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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092106
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】ねじ姿勢矯正治具
(51)【国際特許分類】
   B23P 19/06 20060101AFI20240701BHJP
   B25B 23/04 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
B23P19/06 A
B25B23/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207799
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金田 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】工藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】角田 達哉
【テーマコード(参考)】
3C038
【Fターム(参考)】
3C038AA01
3C038BA03
3C038EA06
(57)【要約】
【課題】ねじ締め不良の低減及び作業の効率化が可能なねじ姿勢矯正治具を提供する。
【解決手段】ドライバービット5に対するねじ7の姿勢を矯正するねじ姿勢矯正治具3であって、治具本体30と、治具本体の上面30aに凹設されてねじの軸部7bが挿入される溝31と、治具本体の上面30aにおいて溝31の両側に沿って形成されてねじの座面7eが押し当てられる一対の押し当て面32と、を備え、一対の押し当て面32は、一方の押し当て面32A側と他方の押し当て面32B側とで、高さが互いに異なる領域S1を有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライバービットに対するねじの姿勢を矯正するねじ姿勢矯正治具であって、
治具本体と、
前記治具本体の上面に凹設されて前記ねじの軸部が挿入される溝と、
前記治具本体の上面において前記溝の両側に沿って形成されて前記ねじの座面が押し当てられる一対の押し当て面と、を備え、
前記一対の押し当て面は、一方の押し当て面側と他方の押し当て面側とで、高さが互いに異なる領域を有することを特徴とするねじ姿勢矯正治具。
【請求項2】
前記一対の押し当て面は、前記高さが互いに異なる領域において、
前記溝の入口端部側では、前記他方の押し当て面の方が前記一方の押し当て面よりも高さが高く、
前記溝の出口端部側では、前記一方の押し当て面の方が前記他方の押し当て面よりも高さが高いことを特徴とする請求項1に記載のねじ姿勢矯正治具。
【請求項3】
前記一対の押し当て面は、前記一方の押し当て面側と前記他方の押し当て面側とで、高さが互いに等しい領域を更に有し、
前記高さが互いに異なる領域は、前記溝の入口端部側に配置されており、
前記高さが互いに等しい領域は、前記高さが互いに異なる領域に連続して前記溝の出口端部側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のねじ姿勢矯正治具。
【請求項4】
前記高さが互いに異なる領域において、
前記一方の押し当て面は、前記上面から高さが一段下がった段差面を有し、
前記他方の押し当て面は、前記溝の入口端部側から該溝の出口端部側に向かって高さ方向に沿って漸次下降する傾斜面を有し、
前記傾斜面は、前記溝の入口端部側では前記段差面よりも高さが高く、該溝の出口端部側では該段差面よりも高さが低いことを特徴とする請求項3に記載のねじ姿勢矯正治具。
【請求項5】
前記高さが互いに等しい領域において、
前記一方の押し当て面は、前記段差面よりも高さが一段下がった平面を有し、
前記他方の押し当て面は、前記傾斜面の下端に連続する平面を有することを特徴とする請求項4に記載のねじ姿勢矯正治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ姿勢矯正治具に関する。
【背景技術】
【0002】
ねじを用いて部品をワークに組付けるねじ締め作業において、作業の効率化及び異物混入防止を図るために、ねじ収納部内のねじを自動的に整列し、供給するねじ供給機が利用されている。また、同作業において、作業の効率化及びワークの品質保証の確認方法のために、電動ドライバーが利用されている。
【0003】
ねじ供給機は、投入されたねじを1列に整列させるレール部と、ねじ取出口にドライバービットの先端を案内するためのガイド部を設けているのが一般的な形状となっている。しかしながら、この形状のねじ供給機では、ドライバービットがねじ取出口に案内された際に、ねじ取出口付近のレール部に並んでいるねじの整列状態を崩してしまうという問題があった。これに対して、ねじを1個ずつ分離した状態でねじ取出口に配することができる機構を有したねじ供給機が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
特許文献1には、水平に、且つ一方向に回転する回転円盤の外周において、回転軸に向かって開口し、ねじを1個ずつ収納する凹部が90度ずつの等間隔に設けられているねじ切出機構が開示されている。特許文献1に開示されたねじ切出機構は、回転円盤が回転することによって、ドライバービットが入り易い定位置にねじが1個ずつ配置されるので、ねじ同士の噛み込みや重なりを回避しつつ、ねじの姿勢が安定している状態でドライバービットに供給することができる。
【0005】
電動ドライバーには、例えばドライバーの出力軸を押し込むことでドライバービットが回転を開始するプッシュスタート式のものと、ドライバーの側面に配されているレバーを握ることでドライバービットが回転を開始するスタートトリガーレバー式のものがある。ねじ締め作業におけるワークの品質保証の確認方法では、ねじ締め後の本締めトルクと締結開始からねじが着座するまでの回転角度を測定し、その値が規格内かを確認することが一般的である。スタートトリガーレバー式の電動ドライバーは、レバーを握ることでドライバービットが回転を開始するので、動作不要なタイミングで回転を開始させてしまうおそれがある。したがって、ワークの品質保証の確認方法として正確な測定ができず、回転角度異常に関する管理が困難になるという問題がある。一方、プッシュスタート式の電動ドライバーは、ドライバーの出力軸を押し込むことでドライバービットが回転を開始するので、基本的には動作不要なタイミングで回転を開始させず、回転角度異常に関する管理が困難になるという問題の発生を抑制できる。したがって、ねじ締め作業に使用する電動ドライバーとしては、プッシュスタート式の方が好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-13596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されたねじ供給機のようにねじを1個ずつドライバービットに供給することができたとしても、ドライバービットに対してねじが傾くなどのドライバービットに対するねじのずれが生じるおそれがあった。例えば、ねじ供給機に投入するねじとしてばね座金が組み込まれた座金組込ねじを利用した場合、又は、ねじの不意な離脱防止用にねじ供給機のねじ取出口に配されているストッパーにねじが当たった場合にドライバービットに対してねじが傾くおそれがあった。なお、「ドライバービットに対するねじのずれ」とは、ドライバービットとねじとが正規の位置関係にないことをいう。正規の位置関係とは、ドライバービットの中心軸とねじの中心軸とが一致し、かつ、ドライバービットの先端とねじの頭部における穴の位相が一致して完全に嵌合していることをいう。
【0008】
また、プッシュスタート式の電動ドライバーでは、ドライバーの出力軸を押し込むことにより出力軸内のばねが押し縮められ、押し込み解除によってばねが元の状態に戻る動作が行われる。したがって、ばねが元の状態に戻る動作の際に、ばねの反発力による衝撃がドライバービットを介してねじに伝わり、ドライバービットに対してねじが傾くおそれがあった。
【0009】
ドライバービットに対してねじが傾いた状態でねじ締め作業が行われると、ねじがワークに引っ掛かるねじ噛みや、ねじがワークの縁で空転することによってねじ締めが途中で終了するねじ締め不足などのねじ締め不良が発生する可能性がある。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、ねじ締め不良の低減及び作業の効率化が可能なねじ姿勢矯正治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のねじ姿勢矯正治具は、ドライバービットに対するねじの姿勢を矯正するねじ姿勢矯正治具であって、治具本体と、前記治具本体の上面に凹設されて前記ねじの軸部が挿入される溝と、前記治具本体の上面において前記溝の両側に沿って形成されて前記ねじの座面が押し当てられる一対の押し当て面と、を備え、前記一対の押し当て面は、一方の押し当て面側と他方の押し当て面側とで、高さが互いに異なる領域を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ねじ締め不良の低減及び作業の効率化が可能なねじ姿勢矯正治具を提供することができる。
上記以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】本実施形態に係るねじ締めシステムの構成を示す正面図。
図1B】本実施形態に係るねじ締めシステムの構成を示す平面図。
図2】本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具が取り付けられた状態のねじ供給機の一例を示す平面図。
図3A】本実施形態に係る姿勢矯正の対象として想定しているねじの例を示す図。
図3B】本実施形態に係る姿勢矯正の対象として想定している座金が組み込まれたねじの例を示す図。
図4】本実施形態に係るねじ供給機に取り付けた状態のねじ姿勢矯正治具の一例を示す斜視図。
図5A】本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具の平面図。
図5B】本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具の正面図。
図6】本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具の図5BにおけるA-A断面図。
図7】従来のねじ締め作業における正常時のフローを示す図。
図8】従来のねじ締め作業における正常時のトルク-角度の変位を示す図。
図9】従来のねじ締め作業におけるねじ噛みの状態を示す図。
図10】従来のねじ締め作業における空転の後で正常に着座する場合のフローを示す図。
図11】従来のねじ締め作業における空転の後で正常に着座する場合のトルク-角度の変位を示す図。
図12】従来のねじ供給機から取り出す対象であるねじが取り出される前から傾いている状態を示す図。
図13】従来のねじ供給機から取り出す対象であるねじがストッパーに当たることによって傾いている状態を示す図。
図14】従来のねじ供給機から取り出す対象であるねじがプッシュスタート式電動ドライバーによって取り出された際に、ドライバーの動作解除に伴うばねの反発力によって傾いている状態を示す図。
図15】従来におけるねじの傾きを作業者が目で確認し、手作業で姿勢を矯正した際に発生するねじ及びワークへの異物の混入の状態を示す図。
図16A】本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具を用いた姿勢矯正工程のうち、ドライバービットとねじとがずれた状態を示す図。
図16B】本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具を用いた姿勢矯正工程のうち、ねじ姿勢矯正治具へのねじの挿入を示す図。
図17A】本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具を用いた姿勢矯正工程のうち、高さが互いに異なる領域の溝の入口端部側におけるねじの状態を示す図。
図17B】本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具を用いた姿勢矯正工程のうち、高さが互いに異なる領域の溝の出口端部側におけるねじの状態を示す図。
図18A】本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具を用いた姿勢矯正工程のうち、高さが互いに等しい領域におけるねじの状態を示す図。
図18B】本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具を用いた姿勢矯正工程のうち、ねじの姿勢矯正完了状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、各実施形態において同一の符号を付された構成については、特に言及しない限り、各実施形態において同様の機能を有し、その説明を省略する。
【0015】
図1Aは、本実施形態に係るねじ締めシステム1の構成を示す平面図、図1Bは、本実施形態に係るねじ締めシステム1の構成を示す正面図である。
【0016】
ねじ締めシステム1は、ねじを用いて部品をワークに組付けるねじ締め作業用のシステムであり、ねじ供給機2と、ねじ姿勢矯正治具3と、電動ドライバー4と、ドライバービット5と、ねじ締め助力アーム6と、を有する。ねじ供給機2とねじ締め助力アーム6は、例えば水平に設置された基台10の上にそれぞれ固定されている。
【0017】
ねじ締め助力アーム6は、ねじ締め助力アーム6の先端部に電動ドライバー4が取り付けられており、電動ドライバー4の先端にドライバービット5が取り付けられている。ねじ締め助力アーム6は、例えば4軸の水平多関節型のアームである。ねじ締め助力アーム6は、平面3自由度(図1B参照)及び第3軸であるアームの先端部の上下運動機構(不図示)による4軸構成となっている。また、ねじ締め助力アーム6としては、水平多関節型以外のものでもよく、直動型のもの、ロボット、あるいは専用に設計されたもの等、他の構造のものを用いてもよい。
【0018】
電動ドライバー4は、プッシュスタート式のものが用いられている。電動ドライバー4は、図7に示すように、動作するためのスイッチを有する出力軸41、及び、出力軸41内に組み込まれ、出力軸41のオンオフを制御するためのばね42を備えている。また、電動ドライバー4は、トルク及び回転角度を確認するセンサ(不図示)を有している。センサを有している電動ドライバー4は、以下の表1に示すように、本締め時のトルクを測ることによって、ねじのワークに対する締結力を保証する。また、センサを有している電動ドライバー4は、以下の表1に示すように、回転角度、具体的にはねじを仮締めし始めてからねじが着座するまでの回転角度を測ることによって、ねじのワークに対するねじ噛み状態が発生しているかどうかを検出する。
【0019】
【表1】
【0020】
ドライバービット5は、ねじ締め作業に用いるねじに合わせて適切なものを用いることができる。また、ドライバービット5に磁力を有するものを用いることによって、ドライバービット5からのねじの落下を防止できるようにしてもよい。
【0021】
図2は、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3が取り付けられた状態のねじ供給機2の一例を示す平面図である。
【0022】
ねじ供給機2は、内部に投入された複数のねじ7を整列させる整列部2Aと、整列部2Aに整列された複数のねじ7を整列部2Aから1個ずつ取り出すねじ切出部2Bとを備えている。整列部2Aは、複数のねじ7が投入されるホッパ22と、ホッパ22に投入された複数のねじ7を案内して一列に整列させる整列レール23を有している。整列レール23は、上流から下流に移行するにしたがって漸次高さが低くなるように傾斜しており、整列レール23の下流端には供給口24が設けられている。
【0023】
ねじ切出部2Bは、整列レール23の供給口24に連続して設けられて間欠回転によって整列レール23からねじ7を1個ずつ取り出す円盤21と、円盤21の中心を間に介して整列レール23の供給口24と反対側に設けられ円盤21からねじ7を取り出すためのねじ取出口26と、円盤21によって取り出されたねじ7をねじ取出口26に保持するストッパー27を有している。
【0024】
円盤21は、その上面が整列レール23の供給口24と面一に連続するように配置されている。円盤21の外周には、U字状に切り欠くことによってねじ7を1個保持する保持穴25がそれぞれ等間隔で複数形成されている。本実施形態では、保持穴25は、円盤21の外周に等間隔で4箇所に形成されており、円盤21は、回転角度90°のピッチで間欠回転される。円盤21は、保持穴25を整列レール23の供給口24に対向する位置に配置することによって、保持穴25にねじ7を1個保持し、かかる状態で回転することにより、ねじ取出口26に移送することができる。
【0025】
ストッパー27は、ねじ取出口26において円盤21の中心に向かって常に弱い力で付勢しており、ねじ取出口26に移送されたねじ7が離脱しないように押さえている。ストッパー27は、ドライバービット5によってねじ7をねじ取出口26から取り出す方向に移動させることでねじ取出口26から離れる方向に回動退避し、ねじ7のねじ取出口26からの取り出しを可能にする。
【0026】
なお、図2に示すねじ供給機2の構成は一例であり、他のねじ供給機にねじ姿勢矯正治具3を取り付けることもできる。
【0027】
図3Aは、本実施形態に係る姿勢矯正の対象として想定しているねじ7の例を示す図、図3Bは、座金が組み込まれたねじ7’の例を示す図である。なお、以下のねじ7に関する記載は、別途記載のない限り座金が組み込まれたねじ7’についても適用可能である。また、座金が組み込まれたねじ7’に関する記載は、別途記載のない限りねじ7についても適用可能である。
【0028】
ねじ7は、ねじの頭部7aの頂面側の角部が丸みを帯びているとともにねじ先が概ね平坦に形成されている、いわゆるナベねじである。座金が組み込まれたねじ7’としては、ねじの外形よりも穴径の小さい座金を、ねじを転造する前にねじ首下部分に組み込み、その後に転造することで座金が外れないようにしたものが好ましい。座金としては、各1枚のばね座金7dとワッシャ7cを用いている座金であることが好ましい。
【0029】
ねじ7は、軸部7bの長さL1が、軸部7bの最外径D1の2倍以上のものが好ましく、例えば軸部7bの最外径D1が3.0mmであって、軸部7bの長さL1が6mm程度のねじ7が好ましい。ねじ7では、軸部7bの長さL1は、座面7eから軸部7bの先端までの長さを指す。また、座金が組み込まれたねじ7’は、ねじ7と同様に軸部7bの最外径D1が3.0mmであって、軸部7bの長さL1’が6mm程度のものが好ましい。座金が組み込まれたねじ7’では、軸部7bの長さL1’は、着座時のワッシャ7cから軸部7bの先端までの長さを指す。
【0030】
ねじ7は、ナベねじに限定されるものではなく、皿ねじなどの他の形状でもよい。また、頭部7aの穴も図3Aに示すように一般的な十字形状の穴7fでもよく、図3Bに示すように、よりドライバービットとの嵌合性を高められるインタトルク(登録商標)形状の穴7gでもよい。
【0031】
図4は、本実施形態に係るねじ供給機2に取り付けた状態のねじ姿勢矯正治具3の一例を示す斜視図、図5Aは、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具の平面図、図5Bは、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具の正面図、図6は、図5BのA-A断面図である。なお、説明の便宜上、水平方向でかつねじ供給機2からねじ7が取り出される方向をZ方向、Z方向に直交する上下方向をY方向、Z方向とY方向にそれぞれ直交する横方向をX方向と定義する。
【0032】
ねじ姿勢矯正治具3は、ねじ供給機2から取り出されるねじ7のドライバービット5に対する姿勢を矯正する治具である。ねじ姿勢矯正治具3は、ねじの軸部7bを溝31に挿入し、ドライバービット5をねじの頭部7aに押し当てて、ねじ7が溝31によって案内移動されるようにドライバービット5を移動させることによって、ドライバービット5に対するねじ7の姿勢を矯正する構成を有する。
【0033】
ねじ姿勢矯正治具3は、鉄やステンレスなどの比較的高剛性の金属材料からなるブロック状の部材によって構成された治具本体30を有している。治具本体30は、ねじ供給機2の筐体正面にねじ締結されて一体に固定されている。治具本体30は、ねじ供給機2の筐体正面に固定される背面30bと、ねじ切出部2Bの円盤21の上面と面一に連続する上面30aと、背面30bとは反対側の面となる正面30cを有している。
【0034】
背面30bは、治具本体30におけるねじ7の入口側となる面であり、正面30cは、治具本体30におけるねじ7の出口側となる面である。治具本体30の上面30aには、図4及び図5に示すように、溝31が凹設されており、更に、溝31を間に挟んで配置される左右一対の押し当て面32A、32Bが形成されている。
【0035】
溝31は、図4及び図5Aに示すように、治具本体30の背面30bと正面30cとの間に亘って直線状に延びるように形成されている。溝31は、溝31の入口側の端部31a(以下、単に「入口端部31a」ということもある)が、背面30bのうち、ねじ供給機2のねじ取出口26に連続する位置に配置されている。溝31の出口側の端部31b(以下、単に「出口端部31b」ということもある)は、治具本体30の正面30cに開口している。溝31は、溝31内にねじの軸部7bが挿入された状態で、入口端部31aから取出方向(Z方向)に沿って出口端部31bに向けてねじ7を案内して通過させることができるようになっている。
【0036】
溝31は、互いに対向する一対の側面31c、31dと、底面31eを有する。一対の側面31c、31dは、上面30aに対して直交し、底面31eは、上面30aと平行となる形状を有している。なお、溝31の底部は底面31eによって閉塞されている必要はなく、底面31eがなく、下方に向かって開放された構成であってもよい。
【0037】
溝31の幅Wは、図5Bに示すように、ねじの頭部7aの直径D2よりも狭く、且つ、ねじの軸部7bの最外径D1よりも広い。例えば溝31の幅Wは、3mmより広く、6mm未満であることが好ましい。溝31の幅Wが、ねじの頭部7aの直径D2と同一以上だと、ねじ7全体が溝31内に挿入されてしまい後述する姿勢矯正ができない。溝31の幅Wが、ねじの軸部7bの最外径D1と同一以下だと、ねじの軸部7bが溝31内に挿入できないか、挿入できたとしてもねじの軸部7bと両側面31c、31dとが干渉するおそれがあり後述する姿勢矯正ができない。
【0038】
溝31の幅Wは、ねじ7の中心軸Oと溝31の中心軸J(図5B参照)とを一致させた状態でねじの軸部7bが挿入された場合、ねじの軸部7bと溝31の側面31c、31dとの間にそれぞれクリアランスC1が生じる大きさを有している。溝31の幅Wは、ねじの軸部7bが溝31内で溝31の幅W方向に所定の角度範囲内で傾くことを許容する大きさに設定されている。溝31の幅Wは、ねじ7の中心軸Oと溝31の中心軸Jとが一致しない状態であっても、ねじ7が過度に傾かない限り、ねじの軸部7bを挿入可能な大きさに設定されている。また、溝31の幅Wは、ねじの軸部7bが側面31c、31dに当たってもねじ7の姿勢矯正が妨げられない程度の大きさに設定されている。
【0039】
溝31の幅Wが上述の範囲内であっても、クリアランスC1が過度に広いと、ねじ7が溝31内で過度に遊んでしまうおそれがある。特に、ドライバービット5に対するねじ7の姿勢が傾いている場合、電動ドライバー4が回転することによって、ねじ7に不要な慣性力が働き、ねじ7がドライバービット5と一体となっていない状態で回転して、ドライバービット5からねじ7が外れるおそれがある。溝31の溝幅Wは、ねじ7が溝31内で不規則に揺れることを防止することができる大きさに設定されている。溝31の両側面31c、31dは、ねじ7が溝31内で過度に不規則に動く場合に、ねじの軸部7bが当接することにより、ねじ7における溝31の幅W方向の動きを所定範囲内に規制する働きを有する。
【0040】
一対の押し当て面32A、32Bは、図4及び図5に示すように、治具本体30の上面30aにおいて溝31の両側に沿って形成されている。一対の押し当て面32A、32Bは、溝31の入口端部31aから出口端部31bに沿って形成されている。一対の押し当て面32A、32Bは、ねじの軸部7bが溝31に挿入された状態でねじの座面7eが押し当てられる部位である。
【0041】
一対の押し当て面32A、32Bは、一方の押し当て面32A側と他方の押し当て面32B側とで、治具本体30における高さ方向(Y方向)の位置(以下、単に「高さ」ということもある)が互いに異なる領域S1と、一方の押し当て面32A側と他方の押し当て面32B側とで、高さが互いに等しい領域S2とを有している。高さが互いに異なる領域S1は、溝31の入口端部31a側に配置されており、高さが互いに異なる領域S1に連続して溝31の出口端部31b側に高さが互いに等しい領域S2が配置されている。
【0042】
一方の押し当て面32Aの領域S1には、上面30aからY方向に一段下がった段差面33が設けられている。他方の押し当て面32Bの領域S1には、溝31の入口端部31a側から出口端部31b側に向かってZ方向に移行するにしたがってY方向に沿って漸次下降する傾斜面34が設けられている。段差面33と傾斜面34は、それぞれ溝31の入口端部31aから溝31のZ方向中間位置までの間に亘って設けられている。
【0043】
段差面33は、上面30aと平行な面を有している。傾斜面34は、上面30aと同じ高さ位置から、つまり、段差面33よりも上方の高さ位置から、段差面33よりも下方の高さ位置まで下降する傾斜角度を有している。段差面33と傾斜面34との高さ関係は、溝31の入口端部31a側では傾斜面34の方が高く、溝31の出口端部31b側では段差面33の方が高くなっている。
【0044】
一方の押し当て面32Aの領域S2には、領域S1の段差面33よりも更にY方向に一段下がった平面35が設けられている。他方の押し当て面32Bの領域S2には、領域S1の傾斜面34の下端に連続する平面36が設けられている。領域S2の平面35と平面36は、段差面33よりも低い位置で上面30aと平行でかつ互いに面一となる高さ位置に設けられている。
【0045】
平面35、36は、一対の押し当て面32A、32Bの中で高さ位置が最も低い部位である。平面35、36から溝31の底部(底面31e)までの高さ方向の距離Iは、ねじの軸部7bの長さL1よりも長い。上面30aから平面35、36までの高さ方向の距離は、電動ドライバー4の備えるばね42(図18B参照)の最大伸長よりも短く、具体的には、2.0mm以下であることが好ましい。
【0046】
上述のように、一対の押し当て面32A、32Bは、領域S1では、一方の押し当て面32A側と他方の押し当て面32B側とで高さが互いに異なっており、特に溝31の入口端部31a側では、他方の押し当て面32Bの傾斜面34の方が一方の押し当て面32Aの段差面33よりも高さが高く、溝31の出口端部31b側では、一方の押し当て面32Aの段差面33の方が他方の押し当て面32Bの傾斜面34よりも高さが高くなっている。そして、一対の押し当て面32A、32Bは、領域S2では、平面35と36の高さが互いに等しくなっている。
【0047】
押し当て面32A、32BのX方向の幅は、ねじの座面7eが対向して当接する大きさ以上であればよい。押し当て面32A、32BのZ方向の長さは、ねじの頭部7aの直径D2の2倍以上であればよい。なお、座金が組み込まれたねじ7’を用いる場合は、押し当て面32A、32Bの幅は、ワッシャ7cが対向して当接する大きさ以上であればよく、押し当て面32A、32BのZ方向の長さは、ワッシャ7cの直径D2’の2倍以上であればよい。なお、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3の外形や大きさ等は一例であり、これに限定されるものではない。
【0048】
次に上述の構成による作用について、従来のねじ締め作業の方法及び従来のねじ締め作業において発生し得る問題と共に説明する。
【0049】
図7は、従来のねじ締め作業における正常時のフローを示す図である。図8は、従来のねじ締め作業における正常時のトルク-角度の変位を示す図である。
【0050】
従来のねじ締め作業は、図7及び図8に示すように、初期回転、仮締め、着座、本締めの順に行う。初期回転では座金が組み込まれたねじの頭部7aとドライバービット5の先端を嵌合し、ワーク8のねじ穴まで移動させる。その後、仮締めを行いワッシャ7cが着座するまで一気に締め上げる。最後に、目標の本締めトルクになるように低速回転で本締めを行う。なお、本説明及び以下の説明においては、座金が組み込まれたねじ7’を用いているが、一般的なねじ7においても、仮締めの際に着座するのがねじの座面7eである点が異なるだけで、それ以外は同様である。
【0051】
図9は、従来のねじ締め作業におけるねじ噛みの状態を示す図である。
【0052】
従来のねじ締め作業において、図8で示した正常時のトルク-角度の変位のうち、初期回転から着座までの回転角度θによって、ねじ噛みが起きているかどうかは確認することができる。具体的には、初期回転時、仮締め時及び着座時の回転角度θが正常時よりも長くなっていた場合、図9に示すように、ねじ噛みが起きていると判断する。
【0053】
図10は、従来のねじ締め作業における空転の後で正常に着座する場合のフローを示す図である。図11は、従来のねじ締め作業における空転の後で正常に着座する場合のトルク-角度の変位を示す図である。
【0054】
図10及び図11に示すように、仮締めの初期段階において、ねじ穴ではなくワーク8上で座金が組み込まれたねじ7’が空転した後で正常に着座した場合、空転時からトルクが発生する。よって、ねじ穴にねじ7’が入っていないにも関わらずねじ締めを開始したと誤検知し、実回転角度θ1に空転分を含めた回転角度である含空転回転角度θ2を加えて計測してしまう。これにより、仮締めから着座までの回転角度の測定結果に含空転回転角度θ2が含まれてしまうため、ねじ締めを行ったワーク8としては正常品であっても、仮締め角度が基準値より大きい値になってしまう。したがって、空転した履歴があるものは、正常品であっても、システムとして異常判定を出してしまい正確に品質保証ができないおそれがある。
【0055】
従来のねじ締め作業において、ドライバービット5に対する座金が組み込まれたねじ7’の姿勢が何らかの原因によって傾いてしまった場合、図7及び図8に示すような正常なねじ締めは発生し難い。ドライバービット5に対するねじ7’の傾きの角度等によって、上述のように、ワーク内でねじ噛みが起きるか、又は、ワークのねじ穴近傍で数回空転したことによって異常判定が出てしまうなどの様々なねじ締め不良が発生し得る。
【0056】
図12は、従来のねじ供給機2から取り出す対象である座金が組み込まれたねじ7’が取り出される前から傾いている状態を示す図である。図13は、従来のねじ供給機2から取り出す対象であるねじ7がストッパー27に当たることによって傾いている状態を示す図である。図14は、従来のねじ供給機2から取り出す対象であるねじ7がプッシュスタート式の電動ドライバー4によって取り出された際に、ドライバーの動作解除に伴うばね42の反発力によって傾いている状態を示す図である。図15は、従来におけるねじ7の傾きを作業者が目で確認し、手作業で姿勢を矯正した際に発生し得るねじ7への異物9の付着及びワーク8への異物9の混入の状態を示す図である。
【0057】
ドライバービット5に対するねじ7の姿勢が傾くなどのずれる原因としては、以下の3つの場合が主に考えられる。
【0058】
1.ねじ供給機2に投入されたねじが、座金が組み込まれたねじ7’などの特殊なねじであり、ねじの座面7e側の不安定さによって傾く場合
例えば、ねじ7’が、図12に示すように、ワッシャ7c及びばね座金7dによって、予めねじの中心軸Oが傾いた状態でねじ取出口26に移送され、ドライバービット5に対してずれることが想定される。ねじ7’は、ドライバービット5の中心軸Mに対してねじの中心軸Oが予め傾いた状態でドライバービット5がねじの頭部7aに押し当てられることによって傾く。
【0059】
2.ねじ供給機2によって正常な姿勢で移送されたねじ7が、ドライバービット5と正常な姿勢で嵌合された後、ねじ取出口26の近傍に配されたストッパー27に当たって傾く場合
例えば、ねじ7は、図13に示すように、ねじ供給機2によって正常な姿勢でねじ取出口26に移送され、ドライバービット5に対しても正常な姿勢で嵌合される。この後に、ねじ7がストッパー27によってずれることが想定される。ねじ7は、正常な姿勢でねじ供給機2から取り出される際にストッパー27に当たってしまい、当たった衝撃で傾くおそれがある。
なお、ねじ7の正常な姿勢とは、ドライバービット5とねじ7とが正規の位置関係にある場合のねじ7の姿勢のことを指す。
【0060】
3.ねじ供給機2によって正常な姿勢で移送されたねじ7が、ドライバービット5と正常な姿勢で嵌合された後、プッシュスタート式の電動ドライバー4の動作解除に伴うばね42の反発力に影響されて傾く場合
例えば、ねじ7は、図14に示すように、ねじ供給機2によって正常な姿勢でねじ取出口26に移送され、プッシュスタート式の電動ドライバー4によってドライバービット5に対しても正常な姿勢で嵌合される。この後に、ねじ7が電動ドライバー4内のばね42の影響によってずれることが想定される。
【0061】
具体的には、まず作業者が電動ドライバー4を押し込む。これによって、ドライバービット5が回転を開始し、ドライバービット5とねじ7とを嵌合する。この際、電動ドライバー4の出力軸41内に備えられたばね42は、ねじ7からドライバービット5に向かう方向に最大まで縮む。次いで作業者がねじ7をねじ供給機2から取り出すためにドライバービット5とねじ7とが嵌合した状態でねじ供給機2に対する電動ドライバー4の押し込みを解除する。これによって、ドライバービット5とねじ7とが嵌合した状態のままドライバービット5の回転が解除される。この際、ばね42は、縮んでいた形状から伸びて元の形状まで戻る。ばね42の形状が元に戻る際に、ばね42は、縮んでいた方向と逆方向、すなわちドライバービット5からねじ7に向かう方向に反発力を生む。ばね42が生み出した反発力は、ドライバービット5を介してねじ7に衝撃として伝わり、衝撃を受けたねじ7が傾くおそれがある。
【0062】
上述の3つの場合におけるドライバービット5に対するねじ7の姿勢の傾きを矯正する方法として、従来は作業者が手作業で行う方法が一般的である。具体的には、図15に示すように、作業者がねじ締め作業を行うにあたって、ドライバービットに対してねじ7が傾いているかどうかを目視で確認する。ねじ7が傾いていた場合、作業者は、ワーク8へのねじ締めを開始する前に、手でねじ7を把持してドライバービット5とねじ7とがずれた状態を正規の位置関係にする。これにより、ねじ7は正常な姿勢となる。しかしながら、ドライバービット5とねじ7とがずれた状態を正規の位置関係にする際に、作業者の手に付着していた異物9がねじ7に付着するおそれがある。ねじ7に異物9が付着したままねじ締めが行われると、ワーク8のねじ穴又は内部に異物9が混入するおそれがある。ワーク8に異物9が混入した場合、ねじ締め後のワーク8とねじ7の軸力が低下するおそれがある。また、作業者が目視で確認しながらのねじ締め作業になることによって、ねじ締め作業自体の作業効率の低下も発生するおそれがある。
【0063】
本実施形態においては、ねじ7をプッシュスタート式の電動ドライバー4によってねじ供給機2のねじ取出口26から取り出した後に、図16図17及び図18に示すねじ姿勢矯正工程を実行する。このねじ姿勢矯正工程は、以下に説明するように、ドライバービット5に対するねじ7の姿勢の傾きを矯正する工程である。
【0064】
図16Aは、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3を用いた姿勢矯正工程のうち、ドライバービット5とねじ7とがずれた状態を示す図、図16Bは、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3を用いた姿勢矯正工程のうち、ねじ姿勢矯正治具3へのねじ7の挿入を示す図である。図17Aは、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3を用いた姿勢矯正工程のうち、高さが互いに異なる領域S1における溝31の入口端部31a側におけるねじ7の状態を示す図、図17Bは、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3を用いた姿勢矯正工程のうち、高さが互いに異なる領域S1における溝31の出口端部31b側におけるねじ7の状態を示す図である。図18Aは、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3を用いた姿勢矯正工程のうち、高さが互いに等しい領域S2におけるねじ7の状態を示す図、図18Bは、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3を用いた姿勢矯正工程のうち、ねじ7の姿勢矯正完了状態を示す図である。
【0065】
本実施形態に係るねじ姿勢矯正工程としては、図16Aに示すように、まずねじ供給機2のねじ取出口26に切り出されているねじ7に対して電動ドライバー4が垂直に下降され、ドライバービット5がねじの頭部7aに押し当てられる。これによって、電動ドライバー4の出力軸41が押し込まれ、ドライバービット5が回転を開始する。ねじ7は、ねじ取出口26において、ねじの座面7eが円盤21に押し当てられる。このタイミング又はこの直後のタイミングで、上述の原因によって、ドライバービット5とねじ7とがずれた状態となる。
【0066】
次に、図16Bに示すように、ドライバービット5の回転状態が続き、且つ、ドライバービット5とねじ7とがずれた状態で、ねじ7がねじ姿勢矯正治具3に挿入される。具体的には、ねじの座面7eがねじ取出口26に押し当てられた状態で、ねじの軸部7bが回転しながらねじ取出口26からねじ姿勢矯正治具3における溝31の入口端部31aに移動される。このとき、既にねじの軸部7bが一対の側面31c、31dに接触する場合、溝31の幅W内に収まるように、ねじ7の姿勢が一対の側面31c、31dによって矯正される。
【0067】
次に、図17Aに示すように、ドライバービット5の回転状態が続き、且つ、ドライバービット5とねじ7とがずれた状態で、ねじ7が、高さが互いに異なる領域S1における溝31の入口端部31a側に移動される。具体的には、ねじの座面7eが一対の押し当て面32A、32Bに押し当てられた状態で、ねじの軸部7bが回転しながら高さが互いに異なる領域S1における溝31の入口端部31a側に移動される。高さが互いに異なる領域S1における溝31の入口端部31a側においては、一方の押し当て面32A(段差面33)の高さが他方の押し当て面32B(傾斜面34)の高さよりも低いので、ねじ7は、ドライバービット5の中心軸Mに対してねじ7の中心軸Oが、反時計回り方向に強制的に傾けられる。ねじ7は、段差面33側に強制的に傾けられた状態で移動される。
【0068】
次に、図17Bに示すように、ドライバービット5の回転状態が続き、且つ、ドライバービット5の中心軸Mに対してねじ7の中心軸Oが反時計回り方向に強制的に傾けられた状態で、ねじ7が、高さが互いに異なる領域S1における溝31の出口端部31b側に移動される。具体的には、ねじの座面7eが一対の押し当て面32A、32Bに押し当てられた状態で、ねじの軸部7bが回転しながら高さが互いに異なる領域S1における溝31の出口端部31b側に移動される。高さが互いに異なる領域S1における溝31の出口端部31b側においては、他方の押し当て面32B(傾斜面34)の高さが一方の押し当て面32A(段差面33)の高さよりも低いので、ねじ7は、ドライバービット5の中心軸Mに対してねじ7の中心軸Oが、時計回り方向に強制的に傾けられる。ねじ7は、傾斜面34側に強制的に傾けられた状態で移動される。
【0069】
以上のように、ねじ7は、回転しながら高さが互いに異なる領域S1における溝31の入口端部31a側及び出口端部31b側において1度ずつ、計2度、異なる方向に強制的に傾けられる。これにより、ドライバービット5の先端とねじの頭部7aにおける穴の位相が一致する。
【0070】
次に、図18Aに示すように、ドライバービット5の回転状態が続き、且つ、ドライバービット5の先端とねじの頭部7aにおける穴の位相が一致した状態で、ねじ7が、高さが互いに等しい領域S2に移動される。具体的には、ねじの座面7eが一対の押し当て面32A、32Bに押し当てられた状態で、ねじの軸部7bが回転しながら高さが互いに等しい領域S2に移動される。高さが互いに等しい領域S2は、一方の押し当て面32Aと他方の押し当て面32Bとが平面35、36であることから、領域内全ての位置で高さが等しい。高さが互いに異なる領域S1によってドライバービット5の先端とねじの頭部7aにおける穴の位相が一致した状態のねじ7は、高さが互いに等しい領域S2に移動され、且つ、当該領域内を正面30cに向けて平行に移動される。これによって、ドライバービット5の中心軸Mとねじ7の中心軸Oとが一致する。この結果、ドライバービット5とねじ7との正常な姿勢による完全な嵌合が行われ、ドライバービット5とねじ7とが正規の位置関係になると共に、ねじ7がドライバービット5に対する正常な姿勢に矯正される。
【0071】
なお、図18Bに示すように、ねじ姿勢矯正治具3におけるねじ7の姿勢矯正が完了した後、ねじ姿勢矯正治具3からねじ7を取り出す際に、動作の解除に伴って電動ドライバー4のばね42による反発力が発生することが考えられる。本実施形態では、一対の押し当て面32A、32Bの中で高さ位置が最も低い部位である平面35、36からばね42が伸びることによって動作が解除されるところ、ねじ供給機2におけるねじ切出部2Bの円盤21の上面と面一である上面30aから平面35、36までの長さは、ばね42の最大伸長よりも短い。これにより、本実施形態における動作の解除に伴うばね42の反発力は、ばね42が最大伸長で反発した際の反発力よりも小さくなる。これに加えて、領域内全ての位置で高さが等しい高さが互いに等しい領域S2において、電動ドライバー4における出力軸41の押し込み具合をゆっくりと緩めることによって、ばね42による反発を極力発生させずにドライバービット5の回転を解除することができる。以上により、ばね42が反発した際に発生する反発力によるねじ7への衝撃が極力なくなる。
【0072】
以上のように、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3は、ドライバービット5に対するねじ7の姿勢を矯正する。本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3は、治具本体30と、治具本体30の上面30aに凹設されてねじの軸部7bが挿入される溝31と、治具本体30の上面30aにおいて溝31の両側に沿って形成されてねじの座面7eが押し当てられる一対の押し当て面32A,32Bと、を備える。本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3は、一対の押し当て面32A,32Bが、一方の押し当て面32A側と他方の押し当て面32B側とで、高さが互いに異なる領域S1を有する。
【0073】
この構成によって、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3は、高さが互いに異なる領域S1において、ねじ7を一対の押し当て面32A、32Bに押し当てることができる。これにより、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3は、ドライバービット5の先端とねじの頭部7aにおける穴の位相を一致させることができ、ドライバービット5の中心軸Mとねじ7の中心軸Oを一致させることによって、ドライバービット5とねじ7とを正規の位置関係にすると共に、ねじ7を正常な姿勢に矯正することもできる。したがって、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3によれば、ねじ締め不良の低減及び作業の効率化が可能となる。
【0074】
更に、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3は、一対の押し当て面32A、32Bが、高さが互いに異なる領域S1において、溝31の入口端部31a側では、他方の押し当て面32Bの方が一方の押し当て面32Aよりも高さが高く、溝31の出口端部31b側では、一方の押し当て面32Aの方が他方の押し当て面32Bよりも高さが高い。
【0075】
この構成によって、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3は、計2度異なる方向にねじ7を強制的に傾けることができる。これにより、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3は、ドライバービット5の先端とねじの頭部7aにおける穴の位相を一致させることが容易となり、ドライバービット5とねじ7とを正規の位置関係にすることも容易となる。したがって、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3によれば、ねじ締め不良の低減及び作業の効率化が更に可能となる。
【0076】
更に、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3は、一対の押し当て面32A、32Bが、一方の押し当て面32A側と他方の押し当て面32B側とで、高さが互いに等しい領域S2を更に有する。本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3は、高さが互いに異なる領域S1が、溝31の入口端部31a側に配置されている。本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3は、高さが互いに等しい領域S2が、高さが互いに異なる領域S1に連続して溝31の出口端部31b側に配置されている。
【0077】
この構成によって、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3は、高さが互いに異なる領域S1においてねじ7を強制的に傾けた後に、高さが互いに等しい領域S2にねじ7を通過させることになる。これにより、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3は、ドライバービット5の中心軸Mとねじ7の中心軸Oを一致させることが容易となり、ドライバービット5とねじ7とを正規の位置関係にすることが更に容易となる。したがって、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3によれば、ねじ締め不良の低減及び作業の効率化が更に可能となる。
【0078】
更に、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3は、高さが互いに異なる領域S1において、一方の押し当て面32Aが、上面30aから高さが一段下がった段差面33を有し、他方の押し当て面32Bが、溝31の入口端部31a側から溝31の出口端部31b側に向かって高さ方向(Y方向)に沿って漸次下降する傾斜面34を有する。これにより、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3は、高さが互いに異なる領域S1を有することになる。
【0079】
本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3は、傾斜面34が、溝31の入口端部31a側では段差面33よりも高さが高く、溝31の出口端部31b側では段差面33よりも高さが低いので、一方の押し当て面32A及び他方の押し当て面32Bの高さ関係が途中で変化することになる。これにより、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3は、計2度異なる方向にねじ7を強制的に傾けることができる。この結果、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3は、ドライバービット5の先端とねじの頭部7aにおける穴の位相を一致させることが更に容易となり、ドライバービット5とねじ7とを正規の位置関係にすることが更に容易となる。したがって、ねじ締め不良の低減及び作業の効率化が更に可能となる。
【0080】
更に、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3は、高さが互いに等しい領域S2において、一方の押し当て面32Aが、段差面33よりも高さが一段下がった平面35を有し、他方の押し当て面32Bが、傾斜面34の下端に連続する平面35を有する。
【0081】
この構成によって、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3は、一対の押し当て面32A、32Bのうち高さが互いに等しい領域S2が何れも平面35から構成される。これにより、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3は、電動ドライバー4のばね42の反発力によるねじ7への衝撃を極力なくすことができ、ねじ7の姿勢が矯正された状態を維持することができる。この結果、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3は、ドライバービット5に対するねじ7の姿勢の傾きを矯正させたまま、ねじ7を取り出すことができる。したがって、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3によれば、ねじ締め不良の低減及び作業の効率化が更に可能となる。
【0082】
上述の効果に付随して、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3によれば、ねじ7を一対の押し当て面32A,32Bに押し当てながら溝31を通過させるだけでドライバービット5に対する姿勢が矯正されるので、作業者の目視による確認もほとんど不要となる。また、本実施形態に係るねじ姿勢矯正治具3によれば、作業者がねじ7を手で触れる必要もなくなるので、異物9が混入することを抑制することができる。
【0083】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記の実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、或る実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、或る実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0084】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路にて設計する等によりハードウェアによって実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアによって実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テープ、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(solid state drive)等の記録装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0085】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0086】
3・・・ねじ姿勢矯正治具、30・・・治具本体、30a・・・上面、31・・・溝、31a・・・入口端部、31b・・・出口端部、32A,32B・・・押し当て面、S1・・・高さが互いに異なる領域、S2・・・高さが互いに等しい領域、33・・・段差面、34・・・傾斜面、35・・・平面、5・・・ドライバービット、7(7’)・・・ねじ、7b・・・ねじの軸部、7e・・・ねじの座面
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16A
図16B
図17A
図17B
図18A
図18B