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特開2024-92256観察装置、観察方法、および観察プログラム
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  • 特開-観察装置、観察方法、および観察プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092256
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】観察装置、観察方法、および観察プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01P 13/00 20060101AFI20240701BHJP
   H04N 23/60 20230101ALI20240701BHJP
   F04B 51/00 20060101ALI20240701BHJP
   F04D 29/60 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
G01P13/00 Z
H04N23/60 300
H04N23/60 500
F04B51/00
F04D29/60 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208054
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】辛 ▲キン▼
【テーマコード(参考)】
2F034
3H130
3H145
5C122
【Fターム(参考)】
2F034AA03
2F034CA15
3H130AA03
3H130AB13
3H130AB22
3H130AB52
3H130AC30
3H130BA90J
3H130CA02
3H130DG05X
3H130DJ01X
3H145FA02
3H145FA16
3H145FA23
3H145FA24
3H145FA25
3H145FA27
5C122DA11
5C122EA55
5C122FH11
5C122HA01
5C122HA13
5C122HA35
5C122HB06
(57)【要約】
【課題】従来技術に比べて単純な手順で渦の状態を観察する。
【解決手段】少なくともポンプの吸込口11を含む範囲を撮影する撮影装置2と、演算装置3と、を備え、演算装置3が、撮影装置2が撮影した画像データと当該画像データに含まれる時刻情報とを取得する取得機能と、少なくともポンプの吸込口11を含む範囲の画像データが入力されると当該画像データに含まれる渦の状態を評価する学習済みモデルに、取得機能により取得された画像データを入力して、当該画像データの渦の状態を評価する評価機能と、評価機能による渦の状態の評価と時刻情報とに基づいて、時系列の評価結果を出力する出力機能と、を実現可能である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともポンプの吸込口を含む範囲を撮影する撮影装置と、演算装置と、を備え、
前記演算装置が、
前記撮影装置が撮影した画像データと当該画像データに含まれる時刻情報とを取得する取得機能と、
少なくともポンプの吸込口を含む範囲の画像データが入力されると当該画像データに含まれる渦の状態を評価する学習済みモデルに、前記取得機能により取得された画像データを入力して、当該画像データの渦の状態を評価する評価機能と、
前記評価機能による渦の状態の評価と前記時刻情報とに基づいて、時系列の評価結果を出力する出力機能と、を実現可能である観察装置。
【請求項2】
前記出力機能において、前記時系列の評価結果を表すグラフが出力される請求項1に記載の観察装置。
【請求項3】
前記出力機能において、前記時系列の評価結果の移動平均を表すグラフが出力される請求項1に記載の観察装置。
【請求項4】
前記出力機能において、
前記グラフが、時刻を表す軸と、前記時系列の評価結果または前記時系列の評価結果の移動平均を表す軸と、を有する平面上に、前記評価結果または前記移動平均の推移を表す曲線が表現されるものであり、
時刻を表す軸に平行な任意の直線と前記曲線との関係に基づいて、渦の状態の時系列の評価結果を指数化する請求項2または3に記載の観察装置。
【請求項5】
前記出力機能において、時刻を表す軸に平行な任意の直線と前記曲線とで囲まれる領域の面積に基づいて、渦の状態の時系列の評価結果を指数化する請求項4に記載の観察装置。
【請求項6】
前記演算装置が、特定の時刻の画像データに基づく渦の状態の評価を、当該特定の時刻と異なる時刻の画像データに基づく渦の状態の評価を用いて補正する補正機能をさらに実現可能であり、
前記出力機能において、前記補正機能により補正された渦の状態の評価に基づいて、時系列の評価結果を出力する請求項1~3のいずれか一項に記載の観察装置。
【請求項7】
渦の状態が、渦が形成される程度により複数の水準に区分され、区分されたそれぞれの水準に所定の評価点が定められている請求項1~3のいずれか一項に記載の観察装置。
【請求項8】
少なくともポンプの吸込口を含む範囲を撮影する撮影工程と、
前記撮影工程において撮影した画像データと当該画像データに含まれる時刻情報とを取得する取得工程と、
少なくともポンプの吸込口を含む範囲の画像データが入力されると当該画像データに含まれる渦の状態を評価する学習済みモデルに、前記取得工程において取得した画像データを入力して、当該画像データの渦の状態を評価する評価工程と、
前記評価工程における渦の状態の評価と前記時刻情報とに基づいて、時系列の評価結果を出力する出力工程と、を有する観察方法。
【請求項9】
コンピュータにおいて実行されたときに、
少なくともポンプの吸込口を含む範囲を撮影した画像データと当該画像データに含まれる時刻情報とを取得する取得機能と、
少なくともポンプの吸込口を含む範囲の画像データが入力されると当該画像データに含まれる渦の状態を評価する学習済みモデルに、前記取得機能によって取得した画像データを入力して、当該画像データの渦の状態を評価する評価機能と、
前記評価機能による渦の状態の評価と前記時刻情報とに基づいて、時系列の評価結果を出力する出力機能と、を実現する観察プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプの吸込口における渦の状態を観察するための観察装置、観察方法、および観察プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプ取水槽などにおいて運転されるポンプの吸込口では、ポンプの構造や運転条件などの条件次第で渦が発生する場合がある。ポンプの構造、吸込水槽の形状、フローパターンおよび運転条件を最適化するためには、渦の発生を正確に評価する必要がある。
【0003】
たとえば、特許文献1および非特許文献1には、流体を透して観測部の背景をカメラで撮影し、画像データにして記録した後分析することを特徴とする流体の観測方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-237397号公報
【非特許文献】
【0005】
【特許文献1】ターボ機械、第26巻第3号(1998年3月)、28~32ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および非特許文献1に記載の観察方法は、渦が発生していないときの画像を基準画像としてあらかじめ記録しておくことを要する。また、観察画像と基準画像との差分化処理や差分化された画像の二値化処理など、渦の状態を判定する材料となる画像を得るためにいくつもの処理工程を経る必要がある。
【0007】
そこで、従来技術に比べて単純な手順で渦の状態を観察できる観察装置、観察方法、および観察プログラムの実現が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る観察装置は、少なくともポンプの吸込口を含む範囲を撮影する撮影装置と、演算装置と、を備え、前記演算装置が、前記撮影装置が撮影した画像データと当該画像データに含まれる時刻情報とを取得する取得機能と、少なくともポンプの吸込口を含む範囲の画像データが入力されると当該画像データに含まれる渦の状態を評価する学習済みモデルに、前記取得機能により取得された画像データを入力して、当該画像データの渦の状態を評価する評価機能と、前記評価機能による渦の状態の評価と前記時刻情報とに基づいて、時系列の評価結果を出力する出力機能と、を実現可能であることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る観察方法は、少なくともポンプの吸込口を含む範囲を撮影する撮影工程と、前記撮影工程において撮影した画像データと当該画像データに含まれる時刻情報とを取得する取得工程と、少なくともポンプの吸込口を含む範囲の画像データが入力されると当該画像データに含まれる渦の状態を評価する学習済みモデルに、前記取得工程において取得した画像データを入力して、当該画像データの渦の状態を評価する評価工程と、前記評価工程における渦の状態の評価と前記時刻情報とに基づいて、時系列の評価結果を出力する出力工程と、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る観察プログラムは、コンピュータにおいて実行されたときに、少なくともポンプの吸込口を含む範囲を撮影した画像データと当該画像データに含まれる時刻情報とを取得する取得機能と、少なくともポンプの吸込口を含む範囲の画像データが入力されると当該画像データに含まれる渦の状態を評価する学習済みモデルに、前記取得機能によって取得した画像データを入力して、当該画像データの渦の状態を評価する評価機能と、前記評価機能による渦の状態の評価と前記時刻情報とに基づいて、時系列の評価結果を出力する出力機能と、を実現することを特徴とする。
【0011】
これらの構成によれば、ポンプの吸込口を含む範囲を撮影した画像データに対して多段階の前処理を加える必要がないため、従来技術に比べて単純な手順で渦の状態を観察できる。
【0012】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0013】
本発明に係る観察装置は、一態様として、前記出力機能において、前記出力機能において、前記時系列の評価結果を表すグラフが出力されることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、評価点の経時変化が可視化されるので、渦の程度をさらに理解しやすい。
【0015】
本発明に係る観察装置は、一態様として、前記出力機能において、前記時系列の評価結果の移動平均を表すグラフが出力されることが好ましい。
【0016】
この構成では、各時点の評価点を移動平均とすることにより、渦が発生する際の物理現象の連続性を考慮した評価を行うことができる。
【0017】
本発明に係る観察装置は、一態様として、前記出力機能において、前記グラフが、時刻を表す軸と、前記時系列の評価結果または前記時系列の評価結果の移動平均を表す軸と、を有する平面上に、前記評価結果または前記移動平均の推移を表す曲線が表現されるものであり、時刻を表す軸に平行な任意の直線と前記曲線との関係に基づいて、渦の状態の時系列の評価結果を指数化することが好ましい。
【0018】
この構成によれば、渦の状態の時系列の評価結果を指数化できるので、異なる条件下で行った複数回の観察の結果を比較しやすい。
【0019】
本発明に係る観察装置は、一態様として、前記出力機能において、時刻を表す軸に平行な任意の直線と前記曲線とで囲まれる領域の面積に基づいて、渦の状態の時系列の評価結果を指数化することが好ましい。
【0020】
この構成によれば、渦の強度および持続時間の双方を加味した評価を行うことができる。
【0021】
本発明に係る観察装置は、一態様として、前記演算装置が、特定の時刻の画像データに基づく渦の状態の評価を、当該特定の時刻と異なる時刻の画像データに基づく渦の状態の評価を用いて補正する補正機能をさらに実現可能であり、前記出力機能において、前記補正機能により補正された渦の状態の評価に基づいて、時系列の評価結果を出力することが好ましい。
【0022】
この構成によれば、観察の精度を向上しうる。
【0023】
本発明に係る観察装置は、一態様として、渦の状態が、渦が形成される程度により複数の水準に区分され、区分されたそれぞれの水準に所定の評価点が定められていることが好ましい。
【0024】
この構成によれば、評価点を用いて渦の状態を指数化できるので、渦の程度を理解しやすい。
【0025】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施形態に係る観察装置の使用状態を示す図である。
図2】窪み渦が発生している状態の模式図である。
図3】断続渦が発生している状態の模式図である。
図4】連続渦が発生している状態の模式図である。
図5】実施形態に係る観察装置が出力するグラフの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係る観察装置、観察方法、および観察プログラムの実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、本発明を、試験用水槽10に設置された吸込口11を観察する観察装置1、およびこれを用いた観察方法に適用した例について説明する。なお、観察装置1にインストールされている観察プログラムは、本発明に係る観察プログラムの一実施形態である。
【0028】
〔観察装置の構成〕
本実施形態に係る観察装置1は、撮影装置2と演算装置3とを備える(図1)。観察装置1は、試験用水槽10に設置された吸込口11を観察対象とする。吸込口11は、ポンプ(不図示)の吸込口であり、試験用水槽10から吸い上げた水を他の場所に吐出する。試験用水槽10の壁面はガラスや樹脂などの透明な部材により構成されており、槽外から吸込口11を視認できる。
【0029】
撮影装置2は、吸込口11を含む範囲を撮影した画像データを取得する装置である。すなわち撮影装置2は、典型的にはエリアスキャンカメラであるが、これに限定されない。例えば、一般的に知られている動画を撮影するビデオカメラや静止画を撮影するカメラなどであってもよい。撮影装置2は、試験用水槽10の周囲に設けられ、試験用水槽10の透明な壁面を通して吸込口11を撮影範囲に収めるように配置されている。
【0030】
演算装置3は、撮影装置2が取得した動画データに基づいて種々の演算処理を行い、観察装置1が果たす諸機能を実現する装置である。演算装置3として、汎用のコンピュータ等を使用できる。したがって演算装置3は、演算処理を行うCPUやGPU等の演算デバイス、液晶ディスプレイなどの出力デバイス、ハードディスクドライブなどの記憶デバイス、等の、コンピュータとして一般的に備えられる構成要素を有する。
【0031】
撮影装置2と演算装置3とは互いにデータ通信可能であり、撮影装置2が取得した動画データは演算装置3に入力され、演算装置3の記憶デバイスに格納される。なお、撮影装置2と演算装置3との接続は、有線であってもよいし、無線であってもよい。なお、撮影装置2と演算装置3とが一つのハードウェア(タブレット端末、スマートフォンなど)に集約されていてもよい。
【0032】
〔観察装置の機能〕
次に、本実施形態に係る観察装置1において実現される諸機能を説明する。いずれの機能も、演算装置3が実行する演算処理によって実現されるものである。すなわち、本実施形態に係る観察プログラムは、コンピュータにおいて実行されたときに以下の諸機能を実現するものである。
【0033】
(1)取得機能
取得機能は、撮影装置が撮影した画像データと当該画像データに含まれる時刻情報とを取得する機能である。本実施形態では、取得機能の一実施形態として、撮影装置2が動画データを取得し、当該動画データから所定の間隔で時刻ごとの静止画データ(画像データの一例である。)を抽出する場合を例として説明する。動画データは一般的に、時刻情報(撮影開始時からの経過時間である。)のラベルが付された静止画データの集合体であり、その時刻の間隔は動画データのフレームレートによって決定づけられる。本実施形態に係る取得機能では、動画データを構成する複数の静止画データから、後続の機能における演算処理に必要な間隔で静止画データを抽出することによって、時刻情報が付された画像データを得る。なお、取得された動画データの時刻の間隔(フレームレートから決定できる。)と取得機能において抽出する静止画データの時刻の間隔とが同一であってもよく、この場合は動画データを構成する全て静止画データが抽出されることになる。
【0034】
静止画データの時刻の間隔は、100ミリ秒以下であることが好ましい。人間の目の時間分解能は50~100ミリ秒程度だと言われているため、静止画データの時刻の間隔が100ミリ秒以下であると、肉眼による観察と同等以上の観察を実現できる。また、渦の状態の変化が数十ミリ秒で生じる現象であることから、静止画データの時刻の間隔が30ミリ秒以下であると、渦の状態の変化を捉えやすいため、より好ましい。
【0035】
静止画データの時刻の間隔の下限は特に限定されない。ただし、静止画データの時刻の間隔を短くすると、抽出される静止画データの点数が増加し、後続の機能における演算処理量が増大する点に注意を要する。
【0036】
動画データにおけるフレーム間の時間の間隔は、静止画データの時刻の間隔と同一であるか、またはこれより高い必要がある。たとえば静止画データの時刻の間隔を100ミリ秒以下とする場合は、動画データにおけるフレーム間の時間の間隔も100ミリ秒以下(フレームレート10fps以上)とする。
【0037】
動画データにおけるフレーム間の時間の間隔の下限についても、特に限定されない。ただし動画データにおけるフレーム間の時間の間隔が短いと動画データの容量が増大するため、動画データにおけるフレーム間の時間の間隔は演算装置3の記憶容量等を考慮して設定されうる。
【0038】
(2)評価機能
評価機能は、学習済みモデルを用いて、時刻ごとの静止画データからそれぞれの時刻における渦の状態を評価する機能である。
【0039】
ここで用いられる学習済みモデルの生成は、演算装置3によって行われてもよいし、他の演算装置によって行われてもよい。当該学習済みモデルは、吸込口11を含む範囲を撮影した静止画データが入力されると、当該静止画データの渦の状態を評価するものである。ここで、渦の状態は、たとえばTSJ S 002に従って分類され、(i)渦が無い状態(図1)、(ii)窪み渦が発生している状態(図2)、(iii)断続渦が発生している状態(図3)、および、(iv)連続渦が発生している状態(図4)、の四つの状態(複数の水準の一例である。)から選択される。
【0040】
学習済みモデルの生成は、教師あり学習によって行われる。まず、吸込口11を含む範囲を撮影した複数の静止画データのそれぞれについて、渦の状態が上記の(i)~(iv)のいずれであるのかを人為的に判定し、各静止画データに渦の状態のラベルが付されたデータセットを作成する。このデータセットが、教師あり学習における教師データになる。なお、教師データの一部を訓練データとし、残部をテストデータとしてもよい。
【0041】
教師データから学習済みモデルを生成する際に使用するアルゴリズムは、特に限定されない。たとえば、サポートベクタマシン(回帰、分類)、決定木、ランダムフォレスト、勾配ブースティング、ロジスティック回帰、ニューラルネットワーク(単純パーセプトロン、多層パーセプトロン)、ガウス過程回帰、ベイジアンネットワーク、k近傍法、ラッソ回帰、重回帰分析、リッジ回帰、エラスティックネット、部分的最小二乗回帰、などが例示されるが、これらに限定されない。このうち、画像認識への適性が高いニューラルネットワークを用いることが好ましく、畳み込みニューラルネットワークを用いることが特に好ましい。
【0042】
上記の学習済みモデルに、評価する対象の静止画データを入力すると、上記の(i)~(iv)から選択される渦の状態が評価結果として出力される。(i)~(iv)から選択される渦の状態は、評価機能における渦の状態の評価の一例である。また、評価結果と合わせて、評価結果の信頼度が出力される。信頼度は、たとえば百分率で表され、評価結果の確らしさを表す。
【0043】
さらに、後続の演算に用いやすくするため、(i)~(iv)の各状態に付された評価点に基づいて、評価結果が数値化される。評価点は、評価機能における渦の状態の評価の一例である。各状態に割り振られる評価点の大小は、観察の目的に応じて変更されうる。たとえば、連続渦、断続渦、および窪み渦の全てを問題とする場合は、上記の例のように各状態に均等に評価点を割り振れば、状態の変化を認識しやすい。一方、観察の目的が、連続渦を解消しうる吸込口11の構造の特定にあり、断続渦および窪み渦を問題としない場合は、「(iv)連続渦が発生している状態」の評価点を比較的大きくしておけば、連続渦の発生状況を把握しやすい。以下では、一例として、「(i)渦が無い状態」の評価点が0.25であり、「(ii)窪み渦が発生している状態」の評価点が0.50であり、「(iii)断続渦が発生している状態」の評価点が0.75であり、「(iv)連続渦が発生している状態」の評価点が1.0であるとして説明する。
【0044】
評価点を用いると、ある時刻(ある画像データ)についての評価の結果が、評価点と信頼度との組として得られる。さらに、評価点と信頼度とを乗算すると、渦の状態の評価と当該評価の信頼度との双方を加味した数値が得られる。以下では、この数値を「推定値」と称する。推定値は、評価機能における渦の状態の評価の一例である。
【0045】
以上の評価が、時刻ごとの静止画データからそれぞれについて行われる。それぞれの静止画データには時刻情報(撮影始期からの経過時間である。)のラベルが付されているので、時刻ごとに推定値が出力される。
【0046】
(3)補正機能
補正機能は、特定の時刻の静止画データに基づく渦の状態の評価を、当該特定の時刻と異なる時刻の静止画データに基づく渦の状態の評価を用いて補正する機能である。
【0047】
前述の通り、渦の状態は、(i)渦が無い状態(図1)、(ii)窪み渦が発生している状態(図2)、(iii)断続渦が発生している状態(図3)、および、(iv)連続渦が発生している状態(図4)、から選択されるが、これらの四つの状態は、渦の程度が弱い状態から強い状態に向かう順で並べられている。現実的に、渦の状態の変化は連続的な現象であるので、直前の状態から大きく乖離する状態に変化することは生じにくい。
【0048】
たとえば、ある時刻(静止画データ)についての渦の状態の評価が「(iv)連続渦が発生している状態」であるときに、ひとつ前の時刻(静止画データ)についての渦の状態の評価が「(iii)断続渦が発生している状態」である場合は、静止画データの時刻の間隔に相当する時間(たとえば30ミリ秒)の間に断続渦の強度が増して連続渦になったのだとして、現実に生じうる現象として理解できる。すなわち、ある時刻についての渦の状態の評価が「(iv)連続渦が発生している状態」であることについて、一定の確らしさが認められる。以下、この例を「例1」とする。
【0049】
一方、ある時刻(静止画データ)についての渦の状態の評価が「(iv)連続渦が発生している状態」であるときに、ひとつ前の時刻(静止画データ)についての渦の状態の評価が「(i)渦が無い状態」である場合は、静止画データの時刻の間隔に相当する時間(たとえば30ミリ秒)の間に、渦がない状態から連続渦の状態まで急激に変化したことが推定されたといえる。しかし、そのような急激な変化は、現実には生じにくい現象である。したがって、ある時刻についての渦の状態の評価が「(iv)連続渦が発生している状態」であることについて、その確らしさに疑義がある。この例を「例2」とする。
【0050】
そこで、補正機能では、補正対象とする渦の状態の評価(特定の時刻の静止画データに基づく渦の状態の評価)を、当該時刻より前の静止画データに基づく渦の状態の評価を用いて補正する。補正の方法は限定されないが、一例として、特定の時刻の静止画データに基づいて算出される推定値(推定される渦の状態に対応する評価点と推定の信頼度との積である。)と当該時刻より前の所定の数(たとえば三つ)の推定値との平均、すなわち推定値の移動平均を、当該特定の時刻の推定値の補正値(以下、「補正推定値」と称する。)とする方法が例示される。
【0051】
上記の「例1」では、評価対象の時刻における評価点の移動平均は0.81((1.0+0.75×3)÷4=0.8125)であり、「(iii)断続渦が発生している状態」から「(iv)連続渦が発生している状態」に移行した時点として妥当性がある数値によって、当該時刻の渦の状態が表現される。一方、上記の「例2」では、評価対象の時刻における評価点の移動平均は0.44((1.0+0.25×3)÷4=0.4375)であり、当該時刻において「(iv)連続渦が発生している状態」にあるとする推定結果に一定の疑義があることが表現された数値となる。
【0052】
(4)出力機能
出力機能は、評価機能による渦の状態の評価と時刻情報とに基づいて、時系列の評価結果を出力する機能である。ここで、評価機能による渦の状態の評価に基づくことは、評価機能による渦の状態の評価をそのまま用いることのみならず、たとえば補正機能によって補正された渦の状態の評価を用いることも含む。すなわち、評価機能による渦の状態の評価が、直接的または間接的に用いられていればよい。
【0053】
本実施形態では、補正機能により決定された補正推定値(補正機能により補正された渦の状態の評価の一例である。)が、時刻ごとにプロットされる。すなわち、横軸を時刻とし縦軸を補正推定値とするグラフが出力される(図5)。このグラフにおいて、補正推定値が大きな値を取る領域は、渦の強度が比較的強い(断続渦または連続渦が発生している)ことが推定される時間帯を表す。このように、出力機能によって出力されるグラフを見れば、渦の状態の経時変化を容易に理解できる。
【0054】
また、観察対象とした時間帯の全体を総合する評価として、上記のグラフにおけるプロットされた補正推定値と前後の時刻にプロットされた補正推定値とを結ぶ曲線(以下、評価曲線と称する。)と横軸(時刻軸)とで囲まれる領域の面積を算出し、これを評価に用いる指数(スコア)としてもよい。この指数を第一スコア値と称する。渦の強度が強い時間帯が長いほど、第一スコア値が大きくなるため、複数回の観察の第一スコア値同士を比較すれば、渦の多寡や程度などを正確に比較することができる。すなわち、人為的にまたは演算装置3によって、第一スコア値に基づいてポンプを評価することができる。
【0055】
他には、任意の補正推定値において横軸(時間軸)と平行な直線を引き、当該直線と評価曲線とで囲まれる領域の面積を算出し、これを評価に用いる指数(スコア)としてもよい。この指数を第二スコア値と称する。たとえば、補正推定値0.60において横軸と平行な直線を引き、この直線より上にある(補正推定値が大きい)領域において直線と評価曲線とで囲まれる面積を算出すると、断続渦または連続渦が発生している期間について面積が正の値になり、窪み渦が発生している期間および渦が発生していない期間について面積が0になる。第一スコア値と第二スコア値とを比較すると、第一スコア値を採用する場合は、窪み渦であっても発生している期間が長ければ第一スコア値が大きくなるのに対し、第二スコア値を採用する場合は、窪み渦は第二スコア値に影響しない。そのため、第二スコア値を用いると、断続渦または連続渦が発生している期間の長さおよび渦の強度を重視した評価を実施できる。たとえば、窪み渦は許容されるが断続渦以上の渦は許容されない、という条件に合致するポンプを見出す必要がある場合には、この方法が有効である。
【0056】
さらに、複数の直線について、それぞれの直線と評価曲線とで囲まれる領域の面積を算出し、これらを総合的に考慮して評価を行ってもよい。たとえば第一スコア値および第二スコア値の双方を算出すれば、渦の発生頻度は高いが強度は低いポンプ、渦の発生頻度は低いが渦の強度が強いポンプ、などを見出すことができる。すなわち、ポンプを複数の評価軸で評価しやすくなる。
【0057】
また、面積を算出することに替えて、任意の補正推定値において横軸(時間軸)と平行な直線を引き、評価曲線が当該直線より上にある(補正推定値が大きい)時間の長さと、評価曲線が当該直線より下にある(補正推定値が小さい)時間の長さと、の割合を算出し、これを評価に用いる指数(スコア)としてもよい。この指数を第三スコア値と称する。なお、この場合も、複数の直線を設けて複数の指数を算出し、それらの組合せによってポンプの評価を行ってもよい。
【0058】
〔観察方法〕
本実施形態に係る観察方法は、撮影工程、取得工程、評価工程、補正工程、および出力工程を、この順で有する。撮影工程は、撮影装置2を用いて、吸込口11を含む範囲を撮影した動画データを取得する工程である。取得工程、評価工程、補正工程、および出力工程は、上記の取得機能、評価機能、補正機能、および出力機能をそれぞれ実行して実現される。各工程において行われる演算処理の内容は、上記の通りである。
【0059】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明に係る観察装置、観察方法、および観察プログラムのその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0060】
上記の実施形態では、撮影装置2が一台設けられている構成を例として説明した。しかし本発明において、撮影装置は複数であってもよい。たとえば、複数の撮影装置を用いてポンプの吸込口を異なる方向から撮影するようにすれば、複数の撮影装置によって互いの死角を補うことができるので、渦を見逃すおそれが小さい。また、撮影装置を設置する位置は、少なくともポンプの吸込口を含む範囲を撮影できる限りにおいて限定されない。たとえば、上記の実施形態では撮影装置2が試験用水槽10の周囲に設けられている構成を例示したが、撮影装置を水槽内に設けてもよい。ただしこの場合は、撮影装置の存在が渦の発生挙動に影響を与えないように配慮するべきである。
【0061】
上記の実施形態では、取得機能において撮影装置2が取得した動画データから所定の間隔で時刻ごとの静止画データを抽出する場合を例として説明した。しかし、本発明において、画像データを取得する方法は、上記の例に限定されない。たとえば、撮影装置が所定の時間間隔で静止画データを連続的に取得し、これらの静止画データと、当該静止画データが取得された時刻を表す時刻情報と、を取得する構成としてもよい。取得機能の態様は、撮影装置および演算装置の仕様等を考慮して決定されうる。
【0062】
上記の実施形態では、演算装置3が補正機能を実現できる構成を例として説明した。しかし本発明において、補正機能の可否は任意である。補正機能を実現しない構成として、たとえば、出力工程において推定値(推定された評価点)そのものをプロットする構成や、推定値と信頼度との積をプロットする構成、などが例示される。なお、出力工程の態様によらず、上記の実施形態における第一スコア値、第二スコア値、および第三スコア値に例示されるような、渦の状態の時系列の指数化を行いうる。
【0063】
上記の実施形態では、補正機能において、補正対象とする渦の状態の評価(特定の時刻の静止画データに基づく渦の状態の評価)を、当該時刻より前の静止画データに基づく渦の状態の評価を用いて補正する構成を例として説明した。しかし、補正機能の主旨は、特定の時刻の画像データに基づく渦の状態の評価を、当該特定の時刻と異なる時刻の画像データに基づく渦の状態の評価を用いて補正することにある。したがって、特定の時刻より後の画像データに基づく推定の結果を用いて、補正対象とする推定の結果を補正してもよい。また、特定の時刻の前後双方の画像データを用いて補正を行ってもよい。
【0064】
上記の実施形態では、渦の状態がTSJ S 002に従って分類される例について説明した。しかし、本発明において渦の状態を区分する場合、その区分分けの態様は限定されない。
【0065】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、たとえばポンプの吸込口の観察に利用できる。
【符号の説明】
【0067】
1 :観察装置
2 :撮影装置
3 :演算装置
10 :試験用水槽
11 :吸込口
図1
図2
図3
図4
図5