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特開2024-92083溶融亜鉛浴設備用鋼板、その製造方法および溶融亜鉛浴設備
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092083
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】溶融亜鉛浴設備用鋼板、その製造方法および溶融亜鉛浴設備
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240701BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20240701BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20240701BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
C22C38/00 301B
C21D8/02 B
C22C38/06
C22C38/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207759
(22)【出願日】2022-12-26
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PHOTOSHOP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】谷澤 彰彦
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】川路 芳正
(72)【発明者】
【氏名】山口 亮
(72)【発明者】
【氏名】田中 敏隆
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA05
4K032AA08
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA24
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032AA40
4K032BA01
4K032CA02
4K032CA03
4K032CC02
4K032CC03
4K032CD02
4K032CD03
4K032CD06
4K032CF01
4K032CF02
(57)【要約】
【課題】溶接構造用鋼としての所要の靭性及び耐溶接割れ性を具備し、耐溶融亜鉛腐食性および耐亜鉛割れ性に優れた溶融亜鉛浴設備用鋼板、その製造方法および溶融亜鉛浴設備を提供する。
【解決手段】質量%で、特定量のC、Si、Mnを含有し、P、S、Al、Bを特定範囲に制限し、CEZを0.44以下に制限し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、圧延方向に平行、且つ、板面に垂直な板厚断面において、板厚方向で板面からt/4部(t:板厚)までの表層の金属組織のうち、面積率で30%超がフェライト組織であり、残部がベイナイト組織を面積率で90%以上有する硬質第二相であり、試験片の長手方向が圧延方向に平行で、板面から板厚方向に1mmの位置から採取した2mmVノッチ試験片を用いたシャルピー衝撃試験で得られる吸収エネルギーが-40℃で27J以上である、溶融亜鉛浴設備用鋼板。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.12%超0.30%未満、
Si:0.05%以下、
Mn:0.20~2.0%
を含有し、
P:0.015%以下、
S:0.030%以下、
Al:0.070%以下、
B:0.0002%以下
に制限し、
式(1)に示すCEZを0.44以下に制限し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
圧延方向に平行、且つ、板面に垂直な板厚断面において、板厚方向で板面からt/4部(t:板厚)までの表層の金属組織のうち、面積率で30%超がフェライト組織であり、残部がベイナイト組織を面積率で90%以上有する硬質第二相であり、
試験片の長手方向が圧延方向に平行で、板面から板厚方向に1mmの位置から採取した2mmVノッチ試験片を用いたシャルピー衝撃試験で得られる吸収エネルギーが-40℃で27J以上である、溶融亜鉛浴設備用鋼板。
CEZ=C+Si/17+Mn/7.5+Cu/13+Ni/17+Cr/4.5
+Mo/3+V/1.5+Nb/2+Ti/4.5+420×B・・・式(1)
式(1)中、元素記号は、鋼板中の成分の含有量(質量%)を意味する。
【請求項2】
前記成分組成として、さらに、質量%で、
Cu:0.1~0.5%、
Ni:0.1~2.0%、
Cr:0.02%以上0.10%未満、
Mo:0.02%以上0.10%未満、
Nb:0.003~0.050%、
V:0.01~0.10%、
Ti:0.005~0.050%、
Ca:0.0002~0.0060%、
Mg:0.0002~0.0060%、
REM:0.0002~0.0060%
のうちの1種または2種以上を含有する、請求項1に記載の溶融亜鉛浴設備用鋼板。
【請求項3】
請求項1または2に記載の成分組成を有するスラブを1000~1250℃に加熱し、
圧延終了温度が800℃以下となる熱間圧延を行なったのち、
鋼板表面温度で加速冷却開始温度がAr点-100℃~Ar点-20℃の範囲である加速冷却を開始し、
加速冷却完了後、鋼板表面温度:500~650℃で復熱を終了する、溶融亜鉛浴設備用鋼板の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の成分組成を有するスラブを1000~1250℃に加熱し、
圧延終了温度が800℃以下となる熱間圧延を行なったのち、
鋼板表面温度で加速冷却開始温度がAr点-100℃~Ar点-20℃の範囲である加速冷却を開始し、
加速冷却完了後、鋼板表面温度:500℃未満で復熱を終了し、
500~700℃の焼き戻し温度で焼き戻す、溶融亜鉛浴設備用鋼板の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の溶融亜鉛浴設備用鋼板を用いる溶融亜鉛浴設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材等に溶融亜鉛処理を施す際に用いられる溶融亜鉛浴用釜(浴槽)等を構成する溶融亜鉛浴設備用鋼板に関するものである。より詳しくは、溶融亜鉛による腐食に対して優れた耐食性を有し、且つ、溶融亜鉛に起因した割れが従来鋼に比べて生じにくく、しかも、ガス切断や溶接施工が可能で経済的な、耐溶融亜鉛腐食性および耐亜鉛割れ性に優れた溶融亜鉛浴設備用鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄鋼材料に施す経済的な防錆処理方法として、一般に溶融亜鉛めっき法が広く用いられている。このような溶融亜鉛めっき法は、溶融亜鉛が入れられた鋼製の浴槽に、めっきを施す鋼材を浸漬して行なわれる。
【0003】
上述のような鋼製の浴槽は、溶融亜鉛と接触する界面において、溶融亜鉛と浴槽の鉄とが反応し、鉄-亜鉛合金層を形成するため、腐食が進行してしまう。この際の腐食速度は、溶融亜鉛の温度が500℃近傍である場合に非常に大きくなるので、浴槽の温度管理が適切でないと、短期間で減肉による破損が生じたり、穴あきが生じたりすることにより、浴槽が使用できなくなるという問題がある。
【0004】
上述のような腐食の問題に対し、浴槽をなす鋼の化学成分組成において、特許文献1では、C量を0.12~0.30%、P量を0.015%以下に制御することで耐亜鉛腐食性を改善した亜鉛釜用鋼材の技術が開示されている。
特許文献2では、C量を0.05~0.12質量%に制御することで溶融亜鉛中の割れ感受性を下げて耐溶融亜鉛腐食性及び耐溶融亜鉛脆化性に優れた鋼材の技術が開示されている。
特許文献3では、C量やNb量を適切に制御することで耐溶融亜鉛腐食性だけでなく高温強度を確保し、使用中の高温での変形を防止する技術が開示されている。
特許文献4では、Cr、V含有量を制御することで亜鉛割れの進展を抑制した亜鉛めっき釜用鋼材の技術が開示されている。
特許文献5では、Moを0.10%以上含有させることで、また、特許文献6では、Moを0.1%以上含有させることで、耐亜鉛腐食性を改善したり、使用中の高温での変形を防止したりする技術が開示されている。
特許文献7および特許文献8では、Al量をP量に応じて制御することで耐溶融亜鉛腐食性を向上させた亜鉛メッキ釜用鋼材やメッキ槽の技術が開示されている。
特許文献9では、結晶粒度を結晶粒度番号でNo.8以上に調整した耐溶融亜鉛用鉄鋼材により溶融亜鉛による腐食による溶損量を低減する技術が開示されている。
特許文献10では、フェライトとパーライトからなる組織形態に制御し、そのフェライト組織の平均アスペクト比を2以上にすることで、耐溶融亜鉛腐食性のみならず、耐亜鉛割れ性にも優れた溶融亜鉛浴設備用鋼板の技術が開示されている。
特許文献11では、フェライトとパーライトからなる組織形態に制御し、そのフェライト組織の平均アスペクト比を2以上とする鋼板を用いた溶融亜鉛浴設備の技術が開示されている。
また、特許文献12では、圧延方向に平行、かつ、板面に垂直な板厚断面において、板厚方向で板面からt/4部までの表層の金属組織のうち、面積率で70%以上がベイナイト組織である耐溶融亜鉛腐食性および耐亜鉛割れ性に優れた溶融亜鉛浴設備用鋼板の技術が開示されている。
特許文献13では、圧延方向に平行、かつ、板面に垂直な板厚断面において、板厚方向で板面からt/4部までの表層の金属組織のうち、面積率で70%以上がベイナイト組織であり、残部がフェライト組織である鋼板を用いて構成される溶融亜鉛浴設備の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭49-130310号公報
【特許文献2】特開2003-231942号公報
【特許文献3】特開昭60-116746号公報
【特許文献4】特開昭54-99031号公報
【特許文献5】特開昭49-107911号公報
【特許文献6】特開2002-241888号公報
【特許文献7】特開昭53-8314号公報
【特許文献8】特開2000-239816号公報
【特許文献9】特開昭55-31172号公報
【特許文献10】特開2013-177682号公報
【特許文献11】特開2017-122280号公報
【特許文献12】特開2013-177681号公報
【特許文献13】特開2017-133106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~13に記載の鋼材では、腐食は抑制できるが鋼材表面の粒界などから割れが発生し、進展した際の抵抗力がなく、結果として十分な溶融亜鉛浴設備としての寿命が得られない。
すなわち、特許文献1~13に記載の鋼材では、溶融亜鉛に起因した割れの抑制も含め、十分な耐亜鉛割れ性を備えているとは言えなかった。
このように、溶接構造用鋼としての所要の靭性および溶接性(以下、耐溶接割れ性とも記す)を具備しながら、溶融亜鉛による腐食に対する耐食性(以下、耐溶融亜鉛腐食性とも記す)および耐亜鉛割れ性の全てを十分満足する溶融亜鉛浴設備用鋼板の技術の確立が希求されていた。
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、靭性、耐溶接割れ性、耐溶融亜鉛腐食性および耐亜鉛割れ性に優れた溶融亜鉛浴設備用鋼板、その製造方法および溶融亜鉛浴設備を提供することを目的とする。
【0007】
なお、本発明において、靭性に優れるとは、JIS Z2242に準拠し、試験片の長手方向が圧延方向に平行で、かつ、板面から板厚方向に1mmの位置から採取した2mmVノッチ試験片を用いて、シャルピー衝撃試験を行ない、-40℃における吸収エネルギーが27J以上であることを指す。
【0008】
また、本発明において、耐溶接割れ性に優れるとは、y型溶接割れ試験(JIS Z3158)において、ルート間隔1.0mmとして、開先を用意し、溶接材料としてYGW15(JIS Z3312)規格のソリッドワイヤ材を用いて、入熱量30~36kJ/cmで、MAG溶接による多層盛溶接を行って、y型溶接試験片を作製し、y型溶接部の各5断面の鏡研磨面で断面割れが、肉眼で全く観察されないことを指す。
【0009】
また、本発明において、耐溶融亜鉛腐食性に優れるとは、鋼板の表層から採取した40mm×25mm×4mmの試験片を、温度が500℃とされた純度99.99%の亜鉛中に24時間浸漬させ、試験前と試験後における試験片の質量変化量(質量減少量)を、試験前の試験片(40mm×25mm×4mmの直方体)の表面積で除算することにより求めた腐食量が100mg/cm以下であることを指す。
【0010】
また、本発明において、耐亜鉛割れ性に優れるとは、NBT試験(切欠付き丸棒引張り試験)において、試験片の切欠に亜鉛線材を巻き付けて加熱し、溶融亜鉛を付着させ、試験温度を500℃として、破断時間400秒におけるSLM値(SLM-400値)が90%以上であることを指す。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、種々の成分組成(化学成分)を有する鋼を用いて、亜鉛割れ性に及ぼす金属組織の影響について鋭意検討を行なった。その結果、制御圧延と加速冷却を組み合わせて面積率で30%超がフェライト組織であり、残部がベイナイト組織を主体とした硬質第二相となるミクロ組織に制御し、試験片の長手方向が圧延方向に平行で、板面から板厚方向に1mmの位置から採取した2mmVノッチ試験片を用いたシャルピー衝撃試験で得られる吸収エネルギーが-40℃で27J以上を得られるようにすることにより、耐溶融亜鉛腐食性のみならず、耐亜鉛割れ性にも優れた鋼材が得られることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであり、その要旨とするところは以下の通りである。
【0012】
[1]質量%で、
C:0.12%超0.30%未満、
Si:0.05%以下、
Mn:0.20~2.0%
を含有し、
P:0.015%以下、
S:0.030%以下、
Al:0.070%以下、
B:0.0002%以下
に制限し、
式(1)に示すCEZを0.44以下に制限し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
圧延方向に平行、且つ、板面に垂直な板厚断面において、板厚方向で板面からt/4部(t:板厚)までの表層の金属組織のうち、面積率で30%超がフェライト組織であり、残部がベイナイト組織を面積率で90%以上有する硬質第二相であり、
試験片の長手方向が圧延方向に平行で、板面から板厚方向に1mmの位置から採取した2mmVノッチ試験片を用いたシャルピー衝撃試験で得られる吸収エネルギーが-40℃で27J以上である、溶融亜鉛浴設備用鋼板。
CEZ=C+Si/17+Mn/7.5+Cu/13+Ni/17+Cr/4.5
+Mo/3+V/1.5+Nb/2+Ti/4.5+420×B・・・式(1)
式(1)中、元素記号は、鋼板中の成分の含有量(質量%)を意味する。
[2]前記成分組成として、さらに、質量%で、
Cu:0.1~0.5%、
Ni:0.1~2.0%、
Cr:0.02%以上0.10%未満、
Mo:0.02%以上0.10%未満、
Nb:0.003~0.050%、
V:0.01~0.10%、
Ti:0.005~0.050%、
Ca:0.0002~0.0060%、
Mg:0.0002~0.0060%、
REM:0.0002~0.0060%
のうちの1種または2種以上を含有する、前記[1]に記載の溶融亜鉛浴設備用鋼板。
[3]前記[1]または前記[2]に記載の成分組成を有するスラブを1000~1250℃に加熱し、
圧延終了温度が800℃以下となる熱間圧延を行なったのち、
鋼板表面温度で加速冷却開始温度がAr点-100℃~Ar点-20℃の範囲である加速冷却を開始し、
加速冷却完了後、鋼板表面温度:500~650℃で復熱を終了する、溶融亜鉛浴設備用鋼板の製造方法。
[4]前記[1]または前記[2]に記載の成分組成を有するスラブを1000~1250℃に加熱し、
圧延終了温度が800℃以下となる熱間圧延を行なったのち、
鋼板表面温度で加速冷却開始温度がAr点-100℃~Ar点-20℃の範囲である加速冷却を開始し、
加速冷却完了後、鋼板表面温度:500℃未満で復熱を終了し、
500~700℃の焼き戻し温度で焼き戻す、溶融亜鉛浴設備用鋼板の製造方法。
[5]前記[1]または前記[2]に記載の溶融亜鉛浴設備用鋼板を用いる溶融亜鉛浴設備。
【発明の効果】
【0013】
本発明における溶融亜鉛浴設備用鋼板によれば、溶接構造用鋼としての所要の靭性及び耐溶接割れ性を有し、耐溶融亜鉛腐食性および耐亜鉛割れ性に優れる。
本発明における溶融亜鉛浴設備用鋼板では、耐亜鉛割れ性に優れるため、溶融亜鉛に起因した割れが生じにくく、かつ、割れが発生した際の抵抗力を具備する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明における溶融亜鉛浴設備用鋼板、その製造方法および溶融亜鉛浴設備の実施の形態について説明する。
なお、この実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために詳細に説明するものであるから、特に指定の無い限り、本発明を限定するものではない。
また、以下の説明において、化学成分組成における各成分の含有量を示す「%」は、特に指定の無い限り「質量%」を示す。
【0015】
本発明の溶融亜鉛浴設備用鋼板は、質量%で、C:0.12%超0.30%未満、Si:0.05%以下、Mn:0.20~2.0%を含有し、P:0.015%以下、S:0.030%以下、Al:0.070%以下、B:0.0002%以下に制限し、式(1)に示すCEZを0.44以下に制限し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、圧延方向に平行、且つ、板面に垂直な板厚断面において、板厚方向で板面からt/4部(t:板厚)までの表層の金属組織のうち、面積率で30%超がフェライト組織であり、残部がベイナイト組織を面積率で90%以上有する硬質第二相であり、試験片の長手方向が圧延方向に平行で、板面から板厚方向に1mmの位置から採取した2mmVノッチ試験片を用いたシャルピー衝撃試験で得られる吸収エネルギーが-40℃で27J以上である。
CEZ=C+Si/17+Mn/7.5+Cu/13+Ni/17+Cr/4.5
+Mo/3+V/1.5+Nb/2+Ti/4.5+420×B・・・式(1)
式(1)中、元素記号は、鋼板中の成分の含有量(質量%)を意味する。
【0016】
<成分組成>
先ず、溶融亜鉛浴設備用鋼板(以下、単に鋼板とも記す。)の成分組成について説明する。
【0017】
C:0.12%超0.30%未満
Cは、鋼板の強度向上のために重要な元素であり、ベイナイトの生成にも寄与する。C含有量が0.12質量%以下になると、鋼板の耐溶融亜鉛腐食性が大きく低下するため、0.12%を超えてCを含有する必要がある。
一方、Cを0.30%以上含有すると、鋼板の耐溶接割れ性が劣化する。また、Cを0.30%以上含有すると、靭性が低下する。このため、0.30%未満とする。好ましくは、0.15%以下である。
【0018】
Si:0.05%以下
Siは、脱酸作用を有するが、強力な脱酸元素であるAlが十分に添加されている場合には不要である。Siは、母材を強化する作用もあるが、他の元素に比べるとその効果は相対的に小さい。また、Siは、耐溶融亜鉛腐食性を大きく低下させることから、その含有量が少ない方が好ましく、操業上安定して低減可能な0.05%を上限とする。また、製鋼上の制限もあるが、Si含有量を0.02%以下とすることが好ましい。
【0019】
Mn:0.20~2.0%
Mnは、母材強度およびベイナイトを確保する観点から添加する元素であり、所望の靭性および耐溶融亜鉛割れ性(以下、耐亜鉛割れ性とも記す。)に寄与するために、0.20%以上の含有が必要である。よって、Mn含有量は、0.20%以上とする。Mn含有量は、好ましくは0.25%以上であり、より好ましくは0.30%以上である。
一方、2.0%を超えるMnの含有は、耐溶接割れ性を大きく劣化させる。また、Mn含有量を2.0%超とすると、靭性が低下し、耐亜鉛割れ性が低下する。このため、Mn含有量は2.0%以下とする。Mn含有量は、好ましくは1.60%以下であり、より好ましくは1.30%以下である。
【0020】
P:0.015%以下
Pは、不純物元素であり、不可避的に鋼板中に含有されるが、厚鋼板の靭性、耐亜鉛割れ性を劣化させるため、その含有量は少ない方が好ましく、操業上安定して低減可能な0.015%を上限とする。また、製鋼上の制限もあるが、Pの含有量は0.008%以下とすることが好ましい。
【0021】
S:0.030%以下
Sも、上記Pと同様、鋼板中に不可避的に含有される元素であるが、Sは母材靭性や耐亜鉛割れ性を低下させるため、少ない方が好ましいことから、操業上安定して低減可能な0.030%を上限とする。S含有量は、好ましくは0.020%以下であり、より好ましくは0.010%以下である。
【0022】
Al:0.070%以下
Alは、脱酸に用いられる元素であり、その脱酸効果を得るためには0.010%以上の含有が好ましい。Al含有量は、より好ましくは0.015%以上であり、さらに好ましくは0.020%以上である。
しかしながら、0.070%を超えるAlの含有は、鋼中に粗大な介在物を多く存在させ、靭性を低下させることから、その上限を0.070%とする。Al含有量は、好ましくは0.060%以下であり、より好ましくは0.050%以下である。
【0023】
B:0.0002%以下
Bは粒界に偏析し、耐亜鉛割れ性を顕著に劣化させる元素である。その含有量は少ない方が好ましく、操業上安定して低減可能な0.0002%を上限とする。
【0024】
CEZ:0.44以下
下式(1)に示すCEZは、溶接部の耐溶融亜鉛割れ性と相関がある。CEZは、0.44を超えると耐溶融亜鉛割れ性が劣化し、溶接部で割れが発生する。このため、CEZの値について、0.44を上限とする。CEZは0.42%以下とすることが好ましく、0.40%以下とすることがより好ましい。
CEZ=C+Si/17+Mn/7.5+Cu/13+Ni/17+Cr/4.5
+Mo/3+V/1.5+Nb/2+Ti/4.5+420×B・・・式(1)
式(1)中、元素記号は、鋼板中の成分の含有量(質量%)を意味しており、含有しない場合は、その成分の含有量をゼロとする。
【0025】
上記が本発明における鋼板の基本成分組成であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。本発明において、Cu、Ni、Cr、Moで0.01%以下、Nb、V、Tiで0.002%以下、B、Ca、Mg、REMで0.0001%以下は、不可避的不純物に含まれる。
【0026】
また、本発明の鋼板は、必要に応じて、以下に示す成分組成のうち、1種または2種以上を含有することができる。
【0027】
Cu:0.1~0.5%
Cuは、本発明における選択元素であり、母材の強度を確保するために必要に応じて添加する。その効果は、Cuを0.1%以上含有しないと発現しないため、Cuを含有する場合、Cu含有量の下限は0.1%とする。Cu含有量は、好ましくは0.20%以上であり、より好ましくは0.30%以上である。
一方、Cuは0.5%を超えて含有するとコストの増大だけでなく靭性を劣化させるため、Cuを含有する場合、Cu含有量の上限は0.5%とする。
【0028】
Ni:0.1~2.0%
Niは、本発明における選択元素であり、母材の強度を確保するために必要に応じて添加する。その効果は、Niを0.1%以上含有しないと発現しないため、Niを含有する場合、Ni含有量の下限は0.1%とする。
一方、Niは2.0%を超えて含有するとコストの増大だけでなくスラブ割れが発生し、鋼板に表面疵が発生する。このため、Niを含有する場合、Ni含有量の上限は2.0%とする。
【0029】
Cr:0.02%以上0.10%未満
Crは、本発明における選択元素であり、母材の強度を確保するために必要に応じて添加する。その効果は、Crを0.02%以上含有しないと発現しないため、Crを含有する場合、Cr含有量の下限は0.02%とする。Cr含有量は、好ましくは0.03%以上であり、より好ましくは0.05%以上である。
一方、Crは0.10%以上含有すると、亜鉛と鋼板表面の反応を促進させ耐溶融亜鉛腐食性を低下させる。このため、Crを含有する場合、Cr含有量は0.10%未満とする。
【0030】
Mo:0.02%以上0.10%未満
Moは、本発明における選択元素であり、母材の強度を確保するために必要に応じて添加する。その効果は、Moを0.02%以上含有しないと発現しないため、Moを含有する場合、Mo含有量の下限は0.02%とする。Mo含有量は、好ましくは0.03%以上であり、より好ましくは0.05%以上である。
一方、Moは0.10%以上含有するとコストの増大だけでなく靭性を劣化させ、耐亜鉛割れ性も劣化させるため、Moを含有する場合、Mo含有量は0.10%未満とする。
【0031】
Nb:0.003~0.050%
Nbは、本発明における選択元素であり、母材の強度、靭性を向上させたいときに添加する。その効果は、Nbを0.003%以上含有しないと発現しないため、Nbを含有する場合、Nb含有量の下限は0.003%とする。Nb含有量は、好ましくは0.010%以上であり、より好ましくは0.020%以上である。
一方、Nbは0.050%を超えて含有するとコストの増大だけでなく耐溶接割れ性を劣化させることになるため、Nbを含有する場合、Nb含有量の上限は0.050%とする。
【0032】
V:0.01~0.10%
Vは、本発明における選択元素であり、母材の強度を向上させたいときに添加する。その効果は、Vを0.01%以上含有しないと発現しないため、V含有量の下限は0.01%とする。V含有量は、好ましくは0.030%以上であり、より好ましくは0.040%以上である。
一方、Vは0.10%を超えて含有するとコストの増大だけでなく母材靭性および溶接部の靭性を劣化させることになるため、V含有量の上限は0.10%とする。
【0033】
Ti:0.005~0.050%
Tiは、本発明における選択元素であり、母材の靭性および溶接部の靭性を向上させたいときに添加する。その効果は、Tiを0.005%以上含有しないと発現しないため、Ti含有量の下限は0.005%とする。
一方、Tiは0.050%を超えて含有すると母材および溶接部の靭性をむしろ劣化させることになるため、Ti含有量の上限は0.050%とする。
【0034】
Ca:0.0002~0.0060%
Caは、本発明の選択元素であり、溶接熱影響部靭性や超音波探傷などで評価される内部品質を向上させたいときに添加する。その効果は、Caを0.0002%以上含有しないと発現しないため、Ca含有量の下限は0.0002%とする。Ca含有量は、好ましくは0.0010%以上であり、より好ましくは0.0015%以上である。
一方、Caは0.0060%を超えて含有すると形成された酸化物がクラスタ化し内部品質をむしろ劣化させるため、Ca含有量の上限は0.0060%とする。Ca含有量は、好ましくは0.0050%以下であり、より好ましくは0.0040%以下である。
【0035】
Mg:0.0002~0.0060%
Mgは、本発明の選択元素であり、溶接熱影響部の靭性や超音波探傷などで評価される内部品質を向上させたいときに添加する。その効果は、Mgを0.0002%以上含有しないと発現しないため、Mg含有量の下限は0.0002%とする。Mg含有量は、好ましくは0.0005%以上であり、より好ましくは0.0010%以上である。
一方、Mgは0.0060%を超えて含有すると形成された酸化物がクラスタ化し内部品質をむしろ劣化させるため、Mg含有量の上限は0.0060%とする。Mg含有量は、好ましくは0.0055%以下であり、より好ましくは0.0050%以下である。
【0036】
REM:0.0002~0.0060%
REMは、本発明の選択元素であり、溶接熱影響部の靭性や超音波探傷などで評価される内部品質を向上させたいときに添加する。その効果は、REMを0.0002%以上含有しないと発現しないため、REM含有量の下限は0.0002%とする。REM含有量は、好ましくは0.0010%以上であり、より好ましくは0.0015%以上である。
一方、REMは0.0060%を超えて含有すると、形成された酸化物がクラスタ化し内部品質をむしろ劣化させるため、REM含有量の上限は0.0060%とする。REM含有量は、好ましくは0.0050%以下であり、より好ましくは0.0040%以下である。
ここで、REMとは、原子番号21番のスカンジウム(Sc)と原子番号39番のイットリウム(Y)及び、原子番号57番のランタン(La)から71番のルテチウム(Lu)までのランタノイドの元素のことを指す。REM含有量とは、上述のREMから選択された1種または2種以上の元素の総含有量である。
【0037】
<金属組織>
圧延方向に平行、且つ、板面に垂直な板厚断面において、板厚方向で板面からt/4部(t:板厚)までの表層の金属組織のうち、面積率で30%超がフェライト組織であり、残部がベイナイト組織を主体とした硬質第二相
本発明の鋼板の金属組織は、圧延方向に平行、且つ、板面に垂直な板厚断面において、板厚方向で板面からt/4部までの表層の金属組織のうち、面積率で30%超がフェライト組織であることを特徴とする。フェライト組織の面積率が30%以下であると溶融亜鉛によるベイナイトを主体とした硬質第二相部分の結晶粒界の割れが生じやすくなるとともに、割れの進展速度は大きくなり、耐亜鉛割れ性が劣化する。上限は規定しないが、本発明ではC含有量を0.12%超に制御するために、現実的に80%を超えることはないことから、特に指定する場合は80%以下とする。
【0038】
フェライト以外の残部はベイナイトを主体とした硬質第二相とする。硬質第二相はミクロ組織全体に対する面積率で70%未満であり、硬質第二相のうち硬質第二相に対するベイナイトの面積率が90%以上あるものを「ベイナイト主体」として扱う。硬質第二相にはベイナイト以外にパーライト、マルテンサイト、島状マルテンサイトおよびセメンタイトなどが挙げられる。
【0039】
なお、本発明では、5vol%ナイタールエッチングを行って光学顕微鏡(倍率:100倍)によって金属組織を観察し、白く丸い組織をフェライト組織とし、それ以外の部分(主にラス状の組織であるベイナイト組織からなる)を硬質第二相とする。
【0040】
<衝撃試験>
試験片の長手方向が圧延方向に平行で、かつ板面から板厚方向に1mmの位置から採取した2mmVノッチ試験片を用いたシャルピー衝撃試験で得られる吸収エネルギーが-40℃で27J以上
本発明の鋼板の衝撃試験特性は、試験片の長手方向が圧延方向に平行で、かつ板面から板厚方向に1mmの位置から採取した2mmVノッチ試験片を用いたシャルピー衝撃試験で得られる吸収エネルギーで評価する。-40℃における吸収エネルギーは27J未満であると、溶融亜鉛による結晶粒界の割れが生じた場合の割れの進展速度は大きくなり、耐亜鉛割れ性が劣化するため、下限を27Jとする。
シャルピー衝撃試験は、JIS Z2242に準拠した方法で行う。
【0041】
<鋼板製造条件>
次に、本発明の鋼板の製造方法について説明する。
本発明の鋼板の製造方法では、前述した成分組成を有するスラブを1000~1250℃に加熱し、圧延終了温度が800℃以下となる熱間圧延を行なったのち、鋼板表面温度で加速冷却開始温度がAr点-100℃~Ar点-20℃の範囲である加速冷却を開始し、加速冷却完了後、鋼板表面温度:500~650℃で復熱を終了する。
または、本発明の鋼板の製造方法では、前述した成分組成を有するスラブを1000~1250℃に加熱し、圧延終了温度が800℃以下となる熱間圧延を行なったのち、鋼板表面温度で加速冷却開始温度がAr点-100℃~Ar点-20℃の範囲で加速冷却を開始し、加速冷却完了後、鋼板表面温度:500℃未満で復熱を終了し、500~700℃の焼き戻し温度で焼き戻す。
【0042】
スラブの加熱温度:1000~1250℃
連続鋳造や造塊鋳造により製造したスラブを熱間圧延での変形抵抗低減や金属組織の調整のために加熱する。加熱温度が1000℃未満になると母材強度が低下し、また、熱間圧延時の圧下効果が不十分となり超音波探傷などで評価される内部品質が劣化し、さらに所望の圧延終了温度および加速冷却開始温度までに熱間圧延を完了できなくなる。
加熱温度が1000℃未満として得られる鋼板は、靭性が低下し、耐亜鉛割れ性が低下する。このため、加熱温度の下限は1000℃とする。
一方、加熱温度が1250℃を超える場合も、靭性が劣化し、所望のシャルピー衝撃試験特性および耐亜鉛割れ性が得られないため、加熱温度の上限は1250℃とする。加熱温度は加熱炉の炉温度などから伝熱計算により求めてよい。
【0043】
圧延終了温度:800℃以下
700~900℃程度の範囲では、熱間圧延における圧延終了温度は低いほど靭性が向上し、耐亜鉛割れ性が向上する。
熱間圧延における圧延終了温度の下限は特に限定されないが、圧延後の形状確保の点から、圧延終了温度は650℃以上とすることが好ましく、680℃以上とすることがより好ましい。
一方、熱間圧延における圧延終了温度が鋼板の表面温度で800℃を超えると所望の靭性が得られず、耐亜鉛割れ性が劣化するため、熱間圧延における圧延終了温度の上限は800℃とする。圧延終了温度は790℃以下とすることが好ましく、780℃以下とすることがより好ましい。
温度は圧延直後の鋼板表面を放射型温度計で測定することで求める。
【0044】
加速冷却開始温度:鋼板表面温度でAr点-100℃~Ar点-20℃の範囲
加速冷却開始温度は金属組織を制御するために調整する。鋼板表面温度を基準としてAr点-100℃を下回ると金属組織の第二相がベイナイト主体とならずパーライトやセメンタイトの生成により靭性が低下し耐亜鉛割れ性が劣化するため下限をAr点-100℃とする。加速冷却開始温度はAr点-80℃以上とすることが好ましく、Ar点-70℃以上とすることがより好ましい。
加速冷却開始温度が、鋼板表面温度を基準としてAr点-20℃を上回ると、金属組織のフェライト面積率が30%以下となり、溶融亜鉛による結晶粒界の割れが生じやすくなるとともに、割れの進展速度は大きくなり、耐亜鉛割れ性が劣化するため上限をAr点-20℃とする。加速冷却開始温度はAr点-25℃以下とすることが好ましく、Ar点-30℃以下とすることがより好ましい。
Ar点は実測してもよいが、式(2)から計算で求める。表面温度は加速冷却設備進入直後の鋼板を放射型温度計で測定することで求める。
Ar(℃)=910-310×C-80×Mn-20×Cu-15×Cr-55×Ni-80×Mo・・・(2)
式(2)中、元素記号は、鋼板中の成分の含有量(質量%)を意味しており、含有しない場合は、その成分の含有量をゼロとする。
【0045】
上記の加速冷却開始温度での加速冷却開始後、以下の(1)、(2)のいずれかの処理を行う。
(1)加速冷却完了後、鋼板表面温度(冷却停止温度):500~650℃で復熱を終了する
(2)加速冷却完了後、鋼板表面温度(冷却停止温度):500℃未満で復熱を終了し、500~700℃の焼き戻し温度で焼き戻す
【0046】
(1)冷却停止温度:復熱後の鋼板表面温度で500~650℃
本発明では、所望の金属組織に制御して耐亜鉛割れ性を確保するために加速冷却を適用する。冷却停止温度が500℃未満になると通常450~500℃程度で実施される溶融亜鉛めっき処理の際に大幅な強度低下を生じ、変形し、その繰り返しにより耐亜鉛割れ性が低下するため、冷却停止温度の下限は500℃とする。冷却停止温度は520℃以上とすることが好ましく、550℃以上とすることがより好ましい。
一方、冷却停止温度が650℃を超えると硬質第二相がベイナイト主体にならず、脆いパーライトやセメンタイトを起因とした靭性低下により耐亜鉛割れ性が低下するため、冷却停止温度の上限は650℃とする。冷却停止温度は640℃以下とすることが好ましく、630℃以下とすることがより好ましい。
なお、本発明において、加速冷却は、特に限定されないが、水による鋼板表面からの冷却としてよい。加速冷却時の冷却速度は、空冷よりも高く、例えば、1℃/sec以上とすることができる。
また、本発明において、復熱とは、加速冷却において、過度に冷却された鋼板表面と、鋼板表面に比べて比較的高温となっている鋼板内部との温度差を小さくするために行われる加速冷却完了以降での空冷処理のことを指す。
【0047】
(2)冷却停止温度:復熱後の鋼板表面温度で500℃未満、かつ、焼き戻し温度:500~700℃
加速冷却実施後に焼き戻しを適用する前提にたてば、上述した500℃未満の冷却停止温度であっても耐亜鉛割れ性を確保できる。その際、焼き戻し温度が500℃を下回ると通常450~500℃程度で実施される溶融亜鉛めっき処理の際に大幅な強度低下を生じ、変形し、その繰り返しにより耐亜鉛割れ性が低下するため、焼き戻し温度の下限を500℃とする。焼き戻し温度は520℃以上とすることが好ましく、540℃以上とすることがより好ましい。
一方、焼き戻し温度が700℃を超えると強度、靭性が大幅に低下することで耐亜鉛割れ性が低下するため、焼き戻し温度の上限を700℃とする。焼き戻し温度は680℃以下とすることが好ましく、670℃以下とすることがより好ましい。
なお、焼き戻しは加熱炉や高周波誘導加熱炉などを用いた方法により行う。焼き戻し温度の測定は、十分に均熱された加熱炉の場合、炉温を用いてよい。それ以外の場合は、伝熱計算でもとめた板厚中央温度とする。
【0048】
上記の製造方法により、溶融亜鉛による腐食に対して優れた耐食性を有し、溶融亜鉛に起因した割れが生じにくく、また、溶接構造用鋼としての所要の靭性及び溶接性を具備した溶融亜鉛浴設備用鋼板を効率良く製造することができる。本発明によれば、加速冷却を適用することにより熱間圧延後の調質熱処理を省略し、製造コストの削減を図りつつ、溶融亜鉛浴設備用鋼板を製造することが可能になる。
本発明における溶融亜鉛浴設備用鋼板は、厚鋼板であることが好ましく、板厚30mm以上であることが好ましい。上限は特に限定されないが、浴設備の軽量化の観点から、板厚は100mm以下とすることが好ましい。また、本発明の溶融亜鉛浴設備用鋼板は、表面にコーティングなどを実施せずに使用することができ、下地処理を実施しなくてもよい。
本発明における溶融亜鉛浴設備用鋼板は、溶融亜鉛浴用釜(浴槽)などの溶融亜鉛浴設備へ適用するのに好適である。具体的に、溶融亜鉛浴設備としては、本発明における溶融亜鉛浴設備用鋼板を曲げ加工および溶接施工により浴槽状に加工し、その中に500℃以下の液体状の亜鉛を満たしてめっき処理を行う対象物を浸漬するもので、浴槽内に加熱設備を備えた設備としてもよい。
【0049】
本発明では、上述した溶融亜鉛浴設備用鋼板を用いた溶融亜鉛浴設備も提供される。
【実施例0050】
以下、本発明に係る溶融亜鉛浴設備用鋼板およびその製造方法の実施例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は、もとより下記実施例に限定されるものではなく、前、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0051】
[鋼板の製造]
製鋼工程において溶鋼の脱酸・脱硫と化学成分(成分組成)を制御し、連続鋳造によって下記表1に示す化学成分(成分組成)を有するスラブを製造した。表1中、Ar点は前述の式(2)を用いて計算するが、成分量が空欄のものについては、Ar点の計算において、ゼロとして扱う。また、表1中、成分量が空欄のものについては、CEZの計算において、含有量をゼロとして扱う。
次に、それらのスラブを表2の条件で加熱し熱間圧延し、加速冷却を行うことで鋼板を得た。鋼板No.15については、加速冷却を適用しなかった。また、鋼板No.13、14、22については加速冷却後に焼き戻しを実施した。
【0052】
[評価試験]
上記方法によって製造した溶融亜鉛浴設備用鋼板について、以下のような評価試験を行
った。
金属組織の評価については、板厚方向で鋼板の板面からt/4部(t:板厚)をカバーする試験片を採取し、表層を鏡面研磨後5vol%ナイタールエッチングし、板面からt/4部にわたって顕微鏡で観察し、100倍で連続で撮影した写真から、表層の金属組織においてフェライト組織が占めている割合(面積率)を画像解析にて調査した。具体的には、撮影した写真をPhotoShopなどの作画ソフトに読み込ませ、当該ミクロ組織(この場合フェライト部)に色を付ける。この色の部分の面積を画像解析ソフト(National Institutes of Health製 Image J Ver1.53)を用いて求めて、写真全体の大きさから割り算することで比率(面積率)を求めた。
そして、金属組織におけるフェライト組織の面積率が30%超のものを合格とした。また、第二相(硬質第二相)については、鋼板の板面からt/4部までの表層を光学顕微鏡で観察し、100倍で撮影した写真から判別し、ベイナイト主体のものを「〇」、それ以外(今回の比較例(鋼板No.15、No.20)ではパーライト主体)のものは「×」とした。
【0053】
シャルピー衝撃試験については、JIS Z2242に準拠した方法で行った。試験片の長手方向が圧延方向に平行で、かつ、板面から板厚方向に1mmの位置から採取した2mmVノッチ試験片を用いて、シャルピー衝撃試験を行ない、得られる吸収エネルギーで評価する。-40℃における吸収エネルギーが27J以上を合格とした。
【0054】
また、耐溶融亜鉛腐食性の評価については、鋼板の表層から採取した40mm×25mm×4mmの試験片を、温度が500℃とされた純度99.99%の亜鉛中に24時間浸漬させた。試験前と試験後における試験片の質量変化量(質量減少量)を、試験前の試験片(40mm×25mm×4mmの直方体)の表面積で除算することにより、腐食量を求めた。
そして、24時間浸漬後の腐食量が100mg/cm以下であるものを「○」(合格)とし、100mg/cm超であるものを「×」(不合格)として評価した。
【0055】
また、耐亜鉛割れ性の評価については、NBT試験(切欠付き丸棒引張り試験)で評価した(新日鉄技報348号、1993年、p.63-70を参照)。そして、試験片の切欠に亜鉛線材を巻き付けて加熱し、溶融亜鉛を付着させ、試験温度を500℃として、破断時間400秒におけるSLM値(SLM-400値)が90%以上であるものを「○」とし、90%未満のものを「×」として評価した。
【0056】
また、耐溶接割れ性の試験として、y型溶接割れ試験(JIS Z3158)により断面割れの発生の有無で評価した。すなわち、それぞれの最終板厚のもので、ルート間隔1.0mmとして、開先を用意し、溶接材料としてYGW15(JIS Z3312)規格のソリッドワイヤ材を用いて、入熱量30~36kJ/cmで、MAG溶接による多層盛溶接を行って、y型溶接試験片を作製し、y型溶接部の各5断面の鏡研磨面において、断面割れの有無を肉眼で確認した。各5断面で断面割れが、肉眼で全く観察されなかったものを「○」(合格)とし、1断面以上で断面割れが肉眼で確認されたものは「×」(不合格)として評価した。
【0057】
[評価結果]
各評価結果の一覧を下記表3に示す。本発明における鋼板は、目標性能を満たしているのに対して、比較例の鋼板は目標性能のいずれかを満たしていない。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】