(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092161
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】スタッド及び合成デッキスラブ
(51)【国際特許分類】
E04B 5/38 20060101AFI20240701BHJP
E04B 5/40 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
E04B5/38 C
E04B5/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207904
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000231110
【氏名又は名称】JFE建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】米澤 泰斗
(57)【要約】
【課題】作業工数及び部材点数を抑えつつも、合成デッキスラブにおけるひび割れ抑制機能を向上させる。
【解決手段】合成デッキスラブのデッキプレートが架け渡される支持梁に対して立設するように取り付けられる立設部31と、立設部31から延びている前方延出部33と、前方延出部33とは反対の側に向かって立設部31から延びている後方延出部35と、後方延出部35の先端から立設部31の一端の側に向かって延びている下方延出部37と、を有することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成デッキスラブのデッキプレートが架け渡される支持梁に対して立設するように取り付けられる立設部と、
前記立設部から延びている第1延出部と、
前記第1延出部とは反対の側に向かって前記立設部から延びている第2延出部と、
前記第2延出部の先端から前記支持梁に取り付けられる前記立設部の一端の側に向かって延びている第3延出部と、
を備えることを特徴とする合成デッキスラブにおいてコンクリートと係合するスタッド。
【請求項2】
前記第2延出部は、互いに異なる方向に延びている一対の延出部を含むことを特徴とする請求項1に記載のスタッド。
【請求項3】
前記一対の延出部は、前記第1延出部に対して鈍角をなすように延びていることを特徴とする請求項2に記載のスタッド。
【請求項4】
前記第2延出部と前記第3延出部との間で前記第2延出部から前記立設部の前記一端に向かって延びている第4延出部を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のスタッド。
【請求項5】
前記第3延出部及び前記第4延出部の少なくとも一方の延出部は、前記第2延出部に対して前記立設部の前記一端とは反対の側に突出するように形成されていることを特徴とする請求項4に記載のスタッド。
【請求項6】
前記第1延出部及び前記第2延出部は、前記デッキプレートが架け渡された状態において、前記デッキプレートのよりも高い位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のスタッド。
【請求項7】
少なくとも一対の支持梁と、
前記一対の支持梁に架け渡されたデッキプレートと、
前記デッキプレート上に設けられたコンクリートと、
前記支持梁に取り付けられていて前記コンクリート内に埋め込まれて前記コンクリートと係合するスタッドと、
を備え、
前記スタッドは、前記支持梁に対して立設するように取り付けられる立設部と、
前記立設部から延びている第1延出部と、前記第1延出部とは反対の側に向かって前記立設部から延びている第2延出部と、前記第2延出部の先端から前記支持梁に取り付けられる前記立設部の一端の側に向かって延びている第3延出部と、
を有することを特徴とする合成デッキスラブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタッド及び合成デッキスラブに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、合成デッキスラブの梁(支持梁)と合成スラブ(デッキプレート(波形鋼板)及びコンクリート)との接合部の設計において、梁のフランジにスタッドを設けることが知られている。合成デッキスラブは、火災時などにおいては、梁と合成スラブの接合部において崩壊することがあるので、合成デッキスラブにおいて、梁とコンクリートとの接合を補強することで、積載荷重やスパンなどの許容性能の向上、耐火性能の向上が可能となる。
【0003】
合成デッキスラブは、積載荷重に抵抗することを目的として、鉄骨などの梁に載せ結合したデッキプレートの上面にワイヤメッシュなどを配筋し、その上にコンクリートを打設して形成されている。また、耐火性能を向上させることを目的として、梁のフランジに頭付きスタッドを設け、梁と床スラブのコンクリートとを一体化させた合成デッキスラブを形成することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、
図13Aは、従来の合成デッキスラブ100の構成を説明するための斜視図である。
図13Bは、従来の合成デッキスラブ100がひび割れた状態を示す概略図である。合成デッキスラブ100において、スタッド300は、単に円柱状に形成されているだけである。スタッド300は、短手方向Wに所定の間隔をあけて複数設けられている。このような従来の合成デッキスラブ100に、例えば、荷重が加わると、梁B周りにひび割れが生じることがある。特に、短手方向Wに沿ったコンクリート20の周面にひび割れが生じることがあり、耐火の観点において不都合であった。
【0006】
ひび割れを防止するために、従来の合成デッキスラブ100においては、複数の頭付きスタッド300に加えて、さらに、梁B周りのひび割れの方向を制御する及び拡大を防止する補強筋(図示せず)をそれぞれ配筋することにより、ひび割れ制御の向上を図っていた。しかしながら、従来の合成デッキスラブ100を構築する際には、スタッド300を設置し、さらに補強筋を設置する必要があり、作業工数及び部材点数が多く、施工性について改良したいという需要があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、作業工数及び部材点数を抑えつつも、合成デッキスラブにおけるひび割れ抑制機能を向上させることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係るスタッドは、合成デッキスラブのデッキプレートが架け渡される支持梁に対して立設するように取り付けられる立設部と、前記立設部から延びている第1延出部と、前記第1延出部とは反対の側に向かって前記立設部から延びている第2延出部と、前記第2延出部の先端から前記支持梁に取り付けられる前記立設部の一端の側に向かって延びている第3延出部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る捕捉体の一態様において、前記第2延出部は、互いに異なる方向に延びている一対の延出部を含む。
【0010】
また、本発明に係る捕捉体の一態様において、前記一対の延出部は、前記第1延出部に対して鈍角をなすように延びている。
【0011】
また、本発明に係る捕捉体の一態様において、前記第2延出部と前記第3延出部との間で前記第2延出部から前記立設部の前記一端に向かって延びている第4延出部を備える。
【0012】
また、本発明に係る捕捉体の一態様において、前記第3延出部及び前記第4延出部の少なくとも一方の延出部は、前記第2延出部に対して前記立設部の前記一端とは反対の側に突出するように形成されている。
【0013】
また、本発明に係る捕捉体の一態様において、前記第1延出部及び前記第2延出部は、前記デッキプレートが架け渡された状態において、前記デッキプレートの最も高い面よりも高い位置に設けられている。
【0014】
さらに、上記課題を解決するために、合成デッキスラブは、少なくとも一対の支持梁と、前記一対の支持梁に架け渡されたデッキプレートと、前記デッキプレート上に設けられたコンクリートと、前記支持梁に取り付けられていて前記コンクリート内に埋め込まれて前記コンクリートと係合するスタッドと、を備え、前記スタッドは、前記支持梁に対して立設するように取り付けられる立設部と、前記立設部から延びている第1延出部と、前記第1延出部とは反対の側に向かって前記立設部から延びている第2延出部と、前記第2延出部の先端から前記支持梁に取り付けられる前記立設部の一端の側に向かって延びている第3延出部と、を有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、作業工数及び部材点数を抑えつつも、合成デッキスラブにおけるひび割れ抑制機能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施の形態に係る合成デッキスラブの構成を説明するための斜視図である。
【
図2】本実施の形態に係る合成デッキスラブに使用されるデッキプレートの斜視図である。
【
図3】スタッドの構成を説明するための図であり、(a)はスタッドの斜視図であり、(b)はスタッドの平面図であり、(c)はスタッドの側面図である。
【
図4】従来の合成デッキスラブにおけるスタッドによるコンクリートの拘束範囲を示す概略図である。
【
図5】合成デッキスラブにおけるスタッドによるコンクリート20の拘束範囲を示す概略図である。
【
図6】変形例1に係るスタッドの構成を説明するための図であり、(a)はスタッドの斜視図であり、(b)はスタッドの平面図であり、(c)はスタッドの側面図である。
【
図7】合成デッキスラブにおける変形例1に係るスタッドによるコンクリートの拘束範囲を示す概略図である。
【
図8】変形例2に係るスタッドの構成を説明するための図であり、(a)はスタッド30Bの平面図であり、(b)はスタッド30Bの側面図であり、(c)はスタッド30Bの背面図である。
【
図9】変形例3に係るスタッドの構成を説明するための図であり、(a)はスタッドの平面図であり、(b)はスタッドの側面図であり、(c)はスタッドの背面図である。
【
図10】合成デッキスラブにおける変形例3に係るスタッドによるコンクリートの拘束範囲を示す概略図である。
【
図11】変形例4に係るスタッドの構成を説明するための図であり、(a)はスタッドの平面図であり、(b)はスタッドの側面図であり、(c)はスタッド30Dの背面図である。
【
図12】合成デッキスラブにおける変形例4に係るスタッド30Dによるコンクリート20の拘束範囲を示す概略図である。
【
図13A】従来の合成デッキスラブ100の構成を説明するための斜視図である。
【
図13B】従来の合成デッキスラブ100がひび割れた状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率等が異なる部分が含まれている場合がある。
【0018】
<合成デッキスラブ>
図1は、本実施の形態に係る合成デッキスラブ1の構成を説明するための斜視図である。本発明に係る合成デッキスラブ1は、少なくとも一対の支持梁Bと、一対の支持梁Bに架け渡されたデッキプレート10と、デッキプレート10上に設けられたコンクリート20と、支持梁Bに取り付けられていてコンクリート20内に埋め込まれてコンクリート20と係合するスタッド30と、を備え、スタッド30は、支持梁Bに対して立設するように取り付けられる立設部31と、支持梁Bに取り付けられる立設部31の一端とは反対側の他端の側に取り付けられ、デッキプレート10の長手方向Lに延びている前方延出部(第1延出部)33と、立設部31の他端の側で前方延出部33とは反対の側に延びている後方延出部(第2延出部)35と、後方延出部35の先端から立設部31の一端の側に向かって延びている下方延出部(第3延出部)37と、を有することを特徴とする。本実施の形態における合成デッキスラブ1の構成について以下に具体的に説明する。
【0019】
合成デッキスラブ1は、例えば、鋼製のデッキプレート10と、コンクリート20と、スタッド30と、を備えた合成構造であり、鉄骨造等の建築物の天井又は床に用いられるものである。合成デッキスラブ1においては、デッキプレート10が引っ張り力に抵抗し、コンクリート20が圧縮力に抵抗する。これにより、合成デッキスラブ1は、大きな荷重に耐え、長いスパンにわたってH形鋼の鉄骨製の支持梁Bと支持梁Bとの間に架け渡すことができる。
【0020】
以下において、デッキプレート10が建築物の支持梁Bと支持梁Bとに架け渡される方向を、デッキプレート10の長手方向(長さ方向)Lとし、長手方向Lに交差してデッキプレート10が延びる方向を短手方向(幅方向)Wとし、デッキプレート10の高さ方向を厚さ方向Dとする。
【0021】
(デッキプレート)
図2は、本実施の形態に係る合成デッキスラブ1に使用されるデッキプレート10の斜視図である。デッキプレート10は、亜鉛メッキ等の表面処理が施された薄板状の鋼板をロールフォーミング等することによって形成した波型鋼板である。なお、デッキプレート10にはメッキ等の表面処理が施されていなくてもよい。デッキプレート10は、山頂部11と、谷底部13と、傾斜部15と、を有する。デッキプレート10は、それぞれ長手方向Lに延びる山頂部11及び谷底部13が傾斜部15を介して互いに短手方向Wに連続する波形状をなしている。
【0022】
デッキプレート10のプレート単体では、2つの山頂部11と、1つの谷底部13と、2組の一対の傾斜部15とからなり、短手方向Wに沿った断面において波型に形成されている。なお、デッキプレート10の短手方向Wの寸法によっては、一のデッキプレート10に1つの山頂部11のみが設けられていてもよい。また、一のデッキプレート10が短手方向Wにおいて他のデッキプレート10と連結された場合、デッキプレート10同士の連結部は、谷底部13として機能する。また、デッキプレート10は、長手方向Lの両端部においてエンドクローズ加工が施されていてもよい。
【0023】
山頂部11は、支持梁Bと支持梁Bとの間にデッキプレート10が架け渡された状態(以下、「架渡し状態」ともいう)において、支持梁Bに対して上側に位置する平坦に形成された部分であり、長手方向Lに延在する板状の部分である。山頂部11は、溝12を有する。溝12は、谷底部13の側に向けて凹むように形成されている。溝12は、長手方向Lに延在し、溝12が1つの場合には短手方向Wにおいて中央近傍に設けられている。
【0024】
山頂部11における溝12により山頂部11の強度が向上する。溝12は、山頂部11に1つ形成されている場合に限らず、複数形成されていてもよい。なお、溝12は、形成されていなくてもよい。
【0025】
谷底部13は、山頂部11に対して平行又は略平行であり、架渡し状態において、支持梁Bに載置される平坦に形成された部分である。谷底部13は、長手方向Lに延在する板状の部分である。谷底部13は、短手方向Wにおいて山頂部11とは重ならない。なお、山頂部11に形成される溝12が谷底部13に形成されていてもよい。
【0026】
傾斜部15は、山頂部11と谷底部13とを連結する部分であり、長手方向Lに延在する板状の部分である。傾斜部15は、短手方向Wにおいて一の山頂部11の両端部の側から斜めに谷底部13の側に向かって斜めに延びている。傾斜部15は、山頂部11及び谷底部13に対して所定の角度、例えば、鈍角を形成するように傾斜している。なお、山頂部11に形成される溝12が傾斜部15に形成されていてもよい。
【0027】
谷底部13と傾斜部15との間の移行部には膨出部14が形成されている。膨出部14は、一の山頂部11における一対の傾斜部15において互いに反対の側に突出した部分である。すなわち、谷底部13を挟んで対向する一対の傾斜部15における膨出部14は、対向するように形成されており、互いに近づく方向に膨出している。
【0028】
(コンクリート)
コンクリート20は、デッキプレート10に打設されたコンクリートが固化することにより形成されている。コンクリート20の内部には、例えば、ひび割れを防止するため等の補強筋(図示せず)や、溶接金網21(
図1参照)等が埋め込まれていてもよい。なお、説明の便宜上、コンクリート20において、支持梁Bとは反対の側に面する面を主面22とし、厚さ方向Dに延びていて長手方向Lに面する面を側面23とする(
図12B参照)。
【0029】
(スタッド)
図3は、スタッド30の構成を説明するための図であり、(a)はスタッド30の斜視図であり、(b)はスタッド30の平面図であり、(c)はスタッド30の側面図である。スタッド30は、支持梁Bの延在方向(短手方向W)に沿って所定の間隔をあけて複数設けられている。スタッド30は、例えば、幅方向Wにおいてデッキプレート10の谷底部13に対向する位置に設けられている。スタッド30は、支持梁Bにおいてデッキプレート10の上方から打設されるコンクリートに埋設され、デッキプレート10とコンクリート20との一体感を高める。
【0030】
スタッド30は、例えば、鋼材などの金属材料により形成されていて、立設部31と、前方延出部(第1延出部)33と、後方延出部(第2延出部)35と、下方延出部(第3延出部)37と、を有する。立設部31は、円柱状に形成されていて、支持梁Bのフランジに対して垂直に又は略垂直に、例えば、溶接等により取り付けられている。立設部31は、支持梁Bに取り付けられた取付状態において、デッキプレート10の山頂部(最も高い面)11を超えるように、支持梁Bのフランジに立設されている。
【0031】
立設部31は、支持梁B上においてコンクリート20との係合に寄与する。立設部31は、立設部31の一方の端部には頭部32が設けられている。頭部32は、立設部31よりも径が大きい部分である。なお、立設部31は、円柱状に限定されず、角柱状に形成されていてもよい。
【0032】
前方延出部33は、立設部31に一体に設けられていて、頭部32の側で立設部31に設けられている。支持梁Bに対する立設部31の取付状態において、前方延出部33は、山頂部11よりも高い位置にある。前方延出部33は、立設部31からデッキプレート10に向かって延出している。具体的には、前方延出部33は、デッキプレート10の谷底部13に対向する位置にまで延びている。前方延出部33は、立設部31から先端に向かって先細るように形成されている。前方延出部33は、支持梁B上においてコンクリート20との係合に寄与するとともに、支持梁B周辺におけるコンクリート20の主面22におけるひび割れ抑制及びひび割れ拡大に寄与する。
【0033】
後方延出部35は、立設部31に一体に設けられている。後方延出部35は、頭部32の側で立設部31に前方延出部33に対向する位置に設けられている。前方延出部33及び後方延出部35は、例えば、長手方向Lに互いに直線状又は略直線状に延びている。支持梁Bに対する立設部31の取付状態において、後方延出部35は、山頂部11よりも高い位置にある。後方延出部35は、立設部31からデッキプレート10とは反対の側に向かって、支持梁Bの延び方向(幅方向W)に直交又は略直交するように延出している。後方延出部35は、支持梁Bを超えない程度に延びている。後方延出部35は、支持梁B上においてコンクリート20との係合に寄与するとともに、支持梁B周辺におけるコンクリート20の主面22におけるひび割れ抑制及びひび割れ拡大に寄与する。
【0034】
下方延出部37は、後方延出部35に一体に設けられている。下方延出部37は、立設部31とは反対の側の後方延出部35の先端に設けられている。下方延出部37は、後方延出部35の先端から立設部31の頭部32とは反対の側、つまり、支持梁Bに対するスタッド30の取付状態において支持梁Bに向かって延びている。下方延出部37は、支持梁B上においてコンクリート20との係合に寄与するとともに、支持梁B周辺におけるコンクリート20の側面23におけるひび割れ抑制及びひび割れ拡大に寄与する。
【0035】
<合成デッキスラブの特性>
以上の合成デッキスラブ1は、例えば、火災時にはコンクリート20と支持梁Bとの接合部である支点位置で崩壊することを想定し、支点位置(接合位置)を補強して、積載荷重やスパンなどの許容性能の向上、耐火性能の向上が図られている。本発明によれば、スタッド30が支持梁Bのフランジに補強手段として設けられている。複数のスタッド30が支持梁B上で短手方向Wに並んで設けられている。
【0036】
このようなスタッド30により、合成デッキスラブ1における端部の引抜き耐力が向上して、支持梁Bへの固定度及び耐火性が向上し、合成デッキスラブ1の端部におけるひび割れ防止及びひび割れの拡大が抑制されて耐火性において有利になり、積載荷重やスパンなどの許容性能を増強させることができる。
【0037】
図4は、従来の合成デッキスラブ100におけるスタッド300によるコンクリート20の拘束範囲を示す概略図である。従来の合成デッキスラブ100において、スタッド300は、単に円柱状に形成されているだけである。そのため、スタッド300によるコンクリート20の拘束範囲(斜線で示す範囲)は、コンクリート20の主面22及び側面23にまで十分に達していないことが想定される。このような従来の合成デッキスラブ100に荷重が加わると、支持梁B周りに、つまり、コンクリート20の主面22及び側面23にひび割れが生じることがある(
図13参照)。
【0038】
図5は、合成デッキスラブ1におけるスタッド30によるコンクリート20の拘束範囲を示す概略図である。なお、スタッド30は、立設部31が支持梁Bの幅方向(図中においては長手方向L)において真ん中又は略真ん中に位置するように支持梁Bに取り付けられる。
【0039】
本実施の形態に係る合成デッキスラブ1においては、スタッド30は、後方延出部35及び下方延出部37を有している。後方延出部35が立設部31からコンクリート20の側面23に向かって延びていて、かつ、下方延出部37が厚さ方向Dに側面23に沿って延びているので、コンクリート20との一体性が向上しており、スタッド30の周りに発生する応力を分散させている。これにより、合成デッキスラブ1の端部を補強することができ、耐火性能の向上が期待できる。さらに、後方延出部35及び下方延出部37により、スタッド30によるコンクリート20の拘束範囲は、コンクリート20の側面23付近にまで達している。スタッド30によれば、別途、補強筋を設けることなく、スタッド30を設置するだけで、支持梁B付近におけるコンクリート20のひび割れを抑制することができる。なお、支持梁B周辺、つまり、スタッド30周辺に別途、補強筋を設けてもよい。
【0040】
<変形例1に係るスタッド>
さらに、本発明においてスタッドは、複数の後方延出部を有していてもよい。以下に、変形例1に係るスタッド30Aについて説明する。
図6は、変形例1に係るスタッド30Aの構成を説明するための図であり、(a)はスタッド30Aの斜視図であり、(b)はスタッド30Aの平面図であり、(c)はスタッド30Aの側面図である。なお、スタッド30と同じ構成については、同じ符号を付してその説明を省略することがある。
【0041】
スタッド30Aは、立設部31と、前方延出部(第1延出部)33と、2つの後方延出部(第2延出部)35Aと、下方延出部(第3延出部)37と、を有する。
【0042】
2つの後方延出部35Aは、立設部31に一体に設けられている。後方延出部35Aは、頭部32の側で立設部31に前方延出部33とは反対の側に設けられていて、前方延出部33とは反対の側に延びている。後方延出部35Aは、前方延出部33と同じ又は略同じ長さを有している。
【0043】
前方延出部33及び各後方延出部35Aは、互いに鈍角θ1をなして延びていて、各後方延出部35A同士も同様に互いに鈍角θ2をなして延びている。例えば、前方延出部33の延び方向に沿った直線と後方延出部35Aの延び方向に沿った直線とがなす鈍角θ1は、互いに90°~120°の角度をなし、2つの後方延出部35Aの延び方向に沿った直線がなす鈍角θ2は、互いに120°~180°の角度をなしていることが好ましい。
【0044】
下方延出部37は、各後方延出部35Aに一体に設けられている。下方延出部37は、立設部31とは反対の側の後方延出部35Aの先端にそれぞれ設けられている。下方延出部37は、後方延出部35Aの先端に、立設部31の頭部32とは反対の側、つまり、支持梁Bに対するスタッド30の取付状態において、支持梁Bに向かって延びるように形成されている。
【0045】
図7は、合成デッキスラブ1における変形例1に係るスタッド30Aによるコンクリート20の拘束範囲を示す概略図である。スタッド30Aを支持梁Bに、短手方向Wにおいてデッキプレート10の谷底部13の中心又は略中心に設置した場合、後方延出部35Aは、長手方向Lに見て山頂部11と短手方向Wに重なるようになっている。また、下方延出部37は、デッキプレート10に対して支持梁Bに向かって延びている。
【0046】
変形例1に係るスタッド30Aは、少なくともスタッド30と同じ効果を奏するとともに、互いに異なる方向に延びる一対(2つ)の後方延出部35Aを有してるので、スタッド30Aによるコンクリート20の拘束範囲を拡大することができる。さらに、2つの後方延出部35Aは、互いに鈍角をなして延びているので、短手方向Wに隣接するスタッド30Aの後方延出部35Aに接近するようになっている。これにより、2つの互いに隣接するスタッド30Aによるコンクリート20の拘束範囲の間隔をより密又は連続的にすることができ、一対の後方延出部35A及び下方延出部37により、支持梁B付近において広範囲にわたってコンクリート20の主面22及び側面23のひび割れを抑制することができる。
【0047】
<変形例2に係るスタッド>
次に、変形例2に係るスタッド30Bについて説明する。
図8は、変形例2に係るスタッド30Bの構成を説明するための図であり、(a)はスタッド30Bの平面図であり、(b)はスタッド30Bの側面図であり、(c)はスタッド30Bの背面図である。なお、スタッド30,30Aと同じ構成については、同じ符号を付してその説明を省略することがある。
【0048】
スタッド30Bは、立設部31と、前方延出部(第1延出部)33と、2つの後方延出部(第2延出部)35Aと、下方延出部(第3延出部)37Bと、を有する。
【0049】
下方延出部37Bは、各後方延出部35Aに一体に設けられている。下方延出部37Bは、立設部31とは反対の側の後方延出部35Aの先端にそれぞれ設けられている。下方延出部37Bは、後方延出部35Aの先端に、立設部31の頭部32とは反対の側、つまり支持梁Bに向かって延びるように形成されているとともに、後方延出部35Aに対して支持梁Bとは反対の側、つまり立設部31の頭部32の側に突出するように形成されている。
【0050】
変形例2に係るスタッド30Bは、少なくともスタッド30Aと同じ効果を奏するとともに、下方延出部37Bが後方延出部35Aに対して立設部31の頭部32の側に突出しているので、スタッド30Bによるコンクリート20の拘束範囲を拡大することができる。これにより、2つの互いに隣接するスタッド30Bによるコンクリート20の拘束範囲の間隔をより密にすることができ、さらに、下方延出部37が後方延出部33Aに対して、主面22の側に突出しているので厚さ方向Dに広範囲にわたってコンクリート20の、特に、側面23のひび割れを抑制することができる。
【0051】
<変形例3に係るスタッド>
次に、変形例3に係るスタッド30Cについて説明する。
図9は、変形例3に係るスタッド30Cの構成を説明するための図であり、(a)はスタッド30Cの平面図であり、(b)はスタッド30Cの側面図であり、(c)はスタッド30Cの背面図である。なお、スタッド30,30Aと同じ構成については、同じ符号を付してその説明を省略することがある。
【0052】
スタッド30Cは、立設部31と、前方延出部(第1延出部)33と、2つの後方延出部(第2延出部)35Aと、第1下方延出部(第3延出部)37と、第2下方延出部(第4延出部)39Cと、を有する。
【0053】
第2下方延出部39Cは、立設部31と第1下方延出部37との間で、後方延出部35Aに設けられていて、立設部31の頭部32とは反対の側、つまり支持梁Bに向かって延びるように形成されている。
【0054】
図10は、合成デッキスラブ1における変形例3に係るスタッドによるコンクリート20の拘束範囲を示す概略図である。変形例3に係るスタッド30Cは、少なくともスタッド30Aと同じ効果を奏するとともに、一の後方延出部35Aに対して複数の下方延出部37B,39Cが設けられているので、2つの互いに隣接するスタッド30Cによるコンクリート20の拘束範囲の間隔を連続的に形成することができる。これにより、支持梁B付近において広範囲にわたってコンクリート20の側面23のひび割れを抑制することができる。
【0055】
<変形例4に係るスタッド>
以下に、変形例4に係るスタッド30Dについて説明する。
図11は、変形例4に係るスタッド30Dの構成を説明するための図であり、(a)はスタッド30Dの平面図であり、(b)はスタッド30Dの側面図であり、(c)はスタッド30Dの背面図である。なお、スタッド30と同じ構成については、同じ符号を付してその説明を省略することがある。
【0056】
スタッド30Dは、立設部31と、前方延出部(第1延出部)33と、2つの後方延出部(第2延出部)35Dと、下方延出部(第3延出部)37と、を有する。
【0057】
2つの後方延出部35Dは、立設部31に一体に設けられている。後方延出部35Dは、頭部32の側で立設部31に前方延出部33とは反対の側に設けられていて、前方延出部33とは反対の側に延びている。後方延出部35Dは、前方延出部33よりも短く形成されている。
【0058】
図12は、合成デッキスラブにおける変形例4に係るスタッド30Dによるコンクリート20の拘束範囲を示す概略図である。変形例4に係るスタッド30Dは、少なくともスタッド30と同じ効果を奏するとともに、互いに異なる方向に延びる一対(2つ)の後方延出部35Dを有してるので、スタッド30Dによるコンクリート20の拘束範囲を、従来のスタッド300に比べて拡大することができる。
【0059】
前方延出部33及び各後方延出部35Dは、互いに鈍角θ3をなして延びていて、各後方延出部35D同士も同様に互いに鈍角θ4をなして延びている。例えば、前方延出部33の延び方向に沿った直線と後方延出部35Dの延び方向に沿った直線とがなす鈍角θ3は、互いに120°~180°の角度をなし、2つの後方延出部35Dの延び方向に沿った直線がなす角度θ4は、互いに5°~180°の角度をなしていることが好ましい。2つの後方延出部35Dの間の角度は、変形例1に係る2つの後方延出部35Aの間の角度よりも小さくなっている。
【0060】
変形例4に係るスタッド30Dは、少なくともスタッド30と同じ効果を奏するとともに、後方延出部35Dにおいては、変形例1に比べて立設部31と下方延出部37との距離が短く、かつ、下方延出部37から側面23までの距離が短い。したがって、変形例4においてはスタッド30Dによるコンクリート20の主面22及び側面23に対して密な拘束範囲を確保することができ、コンクリート20の主面22及び側面23におけるひび割れ抑制・拡大に寄与する。
【0061】
<その他>
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。また、例えば、上記実施の形態における各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。例えば、立設部31に、変形例1~3における構成を適用してもよい。
【0062】
また、上記スタッド30,30A,30B,30C,30Dにおいて、立設部31と前方延出部33とは、一体に形成されていたが別体に形成されていて、互いに着脱自在になっていてもよい。この場合、前方延出部33は、可撓性を有する鋼製の線材等であってよく、立設部31を中心に巻かれていてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1・・・合成デッキスラブ
10・・・デッキプレート
20・・・コンクリート
30,30A,30B,30C,30D・・・スタッド、31・・・立設部、33・・・前方延出部(第1延出部)、35,35A・・・後方延出部(第2延出部)、37,37B・・・下方延出部(第3延出部)、39C・・・第2下方延出部(第4延出部)