IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ゼネラル株式会社の特許一覧

特開2024-92117インクジェット前処理液、インクセット、およびインクセットを用いた印刷物の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092117
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】インクジェット前処理液、インクセット、およびインクセットを用いた印刷物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20240701BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240701BHJP
   C09D 11/54 20140101ALI20240701BHJP
【FI】
B41M5/00 132
B41M5/00 120
B41M5/00 112
B41M5/00 100
B41J2/01 501
B41J2/01 123
C09D11/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207821
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】306029349
【氏名又は名称】ゼネラル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯部 浩三
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA13
2C056EE17
2C056FB02
2C056HA42
2H186AB03
2H186AB12
2H186AB34
2H186AB36
2H186AB41
2H186AB54
2H186AB56
2H186AB57
2H186AB58
2H186AB61
2H186BA02
2H186BA08
2H186DA10
2H186FA14
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB18
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB58
4J039BE01
4J039BE22
4J039CA06
4J039DA02
4J039EA43
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】インクジェットプリンタの吐出ヘッドを構成する金属部品や樹脂部品等に影響を及ぼさないため長期に亘って安定して吐出でき、かつ画像の定着性を向上する効果にすぐれる上、ハロゲンを含まないインクジェット前処理液とそれを含むインクセット、並びにインクセットを用いた印刷物の製造方法を提供する。
【解決手段】インクジェット前処理液は、ジシアンジアミドとジエチレントリアミンとの共重合体の硫酸塩と水とを含む。インクセットは、インクジェット前処理液と、少なくとも1種の水性のインクジェットインクとを含む。さらに印刷物の製造方法は、インクジェット前処理液を、非吸収性の基材の表面に、インクジェット印刷法によって印刷する工程、および上記基材の表面の、インクジェット前処理液を印刷した領域に、インクジェットインクを用いて、インクジェット印刷法によって画像を印刷する工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝集剤としての、ジシアンジアミドとジエチレントリアミンとの共重合体の硫酸塩と、水とを含むインクジェット前処理液。
【請求項2】
さらに、中和剤としてポリエチレンイミンを含む請求項1に記載のインクジェット前処理液。
【請求項3】
さらに、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ブタンジオール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、およびプロピレングリコールモノプロピルエーテルからなる群より選ばれた保湿剤Aと、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、および1,6-ヘキサンジオールからなる群より選ばれた保湿剤Bとを含む請求項1に記載のインクジェット前処理液。
【請求項4】
前記保湿剤Aと前記保湿剤Bとを、質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)で表して1/4以上、3/1以下の割合で含む請求項3に記載のインクジェット前処理液。
【請求項5】
水素イオン指数(pH)が5以上、10以下である請求項1ないし4のいずれか1項に記載のインクジェット前処理液。
【請求項6】
前記請求項1に記載のインクジェット前処理液と、少なくとも1種の水性のインクジェットインクとを含むインクセット。
【請求項7】
前記インクジェットインクは、着色剤として顔料を含む請求項6に記載のインクセット。
【請求項8】
前記請求項6に記載のインクセットのうち前記インクジェット前処理液を、非吸収性の基材の表面に、インクジェット印刷法によって印刷する前処理工程、および前記基材の表面の、前記インクジェット前処理液を印刷した領域に、前記インクジェットインクを用いて、インクジェット印刷法によって画像を印刷する印刷工程を含む印刷物の製造方法。
【請求項9】
前記前処理工程後、前記基材の表面に印刷された前記インクジェット前処理液が乾燥する前に、前記印刷工程を実施する請求項8に記載の印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、とくに非吸収性の基材の表面に、インクジェット印刷法によって画像を印刷するにあたり、基材の表面を前処理するためのインクジェット前処理液とそれを含むインクセット、並びに当該インクセットを用いた印刷物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カレンダーフィルム等の、水性のインクジェットインクに対する吸収性を有しない、あるいは吸収性の低い基材(以下「非吸収性の基材」と総称する場合がある)の表面に、インクジェット印刷法によって、文字や絵柄等の画像を印刷する技術が普及しつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-134493号公報
【特許文献2】特開2019-111770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非吸収性の基材の表面に画像を印刷する場合、印刷した画像の定着性を向上するために、インクジェットインクとしては、通常の水性のインクではなく、有機溶剤を用いた非水性のインクや、あるいは光硬化性のインクを用いることが一般化している。
【0005】
しかし近年、有機溶剤を用いることによる環境負荷を低減したり、UV光源等を省略して装置を簡略化したりすること等を考慮して、かかる非吸収性の基材に対する印刷についても、水性のインクジェットインクを用いることが求められるようになってきている。
【0006】
また水性のインクジェットインクとしては、画像の耐候性等を向上することを考慮して、着色剤として顔料を用い、かかる顔料を、たとえば自身の持つ自己分散性によってインク中に分散させたり(自己分散型の顔料)、あるいはアニオン性の分散剤の機能によってインク中に分散させたりした顔料分散タイプのものが普及しつつある。
【0007】
そして顔料分散タイプの水性のインクジェットインクを用いて、非吸収性の基材に対する画像の定着性を向上するために、当該基材の表面を、印刷に先立って、インクジェット前処理液で前処理することが検討されている。
【0008】
インクジェット前処理液は、印刷の作業性等を考慮して、インクジェットインクと同様に、インクジェットプリンタに設けた専用の吐出ヘッドから吐出させて、基材の表面の所定の領域に印刷することが考えられる。
【0009】
顔料分散タイプのインクジェットインクと組み合わせるインクジェット前処理液としては、たとえば自己分散型の顔料やアニオン性の分散剤に対して反応性を有する水溶性の化合物を、凝集剤として含む水溶液が挙げられる。かかる凝集剤としては、たとえばカチオンポリマのハロゲン塩や、あるいは分子中にアリルアミン構造単位を含むカチオンポリマなどが挙げられる(特許文献1、2等参照)。
【0010】
これらの凝集剤を含むインクジェット前処理液によって前処理した基材の表面に、自己分散型の顔料を含む顔料分散タイプのインクジェットインクを用いて印刷をすると、当該インクジェットインク中の顔料が、基材表面の凝集剤と反応して凝集が促進される結果、当該顔料からなる画像の定着性が向上する。また上記基材の表面に、分散剤を含む顔料分散タイプのインクジェットインクを用いて印刷をすると、当該インクジェットインク中の分散剤が、基材表面の凝集剤と反応して顔料から分離される。そして顔料の分散性が低下して凝集が促進される結果、当該顔料からなる画像の定着性が向上する。
【0011】
ところがカチオンポリマのハロゲン塩などの、分子中にハロゲンを含有する凝集剤を含むインクジェット前処理液は強い酸性を呈する。そのため長期の使用によって、たとえばインクジェットプリンタの吐出ヘッドを構成する金属部品等を腐食させて、インクジェット前処理液の吐出の安定性を低下させる場合がある。また、かかるインクジェット前処理液などの、ハロゲンを含む成分は、環境負荷物質発生の原因となることから、使用が制限されつつあるという課題もある。
【0012】
一方、分子中にアリルアミン構造単位を含むカチオンポリマを凝集剤として含むインクジェット前処理液は、カチオンポリマの種類によって強い酸性、または強い塩基性を呈する傾向がある。このうち、酸性の強いインクジェット前処理液は、上述したハロゲン塩と同様に、インクジェットプリンタの吐出ヘッドを構成する金属部品等を腐食させる場合がある。また塩基性の強いインクジェット前処理液は、たとえば吐出ヘッドを構成する樹脂部品等を劣化させる場合がある。
【0013】
そのためいずれの場合も、長期の使用によってインクジェット前処理液の吐出の安定性が低下する場合がある。また塩基性の強いインクジェット前処理液では、凝集剤と、自己分散型の顔料や分散剤との反応が阻害されて、画像の定着性を向上する効果が十分に得られない場合もある。したがってこれらの点を考慮すると、インクジェット前処理液は、中性に近いことが求められる。
【0014】
そこで、インクジェット前処理液に任意の中和剤を配合することが考えられるが、上述したように酸性や塩基性の強いインクジェット前処理液を中和するには多量の中和剤を配合する必要がある。そのため、インクジェット前処理液に含まれる凝集剤の濃度が低下して、当該凝集剤による、画像の定着性を向上する効果が十分に得られない場合を生じる。
【0015】
本発明の目的は、インクジェットプリンタの吐出ヘッドを構成する金属部品や樹脂部品等に影響を及ぼさないため長期に亘って安定して吐出でき、かつ画像の定着性を向上する効果にすぐれる上、ハロゲンを含まないインクジェット前処理液を提供することにある。また本発明の目的は、かかるインクジェット前処理液を含むインクセットと、当該インクセットを用いた印刷物の製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、凝集剤としての、ジシアンジアミドとジエチレントリアミンとの共重合体の硫酸塩と、水とを含むインクジェット前処理液である。
【0017】
また本発明は、かかる本発明のインクジェット前処理液と、少なくとも1種の水性のインクジェットインクとを含むインクセットである。
【0018】
さらに本発明は、かかるインクセットのうちインクジェット前処理液を、非吸収性の基材の表面に、インクジェット印刷法によって印刷する前処理工程、および上記基材の表面の、インクジェット前処理液を印刷した領域に、インクジェットインクを用いて、インクジェット印刷法によって画像を印刷する印刷工程を含む印刷物の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、インクジェットプリンタの吐出ヘッドを構成する金属部品や樹脂部品等に影響を及ぼさないため長期に亘って安定して吐出でき、かつ画像の定着性を向上する効果にすぐれる上、ハロゲンを含まないインクジェット前処理液を提供することができる。また本発明によれば、かかるインクジェット前処理液を含むインクセットと、当該インクセットを用いた印刷物の製造方法とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
《インクジェット前処理液》 上述したように、本発明のインクジェット前処理液は、凝集剤としての、ジシアンジアミドとジエチレントリアミンとの共重合体の硫酸塩(以下「DCDA/DETA硫酸塩」と略記する場合がある。)と、水とを含むことを特徴とするものである。
【0021】
かかる本発明によれば、DCDA/DETA硫酸塩の水溶液の水素イオン指数(pH)が中性に近いことから、凝集剤として当該DCDA/DETA硫酸塩を選択して用いることによって、インクジェット前処理液のpHをも、中性付近に維持することができる。そのためインクジェットプリンタの吐出ヘッドを構成する金属部品や樹脂部品等に影響を及ぼすことなく、当該吐出ヘッドから、インクジェット前処理液を長期に亘って安定して吐出させることができる。
【0022】
また、多量の中和剤を配合する必要がないため、インクジェット前処理液に含まれる、凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩の濃度を高濃度に維持して、当該DCDA/DETA硫酸塩による、画像の定着性を向上する効果をさらに高めることもできる。その上、上記DCDA/DETA硫酸塩は分子中にハロゲンを含まず、環境負荷物質発生の原因とはならないことから、今後も使用が制限されるおそれがないという利点もある。
【0023】
〈凝集剤〉 凝集剤としては、上記のようにDCDA/DETA硫酸塩を選択的に用いる。DCDA/DETA硫酸塩の具体例としては、これに限定されないが、たとえばセンカ(株)製のユニセンスシリーズの水溶性カチオンポリマのうち、いずれもDCDA/DETA硫酸塩の水溶液として供給される下記製品等が挙げられる。
【0024】
ユニセンスKHP 10LU〔黄褐色液体、固形分濃度:70%、分子量:2万未満、pH:7、粘度:150mPa・s〕、11LU〔黄褐色液体、固形分濃度:70%、分子量:2万未満、pH:7、粘度:100mPa・s〕、12LU〔黄褐色液体、固形分濃度:70%、分子量:2万未満、pH:7、粘度:150mPa・s〕等。
【0025】
これらの製品は前述した効果にすぐれる上、上記のように固形分濃度が高濃度でありながら粘度が低いことから、インクジェット前処理液の粘度の上昇を抑えて、吐出ヘッドのノズルからの良好な吐出性を維持しつつ、画像の定着性を向上することもできる。これらDCDA/DETA硫酸塩の1種または2種以上を用いることができる。
【0026】
(DCDA/DETA硫酸塩の量) DCDA/DETA硫酸塩の量は、固形分換算で、インクジェット前処理液の総量中の0.2質量%以上、とくに0.4質量%以上であるのが好ましく、6質量%以下、とくに5質量%以下であるのが好ましい。
【0027】
DCDA/DETA硫酸塩の量がこの範囲未満では、当該DCDA/DETA硫酸塩による、画像の定着性を向上する効果が十分に得られない場合がある。一方、DCDA/DETA硫酸塩の量が上記の範囲を超える場合には、インクジェット前処理液の酸性が強くなり、インクジェットプリンタの吐出ヘッドを構成する金属部品等を腐食させて、インクジェット前処理液の吐出の安定性を低下させる場合がある。また固形分濃度が高くなり、インクジェット前処理液の粘度が上昇して、良好に吐出できない場合もある。
【0028】
これに対し、DCDA/DETA硫酸塩の量を上記の範囲とすることにより、インクジェット前処理液の粘度の上昇や吐出ヘッドを構成する金属部品等の腐食を抑制して、良好な吐出を長期に亘って安定に維持しながら、画像の定着性をさらに向上できる。
【0029】
〈中和剤〉 DCDA/DETA硫酸塩は、前述したように水溶液のpHが中性に近いものの、カチオンポリマであることから、インクジェット前処理液のpHが酸性にずれる場合があり、そのためインクジェット前処理液には、塩基性の中和剤を配合してもよい。塩基性の中和剤を配合することで、インクジェット前処理液のpHを中性付近(弱酸性ないし弱塩基性)に調整することができる。
【0030】
塩基性の中和剤としては、たとえばジエタノールアミン等の種々の塩基性の化合物が、いずれも使用可能であるが、とくにポリアルキレンイミンが好ましい。ポリアルキレンイミンとしては、たとえば炭素数2~4のアルキレンイミンの少なくとも1種の重合体や、その変性物等が挙げられる。
【0031】
このうち炭素数2~4のアルキレンイミンとしては、たとえばエチレンイミン、プロピレンイミン、メチルエチレンイミン、ブチレンイミン、エチルエチレンイミン、ジメチルエチレンイミン等の1種または2種以上を用いることができる。また変性の例としては、たとえばアルキレンオキサイド、アルキルグリシジルエーテル、グリシジルアミン、エポキシド(エピハロヒドリン等)、(メタ)アクリレート〔(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル等〕、酸無水物(無水コハク酸、無水フタル酸、無水マレイン酸等)による変性等が挙げられる。
【0032】
中でもとくに、塩基性の中和剤としてはポリエチレンイミンが好ましい。ポリエチレンイミンは、塩基性の中和剤として機能するだけでなく、自己分散型の顔料や分散剤との反応性を有し、顔料の凝集剤としても機能するため、DCDA/DETA硫酸塩と併用することで、画像の定着性をさらに向上することができる。ポリエチレンイミンの具体例としては、これに限定されないが、たとえば(株)日本触媒製のエポミン(登録商標)シリーズの下記製品等が挙げられる。これらポリエチレンイミンの1種または2種以上を用いることができる。
【0033】
SP-003〔淡黄色透明液体、分子量:300、樹脂分:98%以上、粘度:200~500mPa・s・25℃、pH(5%水溶液):10~12〕、SP-006〔淡黄色透明液体、分子量:600、樹脂分:98%以上、粘度:500~2500mPa・s・25℃、pH(5%水溶液):10~12〕、SP-012〔淡黄色透明液体、分子量:1200、樹脂分:98%以上、粘度:3500~7500mPa・s・25℃、pH(5%水溶液):10~12〕、SP-018〔淡黄色透明液体、分子量:1800、樹脂分:98%以上、粘度:8500~15000mPa・s・25℃、pH(5%水溶液):10~12〕、SP-200〔淡黄色透明液体、分子量:10000、樹脂分:98%以上、粘度:40000~150000mPa・s・25℃、pH(5%水溶液):10~12〕、P-1000〔水希釈、透明粘稠液体、分子量:70000、樹脂分:30±1%、粘度:400~900mPa・s・25℃、pH(5%水溶液):10~12〕、P-3000〔水希釈、透明粘稠液体、分子量:100000、樹脂分:35±1%、粘度:約1300mPa・s・25℃、pH(5%水溶液):10~12〕、HM-2000〔水希釈、淡黄色透明液体、分子量:30000、樹脂分:93~95%、50%水希釈粘度:5000~15000mPa・s・25℃、pH(5%水溶液):10~12〕等。
【0034】
(インクジェット前処理液のpHの範囲と中和剤の量) 前述したようにインクジェット前処理液は、弱酸性ないし弱塩基性であるのが好ましい。より具体的には、インクジェット前処理液のpHは5以上、とくに7以上であるのが好ましく、10以下、とくに9以下であるのが好ましい。
【0035】
インクジェット前処理液のpHがこの範囲未満では、当該インクジェット前処理液の酸性が強すぎるため、インクジェットプリンタの吐出ヘッドを構成する金属部品等を腐食させて、インクジェット前処理液の吐出の安定性を低下させる場合を生じる。一方、インクジェット前処理液のpHが上記の範囲を超える場合には、当該インクジェット前処理液の塩基性が強すぎるため、吐出ヘッドを構成する樹脂部品等を劣化させて、インクジェット前処理液の吐出の安定性を低下させる場合を生じる。
【0036】
また、凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩と、自己分散型の顔料や分散剤との反応が阻害されて、画像の定着性を向上する効果が十分に得られない場合もある。これに対し、インクジェット前処理液のpHを上記の範囲とすることにより、インクジェットプリンタの吐出ヘッドを構成する金属部品や樹脂部品等への影響を抑制して、良好な吐出を長期に亘って安定に維持しながら、画像の定着性をさらに向上することができる。
【0037】
インクジェット前処理液のpHを上記の範囲とするための、ポリエチレンイミン等の塩基性の中和剤の量は、DCDA/DETA硫酸塩やその他の成分の種類と量等に応じて任意に設定することができる。たとえば、pHが7程度であるDCDA/DETA硫酸塩を前述した量で含むインクジェット前処理液に配合する塩基性の中和剤の量は、インクジェット前処理液の総量中の1.6質量%以下、とくに1.4質量%以下であるのが好ましい。
【0038】
なお、塩基性の中和剤の量の下限は、特に限定されない。すなわち、pHが7程度であるDCDA/DETA硫酸塩を前述した量で含むインクジェット前処理液のpHは、基本的に前述した好ましい範囲に入る場合が多いことから、その場合には、塩基性の中和剤を配合しなくても構わない。つまり塩基性の中和剤の量の下限は、インクジェット前処理液の総量中の0質量%であってもよい。
【0039】
ただし、インクジェット前処理液のpHをより中性に近づけるためには、塩基性の中和剤を配合するのが好ましく、その量は、インクジェット前処理液の総量中の0.6質量%以上、とくに0.8質量%以上であるのが好ましい。
【0040】
〈保湿剤〉 インクジェット前処理液には、水より沸点の高い水溶性の有機溶剤を、保湿剤として配合してもよい。インクジェット前処理液を含むインクセットを用いた印刷物の製造方法では、基材の表面にインクジェット前処理液を印刷して前処理をし、次いでインクジェットインクを用いて画像を印刷した後、必要に応じて加熱乾燥させる場合がある。
【0041】
先に印刷したインクジェット前処理液が完全に乾燥してしまったあとで、その上にインクジェットインクを印刷しても、当該インクジェットインク中の水分によって、DCDA/DETA硫酸塩と、自己分散型の顔料や分散剤との反応は、ある程度は進行する。しかし、顔料が十分に凝集する前に、加熱乾燥によって全体が乾燥してしまって、画像の定着性が不十分になる場合がある。
【0042】
これに対し、水より沸点の高い水溶性の有機溶剤を配合すると、当該有機溶剤が保湿剤として機能して、インクジェット前処理液の乾燥をできるだけ緩やかにすることができる。そしてインクジェット前処理液が乾燥する前に、インクジェットインクを印刷することができ、当該インクジェットインク中の顔料を、DCDA/DETA硫酸塩の機能によって、加熱乾燥までの間に十分に凝集させて、画像の定着性を向上することができる。
【0043】
また有機溶剤を配合することで、非吸収性の基材の表面に対するインクジェット前処理液の濡れ性を向上して、当該インクジェット前処理液のハジキを軽減することができる。そのため、ハジキによるインクジェット前処理液のムラを抑制して、非吸収性の基材の表面の所定の領域にできるだけ均一に、DCDA/DETA硫酸塩を分布させることができ、その上に形成される画像の全面でほぼ均一に、定着性を向上することもできる。
【0044】
保湿剤としては、たとえばグリセロールや各種のグリコール等が挙げられ、とくにグリコールが好ましい。またグリコールとしては、1atmでの沸点が100℃を超え、かつ250℃以下程度であるグリコールが好ましい。ただし、インクジェット前処理液の乾燥速度が低すぎる場合には、その上に印刷したインクジェットインクが滲んで画像が不鮮明になる場合がある。そこでグリコールとしては、当該グリコールの中でも比較的濡れ拡がりやすいグリコール(以下「保湿剤A」とする)と、比較的保湿効果の高いグリコール(以下「保湿剤B」とする)とを併用するのが好ましい。
【0045】
上記のように保湿剤Bは、前述した、インクジェット前処理液の乾燥を緩やかにする機能に優れている。一方の保湿剤Aは、保湿剤Bと比べて非吸収性の基材の表面に対する濡れ性が高いため、インクジェット前処理液を、基材の表面でぬれ拡がりやすくして、当該インクジェット前処理液の乾燥を促進する働きをする。そのため、保湿剤Aと保湿剤Bとを併用することで、インクジェット前処理液の乾燥速度を適度に調整して、画像の定着性と鮮明性とを、ともに向上することができる。
【0046】
保湿剤Aとしては、たとえば1,2-ヘキサンジオール〔223℃、1atmでの沸点、以下同様〕、1,2-ペンタンジオール(120℃)、1,2-ブタンジオール(190.5℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(231℃)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(149℃)等の1種または2種以上を用いることができる。
【0047】
また保湿剤Bとしては、たとえば1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール、187.4℃)、1,3-プロパンジオール(213℃)、1,3-ブタンジオール(207.5℃)、1,4-ブタンジオール(235℃)、1,5-ペンタンジオール(238℃)、1,6-ヘキサンジオール(249℃)等の1種または2種以上を用いることができる。
【0048】
保湿剤Aと保湿剤Bとを併用する場合、両者の割合は、質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)で表して1/4以上、とくに1/3以上であるのが好ましく、3/1以下、とくに1/1以下であるのが好ましい。
【0049】
この範囲より保湿剤Aの割合が多い場合には、インクジェット前処理液の乾燥速度が高くなりすぎて、画像の定着性が低下する場合がある。一方、上記の範囲より保湿剤Aの割合が少ない場合には、インクジェット前処理液の乾燥速度が低くなりすぎて、画像の鮮明性が低下する場合がある。これに対し、保湿剤Aと保湿剤Bの質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)を上記の範囲とすることにより、前述したようにインクジェット前処理液の乾燥速度を適度に調整して、画像の定着性と鮮明性とを、ともにより一層向上することができる。
【0050】
また保湿剤の量は、インクジェット前処理液の総量中の15質量%以上、とくに18質量%以上であるのが好ましく、25質量%以下、とくに22質量%以下であるのが好ましい。
【0051】
保湿剤の量がこの範囲未満では、当該保湿剤を配合することによる、前述した、インクジェット前処理液の乾燥を緩やかにして、画像の定着性を向上する効果が十分に得られない場合がある。また、非吸収性の基材の表面に対するインクジェット前処理液の濡れ性を向上して、そのハジキを軽減する効果が十分に得られず、DCDA/DETA硫酸塩の分布にムラを生じて、その上に形成される画像の定着性が不均一になる場合もある。
【0052】
一方、保湿剤の量が上記の範囲を超える場合には、相対的にDCDA/DETA硫酸塩の量が不足して、当該DCDA/DETA硫酸塩による、画像の定着性を向上する効果が十分に得られない場合がある。また、過剰の保湿剤が環境負荷の原因となる場合もある。
【0053】
これに対し、保湿剤の量を上記の範囲とすることにより、環境負荷を低減しながら、非吸収性の基材の表面に対するインクジェット前処理液の濡れ性を向上し、かつその乾燥速度を調整することができる。そのため、画像の定着性を、非吸収性の基材の表面で、できるだけ均一に、しかも向上することができる。
【0054】
なお前述したように、保湿剤として保湿剤Aと保湿剤Bの2種を併用する場合は、その合計の量を上記の範囲とすればよい。
【0055】
〈他の成分〉 インクジェット前処理液には、インクジェットインク用として用いる従来公知の種々の添加剤を配合してもよい。かかる添加剤としては、たとえばレベリング剤、防かび剤、防腐剤、抗菌剤等が挙げられる。これら添加剤の量は、それぞれ任意に設定することができる。上記各成分に水を加えて全量を100質量%とすることで、水性のインクジェット前処理液が調製される。
【0056】
《インクセット》 本発明のインクセットは、上記本発明のインクジェット前処理液と、少なくとも1種の、水性のインクジェットインクとを含むことを特徴とするものである。水性のインクジェットインクとしては、前述したように着色剤として顔料を用い、かかる顔料を、自身の持つ自己分散性によってインク中に分散させたり、あるいはアニオン性の分散剤によってインク中に分散させたりした顔料分散タイプのものが好適に用いられる。
【0057】
〈顔料〉 顔料としては、任意の無機顔料、および/または有機顔料が使用可能である。このうち無機顔料としては、たとえば酸化チタン、酸化鉄等の金属化合物や、あるいはコンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造された中性、酸性、塩基性等の種々のカーボンブラック等が挙げられる。
【0058】
また有機顔料としては、たとえばアゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、またはキレートアゾ顔料等を含む)、多環式顔料(たとえばフタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、またはキノフタロン顔料等)、染料キレート(たとえば塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等が挙げられる。顔料は、インクジェットインクの色目に応じて1種または2種以上を用いることができる。顔料の具体例としては、下記の各種顔料が挙げられる。
【0059】
(イエロー顔料) C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、14C、16、17、20、24、73、74、75、83、86、93、94、95、97、98、109、110、114、117、120、125、128、129、130、137、138、139、147、148、150、151、154、155、166、168、180、185、213、214
(マゼンタ顔料) C.I.ピグメントレッド5、7、9、12、48(Ca)、48(Mn)、49、52、53、57(Ca)、57:1、97、112、122、123、149、168、177、178、179、184、202、206、207、209、242、254、255
(シアン顔料) C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:3、15:4、15:6、15:34、16、22、60
(ブラック顔料) C.I.ピグメントブラック7
(オレンジ顔料) C.I.ピグメントオレンジ36、43、51、55、59、61、71、74
(グリーン顔料) C.I.ピグメントグリーン7、36
(バイオレット顔料) C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50
(顔料分散液) 顔料は、前述したように自身の持つ自己分散性によって、あるいはアニオン性の分散剤の機能によって、水等の水性分散媒中に分散させた顔料分散液として、インクジェットインク中に配合するのが、当該顔料の分散性を向上する上で好ましい。
【0060】
かかる顔料分散液を構成して顔料を分散させるためのアニオン性の分散剤としては、たとえばビックケミー社製のDISPERBYK(登録商標)180、190、191、2010;ルーブリゾール社製のソルスパース(登録商標)J400、W100、40000、45000等が挙げられる。
【0061】
顔料分散液の具体例としては、これに限定されないが、たとえば黒色の場合、カーボンブラックの顔料分散液であるキャボット(CABOT)社製のCAB-O-JET(登録商標)シリーズの各種製品等が挙げられる。CAB-O-JETシリーズの顔料分散液は、カーボンブラックを、自身の持つ自己分散性によって水性分散媒中に分散させたものである。これら顔料分散液の1種または2種以上を用いることができる。
【0062】
(顔料および分散剤の量)
インクジェットインクに配合する顔料の量は、当該インクジェットインクの色目、および色濃度等に応じて任意に設定することができる。また分散剤の量は、顔料の量に応じて、当該顔料を水性のインクジェットインク中に良好に分散しうる、任意の量に設定することができるが、とくに顔料の総量に対して2質量%以上であるのが好ましく、60質量%以下であるのが好ましい。
【0063】
〈バインダ樹脂〉 インクジェットインクには、バインダ樹脂を配合してもよい。バインダ樹脂を配合すると、当該バインダ樹脂が、インクジェット前処理液で処理した基材の表面と、顔料とのバインダとして機能するため、画像の耐水性や耐擦過性、鮮明性等を向上できる。
【0064】
とくにバインダ樹脂としては、非水溶性の樹脂の水性のエマルションや、あるいは水性のディスパージョンを使用するのが好ましい。水性のエマルションやディスパージョンは水に良好に溶解するため、インクジェットインクは液状を呈するが、印刷後に乾燥させて基材の表面に析出させたバインダ樹脂は水に不溶であるため、印刷した画像の耐水性を向上することができる。水性のエマルション、ディスパージョンを構成する非水溶性のバインダ樹脂としては、たとえば下記の各種バインダ樹脂の1種または2種以上を用いることができる。
【0065】
ポリアクリル酸、アクリル酸-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸カリウム-アクリロニトリル共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体などのアクリル樹脂;スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体などのスチレン-アクリル酸樹脂;マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂、スチレン-マレイン酸共重合樹脂、スチレン-無水マレイン酸共重合樹脂等。
【0066】
バインダ樹脂の具体例としては、これに限定されないが、たとえばスチレン-アクリル酸共重合体の水性エマルションである、ビーエーエスエフ(BASF)社製のジョンクリル(JONCRYL、登録商標)シリーズの各種製品が挙げられる。これら水性エマルションの1種または2種以上を用いることができる。
【0067】
(バインダ樹脂の量) バインダ樹脂の量は、固形分換算で、インクジェットインクの総量中の1質量%以上であるのが好ましく、20質量%以下であるのが好ましい。バインダ樹脂の量がこの範囲未満では、当該バインダ樹脂を配合することによる、画像の耐水性や耐擦過性、鮮明性等を向上する効果が十分に得られない場合がある。一方、バインダ樹脂の量が上記の範囲を超える場合には、インクジェットインクの粘度が上昇して、インクジェットプリンタの吐出ヘッドのノズルから良好に吐出できない場合がある。また、とくにサーマル方式の吐出ヘッドに使用した際に、いわゆるコゲーションを生じやすくなる場合もある。
【0068】
これに対し、バインダ樹脂の量を上記の範囲とすることにより、インクジェット前処理液の粘度の上昇を抑えて良好な吐出性を維持し、またコゲーションを生じにくくしながら、なおかつ画像の耐水性、耐擦過性、鮮明性等を向上することができる。
【0069】
〈他の成分〉 インクジェットインクには、従来公知の種々の添加剤を配合してもよい。かかる添加剤としては、たとえばインクジェットインクの濡れ性を調整するための界面活性剤や、あるいはインクジェット前処理液で使用したのと同様の保湿剤、レベリング剤、防かび剤、防腐剤、抗菌剤等が挙げられる。これら添加剤の量は、それぞれ任意に設定することができる。上記各成分に水を加えて全量を100質量%とすることで、水性のインクジェットインクが調製される。
【0070】
〈インクセット〉 本発明のインクセットを構成するインクジェットインクは単色でもよいし、たとえばシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の3色、上記3色にブラック(B)を加えた4色、あるいはそれ以上の多色のインクジェットインクであってもよい。
【0071】
《印刷物の製造方法》 本発明の印刷物の製造方法は、上記本発明のインクセットのうちインクジェット前処理液を、非吸収性の基材の表面に、インクジェット印刷法によって印刷する前処理工程、および上記基材の表面の、インクジェット前処理液を印刷した領域に、インクジェットインクを用いて、インクジェット印刷法によって画像を印刷する印刷工程を含むことを特徴とする。また本発明の印刷物の製造方法は、前述したように、画像を印刷した後の基材を加熱乾燥させる加熱乾燥工程を含んでいてもよい。
【0072】
この際、画像の定着性を向上することを考慮すると、先に説明したように、前処理工程後、基材の表面に印刷されたインクジェット前処理液が乾燥する前に印刷工程を実施することが好ましい。そのためには、たとえば前述したようにインクジェット前処理液に保湿剤を配合したり、インクジェットプリンタの、インクジェット前処理液の吐出ヘッドとインクジェットインクの吐出ヘッドとの距離や基材の搬送速度等を調整したりすればよい。
【0073】
かかる本発明の印刷物の製造方法を実施するためのインクジェットプリンタの構成は、任意に設定することができる。具体的には、たとえばロール状に巻回した長尺の基材を巻き出しながら一定速度で搬送する搬送経路上に順に、インクジェット前処理液とインクジェットインクの吐出ヘッド、および加熱乾燥機構を配置する等してインクジェットプリンタを構成することができる。
【0074】
インクジェット前処理液、およびインクジェットインクの吐出ヘッドとしては、オンデマンド型またはコンティニュアス型で、かつサーマル方式、およびピエゾ方式のいずれの吐出ヘッドを用いることもできる。ただしインクジェット前処理液、インクジェットインクともに、コゲーションを生じやすいポリマやバインダ樹脂を含むことから、吐出の安定性を向上すること等を考慮すると、吐出ヘッドとしては、ピエゾ方式の吐出ヘッドを採用するのが好ましい。
【0075】
上記本発明の印刷物の製造方法に用いる非吸収性の基材としては、従来公知の種々の、水性のインクジェットインクに対する吸収性を有しない、あるいは吸収性の低い基材を用いることができる。かかる非吸収性の基材としては、たとえばポリ塩化ビニルシート、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ナイロンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム等熱可塑性樹脂基材;アルミニウム箔等の金属基材;光沢紙、特殊紙、布、フィルム、OHPシート、汎用印刷用紙等の印刷用塗工紙などが挙げられる。また印刷用塗工紙の具体例としては、たとえばキャストコート紙、アート紙、コート紙、軽量コート紙、微塗工紙といった商業印刷・出版印刷に用いられている種々の塗工紙が使用可能である。
【0076】
基材は、印刷する表面が滑らかであっても、凹凸のついたものであっても良いし、透明、半透明、不透明のいずれであっても良い。また、これらの基材の2種以上を互いに張り合わせたものでも良い。更に印字面の反対側に剥離粘着層などを設けても良く、また印字後、印字面に粘着層などを設けても良い。また基材の形状は、ロール状でも枚葉状でもよい。基材としては、とくにポリ塩化ビニルフィルムやコート紙が好ましい。
【実施例0077】
以下に本発明を、実施例、比較例に基づいてさらに説明するが、本発明の構成は、これらの例に限定されるものではない。
【0078】
〈実施例1〉 凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩の水溶液〔センカ(株)製のユニセンスKHP 11LU、黄褐色液体、固形分濃度:70%、分子量:2万未満、pH:7、粘度:100mPa・s〕、中和剤としてのポリエチレンイミン〔(株)日本触媒製のエポミン P-1000〕、保湿剤Aとしての1,2-ヘキサンジオール、保湿剤Bとしての1,3-プロパンジオール、レベリング剤〔エボニック(EVONIK)社製のTego(登録商標)Wet 280〕、防腐剤〔SCジョンソン社製のProxel(登録商標)GXL〕、およびイオン交換水を、それぞれ表1に示す割合で配合し、混合したのち5μmのメンブランフィルタを用いてろ過してインクジェット前処理液を調製した。
【0079】
【表1】
インクジェット前処理液の総量中の量は、凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩(固形分)が2.0質量%、中和剤としてのポリエチレンイミンが1.0質量%、保湿剤Aと保湿剤Bとの合計が20.0質量%であった。また保湿剤Aと保湿剤Bとの質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)=1/1.9であった。
【0080】
〈実施例2〉 凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩の水溶液〔センカ(株)製のユニセンスKHP 12LU、黄褐色液体、固形分濃度:70%、分子量:2万未満、pH:7、粘度:150mPa・s〕を同量配合したこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット前処理液を調製した。
【0081】
インクジェット前処理液の総量中の量は、凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩(固形分)が2.0質量%、中和剤としてのポリエチレンイミンが1.0質量%、保湿剤Aと保湿剤Bとの合計が20.0質量%であった。また保湿剤Aと保湿剤Bとの質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)=1/1.9であった。
【0082】
〈実施例3〉 中和剤として、ジエタノールアミンを同量配合したこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット前処理液を調製した。
【0083】
インクジェット前処理液の総量中の量は、凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩(固形分)が2.0質量%、中和剤としてのジエタノールアミンが1.0質量%、保湿剤Aと保湿剤Bとの合計が20.0質量%であった。また保湿剤Aと保湿剤Bとの質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)=1/1.9であった。
【0084】
〈実施例4〉 中和剤を配合せず、かつイオン交換水の量を75.9質量%としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット前処理液を調製した。
【0085】
インクジェット前処理液の総量中の量は、凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩(固形分)が2.0質量%、中和剤が0質量%、保湿剤Aと保湿剤Bとの合計が20.0質量%であった。また保湿剤Aと保湿剤Bとの質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)=1/1.9であった。
【0086】
〈比較例1〉 凝集剤としてのジアリルアミンとアクリルアミドとの共重合体のリン酸塩(以下「DAA/AAmリン酸塩」と略記する場合がある。)の水溶液〔センカ(株)製のユニセンスKCA 100LU、黄赤褐色液体、固形分濃度:41%、分子量:2万~10万、pH:3、粘度:150mPa・s〕を4.9質量%配合し、かつイオン交換水の量を72.9質量%としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット前処理液を調製した。
【0087】
インクジェット前処理液の総量中の量は、凝集剤としてのDAA/AAmリン酸塩(固形分)が2.0質量%、中和剤としてのポリエチレンイミンが1.0質量%、保湿剤Aと保湿剤Bとの合計が20.0質量%であった。また保湿剤Aと保湿剤Bとの質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)=1/1.9であった。
【0088】
〈比較例2〉 凝集剤としてのジメチルアミノエチルメタクリレートの重合体のメチル硫酸塩(以下「DMAEMメチル硫酸塩」と略記する場合がある。)の水溶液〔センカ(株)製のユニセンスFPV 1000LU、淡黄色液体、固形分濃度:20%、分子量:10万~50万、pH:5、粘度120mPa・s〕を10.1質量%配合し、かつポリエチレンイミンの量を2.0質量%、イオン交換水の量を66.7質量%としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット前処理液を調製した。
【0089】
インクジェット前処理液の総量中の量は、凝集剤としてのDMAEMメチル硫酸塩(固形分)が2.0質量%、中和剤としてのポリエチレンイミンが2.0質量%、保湿剤Aと保湿剤Bとの合計が20.0質量%であった。また保湿剤Aと保湿剤Bとの質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)=1/1.9であった。
【0090】
〈比較例3〉 ポリエチレンイミンの量を1.0質量%、イオン交換水の量を67.7質量%としたこと以外は比較例2と同様にしてインクジェット前処理液を調製した。
【0091】
インクジェット前処理液の総量中の量は、凝集剤としてのDMAEMメチル硫酸塩(固形分)が2.0質量%、中和剤としてのポリエチレンイミンが1.0質量%、保湿剤Aと保湿剤Bとの合計が20.0質量%であった。また保湿剤Aと保湿剤Bとの質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)=1/1.9であった。
【0092】
〈比較例4〉 凝集剤としてのジメチルアミノエチルメタクリレートの重合体の硫酸塩(以下「DMAEM硫酸塩」と略記する場合がある。)の水溶液〔センカ(株)製のユニセンスKPV 1000LU、淡褐色液体、固形分濃度:20%、分子量:10万~50万、pH:4、粘度2700mPa・s〕を10.1質量%配合し、かつイオン交換水の量を67.7質量%としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット前処理液を調製した。
【0093】
インクジェット前処理液の総量中の量は、凝集剤としてのDMAEM硫酸塩(固形分)が2.0質量%、中和剤としてのポリエチレンイミンが1.0質量%、保湿剤Aと保湿剤Bとの合計が20.0質量%であった。また保湿剤Aと保湿剤Bとの質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)=1/1.9であった。
【0094】
〈実施例5〉 凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩の水溶液の量を0.4質量%とし、かつイオン交換水の量を77.4質量%としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット前処理液を調製した。
【0095】
インクジェット前処理液の総量中の量は、凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩(固形分)が0.3質量%、中和剤としてのポリエチレンイミンが1.0質量%、保湿剤Aと保湿剤Bとの合計が20.0質量%であった。また保湿剤Aと保湿剤Bとの質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)=1/1.9であった。
【0096】
〈実施例6〉 凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩の水溶液の量を0.7質量%とし、かつイオン交換水の量を77.1質量%としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット前処理液を調製した。
【0097】
インクジェット前処理液の総量中の量は、凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩(固形分)が0.5質量%、中和剤としてのポリエチレンイミンが1.0質量%、保湿剤Aと保湿剤Bとの合計が20.0質量%であった。また保湿剤Aと保湿剤Bとの質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)=1/1.9であった。
【0098】
〈実施例7〉 凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩の水溶液の量を7.1質量%とし、かつイオン交換水の量を70.7質量%としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット前処理液を調製した。
【0099】
インクジェット前処理液の総量中の量は、凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩(固形分)が5.0質量%、中和剤としてのポリエチレンイミンが1.0質量%、保湿剤Aと保湿剤Bとの合計が20.0質量%であった。また保湿剤Aと保湿剤Bとの質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)=1/1.9であった。
【0100】
〈実施例8〉 凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩の水溶液の量を8.5質量%とし、かつイオン交換水の量を69.3質量%としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット前処理液を調製した。
【0101】
インクジェット前処理液の総量中の量は、凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩(固形分)が6.0質量%、中和剤としてのポリエチレンイミンが1.0質量%、保湿剤Aと保湿剤Bとの合計が20.0質量%であった。また保湿剤Aと保湿剤Bとの質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)=1/1.9であった。
【0102】
〈実施例9〉 中和剤としてのポリエチレンイミンの量を1.3質量%とし、かつイオン交換水の量を74.6質量%としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット前処理液を調製した。
【0103】
インクジェット前処理液の総量中の量は、凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩(固形分)が2.0質量%、中和剤としてのポリエチレンイミンが1.3質量%、保湿剤Aと保湿剤Bとの合計が20.0質量%であった。また保湿剤Aと保湿剤Bとの質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)=1/1.9であった。
【0104】
〈実施例10〉 中和剤としてのポリエチレンイミンの量を1.5質量%とし、かつイオン交換水の量を74.4質量%としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット前処理液を調製した。
【0105】
インクジェット前処理液の総量中の量は、凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩(固形分)が2.0質量%、中和剤としてのポリエチレンイミンが1.5質量%、保湿剤Aと保湿剤Bとの合計が20.0質量%であった。また保湿剤Aと保湿剤Bとの質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)=1/1.9であった。
【0106】
〈実施例11〉 保湿剤Aに代えて、グリセロールを同量配合したこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット前処理液を調製した。
【0107】
インクジェット前処理液の総量中の量は、凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩(固形分)が2.0質量%、中和剤としてのポリエチレンイミンが1.0質量%、グリセロールと保湿剤Bとの合計が20.0質量%であった。
【0108】
〈実施例12〉 保湿剤Bとして、1,4-ブタンジオールを同量配合したこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット前処理液を調製した。
【0109】
インクジェット前処理液の総量中の量は、凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩(固形分)が2.0質量%、中和剤としてのポリエチレンイミンが1.0質量%、保湿剤Aと保湿剤Bとの合計が20.0質量%であった。また保湿剤Aと保湿剤Bとの質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)=1/1.9であった。
【0110】
〈実施例13〉 保湿剤Bとして、1,2-プロパンジオールを同量配合したこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット前処理液を調製した。
【0111】
インクジェット前処理液の総量中の量は、凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩(固形分)が2.0質量%、中和剤としてのポリエチレンイミンが1.0質量%、保湿剤Aと保湿剤Bとの合計が20.0質量%であった。また保湿剤Aと保湿剤Bとの質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)=1/1.9であった。
【0112】
〈実施例14〉 保湿剤Aとして、1,2-ブタンジオールを同量配合したこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット前処理液を調製した。
【0113】
インクジェット前処理液の総量中の量は、凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩(固形分)が2.0質量%、中和剤としてのポリエチレンイミンが1.0質量%、保湿剤Aと保湿剤Bとの合計が20.0質量%であった。また保湿剤Aと保湿剤Bとの質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)=1/1.9であった。
【0114】
〈実施例15〉 保湿剤Aとして、ジエチレングリコールモノブチルエーテルを同量配合したこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット前処理液を調製した。
【0115】
インクジェット前処理液の総量中の量は、凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩(固形分)が2.0質量%、中和剤としてのポリエチレンイミンが1.0質量%、保湿剤Aと保湿剤Bとの合計が20.0質量%であった。また保湿剤Aと保湿剤Bとの質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)=1/1.9であった。
【0116】
〈実施例16〉 保湿剤Aとして、1,2-ブタンジオールを同量配合するとともに、保湿剤Bとして、1,4-ブタンジオールを同量配合したこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット前処理液を調製した。
【0117】
インクジェット前処理液の総量中の量は、凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩(固形分)が2.0質量%、中和剤としてのポリエチレンイミンが1.0質量%、保湿剤Aと保湿剤Bとの合計が20.0質量%であった。また保湿剤Aと保湿剤Bとの質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)=1/1.9であった。
【0118】
〈実施例17〉 保湿剤Aとしての1,2-ヘキサンジオールの量を15.0質量%、保湿剤Bとしての1,3-プロパンジオールの量を5.0質量%としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット前処理液を調製した。
【0119】
インクジェット前処理液の総量中の量は、凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩(固形分)が2.0質量%、中和剤としてのポリエチレンイミンが1.0質量%、保湿剤Aと保湿剤Bとの合計が20.0質量%であった。また保湿剤Aと保湿剤Bとの質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)=3/1であった。
【0120】
〈実施例18〉 保湿剤Aとしての1,2-ヘキサンジオールの量を10.0質量%、保湿剤Bとしての1,3-プロパンジオールの量を10.0質量%としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット前処理液を調製した。
【0121】
インクジェット前処理液の総量中の量は、凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩(固形分)が2.0質量%、中和剤としてのポリエチレンイミンが1.0質量%、保湿剤Aと保湿剤Bとの合計が20.0質量%であった。また保湿剤Aと保湿剤Bとの質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)=1/1であった。
【0122】
〈実施例19〉 保湿剤Aとしての1,2-ヘキサンジオールの量を5.0質量%、保湿剤Bとしての1,3-プロパンジオールの量を15.0質量%としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット前処理液を調製した。
【0123】
インクジェット前処理液の総量中の量は、凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩(固形分)が2.0質量%、中和剤としてのポリエチレンイミンが1.0質量%、保湿剤Aと保湿剤Bとの合計が20.0質量%であった。また保湿剤Aと保湿剤Bとの質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)=1/3であった。
〈実施例20〉 保湿剤Aとしての1,2-ヘキサンジオールの量を4.0質量%、保湿剤Bとしての1,3-プロパンジオールの量を16.0質量%としたこと以外は実施例1と同様にしてインクジェット前処理液を調製した。
【0124】
インクジェット前処理液の総量中の量は、凝集剤としてのDCDA/DETA硫酸塩(固形分)が2.0質量%、中和剤としてのポリエチレンイミンが1.0質量%、保湿剤Aと保湿剤Bとの合計が20.0質量%であった。また保湿剤Aと保湿剤Bとの質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)=1/4であった。
【0125】
〈インクジェットインク〉 カーボンブラックの顔料分散液〔キャボット社製のCAB-O-JET200、カーボンブラック濃度:20%〕、スチレン-アクリル酸共重合体の水性エマルション〔ビーエーエスエフ社製のジョンクリル8211、固形分濃度:44%〕、保湿剤としての1,2-ブタンジオール、レベリング剤〔エボニック社製のTego Wet 280〕、防腐剤〔SCジョンソン社製のProxel GXL〕、およびイオン交換水を、それぞれ表2に示す割合で配合し、混合したのち5μmのメンブランフィルタを用いてろ過して、黒色のインクジェットインクを調製した。
【0126】
【表2】
《実機試験》 インクジェットプリンタとしては、先に説明したように、ロール状に巻回した長尺の基材を巻き出しながら一定速度で搬送する搬送経路上に順に、インクジェット前処理液とインクジェットインクの吐出ヘッド、および加熱乾燥機構を配置したものを用意した。基材の搬送速度は0.5m/秒、インクジェット前処理液の吐出ヘッドと、インクジェットインクの吐出ヘッドの間隔は1.5mとし、インクジェット前処理液を印刷して3秒後にインクジェットインクを印刷するように設定した。また基材としては、マックタック社製の白色塩ビメディア5829Rを用いた。なお、実施例、比較例のインクジェット前処理液を印刷後、インクジェットインクを印刷する直前の状態を観察したところ、いずれのものも、乾燥の進捗状況は異なるものの、完全には乾燥していないことが確認された。
【0127】
〈画像の定着性評価〉 各実施例、比較例で調製したインクジェット前処理液と、インクジェットインクとを上記インクジェットプリンタに使用して、インクジェット前処理液で前処理した基材上に、600dpiの解像度で、基材の搬送方向の長さ5cm、幅5mmの長方形の画像を印刷した。次いで、加熱乾燥後の画像を爪で引っ掻いた後に状態を観察して、下記の基準で画像の定着性を評価した。
【0128】
(評価)○:引っ掻いた跡は残らず、画像に変化は見られなかった。△:画像に、うっすらと引っ掻いた跡が残ったが、画像が剥離することはなかった。×:画像が剥離した。
【0129】
〈吐出ヘッドの腐食、劣化の評価〉 各実施例、比較例で調製したインクジェット前処理液のpHを測定して、下記の基準で、吐出ヘッドを腐食したり劣化させたりするおそれがあるか否かを評価した。
【0130】
(評価)○:pHは7.0以上、9.0以下であった。△:pHは5.0以上、7.0未満、または9.0を超え、10.0以下であった。×:pHは5.0未満、または10.0を超えていた。
【0131】
〈吐出安定性評価〉 各実施例、比較例で調製したインクジェット前処理液を、前述したインクジェットプリンタに使用して、吐出ヘッドから10000回連続して吐出させた際に、ノズルの詰りが発生するか否かを観察して、下記の基準で吐出安定性を評価した。
【0132】
(評価)○:吐出10000回までノズルの詰りは発生しなかった。△:吐出100回以上、1000回未満でノズルの詰りが発生した。×:吐出100回未満でノズルの詰りが発生した。
【0133】
〈画像の鮮明性評価〉 各実施例、比較例で調製したインクジェット前処理液と、インクジェットインクとを上記インクジェットプリンタに使用して、インクジェット前処理液で前処理した基材上に、600dpiの解像度で、ひらがなと漢字の混ざったMS明朝体の文字画像を、4ポイントと6ポイントで印刷した。そして印刷した文字画像を観察して、下記の基準で画像の鮮明性を評価した。
【0134】
(評価)○:4ポイント、6ポイントともに、文字画像はいずれも鮮明で、明瞭に判読することができた。△:4ポイントの文字画像は鮮明性が不十分で判読できなかったが、6ポイントの文字画像はやや鮮明性が低いものの十分に判読することができた。×:4ポイント、6ポイントともに、文字画像は不鮮明で判読することができなかった。
【0135】
以上の結果を表3~表8に示す。なお表中、凝集剤の欄の「DCDA/DETA硫酸塩(I)水溶液」は、ユニセンスKHP 11LU〔黄褐色液体、固形分濃度:70%、分子量:2万未満、pH:7、粘度:100mPa・s〕を示し、「DCDA/DETA硫酸塩(II)水溶液」は、ユニセンスKHP 12LU〔黄褐色液体、固形分濃度:70%、分子量:2万未満、pH:7、粘度:150mPa・s〕を示す。
【0136】
【表3】
【0137】
【表4】
【0138】
【表5】
【0139】
【表6】
【0140】
【表7】
【0141】
【表8】
表3~表8の実施例1~20、比較例1~4の結果より、凝集剤として、DCDA/DETA硫酸塩を選択して用いることによって、インクジェットプリンタの吐出ヘッドを構成する金属部品や樹脂部品等に影響を及ぼさないため長期に亘って安定して吐出でき、かつ画像の定着性を向上する効果にすぐれる上、ハロゲンを含まないインクジェット前処理液が得られることが判った。
【0142】
実施例1~10の結果より、上記の効果をより一層向上することを考慮すると、インクジェット前処理液には中和剤を配合するのが好ましいこと、中和剤としては、凝集剤としても機能しうるポリエチレンイミンが好ましいこと、さらにはDCDA/DETA硫酸塩、および中和剤の量を調整して、インクジェット前処理液のpHを5以上、とくに7以上とするのが好ましく、10以下、とくに9以下とするのが好ましいことが判った。
【0143】
実施例1、11~16の結果より、インクジェット前処理液の乾燥速度を適度に調整して、画像の定着性と鮮明性とを、ともに向上することを考慮すると、インクジェット前処理液には保湿剤を配合するのが好ましいこと、保湿剤としては、前述した保湿剤Aと保湿剤Bとを併用するのが好ましいことが判った。
【0144】
さらに実施例1、17~20の結果より、上記の効果をより一層向上することを考慮すると、上記保湿剤Aと保湿剤Bとを、質量比(保湿剤A)/(保湿剤B)で表して1/4以上、とくに1/3以上の割合で併用するのが好ましく、3/1以下、とくに1/1以下の割合で併用するのが好ましいことが判った。