(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092323
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】火災抑制床構造
(51)【国際特許分類】
E04F 15/02 20060101AFI20240701BHJP
A47G 27/02 20060101ALI20240701BHJP
E04F 15/024 20060101ALI20240701BHJP
E04C 2/24 20060101ALI20240701BHJP
E04C 2/26 20060101ALI20240701BHJP
E04B 5/43 20060101ALN20240701BHJP
【FI】
E04F15/02 A
A47G27/02 101C
E04F15/02 S
E04F15/024 601A
E04C2/24 P
E04C2/26 T
E04C2/26 U
E04B5/43 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208168
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000111074
【氏名又は名称】ニッタン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】白山 宣弘
(72)【発明者】
【氏名】山納 正人
【テーマコード(参考)】
2E162
2E220
3B120
【Fターム(参考)】
2E162CB16
2E162CC01
2E162CE01
2E220AA02
2E220AC03
2E220GA26X
2E220GA27X
2E220GB01X
2E220GB32X
2E220GB39X
2E220GB43X
3B120AA14
3B120AC09
3B120BA03
3B120EB06
(57)【要約】
【課題】建物の床にガソリンなどが撒かれ着火されても最低限避難は可能な程度にまで火勢を抑えることができる火災抑制床構造を提供する。
【解決手段】上位層にカーペット、中間層に金網、下位層にスノコが配設された多層構造の火災抑制床構造において、前記カーペットは、難燃性および撥油性を有する繊維により、可燃性液体を透過可能に形成されており、前記金網は、開口率が35%以上50%以下であり、前記スノコは、少なくとも表面が耐火性もしくは難燃性を有する材料で形成され、高さが20mm以上100mm以下であるように構成した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上位層にカーペット、中間層に金網、下位層にスノコが配設された多層構造の火災抑制床構造であって、
前記カーペットは、難燃性および撥油性を有する繊維により、可燃性液体を透過可能に形成されており、
前記金網は、開口率が35%以上50%以下であり、
前記スノコは、少なくとも表面が耐火性もしくは難燃性を有する材料で形成され、高さが20mm以上100mm以下である
ことを特徴とした火災抑制床構造。
【請求項2】
前記スノコは、高さが20mm以上80mm以下であることを特徴とした請求項1に記載の火災抑制床構造。
【請求項3】
前記カーペットは、前記繊維からなる層の下面に、耐火性を有し前記繊維に比べて耐久性の高い材料で形成され複数の開口を有するベースシートが接合されていることを特徴とした請求項1に記載の火災抑制床構造。
【請求項4】
前記カーペット、金網およびスノコは、それぞれ同一サイズの矩形状を呈するように形成され、フリーアクセスフロアを構成可能であることを特徴とした請求項1~3のいずれかに記載の火災抑制床構造。
【請求項5】
スノコの上に金網が配設された火災抑制床構造であって、
前記金網は、開口率が35%以上50%以下であり、
前記スノコは、少なくとも表面が耐火性もしくは難燃性を有する材料で形成され、高さが20mm以上100mm以下である
ことを特徴とした火災抑制床構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガソリン等の可燃性液体による火災を抑制可能な床構造に関し、例えばフリーアクセスフロア用の床構造に利用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリンを撒いて放火する凶悪事件が発生しており、オフィスビルやイベント会場などにおいても、ガソリン等の可燃性液体を用いた放火対策が望まれている。
従来、カーペットには、火災が発生した際に、火災拡大の一因にならないよう防炎性能が付与されているものがある。また、航空機、船舶、列車、自動車等の交通機関用の難燃性カーペットに関する発明(特許文献1、2参照)が提案されており、このような難燃性カーペットを建物の床に敷設することでも火災をある程度抑制することができる。
また、建物内部における可燃性液体による火災の発生に対応するため、延焼拡大を防止できるようにした構造物の床構造に関する発明が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-207331号公報
【特許文献2】特開2014-217430号公報
【特許文献3】特開2003-155799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1や2に記載されている難燃性カーペットの発明は、床材自体を燃えにくくすることで延焼を抑制するものである。そのため、ガソリン等の可燃性液体が撒かれて放火された場合に火勢を抑制する効果は期待することができず、居合わせた人が立ち上がった炎に恐怖心をおぼえ、避難できないおそれがある。
また、特許文献3には、床面を所定のユニット単位に区画化し、所定区画域の下方に水系消火設備作動時に散水された消火水や溶出した高分子系可燃物を貯留可能な貯留床を設け、その下部空間を配線空間とした二重床構成となすと共に、該区画域の床表面に防炎処理材を敷設した床構造が記載されている。
【0005】
しかし、特許文献3に記載されている床構造の発明は、消火設備による散水が行われることを前提とした発明であり、消火設備のない建物や消火のための散水前における状況については考慮していない。そのため、可燃性液体に起因する火災の発生直後に可燃性液体が気化して炎が大きく立ち上がるのを、抑制する効果を期待することができない。また、特許文献3の
図3には、床パネルの下方に可燃性液体および消火水の貯留空間を設け、床表面の可燃性液体を、床パネルを透過させて下方の貯留空間へ導くことが記載されているが、床下に配設されたOA機器用の各種ケーブル類を火災から保護することを目的としており、貯留空間の上部は床パネルの上方から空気が流れ込む構造である。そのため、火災発生初期に貯留空間に溜まった可燃性液体が燃えるのを充分に抑制することができないという課題がある。
【0006】
本発明は上記のような課題に着目してなされたもので、その目的とするところは、建物の床にガソリンなどの可燃性液体が撒かれ着火されても、最低限避難は可能な程度にまで火勢を抑えることができる火災抑制床構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、
上位層にカーペット、中間層に金網、下位層にスノコが配設された多層構造の火災抑制床構造において、
前記カーペットは、難燃性および撥油性を有する繊維により、可燃性液体を透過可能に形成されており、
前記金網は、開口率が35%以上50%以下であり、
前記スノコは、少なくとも表面が耐火性もしくは難燃性を有する材料で形成され、高さが20mm以上100mm以下であるように構成したものである。
【0008】
上記のような構成によれば、建物の床にガソリンのような可燃性液体が撒かれたとしても、撒かれた可燃性液体はカーペットや金網を透過してスノコの内部の空間へ落ち、落ちてから気化した可燃性液体のガスが上方へ抜けるのを開口率の小さな金網で防止することができる。そのため、可燃性液体が撒かれ着火されても、最低限避難は可能な程度にまで火勢を抑えることができる。
なお、スノコのより望ましい高さは30mm以上80mm以下であり、さらに望ましい高さは50mm前後である。
【0009】
また、望ましくは、前記カーペットは、前記繊維からなる層の下面に、耐火性を有し前記繊維に比べて耐久性の高い材料で形成され複数の開口を有するベースシートが接合されているように構成する。
かかる構成によれば、カーペットの耐久性を高めつつカーペットの表面に撒かれた可燃性液体を速やかに下方へ透過させることができる。
【0010】
さらに、望ましくは、前記カーペット、金網およびスノコは、それぞれ同一サイズの矩形状を呈するように形成され、フリーアクセスフロアを構成可能であるように構成する。
かかる構成によれば、OA機器用の各種ケーブルを配設する空間を確保しつつ、可燃性液体が撒かれ着火されても最低限避難は可能な程度にまで火勢を抑えることができる。
【0011】
さらに、本出願の他の発明は、
スノコの上に金網が配設された火災抑制床構造において、
前記金網は、開口率が35%以上50%以下であり、
前記スノコは、少なくとも表面が耐火性もしくは難燃性を有する材料で形成され、高さが20mm以上100mm以下であるように構成したものである。
【0012】
上記のような構成によれば、建物の床にガソリンのような可燃性液体が撒かれたとしても、撒かれた可燃性液体は金網を透過してスノコの内部の空間へ落ち、落ちてから気化した可燃性液体のガスが上方へ抜けるのを金網で防止することができる。そのため、可燃性液体が撒かれ着火されても最低限避難は可能な程度にまで火勢を抑えることができる。また、カーペットが不要であるため、コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る火災抑制床構造によれば、建物の床にガソリンなどの可燃性液体が撒かれ着火されても、最低限避難は可能な程度にまで火勢を抑えることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(A)は本発明の第1実施形態の床構造を横から見た状態を示す図、(B)は第2実施形態の床構造を横から見た状態を示す図である。
【
図2】実施形態の床構造を構成するカーペットの裏面に設けられるベースシートの構成例を示す図である。
【
図3】実施形態の床構造を構成する金網の開口率を説明するための図である。
【
図4】(A)および(B)は実施形態の床構造を構成するスノコおよびOAフロア用パネルの構成例を示す斜視図である。
【
図5】(A)~(D)は実施形態の床構造において、ガソリンなどが撒かれ着火された場合の状態の変化を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明を適用した床構造の一実施形態について説明する。
図1(A)は、第1実施形態の床構造を横から見た状態を示している。
図1に示すように、第1実施形態の床構造は、耐熱性を有するスノコ11と、スノコ11の上面に載置された金網12と、金網12との上面に載置された難燃性を有するカーペット13とから構成されている。
【0016】
なお、特に限定されるものでないが、以下の実施例においては、フリーアクセスフロア用の床構造を構成することを想定して、スノコ11、金網12、カーペット13は、それぞれ矩形状をなすように形成されている。一般的なフリーアクセスフロアにおいて使用されているタイルカーペットに対応させる場合、各部材は例えば50cm×50cm程度の正方形とされる。
【0017】
本実施形態の床構造を構成するカーペット13は、難燃性を有するとともに撥水性および撥油性を有する繊維により形成されており、裏面(下面)には
図2に示すように、開口31aがマトリックス状に並んで設けられた耐火性を有するゴム等の材料からなるからなるベースシート31を備えている。なお、耐久性を有しているものであれば、難燃性の繊維のみで形成したものを使用しても良いが、通常そのようなカーペットは高価であるので、コストの面からは上記のように裏面にベースシート31が接合されているものが望ましい。
【0018】
上記のようにカーペット13が撥油性を有する繊維により形成されていることにより、カーペット13の上にガソリン等の可燃性液体が撒かれたとしても、可燃性液体は速やかに透過して開口31aから下方へ流れ落ちるようになる。また、カーペット13が撥水性を有する繊維により形成されていることによって、雨天の日に持ち込まれた泥などの汚れを容易に除去することができるようになる。
なお、ベースシート31に設けられる開口31aの総面積のシート面積に対する割合は、カーペット13に必要な強度を確保できる範囲で、できるだけ大きくするのが望ましい。
【0019】
本実施形態の床構造を構成する金網12は、下方に落ちてから気化した可燃性液体のガスが上方へ抜けるのを防止できるようにするため、開口率が35%以上50%以下であるのが望ましく、最も望ましい開口率は40%前後であることを実験により知得した。なお、ここで、開口率Rは、
図3に示すように、開き目(金網の開口)の一辺の寸法をa、使用する線材12aの径をdとすると、R={a/(a+d)}
2×100で表わされる。
また、線径dは、使用する線材の強度にも依存するが、必要な強度が得られる範囲でできるだけ細いのが望ましい。線材は、金属製であり、錆にくいものや腐食しにくいものが望ましい。金網12の編み方は任意であり、開口率が35%以上50%以下であれば、編み目の形状は四角形に限定されず、六角形その他の多角形や菱形等であっても良い。
【0020】
図4(A),(B)には、スノコ11の構成例が示されている。(A),(B)のうち、(A)は横材11Aと縦材11Bをそれぞれ所定の間隔をおいて配置した一般的な構造のスノコを、(B)はスノコの他の形態として可燃性液体を下方へ落ち易くするため多数の三角形の穴を設けたパネル部11Cの下面に所定の間隔で脚部11Dを設けたOAフロア用パネルを示す。
図4(A)と(B)のいずれのスノコおよびOAフロア用パネルも高さは、20mm以上100mm以下が望ましく、より望ましい高さは30mm以上80mm以下であり、最も望ましい高さは50mm前後であるが、特に
図4(B)のOAフロア用パネルの場合には、床面からその裏面までの高さが50mm前後確保されているパネルを用いるのが良い。
【0021】
図4(A)のスノコは、表面に載置される金網12やカーペット13の落ち込みを防止するため、一般的なスノコと同様に、上側にある縦材11Bの間隔の方が下側にある横材11Aの間隔よりも狭くなるように設定される。縦材11Bの間隔は、床上を歩く人や荷物の荷重を支えるためには狭い方が良いが、可燃性液体を下方へ落ち易くするためには広い方が良い。本実施形態においては、縦材11Bの幅Wと縦材11Bの間隔Dはほぼ同じか、WよりもDの方が若干大きく設定されている。
なお、
図4(A)のスノコ11の材料としては、木材、金属、難燃性を有する樹脂が考えられる。木材は、表面に耐火塗料を塗布するなど、耐火処理を施したものを使用するのが望ましい。
【0022】
一方、
図4(B)のOAフロア用パネルの材料は、製造性およびコストの観点から難燃性樹脂が望ましい。また、
図4(B)のOAフロア用パネルにおけるパネル部11Cの三角形の穴の大きさは、縦と横の寸法がそれぞれ10~20mmである。
さらに、
図4(B)のOAフロア用パネルにおいては、パネル部11Cの三角形の穴の内側に、編み目が形成されていても良い。その場合、可燃性液体を下方へ落ち易くするため、編み目部分の厚みは、格子状をなす骨部分の厚みよりも薄くなるように設定される。
【0023】
また、
図4(A)のスノコの場合、横材11Aの厚みは縦材11Bの厚みよりも小さく設定されているが、横材11Aの厚みは縦材11Bの厚みよりも大きく設定されても良い。要するに、所定以上の耐荷重性を有しかつ金網12の下方に一定量以上の可燃性液体を貯留可能な空間を形成するように、横材11Aと縦材11Bのそれぞれ間隔や厚みが設定される。
図4(B)のOAフロア用パネルの場合、パネル部11Cは穴の大きさすなわち開口率が比較的小さく強度が高いため、パネル部11Cの厚みは脚部11Dの高さと同一もしくは小さく設定されているが、パネル部11Cの穴の大きさ(開口率)が図示のものよりも大きい場合には、パネル部11Cの厚みは脚部11Dの高さよりも大きく設定されても良い。
【0024】
次に、上記実施形態の床構造の作用効果について、
図5を用いて説明する。なお、
図5において、スノコ11が載置されている面は、建物のコンクリート製の床の上面である。
図5(A)に示すように、床の上にスノコ11を載置した状態で、上方よりバケツ等でガソリンGを撒くと、
図5(B)に示すように、ガソリンGは表面のカーペット13に少し残るが、大部分のガソリンはカーペット13、金網12およびスノコ11の隙間を通ってコンクリート製の床の上面に落ちる。
【0025】
この状態で、
図5(C)に示すように、マッチで火をつけると、カーペット13に残ったガソリンに火が付き、
図5(D)に点線で示すように、カーペット13の上方に炎Fが立つ。しかし、カーペット13に残っているガソリンは少量であるため、すぐに火勢は弱くなり、その後は、ふわっとした炎がゆらゆら立ち上る程度になることを、実験によって確かめることができた。
本発明者らは、上記のような現象が生じる原因を考察した結果、コンクリート製の床の上面に落ちたガソリンは気化するものの金網12に阻まれてカーペット13の表面に出てくることはなく、スノコ11の上面や金網12で気化したガソリンがわずかにカーペット13を通って立ち上るためであるとの結論に達した。
【0026】
上記のように、本実施形態の床構造によれば、カーペット13の上にガソリンが撒かれて着火されたとしても、発生した炎の火勢はすぐに弱くなる。また、人間は、目の高さよりも高い炎に対しては恐怖心を覚えるが、腰ほどの高さよりも低い炎であれば極度の恐怖心を覚えないため、若干の勇気があれば、炎の立っているカーペットを横切って避難する行動を起こすことができる。その結果、多くの人が、命を落とす危険な状況から脱出することができるようになることが期待できる。
【0027】
以上、本発明の第1実施形態の床構造について説明したが、本発明は上記第1実施形態のような構造に限定されるものでなく、例えば
図1(B)に示すように、カーペット13を省略して、スノコ11の上面に金網12のみを載せた構造の床構造であっても、火勢を抑える効果に関しては、
図1(A)に示す第1実施形態の床構造と同様な効果を期待することができる。
なお、オフィスビルや商業施設では、内装の制約から第1実施形態の床構造のような上層にカーペット13を設けることが一般的であるが、臨時のイベント会場などにおいては、カーペット13を設ける必要がないこともあるので、
図1(B)に示すような床構造も有効である。
【0028】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態のものに限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、
図4(B)のOAフロア用パネルにおいては、パネル部11Cに三角形の穴を設けているが、パネル部11Cの穴の形状は三角形に限定されず、四角形等の多角形あるいは円形等任意の形状とすることができる。
また、上記実施形態では、フリーアクセスフロアに適用されることを想定して、カーペット13や金網12、スノコ11やOAフロア用パネルとして矩形状に形成されているものを示したが、本発明の床構造はフリーアクセスフロア以外のフロアに対しても適用することができる。
【符号の説明】
【0029】
10 床構造
11 スノコ
11A 横材
11B 縦材
11C パネル部
11D 脚部
12 金網
13 カーペット
31 ベースシート
31a 開口