(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092287
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】柑橘風味飲料および柑橘風味飲料の香味向上方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/04 20190101AFI20240701BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240701BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
C12G3/04
A23L2/52
A23L2/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208116
(22)【出願日】2022-12-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-24
(71)【出願人】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 繭
【テーマコード(参考)】
4B115
4B117
【Fターム(参考)】
4B115LH11
4B115LH12
4B115LP02
4B117LC03
4B117LE10
4B117LK04
4B117LK07
4B117LK08
4B117LL01
(57)【要約】
【課題】良好な柑橘風味を得つつ、酸味および雑味が強くなることを抑制できるアルコール含有柑橘風味飲料に関する技術を提供する。
【解決手段】本発明のアルコール含有柑橘風味飲料は、リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含む、アルコール含有柑橘風味飲料。
【請求項2】
前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5である、請求項1に記載の柑橘風味飲料。
【請求項3】
前記酢酸ネリル含有量(ppm)/前記リモニン含有量(ppb)が0.00001~3である、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。
【請求項4】
前記酢酸ネリル含有量(ppm)/前記ノミリン含有量(ppb)が0.00001~3である、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。
【請求項5】
前記リモニンの含有量が0.1~10000ppbである、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。
【請求項6】
前記ノミリンの含有量が0.1~10000ppbである、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。
【請求項7】
前記酢酸ネリルの含有量が0.01~3.0ppmである、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。
【請求項8】
柑橘果汁の含有量が0~20質量%である、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。
【請求項9】
果実フレーバーを含む、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。
【請求項10】
炭酸ガスを含む、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。
【請求項11】
アルコール濃度が0.4~10体積/体積%である、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。
【請求項12】
クエン酸酸度が0.20~0.90g/100mlである、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。
【請求項13】
エキス分が0.5~10質量/体積%である、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。
【請求項14】
容器詰め飲料である、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。
【請求項15】
レモン風味飲料である、請求項1または2に記載の柑橘風味飲料。
【請求項16】
リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を添加して飲料を調製する工程を含む、アルコール含有柑橘風味飲料の製造方法。
【請求項17】
リモニンおよび/またはノミリンを含有するアルコール含有柑橘風味飲料の香味向上方法であって、
酢酸ネリルを添加して飲料を調製する工程を含む、柑橘風味飲料の香味向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柑橘風味飲料および柑橘風味飲料の香味向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
柑橘風味を呈するアルコール飲料は、柑橘類特有風味とアルコールによる風味とが合わさることにより、より嗜好性の高い飲料として、需要者に広く親しまれている。
通常、このような柑橘風味飲料は、果汁や果実からの抽出エキス、または果実の香味を再現した香料成分等のいずれか1種以上を用い、さらには適量の甘味料や酸味料等を配合することによって製造されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、柑橘類の果汁を含有するノンアルコールの果汁含有飲料であって、リモニン(ppm)/カロテノイド(ppm)の比率(x)を0.38~0.59とし、酪酸エチル濃度(y)を4.8ppm以下とし、xyが所定の関係式を満たすことで、フレッシュ感が得られることが開示されている。
【0004】
また、リモニン、ノミリンは、柑橘らしい風味を有しつつも、柑橘特有の苦み成分の一種として知られている。そこで、特許文献2には、リモニン、イソリモニン、ノミリン、およびそれらの混合物からなる群より選択される化合物の果汁中の濃度を、それらの味覚閾値未満のレベルに調節する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-37166号公報
【特許文献2】国際公開第2009/049046号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、アルコール飲料において、リモニンおよびノミリンを用いた場合、それらの味覚閾値以下であっても、酸味や雑味が強調される場合があることを見出した。すなわち、特許文献1,2に開示される技術をもってしても、リモニンおよびノミリンの少なくとも一方をアルコール飲料に適用した場合、柑橘らしい風味が得られたとしても、酸味および雑味が強くなる点で改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、リモニンおよびノミリンの少なくとも一方を含むアルコール飲料において、良好な柑橘風味を得つつ、酸味および雑味が強くなることを抑制する点から鋭意検討を行ったところ、酢酸ネリルを組み合わせることが有効であることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明によれば、以下のアルコール含有柑橘風味飲料およびアルコール含有柑橘風味飲料の果実感増強方法が提供される。
【0009】
[1] リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含む、アルコール含有柑橘風味飲料。
[2] 前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5である、[1]に記載の柑橘風味飲料。
[3] 前記酢酸ネリル含有量(ppm)/前記リモニン含有量(ppb)が0.00001~3である、[1]または[2]に記載の柑橘風味飲料。
[4] 前記酢酸ネリル含有量(ppm)/前記ノミリン含有量(ppb)が0.00001~3である、[1]乃至[3]いずれか一つに記載の柑橘風味飲料。
[5] 前記リモニンの含有量が0.1~10000ppbである、[1]乃至[4]いずれか一つに記載の柑橘風味飲料。
[6] 前記ノミリンの含有量が0.1~10000ppbである、[1]乃至[5]いずれか一つに記載の柑橘風味飲料。
[7] 前記酢酸ネリルの含有量が0.01~3.0ppmである、[1]乃至[6]いずれか一つに記載の柑橘風味飲料。
[8] 柑橘果汁の含有量が0~20質量%である、[1]乃至[7]いずれか一つに記載の柑橘風味飲料。
[9] 果実フレーバーを含む、[1]乃至[8]いずれか一つに記載の柑橘風味飲料。
[10] 炭酸ガスを含む、[1]乃至[9]いずれか一つに記載の柑橘風味飲料。
[11] アルコール濃度が0.4~10体積/体積%である、[1]乃至[10]いずれか一つに記載の柑橘風味飲料。
[12] クエン酸酸度が0.20~0.90g/100mlである、[1]乃至[11]いずれか一つに記載の柑橘風味飲料。
[13] エキス分が0.5~10質量/体積%である、[1]乃至[12]いずれか一つに記載の柑橘風味飲料。
[14] 容器詰め飲料である、[1]乃至[13]いずれか一つに記載の柑橘風味飲料。
[15] レモン風味飲料である、[1]乃至[14]いずれか一つに記載の柑橘風味飲料。
[16] リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を添加して飲料を調製する工程を含む、アルコール含有柑橘風味飲料の製造方法。
[17] リモニンおよび/またはノミリンを含有するアルコール含有柑橘風味飲料の香味向上方法であって、
酢酸ネリルを添加して飲料を調製する工程を含む、柑橘風味飲料の香味向上方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、良好な柑橘風味を得つつ、酸味および雑味が強くなることを抑制できるアルコール含有柑橘風味飲料に関する技術を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。
【0012】
<アルコール含有柑橘風味飲料>
本実施形態のアルコール含有柑橘風味飲料(以下、単に「飲料」とも称して説明する)は、リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を含む飲料である。これにより、柑橘らしい風味を得つつ、酸味および雑味が強くなることを抑制できる。すなわち、本実施形態の飲料においては、リモニンおよび/またはノミリンにより柑橘風味を得つつ、酢酸ネリルをさらに含有することで、リモニンおよび/またはノミリン含有量が低くてもアルコールと組み合わさることにより酸味や雑味が強くなることを抑制できる。かかるメカニズムの詳細は不明だが、酢酸ネリルがリモニンおよび/またはノミリンによる酸味や雑味を適度にマスキングしていると推測される。
【0013】
なお、本実施形態において良好な柑橘風味とは、飲料を飲用した際に、爽やかな柑橘感とボディを感じる果実感がバランスよく感じられることを意図する。リモニンおよび/またはノミリンによる酸味や雑味とは、飲料を飲用した際に、尖った酸味、後引くえぐみ、雑味が感じられることを意図する。
【0014】
本実施形態において、柑橘とは、ミカン科ミカン亜科に属する植物の果実を意味する。具体的には、ネーブルオレンジ、バレンシアオレンジ、ブラッドオレンジなどのオレンジ類、うんしゅうみかん、マンダリンオレンジ、ぽんかん、紀州みかん、アンコール、ダンゼリン、コウジ、シークワーサー、タチバナ、不知火などのみかん類、ナツダイダイ、はっさく、ヒュウガナツ、サンボウカン、河内晩柑、キヌカワ、ナルトなどの雑柑類、タンカン、いよかん、マーコット、清見、オーランド、ミネオラ、セミノール等のタンゴール・タンゼロ類、メキシカンライム、タヒチライム等のライム類、リスボンレモン、ユーレカレモン、ディアマンテ、エトローグ等のレモン類、バンペイユ、土佐ブンタン等のブンタン、ダンカン、マーシュ、トムソン、ルビーレッド等のグレープフルーツ類、ゆず、カボス、スダチ、ハナユ、キズ等のユズ類、キンカン、カラタチ等が挙げられる。
なかでも、本実施形態の飲料は、オレンジ類および/またはレモン類の風味を呈する飲料として好適であり、レモン風味飲料であることがより好適である。
【0015】
本実施形態の飲料の柑橘風味は、リモニン、ノミリンといった香気成分によって得られる他、後述の柑橘フレーバー、柑橘果汁等を用いることによって得られる。
【0016】
以下、本実施形態の飲料に含まれる成分について説明する。
【0017】
[リモニン]
リモニンは、柑橘類に含まれる苦み成分(リモノイド)のうちの一つとして知られるが、濃度によっては柑橘様の芳香を有する香気成分である。
【0018】
本実施形態において、リモニンの含有量の下限値は、好ましくは0.1ppb以上であり、より好ましくは0.5ppb以上であり、さらに好ましくは1ppb以上であり、ことさらに好ましくは10ppb以上であり、一層さらに好ましくは20ppb以上である。リモニンの含有量を上記下限値以上とすることにより、柑橘風味を高め、ボディを感じる果実感が得られやすくなる。
一方、リモニンの含有量の上限値は、好ましくは10000ppb以下であり、より好ましくは6000ppb以下であり、さらに好ましくは5000ppb以下である。リモニンの含有量を上記上限値以下とすることにより、尖った酸味、後引くえぐみが強くなるのを抑制できる。
なかでも、リモニンと酢酸ネリルとの組み合わせによる相乗効果を得る点から、リモニンの含有量の上限値は、1000ppb以下が好ましく、100ppb以下がより好ましく、80ppb以下がさらに好ましい。
【0019】
[ノミリン]
ノミリンは、リモニンと同じく、柑橘類に含まれる苦み成分(リモノイド)のうちの一つとして知られるが、濃度によっては柑橘様の芳香を有する香気成分である。
【0020】
本実施形態において、ノミリンの含有量の下限値は、好ましくは0.1ppb以上であり、より好ましくは0.5ppb以上であり、さらに好ましくは1ppb以上であり、ことさらに好ましくは10ppb以上であり、一層さらに好ましくは20ppb以上である。ノミリンの含有量を上記下限値以上とすることにより、柑橘風味を高め、ボディを感じる果実感が得られやすくなる。
一方、ノミリンの含有量の上限値は、好ましくは10000ppb以下であり、より好ましくは6000ppb以下であり、さらに好ましくは5000ppb以下である。ノミリンの含有量を上記上限値以下とすることにより、尖った酸味、後引くえぐみが強くなるのを抑制できる。
なかでも、ノミリンと酢酸ネリルとの組み合わせによる相乗効果を得る点から、ノミリンの含有量の上限値は、1000ppb以下が好ましく、400ppb以下がより好ましい。
【0021】
本実施形態において、リモニン、ノミリンは、柑橘果汁等に含まれるものであってもよく、また香料成分としてリモニン、およびノミリンの単体またはこれらを含む混合物であってもよい。
【0022】
[酢酸ネリル]
酢酸ネリルは、酢酸エステルの1種であり、フローラル調の芳香等を有する香気成分として知られる。酢酸ネリルは、リモニンおよび/またはノミリンを含むアルコール飲料に適用することで、柑橘風味を得つつ、尖った酸味、後引くえぐみが強くなることを抑制できる。
【0023】
本実施形態において、酢酸ネリルの含有量の下限値は、好ましくは0.01ppm以上であり、より好ましくは0.02ppm以上であり、さらに好ましくは0.05ppm以上である。酢酸ネリルの含有量を上記下限値以上とすることにより、柑橘風味を得つつ、尖った酸味、後引くえぐみが強くなることを抑制できる。
一方、酢酸ネリルの含有量の上限値は、好ましくは3.0ppm以下であり、より好ましくは2.5ppm以下であり、さらに好ましくは2.0ppm以下である。酢酸ネリルの含有量を上記上限値以下とすることにより、尖った酸味、後引くえぐみを抑制しつつ、爽やかな柑橘感、果実感を向上できる。
【0024】
なかでも、本実施形態のリモニン、ノミリン、酢酸ネリルの含有量の比率を、天然の柑橘類果汁とは異なるバランスとすることにより、良好な柑橘風味を得つつ、酸味および雑味が強くなることを抑制できる。具体的には、以下のような比率とすることが好ましい。
前記酢酸ネリル含有量(ppm)/〔前記リモニン含有量(ppb)+前記ノミリン含有量(ppb)〕が0.000005~1.5であることが好ましく、0.00001~0.5であることがより好ましく、0.0001~0.1であることがさらに好ましい。
【0025】
前記酢酸ネリル含有量(ppm)/前記リモニン含有量(ppb)が0.00001~3であることが好ましく、0.0001~1であることがより好ましく、0.001~0.1であることがさらに好ましい。
前記酢酸ネリル含有量(ppm)/前記ノミリン含有量(ppb)が0.00001~3であることが好ましく、0.0001~1であることがより好ましく、0.001~0.1であることがさらに好ましい。
【0026】
なお、飲料中の香気成分の濃度は、ガスクロマトグラフ質量分析計を用いた固相マイクロ抽出法(SPME)法により行うことができる。具体的には以下のような条件にて、リモニン、ノミリン、酢酸ネリルの濃度を測定することができる。
【0027】
(酢酸ネリルの定量)
酢酸ネリルを含む試料を5.0g秤量し、内部標準液として10ppmのlinalool-d5を200μl添加して、45mlのミリQ水で10倍に希釈し、40℃2時間Twisterへの吸着反応を行い、次の条件でGC-MSを用いて分析を行う(SBSE法)。各試料2点併行で調整を行い、その平均値を分析値として使用する。試料中の成分濃度は、内部標準添加法で求めた検量線の傾きを用いて、各成分のピークと内部標準のピークの面積比から算出する。
【0028】
<GC条件>
装置:昇温気化型注入口(CIS4,Gerstel社製)、加熱脱着ユニット(TDU,Gerstel社製)、GC System(7890B,Agilent Technologies社製)、Mass Selective Detector(5977,Agilent Technologies社製)
TDU:20℃(1min)-(720℃/min)-250℃(3min)
CIS:-50℃(1.5min)-(12℃/sec)-240℃(45min)
スプリット比:30:1
注入口圧:508.28kPa
ベント圧:314.11kPa
LTMカラム(1st:DB-WAX,20m×0.18mm;0.3μm、2nd:DB-5,10m×0.18mm;0.4μm,
AgilentTechnologies社製)
1stカラム温度:40℃(3min)-(5℃/min-180℃(0min)
2ndカラム温度:40℃(31min)-(5℃/min)-180℃(0min)
MSD:Scanmode,m/z29-230,20Hz,EI
定量イオン:linalool-d5(IS)(m/z98)、limonene(m/z136)、γ-terpinene(m/z136)、p-cymene
(m/z134)、α-terpineol(m/z136)
【0029】
(リモニン及びノミリンの定量)
定量に用いる標準試薬には、リモニン(東京化成社製L0258)、ノミリン(Enzo Life Sciences社製 ALX 350 2288 M025)、を用いる。
定量する試料は、0.1%ぎ酸水(ぎ酸:富士フイルム和光純薬社製 06704531)及び0.1%ぎ酸アセトニトリル(アセトニトリル:富士フイルム和光純薬社製 042780)を1:1に混合した希釈液を用いて、5倍~50倍に希釈する。その後、0.2μm耐溶媒PTFEフィルター(ADVANTEC社製 12020001)でろ過し、LC/MS/MSを用いて次の分析条件で行う。
<LC/MS/MS分析条件>
装置:ABsiex社製 API4000
カラム:ACQUITY UPLC BEH C18 1.7μm(waters)+VanGuard Pre Column
移動相A:0.1% ぎ酸水
移動相B:0.1% ぎ酸アセトニトリル
グラジエント条件:
5min(10%B)→10min(40%B)→15min(60%B)→15.01min(90%B)→20min(90%B)→20.01min(90%B)→23min(10%B)
トレイ温度:15℃
注入量:5μL
流量:0.2mL/min
オーブン温度:40℃
MSイオン化条件:以下の表Aの通り
【0030】
【0031】
[その他成分]
本実施形態の飲料は、柑橘風味および本発明の効果が得られる限りにおいて、上記以外の種々の成分を含んでもよい。例えば、果汁、上記以外の香料、甘味料、酸味料、pH調整剤、各種栄養成分、着色料、希釈剤、酸化防止剤、および増粘安定剤等を含んでもよい。
【0032】
(果汁)
本実施形態の飲料は、柑橘果汁を含むことが好ましい。本実施形態の飲料全量に対し、柑橘果汁の含有量(ストレート果汁換算)は、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下であり、8.0質量%以下、5.0質量%以下、4.0質量%以下、3.0質量%以下、2.0質量%以下、1.0質量%以下の順により好ましい。これにより、低果汁であるにもかかわらず良好な柑橘風味を得つつも、後味の雑味および酸味を抑制できる。
また、本実施形態の飲料は、無果汁(果汁の含有量0.0%)であってもよい。また柑橘果汁を含む場合、レモン果汁を含むことが好ましい。
【0033】
さらに、本実施形態の飲料は、柑橘風味を損なわない範囲において、柑橘果汁以外の果汁を含んでもよい。柑橘果汁以外の果汁としては、例えば、トロピカルフルーツ果汁、ブドウ果汁、リンゴ果汁、モモ果汁、およびイチゴ果汁等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0034】
なお、果汁の含有量とは、果実から果汁を搾汁して得られ、濃縮等の処理を行っていない果汁の搾汁(ストレート果汁)のBrix値または酸度を100%としたときの相対濃度である。果汁の含有量をBrix値または酸度のいずれに基づいて算出するかはJAS規格に基づき果汁の種類ごとに定められている。また、果汁の含有量をJAS規格のBrix値に基づいて換算する場合、果汁に加えられた糖類、はちみつ等のBrix値は除いて算出される。
【0035】
果汁とは、果実を破砕して搾汁したり、あるいは裏ごししたりするなどして得られる液体成分をいう。また、果汁には、当該液体成分を濃縮したものや、これらの希釈還元物も含まれてもよく、パルプ分を含むもの、または、ろ過や遠心分離等の処理によりパルプ分を除去したものあってもよい。
また、果汁としては、ストレート果汁、濃縮果汁、濃縮還元果汁などを用いてもよい。
【0036】
本実施形態に係る果汁の調製に用いることのできる果実については、その品種、産地、熟度、大きさなどは特に限定されず、適宜設定することができる。
【0037】
また、果汁として市販のジュースや濃縮ジュース、ペーストなどを用いて、本実施形態の飲料を調製してもよい。具体的には、JAS規格(果実飲料の日本農林規格)で指定されたジュースや濃縮ジュースを挙げることができ、例えばこれらのうち1種または2種以上を本実施形態の飲料調製のために用いることができる。
【0038】
(香料)
香料としては、天然香料および合成香料が挙げられる。具体的には、果実フレーバーを含むことが好ましく、なかでも柑橘フレーバーを含むことがより好ましく、レモンフレーバーを含むことがさらに好ましい。
【0039】
(甘味料)
甘味料としては、公知のものを使用することができ、たとえば、ショ糖(砂糖)、ブドウ糖、グラニュー糖、果糖、乳糖、麦芽糖、果糖ブドウ糖液糖等の糖類、糖アルコール、ならびに、タウマチン、ステビア抽出物、グリチルリチン酸二ナトリウム、アセスルファムカリウム、スクラロース、アスパルテーム、サッカリン、ネオテーム、サッカリンナトリウム、およびステビア等の高甘味度甘味料などが挙げられる。甘味料は1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0040】
(酸味料)
酸味料としては、例えば、クエン酸、アジピン酸、グルコン酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、リンゴ酸、フィチン酸、酢酸、リン酸又はそれらの塩類等が挙げられる。なかでも、果実感を得る観点から、無水クエン酸およびその塩が好ましい。
【0041】
以下、本実施形態の飲料の各種特性について説明する。
【0042】
[甘味度]
本実施形態の飲料は、甘味度が5.0以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましい。一方、甘味度は0であってもよい。
これにより、良好な柑橘風味が得られやすくなる。
【0043】
甘味度は、例えば、上述の甘味料、果汁、その他の各種成分などにより調整することができる。
【0044】
なお、甘味度は、ショ糖と比較した時の各甘味料の甘味の強さを示すパラメータであり、例えば「甘味料の総覧」(精糖工業会1990年5月発行)、「高甘味度甘味料スクラロースのすべて」(株式会社光琳2003年5月発行)、「飲料用語事典」(株式会社ビバリッジジャパン平成11年6月25日発行)等に記載されている値を採用することができる。なお、記載された甘味度の値に幅がある場合には、その中央値を採用する。例えば、代表的な甘味料の甘味度は、ショ糖1、ブドウ糖0.65、果糖1.5、スクラロース600、アセスルファムカリウム200、アスパルテーム200である。
【0045】
[酸度]
本実施形態の飲料は、クエン酸酸度が0.20~0.90g/100mlであることが好ましく、0.30~0.85g/100mlであることがより好ましい。
酸度を、上記数値範囲とすることで、適度な酸味が得られし、柑橘風味を増強しやすくなる。
【0046】
クエン酸酸度は、例えば、上述の酸味料、果汁、その他の各種成分の量などにより調整することができる。
【0047】
クエン酸酸度は、100ml中に含まれる酸量をクエン酸に換算した場合のグラム数(無水クエン酸g/100ml)で表すことができる。酸度もまた、JAS規格の酸度測定法で定められた方法、具体的には0.1mol/L水酸化ナトリウム標準液をアルカリ溶液として使用した中和滴定法(定量式)により測定できる。
【0048】
[pH]
本実施形態の飲料の20℃におけるpHは、2.8~4.6であることが好ましく、3.1~4.2であることが好ましく、3.2~3.8であることがさらに好ましい。
当該pHを上記数値範囲内とすることにより、果実感をより得られやすくなる。
【0049】
なお、pHの測定は、市販のpH測定器を用いるなどして行うことができる。pHの調整は、例えば、特定酸の量を変えることや、クエン酸三ナトリウム等のpH調整剤を用いることなどにより行うことができる。
【0050】
[エキス分]
本実施形態の飲料は、良好な食感と甘味のバランスを得る点から、エキス分が0.5~10質量/体積%であることが好ましく、2~8質量/体積%であることがより好ましい。
エキス分とは、温度十五度の時において原容量百立方センチメートル中に含有する不揮発性成分のグラム数をいう。
なお、アルコール飲料のエキス分は、例えば、日本国の国税庁所定分析法に準拠して比重(日本酒度)及びアルコール度を測定して算出することができる。
【0051】
[炭酸ガス]
本実施形態の飲料は、炭酸ガスを含有してもよい。飲料の炭酸ガス圧は1.5~3.5ガスボリュームであることが好ましく、2.0~3.0ガスボリュームであることがより好ましい。炭酸感により、嗜好性を向上することができる。
炭酸ガスを飲料中に含有させる方法は特に限定されず、当業者が適宜設定できる。
【0052】
[アルコール]
本実施形態においてアルコールとは、特に断りがない限りエチルアルコール(エタノール)のことをいう。
アルコールは、特に制限されず、通常酒類に用いられるものを使用することができるが、例えば、醸造用アルコール;ウオッカ、ラム、テキーラ、ジン、アクアビット、およびコルン等のスピリッツ類;リキュール類、ウイスキー、ブランデー、焼酎等の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0053】
本実施形態においてアルコール濃度が0.4体積/体積%以上であることが好ましく、0.5~10体積/体積%であることがより好ましく、1.0~9体積/体積%であることがさらに好ましい。本実施形態の飲料は、アルコール濃度を上記数値範囲とすることで、良好な柑橘風味を得つつ、酸味および雑味が強くなることをより効果的に抑制できる。
なお、アルコール度数は、例えば、国税庁所定分析法(平19国税庁訓令第6号、平成19年6月22日改訂)に記載の方法によって測定することができる。
【0054】
[容器]
本実施形態の飲料に用いられる容器は、ガラス、紙、プラスチック(ポリエチレンテレフタレート等)、アルミ、およびスチール等の単体もしくはこれらの複合材料又は積層材料からなる密封容器が挙げられる。また、容器の種類は、特に限定されるものではないが、たとえば、ペットボトル、アルミ缶、スチール缶、紙パック、チルドカップ、瓶等が挙げられる。
【0055】
飲料の容量としては、特に限定されないが、100~2000mlが好ましく、飲み切りやすい点からは、100~500mlがより好ましい。
【0056】
[飲用方法]
本実施形態の飲料は、希釈されずにそのまま飲用される飲料であることが好ましい。
【0057】
<飲料の製造方法>
本実施形態のアルコール含有柑橘風味飲料の製造方法は、リモニンおよび/またはノミリンと、酢酸ネリルと、を添加して飲料を調製する工程を含む。これにより、果汁含有量が10質量%以下である飲料の果実感を増強できる。リモニンおよび/またはノミリン、酢酸ネリルはそれぞれ、単体またはこれを含む混合物として添加されてもよく、柑橘果汁に含まれる香気成分の一つとして添加されてもよい。飲料の詳細は、上記飲料と同様である。また、添加方法などは公知の方法を用いることができる。
【0058】
容器詰めされた飲料の加熱滅菌処理の方法は、特に限定されないが、日本国内においては食品衛生法の規定に従って、加熱滅菌処理される。具体的には、高温で短時間殺菌した後、無菌条件下で殺菌処理された保存容器に充填する方法(UHT殺菌法)と、調合液を缶等の保存容器に充填した後、レトルト処理を行うレトルト殺菌法が挙げられる。
【0059】
<飲料の果実感増強方法>
本実施形態のリモニンおよび/またはノミリンを含有するアルコール含有柑橘風味飲料の香味向上方法は、酢酸ネリルを添加して飲料を調製する工程を含む。これにより、リモニンおよび/またはノミリンを含有するアルコール含有柑橘風味飲料の香味を向上できる。すなわち、アルコール飲料において、リモニンおよび/またはノミリンを用いた場合であっても良好な柑橘風味を得つつ、酸味および雑味が強くなることを抑制できる結果、飲料の香味を向上できる。飲料の詳細は、上記飲料と同様である。また、添加方法などは公知の方法を用いることができる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例0061】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0062】
(1)飲料の物性
・酸度:飲料100ml中に含まれる酸量をクエン酸に換算した場合のグラム数(無水クエン酸g/100ml)をJAS規格の酸度測定法で定められた方法に基づき測定し、算出した。
【0063】
(2)官能評価
各飲料について訓練した技術者による官能試験を実施した。具体的には、5名の熟練した技術者がそれぞれ飲料(20℃)を試飲し、試飲した際に感じられる「爽やかな柑橘感」「尖った酸味」「後を引くえぐみ・雑味」「ボディを感じる果実感」についてのそれぞれについて、以下の評価基準に従い「比較例1-0」を1点とした5段階評価を行い、その平均値を算出した。
【0064】
・評価基準
5:強い
4:やや強い
3:どちらともいえない
2:やや弱い
1:弱い
【0065】
(3)実施例および比較例
飲料の原料として、醸造用アルコール、果糖ぶどう糖液糖、クエン酸(無水)、クエン酸三ナトリウム、レモン透明濃縮果汁、リモニン、ノミリン及び酢酸ネリルを準備した。また、いずれの飲料についても、レモンフレーバー(ただし、リモニン、ノミリン及び酢酸ネリルを含まない)を1000ppm用いた。
また、各飲料のエキス分は果糖ぶどう糖液糖を用いて調整し、各飲料の酸度はクエン酸(無水)、レモン透明濃縮果汁を用いて調整した。
なお、表中の酸度「%」はクエン酸酸度(g/100ml)、エキス「%」はエキス分(質量/体積%)、アルコール「%」はアルコール濃度(体積/体積%)をそれぞれ示す。
【0066】
[実験1]リモニンのみ
表1に示す配合(濃度)、および炭酸ガス圧(ガスボリューム)となるように各原料を常法で混合し、飲料を得た。えられた飲料について、上記(1)~(2)の測定及び官能評価を行った。結果を表1に示す。
【0067】
【0068】
[実験2]リモニンと酢酸ネリルとの併用(割合・濃度の変動)
表2~5に示す配合(濃度)、および炭酸ガス圧(ガスボリューム)となるように各原料を常法で混合し、飲料を得た。えられた飲料について、上記(1)~(2)の測定及び官能評価を行った。結果を表2~5に示す。
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
[実験3]リモニンと酢酸ネリルとの併用(アルコール濃度の変動)
表6~7に示す配合(濃度)、および炭酸ガス圧(ガスボリューム)となるように各原料を常法で混合し、飲料を得た。えられた飲料について、上記(1)~(2)の測定及び官能評価を行った。結果を表6~7に示す。
【0074】
【0075】
【0076】
[実験4]リモニンと酢酸ネリルとの併用(果汁濃度の変動)
表8に示す配合(濃度)、および炭酸ガス圧(ガスボリューム)となるように各原料を常法で混合し、飲料を得た。えられた飲料について、上記(1)~(2)の測定及び官能評価を行った。結果を表8に示す。
【0077】
【0078】
[実験5]ノミリンのみ
表9に示す配合(濃度)、および炭酸ガス圧(ガスボリューム)となるように各原料を常法で混合し、飲料を得た。えられた飲料について、上記(1)~(2)の測定及び官能評価を行った。結果を表9に示す。
【0079】
【0080】
[実験6]ノミリンと酢酸ネリルとの併用(割合・濃度の変動)
表10~13に示す配合(濃度)、および炭酸ガス圧(ガスボリューム)となるように各原料を常法で混合し、飲料を得た。えられた飲料について、上記(1)~(2)の測定及び官能評価を行った。結果を表10~13に示す。
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
[実験7]ノミリンと酢酸ネリルとの併用(アルコール濃度の変動)
表14~15に示す配合(濃度)、および炭酸ガス圧(ガスボリューム)となるように各原料を常法で混合し、飲料を得た。えられた飲料について、上記(1)~(2)の測定及び官能評価を行った。結果を表14~15に示す。
【0086】
【0087】
【0088】
[実験8]ノミリンと酢酸ネリルとの併用(果汁濃度の変動)
表16に示す配合(濃度)、および炭酸ガス圧(ガスボリューム)となるように各原料を常法で混合し、飲料を得た。えられた飲料について、上記(1)~(2)の測定及び官能評価を行った。結果を表16に示す。
【0089】
【0090】
[実験9]リモニン、ノミリン、および酢酸ネリルの併用
表17に示す配合(濃度)、および炭酸ガス圧(ガスボリューム)となるように各原料を常法で混合し、飲料を得た。えられた飲料について、上記(1)~(2)の測定及び官能評価を行った。結果を表17に示す。
【0091】