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特開2024-92194非水二次電池及び非水二次電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092194
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】非水二次電池及び非水二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20240701BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20240701BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20240701BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240701BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240701BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0566
H01M10/0587
H01M4/13
H01M50/489
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207954
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】丸山 舜也
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H021AA06
5H021HH00
5H029AJ12
5H029AK03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AM03
5H029AM07
5H029CJ07
5H029CJ13
5H029HJ00
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB08
5H050CB09
5H050GA09
5H050GA13
5H050HA00
(57)【要約】
【課題】電極体が備える湾曲部において、非水二次電池の充電による負極活物質の膨張に伴う局所的な抵抗の増加を抑制可能とした非水二次電池及び非水二次電池の製造方法を提供する。
【解決手段】正極板21と、負極板24と、非水電解液を保持するセパレータ27とが、正極板21と負極板24との間にセパレータ27が配置されるように積層された状態で捲回された電極体20を備え、電極体20は、電極体20を構成する各層が湾曲した湾曲部を備え、正極板21は、正極基材22と、正極合剤層23と、を備え、負極板24は、箔状の負極基材25と、充電時に電荷担体を吸蔵する負極活物質を含む負極合剤層26と、負極合剤層26とセパレータ27との間の静摩擦係数が0.60以上であり、正極合剤層23とセパレータ27との間の静摩擦係数が0.50以下である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と、負極板と、非水電解液を保持するセパレータとが、前記正極板と前記負極板との間に前記セパレータが配置されるように積層された状態で捲回された電極体を備え、
前記電極体は、前記電極体を構成する各層が湾曲した湾曲部を備え、
前記正極板は、箔状の正極基材と、前記正極基材が備える面のうち相反する方向に面する2つの面に設けられる正極合剤層と、を備え、
前記負極板は、箔状の負極基材と、前記負極基材が備える面のうち相反する方向に面する2つの面に設けられる負極合剤層と、を備え、
前記負極合剤層は、充電時に電荷担体を吸蔵する負極活物質を含み、
前記負極合剤層と前記セパレータとの間の静摩擦係数が0.60以上であり、
前記正極合剤層と前記セパレータとの間の静摩擦係数が0.50以下である
非水二次電池。
【請求項2】
前記正極合剤層と前記セパレータとの間の静摩擦係数が0.30以上である
請求項1に記載の非水二次電池。
【請求項3】
前記正極合剤層のうち前記セパレータと接する面の表面粗さは、0.5μm以上0.7μm以下であり、
前記セパレータのうち前記正極合剤層と接する面の表面粗さは、0.5μm以上0.7μm以下である
請求項2に記載の非水二次電池。
【請求項4】
前記負極合剤層のうち前記セパレータと接する面の表面粗さは、0.6μm以上0.8μm以下であり、
前記セパレータのうち前記負極合剤層と接する面の表面粗さは、0.5μm以上0.7μm以下である
請求項1ないし3のうち何れか一項に記載の非水二次電池。
【請求項5】
正極基材が備える面のうち相反する方向に面する2つの面に設けられる正極合剤層を備える正極板と、負極基材が備える面のうち相反する方向に面する2つの面に設けられる負極合剤層であって、充電時に電荷担体を吸蔵する負極活物質を含む前記負極合剤層を備える負極板と、非水電解液を保持するセパレータとを、前記正極板と前記負極板との間に前記セパレータが配置されるように積層した状態で捲回することで、積層された各層が湾曲した湾曲部が形成された電極体を製造する電極体製造工程と、
前記電極体を収容したケースに非水電解液を注液する注液工程と、を含み、
前記電極体製造工程において製造される前記電極体では、
前記負極合剤層と前記セパレータとの間の静摩擦係数が0.60以上であり、
前記正極合剤層と前記セパレータとの間の静摩擦係数が0.50以下である
非水二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水二次電池及び非水二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド自動車は、その電源として非水二次電池を備える。非水二次電池の一例であるリチウムイオン二次電池は、正極板と、負極板と、セパレータとが積層された電極体を備える。電極体の一例は、電極体を構成する各層が押圧された偏平部と、偏平部の両端に位置する部分であって、電極体を構成する各層が湾曲した湾曲部と、を備える(例えば、特許文献1)。電極体は、例えば、偏平部が角筒状のケースの側壁に対向するとともに、湾曲部が偏平部の上下に位置する状態でケースに収容される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-161293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リチウムイオン二次電池の充電時には、負極板に含まれる負極活物質が電荷担体となるリチウムイオンの吸蔵に伴って膨張することで、負極板の厚さが増加する。偏平部においては、充電時に負極活物質の膨張に伴って負極板の厚さが増加しても、ケースの側壁によって偏平部が拘束されるため、負極板とセパレータとが密着した状態が維持される。
【0005】
一方、湾曲部においては、充電時に負極活物質が膨張すると、負極板において湾曲部の外周方向に向かって負極板の厚さが増加する。このとき、負極板とセパレータとの間の静摩擦係数が小さい場合、負極板がセパレータに対して滑りながら負極板がうねるようにして変形することで、負極板とセパレータとの間に隙間が生じ易い。負極板とセパレータとの間に隙間が生じた部分は、正極板と負極板との間の距離である極間距離が増加した状態である。すなわち、電極体のなかで局所的に抵抗が高い部分が生じるため、電極体におけるリチウム析出耐性の低下を招く。なお、リチウムイオン二次電池以外の非水二次電池であっても、充電時に負極活物質の膨張が生じる構成においては、同様のメカニズムによって電荷担体となる金属イオンが金属として析出し易い状態となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための非水二次電池は、正極板と、負極板と、非水電解液を保持するセパレータとが、前記正極板と前記負極板との間に前記セパレータが配置されるように積層された状態で捲回された電極体を備え、前記電極体は、前記電極体を構成する各層が湾曲した湾曲部を備え、前記正極板は、箔状の正極基材と、前記正極基材が備える面のうち相反する方向に面する2つの面に設けられる正極合剤層と、を備え、前記負極板は、箔状の負極基材と、前記負極基材が備える面のうち相反する方向に面する2つの面に設けられる負極合剤層と、を備え、前記負極合剤層は、充電時に電荷担体を吸蔵する負極活物質を含み、前記負極合剤層と前記セパレータとの間の静摩擦係数が0.60以上であり、前記正極合剤層と前記セパレータとの間の静摩擦係数が0.50以下である。
【0007】
負極合剤層とセパレータとの間の静摩擦係数が0.60以上であることで、充電時において、湾曲部の外周方向に向かって負極板の厚さが増加する際に、セパレータが負極合剤層と密着した状態を維持しながら負極板の厚さの増加に追従して伸びる。これにより、湾曲部において、負極板とセパレータとの間の静摩擦係数が小さい場合に生じる負極板のうねりを抑制できるとともに、負極板とセパレータとの間に隙間が形成されることを抑制できる。
【0008】
また、仮に正極板とセパレータとの間の静摩擦係数が大きい場合、正極板とセパレータとの間の摩擦力がセパレータの変形に対する抵抗力として作用することで、セパレータが負極板の厚さの増加に追従して伸びにくくなる。この場合、負極板がセパレータに対して滑るように変形し易くなるため、結果として負極板とセパレータとの間に隙間が形成され易くなる。この点、正極合剤層とセパレータとの間の静摩擦係数が0.50以下であることで、負極板の厚さの増加に追従してセパレータが伸びる際に、正極合剤層とセパレータとの間の摩擦力によってセパレータの変形が阻害され難くなる。結果として、負極板とセパレータとの間に隙間が形成されることを好適に抑制できる。
【0009】
上記非水二次電池において、前記正極合剤層と前記セパレータとの間の静摩擦係数が0.30以上であることが好ましい。正極合剤層とセパレータとの間の静摩擦係数が過剰に小さい場合、電極体の製造時において、正極板及びセパレータの一方が他方に対して蛇行した状態で捲回される場合がある。この点、正極合剤層とセパレータとの間の静摩擦係数が0.30以上であることで、セパレータに対して正極板が蛇行した状態で捲回されることを抑制できる。
【0010】
上記非水二次電池において、前記正極合剤層のうち前記セパレータと接する面の表面粗さは、0.5μm以上0.7μm以下であり、前記セパレータのうち前記正極合剤層と接する面の表面粗さは、0.5μm以上0.7μm以下であることが好ましい。正極合剤層の表面粗さと、セパレータの表面粗さとを上記の範囲内とすることで、正極合剤層とセパレータとの間の静摩擦係数を0.30以上0.50以下の範囲に制御することができる。
【0011】
上記非水二次電池において、前記負極合剤層のうち前記セパレータと接する面の表面粗さは、0.6μm以上0.8μm以下であり、前記セパレータのうち前記負極合剤層と接する面の表面粗さは、0.5μm以上0.7μm以下であることが好ましい。負極合剤層の表面粗さと、セパレータの表面粗さとを上記の範囲内とすることで、負極合剤層とセパレータとの間の静摩擦係数を0.60以上に制御することができる。
【0012】
上記課題を解決するための非水二次電池の製造方法は、正極基材が備える面のうち相反する方向に面する2つの面に設けられる正極合剤層を備える正極板と、負極基材が備える面のうち相反する方向に面する2つの面に設けられる負極合剤層であって、充電時に電荷担体を吸蔵する負極活物質を含む前記負極合剤層を備える負極板と、非水電解液を保持するセパレータとを、前記正極板と前記負極板との間に前記セパレータが配置されるように積層した状態で捲回することで、積層された各層が湾曲した湾曲部が形成された電極体を製造する電極体製造工程と、前記電極体を収容したケースに非水電解液を注液する注液工程と、を含み、前記電極体製造工程において製造される前記電極体では、前記負極合剤層と前記セパレータとの間の静摩擦係数が0.60以上であり、前記正極合剤層と前記セパレータとの間の静摩擦係数が0.50以下である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電極体が備える湾曲部において、非水二次電池の充電による負極活物質の膨張に伴う局所的な抵抗の増加を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、リチウムイオン二次電池の斜視図である。
図2図2は、電極体を展開した状態を示す斜視図である。
図3図3は、図2のIII-III線から見た断面図である。
図4図4は、電極体の湾曲部の層構成を模式的に示す断面図である。
図5図5は、リチウムイオン二次電池の製造工程を示すフローチャートである。
図6図6は、充電時における湾曲部の層構成を模式的に示す断面図である。
図7図7は、充電時における湾曲部の層構成を拡大して示す断面図である。
図8図8は、実施例及び比較例における第1静摩擦係数及び第2静摩擦係数、並びに、析出限界電流比を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について図1図7を参照して説明する。
[リチウムイオン二次電池]
図1に示すように、非水二次電池の一例であるリチウムイオン二次電池10は、ケース11と電極体20とを備える。ケース11は、上側に開口を有した偏平な有底角型の外形を有する。ケース11は、電極体20と非水電解液とを収容する。ケース11は、対向して配置される一対の側壁11Aを備える。蓋体12は、ケース11の開口を閉塞する。ケース11は、蓋体12を取り付けることで直方体形状の密閉された電槽を構成する。
【0016】
蓋体12には、正極の外部端子13Aと負極の外部端子13Bとが設けられる。電極体20における正極側の端部である正極側集電部20Aは、正極側集電部材14Aを介して正極の外部端子13Aに電気的に接続される。電極体20における負極側の端部である負極側集電部20Bは、負極側集電部材14Bを介して負極の外部端子13Bに電気的に接続される。蓋体12は、非水電解液を注入するための注入口15を備える。なお、外部端子13A,13Bの形状は、図1に示す形状に限定されず、任意の形状でよい。
【0017】
リチウムイオン二次電池10は、例えば、複数のリチウムイオン二次電池10が並べられて構成される組電池の状態で用いられる。組電池の状態では、例えば、隣り合うリチウムイオン二次電池10の側壁11A同士が対向するように所定の配列方向に並べられた状態で、複数のリチウムイオン二次電池10を配列方向に挟み込む拘束荷重が付与される。これにより、複数のリチウムイオン二次電池10が一体的に保持される。
【0018】
[電極体]
図2に示すように、電極体20は、正極板21と負極板24とがセパレータ27を介して積層された積層体を捲回した偏平な捲回体である。正極板21、負極板24、及びセパレータ27は、それぞれの長手となる方向が長手方向D1と一致するように積層される。電極体20は、セパレータ27を挟んで積層された正極板21と負極板24とが、その帯形状の幅方向D2に沿って延びる捲回軸L1の周りに捲回された構造を有している。
【0019】
電極体20は、偏平部31と、上湾曲部32と、下湾曲部33とを備える。偏平部31は、相反する方向に面する一対の平面31Sを備える。上湾曲部32は、偏平部31の上部に位置する。上湾曲部32は、偏平部31の上端から上側に膨らむ形状を有する。下湾曲部33は、偏平部31の下部に位置する。下湾曲部33は、偏平部31の下端から下側に膨らむ形状を有する。上湾曲部32及び下湾曲部33は、それぞれ電極体20が備える湾曲部の一例である。
【0020】
電極体20は、上湾曲部32が蓋体12側に位置するとともに、下湾曲部33がケース11の底面側に位置するように、捲回軸L1がケース11の底面に平行に延在する状態でケース11内に収容される。また、電極体20は、ケース11に収容された状態で、偏平部31が備える平面31Sの各々が、ケース11が備える側壁11Aと対向する。
【0021】
図3に示すように、電極体20は、積層方向D3において、正極板21と負極板24との間にセパレータ27が配置されるように積層される。なお、積層方向D3は、長手方向D1と幅方向D2とを含む面に対して直交する方向である。
【0022】
[正極板]
正極板21は、正極基材22と、正極合剤層23とを備える。正極基材22は、アルミニウムまたはアルミニウム合金から構成される箔状の金属が用いられる。正極合剤層23は、正極基材22の相反する方向に面する2つの面の各々に設けられる。正極基材22は、幅方向D2の一端に、正極合剤層23が形成されずに正極基材22が露出した正極側未塗工部22Aを備える。正極基材22が備える正極側未塗工部22Aは、捲回体の状態において、向かい合う部分が互いに圧接されて正極側集電部20Aを構成する。
【0023】
正極合剤層23は、正極活物質、正極導電剤、及び正極結着剤を含む。正極合剤層23の前駆体となる正極合剤ペーストは、さらに正極溶媒を含む。正極溶媒の一例は、有機溶媒の一例であるNMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液である。
【0024】
正極活物質は、リチウムイオン二次電池10における電荷担体であるリチウムイオンを吸蔵及び放出可能なリチウム含有複合金属酸化物が用いられる。正極活物質は、充電時にリチウムイオンを放出するとともに、放電時にリチウムイオンを吸蔵する。リチウム含有複合酸化物は、リチウムと、リチウム以外の他の金属元素とを含む酸化物である。リチウム以外の他の金属元素は、例えば、ニッケル、コバルト、マンガン、バナジウム、マグネシウム、モリブデン、ニオブ、チタン、タングステン、アルミニウム、リチウム含有複合酸化物にリン酸鉄として含有される鉄からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0025】
例えば、リチウム含有複合酸化物は、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMn)である。例えば、リチウム含有複合酸化物は、ニッケル、コバルト及びマンガンを含有する三元系リチウム含有複合酸化物(NCM)であって、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNiCoMnO)である。例えば、リチウム含有複合酸化物は、リン酸鉄リチウム(LiFePO)である。なお、正極活物質の粒径(メジアン径D50)は、例えば、2μm以上6μm以下である。
【0026】
正極導電剤は、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバ等の炭素繊維、黒鉛が用いられる。正極結着剤は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール(PVA)、及びスチレンブタジエンラバー(SBR)からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0027】
なお、正極板21は、正極側未塗工部22Aと正極合剤層23との境界に、絶縁層を備えてもよい。絶縁層は、絶縁性を有した無機成分と、結着材として機能する樹脂成分とを含む。無機成分は、粉末状のベーマイト、チタニア、及びアルミナからなる群から選択される少なくとも1つである。樹脂成分は、PVDF、PVA、アクリルからなる群から選択される少なくとも1つである。
【0028】
[負極板]
負極板24は、負極基材25と、負極合剤層26とを備える。負極基材25は、銅または銅合金から構成される箔状の金属が用いられる。負極合剤層26は、負極基材25の相反する方向に面する2つの面の各々に設けられる。負極基材25は、幅方向D2における正極側未塗工部22Aと反対に位置する端部において、負極合剤層26が形成されずに負極基材25が露出した負極側未塗工部25Aを備える。負極側未塗工部25Aは、捲回体の状態において、向かい合う部分が互いに圧接されて負極側集電部20Bを構成する。
【0029】
負極合剤層26は、負極活物質、負極導電剤、負極増粘剤、及び負極結着剤を含む。また、負極合剤層26の前駆体となる負極合剤ペーストは、さらに負極溶媒を含む。負極溶媒は、一例として、水である。負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な材料である。負極活物質は、充電時にリチウムイオンを吸蔵するとともに、放電時にリチウムイオンを放出する。負極活物質は、例えば、黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、カーボンナノチューブ等の炭素材料等が用いられる。負極活物質は、黒鉛粒子を非晶質炭素層で被覆した複合化粒子であってもよい。なお、負極活物質の粒径(メジアン径D50)は、例えば、5μm以上10μm以下である。
【0030】
負極導電剤は、例えば、正極導電剤と同様のものを用いることができる。負極増粘剤は、一例として、カルボキシメチルセルロース(CMC)を用いることができる。また、CMCは、負極合剤ペーストにおいて負極活物質を分散させるための分散剤としても機能する。負極結着剤は、PVDF、PVA、及びSBRからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0031】
[セパレータ]
セパレータ27は、正極板21と負極板24との接触を防ぐとともに、正極板21と負極板24との間で非水電解液を保持する。非水電解液に電極体20を浸漬させると、セパレータ27の端部から中央部に向けて非水電解液が浸透する。
【0032】
セパレータ27は、ポリプロピレン製等の多孔性の不織布である。セパレータ27としては、例えば、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、及びイオン導電性ポリマー電解質膜等を用いることができる。
【0033】
セパレータ27の空孔率εは、例えば、50%以上60%以下である。なお、空孔率εは、単位体積W0あたりのセパレータ27に含まれる各構成材料の質量をWa,Wb,…Wn、各構成材料の真密度をρa,ρb,…ρnとすると、ε={1-(Wa/ρa+Wb/ρb…+Wn/ρn)/W0}×100として表される。
【0034】
[非水電解液]
非水電解液は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。非水溶媒は、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートからなる群から選択される一種または二種以上の材料である。支持塩は、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiI等から選択される一種または二種以上のリチウム化合物である。
【0035】
非水電解液には、被膜形成剤が添加される。被膜形成剤は、例えば、リチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)である。例えば、非水電解液におけるLiBOBの濃度が0.001以上0.1以下[mol/L]となるように、非水電解液にLiBOBを添加する。
【0036】
[電極体を構成する各層間の摩擦係数]
図4に示すように、正極板21は、セパレータ27と接する正極接触面21Sを備える。正極接触面21Sは、正極合剤層23が備える面である。正極板21は、相反する方向に面する2つの正極接触面21Sを備える。負極板24は、セパレータ27と接する負極接触面24Sを備える。負極接触面24Sは、負極合剤層26が備える面である。負極板24は、相反する方向に面する2つの負極接触面24Sを備える。セパレータ27は、第1接触面27S1と第2接触面27S2とを備える。第1接触面27S1は、セパレータ27のなかで正極接触面21Sと接する面である。第2接触面27S2は、セパレータ27のなかで負極接触面24Sと接する面である。
【0037】
正極合剤層23とセパレータ27との間の第1静摩擦係数μ1は、0.50以下となるように構成される。また、第1静摩擦係数μ1は、0.30以上であることが好ましい。第1静摩擦係数μ1は、正極板21が備える正極合剤層23の正極接触面21Sと、非水電解液を保持していない乾燥状態のセパレータ27の第1接触面27S1と、の間の静摩擦係数である。
【0038】
負極合剤層26とセパレータ27との間の第2静摩擦係数μ2は、0.60以上となるように構成される。第2静摩擦係数μ2は、負極板24が備える負極合剤層26の負極接触面24Sと、乾燥状態のセパレータ27の第2接触面27S2と、の間の静摩擦係数である。なお、第2静摩擦係数μ2の上限は、1.00以下であれば特に限定されない。
【0039】
第1静摩擦係数μ1は、正極板21と乾燥状態のセパレータ27とを用いてJIS K7125:1999に準じた方法によって測定される。例えば、乾燥状態のセパレータ27に対して正極合剤層23が接するように設置された正極板21を、100mm/minの速度でセパレータ27の上を摺動させた際の静摩擦係数を測定することで求めることができる。第2静摩擦係数μ2は、負極板24と乾燥状態のセパレータ27とを用いて第1静摩擦係数μ1と同様の方法によって測定される。
【0040】
例えば、リチウムイオン二次電池10の製造段階では、電極体20として捲回される前の正極板21及びセパレータ27、並びに、負極板24及びセパレータ27を用いて第1静摩擦係数μ1及び第2静摩擦係数μ2を測定すればよい。
【0041】
例えば、リチウムイオン二次電池10を解体して調べる場合には、まず、電極体20に不要な傷がつかないようにケース11から取り外す。そして、電極体20から正極板21、負極板24、及び2つのセパレータ27の各々を分離する。次いで、正極板21、負極板24、及びセパレータ27の各々から非水電解液を有機溶剤で十分に洗浄した後、乾燥させた状態で第1静摩擦係数μ1及び第2静摩擦係数μ2を測定すればよい。
【0042】
[リチウムイオン二次電池の製造方法]
図5に示すように、リチウムイオン二次電池10の製造方法は、ステップS1~S4を含む。ステップS1は、正極板21を製造する工程と負極板24を製造する工程とを含む源泉工程である。正極板21を製造する工程は、正極基材22に正極合剤ペーストを塗工する工程と、正極合剤ペーストを乾燥させて正極合剤層23を形成する工程と、正極合剤層23をプレスして厚さを調整する工程と、を含む。負極板24を製造する工程は、負極基材25に負極合剤ペーストを塗工する工程と、負極合剤ペーストを乾燥させて負極合剤層26を形成する工程と、負極合剤層26をプレスして厚さを調整する工程と、を含む。
【0043】
ステップS2は、正極板21と負極板24とセパレータ27とを用いて電極体20を製造する電極体製造工程である。ステップS2では、まず、正極板21と負極板24とをセパレータ27を介して積層した状態で捲回した後、さらに、偏平に押圧する。次いで、正極側未塗工部22Aを圧接して正極側集電部20Aを形成する。同様に、負極側未塗工部25Aを圧接して負極側集電部20Bを形成する。以上の手順により、電極体20が製造される。
【0044】
ステップS3は、電極体20をケース11内に収容する工程である。ステップS3では、正極側集電部20Aは、正極側集電部材14Aを介して正極の外部端子13Aと電気的に接続される。負極側集電部20Bは、負極側集電部材14Bを介して負極の外部端子13Bと電気的に接続される。電極体20がケース11内に収容された後、ケース11の上部の開口が蓋体12によって塞がれる。
【0045】
ステップS4は、ケース11内に収容された電極体20を乾燥させる工程と、非水電解液を注液する注液工程とを含む。その後、エージングや初充電工程を経ることによって、リチウムイオン二次電池10が製造される。なお、リチウムイオン二次電池10を組電池に用いる場合には、複数のリチウムイオン二次電池10を側壁11A同士が対向するように所定の配列方向に並べた状態で、拘束バンドや組電池用ケース、エンドプレート等を用いて拘束荷重を付与する。
【0046】
[実施形態の作用]
以下、図6図7を参照して本実施形態の作用を説明する。
図6に示すように、リチウムイオン二次電池10を充電すると、負極活物質が電荷担体であるリチウムイオンを吸蔵することで負極合剤層26が膨張する。このとき、偏平部31においては、負極合剤層26が膨張しても、側壁11Aによって電極体20が拘束される。したがって、偏平部31においては、充電時における負極合剤層26の膨張に伴う負極板24の厚さの過剰な増加が抑制される。特に、組電池の状態でリチウムイオン二次電池10を用いる場合には、拘束荷重が付与されることによって側壁11Aの変形量が低減されるため、偏平部31における負極板24の厚さの過剰な増加が好適に抑制される。
【0047】
一方で、上湾曲部32及び下湾曲部33においては、電極体20の上下が拘束されていないことから、充電時における負極合剤層26の膨張に伴って負極板24の厚さが外周方向に向かって増加する。すなわち、充電時には、負極合剤層26の膨張に伴って負極板24が上下方向に伸びる状態となる。
【0048】
一例として、上湾曲部32及び下湾曲部33において、SOC10%からSOC90%まで充電したときの負極合剤層26の膨張率(厚さの増加率)は、110%以上120%以下である。すなわち、上湾曲部32及び下湾曲部33において、SOC90%のときの負極合剤層26の厚さは、SOC10%のときの負極合剤層26の厚さの1.1倍以上1.2倍以下である。本発明は、充電時に負極合剤層26の厚さが1.1倍以上1.2倍以下に増加する非水二次電池において特に好適に作用する。
【0049】
図7に示すように、上湾曲部32及び下湾曲部33においては、充電時における負極合剤層26の膨張に伴って、負極板24には電極体20の外周方向に向かって厚さが増加しようとする膨張力F1が作用する。同時に、負極板24の負極接触面24Sとセパレータ27の第2接触面27S2との間には、負極側静摩擦力F2が作用する。なお、負極側静摩擦力F2は、負極板24に対して外周側に位置するセパレータ27、及び、負極板24に対して内周側に位置するセパレータ27の両方との間で生じる。
【0050】
仮に第2静摩擦係数μ2が過剰に小さい場合、負極側静摩擦力F2の最大値が負極板24に作用する膨張力F1よりも小さくなることがある。この場合、負極板24がセパレータ27の第2接触面27S2に対して滑りながらうねるようにして変形することで、負極板24とセパレータ27との間に隙間が生じ易い。電極体20において、負極板24とセパレータ27との間に隙間が生じた部分は、正極板21と負極板24との間の距離である極間距離が増加した状態であるため、電極体20のなかで局所的に抵抗が高い部分となる。電極体20のなかで局所的に抵抗が高い部分にはリチウムが析出し易くなるため、充放電に寄与するリチウムの量が減少することで電池性能の低下を招く。
【0051】
この点、第2静摩擦係数μ2を0.60以上とすることで、負極側静摩擦力F2の最大値が大きくなるため、充電時にセパレータ27が負極合剤層26と密着した状態を維持しながら負極板24の厚さの増加に追従して伸びる。これにより、負極板24とセパレータ27との間の第2静摩擦係数μ2が小さい場合に生じる負極板24のうねりを抑制できるとともに、負極板24とセパレータ27との間に隙間が形成されることを抑制できる。
【0052】
また、充電時において負極板24の厚さの増加に追従してセパレータ27が伸びる際には、セパレータ27には電極体20の外周方向に向かって伸びる伸張力F3が作用する。セパレータ27に作用する伸張力F3は、正極板21の正極接触面21Sとセパレータ27の第1接触面27S1との間に作用する正極側静摩擦力F4よりも大きい。すなわち、伸張力F3によってセパレータ27が伸びる際には、正極接触面21Sと第1接触面27S1との間において、正極側静摩擦力F4が作用した後にセパレータ27が正極接触面21Sに対して滑るようにして伸びる。
【0053】
仮に第1静摩擦係数μ1が過剰に大きい場合、正極板21とセパレータ27との間の正極側静摩擦力F4がセパレータ27の変形に対する抵抗力として作用することで、セパレータ27が負極板24の厚さの増加に追従して伸びにくくなる。この場合、セパレータ27の変形が正極板21によって抑えられることで、負極板24がセパレータ27に対して滑るように変形し易くなるため、結果として負極板24とセパレータ27との間に隙間が形成され易くなる。
【0054】
この点、第1静摩擦係数μ1が0.50以下であることで、負極板24の厚さの増加に追従してセパレータ27が伸びる際に、正極側静摩擦力F4によってセパレータ27の変形が阻害され難くなる。結果として、負極板24とセパレータ27との間に隙間が形成されることを好適に抑制できる。
【0055】
なお、第1静摩擦係数μ1が過剰に大きく、かつ、正極板21とセパレータ27との間の動摩擦係数が大きい場合には、正極板21とセパレータ27との間の動摩擦力がセパレータ27の変形に対する抵抗力として作用する場合もある。この点、第1静摩擦係数μ1が0.50以下であれば、正極板21とセパレータ27との間の動摩擦係数も第1静摩擦係数μ1以下であることから、正極板21とセパレータ27との間の動摩擦力によってセパレータ27の変形が阻害され難くなる。
【0056】
また、第1静摩擦係数μ1が過剰に小さい場合には、電極体20の製造時において、内周側に捲回されたセパレータ27に対して正極板21が滑るように巻き付けられることで、セパレータ27に対して正極板21が蛇行した状態で捲回される場合がある。同様に、内周側に捲回された正極板21に対してセパレータ27が滑るように巻き付けられることで、正極板21に対してセパレータ27が蛇行した状態で捲回される場合がある。この点、第1静摩擦係数μ1が0.30以上であることで、セパレータ27に対して正極板21が蛇行した状態で捲回されることを抑制できる。
【0057】
[静摩擦係数の制御方法]
第1静摩擦係数μ1は、正極板21が備える正極合剤層23の正極接触面21Sの表面粗さRa1に対して正の相関を有する。第1静摩擦係数μ1は、セパレータ27が備える第1接触面27S1の表面粗さRa2に対して正の相関を有する。第2静摩擦係数μ2は、負極板24が備える負極合剤層26の負極接触面24Sの表面粗さRa3に対して正の相関を有する。第2静摩擦係数μ2は、セパレータ27が備える第2接触面27S2の表面粗さRa4に対して正の相関を有する。
【0058】
各表面粗さRa1~Ra4は、JIS B0601:2013に規定される算術平均粗さ(Ra)の測定方法に準じた方法よって測定される。なお、セパレータ27が備える第1接触面27S1の表面粗さRa2は、第1接触面27S1に開口が位置する孔部を除いた部分について測定される。同様に、セパレータ27が備える第2接触面27S2の表面粗さRa4は、第2接触面27S2に開口が位置する孔部を除いた部分について測定される。
【0059】
正極接触面21Sの表面粗さRa1を調整する方法の一例は、ステップS1の源泉工程のうち、正極板21を製造する際の正極合剤層23をプレスして厚さを調整する工程において、プレスロールの表面粗さを変えることである。例えば、表面粗さの値が大きいプレスロールを用いて正極合剤層23をプレスすることで、正極接触面21Sの表面粗さRa1を大きくすることができる。例えば、表面粗さの値が小さいプレスロールを用いて正極合剤層23をプレスすることで、正極接触面21Sの表面粗さRa1を小さくすることができる。同様に、負極接触面24Sの表面粗さRa3を調整する方法の一例は、ステップS1の源泉工程において負極合剤層26をプレスするプレスロールの表面粗さを変えることである。
【0060】
なお、第1接触面27S1の表面粗さRa2及び第2接触面27S2の表面粗さRa4を変えるようにセパレータ27の製造条件を変えることによっても、第1静摩擦係数μ1及び第2静摩擦係数μ2を変えることができる。
【0061】
正極接触面21Sの表面粗さRa1は、例えば、0.5μm以上0.7μm以下である。また、第1接触面27S1の表面粗さRa2は、例えば、0.5μm以上0.7μm以下である。正極接触面21Sの表面粗さRa1と第1接触面27S1の表面粗さRa2とが上記の範囲内である状態は、第1静摩擦係数μ1が0.30以上0.50以下となる状態の一例である。
【0062】
負極接触面24Sの表面粗さRa3は、例えば、0.6μm以上0.8μm以下である。また、第2接触面27S2の表面粗さRa4は、例えば、0.5μm以上0.7μm以下である。負極接触面24Sの表面粗さRa3と第2接触面27S2の表面粗さRa4とが上記の範囲内である状態は、第2静摩擦係数μ2が0.60以上となる状態の一例である。
【0063】
また、第1静摩擦係数μ1は、正極板21が備える正極接触面21Sとセパレータ27が備える第1接触面27S1との実効的な接触面積に対して正の相関を有する。したがって、第1接触面27S1における正極接触面21Sとの接触面積を変えるように、セパレータ27の製造条件を変えることによっても第1静摩擦係数μ1を変えることができる。同様に、第2静摩擦係数μ2は、負極板24が備える負極接触面24Sとセパレータ27が備える第2接触面27S2との実効的な接触面積に対して正の相関を有する。したがって、第2接触面27S2における負極接触面24Sとの接触面積を変えるように、セパレータ27の製造条件を変えることによっても第2静摩擦係数μ2を変えることができる。
【0064】
例えば、セパレータ27の空孔率εを大きくすることで、第1接触面27S1に開口が位置する孔部の分だけ第1接触面27S1のなかで正極接触面21Sと接する実効的な面積が小さくなる。同時に、第2接触面27S2に開口が位置する孔部の分だけ第2接触面27S2のなかで負極接触面24Sと接する実効的な面積が小さくなる。したがって、セパレータ27の空孔率εを大きくすることで、第1静摩擦係数μ1及び第2静摩擦係数μ2の両方を小さくすることができる。反対に、セパレータ27の空孔率εを小さくすることで、第1静摩擦係数μ1及び第2静摩擦係数μ2の両方を大きくすることができる。
【0065】
[実施形態の効果]
上記実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)第2静摩擦係数μ2を0.60以上とすることで、上湾曲部32及び下湾曲部33において、充電時にセパレータ27が負極合剤層26と密着した状態を維持しながら負極板24の厚さの増加に追従して伸びる。これにより、上湾曲部32及び下湾曲部33において、負極板24とセパレータ27との間に隙間が形成されることを抑制できる。
【0066】
(2)第1静摩擦係数μ1を0.50以下とすることで、上湾曲部32及び下湾曲部33において、充電時に正極側静摩擦力F4によってセパレータ27の変形が阻害され難くなる。これにより、上湾曲部32及び下湾曲部33において、負極板24とセパレータ27との間に隙間が形成されることを好適に抑制できる。
【0067】
(3)第1静摩擦係数μ1を0.30以上とすることで、電極体20の製造時において、正極板21及びセパレータ27の一方が他方に対して蛇行した状態で捲回されることを抑制できる。したがって、リチウムイオン二次電池10の歩留まりを向上できる。
【0068】
(4)正極接触面21Sの表面粗さRa1が0.5μm以上0.7μm以下、かつ、第1接触面27S1の表面粗さRa2が0.5μm以上0.7μm以下であることで、第1静摩擦係数μ1を0.30以上0.50以下の範囲に制御することができる。
【0069】
(5)負極接触面24Sの表面粗さRa3が0.6μm以上0.8μm以下、かつ、第2接触面27S2の表面粗さRa4が0.5μm以上0.7μm以下であることで、第2静摩擦係数μ2を0.60以上の範囲に制御することができる。
【0070】
[変更例]
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。また、以下に示す変更例は、技術的に矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【0071】
・第2静摩擦係数μ2が0.60以上になるのであれば、負極接触面24Sの表面粗さRa3が0.6μm未満であってもよいし、0.8μm超であってもよい。また、第2静摩擦係数μ2が0.60以上になるのであれば、第2接触面27S2の表面粗さRa4が0.5μm未満であってもよいし、0.7μm超であってもよい。
【0072】
・第1静摩擦係数μ1が少なくとも0.50以下になるのであれば、正極接触面21Sの表面粗さRa1が0.5μm未満であってもよいし、0.7μm超であってもよい。第1静摩擦係数μ1が少なくとも0.50以下になるのであれば、第1接触面27S1の表面粗さRa2が0.5μm未満であってもよいし、0.7μm超であってもよい。
【0073】
・電極体20の製造時において、正極板21及びセパレータ27の一方が他方に対して蛇行した状態で捲回されないように制御できるのであれば、第1静摩擦係数μ1が0.30未満でもよい。また、正極板21及びセパレータ27の一方が他方に対して蛇行が生じる場合でも、蛇行の程度が製品機能に影響を与えない、もしくは、外観検査等によって蛇行が生じていない電極体20を選別できるのであれば、第1静摩擦係数μ1が0.30未満でもよい。
【0074】
・非水二次電池としてリチウムイオン二次電池10を例示したが、充電時に負極活物質が膨張する非水二次電池であれば本発明を適用できる。また、負極活物質として、黒鉛形の材料を例示したが、シリコン系の負極活物質を用いた非水二次電池であっても、充電時に負極活物質が膨張するため、本発明を適用できる。
【0075】
・リチウムイオン二次電池10は、自動搬送機や荷役用の特殊自動車、電気自動車、ハイブリッド自動車等の他、コンピュータ、その他の電子機器に搭載されるものであってもよく、これ以外のシステムを構成するものであってもよい。例えば、船舶、航空機等の移動体に設けられるものであってもよく、発電所から変電所等を介して二次電池が設置されたビルや家庭等に電力を供給する電力供給システムであってもよい。
【0076】
[実施例]
以下、図8を参照して、実施例1~4及び比較例1~4について説明する。なお、以下の実施例は、上記実施形態の効果を説明するための一例であって、本発明を限定するものではない。
【0077】
[実施例1]
図8に示すように、実施例1では、第1静摩擦係数μ1が0.30、第2静摩擦係数μ2が0.60となるように作製された電極体20を用いてリチウムイオン二次電池10を製造した。なお、実施例1では、同一の正極板21、負極板24、及びセパレータ27を用いた4つの電極体20を作製した後、試料1~試料4の4つのリチウムイオン二次電池10を製造した(n=4)。
【0078】
[実施例2]
実施例2では、第1静摩擦係数μ1が0.50、第2静摩擦係数μ2が0.60となるように作製された4つの電極体20を作製した後、試料1~試料4の4つのリチウムイオン二次電池10を製造した(n=4)。
【0079】
[実施例3]
実施例3では、第1静摩擦係数μ1が0.50、第2静摩擦係数μ2が0.90となるように作製された4つの電極体20を作製した後、試料1~試料4の4つのリチウムイオン二次電池10を製造した(n=4)。
【0080】
[実施例4]
実施例4では、第1静摩擦係数μ1が0.25、第2静摩擦係数μ2が0.60となるように作製された4つの電極体20を作製した後、試料1~試料4の4つのリチウムイオン二次電池10を製造した(n=4)。なお、実施例4において、試料3では、電極体20の製造時において、正極板21がセパレータ27に対して蛇行した状態で捲回されたことが確認された。
【0081】
[比較例1]
比較例1では、第1静摩擦係数μ1が0.60、第2静摩擦係数μ2が0.90となるように作製された4つの電極体20を作製した後、試料1~試料4の4つのリチウムイオン二次電池10を製造した(n=4)。
【0082】
[比較例2]
比較例2では、第1静摩擦係数μ1が0.60、第2静摩擦係数μ2が0.60となるように作製された4つの電極体20を作製した後、試料1~試料4の4つのリチウムイオン二次電池10を製造した(n=4)。
【0083】
[比較例3]
比較例3では、第1静摩擦係数μ1が0.60、第2静摩擦係数μ2が0.40となるように作製された4つの電極体20を作製した後、試料1~試料4の4つのリチウムイオン二次電池10を製造した(n=4)。
【0084】
[比較例4]
比較例4では、第1静摩擦係数μ1が0.50、第2静摩擦係数μ2が0.40となるように作製された4つの電極体20を作製した後、試料1~試料4の4つのリチウムイオン二次電池10を製造した(n=4)。
【0085】
[リチウム析出耐性評価]
実施例1~4及び比較例1~4で製造した試料1~4の各々について、偏平部31において充電時に金属リチウムが析出する第1臨界電流値I1と、上湾曲部32及び下湾曲部33において充電時に金属リチウムが析出する第2臨界電流値I2とを測定した。なお、第2臨界電流値I2としては、上湾曲部32及び下湾曲部33の少なくとも一方において、充電時に金属リチウムが析出する電流値を採用した。そして、第1臨界電流値I1に対する第2臨界電流値I2の割合である析出限界電流比をI2/I1×100(%)として算出した。また、実施例1~4及び比較例1~4で製造した何れの試料においても、上湾曲部32及び下湾曲部33において、SOC10%からSOC90%まで充電したときの負極合剤層26の厚さの増加率が1.1倍以上1.2倍以下であった。
【0086】
なお、析出限界電流比が100%に近いほど、上湾曲部32及び下湾曲部33におけるリチウム析出耐性が、偏平部31におけるリチウム析出耐性と同等であることを意味する。したがって、析出限界電流比が100%に近いほど、上湾曲部32及び下湾曲部33において、負極板24とセパレータ27との間に隙間が形成されることが抑制された状態であることを意味する。
【0087】
[評価結果]
図8に示すように、実施例1~3では、試料1~試料4の何れにおいても析出限界電流比が100%であった。したがって、第1静摩擦係数μ1が0.30以上0.50以下、かつ、第2静摩擦係数μ2が0.60以上を満たす水準では、負極板24とセパレータ27との間に隙間が形成されることが抑制された状態であることが確認された。
【0088】
一方、実施例4では、試料1,2,4では析出限界電流比が100%であったが、試料3では析出限界電流比が97%であった。実施例4の試料3における第2臨界電流値I2の低下は、電極体20の製造時に正極板21がセパレータ27に対して蛇行した状態で捲回されたことに伴う抵抗の増加に起因すると考えられる。以上の結果から、第1静摩擦係数μ1を0.30以上とすることで、電極体20の製造時において、正極板21及びセパレータ27の一方が他方に対して蛇行した状態で捲回されること、及びそれに伴う抵抗の増加を抑制できることが確認された。
【0089】
比較例1では、析出限界電流比が94%~95%程度であった。比較例2では、析出限界電流比が89%~91%程度であった。比較例3では、析出限界電流比が80%~81%程度であった。比較例1~3は、第1静摩擦係数μ1が0.60であるため、実施例1~4と比較して正極側静摩擦力F4が相対的に大きい水準である。そのため、比較例1~3における第2臨界電流値I2の低下は、正極側静摩擦力F4によってセパレータ27の変形が阻害されることで、負極板24とセパレータ27との間に隙間が形成されたことに起因すると考えられる。また、第2静摩擦係数μ2が小さくなる程、負極板24とセパレータ27との間に隙間が形成され易くなるため、比較例1~3の順に析出限界電流比が低くなったものと考えられる。
【0090】
比較例4では、析出限界電流比が96%~97%程度であった。比較例4は、第2静摩擦係数μ2が0.40であるため、実施例1~4と比較して負極側静摩擦力F2が相対的に小さい水準である。そのため、比較例4における第2臨界電流値I2の低下は、セパレータ27が充電時における負極板24の変形に追従できずに、負極板24とセパレータ27との間に隙間が生じたことに起因するものと考えられる。
【符号の説明】
【0091】
10…リチウムイオン二次電池
11…ケース
11A…側壁
20…電極体
21…正極板
21S…正極接触面
22…正極基材
23…正極合剤層
24…負極板
24S…負極接触面
25…負極基材
26…負極合剤層
27…セパレータ
27S1…第1接触面
27S2…第2接触面
31…偏平部
32…上湾曲部
33…下湾曲部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8