(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092227
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】介護動作教育支援プログラム
(51)【国際特許分類】
G09B 19/00 20060101AFI20240701BHJP
A61B 5/397 20210101ALI20240701BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
G09B19/00 G
A61B5/397
A61B5/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207998
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】513033526
【氏名又は名称】グローバル・リンクス・テクノロジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】590002389
【氏名又は名称】静岡県
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【弁理士】
【氏名又は名称】井川 浩文
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆允
(72)【発明者】
【氏名】堀 瞳
(72)【発明者】
【氏名】易 強
【テーマコード(参考)】
4C038
4C127
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VB34
4C038VB35
4C038VC05
4C038VC20
4C127AA04
(57)【要約】
【課題】 個々の介護者等が行う介護動作において、筋負荷の状態を客観的に把握し、自己の介護動作を確認し得る支援システムおよびプログラムを提供する。
【解決手段】 介護動作適正化支援システムは、任意に定める測定対象の筋肉を使用するときの使用筋力の状態を所定の数値として測定する筋力測定部と、筋力測定部により所定の数値として測定される測定値を継続的に取得する測定値取得部と、介護動作の映像を取得する映像取得部と、測定値取得部、映像取得部および筋力限界値記憶部に記憶される各情報に基づき、筋力限界値に対する測定対象の筋肉に対する測定値の割合で特定される筋負荷を算出し、算出された筋負荷の時系列による変動を出力するとともに、1以上の評価基準について評価する処理部と、時系列による介護動作の映像、時系列による筋負荷の変動を表示するとともに、前記処理部による評価結果を識別可能に表示する表示部とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
介護者、介護従事者または介護動作訓練者が介護動作において使用する任意に定めた筋肉の負荷状態を検出することにより、介護動作の適正化を支援するためのシステムであって、
任意に定める測定対象の筋肉を使用するときの使用筋力の状態を所定の数値として測定する筋力測定部と、
前記筋力測定部により所定の数値として測定される測定値を継続的に取得する測定値取得部と、
介護動作の映像を取得する映像取得部と、
前記測定対象の筋肉における最大筋力を予め測定した筋力限界値を記憶する筋力限界値記憶部と、
前記測定値取得部、映像取得部および筋力限界値記憶部に記憶される各情報に基づき、前記筋力限界値に対する前記測定対象の筋肉に対する測定値の割合で特定される筋負荷を算出し、算出された筋負荷の時系列による変動を出力するとともに、該筋負荷について、基準値との比較、標準的な変動との比較、変動割合および最高値の中から選択される1以上の評価基準について評価する処理部と、
前記映像取得部によって取得される情報に基づく時系列による介護動作の映像、もしくは前記処理部によって出力される時系列による筋負荷の変動のいずれか一方またはその双方を表示するとともに、前記処理部による評価結果を識別可能に表示する表示部と
を備えることを特徴とする介護動作適正化支援システム。
【請求項2】
前記処理部は、該処理部によって算出される筋負荷について、評価の基準を予め設定された複数の段階的な評価に区分するものであり、前記表示部は、前記段階的な評価に区分された結果を識別可能に表示するものである請求項1に記載の介護動作適正化支援システム。
【請求項3】
前記測定値取得部により取得された測定値を記憶する測定値記憶部と、前記映像取得部により取得された映像を記憶する映像記憶部を備え、
前記測定値記憶部および前記映像記憶部のそれぞれは、介護者、介護従事者または介護動作訓練者ごとに、1または複数の介護動作における測定値および映像を個別に記憶するものであり、
前記表示部は、前記介護動作の映像もしくは時系列による筋負荷の変動のいずれか一方またはその双方について、前記1または複数の介護動作を任意の組合せにより同時に表示させるものである請求項2に記載の介護動作適正化支援システム。
【請求項4】
前記処理部は、前記複数の同一介護動作のそれぞれについて、各介護動作おける測定値から算出される筋負荷の合計値または平均値をそれぞれ算出するとともに、該合計値または平均値が最小となる介護動作を選定するものであり、前記表示部は、前記処理部により使用筋力の割合の合計値または平均値が最小となるものとして選定された介護動作にかかる映像もしくは時系列による筋負荷の変動のいずれか一方またはその双方を表示するとともに、任意に選択された比較対象の介護動作にかかる映像もしくは時系列による筋負荷の変動のいずれか一方またはその双方を併せて表示するものである請求項3に記載の介護動作適正化支援システム。
【請求項5】
前記複数の介護動作には、模範的な介護動作を含み、模範的な介護動作と他の介護動作とを比較するものであって、前記表示部は、模範的な介護動作および比較対象の介護動作にかかる前記介護動作の映像もしくは時系列による筋負荷の変動のいずれか一方またはその双方を同時に表示させるものである請求項3に記載の介護動作適正化支援システム。
【請求項6】
前記処理部は、模範的な介護動作および比較対象の介護動作の双方における同じ時系列による筋負荷の変動を比較するとともに、比較対象の介護動作における筋負荷の変動が模範的な介護動作における筋負荷の変動と相違する領域を検出するものであり、前記表示部は、前記介護動作の映像もしくは時系列による筋負荷の変動のいずれか一方またはその双方に併せて前記処理部の検出結果を識別可能に表示するものである請求項5に記載の介護動作適正化支援システム。
【請求項7】
前記映像取得部は、介護者または介護従事者の任意の関節または部位の移動軌跡に基づいて介護動作を映像化するものである請求項1~6のいずれかに記載の介護動作適正化支援システム。
【請求項8】
特定の測定対象者を選択するステップと、
測定値取得部により取得される測定値を入力するステップと、
入力された測定値と筋力限界値記憶部に記憶される筋力限界値とを比較し、筋力限界値に対する測定値の割合によって特定される筋負荷を算出するステップと、
映像取得部により取得される映像を入力するステップと、
映像取得部により取得される映像および時系列による筋負荷の変動を表示部に出力するステップと、
筋負荷について、基準値との比較、標準的な変動との比較、変動割合および最高値の中から選択される1以上の評価基準について評価するステップと、
表示部に対し評価結果を識別可能な表示情報として出力するステップと
をコンピュータに実行させることを特徴するプログラム。
【請求項9】
特定の測定対象者を選択する入力するステップと、
測定値取得部により取得される測定値を入力するステップと、
測定値を前記測定値記憶部に記憶するステップと、
映像取得部により取得される映像を入力するステップと、
映像を映像記憶部に記憶するステップと、
測定値記憶部および映像記憶部に記憶される複数の測定値および映像の組合せの中から、測定対象者の測定値および映像の組合せを1以上選択するステップと、
測定値記憶部に記憶される選択された1以上の測定値について筋力限界値記憶部に記憶される筋力限界値と比較し、筋力限界値に対する測定値の割合によって特定される筋負荷を算出するステップと、
映像記憶部に記憶される選択された1以上の映像および測定値から算出された1以上の時系列による筋負荷の変動を表示部に出力するステップと、
選択された1以上の筋負荷について、基準値との比較、標準的な変動との比較、変動割合および最高値の中から選択される1以上の評価基準について評価するステップと、
表示部に対し評価結果を識別可能な表示情報として出力するステップと
をコンピュータに実行させることを特徴するプログラム。
【請求項10】
請求項9に記載のプログラムは、さらに、
比較対象となる測定値および映像を測定値記憶部および映像記憶部に記憶するステップと、
測定値記憶部および映像記憶部に記憶される比較対象となる測定値および映像の組合せを1以上選択するステップと、
測定値記憶部に記憶される比較対象となる測定値に基づいて比較対象の筋負荷を算出するステップと、
映像記憶部に記憶される比較対象となる映像および比較対象の時系列による筋負荷の変動を表示部に出力するステップと、
比較対象と測定対象者の筋負荷の変動を比較して相違する領域を検出するステップと、
表示部に対し検出結果を識別可能な表示情報として出力するステップとをコンピュータに実行させるものであるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、介護動作教育支援プログラムに関し、特に、介護者または介護従事者による介護動作の状態を判定するためのシステムおよび当該システムに使用するプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
介護者、介護従事者または介護動作訓練者(以下、介護者等と略称する場合がある)は、被介護者を介護する際、各種の介助行為を行うこととなるが、比較的低負荷である食事介助のほかに、入浴介助、排泄介助、移乗介助や寝返り介助など高負荷の介護動作を伴うこととなっていた。これらの高負荷となる介護動作は、経験によって負荷を軽減させる姿勢を身に付けることができるものとされているが、経験を重ねる途上において高負荷のために心身に異常を来すことがあり、介護現場における労働力不足や、家庭における介護疲れなど、深刻な状況を招来させることとなっている。
【0003】
実際に、各種介護動作を繰り返すうちに、徐々に関節に痛みを感じるようになり、特に腰痛は介護従事者の職業病と言われるほどに常態化している。介護従事者に発症する腰痛は、脊柱起立筋に対する負荷が原因と考えられ、移乗介助や寝返り介助など脊柱起立筋を使用する介護動作に際して、自身の筋力の限界(限界筋力)に達する負荷を受けることにより、腰部を支える筋力の疲労によって通常時においても痛みを感じる状態となるものと考えられている。
【0004】
そこで、介護現場における負荷を軽減させるための支援器具やパワーアシスト装置などが開発され、介護者等の負担を軽減させ得る装置が提案されているところであるが、腰痛を代表とする身体的な不調の原因を回避させるための介護姿勢の状態を検知する装置は開発されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、介護従事者の負荷を可視化するためのシステムも開発されている(特許文献1参照)。しかしながら、この技術は、介護従事者が受ける負荷のうち、労働負荷に着目したものであり、具体的な介護姿勢に着目したものではなかった。また、当該技術は、介護従事者を撮影して姿勢情報や関節情報を取得し、筋電位を測定することなどが開示されている。
【0007】
上記技術において撮影される映像および筋電位は、いずれも介護従事者の労働負荷を算出する指標のための情報であり、介護姿勢そのものの負荷状態を検出するものではなかった。すなわち、撮影された映像は、腰の位置が通常の位置よりもかなり低い(例えば、床から50cm)場合には、身体的負荷が通常の150%として労働負荷を算出し、筋電位は測定部位が特定されず1~複数の筋電位計で計測し、労働負荷を算出することとしており、筋電位に代えて、心拍数や呼吸量、呼吸数、心電図等を測定して労働負荷を算出してもよいものとされている。
【0008】
他方、介護動作を技術訓練する際には、標準動作(模範的な介護動作)のイラストやビデオ映像などを視聴し、真似ることからスタートし、指導者が経験に基づく助言を行いつつ、これらを繰り返すことによって技能を獲得することが一般的である。しかし、指導者の助言は言語的表現にとどまることから、必然的に限界があり、客観的な情報に基づく指導が求められるものとなっていた。介護動作にかかる技能習得途上者が、自身の介護動作を自身で確認するためには、ビデオカメラ等で記録した自身の介護動作の動画を見ることが一般的であった。
【0009】
ところが、自身の介護動作をビデオカメラ等に記録して動作確認を行う場合には、手動によって再生するため、問題となるべき動作の発見が容易でなかった。そのため、効率よく再生箇所を記録するための技術として、行動履歴記録システム(特許文献2参照)が開発されている。この技術は、ビデオカメラによる記録と同時に、パソコン上で再生すべき場面の時刻を入力し、当該時刻をリスト化するものである。従って、時刻のリストに基づき、対応するビデオ映像と同期して再生することができることから、効率的に所望の場面を際できる点で優れた技術であった。しかし、介護動作の撮影・再生に使用する場合には、所望の場面の入力は観察者(撮影者)の判断により操作されるため、手間が掛かるうえ再生場面の指定は観察者の力量に左右されるものとなっていた。
【0010】
また、動作時に使用する筋肉の負荷状態を客観的に把握する手法としては、筋電位計を使用し、当該筋肉の筋電図を計測し、筋負荷の値を求めるのが一般的である。このとき、筋負荷を求めるためには、その筋肉を使用するときの最大値(いわゆる最大随意収縮力(MVC:Maximum Voluntary Contraction))の筋電図の振幅を計測し、当該振幅に対する動作時の筋電振幅の割合(%MVC))を計算することが知られている。ところが、継続的に使用される介護動作時の筋肉における筋負荷(%MVC)を計算するためには、同一人物の同定が必須となり、MVCおよび動作時の筋電図を記録したうえで演算しなければならず、非常に煩瑣なものであった。
【0011】
このように、前掲の技術(特許文献1)は、介護従事者の労働負荷の平準化のために、当該労働負荷の算出根拠として腰の位置の高さや筋電位を計測するものであるが、介護者等が身体的に故障することなく、長期にわたって介護に関与し得るためには、個々の介護者等による介護動作を適正な状態に改善することが重要であり、そのための介護動作を客観的に確認でき、また、介護動作による筋負荷の状態を客観的に判定する装置の開発が切望させているところであった。
【0012】
本発明は、上記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、個々の介護者等が行う介護動作において、筋負荷の状態を客観的に把握し、自己の介護動作を確認し得る支援システムおよびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本願の発明者らは、鋭意研究の結果、介護動作の適正化を支援するためのシステムと、そのためのプログラムを開発するに至った。
【0014】
すなわち、介護動作適正化支援システムに係る本発明は、介護者、介護従事者または介護動作訓練者が介護動作において使用する任意に定めた筋力の負荷状態を検出することにより、介護動作の適正化を支援するためのシステムであって、任意に定める測定対象の筋肉を使用するときの使用筋力の状態を所定の数値として測定する筋力測定部と、前記筋力測定部により所定の数値として測定される測定値を計測的に取得する測定値取得部と、介護動作の映像を取得する映像取得部と、前記測定対象の筋肉における最大筋力を予め測定した筋力限界値を記憶する筋力限界値記憶部と、前記測定値取得部、映像取得部および筋力限界値記憶部に記憶される各情報に基づき、前記筋力限界値に対する前記測定対象の筋肉に対する測定値の割合で特定される筋負荷を算出し、算出された筋負荷の時系列による筋負荷の変動を出力するとともに、該筋負荷について、基準値との比較、標準的な変動との比較、変動割合および最高値の中から選択される1以上の評価基準について評価する処理部と、前記映像取得部によって取得される情報に基づく時系列による介護動作の映像、もしくは前記処理部によって出力される時系列による筋負荷の変動のいずれか一方またはその双方を表示するとともに、前記処理部による評価結果を識別可能に表示する表示部とを備えることを特徴とする。
【0015】
上記構成によれば、介護者、介護従事者または介護動作訓練者が、介護のために行う一連の動作(介助動作)を映像として取得し、同時に任意の測定対象とした筋肉の筋負荷を時系列に取得し、介護動作による姿勢の変化と筋負荷の状態を同時に表示できる。また、基準値との比較、標準的な変動との比較、変動割合および最高値の中から選択される1以上の評価基準を得ることにより、例えば、基準値を超えた高負荷な状態となる介護動作、不自然な筋負荷の変動となる介護動作、急激な筋負荷となる介護動作、最も筋負荷が大きくなる介護動作などを確認することができ、そのような介護動作を適正な介護動作に修正するための目安となり得る。これらの表示はリアルタイムで表示できることから、介護現場においては介護の実行中に確認することができ、介護動作の訓練中においては、指導者が表示部の表示内容を確認することにより、適時に指導することが可能となる。また、指導者でなく介護動作訓練者同士であっても指摘することが可能となるため、相互に指摘することができるほか、他者の介護動作の不適格な部分を見て自ら改善方法を検討するために利用することも可能となる。従って、上記のような目安に沿って介護動作を変化させつつ、繰り返し測定することにより、筋負荷を軽減させた適正な介護動作のための技能を獲得することができる。
【0016】
なお、測定対象として任意に定める筋肉としては、個々の骨格、肉体的または体力的な特徴によって異なることが予想されるが、一般的に腰痛を意識する場合には、脊柱起立筋(いわゆる背筋)を測定対象とすることとなる。この場合、特に腰腸肋筋の使用時筋力を限界未満、特に筋力限界値の80%以下の筋負荷であれば、腰部に作用する負担を軽減させることができることから、時系列による筋負荷の変動を確認し、筋負荷が80%以上となる介護動作を回避するように誘導することが可能となる。また、負担の少ない介護動作とは、当該測定対象となっている箇所の周辺(近傍)における姿勢等に限らず、介護動作時における手足の位置や、利き側の手足の使用頻度など、介護者等の全身の状態から判断される動作や姿勢である。そのため、自身の癖などにより、動作し易い姿勢であっても、筋負荷の状態が不適正となっている場合をも判定できることから、長期的な介護の前に未然に身体的故障を回避することの一助となり得る。
【0017】
上記構成の発明において、前記処理部は、該処理部によって算出される筋負荷について、評価の基準を予め設定された複数の段階的な評価に区分するものであり、前記表示部は、前記段階的な評価に区分された結果を識別可能に表示するものとすることができる。
【0018】
上記構成によれば、評価基準、すなわち、筋負荷について、基準値との比較、標準的な変動との比較、変動割合および最高値などが、単純に適否として判断するのではなく、複数の段階的な評価となることから、極端に不適正な介護動作のほかに、注意すべき介護動作などを確認することが可能となる。そのため、極端に不適正と評価される介護動作から修正し、徐々に他の介護動作についても修正することにより、全体として介護動作を適正な状態に誘導することができる。ここで、「段階的な評価」とは、例えば、基準値との比較については、算出される個々の筋負荷が基準値(使用時限界として80%など)からの逸脱の程度によるもの(例えば、80%未満、80~85%、85~90%、90~95%、95%超など)とすることができ、標準的な変動との比較にあっては、時系列により変動する筋負荷から筋負荷変動曲線を作成し、模範的な介護動作における筋負荷変動曲線と測定者の筋負荷変動曲線とを比較することにより、筋負荷の逸脱の状態(例えば、筋負荷が小さくなる方向への逸脱と大きくなる方向への逸脱など)とすることができる。また、変化割合にあっては、同様に測定者の筋負荷変動曲線を作成し、筋負荷の変動が急峻な状態を曲線の傾斜角(傾き)の程度によるものとすることができる。
【0019】
また、上記構成の発明において、前記測定値取得部により取得された測定値を記憶する測定値記憶部と、前記映像取得部により取得された映像を記憶する映像記憶部とを備え、前記測定値記憶部および前記映像記憶部のそれぞれは、介護者、介護従事者または介護動作訓練者ごとに、1または複数の介護動作における測定値および映像を個別に記憶するものであり、前記表示部は、前記介護動作の映像もしくは時系列による筋負荷の変動のいずれか一方またはその双方について、前記1または複数の介護動作を任意の組合せにより同時に表示させるものであるものとすることができる。
【0020】
上記構成によれば、介護者等による介護動作の状態を再生することができるため、介護者等が自身の介護動作の状態を目視によって確認することができる。このとき、表示部には、介護状態の評価が併せて表示されることから、介護者等が自身で感じる負荷の感覚と、客観的な筋負荷の状態とを比較することができるため、無意識による高い筋負荷状態である介護動作を覚知することが可能となる。また、リアルタイムで指摘された事項を自身の状態を目視しつつ再確認するように使用することもできるものとなる。さらに、介護者等による複数の介護動作による測定値を比較し負荷の状態を判定することにより、変更した介護動作が従来の介護動作と比較したときの良否を確認することができる。これにより、介護動作の変更による効果を反映させ、低負荷となる介護姿勢の実現を目指すことができる。なお、表示部に表示させる組合せは任意に選択し得ることから、複数の介護動作を表示させる場合には、映像のみを表示させて比較するほか、時系列による筋負荷の変動のみを表示させて比較することも可能となる。当然ながら、複数の映像と筋負荷の変動を同時に表示させ、筋負荷が小さくなる動作のみを確認して連続的な低負荷の介護動作をイメージするために使用してもよい。
【0021】
さらに、前記処理部は、前記複数の同一介護動作のそれぞれについて、各介護動作おける測定値から算出される筋負荷の合計値または平均値をそれぞれ算出するとともに、該合計値または平均値が最小となる介護動作を選定するものであり、前記表示部は、前記処理部により使用筋力の割合の合計値または平均値が最小となるものとして選定された介護動作にかかる映像もしくは時系列による筋負荷の変動のいずれか一方またはその双方を表示するとともに、任意に選択された比較対象の介護動作にかかる映像もしくは時系列による筋負荷の変動のいずれか一方またはその双方を併せて表示するものとすることができる。
【0022】
上記構成によれば、一連の同一介護動作による複数の測定値から算出される筋負荷(筋力限界値に対する測定値の割合(%)の数量的値)を介護動作ごとに合計値または平均値を算出することにより、複数の介護動作の全体における筋負荷の状態を比較することができる。そして、比較した際に筋負荷の合計または平均が最も小さくなる介護動作は、全体として良好とみなすことができることから、同一の介護者等による複数の介護動作の中から最も負荷の小さい介護動作を確認し、当該介護動作を基準として、さらに適正な介護動作となるように細部における動作を変更するための指標として使用することができるものとなる。なお、筋負荷の合計値を比較する場合、筋負荷の算出回数が異なる場合は、当然ながら合計値が比較対象とならないため、平均値を使用することとなるが、筋負荷の算出回数が一致する場合には、合計値で比較することが好ましい。これは平均値の場合には筋負荷がない状態(休止状態)によって大きく変動するためである。
【0023】
複数の介護動作における測定値および映像を個別に記憶する構成の前記発明において、前記複数の介護動作には、模範的な介護動作を含み、模範的な介護動作と他の介護動作とを比較するものであって、前記表示部は、模範的な介護動作および比較対象の介護動作にかかる前記介護動作の映像もしくは時系列による筋負荷の変動のいずれか一方またはその双方を同時に表示させるものとすることができる。
【0024】
上記構成の場合には、介護者等による介護動作と模範的な介護動作とを比較しつつ表示させることができ、介護者等の自身の介護動作を模範的な介護動作とで相違する部分を目視で確認することができる。このときの模範的な介護動作は、長年の介護経験者のうち腰部その他の身体的部位について故障しない者によるものが想定されるが、論理的に理想とされる動作を予めCG化したものであってもよい。模範的な介護動作との比較により、特に筋負荷が大きくなる動作の注意点等につき視覚を通じて明瞭に把握することが可能となる。
【0025】
上記構成の発明にあっては、前記処理部は、模範的な介護動作および比較対象の介護動作の双方における同じ時系列による筋負荷の変動を比較するとともに、比較対象の介護動作における筋負荷の変動が模範的な介護動作における筋負荷の変動と相違する領域を検出するものであり、前記表示部は、前記介護動作の映像もしくは時系列による筋負荷の変動のいずれか一方またはその双方に併せて前記処理部の検出結果を識別可能に表示するものとすることができる。
【0026】
上記構成によれば、介護動作における筋負荷の状態が、模範的な介護動作の場合との比較における相違点を確認することが容易となる。これは、介護動作の途中において、外形上は筋肉の使用の程度が不明である場合にも筋力の発揮の程度を比較することができる。すなわち、外形上は腕が動いていない状態であっても、力を入れている場合と力を入れない場合があり、介護動作の特定の状態における力の入れ具合を比較・確認することができ、また、力を入れるタイミングなども確認することができる。
【0027】
なお、上記構成の発明において、前記映像取得部は、介護者、介護従事者または介護動作訓練者の任意の関節または部位の移動軌跡に基づいて介護動作を映像化するものとすることができる。この場合には、介護姿勢の確認に不必要な要素(例えば、介護者自身の表情や被介護者の状態など)を排除し、介護に必要な要素のみをチェックし、目標とする介護姿勢を客観的に把握することができる。
【0028】
他方、データ処理のためのプログラムに係る本発明は、特定の測定対象者を選択するステップと、測定値取得部により取得される測定値を入力するステップと、入力された測定値と筋力限界値記憶部に記憶される筋力限界値とを比較し、筋力限界値に対する測定値の割合によって特定される筋負荷を算出するステップと、映像取得部により取得される映像を入力するステップと、映像取得部により取得される映像および時系列による筋負荷の変動を表示部に出力するステップと、筋負荷について、基準値との比較、標準的な変動との比較、変動割合および最高値の中から選択される1以上の評価基準について評価するステップと、表示部に対し評価結果を識別可能な表示情報として出力するステップとをコンピュータに実行させることを特徴する。
【0029】
上記構成によれば、コンピュータを使用して、任意の筋肉における筋負荷を測定値により算出し、その評価を自動化することができる。一連の介護動作全体について逐次の筋負荷を表示させることができることから、リアルタムによる介護動作の状態を確認することが容易となる。
【0030】
また、データ処理のためのプログラムに係る他の本発明は、特定の測定対象者を選択する入力するステップと、測定値取得部により取得される測定値を入力するステップと、測定値を前記測定値記憶部に記憶するステップと、映像取得部により取得される映像を入力するステップと、映像を映像記憶部に記憶するステップと、測定値記憶部および映像記憶部に記憶される複数の測定値および映像の組合せの中から、測定対象者の測定値および映像の組合せを1以上選択するステップと、測定値記憶部に記憶される選択された1以上の測定値について筋力限界値記憶部に記憶される筋力限界値と比較し、筋力限界値に対する測定値の割合によって特定される筋負荷を算出するステップと、映像記憶部に記憶される選択された1以上の映像および測定値から算出された1以上の時系列による筋負荷の変動を表示部に出力するステップと、選択された1以上の筋負荷について、基準値との比較、標準的な変動との比較、変動割合および最高値の中から選択される1以上の評価基準について評価するステップと、表示部に対し評価結果を識別可能な表示情報として出力するステップとをコンピュータに実行させることを特徴する。
【0031】
上記構成によれば、複数の介護動作における測定結果に基づいて、介護者等ごとの評価を行うことができる。同時に複数の情報を表示させることも可能となる。複数の測定値および映像の組合せの中から任意に選択して表示させることができることから、直近の介護動作の状態のみを表示させることはもちろんのこと、他の介護動作と直近の介護動作とを比較することも自動化することができる。
【0032】
上記構成のプログラムにあっては、さらに、比較対象となる測定値および映像を測定値記憶部および映像記憶部に記憶するステップと、測定値記憶部および映像記憶部に記憶される比較対象となる測定値および映像の組合せを1以上選択するステップと、測定値記憶部に記憶される比較対象となる測定値に基づいて比較対象の筋負荷を算出するステップと、映像記憶部に記憶される比較対象となる映像および比較対象の時系列による筋負荷の変動を表示部に出力するステップと、比較対象と測定対象者の筋負荷の変動を比較して相違する領域を検出するステップと、表示部に対し検出結果を識別可能な表示情報として出力するステップとをコンピュータに実行させるものとすることができる。
【0033】
上記構成によれば、比較対象との間で筋負荷の変動を比較することを自動化できることとなる。この場合の比較対象は介護者等の介護動作を比較するものであってもよいが、模範的な介護動作との比較であってもよく、いずれの場合においても既に記憶させているものであれば、それぞれの比較を自動化することができる。
【発明の効果】
【0034】
介護動作の適正化支援システムに係る本発明によれば、介護者等介護動作における筋負荷の状態が表示され、同時に、筋負荷について、基準値との比較、標準的な変動との比較、変動割合および最高値などの評価基準による評価結果を表示させることにより、介護者等が行う介護動作における筋負荷の状態を客観的に把握できるほか、介護者等が自ら目視による確認ができる。特に、介護者等による任意の測定対象の筋肉について、介護者等ごとに算出される筋負荷を確認できることから、介護者等の個人の筋肉量に応じた筋負荷を測定し得ることとなる。
【0035】
また、介護動作の映像とともに時系列による筋負荷の変動について、複数の介護動作を比較できることから、自己の行う介護動作の適否を他の介護動作との比較において判断し得ることとなる。なお、プログラムにかかる本発明によれば、コンピュータを使用して処理することにより、筋負荷の算出および映像等の再生について自動化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】介護動作適正化支援システムに係る実施形態の概要を示す説明図である。
【
図2】介護動作適正化支援システムの使用態様を示す説明図である。
【
図3】リアルタムに処理する場合の処理手順を示す説明図である。
【
図4】記憶された情報を処理する場合の処理手順を示す説明図である。
【
図7】介護動作適正化支援システムに係る実施形態の変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。まず、介護動作適正化支援システムに係る発明の実施形態について説明する。
【0038】
<介護動作適正化支援システムの構成>
図1は、介護動作適正化支援システムに係る実施形態の概要を示すブロック図である。本実施形態は、この
図1に示すように、概略として、筋力測定部1、映像取得部2、入力部3および処理装置4によって構成されている。また、処理装置4には、処理部5および表示部6が設けられ、入力される各種データ処理した結果を表示させることできるものである。
【0039】
筋力測定部1としては、筋電位計(筋電センサ)を用いるものとしており、介護者等の特定部位の筋電位を測定するため、当該特定部位の表面に電極を貼着して測定するものである。筋電位計は、二箇所に設置される電極の電位差を計測するものであり、経時的な振幅による高周波形として計測されるものであり、量的要因として振幅を用いて筋電位を測定するものである。この場合の振幅を筋電位として入力する方法には、RMS(Root Mean Square)の値またはARV(Average Rectified Value)の値として一定の時間またはサンプル数を設定して算出する方法がある。本実施形態では、RMSの値を使用することとし、計測値取得部11においてMRS値を継続的に時系列として入力させるものとしている。また、この場合の筋力限界値は、いわゆる最大随意収縮力(MVC:Maximum Voluntary Contraction)である。
【0040】
筋負荷は、表面筋電図解析において、MVCに対する測定対象の筋電位(RMS)割合によって算出することができる。すなわち、MVCの値を100%とするときのRMSの割合(%MVC)を算出することにより、筋力限界値に対する使用筋力の程度(筋負荷)を特定することができるものとなるのである。このとき、筋負荷の程度を評価するため、例えば、算出された割合について、80(%MVC)を第1次の閾値とし、80(%MVC)未満の筋負荷状態は正常な筋負荷としつつ、80(%MVC)以上の筋負荷状態を不適当な筋負荷状態とすることができる。さらに、この不適当な筋負荷状態について、例えば、80~85(%MVC)、85~90(%MVC)、90~95(%MVC)、95(%MVC)超などのように複数の範囲に段階的に区分することにより、評価時における筋負荷の状態をさらに詳細に評価することも可能となる。上記数値は例示であって、適宜段階的な範囲を任意に設定することができる。
【0041】
ところで、最大随意収縮力(MVC)は、筋電位計によって計測されるものであるが、介護者等とごとに異なること、および測定時ごとに検出電位が異なることから、筋電位の測定時の直前に測定される。このとき、測定状態を記録し再度確認する差の便宜等のために測定対象者(介護者等)を特定するID等を入力するものとすることができる。これらの入力のために入力部3を使用することができるものとなっている。なお、入力部3は、キーボード入力のほかに、QRコード(登録商標)や顔認証等による入力のための画像取得装置を用いてもよい。また、入力部3の入力は、上記ID等のほか、測定日、測定対象の部位などを入力し、表示部6に対する構成を選択する場合にも使用できるものである。
【0042】
当然のことながら、測定対象の筋肉について使用時の筋力(筋負荷)の測定方法については、筋電位計以外の方法によるものであってもよい。このような場合は、上記以外の数値を使用してもよい。いずれにおいても、筋力限界値に対する測定対象の筋肉に係る使用筋力の程度を特定することにより、介護者等が介護動作を行う際の測定対象に係る筋負荷の程度を得ることができる。
【0043】
映像取得部2としては、カメラを用いるものとしている。カメラによる介護者等の撮影は、介護者等の一連の動作における各部の状態が撮影できるものであればよく、通常画像のほかにモーションキャプチャによる映像であってもよい。この映像取得部2で取得される映像は、筋力の使用状態と関連付けて再生することにより、介護者等が不適格な筋力使用となっているときの介護動作を確認することができるものとなる。
【0044】
本実施形態における処理装置4は、各種の記憶部41~45を備えており、測定値記憶部41は、前述の筋電位計1によって計測される筋電位のRMS値を時系列に記憶するものであり、映像記憶部42は、カメラ2によって撮影される介護者等の映像を記憶するものである。また、筋力限界記憶部43は、直前に測定された最大随意収縮力(MVC)の値を記憶するものである。なお、算出結果記憶部44は、処理部5により算出された筋負荷(MVCに対する測定値(RMS値)の割合(%MVC))を記憶するものであり、判定結果記憶部は、表面筋電図による特定比率(例えば80%MVCなど)の閾値や区分に対する判定結果を記憶するものである。
【0045】
処理部5は、演算部51、判定部52および合成部53および出力部54に区分されるものである。演算部51は、最大随意収縮力(MVC)に対するRMS値の割合(%MVC値)の変化状態、すなわち時系列による筋負荷の変動状態を算出するものである。この演算部51による算出結果は、前述の算出結果記憶部44に記憶されるものである。判定部52は、最大随意収縮力(MVC)に対するRMS値の割合(%MVC)が、一時的な閾値(例えば80%MVC)を超えているか、また個別に設定した複数の段階的な評価範囲の属否など、特定の指標に基づく評価を実行するものである。筋負荷の状態が算出されると、特定の指標に基づいて評価し、前述の判定結果記憶部45に記憶されるものである。
【0046】
処理部5における合成部53は、表示部6に表示するための各種の情報を調整するものであり、基本的には、介護者等の時系列の映像情報と、演算部51により算出された筋負荷(%MVC値)の時系列情報とを、同じ時間軸で調整しつつ、表示部6に同時に表示させるように画面を合成するものである。合成された画像データは出力部54を介して表示部に出力されるものである。なお、表示画面の合成を行うためのものであるから、複数の映像のみ、または複数の測定値を並列に表示させることも可能である。従って、異なる介護者等や同一の介護者等による異なる動作を同時に表示させるように合成する際にも機能するものである。合成すべきメニューは予め想定されたものとし、これらの表示メニューから選択されるものである。これらの選択は前述の入力部3による入力によって選択可能としている。合成部は、上記機能を有することから、リアルタイムで表示させる場合には、上記合成部を介さずに表示させることも可能である。すなわち、リアルタイムで表示させる場合には、映像は映像取得されたものを直接表示部に出力し、経時的な映像として表示し、これと並行して、測定される筋電位に基づく筋負荷(%MVC)を逐次演算しつつ、その値を経過する時間軸に沿って出力させることにより、筋負荷変動曲線として表示させるものである。
【0047】
表示部6は、出力部54から出力される画像データを表示するものであり、その画像データは、合成部53によって調整された時系列の画像情報および時系列による筋負荷の変動のいずれか一方、または双方を同時に表示し、さらに他の情報を合成しつつ表示するものである。表示画面上には、表示される情報に対し、評価結果が併せて表示させるものとしている。判定部52によって判定された情報を合成部53によって合成したうえで、表示部6に出力されるものであるが、出力部54を介して画像データとは異なる出力を出力するものであってもよい。具体的には、時系列による筋負荷の変動の表示部分に対して、当該表示部分の適宜範囲を色分けするための表示色のデータを出力するのである。
【0048】
なお、処理部5の判定部52は、計測時間中(介護動作)の全体における筋負荷の全般における負荷状態を判定する機能を有するものとすることができる。例えば、筋負荷の数値の合計や全体の平均値などを算出し、これらの指標の中から1以上の項目を予め任意に選択しておき、その指標に基づいて全体動作に係る介護姿勢の負荷状態を判定させるのである。全体的な負荷状態を判定することにより、同一の介護者等における同一介護動作を比較することができ、介護者等による介護動作の改善の程度を計る目安とすることができる。
【0049】
<介護動作適正化支援システムの使用態様>
次に、介護動作適正化支援システムの使用態様について説明する
図2は本システムを使用した際の表示部に表示される状態を示す。すなわち、
図2(a)は、単一の介護者等による単一動作を、時系列に表示させる状態を示している。各種の姿勢における使用筋負荷値(%MVC)が同時に表示されることから、介護者等の特定の姿勢の際に高負荷となっているかを判断することができる。特に警報出力情報が表示されることにより、高負荷状態となっている範囲における姿勢を目視で確認できることから、介護者等が自ら不適切な姿勢を確認し、姿勢を変更する動機を与える契機となり得る。
【0050】
また、
図2(b)は、介護者等による2つの映像であって、同一動作を行った場合における映像を同じ時間軸により、同時に表示させる状態を示している。このような表示の場合には、同一人物が同じ動作を行った場合と、異なる人物が同じ動作を行った場合とがあり得る。同一人物の場合は、同じ介護動作でありながら、重心の位置や関節の曲げ具合などの要素を変化させた(姿勢を変化させた)状態により、筋力測定と撮影を行うことで、筋力負荷の高低を示す姿勢(各種の要素の状態)から、使用筋力が低負荷となる姿勢を見出すことができる。他方、異なる人物の場合には、同じ介護動作において、使用筋力が低負荷となっている人物の映像と、測定対象者の映像とを比較することができ、各要素の異同を確認することができる。この場合には、映像がモーションキャプチャによるものであれば、各要素に特化した状態を容易に比較し得ることとなる。
【0051】
さらに、
図2(c)は、上記の2つの映像に筋力変化の状態を重ねて表示した状態を示している。使用筋力の測定値が、同じ時間軸により、同一グラフ上に表示されることにより、かつ、2つの測定値を区別して表示することにより、大きく異なるタイミングを確認することができる。そして、その範囲の映像を再生する際には、映像のみを表示させれば、具体的な姿勢(各要素の状態)の差違を把握することができる。
【0052】
このように、本実施例の使用状態は、介護動作中に警報を発するのではなく、あくまでも一連の動作を終了させた後に、その一連の動作の中で使用筋力が高負荷となる姿勢を確認するために使用されるものである。すなわち、介護動作の途中において高負荷状態を警報されたとしても、介護動作を中断することは現実的ではなく、また、急激な筋力負荷の変化はかえって関節等を痛める原因となり得る。そこで、一連の動作を完了させた(介護を実行した)後に、介護動作の中の特定の姿勢における使用筋力の負荷状態を確認することで、該当する姿勢を意識しつつ、その後の介護動作に役立てるものである。
【0053】
<プログラムの実施形態>
上記に示した介護動作適正化支援システムにおける処理部5による処理手順はコンピュータによって処理することができる。この場合の処理手順について説明する。
図3は、リアルタイムに測定状態を表示する場合の処理手順の一例を示す。この図に示されているように、処理が開始されると、まず、測定対象者の入力を受け、測定対象者を特定する(測定対象者入力ステップ、S100)。未登録者の場合には、測定対象者の登録を行うこととなるが、ここでは省略している。
【0054】
筋負荷の算定のための筋電位の計測と映像取得は同時に開始され、それぞれ同期しつつ時系列に処理がなされる。映像については、映像取得部によって取得される映像が入力され(映像入力ステップ、S101)、入力される映像情報を、加工することなく表示部に出力する(映像出力ステップ、S102)。
【0055】
他方、筋電位の入力に際しては、予め測定されている測定対象者の筋力限界値(最大随意収縮力(MVC))が読み出される(S111)。筋力限界値(最大随意収縮力(MVC))は、測定時ごとに直前に計測され、測定対象者の情報とともに一時的に記憶部に記憶されたものを読み出すものとなる。入力される測定値(RMS)との比較の準備なされる。そして、測定値が入力されると(測定値入力ステップ、S112)、筋力限界値との比較により筋負荷(例えば%MVC)が算出される(筋負荷算出ステップ、S113)。算出された筋負荷は、前記映像の出力と同期させて同じ時系列によって表示部に出力される(筋負荷変動出力ステップ、S114)。
【0056】
この処理に続けて、算出された筋負荷の値が1次閾値と比較され、その閾値を超えるものであるか否かが判断され(第1評価ステップ、S115)、閾値を超えない場合は、表示部に特定色の表示をしないこととして出力される(第1出力ステップ、S116)。1次閾値を超える場合は、次の閾値(第2の閾値)が設定されている場合と設定されていない場合とが判断される(S117)。次の閾値が設定されていない場合は、当該筋負荷の値が表示される領域に対して所定色を表示するように出力される(第2出力ステップ、S118)。なお、筋負荷の算出結果は時系列に表示されるため筋負荷変動曲線の状態で表示されることから、当該筋負荷変動曲線の所定範囲を特定色とするように表示されることとなる。他方、次の閾値(第2の閾値)が設定されている場合は、筋負荷の値が次の閾値と比較され、その閾値を超えるものであるか否かが判断される(第2評価ステップ、S119)。この閾値を超えない場合には、所定の色に表示するように表示部に出力される(第3出力ステップ、S120)。さらに、次の閾値の設定の有無(S117)および閾値との比較(S119)が繰り返され、その都度、異なる特定色が指定され、表示部に出力される(S118、S120)。これらの特定色の表示は、筋負荷変動曲線に対して処理されるが、映像画面において、その都度識別可能な位置に色彩表示をすることでもよい。
【0057】
なお、上記処理は、終了操作が入力されるまで継続し(S103、S121)、終了操作が入力されることにより、終了することとなる。
図4は、既に計測され記憶部に記憶される情報を表示させる場合の処理手順である。基本的には、リアルタイムで表示する場合と同様であるが、記憶部からの情報の読み出しステップが追加される点で異なる。まず、処理が開始されると、測定対象者の情報の選択情報を入力し(S100)、また、表示対象の選択が入力される(選択ステップ、S200)。この選択により、映像情報の処理にあっては、表示すべき映像の情報が読み出され(映像入力ステップ、S201)、これを表示部に出力する(S101)。他方、筋電位の処理にあっては、表示すべき対象の測定値が読み出され(S211)、同時に筋力限界値も読み出され(S111)、測定値を時系列で入力されることにより(S112)、筋力限界値との比較による筋負荷が算出されることとなる(113)。これ以降の処理手順はリアルタイムによる場合(
図3)と同様である。
【0058】
なお、図示を省略しているが、記憶部に記憶される情報を複数選択する場合には、
図4の表示対象の選択ステップ(S200)において、複数の表示対象を選択することにより、複数の情報が並列的に処理されるものとなる。画面に対する出力は
図4と同様であり、画面上において、複数の表示内容が分割して表示されるものとなる。
【0059】
<負荷状態の表示方法の例示>
ところで、使用筋力の負荷状態(筋負荷の状態)については、種々の指標を用いることができる。例えば、上述のように、最大随意収縮力(MVC)に対するRMS値の割合(%MVC)がある。上記のとおり、最大随意収縮力(MVC)は、筋電位計によって計測される数値であり、測定対象の介護者等における特定部位の筋肉に対する皮膚表面で計測され、最も当該筋肉を収縮させたとき値である。従って、この最大随意収縮力(MVC)は、当該筋肉の限界筋力と位置づけられる。その値に対して所定の割合(1以上の閾値)を設定し、これを超える筋力を使用する場合には、負荷が大きいと判断できる。また、これとは別に(またはこれと同時に)、%MVCの変化が著しい場合には、筋力変化も大きい状態であり、筋肉の伸張・収縮が極端であることから、部位によっては、筋肉によって可動させる関節に対する負荷も大きいことが想定される。そこで、%MVCの変化状態を検出して、これが著しい場合、特に急激に上昇する場合の勾配(増加割合)についても境界点(例えば、1秒間に3倍以上の増加率など)を設定し、その境界よりも増加率が大きいときに、関節に対する負荷が大きくなるものと判断することができる。そして、これらの筋負荷の状態を検出するとき、筋力測定結果の時系列表示中に表示させることで、測定対象者が当該部分を識別し得る状態となるのである。
【0060】
そこで、
図5は、上記の状況における1つの閾値により評価した場合の表示の状態を示す。
図5(a)は、最大随意収縮力(MVC)に対するRMS値の割合(%MVC)を指標として評価する場合を示し、
図5(b)は、急激な%MVCの変化状態を指標として評価する場合を示している。
図5(a)に示されているように、1つの閾値として、大随意収縮力(MVC)に対するRMS値の割合(%MVC)を80%MVCとした場合の例示であり、この閾値を超える範囲が帯状に色分け(図は網掛け)されて表示されるものとしている。この閾値(80%MVC)は、任意に調整でき、処理部5の判定部52による判定基準を変更することにより、測定時における閾値を変更し、表示設定を変更することにより、表示時における表示上の閾値を変更することができる。
【0061】
他方、
図5(b)に示されている急激な%MVCの変化状態を指標とする表示の場合には、%MVCの変化割合(グラフ上に表示される筋負荷変動曲線の勾配でもよい)を演算し、1秒間に3倍以上の増加率などの変化率の上昇勾配によって判定する方法がある。RMS値の算出においては、通常50ミリ秒~100ミリ秒の程度によるため、例えば、100ミリ秒の間における%MVCの変化を使用する場合には、1秒間に10点の%MVCを算出することができ、その変化を参照することができる。そのため逐次%MVCが計算されるごとに、1秒前の%MVCと比較して上昇割合を算出することができる。なお、介護の内容によっては、筋肉の使用状態が継続的でなく断続的な場合もあるため、上記設定時間を1秒よりも短くすることができる。
【0062】
また、
図6には、複数の閾値により評価した(複数の段階的な評価に区分した)場合の表示部による表示例を示している。
図6(a)は、筋負荷の大きさに複数の閾値を設定した場合を示している。筋負荷が大きくなれば、それだけ身体に与える影響が大きいことから、複数の閾値のうち、高位のものを見やすいものとする。図は網掛けの濃さによって表示しているが、高位の値が検出された領域から、赤色、黄色、黄緑色、緑色などのように色分けすることができる。同様に、
図6(b)に示すように、%MVCの変化勾配に関する増加率についても、その増加率の程度によって複数の閾値を設定することができ、急激な変化の範囲を見やすいものとして、例えば色分けして表示することができるものである。
【0063】
このように、使用筋力の負荷が大きくなる範囲をハイライトすることにより、時系列に表示される%MVCの変化状態の該当範囲における介護姿勢を映像で確認することにより、介護者等が自覚する筋力使用の感覚を会得するように使用できる。また、筋力使用状態が急激に上昇する場合には、当該筋肉周辺の関節にも大きい負担が作用しているものと推定すれば、そのような筋力使用状態となり得る姿勢や介護動作を回避するような介護方法を検討する材料となる。そのような姿勢を回避することにより、身体的故障の発生リクスを低減させることとなり得る。
【0064】
<介護動作適正化支援システムの活用の例示>
介護動作適正化支援システムに係る実施形態の構成および使用態様は上記のとおりであるから、当該介護動作適正化支援システムの活用例を示せば次のような活用例となる。まず、測定対象者の特定部位における筋肉(測定対象筋肉)の皮膚表面に筋電位計を装着し、計測に必要な電極を皮膚表面に貼着する。他方、測定対象者の介護姿勢を撮影するための映像カメラを設置する。カメラの設置は、測定対象者の全身が撮影できる程度の距離と角度を調整する。可能であれば、被介護者の状態も撮影することが好ましい。これは、介護動作の全体的な状態を画像として取得することで、介護動作全般を見直す際に役立たせるためである。ここまでが準備工程である。なお、事前工程は、測定対象者の最大随意収縮力(MVC)を測定することであり、筋電位計を装着した際に測定直前に計測するものである。
【0065】
準備が完了した後、筋力計測および姿勢撮影を開始する。測定および撮影中は、測定対象者が自らの判断で実行する介護動作を行い、計測値および撮影された映像は、それぞれ記憶部に記憶させておくものである。これがデータ取得工程である。
【0066】
一連の介護動作を終了した後、それぞれの記憶部に記憶される情報を表示部に表示させる(表示工程)。表示工程では、前述のような各種の形態があるため、いずれかを選択して表示させることとなる。代表的な表示形態は、介護姿勢の映像と測定された筋電位の%MVC値の変化状態を時系列に再生する形態である。高負荷状態が検出されている場合には、併せて表示させるようにするものである。
【0067】
この表示工程で表示される映像および%MVC値の変化状態は、測定対象者(介護者等)が自ら目視するためのものである。従って、表示される状態を目視により、自身の筋力の使用状態を確認し、高負荷状態が長く継続し、または頻繁に出現するような介護動作である場合には、介護姿勢を変更するための指針とするのである。
【0068】
ところで、計測すべき部位としては、一般的な腰痛を意識する場合には脊柱起立筋(いわゆる背筋)である。脊柱起立筋のうち、特に、腰腸肋筋の使用時筋力の状態が重要となる。介護者等においては、移乗介助や入浴・排泄等の介助において腰部を頻繁に使用し、脊柱起立筋を多用するため、腰痛を自覚することが頻出されるところ、脊柱起立筋の使用時筋力を最大随意収縮力の概ね80%以下の範囲とすることにより、腰部の負担を軽減し得ることから、この脊柱起立筋の測定は重要である。また、介護者等が自ら気になる部位があるときは、その部位の筋力を測定してもよい。
【0069】
なお、介護姿勢の映像を同時に目視することにより、第1に、全体的なバランス(重心位置や前傾角度など)を確認することができ、第2に、筋力発揮のタイミング(瞬間的か持続的かの区別など)のうち発揮の仕方を確認することができる。また、第3に、利き側の手足(腕や脚部)の多用による足(脚)の位置と手(腕)の位置の相互作用による筋力負荷の状態なども確認できる。
【0070】
このように、介護者等が何度も測定対象者となることにより、自らの姿勢をチェックして、低負荷となる介護姿勢を発見する資料となり、介護による負担の低減に役立てるものとなる。なお、介護動作の撮影および筋負荷計測が行われている間も映像および計測結果を表示(リアルタイムで表示)させることができることから、指導者等とともに本システムを使用する場合は、指導者等が当該表示内容を確認しつつ介護動作の状態を指導しながら計測等を継続させることもできる。この場合、記憶部に記憶される内容の再生時には、指導される前後の状態を一連の流れの中で確認することも可能となる。
【0071】
<変形例>
本発明の実施形態は、上記のとおりであるが、本発明が上記の実施形態に限定されるものではない。従って、実施形態における要素を変更し、または他の要素を付加するものであってもよい。
【0072】
例えば、
図7に介護動作適正化支援システムの変形例を示す。この変形例は、処理装置4として、カメラ付きのモバイルPCを使用する場合である。映像は、内蔵カメラを使用して取得している。また、筋電位計による測定値は無線によりインターフェースを介して入力できるものとしている。
【0073】
このようなモバイルPCを使用する場合、当該PCのCPU(中央処理装置)、HDD(ハードディスクドライブ)またはSSD(ソリッドステートドライブ)、メモリーおよびモニタなどのハード資源を使用することにより、処理部、記憶部および表示部などを構成させることができる。そして、介護現場に持参し、その場での計測も可能となり、また、計測後に直ちに測定対象者の状態を表示させて確認することが可能となる。
【0074】
また、上記実施形態においては、測定対象部位を1箇所とすることを前提としたが、同時に複数箇所を測定してもよい。この場合、同一筋肉に対して複数箇所における筋電位を計測してもよく、異なる筋肉に対して筋電位を計測してもよい。
【0075】
<まとめ>
以上のとおり、上述の実施形態により、介護者等の限界筋力(最大随意収縮力(MVC))に対する使用筋力(RMS値)の割合(%MVC)によって筋負荷が数値として算定され、その程度により介護動作の筋負荷状態が評価されることから、個々の介護者等に応じて負荷状態の高低を判断し得る。また、検出された高負荷時における介護姿勢を映像によって確認できることから、不適当な姿勢であることを目視によって確認できる。これらの状態が目視で確認できること(見える化されること)により、既に故障しつつある部位に関する状態を客観的に把握でき、高負荷となる姿勢を意識的に回避することができる。そして、良好な介護姿勢となる頻度を向上させるような訓練(繰り返し動作)により、身体的故障を未然に防止し得ることとなる。
【符号の説明】
【0076】
1 筋電位計
2 カメラ
3 入力部
4 処理装置
5 処理部
54 警報出力部
6 表示部
41 測定値記憶部
42 映像記憶部
43 筋力限界記憶部
44 算出結果記憶部
45 判定結果記憶部
51 算出部
52 判定部
53 合成部