(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092075
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】温度センサ
(51)【国際特許分類】
G01K 7/01 20060101AFI20240701BHJP
【FI】
G01K7/01 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207738
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】715010864
【氏名又は名称】エイブリック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 勉
【テーマコード(参考)】
2F056
【Fターム(参考)】
2F056JT01
(57)【要約】
【課題】微小な温度変化を測定可能でありながらも、低コストで使い勝手のよい温度センサを提供する。
【解決手段】温度センサ1は、感温素子(PN接合素子)であるダイオード5と、ダイオード5に少なくとも2つの異なる順方向電流を供給する可変電流源10と、ダイオード5の順方向電圧Vfと同じ温度特性を有する定電圧Vbを出力する定電圧源7と、ダイオード5の順方向電圧Vfと定電圧Vbとの差分を増幅するアンプ6と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
感温素子であるPN接合素子と、
前記PN接合素子に少なくとも2つの異なる順方向電流を供給する可変電流源と、
前記PN接合素子の順方向電圧と同じ温度特性を有する定電圧を出力する定電圧源と、
前記PN接合素子の順方向電圧と前記定電圧との差分を増幅するアンプと、
を備えることを特徴とする温度センサ。
【請求項2】
前記定電圧源は、前記PN接合素子と同じ温度特性を有する第2のPN接合素子と、前記第2のPN接合素子に順方向電流を供給する定電流源とを備え、前記第2のPN接合素子の順方向電圧が前記定電圧であることを特徴とする請求項1に記載の温度センサ。
【請求項3】
前記定電圧源は、電圧変換回路と、前記電圧変換回路の入力に基準電圧を供給する基準電圧源とを備え、前記電圧変換回路の出力電圧が前記定電圧であることを特徴とする請求項1に記載の温度センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な用途で用いられる温度センサは、温度を正確に測定することが求められている。温度を正確に測定するためには、例えば、温度測定における誤差が生じないように、誤差の要因となるものをできるだけ取り除くことが望ましい。
【0003】
図5は、感温素子であるダイオードの飽和電流のバラツキの影響を取り除いた従来の温度センサを示す回路図である。従来の温度センサは、1つのダイオードに2つの異なる電流値の順方向電流を流した時の、それぞれの順方向電圧を増幅した電圧の差分から温度を求める(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ダイオードに順方向電流Iを流した時の順方向電圧Vfは次式で表される。
Vf=(kT/q)*ln(I/Is)…(1)
(kはボルツマン定数、Tは絶対温度、qは電子電荷、Isは飽和電流)
【0005】
式(1)よりダイオードの順方向電圧Vfは、I=I1の時をVf1、I=I2の時をVf2とすると、次のようになる。
Vf1=(kT/q)*ln(I1/Is)…(2)
Vf2=(kT/q)*ln(I2/Is)…(3)
【0006】
順方向電圧Vf1及びVf2は、それぞれ増幅率Aのアンプによって増幅される。アンプの出力電圧は、それぞれVo1、Vo2とすると、次のようになる。
Vo1=A*(kT/q)*ln(I1/Is)…(4)
Vo2=A*(kT/q)*ln(I2/Is)…(5)
【0007】
I1:I2=N:1とすると、2つの電圧測定結果の差は、次のようになる。
ΔVo=Vo1-Vo2=A*(kT/q)*ln(N)…(6)
【0008】
絶対温度Tは、次のようになる。
T=q*ΔVo/{k*A*ln(N)}…(7)
【0009】
式(7)の両辺を微分すると、温度係数dΔVo/dTが求められる。
dΔVo/dT=A*(k/q) *ln(N)…(8)
【0010】
k=1.38*10^-23[J/K]、q=1.60*10^-19[C]、N=2とすると式(8)は次のようになる。
dΔVo/dT≒A*60[uV/K]…(9)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来の温度センサで微小な温度変化を測定する製品とした場合、温度センサの出力電圧を測定する電圧計は、測定レンジが大きく分解能の値が小さいことが求められる。
【0013】
微小な温度変化、例えば0.1Kの温度変化の測定が必要な場合、温度係数は式(9)からA*6[uV/0.1K]となる。この時、ICテスタ等の一般的な電圧計で測定可能な電圧変化(温度係数600uV/0.1K)とするためには、アンプの増幅率Aは100以上にする必要がある。一方、ダイオードの順方向電圧Vf1及びVf2がある温度で0.6V程度の場合、増幅率A=100以上のアンプの出力電圧は60V以上となる。
【0014】
従って、従来の温度センサは、後段の測定回路の構成が複雑になるため使い勝手が悪い、又は検査工程に使用されるICテスタにおいて高性能な電圧計を必要とするため製造コストが高くなる、という点で改善の余地がある。
【0015】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、微小な温度変化を測定可能でありながらも、低コストで使い勝手のよい温度センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の温度センサは、感温素子であるPN接合素子と、PN接合素子に少なくとも2つの異なる順方向電流を供給する可変電流源と、PN接合素子の順方向電圧と同じ温度特性を有する定電圧を出力する定電圧源と、PN接合素子の順方向電圧と定電圧との差分を増幅するアンプと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、微小な温度変化を測定可能でありながらも、低コストで使い勝手の良い温度センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態の温度センサを示す回路図である。
【
図2】本実施形態の温度センサの順方向電圧Vf1、Vf2及び定電圧Vbの温度特性を示すグラフである。
【
図3】本実施形態の温度センサの定電圧源の一例を示す回路図である。
【
図4】本実施形態の温度センサの定電圧源の他の例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る温度センサを、図面に基づいて説明する。
【0020】
図1は、本実施形態に係る温度センサ1の回路図である。
温度センサ1は、電源端子2と、接地端子3と、出力端子4と、感温素子であるダイオード5と、アンプ6と、定電圧源7と、可変電流源10と、を備えている。可変電流源10は、定電流源11と、定電流源12と、スイッチ21と、スイッチ22と、を備えている。
【0021】
電源端子2には、電源電圧VDDが供給される。定電流源11は、定電流I1を出力する。定電流源12は、定電流I1と異なる電流値の定電流I2を出力する。定電圧源7は、ダイオード5の順方向電圧Vfと同じ温度特性を有する定電圧Vbを出力する。出力端子4は、アンプ6の出力する電圧Voを出力する。
【0022】
可変電流源10とダイオード5とは、電源端子2と接地端子3との間に直列に接続されている。可変電流源10とダイオード5との接続点は、アンプ6の非反転入力端子に接続されている。定電圧源7は、アンプ6の反転入力端子と接地端子3との間に接続されている。アンプ6は、出力端子が温度センサ1の出力端子4に接続されている。
【0023】
定電流源11とスイッチ21とは、電源端子2と可変電流源10の出力との間に直列に接続されている。定電流源12とスイッチ22とは、電源端子2と可変電流源10の出力との間に直列に接続されている。
【0024】
本実施形態に係る温度センサ1の動作について説明する。
まず、可変電流源10は、スイッチ21をオン、スイッチ22をオフにして、定電流源11の定電流I1を出力する。ダイオード5には、可変電流源10が出力する定電流I1が順方向電流として流れる。その時のダイオード5に発生する順方向電圧をVf1とする。順方向電圧Vf1は、ダイオード5に定電流I1が流れた時の温度に対応した電圧である。
【0025】
次に、可変電流源10は、スイッチ21をオフ、スイッチ22をオンにして、定電流源12の定電流I2を出力する。ダイオード5には、可変電流源10が出力する定電流I2が順方向電流として流れる。その時のダイオード5に発生する順方向電圧をVf2とする。順方向電圧Vf2は、ダイオード5に定電流I2が流れた時の温度に対応した電圧である。
【0026】
ダイオード5に発生する順方向電圧Vf1及びVf2は、アンプ6の非反転入力端子に入力される。定電圧源7が出力する電圧Vbは、アンプ6の反転入力端子に入力される。アンプ6は、順方向電圧Vf1と電圧Vbの差を増幅率Aで増幅し、また順方向電圧Vf2と電圧Vbの差を増幅率Aで増幅して出力する。温度センサ1は、アンプ6が出力する電圧Voを出力端子4から出力電圧Voとして出力する。
【0027】
図2は、本実施形態の温度センサの順方向電圧Vf1、Vf2及び定電圧Vbの温度特性を示すグラフである。
本実施形態では、定電流I1と定電流I2の関係がI1>I2、即ち順方向電圧Vf1と順方向電圧Vf2の関係がVf1>Vf2とする。そして、順方向電圧Vf1と順方向電圧Vf2は、共にダイオード5に発生する順方向電圧であるため温度特性は等しい。
定電圧Vbは、後述する定電圧源7の回路で発生する、順方向電圧Vf1及びVf2と温度特性が同じで、少しだけ低い電圧である。
【0028】
以下に、上述のように構成した温度センサ1の出力電圧Voから温度を求める方法について説明する。
温度センサ1は、ダイオード5に順方向電流I1及びI2を流した時の順方向電圧Vf1及びVf2と定電圧Vbとの差を増幅率Aで増幅してそれぞれ出力する。温度は、これらの出力電圧の差分から求めることができる。
【0029】
ダイオードに順方向電流Iを流した時の順方向電圧Vfは次式で表される。
Vf=(kT/q)*ln(I/Is)…(1)
(kはボルツマン定数、Tは絶対温度、qは電子電荷、Isは飽和電流)
【0030】
式(1)よりダイオードの順方向電圧Vfは、順方向電流I1の時をVf1、I2の時をVf2とすると、次のようになる。
Vf1=(kT/q)*ln(I1/Is)…(2)
Vf2=(kT/q)*ln(I2/Is)…(3)
【0031】
順方向電圧Vf1と定電圧Vbとの差、及び順方向電圧Vf2と定電圧Vbとの差は、それぞれ増幅率Aのアンプによって増幅される。アンプの出力電圧は、それぞれVo1、Vo2とすると、次のようになる。
Vo1=A*{(kT/q)*ln(I1/Is)-Vb}…(4)´
Vo2=A*{(kT/q)*ln(I2/Is)-Vb}…(5)´
【0032】
順方向電流I1及びI2の比をN:1とすると、アンプの出力電圧の差ΔVoは、次のようになる。
ΔVo=Vo1-Vo2=A*(kT/q)*ln(N)…(6)
【0033】
式(6)より、アンプの出力電圧の差をとることで、ダイオードの飽和電流Isの項に加え、定電圧Vbの項も消去できることがわかる。絶対温度Tは、次のようになる。
T=q*ΔVo/{k*A*ln(N)}…(7)
【0034】
よって、アンプの出力電圧Vo1及びVo2を電圧計で測定し、式(7)を用いれば温度を求めることができる。式(7)の両辺を微分すると、温度係数が求められる。
dΔVo/dT=A*(k/q) *ln(N)…(8)
【0035】
k=1.38*10^-23[J/K]、q=1.60*10^-19[C]、N=2とすると式(8)は次のようになる。
dΔVo/dT≒A*60[uV/K]…(9)
【0036】
微小な温度変化、例えば0.1Kの温度変化の測定が必要な場合、温度係数は式(9)からA*6[uV/0.1K]となる。この時、ICテスタ等の一般的な電圧計で測定可能な電圧変化(温度係数600uV/0.1K)とするために、アンプの増幅率Aは100以上に設定する。ここで、ダイオードの順方向電圧Vf1及びVf2がある温度で0.6V程度の場合、定電圧Vbを0.594Vに設定すると、増幅率Aが100のアンプの出力電圧は、順方向電圧Vf1及びVf2と定電圧Vbとの差0.006Vを増幅しているため0.6V程度となる。
【0037】
以上説明したように、本実施形態の温度センサは、出力電圧が0.6V程度でありながらも、微小な温度変化(温度係数600uV/0.1K)を測定することが可能である。従って、後段の測定回路の構成が複雑になることがないため使い勝手が良い、又は検査工程に使用されるICテスタにおいて高性能な電圧計を必要としないため製造コストを低くすることができる。
【0038】
次に、本実施形態の温度センサの定電圧源の回路について説明する。
図3は、本実施形態の温度センサの定電圧源の一例を示す回路図である。
定電圧源7は、定電流源13とダイオード50とを備えている。定電流源13とダイオード50は、電源端子2と接地端子3との間に直列に接続されている。定電流源13とダイオード50との接続点は、定電圧源7の出力端子に接続されている。
【0039】
ダイオード50の順方向電圧Vf_repは、ダイオード5の順方向電圧Vfと同じ温度特性を有する。定電流源13は、定電圧Vbが順方向電圧Vf1、Vf2よりも少しだけ低い上述した値になるような定電流I3を出力する。従って、定電圧源7は、順方向電圧Vf1、Vf2よりも少しだけ低く、ダイオード5の順方向電圧Vfと同じ温度特性を有する定電圧Vbを出力する。
【0040】
図4は、本実施形態の温度センサの定電圧源の他の例を示す回路図である。
定電圧源7は、基準電圧源8と電圧変換回路9とを備えている。基準電圧源8は、接地端子3と電圧変換回路9の入力との間に接続されている。基準電圧源8の出力端子は、電圧変換回路9の入力端子に接続されている。電圧変換回路9の出力端子は、定電圧源7の出力端子に接続されている。
【0041】
基準電圧源8は、ダイオード5の順方向電圧Vfと同じ温度特性を有する基準電圧Vrefを出力する。電圧変換回路9は、基準電圧Vrefを定電圧Vbに変換して出力する。定電圧Vbは、順方向電圧Vf1、Vf2よりも少しだけ低い電圧である。従って、定電圧源7は、順方向電圧Vf1、Vf2よりも少しだけ低く、ダイオード5の順方向電圧Vfと同じ温度特性を有する定電圧Vbを出力する。電圧変換回路9は、例えばボルテージレギュレータやDAコンバータなどである。
【0042】
上述のような定電圧源7は、電圧変換回路9を備えるので、定電圧Vbを容易に所望の電圧に調整することができる。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階では、上述した実施形態以外にも様々な形態で実施することが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、追加、置き換え又は変更することができる。
【0044】
例えば、実施形態では感温素子であるダイオードと説明したが、これに限定されるものではなく、ダイオード接続したPNPトランジスタ又はNPNトランジスタ等、PN接合素子であればよい。また上記例では、ダイオードの順方向電圧Vfを0.6V程度、ダイオードの順方向電圧Vfと同じ温度特性を有する定電圧Vbを0.594Vとして説明したが、それぞれ0.6Vと0.594Vに限定されるものではない。また上記例では、可変電流源がダイオードに供給する2つの異なる電流値は、2つに限定されるものではなく、3つ以上の異なる電流値を用いて温度測定を行ってもよい。
【0045】
これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0046】
1 温度センサ
2 電源端子
3 接地端子
4 出力端子
5 ダイオード
6 アンプ
7 定電圧源
8 基準電圧源
9 電圧変換回路
10 可変電流源
11、12、13 定電流源
21、22 スイッチ
50 ダイオード