(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092093
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】炭素構造体、空気電池、及び炭素構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/96 20060101AFI20240701BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20240701BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
H01M4/96 B
H01M12/08 K
H01M4/96 H
H01M4/88 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207774
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】501440684
【氏名又は名称】ソフトバンク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(72)【発明者】
【氏名】亀田 隆
(72)【発明者】
【氏名】松田 翔一
(72)【発明者】
【氏名】山口 祥司
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 貴也
(72)【発明者】
【氏名】宮川 絢太郎
【テーマコード(参考)】
5H018
5H032
【Fターム(参考)】
5H018BB05
5H018BB06
5H018BB12
5H018BB16
5H018BB17
5H018EE05
5H018HH01
5H018HH02
5H018HH04
5H018HH05
5H018HH08
5H032AA02
5H032AS02
5H032AS12
5H032BB02
5H032CC11
5H032HH01
5H032HH04
5H032HH06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、集電体、及び補強材となる炭素繊維等を含有せずとも、形状を維持して自立性を有し、また、酸化性ガス雰囲気中における炭素化工程を経ずとも、大きな放電容量を示す空気電池を実現することのできる、空気電池の正極用の炭素構造体を提供することを目的とする。
【解決手段】空気電池の正極用の炭素構造体であって、前記炭素構造体は、炭素材としてカーボンナノチューブを含み、前記カーボンナノチューブは、平均直径が1nm以上10nm以下、平均長が1μm以上100μm以下、アスペクト比が1000以上10000以下である、炭素構造体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気電池の正極用の炭素構造体であって、
前記炭素構造体は、炭素材としてカーボンナノチューブを含み、
前記カーボンナノチューブは、平均直径が1nm以上10nm以下、平均長が1μm以上100μm以下、アスペクト比が1000以上10000以下である、
炭素構造体。
【請求項2】
前記炭素材と、炭素材同士を結合する結着用高分子に由来する炭素のみからなる、請求項1に記載の炭素構造体。
【請求項3】
(a)窒素吸着法による直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積が1.0cm3/g以上3.0cm3/g以下であり、
(b)窒素吸着法による直径1nm以上200nm以下の細孔の占める細孔容積が、1.0cm3/g以上2.3cm3/g以下であり、
(c)水銀圧入法による直径200nm以上10000nm以下の細孔の占める細孔容積が、1.0cm3/g以上3.3cm3/g以下であり、
(d)窒素吸着法によるt-プロット外部比表面積が、100m2/g以上300m2/g以下であり、
(e)見かけ密度が、0.15g/cm3以上0.30以下g/cm3以下であり、
(f)空隙率が70%以上90%以下である、
請求項1又は2に記載の炭素構造体。
【請求項4】
自立性を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の炭素構造体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の炭素構造体を含む空気電池用正極。
【請求項6】
請求項5に記載の空気電池用正極と、
負極と、
前記空気電池用正極及び前記負極の間に存在する電解液と、
を備える空気電池。
【請求項7】
前記負極は、リチウム金属を含む、請求項6に記載の空気電池。
【請求項8】
前記炭素材及び前記結着用高分子を含有する合剤スラリーを調製することと、
前記合剤スラリーを成型して合剤成型体を得ることと、
前記合剤成型体を、前記結着用高分子に対して溶解度が低い溶媒に浸漬させて多孔構造体を得ることと、
前記多孔構造体を乾燥させて炭素構造体前駆体を得ることと、
前記炭素構造体前駆体を不活性雰囲気下で炭素化処理して炭素構造体を得ることと、
を包含する、請求項2から4のいずれか一項に記載の炭素構造体の製造方法。
【請求項9】
前記炭素化処理の温度は、500℃以上3000℃以下の範囲である、請求項8に記載の炭素構造体の製造方法。
【請求項10】
前記多孔構造体を乾燥させて前記炭素構造体前駆体を得ることに続いて、かつ、前記炭素化処理することに先立って、前記炭素構造体前駆体を不融化処理して不融化炭素構造体を得ること、を更に包含し、
前記不融化炭素構造体を前記炭素化処理する、請求項8又は9に記載の炭素構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気電池の正極に用いる炭素構造体、それを用いた空気電池、及び炭素構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スマート社会を支える原動力として電池が着目され、その需要が急激に高まっている。電池にはいろいろな種類のものがあるが、中でも空気電池は、小型、軽量、かつ大容量に適した構造であることから、高い注目を集めている。
【0003】
空気電池は、正極活物質として空気中の酸素を用い、負極活物質として金属を用いた電池であり、金属空気電池とも呼ばれ、燃料電池の一種と位置づけられている電池である。その代表としては、負極活物質として、リチウムイオンを吸蔵放出可能な金属又は化合物を用いるリチウム空気電池がある。リチウム空気電池における各電極での反応は、次式で表される。
負極:2Li⇔2Li++2e-
正極:2Li++2e-+O2⇔Li2O2
【0004】
空気電池は、正極活物質が酸素であり、正極は、充放電にあわせて空気中の酸素を吸収・排出する働きを有する。このため、正極に用いられる炭素構造体は、空気中から多量の酸素を取り込める構造であることが求められる。すなわち、正極用炭素構造体には、高い空気又は酸素透過性が求められる。
【0005】
また、リチウム空気電池セルの出力及び容量を向上させるために、正極に用いられる炭素構造体には、電池に一般的に求められる特性である、高いイオン輸送効率と広い反応場が併せて求められる。
【0006】
更に、空気電池を小型・軽量にしてコストを下げるために、正極用炭素構造体は、自立することが望まれている。
【0007】
このような状況のもと、特許文献1には、1nm以上200nm以下の孔径を有する細孔の占める第1細孔容積が、200nmを超え1000nm以下の孔径を有する細孔の占める第2細孔容積よりも大きい正極層を用いるリチウム空気電池が提案されている。
【0008】
特許文献1には、正極層の形成方法として、正極集電体上に、例えば、導電性多孔質体及びバインダー等を含む組成物を溶媒中に分散した塗料を、ドクターブレード法等により塗布する方法、又は、上記組成物を圧着プレスにより成型する方法等が記載されている。また、集電体として、ステンレス、ニッケル、アルミニウム、カーボン等が例示され、その形状としては、箔状、板状、メッシュ等が例示され、特にはメッシュ状が好ましいと記載されている。
【0009】
特許文献2には、空気電池の正極として、特定の細孔構造及び物性を有し、かつ自立性のある炭素構造体を用いることが提案されている。特許文献2に記載された炭素構造体は、高細孔容積を有するとともに、自立可能なものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2018-133168号公報
【特許文献2】国際公開第2020/235638号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載された正極層は、集電体を含む。特許文献1に記載された正極層において集電体は、導電性多孔質体及びバインダー等を含む組成物を保持することができる。しかしながら、集電体は、放電過程において、リチウムイオンと酸素と電子とが反応して過酸化リチウムを生成する生成場としては働かない。したがって、電池の軽量化を目指すにあたっては、集電体を必要としない正極構造が望まれる。
【0012】
特許文献2に記載された炭素構造体は、自立性を有し、空気電池の正極として用いた場合に、炭素構造体の高細孔容量に起因して、大きな放電容量を示す。しかしながら、炭素構造体の形状を維持するために、補強材として炭素繊維を含有させる必要があった。
【0013】
補強材となる炭素繊維は、炭素構造体の形状を維持するためには役立つが、炭素繊維自体は、放電過程において、リチウムイオンと酸素と電子とが反応して過酸化リチウムを生成する生成場としては全く寄与しない。したがって、炭素繊維を含有することで、その含有量に伴って、空気電池の放電容量が低減されることとなる。
【0014】
また、特許文献2に記載の炭素構造体は、酸化性ガス雰囲気中で炭素化することで製造される。具体的には、酸素濃度0.03%以上5%未満の酸化性ガス雰囲気中350℃~3000℃の範囲の温度で炭素化することで製造される。酸化性ガス雰囲気中での炭素化は、酸素濃度や温度を微細にコントロールする必要があり、特許文献2に記載の炭素構造体は、製造が容易ではなかった。また、酸化性ガス雰囲気中での炭素化は、耐酸化性設備が必要となり、製造コストも増加してしまう。
【0015】
なお、特許文献2には、実施例において、酸化性ガス雰囲気中で炭素化した炭素構造体は、高い放電容量を示す一方で、酸化性ガス雰囲気中での炭素化を実施せず不活性雰囲気のみで炭素化した炭素構造体は、低い容量にとどまっていることが示されている。
【0016】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、集電体、及び補強材となる炭素繊維等を含有せずとも、形状を維持して自立性を有し、また、酸化性ガス雰囲気中における炭素化工程を経ずとも、大きな放電容量を示す空気電池を実現することのできる、空気電池の正極用の炭素構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。そして、特定の物性を有するカーボンナノチューブを原料の炭素材として用いることで、形状を維持して自立性があり、且つ酸化性ガス雰囲気中での炭素化工程を経ずとも、高容量を示す空気電池を実現できる炭素構造体が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0018】
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
[1]
空気電池の正極用の炭素構造体であって、
前記炭素構造体は、炭素材としてカーボンナノチューブを含み、
前記カーボンナノチューブは、平均直径が1nm以上10nm以下、平均長が1μm以上100μm以下、アスペクト比が1000以上10000以下である、
炭素構造体。
[2]
前記炭素材と、炭素材同士を結合する結着用高分子に由来する炭素のみからなる、態様[1]に記載の炭素構造体。
[3]
(a)窒素吸着法による直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積が1.0cm3/g以上3.0cm3/g以下であり、
(b)窒素吸着法による直径1nm以上200nm以下の細孔の占める細孔容積が、1.0cm3/g以上2.3cm3/g以下であり、
(c)水銀圧入法による直径200nm以上10000nm以下の細孔の占める細孔容積が、1.0cm3/g以上3.3cm3/g以下であり、
(d)窒素吸着法によるt-プロット外部比表面積が、100m2/g以上300m2/g以下であり、
(e)見かけ密度が、0.15g/cm3以上0.30以下g/cm3以下であり、
(f)空隙率が70%以上90%以下である、
態様[1]又は[2]に記載の炭素構造体。
[4]
自立性を有する、態様[1]から[3]のいずれか一態様に記載の炭素構造体。
[5]
態様[1]から[4]のいずれか一態様に記載の炭素構造体を含む空気電池用正極。
[6]
態様[5]に記載の空気電池用正極と、
負極と、
前記空気電池用正極及び前記負極の間に存在する電解液と、
を備える空気電池。
[7]
前記負極は、リチウム金属を含む、態様[6]に記載の空気電池。
[8]
前記炭素材及び前記結着用高分子を含有する合剤スラリーを調製することと、
前記合剤スラリーを成型して合剤成型体を得ることと、
前記合剤成型体を、前記結着用高分子に対して溶解度が低い溶媒に浸漬させて多孔構造体を得ることと、
前記多孔構造体を乾燥させて炭素構造体前駆体を得ることと、
前記炭素構造体前駆体を不活性雰囲気下で炭素化処理して炭素構造体を得ることと、
を包含する、態様[2]から[4]のいずれか一態様に記載の炭素構造体の製造方法。
[9]
前記炭素化処理の温度は、500℃以上3000℃以下の範囲である、態様[8]に記載の炭素構造体の製造方法。
[10]
前記多孔構造体を乾燥させて前記炭素構造体前駆体を得ることに続いて、かつ、前記炭素化処理することに先立って、前記炭素構造体前駆体を不融化処理して不融化炭素構造体を得ること、を更に包含し、
前記不融化炭素構造体を前記炭素化処理する、態様[8]又は[9]に記載の炭素構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の炭素構造体は、炭素材と結着用高分子を炭素化させた材のみで構成されており、自立性を有する。本発明の炭素構造体は、形状保持のための集電体や炭素繊維等の補強材を含まないため、充放電反応の場として寄与しない、すなわち放電容量に寄与しない領域を削減することができる。このため、炭素構造体あたりの放電容量を増加させることができ、小型・軽量で放電容量の大きな空気電池を提供することが可能になる。
【0020】
また、本発明の炭素構造体は、酸化性ガス雰囲気中での炭素化工程を経ることなく製造されるにもかかわらず、高放電容量の空気電池を実現することができる。このため、本発明の炭素構造体は、高放電容量の空気電池を実現するにあたり、酸化性ガス雰囲気中での炭素化処理による炭素構造体と比較して、生産が容易である上、製造コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の炭素構造体の製造工程を示すフローチャートである。
【
図2】一実施形態に係る空気電池の模式的な断面図である。
【
図3】別の実施形態に係る空気電池の模式的な断面図である。
【
図4】一実施形態に係る空気電池の模式的な断面図である。
【
図5】実施例及び比較例で作製したコインセルの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。なお、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0023】
≪炭素構造体≫
本発明の炭素構造体は、空気電池の正極用の炭素構造体であって、炭素材としてカーボンナノチューブを含む。本発明の炭素構造体は、自立性を有する又は自立可能な炭素構造体であって、自身のみで空気電池の正極構造体を形成することができる。
【0024】
本発明において、「自立性を有する又は自立可能」とは、支持体を用いなくとも自立した膜としての形状を保つことができる膜状構造体(本願では、これを「自立膜」と称することもある。)をいう。本発明の炭素構造体は、炭素を主体とした骨格からなり、厚さは20μm~800μmの範囲内、好ましくは、30μm~500μmの範囲内である。
【0025】
更に具体的には、本発明の炭素構造体(すなわち、自立膜)は、銅(Cu)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ステンレス(SUS)等の金属単体、又は金属含有成分を含む合金等からなる金属メッシュ等の集電体や、アルミ箔、ニッケル箔、SUS箔等の金属箔からなる基板を備えさせなくとも、自身のみで、空気電池の正極構造体となることができる。
【0026】
<炭素材>
本発明の炭素構造体は、原料となる炭素材として、平均直径が1nm以上10nm以下、平均長さが1μm以上100μm以下、直径に対する長さの比であるアスペクト比が1000以上10000以下であるカーボンナノチューブを含む。
【0027】
なお、本発明の炭素構造体は、原料となる炭素材として上記のカーボンナノチューブを含んでいれば、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の炭素材を含んでいてもよい。
【0028】
炭素材となるカーボンナノチューブの、平均直径、平均長さ、及びアスペクト比が、上記の範囲にあることで、後述する炭素構造体の製造方法において、炭素繊維等の補強材を加えなくとも、形状を維持して自立性を有し、且つ高放電容量を示す空気電池を実現できる、炭素構造体を得ることが可能となる。
【0029】
本発明の炭素構造体は、原料となる炭素材として上記の特性範囲のカーボンナノチューブを用いて、後述する炭素構造体の製造方法を実施することで、カーボンナノチューブとカーボンナノチューブ同士を結合する高分子結着剤由来の炭素からのみから成り、形状が維持され、自立性を有する炭素構造体となる。
【0030】
(平均直径)
本発明の炭素構造体の原料となるカーボンナノチューブの平均直径は、1nm以上10nm以下である。カーボンナノチューブの平均直径が10nm超える場合には、炭素構造体中のカーボンナノチューブの数が減少し、放電反応で生成する過酸化リチウムの生成場が減少するため、得られる空気電池の放電容量が小さくなってしまう。直径1nm未満のカーボンナノチューブは、製造困難であり、入手困難である。
【0031】
カーボンナノチューブの平均直径は、1.2nm以上、1.4nm以上、又は1.5nm以上であってよく、7nm以下、5nm以下、又は3nm以下であってよい。
【0032】
(平均長さ)
本発明の炭素構造体の原料となるカーボンナノチューブの平均長さは、1μm以上100μm以下である。カーボンナノチューブの平均長さが1μmを下回る場合には、カーボンナノチューブが粉状となってしまうため、後述する炭素構造体の製造方法に従い、結着用高分子及び溶剤と混合して合剤スラリーを作り、合剤スラリーを成型するために塗工、乾燥しても、カーボンナノチューブ同士の結合力が弱く、塗工膜が崩れてしまう。この場合、補強材として炭素繊維等を混合すれば、形状維持し、自立性を持った炭素構造体を得ることができるが、炭素繊維等の補強材は放電容量に寄与しないため、その分、得られる空気電池の容量が減少していまい、その結果、電池の質量が増加し、小型化することが困難となる。
【0033】
一方で、カーボンナノチューブの平均長さが100μmを超える場合には、結着用高分子及び溶剤と混合して合剤スラリーを作る段階で、カーボンナノチューブの分散が悪く、合剤スラリーを成型するために塗工しても、ダマ状になっていまい、成型体とすることが困難となる。この場合も、補強材として炭素繊維等を混合すれば、形状維持し、自立性を持った炭素構造体を得ることができるが、上記の通り、炭素繊維等の補強材は放電容量に寄与しないため、その分、得られる空気電池の容量が減少していまい、その結果、電池の質量が増加し、小型化することが困難となる。
【0034】
カーボンナノチューブの平均長さは、2μm以上、3μm以上、又は4μm以上であってよく、70μm以下、40μm以下、又は20μm以下であってよい。
【0035】
(アスペクト比)
本発明の炭素構造体の原料となるカーボンナノチューブのアスペクト比は、1000以上10000以下である。カーボンナノチューブのアスペクト比が1000未満の場合には、相対的にカーボンナノチューブの長さが短いことで、カーボンナノチューブが粉状になってしまい、結着用高分子及び溶剤と混合して合剤スラリーを作り、合剤スラリーを成型するために塗工、乾燥した段階で、カーボンナノチューブ同士の結合力が弱く、塗工膜が崩れてしまう。
【0036】
一方で、カーボンナノチューブのアスペクト比が10000を超える場合には、相対的にカーボンナノチューブの長さが長いため、結着用高分子及び溶剤と混合して合剤スラリーを作る段階で、カーボンナノチューブの分散が悪く、合剤スラリーを成型するために塗工しても、ダマ状になっていまい、成型体とすることが困難となる。
【0037】
カーボンナノチューブのアスペクト比は、2000以上、2500以上、又は3000以上であってよく、8000以下、7000以下、又は6000以下であってよい。
【0038】
<炭素構造体の物性>
本発明の炭素構造体は、次の物性を有することが好ましい。
(a)窒素吸着法による直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積が、1.0cm3/g以上3.0cm3/g以下であり、
(b)窒素吸着法による直径1nm以上200nm以下の細孔の占める細孔容積が、1.0cm3/g以上2.3cm3/g以下であり、
(c)水銀圧入法による直径200nm以上10000nm以下の細孔の占める細孔容積が、1.0cm3/g以上3.3cm3/g以下であり、
(d)窒素吸着法によるt-プロット外部比表面積が、100m2/g以上300m2/g以下であり、
(e)見かけ密度が、0.15g/cm3以上0.30以下g/cm3以下であり、
(f)空隙率が70%以上90%以下である。
【0039】
((a)直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積)
本発明の炭素構造体は、(a)窒素吸着法による直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積が、1.0cm3/g以上3.0cm3/g以下であることが好ましい。なお、(a)窒素吸着法による直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積は、小数第2位を四捨五入して求めるものとする。
【0040】
炭素構造体の、(a)窒素吸着法による直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積が、上記の範囲であることで、炭素構造体を空気電池の正極に用いた場合に、放電で生成する過酸化リチウムをより多く蓄えることができ、高い放電容量特性を持つ電池を提供することできる。また、この細孔領域の細孔容積が大きいことで、炭素構造体内で空気又は酸素の透過拡散がしやすくなる。このため、電池外部から正極内へ導入された空気又は酸素を、炭素骨格を形成しているカーボンナノチューブの隅々まで、高速でいきわたらせることが可能となる。更には、この細孔領域の細孔容積が大きいことで、リチウム(Li)イオンの移動がスムーズとなり、空気や酸素の透過拡散性の高さと相まって、高速放電特性、すなわち高負荷特性に優れた空気電池を提供することができる。
【0041】
炭素構造体の(a)窒素吸着法による直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積は、より優れた充放電特性を有する電池を提供できる点で、より好ましくは、1.2cm3/g以上、1.4cm3/g以上、1.6cm3/g以上、又は2.0cm3/g以上であってよい。一方、(a)窒素吸着法による直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積は、炭素構造体の強度を十分なものとしつつ自立性を保持できる点で、より好ましくは、2.9cm3/g以下、2.8cm3/g以下、2.7cm3/g以下、又は2.0cm3/g以下であってよい。
【0042】
((b)直径1nm以上200nm以下の細孔の占める細孔容積)
本発明の炭素構造体は、(b)窒素吸着法による直径1nm以上200nm以下の細孔の占める細孔容積が、1.0cm3/g以上2.3cm3/g以下であることが好ましい。なお、(b)窒素吸着法による直径1μm以上200μm以下の細孔の占める細孔容積は、小数第2位を四捨五入して求めるものとする。
【0043】
炭素構造体の、(b)窒素吸着法による直径1nm以上200nm以下の細孔の占める細孔容積が、上記の範囲であることは、細孔径が比較的小さな範囲内にあるにも拘わらず細孔容積が大きいということを意味し、これは細孔の数が多いことを示唆している。すなわち、このような炭素構造体は、空気電池を形成した場合に、放電過程でリチウムイオンと酸素とが反応する場をより多く与えることとなり、高放電容量を示す電池を提供することができる。
【0044】
炭素構造体の(b)窒素吸着法による直径1nm以上200nm以下の細孔の占める細孔容積は、炭素構造体を空気電池の正極として用いた場合に、より高速な充放電が可能となる点で、より好ましくは、1.1cm3/g以上、1.5cm3/g以上、1.8cm3/g以上、又は好ましくは2.0cm3/g以上であってよい。一方、(b)窒素吸着法による直径1μm以上200μm以下の細孔の占める細孔容積は、炭素構造体の強度を十分なものとしつつ自立性を保持できる点で、より好ましくは、2.2cm3/g以下、1.8cm3/g以下、1.5cm3/g以下、又は1.2cm3/g以下であってよい。
【0045】
((c)直径200nm以上10000nm以下の細孔の占める細孔容積)
本発明の炭素構造体は、(c)水銀圧入法による直径200nm以上10000nm以下の細孔の占める細孔容積が、1.0cm3/g以上3.3cm3/g以下であることが好ましい。なお、(c)水銀圧入法による直径200nm以上10000nm以下の細孔の占める細孔容積は、小数第1位を四捨五入して求めるものとする。
【0046】
炭素構造体において、(c)水銀圧入法による直径200nm以上10000nm以下の細孔の占める細孔容積が、上記の範囲にある細孔は、主に、正極である炭素構造体の内部に、電池外部の酸素が侵入するために働く。このため、上記の範囲の細孔容積が大きいということは、リチウムイオンが酸素と反応して過酸化リチウムを生成するにあたり、十分な量の酸素を侵入させることでき、しかも高速で侵入させることができる。これにより、本発明の炭素構造体を正極に用いた電池は、高電流密度での放電容量が大きい、すなわち高負荷特性に優れた電池となる。また、充電過程においては、過酸化リチウムが電極に電子を渡してLiイオンと酸素になるが、直径200nm以上10000nm以下の細孔の占める細孔容積が上記の範囲にあることで、炭素構造体から発生した酸素の抜けがよくなり、高速での充電が可能となる。
【0047】
炭素構造体の(c)水銀圧入法による直径200nm以上10000nm以下の細孔の占める細孔容積は、正極への酸素の侵入と抜けとを高速で実現する点から、より好ましくは、1.1cm3/g以上、1.5cm3/g以上、又は2.0cm3/g以上、又は2.5cm3/g以上であってよい。一方、(c)水銀圧入法による直径200nm以上10000nm以下の細孔の占める細孔容積は、大きすぎないことで、炭素構造体の強度を保持できることから、3.0cm3/g以下、2.0cm3/g以下、又は1.5cm3/g以下であってよい。
【0048】
((d)窒素吸着法によるt-プロット外部比表面積)
本発明の炭素構造体は、(d)窒素吸着法によるt-プロット外部比表面積が、100m2/g以上300m2/g以下であることが好ましい。なお、(d)窒素吸着法によるt-プロット外部比表面積は、小数第1位を四捨五入して求めるものとする。
【0049】
t-プロット外部比表面積とは、窒素吸着測定により得られた吸着等温線をもとに、窒素の吸着層の厚みを横軸、吸着量を縦軸にプロットしたグラフから求められる。同じく窒素吸着測定により求めるBET(Brunauer-Emmett-Teller)法の比表面積から、このt-プロット外部比表面積を引いた数値は、t-プロットミクロ孔比表面積と定義される。t-プロットミクロ孔で表される細孔は、細孔が小さすぎてリチウムイオンや酸素が侵入困難であるため、放電反応にほとんど寄与することができない。すなわち、t-プロット外部比表面積とは、放電反応、更には、充電反応に有効な細孔の比表面積を表わすものである。
【0050】
炭素構造体において、(d)窒素吸着法によるt-プロット外部比表面積が、100m2/g以上300m2/g以下の範囲にあることは、原料であるカーボンナノチューブのt-プロット外部比表面積に由来しており、炭素構造体では、高分子結着剤由来の炭素がカーボンナノチューブに結合しているために、原料であるカーボンナノチューブよりは小さい値となっている。
【0051】
炭素構造体において、(d)窒素吸着法によるt-プロット外部比表面積が、100m2/g以上であると、炭素構造体を空気電池の正極として用いたときに、リチウムイオンと酸素とが反応して過酸化リチウムを生成する場合には、正極から供給される電子を酸素が受け取るのに必要な反応場を確保できるため、大きな放電容量が得られる。一方、(d)窒素吸着法によるt-プロット外部比表面積が300m2/g以下であると、正極表面における電池副反応の寄与を抑制することができるため、好ましい充放電特性が得られる。
【0052】
炭素構造体の(d)窒素吸着法によるt-プロット外部比表面積は、より多くの反応場の提供する点から、より好ましくは、120m2/g以上、140m2/g以上、160m2/g以上、180m2/g以上、又は200m2/g以上であってよい。一方、(d)窒素吸着法によるt-プロット外部比表面積は、電極表面における電池副反応をより抑制できることから、280m2/g以下、250m2/g以下、200m2/g以下、又は180m2/g以下であってよい。
【0053】
((e)見かけ密度)
本発明の炭素構造体は、(e)見かけ密度が0.15g/cm3以上0.30g/cm3以下であることが好ましい。炭素構造体の(e)見かけ密度がこの範囲にあれば、炭素構造体は、空気や酸素が透過拡散するのに必要な空孔を十分に有し、かつ、十分な強度を有するものとなる。見かけ密度が、上記の範囲を下回ると、炭素構造体の強度が落ちる可能性があり、上記の範囲を上回ると、空気や酸素が透過拡散するのに必要な空孔が減少する懸念が生じる。
【0054】
炭素構造体の(e)見かけ密度は、炭素構造体の強度をより優れたものとする点で、より好ましくは、0.16g/cm3以上、0.18g/cm3以上、0.20g/cm3以上、又は0.22g/cm3以上であってよい。一方、炭素構造体の(e)見かけ密度は、空隙を十分に有する炭素構造体を提供する点で、より好ましくは、0.29g/cm3以下、0.28g/cm3以下、0.25g/cm3以下、又は0.22g/cm3以下であってよい。
【0055】
((f)空隙率)
本発明の炭素構造体は、(f)空隙率が70%以上90%以下であることが好ましい。炭素構造体の(f)空隙率がこの範囲にあれば、炭素構造体は、空気や酸素が透過拡散するのに必要な空孔を十分に有し、かつ、十分な強度を有するものとなる。空隙率が、上記の範囲を上回ると、炭素構造体の強度が落ちる可能性があり、上記の範囲を下回ると、空気や酸素が透過拡散するのに必要な空孔が減少する懸念が生じる。
【0056】
炭素構造体の(f)空隙率は、炭素構造体をリチウム空気電池の正極として用いた場合に、より高い放電容量を有し、より高速放電可能な電池が得られる観点から、より好ましくは、72%以上、74%以上、76%以上、又は78%以上であってよい。一方、炭素構造体の(f)空隙率は、炭素構造体により優れた強度を付与できる点で、より好ましくは、89%以下、88%以下、87%以下、又は86%以下であってよい。
【0057】
≪炭素構造体の製造方法≫
本発明の炭素構造体は、
炭素材及び結着用高分子を含有する合剤スラリーを調製することと、
合剤スラリーを成型して合剤成型体を得ることと、
合剤成型体を、結着用高分子に対して溶解度が低い溶媒に浸漬させて多孔構造体を得ることと、
多孔構造体を乾燥させて炭素構造体前駆体を得ることと、
炭素構造体前駆体を不活性雰囲気下で炭素化処理して炭素構造体を得ることと、を包含する製造方法を実施することで得ることができる。
【0058】
図1は、本発明の炭素構造体の製造工程を示すフローチャートである。
【0059】
最初に、炭素材及び結着用高分子を含有する合剤スラリーを調製する(工程S1)。
合剤スラリーは、固形分中の質量百分率が60質量%以上95質量%以下の炭素材、5質量%以上40質量%以下の結着用高分子材料、及びそれらを均一に分散する溶媒からなることが好ましい。
【0060】
合剤スラリーの調製に用いる炭素材は、上記した物性を有するカーボンナノチューブである。
【0061】
合剤スラリーの調製に用いる結着用高分子材料としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリスルフォン、溶媒可溶型ポリイミド等の高分子材料を挙げることができる。
【0062】
合剤スラリーの調製に用いる溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)等を挙げることができる。
【0063】
次に、合剤スラリーを成型して合剤成型体を得る(工程S2)。
成型方法は特に限定されるものではないが、例えば、公知のドクターブレードを用いて塗布する湿式製膜法を挙げることができる。このほか、ロールコーター法、ダイコーター法、スピンコート法、スプレーコーティング法等を適用することもできる。
【0064】
成型体の形状は、目的に応じて様々な態様とすることができる。例えば、均一な厚みのシート状であってもよい。
【0065】
その後、溶媒浸漬を行う(工程S3)。具体的には、工程S2で得られた合剤成型体を、結着用高分子に対して溶解度が低い溶媒に浸漬させて多孔構造体を得る。
この溶媒浸漬工程では、非溶媒誘起相分離法にて、結着用高分子材料に対する溶解度が低い溶媒中に、工程S2で成型した合剤成型体を浸漬する。この工程により、結着用高分子が炭素材間に析出し、これにより炭素材同士が結着され、炭素材と結着用高分子からなる多孔構造体となる。
【0066】
溶媒浸漬工程で用いられる、結着用高分子材料に対する溶解度が低い溶媒としては、例えば、水、及びエチルアルコール、メチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール、並びに、これらの混合溶媒等を挙げることができる。
【0067】
次に、乾燥を行う(工程S4)。具体的には、工程S3で得られた多孔構造体を乾燥させて、炭素構造体前駆体を得る。
この乾燥工程では工程S3で得られた成形体から各種溶媒を揮発させる。乾燥方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、乾燥空気環境下に置く方法、減圧乾燥法、真空乾燥法等を挙げることができる。乾燥速度を速めるために、溶媒の沸点を超える程度の温度で加温してもよい。
【0068】
次に、炭素化処理を行う(工程S6)。具体的には、工程S4で得られた炭素構造体前駆体を不活性雰囲気下で炭素化処理して、炭素構造体を得る。
この炭素化処理により、結着用高分子が重縮合されて炭素に変化するとともに、生成した炭素が炭素材同士を強く結合する。この炭素化処理を経ることにより、自立性を有する炭素構造体が製造される。
【0069】
炭素化処理は、不活性ガスの雰囲気中で行う。炭素化処理に使用する炉としては、特に限定されるものではないが、例えば、オーブン炉、管状炉、ボックス炉、赤外線照射炉、黒鉛ヒーター炉、誘導加熱炉、リードハンマー炉、アチソン炉等を挙げることができる。
【0070】
炭素化処理の温度は、好ましくは、500℃以上3000℃以下の温度範囲である。この温度範囲であると、十分な炭素化効果を得ることができる。炭素化処理の温度は、より好ましくは、800℃以上2500℃以下の範囲である。
【0071】
炭素化処理における昇温速度の上限は、好ましくは100℃/min以下、より好ましくは50℃/以下、更に好ましくは30℃/min以下である。昇温速度の上限が上記よりも大きい場合には、炭素構造体が十分に炭素化されない場合がある。昇温速度の下限については特に制限はないが、0.01℃/min以上がコスト的に好ましい。
【0072】
炭素化処理は、通常は、不活性雰囲気で行われ、不活性ガスとしては、例えば、アルゴン(Ar)等の希ガス、窒素(N2)等を用いることができる。
【0073】
以上の工程により、自立性を有し、このため十分に実用的な機械的強度を有する炭素構造体を製造することができる。上記の製造方法によれば、成形体全体が炭素化した炭素構造体が得られるため、電池反応に直接関与しない、炭素繊維等の補強材や集電体を用いることなく、電極として必要な自立性と電子伝導性を自らが有する炭素構造体とすることができる。また、上記の製造方法により得られる炭素構造体は、自立性を有するとともに、高い空気又は酸素透過性、高いイオン輸送効率、及び空気電池をした場合の広い反応場を兼ね備える。
【0074】
本発明の炭素構造体の製造方法においては、任意に、不融化処理を行うことができる(工程S5)。具体的には、多孔構造体を乾燥させて前記炭素構造体前駆体を得る工程(工程S4)に続いて、かつ、上記炭素化処理(工程S6)に先立って、工程S4で得られた炭素構造体前駆体を不融化処理して不融化炭素構造体を得る工程を、任意に含んでいてもよい。不融化処理工程でえられた不融化炭素構造体を、上記の炭素化処理することにより、炭素構造体を得ることができる。
【0075】
この不融化処理は、結着用高分子材料が、次工程の炭素化処理工程で溶融分離し、多孔構造体の形状が崩れるのを防止する目的で行う。具体的には、不融化処理において、結着用高分子材料を酸化架橋して固体化することで、次工程の炭素化処理工程において結着用高分子材料が溶融分離することを防止する。
【0076】
不融化処理は、空気流通下、オーブン炉や赤外線照射等で加熱することで行う。処理温度としては、特に限定されるものではないが、250℃以上350℃以下であることが好ましい。250℃以上とすることにより、結着用高分子材料の酸化架橋を十分に進行させることができ、次工程の炭素化工程での溶融を回避することができる。350℃以下とすることにより、結着用高分子材料の分解を回避することができる。この不融化処理工程は、使用する結着用高分子材料の種類によっては、省略することも可能であり、本発明の炭素構造体の製造方法においては、任意の工程である。
【0077】
≪空気電池用正極≫
本発明の炭素構造体は、空気電池用正極として用いることができる。本発明の炭素構造体は、自身が自立性を有することから、集電体等の支持体を必要とすることなく、そのまま正極として適用することができる。
【0078】
≪空気電池≫
本発明の空気電池は、上記した本発明の炭素構造体を含む空気電池用正極と、負極と、空気電池用正極及び負極の間に存在する電解液と、を備える。
【0079】
<コインセル型空気電池>
一実施形態に係る空気電池の模式的な断面図を、
図2に示す。
図3は、別の空気電池の模式的な断面図である。空気電池601は、負極構造体610と正極構造体621とがセパレータ660を介して積層された電極積層体と、電極積層体を拘束する拘束具630とを備える、一般に「コインセル型」と呼ばれる空気電池である。
【0080】
図2に示される空気電池601では、正極構造体621そのものが、本発明の炭素構造体690となっており、正極構造体621として、本発明の炭素構造体690のみを備える。本発明の炭素構造体は、自立性を有することから、単独で正極構造体として用いることができる。
【0081】
炭素構造体690のみからなる
図2に示される正極構造体621は、集電体となる金属メッシュ等が存在しないため、空気電池601は、質量エネルギー密度の高い空気電池となる。また、炭素構造体690の構造が簡単であるため、製造において工程数を削減でき、空気電池を効率よく製造することができる。
【0082】
拘束具630と、正極構造体621である炭素構造体690との間には、絶縁性のオー(О)リングが配置され(図示無し)、拘束具630と正極構造体621との絶縁性が確保されている。
【0083】
負極構造体610は、集電体635と、集電体635上に配置された金属層640と、金属層640の外周を囲むように集電体635上に配置されたスペーサ650とにより構成される。金属層640と、セパレータ660との間には、空間670が設けられ、空間670に電解液が充填されている。
【0084】
金属層640を構成する材料は、アルカリ金属、及び/又はアルカリ土類金属を含有することが好ましい。中でも、リチウム金属を含む層が好ましい。
【0085】
負極構造体610と正極構造体621との間には、セパレータ660が配置される。
【0086】
また別の実施形態に係る空気電池を、
図3に示す。
図3に示される空気電池600は、正極構造体620が、本発明の炭素構造体690と、金属メッシュ680とで構成されている。具体的には、空気電池600の正極構造体620は、空気又は酸素が通る流路及び集電体機能を兼ねる金属メッシュ680に、本発明の炭素構造体690が機械的及び電気的に接触して備えられている。
【0087】
ここで、
図2に示される空気電池601と
図3に示される空気電池600との差は、金属メッシュ680の有無のみである。本発明の炭素構造体は、自立性を有しているため、自身のみで正極構造体となることができるが、空気電池に求められる物性に応じて、金属メッシュ等の集電体を備えさせることができる。
【0088】
金属メッシュ680を備える
図3に示される正極構造体620は、金属メッシュ680の存在により、導電性が高まるとともに、空気又は酸素の流路を十分に確保できるため、高出力に適した空気電池となる。
【0089】
なお、拘束具630と金属メッシュ680との間には絶縁性のオー(O)リングが配置され(図示なし)、これにより、拘束具630と正極構造体620との絶縁性が確保されている。
【0090】
負極構造体610と正極構造体620との間にはセパレータ660が配置される。
【0091】
以下、空気電池600の製造方法の一例について説明する。まず、負極構造体610を準備する。円盤状の集電体635の上に、集電体635と同心状で集電体635より径の小さな円盤状のリチウム等による金属層640を積層する。続いて、集電体635の上の金属層640の周囲にスペーサ650を押し付け、負極構造体610を得る。
【0092】
スペーサ650は、絶縁体である。素材としては、金属酸化物、金属窒化物、及び金属酸窒化物等であってよい。例えば、Al2O3、Ta2O5、TiO2、ZnO、ZrO2、SiO2、B2O3、P2O5、GeO2、Li2O、Na2O、K2O、MgO、CaO、SrO、BaO、Si3N4、AlN、及びAlOxN1-x(0<x<1)であってもよい。中では、Al2O3、及びSiO2は、入手が容易であり、加工性に優れるため好ましい。
【0093】
スペーサ650は、樹脂であってもよい。樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂、及びポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系樹脂が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、及びポリプロピレン等が挙げられる。ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、及びポリトリブチレンテレフタレート(PTT)等が挙げられる。これらの樹脂は、入手が容易であり、加工性に優れるため好ましい。
【0094】
次に、セパレータ660をスペーサ650上に押し付ける。このとき、金属層640とスペーサ650とセパレータ660との間には、空間670を設けることが好ましい。
【0095】
セパレータ660は、アルカリ金属イオン、及び/又はアルカリ土類金属イオンを通過させることが可能な多孔質の絶縁体である。セパレータ660の材料は、金属層640、及び電解液との反応性を有さない、任意の無機材料(金属材料を含む)、及び有機材料であってよい。
【0096】
セパレータ660としては、既存の金属電池に使用されるセパレータを使用することも可能であり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン等の合成樹脂からなる多孔質膜、ガラス繊維からなるシート等であってよい。セパレータ660は、織布であっても不織布であってもよい。
【0097】
その後、セパレータ660に電解液を充填する。このとき、併せて空間670も電解液を充填することが好ましい。
【0098】
電解液としては、アルカリ金属塩、及び/又はアルカリ土類金属塩を含有する、水系又は非水系の任意の電解液が使用できる。
【0099】
水系電解液が、アルカリ金属塩、及び/又はアルカリ土類金属塩としてリチウム塩を含む場合には、リチウム塩としては、例えば、LiOH、LiCl、LiNO3、及びLi2SO4が使用でき、溶媒としては、水、又は水溶性の溶媒を用いることができる。
【0100】
非水系電解液(非水電解液)が、アルカリ金属塩、及び/又はアルカリ土類金属塩としてリチウム塩を含む場合には、リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiSiF6、LiAsF6、LiN(SO2C2F5)2、Li(FSO2)2N、LiCF3SO3(LiTfO)、Li(CF3SO2)2N(LiTFSI)、LiC4F9SO3、LiClO4、LiAlO2、LiAlCl4、及びLiB(C2O4)2が使用できる。
【0101】
非水電解液に用いる非水溶媒としては、例えば、グライム類(モノグライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム)、メチルブチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルブチルエーテル、ジブチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、シクロヘキサノン、ジオキサン、ジメトキシエタン、2-メチルテトラヒドロフラン、2,2-ジメチルテトラヒドロフラン、2,5-ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸ジメチル、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ポリエチレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、デカノリド、バレロラクトン、メバロノラクトン、カプロラクトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ニトロメタン、ニトロベンゼン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン、テトラエチレングリコールジアミン、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン、トリエチルホスフィンオキシド、1,3-ジオキソラン、及びスルホランが挙げられる。
【0102】
しかる後、電解液を充填した負極構造体610に、正極構造体621である本発明の炭素構造体690を、セパレータ660を介して貼り合わせ、コインセル型拘束具630で拘束することにより、空気電池601を得る。実装は、乾燥空気下、例えば、露点温度-50℃以下の乾燥空気下で行うことが好ましい。
【0103】
図3に示される空気電池600を作製する場合には、炭素構造体690上に金属メッシュ680が配置された正極構造体620を準備し、上記の実装を行う。
【0104】
金属メッシュ680としては、例えば、銅(Cu)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、及びパラジウム(Pd)からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含むメッシュを用いることができる。例えば、この群から選ばれる金属単体、この群から選ばれる金属を含む合金、この群から選ばれる金属と炭素(C)や窒素(N)等との化合物からなるメッシュを挙げることができる。合金の場合には、鉄(Fe)、クロム(Cr)を含むこともできる。メッシュは、例えば、厚さ0.2mm、目開き1mmとすることができる。
【0105】
空気電池601及び600は、本発明の炭素構造体を使用した正極構造体621又は620が、高い空気又は酸素透過性を有することに起因して、多量の酸素を取り込むことが可能であり、更に、高いイオン輸送効率及び広い反応場を兼ね備えていること、その上で、炭素構造体のみ又は炭素構造体と金属メッシュのみというシンプルな構造であることにより、小型・軽量化が可能で、大容量化に適した空気電池となる。
【0106】
<積層型空気電池>
別の実施形態に係る空気電池の模式的な断面図を、
図4に示す。
図4は、積層型空気電池(積層型金属電池)を示す模式図である。
【0107】
空気電池500は、正極積層体510と負極積層体100とが、セパレータ540を介して積層された積層構造を備える。積層数は、正極積層体510と負極積層体100とが各々1からなる1対を単位として、1対以上複数対でよく、対数に特段の上限はない。
【0108】
負極積層体100は、一対の負極活物質層(金属層)と、それらにより挟まれる負極集電体520とから構成されている。
【0109】
一方、正極積層体510は、一対の本発明の炭素構造体である正極構造体621と、それらにより挟まれる正極集電体525とから構成されている。空気電池500において正極集電体525は、空気又は酸素の流路も兼ねた集電体となる。
【0110】
本発明の炭素構造体は、自立性を有することから、積層型の空気電池500において、本発明の炭素構造体そのものである正極構造体621の間に、正極集電体525を配置する構成により、正極構造体510を形成することができる。したがって、シンプルな積層構造で積層型の空気電池を形成することができ、より大容量の空気電池を実現することができる。
【0111】
なお、空気電池500は、本発明の炭素構造体をそのまま正極構造体として用いているが、正極構造体は、本発明の炭素構造体と、金属メッシュ等の集電体とが積層された構成であってもよい。本発明の炭素構造体は、自立性を有しているため、自身のみで正極構造体となることができるが、空気電池に求められる物性に応じて、金属メッシュ等の集電体を備えさせることができる。
【0112】
負極集電体520としては、例えば、銅(Cu)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、及びパラジウム(Pd)からなる群から選ばれるなくとも1種の金属が使用できる。
【0113】
正極集電体525としては、例えば、ステンレス鋼(SUS)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、及びパラジウム(Pd)からなる群から選ばれるなくとも1種の金属が使用できる。
【0114】
すなわち、負極集電体520、正極集電体525としては、例えば、この群から選ばれる金属単体、この群から選ばれる金属を含む合金、この群から選ばれる金属と炭素(C)や窒素(N)等との化合物であってもよい。
【0115】
なお、正極集電体525は、空気又は酸素の流路になるため、例えば、メッシュ、グリッド、スポンジ等、多孔性である必要がある。
【0116】
積層型の空気電池500は、負極構造体100と正極構造体510とを、セパレータ540を介して積層しすることで、製造できる。空気電池500は、収納容器(図示せず)に収容されてもよい。
【0117】
空気電池500は、本発明の炭素構造体を使用した正極構造体510が、高い空気又は酸素透過性を有することに起因して、多量の酸素を取り込むことが可能であり、更に、高いイオン輸送効率及び広い反応場を兼ね備えていること、その上で、炭素構造体のみ又は炭素構造体と金属メッシュのみというシンプルな構造であることにより、小型・軽量化が可能で、大容量化に適した空気電池となる。
【実施例0118】
以下、実施例等により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0119】
<測定方法>
原料として用いた炭素材、及び作製した炭素構造体の物性は、以下の方法で測定した。
【0120】
(1)直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積
3Flex(Micromeritics Instrument Corp.)を用いて、窒素吸着法により得られた吸着等温線からBJH(Barrett-Joyner-Hallenda)法を用いて求めた。
【0121】
(2)直径1nm以上200nm以下の細孔の占める細孔容積
3Flex(Micromeritics Instrument Corp.)を用いて、窒素吸着法により得られた吸着等温線からBJH法を用いて求めた。
【0122】
(3)直径200nm以上1000nm以下の細孔の占める比表面積
3Flex(Micromeritics Instrument Corp.)を用いて、窒素吸着法により得られた吸着等温線からBJH法を用いて求めた。
【0123】
(4)BET法比表面積
3Flex(Micromeritics Instrument Corp.)を用いて、窒素吸着法により得られた吸着等温線からBET(Brunauer-Emmett-Teller)法に従って求めた。
【0124】
(5)t-プロット外部比表面積
3Flex(Micromeritics Instrument Corp.)を用いて、窒素吸着法により得られた吸着等温線をもとに、窒素の吸着層の厚みを横軸、吸着量を縦軸にプロットしたグラフより、t-プロット法で求めた。
【0125】
(6)t-プロットミクロ孔比表面積
上記BET法の比表面積から上記t-プロット外部比表面積を引いた値で定義される。
【0126】
(7)直径200nm以上10000nm以下の細孔の占める細孔容積
AutoPoreIV(Micromeritics Instrument Corp.)を用いた水銀圧入法により、細孔径10nmから200000nm(0.01μmから200μm)の範囲の細孔容積を測定し、細孔直径200nmから10000nmの細孔容積の値を用いた。
【0127】
(8)見かけ密度
炭素構造体の質量をその体積で割って求めた。
【0128】
(9)空隙率
以下の式に従い求めた。
(1-炭素構造体の見かけ密度/炭素構造体の真密度)×100
【0129】
<炭素材>
炭素構造体の原料に用いた炭素材を、表1に示す。
【0130】
【0131】
<実施例1>
(炭素材)
炭素材として、カーボンンナノチューブ「TUBALL-CNT 01RW03」(OCSiAl(オクサイアル)社)(CNT1)を用いた。TUBALL-CNT 01RW03は、表1に示した通り、平均直径1.6nm、平均長さ5μm、アスペクト比3100である。
【0132】
[炭素構造体の作製]
(合剤スラリー調整工程)
TUBALL-CNT 01RW03 80質量部と、結着用高分子材料としてポリアクリロニトリル(PAN)20質量部に、これらを均一に分散する溶媒としてN-メチルピロリドンを加え、自公転混練機(シンキー社、型式:ARE310)によって混合することで、合剤スラリーを調製した。
【0133】
(成型工程)
合剤スラリーを、ドクターブレード法により厚さ300μmに塗布して、合剤成型シート(合剤成型体)を作製した。
【0134】
(溶媒浸漬工程)
成型工程で得られた合剤成型シートを、非溶媒誘起相分離法にてメタノール(貧溶媒)中に浸漬して、多孔質膜化した。
【0135】
非溶媒誘起相分離法とは、高分子溶液を非溶媒に浸漬して高分子を相分離析出させる方法であり、本実施例では、結着用高分子材料であるポリアクリロニトリル(PAN)が溶解したN-メチルピロリドン溶液中に炭素材が分散した状態となっている合剤スラリーを成型した合剤成型シートを、非溶媒(貧溶媒)であるメタノールに浸漬することで、N-メチルピロリドンがメタノール中に溶出し、ポリアクリロニトリル(PAN)が炭素材同士の間に析出する。そして、ポリアクリロニトリル(PAN)の析出により、炭素材を骨格とした多孔質の構造体が形成される。
【0136】
具体的に溶媒浸漬工程では、合剤成型シートをトレーに入れ、そこにメタノール220gを投入して静置した。2時間後、トレー中のメタノールを排出し、新たにメタノール220gを投入して17時間静置した。その後、トレー中のメタノールを排出することで、多孔質膜化された相分離シート(多孔構造体)を得た。
【0137】
(乾燥工程)
トレーから、多孔質膜化された相分離シート(多孔構造体)を取り出し、相分離シート(多孔構造体)に含まれている揮発性の溶媒を取り除くため、50℃で2時間、80℃で10時間の乾燥を実施し、乾燥シート(炭素構造体前駆体)を得た。
【0138】
(不融化工程)
得られた乾燥シート(炭素構造体前駆体)を、ヤマトイナートオーブンDN411を用いて、大気循環雰囲気で320℃3時間の不融化熱処理を行ない、乾燥シート(炭素構造体前駆体)のポリアクリロニトリル(PAN)を酸化架橋環化させて不融樹脂に変化させることで、長さ90mm、幅80mmの不融化シート(不融化炭素構造体)を得た。
【0139】
(炭素化工程)
不融化工程で得られた不融化シート(不融化炭素構造体)を、ボックス型炉(デンケンハイデンタル社)を用いて、窒素ガスを600mL/minで流しながら、昇温速度10℃/minで1050℃まで昇温し、1050℃で3時間保持後、室温まで放冷することで、不融化されたポリアクリロニトリル(PAN)を炭素化せしめ、全炭素からなる多孔質の炭素構造体を得た。表2に、製造条件及び、製造結果を示す。
【0140】
【0141】
[炭素構造体の物性測定]
得られた炭素構造体について、各種の測定を実施した。直径1nm以上1000nm以下の細孔の占める細孔容積は1.2cm3/g、直径1nm以上200nm以下の細孔の占める細孔容積は1.1cm3/g、直径200nm以上10000nm以下の細孔の占める細孔容積は2.9cm3/g、t-プロット外部比表面積は161m2/gであった。目付け(mg/cm2)は、炭素構造体を直径16mm(16φ)に打ち抜き、その質量をその面積で割ることで求めた。炭素構造体の物性を、表3に示す。
【0142】
【0143】
[リチウム空気電池の作製]
炭素構造体を直径16mm(φ16)に打ち抜き、作製した直径16mm(φ16)の炭素構造体を正極に用い、
図5に示すCR2032型のコインセル800を作製した。
【0144】
具体的には、露点温度-50℃以下のドライルーム(乾燥空気内)で、直径16mm(φ16)の炭素構造体である正極840、金属リチウム(直径(φ)16mm、厚さ0.2mm)である負極860、電解液としてLiTFS(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム)の1M-テトラエチレングリコールジメチルエーテル溶液100μLを含浸させたセパレータ(ガラス繊維ペーパ(Whatman(登録商標)、GF/A)850、更にステンレス製の円板870、皿ばね875を、コインセル缶(正極缶810、及び負極缶815)(CR2032型)を用いて実装することで作製した。
図5において、ガスケット880は、正極缶810と負極缶815との間に挟みこまれ、正極缶810と負極缶815の固定及び絶縁性確保の役割を果たしている。外気(本評価の場合酸素)は、直接、正極840に取り込まれる。
【0145】
[放電容量の測定]
作製したリチウム空気電池であるコインセルについて、純酸素雰囲気下、電流密度0.4mA/cm2で放電容量の測定を実施した。電圧が2.3Vまで下がった時点を放電終点として、得られた放電容量を、正極として用いた炭素構造体の質量で割ることで、正極質量当りの放電容量(比容量)を算出した。その結果、正極質量当りの放電容量は、3476mAh/gであった。放電容量を、表3に示す。
【0146】
<実施例2>
(炭素材)
実施例1と同じ炭素材(CNT1)を用いた。
【0147】
[炭素構造体の作製]
(合剤スラリー調製工程)
TUBALL-CNT 01RW03(CNT1)を90質量部、結着用高分子材料であるポリアクリロニトリル(PAN)を10質量部とした以外は、実施例1と同様にして、合剤スラリーを調製した。
【0148】
(成型工程)(溶媒浸漬工程)(乾燥工程)(不融化工程)(炭素化工程)
実施例1と同様に、成型工程、溶媒浸漬工程、乾燥工程、不融化工程、炭素化工程を実施し、炭素構造体を得た。製造条件及び製造結果を、表2に示す。
【0149】
[炭素構造体の物性測定]
得られた炭素構造体について、実施例1と同様に、各種物性を測定した。結果を表3に示す。
【0150】
[放電容量の測定]
実施例1と同様にして、リチウム空気電池を作製し、放電容量を測定した。正極質量当りの放電容量は、4219mAh/gであった。結果を表3に示す。
【0151】
<実施例3>
(炭素材)
炭素材として、カーボンンナノチューブ「eDIPS EC2.0P」(名城社)(CNT2)を用いた。DIPS EC2.0Pは、表1に示した通り、平均直径2nm、平均長さ10μm、アスペクト比5100である。
【0152】
[炭素構造体の作製]
(合剤スラリー調製工程)(成型工程)(溶媒浸漬工程)(乾燥工程)(不融化工程)(炭素化工程)
炭素材として「eDIPS EC2.0P」(CNT2)を用い、成型工程における塗布厚みを550μmとした以外は、実施例1と同様に、合剤スラリー調製工程、成型工程、溶媒浸漬工程、乾燥工程、不融化工程、炭素化工程を実施し、炭素構造体を得た。製造条件及び製造結果を、表2に示す。
【0153】
[炭素構造体の物性測定]
得られた炭素構造体について、実施例1と同様に、各種物性を測定した。結果を表3に示す。
【0154】
[放電容量の測定]
実施例1と同様にして、リチウム空気電池を作製し、放電容量を測定した。正極質量当りの放電容量は、4928mAh/gであった。結果を表3に示す。
【0155】
<比較例1>
(炭素材)
炭素材として、「ケッチェンブラックEC600JD」(ライオンスペシャリティー・ケミカルズ社)(KB)を用いた。ケッチェンブラックEC600JD(KB)は、一次粒子径約34nmの炭素粒子が葡萄の房状に結合して二次粒子を形成しており、その粒径は50%粒径で4.2μmであった。ケッチェンブラックEC600JDのその他の性状を合わせて、表1に示す。なお、50%粒径は、レーザー式粒度分布計LA950V2(堀場)を用いて、分散媒にエタノールを使用し、循環速度3、超音波強度7で3min間分散後に測定し、体積基準で積算50%の粒径値を用いた。
【0156】
[炭素構造体の作製]
(合剤スラリー調製工程)(成型工程)(溶媒浸漬工程)
炭素材としてケッチェンブラックEC600JD(KB)を用いた以外は、実施例1と同様に、合剤スラリー調製工程、成型工程、溶媒浸漬工程を実施した。しかし、溶媒浸漬工程で得られた相分離シート(多孔構造体)は、強度が弱く、ハンドリング中に壊れ、次の乾燥工程に進むことができなかった。製造条件及び製造結果を、表2に示す。
【0157】
<比較例2>
(原素材)
炭素材として、比較例1と同じ「ケッチェンブラックEC600JD」(ライオンスペシャリティー・ケミカルズ)(KB)を用いた。
【0158】
[炭素構造体の作製]
(合剤スラリー作製工程)
ケッチェンブラックEC600JD(KB)を65質量部、補強材として炭素繊維を12質量部、結着用高分子材料としてポリアクリロニトリル(PAN)を23質量部とした以外は、実施例1と同様にして、合剤スラリーを作製した。補強材としての炭素繊維は、チョップドファイバー(日本ポリマー産業、繊維平均径6μm、平均長さ3mm)を用いた。
【0159】
(成型工程)(溶媒浸漬工程)(乾燥工程)(不融化工程)(炭素化工程)
実施例1と同様に、成型工程、溶媒浸漬工程、乾燥工程、不融化工程、炭素化工程を実施し、炭素構造体を得た。製造条件及び製造結果を、表2に示す。
【0160】
なお、比較例1では補強材としての炭素繊維を加えなかったため、溶媒浸漬工程で得られた相分離シート(多孔構造体)は、強度が弱く、壊れてしまったが、比較例2では、補強材として炭素繊維を加えたため、強度を保持した相分離シート(多孔構造体)が得られた。
【0161】
[炭素構造体の物性測定]
得られた炭素構造体について、実施例1と同様に、各種物性を測定した。結果を表3に示す。
【0162】
[放電容量の測定]
実施例1と同様にして、リチウム空気電池を作製し、放電容量を測定した。正極質量当りの放電容量は、2824mAh/gであった。結果を表3に示す。
【0163】
<比較例3>
(炭素材)
炭素材として、カーボンンナノチューブ「ZEON-CNT-SG101」(日本ゼオン社)(CNT3)を用いた。ZEON-CNT-SG101は、表1に示した通り、平均直径4nm、平均長さ400μm、アスペクト比100000である。
【0164】
[炭素構造体の作製]
(合剤スラリー調製工程)(成型工程)(溶媒浸漬工程)
炭素材としてZEON―CNT-SG101(CNT3)を用いた以外は、実施例1と同様に、合剤スラリー調製工程、成型工程、溶媒浸漬工程を実施した。しかし、溶媒浸漬工程で得られた相分離シート(多孔構造体)は、斑で海島状になり、強度も弱く、次の乾燥工程に進むことができなかった。製造条件及び製造結果を、表2に示す。
【0165】
<比較例4>
(炭素材)
炭素材として、カーボンンナノチューブ「Cnano-CNT FT6120」(Cnano社)(CNT4)を用いた。Cnano-CNT FT6120は、表1に示した通り、平均直径8nm、平均長さ150μm、アスペクト比19000である。
【0166】
[炭素構造体の作製]
(合剤スラリー調製工程)(成型工程)(溶媒浸漬工程)
炭素材としてカーボンンナノチューブ「Cnano-CNT FT6120」(CNT4)を用いた以外は、実施例1と同様に、合剤スラリー調製工程、成型工程、溶媒浸漬工程を実施した。しかし、溶媒浸漬工程で得られた相分離シート(多孔構造体)は、強度が弱く、ハンドリング中に壊れ、次の乾燥工程に進むことができなかった。製造条件及び製造結果を、表2に示す。
【0167】
<比較例5>
(炭素材)
炭素材として、比較例4と同じカーボンンナノチューブ「Cnano-CNT FT6120」(Cnano社)(CNT4)を用いた。
【0168】
(合剤スラリー作製工程)
[炭素構造体の作製]
Cnano-CNT FT6120を75質量部、補強材として炭素繊維を10質量部、結着用高分子材料としてポリアクリロニトリル(PAN)を15質量部とした以外は、実施例1と同様にして、合剤スラリーを作製した。補強材としての炭素繊維は、チョップドファイバー(日本ポリマー産業、繊維平均径6μm、平均長さ3mm)を用いた。
【0169】
(成型工程)(溶媒浸漬工程)(乾燥工程)(不融化工程)(炭素化工程)
実施例1と同様に、成型工程、溶媒浸漬工程、乾燥工程、不融化工程、炭素化工程を実施し、炭素構造体を得た。製造条件及び製造結果を、表2に示す。
【0170】
なお、比較例4では補強材としての炭素繊維を加えなかったため、溶媒浸漬工程で得られた相分離シート(多孔構造体)は、強度が弱く、壊れてしまったが、比較例5では、補強材として炭素繊維を加えたため、強度を保持した相分離シート(多孔構造体)が得られた。
【0171】
[炭素構造体の物性測定]
得られた炭素構造体について、実施例1と同様に、各種物性を測定した。結果を表3に示す。
【0172】
[放電容量の測定]
実施例1と同様にして、リチウム空気電池を作製し、放電容量を測定した。正極質量当りの放電容量は、1976mAh/gであった。結果を表3に示す。
本発明の炭素構造体によれば、小型・軽量で放電容量の大きい空気電池を実現することができる。また、本発明の炭素構造体は、酸化性ガス雰囲気中での炭素化工程を経ることなく製造されるため、高放電容量の空気電池を実現するにあたり、酸化性ガス雰囲気中での炭素化処理を実施する炭素構造体と比較して、生産が容易となる上、製造コストの低減を図ることができる。