(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092278
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】インキ吸入機構付き筆記部材及び筆記具
(51)【国際特許分類】
B43K 5/12 20060101AFI20240701BHJP
B43K 5/00 20060101ALI20240701BHJP
B43K 5/06 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
B43K5/12
B43K5/00 110
B43K5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208093
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芳野 清隆
【テーマコード(参考)】
2C350
【Fターム(参考)】
2C350GA01
2C350KC22
2C350NA15
(57)【要約】
【課題】インキ貯留筒内にインキが最大量吸い上げられたことを使用者が視認可能なインキ吸入機構付き筆記部材、及びこれを備えた筆記具を提供する。
【解決手段】インキ貯留筒11と、内部にインキ貯留筒11が挿入されるカバー筒12と、インキ貯留筒11の前側に配置される筆記部13と、インキ貯留筒11の内部に配置される弁部14aを有するピストン14と、ピストン14を前後方向に移動させる操作部15と、を備え、カバー筒12はインキ確認窓12bを有し、ピストン14が前進端位置であるときに、インキ貯留筒11の内部空間のうち弁部14aよりも前側に位置する部分の容積と、筆記部13の内部空間の容積との和を第1容積V1とし、ピストン14が後退端位置であるときに、インキ貯留筒11の内部空間のうち、インキ確認窓12bの後端と弁部14aとの間に位置する部分の容積を第2容積V2として、第2容積V2が、第1容積V1と同等以上である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向に延び、インキが貯留されるインキ貯留筒と、
内部に前記インキ貯留筒が挿入されるカバー筒と、
前記インキ貯留筒の前側に配置され、前記インキ貯留筒に接続される筆記部と、
前記インキ貯留筒の内部に配置される弁部を有するピストンと、
前記ピストンを前後方向に移動させる操作部と、を備え、
前記カバー筒は、前記カバー筒の周壁に開口するインキ確認窓を有し、
前記インキ貯留筒の周壁のうち、径方向から見て、少なくとも前記インキ確認窓と重なる部分は透明であり、
前記ピストンが後退端位置であるときに、前記弁部は、前記インキ確認窓よりも後側に配置され、
前記ピストンが前進端位置であるときに、前記インキ貯留筒の内部空間のうち前記弁部よりも前側に位置する部分の容積と、前記筆記部の内部空間の容積との和を第1容積とし、
前記ピストンが後退端位置であるときに、前記インキ貯留筒の内部空間のうち、前記インキ確認窓の後端と前記弁部との間に位置する部分の容積を第2容積として、
前記第2容積が、前記第1容積と同等以上である、
インキ吸入機構付き筆記部材。
【請求項2】
前記筆記部は、
前後方向に延び、後端部が前記インキ貯留筒内に挿入されるペン芯と、
前記ペン芯よりも前側に突出するペン先と、を有し、
前記ペン芯は、前記ペン芯の後端面に開口するインキ溝を有し、
前記ピストンが前進端位置であるときに、前記弁部は前記ペン芯の後端面に接触する、
請求項1に記載のインキ吸入機構付き筆記部材。
【請求項3】
前記インキ確認窓の前端は、前記筆記部の後端部よりも後側に配置される、
請求項1に記載のインキ吸入機構付き筆記部材。
【請求項4】
前記インキ確認窓を斜め後方から見て、前記筆記部の後端部が、前記インキ確認窓を通して視認可能な位置に配置される、
請求項3に記載のインキ吸入機構付き筆記部材。
【請求項5】
前記インキ確認窓は、前記カバー筒の周壁に周方向に互いに間隔をあけて少なくとも一対設けられ、
一対の前記インキ確認窓は、径方向から見て、互いに重なる位置に配置される、
請求項1から4のいずれか1項に記載のインキ吸入機構付き筆記部材。
【請求項6】
前記操作部は、前記ピストンと螺着により連結され、
前記カバー筒は、前記インキ貯留筒と前記筆記部とを固定し、かつ前記操作部を回転自在に保持する、
請求項1から4のいずれか1項に記載のインキ吸入機構付き筆記部材。
【請求項7】
前記インキ貯留筒と前記筆記部とが、前記インキ貯留筒の中心軸回りに相対回転することを規制する回転規制部をさらに備える、
請求項1から4のいずれか1項に記載のインキ吸入機構付き筆記部材。
【請求項8】
前記インキ貯留筒の周壁のうち、径方向から見て、少なくとも前記インキ確認窓と重なる部分と、前記カバー筒との間に、径方向の隙間が設けられる、
請求項1から4のいずれか1項に記載のインキ吸入機構付き筆記部材。
【請求項9】
前記インキ貯留筒は、前記筆記部の後端部が挿入される嵌合筒部を有し、
前記嵌合筒部の後端部は、径方向から見て、前記筆記部の後端面の少なくとも一部と重なる、
請求項1から4のいずれか1項に記載のインキ吸入機構付き筆記部材。
【請求項10】
請求項1から4のいずれか1項に記載のインキ吸入機構付き筆記部材と、
前記インキ吸入機構付き筆記部材の少なくとも一部を収容する軸筒と、を備える、
筆記具。
【請求項11】
前記インキ吸入機構付き筆記部材は、
前記インキ吸入機構付き筆記部材の全体が前記軸筒の内部に収納される収納位置と、
前記筆記部の一部が前記軸筒から前側に突出する使用位置と、の間で前後方向に移動可能である、
請求項10に記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インキ吸入機構付き筆記部材及び筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンバータ等と呼ばれるインキ吸入機構を備えた万年筆が知られている(例えば特許文献1、2)。インキ吸入機構付き万年筆は、前後方向に延びるインキ貯留筒と、インキ貯留筒の前側に配置されインキ貯留筒に接続される筆記部(ペン芯及びペン先等)と、インキ貯留筒の内部に配置される弁部を有するピストンと、ピストンを前後方向に移動させる操作部と、インキ貯留筒及び操作部を収容する軸筒と、を備える。
【0003】
インキ貯留筒内のインキが少なくなった場合、使用者は、万年筆から軸筒を取り外し、筆記部をインキ瓶内のインキに浸け、操作部を操作してピストンを前進端位置から後側へ移動させる。これにより、インキ瓶内のインキがインキ貯留筒内に吸い上げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4596675号公報
【特許文献2】特開2012-183643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種のインキ吸入機構付き万年筆(以下、単に筆記具と呼ぶ場合がある)では、筆記具から軸筒を取り外したときに、インキ貯留筒内のインキを使用者が視認できると便利である。そこで、例えば、金属製等のカバー筒の内部に透明なインキ貯留筒を挿入し、カバー筒の周壁にインキ確認窓を設け、インキ確認窓を通してインキ貯留筒内のインキを視認可能とする構成が考えられる。しかしながら、このようなインキ確認窓を設けた場合には、下記の課題が生じる。
【0006】
インキ瓶からインキを吸い上げる際、ピストンが前進端位置であるときに、インキ貯留筒の内部空間のうち弁部よりも前側に位置する部分や筆記部の内部空間には、エアが存在している。このため、前進端位置のピストンを後退端位置まで移動させて、インキ瓶内からインキ貯留筒内にインキを最大吸入量(以下、最大量と呼ぶ場合がある)となるまで吸い上げても、インキ確認窓を通してインキ貯留筒内にエアが視認される場合がある。このようなエアが視認されると、インキ貯留筒内にインキが最大量まで吸い上げられていることが使用者にわかりにくい。
【0007】
本発明は、インキ貯留筒内にインキが最大量吸い上げられたことを使用者が視認可能なインキ吸入機構付き筆記部材、及びこれを備えた筆記具を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0009】
〔本発明の態様1〕
前後方向に延び、インキが貯留されるインキ貯留筒と、内部に前記インキ貯留筒が挿入されるカバー筒と、前記インキ貯留筒の前側に配置され、前記インキ貯留筒に接続される筆記部と、前記インキ貯留筒の内部に配置される弁部を有するピストンと、前記ピストンを前後方向に移動させる操作部と、を備え、前記カバー筒は、前記カバー筒の周壁に開口するインキ確認窓を有し、前記インキ貯留筒の周壁のうち、径方向から見て、少なくとも前記インキ確認窓と重なる部分は透明であり、前記ピストンが後退端位置であるときに、前記弁部は、前記インキ確認窓よりも後側に配置され、前記ピストンが前進端位置であるときに、前記インキ貯留筒の内部空間のうち前記弁部よりも前側に位置する部分の容積と、前記筆記部の内部空間の容積との和を第1容積とし、前記ピストンが後退端位置であるときに、前記インキ貯留筒の内部空間のうち、前記インキ確認窓の後端と前記弁部との間に位置する部分の容積を第2容積として、前記第2容積が、前記第1容積と同等以上である、インキ吸入機構付き筆記部材。
【0010】
本発明のインキ吸入機構付き筆記部材では、カバー筒にインキ確認窓が設けられており、使用者は、インキ確認窓を通してインキ貯留筒内のインキを視認することができる。このため、インキ貯留筒内のインキの色や残量等の確認が容易である。そして、インキ貯留筒内のインキが少なくなった場合に、筆記部の前端部を鉛直方向の下側へ向けてインキ瓶内のインキに浸け、ピストンを後側へ移動させてインキ瓶からインキ貯留筒にインキを吸い上げる際に、下記の作用効果が得られる。
【0011】
本発明では、ピストンが後退端位置とされたときの第2容積が、ピストンが前進端位置とされたときの第1容積以上の大きさとされている。このため、ピストンが前進端位置に配置されたときに、インキ貯留筒の内部空間のうち弁部よりも前側に位置する部分及び筆記部の内部空間が、たとえすべてエアで満たされていても、インキ瓶からインキを吸い上げてピストンが後退端位置に配置されたときに、このエアをインキ確認窓の後端と弁部との間にすべて収容できる。
【0012】
したがって、前進端位置のピストンを後退端位置まで移動させて、インキ瓶内からインキ貯留筒内にインキを最大量吸い上げたときに、インキ確認窓を通して、インキ貯留筒内のエアが使用者に視認されるようなことは抑制される。すなわち、インキ吸入直後に、使用者がインキ確認窓を通して見るインキ貯留筒の内部は、すべてインキで満たされることになる。
【0013】
これにより、使用者は、インキ瓶内からインキ貯留筒内にインキが最大限まで吸い上げられたことを、感覚的に認識できる。本発明によれば、インキ貯留筒内にインキが最大量吸い上げられたことを、使用者が視認可能である。
【0014】
〔本発明の態様2〕
前記筆記部は、前後方向に延び、後端部が前記インキ貯留筒内に挿入されるペン芯と、前記ペン芯よりも前側に突出するペン先と、を有し、前記ペン芯は、前記ペン芯の後端面に開口するインキ溝を有し、前記ピストンが前進端位置であるときに、前記弁部は前記ペン芯の後端面に接触する、態様1に記載のインキ吸入機構付き筆記部材。
【0015】
従来のように、前進端位置とされたピストンの弁部がペン芯の後端面から離れて配置される場合と比べて、本発明の上記構成によれば、ピストンの前進端位置が、より前側とされる。ピストンの前後方向のストロークがより大きく確保されるため、インキ瓶からインキ貯留筒にインキを吸い上げる際の最大量(最大吸入量)を増大できる。このため、インキを吸入する作業の頻度を低減することができる。
【0016】
また、ピストンの前進端位置がより前側に配置されることで、インキ貯留筒の内部空間のうち弁部よりも前側に位置する部分の容積が小さくなるとともに、第1容積が小さくなる。これにともない、第2容積も小さく抑えることができるため、インキ確認窓の後端位置をより後側にして、インキ確認窓の開口面積を広く確保することができる。広いインキ確認窓を通して、使用者はインキ貯留筒内のインキをより確認しやすくなる。
【0017】
〔本発明の態様3〕
前記インキ確認窓の前端は、前記筆記部の後端部よりも後側に配置される、態様1または2に記載のインキ吸入機構付き筆記部材。
【0018】
この場合、使用者が、インキ吸入機構付き筆記部材を径方向から見たときなどにおいて、インキ確認窓を通して筆記部の後端部が見えにくくされている。インキ確認窓からインキ以外の部材が見えにくくなるため、インキをより視認しやすい。また、インキ吸入機構付き筆記部材の外観デザイン(美観)がより高められる。
【0019】
〔本発明の態様4〕
前記インキ確認窓を斜め後方から見て、前記筆記部の後端部が、前記インキ確認窓を通して視認可能な位置に配置される、態様3に記載のインキ吸入機構付き筆記部材。
【0020】
この場合、例えばインキ貯留筒内のインキ残量が少なくなったときに、使用者が、インキ確認窓を斜め後方から見る(径方向外側かつ後側から見る)ことで、インキ確認窓を通して、筆記部の後端部を視認することができる。これにより使用者は、インキ残量が少なくなったことを目視によって認識できる。
【0021】
〔本発明の態様5〕
前記インキ確認窓は、前記カバー筒の周壁に周方向に互いに間隔をあけて少なくとも一対設けられ、一対の前記インキ確認窓は、径方向から見て、互いに重なる位置に配置される、態様1から4のいずれか1つに記載のインキ吸入機構付き筆記部材。
【0022】
この場合、一対のインキ確認窓同士が、周方向において互いに反対側となる位置に配置される。使用者は、一対のインキ確認窓を通して、インキ吸入機構付き筆記部材の向こう側を見ることができる。一対のインキ確認窓を通して、インキ貯留筒内に外部の光を取り込みやすくなるため、インキ貯留筒内のインキが、より鮮明に見える。したがって使用者は、インキの色や残量等を確認しやすい。
【0023】
〔本発明の態様6〕
前記操作部は、前記ピストンと螺着により連結され、前記カバー筒は、前記インキ貯留筒と前記筆記部とを固定し、かつ前記操作部を回転自在に保持する、態様1から5のいずれか1つに記載のインキ吸入機構付き筆記部材。
【0024】
この場合、カバー筒によって、インキ貯留筒と筆記部とが固定され、かつ、操作部が回転可能に保持されている。言い換えると、インキ貯留筒、筆記部、及びインキ吸入機構(ピストン及び操作部)が、一体化された構成のインキ吸入機構付き筆記部材とされている。このため、インキ瓶からインキ貯留筒にインキを吸入する際、使用者は、インキ貯留筒にコンバータ(インキ吸入機構)を着脱する必要がなく、予めユニット化されたインキ吸入機構付き筆記部材によって、簡単に吸入作業を行うことができる。本発明によれば、使用者がインキ瓶からインキを吸い上げる際の作業性がよく、取り扱いが容易である。
【0025】
〔本発明の態様7〕
前記インキ貯留筒と前記筆記部とが、前記インキ貯留筒の中心軸回りに相対回転することを規制する回転規制部をさらに備える、態様1から6のいずれか1つに記載のインキ吸入機構付き筆記部材。
【0026】
この場合、インキ貯留筒、筆記部及びカバー筒を組み立てるときに、インキ貯留筒と筆記部とが、カバー筒内で意図せず相対回転するような不具合が抑えられる。インキ吸入機構付き筆記部材が組み立てやすくなり、製造が容易となる。
【0027】
〔本発明の態様8〕
前記インキ貯留筒の周壁のうち、径方向から見て、少なくとも前記インキ確認窓と重なる部分と、前記カバー筒との間に、径方向の隙間が設けられる、態様1から7のいずれか1つに記載のインキ吸入機構付き筆記部材。
【0028】
この場合、インキ吸入機構付き筆記部材を組み立てるときに、インキ貯留筒の周壁のうち、径方向から見てインキ確認窓と重なる透明な部分が、金属製等のカバー筒に擦れて傷付くような不具合が抑制される。使用者は、インキ確認窓及びインキ貯留筒の透明な部分を通して、インキ貯留筒内のインキを鮮明に視認することができる。また、製品としての価値が安定して高められる。
【0029】
〔本発明の態様9〕
前記インキ貯留筒は、前記筆記部の後端部が挿入される嵌合筒部を有し、前記嵌合筒部の後端部は、径方向から見て、前記筆記部の後端面の少なくとも一部と重なる、態様1から8のいずれか1つに記載のインキ吸入機構付き筆記部材。
【0030】
上記構成のような嵌合筒部が設けられていると、インキ貯留筒の内部空間のうち、前進端位置とされたピストンの弁部よりも前側に位置する部分の容積が小さく抑えられるとともに、第1容積が小さくなる。これにともない、第2容積も小さく抑えることができるため、インキ確認窓の後端位置をより後側にして、インキ確認窓の開口面積を広げることができる。広いインキ確認窓を通して、使用者が視認可能なインキ貯留筒内の領域を拡大できるため、インキ確認窓によって得られる機能(インキの確認しやすさなど)がより高められる。
【0031】
また、前後方向に長い嵌合筒部によって筆記部の後端部をより安定して保持できるため、インキ貯留筒と筆記部との組み立て姿勢(固定状態)がより安定する。
【0032】
〔本発明の態様10〕
態様1から9のいずれか1つに記載のインキ吸入機構付き筆記部材と、前記インキ吸入機構付き筆記部材の少なくとも一部を収容する軸筒と、を備える、筆記具。
【0033】
〔本発明の態様11〕
前記インキ吸入機構付き筆記部材は、前記インキ吸入機構付き筆記部材の全体が前記軸筒の内部に収納される収納位置と、前記筆記部の一部が前記軸筒から前側に突出する使用位置と、の間で前後方向に移動可能である、態様10に記載の筆記具。
【0034】
本発明の筆記具は、例えば、ノック式万年筆(キャップレス万年筆)等である。本発明の筆記具によれば、上述した優れた作用効果が得られる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の前記態様のインキ吸入機構付き筆記部材及び筆記具によれば、インキ貯留筒内にインキが最大量吸い上げられたことを使用者が視認可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、本実施形態の筆記具を示す断面図(縦断面図)であり、具体的に、
図1(a)は、インキ吸入機構付き筆記部材が収納位置とされた状態を表し、
図1(b)は、インキ吸入機構付き筆記部材が使用位置とされた状態を表す。
【
図2】
図2は、本実施形態のインキ吸入機構付き筆記部材を示す側面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態のインキ吸入機構付き筆記部材を示す断面図(縦断面図)である。
【
図4】
図4は、本実施形態の第1変形例のインキ吸入機構付き筆記部材を示す断面図(縦断面図)である。
【
図5】
図5は、本実施形態の第2変形例のインキ吸入機構付き筆記部材を示す断面図(縦断面図)である。
【
図6】
図6は、本実施形態の第3変形例のインキ吸入機構付き筆記部材を示す断面図(縦断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
まず、本発明によって解決しようとする課題について、説明を補足する。
本発明の一実施形態のインキ吸入機構付き筆記部材1、及びこれを備えた筆記具10は、上述した課題の他、下記の課題を解決することを目的としている。
【0038】
特に図示しないが、インキ瓶からインキを吸い上げる際、例えばインキ瓶の深さが深い場合などにおいて、インキ確認窓が意図せずインキに浸かってしまうことがある。インキ確認窓がインキに浸かると、インキ確認窓を通してカバー筒の内周面とインキ貯留筒の外周面との間にインキが入り込み、カバー筒とインキ貯留筒との間で広範囲に浸透してしまう。カバー筒とインキ貯留筒との間に入り込んだインキは、インキ貯留筒内のインキが少なくなったときにインキ確認窓から見えるため、使用者が、正確なインキ残量を認識しにくくなる。また、カバー筒とインキ貯留筒との間に入り込んだインキは、拭き取ることができないため、このインキによって使用者の手が汚れたり、筆記具の本体内部(軸筒内部など)が汚れたりするおそれがある。
【0039】
本実施形態は、インキ確認窓を通してカバー筒とインキ貯留筒との間にインキが入り込むことを抑制でき、使用者がインキ貯留筒内のインキ残量を正確に認識しやすく、かつインキ汚れを抑制できるインキ吸入機構付き筆記部材1、及びこれを備えた筆記具10を提供することを目的の一つとする。
【0040】
また、従来のインキ吸入機構付き筆記部材においては、インキ瓶からインキ貯留筒にインキを吸い上げるときの最大吸入量を増大して、インキを吸入する作業の頻度を低減する点に改善の余地があった。
【0041】
本実施形態は、インキ貯留筒にインキを吸い上げるときの最大吸入量を増大して、インキを吸入する作業の頻度を低減できるインキ吸入機構付き筆記部材1、及びこれを備えた筆記具10を提供することを目的の一つとする。
【0042】
また、従来の万年筆等の筆記具では、インキ瓶からインキ貯留筒にインキを吸い上げる際、インキ貯留筒に別体のコンバータ(インキ吸入機構)を取り付けて吸入作業を行う必要があった。このため、インキを吸入する際の作業性を向上する点に改善の余地があった。
【0043】
本実施形態は、使用者がインキ瓶からインキを吸い上げる際の作業性がよく、取り扱いが容易であるインキ吸入機構付き筆記部材1、及びこれを備えた筆記具10を提供することを目的の一つとする。
【0044】
次に、本実施形態のインキ吸入機構付き筆記部材1、及びこれを備えた筆記具10について、
図1~
図3を参照して説明する。本実施形態の筆記具10は、例えば、ノック式万年筆(キャップレス万年筆)等である。
【0045】
図1(a)、(b)に示すように、筆記具10は、中心軸Cを中心とする概略円柱状をなしている。筆記具10は、中心軸Cに沿って延びるインキ吸入機構付き筆記部材1と、インキ吸入機構付き筆記部材1の少なくとも一部を収容する軸筒2と、クリップ3と、付勢部材4と、押込み部5と、ノック機構6と、を備える。インキ吸入機構付き筆記部材1、軸筒2、付勢部材4、押込み部5及びノック機構6は、中心軸Cを共通軸として互いに同軸に配置される。
【0046】
本実施形態で用いる方向の定義について、説明する。
本実施形態では、筆記具10の中心軸Cが延びる方向、つまり中心軸Cに沿う方向を、前後方向と呼ぶ。前後方向において、インキ吸入機構付き筆記部材1と押込み部5とは、互いに異なる位置に配置されている。前後方向のうち、押込み部5からインキ吸入機構付き筆記部材1へ向かう方向を前側と呼び、インキ吸入機構付き筆記部材1から押込み部5へ向かう方向を後側と呼ぶ。各図において前後方向は、Y軸方向に相当する。前側は-Y側に相当し、後側は+Y側に相当する。なお、前後方向は軸方向と言い換えてもよい。この場合、前側を軸方向一方側、後側を軸方向他方側と言い換えてもよい。
【0047】
中心軸Cと直交する方向を径方向と呼ぶ。径方向のうち、中心軸Cに近づく方向を径方向内側と呼び、中心軸Cから離れる方向を径方向外側と呼ぶ。
また、中心軸C回りに周回する方向を周方向と呼ぶ。
【0048】
筆記具10の各構成要素について、説明する。
軸筒2は、前後方向に延びる筒状をなしている。具体的に、軸筒2は、中心軸Cを中心とする円筒状である。軸筒2は、例えば樹脂製または金属製等である。軸筒2は、例えば、複数の筒状部材(前軸、後軸及び尾冠等)を螺着、嵌合及び接着するなどにより組み合わせて構成されている。
【0049】
軸筒2は、軸筒2内の前端部に配置される開閉可能な開閉蓋2aと、軸筒2の前端部に配置されて前側に開口する前端開口部2bと、軸筒2の後端部に配置されて後側に開口する後端開口部2cと、を有する。
【0050】
本実施形態では、筆記具10がノック式万年筆である。このためインキ吸入機構付き筆記部材1は、
図1(a)に示すように、インキ吸入機構付き筆記部材1の全体が軸筒2の内部に収納される収納位置と、
図1(b)に示すように、インキ吸入機構付き筆記部材1の後述する筆記部13の一部が軸筒2から前側に突出する使用位置と、の間で前後方向に移動可能である。
【0051】
具体的に、収納位置において、筆記部13の前端部(後述するペン先13b等)は、閉状態とされた開閉蓋2aにより前側から覆われる。また、使用位置において、筆記部13の前端部すなわち筆記部13の一部は、前端開口部2bを通して軸筒2から前側に突出する。このとき、開閉蓋2aは、筆記部13により押し込まれることで開状態とされる。
【0052】
クリップ3は、軸筒2の前端部に接続され、軸筒2の外周面から径方向外側に突出する。具体的に、クリップ3は、軸筒2の前端部から径方向外側に突出し、後側に向けて延びている。クリップ3の一部(例えばクリップ3の後端部付近)は、軸筒2の外周面に接触していてもよい。
【0053】
クリップ3は、弾性変形可能な金属製等である。クリップ3を利用することにより、使用者は、筆記具10を衣服などのポケット等に引っ掛けて保持することができる。この筆記具10の保持姿勢において、前側(-Y側)は鉛直方向の上側を向き、後側(+Y側)は鉛直方向の下側を向く。この保持姿勢により、インキが意図せず筆記部13から垂れ落ちるようなことが抑制される。また、クリップ3が設けられることで、筆記具10が机上等において意図せず転がるようなことが抑えられる。
【0054】
付勢部材4は、例えば圧縮コイルバネ等である。付勢部材4は、中心軸Cを中心とする螺旋状をなす。付勢部材4は、軸筒2の内部に配置され、インキ吸入機構付き筆記部材1を後側へ向けて付勢する。付勢部材4の内部には、インキ吸入機構付き筆記部材1の一部(筆記部13等)が挿入される。
【0055】
押込み部5は、中心軸Cを中心とする筒状であり、前後方向に延びる。押込み部5は、例えば、後端部が閉じられた有底筒状等である。押込み部5は、軸筒2の後端開口部2c内に挿入される。押込み部5の少なくとも一部(後端部)は、後端開口部2cから後側に突出する。
【0056】
ノック機構6は、軸筒2の内部に設けられる。使用者が、付勢部材4の付勢力に抗して押込み部5を前側へ押し込み、この押し込みを解除するという一連の操作(ノック操作)を行うことにより、ノック機構6は、インキ吸入機構付き筆記部材1を上述した使用位置と収納位置とに切り替え可能に構成されている。詳しくは、使用者がノック操作を一度行う毎に、インキ吸入機構付き筆記部材1は、使用位置と収納位置とに交互に前後方向に移動する。本実施形態のノック機構6は、回転カム61等を含んでおり、具体的には、従来のノック式万年筆が備えるノック機構と同様の構造を備える。
【0057】
軸筒2は、軸筒2が有する複数の筒状部材(例えば前軸と後軸)同士の螺着や嵌合等を解除することにより、分解可能に構成されている。インキ吸入機構付き筆記部材1は、軸筒2を分解することにより、軸筒2の内部から取り出し可能である。すなわち、インキ吸入機構付き筆記部材1は、軸筒2の内部に着脱可能に設けられている。
【0058】
図2及び
図3に示すように、インキ吸入機構付き筆記部材1は、前後方向に延び、インキ(図示省略)が貯留されるインキ貯留筒11と、内部にインキ貯留筒11が挿入されるカバー筒12と、インキ貯留筒11の前側に配置され、インキ貯留筒11に接続される筆記部13と、インキ貯留筒11の内部に配置される弁部14aを有するピストン14と、ピストン14を前後方向に移動させる操作部15と、を備える。
【0059】
インキ貯留筒11、カバー筒12、ピストン14及び操作部15は、中心軸Cを共通軸として互いに同軸に配置される。また、前後方向において、筆記部13と操作部15とは、互いに異なる位置に配置されている。
インキ吸入機構付き筆記部材1の説明において、前側(-Y側)は、中心軸Cに沿って操作部15から筆記部13へ向かう方向に相当し、後側(+Y側)は、中心軸Cに沿って筆記部13から操作部15へ向かう方向に相当する。
【0060】
インキ貯留筒11は、中心軸Cを中心とする円筒状である。インキ貯留筒11の周壁のうち、径方向から見て、少なくともカバー筒12の後述するインキ確認窓12bと重なる部分は透明である。本実施形態では、インキ貯留筒11の周壁全体が、透明な部材により構成される。すなわちインキ貯留筒11は、透明である。
【0061】
ここで、本実施形態において「透明」とは、例えば、光線透過率が85%以上であることを指す。また、インキ貯留筒11の光線透過率は、例えば、95%以下である。また前記透明な部材は、インキの色等を確認する観点からは、無色の透明な部材であることが好ましい。ただしこれに限らず、例えばインキ残量等を確認する観点からは、所定の色が付与された透明な部材であってもよい。
【0062】
インキ貯留筒11の構成部材の材料は、例えば、AS(アクリロニトリルスチレン共重合樹脂)製、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)製、PC(ポリカーボネイト)製、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)製、PP(ポリプロピレン)製、POM(ポリオキシメチレン)製、PE(ポリエチレン)製、PMP(ポリメチルペンテンポリマー)製等である。
【0063】
ただしインキ貯留筒11は、内部に貯留されるインキの表面張力の影響を受けにくくするため、濡れの良い材料で構成されることが好ましい。このため、インキ貯留筒11の構成部材の材料は、好ましくは、AS製、ABS製、PC製、PMMA製等である。
【0064】
インキ貯留筒11は、嵌合筒部11aと、係止突起11bと、後壁11cと、を有する。
嵌合筒部11aは、インキ貯留筒11の周壁のうち前端部に配置される。嵌合筒部11aは、インキ貯留筒11の周壁のうち嵌合筒部11aよりも後側に位置する部分に比べて、内径寸法が小さい。また嵌合筒部11aは、インキ貯留筒11の周壁のうち嵌合筒部11aよりも後側に位置する部分に比べて、肉厚寸法が大きい。
嵌合筒部11aの内部には、筆記部13の後端部が嵌合する。すなわち、嵌合筒部11aには、筆記部13の後端部が挿入される。
【0065】
係止突起11bは、嵌合筒部11aの内周面から径方向内側に突出する。係止突起11bは、前後方向に延びるリブ状である。
【0066】
後壁11cは、インキ貯留筒11の後端部に配置される。後壁11cは、中心軸Cと垂直な方向に広がる円板状である。後壁11cは、インキ貯留筒11の周壁の後端部に、周方向に回り止めされた状態で係合している。
【0067】
後壁11cは、後壁11cを前後方向に貫通する挿通孔11dを有する。挿通孔11dは、前後方向から見て非円形状をなしており、本実施形態では略長円形状をなす。
【0068】
カバー筒12は、中心軸Cを中心とする多段円筒状である。カバー筒12は、カバー本体12aと、インキ確認窓12bと、カバーキャップ12cと、を有する。
カバー本体12aは、インキ貯留筒11を径方向外側から覆う大径筒部12dと、大径筒部12dよりも前側に配置され、筆記部13の一部を径方向外側から覆う小径筒部12eと、大径筒部12dと小径筒部12eとを接続する段部12fと、を有する。
【0069】
大径筒部12dは、中心軸Cを中心とする円筒状であり、前後方向に延びる。大径筒部12dは、カバー筒12のうち最も直径寸法が大きい部分である。大径筒部12dは、カバー筒12のうち前後方向の両端部間に位置する中間部分に配置される。大径筒部12dの前後方向の寸法は、インキ貯留筒11の前後方向の寸法よりも大きい。インキ貯留筒11は、大径筒部12d内に収納される。インキ貯留筒11は、大径筒部12d内に抜き出し可能に嵌合する。大径筒部12dは、大径筒部12dの内周面のうち後端部に配置される雌ネジ部12gを有する。
【0070】
小径筒部12eは、中心軸Cを中心とする円筒状であり、前後方向に延びる。小径筒部12eの直径寸法は、大径筒部12dの直径寸法よりも小さい。小径筒部12eは、カバー筒12のうち前端部に配置される。筆記部13の一部は、小径筒部12e内に抜き出し可能に嵌合する。本実施形態では、筆記部13のうち最大径部分が、小径筒部12e内に配置される。
【0071】
小径筒部12eは、小径筒部12eの前端部に配置される挿入孔12hを有する。挿入孔12hは、小径筒部12eの前壁を前後方向に貫通する。挿入孔12hは、前後方向から見て、非円形状とされている。挿入孔12hには、筆記部13のうち最大径部分よりも前側に位置する部分が挿入されて、小径筒部12eよりも前側に突出する。筆記部13の前記部分が挿入孔12hに挿入されることで、筆記部13とカバー筒12とは、中心軸C回りの相対回転が規制される。筆記部13の最大径部分の前端面は、小径筒部12eの前壁に後側から接触する。
【0072】
段部12fは、中心軸Cを中心とする円環板状である。段部12fの外周部は、大径筒部12dの前端部に接続される。段部12fの内周部は、小径筒部12eの後端部に接続される。インキ貯留筒11の前端部は、段部12fに後側から接触する。また付勢部材4の後端部は、段部12fに前側から接触する(
図1(a)、(b)を参照)。
【0073】
インキ確認窓12bは、カバー筒12の周壁に開口する。本実施形態ではインキ確認窓12bが、大径筒部12dの周壁に配置され、この周壁を径方向に貫通する。インキ確認窓12bは、前後方向に延びる長孔状である。インキ確認窓12bの前端は、筆記部13の後端部よりも後側に配置される。また本実施形態では、インキ確認窓12bを斜め後方から見て、すなわちインキ確認窓12bを径方向外側かつ後側から見て、筆記部13の後端部が、インキ確認窓12bを通して視認可能な位置に配置されている。
【0074】
インキ確認窓12bは、カバー筒12の周壁に周方向に互いに間隔をあけて少なくとも一対設けられる。本実施形態ではインキ確認窓12bが、大径筒部12dの周壁に、周方向に互いに間隔をあけて一対設けられる。一対のインキ確認窓12bは、中心軸Cを中心として互いに180°回転対称となる位置に配置されている。すなわち、一対のインキ確認窓12bは、径方向から見て、互いに重なる位置に配置される。
【0075】
カバーキャップ12cは、中心軸Cを中心とする円筒状であり、前後方向に延びる。カバーキャップ12cは、カバー本体12aの後側に位置する。カバーキャップ12cは、カバー筒12のうち後端部に配置される。カバーキャップ12cは、カバーキャップ12cの外周面のうち前端部に配置される雄ネジ部12iと、カバーキャップ12cの内周面に配置される段差部12jと、を有する。
【0076】
雄ネジ部12iは、カバー本体12aの雌ネジ部12gに螺着される。雄ネジ部12iと雌ネジ部12gとの間には、例えば、所定以上のトルクで固着状態を解除可能な接着剤等が介在している。すなわち、カバーキャップ12cは、カバー本体12aに着脱可能に取り付けられる。
【0077】
カバーキャップ12cの前端部は、インキ貯留筒11の後壁11cに後側から接触する。これによりカバーキャップ12cは、インキ貯留筒11及び筆記部13を前側へ押し付けて固定している。すなわち、カバー筒12は、インキ貯留筒11と筆記部13とを固定する。
【0078】
また、カバーキャップ12c内には、操作部15が挿入されている。操作部15は、カバーキャップ12cの内部で中心軸C回りに回転自在である。言い換えると、カバー筒12は、操作部15を回転自在に保持している。
【0079】
段差部12jは、前側を向く円形リング状の面である。段差部12jは、操作部15の外周面に設けられた円形リング状の段差面15a(後側を向く面)に、後側から隙間をあけて対向し、または接触する。このような構成により、カバーキャップ12cは、操作部15の後側への移動及び抜け出しを規制している。
【0080】
そして本実施形態では、インキ貯留筒11の外周面及びカバー筒12の内周面のうち、少なくとも一方のインキ確認窓12bを囲む環状部分18の撥水性が、インキ貯留筒11の内周面の撥水性よりも高い。言い換えると、インキ貯留筒11の内周面の親水性が、環状部分18の親水性よりも高い。すなわち、環状部分18の濡れ性は、インキ貯留筒11の内周面の濡れ性よりも悪い。
【0081】
具体的に、環状部分18における水の接触角は、例えば、95°以上であり、好ましくは100°以上であり、より望ましくは105°以上である。本実施形態では、環状部分18の表面における水の接触角が、例えば、110°~120°である。
【0082】
また、インキ貯留筒11の内周面における水の接触角は、例えば、90°以下であり、好ましくは85°以下であり、より望ましくは80°以下である。本実施形態では、インキ貯留筒11の内周面における水の接触角が、例えば、79°~88°である。なお本実施形態において、インキ貯留筒11の内周面には、ピストン14の弁部14aを摺動させやすくするためシリコーングリスが塗布されている。
【0083】
インキ貯留筒11の周壁のうち、径方向から見て、少なくともインキ確認窓12bと重なる部分と、カバー筒12との間には、径方向において隙間が設けられている。
本実施形態では、インキ貯留筒11が、インキ貯留筒11の外周面から径方向内側に窪み、カバー筒12の内周面との間に隙間をあけて設けられる凹部11eと、凹部11eに配置される撥水性のコーティング層11fと、を有する。すなわち、インキ貯留筒11の外周面から径方向内側に窪む凹部11eが設けられることで、インキ貯留筒11の周壁のうちインキ確認窓12bに対向する部分とカバー筒12との間に、径方向の隙間が設けられている。
【0084】
凹部11eは、インキ貯留筒11の外周面に配置されて周方向に延びる溝状である。凹部11eは、インキ貯留筒11の外周面に、周方向の全周にわたって配置される。凹部11eの前後方向の寸法は、インキ確認窓12bの前後方向の寸法よりも大きい。凹部11eの前端は、インキ確認窓12bの前端よりも前側に位置する。凹部11eの後端は、インキ確認窓12bの後端よりも後側に位置する。このため、インキ確認窓12bは、径方向から見て、その全体が凹部11eと重なって配置される。
【0085】
また、環状部分18は、径方向から見て、その全体が凹部11eと重なって配置される。環状部分18は、インキ貯留筒11のコーティング層11fに位置する。コーティング層11fは、例えば、凹部11eに注入したフッ素系等の撥水コーティング液が固化することにより形成される。
【0086】
また、インキ吸入機構付き筆記部材1は、インキ貯留筒11の外周面及びカバー筒12の内周面のうち少なくとも一方から径方向に窪み、周方向に延びる溝部19をさらに備える。本実施形態では溝部19が、カバー筒12の内周面から径方向外側に窪み、周方向に延びる。具体的に、溝部19は、大径筒部12dの内周面に、周方向の全周にわたって配置される。溝部19は、インキ確認窓12bよりも後側かつインキ貯留筒11の後壁11cよりも前側に配置される。溝部19は、凹部11eから後側に離れて配置されている。
【0087】
筆記部13は、前後方向に延び、後端部がインキ貯留筒11内に挿入されるペン芯13aと、ペン芯13aよりも前側に突出するペン先13bと、を有する。
【0088】
ペン芯13aは、例えばAS製等の樹脂製である。ペン芯13aは、前後方向に延びる。ペン芯13aの後端部は、筆記部13の後端部を構成する。ペン芯13aの後端部(筆記部13の後端部)の外径寸法は、この後端部の前側に隣り合う筆記部13の最大径部分の外径寸法よりも小さい。ペン芯13aの後端部は、嵌合筒部11a内に抜き出し可能に嵌合する。ペン芯13aの後端面は、中心軸Cと垂直な面方向に拡がる垂直面13fと、垂直面13fと傾斜する面方向に拡がる傾斜面13gと、を有する。
【0089】
また、ペン芯13aの後端部には、Oリング等の環状のシール部材16が嵌め合わされている。すなわち、インキ吸入機構付き筆記部材1は、さらに、シール部材16を備える。
【0090】
シール部材16の内周面は、ペン芯13aの後端部(筆記部13の後端部)の外周面に接触する。シール部材16の前側を向く面は、筆記部13の最大径部分の後端面に接触する。シール部材16の後側を向く面は、インキ貯留筒11の周壁の前端面に接触する。シール部材16の外周面は、小径筒部12eの内周面に接触する。
【0091】
ペン芯13aは、インキ溝13cと、空気溝13dと、係止溝13eと、を有する。
インキ溝13cは、ペン芯13aの外周面及び後端面に開口し、前後方向に延びる。具体的に、インキ溝13cの後端部は、ペン芯13aの後端面のうち傾斜面13gに開口する。
【0092】
空気溝13dは、ペン芯13aの外周面及び後端面に開口する。空気溝13dは、前後方向に延びる溝部分と、周方向に延びる溝部分と、を有する。空気溝13dの後端部は、前後方向に延び、ペン芯13aの後端面のうち傾斜面13gに開口する。
【0093】
係止溝13eは、ペン芯13aの後端部の外周面から径方向内側に窪み、前後方向に延びる。係止溝13eの後端部は、ペン芯13aの後端面のうち垂直面13fに開口する。係止溝13eには、インキ貯留筒11の係止突起11bが挿入されて係止される。
【0094】
係止溝13e及び係止突起11bは、回転規制部17を構成する。回転規制部17は、インキ貯留筒11と筆記部13とが、インキ貯留筒11の中心軸C回りに相対回転することを規制する。すなわち、インキ吸入機構付き筆記部材1は、さらに、回転規制部17を備える。
【0095】
ペン先13bは、板状であり、ペン芯13aと固定される。ペン先13bは、筆記部13のうち前側部分に配置される。ペン先13bの前端部は、ペン芯13aの前端部よりも前側に突出する。ペン先13bは、例えば金属製等であり、少なくとも前端部が弾性変形可能である。ペン先13bは、ペン先13bを板厚方向に貫通するスリット状の切割りを有する。切割りは、前後方向に延び、ペン先13bの前端面に開口する。切割りは、インキ溝13cの前端部と連通する。
【0096】
ピストン14は、インキ貯留筒11の内周面に摺動自在に接触する弁部14aと、弁部14aに接続される軸部14bと、を有する。
弁部14aは、ピストン14のうち最も外径寸法が大きい部分である。弁部14aの外周部は、筒状をなしており、弾性変形可能である。弁部14aの外周部は、インキ貯留筒11の内周面に液密に密着する。
【0097】
軸部14bは、中心軸Cを中心とする軸状であり、弁部14aから後側に延びる。軸部14bは、中心軸Cと垂直な断面の形状が非円形状であり、本実施形態では略長円形状である。軸部14bは、インキ貯留筒11の後壁11cの挿通孔11dに挿通される。軸部14bが挿通孔11dに挿入されることで、ピストン14の中心軸C回りの回転が規制されている。
また軸部14bは、軸部14bの外周面に配置される雄ネジ14cを有する。
【0098】
操作部15は、中心軸Cを中心とする円筒状であり、前後方向に延びる。操作部15の周壁の前端面は、インキ貯留筒11の後壁11cの後端面に隙間をあけて対向し、または接触する。操作部15の内部には、軸部14bが挿入される。操作部15は、操作部15の内周面に配置される雌ネジ15bを有する。雌ネジ15bは、軸部14bの雄ネジ14cと螺着される。すなわち、操作部15は、ピストン14と螺着により連結されている。
【0099】
使用者が操作部15を中心軸C回りに回転操作することで、雄ネジ14c及び雌ネジ15bのねじの作用により、ピストン14は前後方向に移動する。具体的に、ピストン14は、最も前側に位置する前進端位置と、最も後側に位置する後退端位置との間で、前後方向に移動可能である。すなわち、ピストン14は、前進端位置と後退端位置との間の所定範囲において、前後方向に移動可能とされる。
【0100】
ピストン14が前進端位置に配置されたときに、弁部14aの前端面は、筆記部13の後端面に接触する。具体的に、ピストン14が前進端位置であるときに、弁部14aは、ペン芯13aの後端面のうち垂直面13fに接触する。また、ピストン14が後退端位置であるときに、弁部14aは、インキ確認窓12bよりも後側に配置される。
【0101】
そして本実施形態では、下記の特別な構成を備える。
ピストン14が前進端位置であるときに、インキ貯留筒11の内部空間のうち弁部14aよりも前側に位置する部分の容積と、筆記部13の内部空間の容積との和を第1容積V1とする。また、ピストン14が後退端位置であるときに、インキ貯留筒11の内部空間のうち、インキ確認窓12bの後端と弁部14aとの間に位置する部分の容積を第2容積V2とする。本実施形態では、第2容積V2が、第1容積V1と同等以上である。すなわち、第2容積V2は、第1容積V1と同一かまたはそれよりも大きい。
【0102】
以上説明した本実施形態のインキ吸入機構付き筆記部材1では、カバー筒12にインキ確認窓12bが設けられており、使用者は、インキ確認窓12bを通してインキ貯留筒11内のインキを視認することができる。このため、インキ貯留筒11内のインキの色や残量等の確認が容易である。そして、インキ貯留筒11内のインキが少なくなった場合に、筆記部13の前端部を鉛直方向の下側へ向けてインキ瓶内のインキに浸け、ピストン14を後側へ移動させてインキ瓶からインキ貯留筒11にインキを吸い上げる際に、下記の作用効果が得られる。
【0103】
本実施形態では、ピストン14が後退端位置とされたときの第2容積V2が、ピストン14が前進端位置とされたときの第1容積V1以上の大きさとされている。このため、ピストン14が前進端位置に配置されたときに、インキ貯留筒11の内部空間のうち弁部14aよりも前側に位置する部分及び筆記部13の内部空間が、たとえすべてエアで満たされていても、インキ瓶からインキを吸い上げてピストン14が後退端位置に配置されたときに、このエアをインキ確認窓12bの後端と弁部14aとの間にすべて収容できる。
【0104】
したがって、前進端位置のピストン14を後退端位置まで移動させて、インキ瓶内からインキ貯留筒11内にインキを最大量吸い上げたときに、インキ確認窓12bを通して、インキ貯留筒11内のエアが使用者に視認されるようなことは抑制される。すなわち、インキ吸入直後に、使用者がインキ確認窓12bを通して見るインキ貯留筒11の内部は、すべてインキで満たされることになる。
【0105】
これにより、使用者は、インキ瓶内からインキ貯留筒11内にインキが最大限まで吸い上げられたことを、感覚的に認識できる。本実施形態によれば、インキ貯留筒11内にインキが最大量吸い上げられたことを、使用者が視認可能である。
【0106】
また本実施形態では、筆記部13のペン芯13aが、ペン芯13aの後端面に開口するインキ溝13cを有しており、ピストン14が前進端位置であるときに、弁部14aがこのペン芯13aの後端面に接触する。
従来のように、前進端位置とされたピストンの弁部がペン芯の後端面から離れて配置される場合と比べて、本実施形態の上記構成によれば、ピストン14の前進端位置が、より前側とされる。ピストン14の前後方向のストロークがより大きく確保されるため、インキ瓶からインキ貯留筒11にインキを吸い上げる際の最大量(最大吸入量)を増大できる。このため、インキを吸入する作業の頻度を低減することができる。
【0107】
また、ピストン14の前進端位置がより前側に配置されることで、インキ貯留筒11の内部空間のうち弁部14aよりも前側に位置する部分の容積が小さくなるとともに、第1容積V1が小さくなる。これにともない、第2容積V2も小さく抑えることができるため、インキ確認窓12bの後端位置をより後側にして、インキ確認窓12bの開口面積を広く確保することができる。広いインキ確認窓12bを通して、使用者はインキ貯留筒11内のインキをより確認しやすくなる。
【0108】
また本実施形態では、インキ確認窓12bの前端が、筆記部13の後端部よりも後側に配置される。
この場合、使用者が、インキ吸入機構付き筆記部材1を径方向から見たときなどにおいて、インキ確認窓12bを通して筆記部13の後端部が見えにくくされている。インキ確認窓12bからインキ以外の部材が見えにくくなるため、インキをより視認しやすい。また、インキ吸入機構付き筆記部材1の外観デザイン(美観)がより高められる。
【0109】
また本実施形態では、インキ確認窓12bを斜め後方から見て、筆記部13の後端部が、インキ確認窓12bを通して視認可能な位置に配置されている。
この場合、例えばインキ貯留筒11内のインキ残量が少なくなったときに、使用者が、インキ確認窓12bを斜め後方から見る(径方向外側かつ後側から見る)ことで、インキ確認窓12bを通して、筆記部13の後端部を視認することができる。これにより使用者は、インキ残量が少なくなったことを目視によって認識できる。
【0110】
また本実施形態では、インキ確認窓12bが、カバー筒12の周壁に周方向に互いに間隔をあけて少なくとも一対設けられており、一対のインキ確認窓12bは、径方向から見て、互いに重なる位置に配置されている。
この場合、一対のインキ確認窓12b同士が、周方向において互いに反対側となる位置に配置される。使用者は、一対のインキ確認窓12bを通して、インキ吸入機構付き筆記部材1の向こう側を見ることができる。一対のインキ確認窓12bを通して、インキ貯留筒11内に外部の光を取り込みやすくなるため、インキ貯留筒11内のインキが、より鮮明に見える。したがって使用者は、インキの色や残量等を確認しやすい。
【0111】
また本実施形態では、操作部15が、ピストン14と螺着により連結されており、カバー筒12は、インキ貯留筒11と筆記部13とを固定し、かつ操作部15を回転自在に保持する。
この場合、カバー筒12によって、インキ貯留筒11と筆記部13とが固定され、かつ、操作部15が回転可能に保持されている。言い換えると、インキ貯留筒11、筆記部13、及びインキ吸入機構(ピストン14及び操作部15)が、一体化された構成のインキ吸入機構付き筆記部材1とされている。このため、インキ瓶からインキ貯留筒11にインキを吸入する際、使用者は、インキ貯留筒11にコンバータ(インキ吸入機構)を着脱する必要がなく、予めユニット化されたインキ吸入機構付き筆記部材1によって、簡単に吸入作業を行うことができる。本実施形態によれば、使用者がインキ瓶からインキを吸い上げる際の作業性がよく、取り扱いが容易である。
【0112】
また本実施形態では、回転規制部17が、インキ貯留筒11と筆記部13とが中心軸C回りに相対回転することを規制する。
この場合、インキ貯留筒11、筆記部13及びカバー筒12を組み立てるときに、インキ貯留筒11と筆記部13とが、カバー筒12内で意図せず相対回転するような不具合が抑えられる。インキ吸入機構付き筆記部材1が組み立てやすくなり、製造が容易となる。
また本実施形態では、組み立て後において、さらに、筆記部13とカバー筒12との相対回転も規制されている。使用者が、カバー筒12を掴んで操作部15を回転操作し、ピストン14を前後動させるときに、操作部15が後壁11cと摺接しても、インキ貯留筒11が操作部15と供回りするような不具合が防止される。
【0113】
また本実施形態では、インキ貯留筒11の周壁のうち、径方向から見て、少なくともインキ確認窓12bと重なる部分と、カバー筒12との間に、径方向の隙間が設けられている。
この場合、インキ吸入機構付き筆記部材1を組み立てるときに、インキ貯留筒11の周壁のうち、径方向から見てインキ確認窓12bと重なる透明な部分が、金属製等のカバー筒12に擦れて傷付くような不具合が抑制される。使用者は、インキ確認窓12b及びインキ貯留筒11の透明な部分を通して、インキ貯留筒11内のインキを鮮明に視認することができる。また、製品としての価値が安定して高められる。
【0114】
また本実施形態では、インキ貯留筒11の外周面及びカバー筒12の内周面のうち少なくとも一方において、インキ確認窓12bを囲む環状部分18の撥水性が高い。このため、インキ吸入作業時にインキ瓶内のインキに意図せずインキ確認窓12bが浸かってしまっても、インキ確認窓12bの周囲の環状部分18でインキが弾かれ、インキ確認窓12bを通してカバー筒12の内周面とインキ貯留筒11の外周面との間にインキが入り込むことが抑制される。したがって、使用者は、インキ貯留筒11内のインキ残量を安定して正確に認識できる。また、カバー筒12とインキ貯留筒11との間にインキが入り込むことが抑制されるため、このインキによって使用者の手が汚れたり、筆記具10の本体内部(軸筒2内部など)が汚れたりすることが抑えられる。
【0115】
一方で、インキ貯留筒11の内周面は撥水性が低く(親水性が高く)されている。このため、筆記具10によって筆記を行う際、筆記部13を鉛直方向の下側に向けると、インキ貯留筒11内のインキがスムーズに筆記部13側(つまり下側)へと流れる。
詳しくは、本実施形態と異なり、例えばインキ貯留筒の内周面の撥水性が高い場合、筆記部を鉛直方向の下側へ向けても、インキがインキ貯留筒の後端部(上端部)などに保持された状態のまま下側へ流れない現象が生じることがある。インキ貯留筒の内周面の撥水性が高いと、インキの表面張力の作用によってインキの落下が防止されてしまうためである。このような現象を、本実施形態によれば抑制できる。
【0116】
また本実施形態では、環状部分18における水の接触角が、95°以上である。
この場合、インキ貯留筒11の外周面またはカバー筒12の内周面の、環状部分18における撥水性が十分に高められる。インキ確認窓12bの周囲の環状部分18においてインキを弾く機能が安定して得られ、本実施形態による上述の作用効果がより安定する。
【0117】
また本実施形態では、インキ貯留筒11の内周面における水の接触角が、90°以下である。
この場合、インキ貯留筒11の内周面における親水性が十分に確保される。インキ貯留筒11の内部で、インキが表面張力の影響を受けにくくされるとともにスムーズに流動して、本実施形態による上述の作用効果がより安定する。
【0118】
また本実施形態では、インキ貯留筒11が、インキ貯留筒11の外周面から径方向内側に窪み、カバー筒12の内周面との間に隙間をあけて設けられる凹部11eと、凹部11eに配置される撥水性のコーティング層11fと、を有しており、環状部分18は、インキ貯留筒11のコーティング層11fに位置する。
例えば、撥水性のコーティング液を、インキ確認窓12bの内周部などからインキ貯留筒11の凹部11eに流入させると、コーティング液は、毛細管力によってカバー筒12の内周面と凹部11eとの隙間に広範囲に浸透する。このコーティング液が固化することで、上記構成のコーティング層11fがインキ貯留筒11の外周面に形成される。
【0119】
インキ貯留筒11の外周面のうちインキ確認窓12bを囲む環状部分18が、撥水性のコーティング層11f上に配置されることで、この環状部分18においてインキを弾く機能が安定して得られ、本実施形態による上述の作用効果がより安定する。
【0120】
また、本実施形態のインキ吸入機構付き筆記部材1は、インキ貯留筒11の外周面及びカバー筒12の内周面のうち少なくとも一方(本実施形態では、カバー筒12の内周面)から径方向に窪み、周方向に延びる溝部19をさらに備えており、溝部19は、インキ確認窓12bよりも後側かつインキ貯留筒11の後壁11cよりも前側に配置されている。
例えば、撥水性のコーティング液を、インキ確認窓12bの内周部などからカバー筒12の内周面とインキ貯留筒11の外周面との間に毛細管力で浸透させる場合において、上記構成のように、インキ確認窓12bよりも後側に溝部19が設けられていると、溝部19に達したコーティング液が、それ以上後側に移動することが抑制される。すなわち、毛細管力は、狭い箇所から広い箇所へ向けては作用しにくいため、溝部19によって、コーティング液のそれ以上の後側へ向けた浸透を抑えることができる。
【0121】
インキ貯留筒11の後壁11cには、ピストン14の軸部14bを挿通する挿通孔11dが開口しているが、上記構成によれば、撥水性のコーティング液が、インキ貯留筒11の後壁11cの開口を通して意図せずインキ貯留筒11の内部に浸入するような不具合を抑制することができる。
【0122】
また、本実施形態の筆記具10は、上述のインキ吸入機構付き筆記部材1と、インキ吸入機構付き筆記部材1の少なくとも一部を収容する軸筒2と、を備えている。また、インキ吸入機構付き筆記部材1は、インキ吸入機構付き筆記部材1の全体が軸筒2の内部に収納される収納位置と、筆記部13の一部が軸筒2から前側に突出する使用位置と、の間で前後方向に移動可能である。
本実施形態によれば、ノック式万年筆(キャップレス万年筆)等の筆記具10において、上述した優れた作用効果が得られる。
【0123】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されず、例えば下記に説明するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成の変更等が可能である。なお、変形例の図示においては、前述の実施形態と同じ構成には同一の符号を付し、下記では主に異なる点について説明する。
【0124】
図4は、前述した実施形態の第1変形例のインキ吸入機構付き筆記部材1を示す断面図(縦断面図)である。
図4に示すように、この第1変形例では、インキ貯留筒11の嵌合筒部11aの後端部が、径方向から見て、筆記部13の後端面の少なくとも一部と重なる。具体的には、嵌合筒部11aの後端部が、径方向から見て、筆記部13の後端面のうち少なくとも傾斜面13gと重なって配置される。
【0125】
上記構成のような嵌合筒部11aが設けられていると、インキ貯留筒11の内部空間のうち、前進端位置とされたピストン14の弁部14aよりも前側に位置する部分の容積が小さく抑えられるとともに、第1容積V1が小さくなる。これにともない、第2容積V2も小さく抑えることができるため、インキ確認窓12bの後端位置をより後側にして、インキ確認窓12bの開口面積を広げることができる。広いインキ確認窓12bを通して、使用者が視認可能なインキ貯留筒11内の領域を拡大できるため、インキ確認窓12bによって得られる機能(インキの確認しやすさなど)がより高められる。
【0126】
また、前後方向に長い嵌合筒部11aによって筆記部13の後端部をより安定して保持できるため、インキ貯留筒11と筆記部13との組み立て姿勢(固定状態)がより安定する。
【0127】
図5は、前述した実施形態の第2変形例のインキ吸入機構付き筆記部材1を示す断面図(縦断面図)である。
図5に示すように、インキ吸入機構付き筆記部材1は、開封手段20付きの筆記部13を備えていてもよい。開封手段20は、ペン芯13aの後端部に取り付けられ、ペン芯13aの後端面(垂直面13f及び傾斜面13g)よりも後側に突出する。開封手段20は、例えば、図示しない従来の交換式インキカートリッジの封止部(封止フィルム、封止蓋、封止球体等)を開封するために、流通品の筆記部等に設けられるものである。
ただし前述の実施形態のように、筆記部13に開封手段20が設けられていない場合には、ピストン14の前後方向のストロークを大きく確保できることから、より好ましい。
【0128】
図6は、前述した実施形態の第3変形例のインキ吸入機構付き筆記部材1を示す断面図(縦断面図)である。
図6に示すように、筆記部13の後端部が、DIN規格(ドイツ工業規格)に準ずる形状を有していてもよい。この場合、筆記部13の後端部が嵌合する嵌合筒部11aの内周部も、DIN規格に対応した形状とされる。
【0129】
また、前述の実施形態では、インキ貯留筒11が、インキ貯留筒11の外周面から窪む凹部11eと、凹部11eに配置される撥水性のコーティング層11fと、を有し、環状部分18がこのコーティング層11f上に位置する例を挙げたが、これに限らない。
特に図示しないが、カバー筒12が、カバー筒12の内周面から径方向外側に窪み、インキ貯留筒11の外周面との間に隙間をあけて設けられる凹部と、凹部に配置される撥水性のコーティング層と、を有しており、環状部分18が、カバー筒12のコーティング層に位置することとしてもよい。
【0130】
この場合、例えば、撥水性のコーティング液を、インキ確認窓12bの内周部などからカバー筒12の凹部に流入させると、コーティング液は、毛細管力によってインキ貯留筒11の外周面と凹部との隙間に広範囲に浸透する。このコーティング液が固化することで、上記構成のコーティング層がカバー筒12の内周面に形成される。
【0131】
カバー筒12の内周面のうちインキ確認窓12bを囲む環状部分18が、撥水性のコーティング層上に配置されることで、この環状部分18においてインキを弾く機能が安定して得られ、本発明による上述の作用効果がより安定する。
【0132】
また、前述の実施形態では、溝部19が、カバー筒12の内周面に設けられる例を挙げたが、これに限らない。溝部19は、インキ貯留筒11の外周面に設けられてもよい。この場合、溝部19は、インキ貯留筒11の外周面から径方向内側に窪み、周方向に延びる。
【0133】
また、前述の実施形態では、カバー筒12の周壁にインキ確認窓12bが一対設けられる例を挙げたが、これに限らない。インキ確認窓12bは、カバー筒12の周壁に、周方向に並んで3つ以上設けられていてもよい。あるいは、周方向に延びて開口が広くされた(つまり周方向寸法が大きい)インキ確認窓12bが、カバー筒12の周壁に1つのみ設けられていてもよい。
【0134】
また、前述の実施形態では、筆記具10としてノック式万年筆を例に挙げて説明したが、これに限らない。インキ吸入機構付き筆記部材1を備える筆記具は、ノック式万年筆以外のキャップ着脱タイプの万年筆や、万年筆以外のペン等であってもよい。
【0135】
本発明は、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態及び変形例等で説明した各構成を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態等によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明のインキ吸入機構付き筆記部材及び筆記具によれば、インキ貯留筒内にインキが最大量吸い上げられたことを使用者が視認可能である。したがって、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0137】
1…インキ吸入機構付き筆記部材、2…軸筒、10…筆記具、11…インキ貯留筒、11a…嵌合筒部、12…カバー筒、12b…インキ確認窓、13…筆記部、13a…ペン芯、13b…ペン先、13c…インキ溝、14…ピストン、14a…弁部、15…操作部、17…回転規制部、C…中心軸、V1…第1容積、V2…第2容積