(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092080
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】車両の診断方法及び車両の診断装置
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20240701BHJP
F02M 25/08 20060101ALI20240701BHJP
F02B 37/00 20060101ALI20240701BHJP
F01M 13/00 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
F02D45/00 345
F02M25/08 Z
F02D45/00 366
F02B37/00 302E
F01M13/00 K
F01M13/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207756
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】宮本 貴司
(72)【発明者】
【氏名】福家 鉄也
(72)【発明者】
【氏名】前原 創
(72)【発明者】
【氏名】山下 晋平
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 健一
【テーマコード(参考)】
3G005
3G015
3G144
3G384
【Fターム(参考)】
3G005EA04
3G005EA16
3G005FA23
3G005GB15
3G005HA00
3G005JA21
3G005JA36
3G005JA51
3G005JB02
3G005JB05
3G005JB09
3G005JB17
3G015BD12
3G015FC01
3G144AA03
3G144BA22
3G144BA24
3G144DA01
3G144EA14
3G144FA02
3G144FA06
3G144FA20
3G144FA27
3G144FA29
3G144FA32
3G144HA02
3G144HA07
3G144HA08
3G384BA04
3G384BA38
3G384DA47
3G384FA01B
3G384FA06Z
3G384FA37Z
3G384FA58Z
3G384FA71Z
3G384FA79Z
3G384FA85Z
(57)【要約】
【課題】2つの相異なるシステムの異常診断の診断精度の悪化を抑制する。
【解決手段】ブローバイガス還流システムの異常診断及び蒸発燃料処理システムの異常診断は、エアフローメータの検出信号を利用したものであり、一方の異常診断中に他方の異常診断を実施すると、診断中のエアフローメータの検出信号が安定しなく虞がある。そこで、ECMは、ブローバイガス還流システムの異常診断と蒸発燃料処理システムの異常診断とを重複しないように実施する。つまり、ブローバイガス還流システムの異常診断中に、蒸発燃料処理システムの異常診断の開始条件が成立した場合は、ブローバイガス還流システムの異常診断の終了を待って蒸発燃料処理システムの異常診断を開始する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過給機を有する内燃機関と、
上記内燃機関の吸気通路に接続されたブローバイガス処理用のブローバイガス還流システムと、
上記吸気通路に接続された蒸発燃料処理用の蒸発燃料処理システムと、を有する車両の診断方法において、
上記ブローバイガス還流システムの異常の有無を判定するブローバイガス還流システムの異常診断と、上記蒸発燃料処理システムの異常の有無を判定する蒸発燃料処理システムの異常診断と、を実施可能であり、
上記ブローバイガス還流システムの異常診断と上記蒸発燃料処理システムの異常診断とを重複しないように実施することを特徴とする車両の診断方法。
【請求項2】
上記ブローバイガス還流システムの異常診断及び上記蒸発燃料処理システムの異常診断は、上記吸気通路に設けられた吸入空気量検出センサの検出値を用いて実施されることを特徴とする請求項1に記載の車両の診断方法。
【請求項3】
上記吸気通路には、上記過給機の下流側に位置して上記内燃機関の吸入空気量を制御する第1吸気絞り弁と、上記過給機の上流側に位置するとともに、吸入空気量検出センサの下流側に位置する第2吸気絞り弁と、が設けられ、
上記ブローバイガス還流システムは、上記吸入空気量検出センサの下流側となる位置で上記吸気通路に接続され、
上記蒸発燃料処理システムは、第2吸気絞り弁の上流側で、上記吸入空気量検出センサの下流側となる位置で上記吸気通路に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の車両の診断方法。
【請求項4】
過給機を有する内燃機関と、
上記内燃機関の吸気通路に接続されたブローバイガス処理用のブローバイガス還流システムと、
上記吸気通路に接続された蒸発燃料処理用の蒸発燃料処理システムと、
上記ブローバイガス還流システムの異常の有無を判定する第1診断部と、
上記蒸発燃料処理システムの異常の有無を判定する第2診断部と、
上記ブローバイガス還流システムの異常診断と上記蒸発燃料処理システムの異常診断とを重複しないように実施する異常診断制御部と、
を有することを特徴とする車両の診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の診断方法及び車両の診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、内燃機関のブローバイガスを吸気通路に戻すブローバイガス還流システムの異常の有無を診断する技術が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、燃料タンク内の蒸発燃料を含むパージガスを内燃機関の吸気経路に供給する蒸発燃料処理システムの異常の有無を診断する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2021/176500号
【特許文献2】特開2018-141438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1は、ブローバイガス還流システムを診断することを念頭においたものであり、ブローバイガス還流システムの診断とブローバイガス還流システム以外の他のシステムの診断との両立に関して何ら考慮がなされていない。
【0006】
また、特許文献2は、蒸発燃料処理装置を診断することを念頭においたものであり、蒸発燃料処理装置の診断と蒸発燃料処理装置以外の他の装置の診断との両立に関して何ら考慮がなされていない。
【0007】
従って、特許文献1、2においては、念頭においているシステムの診断と念頭においていないシステムの診断とを併存させた場合に、2つの相異なるシステムの診断が重複して実施された場合に互いの診断が干渉しあって、2つの相異なるシステムの診断精度が悪化してしまう虞がある。
【0008】
すなわち、ブローバイガス還流システムの異常診断と蒸発燃料処理システムの異常診断とが実施される可能性がある車両にあっては、これら2つの異常診断を実施するにあたって、更なる改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の車両は、過給機を有する内燃機関と、上記内燃機関の吸気通路に接続されたブローバイガス処理用のブローバイガス還流システムと、上記吸気通路に接続された蒸発燃料処理用の蒸発燃料処理システムと、を有し、上記ブローバイガス還流システムの異常の有無を判定するブローバイガス還流システムの異常診断と、上記蒸発燃料処理システムの異常の有無を判定する蒸発燃料処理システムの異常診断と、を重複しないように実施する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ブローバイガス還流システムの異常診断と蒸発燃料処理システムの異常診断とが重複して実施されないことで、互いの診断が干渉しあうことを回避することができ、それぞれ異常診断の診断精度が悪化してしまうことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】内燃機関のシステム構成の概略を模式的に示した説明図。
【
図2】内燃機関のシステム構成の概略を模式的に示した説明図。
【
図3】ブローバイガス還流システムの異常診断の制御の流れを示すフローチャート。
【
図4】
図3のステップS5からステップS8に至る間のエアフローメータの出力の変化を示すタイミングチャート。
【
図5】蒸発燃料処理システムの異常診断を実施した際の動作の一例を示すタイミングチャート。
【
図6】蒸発燃料処理システムの異常診断の流れを示すフローチャート。
【
図7】ブローバイガス還流システムの異常診断開始条件と蒸発燃料処理システムの異常診断開始条件とが重複して成立した場合の挙動の一例を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る車両に搭載される内燃機関1のシステム構成の概略を模式的に示した説明図である。
図1は、主としてブローバイガス還流システム31を模式的に示した説明図である。
図2は、主として蒸発燃料処理システム41を模式的に示した説明図である。
【0013】
内燃機関1は、例えば多気筒の火花点火式ガソリン機関である。内燃機関1の各気筒には、吸気マニホールド2を介して吸気通路3が接続されている。
【0014】
図1及び
図2に示すように、吸気通路3には、吸気中の異物を捕集するエアクリーナ4と、吸入空気量を検出するエアフローメータ5と、電動のスロットル弁6と、スロットル弁6の上流側に位置する電動の圧力制御弁7と、が設けられている。
【0015】
エアフローメータ5は、吸入空気量検出センサに相当するものであり、圧力制御弁7の上流側に配置されている。エアフローメータ5は、温度センサを内蔵したものであって、吸気温度を検出可能となっている。
【0016】
エアクリーナ4は、エアフローメータ5の上流側に配置されている。
【0017】
スロットル弁6は、第1吸気絞り弁に相当するものであり、負荷に応じて内燃機関1の吸入空気量を制御する。圧力制御弁7は、第2吸気絞り弁に相当するものであって、後述するコンプレッサ10の上流側における吸気圧力を制御する。つまり、圧力制御弁7は、スロットル弁6の上流側に負圧を生成することが可能なものである。
【0018】
スロットル弁6及び圧力制御弁7は、エンジンコントロールモジュール(ECM)8からの制御信号により開度を変更(制御)可能となっている。
【0019】
また、この内燃機関1は、ターボ過給機9を有している。ターボ過給機9は、吸気通路3に設けられたコンプレッサ10と、排気通路13に設けられたタービン11と、を有している。コンプレッサ10とタービン11は、同軸上に配置され、一体となって回転する。コンプレッサ10は、スロットル弁6の上流側となり、圧力制御弁7よりも下流側となる位置に配置されている。
【0020】
吸気通路3には、スロットル弁6の上流側にインタークーラ12が設けられている。インタークーラ12は、コンプレッサ10の下流側に位置し、コンプレッサ10により圧縮(加圧)された吸気を冷却して充填効率を良くするために設けられている。
【0021】
内燃機関1に接続された排気通路13には、三元触媒等の上流側排気触媒14と、三元触媒等の下流側排気触媒15と、三元触媒等の床下触媒16と、排気音を低減する消音用のマフラー17と、が設けられている。
【0022】
下流側排気触媒15は、上流側排気触媒14の下流側となり、床下触媒16よりも上流側となる位置に配置されている。床下触媒16は、下流側排気触媒15の下流側に配置されている。マフラー17は、床下触媒16の下流側に配置されている。
【0023】
排気通路13には、タービン11を迂回してタービン11の上流側と下流側とを接続する排気バイパス通路18が接続されている。排気バイパス通路18の下流側端は、上流側排気触媒14よりも上流側の位置で排気通路13に接続されている。排気バイパス通路18には、排気バイパス通路18内の排気流量を制御する電動のウェイストゲート弁19が配置されている。
【0024】
ここで、圧力制御弁7の下流側には、EGR通路20が接続されている。EGR通路20は、排気通路13から排気ガスの一部を吸気通路3に還流する排気還流(EGR)を可能にするものである。EGR通路20は、その一端が下流側排気触媒15と床下触媒16との間の位置で排気通路13に接続され、その他端が圧力制御弁7の下流側となりコンプレッサ10の上流側となる位置で吸気通路3に接続されている。このEGR通路20には、EGR通路20内のEGRガス流量を調整(制御)する電動のEGR弁21と、EGRガスを冷却可能なEGRクーラ22と、が設けられている。なお、
図1及び
図2における符号23は、スロットル弁6の下流側に位置する吸気コレクタである。
【0025】
吸気通路3には、ブローバイガスを吸気通路3に導入して処理するブローバイガス処理用のブローバイガス還流システム31が接続されている。ブローバイガス還流システム31は、吸気通路3におけるエアフローメータ5よりも下流側の位置に接続された複数の配管を利用して構成されるものである。
【0026】
ブローバイガス還流システム31は、
図1に示すように、第1配管32、第2配管33、第3配管34、逆止弁35、制御弁36及びPCVバルブ37を有している。ブローバイガスは、シリンダとピストンの隙間を通って、内燃機関1の燃焼室38から内燃機関1のクランクケース39に漏れ出した燃焼ガスである。
【0027】
第1配管32は、吸気通路3おけるスロットル弁6と圧力制御弁7との間の位置と内燃機関1のクランクケース39とを接続する(連通させる)ものである。第1配管32は、一端が吸気通路3おけるスロットル弁6と圧力制御弁7との間の位置に接続され、他端が逆止弁35を介して内燃機関1に接続されている。詳述すると、第1配管32は、一端が吸気通路3におけるコンプレッサ10と圧力制御弁7との間の位置に接続されている。第1配管32は、クランクケース39内のブローバイガスを吸気通路3に導入可能なものである。
【0028】
逆止弁35は、クランクケース39から吸気通路3へ向かう方向の流れを許容しつつ、吸気通路3からクランクケース39へ向かう方向の流れを禁止する機能を有している。
【0029】
第2配管33は、吸気通路3における圧力制御弁7とエアフローメータ5との間の位置と内燃機関1のクランクケース39とを接続する(連通させる)ものである。第2配管33は、一端が吸気通路3における圧力制御弁7とエアフローメータ5との間の位置に新気制御弁としての制御弁36を介して接続され、他端が内燃機関1に接続されている。第2配管33は、内燃機関1のクランクケース39に新気(空気)を導入可能なものである。
【0030】
制御弁36は、第2配管33内の新気(空気)の流れを制御する機能を有している。制御弁36は、第2配管33の一端を開閉可能に配置され、ECM8からの制御信号により開度を変更(制御)可能となっている。
【0031】
制御弁36は、後述するブローバイガス還流システム31の異常診断時には、吸気通路3から第2配管33に空気が流れ込まないように、全閉状態に制御される。また、制御弁36は、後述するブローバイガス還流システム31の異常診断時以外は、吸気通路3から第2配管33への空気の流れが許容されるように、開状態に制御される。
【0032】
第3配管34は、吸気通路3におけるスロットル弁6よりも下流側の位置と内燃機関1のクランクケース39とを接続する(連通させる)ものである。第3配管34は、一端が吸気通路3におけるスロットル弁6よりも下流側の位置に接続され、他端がPCVバルブ37を介して内燃機関1に接続されている。第3配管34は、クランクケース39内のブローバイガスを吸気通路3に導入可能なものである。
【0033】
PCVバルブ37は、第3配管34内のガスの流量を制御するものである。PCVバルブ37は、例えば周知の差圧作動弁であり、内燃機関1に取り付けられ、クランクケース39側の入口部の圧力と、吸気通路3側の出口部の圧力と、の差圧が大きいときに開くように作動する。詳述すると、PCVバルブ37は、第3配管34を通して吸気通路3からクランクケース39内部へ外気が逆流することを防ぎつつ、差圧に応じてクランクケース39から吸気通路3へブローバイガスを排出させるものである。つまり、内燃機関1は、スロットル弁6よりも下流側の負圧を利用して、PCVバルブ37及び第3配管34を介してブローバイガスを吸気通路3に戻すことが可能である。
【0034】
吸気通路3には、
図2に示すように、燃料タンク42で発生した蒸発燃料を吸気通路3に導入して処理する蒸発燃料処理用の蒸発燃料処理システム41が接続されている。蒸発燃料処理システム41は、吸気通路3におけるエアフローメータ5よりも下流側、かつ圧力制御弁7よりも上流側の位置に接続されている。
【0035】
蒸発燃料処理システム41は、エバポ通路43と、蒸発燃料の吸着脱離が可能なキャニスタ44と、キャニスタ44と吸気通路3の間に位置する電動のパージ制御弁45と、キャニスタ44のパージ用のパージポンプ46と、を有している。
【0036】
エバポ通路43は、燃料蒸発を吸気通路3に導入するものであって、エアフローメータ5の下流側、かつ圧力制御弁7の上流側となる位置で吸気通路3に接続されている。エバポ通路43は、一端が吸気通路3に接続され、他端が外部(大気)に開放(開口)されている。
【0037】
キャニスタ44は、エバポ通路43上に設けられ、燃料タンク42に発生した蒸発燃料が導入されている。キャニスタ44は、蒸発燃料を吸着保持するものである。
【0038】
パージ制御弁45は、エバポ通路43上に設けられ、キャニスタ44とエバポ通路43の一端との間に位置している。
【0039】
パージポンプ46は、エバポ通路43上に設けられ、キャニスタ44とパージ制御弁45との間に位置している。パージポンプ46は、パージ制御弁45が開弁した際に燃料タンク42からの蒸発燃料を含むパージガスを加圧して吸気通路3に導入する。パージポンプ46は、車両の走行中は常に回転しているものであって、キャニスタ44に吸着された蒸発燃料量である吸着燃料量に応じて回転数が制御される。
【0040】
例えば、吸着燃料量が多すぎる場合は、パージ制御弁45を開弁した際に吸気通路3に大量の蒸発燃料が流入しないように、パージポンプ46の回転数が小さくなるように制御される。吸着燃料量がゼロに近い等の少なすぎる場合は、パージ制御弁45を開弁した際にパージガスを大量に吸気通路3に流入させても意味がないので、パージポンプ46の回転数が小さくなるように制御される。パージポンプ46は、ECM8からの制御信号によって回転数が制御される。
【0041】
ECM8は、CPU、ROM、RAM及び入出力インターフェースを備えた周知のデジタルコンピュータである。ECM8には、上述したエアフローメータ5の検出信号のほか、クランクシャフトのクランク角を検出するクランク角センサ51、アクセルペダルの踏込量を検出するアクセル開度センサ52、クランクケース39内の圧力を検出する圧力センサ53、空燃比を検出するA/Fセンサ(空燃比センサ)54、車両の車速を検出する車速センサ55、ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキセンサ56、大気圧を検出する大気圧センサ57等の各種センサ類の検出信号が入力されている。
【0042】
クランク角センサ51は、内燃機関1の機関回転数を検出可能なものである。ECM8は、各種センサ類の検出信号に基づいて、内燃機関1の運転を制御している。アクセル開度センサ52は、アクセルペダルの操作速度であるアクセル変化速度を検出可能なものである。A/Fセンサ54は、排気空燃比に応じたほぼリニアな出力特性を有するいわゆる広域型の空燃比センサであり、上流側排気触媒14の上流側に位置し、排気バイパス通路18の下流側端よりも下流側に位置している。
【0043】
そして、ECM8は、車両診断として、ブローバイガス還流システム31の異常診断を実施可能となっている。つまり、ECM8は、第1診断部に相当する。
【0044】
図3を用いてブローバイガス還流システム31の異常診断について説明する。
図3は、ブローバイガス還流システム31の異常診断の制御の流れを示すフローチャートである。ブローバイガス還流システム31の異常診断は、ブローバイガス還流システム31の経路内のリークの有無を診断している。
【0045】
ステップS1では、制御弁36を閉弁する。ステップS2では、圧力センサ53で検出されたクランクケース39内の圧力P1が予め設定された所定の閾値P2に到達した否かを判定する。
【0046】
制御弁36を閉弁した場合、クランクケース39への新気の導入が停止されるため、ブローバイガス還流システム31の経路内にリークがなければクランクケース内の圧力P1は低下する。これは、第3配管34及びPCVバルブ37を介してクランクケース39内のブローバイガスがスロットル弁6下流側の吸気通路3に流入するためである。そこで、ステップS2では、制御弁36を閉弁することでクランクケース内の圧力P1が閾値P2に到達するほど低下したか否かを判定している。
【0047】
なお、ステップS1及びステップS2は、内燃機関1が低負荷運転中に実施される。さらに言えば、ステップS1及びステップS2は、内燃機関1の運転領域が非過給領域にあるときに実施される。
【0048】
ステップS2においてクランクケース39内の圧力P1が閾値P2に到達するほど低下したと判定された場合には、ステップS3へ進む。
【0049】
ステップS2においてクランクケース39内の圧力P1が閾値P2に到達するほど低下しないと判定された場合には、ステップS4へ進む。
【0050】
ステップS3では、ブローバイガス還流システム31の経路内にリークがない(異常がない)と判定する。
【0051】
ステップS4では、ブローバイガス還流システム31の経路内にリークの可能性有と判定する。具体的には、ステップS4では、ブローバイガス還流システム31の経路内にリークがあるか、逆止弁35あるいはPCVバルブ37が閉弁状態で固着しているか、のいずれかが生じていると判定する。
【0052】
ステップS5では、圧力制御弁7を全開にする。また、ステップS5では、EGR弁21を合わせて全閉にする。
【0053】
ステップS6では、圧力制御弁7を全開、EGR弁21を全閉にした際のエアフローメータ5の検出信号から吸入空気量Qvalve_openを検出する。
【0054】
ステップS7では、圧力制御弁7を全閉にする。ステップS7では、EGR弁21の全閉を維持する。
【0055】
ステップS8では、圧力制御弁7を全閉、EGR弁21を全閉にした際のエアフローメータ5の検出信号から吸入空気量Qvalve_closeを検出する。
【0056】
ステップS9では、検出された吸入空気量Qvalve_openと検出された吸入空気量Qvalve_closeが等しい値であるか否かを判定する。ステップS9において吸入空気量Qvalve_openと吸入空気量Qvalve_closeが等しいと判定された場合には、ステップS3へ進む。ステップS9において吸入空気量Qvalve_openと吸入空気量Qvalve_closeが異なると判定された場合には、ステップS10へ進む。
【0057】
ブローバイガス還流システム31の経路内にリークがあると、リークした箇所からの吸気の流出により吸入空気量Qvalve_openと吸入空気量Qvalve_closeが異なる値となる。
【0058】
なお、ステップS5~ステップS9は、内燃機関1の燃料噴射を停止する燃料カット(フューエルカット)中に実施される。内燃機関1の燃料カットは、車両の減速走行時に実施される。
【0059】
ステップS10では、ブローバイガス還流システム31の経路内にリークがある(異常がある)と判定する。
【0060】
ブローバイガス還流システム31の異常診断は、制御弁36を閉弁して行うステージ1(ステップS1、S2)と、圧力制御弁7を全開位置から全閉位置に変化させて行うステージ2(ステップS5、S6、S7、S8、S9)とから構成され、ステージ1の実施後、ステージ2の実施条件が成立するまでの間も終了せずに継続状態となる。つまり、ブローバイガス還流システム31の異常診断は、上記ステージ1が実施されてクランクケース39内の圧力P1が閾値P2に到達するほど低下しないと判定された場合、燃料カットが実施されて上記ステージ2が実施されるまで終了せずに実行状態が維持される。
【0061】
図4は、
図3のステップS5からステップS8に至る間のエアフローメータ5の出力(吸入空気量)の変化を示すタイミングチャートである。
【0062】
図4中の時刻t1は、エアフローメータ5の出力(検出信号)が安定したタイミングである。時刻t1までに、燃料カットが開始され、圧力制御弁7が全開、EGR弁21が全閉に制御される。
図4中の時刻t2は、圧力制御弁7を全開から全閉に切り替えるタイミングである。
図4中の時刻t3は、エアフローメータ5の出力(検出信号)が安定したタイミングである。時刻t3までに、圧力制御弁7が全閉に制御される。EGR弁21は、引き続き全閉に制御されている。
図4中の時刻t4は、圧力制御弁7及びEGR弁21の全閉状態を終了するタイミングである。
【0063】
吸入空気量Qvalve_openは、例えば、
図4中の時刻t1~時刻t2間のエアフローメータ5の出力(検出信号)の平均値である。吸入空気量Qvalve_closeは、例えば、
図4中の時刻t3~時刻t4間のエアフローメータ5の出力(検出信号)の平均値である。
【0064】
さらに、ECM8は、車両診断として、蒸発燃料処理システム41の異常診断を実施可能となっている。つまり、ECM8は、所定の第2吸入空気量を算出した際に、パージ制御弁45を開弁した状態で所定の第1吸入空気量を検出し、第1吸入空気量と第2吸入空気量との差分である診断パラメータを用いて蒸発燃料処理システム41の異常の有無を判定するものであり、第2診断部に相当する。診断パラメータは、第2吸入空気量から第1吸入空気量を減じたものである。また、ECM8は、第2吸入空気量を算出する第2吸入空気量算出部に相当する。
【0065】
ここで、第2吸入空気量とは、内燃機関1の吸気系に配置された各種デバイス(例えばスロットル弁6や内燃機関1の図示しない可変動弁機構等)の作動状況(スロットル開度や可変動弁機構による吸気弁のバルブタイミング)と内燃機関1の機関回転数、大気圧等に基づいて演算により間接的に算出される理論上の吸入空気量であるモデル吸入空気量である。第2吸入空気量は、吸気系デバイスの作動に伴う吸入空気量の変化を反映させた値であり、内燃機関1の運転状態の変化に追従した値として算出される。また、第2吸入空気量は、パージ制御弁45が閉弁している前提で算出される。すなわち、第2吸入空気量が算出される際にパージ制御弁45が開弁していても、パージ制御弁45は閉弁しているものとして、内燃機関1の運転状態や吸気系の各種デバイスの作動状況等に基づいて第2吸入空気量が算出される。
【0066】
第1吸入空気量は、エアフローメータ5の検出値であり、パージ制御弁45が閉弁した状態のとき理論上は第2吸入空気量と同一の値となる。
【0067】
第1吸入空気量は、同一の運転状態であっても、パージ制御弁45を開弁した状態とパージ制御弁45を閉弁した状態とで変化する。エバポ通路43が吸気通路3に対して離れていない状態、すなわちエバポ通路43が吸気通路3に接続された正常状態では、パージ制御弁45を開弁するとパージポンプ46で加圧されたパージガスが吸気通路3に導入されることになる。
【0068】
従って、正常状態での第1吸入空気量(エアフローメータ5の検出値)は、パージガスが吸気通路3に導入されると、同一の運転状態であれば、パージガスが吸気通路3に導入されない場合に比べて減少する。これは、パージガスの導入分だけエアフローメータ5を通過する空気量が減少するためである。
【0069】
また、エバポ通路43が吸気通路3に対して離れているような状態、すなわちエバポ通路43が吸気通路3に正しく接続されていない異常状態では、パージ制御弁45を開弁してもパージポンプ46で加圧されたパージガスが吸気通路3に導入されなくなる。
【0070】
従って、異常状態での第1吸入空気量(エアフローメータ5の検出値)は、パージ制御弁45が開弁状態であってもパージガスが吸気通路3に導入されることはないので、同一の運転状態であれば、パージ制御弁45の開閉状態に関わらず一定になるはずである。
【0071】
そこで、蒸発燃料処理システム41の異常診断は、第1吸入空気量と第2吸入空気量との差分である診断パラメータが予め設定された所定の第1閾値以下のときに蒸発燃料システムを異常と診断する。なお、診断パラメータは、パージ制御弁45の制御デューティが100%になってから検出された第1吸入空気量と、第2吸入空気量とに基づいて算出される。
【0072】
蒸発燃料処理システム41の異常診断は、診断中に吸気通路3に流入したパージガスが内燃機関1の筒内から排出されたときに終了する。すなわち、診断パラメータが算出され、パージ制御弁45が閉弁されてから所定時間が経過するまでは、通常のパージ制御は禁止される。通常のパージ制御は、空燃比フィードバック制御中にパージ制御弁45を開弁して吸気通路3に適宜のパージガスを導入する制御である。
【0073】
図5は、蒸発燃料処理システム41の異常診断を実施した際の動作の一例を示すタイミングチャートである。
図5中に実線で示す空気量は、第1吸入空気量である。
図5中に破線で示す空気量は、第2吸入空気量である。
【0074】
図5中の時刻t1は、内燃機関1の燃料カットが開始されるタイミングである。
図5中の時刻t2は、パージ制御弁45の開弁に備えてパージポンプ46の回転数を増加させるタイミングである。時刻t2は、例えば、後述する
図6のステップS21~ステップS24の条件が全て「Yes」となるタイミングである。
図5中の時刻t3は、パージポンプ46の回転数が診断用の回転数(蒸発燃料処理システム41の異常診断用の回転数)に到達したタイミングであり、パージ制御弁45を全閉(デューティ比0%)から全開(デューティ比100%)に切り替えるタイミングである。
図5中の時刻t4は、パージ制御弁45が全開となるタイミングである。
図5中の時刻t5は、時刻t4から所定時間経過したタイミングであり、診断パラメータが算出されるタイミングである。診断パラメータは、第1吸入空気量と第2吸入空気量との差分を時刻t4~時刻t5の間積算し、所定時間(時刻t4から時刻t5までの間の時間)で除して得られた流量差(第1吸入空気量と第2吸入空気量の流量差)の平均値である。
【0075】
なお、
図5における第2吸入空気量は、パージ制御弁45が全閉から全開に切り替えられる時刻t3以前、及びパージ制御弁45が全開から全閉に切り替えられて実際にパージ制御弁45が全閉となったタイミング(時刻t5より応答遅れ相当の時間経過後)以降、第1吸入空気量と一致している。
【0076】
蒸発燃料処理システム41の異常診断は、
図5中の時刻t5のタイミングで算出された診断パラメータの値が第1閾値以下のときに、異常があると判定する。
【0077】
図6は、蒸発燃料処理システム41の異常診断の制御の流れを示すフローチャートである。
【0078】
ステップS21では、燃料カット中であるか否かを判定する。ステップS21において、内燃機関1が燃料カット中でないと判定された場合は、蒸発燃料処理システム41の異常診断を実施せずに今回のルーチンを終了する。
【0079】
ステップS22では、パージ制御弁45を開弁した際に筒内の空燃比が第1空燃比以上になるか否かを判定する。ステップS22において、パージ制御弁45を開弁した際に筒内の空燃比が第1空燃比以上にならない判定された場合は、蒸発燃料処理システム41の異常診断を実施せずに今回のルーチンを終了する。
【0080】
ステップS23では、エアフローメータ5の検出値である第1吸入空気量が所定の範囲内に入った状態であるか否かを判定する。ステップS23において、第1吸入空気量が所定の範囲内に入った状態でないと判定された場合は、蒸発燃料処理システム41の異常診断を実施せずに今回のルーチンを終了する。
【0081】
ステップS24では、上流側排気触媒14が所定温度以上のであるか否かを判定する。ステップS24において、上流側排気触媒14が所定温度以上のでないと判定された場合は、蒸発燃料処理システム41の異常診断を実施せずに今回のルーチンを終了する。
【0082】
ステップS25では、パージポンプ46の回転数を蒸発燃料処理システム41の異常診断用の回転数まで増加させる。
【0083】
ステップS26では、パージ制御弁45を開弁する。ステップS27では、第2吸入空気量を算出する。ステップS28では、第1吸入空気量を検出する。ステップS29では、第1吸入空気量と第2吸入空気量の差分である診断パラメータを算出する。診断パラメータは、所定時間の間第1吸入空気量と第2吸入空気量との差分を積算したものをこの所定時間で除して得られた流量差の平均値である。
【0084】
ステップS30では、診断パラメータが第1閾値より大きいか否かを判定する。診断パラメータが第1閾値よりも大きい場合は、ステップS31へ進み蒸発燃料処理システム41に異常はないと判定する。診断パラメータが第1閾値以下の場合は、ステップS32へ進み蒸発燃料処理システム41に異常があると判定する。
【0085】
そして、ECM8は、ブローバイガス還流システム31の異常診断と蒸発燃料処理システム41の異常診断とを重複しないように実施する。つまり、ECM8は、異常診断制御部に相当する。
【0086】
ブローバイガス還流システム31の異常診断中に、蒸発燃料処理システム41の異常診断の開始条件が成立した場合は、ブローバイガス還流システム31の異常診断の終了を待って蒸発燃料処理システム41の異常診断を開始する。
【0087】
車両が減速状態となって燃料カットを実施した場合、ブローバイガス還流システム31の異常診断で上記ステージ1が実施されてクランクケース39内の圧力P1が閾値P2に到達するほど低下しないと判定されている状態であれば、ブローバイガス還流システム31の異常診断で上記ステージ2が実施されてブローバイガス還流システム31の異常診断が終了するのを待って、蒸発燃料処理システム41の異常診断を開始する。
【0088】
すなわち、ブローバイガス還流システム31と蒸発燃料処理システム41の一方のシステムの異常診断中は、他方のシステムの診断開始条件が成立しても一方のシステムの異常診断が終了するまで他方のシステムの異常診断を実施しない。ブローバイガス還流システム31の異常診断と蒸発燃料処理システム41の異常診断は、開始条件の成立が速いものから順番に実施する。
【0089】
ブローバイガス還流システム31の異常診断及び蒸発燃料処理システム41の異常診断は、エアフローメータ5の検出信号を利用したものであり、一方の異常診断中に他方の異常診断を実施すると、診断中のエアフローメータ5の検出信号が安定しなく虞がある。
【0090】
ブローバイガス還流システム31の異常診断時におけるブローバイガス還流システム31の挙動は、蒸発燃料処理システム41の異常診断に影響を及ぼす虞がある。同様に、蒸発燃料処理システム41の異常診断時における蒸発燃料処理システム41の挙動は、ブローバイガス還流システム31の異常診断に影響を及ぼす虞がある。
【0091】
ブローバイガス還流システム31の異常診断及び蒸発燃料処理システム41の異常診断は、エアフローメータ5の検出信号を利用したものであり、一方の異常診断中に他方の異常診断を実施すると、診断中のエアフローメータ5の検出信号が安定しなくなる虞がある。
【0092】
そこで、車両は、ブローバイガス還流システム31の異常診断と蒸発燃料処理システム41の異常診断とを重複して実施しないことで、ブローバイガス還流システム31の異常診断と蒸発燃料処理システム41の異常診断とが互いに干渉し合うことを回避することができ、それぞれの異常診断の診断精度が悪化してしまうことを抑制することができる。
【0093】
ブローバイガス還流システム31の異常診断及び蒸発燃料処理システム41の異常診断に用いられるエアフローメータ5の検出信号は、ブローバイガス還流システム31の異常診断と蒸発燃料処理システム41の異常診断とが重複して実施されないことで、安定することになる。
【0094】
図7は、ブローバイガス還流システム31の異常診断開始条件と蒸発燃料処理システム41の異常診断開始条件とが重複して成立した場合の挙動の一例を示すタイミングチャートである。
【0095】
図7中の時刻t1は、ブローバイガス還流システム31の異常診断開始条件が成立し、ブローバイガス還流システム31の異常診断が開始されるタイミングである。ブローバイガス還流システム31の異常診断開始条件は、例えば、内燃機関1の運転領域が低負荷運転領域、非過給領域にある場合である。
【0096】
図7中の時刻t2は、蒸発燃料処理システム41の異常診断開始条件が成立したタイミングである。時刻t2においては、ブローバイガス還流システム31の異常診断が実行中(診断中)であるため、蒸発燃料処理システム41の異常診断は実行されない。
【0097】
図7中の時刻t3は、ブローバイガス還流システム31の異常診断が終了し、蒸発燃料処理システム41の異常診断が開始されるタイミングである。蒸発燃料処理システム41の異常診断は、ブローバイガス還流システム31の異常診断の終了を待って開始される。
【0098】
以上、本発明の具体的な実施例を説明してきたが、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。上述した実施例は、車両の診断方法及び車両の診断装置に関するものである。
【符号の説明】
【0099】
1…内燃機関
3…吸気通路
5…エアフローメータ
6…スロットル弁
7…圧力制御弁
8…ECM
9…ターボ過給機
10…コンプレッサ
11…タービン
12…インタークーラ
13…排気通路
31…ブローバイガス還流システム
32…第1配管
33…第2配管
34…第3配管
35…逆止弁
36…制御弁
37…PCVバルブ
39…クランクケース
41…蒸発燃料処理システム
42…燃料タンク
43…エバポ通路
44…キャニスタ
45…パージ制御弁
46…パージポンプ