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特開2024-92299水素の製造方法、及び、重水素低減水の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092299
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】水素の製造方法、及び、重水素低減水の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/04 20210101AFI20240701BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240701BHJP
   C25B 1/01 20210101ALI20240701BHJP
   C25B 9/01 20210101ALI20240701BHJP
   B01D 59/40 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B1/01 Z
C25B9/00 Z
C25B9/01
B01D59/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208132
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】592243553
【氏名又は名称】株式会社タカギ
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100153969
【弁理士】
【氏名又は名称】松澤 寿昭
(74)【代理人】
【識別番号】100182914
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 善紀
(72)【発明者】
【氏名】江口 晃哉
(72)【発明者】
【氏名】小野 勇次
【テーマコード(参考)】
4K021
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021AA09
4K021BA02
4K021BC01
4K021BC04
4K021CA01
4K021CA11
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC11
(57)【要約】
【課題】比較的小型の装置によって、同位体元素の割合が低減された水素を製造可能な方法を提供すること。
【解決手段】本開示の一側面は、陰極が配置された陰極室と陽極が配置された陽極室とがカチオン交換膜によって隔てられた電気分解槽の前記陰極室側のみに水を供給し、水の電気分解によって水素を発生させることを含む、同位体元素の割合が低減された水素の製造方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極が配置された陰極室と陽極が配置された陽極室とがカチオン交換膜によって隔てられた電気分解槽の前記陰極室側のみに水を供給し、水の電気分解によって水素を発生させることを含む、同位体元素の割合が低減された水素の製造方法。
【請求項2】
前記カチオン交換膜の主面の延びる方向と鉛直方向とがなす角の平均角度が45°超90°以下であり、前記陰極室が前記カチオン交換膜に対して鉛直方向の上方に位置するように配置される、請求項1に記載の水素の製造方法。
【請求項3】
陰極が配置された陰極室と陽極が配置された陽極室とがカチオン交換膜によって隔てられた電気分解槽の前記陰極室側のみに水を供給し、水の電気分解を行うことによって水素を発生させることと、
前記水素と、酸素とを反応させることによって結合水を含むガスを得ることと、
前記ガス中の前記結合水の少なくとも一部を凝集させ重水素低減水を得ることと、
を含む、重水素低減水の製造方法。
【請求項4】
前記カチオン交換膜の主面の延びる方向と鉛直方向とがなす角の平均角度が45°超90°以下であり、前記陰極室が前記カチオン交換膜に対して鉛直方向の上方に位置するように配置される、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記酸素は、前記電気分解によって生成した酸素である、請求項3又は4に記載の重水素低減水の製造方法。
【請求項6】
前記水素と、酸素との応が、燃料電池によって行われる、請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ガス中の前記結合水の少なくとも一部を凝集させた後のガスを、前記燃料電池の正極室に供給する、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記燃料電池の前記正極室に供給されるガスの圧力が1kg/cmG以下である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
酸素と、同位体元素の割合が低減された水素との反応によって結合水を含むガスを生成する燃料電池と、
前記燃料電池の陰極から発生するガス中の前記結合水の少なくとも一部を凝集させ重水素低減水を得る回収部と、
前記ガス中の前記結合水の少なくとも一部を凝集させた後のガスを、前記酸素と共に前記燃料電池の正極室に供給する供給路と、を備える、重水素低減水の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水素の製造方法、及び、重水素低減水の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水や天然水には、半重水及び重水等が含まれる場合があり、また原子炉冷却水等に使用された水にはトリチウム水等が含まれる場合がある。これらの半重水、重水及びトリチウム水は、軽水と比べて、例えば、物質の溶解度、電気伝導度及び電離度等の物性、反応速度などが異なる。そのため、半重水、重水及びトリチウム水を含む水を生物が多量に摂取すると、生体反応に悪影響を及ぼし得る。そこで、このような事態を回避するために、半重水、重水及びトリチウム水の含有量が低減された水を調製する方法が種々検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、水の電解によって水素同位体を分離する方法において、電解槽の陽極から発生した酸素ガスを、再結合器を通してその中に含まれている水素及び水素同位体を水に変換し、再結合に先立って、または再結合の後に、酸素ガスをコンプレッサーにより加圧し、生成した水の大部分を冷却凝縮により分離したのち、なお残存する水分を吸着塔に通して吸着させることにより除去し、次いで乾燥された酸素ガスを上記吸着圧力よりは低い圧力下に吸着塔に通して脱着させることにより回収し、脱着した水分を含む酸素ガスを上記コンプレッサーの吸入側に循環させることを特徴とする電解による水素同位体分離方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、イオン交換膜を用いた水素酸素燃料電池又は触媒を担持した粒子が充填された反応塔に、二重水素あるいは/および三重水素の含有率の少ない水素と酸素とを供給し、重水含有率の少ない軽水を合成することを特徴とする軽水の製造方法が開示されている。ここで、二重水素あるいは/および三重水素の含有率の少ない水素は、イオン交換膜を用いた水電解反応により調製される例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平03-030819号公報
【特許文献2】特開平11―011903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、比較的小型の装置によって、同位体元素の割合が低減された水素を製造可能な方法を提供することを目的とする。本開示はまた、比較的小型の装置によって、重水素低減水の製造が可能な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下の[1]~[9]を提供する。
【0008】
[1]
陰極が配置された陰極室と陽極が配置された陽極室とがカチオン交換膜によって隔てられた電気分解槽の前記陰極室側のみに水を供給し、水の電気分解によって水素を発生させることを含む、同位体元素の割合が低減された水素の製造方法。
[2]
前記カチオン交換膜の主面の延びる方向と鉛直方向とがなす角の平均角度が45°超90°以下であり、前記陰極室が前記カチオン交換膜に対して鉛直方向の上方に位置するように配置される、[1]に記載の水素の製造方法。
[3]
陰極が配置された陰極室と陽極が配置された陽極室とがカチオン交換膜によって隔てられた電気分解槽の前記陰極室側のみに水を供給し、水の電気分解を行うことによって水素を発生させることと、
前記水素と、酸素とを反応させることによって結合水を含むガスを得ることと、
前記ガス中の前記結合水の少なくとも一部を凝集させ重水素低減水を得ることと、
を含む、重水素低減水の製造方法。
[4]
前記カチオン交換膜の主面の延びる方向と鉛直方向とがなす角の平均角度が45°超90°以下であり、前記陰極室が前記カチオン交換膜に対して鉛直方向の上方に位置するように配置される、[3]に記載の製造方法。
[5]
前記酸素は、前記電気分解によって生成した酸素である、[3]又は[4]に記載の重水素低減水の製造方法。
[6]
前記水素と、酸素との反応が、燃料電池によって行われる、[3]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]
前記ガス中の前記結合水の少なくとも一部を凝集させた後のガスを、前記燃料電池の正極室に供給する、[6]に記載の製造方法。
[8]
前記燃料電池の前記正極室に供給されるガスの圧力が1kg/cmG以下である、[7]に記載の製造方法。
[9]
酸素と、同位体元素の割合が低減された水素との反応によって結合水を含むガスを生成する燃料電池と、
前記燃料電池の陰極から発生するガス中の前記結合水の少なくとも一部を凝集させ重水素低減水を得る回収部と、
前記ガス中の前記結合水の少なくとも一部を凝集させた後のガス、前記酸素と共に前記燃料電池の正極室に供給する供給路と、を備える、重水素低減水の製造装置。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、比較的小型の装置によって、同位体元素の割合が低減された水素を製造可能な方法を提供できる。本開示によればまた、比較的小型の装置によって、重水素低減水の製造が可能な製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、電気分解槽の一例を示す模式断面図である。
図2図2は、重水素低減水の製造方法の一例を示す模式図である。
図3図3は、燃料電池の一例を示す模式断面図である。
図4図4は、燃料電池システムの一例を示す模式図である。
図5図5は、燃料電池の単セルの構成例を示す斜視図である。
図6図6は、燃料電池の積層モジュールを備える結合水生成器の一例を示す模式断面図である。
図7図7は、図6に示した結合水生成器の側面を示す模式図である。
図8図8は、電気分解槽の設置方向と平均電解電流密度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、場合によって図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合によって重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、各要素の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0012】
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0013】
水素の同位体元素は、ジュウテリウム(D)及びトリチウム(T)である。本明細書における「同位体元素の割合が低減された水素」とは、対象となる水素ガス全体におけるD又はTの少なくとも一方を含む化合物(D、HD、HT等)の割合が低減され、Hの割合が高くなった水素ガスのことをいう。本明細書における「同位体元素の割合が低減された水素」とは、水素ガス中に含まれる重水素の割合が、自然界における重水素の割合よりも低くなったものを意味する。「同位体元素の割合が低減された水素」におけるHの存在比は、例えば、99.980モル%以上、又は99.986モル%以上であってよい。また、本明細書における重水素低減水とは、「水分子を構成する水素原子の少なくとも一方が水素の同位体元素で置換された分子」(以下、場合によって、特定分子ともいう)の割合が、原料水よりも低減された水を意味する。特定分子とは、水分子中の水素がジュウテリウム(D)及びトリチウム(T)の少なくとも一方の元素で置換された分子であり、半重水(DHO)、重水(DO)、及びトリチウム水(THO、TO)からなる群より選択される少なくとも一種のことを意味する。
【0014】
本開示に係る重水素低減水の製造方法は、陰極が配置された陰極室と陽極が配置された陽極室とがカチオン交換膜によって隔てられた電気分解槽の上記陰極室側のみに水を供給し、水の電気分解を行うことによって水素を発生させることと、上記水素と、酸素とを反応させることによって結合水を含むガスを得ることと、上記ガス中の前記結合水の少なくとも一部を凝集させ重水素低減水を得ることと、を含む。
【0015】
上記製造方法では、軽水(HO)と、重水(DO)又は半重水(DHO)(以下、「重水等」ともいう)とで電気分解のされやすさが異なり、軽水が優先的に分解されることを利用する。電気分解のされやすさが異なることで、陽極で生じるカチオンは、D等ではなく、主としてHとなる。当該Hは周囲の水分子(随伴水)を伴い、例えば、オキソニウムイオンの形でカチオン交換膜を移動し、陰極側で還元され水素ガスとなる。この際、オキソニウムイオンを構成する軽水素(H)及びその同位体(D又はT)のうち、より還元されやすい軽水素イオン(H)が優先的に水素ガスとなることで、水素ガスは大半がH(軽水素ガス)となる。陰極側には原料水が供給されていることから、電気分解によって発生する水素ガスは、原料水の蒸気を含む。その後、原料水の蒸気と共に運ばれる水素が、酸素と反応して得られる結合水は軽水(HO)であることから、これによって原料水の蒸気における軽水の割合が上昇することになり、結果として得られるガス中の蒸気における同位体元素の割合は、原料水の蒸気よりも十分に低減され得る。このようにして、上記結合水を含むガスの凝集によって、重水素低減水を製造し得る。
【0016】
なお、電気分解は電極のカチオン交換膜側で優先的に生じると考えられる。そして、陽極とカチオン交換膜との界面付近では、軽水の分解に伴い、重水等の濃度が高まり、陽極で生じたカチオンは重水等を随伴水として陰極側に移動する割合も高まるものと推定される。例えば、陽極のみに原料水を供給するような場合には、陰極室から排出されるガスはHと共に、随伴水として移動した重水等の水蒸気が混入される。また、電気分解の進行に伴い、陽極とカチオン交換膜との界面における重水等の濃度がより高まっていくと考えられるため、重水等の電気分解も混在していくことと推定される。したがって、陽極給水の場合には、陰極室から排出される水素中の同位体元素の割合も高まり、共に排出される水蒸気中の重水素濃度も高まる傾向にある。このため、陽極のみに原料水を供給するような装置構成の場合には、陰極室から排出される水素ガスを結合水生成の原料として用いたとしても、得られる結合水中の重水素濃度を低減するには限界があると推定される。
【0017】
一方で、陰極のみに原料水を供給した場合には、随伴水として重水等が用いられたとしても、陰極室に供給されている原料水によって希釈され、原料水中でより揮発しやすい軽水が蒸気となることから、水素ガスと伴って排出される水蒸気における重水等の割合は、原料水における割合に略一致すると考えられる。このため、陰極のみに原料水を供給するような装置構成の場合には、陰極室から排出される水素ガスを結合水生成の原料として用いることで、上述のように得られる結合水中の重水素濃度を低減することができるものと推定される。
【0018】
図1は、電気分解槽の一例を示す模式断面図である。電気分解槽10は、カチオン交換膜11、カチオン交換膜11上に設けられた陰極12、及び、カチオン交換膜11の陰極12とは反対側に設けられた陽極16とを有する。陰極12と陽極16とは、電源を含む外部回路によって電気的に接続されている。カチオン交換膜11と、カチオン交換膜11の一方の主面上に形成された陰極12と、カチオン交換膜11の他方の主面上に形成され、陰極12と電気的に接続された陽極16と、は膜電極接合体を構成しているともいえる。陰極12は陰極室14内に収容され、陰極室14は原料水を注入する注入口14aと、陰極12において発生する水素ガスを原料水と共に排出する排出口14bとを有する。陽極16は陽極室18内に収容され、陽極16において発生する酸素及びカチオン交換膜11を浸透した水を排出する排出口18bを有する。陰極室14と陽極室18とはカチオン交換膜11で隔てられている。これによって、陰極12で発生する水素ガスと、陽極16で発生する酸素ガスとを別々に回収可能となっている。図1では、陰極12及び陽極16が、カチオン交換膜11の主面上に層状に設けられた例で示したが、その形状は必要に応じて調整することができる。原料水は、外部の貯蔵タンク(不図示)から供給されてもよい。また、陰極室14から水素ガスと共に排出された原料水は上記貯蔵タンクに再度投入し、貯蔵タンクにおいて気液分離して水素ガスを外部に取り出してもよい。電気分解槽の使用時には、陰極室14の内部は原料水によって満たされるようにしてよく、上記貯蔵タンクを介して原料水が循環するように流路を設けてよい。
【0019】
上記電気分解槽における操作は、同位体元素の割合が低減された水素の製造方法ということもできる。本開示に係る水素の製造方法は、陰極が配置された陰極室と陽極が配置された陽極室とがカチオン交換膜によって隔てられた電気分解槽の上記陰極室側のみに水を供給し、水の電気分解によって水素を発生させることを含む、同位体元素の割合が低減された水素の製造方法である。なお、製造される水素ガス中における同位体元素の割合が低いことは、例えば、後述する結合水生成器(例えば、燃料電池等)を用いて、生成する水(例えば、重水素低減水等)を回収し、回収された水中の重水及び半重水等の合計含有量を測定することによって、確認することができる。上述の同位体元素の割合が低減された水素の製造方法によって得られる水素を原料として用いた場合、得られる重水素低減水における重水素濃度は73ppm以下とすることができ、例えば、72ppm以下、71ppm以下、70ppm以下であってよい。上記重水素低減水における重水素濃度の下限値は特に限定されるものではないが、例えば、5ppm以上、10ppm以上、又は15ppm以上であってよい。上記重水素濃度の下限値が上記範囲内であることで、安定した重水素濃度低減水の製造が可能である。
【0020】
カチオン交換膜11は、それ自体の保水力によって水を保持することができ、陰極12側から供給される原料水を保持し、カチオン交換膜11の陽極16側の主面に水分子を供給し得る。一方で、過剰の水が透過することは抑制されたものとなっており、陽極室18に原料水が供給されることは抑制されている。カチオン交換膜11はまた、陽極16との接触界面における水分子の電気分解によって生じたプロトンを陰極12側に伝搬させ得る。この際、プロトンはカチオン交換膜11に保持された水分子を媒介して移動する。本発明者らは、いわゆるビークル機構に基づくプロトンの移動が生じると推定している。
【0021】
カチオン交換膜11は、プロトン伝導性を有する膜を使用することができ、高分子膜であってよい。このような高分子膜としては、例えば、フッ素系カチオン交換膜などが挙げられる。フッ素系カチオン交換膜は、スルホン酸基を有すること(すなわち、スルホン酸基を有するフッ素樹脂系カチオン交換膜であること)が好ましい。フッ素系カチオン交換膜としては、例えば、旭化成ケミカルズ株式会社製の「アシプレックス-F(AciplexF)」(商品名)、及び旭硝子株式会社製の「フレミオン」(商品名)等が挙げられる。スルホン酸基を有するフッ素樹脂系カチオン交換膜としては、例えば、デュポン社製の「NAFION(登録商標)」で構成されるナフィオン膜(商品名:N-112、N-115、及びN-117等)等が挙げられる。
【0022】
カチオン交換膜11は、プロトン伝導性を高める観点からあらかじめ加湿され、その状態が維持されていることが望ましい。本開示に係る重水素低減水の製造方法においては、電気分解槽10の陰極室14に対して原料水を供給することでカチオン交換膜11を湿潤させることができる。原料水の電気分解を開始する前に、陰極室14に原料水を注入した後、所定時間保持してもよい。カチオン交換膜11に乾燥が見られる場合にも、同様に陰極室14に原料水を注入した後、所定時間保持してもよい。
【0023】
陽極16は、例えば、酸素生成に対する電気的触媒活性を有する貴金属系触媒(例えば、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)等)、非貴金属系触媒(例えば、タンタル(Ta)、マンガン(Mg)、及びチタン(Ti)のいずれかの元素の酸化物等)、及び発生する酸素ガスの脱離を容易とする金属多孔質体(例えば、表面にPtをめっきしたチタン金属繊維の焼結体等)で構成されてよい。陽極16は、カチオン交換膜11の主面と接する触媒層と、上記触媒層のカチオン交換膜11側とは反対側に設けられる多孔質状の拡散層とを有してもよい。陽極16では、下記式(1)で表される、カチオン交換膜11を浸透して陽極16表面に到達した原料水の酸化反応(陽極反応)が生じる。下記式(1)では、軽水の分解として表記したが、重水等が分解される場合も生じ得る。
2HO→O+4H+4e … 式(1)
【0024】
陰極12は、例えば、水素生成に対する電気的触媒活性を有する貴金属系触媒(例えば、Pt、Ru、Ir等)、非貴金属系触媒(例えば、Ta、鉄(Fe)、及びTiのいずれかの元素の酸化物等)、導電性材料(例えば、カーボンブラック、活性炭等)に上述の貴金属系触媒又は非貴金属系触媒を担持させたもの、及び発生する水素ガスの脱離を容易とする多孔質体(例えば、カーボンペーパー、Ptをめっきしたチタン金属繊維の焼結体等)で構成されてよい。陰極12は原料水を浸透させカチオン交換膜11への原料水の伝達を容易にし、陰極12表面で発生する水素ガスの脱離をより容易なものとする観点から多孔質状であってよい。陰極12は、カチオン交換膜11の主面と接する触媒層と、上記触媒層のカチオン交換膜11側とは反対側に設けられる多孔質状の拡散層とを有してもよい。陰極12では、下記式(2)で表される、カチオン交換膜11を移動し、陰極12表面に到達したプロトンの還元反応(陰極反応)が生じる。
4H+4e→2H … 式(2)
【0025】
陰極12の厚さの上限値は、30μm以下、25μm以下、又は20μm以下であってよい。陰極12の厚さの上限値が上記範囲内であることで、陰極を介しての原料水の伝達等がより容易なものとなり、電気分解槽における水の分解効率をより高めることができる。陰極12の厚さの下限値は、5μm以上、6μm以上、又は7μm以上であってよい。陰極12の厚さの下限値が上記範囲内であることで、陰極12の厚さにばらつきが生じることをより抑制することができ、陰極内部の触媒がより一層均一となり得る。陰極内部の触媒がより一層均一なものとなることで、長期に渡り電気分解槽を運転した際の装置の耐久性をさらに向上できる。なお、本明細書における上記陰極12の厚さは、陰極12が触媒層と、拡散層とを有する場合には、触媒層の厚さを意味するものとする。なお、この場合、陰極12を構成する拡散層の厚さは、例えば、100~400μm、100~300μm、又は100~200μmであってよい。拡散層の厚さを上記範囲内とすることで、水の拡散及びガスの脱離をより容易なものすることができる。
【0026】
原料となる水(原料水)は、例えば、雨水、水道水、純水、及び超純水等が挙げられる。原料水は、電気分解槽の連続使用時間を向上させ、重水素低減水の生産コストを低減する観点から、電気伝導率の低い水(イオンの総量の少ない水)を用いることが好ましい。原料水の25℃のおける電気伝導率は、例えば、0.5mS/m以下、0.4mS/m以下、0.3mS/m以下、0.2mS/m以下、0.1mS/m以下、又は0.05mS/m以下であってよい。原料水の25℃のおける電気伝導率の下限値は特に限定されるものではないが、原料水の調製コストの増加を抑制する観点から、一般的には、0.0055mS/m以上、0.008mS/m以上、又は0.01mS/m以上であってよい。25℃における電気伝導率が0.5mS/m以下である水としては、純水及び超純水を用いることができ、25℃における電気伝導率が0.01mS/m以下である水としては、超純水を用いることができる。原料水に含まれる特定分子の含有量は特に限定されず、使用することができる。本明細書において、原料水等に含まれる上記特定分子の含有量(水分子を構成する水素原子の少なくとも一方が水素の同位体元素で置換された分子の含有量)は、波長スキャン・キャビティリングダウン分光法によって決定される値を意味する。
【0027】
電気分解槽10は、上記カチオン交換膜11の主面の延びる方向と鉛直方向とがなす角の平均角度θが45°超90°以下であり、上記陰極室14が上記カチオン交換膜11に対して鉛直方向の上方に位置するように配置されていてもよい。このような配置とすることで、陰極12で発生したガスが鉛直上方に向かって放出され、陰極12表面に集合し気体膜が形成されることを抑制し、カチオン交換膜11等への水の供給がより容易なものとなり、水素ガスの発生効率を向上させることができる。上記カチオン交換膜11の主面の延びる方向と鉛直方向とがなす角の平均角度θは、例えば、45~90°、60~90°、又は75~90°であってよい。
【0028】
図2は、重水素低減水の製造方法を説明するための模式図である。重水素低減水の製造装置100は、電気分解槽10と、結合水生成器20と、結合水回収部40とを備える。電気分解槽10は、電気分解槽10が備える陰極室のみに原料水の貯蔵タンク5が供給され、陰極から発生する水素ガスは原料水と共に貯蔵タンク5に投入され、気液分離された後、水素を含む湿潤ガスとして結合水生成器20に供給される。結合水生成器20に供給される湿潤ガスは乾燥させてから、結合水生成器20に供給されることが好ましい。一方、電気分解槽10の陽極側で生成した酸素ガスはポンプ50を介して結合水生成器20に供給され、上記水素ガスとの反応によって結合水を生成する。生成した結合水は、結合水生成器20の外部に排出されると共に冷却され(例えば、自然冷却、又は冷却器を用いた冷却)、凝固点以下の温度にて液体へ凝縮させ、結合水回収部40にて回収される。なお、図2中では、酸素供給に関して圧力が過剰になった場合に備えた安全弁60(逆止弁)が配置される例で示した。安全弁は、例えば、水素ガスの供給ラインに設けてもよい。図2では、結合水生成器20に供給される酸素は、電気分解槽10において生成した酸素の例で示したが、別途、用意された酸素(例えば、酸素ボンベ等)を使用してもよい。すなわち、上記酸素は、上記電気分解によって生成した酸素であってよく、市販の酸素を用いてもよく、空気であってもよいが、水素から水を生成する反応において、酸素の過剰供給、又は、酸素の不足が生じにくいという観点から、好ましくは上記電気分解によって生成した酸素である。
【0029】
結合水生成器20は、例えば、燃料電池、触媒充填塔(パラジウム(Pd)等の触媒によって水に再結合させるもの)、及び燃焼器(水素を燃焼させることによって水を発生させるもの)等であってよい。結合水生成器20としては、結合水生成のエネルギーを電力として、水の電気分解に用いる電力を直接的に又は間接的に補うことができる観点から、燃料電池であることが好ましい。また、結合水生成器20が燃料電池である場合、高濃度酸素を供給してよく、燃料電池の出力を安価に調整可能であり、重水素低減水の製造コストをより低減し得る。結合水生成器20が燃料電池である場合、上述の水素と、酸素との反応が、燃料電池によって行われることになる。
【0030】
図3は、燃料電池の一例を示す模式断面図である。図3に示した結合水生成器20は、いわゆる単セル型の燃料電池の例で示した。燃料電池は、固体電解質膜21と、固体電解質膜21の一方の主面上に設けられた負極22と、固体電解質膜21の負極22側とは反対側に設けられた正極26とを有する。負極22と正極26とは、互いに外部回路30によって電気的に接続されている。外部回路30は、例えば、充放電器であってもよい。負極22は固体電解質膜21側とは反対側に設けられた負極ガス拡散層24を有する。正極26は固体電解質膜21側とは反対側に設けられた正極ガス拡散層28を有する。負極22及び負極ガス拡散層24は、負極室25に収容される。負極室25は、水素ガスを供給するための注入口25aと、反応に寄与しなかった残留ガスを排出する排出口25bとを有する。正極26及び正極ガス拡散層28は、正極室29に収容される。正極室29は酸素ガスを供給するための注入口29aと、結合水の蒸気を排出するための排出口29bとを有する。負極室25と正極室29とは、固体電解質膜21によって隔てられている。図3では、負極ガス拡散層24及び正極ガス拡散層28を備える例で示したが、任意の構成であり、電極全体にガスの拡散が容易であれば、必ずしも設ける必要はない。
【0031】
固体電解質膜21は、プロトン伝導性を有する膜である。固体電解質膜21は、例えば、フッ素系カチオン交換膜などが挙げられる。フッ素系カチオン交換膜は、スルホン酸基を有すること(すなわち、スルホン酸基を有するフッ素樹脂系カチオン交換膜であること)が好ましい。フッ素系カチオン交換膜としては、例えば、旭化成ケミカルズ株式会社製の「アシプレックス-F(AciplexF)」(商品名)、及び旭硝子株式会社製の「フレミオン」(商品名)等が挙げられる。スルホン酸基を有するフッ素樹脂系カチオン交換膜としては、例えば、デュポン社製の「NAFION(登録商標)」で構成されるナフィオン膜(商品名:N-112、N-115、及びN-117等)等が挙げられる。固体電解質膜21は、上述のカチオン交換膜11として例示したものを使用することもでき、この場合、固体電解質膜21とカチオン交換膜11とは同一でも異なってもよい。
【0032】
負極22は、例えば、貴金属系触媒(例えば、Pt、Ru、Ir等)、非貴金属系触媒(例えば、Ta、Zr、及びTiのいずれかの元素の酸化物等)、及び導電性材料(例えば、カーボンブラック、活性炭等)に上述の貴金属系触媒又は非貴金属系触媒を担持させたもので構成されてよい。負極22では、下記式(3)で表される、水素が酸化され、プロトン及び電子を発生する反応(負極反応)が進行する。発生したプロトンは固体電解質膜21を経由して正極に供給され、電子は外部回路を介して正極に供給される。
→2H+2e … 式(3)
【0033】
負極ガス拡散層24は、例えば、ガス透過性を有する導電性部材(例えば、カーボンクロス、及びカーボンペーパー等のカーボン多孔質体、並びに、金属メッシュ、及び、発泡金属等の金属多孔質体)で構成されてよい。
【0034】
正極26は、例えば、貴金属系触媒(例えば、Pt、Ru、Ir等)、非貴金属系触媒(例えば、Ta、Zr、及びTiのいずれかの元素の酸化物等)、及び導電性材料(例えば、カーボンブラック、活性炭等)に上述の貴金属系触媒又は非貴金属系触媒を担持させたもので構成されてよい。正極26では、上述の負極反応によって生じたプロトン及び電子が酸素と反応することで、下記式(4)のとおり結合水を生成する(正極反応)。ここで生成する結合水は、酸素ガスの流れの影響で、気体中に拡散し、結合水は水蒸気の一部として原料水の水蒸気と混合され、ガス中の水素同位体の存在割合を低減する。また、燃料電池における上述の反応は発熱反応となるため、燃料電池の正極側の気体中には多くの水分子が気体の状態で存在することになる。
0.5O+2H+2e→HO … 式(4)
【0035】
燃料電池の正極室に供給されるガスの圧力は、ガス中の水蒸気量等に応じて調整してよい。燃料電池の正極室に供給されるガスの圧力の上限値は、例えば、1kg/cmG以下、0.9kg/cmG以下、0.8kg/cmG以下、又は0.7kg/cmG以下であってよい。上記ガスの圧力の上限値を上記範囲内とすることで、正極室内に結露が生じることを十分に抑制することができる。燃料電池の正極室に供給されるガスの圧力の下限値は、例えば、0.05kg/cmG以上、0.1kg/cmG以上、0.2kg/cmG以上、又は0.3kg/cmG以上であってよい。上記ガスの圧力の下限値を上記範囲内とすることで、正極室内の触媒に十分に酸素を拡散することができる。
【0036】
上述のような結合水を含むガスは、正極室29の排出口29bから結合水生成器20の外部に排出される。結合水生成器20から排出された上記ガスは、温度の低下に伴う飽和水蒸気量の低下によって凝縮し、重水素低減水として回収される。上記ガスの冷却は、例えば、自然冷却(例えば、室温下でガス中の水分を凝縮させる)、又は冷却器を用いた冷却であってよいが、後述するように重水素低減水を凝縮させた後のガスを燃料電池に循環させる態様の場合には、自然冷却であることが望ましい。自然冷却とすることによって、ガス内に一定の水分が残存することになるため、燃料電池内の固体電解質膜の湿潤化に寄与すると共に、燃料電池から排出される気体中の蒸気量を増大させ、自然冷却による蒸気の回収効率をより向上させ得る。
【0037】
正極ガス拡散層28は、例えば、ガス透過性を有する導電性部材(例えば、カーボンクロス、及びカーボンペーパー等のカーボン多孔質体、並びに、金属メッシュ、及び、発泡金属などの金属多孔質体)で構成されてよい。
【0038】
上記重水素低減水の製造方法において、結合水生成器20から排出されるガスは、ガスに含まれる結合水の少なくとも一部を凝集させた後のガスを、燃料電池の陰極室に供給してもよい。結合水生成器20から排出されるが結合水を含むガスは、未反応の酸素に加えて、原料水の水蒸気及び結合水の水蒸気を含み得る。そこで、未反応の酸素を再度反応原料として結合水生成器20に返送し、循環させてよい。このような循環系を組むことによって、原料の利用効率を向上させることができる。
【0039】
結合水生成器20が燃料電池である場合、上述のような循環系を組むことによって、燃料電池の運転をより安定化することができる。燃料電池での結合水の生成は発熱反応となるため、加熱による異常を回避する観点から燃料電池の稼働中は冷却することが望ましい。一般的には、酸素源として空気を用いることから十分な空気を吹き込むことで、燃料電池の冷却も行っている。一方、重水素低減水を製造する場合には、軽水の原料となる原料ガス以外の成分の混入は避けることが望ましく、酸素以外に窒素等を含む空気を酸素源とすることは望ましくない。そうすると、酸素源として、酸素ボンベ等を使用して供給量を増加させると共に、十分な流速を持たせることで燃料電池の冷却をはかることも考えられる。しかし、この場合、結合水製造の原料としての酸素の供給量が過剰となり、未反応の酸素が増え、重水素低減水の製造コストが上昇する傾向にある。そこで、燃料電池から排出される結合水を含むガスを冷却し、結合水の少なくとも一部を凝縮させ重水素低減水として回収した後のガスを、燃料電池の冷却を兼ねたガスとして再度燃料電池の正極側に返送してよい。この場合、未反応の酸素を再度反応原料として供給することができると共に、酸素ガスとの混合によって、十分量のガスをより望ましい風速で燃料電池に供給することが可能であり、燃料電池の運転をより安定化することができる。さらに、燃料電池を結合水生成器として用いる従来の重水素低減水の製造方法では、ひとたび燃料電池から排出されたガスは含まれる水分を冷却によって凝縮させた後は空気中に排出されていたため、凝縮後のガスに含まれている成分(重水素低減水の水蒸気を含む)の一部は回収されずに排出され、回収率が十分に高くなかったが、上記方法によれば、結合水の回収率をより向上させることもできる。
【0040】
上述の循環系を組む方法は、運転の安定性を向上させた燃料電池システムを提供するということもできる。図4は、燃料電池システムの一例を示す模式図である。燃料電池システム200は、燃料電池(結合水生成器20)と、結合水回収部40とを備え、燃料電池と、結合水回収部40とは、燃料電池の正極室29から排出されるガスを結合水回収部40に供給する搬送路41によって接続され、結合水回収部40は結合水を凝縮させた後のガスを酸素ガス供給路に返送する返送路42とを有する。酸素ガス供給路には、燃料電池の正極室29へ供給するガスの流量及び流速を調整可能なポンプ50を備えてもよい。
【0041】
燃料電池は、単セルのまま用いてもよいが、単セルを複数積層した積層モジュールとして用いてもよい。図5は、燃料電池の単セルの構成例を示す斜視図である。積層モジュールを構成する単セルは、固体電解質膜21と、固体電解質膜21の一方の主面上に設けられた負極22と、負極22の固体電解質膜21側とは反対側に設けられた負極ガス拡散層24と、固体電解質膜21のもう一方の主面上に設けられた正極26と、正極26の固体電解質膜21側とは反対側に設けられた正極ガス拡散層28を有する。積層モジュールを構成する単セルは、単セルを複数積層してモジュール化するために、セパレーターSE1及びSE2を備える。セパレーターSE1及びSE2によって、隣り合う単セル同士間の反応ガスを隔離し混合することを抑制している。固体電解質膜21、負極22、負極ガス拡散層24、正極26、及び正極ガス拡散層28については、単セル型の燃料電池についてした説明を適用できる。
【0042】
セパレーターSE1には、水素ガス(HG)の流路となる複数の溝が設けられており、セパレーターSE2には、酸素ガス(OG)の流路となる複数の溝が設けられている。水素ガスの流路と酸素ガスの流路とは、互いに直行するように配置されていてよい。セパレーターSE1及びSE2は、ガス不透過性の導電性部材(例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボン、及び、プレス成型した金属板(例えば、鉄板、ステンレス板等)等)で構成されていてよい。
【0043】
結合水生成器20は、上述の積層モジュールを用いた場合の一例について説明する。図6は、燃料電池の積層モジュールを備える結合水生成器の一例を示す模式断面図である。図6に示す結合水生成器は、積層モジュール82と、積層モジュール82に対して酸素ガスを供給するための供給室94と、積層モジュール82から排出される結合水を含むガスを収集するための収集室96とを有する。供給室94と、積層モジュール82とは、供給室94から積層モジュール82にガスを均一に拡散供給するための拡散板92を介して接触している。拡散板92は、例えば、多孔質板であってよい。積層モジュール82は、内部に水素ガスを供給するための供給口82aと、積層モジュール82内部を循環したガスを外部に排出するための排出口82bとを有する。図6中では収集室96が、排出口96bに接続する漏斗状の脚部を2つ有する例で示したが、この個数は特に限定されるものではなく、積層モジュール82のサイズに合わせて適宜変更してよい。上述の脚部の断面が漏斗状の形状を有することで、収集室96内で結合水を含むガスによる結露が発生した際にも結露を外部に取り出しやすい。
【0044】
図7は、図6に示した結合水生成器の側面を示す模式図である。鉛直方向をY、水平方向をXとした場合に、結合水生成器は、積層モジュール82の水素の供給方向(供給口82a及び排出口82bの延びる方向)に対して垂直となる方向Rが、鉛直方向Yから水平方向Xに向かって傾くように角度Φだけ傾斜して配置されることが望ましい。このような配置とすることによって、積層モジュール82の内部において結露が発生した場合に排水がより容易になり、原料ガスが負極及び正極に接することを疎外する要因をより十分に低減できる。上記角度Φは、上記方向Rと、水平方向Xとがなす角であり、例えば、30~60°、35~55°、又は40~50°であってよい。
【0045】
以上、幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。また、上述した実施形態についての説明内容は、互いに適用することができる。
【実施例0046】
以下、実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明する。ただし、本開示は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
スルホン酸基を有するフッ素樹脂系カチオン交換膜(デュポン社製、商品名:N-115)の一方の主面(陰極側となる面)上に、白金粉末及び触媒重量の20質量%のナフィオンのアイオノマを、純水、エタノール、及び2-プロパノールの混合溶液中に分散させた分散液Aを塗布し、乾燥させて、白金を含む触媒層を形成した。上記分散液Aの塗布量は白金の塗布量が0.5~1.0mg/cmとなるように塗布した。また、上記フッ素樹脂系カチオン交換膜カチオン交換膜の他方の主面(陽極側となる面)上に、酸化イリジウム粉末及び触媒重量の20質量%のナフィオンのアイオノマを、純水、エタノール、及び2-プロパノールの混合溶液中に分散させた分散液Bを塗布し、乾燥させて、酸化イリジウムを含む触媒層を形成した。上記分散液Bの塗布量は酸化イリジウムの塗布量が0.5~1.0mg/cmとなるように塗布した。上記白金を含む触媒層のフッ素樹脂系カチオン交換膜側とは反対側に拡散層となるカーボンシートを重ね、上記酸化イリジウム粉末を含む触媒層のフッ素樹脂系カチオン交換膜側とは反対側に拡散層となる白金めっきチタン繊維焼結体を重ねて、135℃、8MPaで加圧しプレスすることによって、膜電極接合体を調製した。白金を含む触媒層と、酸化イリジウムを含む触媒層とを、電源を介して接続することで電気分解槽を組み立てた(図1に示すような構成とした)。電気分解槽は、カチオン交換膜の主面の延びる方向と鉛直方向とがなす角の平均角度が、0°になるように設置した。電気分解槽の陰極室に原料水を循環させるための貯蔵タンクを接続した。
【0048】
次に、スルホン酸基を有するフッ素樹脂系カチオン交換膜(デュポン社、商品名:NRE-212)の両主面上に、カーボン担体及びこれに担持された白金で構成される触媒及び触媒重量の20質量%のナフィオンのアイオノマを、純水、エタノール、及び2-プロパノールの混合溶液中に分散させた分散液Cを塗布し、乾燥させて、触媒層を形成した。上記分散液Cの塗布量は白金の塗布量が0.5~1.0mg/cmとなるように塗布した。さらに両方の触媒層の上記カチオン交換膜側とは反対側に疎水性カーボンペーパーを重ねて、135℃、8MPaで加圧しプレスすることによって、膜電極接合体を調製した。さらに、外部電源を介して、形成された触媒層同士を接続することで、燃料電池を組み立てた(図3に示すような構成とした)。得られた燃料電池の負極室に上記貯蔵タンクから取り出される気体を供給する流路を接続し、電気分解槽の陽極室から発生する気体を燃料電池の正極室に供給する流路を接続し、さらに燃料電池の正極から発生する結合水を含むガスを回収する回収タンクと正極室とを接続した。このようにして、重水素低減水の製造装置を構成した(図2に示すような構成とした)。
【0049】
上述のようにして組み立てた重水素低減水の製造装置を用いて、重水素低減水の製造を行った。まず、電気分解槽の陰極のみに純水(25℃における電気伝導率が0.01mS/m)を給水し、貯蔵タンクとの間で循環させた。陰極及び陽極間で2.0Vの電圧を印加することによって、電気分解を行った。電気分解によって、電気分解槽から排出される水にガスが含まれることが確認され、貯蔵タンクから水素ガスが排出されることが確認された。同時に、陽極室から排出されるガスは酸素であることが確認された。
【0050】
また、燃料電池の陽極室から排出されるガスを空冷し室温にしたところ、凝縮水が得られることが確認され、燃料電池において結合水が得られていることを確認した。
【0051】
(実施例2)
電気分解槽の陰極室から発生するガスを親水性ゼオライト(東ソー株式会社製、商品名:F-9)によって乾燥してから、燃料電池の負極に供給するように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、凝縮水を得た。
【0052】
(比較例1)
電気分解槽の陰極のみに原料水を給水していたことに変えて、陽極のみに原料水を供給するように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、凝縮水を調製した。
【0053】
(比較例2)
電気分解槽の陰極室から発生するガスを親水性ゼオライト(東ソー株式会社製、商品名:F-9)によって乾燥してから、燃料電池の負極に供給するように変更したこと以外は、比較例1と同様にして、凝縮水を得た。
【0054】
(比較例3)
電気分解槽の陰極のみに原料水を給水していたことに変えて、陽極にも原料水を供給(両極に原料水を供給)するように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、凝縮水を調製した。なお、この場合、陽極側にも原料水を循環させるための貯蔵タンクを用意し、陽極から排水された水は貯蔵タンクに戻され、気液分離された後、酸素を含むガスが、燃料電池の正極室に供給されるようにした。
【0055】
<調製された凝縮水における重水素を構成原子として有する分子の含有量(重水素濃度)の測定>
実施例1~2、及び比較例1~3で調製された凝縮水それぞれについて、水同位体比アナライザー(PICARRO社製、商品名:L2130-i)を用い、波長スキャン・キャビティリングダウン分光法によって、重水素濃度を測定した。結果を表1に示す。なお、表1には、参考のために、原料水における重水素濃度を記載した。
【0056】
【表1】
【0057】
原料水は貯蔵タンクを介して循環させているが、原料水を廃棄するような形で装置を組んだ場合、重水素低減水の製造コストが上昇する。そのため、上述の実施例及び比較例では、貯蔵タンクを介して原料水を循環させつつ、貯蔵タンクにおいて気液分離を行う方法を採用した。この場合、発生した水素ガス及び酸素ガスを分離させる観点から、両極吸水の場合には貯蔵タンクを2つ要する。これに伴って、重水素低減水の製造装置は小型化に不向きである。
【0058】
(実施例3)
電気分解槽を、カチオン交換膜の主面の延びる方向と鉛直方向とがなす角の平均角度θが90°となり、陰極室がカチオン交換膜に対して鉛直方向の上方に位置するように配置したこと以外は、実施例1と同様にして、凝縮水を調製した。
【0059】
<電気分解槽における水素生成効率の評価>
電気分解槽における平均電流密度を以下の方法に沿って測定した。電解電圧を2.5Vとして電気分解を行い、電圧の印加開始直後から24時間後の電流値の平均を平均電解電流[A]とした。平均電解電流を電解装置の陽極側の面積[cm]あたりとして、平均電解電流密度[A/cm]を算出した。結果を表2及び図8に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
電気分解槽における平均電流密度が高いことは、陽極反応及び陰極反応が多く進行していることを意味する。表2に示されるとおり、カチオン交換膜の主面の延びる方向と鉛直方向とがなす角の平均角度が大きく、陰極で発生する水素ガスが電極の表面から離脱しやすくなることで、陽極反応及び陰極反応がより行われやすくなっていることが確認された。これは、陰極で発生する水素ガスが電極の表面から離脱しやすくなったことによって、カチオン交換膜への水の供給を疎外するような気体膜が形成されづらくなったことによると推定される。
【0062】
(実施例4)
燃料電池の正極に供給する酸素を、電気分解槽で発生した酸素から空気に変更し、燃料電池から排出される酸素及び結合水を含む水蒸気を1℃にて凝縮させたこと以外は、実施例1と同様にして、凝縮水を調製した。なお、空気を供給しているため、窒素ガスと酸素ガスとは、標準状態における体積比で4:1である。燃料電池の運転から0.5~24時間に得られた凝縮水について、実施例1と同様にして重水素濃度を測定した。結果を表3に示す。なお、表3中、採水割合とは、燃料電池の運転から0.5~24時間に得られた重水素低減水の採水量(質量部)の、燃料電池の結合水の量(質量部)に対する割合を意味する。結合水の量は、燃料電池の出力電流を用いて以下の式に基づいて計算される値を用いた。なお、ファラデー定数は9.64×10C/molとし、水の分子量は18g/molとして計算した。
結合水の量[g]=[(電流値[A]×燃料電池の運転時間[s])/(2×ファラデー定数[C/mol])]×18[g/mol]
【0063】
(実施例5)
燃料電池から排出される酸素及び結合水を含む水蒸気を25℃にて凝縮させた後、凝縮しなかった気体の部分(循環気体)を燃料電池の正極に供給する酸素ガスと共に供給するように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、凝縮水を調製した。なお、循環気体に対する酸素ガスの割合は、標準状態において50体積%以上となるように混合した。得られた凝縮水について、実施例1と同様にして重水素濃度を測定した。結果を表3に示す。
【0064】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0065】
本開示によれば、比較的小型の装置によって、同位体元素の割合が低減された水素を製造可能な方法を提供できる。本開示によればまた、比較的小型の装置によって、重水素低減水の製造が可能な製造方法を提供できる。
【符号の説明】
【0066】
5…貯蔵タンク、10…電気分解槽、11…カチオン交換膜、12…陰極、16…陽極、14…陰極室、18…陽極室、20…結合水生成器、21…固体電解質膜、22…負極、24…負極ガス拡散層、25…負極室、26…正極、28…正極ガス拡散層、29…正極室、30…外部回路、40…結合水回収部、41…搬送路、42…返送路、50…ポンプ、60…安全弁、82…積層モジュール、92…拡散板、94…供給室、96…収集室、100…製造装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8