IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

特開2024-92294粉検知方法及びそれを用いた高炉操業方法
<>
  • 特開-粉検知方法及びそれを用いた高炉操業方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092294
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】粉検知方法及びそれを用いた高炉操業方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 5/00 20060101AFI20240701BHJP
【FI】
C21B5/00 310
C21B5/00 302
C21B5/00 312
C21B5/00 317
C21B5/00 320
C21B5/00 322
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208127
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(72)【発明者】
【氏名】折本 隆
【テーマコード(参考)】
4K012
【Fターム(参考)】
4K012BC05
4K012BD02
4K012BD04
4K012BD05
4K012BD06
4K012BE01
4K012BE06
4K012BE09
(57)【要約】
【課題】粉の蓄積量の増加に起因する炉内の通気性の悪化を検知して高炉を安定的に操業する。
【解決手段】高炉操業において、炉内圧力を測定する圧力計により、20分間未満の値で設定される所定の時間内において炉内圧力が100hPa以上増加してその後100hPa以上減少する現象であるパルス状の圧力変動を検出することで、炉内の粉の蓄積量が増加したことを検知する、粉検知方法及びそれを用いた高炉操業方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉操業において、炉内圧力を測定する圧力計により、20分間未満の値で設定される所定の時間内において炉内圧力が100hPa以上増加してその後100hPa以上減少する現象であるパルス状の圧力変動を検出することで、炉内の粉の蓄積量が増加したことを検知する、粉検知方法。
【請求項2】
前記パルス状の圧力変動のうち、炉内圧力が200hPa以上増加してその後200hPa以上減少する現象を検出することで、炉内の粉の蓄積量が増加したことを検知する、請求項1に記載の粉検知方法。
【請求項3】
前記炉内圧力が炉腹部又は朝顔部における炉内圧力である、請求項1または2に記載の粉検知方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の粉検知方法を用いた高炉操業方法であて、前記粉検知方法により炉内の粉の蓄積量が増加したことを検知した際に、
(a)羽口から炉内に吹き込まれる酸素富化空気に含まれる送風湿分を増加すること、
(b)炉頂から装入されるコークスの強度を増加すること、
(c)貯骸率を低減すること、
(d)羽口から炉内に吹き込まれる酸素富化空気の速度を低減すること、及び
(e)羽口から炉内に吹き込まれる微粉炭中の水素含有量を増加すること
のうち少なくとも1つを実施することを含む、高炉操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉炉内において粉を検知する方法及びそれを用いた高炉の操業方法に関する。本発明は、特に高炉の炉腹部又は朝顔部において炭材由来の粉を検知する方法及びそれを用いた高炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉は、酸化鉄の一種である鉄鉱石(主にFe23)と炭材としてのコークスとを高温下で化学反応させ、鉄鉱石を還元することで銑鉄を取り出すための炉である。炉内では、通常、鉄鉱石及びコークスが交互に層となって装入されている。また、高炉炉下部の送風羽口から炉内に熱風(酸素富化空気)及び補完還元材である微粉炭等を炉内に吹き込むことで、この熱風により微粉炭及びコークスを燃焼させ、還元ガス(一酸化炭素、水素等)を発生させる。この発生した還元ガスが炉内を上昇しながら炉内にある鉄鉱石を還元することで銑鉄が生成される。そして、炉底の湯溜まり部に溜まった銑鉄は出銑口から取り出される。
【0003】
還元ガスは、炉内の鉄鉱石及びコークスの充填層の空隙を通過して炉内を上昇する間に、鉄鉱石と反応する。したがって、安定した高炉操業を行うためには、還元ガスが炉内を所望の流量又は速度で上昇することができるように、そして還元ガスが炉内の鉄鉱石と十分に反応することができるように、炉内の通気性を所望のレベルに保つことが好ましい。この炉内の通気性は、炉内圧力を測定することで監視することができる。炉内の通気性が悪くなると吹き抜けが発生するおそれがあり、また、シャフト断面において部分的に還元ガスが流れると(仮に通気性が良いように見えても)、鉄鉱石の還元効率が下がるおそれがある。よって、炉内の通気性を所望のレベルに保つこと、したがって炉内圧力の変動を抑制することは高炉の安定的な操業において重要な事項である。
【0004】
炉内の通気性の指標である炉内圧力は、通常、炉体(炉壁)の高さ方向及び円周方向に設置された複数の圧力計によって常時測定される。したがって、複数の圧力計により測定される炉内圧力の推移を監視し、炉内圧力の変動が検出された場合に、その変動を抑制するために適切な処置(操業アクション)を行うことは、安定的に高炉操業を行う上で重要である。
【0005】
例えば、特許文献1には、高炉の炉腹部に設置した圧力検出端と羽口圧力との差圧を常時計測し、あらかじめ理論的に計算した理論圧力損失と実測圧力損失の比と、送風中の吹込水分量と、羽口の温度条件と送風条件とから、炉芯の水分量が必要水分量となるように吹込水分量を算出し、前記送風中の水分を制御する高炉の制御方法が記載されている。また、特許文献1には、当該高炉の制御方法を実施することで、高炉操業を正常に行うことができると教示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4-28807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に係る高炉の制御方法では、炉内で計測した圧力等に基づいて羽口の送風中の吹込水分量(送風湿分)を制御する方法が記載されている。送風湿分を制御することは、炉内の通気性を改善する手段の1つとして有効であることは一般的に知られているものの、送風湿分が増加すると還元材比(溶銑1トン生産のために使用する還元材の総質量;kg/t)が増加し、生産性に影響を及ぼす場合があることも知られている。
【0008】
一般的に炉内圧力の変動の原因は様々であるため、その炉内圧力の変動の原因によっては、羽口からの送風湿分を制御することが炉内の通気性の改善、したがって炉内圧力の変動を抑制するのに最適な手段であるとは必ずしも言い切れず、送風湿分の増加による還元材比の増加の期間が必要以上に長くなってしまうおそれがあった。したがって、炉内圧力の変動を抑制するのに適切な処置を行うために、炉内圧力の変動の原因を特定する技術が望まれている。
【0009】
例えば、炉内圧力の変動の主な原因としては、還元ガスの温度及び組成の変化、鉄鉱石の還元状況の変化、装入物分布の変化、貯銑滓量の変化、及び粉の蓄積量の変化などが挙げられる。炉内圧力の変動の原因がこれらの原因のうち何に起因するかを特定し、その原因に対して速やかに適切な処置(操業アクション)を行うことで、炉内圧力の変動を抑制するためのコスト及び時間を最小限にしつつ、高炉を安定的に操業することが可能となる。
【0010】
炉内圧力の変動の主な原因の1つとして、炉内での「粉の蓄積量の変化」が挙げられる。炉内に存在する粉は、例えば、装入される鉄鉱石又はコークスに付着しているものが脱落して生じる場合や、鉄鉱石又はコークスが互いに物理的に接触することにより摩耗して生じる場合などがある。このような粉は、高炉操業において、炉内で吹き上がり、鉄鉱石やコークスの充填層の空隙で目詰まりし、炉内の通気性を悪化させて生産性を低下させるなど、安定的な高炉操業を阻害する要因となり得る。
【0011】
そこで本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、粉の蓄積量の増加に起因する炉内の通気性の悪化を検知して高炉を安定的に操業するために、粉の蓄積量が増加したことを検知する粉の蓄積量の検知方法、及びそれを用いた高炉操業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、高炉操業において、常時測定している炉内圧力の推移を分析した結果、炉内圧力の推移において、特殊な圧力変動、具体的には、炉内圧力が短い時間内において比較的大きく増加してその後減少するような圧力変動、すなわち炉内圧力のパルス状の圧力変動が生じることを発見した。また、本発明者は、このパルス状の圧力変動が多く発生する時期を詳細に分析した結果、パルス状の圧力変動は、考え得る様々な炉内圧力の変動の原因のうち、粉の蓄積量の増加、特に炭材由来の粉の蓄積量の増加によって起こるものであることを見出した。換言すると、パルス状の圧力変動を検出することで高炉内の粉の蓄積量が増加したと判断することができることを見出した。
【0013】
本発明は、上記知見を基になされたものであり、その主旨は以下のとおりである。
(1)
高炉操業において、炉内圧力を測定する圧力計により、20分間未満の値で設定される所定の時間内において炉内圧力が100hPa以上増加してその後100hPa以上減少する現象であるパルス状の圧力変動を検出することで、炉内の粉の蓄積量が増加したことを検知する(即ち、炉内の粉の蓄積量が増加したと判断する)、粉検知方法(炉内の粉の蓄積量の検知方法)。
(2)
前記パルス状の圧力変動のうち、炉内圧力が200hPa以上増加してその後200hPa以上減少する現象を検出することで、炉内の粉の蓄積量が増加したことを検知する、(1)に記載の粉検知方法。
(3)
前記炉内圧力が炉腹部又は朝顔部における炉内圧力である、(1)または(2)に記載の粉検知方法。
(4)
(1)~(3)のいずれか1項に記載の粉検知方法を用いた高炉操業方法であて、前記粉検知方法により炉内の粉の蓄積量が増加したことを検知した際に、
(a)羽口から炉内に吹き込まれる酸素富化空気に含まれる送風湿分を増加すること、
(b)炉頂から装入されるコークスの強度を増加すること、
(c)貯骸率を低減すること、
(d)羽口から炉内に吹き込まれる酸素富化空気の速度を低減すること、及び
(e)羽口から炉内に吹き込まれる微粉炭中の水素含有量を増加すること
のうち少なくとも1つを実施することを含む、高炉操業方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、炉内圧力のパルス状の圧力変動を検出することで、炉内の粉の蓄積量が増加したことを検知することが可能である。そのため、当該圧力変動に対して速やかに適切な処置(操業アクション)を行うことができ、その結果、炉内圧力の変動の抑制に要するコスト及び時間を最小限にしつつ、炉内の通気性の悪化を速やかに解消して高炉を安定的に操業することが可能となる。特に、本発明によれば、高炉の炉腹部又は朝顔部に存在する炭材由来の粉の蓄積量の増加に起因する炉内の通気性の悪化を検知して、高炉を安定的に操業することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例で使用した高炉の炉内圧力の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<粉検知方法>
上述したように、本発明者は、炉体(炉壁)に設置された複数の圧力計により測定される炉内圧力の推移について詳細に分析した結果、短い時間内に炉内圧力が比較的大きく(100hPa以上)増加してその後減少するパルス状の圧力変動が起こる場合があることを発見した。また、本発明者は、この炉内圧力のパルス状の圧力変動をより詳細に分析した結果、このような圧力変動が発生する時期が、炉内に装入したコークスや微粉炭等の炭材由来の粉が多いと考えられる時期と重なることを発見した。したがって、本発明者は、炉内圧力(特に炉腹部又は朝顔部における炉内圧力)の推移を監視することによって、従来では炉内圧力の推移から特定することができなかった、粉(特に炭材由来の粉)の蓄積量の増加を検知することに成功した。
【0017】
したがって、本発明は、高炉操業において粉の蓄積量が増加したことを検知するための方法に関し、特に、炭材由来の粉の蓄積量が増加したことを検知するための方法に関する。より具体的には、本発明は、高炉操業において、炉内圧力を測定する圧力計により、20分間未満の値で設定される所定の時間内において炉内圧力が100hPa以上増加してその後100hPa以上減少する現象であるパルス状の圧力変動を検出したときに、炉内の粉の蓄積量が増加したと判断し、炉内の粉の蓄積量が増加したことを検知する、粉検知方法(炉内の粉の蓄積量の検知方法)に関する。したがって、本発明に係る粉検知方法は、短い時間内で炉内圧力が100hPa以上増加してその後100hPa以上減少するような、いわゆるパルス状の圧力変動と、炉内の粉の蓄積量の増加とを関連付けることを特徴とする。よって、本発明によれば、炉内圧力の推移を監視して炉内圧力のパルス状の圧力変動を検出することで、炉内の粉の蓄積量の増加を検知することが可能となる。特に、炉腹部又は朝顔部における炉内圧力の推移を監視して炉内圧力のパルス状の圧力変動を検出することで、炉内の炭材由来の粉の蓄積量の増加を検知することが可能となる。
【0018】
炉内圧力、特に高炉の炉腹部又は朝顔部における炉内圧力が変動するのには、様々な原因が考えられる。当該炉内圧力の変動の原因の主な例としては、本発明の対象である粉の蓄積量の増加の他に、還元ガスの温度及び組成の変化、鉄鉱石の還元状況の変化、装入物分布の変化、貯銑滓量の変化が挙げられる。すなわち、炉内圧力の変動は粉の蓄積量の増加以外の原因にも影響されるため、炉内圧力の変動した原因が必ずしも炉内の粉の蓄積量の増加とは限らない。しかしながら、粉の蓄積量の増加以外の原因で炉内圧力の変動が発生する場合は、以下で詳細に説明するように、粉の蓄積量の増加が原因で炉内圧力が変動した場合とは異なり、比較的長い時間(少なくとも20分間以上)をかけて炉内圧力が増減すると考えられる。よって、20分間未満の値で設定されるような短い時間の間に、炉内圧力が100hPa増加してその後100hPa減少するような圧力変動、すなわち炉内圧力のパルス状の圧力変動は、炉内の粉の蓄積量の増加が原因であると考えられる。
【0019】
(還元ガスの温度の変化)
還元ガスは、羽口から吹き込まれた酸素富化空気でコークスや微粉炭が燃焼することで生成され、炉内に装入された鉄鉱石及びコークスの充填層の空隙を通過することで、鉄鉱石を還元して銑鉄を生成するためのものである。高炉操業においては、一定期間、一定量(所定ノルマル立米、すなわち所定重量)の還元ガスが炉内を流通するように送風条件が設定される。同重量の還元ガスを炉内に流そうとする場合に還元ガスの温度が上昇すると、当該還元ガスの容積が増加するため、炉内の通気性が悪化する。よって、還元ガスの温度上昇に伴い炉内圧力が上昇する。しかし、還元ガスの温度は、瞬間的に増加したり減少したりするものではなく、比較的長い時間、例えば30分間以上~数時間で変動するものである。したがって、還元ガスの温度の変化に伴う炉内圧力の変動は、少なくとも30分以上かけて起こるものである。
【0020】
(還元ガスの組成の変化)
還元ガスの組成は、例えば、羽口から吹き込まれる微粉炭の吹込み量及び/又は組成が変化する場合に変化する。例えば、還元ガス中で比重(分子量)の小さい水素ガス(H2)の濃度が増加すると、還元ガスの密度及び粘度が低下し、還元ガスが鉄鉱石及びコークスの充填層の空隙を通気しやすい状態になる。反対に、還元ガス中の水素ガス濃度が低下すると、還元ガスの密度及び粘度が増加するため、通気性が悪化する。このように、還元ガスにおいて水素ガス濃度のような組成が変化した場合、炉内圧力が変動する。この還元ガスの組成は、通常、高炉操業において状況に応じて変更されるものであるが、この還元ガスの組成の変更は、1日又は数日に一度、長ければ数か月に一度程度で行うものである。したがって、還元ガスの組成の変化に伴う炉内圧力の変動は、少なくとも数時間かけて起こるものである。なお、還元ガスの組成が炉内状況の変化等により自然に変更される場合もあり得るが、組成は瞬間的に変化するものではないため、このような場合も、還元ガスの組成の変化に伴う炉内圧力の変動は、少なくとも数時間かけて起こるものである。
【0021】
(鉄鉱石の還元状況の変化)
炉内には、炉頂と炉芯との間に、鉄鉱石が半溶融状態(水あめ状態)となっている融着帯が存在する。このような融着帯の部分は還元ガスが通りにくく、還元ガスは残存するコークス層の空隙を通過することで炉内を上昇する。還元されていないFeO量が増加するなどにより炉内の鉄鉱石の還元状況が変化すると、上記融着帯の容積が変わり、還元ガスの通気性に影響する。ただし、このような鉄鉱石の還元状況による通気性の変化は、少なくとも半溶融状態の鉄鉱石が融着帯の上面から炉芯部への滴下に至るまで影響し続ける。ここで、融着帯上面の温度が1200℃程度、滴下部温度が1400℃程度であるとして、例えば還元状況の悪い鉄鉱石の層が1層のみであると仮定すると、鉄鉱石が融着帯の上面から炉芯部への滴下に至るまで、少なくとも20分間以上に亘って通気性が悪化すると考えられる。実際には、このような状況が1層のみに影響するとは考えにくく複数の層に影響していると考えられるため、還元状況の変化に伴う炉内圧力の変動は、通常は数時間オーダーを要する。したがって、炉内の鉄鉱石の還元状況の変化に伴う炉内圧力の変動は、通常は数時間以上、最も短くとも20分以上かけて起こるものである。
【0022】
(装入物分布の変化)
高炉操業において、炉内の状況を変更するために、鉄鉱石やコークス等の装入物の装入方法を変更して、装入物分布を調整する場合がある。装入物分布が変わると炉内の通気性が変わり、それによって炉内圧力も変化する。しかし、このような装入物分布の調整は、多くても1日の間に2、3回程度であるため、装入物分布の変化に伴う炉内圧力の変動は、少なくとも数時間以上かけて起こるものである。
【0023】
(貯銑滓量の変化)
通常、羽口から吹き込まれる酸素富化空気の量が一定であれば、作り出される溶銑の量はある程度一定になる。他方で、例えば出銑作業などの影響により出銑量が減少する場合や、出銑口の口径が使用により摩耗等で大きくなることで出銑量が増加する場合があり、高炉操業において出銑量は必ずしも一定であるとは限らない。例えば、出銑量が減少すると、炉床に銑滓が溜まることで、炉芯に浮力が作用し、融着帯又は炉芯と融着帯との間のゾーン(活性コークスゾーン)の空隙率が低下することがある。この空隙率の低下は、炉内の通気性の悪化を引き起こし、それによって炉内圧力が上昇する。このような場合、銑滓排出が良好になれば炉内の通気性の悪化は解消するが、1回の出銑は通常1~3時間程度であり、炉内圧力はその時間内で上昇して減少する。したがって、貯銑滓量の変化に伴う炉内圧力の変動は、30分間以上かけて起こるものである。
【0024】
以上のように、還元ガスの温度及び/又は組成の変化、鉄鉱石の還元状況の変化、装入物分布の変化、貯銑滓量の変化に伴う炉内圧力の変動は、最も短くても20分間以上、通常は数時間かけて起こるものである。
【0025】
これに対して、炉内において粉の蓄積量が増加した場合、20分間未満の値で設定される所定の時間内において炉内圧力が100hPa以上増加した後に100hPa以上減少する現象である炉内圧力のパルス状の圧力変動が発生することがある。なお本明細書において粉とは、直径3mm以下の固体粒子をいう。粉は、鉄鉱石及びコークスの充填層の空隙で目詰まりすることがあり、その結果、充填層の空隙を通過して炉内を上昇する還元ガスの通気性が悪化し、炉内圧力が増加し得る。一方、この鉄鉱石及びコークスの充填層は、高炉操業において炉内で徐々に下降していくが、高炉は、炉高方向で炉径が変化する構造であるため、充填層の下降の際にコークス及び/又は鉄鉱石が動き、鉄鉱石及びコークスの再配列(大部分の鉄鉱石が溶融した融着帯以降はコークスの再配列)が起こる。通常、高炉は、上から炉口部、炉胸部(シャフト部)、炉腹部(ベリー部)、朝顔部(ボッシュ部)、炉床部と呼ばれる部分から構成され、炉胸部は下方に向けて炉径が拡大する円錐台形であり、朝顔部は下方に向けて炉径が縮小する円錐台形である。この再配列の際に、空隙における粉の目詰まりが解消し、通気性が元に戻る場合がある。このような粉の目詰まりの発生及び解消は、20分間未満の間で起こることがある。よって、粉の蓄積量の増加に伴う炉内圧力の変動は、20分間未満で起こることがあり、上述した他の炉内圧力の変動の原因では起き得ない時間スケールで炉内圧力が変動し得る。なお、当該粉の目詰まりの発生及び解消は、場合によっては20分間以上かけて起こることもあり得るが、20分未満の間に炉内圧力が増加してその後減少するパルス状の圧力変動が起きた場合は、粉蓄積量の増加以外の原因ではない。
【0026】
炉内の粉のうち、炉腹部と朝顔部に蓄積する粉は、炉頂から装入されたコークス及び羽口から吹き込まれた微粉炭等の炭材由来の粉であると考えられる。炉腹部及び朝顔部よりも上方に融着帯が存在するため、鉄鉱石に由来する粉は炉腹部及び朝顔部に至るまでに液体になり、炉腹部及び朝顔部では粉として存在しないと考えられるためである。よって、特に高炉の炉腹部又は朝顔部において、20分未満の間に炉内圧力が増加してその後減少するパルス状の圧力変動が起きた場合は、炭材由来の粉の目詰まりの発生及び解消が起こったと考えることができる。
【0027】
[炉内圧力のパルス状の圧力変動の検出]
本発明に係る粉検知方法では、炉内圧力を測定する圧力計により、20分間未満の値で設定される所定の時間内において炉内圧力が100hPa以上増加してその後100hPa以上減少する現象であるパルス状の圧力変動を検出する。
【0028】
(圧力計)
本発明で使用する圧力計の種類は、高炉で使用可能であれば特に限定されず、当業者に公知の圧力計を用いればよい。一般的に、高炉操業においては、高炉の各位置での圧力を測定するために、圧力計は、炉口部、シャフト部、炉腹部及び朝顔部の炉壁において、高さ方向(鉛直方向)及び円周方向(水平方向)に複数台(例えば、30~40台)設置することができる。好ましくは、圧力計は、少なくとも高炉の炉腹部及び朝顔部に設置される。圧力の測定間隔は、パルス状の圧力変動を検出するために、パルス状の圧力変動を検出するための所定の時間の1/5以下の間隔で、好ましくは、1/6以下、1/8以下、1/10以下、または1/20以下の間隔で測定するとよい。例えば、3分毎、好ましくは2分毎、または1分毎に測定するとよい。また、数秒毎に圧力を測定し、例えば3分間又は1分間など圧力の測定間隔での平均値を求めパルス状の圧力変動を検出するようにしてもよい。
【0029】
本発明に係る粉検知方法においては、炉内圧力のパルス状の圧力変動が、炉体(炉壁)に設置された複数の圧力計の少なくとも1つでも検出されれば、炉内の粉の蓄積量が増加したことを検知したと判断することが好ましい。通常の安定的な操業でも、炉内に粉は幾らか存在していると考えられるが、少量の粉によって鉄鉱石やコークスの空隙が目詰まりすることは極めて少なく、少量の粉によってはパルス状の圧力変動は起こりにくいと考えられる。したがって、1日に1回でも1つの圧力計でパルス状の圧力変動が検出された場合は、既に炉内に比較的多くの粉が存在していることを示唆していると考えられるため、速やかに炉内状況を改善することが好ましい。ただし、本発明に係る粉検知方法は上記の方法に限定されず、粉の蓄積量が増加したことを検知するための判定条件を適宜設定することができる。例えば、パルス状の圧力変動が所定数以上の圧力計で検出された場合にのみ粉の蓄積量の増加を検知するようにしてもよく、パルス状の圧力変動が所定時間内に所定回数以上検出された場合にのみ粉の蓄積量の増加を検知するようにしてもよい。
【0030】
(所定の時間)
本発明に係る粉検知方法においては、「所定の時間」は、20分間未満で設定されればよく、好ましくは19分間以下、18分間以下、17分間以下、16分間以下、15分間以下、または14分間以下にすることが好ましい。また、「所定の時間」は、圧力計による測定間隔(圧力の平均値を取る場合は平均を取る時間間隔)よりも十分に長ければよく、例えば2分間以上、3分間以上、4分間以上、5分間以上又は6分間以上で設定されればよい。上述したように、パルス状の圧力変動を検出する「所定の時間」を20分間未満とすることで、本発明の対象である粉の蓄積量の増加による圧力変動と、少なくとも20分間以上を要する粉の蓄積量の増加以外の要因による圧力変動とを明確に区別することが可能となる。
【0031】
(パルス状の圧力変動)
「パルス状の圧力変動」とは、上述した所定の時間内において炉内圧力が100hPa以上増加してその後100hPa以上減少する現象をいう。したがって、例えば、炉内圧力が100hPa以上増加して、増加した圧力付近で20分間以上維持した後に炉内圧力が減少した場合や、炉内圧力が20分間以上かけて100hPa以上増加した後に炉内圧力が減少した場合などは、本発明における「パルス状の圧力変動」には含まない。また、必要に応じて、パルス状の圧力変動の判定の閾値(圧力増加量及び圧力減少量)をより大きく設定してもよく、例えば、当該閾値を「100hPa以上」の代わりに「150hPa以上」又は「200hPa以上」としてもよい。したがって、代替的に、「パルス状の圧力変動」は、所定の時間内において炉内圧力が150hPa以上又は200hPa以上増加してその後150hPa以上又は200hPa以上減少する現象であってもよい。なお、圧力増加量の閾値と圧力減少量の閾値は同じであるのが好ましいが、異なっていてもよい。高炉が安定的に操業している場合は、通常、所定時間内に炉内圧力が100hPa増加して100hPa減少することはほとんど起こらない。したがって、パルス状の圧力変動の判定の閾値を100hPa以上としておけば、粉の蓄積量の増加を検知するには十分であると考えられる。しかし、高炉の定常操業時の圧力変動が比較的大きい場合などは、パルス状の圧力変動の判定の閾値が十分でないと、他の要因による圧力変動を含むノイズが増えるため好ましくなく、そのような場合はパルス状の圧力変動の判定の閾値を高めに設定するとよい。一方、パルス状の圧力変動の判定の閾値を高くし過ぎると、粉の蓄積量の増加の見落としが増えるおそれがあるため、当該閾値は適宜設定すればよい。
【0032】
(炉内圧力)
本発明に係る粉検知方法、したがって炉内圧力の測定は、炉体のいずれの場所でも実施することが可能であるが、上述した通り、鉄鉱石等の炭材以外に由来する粉の蓄積量が極めて少ない又は全くない、融着帯より深い位置、例えば炉腹部又は朝顔部で実施することが好ましい。したがって、本発明においては、炉内圧力は炉腹部又は朝顔部における炉内圧力であると好ましい。炉腹部又は朝顔部では、存在する粉のうち炭材由来の粉の割合が極めて高いため、炭材由来の粉の蓄積量の増加のみを検知することが可能となる。
【0033】
[粉の蓄積量の増加の検知]
本発明に係る粉検知方法においては、炉内圧力のパルス状の圧力変動を検出することで、炉内の粉の蓄積量が増加したことを検知する。より詳細には、本発明に係る粉検知方法では、炉内圧力の推移を監視した結果として炉内圧力のパルス状の圧力変動を検出した場合に、炉内の粉の蓄積量が増加したとみなすことができる。換言すれば、直接的に検知が困難である炉内の粉の蓄積量の増加を、測定が容易な炉内圧力の推移により間接的に検知することができる。特に、炉腹部又は朝顔部における炉内圧力のパルス状の圧力変動を検出することで、炉内の炭材由来の粉の蓄積量が増加したことを検知する場合、粉が炭材由来であることを特定したうえで、直接的に検知が困難である炉内の炭材由来の粉の蓄積量の増加を、測定が容易な炉内圧力の推移により間接的に検知することができる。
【0034】
(粉)
本発明に係る粉検知方法において、「粉」とは直径3mm以下の固体粒子をいう。粉の直径は、公知の方法を用いて算出すればよいが、例えば、光学顕微鏡で観察した画像に基づき円相当直径から算出することができる。粉の直径は、また例えば、篩で分級したときの篩目で表すこともできる。そして、「炭材由来の粉」とは、例えば、炉頂から装入されるコークス、又は羽口から酸素富化空気と共に吹き込まれる微粉炭などから生成される炭素を主成分とする粉をいう。一般的に、炉内には、炭材由来の粉だけでなく、鉄鉱石の粉等も存在しており、例えば、炉口部やシャフト部では、炭材及び鉄鉱石由来の粉が両方存在している。一方、炭材(コークス、微粉炭等)は、他の高炉原料(例えば鉄鉱石)に比べて融点が高いため、鉄鉱石が既に溶融して液状で存在する融着帯より下部の位置においても、炭材由来の粉は固体として存在する。よって、本発明に係る粉検知方法は、炭材由来の粉が大部分を占めるか又は存在する粉全てが炭材由来の粉であるような場所、例えば炉腹部又は朝顔部で実施されるのが好ましい。
【0035】
<高炉操業方法>
上述したように、本発明に係る粉検知方法によれば、炉内圧力のパルス状の圧力変動を検出することで、炉内の粉、特に炭材由来の粉の蓄積量が増加したことを検知することが可能となる。これに関連して、本発明はまた、本発明に係る粉検知方法を用いて炉内の炭材由来の粉の蓄積量が増加したことを検知した際に、炉内の炭材由来の粉の蓄積量を低減するために、所定の処置(操業アクション)を実施することを含む、高炉操業方法に関する。当該高炉操業方法における所定の処置とは、(a)羽口から炉内に吹き込まれる酸素富化空気に含まれる送風湿分を増加すること、(b)炉頂から装入されるコークスの強度を増加すること、(c)貯骸率を低減すること、(d)羽口から炉内に吹き込まれる酸素富化空気の速度を低減すること、及び(e)羽口から炉内に吹き込まれる微粉炭中の水素含有量を増加すること、から選択される少なくとも1つである。したがって、本発明に係る高炉操業方法において、上記項目(a)~(e)の処置は単独で又は組み合わせて実施することができる。
【0036】
炉内の炭材由来の粉の蓄積量が増加したことを検知した際にこれらの項目(a)~(e)のうちの1つ又は複数の処置を行うことで、炉腹部又は朝顔部での炭材由来の粉の蓄積量を低減することができ、炉内の圧力変動を抑制し、安定的な高炉操業が可能となる。上記項目のうちいずれの処置を実施するかは、その時の炉内の状況(例えばパルス状の圧力変動の頻度)や、処置に要するコスト及び時間等を考慮して適宜選択すればよい。したがって、本発明に係る高炉操業方法を実施することで、炭材由来の粉の目詰まりの発生・解消による炉内圧力の変動を効率的にかつ速やかに解消することが可能となり、安定した高炉操業を行うことが可能となる。
【0037】
従来では、炉内圧力が増加する等、炉内圧力の変動が検出された場合、その変動の原因が、粉の蓄積量の増加によるものであるか、あるいは他の原因によるものであるかについて完全に特定できない場合が多くあった。しかし、そのような場合であっても、炉内状況を改善するために炉内圧力の変動を抑制する必要があるため、上記の処置のいずれかを行うことがあった。しかしながら、上述したように、炉内圧力の変動は様々な原因が考えられるため、必ずしも最適な処置を実施できていたわけではないこともあった。さらに、以下で詳細に説明するように、安定的な高炉操業を行う観点上、上記処置を長期間継続するのは好ましくない場合もある。よって、炉内圧力の変動の原因を特定せずに何らかの処置を行うことは、炉内圧力の変動を抑制するためのコスト・時間を必要以上に要し、さらには安定的な高炉操業を阻害する場合もあると考えられる。
【0038】
これに対して、本発明では、炉内圧力の推移から炉内の炭材由来の粉の蓄積量の増加を検知することができるため、炭材由来の粉の蓄積量の増加という特定の圧力変動の原因に対して速やかに適切な処置を行うことでき、炉内圧力の変動を抑制するためのコスト及び時間を最小限にし、安定的な高炉操業を行うことが可能となる。
【0039】
(送風湿分の増加)
炉内の炭材由来の粉の蓄積量を低減するための有効な手段の1つとして、羽口から炉内に吹き込まれる酸素富化空気に含まれる送風湿分を増加することが挙げられる。「送風湿分」とは、羽口から吹き込まれる酸素富化空気(熱風)1Nm3(ノルマル立米)あたりに含まれる水の質量(全湿分)を意味する。送風湿分は、例えば、酸素富化空気に水蒸気を添加することにより増加させることができる。送風湿分を増加させることで炭材由来の粉の蓄積量を低減することができる理由は、酸素(O2)と水(H2O)の炭素に対する反応速度の差に起因する。炭材由来の粉は、通常、還元ガスの流速が遅くなる炉芯表層部より深い位置(炉芯部)に多く蓄積する。O2はH2Oに比べて炭素に対する反応速度が速いため、O2の多くは羽口出口付近のレースウェイで炭素と反応して消費される。一方、H2Oはレースウェイを通過し、炭材由来の粉が多く蓄積した部分(粉蓄積部分)まで未反応のままであることが可能であるため、当該粉蓄積部分まで到達することができる。なお、粉蓄積部分には炭材として塊コークスも存在しているが、H2Oは比表面積の高い粉と優先的に反応することができる。したがって、送風湿分を増加することで、粉蓄積部分においてH2Oを炭材由来の粉と反応させることができ、炉内の炭材由来の粉の蓄積量を低減させ、粉の蓄積量の増加に伴う炉内圧力の変動を低減することが可能となる。なお、送風湿分を増加させると還元材比が増加するおそれがあるため、送風湿分の増加期間はできるだけ短く行うことが好ましい。本発明に係る高炉操業方法では、炭材由来の粉の蓄積量の増加に伴う炉内圧力の変動に対して送風湿分の増加という処置を行うため、必要以上の時間及びコストを要することとなく、効率的に炉内圧力の変動を抑制可能である。
【0040】
(コークス強度の向上)
炉内に装入するコークスの強度を上げることによって、炉内の炭材由来の粉の蓄積量を低減することができる。炭材由来の粉は、コークスの表面が高温下でCO2と反応して劣化して、その部分にせん断応力を受けることで生成され得る。したがって、コークスの強度が上がると、高炉への装入時又は炉内での降下時などに発生するコークス由来の粉の生成が抑制され、結果として、炉内の炭材由来の粉の蓄積量の増加に伴う炉内圧力の変動を抑制することが可能となる。強度の高いコークスは、例えば、コークス製造時の石炭銘柄や配合を変更することで得ることができる。コークスの強度は、例えば、CSR(反応後強度指数)及びDI(冷間強度指数)により管理することができる。CSRは、CRI(反応性指数)試験後の、I型ドラム600回転(20rpm)後の+9.5mmの重量比率である(CRIはコークス(粒径20±1mm、200g)を1100℃、CO2;5Nl/minで2hr反応後の重量減少率である)。DIは、粒度分布に応じた塊コークス(粒径+25mm)10±0.2kgのドラム150回転後(15rpm)の+15mmの重量比率である。なお、コークス強度の向上は幾らかコスト及び時間がかかるものではあるが、本発明に係る高炉操業方法では、炭材由来の粉の蓄積量の増加に伴う炉内圧力の変動に対してコークス強度の向上という処置を行うため、必要以上の時間及びコストを要することなく、効率的に炉内圧力の変動を抑制可能である。
【0041】
(貯骸率の低減)
炉内で使用されるコークスには、長期間外気に曝されたようなコークス(ヤードコークス)を用いる場合がある。このようなヤードコークスは水分を多く含み、粉が付着していることがあり、ヤードコークスの使用は炉内の粉の蓄積量を増加させる要因になり得る。したがって、以下の式で示される貯骸率を低減することで、装入するコークスに起因する炭材由来の粉の量を減少させることができ、その結果、炉内の炭材由来の粉の蓄積量を低減させ、粉の蓄積量の増加に伴う炉内圧力の変動を抑制することが可能となる。
貯骸率(%)=[(ヤードコークス原単位)/(コークス比)]×100
ここで、「ヤードコークス原単位」及び「コークス比」は、溶銑1トンの生産のために炉頂から装入されるヤードコークスの質量及びコークス全体の質量をそれぞれ意味する。なお、ヤードコークスは自製のコークスよりも高価な場合があるところ、貯骸率を低減することにより、必要以上のコストを要することなく、効率的に炉内圧力の変動を抑制可能である。なお、ヤードコークスは自製のコークスが不足している場合にやむを得ず購入・使用される場合があるところ、このような場合は、貯骸率の低減は短期間とすることが好ましい。
【0042】
(酸素富化空気の速度減少)
羽口から吹き込まれる酸素富化空気によりコークスはレースウェイ付近で旋回している。したがって、羽口から吹き込まれる酸素富化空気の速度が高くなると、当該空気の衝風エネルギーから受ける衝撃によりレースウェイで旋回しているコークスの表面からの粉の発生が増加する。よって、羽口から吹き込まれる酸素富化空気の速度を減少させることで、コークスからの粉の発生を低減でき、炭材由来の粉の蓄積量の増加に伴う炉内圧力の変動を抑制することが可能となる。酸素富化空気の速度とは、羽口先端での送風速度(風速、線流速)であり、酸素富化空気の吹込み量(m3/s)を羽口断面積(m2)で除することにより算出される。例えば、(羽口断面積を増加させずに)吹込み量を減少させて酸素富化空気の速度を減少させると生産性が幾らか低下するおそれがあるが、本発明に係る高炉操業方法では、炭材由来の粉の蓄積量の増加に伴う炉内圧力の変動に対して酸素富化空気の速度減少という処置を行うため、必要以上の時間及びコストを要することなく、効率的に炉内圧力の変動を抑制可能である。
【0043】
(微粉炭中の水素含有量の増加)
羽口から炉内に吹き込まれる微粉炭中の水素含有量を増加することで、炉内の炭材由来の粉の量を低減することができる。微粉炭中に含まれる水素は、羽口先でH2Oに変化する。上述したように、O2に対して炭素に対する反応速度が遅いH2Oが、還元ガスの流速が遅くなる炉芯表層部より深い位置の粉蓄積部分に運ばれ、H2Oを炭材由来の粉と反応させることができ、その結果、炉内の炭材由来の粉を低減させ、粉の蓄積量の増加に伴う炉内圧力の変動を抑制することが可能となる。微粉炭中の水素含有量は、微粉炭の銘柄や配合を変更することで調整することができる。なお、微粉炭中の水素含有量が増加すると微粉炭の置換率が低下し、還元材比が幾らか増加するおそれがあるが、本発明に係る高炉操業方法では、炭材由来の粉の蓄積量の増加に伴う炉内圧力の変動に対して微粉炭中の水素含有量の増加という処置を行うため、必要以上の時間及びコストを要することなく、効率的に炉内圧力の変動を抑制可能である。
【0044】
以上のように、本発明に係る粉検知方法を用いて炉内の炭材由来の粉の蓄積量が増加したことを検知した際に、(a)羽口から炉内に吹き込まれる酸素富化空気に含まれる送風湿分を増加すること、(b)炉頂から装入されるコークスの強度を増加すること、(c)貯骸率を低減すること、(d)羽口から炉内に吹き込まれる酸素富化空気の速度を低減すること、及び(e)羽口から炉内に吹き込まれる微粉炭中の水素含有量を増加すること、のうち少なくとも1つを実施することで、炉内の炭材由来の粉の蓄積量を低減することができ、炉内の通気性の悪化を速やかにかつ効率的に改善し、安定的な高炉操業を実施することが可能となる。
【0045】
本発明に係る粉検知方法及び高炉操業方法は、任意の高炉で行うことが可能である。高炉の規模や操業条件により、圧力計により測定される炉内圧力の絶対値は変わり得るが、粉の蓄積量の増加によりパルス状の圧力変動が発生するのは共通である。したがって、本発明に係る粉検知方法及び高炉操業方法は、任意の容積及び形状の高炉に適用可能であり、その効果もいかなる容積及び形状の高炉において発揮される。
【実施例0046】
本発明に係る粉検知方法及び高炉操業方法について、以下で例を挙げてより詳細に説明する。しかしながら、以下で説明される特定の例によって特許請求の範囲に記載された本発明の範囲が制限されることは意図されない。
【0047】
以下のような操業条件において高炉操業を行っていた。
出銑比=2.0t/日/m3(炉容積1m3における1日あたりの出銑量)
コークス比=340kg/t(溶銑1トンを生産するのに装入するコークスの質量)
微粉炭比=155kg/t(溶銑1トンを生産するのに羽口から吹き込む微粉炭の質量)
微粉炭中の水素含有量=4.1%
還元材比=495kg/t(溶銑1トンを生産するのに使用する還元材の質量)
送風湿分=25g/Nm3
コークスのCSR(反応後強度指数)=61.0
コークスのDI(冷間強度指数)=85.2
貯骸率=40%
酸素富化空気の速度=260m/s
なお、本例では還元材としてコークス及び微粉炭のみを用いたため、還元材比はコークス比と微粉炭比の和である。
【0048】
図1は、炉腹部に設置された2つの圧力計(高さ方向の位置は同一、円周方向の位置は180°異なる)により、炉内圧力の圧力変動を1分毎にプロットしたグラフである。炉内のパルス状の圧力変動として、19分間の間に、炉内圧力が100hPa以上増加した後に100hPa以上減少した場合をカウントし、該当する箇所に点線の丸印を付した。
【0049】
このようなパルス状の圧力変動を検出したことにより、炉腹部において炭材由来の粉の蓄積量が増加したと判断し、送風湿分を25g/Nm3から30g/Nm3に増加させた。図1は3日間の圧力変動を表示しており、図中の横軸の時刻t=0は、送風湿分を増加させた時点を示している。送風湿分を増加した後の炉内圧力の測定期間についてのパルス状の圧力変動の回数推移を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1及び図1から、送風湿分の増加によりパルス状の圧力変動の回数が徐々に減り、炉内圧力が安定したことを理解することができる。これは、本発明に係る粉検知方法に従って、パルス状の圧力変動を検出することで、炉内の粉(本例においては炭材由来の粉)の蓄積量が増加したことを検知できたことを示している。さらに、炭材由来の粉の蓄積量を低減するための処置として、羽口から炉内に吹き込まれる酸素富化空気に含まれる送風湿分を増加させたことにより、炉内圧力を速やかに安定化できたためであると考えられる。したがって、送風湿分の増加に伴う還元材比の増加を最小限に抑制でき、炉内圧力の変動抑制に要するコスト・時間を低減し、高炉操業を安定化することができた。
【0052】
同様に、炉内圧力の推移においてパルス状の圧力変動が検出された際に、コークス強度CSRを61%から65%に増加した場合、貯骸率を40%から15%に低減した場合、酸素富化空気の速度を260m/sから240m/sに低減させた場合、又は微粉炭中の水素含有量を4.1%から4.6%に増加した場合も、パルス状の圧力変動の回数が徐々に低減し、炉内圧力を安定化させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、炉内圧力のパルス状の圧力変動を検出することで、炉内の粉(特に、炭材由来の粉)の蓄積量が増加したことを検知することができるため、当該圧力変動に対して適切な処置(操業アクション)を行うことができ、その結果、炉内の通気性が適切に保たれ、高炉を安定的に操業することが可能となる。したがって、本発明は産業上の価値が極めて高い発明といえるものである。
図1