(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092267
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】インクジェットプリントヘッド用洗浄液
(51)【国際特許分類】
C11D 1/72 20060101AFI20240701BHJP
C11D 3/43 20060101ALI20240701BHJP
B41J 2/165 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
C11D1/72
C11D3/43
B41J2/165 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208075
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川口 太生
【テーマコード(参考)】
2C056
4H003
【Fターム(参考)】
2C056JB15
4H003AC08
4H003BA12
4H003DA12
4H003DB03
4H003DC02
4H003EA21
4H003EB04
4H003EB06
4H003ED02
4H003ED29
4H003FA04
4H003FA28
(57)【要約】
【課題】インク固化物の再分散性及び消泡性に優れ、インクジェットプリントヘッドの洗浄後のインクの吐出不良を抑制できる、インクジェットプリントヘッド用洗浄液に関する。
【解決手段】〔1〕アセチレングリコール系界面活性剤(a)を含む界面活性剤(A)と、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(b)を含む水溶性有機溶媒(B)と、水とを含有し、20℃におけるpHが10.5以上である、インクジェットプリントヘッド用洗浄液、及び〔2〕前記〔1〕に記載のインクジェットプリントヘッド用洗浄液を用いるインクジェットプリントヘッドの洗浄方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセチレングリコール系界面活性剤(a)を含む界面活性剤(A)と、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(b)を含む水溶性有機溶媒(B)と、水とを含有し、20℃におけるpHが10.5以上である、インクジェットプリントヘッド用洗浄液。
【請求項2】
アセチレングリコール系界面活性剤(a)のHLBが、14以下である、請求項1に記載のインクジェットプリントヘッド用洗浄液。
【請求項3】
界面活性剤(A)中のアセチレングリコール系界面活性剤(a)の質量比が0.7以上である、請求項1又は2に記載のインクジェットプリントヘッド用洗浄液。
【請求項4】
インクジェットプリントヘッド用洗浄液中のアセチレングリコール系界面活性剤(a)の含有量が0.01質量%以上0.5質量%以下である、請求項1~3のいずれかに記載のインクジェットプリントヘッド用洗浄液。
【請求項5】
水溶性有機溶媒(B)中のジエチレングリコールモノブチルエーテル(b)の質量比が0.5以上である、請求項1~4のいずれかに記載のインクジェットプリントヘッド用洗浄液。
【請求項6】
インクジェットプリントヘッド用洗浄液中のジエチレングリコールモノブチルエーテル(b)の含有量が5質量%以上20質量%以下である、請求項1~5のいずれかに記載のインクジェットプリントヘッド用洗浄液。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のインクジェットプリントヘッド用洗浄液を用いる、インクジェットプリントヘッドの洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリントヘッド用洗浄液に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷法は、インクジェットプリンターを用いて、非常に微細なノズルからインク液滴を記録媒体に直接吐出し、付着させて、文字や画像が記録された印刷物を得る方法である。インクジェットプリンターの使用現場では、ノズルの吐出不良等が生じないよう、ノズル面や吐出口に付着した余分なインクを除去するためにゴムワイプや洗浄液を染み込ませた不織布等での拭き取りが行われる。また、種類の異なるインクを使用する場合には、インク変更の前後にプリンター内のインク経路を洗浄液で洗浄する必要がある。また、長期間記録ヘッドを使用しない場合には記録ヘッドからインクを抜き取り、該記録ヘッドに洗浄液を充填しキャッピングして保存すること等が行われる。そこで、種々の洗浄液が提案されてきた。
【0003】
例えば、特許文献1では、濡れ性と洗浄性等に優れ、印字に顔料インクを使用した場合においても、該インクとの相溶性に優れ、インクを再充填した際に吐出不良を起こさないインクジェット記録装置用洗浄液兼充填液として、界面活性剤が少なくともフッ素系界面活性剤とエチレンオキシドの平均付加モル数が0~30であるアセチレングリコール系界面活性剤とを含むインクジェット記録装置用洗浄液兼充填液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、インクジェットプリンターに用いられる水系インクとして、顔料の分散性の向上や得られる印刷物の定着性を向上するために、顔料や水不溶性ポリマーを含む水系インクが用いられる。このような水系インクの顔料や水不溶性ポリマーが固化すると、インクジェットプリントヘッドのノズル孔が該固化物によって閉塞し、吐出不良を引き起こす原因となる。そのため、顔料と水不溶性ポリマーを含む水系インクの固化物を、再び液中に分散状態とさせる、高い再分散性を有する洗浄液が望まれる。
また、水系インクを用いたインクジェットプリントヘッドのノズル孔の閉塞を取り除くため、インクジェットプリントヘッドのノズル面や吐出口を、洗浄液を染み込ませた不織布等で拭き取った後、水系インクによるノズルパージを実行し、更にゴムワイパーで拭取る作業が行われるが、この時、ノズル孔の内部に気泡が生じ、この気泡が残留することにより、水性インクの吐出不良を引き起こす場合があった。
本発明は、インク固化物の再分散性及び消泡性に優れ、インクジェットプリントヘッドの洗浄後のインクの吐出不良を抑制できる、インクジェットプリントヘッド用洗浄液に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の界面活性剤と、特定のグリコールエーテルを含む水溶性有機溶媒とを含み、特定のpHを示す洗浄液を用いることで、上記課題を解決できることを見出した。
本発明は、以下の〔1〕~〔2〕に関する。
〔1〕アセチレングリコール系界面活性剤(a)を含む界面活性剤(A)と、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(b)を含む水溶性有機溶媒(B)と、水とを含有し、20℃におけるpHが10.5以上である、インクジェットプリントヘッド用洗浄液。
〔2〕前記〔1〕に記載のインクジェットプリントヘッド用洗浄液を用いる、インクジェットプリントヘッドの洗浄方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、インク固化物の再分散性及び消泡性に優れ、インクジェットプリントヘッドの洗浄後のインクの吐出不良を抑制できる、インクジェットプリントヘッド用洗浄液を提供できる。また、本発明によれば、インクの吐出不良を抑制できる、インクジェットプリントヘッドの洗浄方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[インクジェットプリントヘッド用洗浄液]
本発明のインクジェットプリントヘッド用洗浄液(以下、単に「洗浄液」ともいう)は、アセチレングリコール系界面活性剤(a)を含む界面活性剤(A)と、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(b)を含む水溶性有機溶媒(B)と、水とを含有し、20℃におけるpHが10.5以上である。
【0009】
本発明の洗浄液を用いてインクジェットプリントヘッドを洗浄した際に、インクの吐出不良の不具合を抑制できる理由は定かではないが、以下のように考えられる。
本発明の洗浄液は、20℃におけるpHが10.5以上であることから、インク固化物を構成する水不溶性ポリマーを再溶解させる性能に優れ、更に、再溶解させた水不溶性ポリマーの電気的な反発力を高め、洗浄液内で分散させた状態で維持できる性能に特に優れると考えられる。
また、本発明の洗浄液は、界面活性剤(A)として、アセチレングリコール系界面活性剤(a)を含むため、インジェットヘッドの洗浄において、気泡の発生を抑制し、また発生した気泡を消滅させることができる。更に、アセチレングリコール系界面活性剤(a)は、後述のように、特徴的な構造を有しているため、インク固化物への浸透性と剥離性に優れると考えられる。
また、本発明の洗浄液は、水溶性有機溶媒(B)として、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(b)を含むため、本発明の洗浄液の疎水性を向上でき、また、インク固化物を構成する水不溶性ポリマーに対する親和力が高く、これらを膨潤させる作用を有する。このため、インク固化物を構成する水不溶性ポリマーの再分散を促進させることができると考えられる。更に、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(b)は、親水性と疎水性のバランスがよいため、界面活性剤(A)、特にアセチレングリコール系界面活性剤(a)の機能をより発揮させることができる。このため、インクジェットプリントヘッドのノズル孔に付着しているインク固化物への浸透性をより高めることができ、インク固化物をノズル孔から剥離させる性能を、より向上させることができると考えられる。
以上の効果により、本発明の洗浄液を用いてインクジェットプリントヘッドの洗浄を行った後には、ノズル孔に気泡を残さず、また、次の印刷に備えて印刷用のインクが充填されるときに本発明の洗浄液から印刷用のインクへの置き換えを円滑に行うことができる。このため、本発明の洗浄液は、印刷品質確保のために行われるインクジェットプリントヘッドの洗浄後に発生する、インクの吐出不良の不具合を抑制できると考えられる。
【0010】
<界面活性剤(A)>
本発明の洗浄液は、インク固化物の再分散性及び消泡性を向上させ、インクジェットプリントヘッドの洗浄後のインクの吐出不良を抑制させる観点から、界面活性剤(A)を含有する。
【0011】
(アセチレングリコール系界面活性剤(a))
本発明において、アセチレングリコール系界面活性剤(a)は、炭素-炭素三重結合を分子構造の中央に一つ有し、また該アセチレン基に隣接する炭素原子に水酸基及び必要に応じて該水酸基に付与された(ポリ)アルキレングリコール基を有し、該アセチレン基から見て該水酸基を有する炭素原子以遠には分岐または直鎖の炭化水素基を有する構造のノニオン性界面活性剤を意味する。
本発明において、洗浄液は、前記の特徴的な構造を有するアセチレングリコール系界面活性剤(a)を含むため、消泡性に優れ、また、インク固化物への浸透性及びインクジェットプリントヘッドのノズル孔からの剥離性に優れるため、インクジェットプリントヘッドの洗浄後の吐出不良を抑制することができる。
【0012】
アセチレングリコール系界面活性剤(a)は、前記の特徴的な構造を有しているものであれば任意のものを使用できる。その中でも好ましくは、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、及びこれらのエチレンオキシド付加物(EO付加物)から選ばれる1種以上であり、より好ましくは2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、2,5-ジメチル-3-ヘキシン-2,5-ジオール、及びこれらのEO付加物から選ばれる1種以上であり、更に好ましくは、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及びこのEO付加物である。
2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及びこのEO付加物の市販品としては、エアープロダクツアンドケミカル社のサーフィノール104PG-50(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのプロピレングリコール溶液、有効分50%、HLB=4)、同440(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのEO付加物(EO平均付加モル数:3.5モル)、有効分100%、HLB=8)、同465(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのEO付加物(EO平均付加モル数:10モル)、有効分100%、HLB=13)等が挙げられる。
【0013】
界面活性剤(A)は、必要に応じて、更にアセチレングリコール系界面活性剤(a)以外の界面活性剤を含有してもよい。
アセチレングリコール系界面活性剤(a)以外の界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられ、これらの中でも、好ましくはノニオン性界面活性剤である。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリアルキレングリコールアルキルエーテルが挙げられる。ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコールアルキルエーテルが挙げられ、更にこの中では、ポリエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、ポリエチレングリコールモノオクチルエーテル、ポリエチレングリコールモノデシルエーテル、ポリエチレングリコールモノドデシルエーテル及びポリエチレングリコールモノテトラデシルエーテル等が挙げられる。
【0014】
本発明において、アセチレングリコール系界面活性剤(a)のHLBは、インク固化物の再分散性及び消泡性を向上させ、インクジェットプリントヘッドの洗浄後のインクの吐出不良を抑制させる観点から、好ましくは14以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは6以下、より更に好ましくは5以下である。
また、本発明においてアセチレングリコール系界面活性剤(a)として複数を併用して用いる場合は、アセチレングリコール系界面活性剤(a)のHLBは、各アセチレングリコール系界面活性剤(a)のHLB値に各アセチレングリコール系界面活性剤(a)の質量比を乗じて合計した数値、いわゆる加重平均値で示される。すなわち、本発明において、アセチレングリコール系界面活性剤(a)のHLBは、加重平均値で、好ましくは14以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは6以下、より更に好ましくは5以下である。
本発明において、特にHLBが上記の範囲内にあるアセチレングリコール系界面活性剤(a)は、ヘッド内部のインクで形成された気泡に効率的に吸着するため、本発明の洗浄剤は、特に消泡性に優れると考えられる。
【0015】
本発明において、HLBは、親水性親油性バランス(Hydrophile-Lypophile Balance)として界面活性剤の水及び油への親和性を示す値であり、グリフィン法により次式から求めることができる。
HLB=20×[(界面活性剤中に含まれる親水基の分子量)/(界面活性剤の分子量)]
界面活性剤中に含まれる親水基としては、例えば、水酸基及びエチレンオキシ基が挙げられる。またアセチレングリコール系界面活性剤(a)として市販品を用いる場合は、HLBはカタログ値に記載の数値を用いることができる。
【0016】
<水溶性有機溶媒(B)>
本発明における洗浄液は、インク固化物の再分散性及び消泡性を向上させ、インクジェットプリントヘッドの洗浄後のインクの吐出不良を抑制させる観点から、水溶性有機溶媒(B)を含有する。
なお、本発明において「水溶性有機溶媒」とは、有機溶媒を25℃の水100mLに溶解させたときに、その溶解量が10mL以上である有機溶媒をいう。
【0017】
(ジエチレングリコールモノブチルエーテル(b))
本発明の洗浄液は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(b)を含有する。このため、洗浄液の疎水性を向上することができ、インク固化物に含まれる水不溶性ポリマー等との親和性が向上し効率的に膨潤・溶解させることで、インク固化物の再分散性を向上させることができる。また、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(b)は親水性と疎水性のバランスがよく、界面活性剤(A)、特にアセチレングリコール系界面活性剤(a)の機能をより発揮させることができるため、インクジェットプリントヘッドのノズル孔に付着しているインク固化物への浸透性を高め、インク固化物をノズル孔から速やかに剥離し、除去できる。この結果、インクの吐出不良の不具合を抑制させることができる。
【0018】
水溶性有機溶媒(B)は、必要に応じて、更にジエチレングリコールモノブチルエーテル(b)以外の水溶性有機溶媒を含有してもよい。
ジエチレングリコールモノブチルエーテル(b)以外の水溶性有機溶媒としては、ジエチレングリコールモノブチルエーテル以外のグリコールエーテル、1価のアルコール、ジオール、3価以上の多価アルコール及び環状構造又は鎖状のアミド化合物等が挙げられる。
【0019】
ジエチレングリコールモノブチルエーテル(b)以外のグリコールエーテルとしては、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0020】
1価のアルコールとしては、1価の脂肪族アルコールが挙げられ、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等が挙げられる。
ジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール等が挙げられる。
3価以上の多価アルコールとしては、1,2,6-ヘキサントリオール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、ペトリオール、グリセリン等が挙げられる。
【0021】
環状構造又は鎖状のアミド化合物としては、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0022】
これらの中でも、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(b)以外の水溶性有機溶媒は、インク固化物の再分散性を向上させ、インクジェットプリントヘッドの洗浄後のインクの吐出不良を抑制させる観点から、好ましくはジエチレングリコールモノブチルエーテル(b)以外のグリコールエーテル及びジオールから選ばれる1種以上であり、より好ましくはジエチレングリコールモノイソブチルエーテル及びプロピレングリコールから選ばれる1種以上であり、更に好ましくはプロピレングリコールである。
【0023】
<水>
本発明の洗浄液は水を含有する。水は本発明の洗浄液において最大質量比を占め、本発明の洗浄液が含有する界面活性剤(A)及び水溶性有機溶媒(B)を溶解して均一な水溶液を形成する。
水としては、イオン交換水及び蒸留水等が好ましく用いられる。
【0024】
<洗浄液の物性>
(洗浄液のpH)
本発明の洗浄液は、20℃におけるpHが10.5以上である。20℃におけるpHが10.5以上であることで、インクジェットプリントヘッドのノズル孔から剥離したインク固化物に含まれる顔料やポリマーに、電荷による反発力を付与させることができ、該インク固化物を、洗浄液中に分散状態のまま保持することができる。このため、インクジェットプリントヘッドの洗浄後のインクの吐出不良を抑制させることができる。
本発明の洗浄液の20℃におけるpHは、好ましくは10.6以上、より好ましくは10.7以上、更に好ましくは10.8以上、より更に好ましくは10.9以上である。また、本発明の洗浄液の20℃におけるpHは、インクジェットプリントヘッドの劣化を抑制させる観点から、好ましくは12.0以下、より好ましくは11.8以下、更に好ましくは11.5以下である。
本発明において、洗浄液の20℃におけるpHは、具体的には実施例に記載の方法で測定できる。
【0025】
〔塩基性化合物〕
本発明の洗浄液は、更に塩基性化合物を含むことが好ましい。塩基性化合物を用いることで、洗浄液の20℃におけるpHを10.5以上とし易くでき、インク固化物の再分散性及び消泡性を向上させ、インクジェットプリントヘッドの洗浄後のインクの吐出不良を抑制し易くすることができる。
塩基性化合物としては、好ましくは、アルカリ金属の水酸化物塩、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物塩及びアミン化合物から選ばれる1種以上であり、より好ましくは、アルカリ金属の水酸化物塩であり、更に好ましくは水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムから選ばれる1種以上であり、より更に好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0026】
(洗浄液の粘度)
洗浄液の25℃における粘度は、インク固化物の再分散性及び消泡性を向上させる観点から、好ましくは0.9mPa・s以上、より好ましくは1mPa・s以上、更に好ましくは1.05mPa・s以上であり、そして、好ましくは5mPa・s以下、より好ましくは4mPa・s以下、更に好ましくは3mPa・s以下である。
【0027】
<その他の成分>
本発明の洗浄液には、前記成分の他に、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等の各種添加剤を添加することができる。なお、本発明の洗浄液は、顔料や染料といった着色材やポリマーは含まないことが好ましい。
【0028】
[洗浄液の製造方法]
本発明の洗浄液は、界面活性剤(A)、水溶性有機溶媒(B)及び水を配合し、必要に応じて、塩基性化合物、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等の各種添加剤を配合することによって得ることができる。
具体的には、本発明の洗浄液は、界面活性剤(A)、水溶性有機溶媒(B)及び水を混合し、そして必要に応じて、塩基性化合物、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等の各種添加剤を混合し、撹拌することによって得ることができる。
本発明の洗浄液の各成分の含有量は以下のとおりである。
【0029】
(界面活性剤(A)の含有量)
本発明の洗浄液中の界面活性剤(A)の含有量は、消泡性を向上させ、インクジェットプリントヘッドの洗浄後のインクの吐出不良を抑制させる観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上、より更に好ましくは0.08質量%以上、より更に好ましくは0.09質量%以上であり、そして、インク固化物の再分散性を向上させ、インクジェットプリントヘッドの洗浄後のインクの吐出不良を抑制させる観点から、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.4質量%以下、より更に好ましくは0.3質量%以下、より更に好ましくは0.2質量%以下である。
【0030】
(アセチレングリコール系界面活性剤(a)の含有量)
本発明の洗浄液中のアセチレングリコール系界面活性剤(a)の含有量は、インク固化物の再分散性を向上させ、インクジェットプリントヘッドの洗浄後のインクの吐出不良を抑制させる観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上、より更に好ましくは0.08質量%以上、より更に好ましくは0.09質量%以上であり、そして、消泡性を向上させ、インクジェットプリントヘッドの洗浄後のインクの吐出不良を抑制させる観点から、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.4質量%以下、より更に好ましくは0.3質量%以下、より更に好ましくは0.2質量%以下である。
【0031】
(界面活性剤(A)中のアセチレングリコール系界面活性剤(a)の質量比)
本発明の洗浄液において、界面活性剤(A)中のアセチレングリコール系界面活性剤(a)の質量比[洗浄液中のアセチレングリコール系界面活性剤(a)の質量/洗浄液中の界面活性剤(A)の質量]は、インク固化物の再分散性及び消泡性を向上させ、インクジェットプリントヘッドの洗浄後のインクの吐出不良を抑制させる観点から、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上、更に好ましくは0.9以上、より更に好ましくは0.95以上であり、より更に好ましくは1である。
【0032】
(水溶性有機溶媒(B)の含有量)
本発明の洗浄液中の水溶性有機溶媒(B)の含有量は、インク固化物の再分散性を向上させ、インクジェットプリントヘッドの洗浄後のインクの吐出不良を抑制させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは6質量%以上、更に好ましくは8質量%以上、より更に好ましくは10質量%以上であり、そして同様の観点から、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは18質量%以下、より更に好ましくは16質量%以下である。
【0033】
本発明の洗浄液中のジエチレングリコールモノブチルエーテル(b)の含有量は、インク固化物の再分散性を向上させ、インクジェットプリントヘッドの洗浄後のインクの吐出不良を抑制させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは6質量%以上、更に好ましくは8質量%以上、より更に好ましくは10質量%以上であり、そして同様の観点から、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは18質量%以下、より更に好ましくは16質量%以下である。
【0034】
(水溶性有機溶媒(B)中のジエチレングリコールモノブチルエーテル(b)の質量比)
本発明の洗浄液において、水溶性有機溶媒(B)中のジエチレングリコールモノブチルエーテル(b)の質量比[洗浄液中のジエチレングリコールモノブチルエーテル(b)の質量/洗浄液中の水溶性有機溶媒(B)の質量]は、インク固化物の再分散性を向上させ、インクジェットプリントヘッドの洗浄後のインクの吐出不良を抑制させる観点から、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.7以上、更に好ましくは0.8以上、より更に好ましくは0.9以上、より更に好ましくは1である。
【0035】
(ジエチレングリコールモノブチルエーテル(b)に対するアセチレングリコール系界面活性剤(a)の質量比)
本発明の洗浄液において、洗浄液中のジエチレングリコールモノブチルエーテル(b)に対するアセチレングリコール系界面活性剤(a)の質量比[洗浄液中のアセチレングリコール系界面活性剤(a)の質量/洗浄液中のジエチレングリコールモノブチルエーテル(b)の質量]は、インク固化物の再分散性及び消泡性を向上させ、インクジェットプリントヘッドの洗浄後のインクの吐出不良を抑制させる観点から、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、更に好ましくは0.008以上であり、そして同様の観点から、好ましくは0.03以下、より好ましくは0.025以下、更に好ましくは0.02以下である。
【0036】
(水の含有量)
本発明の洗浄液において、洗浄液中の水の含有量は、インク固化物の再分散性及び消泡性を向上させ、インクジェットプリントヘッドの洗浄後のインクの吐出不良を抑制させる観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは85質量%以上であり、そして、インク固化物の再分散性を向上させる観点から、好ましくは94質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。
【0037】
本発明の洗浄液は、ノズル孔の付着物の剥離性に優れるためインクジェットプリントヘッドのノズル閉塞を解消し、またノズル孔の内部に気泡を生じず、また発生させたとしてもそれを残留させないという消泡性に優れ、インクジェットプリントヘッドの吐出不良の不具合を抑制する効果が高いため、インクジェットプリントヘッドの洗浄液として用いることが好ましい。
【0038】
本発明の洗浄液を供するインクジェットプリントヘッドには制限はなく、サーマル方式、ピエゾ方式の両方のインクジェットプリントヘッドに適用できる。
インクジェットプリントヘッドが用いるインクについても制限はなく、インクが水系、溶剤系、硬化型でも適用できる。その中でも水系インクを用いるインクジェットプリントヘッドに適用することが好ましい。
また、インクが含有する着色材についても制限はなく、着色材が染料、顔料の両方を用いるものに適用できるが、着色材が顔料であるインクを用いるインクジェットプリントヘッドに適用するのが好ましい。さらに、インクが含有するポリマーについても制限はなく、アニオン性ポリマー、カチオン性ポリマーノニオン性ポリマー、両性ポリマーのいずれを含有するものに適用できるが、アニオン性ポリマーを含有するインクを用いるインクジェットプリントヘッドに適用することが好ましい。
【0039】
[インクジェットプリントヘッドの洗浄方法]
本発明のジェットプリントヘッドの洗浄方法は、上述の本発明の洗浄液を用いる、インクジェットプリントヘッドの洗浄方法である。また、上述の本発明の洗浄液を用いるインクジェットプリントヘッドの洗浄方法は、該洗浄液を該インクジェットプリントヘッドに接触させる、インクジェットプリントヘッドの洗浄方法である。該接触方法としては、塗布法、噴霧法、浸漬法等が挙げられる。
前記洗浄方法として、前記洗浄液を不織布等の拭き取り部材に染み込ませ、ノズル面や吐出口に付着した余分なインクを拭き取る方法; 種類の異なるインクを使用する際に、インク変更の前後にプリンター内のインクの経路を、プリンターの供給機構及び取引機構を用いて、洗浄液の入った収納容器から該洗浄液をインクの経路内に供給後に排出する操作を繰り返すことにより洗浄する方法; 長期間記録ヘッドを使用しない場合に、記録ヘッドからインクを抜き取り、洗浄液を充填しキャッピングして保存する方法等が挙げられる。これらの中でも、洗浄液成分が被洗浄部材に残留し難い洗浄方法とする観点から、前記洗浄液を拭き取り部材に染み込ませ、ノズル面や吐出口に付着した余分なインクを拭き取る方法が好ましい。拭き取り部材としては、液体吸収性であれば特に制限はなく、織物、編み物、不織布等の布帛、スポンジ、パルプ等が挙げられる。
【0040】
また、本発明のインクジェットプリントヘッドの洗浄方法は、インクをパージしてインクジェットプリントヘッド内部のエア抜きをし、その後ゴムワイパーでインクジェットプリントヘッドのノズル面や吐出口を拭取り、更にその後、洗浄液を染み込ませた拭取り部材でインクジェットプリントヘッドのノズル面や吐出口を拭き取とることが好ましい。すなわち、本発明のインクジェットプリントヘッドの洗浄方法は、以下の工程を順に有することが好ましい。
工程1:インクパージをし、インクジェットプリントヘッド内部のエア抜きをする工程
工程2:インクジェットプリントヘッドのノズル面を、ゴムワイパーで拭き取る工程
工程3:インクジェットプリントヘッドのノズル面を、上述の本発明の洗浄液を染み込ませた拭取り部材で、拭き取る工程
本発明のインクジェットプリントヘッドの洗浄方法は、上記の工程1~3の工程を順に有することで、特に工程3を有することにより、インクジェットプリントヘッドに付着しているインク固化物を効率的に除去することができ、更に、インクジェットプリントヘッドのノズル等における気泡の発生を抑制でき、また、気泡が発生した場合はその消泡ができ、洗浄後の吐出不良を抑制できるため、好ましい。
【実施例0041】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。各性状値は、次の方法により、測定、評価した。
【0042】
実施例1(洗浄液A1の調製)
ガラス製容器に、界面活性剤(A)としてアセチレングリコール系界面活性剤サーフィノール104PG50(プロピレングリコール溶液 有効分50%)を0.20部、水溶性有機溶媒(B)としてジエチレングリコールモノブチルエーテル(b)を10.00部、1N水酸化ナトリウム0.20部及びイオン交換水89.60部を添加し、マグネチックスターラーで30分間撹拌し、洗浄液A1を得た。
得られた洗浄液A1のpHを、以下の手順で測定した。洗浄液A1のpHは11.0であった。
<pHの測定方法>
得られた洗浄液A1を、スクリュー管No.5(株式会社マルエム製)に15g添加して蓋をした。これを20℃の水浴に1時間浸漬した後に、pH計(株式会社堀場製作所製 LAQUA MODEL 6367)をスクリュー管中の洗浄液A1に浸漬させ、浸漬開始から30秒経った時点のpH値を測定した。
【0043】
実施例2~13及び比較例1~4(洗浄液A2~A13及びC1~C4の調製)
実施例1において、各洗浄液の配合組成を表1の通りに変更した以外は、実施例1と同様の手順で、洗浄液A2~A13及びC1~C4を得た。また、実施例1と同様の手順で、各洗浄液のpHを測定した。
【0044】
表1中の界面活性剤(A)の詳細は、以下の通りである。
(界面活性剤(A))
〔アセチレングリコール系界面活性剤(a)〕
・サーフィノール104PG-50:エアープロダクツアンドケミカル社製、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのプロピレングリコール溶液、有効分50%、HLB=4
・サーフィノール440:エアープロダクツアンドケミカル社製、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのEO付加物、(EO平均付加モル数:3.5モル)、有効分100%、HLB=8
・サーフィノール465:エアープロダクツアンドケミカル社製、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのEO付加物(EO平均付加モル数:10モル)、有効分100%、HLB=13
〔その他の界面活性剤〕
・ポリオキシエチレンラウリルエーテル:(花王株式会社製、商品名:エマルゲン120、HLB=15.3)
【0045】
製造例1(白色顔料含有ポリマー粒子の水分散体の製造)
2Lのポリ容器に、予めポリマー分散剤としてポリアクリル酸(PAA;富士フイルム和光純薬株式会社製、重量平均分子量5000)6部と、5N-NaOH水溶液4.2部と、イオン交換水4.8部を混ぜて溶解させたもの(ポリマー中和度50モル%)を投入し、酸化チタン:C.I.ピグメント・ホワイト6(P.W.6、石原産業株式会社製、商品名:CR-80、ルチル型、Al・Si処理、平均粒子径:0.25μm(カタログ値))を300部、イオン交換水を255部加えて、ジルコニアビーズを1000部添加して、卓上型ポットミル架台(アズワン株式会社製)にて8時間分散を行った。金属メッシュを用いてジルコニアビーズを除去し、イオン交換水で固形分濃度を調整して、動的光散乱方式により測定したキュムラント解析による平均粒子径328nmの白色顔料含有ポリマー粒子の水分散体(固形分濃度:53.2%、顔料:ポリマー=98:2(質量比)、pH:7.3)を得た。
【0046】
製造例2(顔料を含有しないポリマー粒子の水分散体の調製)
滴下ロートを備えた反応容器内に、メタクリル酸0.5部、メタクリル酸メチル8.5部、アクリル酸 2-エチルヘキシル11部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(花王株式会社製、ラテムルE-118B、乳化剤)11.1部、過硫酸カリウム(重合開始剤)0.2部、イオン交換水382.8部を入れて混合し、窒素ガス置換を行い、初期仕込みモノマー液を得た。また、滴下用のモノマー溶液として、メタクリル酸9.5部、メタクリル酸メチル11.5部、アクリル酸 2-エチルヘキシル209部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(花王株式会社製、ラテムルE-118B、乳化剤)35.1部、過硫酸カリウム(重合開始剤)0.6部、イオン交換水183部を入れて混合し、滴下ロート内に入れて、窒素ガス置換を行った。
窒素雰囲気下、反応容器内の初期仕込みモノマー溶液を撹拌しながら、室温から80℃まで30分間かけて昇温し、80℃に維持したまま、滴下ロート中のモノマーを3時間かけて徐々に反応容器内に滴下した。滴下終了後、反応容器内の温度を維持したまま、1時間撹拌した。次いで200メッシュでろ過し、顔料を含有しないポリマー粒子の水分散体(固形分濃度44.1%)を得た。
【0047】
製造例3(水系インクの調製)
ガラス製容器に、製造例1で得られた白色顔料含有ポリマー粒子の水分散体を19.2部、定着用樹脂として製造例2で得られた顔料を含有しないポリマー粒子の水分散体9.1部、イオン交換水37.8部、1N水酸化ナトリウム0.4部を添加し、マグネチックスターラーで10分間撹拌した。
混合物を撹拌しながら、プロピレングリコール30部、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル1部、シリコーン系界面活性剤KF-6011(信越化学工業株式会社製)0.5部、アセチレン系グリコール界面活性剤サーフィノール104PG50(日信化学工業株式会社製)2部を添加し、そのまま1時間撹拌した。その後、5μmのディスポーザルメンブレンフィルター(ザルトリウス社製、商品名:ミニザルト)を用いて濾過を行い、白色の水系インクを得た。
【0048】
<洗浄液の評価>
(1)インク固化物の再分散性
マイクロピペットを用いて、上記の製造例3で調製した水系インクをスクリュー管No.5(株式会社マルエム製)の底の中央部に20μL滴下し、蓋をせずに40℃、25%RHの環境で2時間放置して、インクを蒸発乾固させた。
スクリュー管の底に残留したインク固化物に、各実施例及び比較例の洗浄液を10mL添加し、撹拌機(EYELA製 MULTI SHAKER MMS, 型番MMS-210)にて振動数150rpmで1分間撹拌した。前記インク固化物の状況を目視で観察し、下記の評価基準により、インク固化物の再分散性を評価した。インク固化物が分散し、残渣が少ないほど、洗浄液のインク固化物の再分散性が優れることを示す。評価結果を表1に示す。
(評価基準)
A:インク固化物が均一に再分散し、残渣がなかった。
B:インク固化物が再分散したが、残渣があった。
C:インク固化物が再分散せず、残渣が原型をとどめたままだった。
【0049】
(2)消泡性の評価
アイボーイ PP広口びん 250mL(アズワン株式会社製)に、各実施例及び比較例の洗浄液を100g(液面の高さ:容器の底面から37mm)とり、蓋をした。これを撹拌機(株式会社セイワ技研製、ロッキングシェーカー)にて、振動数600rpmで3分間撹拌し、泡立たせた。静置して1分後に、容器の底面から泡の上端までの高さを測定することで、消泡性を評価した。容器の底面から泡の上端までの高さが低いほど消泡性が優れていることを示す。評価結果を表1に示す。
(評価基準)
5:泡の上端までの高さが40mm未満
4:泡の上端までの高さが40mm以上45mm未満
3:泡の上端までの高さが45mm以上50mm未満
2:泡の上端までの高さが50mm以上55mm未満
1:泡の上端までの高さが55mm以上
【0050】
(3)洗浄後の吐出性(ノズル欠けの数)
下記のインクジェット印刷方法に示す手順でノズルチェックパターンを印刷し、全てのノズルが問題なく吐出できていることを確認した後に、インクジェットプリントヘッドを30分間、大気下で放置した。その後、下記のパージワイプ作業を行い、ノズルチェックパターンを印刷した。ノズルチェックパターンにおけるノズル欠け(正常に吐出していないノズル)の数で、洗浄後の吐出性を評価した。
ノズル欠けの数が少ない方が、洗浄液による吐出不良の抑制の効果が優れていることを示す。
【0051】
<インクジェット印刷方法>
温度25±1℃、相対湿度30±5%の環境で、インクジェットプリントヘッド(京セラ株式会社製、「KJ4B-HD06MHG-STDV」、ピエゾ式、ノズル総数:2656ノズル)を装備した印刷評価装置(株式会社トライテック製)に製造例3で得た水系インクを充填した。
ヘッド電圧26V、周波数26kHz、吐出液適量3pL、ヘッド温度32℃、解像度1200dpi、吐出前フラッシング回数200発、負圧-4.0kPaを設定し、記録媒体の長手方向と搬送方向が同じになる向きに、記録媒体(黒画用紙)を搬送台に減圧で固定した。
前記印刷評価装置に印刷命令を転送し、ノズルチェックパターンを印刷した。
<パージワイプ作業>
印刷する直前に、以下のパージワイプ作業を行った。
ヘッドから5mLのインクをパージし、ゴム製のブレードワイパーにて、ヘッドのフェイスに残存しているインクを拭い取った。次に、実施例及び比較例の洗浄液で浸潤させたポリエステル繊維布(アズワン株式会社製、アズピュアワイパー)で、インクジェットプリントヘッドのフェイスを拭った。
【0052】
【0053】
表1から、アセチレングリコール系界面活性剤(a)を含む界面活性剤(A)と、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(b)を含む水溶性有機溶媒(B)と、水とを含有し、20℃におけるpHが10.5以上である、実施例1~13は、比較例1~4と比較して、インク固化物の再分散性及び消泡性に優れ、インクジェットプリントヘッドの洗浄後のインクの吐出不良を抑制できることが分かる。
比較例1及び2は、水溶性有機溶媒(B)にジエチレングリコールモノブチルエーテル(b)を含まないため、インク固化物の再分散性に劣り、洗浄後の吐出性に劣る。
比較例3は、20℃におけるpHが10.5未満であったため、インク固化物の再分散性に劣り、洗浄後の吐出性に劣る。
比較例4は、アセチレングリコール系界面活性剤(a)に替えて、HLBが15.3であるポリオキシエチレンラウリルエーテルを含むため、消泡性に劣る。