IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社大林組の特許一覧

<>
  • 特開-風速再現装置 図1
  • 特開-風速再現装置 図2
  • 特開-風速再現装置 図3
  • 特開-風速再現装置 図4
  • 特開-風速再現装置 図5
  • 特開-風速再現装置 図6
  • 特開-風速再現装置 図7
  • 特開-風速再現装置 図8
  • 特開-風速再現装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092196
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】風速再現装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 9/06 20060101AFI20240701BHJP
   F04D 27/00 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
G01M9/06
F04D27/00 101G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207957
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】木梨 智子
【テーマコード(参考)】
2G023
3H021
【Fターム(参考)】
2G023AB02
2G023AB12
2G023AB24
2G023AC03
2G023AD10
3H021BA06
3H021DA03
3H021DA12
3H021DA29
(57)【要約】
【課題】任意の風速を容易に体験できる風速再現装置を提供する。
【解決手段】対象者2に人工風Wを体験させる風速再現装置1は、所定位置から所定の設定距離Dだけ離された位置に配置され、携帯可能に構成された送風部10であって、前方に人工風Wを送り出すファン、及び、ファンの前面に位置する整流格子を備える送風部10と、整流格子を通過した人工風Wが当該所定位置で所定風速になるようにファンの出力を制御する風速制御部を備える制御端末20と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者に所定風速の風を体験させる風速再現装置であって、
所定位置から所定距離だけ離された携帯可能な送風部であって、前方に前記風を送り出すファンと、前記ファンの前面に位置する整流格子と、を備える前記送風部と、
前記整流格子を通過した前記風が前記所定位置で前記所定風速になるように前記ファンの出力を制御する風速制御部と、を備える
ことを特徴とする風速再現装置。
【請求項2】
前記所定位置における風速と、前記ファンの出力を対応付けた対応情報を用いて、前記ファンの出力を決定する
ことを特徴とする請求項1に記載の風速再現装置。
【請求項3】
前記整流格子は、前記送風部における前記風の出口となる送風口を備え、前記ファンの前面において前記ファンに隣接して配置される
ことを特徴とする請求項1または2に記載の風速再現装置。
【請求項4】
前記送風部は、前記ファンの回転翼が回る周方向において前記ファンの全体を囲い、かつ前記ファンの前面に前記整流格子を隣接させるように前記整流格子が取り付けられた収容部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1または2に記載の風速再現装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風速再現装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物を設計する際には、建築物周辺の風環境の予測が行われる。風環境を予測する方法の一例は、建築物周辺の風環境を再現する風洞実験である。例えば、特許文献1には、風速などの風情報を計測する計測具が配設された計測領域と、計測領域に向けて風を吹き付ける送風機と、計測領域と送風機との間に建物高さ及び地形起伏が再現された風上模型ブロック領域とを備える風洞実験装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-136129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
風洞実験によって風速などの風情報が得られた場合であっても、風のような空気の動きを人の感覚に置き換えること自体が容易ではないから、風速などの数値のみから風の強さやその変動の様子といった風環境を直感で捉えることは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための風速再現装置は、対象者に所定風速の風を体験させる風速再現装置であって、所定位置から所定距離だけ離された携帯可能な送風部であって、前方に前記風を送り出すファンと、前記ファンの前面に位置する整流格子と、を備える前記送風部と、前記整流格子を通過した前記風が前記所定位置で前記所定風速になるように前記ファンの出力を制御する風速制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、任意の風速を容易に体験できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、風速再現装置が使用される室内を模式的に表す斜視図である。
図2図2は、送風部の分解斜視図である。
図3図3は、制御端末のブロック図である。
図4図4は、風速プロファイルの一例を表すグラフである。
図5図5は、対応情報を設定する際の送風部と風速計との配置を表す側面図である。
図6図6は、対応情報の一例を表すグラフである。
図7図7は、異なるピッチの整流格子を用いて測定した風速を表すグラフである。
図8図8は、異なる厚さの整流格子を用いて測定した風速を表すグラフである。
図9図9は、映像表示部に表示される画面の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[全体構成]
以下、風速再現装置の一実施形態について図1図9を参照して説明する。
図1に示すように、風速再現装置1は、対象者2に所定風速の人工風Wを体験させるために使用される。風速再現装置1は、外部からの風の影響を受けにくい室内のような環境で使用される。図1では、風速再現装置1を会議室で利用する場合の例を図示している。なお、風速再現装置1は、外部からの風の影響を受けにくい環境であれば、室内だけでなく屋外での使用も可能である。
【0009】
風速再現装置1は、送風部10を備える。送風部10は、人工風Wを前方に送り出す。送風部10は、携帯可能な大きさを有する。送風部10は、台3が備える平坦な面に配置される。送風部10は、所定位置にいる対象者2の位置から所定の設定距離Dだけ離された位置に配置される。台3は、例えば、机、テーブル、実験台などである。台3には、送風部10の前方に吹き流し4が載置される。吹き流し4は、人工風Wを受けてなびくことで人工風Wが有する風速を簡易的に可視化する。なお、例えば、吹き流し4によって人工風Wが有する風速が低減されることが懸念される場合などには、吹き流し4が割愛されてもよい。
【0010】
風速再現装置1は、制御端末20を備える。制御端末20は、情報処理端末である。制御端末20は、例えば、ラップトップパソコン、タブレット、及び、スマートフォンのような携帯型の端末であるが、デスクトップパソコンのような据え置き型の端末であってもよい。制御端末20が携帯型の端末であれば、送風部10とともに容易に携帯可能である点で好ましい。
【0011】
制御端末20は、対象者2の位置で人工風Wが所定風速になるように送風部10の出力を制御する。言い換えれば、制御端末20は、人工風Wが送風部10から前方に向かって設定距離Dを進んだときに、人工風Wが所定風速を有するように送風部10の出力を制御する。したがって、対象者2は、送風部10からの距離が設定距離Dと一致する所定位置において、任意の風速を有する人工風Wを体験できる。対象者2は、風速が制御された人工風Wの感触から、人工風Wで再現された風速を有する風の強さを体感できる。
【0012】
制御端末20は、風が発生している環境の映像を映像表示部30に出力する。映像表示部30は、例えば、制御端末20から出力された映像を表示するディスプレイである。映像表示部30は、例えば、制御端末20から出力された映像をスクリーンや壁面に投影するプロジェクタでもよい。映像表示部30が表示した映像は、対象者2によって視認可能な位置、例えば対象者2の前方に表示される。
【0013】
風が発生している環境の映像は、風洞実験で風を発生させた様子を撮影した実験環境の映像でもよい。風が発生している環境の映像は、屋外で自然風が発生した様子を撮影した自然環境の映像でもよい。風が発生している環境の映像は、3Dモデルなどを用いた数値シミュレーションによって仮想的に風を再現した仮想環境の映像でもよい。
【0014】
制御端末20は、映像表示部30に出力した映像のなかで発生している風が有する風速の変化に応じて、設定距離Dの位置での人工風Wが有する風速が変化するように送風部10の出力を制御する。これにより、風が発生した映像による視覚的な情報の提供と、人工風Wの感触による触覚的な情報の提供とを同期させることができる。
【0015】
また、制御端末20は、風が発生している環境の映像に合わせて、映像表示部30が備えるスピーカ、もしくは、映像表示部30とは別のスピーカ等を介して当該映像の音声を発生させてもよい。これより、視覚的、触覚的な情報に加えて、さらに聴覚的な情報の提供が可能となる。
【0016】
[送風部]
図2に示すように、送風部10は、ファン11を備える。ファン11は、回転翼11Aと、端子部11Bとを備える。ファン11は、回転翼11Aが回転することで、前方に人工風Wを送り出す。端子部11Bは、回転翼11Aを回転させるための電力の供給と、ファン11と制御端末20との間の通信とを担う。
【0017】
送風部10は、筐体12を備える。筐体12は、収容部12Aと、整流格子12Bとを備える。収容部12Aは、前後方向に延びる筒状を有する。収容部12Aには、ファン11が着脱可能に配置される。収容部12Aは、回転翼11Aの回る周方向に沿ってファン11の全体を囲う。収容部12Aは、整流格子12Bの後方以外から整流格子12Bに風が送り込まれることを抑制し、これによって整流格子12Bに送り込まれる風のほとんどをファン11から送り出される風にする。
【0018】
整流格子12Bは、収容部12Aに固定されるとともに、ファン11に対して前方に位置する。整流格子12Bは、ファン11の前面においてファン11に隣接して配置される。収容部12Aは、収容部12Aのなかにファン11の位置を制限し、かつ収容部12Aに整流格子12Bを固定し、これによってファン11に対する整流格子12Bの相対位置のばらつきを抑える。
【0019】
整流格子12Bは、三角形、四角形、六角形等の任意の形状の孔部を区画する格子部を備える。整流格子12Bの格子部が区画する孔部の形状は、一例として、正方形である。この場合、整流格子12Bの格子部は、上下方向に所定のピッチPで並ぶ壁部と、左右方向に所定のピッチPで並ぶ壁部とが組み合わされた形状を有する。
【0020】
整流格子12Bは、送風口12Cを備える。送風口12Cは、整流格子12Bにおける前方側の端部である。送風口12Cは、送風部10における人工風Wの出口となる。ファン11から送り出された人工風Wは、整流格子12Bを通過して送風口12Cから前方に進む。
【0021】
送風口12Cは、例えば、100mm以上400mm以下の左右方向の長さLを有する。送風口12Cは、長さLとほぼ同等の高さを有する。ピッチPは、例えば、送風口12Cの長さLに対して1/20倍以上1/5倍以下となる程度の大きさに設定される。整流格子12Bの前後方向の厚さTは、例えば、送風口12Cの長さLに対して、1/6倍以上1/2倍以下となる程度の大きさに設定される。
【0022】
ファン11から送り出される人工風Wが仮に整流格子12Bを通過しない場合、人工風Wは、旋回しながら前方に進むため拡散し易く減衰し易い。人工風Wが整流格子12Bによって整流されることで、人工風Wの直進性が高められるとともに、その風速が低下しにくくなる。したがって、携帯可能な小型のファン11でも高い風速を実現することができる。また、ファン11と整流格子12Bとの間、もしくは、整流格子12Bの先に拡散洞や縮流洞を備える風洞装置のような構成と比較して、送風部10の小型化が可能となる。
【0023】
[制御端末]
図3に示すように、制御端末20は、制御部21と、記憶部22と、表示部23と、操作部24と、通信部25とを備える。制御部21は、制御端末20が備える各部の動作を制御する。制御部21は、例えば、CPUやMPUなどの各種の処理をソフトウェアによって処理するプロセッサを含む。
【0024】
制御部21は、風速制御部21Aと、映像出力部21Bとを備える。風速制御部21Aは、任意の風速を有する人工風Wが発生するようにファン11の出力を制御する。映像出力部21Bは、風が発生している環境の映像を映像表示部30に表示させる。
【0025】
風速制御部21Aは、設定距離Dの位置において人工風Wが有する風速に、ファン11の出力(例えば電圧)を対応付けた対応情報を用いてファン11の出力を制御する。対応情報は、ファン11の出力と、設定距離Dの位置において人工風Wが有する風速との対応関係を示す式またはテーブル(表)である。
【0026】
風速制御部21Aは、例えば、人工風Wによる再現が要求される風速の経時変化を規定した風速プロファイルに対応情報を適用してファン11の出力を制御する。風速プロファイルは、ファン11による送風を開始したときから起算される経過時間に、人工風Wによる再現が要求される風速を対応付けたデータである。
【0027】
記憶部22は、一時メモリと、不揮発性メモリとを備える。一時メモリは、制御端末20が処理するデータを一時的に記憶する。一時メモリは、一例として、RAMである。不揮発性メモリは、一例として、対応情報、風速プロファイル、及び、映像出力部21Bが映像表示部30に出力する映像のデータを記憶する。不揮発性メモリは、例えばフラッシュメモリ、HDD、またはSSDである。
【0028】
不揮発性メモリは、風速再現装置1が対象者2に人工風Wを体験させる第1の風速再現プログラムを記憶する。第1の風速再現プログラムは、人工風Wが送風部10から設定距離Dだけ離された所定位置で所定の風速になるようにファン11の出力を制御する風速制御処理を実行する手段として風速再現装置1を機能させる。
【0029】
すなわち、対象者2に人工風Wを体験させる第1の風速再現方法は、人工風Wが送風部10から設定距離Dだけ離された所定位置で所定の風速になるようにファン11の出力を制御する風速制御処理を風速再現装置1が実行する。
【0030】
不揮発性メモリは、風速再現装置1が対象者2に人工風Wを体験させる第2の風速再現プログラムを記憶する。第2の風速再現プログラムは、風が発生している環境の映像を映像表示部30に表示させる映像出力処理を実行する手段として風速再現装置1を機能させる。第2の風速再現プログラムは、映像表示部30に表示された映像のなかで発生している風が有する風速を、送風部10から設定距離Dだけ離された所定位置における人工風Wにより再現するようにファン11の出力を制御する風速制御処理を実行する手段として風速再現装置1を機能させる。
【0031】
すなわち、対象者2に人工風Wを体験させる第2の風速再現方法は、風が発生している環境の映像を映像表示部30に表示させる映像出力処理を風速再現装置1が実行する。そして、映像のなかで発生している風が有する風速を、送風部10から設定距離Dだけ離された所定位置における人工風Wにより再現するようにファン11の出力を制御する風速制御処理を風速再現装置1が実行する。
【0032】
表示部23は、制御端末20を操作するための画面を表示するディスプレイである。操作部24は、制御端末20を操作するための入力デバイスである。操作部24は、例えば、キーボードやボタンスイッチであってもよく、表示部23と操作部24とが一体となったタッチパネルでもよい。
【0033】
通信部25は、有線または無線通信によってファン11及び映像表示部30のそれぞれと通信する。例えば、風速制御部21Aは、通信部25を介してファン11の出力を制御する。例えば、映像出力部21Bは、通信部25を介して映像表示部30に映像を表示させる。
【0034】
[風速プロファイル]
図4に示す波形100は、風速プロファイルの一例である。波形100の横軸は、送風開始時点からの経過時間を示す。波形100の縦軸は、人工風Wによる再現が要求される風速を示す。風速制御部21Aは、風速プロファイルに現在の経過時間を適用することによって、対応情報に適用する風速を特定する。そして、風速プロファイルから特定される風速を対応情報に適用することによって、ファン11の出力を特定する。これにより、ファン11からの距離が設定距離Dである位置において、人工風Wによる経時的な風速の変化が再現される。
【0035】
なお、風速プロファイルは、送風開始時点からの経過時間と、人工風Wによる再現が要求される風速とが対応付けられたテーブル(表)でもよい。風速プロファイルは、自然風や風洞実験で発生させた風についての風速の経時変化を実測することによって得られてもよいし、3Dモデルなどを用いた数値シミュレーションによって得られてもよい。
【0036】
風速プロファイルは、映像出力部21Bが映像表示部30に表示させる映像中の風についての風速の経時変化を記憶したデータでもよい。例えば、制御部21は、映像出力部21Bによって風が発生している映像を映像表示部30に表示しながら、風速制御部21Aによって当該映像における風の風速プロファイルに従ってファン11の出力を制御する。この場合、データベースメモリには、風速プロファイルと映像データとが関連付けられて記憶される。
【0037】
[対応情報の設定方法]
以下、図5図8を参照して、対応情報の設定方法について説明する。
図5に示すように、対応情報を設定する際には、例えば台3などの任意の平坦面の上に送風部10と風速計40とを設置する。風速計40は、送風部10の前方において、ファン11との距離が所定の設定距離Dになるように配置される。
【0038】
送風口12Cから送風された直後の人工風Wは、人工風Wの進行方向と直交する面内において、回転翼11Aの中心に近い部分の風速が相対的に低くなるような風速分布を有する。人工風Wは、送風口12Cから前方に進むにつれて、人工風Wの進行方向と直交する面内の風速分布が均一になる。そこからさらに前方に進むと人工風Wが拡散するため、人工風Wの風速分布にばらつきが生じる。
【0039】
設定距離Dは、ファン11から起算して人工風Wの進行方向と直交する面内の風速分布が均一になる位置までの距離が設定される。すなわち、設定距離Dの位置まで進んだ人工風Wは、人工風Wの進行方向と直交する面内において、均一な風速分布を有する。これにより、人工風Wの進行方向と直交する面内における風速の乱れが低減されるため、風速の再現精度をより高めることができる。設定距離Dは、例えば、送風口12Cの長さLに対して、1倍以上7倍以下の範囲で設定される。
【0040】
図6に示すように、グラフ200の横軸は、ファン11に出力される電圧(V)を表す。グラフ200の縦軸は、風速計40によって測定される値であって、設定距離Dの位置において人工風Wが有する風速(m/sec)を表す。グラフ200中の直線201を表す式は、ファン11に出力される電圧に、設定距離Dの位置において人工風Wが有する風速を対応付けた対応情報の一例である。
【0041】
すなわち、対応情報を設定する方法の一例は、ファン11に出力される電圧を変えた複数の水準において、設定距離Dの位置において人工風Wが有する風速を測定する。そして、ファン11に出力される電圧と設定距離Dの位置において人工風Wが有する風速との対応関係を示す関係式やテーブルを得る。このようにして設定された対応情報に基づけば、設定距離Dの位置において、風速プロファイルで要求される風速や、任意の風速を再現するために必要な電圧を特定することができる。
【0042】
[整流格子の形状]
整流格子12BのピッチPや厚さTは、人工風Wにおける設定距離Dの位置での風速の大きさ及びその揺らぎに影響を与える場合がある。
【0043】
図7に示すように、グラフ300の横軸は、時間の経過を表す。グラフ300の縦軸は、人工風Wにおける設定距離Dの位置での風速を表す。波形301~303は、それぞれ異なるピッチPを有する整流格子12Bを用いてファン11に一定の電圧Vを出力した際の風速を表す。波形304は、比較例として、筐体12から整流格子12Bを取り除いた矩形状の枠のみを備える送風部10を用いてファン11に一定の電圧Vを出力した際の風速を表す。整流格子12BのピッチPは、波形301,302,303の順に30mm,20mm,10mmである。なお、波形301~303の測定で用いた整流格子12Bの厚さT、及び、波形304の測定で用いた枠の厚さTは、何れも50mmである。また、電圧Vは、ファン11の定格電圧値である。
【0044】
整流格子12Bを備える波形301~303では、整流格子12Bを備えず枠のみを備える波形304と比較して、何れも風速の揺らぎが低減されており、かつ、平均風速も大きくなっている。風速の揺らぎの観点では、ピッチPを30mmとした波形301と比較して、ピッチPを20mmとした波形302、ピッチPを10mmとした波形303では、風速の揺らぎがより低減されている。平均風速の観点では、ピッチPを30mmとした波形301と比較して、ピッチPを20mmとした波形302では、平均風速がより大きくなっている。一方、ピッチPを10mmまで小さくした波形303では、ピッチPを30mmとした波形301よりも平均風速が小さくなっている。
【0045】
したがって、設定距離Dの位置における風速の揺らぎを低減することを要する場合、整流格子12BのピッチPを小さくする、すなわち、より密な整流格子12Bを用いることが好ましい。また、ファン11に出力可能な電圧の範囲内において、人工風Wの平均風速の最大値を高めることを要する場合、人工風Wの乱れを好適に抑制でき、かつ、その風速が過剰に低減されない程度のピッチPを有する整流格子12Bを用いることが好ましい。以上のような考え方に基づいて、要求される人工風Wの平均風速や風速の揺らぎの程度、及び、ファン11に出力可能な電圧に応じてピッチPを適宜決定すればよい。
【0046】
図8に示すように、グラフ400の横軸は、時間の経過を表す。グラフ400の縦軸は、人工風Wにおける設定距離Dの位置での風速を表す。波形401~404は、それぞれ異なる厚さTを有する整流格子12Bを用いてファン11に一定の電圧Vを出力した際の風速を表す。整流格子12Bの厚さTは、波形401,402,403,404の順に40mm,50mm,80mm,100mmである。なお、波形401~404の測定で用いた整流格子12BのピッチPは、何れも30mmである。また、電圧Vは、ファン11の定格電圧値である。
【0047】
平均風速は、大きい方から厚さTを80mmとした波形403、厚さTを40mmとした波形401、厚さTを100mmとした波形404、厚さTを50mmとした波形402の順となっている。したがって、設定距離Dの位置において観測される人工風Wの平均風速は、整流格子12Bの厚さTにも依存する。このような事前評価に基づいて、要求される人工風Wの平均風速、及び、ファン11に出力可能な電圧に応じて厚さTを適宜決定すればよい。
【0048】
[映像表示部]
図9に示すように、映像表示部30には、一例として、風環境表示部31と、風速プロファイル表示部32と、風速表示部33とが表示される。例えば、映像出力部21Bは、風環境表示部31と、風速プロファイル表示部32と、風速表示部33とを1つの画面にまとめた映像データを映像表示部30に出力する。
【0049】
風環境表示部31には、風が発生している環境の映像が表示される。風速プロファイル表示部32には、風環境表示部31に表示された映像中の風についての風速プロファイルを表示する。図9では、風速プロファイル表示部32において、風速の経時変化を波形で表した風速プロファイルを図示している。風速プロファイル表示部32には、風速プロファイルを示す波形に合わせて、波形中のどの位置の風速が設定距離Dの位置において人工風Wとして再現されているかを示す補助線や記号(矢印や点)などが表示されてもよい。風速表示部33には、設定距離Dの位置において人工風Wとして再現されている風速が数字として表示される。風速プロファイル表示部32は、設定距離Dの位置における人工風Wが有する風速の経時変化を対象者2に知らせるための通知手段の一例である。風速プロファイル表示部32及び風速表示部33は、設定距離Dの位置における人工風Wが有する風速の瞬間値を対象者2に知らせるための通知手段の一例である。
【0050】
映像出力部21Bは、人工風Wが送風部10から送り出されてから設定距離Dの位置に到達するまでに要する時間の分だけ、映像表示部30への映像データの出力を遅らせてもよい。もしくは、風速制御部21Aは、人工風Wが送風部10から送り出されてから設定距離Dの位置に到達するまでに要する時間の分だけ、送風部10からの送風を早めてもよい。これにより、風が発生した映像による視覚的な情報を得るタイミングと、人工風Wの感触による触覚的な情報を得るタイミングとがより精度よく同期される。
【0051】
[実施形態の効果]
上記実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)携帯可能な送風部10が備えるファン11の出力を制御することで、対象者2が様々な風速を任意の場所で容易に体験できる。
【0052】
(2)整流格子12Bによってファン11からの人工風Wを整流することで、風の直進性が高められるとともに、風速が低下しにくくなる。したがって、携帯可能な送風部10が備える小型のファン11でも高い風速を実現することができる。
【0053】
(3)送風部10の構成によれば、ファン11と整流格子12Bとの間、もしくは、整流格子12Bの先に拡散洞や縮流洞を備える構成と比較して、送風部10の小型化が可能となる。したがって、送風部10をより携帯に適した大きさとすることができる。
【0054】
(4)風速制御部21Aが風速プロファイルに従ってファン11の出力を変化させることで、風速の経時的な変化を人工風Wによって再現できる。
(5)映像中の風が有する風速の変化に応じて人工風Wが有する風速を変化させることで、映像による視覚的な情報の提供と、人工風Wの感触による触覚的な情報の提供とを同期させることができる。これにより、対象者2が人工風Wで再現された風速を有する風の強さをより具体的に感じることができる。
【0055】
(6)風速プロファイル表示部32及び風速表示部33は、人工風Wが有する風速の瞬間値を対象者2に知らせることができる。すなわち、人工風Wの提供による直観での風の理解、風の発生している環境映像の提供による視覚での風の理解、及び、風速の瞬間値や風速の経時変化の提供による数量感覚での風の理解を対象者2に同時に促すことができる。これにより、対象者2に風環境を深く捉えさせることができる。
【0056】
(7)収容部12Aによって、ファン11と整流格子12Bとの相対位置のばらつきが抑えられるとともに、人工風W以外の風が整流格子12Bに送り込まれることを抑制できるため、人工風Wにおける風速の制御の制度が向上する。
【0057】
[変更例]
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
・風速プロファイルは、人工風Wにおいて再現可能な風速の経時変化を表すデータであればよく、映像表示部30に表示される映像中の風以外の風について風速の経時変化を表すものでもよい。この場合、人工風Wを発生させる際に、映像出力部21Bが映像表示部30に映像を出力しなくてもよい。
【0058】
・風速制御部21Aは、風速プロファイルに従ってファン11の出力を変化させるのではなく、例えば、操作部24に入力された風速の要求値から、当該要求値を対応情報の風速に適用することによってファン11の出力を特定する形態であってもよい。また、風速プロファイルにおける風速の最大値、平均値、または任意の瞬間値を、一定の風速を有する人工風Wによって再現してもよい。この場合、風速制御部21Aは、人工風Wによって一定の風速が再現されるように、ファン11の出力を制御する。
【0059】
・送風部10は、送風部10全体として携帯可能な大きさであれば、ファン11と整流格子12Bとの間に縮流洞や拡散洞を備えてもよい。また、送風部10は、送風部10全体として携帯可能な大きさであれば、整流格子12Bの前方に縮流洞や拡散洞を備えてもよい。この場合、送風部10における人工風Wの出口となる送風口は、整流格子12Bの前方に配置された縮流洞や拡散洞に位置する。
【0060】
・送風部10は、筐体12が収容部12Aを備える構成に限定されず、例えば、ファン11と整流格子12Bとを隣接して配置したうえで、収容部12Aを省略してもよい。
・風速再現装置1において、送風部10と制御端末20とが一体であってもよい。
【0061】
・風環境表示部31に表示される映像中の風が有する風速の変化に応じて人工風Wが有する風速を変化させる場合でも、映像表示部30における風速プロファイル表示部32及び風速表示部33の表示は省略されてもよい。
【0062】
・風環境表示部31に風が発生している環境の映像を表示する場合であっても、映像中の風が有する風速の経時変化を人工風Wによって再現する形態に限定されない。例えば、映像中の風が有する風速の最大値、平均値、または任意の瞬間値を、一定の風速を有する人工風Wによって再現してもよい。
【0063】
・対象者2と送風部10との距離を入力することで、入力された距離の位置で風速プロファイルまたは所望の風速を再現できるように、風速制御部21Aがファン11を制御してもよい。
【0064】
・風速再現装置1は、対象者2と送風部10との距離を測定する距離測定部を備えてもよい。距離測定部は、例えばレーザ距離計である。距離測定部が測定した対象者2と送風部10との距離の位置で風速プロファイルまたは所望の風速を再現できるように、風速制御部21Aによってファン11の出力を制御してもよい。
【0065】
・風速プロファイルは、映像出力部21Bが映像表示部30に表示させる映像から、画像認識によって得られるデータであってもよい。また、映像出力部21Bが映像表示部30に表示させる映像から、画像認識によって映像中の風が有する風速の最大値、平均値、または任意の瞬間値を取得したうえで、画像認識によって取得した風速を人工風Wによって再現してもよい。
【0066】
・対象者2が送風部10から設定距離Dだけ離された所定位置で直接的に人工風Wを体験する形態を例示した。これに代えて、例えば、送風部10から設定距離Dだけ離された所定位置に任意の対象物を設置した状態で人工風Wを発生させる。そして、対象物に人工風Wが当たることによる対象物の動作(物理現象)を観察することによって、対象者2が人工風Wを体験する形態であってもよい。例えば、所定位置に対象物として本や雑誌などを設置した状態で、人工風Wによって本や雑誌の頁がめくれるといった物理現象を観察することで、対象者2が人工風Wを体験してもよい。例えば、所定位置に対象物として紙コップやペットボトルなどを設置した状態で、人工風Wによって対象物が倒れる、転がる、吹き飛ぶといった物理現象を観察することで、対象者2が人工風Wを体験してもよい。また、これらの対象物は、台3に設置されてもよいし、対象者2が保持してもよいし、対象者2が身に着けていてもよい。
【0067】
・送風部10は、人工風Wを任意の温度に変更する温度調節部を備えてもよい。温度調節部は、人工風Wの温度を周囲の温度よりも高くしてもよいし、人工風Wの温度を周囲の温度よりも低くしてもよい。これにより、例えば、季節の変化による風の冷たさ、暖かさなどを、人工風Wによって再現できる。
【0068】
[付記]
上記実施形態及びその変更例によれば、さらに以下の技術的思想が導き出される。
(付記1)
対象者に所定風速の風を体験させる風速再現装置であって、
所定位置から所定距離だけ離された携帯可能な送風部であって、前方に前記風を送り出すファンと、前記ファンの前面に位置する整流格子と、を備える前記送風部と、
前記整流格子を通過した前記風が前記所定位置で前記所定風速になるように前記ファンの出力を制御する風速制御部と、を備え、
前記風速制御部は、経過時間に前記所定風速を対応付けた風速プロファイルに現在の前記経過時間を適用することによって、前記対応情報に適用する前記所定風速を特定する、
ことを特徴とする風速再現装置。
【0069】
上記付記1によれば、風速の経時的な変化を再現できる。
【符号の説明】
【0070】
D…設定距離、W…人工風、1…風速再現装置、2…対象者、10…送風部、11…ファン、11A…回転翼、12A…収容部、12B…整流格子、12C…送風口、20…制御端末、21…制御部、21A…風速制御部、21B…映像出力部、30…映像表示部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9