(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092126
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】電気車制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20240701BHJP
【FI】
B60L15/20 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207835
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111121
【弁理士】
【氏名又は名称】原 拓実
(74)【代理人】
【識別番号】100200218
【弁理士】
【氏名又は名称】沼尾 吉照
(72)【発明者】
【氏名】今井 一富
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA05
5H125BA04
5H125CA02
5H125EE41
5H125EE52
(57)【要約】
【課題】 既存のノッチ-引張力特性を踏襲したまま、電気車制御装置の改修により動力選択起動制御の実現とすることを目的とする。
【解決手段】 電気車制御装置は、力行ノッチ指令と列車速度に基づき、列車編成全体の引張力を各電気車制御装置で負担する第1のトルク電流指令を求め、力行ノッチ指令と列車速度と電気車制御装置の搭載位置に基づき、動力選択起動制御の第2のトルク電流指令を求め、第1のトルク電流指令と第2のトルク電流指令とを切り替えてトルク電流指令として出力する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の車両または複数の車両が連結された列車編成に搭載され、中央制御装置からの力行情報に基づいて、電気車駆動電動機を制御する複数の電気車制御装置であって、
力行ノッチ指令と列車速度に基づき、列車編成全体の引張力を各電気車制御装置で負担するトルク電流指令を求める第1のトルク電流決定部と
力行ノッチ指令と列車速度と電気車制御装置の搭載位置に基づき、動力選択起動制御のトルク電流指令を求める第2のトルク電流決定部と、
第1のトルク電流決定部と第2のトルク電流決定部との出力を切り替えて出力するトルク電流指令切換部とを有する電気車制御装置。
【請求項2】
第1のトルク電流決定部は、力行ノッチ-引張力特性に基づきトルク電流指令を求め、
第2のトルク電流決定部は、トルク電流補正ゲインテーブルを有し、第1のトルク電流決定部のトルク電流指令を補正してトルク電流指令を求める請求項1記載の電気車制御装置。
【請求項3】
第2のトルク電流決定部のトルク電流補正ゲインテーブルは、トルク電流補正ゲインテーブルのパターンを列車速度で切り換えるとき、切り換え論理にヒステリシス特性を有する請求項2記載の電気車制御装置。
【請求項4】
第2のトルク電流決定部は、複数のトルク電流補正ゲインテーブルを有し、所定の条件に従ってトルク電流補正ゲインテーブルを切り換える請求項2または3記載の電気車制御装置。
【請求項5】
単一の車両または複数の車両が連結された列車編成に搭載され、中央制御装置からの力行情報に基づいて、電気車駆動電動機を制御する複数の電気車制御装置の制御方法であって、
力行ノッチ指令と列車速度に基づき、列車編成全体の引張力を各電気車制御装置で負担する第1のトルク電流指令を求め、
力行ノッチ指令と列車速度と電気車制御装置の搭載位置に基づき、動力選択起動制御の第2のトルク電流指令を求め、
第1のトルク電流指令と第2のトルク電流指令とを切り替えてトルク電流指令として出力する電気車制御装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、鉄道車両を駆動する電気車制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
編成内に複数の駆動装置を備える動力分散方式の列車においては、列車の走行に必要な引張力を発生させる手法として、全ての駆動装置を同一の引張力で起動する手法と、複数の駆動装置のうち一部の駆動装置を駆動することに合計の引張力は同じとして起動する手法(以下、動力選択起動制御という)がある。
後者の動力選択起動制御は、複数の駆動装置のうちの一部のみを機器効率の最も良い引張力領域で動作させ、その他の駆動装置を停止させることで、列車全体の計画引張力を確保しつつ、全体の機器効率を上げて省エネを実現する手法ことが可能となる。
例えば、列車に搭載された中央制御装置が運転条件と各号車の駆動装置の余力から、動作・停止する列車内の駆動装置を決定し、各号車の駆動装置と制御する電気車制御装置は、自身への制御指令に基づきコンバータやインバータを経由して主電動機の制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
動力選択起動制御を実現するには、列車の中央制御装置が各電気車制御装置の動作・停止の有無や、起動トルクを管理・制御する手法が一般的である。この場合、導入には列車の中央制御装置と各電気車制御装置双方の開発・改修が必須であることから電気車制御装置の開発だけでは実現できない。
【0005】
既存車種へ動力選択起動制御を導入することを考えた場合、列車全体の機器効率を可能な限り高めるためには、動作させる電気車制御装置の引張力は主回路機器の最大効率点近傍である必要がある。新規車種の場合はノッチ-引張力特性をこの動作点で最適化してしまえば容易に実現できる場合もあるが、既存車種に導入する場合、予め設定されているノッチ-引張力特性と、この最大効率点の引張力特性が一致することは稀であるため、既存のノッチ-引張力特性を踏襲するために、ノッチ指令や列車速度によって動作台数の切り換えや引張力の調整等が必要になる。
【0006】
例えば、特定のノッチにおいて、動作台数を列車編成の半分にする場合は、動作する主電動機は従来の倍の引張力を出力し、かつその引張力が最大効率点近傍である必要があるが、速度によってこの点にずれが生じたり、最大引張力のリミットを超過したりするため、ある速度においては動作台数を増減させて引張力を調整する必要がある。
【0007】
また、故障等で列車内の一部の電気車制御装置を開放した場合等、列車全体の引張力計画特性が担保できなくなった場合は、動力選択起動制御から全ての駆動装置を起動する制御へと切り換えられる必要がある。
【0008】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、既存のノッチ-引張力特性を踏襲したまま、電気車制御装置の改修だけで動力選択起動制御の実現とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の電気車制御装置は、単一の車両または複数の車両が連結された列車編成に搭載され、中央制御装置からの力行情報に基づいて、電気車駆動電動機を制御する複数の電気車制御装置であって、力行ノッチ指令と列車速度に基づき、列車編成全体の引張力を各電気車制御装置で負担するトルク電流指令を求める第1のトルク電流決定部と、力行ノッチ指令と列車速度と電気車制御装置の搭載位置に基づき、動力選択起動制御のトルク電流指令を求める第2のトルク電流決定部と、第1のトルク電流決定部と第2のトルク電流決定部との出力を切り替えて出力するトルク電流指令切換部とを有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に関わる列車と制御装置の構成図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に関わる電気車制御装置のトルク指令値を決定する論理回路を示す図である。
【
図5】
図5は、従来制御の速度-ノッチ-引張力特性および機器最大効率引張力mu_maxの領域の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、力行5ノッチP5における起動する電動車両Mの引張力特性を示す図である。
【
図7】
図7は、力行4ノッチP4における起動する電動車両Mの引張力特性を示す図である。
【
図8】
図8は、力行3ノッチP3における起動する電動車両Mの引張力特性を示す図である。
【
図9】
図9は、力行2ノッチP2における起動する電動車両Mの引張力特性を示す図である。
【
図10】
図10は、力行1ノッチP1における起動する電動車両Mの引張力特性を示す図である。
【
図11】
図11は第2の論理部11-2におけるゲインKを求めるためのテーブルセットAを示す図である。
【
図12】
図12は第2の論理部11-2におけるゲインKを求めるためのテーブルセットBを示す図である。
【
図13】
図13はテーブルセットの列車速度Vtによる切り換え時の挙動について示す図である。
【
図14】
図14は、電動車両に複数の電気車制御装置が搭載されたシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態について図面を参照して説明する。
本発明の実施形態では、2台以上の電気車制御装置で、列車全体の機器効率を可能な限り高めるための動力選択起動制御を行う方法と、動力選択起動制御と従来制御を切り換える方法を説明する。
【0012】
図1は第1の実施形態に関わる列車と制御装置の構成図である。列車は制御車両Cおよび電動車両M-1~M-nで構成される。図には示さないが必要に応じて電動車両Mの間に付随車両が挿入されても良いし、制御車両は電気車制御装置が搭載された電動車両であっても良い。
制御車両Cには、中央制御装置2と、力行・ブレーキ等の指示を中央制御装置2に送信する主幹制御器3と、列車の速度情報を中央制御装置2に送信する速度センサ4とが搭載されている。速度センサ4は空転等の影響を受けないよう、付随車輪6に取り付けられるのが一般的である。図では付随車輪6-2に取り付けられているがこの限りではなく、付随車輪6-1~6-4のいずれかで良い。電動車両Mは動力源である主電動機5とそれらを制御する電気車制御装置1で構成され、中央制御装置2と各車両の電気車制御装置1は機器間伝送7によって接続される。
【0013】
列車の乗務員は力行・ブレーキする場合、主幹制御器3の力行ハンドル・ブレーキハンドルを操作する。主幹制御器3は指示された力行・ブレーキの度合い(以下、ノッチとする)を中央制御装置2に送信する。中央制御装置2は、主幹制御器3から受信した力行・ブレーキノッチを、機器間伝送7を用いて各電動車Mの電気車制御装置1に制御指令8として送信する。この中央制御装置2からの制御指令8には、力行・ブレーキ等のノッチ指令の他に速度センサ4からの情報である列車速度Vtが含まれる。また、走行している路線の位置情報・進行方向等の線路情報、各車両に搭載された荷重センサから得られた応荷重情報が含まれる場合がある。電気車制御装置1は機器間伝送7よりこの制御指令8を受信し、力行ノッチ指令であるときには主電動機5を駆動してトルク制御する。なお、自身の電気車制御装置1が制御する主電動機5の回転速度は制御パラメータとして観測が可能となっている。
【0014】
図2は第1の実施形態に関わる電気車制御装置1のトルク指令値を決定する論理回路を示す図である。
【0015】
トルク指令を決定する論理回路11は、各主電動機が同一の引張力を発生させる従来制御のトルク電流指令を生成する第1の論理回路11-1と、動力選択起動制御のトルク電流指令2Iq2を生成する第2の論理回路11-2と、第1の論理回路11-1からの従来制御のトルク指令と第2の論理回路11-2からの動力選択起動制御のトルク指令とを切替える第3の論理回路11-3と、第3の論理回路11-3からのトルク制御指令に対してジャーク制御または空転制御を行う第4の論理回路11-4とを有する。
【0016】
第1の論理回路11-1は、主電動機回転速度Frと力行ノッチ指令Pと応荷重信号Lとに基づき、トルク電流指令Iq1を生成する。主電動機回転速度Frは電気車制御装置1の内部で推定するか、または主電動機5に速度センサが付属する場合は観測できる値である。第1の論理回路11-1には、この主電動機回転速度Frから演算した自車速度VtFrと力行ノッチ指令Pから、主電動機5のトルク指令値であるトルク電流指令Iq1を求めるためのテーブルが記憶されており、第1の論理回路11-1は、このテーブルに従ってトルク電流指令Iq1を決定する。また、応荷重信号Lが入力されているときは、応荷重(乗車率、車両重量)によって引張力を補正して列車加速度が指令値と一致するように、トルク電流指令Iq1を補正して出力する。
【0017】
ここで、主電動機回転速度Frから演算した自車速度VtFrと、速度センサ4によって観測された列車速度Vtの違いについて説明する。自車速度VtFrは各電動車両M-nそれぞれにて観測されるため、車輪径差等によって各電動車両M-nの自車速度VtFrの値にはばらつきが生じる。一方で、列車速度Vtについては一つの速度センサ4の観測値であることから、各電動車M-nにおいて制御指令8から得られるこの値は共通となる。第1の論理回路11-1において、自車速度VtFrの電動車両M-nごとのばらつきは、トルク電流指令Iq1にばらつきを生じさせるが、列車引張力への影響は無視できる程度である。このため、従来制御の第1の論理回路11-1においては主電動機回転速度Frを用いることが一般的である。一方で、本発明の動力選択起動制御においては、速度よって起動台数を変化させるため、電気車制御装置1ごとに認識する速度にばらつきが生じた場合は、号車ごとに起動タイミングがずれてしまうため、列車引張力に大きな影響を及ぼす。そこで、後述の第2の論理回路11-2については列車速度Vtを用いている。
【0018】
第2の論理回路11-2は、トルク電流指令Iq1と力行ノッチ指令Pと列車速度Vtと自車搭載位置情報Carと動力選択制御パターン群切換フラグFLGとに基づき、動力選択起動制御のトルク電流指令Iq2を生成する。第2の論理回路11-2は、第1の論理回路11-1で生成されたトルク電流指令Iq1に対して、補正ゲインKを乗じてトルク電流指令Iq2を演算する。この補正ゲインKは、力行ノッチP・列車速度Vt・自車搭載位置情報Carごとに設定され、第2の論理回路11-2内部に予め記憶されたテーブル群から選択される。起動する電気車制御装置の補正ゲインK1は、列車編成内全電動車数/起動する電動車数の値となり、停止する電気車制御装置の補正ゲインKは、0となる。従って、停止する電気車制御装置1のトルク電流指令Iq2は0が出力される。
ここで、常に同じテーブル群を使い続けた場合、特定の搭載位置の電気車制御装置1に負荷が集中してしまうため、動力選択制御パターン群切換フラグFLGの外部信号を設け、テーブル群ごと切り替えられるようにしている。この動力選択制御パターン群切換フラグFLGの条件は制御指令8から得られる線路情報や日時情報等、搭載する既存システムに合わせれば良い。
【0019】
第3の論理回路11-3は、トルク電流指令Iq1とトルク電流指令Iq2と動力選択起動制御停止信号STFLGに基づき、従来制御の指令値であるトルク電流制御指令Iq1と動力選択起動制御の指令値であるトルク電流指令Iq2とを切り換えて出力する。動力選択起動制御を有効にする場合は、動力選択起動制御停止信号STFLGにL(=0)を入力する。この場合、第3の論理回路11-3はトルク電流指令Iq3としてトルク電流指令Iq2の値が出力される。このトルク電流指令Iq2が出力されるときにおいて、トルク電流指令2Iq2=0のときは、後述のジャーク制御分の遅れを持ってゲートストップ信号GSTが出力される。ゲートストップ信号GSTを出力することで、当該の電気車制御装置1は停止する。
【0020】
一方で、列車全体の計画引張力が確保できないとき、機器故障等で列車編成内に複数ある電気車制御装置1の一部を開放(停止)して運転するとき、勾配起動等の粘着条件が厳しいとき等、従来制御での駆動が必要な場面においては、動力選択起動制御停止信号STFLGにH(=1)を入力する。この場合、第3の論理回路11-3はトルク電流指令Iq3としてトルク電流指令Iq1の値が出力される。また、ゲートストップ信号GSTの論理はマスクされる。
【0021】
第4の論理回路11-4は、トルク電流指令Iq3が入力されると、ジャーク制御と空転制御を行い、トルク電流指令Iq4を出力する。トルク制御と空転制御は、従来から実装されている制御である。
ジャーク制御はトルク電流指令Iq3の値が瞬時に切り替わったり急変したりした場合でも、引張力の急峻な変動を抑え、乗り心地の悪化や空転を防ぐ目的で設けられている。空転制御はトルク電流指令の最後段に設けられており、空転を検知した場合に瞬時に再粘着するための適切なトルクまでトルク電流指令Iq3を引き下げ、その後再粘着を促すように徐々に引き上げるような制御を行う。
これらの制御が行われた後、第3の論理回路11-3からトルク電流指令Iq4が出力され、この値に従って主電動機5が制御される。
【0022】
図3は第4の論理部11-4のジャーク制御を説明する図である。先に述べたように、ジャーク制御は、従来から存在する制御であり、ある動作点から次の動作点まで一定の変化率を持たせて変化させる制御である。
ここでは、時刻t1において、従来制御である各電動車両が同じ引張力を発生していた状態から動力選択起動制御に切り換わったときを例に説明する。列車編成中の全電動車両Mのうち半数を電気車制御装置A群、他の半数を電気車制御装置B群として、電気車制御装置A群を起動したままとし、電気車制御装置B群を停止させるとすると、ジャーク制御によって編成全体の引張力を同一のまま、時刻t1からt2の間に所定の変化率をもって電気車制御装置A群と電気車制御装置B群の引張力を変化させることができる。
【0023】
次に、具体的な動作について例示して説明する。
図4は、列車編成構成の一例を示す図である。列車編成構成は、4台の電動車両Mと4台の付随車両Tからなる8両編成の構成で、両端の付随車両は制御車両Cである。ただし、制御車両Cの中央制御装置2のうち、進行方向の制御車両Cに搭載された中央制御装置2のみが有効となり、最後尾車両の中央制御装置2は動作を停止する。
【0024】
図5は従来制御の速度-ノッチ-引張力特性の一例を示す図である。力行1ノッチP1から力行6ノッチP6までのノッチ設定があり、力行6ノッチP6が最大引張力であり、主電動機5で出力できるリミット値である。機器最大効率引張力mu_maxは主電動機5を含む主回路機器全体の効率が最大となるときの速度-引張力特性であり、実機の解析や実測等から求める。ここで、V/Fはインバータの変調率を示す。また、機器最大効率-X%の引張力領域mu_max_Aは、mu_maxの機器効率から-X%以内の領域を示している。したがって、電気車制御装置1を機器最大効率で動作させるには、
図2における第2の論理回路のトルク電流指令2Iq2を機器最大効率引張力mu_maxとなるように設定すれば良い。
しかしながら、このmu_maxと電動車両Mの起動台数だけでP1からP6の編成引張力特性を実現するのは一般的に不可能である。そこでまず、動力車選択起動制御における、起動する電動車両Mの引張力領域を機器最大効率-X%の引張力領域mu_max_Aの範囲内に設定することを考える。これにより機器最大効率点付近の引張力領域が可視化されると共に、オリジナルの引張力特性を新規で定義することなく、既存のP1からP6までの引張力特性に対してゲインKを乗ずることで実現が可能になる。
【0025】
図6は力行5ノッチP5における起動する電動車両Mの引張力特性を示す図である。なお、力行6ノッチP6については最大引張力であり引張力特性に余力が無い為、全電動車両Mを起動する(=従来制御)。力行5ノッチP5においては、速度の高い領域において速度-ノッチ-引張力特性のノッチP5の特性が引張力領域mu_max_Aを下回っており、最高速度領域において機器効率がmu_max_Aから外れてしまう。そこで、速度V4において1台の電動車両Mを停止し、残り3台の電動車両MをゲインK=4/3で起動する。これにより、残り3台の電動車両Mの引張力は太線で示す特性となり、機器効率をmu_max_Aの領域内に収めることができる。
【0026】
図7は力行4ノッチP4における起動する電動車両Mの引張力特性を示す図である。力行4ノッチP4の場合、速度V2と速度V3との間の領域から速度-ノッチ-引張力特性のノッチP4の特性が引張力領域mu_max_Aを下回っており、中速域より機器効率がmu_max_Aから外れてしまう。そこで、速度V2において1台の電動車両Mを停止し、残り3台の電動車両MをゲインK=4/3で起動する。さらに、速度V3においてもう1台の電動車両Mを停止し、残り2台の電動車両MをゲインK=4/2=2で起動する。これにより起動する電動車両Mの引張力は太線で示す特性となり、機器効率をmu_max_Aの領域内に収めることができる。
【0027】
図8は力行3ノッチP3における起動する電動車両Mの引張力特性を示す図である。力行3ノッチP3も力行4ノッチP4と同様に、中速域より機器効率がmu_max_Aから外れてしまう。そこで、速度V1において1台の電動車両Mを停止し、残り3台の電動車両MをゲインK=4/3で起動する。次に、速度V2においてもう1台の電動車両Mを停止し、残り2台の電動車両MをゲインK=4/2=2で起動する。さらに、速度V1においてもう1台の電動車両Mを停止し、残り1台の電動車両MをゲインK=4/1=4で起動する。これにより起動する電動車両Mの引張力は太線で示す特性となり、機器効率をmu_max_Aの領域内から多少は外れるものの、従来制御よりも列車全体の機器効率を向上させることができる。今回想定する列車編成構成20では、電動車両Mの総数が4台と少ないため、起動する電動車両Mの引張力特性をmu_max_Aの領域内に収めるのが難しいが、電動車両Mの総数が多い列車編成構成ほど、列車全体の機器効率をよりmu_maxに近い領域で電動車両Mの引張力特性を設定できるようになる。
【0028】
図9および
図10は力行2ノッチP2および力行1ノッチP1における起動する電動車両Mの引張力特性を示す図である。
図9および
図10は参考図であり、
図8に示したようにノッチ3においても引張力特性をmu_max_Aの領域内に収めることが難しかったように、この引張力特性の場合、P2以下のノッチでは中速域からほとんど引張力指令がゼロに近くなるため、速度V1にて3台の電動車両Mを停止し、残り1台の電動車両MをゲインK=4/1=4で起動したとしても、mu_max_Aの領域内には届かないという結果となっている。
【0029】
図11は第2の論理部11-2におけるゲインKを求めるためのテーブルセットAを示す図である。テーブルセットAでは列車速度Vtと自車搭載位置情報Carより、ゲインKを選択する。
図12は第2の論理部11-2におけるゲインKを求めるためのテーブルセットBを示す図である。テーブルセットBでは列車速度Vtと自車搭載位置情報Carより、ゲインKを選択する。
第2の論理回路11-2において、ゲインKを選択するときに、テーブルAのみを用いて選択すると電動車両M2-4に搭載された電気車制御装置1-4に負荷が集中してしまうため、例えば進行方向をパターン切換フラグFLGとして設定し、逆方向に進む場合は
図12のテーブルセットBを参照するようにすることで特定の電気車制御装置に負荷が偏らないようにすることができる。パターン切換フラグとしては、特定の電気車制御装置に負荷集中を避けることができれば良く、進行方向だけでなく日時や線路情報等を用いても良い。
【0030】
図13はテーブルセットの列車速度Vtによる切り換え時の挙動について示す図である。例えば、速度V1のテーブルA-V1から速度V2のテーブルA-V2に切り換わる場合、
図13のようなヒステリシス特性を持たせないと速度V2にて起動と停止を短時間で繰り返す電動車両Mが発生する可能性がある。そのため、V1→V2の特性は速度V2+vで切り換え、V2→V1の特性は速度V2で切り換えるようにする。テーブルセットBを参照する場合も同様である。
【0031】
これまで例示した電動車両Mは1台の電気車制御装置1で4台の主電動機5を起動するシステムであったが、
図14に示す電動車両Mpのように、電動車両Mpに複数の電気車制御装置が搭載されており、1台の電気車制御装置1で1台の主電動機5を起動するシステムにおいても同様の設計手法で動力車選択起動制御を適用することが可能である。
【0032】
また、本実施形態においては、従来制御のソフトウェア構成は
図2の第1の論理部11-1と第4の論理部11-4に相当する。したがって、従来制御のソフトウェアに動力選択制御を新たに導入する場合、第1の論理部11-1と第4の論理部11-4の間に、第2の論理部11-2と第3の論理部11-3を組み込めば良く、既存のシステムであっても容易に動力車選択起動制御の機能追加を実現することができる。
【0033】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0034】
1…電気車制御装置
2…中央制御装置
11-1…第1の論理回路
11-2…第2の論理回路
11-3…第3の論理回路
11-4…第5の論理回路