(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092213
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20240701BHJP
【FI】
A61B8/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207981
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 千鶴枝
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601EE04
4C601JB31
4C601JB34
4C601JC06
4C601JC20
4C601JC32
4C601JC37
(57)【要約】
【課題】被検体の深度のみならず、被検体内の対象物に対応する対象領域も考慮して超音波画像を高画質化可能な超音波診断装置を提供する。
【解決手段】対象領域特定部34は、送受信部14から送られてきたRF信号、画像形成部20から送られてきた座標変換信号、又は、画像形成部20から送られてきた超音波画像(Bモード画像)、の少なくとも1つである超音波データを解析することで、RFデータのデータ空間において、被検体内の対象物に対応する対象領域を特定する。信号処理部16は、対象領域TAa外のRF信号(つまり非対象領域NTAのRF信号)については、被検体の深度に応じた信号処理である通常信号処理を実行し、対象領域TAa内のRF信号については、通常信号処理とは異なる特定信号処理を実行する。画像形成部20は、信号処理部16によって信号処理されたRF信号に基づいて、超音波画像を形成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に対して超音波を送受波することで得られたRF信号、前記RF信号が超音波画像の座標空間上のデータに変換された座標変換信号、若しくは、前記座標変換信号に基づいて形成された超音波画像、の少なくとも1つである超音波データを解析することで、又は、前記超音波画像に対してされたユーザの指示に基づいて、前記RF信号のデータ空間における、前記被検体内の対象物に対応する対象領域を特定する対象領域特定部と、
RF信号に対して信号処理を実行する信号処理部であって、前記対象領域外の当該RF信号については、前記被検体の深度に応じた信号処理である通常信号処理を実行し、前記対象領域内の当該RF信号については、前記通常信号処理とは異なる特定信号処理を実行する信号処理部と、
前記信号処理部によって信号処理されたRF信号に基づいて、超音波画像を形成する画像形成部と、
を備えることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記対象領域特定部は、特定された前記対象領域に対応する前記対象物の種類を特定し、
前記対象物の種類が特定された場合、前記信号処理部は、前記対象領域内のRF信号について、特定された前記対象物の種類に応じた前記特定信号処理を実行する、
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記対象物の種類が特定されなかった場合、前記信号処理部は、前記対象領域内のRF信号について、予め定められた前記特定信号処理を実行する、
ことを特徴とする請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記座標変換信号、超音波画像、又は、ユーザの指示に基づいて特定された、超音波画像の座標空間における前記対象領域をRF信号のデータ空間における前記対象領域に変換する領域変換部と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記信号処理部は、前記対象領域内のRF信号についても前記通常信号処理を実行し、
前記画像形成部は、前記対象領域内について、ユーザから指示された合成割合で、前記通常信号処理された前記RF信号に基づいて形成された超音波画像と、前記特定信号処理された前記RF信号に基づいて形成された超音波画像と、を合成する、
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、超音波診断装置の改良を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、被検体に向けて超音波が送受波され、それにより得られた受信信号に基づいて超音波画像を形成し、形成された超音波画像をディスプレイに表示する超音波診断装置が知られている。超音波診断装置では、検査者が、患者や撮像部位に応じて、超音波プローブや装置本体の撮像パラメータを適切な値に調整することによって、初めて診断に適切な画像を得ることができる。
【0003】
例えば、特許文献1又は2には、被検体の信号量の変化に基づいて適切な画質改善処理を自動で適用可能な超音波診断装置が開示されている。これら装置においては、特に被検体からのエコー信号の深度依存変化に応じて、信号対雑音比(S/N比)の改善を図ることができる。このように、検査場面に応じた画質改善を行うことで、診断性能の向上、あるいは、検査時間の短縮が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-114294号広報
【特許文献2】特開2021-159511号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
超音波画像の撮像領域(範囲)内に、様々な対象物が存在する場合がある。対象物の代表的な例としては、臓器や血管である。例えば、腹部撮像時においては、胃、肝臓、腎臓、胆のう、血管、腸管、膵臓など、様々な臓器を同時に撮像することがしばしばある。ここで、対象物の位置や深度は被検体や撮像断面によって異なる場合があり、また、対象物毎に求める画質が異なる場合がある。例えば、胆のうにおいては内腔の視認性が求められ、膵臓においては深部感度が求められる。各対象物からのエコー信号の強度は被検体によって異なるため、信号量の変化のみに基づいて画質改善処理を行う場合には、各対象物に適した画質改善処理ができない可能性がある。
【0006】
本明細書で開示される超音波診断装置の目的は、被検体の深度のみならず、被検体内の対象物に対応する対象領域も考慮して超音波画像を高画質化可能な超音波診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書で開示される超音波診断装置は、被検体に対して超音波を送受波することで得られたRF信号、前記RF信号が超音波画像の座標空間上のデータに変換された座標変換信号、若しくは、前記座標変換信号に基づいて形成された超音波画像、の少なくとも1つである超音波データを解析することで、又は、前記超音波画像に対してされたユーザの指示に基づいて、前記RF信号のデータ空間における、前記被検体内の対象物に対応する対象領域を特定する対象領域特定部と、RF信号に対して信号処理を実行する信号処理部であって、前記対象領域外の当該RF信号については、前記被検体の深度に応じた信号処理である通常信号処理を実行し、前記対象領域内の当該RF信号については、前記通常信号処理とは異なる特定信号処理を実行する信号処理部と、前記信号処理部によって信号処理されたRF信号に基づいて、超音波画像を形成する画像形成部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
当該構成によれば、被検体の対象物に対応する対象領域内のRF信号と、対象領域外のRF信号とでは、互いに異なる内容の信号処理が実行される。これにより、対象領域外については、被検体の深度に応じた通常の信号処理を実行可能であると共に、対象物に求められる画質を実現することが可能となる。すなわち、被検体の深度のみならず、被検体内の対象物に対応する対象領域も考慮して超音波画像を高画質化することが可能となる。
【0009】
前記対象領域特定部は、特定された前記対象領域に対応する前記対象物の種類を特定し、前記対象物の種類が特定された場合、前記信号処理部は、前記対象領域内のRF信号について、特定された前記対象物の種類に応じた前記特定信号処理を実行する、とよい。
【0010】
当該構成によれば、対象物の種類に応じた特定信号処理を実行することができる。
【0011】
前記対象物の種類が特定されなかった場合、前記信号処理部は、前記対象領域内のRF信号について、予め定められた前記特定信号処理を実行する、とよい。
【0012】
当該構成によれば、対象物の種類が特定されなかった場合に、予め定められた特定信号処理を実行することができる。
【0013】
前記座標変換信号、超音波画像、又は、ユーザの指示に基づいて特定された、超音波画像の座標空間における前記対象領域をRF信号のデータ空間における前記対象領域に変換する領域変換部と、をさらに備えるとよい。
【0014】
当該構成によれば、超音波画像の座標空間において対象領域が特定された場合であっても、これをRF信号のデータ空間における対象領域に変換することができる。
【0015】
前記信号処理部は、前記対象領域内のRF信号についても前記通常信号処理を実行し、前記画像形成部は、前記対象領域内について、ユーザから指示された合成割合で、前記通常信号処理された前記RF信号に基づいて形成された超音波画像と、前記特定信号処理された前記RF信号に基づいて形成された超音波画像と、を合成するとよい。
【0016】
当該構成によれば、ユーザは、通常信号処理されたRF信号に基づいて形成された超音波画像と、特定信号処理されたRF信号に基づいて形成された超音波画像とを任意の合成割合で合成させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本明細書で開示される超音波診断装置によれば、被検体の深度のみならず、被検体内の対象物に対応する対象領域も考慮して超音波画像を高画質化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係る超音波診断装置の構成概略図である。
【
図2】RF信号のデータ空間において特定された対象領域を示す概念図である。
【
図3】超音波画像における関心領域及び対象領域を示す図である。
【
図4】対象領域内の受信ビームデータに対して、対象領域外の受信ビームデータとは異なる信号処理が実行される様子を示す概念図である。
【
図5】本実施形態に係る超音波診断装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本実施形態に係る超音波診断装置10の構成概略図である。超音波診断装置10は、病院などの医療機関に設置され、超音波検査時に使用される医用装置である。
【0020】
超音波診断装置10は、被検体に対して超音波ビームを走査し、それにより得られた受信信号に基づいて超音波画像を生成する装置である。例えば、超音波診断装置10は、受信信号に基づいて、走査面からの反射波の振幅強度が輝度に変換された断層画像(Bモード画像)を形成する。あるいは、超音波診断装置10は、送信波と受信波の周波数の差分(ドプラシフト)に基づいて、被検体内の組織の運動速度を表す超音波画像であるドプラ画像を形成することもできる。本実施形態では、超音波診断装置10がBモード画像を生成する処理について説明する。
【0021】
超音波プローブ12は、被検体に対して超音波の送受波を行う装置である。超音波プローブ12は、被検体に対して超音波の送受波を行う複数の振動素子からなる振動素子アレイを有する。
【0022】
送受信部14は、制御部32(後述)からの制御によって、超音波プローブ12(詳しくは振動素子アレイの各振動素子)に対して送信信号を送信する。これにより、各振動素子から被検体に向けて超音波が送信される。また、送受信部14は、被検体からの反射波を受信した各振動素子から受信信号を受信する。送受信部14は、加算器及び各振動素子に対応した複数の遅延器を有しており、当該加算器及び複数の遅延器により、各振動素子からの受信信号の位相を揃えて加算する整相加算処理を行う。これにより、被検体からの反射波の信号強度を示す情報が被検体の深度方向に並ぶ受信ビームデータが形成される。本明細書では、後述の画像形成部20によって超音波画像の座標空間上のデータに変換される前までの受信ビームデータをRF(Radio Frequency)信号と呼ぶ。
【0023】
超音波データとしてのRF信号は、後述の対象領域特定部34に送られる。
【0024】
信号処理部16は、送受信部14からのRF信号に対して、バンドパスフィルタを適用するフィルタ処理などを含む各種信号処理を実行する。特に、詳しくは後述するが、信号処理部16は、後述の対象領域特定部34により特定された対象領域内のRF信号と、対象領域外のRF信号とで、互いに異なる信号処理を実行する。
【0025】
検波処理部18は、信号処理部16による処理後のRF信号に対して検波処理(例えば包絡線検波処理)、対数圧縮処理、などの処理を実行する。検波処理部18による検波処理によって、RF信号は位相情報(周波数情報)を失う。つまり、検波処理後のRF信号は、検波処理前のRF信号に比して、その情報量が少なくなる。
【0026】
画像形成部20は、検波処理部18において検波処理などされたRF信号に基づいて、超音波画像(Bモード画像)を形成する。まず、画像形成部20は、RF信号を超音波画像の座標空間上のデータに変換する。本明細書では、当該変換後のデータを座標変換信号と呼ぶ。そして、画像形成部20は、座標変換信号に基づいて超音波画像(Bモード画像)を形成する。超音波データとしての座標変換信号又は超音波画像は、後述の対象領域特定部34に送られる。
【0027】
表示制御部22は、画像形成部20で形成された超音波画像及びその他の種々の情報をディスプレイ24に表示させる制御を行う。ディスプレイ24は、例えば液晶ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence)などから構成される表示器である。
【0028】
入力インターフェース26は、例えばボタン、トラックボール、タッチパネルなどから構成される。入力インターフェース26は、ユーザの命令を超音波診断装置10に入力するために用いられる。
【0029】
メモリ28は、(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、eMMC(embedded Multi Media Card)、あるいはROM(Read Only Memory)などを含んで構成される。メモリ28には、超音波診断装置10の各部を動作させるための超音波診断プログラムが記憶される。なお、超音波診断プログラムは、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリ又はCD-ROMなどのコンピュータ読み取り可能な非一時的な記憶媒体に格納することもできる。超音波診断装置10は、そのような記憶媒体から超音波診断プログラムを読み取って実行することができる。
【0030】
また、
図1に示すように、メモリ28には、処理モデルDB(DataBase)30が記憶される。処理モデルDB30は、対象物(例えば臓器や血管)の種類と、処理内容が互いに関連付けられたデータベースである。処理モデルDB30は、超音波診断装置10の設計者などによって予め作成され、メモリ28に記憶される。処理モデルDB30の内容の詳細やその利用方法については後述する。
【0031】
制御部32は、汎用的なプロセッサ(例えばCPU(Central Processing Unit)など)、及び、専用のプロセッサ(例えばGPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、あるいは、プログラマブル論理デバイスなど)の少なくとも1つを含んで構成される。制御部32としては、1つの処理装置によるものではなく、物理的に離れた位置に存在する複数の処理装置の協働により構成されるものであってもよい。制御部32は、メモリ28に記憶された超音波診断プログラムに従って、超音波診断装置10の各部を制御する。
【0032】
対象領域特定部34は、送受信部14から送られてきたRF信号、画像形成部20から送られてきた座標変換信号、又は、画像形成部20から送られてきた超音波画像(Bモード画像)、の少なくとも1つである超音波データを解析することで、RFデータのデータ空間において、被検体内の対象物に対応する対象領域を特定する。
【0033】
本実施形態では、対象領域特定部34は、対象物を含む超音波データを入力データとし、当該超音波データの対象物の位置を示す情報を教師データとして、入力された超音波データの特徴から、当該超音波データに含まれる対象物の位置を特定するように学習された学習器を用いることで、対象領域を特定する。当該学習器は、予め学習され、メモリ28に記憶させておけばよい。
【0034】
また、学習器は、対象物からの超音波データを入力データとし、当該超音波データの対象物の位置を示す情報のみならず、当該超音波データに含まれる対象物の種類(例えば、肝臓、すい臓など)を示す情報を教師データとして学習されたものであってもよい。このような学習器を用いることで、対象領域特定部34は、RFデータのデータ空間において、対象物の位置(対象領域)のみならず、当該対象物の種類(具体的に何であるか)を特定することができる。
【0035】
図2には、対象領域特定部34により特定された、深度方向と方位方向で定義されたRFデータのデータ空間における対象領域TAaが示されている。
図2においては、対象領域TAaが網掛けで示されている。本明細書では、対象領域TAa以外の領域を非対象領域NTAと呼ぶ。なお、
図2において、深度方向に延びる線は、受信ビームデータRbを表している。
【0036】
対象領域特定部34は、上述の学習器を用いる方法以外の方法によっても、対象領域TAaを特定することができる。例えば、
図3に示すように、ディスプレイ24に表示された超音波画像Uにおいて、ユーザが入力インターフェース26を用いて、対象物(ここでは血管)を含む関心領域ROIを設定する。関心領域ROIは、
図3のように矩形などで設定するのではなく、例えば臓器名などで指定可能であってもよい。対象領域特定部34は、設定された関心領域ROIの中で対象物を検出して、超音波画像U上において対象領域TAbを特定することができる。後述の領域変換部34aが、超音波画像U上の対象領域TAbをRFデータ空間における対象領域TAaに変換する。なお、関心領域ROI内における対象物の検出方法は、既知の方法を採用可能であるため、ここでは詳細な説明を省略する。関心領域ROI内に対象物が無い場合は、対象領域特定部34は、エラーを出力するようにすればよい。また、対象領域特定部34は、エラーを出力した後に、ユーザに関心領域ROIの再設定を促す通知を出力するようにしてもよい。
【0037】
また、ユーザは、超音波画像U上において、関心領域ROIではなく、対象物を直接指定するようにしてもよい。例えば、ユーザは、入力インターフェース26を用いて、超音波画像U上で、対象物の輪郭を指定する。対象領域特定部34は、このように指定された領域を超音波画像U上の対象領域TAbとして特定する。
【0038】
対象領域特定部34が、座標変換信号又は超音波画像に基づいて、あるいは、ユーザの超音波画像Uへの指示に基づいて、超音波画像Uの座標空間上において対象領域TAbを特定した場合、領域変換部34aは、超音波画像Uの座標空間における対象領域TAbをRFデータのデータ空間における対象領域TAaに変換する。具体的には、
図3に示すような超音波画像Uの極座標系から、RFデータの直交座標系へ数学的に変換を行い、指定された対象物の輪郭に該当する座標をRFデータの座標空間において特定し、対象領域TAaとする。
【0039】
対象領域特定部34は、特定した対象領域TAaを示す情報を信号処理部16へ送る。
【0040】
信号処理部16は、対象領域TAa外のRF信号(つまり非対象領域NTAのRF信号)については、被検体の深度に応じた信号処理である通常信号処理を実行し、対象領域TAa内のRF信号については、通常信号処理とは異なる特定信号処理を実行する。
【0041】
通常信号処理とは、例えば、被検体の深度に応じたバンドパスフィルタをRF信号に適用する処理である。例えば、信号処理部16は、通常信号処理のための構成として、RF信号の深度変化を評価する評価器と、評価器から出力されるフィルタ制御信号を滑らかにする平滑化処理部と、深度毎にフィルタ処理するフィルタ処理部と、フィルタ制御信号に基づいてフィルタを選択するフィルタ選択先のフィルタバンクを有する。あるいは、信号処理部16は、通常信号処理のための構成として、低SNR信号から高SNR信号を推定する処理を行う学習済みモデル(CNN(Convolutional Neural Networks))などを有していてもよい。
【0042】
特定信号処理とは、例えば、被検体の深度には関係なく、対象領域TAa内のRF信号については一様に同じ処理を行う処理である。対象領域特定部34が対象物の種類を特定している場合、信号処理部16は、対象領域TAa内のRF信号について、特定された対象物の種類に応じた特定信号処理を実行する。ここで、信号処理部16は、処理モデルDB30を参照して、実行する特定信号処理を特定する。
【0043】
上述のように、処理モデルDB30には、対象物の種類と、処理内容とが互いに関連付けられている。各対象物の種類に関連付けられている処理内容は、当該種類の対象物に対応する対象領域TAaのRF信号に対して実行されるべき特定信号処理の内容を表している。
【0044】
例えば、肝臓では、一様なテクスチャで描写される肝組織画像の中になる不均一な輝度分布から、肝組織の異常を見出す。このため、肝組織画像においては、スペックル信号が滑らかに描写される画質が好ましい。この場合、より空間分解能を重視した高画質化が求められるため、処理モデルDB30においては、肝臓に対して、空間分解能を重視した高画質化処理が関連付けられる。空間分解能を重視した高画質化処理とは、例えば、超音波信号のパルス特性を向上させるフィルタ適用を信号処理部16において実施することで、空間分解能の改善が図られる。さらに、組織画像のより滑らかに描写するために、画像形成部20では、スペックルパターンを低減するスペックルリダクション(平滑化処理)を実施する。
【0045】
一方、腎臓では、腎皮質、腎髄質、腎盂など様々な組織から構成されおり、輝度の濃淡が肝臓に比べると激しい。腎臓内の異常の発見には、濃淡がよりはっきりする画質が好ましい。この場合、よりコントラスト分解能を重視した高画質化が求められるため、処理モデルDB30においては、腎臓に対して、コントラスト分解能を重視した高画質化処理が関連付けられる。コントラスト分解能を重視した高画質化処理とは、例えば、余分な低輝度画像の要因となる電気ノイズや音響ノイズ成分をより多く低減するフィルタ適用を信号処理部16において実施する。さらに、腎臓内の組織構造の繋がりを強調する画像処理を、画像形成部20において実施する。また、処理モデルDBに格納される処理モデルは、特定領域のRFデータや臓器名の入力応じて、上記のような適切な高画質化処理が実施されるように予め機械学習によって生成された学習済みモデルでもよい。
【0046】
図4には、信号処理部16により、対象領域TAa内のRF信号(受信ビームデータRb)に対しては特定信号処理が実行され、非対象領域NTAのRF信号(受信ビームデータRb)に対しては通常信号処理が実行される様子が表わされている。上述のように、本実施形態では、信号処理部16は、対象領域TAa内のRF信号に対しては、非対象領域NTAとは異なる信号処理を実行する。ここで、異なる処理とは、単にフィルタの係数が異なる場合、及び、処理の内容そのものが異なる場合を含む。
【0047】
また、対象領域TAaと非対象領域NTAの境界において、例えば輝度の差が大きくならないように、信号処理部16は、信号処理後の対象領域TAaと非対象領域NTAの境界のRF信号の信号強度が滑らかになるように平滑化処理を行うとよい。
【0048】
なお、対象領域特定部34が、対象物(対象領域TAa)を特定したものの、当該対象物の種類までは特定できなかった場合、信号処理部16は、対象領域TAa内のRF信号について、予め定められた特定信号処理を実行するとよい。当該対象物の種類までは特定できなかった場合に実行する特定信号処理も、処理モデルDB30において予め定義しておけばよい。
【0049】
また、後述の合成処理のために、信号処理部16は、対象領域TAa内のRF信号についても通常信号処理を施し、通常信号処理を施した対象領域TAa内のRF信号をメモリ28に保持しておくとよい。
【0050】
画像形成部20は、上述のように、信号処理部16によって信号処理されたRF信号に基づいて、超音波画像を形成する。これにより、従来よりも高画質化された超音波画像(Bモード画像)の形成が可能となっている。
【0051】
画像形成部20は、対象領域TAa内について、ユーザから指示された合成割合で、通常信号処理されたRF信号に基づいて形成された超音波画像と、特定信号処理されたRF信号に基づいて形成された超音波画像と、を合成するとよい。例えば、表示制御部22は、ディスプレイ24にスライドコントローラを表示させ、ユーザが、当該スライドコントローラを一端側に振り切ると、画像形成部20は、対象領域TAa内について特定信号処理されたRF信号に基づいて形成された超音波画像と、非対象領域NTAについて通常信号処理されたRF信号に基づいて形成された超音波画像とを組み合わせてディスプレイ24に表示させる。一方、ユーザが、当該スライドコントローラを他端側に振り切ると、画像形成部20は、対象領域TAa内について通常信号処理されたRF信号に基づいて形成された超音波画像と、非対象領域NTAについて通常信号処理されたRF信号に基づいて形成された超音波画像とを組み合わせてディスプレイ24に表示させる。なお、この場合は、従来同様に、超音波画像全体に亘って通常信号処理されたRF信号に基づいて超音波画像が形成されることになる。また、ユーザが、当該スライドコントローラを中ほどに設定する、画像形成部20は、対象領域TAa内について、特定信号処理されたRF信号に基づいて形成された超音波画像と、通常信号処理されたRF信号に基づいて形成された超音波画像とを、スライドコントローラが示す量に応じて合成し、合成して得られた画像と、非対象領域NTAについて通常信号処理されたRF信号に基づいて形成された超音波画像とを組み合わせてディスプレイ24に表示させる。
【0052】
また、画像形成部20は、超音波画像形成処理において、対象領域TAa内と非対象領域NTAとにおいて、互いに異なる画像形成処理を実行するようにしてもよい。この場合も信号処理部16における処理と同様で、例えば、肝臓に対しては空間分解能を重視した一様な高画質化処理を実行し、腎臓に対してはコントラスト分解能を重視した一様な高画質化処理を実行する。
【0053】
超音波診断装置10の構成概略は以上の通りである。なお、送受信部14、信号処理部16、検波処理部18、画像形成部20、表示制御部22、対象領域特定部34、及び領域変換部34aの各部は、1又は複数のプロセッサ、チップ、電気回路などによって構成されている。これらの各部がハードウェアとソフトウエアとの協働により実現されてもよい。以下、
図5に示すフローチャートに従って、超音波診断装置10の処理の流れを説明する。
【0054】
ステップS10において、対象領域特定部34は、RF信号のデータ空間において、対象領域TAaを特定する。
【0055】
ステップS12において、信号処理部16は、対象領域TAa内と非対象領域NTAとで処理を分岐する。信号処理部16は、ステップS14からステップS18までにおいて、非対象領域NTAについての処理を実行し、ステップS20からステップS24までにおいて、対象領域TAaについての処理を実行する。
【0056】
ステップS14において、信号処理部16は、非対象領域NTAのRF信号に対して、RF信号の信号強度に応じたSNR改善を行う。
【0057】
ステップS16において、信号処理部16は、非対象領域NTAのRF信号に対して、被検体の深度に応じた信号処理である通常信号処理を実行する。
【0058】
ステップS18において、画像形成部20は、非対象領域NTAのRF信号に基づいて、通常の画像処理を実行した上で、超音波画像を形成する。
【0059】
ステップS20において、信号処理部16は、対象領域TAaのRF信号に対して、RF信号の信号強度に応じたSNR改善を行う。なお、信号処理部16は、対象領域TAaのRF信号に対して、通常信号処理も実行しておく。
【0060】
ステップS22において、信号処理部16は、対象領域TAaのRF信号に対して、処理モデルDB30に基づいて特定した特定信号処理を実行する。
【0061】
ステップS24において、画像形成部20は、対象領域TAaのRF信号に基づいて、通常の画像処理とは異なる特定画像処理を実行した上で、超音波画像を形成する。なお、画像形成部20は、通常信号処理された対象領域TAaのRF信号に基づいて、通常の画像処理を実行した上で、超音波画像を形成しておく。
【0062】
ステップS26において、画像形成部20は、ユーザからの指示に応じて、通常信号処理されたRF信号に基づいて形成された超音波画像と、特定信号処理されたRF信号に基づいて形成された超音波画像とを合成する。
【0063】
ステップS28において、表示制御部22は、形成された超音波画像をディスプレイ24に表示させる。
【0064】
以上、本発明に係る実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0065】
例えば、本実施形態では、超音波プローブ12は、一列に並ぶ振動素子を有するプローブであるが、超音波プローブ12は、2次元に並ぶ振動素子を有する2D(Dimension)アレイプローブであってもよい。そして、超音波診断装置10の各部の処理対象であるRF信号とは、2Dアレイプローブによって得られた、深度方向、方位方向、及び、スライス方向に延びる3次元のボリュームデータを構成するものであってもよい。
【符号の説明】
【0066】
10 超音波診断装置、12 超音波プローブ、14 送受信部、16 信号処理部、18 検波処理部、20 画像形成部、22 表示制御部、24 ディスプレイ、26 入力インターフェース、28 メモリ、30 処理モデルDB、32 制御部、34 対象領域特定部、34a 領域変換部、Rb 受信ビームデータ、TAa,TAb 対象領域、NTA 非対象領域、U 超音波画像、ROI 関心領域。