(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092218
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】フィルム製膜用ニップローラーおよび熱可塑性樹脂フィルムの製造装置
(51)【国際特許分類】
B29C 55/06 20060101AFI20240701BHJP
B29C 59/04 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
B29C55/06
B29C59/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207988
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藏増 諒
【テーマコード(参考)】
4F209
4F210
【Fターム(参考)】
4F209AG01
4F209PA04
4F209PB02
4F209PC16
4F209PN06
4F209PQ04
4F210AG01
4F210AJ05
4F210AJ08
4F210AM32
4F210AR12
4F210AR20
4F210QA03
4F210QC02
4F210QD25
4F210QG01
4F210QG18
4F210QM01
4F210QM04
(57)【要約】
【課題】
ニップローラーの外径の収縮によるフィルム接触部での接圧低下を防ぎ、縦延伸工程でのフィルムのすり抜けを抑制可能な、フィルム製膜用ニップローラーおよび熱可塑性樹脂フィルムの製造装置を提供する。
【解決手段】
円筒の芯材と当該芯材の外周に被覆されたゴムで形成された弾性層とを有するニップローラーにおいて、前記弾性層は、前記ニップローラーの軸方向の中央を含む中央領域と、当該中央領域よりも前記ニップローラーの軸方向の両端部側に1つずつ配置された端部領域とで構成され、前記端部領域の前記弾性層を形成するゴムは、前記中央領域の前記弾性層を形成するゴムよりも、JIS K6262:2013による、25%の圧縮を125℃で22時間保持したときの圧縮永久歪みが大きいことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒の芯材と当該芯材の外周に被覆されたゴムで形成された弾性層とを有するニップローラーであって、前記弾性層は、前記ニップローラーの軸方向の中央を含む中央領域と、当該中央領域よりも前記ニップローラーの軸方向の両端部側に1つずつ配置された端部領域とで構成され、前記端部領域の前記弾性層を形成するゴムは、前記中央領域の前記弾性層を形成するゴムよりも、JIS K6262:2013による、25%の圧縮を125℃で22時間保持したときの圧縮永久歪みが大きい、フィルム製膜用ニップローラー。
【請求項2】
前記端部領域の前記弾性層を形成するゴムは、前記中央領域の前記弾性層を形成するゴムよりも、JIS K6253-3:2012におけるタイプAデュロメータによるゴム硬度が低い、請求項1のフィルム製膜用ニップローラー。
【請求項3】
前記弾性層の厚みが、前記中央領域よりも前記端部領域で大きい、請求項1のフィルム製膜用ニップローラー。
【請求項4】
円筒の芯材と当該芯材の外周に被覆されたゴムで形成された弾性層とを有するニップローラーと、当該ニップローラーに対向する延伸ローラーとで構成され、前記ニップローラーと前記延伸ローラーとで搬送される熱可塑性樹脂フィルムを挟んで押圧しながら搬送方向に延伸する熱可塑性樹脂フィルムの製造装置であって、
前記ニップローラーは、前記弾性層が、延伸する熱可塑性樹脂フィルムに接触する接触部と、当該接触部以外の非接触部とで構成され、前記ニップローラーと前記延伸ローラーとで前記熱可塑性樹脂フィルムを挟んで押圧し前記弾性層を全幅で平均1.0%以上収縮せしめる時、前記非接触部の前記弾性層を形成するゴムの収縮量が、前記接触部の前記弾性層を形成するゴムの収縮量よりも大きいものである、
熱可塑性樹脂フィルムの製造装置。
【請求項5】
前記弾性層は、前記非接触部において前記接触部よりも外径が大きく、かつ、前記非接触部と前記接触部における外径の差が、延伸する前記熱可塑性樹脂フィルムの厚みよりも大きい、請求項4の熱可塑性樹脂フィルムの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフィルム製膜用ニップローラーおよび熱可塑性樹脂フィルムの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂フィルムを製造する方法の一つとして、溶融した樹脂をウェブ状に押し出し、冷却ドラムにて冷却して熱可塑性樹脂フィルムを成形した後、周速差を設けた延伸ローラー間に導入して、縦延伸する方法が用いられている。
【0003】
このような熱可塑性樹脂フィルム(以下、フィルムと呼称することがある)の縦延伸工程では、フィルムと延伸ローラーが滑らないように、フィルムを延伸ローラーとニップローラーとの間でニップする方法が用いられている。
【0004】
上記のニップローラーには、フィルムの厚みムラや、ローラーのたわみ、凹凸などがあっても均一にニップするために、柔軟性のあるゴムを被覆したゴムローラーが広く用いられる。また、縦延伸工程ではフィルムは加熱されて高温になり、さらに粘着性を持つようになるため、ニップローラーに被覆されるゴムは、高温環境下で使用可能な耐熱性や、フィルムが粘着しないための離型性を有している必要がある。例えば特許文献1では、ゴムの材質として、耐熱性や離型性に優れるシリコーンゴムを用いる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1には次のような問題がある。ニップローラー表面にシリコーンゴムを用いると、ニップした際の接圧によってニップローラーの外径が収縮する。また、ニップローラーのフィルム接触部は、フィルム非接触部に比べて接圧が高いため、時間が経過するとともにフィルム接触部の外径の収縮が進行し、フィルム接触部の外径がフィルム非接触部の外径に比べて小さくなってしまう。そのため、フィルム接触部で接圧が低下し、フィルムのすり抜けが発生する。
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決するもので、ニップローラーの外径の収縮によるフィルム接触部の接圧の低下を防ぎ、縦延伸工程でのフィルムのすり抜けを抑制することが可能な、フィルム製膜用ニップローラーおよび熱可塑性樹脂フィルムの製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明のフィルム製膜用ニップローラーは、円筒の芯材と当該芯材の外周に被覆されたゴムで形成された弾性層とを有するニップローラーであって、前記弾性層は、前記ニップローラーの軸方向の中央を含む中央領域と、当該中央領域よりも前記ニップローラーの軸方向の両端部側に1つずつ配置された端部領域とで構成され、前記端部領域の前記弾性層を形成するゴムは、前記中央領域の前記弾性層を形成するゴムよりも、JIS K6262:2013による、25%の圧縮を125℃で22時間保持したときの圧縮永久歪みが大きい。
【0009】
本発明のフィルム製膜用ニップローラーにおいて、前記端部領域の前記弾性層を形成するゴムは、前記中央領域の前記弾性層を形成するゴムよりも、JIS K6253-3:2012におけるタイプAデュロメータによるゴム硬度が低いことが好ましい。また、本発明のフィルム製膜用ニップローラーにおいては、前期弾性層の厚みが、前記中央領域よりも前期端部領域で大きいことが好ましい。
【0010】
上記課題を解決する本発明のフィルムの製造装置は、円筒の芯材と当該芯材の外周に被覆されたゴムで形成された弾性層とを有するニップローラーと、当該ニップローラーに対向する延伸ローラーとで構成され、前記ニップローラーと前記延伸ローラーとで搬送される熱可塑性樹脂フィルムを挟んで押圧しながら搬送方向に延伸する熱可塑性樹脂フィルムの製造装置であって、前記ニップローラーは、前記弾性層が、延伸する熱可塑性樹脂フィルムに接触する接触部と、当該接触部以外の非接触部とで構成され、前記ニップローラーと前記延伸ローラーとで前記熱可塑性樹脂フィルムを挟んで押圧し前記弾性層を全幅で平均1.0%以上収縮せしめる時、前記非接触部の前記弾性層を形成するゴムの収縮量が、前記接触部の前記弾性層を形成するゴムの収縮量よりも大きいものである。
【0011】
本発明のフィルムの製造装置において、前記弾性層は、前記非接触部において前記接触部よりも外径が大きく、かつ、前記非接触部と前記接触部における外径の差が、延伸する前記熱可塑性樹脂フィルムの厚みよりも大きいことが好ましい。
【0012】
本発明における各用語は以下のように定義する。
【0013】
「圧縮永久歪み」とは、ゴム材料を圧縮した際の、圧縮量に対する永久歪みの割合のことであり、本発明においてはJIS K6262:2013で示される圧縮永久歪み試験での測定値を指す。
【0014】
「ゴム硬度」とは、ゴムの硬さを示す指標であり、本発明においてはJIS K6253-3:2012で示されるタイプAデュロメータ硬さ試験での測定値を指す。
【0015】
「フィルム製膜用ニップローラー」とは、フィルムをローラー上で挟圧するためのローラーであり、表面に弾性層を被覆したローラーである。
【0016】
「接触部」とは本発明のニップローラーの弾性層における、フィルムと接触する領域である。
【0017】
「非接触部」とは本発明のニップローラーの弾性層における、接触部以外の領域である。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、フィルム製膜用ニップローラーのゴムの圧縮永久歪みによるフィルム接触部での接圧の低下を防ぐことができ、フィルムのすり抜けを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態であるフィルム製膜用ニップローラーの部分断面概略図である。
【
図2】本発明の別の一実施形態であるフィルム製膜用ニップローラーの部分断面概略図である。
【
図3】本発明の一実施形態であるフィルム製造装置における、縦延伸工程の概略側面図である。
【
図4】本発明の一実施形態であるフィルムの製造装置における、縦延伸工程のニップ部をフィルム搬送方向から見た部分断面概略図ある。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明のフィルム製膜用ニップローラーおよびフィルムの製造方法の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
図1は本発明の一実施形態であるフィルム製膜用ニップローラーの部分断面概略図である。ニップローラー3は円筒の芯材にゴムで形成された弾性層を被覆した構造をしている。芯材には、特に限定されないが、金属で構成した円筒(芯金33)や樹脂で構成した円筒、また、そのような円筒の内部に水などの熱媒を通すための流路構造を持たせ、熱媒の温度や流量を制御することでローラーの表面温度をある程度制御可能としたもの等を用いることができる。また、軸と円筒を軸方向の中心部で連結させた、センターロード構造の芯材を用いてもよい。センターロード構造にすることで、ニップした際に軸方向の面圧分布をより均一にすることができ、フィルム接触部での接圧の低下をより防ぐことができる。
【0022】
芯材の材質は特に限定されないが、ニップによる高い圧力に耐えうる強度と剛性を有する、鉄やアルミニウム等の金属や炭素繊維強化樹脂などが好ましい。
【0023】
弾性層は、ニップローラーの軸方向に関して中央領域31と端部領域32で構成されている。中央領域31は、フィルムを挟む際にはフィルムに接触する領域であって、ニップローラーの軸方向の中心を含み、かつ、軸方向の長さが前記中心を挟んで等しく対称であることが好ましい。また、端部領域32は、ニップローラーがフィルムを挟む際に実質的にフィルムに接触しない領域であって、軸方向の端部を含んだ中央領域31以外の領域であり、両端部に1つずつ配置されている。それぞれの端部領域32の軸方向の長さは等しいことが好ましい。上記の構成にすることによって弾性層が軸方向に対称の構造となり、ニップした際に軸方向の面圧分布が軸方向の中心を挟んで対称になるため、本発明の効果を得やすい。
【0024】
端部領域32を形成するゴムは、JIS K6262:2013による、25%の圧縮を125℃で22時間保持したときの圧縮永久歪みが、中央領域31を形成するゴムよりも大きく、好ましくは中央領域31を形成するゴムの1.5倍以上である。ニップローラー3は、フィルム1と接触する中央領域31で経時的に外径の収縮が進みやすく、ニップローラー3の表面形状が中央領域31で凹んだ形状となることで、中央領域31の接圧が低下する。経時的な外径の収縮はニップローラー3の表層に被覆されたゴムの圧縮永久歪みによるものであり、経時的な外径の収縮量は圧縮永久歪みが大きい程、大きくなる。また、圧縮永久歪みは、ゴムを圧縮した際の圧縮量に対する永久変形量の割合であるため、圧縮永久歪みが同じであれば、外径の収縮は接圧時のゴムの圧縮量が大きいほど大きくなる。そのため、仮に中央領域31と端部領域32を形成するゴムの圧縮永久歪みが同じ場合、フィルム1と接触する中央領域31は接圧が高く、ゴムの圧縮量が大きいため、圧縮永久歪みによる経時的な外径の収縮量が大きいが、フィルム1と接触しない端部領域32は中央領域31に比べて接圧が低く、ゴムの圧縮量が小さいため、圧縮永久歪みによる経時的な外径の収縮量が小さく、中央領域31が凹んだ形状となる。そこで、本発明者らは、端部領域32を形成するゴムの圧縮永久歪みを大きくすることで、接圧時のゴムの圧縮量が小さくても経時的には中央領域31と同等の収縮量を得ることができ、中央領域31における接圧の低下を防ぎ、フィルム4のすり抜けを抑制できることを見出した。
【0025】
中央領域31と端部領域32を形成するゴムのゴム硬度は特には限定されないが、JIS K6253-3:2012におけるタイプAデュロメータ硬さで40度~90度が好ましく用いられる。上記のゴム硬度の範囲であれば、ニップした際に、自身や対向する延伸ローラー4の加工精度やフィルム1の幅方向の厚みムラによる接圧の不均一を緩和しやすく、ニップ幅を均一にしやすくなる。
【0026】
また、端部領域32を形成するゴムのゴム硬度は中央領域31に比べて低いことが好ましく、さらに好ましくは中央領域31に比べて10度以上低い。ゴム硬度を低くすると、接圧時のゴムの圧縮量を大きくすることができる。外径の収縮量は、仮にゴムの圧縮永久歪みが同じ場合、接圧時のゴムの圧縮量が大きいほど大きくなるため、端部領域32の経時的な外径の収縮量をより大きくしやすくなる。
【0027】
中央領域31と端部領域32を形成するゴムの厚みは、1~15mm程度が好ましい。上記のゴム厚の範囲であれば、ニップした際に、自身や対向する延伸ローラー4の加工精度やフィルム1の幅方向の厚みムラによる接圧の不均一を緩和しやすく、ニップ幅を均一にしやすくなる。
【0028】
また、端部領域32を形成するゴムの厚みは中央領域31よりも厚いことが好ましく、さらに好ましくは中央領域31に比べて3mm以上厚いことが好ましい。ゴムの厚みを増やすことで、接圧時のゴムの圧縮量を大きくすることができる。外径の収縮量は、仮にゴムの圧縮永久歪みが同じ場合、接圧時のゴムの圧縮量が大きいほど大きくなるため、端部領域32の経時的な外径の収縮量をより大きくしやすくなる。
【0029】
ゴムの厚みを増やす方法については特に限定されないが、たとえば
図2のように、芯金33の端部領域32に該当する部分を段付形状とし、その上にゴムを形成することで、端部領域32でゴム厚を大きくする方法を用いることができる。また、段付形状の他にもクラウン形状やテーパー形状等も用いることができる。
【0030】
中央領域31と端部領域32を形成するゴムの種類は同一でも違っていてもよい。特に限定されないが、縦延伸工程の高温環境下で使用可能な耐熱性を有している、シリコーンゴムやフッ素ゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、水素化ニトリルゴム、また、それらに耐候性や滑り性、耐摩耗性、強度などを向上する添加剤を加えたり、処方を施したりしたものなどから適宜選択して用いることが出来る。
【0031】
また、中央領域31を形成するゴムは、圧縮永久歪みによる外径の収縮を抑えるため、圧縮永久歪みに優れるゴムを使用することが好ましく、さらに、中央領域31は高温となり粘着性を有するフィルム1と接触するため、離型性に優れるゴムを使用することが好ましい。中央領域31を形成するゴムの好適な例としては、シリコーンゴムやフッ素ゴム、水素化ニトリルゴム、また、それらに耐候性や滑り性、耐摩耗性、強度などを向上する添加剤を加えたり、処方を施したりしたものなどが挙げられる。
【0032】
図3は本発明のフィルム製造装置の縦延伸工程を示す概略側面図である。フィルム1は熱媒を通した予熱ローラー2によって加熱されて軟化し、複数の延伸ローラー4間の周速差によって、フィルム搬送方向に延伸された後、冷却ローラー6で冷却される。また、フィルム1は延伸ローラー4とニップローラー3でニップされ、延伸位置を固定するようになっている。フィルム1をニップする機構として、例えばローラー両軸端においてエアシリンダ5などの加圧装置によって延伸ローラー4上でフィルム1をニップする方法がある。ニップローラー3と延伸ローラー4の配置構成は特に限定されず、例えば
図3のように2本の延伸ローラー4のうち片方の延伸ローラー4のみに対してニップローラー3を対向配置しフィルム1をニップさせても良いし、1本の延伸ローラー4に対して2本以上のニップローラー3を対向配置してフィルム1をニップさせても良い。また、2本以上の延伸ローラー4に1本ずつニップローラー3を対向配置してフィルム1をニップさせ、他段階の延伸を行ってもよい。
【0033】
フィルム1は熱可塑性樹脂であれば特に限定されないが、たとえば高密度ポリエチレンや低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどの各種ポリエチレン樹脂やポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンサルファイドといった樹脂のフィルムが使用可能である。
【0034】
また、フィルム1を軟化させるためにフィルム1の温度を分子の拡散温度やガラス転移点以上に加熱する必要がある。加熱方法としては、例えばニップローラー3、延伸ローラー4の芯金内部に加圧温水などの熱媒を通して加熱する方法や、ラジエーションヒーターでフィルム1を直接加熱する方法に加え、それらの組み合わせが使用できる。加熱温度は特に限定されないが、例えばPETフィルムでは、80℃~130℃に加熱することが好ましい。延伸時のフィルム1の温度が80℃未満だとフィルムが破断しやすくなり、130℃よりも高いと高分子が配向されにくく、幅方向に延伸する際に破断しやすくなる。
【0035】
図4は、本発明の一実施形態であるフィルムの製造装置における縦延伸工程のニップ部をフィルム搬送方向から見た部分断面概略図である。フィルム1はニップローラー3と延伸ローラー4によって挟圧されて延伸される。
【0036】
延伸ローラー4の構造は特に限定されないが、ローラーの内部に熱媒を通す流路構造を持たせても良いし、ロール自体を発熱させる誘導発熱構造を持たせても良い。熱媒を通す流路構造や、誘導発熱構造によって、ローラー表面の温度をある程度制御することが可能になる。また、表面の材質は特に限定されないが、ゴム材料を被覆してもよいし、HCrメッキや溶射によるコーティング、フッ素樹脂コーティングを施してもよい。
【0037】
一方、ニップローラー3は、円筒の芯材と当該芯材の外周に被覆されたゴムで形成された弾性層とを有する。弾性層は、ニップローラーの軸方向の中央を含む中央領域と、当該中央領域よりもニップローラーの軸方向の両端部側に1つずつ配置された端部領域を有し、中央領域がフィルム接触部34、端部領域がフィルム非接触部35となり、フィルム1はフィルム接触部34の範囲で延伸される。
【0038】
フィルム接触部34の軸方向の範囲は、延伸するフィルム1のフィルム幅11よりも広いことが好ましく、さらにはフィルム幅11に対して2%~5%程度広いことが好ましい。なお、ここでいうフィルム幅11とは、フィルム幅11が変化することも想定して考えられる最大値とする。上記の範囲であれば、フィルム1が蛇行した際や、フィルム幅11が変化した際にも、フィルム1がフィルム非接触部35に接触することを防ぎやすく、本発明の効果を得やすい。
【0039】
そして、ニップローラー3は、当該ニップローラー3と延伸ローラー4とでフィルム1を挟んで押圧しニップローラー3の弾性層の厚みを収縮前の厚みに比べて全幅で平均1.0%以上収縮せしめる時、フィルム非接触部35を表面とする弾性層の収縮量が、フィルム接触部34を表面とする弾性層の収縮量よりも大きいことが必要である。上記により、フィルム接触部34の接圧の低下を防ぎやすく、フィルムのすり抜けを抑制できる。
【0040】
かかるニップローラー3とするためには、上述の、中央領域(フィルム接触部に相当)の弾性層と端部領域(フィルム非接触部に相当)の弾性層とで圧縮永久歪みが特定の関係にあるニップローラーを用いることが好ましい。
【0041】
また、
図4に示すように、弾性層のフィルム非接触部35における外径をフィルム接触部34における外径よりも大きくすることも好ましい。フィルム非接触部35の外径を大きくすることで、フィルム非接触部35の接圧が上昇し、フィルム非接触部35の収縮量を更に大きくすることができる。また、フィルム非接触部35とフィルム接触部34の外径の差は、延伸するフィルム1の厚みより大きいことが好ましい。外径の差が延伸するフィルム1の厚みより大きいことで、フィルム非接触部35が対向する延伸ローラー4と接触し、フィルム非接触部35の接圧が上昇する。
【実施例0042】
以下、実施例を示して具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。また、各種評価、測定方法を以下に示す。
【0043】
[弾性層の厚みの測定]
ニップローラーの外径を、マイクロメータを用いて幅方向に等間隔で5点測定し、5点の平均値と芯金の外径との差分を2で除してゴム厚を算出した。
【0044】
[弾性層の収縮量]
ニップローラーと延伸ローラーとで熱可塑性樹脂フィルムを挟んで押圧し、弾性層の外径を収縮前の外径に比べて全幅で平均1.0%以上収縮せしめた時の、ニップローラーの弾性層の外径を測定し、収縮前の外径との差分を2で除してゴムの収縮量を算出した。外径の測定にはマイクロメータを用い、フィルム接触部とフィルム非接触部でそれぞれ3ヶ所測定した平均値を比較評価した。
【0045】
[ニップ幅の測定]
ニップローラーの弾性層の外径収縮前と外径が全幅で平均1.0%以上収縮した時のニップ幅を以下の方法で測定した。ニップローラーと延伸ローラーの間に圧力測定フィルム(富士フイルム社製”プレスケール”(登録商標)「超微圧用」)を挟んだ状態でニップし、ニップした状態を1分間保持した後、圧力測定フィルム(富士フイルム社製”プレスケール”(登録商標)「超微圧用」)に転写されたニップ幅を測定した。フィルム接触部の範囲を等間隔で3ヶ所測定し、3ヶ所の平均でニップ幅を評価した。
【0046】
[フィルムのすり抜け]
フィルムのすり抜けの評価として、縦延伸後のフィルム幅を測定し、想定したフィルム幅よりも広い場合、もしくはフィルム幅が安定していない場合に、フィルムがすり抜けているとみなし、その有無を評価した。
【0047】
[圧縮永久歪み]
JIS K6262:2013で示される測定方法を用い、25%の圧縮を125℃で22時間保持したときの圧縮永久歪みを測定した。
【0048】
[ゴム硬度]
JIS K6253-3:2012に準拠したゴム硬度計タイプAを用いて幅方向に等間隔で3点測定し、3点の平均値でゴム硬度を算出した。
【0049】
[実施例1]
図3に示すフィルム製造装置における縦延伸工程のニップローラー3として、
図1に示す構造のフィルム製膜用ニップローラーを用いた。前記フィルム製膜用ニップローラーにおいて、端部領域(フィルム非接触部に相当)のゴムには圧縮永久歪みが10%、タイプAデュロメータ硬さが70度のシリコーンゴムを用い、中央領域(フィルム接触部に相当)のゴムには圧縮永久歪みが3%、タイプAデュロメータ硬さが70度のシリコーンゴムを用いた。端部領域、中央領域ともにゴム厚は10mmとし、中央領域の幅は1720mmとした。上記の縦延伸区間で、平均厚み100μm、幅1680mmの未延伸のポリエチレンテレフタレートフィルムを、延伸倍率3.0倍で縦延伸を行った。この時ニップローラーと延伸ローラーの間の面圧は0.3MPa、フィルムの加熱温度は90℃とした。
【0050】
[実施例2]
実施例1におけるフィルム製膜用ニップローラーの、端部領域におけるシリコーンゴムのゴム硬度を、タイプAデュロメータ硬さで55度に変更したこと以外、実施例1と同様にして、縦延伸を行った。
【0051】
[実施例3]
図3に示すフィルム製造装置における縦延伸工程のニップローラー3として、
図2に示す構造のフィルム製膜用ニップローラーを用いた。すなわち、前記フィルム製膜用ニップローラーにおいて、芯金の端部領域に当たる部分に段付きを設け、端部領域と中央領域の芯金径の差を6mmとした。この芯金にゴムをライニングし、端部領域のゴムには圧縮永久歪みが10%、タイプAデュロメータ硬さが70度のシリコーンゴムを用い、中央領域のゴムには圧縮永久歪みが3%、タイプAデュロメータ硬さが70度のシリコーンゴムを用いた。端部領域のゴム厚は12mm、中央領域のゴム厚は9mmとし、中央領域の幅は1720mmとした。上記の縦延伸工程で縦延伸を行い、延伸条件は実施例1と同様とした。
【0052】
[実施例4]
図3に示すフィルム製造装置における縦延伸工程において、
図4に示す構造のフィルム製膜用ニップローラー3および延伸ローラー4を用いた。前記フィルム製膜用ニップローラーにおいて、中央領域(フィルム接触部)と端部領域(フィルム非接触部)ともに、圧縮永久歪みが3%、タイプAデュロメータ硬さが70度のシリコーンゴムを用いた。また、端部領域の外径を中央領域の外径より、1.0mm大きくした。また、ニップローラーの中央領域の幅は1720mmとした。上記の縦延伸工程で縦延伸を行い、延伸条件は実施例1と同様とした。
【0053】
[比較例1]
図3に示すフィルム製造装置における縦延伸工程のニップローラー3として、円筒の芯材にゴムをライニングしたフィルム製膜用ニップローラーを用いた。前記フィルム製膜用ニップローラーのゴム層には圧縮永久歪みが3%、タイプAデュロメータ硬さが70度のシリコーンゴムを用いた。上記の縦延伸工程で縦延伸を行い、延伸条件は実施例1と同様とした。
【0054】
【0055】
実施例1~4ではフィルム非接触部の経時的な外径の収縮量が増加し、収縮後のフィルム接触部のニップ幅の低下が抑えられている。その結果、フィルム接触部での接圧の低下が抑制でき、フィルムのすり抜けが発生しなかった。
【0056】
また、端部領域のゴムにおいて、ゴム硬度を中央領域より低くした実施例2と、ゴム厚を中央領域より大きくした実施例3は、実施例1に比べて、フィルム非接触部の経時的な外径の収縮量が大きくなっている。
【0057】
さらに、実施例4は、フィルム非接触部の外径がフィルム接触部より大きいことによって、接圧時にフィルム非接触部の接圧がフィルム接触部より高くなる。そのため、フィルム非接触部は時間の経過とともにフィルム接触部よりも外径の収縮が進行し、フィルム接触部の接圧が低下しにくくなるため、実施例1~3と同様に収縮後のフィルム接触部のニップ幅の低下が抑えられている。
【0058】
それに対して、比較例1では、フィルム非接触部の経時的な外径の収縮が不十分であり、フィルム接触部との外径差が大きくなったことで、フィルムのすり抜けが発生した。また、フィルム接触部のニップ幅が収縮後で小さくなっており、接圧が低くなっていることが分かる。
本発明は、熱可塑性樹脂フィルムの縦延伸工程に限らず、例えば、製膜した熱可塑性樹脂フィルムを巻き取る工程に応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。