(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092266
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】繊維製品処理用の燻煙型揮散剤組成物及び燻煙装置、並びに繊維製品の処理方法
(51)【国際特許分類】
D06M 13/144 20060101AFI20240701BHJP
D06M 13/148 20060101ALI20240701BHJP
D06M 13/188 20060101ALI20240701BHJP
D06M 15/11 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
D06M13/144
D06M13/148
D06M13/188
D06M15/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208072
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 七実
(72)【発明者】
【氏名】石田 絢哉
(72)【発明者】
【氏名】鴻渡 千亜季
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AB04
4L033AC10
4L033AC15
4L033BA11
4L033BA12
4L033BA17
4L033CA06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】繊維製品を濡らさずに消臭及び触感付与が可能な繊維製品処理用の燻煙型揮散剤組成物の提供。
【解決手段】(A)成分:沸点が150℃~300℃であるポリオール化合物、及び下記式(a-3)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種と、(B)成分:環状デキストリン、及び炭素数8~22の脂肪酸亜鉛塩からなる群から選択される少なくとも1種と、(C)成分:水と、を含む燻煙型揮散剤組成物であり、前記(A)成分の含有量が、前記燻煙型揮散剤組成物の総質量に対して10~80質量%である、繊維製品処理用の燻煙型揮散剤組成物。
R
1~R
3は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~3のアルキル基であり、R
4は、水素原子又はアセチル基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:沸点が150℃~300℃であるポリオール化合物、及び下記式(a-3)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種と、
(B)成分:環状デキストリン、及び炭素数8~22の脂肪酸亜鉛塩からなる群から選択される少なくとも1種と、
(C)成分:水と、を含む燻煙型揮散剤組成物であり、
前記(A)成分の含有量が、前記燻煙型揮散剤組成物の総質量に対して10~80質量%である、繊維製品処理用の燻煙型揮散剤組成物。
【化1】
[式中、R
1~R
3は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~3のアルキル基であり、R
4は、水素原子又はアセチル基である。]
【請求項2】
前記(A)成分/前記(C)成分で表される質量比が、0.2以上10未満である請求項1に記載の繊維製品処理用の燻煙型揮散剤組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の繊維製品処理用の燻煙型揮散剤組成物と、150~450℃の熱を発生する発熱部とが、伝熱部を介して配置された、繊維製品処理用の燻煙装置。
【請求項4】
繊維製品が配置された空間内で、請求項1又は2に記載の繊維製品処理用の燻煙型揮散剤組成物を150~450℃で加熱する、繊維製品の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維製品処理用の燻煙型揮散剤組成物及び燻煙装置、並びに繊維製品の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
洗濯によらず衣類等の繊維製品をケアするために、香料等の消臭成分や除菌成分を含む液体処理剤組成物を繊維製品にスプレーすることがある。
特許文献1には、香料組成物、高度分岐環状デキストリン、及び陽イオン界面活性剤を含む繊維製品用処理剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の繊維製品用処理剤組成物は、消臭効果や抗菌効果を発現させるために、多くの水を介して基剤を繊維製品に塗布し、繊維間に基剤を浸透させるが、スプレー処理では繊維製品が濡れてしまう。そのため、処理した衣類等をすぐに保管場所に仕舞うことができないといった不具合が生じる。また、多数の繊維製品をまとめて処理することができず、処理に手間がかかる問題もある。
【0005】
本発明は、繊維製品を濡らさずに消臭及び触感付与が可能な繊維製品処理用の燻煙型揮散剤組成物及び燻煙装置、並びに繊維製品の処理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の態様を有する。
<1>
(A)成分:沸点が150℃~300℃であるポリオール化合物、及び下記式(a-3)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種と、
(B)成分:環状デキストリン、及び炭素数8~22の脂肪酸亜鉛塩からなる群から選択される少なくとも1種と、
(C)成分:水と、を含む燻煙型揮散剤組成物であり、
前記(A)成分の含有量が、前記燻煙型揮散剤組成物の総質量に対して10~80質量%である、繊維製品処理用の燻煙型揮散剤組成物。
【化1】
[式中、R
1~R
3は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~3のアルキル基であり、R
4は、水素原子又はアセチル基である。]
<2>
前記(A)成分/前記(C)成分で表される質量比が、0.2以上10未満である<1>に記載の繊維製品処理用の燻煙型揮散剤組成物。
<3>
<1>又は<2>に記載の繊維製品処理用の燻煙型揮散剤組成物と、150~450℃の熱を発生する発熱部とが、伝熱部を介して配置された、繊維製品処理用の燻煙装置。
<4>
繊維製品が配置された空間内で、<1>又は<2>に記載の繊維製品処理用の燻煙型揮散剤組成物を150~450℃で加熱する、繊維製品の処理方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の繊維製品処理用の燻煙型揮散剤組成物及び燻煙装置、並びに繊維製品の処理方法によれば、繊維製品を濡らさずに消臭及び触感付与が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】繊維製品処理用の燻煙装置の構成の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔繊維製品処理用の燻煙型揮散剤組成物〕
本発明の一実施形態に係る繊維製品処理用の燻煙型揮散剤組成物(以下、「本燻煙型揮散剤組成物」とも記す。)は、(A)成分と、(B)成分と、(C)成分とを含む。
本燻煙型揮散剤組成物は、繊維製品処理用であり、燻煙型繊維製品処理剤ともいえる。
本燻煙型揮散剤組成物は、(A)成分、(B)成分及び(C)成分以外の他の成分(以下、「任意成分」とも記す。)をさらに含んでいてもよい。
本燻煙型揮散剤組成物は、好ましくは液状である。
【0010】
<(A)成分>
(A)成分は、沸点が150℃~300℃であるポリオール化合物、及び下記式(a-3)で表される化合物(以下、「化合物(a-3)」とも記す。)からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
(A)成分は、発煙基剤及び触感付与剤として機能する。
本燻煙型揮散剤組成物が高温(例えば150~450℃)で加熱されると、(A)成分が気化し、その蒸気が空間中に噴出する。噴出された蒸気は白色の煙状物として視認される。また、(A)成分の蒸気によって(B)成分が空間中に拡散する。(A)成分が空間内の繊維製品に付着することで、繊維製品に柔らかさ、滑らかさ等の触感が付与され、(B)成分が繊維製品に付着することで、繊維製品が消臭される。
【0011】
【化2】
[式中、R
1~R
3は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~3のアルキル基であり、R
4は、水素原子又はアセチル基である。]
【0012】
ポリオール化合物とは、分子内に2個以上の水酸基を有する化合物である。水酸基を2個有する化合物を2価アルコール又はグリコールともいい、水酸基を3個有する化合物を3価アルコールともいい、水酸基を2個以上有する化合物を一括して多価アルコールともいう。
ポリオール化合物の沸点は、(B)成分の揮散性の点から、150~300℃であり、170~250℃が好ましい。沸点は、1atmにおける値である。
【0013】
ポリオール化合物は、沸点が上記範囲内であればよく、医薬品、医薬部外品、化粧品、雑貨品、工業品等に使用されているもののなかから、(B)成分の揮散性、溶解・分散性、使用時の加熱温度等を考慮して適宜選択される。
ポリオール化合物としては、例えば、グリコール、3価以上の多価アルコール、糖、糖アルコール等が挙げられる。
【0014】
グリコールのなかで好適なものとしては、炭素数が2以上であり、炭素原子間にエーテル性酸素原子(-O-)が挿入されていてもよい脂肪族炭化水素の2つの炭素原子に1つずつ水酸基が結合している構造を持つ化合物が挙げられる。
かかる化合物において、脂肪族炭化水素は、飽和であっても不飽和であってもよい。また、前記脂肪族炭化水素は鎖状であっても環状であってもこれらの組み合わせであってもよく、鎖状であることが好ましい。鎖状である場合、前記脂肪族炭化水素は直鎖状でも分岐鎖状でもよい。環状である場合、前記脂肪族炭化水素は単環式でも多環式でもよい。
かかる化合物としてより具体的には、下記式(a-1)で表される化合物(以下、「化合物(a-1)」とも記す。)、下記式(a-2)で表される化合物(以下、「化合物(a-2)」とも記す。)が挙げられる。
HO-R5-OH (a-1)
HO-(R6O)n-H (a-2)
[式中、R5及びR6はそれぞれ独立に、炭素数2~18の2価の脂肪族炭化水素基であり、nは2~14の整数である。]
【0015】
式(a-1)中、R5における2価の脂肪族炭化水素基の炭素数は2~18が好ましく、2~4がより好ましく、3又は4がさらに好ましい。R5としてはプロピレン基が特に好ましい。
式(a-2)で表される化合物は、いわゆるポリエーテルである。
式(a-2)中、R6としては、R5と同様のものが挙げられ、エチレン基又はプロピレン基が好ましく、エチレン基が特に好ましい。
nは2~14の整数であることが好ましく、2~4の整数であることがより好ましい。
【0016】
化合物(a-1)の例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、trans-2-ブテン-1,4-ジオール、2-ブチン-1,4-ジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-1,3-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、2,4-ヘプタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、イソプレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,15-ペンタデカンジオール、1,16-ヘキサデカンジオール、1,17-ヘプタデカンジオール、1,18-オクタデカンジオール、1,19-ノナデカンジオール、1,20-イコサンジオール、1,2-オクタンジオール、1,2-デカンジオール、1,2-ドデカンジオール、1,2-テトラデカンジオール、1,2-ヘキサデカンジオール、1,2-オクタデカンジオール等が挙げられる。なかでもプロピレングリコールが好ましい。
【0017】
化合物(a-2)の例としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、平均分子量200~20000のポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、平均分子量300~2000のポリプロピレングリコール等が挙げられる。なかでもジプロピレングリコールが好ましい。
平均分子量200~20000のポリエチレングリコールは、マクロゴールとも称され、ポリエチレングリコール200(平均分子量190~210)、ポリエチレングリコール300(平均分子量280~320)、ポリエチレングリコール400(平均分子量380~420)、ポリエチレングリコール600(平均分子量570~630)、ポリエチレングリコール1000(平均分子量950~1050)、ポリエチレングリコール1500(ポリエチレングリコール300とポリエチレングリコール1540の等量混合物)、ポリエチレングリコール1540(平均分子量1290~1650)、ポリエチレングリコール2000(平均分子量1850~2150)、ポリエチレングリコール4000(平均分子量2600~3800)、ポリエチレングリコール6000(平均分子量7300~9300)、ポリエチレングリコール10000(平均分子量9300~12500)、ポリエチレングリコール20000(平均分子量15500~20000)等が挙げられる。なかでも分子量200~600のポリエチレングリコールが好ましい。
これらのポリエチレングリコールは、例えば三洋化成工業(株)や日油(株)から入手することができる市販品が利用できる。ポリエチレングリコールの市販品には通常、平均分子量が数値として付されており、商品によっては、例えばポリエチレングリコール#1000のように、ポリエチレングリコールと数値との間に#がつく場合がある。
なお、上記のポリエチレングリコールの平均分子量は医薬部外品原料規格2006記載の平均分子量を示し、医薬部外品原料規格2006記載の測定法による値である。
平均分子量300~2000のポリプロピレングリコールとしては、重合度が4~34のものが挙げられる。このようなポリプロピレングリコールとしては、ニューポールPP-400、PP-1000、PP-2000(三洋化成工業株式会社製)等の市販品を用いることができる。
なお、ポリプロピレングリコールの平均分子量は数平均分子量であり、水酸基価から求めた値である。
【0018】
糖のなかで好適なものとしては、グルコース、フルクトース等の単糖;スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース等の二糖;三糖以上の多糖等が挙げられる。
糖アルコールのなかで好適なものとしては、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、エリスリトール、キシリトール、D-ソルビトール、マンニトール、マルチトール等が挙げられる。グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリンは、たとえば阪本薬品工業(株)等の市販品を用いることができる。
【0019】
上記のなかでも、ポリオール化合物としては、加熱により特に気化しやすく、(B)成分が揮散しやすいことから、グリコールが好ましく、なかでも、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、平均分子量200~600のポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0020】
化合物(a-3)の例としては、3-メトキシメタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-3-エチルブタノール、3-メトキシ-3-プロピルブタノール、3-メトキシ-2-メチルブタノール、3-メトキシ-2-エチルブタノール、3-メトキシ-2-プロピルブタノール、3-メトキシ-1-メチルブタノール、3-メトキシ-1-エチルブタノール、3-メトキシ-1-プロピルブタノール、3-メトキシブチルアセテート、3-メトキシ-3-メチルブチルアセテート、3-メトキシ-3-エチルブチルアセテート、3-メトキシ-3-プロピルブチルアセテート、3-メトキシ-2-メチルブチルアセテート、3-メトキシ-2-エチルブチルアセテート、3-メトキシ-2-プロピルブチルアセテート、3-メトキシ-1-メチルブチルアセテート、3-メトキシ-1-エチルブチルアセテート、3-メトキシ-1-プロピルブチルアセテート等が挙げられる。なかでも、3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、3-メトキシ-2-メチルブタノール、3-メトキシ-1-メチルブタノール、3-メトキシ-3-メチルブチルアセテートが好ましく、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールがより好ましい。
化合物(a-3)の沸点は、150~300℃が好ましく、150~250℃がより好ましい。
【0021】
本燻煙型揮散剤組成物に含まれる(A)成分は、1種でも2種以上でもよい。(A)成分の種類により、又は、異なる(A)成分の併用により、発生する煙状物の色の濃さ、煙状物の発生量、煙状物が発生し続ける時間(発煙継続時間)等を制御でき、さらには、(B)成分の空間への揮散量も制御することができる。
【0022】
(A)成分の含有量は、本燻煙型揮散剤組成物の総質量に対して10質量%以上であり、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましく、また、80質量%以下であり、69質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましい。(A)成分の含有量が前記下限値以上であると、触感の付与効果に優れる。また、(A)成分によって(B)成分を充分に揮散させることができ、消臭効果にも優れる。(A)成分の含有量が前記上限値以下であると、相対的に水や(B)成分の含有量が多くなることで、繊維製品処理時に燻煙型揮散剤組成物の温度が過剰に高くなることを抑制でき、熱による(A)成分の分解や焦げ臭の発生を抑制できるため、触感の付与効果及び消臭効果に優れる。また、燻煙型揮散剤組成物で処理された繊維製品にベタツキが生じることを抑制できる。
前記下限値及び前記上限値は適宜組み合わせることができる。(A)成分の含有量は、例えば20~69質量%、20~60質量%が好ましく、20~50質量%、25~50質量%、又は30~50質量%であってよい。
【0023】
<(B)成分>
(B)成分は、環状デキストリン、及び炭素数8~22の脂肪酸亜鉛塩からなる群から選択される少なくとも1種である。本燻煙型揮散剤組成物に含まれる(B)成分は、1種でも2種以上でもよい。
(B)成分は、消臭成分として機能する。(B)成分が繊維製品に付着することで、消臭効果が発現する。
【0024】
環状デキストリンとは、グルコースの重合度(n)が5以上であり、かつ、環状構造を有するグルカンをいう。
環状デキストリンには、グルコースの重合度が6~8の一般的なシクロデキストリンだけでなく、高度分岐環状デキストリンも含まれる。
【0025】
一般的なシクロデキストリンは、d-グルコースがα-1,4結合により環状に結合したものであり、例えば、α-シクロデキストリン(n=6)、β-シクロデキストリン(n=7)、γ-シクロデキストリン(n=8)が挙げられる。本発明では、α型、β型、及びγ型のいずれのシクロデキストリンを使用してもよい。
シクロデキストリンは、水への溶解性を向上させるため、誘導体化されていてもよい。シクロデキストリン誘導体としては、ヒドロキシアルキルシクロデキストリンに属するものが好ましく、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンが特に好ましい。
【0026】
高度分岐環状デキストリンは、国際公開第2014/185454号に記載されるように、内分岐環状構造部分と外分岐構造部分とを有する高重合度(高分子量)のグルカンである。内分岐環状構造部分は、α-1,4-グルコシド結合とα-1,6-グルコシド結合とで形成される環状構造部分である。外分岐構造部分は、内分岐環状構造部分に結合した非環状構造部分である。
内分岐環状構造部分は、10~100個程度のグルコースで構成されており、この内分岐環状構造部分に、非環状の多数の分岐グルカン鎖からなる外分岐構造部分が結合している。
高度分岐環状デキストリンの重合度は、例えば50~10000である。内分岐環状構造部分の重合度は、例えば10~100である。外分岐構造部分の重合度は、例えば40以上である。外分岐構造部分の各単位鎖の重合度は、例えば平均で10~20である。
高度分岐環状デキストリンは、分子量が3万から100万程度であり、分子内に環状構造部分(内分岐環状構造部分)を1つ有し、さらにその環状構造部分に多数のグルカン鎖(外分岐構造部分)が結合した重量平均重合度2500程度のデキストリンを主に含む。
高度分岐環状デキストリンは、上記のような特定の構造を有し、かつ重合度(分子量)が大きいものであり、上述した一般的なシクロデキストリンとは異なる。
【0027】
高度分岐環状デキストリンとしては、グリコ栄養食品株式会社のクラスターデキストリン(登録商標)等の市販品を用いてもよく、公知の製造方法により製造したものを用いてもよい。
高度分岐環状デキストリンは、例えば、デンプンを原料として、ブランチングエンザイムという酵素を作用させて製造される。原料であるデンプンは、グルコースがα-1、4-グルコシド結合によって直鎖状に結合したアミロースと、α-1,6-グルコシド結合によって複雑に分岐した構造をもつアミロペクチンからなる。アミロペクチンは、クラスター構造が多数連結された巨大分子である。使用酵素であるブランチングエンザイムは、動植物、微生物に広く分布するグルカン鎖転移酵素であり、アミロペクチンのクラスター構造の継ぎ目部分に作用し、これを環状化する反応を触媒する。
【0028】
炭素数8~22の脂肪酸亜鉛としては、例えば、ベヘニン酸亜鉛、カプリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、リシノール酸亜鉛等が挙げられる。なかでも、亜鉛と塩の安定性の面で、リシノール酸亜鉛塩が好ましい。
【0029】
環状デキストリン及び炭素数8~22の脂肪酸亜鉛塩はいずれも、水に溶解可能である。(B)成分が水に溶解しない場合、燻煙型揮散剤組成物で処理した繊維製品に、(B)成分の粒によるざらつきが生じて触感が損なわれるおそれがある。また、繊維製品が濃色の場合、白色の(B)成分の粒が付着することで外観が損なわれるおそれがある。
【0030】
(B)成分の含有量は、本燻煙型揮散剤組成物の総質量に対して0.5質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましく、また、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。(B)成分の含有量が前記下限値以上であると、繊維製品に対する消臭効果がより優れる。(B)成分の含有量が前記上限値以下であると、本燻煙型揮散剤組成物で繊維製品を処理したときに、繊維製品が黄変しにくい。
前記下限値及び前記上限値は適宜組み合わせることができる。(B)成分の含有量は、例えば0.5~30質量%、5~20質量%、又は10~15質量%であってよい。
【0031】
(B)成分/(A)成分で表される質量比(以下、「(B)/(A)比」とも記す。)は、0.005~1.5が好ましく、0.1~1がより好ましく、0.2~0.5がさらに好ましい。(B)/(A)比が前記下限値以上であると、繊維製品に対する消臭効果がより優れる。(B)/(A)比が前記上限値以下であると、繊維製品への触感の付与効果がより優れる。また、(B)成分が揮散しやすくなることで、繊維製品に対する消臭効果もより優れる。
【0032】
<(C)成分>
(C)成分は、水である。
水としては、水道水、イオン交換水、純水、蒸留水など、いずれも用いることができる。なかでもイオン交換水が好適である。
【0033】
(A)成分/(C)成分で表される質量比(以下、「(A)/(C)比」とも記す。)は、0.2以上10未満が好ましく、0.4~5がより好ましく、0.7~2がさらに好ましい。(A)/(C)比が前記下限値以上であると、繊維製品への触感の付与効果がより優れる。また、(B)成分が揮散しやすくなることで、繊維製品に対する消臭効果もより優れる。(A)/(C)比が前記上限値以下であると、繊維製品処理時に温度が過剰に高くなることを抑制でき、熱による(A)成分の分解や焦げ臭の発生を抑制できる。
【0034】
<任意成分>
本燻煙型揮散剤組成物は、本燻煙型揮散剤組成物に芳香を付与する目的で、香料を含むことができる。
香料としては、公知のものを使用できる。使用され得る香料原料のリストは、様々な文献、例えば「Perfume and Flavor Chemicals」,Vol.Iand II,Steffen Arctander,Allured Pub.Co.(1994)および「合成香料 化学と商品知識」、印藤元一著、化学工業日報社(1996)および「Perfume and Flavor Materials of Natural Origin」,Steffen Arctander,Allured Pub.Co.(1994)及び「香りの百科」、日本香料協会編、朝倉書店(1989)および「Perfumery Material Performance V.3.3」,Boelens Aroma Chemical Information Service(1996)および「Flower oils and Floral Compounds In Perfumery」,Danute Lajaujis Anonis,Allured Pub.Co.(1993)等で見られ、それぞれを引用することにより本明細書の開示の一部とする。
香料の含有量は、本燻煙型揮散剤組成物の総質量に対し、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。香料の含有量が前記上限値以下であれば、本燻煙型揮散剤組成物で繊維製品を処理したときに、繊維製品が黄変しにくい。香料の含有量の下限は特に限定されないが、例えば、本燻煙型揮散剤組成物の総質量に対し、0質量%以上、さらには0.5質量%以上とすることができる。
【0035】
本燻煙型揮散剤組成物は、繊維製品に抗菌効果を付与する目的や、燻煙型揮散剤組成物の保存性を高める目的で、抗菌剤を含むことができる。
抗菌剤としては、繊維処理剤分野や燻煙型揮散剤組成物分野で公知の成分を特に制限なく使用できる。具体例としては、例えば、炭素数12~16のアルキルトリメチルアンモニウム塩(ライオンスペシャリティケミカルズ社製リポカードC12-37W、リポカードC50、リポカードC16Cl塩、リポカードC16MS塩等)、ジアルキルジメチルアンモニウム塩(ライオンスペシャリティケミカルズ社製リポカード210-80E、ロンザ社製CarboquatMW50等)、ジアルキルメチルポリアンモニウムプロピオネート(ロンザ社製Bardap26等)、ダイクロサン(BASF社製 チノサンHP100等)、トリクロサン、塩化ベンザルコニウム(ロンザ社製 BarquatMS100、BarquatMB80等)、塩化ベンゼトニウム、ビス-(2-ピリジルチオ-1-オキシド)亜鉛、8-オキシキノリン、ビグアニド系化合物(ロンザ社製 ProxelIB)、塩酸クロロヘキシジンや、ポリリジン、銀系抗菌剤(酸化銀、銀含有高分子ポリマー、銀を担持させたゼオライト、銀ナノ粒子、銀イオン、硝酸銀、硫化銀等)、銀以外の金属系抗菌剤(酸化亜鉛、亜鉛イオン等)等が挙げられる。これらの中でも、C12-16アルキルトリメチルアンモニウム塩、塩化ベンザルコニウム、ビグアニド系化合物や、塩酸クロロヘキシジンが好ましい。
抗菌剤の含有量は、配合目的を達成できる限り特に限定されないが、本燻煙型揮散剤組成物の総質量に対し、0.001~5質量%が好ましい。
【0036】
本燻煙型揮散剤組成物は、自己反応性の発熱性基剤を含まないことが好ましい。これにより、本燻煙型揮散剤組成物で繊維製品を処理する際に生じる煙状物が、発熱性基剤の燃焼又は分解により生じる微粒子を含まないことから、白色沈降物による繊維製品の汚染を防止できる。
ここで「発熱性基剤」は、加熱されて燃焼又は分解し、これにより生じる燃焼熱又は分解熱で有効成分を揮散させる成分であり、有機発泡剤、発熱剤、燃焼剤等の種々のものが用いられ、具体的には、ニトロセルロース、アゾジカルボンアミド、p・p’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン等が挙げられる。
「自己反応性の発熱性基剤」とは、ある一定以上の温度に達すると燃焼又は分解反応が能動的に進行するものをいう。具体的には、アゾジカルボンアミドが挙げられる。
【0037】
本燻煙型揮散剤組成物は、上記の各成分を混合することにより調製できる。
【0038】
〔繊維製品の処理方法〕
本発明の一実施形態に係る繊維製品の処理方法(以下、「本処理方法」とも記す。)は、繊維製品が配置された空間内で、本燻煙型揮散剤組成物を150~450℃で加熱する方法である。
本燻煙型揮散剤組成物が150~450℃で加熱されると、上述したように、(A)成分が気化し、その蒸気が空間中に噴出する。噴出された蒸気は白色の煙状物として視認される。また、(A)成分の蒸気によって(B)成分が空間中に揮散する。(A)成分が空間内の繊維製品に付着することで、繊維製品に柔らかさ、滑らかさ等の触感が付与され、(B)成分が繊維製品に付着することで、繊維製品が消臭される。
【0039】
繊維製品としては、特に制限されるものではなく、例えば、衣類、カーテン、ソファー、カーペット、タオル、ハンカチ、シーツ、マクラカバー、布製の靴、カバン、リュック類等が挙げられる。
繊維製品が配置される空間としては、例えば家屋内(浴室、居間、寝室、押入れ、クローゼット等)、車両内等の密閉可能な空間が好ましい。
空間内に配置される繊維製品の占める割合は、空間に対し、80体積%以下が好ましく、50体積%以下がより好ましい。繊維製品の占める割合が前記上限値以下であると、(A)成分及び(B)成分が空間全体に拡散しやすい。
【0040】
本燻煙型揮散剤組成物の加熱温度は、150~450℃であり、170~400℃が好ましく、190~400℃がより好ましい。150℃以上で加熱することで、発生した(A)成分の蒸気を煙状に噴出させることができ、短時間で(A)成分及び(B)成分を空間全体に拡散させることができる。前記範囲内においては、加熱温度が高いほど、(A)成分及び(B)成分が空間全体に拡散する時間が短くなり、その拡散範囲も広くなる。加熱温度が450℃を超えると、(B)成分が熱分解し、有効な状態(未分解の状態)で揮散する量が減少(揮散効率が低下)するおそれがある。
【0041】
本燻煙型揮散剤組成物の加熱は、汚染防止効果に優れることから、間接加熱方式により行うことが好ましい。間接加熱方式は、燻煙型揮散剤組成物の加熱方式の一つとして知られる方法で、燻煙型揮散剤組成物を燃焼させることなく、発熱性基剤の熱分解に必要な温度(熱エネルギー)を、伝熱部(たとえば前記燻煙型揮散剤組成物を収容した容器の壁(側壁や底壁)、前記容器の空間等)を介して供給する簡便な方法である。つまり、本処理方法においては、本燻煙型揮散剤組成物を燃焼させることなく、(A)成分の気化に必要な温度(熱エネルギー)を、伝熱部を介して供給することが好ましい。
加熱手段としては、特に限定されず、従来、間接加熱方式に用いられている加熱手段を用いることができる。例えば、水と接触して発熱する物質を水と接触させ、その反応熱を利用する方法、金属と前記金属よりイオン化傾向の小さい金属酸化物又は酸化剤とを混合(たとえば鉄粉と酸化剤(塩素酸アンモニウム等)とを混合)し、その酸化反応により生じる熱を利用する方法、電熱線のような電気的な力(たとえばホットプレート等)によって発生した熱を利用する方法等が挙げられる。これらの中でも、実用性の観点から、水と接触して発熱する物質を水と接触させ、その反応熱を利用する方法が好ましく、酸化カルシウムと水との反応熱を利用する方法がより好ましい。
水と接触して発熱する物質としては、酸化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化鉄等が挙げられる。例えば酸化カルシウムと水とを反応させると、200~400℃程度の熱が発生する。
間接加熱方式による加熱は、例えば、従来、間接加熱方式の燻煙装置に用いられている容器に、本燻煙型揮散剤組成物を組み込むことにより実施できる。
【0042】
また、加熱によって本燻煙型揮散剤組成物の温度を、設定温度になるべく短時間で到達させることが好ましい。具体的には、本燻煙型揮散剤組成物の加熱は、伝熱部面が任意の設定温度になるべく短時間で到達するように行うことが好ましい。より具体的には、前記の各反応又は電熱線によって加熱し始めてから、好ましくは120秒以内に、より好ましくは60秒以内に、設定温度に到達するように加熱を行う。このように加熱速度を制御することにより、(B)成分の熱分解がより抑制されて有効成分による効果が高まる。
さらに、任意の設定温度をなるべく長い時間保持することが好ましい。具体的には、好ましくは90秒間以上、より好ましくは150秒間以上、設定温度を保持するように加熱を行う。このように設定温度を保持することにより、発煙継続時間が長くなり、(B)成分を空間全体により拡散できる、又は(B)成分の空間への揮散量をより増加させることができる。
前記の設定温度、加熱速度及び保持時間は、(B)成分の種類に応じて適宜設定すればよい。水と接触して発熱する物質として酸化カルシウムを用いる場合、酸化カルシウムと水との比率、酸化カルシウムの使用量、酸化カルシウムの商品グレードの選択により制御できる。また、本燻煙型揮散剤組成物を収容する容器の容量又は材質等によっても制御できる。
【0043】
本燻煙型揮散剤組成物の使用量は、繊維製品が配置される空間の床面積1m2当たり、0.1~2.0gが好ましく、0.2~1.5gがより好ましい。
処理時間(加熱開始後、対象空間を密閉する時間)は、燃焼挙動の点から、10分間以上が好ましく、30分間以上がより好ましく、また、使用性の点から、1時間以下が好ましい。
【0044】
〔繊維製品処理用の燻煙装置〕
本発明の一実施形態に係る繊維製品処理用の燻煙装置(以下、「本燻煙装置」とも記す。)は、上述の本燻煙型揮散剤組成物と、150~450℃の熱を発生する発熱部とが、伝熱部を介して配置されたものである。
本燻煙装置は、繊維製品処理用であり、燻煙型繊維製品処理装置ともいえる。
本燻煙装置の構成は、公知の間接加熱方式の燻煙装置の構成と同様であってよい。
【0045】
図1は、本燻煙装置の構成の一例を示す概略断面図である。
この例の燻煙装置1は、外容器10と、外容器10の内側に設けられた内容器20と、外容器10と内容器20との間に設けられた発熱部30と、内容器20に収容された燻煙型揮散剤組成物40とで概略構成されている。燻煙型揮散剤組成物40は、前記した本燻煙型揮散剤組成物である。
【0046】
発熱部30は、水と接触して発熱する物質(例えば、酸化カルシウム等)を充填することにより形成されている。前記物質の充填量は、燻煙型揮散剤組成物40からの蒸気の発生に必要な熱量等を考慮して決定することができる。水と接触して発熱する物質としては、前記した本処理方法の説明で挙げたものと同様のものが挙げられ、酸化カルシウムが好ましい。
酸化カルシウムと水との比率は、発生する煙状物の色の濃さ、煙状物の発生量、発煙継続時間、(B)成分の揮散量などを勘案して適宜決定すればよい。
なお、ここでは水と接触して発熱する物質が充填された例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば発熱部30内に仕切り材を配置して独立した複数の区画を形成し、各区画にそれぞれ金属と、前記金属よりイオン化傾向の小さい金属酸化物又は酸化剤とを充填してもよい。
【0047】
内容器20は、燻煙型揮散剤組成物40を収容する容器として機能すると共に、発熱部30で生じた熱エネルギーを燻煙型揮散剤組成物40に伝える伝熱部として機能する。
内容器20の材質は、伝熱性を有するものであればよく、例えば金属、プラスチック、紙等が挙げられる。
内容器20は、発熱部30と接触していても離間していてもよい。
【0048】
外容器10は、本体12と、蓋部14と、底部16とから構成されている。
本体12、蓋部14、底部16のそれぞれの材質は、発熱部30で発生する熱や燻煙型揮散剤組成物40から発生する高温の蒸気による変形等が生じない耐熱性を有するものが用いられ、たとえば金属、セラミック、紙等が挙げられる。
本体12は略円筒状で、その内径は内容器20の外径よりも大きく、また、高さは内容器20の高さよりも高い。これにより、外容器10内に内容器20を設置した際に、内容器20の側壁及び底壁との間に隙間が形成されるようになっている。
蓋部14は、蒸気が通過する孔を有するものであり、メッシュ、パンチングメタル、格子状の枠体等が挙げられる。
底部16は、水を透過し、かつ発熱部30を構成する物質(水と接触して発熱する物質)を透過しない孔を有するもの、たとえば不織布、メッシュ等で構成される。これにより、使用時に底部16から水を発熱部30内に浸入させ、発熱させることができるようになっている。
なお、底部16の構造は、発熱部30の構成に応じて決定される。例えば、発熱部30に金属と、前記金属よりイオン化傾向の小さい金属酸化物又は酸化剤とが充填されている場合は、底部16の構造は水を透過しないものであってよい。
【0049】
燻煙装置1を用いた繊維製品の処理方法について説明する。
まず、燻煙装置1を、繊維製品が配置された空間内に設置する。燻煙装置1を空間内に設置した後に、繊維製品を空間内に配置してもよい。
次いで、発熱部30の機構に応じて発熱部30を発熱させる。例えば、酸化カルシウムを充填した発熱部30が設けられている場合、外容器10の底部16を水中に浸漬する。これにより、底部16から浸入した水が発熱部30で酸化カルシウムと反応し、200~350℃程度の熱が発生する。
このとき、内容器20の内側底面中央部22の温度を、外容器10の底部16を水中に浸漬した時点から短時間で、好ましくは120秒以内に、より好ましくは60秒以内に、任意の設定温度に到達するように制御することが好ましい。加えて、内側底面中央部22の温度を、任意の設定温度に90秒間以上(より好ましくは150秒間以上)保持することが好ましい。なお、内側底面中央部22の温度は、酸化カルシウムと反応する水の量を調整することによって制御できる。
そして、底部16から浸入した水が発熱部30で酸化カルシウムと反応して発生した熱が内容器20の側壁や底壁を介して燻煙型揮散剤組成物40に伝わり、燻煙型揮散剤組成物40の温度が上昇して(A)成分の蒸気が発生する。生じた蒸気と共に(B)成分が蓋部14の孔を通過して拡散する。そして、空間内に(A)成分及び(B)成分が拡散し、繊維製品に付着することで、消臭及び触感付与がなされる。
【0050】
燻煙装置1は、いわゆる間接加熱方式の燻煙装置であるが、例えば揮散剤の含浸体(たとえば吸液芯など)もしくは成形体と、これと離間して配置された伝熱部とを備えるものであってもよい。
【実施例0051】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0052】
(使用原料)
<(A)成分>
プロピレングリコール:関東化学(株)製、沸点188℃。
ジプロピレングリコール:関東化学(株)製、沸点236℃。
3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール:(株)クラレ製、沸点174℃。
【0053】
<(B)成分及び比較品>
HP-βシクロデキストリン:ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、東京化成工業(株)製。
クラスターデキストリン:グリコ栄養食品(株)製。
リシノール酸亜鉛:Evonik社製。
β-イオノン:富士フイルム和光純薬(株)製。
【0054】
<(C)成分>
水:精製水。
【0055】
<任意成分>
香料:特開2002-146399号公報の表11~18に記載の香料組成物A。
抗菌剤:4,4’-ジクロロ-2-ヒドロキシジフェニルエーテル:BASF社製。
【0056】
(実施例1~14、比較例1~6)
<燻煙型揮散剤組成物の調製>
表1に示す各成分を混合、溶解することにより、各例の燻煙型揮散剤組成物を調製した。表中、各成分の配合量の単位は質量%であり、各例の燻煙型揮散剤組成物は、全量が100質量%となるようにそれぞれ調製した。
【0057】
<燻煙装置の作製>
図1に示す燻煙装置1と同じ形態の燻煙装置を作製した。具体的には、ライオン(株)製「水ではじめるバルサン25g」に使用されているブリキ缶(Lサイズ;直径66mm×高さ75mm)の発熱部に、加熱剤として酸化カルシウムを充填し、専用の底蓋を取り付け、各例の燻煙型揮散剤組成物を内容器に収容して燻煙装置とした。酸化カルシウムの充填量は55g、燻煙型揮散剤組成物の収容量は3gとした。
各例の燻煙装置について以下の評価を行った。その結果を表1に併記した。
【0058】
<消臭効果の評価>
ウールサージに付着したタバコ臭の消臭効果について評価を実施した。
まず、25℃の室内で、縦42cm×横30cm×高さ37cmの密閉可能なダンボール内に15×20cmの大きさのウールサージを吊るし、火をつけた市販タバコ(マイルドセブン)を2本置いて段ボールを密閉し、ダンボール内に煙を充満させた。1時間後、タバコ臭のついたウールサージを取りだし、室内にて0.5時間放置して試験布を作成した。
次いで、縦70×横70×高さ140cmの密閉可能な評価ボックス内の床から140cmの部分に試験布を吊るし、水26gを入れた直径8cm、高さ7cmのプラスチックカップを評価ボックス内の中央床面に設置した。その後、前記プラスチックカップに、燻煙装置を配置して燻煙を開始し、評価ボックスを密閉した。燻煙を開始してから1時間後に試験布を回収し、パネラー10名により下記基準で消臭効果について評価を行った。ここで、標準布とは、タバコ臭を付着させた未処理のウールサージである。パネラー10名の評点の平均値を評価結果として示した。
5点:標準布より著しく弱く、タバコ臭を感じない。
4点:標準布より非常に弱い。
3点:標準布より弱い。
2点:標準布よりやや弱い。
1点:標準布と同等。
【0059】
<触感付与効果の評価>
試験布として市販のウールサージを20×20cmに裁断したものを用いた。
縦70×横70×高さ140cmの密閉可能な評価ボックス内の床から140cmの部分に試験布を吊るし、水26gを入れた直径8cm、高さ7cmのプラスチックカップを前記評価ボックス内の中央床面に設置した。その後、前記プラスチックカップに燻煙装置を配置して燻煙を開始し、評価ボックスを密閉した。燻煙を開始してから1時間後に試験布を回収し、パネラー10名により下記基準で柔らかさ及び滑らかさについて評価を行った。ここで、標準布とは、未処理のウールサージである。パネラー10名の評点の平均値を評価結果として示した。
5点:標準布よりはっきり良好。
4点:標準布よりやや良好。
3点:標準布と同等。
2点:標準布の方がやや良好。
1点:標準布の方がはっきりと良好。
【0060】
<黄変の評価>
試験布として市販の綿メリヤスを10×10cmに切断したものを用いた。
縦70×横70×高さ140cmの密閉可能な評価ボックス内の床から140cmの部分に試験布を吊るし、水26gを入れた直径8cm、高さ7cmのプラスチックカップを前記評価ボックス内の中央床面に設置した。その後、前記プラスチックカップに燻煙装置を配置して燻煙を開始し、評価ボックスを密閉した。燻煙を開始してから1時間後に試験布を回収した。同じ試験布を用いて、同様の評価を10回繰り返し実施した。その後、50℃に温めた恒温室に試験布を入れ、1週間放置した。1週間放置後の試験布について、パネラー10名が下記基準で黄変度合を3段階で目視確認した。
3点:黄変なし。
2点:やや黄変あり。
1点:はっきりと黄変あり。
パネラー10名の評点の平均値を下記基準で評価した。
〇:2点以上3点未満。
△:1点以上2点未満。
×:1点未満。
【0061】
【0062】
表1に示すとおり、実施例1~14の燻煙型揮散剤組成物で繊維製品を処理することで、優れた消臭効果及び触感付与効果が得られた。また、繊維製品の黄変が充分に抑制されていた。
一方、(A)成分を含まない比較例1、(A)成分の含有量が10質量%未満の比較例2、(A)成分の含有量が80質量%超の比較例5は、消臭効果、触感付与効果ともに劣っていた。
(B)成分の代わりに香料であるβ-イオノンを用いた比較例3~4は、繊維製品に明らかな黄変が見られ、繊維製品処理用としては適さないものであった。
(B)成分を含まない比較例6は、消臭効果に劣っていた。