(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092333
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】故障検査方法及び打撃ツール
(51)【国際特許分類】
G01N 29/12 20060101AFI20240701BHJP
【FI】
G01N29/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208188
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】石原 暢之
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA08
2G047AC11
2G047BA04
2G047BC03
2G047BC04
2G047BC07
2G047BC11
2G047CA03
2G047GD02
2G047GG32
(57)【要約】
【課題】タイヤなどの弾性体の打音検査でも高精度な故障判定を実現できる故障検査方法及び打撃ツールを提供する。
【解決手段】故障検査方法は、物体の表面を打撃ツールによって打撃するステップと、打撃ツールによる打撃時の衝撃音に基づいて物体内部の故障を判定するステップとを含む。打撃ツールの先端部の質量は、300グラム以下であり、打撃ツールの全体質量Xに占める先端部質量Yの割合Y/Xは、40%以上である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性体によって形成された物体の故障検査方法であって、
前記物体の表面を打撃ツールによって打撃するステップと、
前記打撃ツールによる打撃時の衝撃音に基づいて前記物体内部の故障を判定するステップと
を含み、
前記打撃ツールの先端部の質量は、300グラム以下であり、
前記打撃ツールの全体質量Xに占める先端部質量Yの割合Y/Xは、40%以上である故障検査方法。
【請求項2】
前記物体の振動周波数は、100Hz以上、2,000Hz以下である請求項1に記載の故障検査方法。
【請求項3】
前記割合Y/Xは、70%以上である請求項1に記載の故障検査方法。
【請求項4】
前記弾性体は、採掘現場を走行する車両に装着されるタイヤである請求項1に記載の故障検査方法。
【請求項5】
弾性体によって形成された物体の打撃による故障検査に用いられる打撃ツールであって、
前記打撃ツールの先端部の質量は、300グラム以下であり、
前記打撃ツールの全体質量Xに占める先端部質量Yの割合Y/Xは、40%以上である打撃ツール。
【請求項6】
前記物体の振動周波数は、100Hz以上、2,000Hz以下である請求項5に記載の打撃ツール。
【請求項7】
前記割合Y/Xは、70%以上である請求項5に記載の打撃ツール。
【請求項8】
前記弾性体は、採掘現場を走行する車両に装着されるタイヤである請求項5に記載の打撃ツール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ハンマーなどの打撃ツールを用いた故障検査方法及び打撃ツールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハンマーなどの打撃ツールを用いてコンクリートの表面を打撃し、打撃時の衝撃音に基づいてコンクリート内部の空洞などの故障の有無を検査する故障検査方法(いわゆる打音検査)が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような故障検査方法(打音検査)は、車両などに装着される空気入りタイヤ(以下、タイヤと適宜省略する)の内部構造の故障検査にも適用することが想定される。
【0005】
しかしながら、単純にコンクリートの打音検査方法をタイヤの故障検査に適用しても次のような不具合がある。具体的には、衝撃音の音圧レベルの偏差が大きく、故障の有無の判定が難しい。
【0006】
また、弾性体(ゴム)によって形成されたタイヤの場合、コンクリートなどの剛体とは異なり、打撃ツールによる打撃時に容易に変形するため、二度叩き(ダブルハンマリング)となり易く、打撃もぶれ易い。このため、故障判定に必要な衝撃音が得られ難い。
【0007】
そこで、以下の開示は、このような状況に鑑みてなされたものであり、タイヤなどの弾性体の打音検査でも高精度な故障判定を実現できる故障検査方法及び打撃ツールの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、弾性体によって形成された物体の故障検査方法であって、前記物体の表面を打撃ツール(例えば、打撃ツール100)によって打撃するステップ(S10)と、前記打撃ツールによる打撃時の衝撃音に基づいて前記物体内部の故障を判定するステップ(S30)とを含み、前記打撃ツールの先端部(先端部110)の質量は、300グラム以下であり、前記打撃ツールの全体質量Xに占める先端部質量Yの割合Y/Xは、40%以上である。
【0009】
本開示の一態様は、弾性体によって形成された物体の打撃による故障検査に用いられる打撃ツール(例えば、打撃ツール100)であって、前記打撃ツールの先端部(先端部110)の質量は、300グラム以下であり、前記打撃ツールの全体質量Xに占める先端部質量Yの割合Y/Xは、40%以上である。
【発明の効果】
【0010】
上述した故障検査方法及び打撃ツールによれば、タイヤなどの弾性体の打音検査でも高精度な故障判定を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、故障検査方法の実施形態の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、打撃ツールを用いてタイヤ側面を打撃する例を示す図である。
【
図3】
図3は、故障検査フローの一例を示す図である。
【
図4】
図4は、打撃ツールによる打撃時の衝撃音の取得例を示す図である。
【
図5】
図5は、打撃ツール100の単体平面図である。
【
図6】
図6は、打撃ツールの全体質量Xに占める先端部質量Yの割合Y/Xと、音圧偏差率との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、打撃ツールの先端部質量と、ダブルハンマリング発生率との関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、打撃ツールの全体質量Xに占める先端部質量Yの割合Y/Xと、先端部質量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。なお、同一の機能や構成には、同一または類似の符号を付して、その説明を適宜省略する。
【0013】
(1)故障検査方法の概略
図1は、故障検査方法の実施形態の一例を示す。本実施形態では、弾性体によって形成された物体の故障検査方法の一例として、
図1に示すように、採掘現場を走行する車両10に装着される空気入りタイヤ20の故障検査方法について説明する。
【0014】
車両10は、鉱山などの採掘現場において利用される大型のダンプトラックである。空気入りタイヤ20は、ゴムなどを主な材料とする弾性体の一種であり、特に、本実施形態では、大型のダンプトラックに装着されるタイヤ(建設車両用タイヤ或いは鉱山車両用タイヤなどと呼ばれてもよい)である。
【0015】
空気入りタイヤ20のサイズは、特に限定されないが、採掘現場において利用される大型のダンプトラックの場合、リムサイズは、48~63インチ程度である。空気入りタイヤ20は、図示しないカーカス、ベルト層、ビードコアなどの内部構造を有してよい。当該内部構造には、金属、有機繊維またはゴム材料が用いられてよい。
【0016】
作業員50は、空気入りタイヤ20の内部構造の故障有無を判定するため、打撃ツール100を用いた打音検査を行う。内部構造の故障とは、上述したカーカス、ベルト層及びビードコアのゴム層との境界面における剥離、またはカーカス、ベルト層及びビードコア自体の亀裂などの損傷が含まれてよい。
【0017】
携帯端末60は、打撃ツール100を用いた打音検査によって発生した衝撃音の取得に利用できる。具体的には、携帯端末60は、可聴周波数帯域を録音できるボイスレコーダでもよいし、故障検査方法用として開発されたアプリケーションプログラムがインストールされたスマートフォンなどのデバイスでもよい。アプリケーションプログラムの場合、衝撃音の音圧レベル(SPL)及び周波数帯域に基づいて、空気入りタイヤ20の故障有無を判定するようなロジックが組み込まれていてもよい。
【0018】
打撃ツール100は、空気入りタイヤ20(物体)の表面を打撃するために用いられる。具体的には、打撃ツール100は、作業員50によって把持され、空気入りタイヤ20の表面を打撃する。打撃ツール100としては、典型的には、ハンマーなどの槌形の工具を好適に用い得る。打撃ツール100の槌部(先端部)の材質、大きさ及び形状は、特に限定されず、材質は、金属、樹脂または硬質なゴムなどによって形成されて構わない。
【0019】
(2)故障検査方法の詳細
図2は、打撃ツールを用いてタイヤ側面を打撃する例を示す。
図3は、故障検査フローの一例を示す。
【0020】
図2及び
図3に示すように、作業員50(
図1参照)は、打撃ツール100を把持し、空気入りタイヤ20の表面を打撃ツール100によって打撃する(S10)。
【0021】
図2では、空気入りタイヤ20の側面(サイドウォール)を打撃ツール100によって叩く例が示されている。なお、空気入りタイヤ20の側面だけでなく、ベルト層及びビードの故障を判定するため、トレッド及びビード部分が打撃されてもよい。また、打撃ツール100による打撃力は、適当な音圧の衝撃音が発生する程度としてよい。
【0022】
作業員50は、打撃ツール100による空気入りタイヤ20表面の打撃時の衝撃音を取得する(S20)。具体的には、作業員50は、自身の聴覚を利用して衝撃音を聞き取ってもよいし、上述したように、携帯端末60を利用して衝撃音を取得してもよい。
【0023】
図4は、打撃ツールによる打撃時の衝撃音の取得例を示す。具体的には、
図4は、音圧レベル(SPL)と、音圧レベルの標準偏差(σ)を示す。
図4(左側)では、5回(系列1~5)の衝撃音の取得結果(各周波数帯域での音圧レベル)が示されている。また、
図4(右側)には、取得した衝撃音の各周波数帯域での音圧レベルの標準偏差が示されている。
図4に示すように、高周波数帯域になる程、音圧レベルの標準偏差が大きくなっている。当該帯域は、空気入りタイヤ20の内部構造に不具合がある場合における衝撃音の周波数帯とも重なってくる。
【0024】
このような観点からも、本実施形態に係る故障検査方法が対象とする物体の振動周波数は、100Hz以上、2,000Hz以下であることが好ましい。
【0025】
作業員50は、打撃ツール100による打撃時の衝撃音に基づいて空気入りタイヤ20内部の故障を判定する(S30)。具体的には、作業員50は、自身が聞き取った衝撃音に基づいて空気入りタイヤ20の故障有無を判定してもよいし、携帯端末60に録音された衝撃音のデータを再生して、空気入りタイヤ20の故障有無を判定してもよい。或いは、衝撃音を取得(録音)した携帯端末60(アプリケーションプログラム)が空気入りタイヤ20の故障有無を判定してもよい。
【0026】
空気入りタイヤ20の故障有無は、衝撃音が占める周波数帯域(レンジ)と音圧レベル(SPL)に基づいて判定できる。一般的に、空気入りタイヤ20の内部構造に上述したような不具合がある場合、正常な場合と比較して衝撃音の周波数帯域及び音圧レベルの少なくとも何れかに差が生じることが多い。このような特性を利用して、故障有無を判定してよい。
【0027】
(3)打撃ツールの構造
図5は、打撃ツール100の単体平面図である。
図5に示すように、打撃ツール100は、ハンマーであり、先端部110及び柄部120によって構成される。上述したように、打撃ツール100は、弾性体(主にゴム)によって形成された空気入りタイヤ20の打撃による故障検査に用いられる。
【0028】
先端部110は、空気入りタイヤ20などの物体を打撃する部分である。上述したように、先端部110の材質、大きさ及び形状は、特に限定されない。一方、本実施形態では、先端部110の質量は、300グラム以下である。
【0029】
先端部110は、柄部120の一端に固定されている。柄部120の材質、太さ及び長さは、特に限定されないが、後述するように、柄部120を含む打撃ツール100の全長は、一定の範囲内とすることが好ましい。
【0030】
また、本実施形態では、打撃ツール100の全体質量Xに占める先端部110の質量Yの割合Y/Xは、40%以上である。なお、割合Y/Xは、70%以上であることが好ましい。
【0031】
(4)打撃ツールの種類
表1は、後述する評価試験において用いられた打撃ツールの特徴を示す。
【0032】
【0033】
表1に示すツールA~Jは、打撃ツール100と同様または異なる形状及び寸法を有してよい。具体的には、先端部または柄部の大きさ、長さ、太さ、形状などが異なっていてよい。なお、柄部を含む打撃ツールの全長は、200mm~300mm程度であることが好ましい。また、打撃ツールは、打撃ツール100のようにハンマーでもよいし、先端部と柄部とを備えていれば、ドライバーのようハンマーとは異なる形状でもよい。
【0034】
(5)評価結果
図6は、打撃ツールの全体質量Xに占める先端部質量Yの割合Y/Xと、音圧偏差率との関係を示すグラフである。音圧偏差率とは、打撃ツールによる衝撃音が占める全体帯域のうち、空気入りタイヤ20内部の不具合によって衝撃音の周波数帯または音圧レベルに差が生じた領域(対象帯域)の比率(対象帯域/全体帯域)を意味する。音圧偏差率が高くなる程、打撃ツールによる打撃がぶれ易くなると言える。
【0035】
図6に示すように、音圧偏差率は、打撃ぶれを抑えて故障判定精度を向上させることを考慮すると、概ね15%以下であることが望ましく、打撃ツール100の全体質量Xに占める先端部110の質量Yの割合Y/Xは、概ね40%以上であることが望ましい。
【0036】
図7は、打撃ツールの先端部質量と、ダブルハンマリング発生率との関係を示すグラフである。ダブルハンマリング発生率とは、打撃ツールによる打撃時に、先端部が物体表面から跳ね返り、物体表面を二度叩きしてしまう確率を意味する。
【0037】
図7に示すように、ダブルハンマリング発生率は、二度叩きを抑えて故障判定精度を向上させることを考慮すると、概ね10%以下であることが望ましく、先端部110の質量は、300グラム以下であることが望ましい。
【0038】
図8は、打撃ツールの全体質量Xに占める先端部質量Yの割合Y/Xと、先端部質量との関係を示すグラフである。
図8に示すように、評価試験の結果を踏まえると、打撃ぶれ及びダブルハンマリングを抑えて故障判定精度を向上させることを考慮すると、先端部110の質量を300グラム以下とし、打撃ツールの全体質量Xに占める先端部質量Yの割合Y/Xを40%以上とすること(
図8の斜線領域)が好ましい。
【0039】
表2は、評価試験において用いられた打撃ツール毎の結果を示す。
【0040】
【0041】
(6)作用・効果
上述した実施形態によれば、以下の作用効果が得られる。具体的には、打撃ツール100の先端部110の質量は、300グラム以下であり、打撃ツール100の全体質量Xに占める先端部質量Yの割合Y/Xは、40%以上(好ましくは70%以上)である。
【0042】
このように、打撃ツールの先端部質量、及び打撃ツール全体の質量バランスを最適化することによって、空気入りタイヤ20などの弾性体の打音検査を行う場合でも、打撃ぶれ及びダブルハンマリングを効果的に抑制でき、故障判定精度を向上させることが可能となる。
【0043】
先端部質量が大き過ぎるとダブルハンマリングし易くなる。また、割合Y/Xが小さ過ぎると打撃がぶれ易くなり、繰り返し打撃した際の結果がバラつきやすくなる傾向にある。
【0044】
また、空気入りタイヤ20など、故障検査の対象となる物体の振動周波数は、100Hz以上、2,000Hz以下であることが好ましい。このような振動周波数を有する物体であれば、上述した打撃ツールを用いた高精度な故障検査方法を確立できる。
【0045】
本実施形態では、故障検査方法の対象となる弾性体は、鉱山などの採掘現場を走行する車両10に装着される空気入りタイヤ20である。このような空気入りタイヤ20について、外観上検知できないような故障を早期に検知することは、突発的な故障を防ぎ、車両10のダウンタイム(走行不能時間)低減、延いては採掘現場の生産性の向上に繋がる。また、車両10から空気入りタイヤ20を外しての検査、或いは車両10を整備場などに移動させた上での検査は、採掘現場の生産性を損なう。本実施形態に係る故障検査方法によれば、オンサイトでの故障検査が可能となる。
【0046】
(7)その他の実施形態
以上、実施形態について説明したが、当該実施形態の記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。
【0047】
上述した実施形態では、空気入りタイヤ20は、採掘現場を走行する車両10に装着されていたが、空気入りタイヤが装着される車両、及び空気入りタイヤの種別は、特に限定されない。例えば、トラック、バスなどに装着される重荷重用タイヤでもよいし、一般的な乗用自動車に装着される空気入りタイヤでもよい。
【0048】
上述した実施形態では、空気入りタイヤを故障検査方法の対象としていたが、空気入りタイヤ以外の弾性体を対象としてもよい。例えば、金属または樹脂などの構造物を内部に備えるゴム製品などを対象としてもよい。
【0049】
上述した実施形態では、打撃ツールは、ハンマー或いはドライバーの形状であったが、打撃ツールは、このような形状に限定されない。例えば、柄部と区別できる先端部に該当する部分を有していれば、レンチなどの形状でも構わない。
【0050】
以上、本開示について詳細に説明したが、当業者にとっては、本開示が本開示中に説明した実施形態に限定されるものではないということは明らかである。本開示は、請求の範囲の記載により定まる本開示の趣旨及び範囲を逸脱することなく修正及び変更態様として実施することができる。したがって、本開示の記載は、例示説明を目的とするものであり、本開示に対して何ら制限的な意味を有するものではない。
【符号の説明】
【0051】
10 車両
20 空気入りタイヤ
50 作業員
60 携帯端末
100, 100A, 100B, 100C 打撃ツール
110 先端部
120 柄部
150 打撃ツール