、分子内に1以上の官能の水酸基を含有した液状アクリル樹脂の重量平均分子量が500以上、5000以下の範囲内であれば、塗布性を損なうことなく、塗膜を強靭化できる。
【0103】
なお、本発明を実施するに際しては、塩化ビニル系プラスチゾル組成物のその他の部分の構成、成分、配合、材質、製造方法等についても、本実施例に限定されるものではない。そして、本発明の実施の形態及び実施例で挙げている数値は、その全てが臨界値を示すものではなく、ある数値は実施に好適な好適値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。