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特開2024-92357吊荷旋回制御装置、及び吊荷旋回制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092357
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】吊荷旋回制御装置、及び吊荷旋回制御方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/08 20060101AFI20240701BHJP
【FI】
B66C13/08 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208236
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】柿崎 道洋
(72)【発明者】
【氏名】穗▲崎▼ 英治
(72)【発明者】
【氏名】下原 正弘
(72)【発明者】
【氏名】吉本 和哲
(57)【要約】
【課題】減速機構の負荷を軽減する吊荷旋回制御装置を提供する。
【解決手段】吊荷の旋回制御にフライホイール21のジャイロ効果を用いる吊荷旋回制御装置であって、フライホイール21を傾動可能に支持するジンバル31と、回転トルクを出力するジンバルモーター30Mと、減速機構33に回転トルクを伝達するトルクリミッター34と、ジンバル31に傾動トルクとして回転トルクを減速出力する減速機構33と、を備え、トルクリミッター34は、ジンバルモーター30Mの制動時に制動トルクの伝達遮断を含める。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊荷の旋回制御にフライホイールのジャイロ効果を用いる吊荷旋回制御装置であって、
前記フライホイールを傾動可能に支持するジンバルと、
回転トルクを出力するジンバルモーターと、
減速機構に前記回転トルクを伝達するトルクリミッターと、
前記ジンバルに傾動トルクとして前記回転トルクを減速出力する前記減速機構と、を備え、
前記トルクリミッターは、前記ジンバルモーターの制動時に制動トルクの伝達遮断を含める
ことを特徴とする吊荷旋回制御装置。
【請求項2】
吊荷の旋回制御にフライホイールのジャイロ効果を用いる吊荷旋回制御方法であって、
ジンバルモーターからトルクリミッターを通じて減速機構に伝達する回転トルクによって前記減速機構に接続されたジンバルに前記フライホイールを傾動させて、前記吊荷を水平旋回させることと、
前記ジンバルモーターから前記トルクリミッターを通じて前記減速機構に伝達する制動トルクによって前記ジンバルに前記フライホイールの傾動を制動させて、外力を受けた前記吊荷の水平旋回を許容することと、を含み、
前記ジンバルモーターの制動時に、前記トルクリミッターによる制動トルクの伝達遮断を含める
ことを特徴とする吊荷旋回制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊荷の旋回を制御する吊荷旋回制御装置、及び吊荷旋回制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吊荷旋回制御装置は、吊荷の旋回制御にジャイロ効果を利用する。吊荷旋回制御装置は、フライホイール、フライホイールモーター、ジンバル、ジンバルモーター、及び減速機構を備える。フライホイールモーターは、回転軸を中心にフライホイールを回転させる。ジンバルは、フライホイールを支持する。ジンバルモーターは、減速機構による減速出力を通じて、回転軸と直交する支軸を中心にフライホイールを傾動させる。そして、高速回転するフライホイールの傾動は、回転軸と支軸とに直交する水平旋回軸の周りにジャイロモーメントを発生させる。ジャイロモーメントは、水平旋回軸の周りに吊荷を水平旋回させたり吊荷を静止させたりする(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
例えば、吊荷旋回制御装置は、能動的に吊荷を水平旋回させる能動旋回を行う。能動旋回において、ジンバルモータがフライホイールを傾動させる。これにより、吊荷を水平旋回させるためのジャイロモーメントが、回転軸と支軸とに直交する水平旋回軸の周りに発生する。ジャイロモーメントは、水平旋回軸の周りに吊荷を強制的に水平旋回させる。
【0004】
例えば、吊荷旋回制御装置は、受動的に吊荷を水平旋回させる受動旋回を行う。受動旋回において、ジンバルモーターがブレーキ機構の駆動を通じて制動トルクを出力する。そして、吊荷を水平旋回させるような風などの外力が吊荷に作用するとき、外力によるジャイロモーメントに抗するように、フライホイールの傾動が制動される。これにより、吊荷旋回制御装置は、外力による吊荷の水平旋回を許容する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-131941号公報
【特許文献2】特開2017-214213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した受動旋回時において、ジンバルモーターの出力軸に接続される減速機構の入力軸は、ジンバルモーターから制動トルクを受ける。一方、ジンバルの支軸に接続される減速機構の出力軸は、利用環境に応じた傾動トルクを負荷として支軸から受け続ける。吊荷旋回制御装置の利用場面では、吊荷を水平旋回させる外力が風などの利用環境の相違によって大きく異なる。そして、利用環境に応じた傾動トルクが過大である場合には、制動トルクと傾動トルクとを受け続ける減速機構に大きな負荷が発生する。吊荷旋回制御装置には、減速機構においてこうした負荷を軽減する技術が切望されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための吊荷旋回制御装置は、吊荷の旋回制御にフライホイールのジャイロ効果を用いる吊荷旋回制御装置であって、前記フライホイールを傾動可能に支持するジンバルと、回転トルクを出力するジンバルモーターと、減速機構に前記回転トルクを伝達するトルクリミッターと、前記ジンバルに傾動トルクとして前記回転トルクを減速出力する前記減速機構と、を備え、前記トルクリミッターは、前記ジンバルモーターの制動時に制動トルクの伝達遮断を含める。
【0008】
上記課題を解決するための吊荷旋回制御方法は、吊荷の旋回制御にフライホイールのジャイロ効果を用いる吊荷旋回制御方法であって、ジンバルモーターからトルクリミッターを通じて減速機構に伝達する回転トルクによって前記減速機構に接続されたジンバルに前記フライホイールを傾動させて、前記吊荷を水平旋回させることと、前記ジンバルモーターから前記トルクリミッターを通じて前記減速機構に伝達する制動トルクによって前記ジンバルに前記フライホイールの傾動を制動させて、外力を受けた前記吊荷の水平旋回を許容することと、を含み、前記ジンバルモーターの制動時に、前記トルクリミッターによる制動トルクの伝達遮断を含める。
【発明の効果】
【0009】
本発明の吊荷旋回制御装置は、減速機構の負荷を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、吊荷旋回制御装置の構成を吊荷と共に示す斜視図である。
図2図2は、フライホイールの回転軸とジンバルの支軸とを示す平面図である。
図3図3は、フライホイールの回転軸とジンバルの支軸とを示す正面図である。
図4図4は、電力供給路及び動力伝達路を示すブロック図である。
図5図5は、吊荷旋回制御装置の処理態様を示す表である。
図6図6は、過負荷時の電力供給路及び動力伝達路を示すブロック図である。
図7図7は、能動旋回時の電力供給路及び動力伝達路を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[吊荷旋回制御装置10]
図1が示すように、吊荷旋回制御装置10は、本体部11、フライホイール21、フライホイールモーター20M、ジンバル31、及びジンバルモーター30Mを備える。本体部11は、クレーン10Cからワイヤー10Wによって吊り下げられる。本体部11は、ワイヤー70Wと吊冶具70とを介して吊荷80を吊り下げる。本体部11は、フライホイール21、フライホイールモーター20M、ジンバル31、及びジンバルモーター30Mを収容する。吊荷旋回制御装置10は、吊荷80の旋回制御にフライホイール21のジャイロ効果を用いる。
【0012】
図2が示すように、フライホイール21は、軸線AXを中心とする円盤状を有する。フライホイール21の外周部は、内周部よりも厚肉である。フライホイール21は、軸線AXの上に2つの回転軸20Aを備える。回転軸20Aは、軸線AXに沿って延びる。
【0013】
ジンバル31は、フライホイール21を収容する。ジンバル31は、ジンバル31の内側から外側に向けて回転軸20Aを挿通する。回転軸20Aは、連結機構23を介してフライホイールモーター20Mに接続されている。連結機構23、及びフライホイールモーター20Mは、ジンバル31に固定されている。フライホイールモーター20Mは、連結機構23の伝達を通じて、回転軸20Aに回転トルクを出力する。各フライホイールモーター20Mは、相互に駆動を同期させる。2つのフライホイールモーター20Mは、回転軸20Aを中心に1つのフライホイール21を回転させる。
【0014】
ジンバル31は、軸線AYの上に2つの支軸30Aを備える。軸線AYは、軸線AXに直交する。支軸30Aは、軸線AYに沿って延びる。支軸30Aは、軸受け32を介して本体部11のフレーム15に支持されている。ジンバル31は、支軸30Aを中心にフライホイール21、及びフライホイールモーター20Mを傾動させる。
【0015】
一方の支軸30Aは、減速機構33に接続されている。減速機構33は、フレーム15に固定されている。他方の支軸30Aは、スリップリング35に接続されている。スリップリング35は、軸受け32を介してフレーム15に固定されている。支軸30Aの回転角は、検出器に検出される。支軸30Aの回転角は、鉛直面に対するフライホイール21の傾動角である。
【0016】
[電力供給路]
図3が示すように、吊荷旋回制御装置10は、制御装置51(図4を参照)、及び電源装置52を備える。制御装置51、及び電源装置52は、本体部11に固定されている。電源装置52は、フライホイールモーター20M、及びジンバルモーター30Mに電力を供給する。フライホイールモーター20Mの電力供給路は、第1配線L1、スリップリング35、及び第2配線L2を備える。ジンバルモーター30Mの電力供給路は、第3配線L3を備える。
【0017】
スリップリング35は、可動端子と固定端子とを備える。可動端子は、固定端子に対して回転しながら固定端子に接触し続ける。固定端子は、フレーム15に固定されている。可動端子は、支軸30Aに固定されている。2つの端子は、リング状の可動端子と、可動端子の周方向に相対的に回転する固定端子でもよい。
【0018】
第1配線L1は、電源装置52からスリップリング35の固定端子に接続されている。第1配線L1は、電源装置52と同じく本体部11に固定されている。第1配線L1は、各フライホイールモーター20Mに1本ずつの3相配線でもよいし、2つのフライホイールモーター20Mに1本ずつの3相配線でもよい。
【0019】
第2配線L2は、フライホイールモーター20Mからスリップリング35の可動端子に接続されている。第2配線L2は、各フライホイールモーター20Mに1本ずつの3相配線でもよい。2つの第2配線L2は、1つの支軸30Aを通じてスリップリング35に集められる。第2配線L2は、フライホイールモーター20Mと同じくジンバル31に固定されている。ジンバル31は、フライホイール21、及びフライホイールモーター20Mと共に、第2配線L2を傾動させる。
【0020】
[動力伝達路]
ジンバルモーター30Mは、正逆回転可能である。ジンバルモーター30Mは、トルクリミッター34に回転トルクを出力する。トルクリミッター34は、減速機構33に回転トルクを伝達する。減速機構33は、支軸30Aに回転トルクを減速出力する。ジンバルモーター30Mの回転トルクは、トルクリミッター34、及び減速機構33の伝達を通じて、フライホイール21を傾動させる。
【0021】
ブレーキ機構30Bは、制御装置51の制御を通じて、作動状態と動作解除状態とに遷移する。ブレーキ機構30Bは、無励磁電磁ブレーキでもよいし、励磁電磁ブレーキでもよい。無励磁ブレーキは、非通電時に制動トルクを加える。励磁電磁ブレーキは、電源装置52による通電時に制動トルクを加える。
【0022】
ブレーキ機構30Bの作動状態は、ジンバルモーター30Mの出力軸に制動トルクを出力する。トルクリミッター34は、減速機構33に制動トルクを伝達する。減速機構33は、支軸30Aに制動トルクを出力する。ジンバルモーター30Mの制動トルクは、フライホイール21の傾動を減速させたり、フライホイール21の傾動を停止させたりする。
【0023】
ブレーキ機構30Bの動作解除状態は、ジンバルモーター30Mの出力軸に制動トルクを出力しない。ブレーキ機構30Bの動作解除状態は、ジンバルモーター30Mに回転トルクを出力させたり、フライホイール21の傾動にジンバルモーター30Mの出力軸を追従させたりする。
【0024】
トルクリミッター34は、設定トルクに基づいて、接続状態と切断状態とに遷移する。トルクリミッター34は、正転方向と逆転方向との両方向において状態を遷移する。トルクリミッター34は、摩擦式でもよいし、ボールラチェット式でもよいし、非接触式でもよい。
【0025】
トルクリミッター34は、減速機構33に伝達するトルクが設定トルク以下であるとき、接続状態を有して、ジンバルモーター30Mから減速機構33にトルクを伝達する。
トルクリミッター34は、減速機構33に伝達するトルクが設定トルクを上回るとき、切断状態を有して、トルクの伝達を遮断する。
【0026】
減速機構33の瞬時最大許容トルクは、減速機構33の出力軸において瞬時に許容される最大トルクである。設定トルクに基づく伝達遮断は、瞬時最大許容トルクを超えないように、減速機構33の出力を抑制する。設定トルクに基づく伝達は、フライホイール21の慣性による傾動を制動できるように、減速機構33に制動トルクを出力させる。
【0027】
[吊荷旋回制御方法]
図4は、吊荷旋回制御装置10の構成を示すブロック図であり、構成間の機械的な接続を実線で示し、電気的な接続を一点鎖線で示す。図5は、制御装置51が実行する処理の各構成の駆動状態を示す。図6、7は、各処理における構成間の接続状態を示す。
【0028】
図4が示すように、制御装置51は、電源装置52によるフライホイールモーター20M、ジンバルモーター30M、及びブレーキ機構30Bの駆動を制御する。制御装置51は、操作部の入力に基づいて各種の処理を実行する。制御装置51が行う吊荷旋回制御方法は、(a)受動旋回、(b)能動旋回、及び(c)姿勢保持の少なくとも1つを含む。制御装置51は、(c)姿勢保持にフライホイール21の傾動角を用いる。
【0029】
(a)受動旋回は、風などの外力による吊荷80の水平旋回を許容する処理である。受動旋回は、例えば吊荷80を目標高さまで吊り上げるときや、目標高さに吊荷80の高さを保つときなどに行われる。
【0030】
(b)能動旋回は、所定方向に吊荷80を水平旋回させる処理である。能動旋回は、例えば風などの外力を受けて水平旋回した吊荷80の姿勢を所定状態に調整したり、目標高さに吊り上げられた吊荷80の姿勢を所定状態に調整したりするときなどに行われる。
【0031】
(c)姿勢保持は、所定状態に吊荷80の姿勢を保持する処理である。姿勢保持は、例えば所定状態に姿勢を調整された吊荷80を静止させたり、目標位置に吊荷80を吊り下げたりするときなどに用いられる。
【0032】
[受動旋回]
図5が示すように、制御装置51は、受動旋回において、フライホイールモーター20Mにフライホイール21を回転させる。また、制御装置51は、受動旋回において、ジンバルモーター30Mに駆動を停止させると共に、ブレーキ機構30Bを作動させる。
【0033】
ここで、吊荷80を水平旋回させる風などの外力は、水平旋回軸と軸線AXとに直交する軸線AYの周りにジャイロモーメントを発生させる。ジャイロモーメントは、ジンバルモーター30Mの制動トルクに抗するような、フライホイール21の傾動トルクである。
【0034】
風などの外力が小さい定常時では、ジャイロモーメントがフライホイール21に小さい傾動トルクを加える。フライホイール21の小さい傾動トルクは、トルクリミッター34の伝達トルクを設定トルク以下にする。この場合、トルクリミッター34がトルクの伝達を保つ。結果として、ジャイロモーメントは、減速機構33に伝達される制動トルクに抗するように、フライホイール21を緩やかに傾動させる。これにより、吊荷旋回制御装置10は、吊荷80と共に緩やかに水平旋回する。
【0035】
風などの外力が大きい過負荷時では、ジャイロモーメントがフライホイール21に過大な傾動トルクを加える。フライホイール21の過大な傾動トルクは、トルクリミッター34の伝達トルクを設定トルクよりも高める。この場合、図6が示すように、トルクリミッター34がトルクの伝達を遮断する。結果として、ジャイロモーメントは、フライホイール21の傾動に変換されると共に、制動トルクを受けていない減速機構33を空転させる。これにより、吊荷旋回制御装置10は、吊荷80の水平旋回を停止する。
【0036】
このように、吊荷旋回制御装置10は、受動旋回において、設定トルク以下で吊荷80の受動旋回を許容しながらも、設定トルクを上回るような減速機構33の過負荷を抑える。また、吊荷旋回制御装置10は、減速機構33の空転に傾動トルクを変換する分だけ、制動トルクの伝達を遮断しながらも、過大な傾動トルクによるフライホイール21の急な傾動を抑える。
【0037】
[能動旋回]
図5に戻り、制御装置51は、能動旋回において、フライホイールモーター20Mにフライホイール21を回転させる。また、制御装置51は、能動旋回において、ブレーキ機構30Bを動作解除として、ジンバルモーター30Mを駆動させる。
【0038】
ここで、ジンバルモーター30Mから減速機構33に伝達される回転トルクは、減速機構33において瞬時最大許容トルク以下である。この場合、図7が示すように、トルクリミッター34がトルクの伝達を保つ。結果として、ジンバルモーター30Mは、支軸30Aに回転トルクを出力してフライホイール21を傾動させる。フライホイール21の傾動は、軸線AXと軸線AYとに直交する水平旋回軸の周りにジャイロモーメントを発生させる。ジャイロモーメントは、水平旋回軸の周りに吊荷80を強制的に水平旋回させる。
【0039】
[姿勢保持]
図5に戻り、制御装置51は、姿勢保持において、フライホイールモーター20Mにフライホイール21を回転させる。また、制御装置51は、姿勢保持において、ブレーキ機構30Bを動作解除として、ジンバルモーター30Mに駆動を停止させる。
【0040】
ここでも、吊荷80を水平旋回させる風などの外力は、水平旋回軸と軸線AXとに直交する軸線AYの周りにジャイロモーメントを発生させる。ジャイロモーメントは、フライホイール21の傾動トルクである。
【0041】
ジンバルモーター30Mが出力を停止している定常時では、フライホイール21の傾動トルクがトルクリミッター34の伝達トルクを設定トルク以下にする。この場合、トルクリミッター34がトルクの伝達を保つ。結果として、ジャイロモーメントは、フライホイール21の傾動に変換されると共に、ジンバルモーター30Mを慣性によって回転させる。これにより、吊荷旋回制御装置10は、吊荷80に姿勢を保持させる。
【0042】
一方、フライホイール21の傾動角が高角度に達すると、制御装置51は、ブレーキ機構30Bを作動させて、ジンバルモーター30Mに制動トルクを出力させる。ジンバルモーター30Mの制動トルクは、トルクリミッター34の伝達を通じて支軸30Aに出力される。そして、軸線AYの周りのジャイロモーメントに抗するように、フライホイール21が制動される。結果として、傾動角が高角度を上回るようなフライホイール21の傾動が抑えられる。そして、吊荷旋回制御装置10は、姿勢を保持されていた吊荷80と共に水平旋回しはじめる。
【0043】
高角度を上回る傾動角での傾動の制動は、仮に、フライホイールモーター20Mが電源装置52に1つの配線で接続されている場合、配線の巻き付きや緊張を緩和する。また、制御装置51に検出器を接続する信号線も、信号線の巻き付きや緊張を緩和される。
【0044】
そして、フライホイール21の傾動角が高角度からさらに高まるとき、吊荷80を水平旋回させる風などの外力は、上述した受動旋回時と同じく、ジンバルモーター30Mの制動トルクに抗するように、フライホイール21の傾動トルクを高める。こうした過回転時においても、図6で説明したように、トルクリミッター34がトルクの伝達を遮断する。
【0045】
このように、吊荷旋回制御装置10は、姿勢保持において、設定トルク以下で吊荷80の姿勢保持を可能にしながらも、設定トルクを上回るような減速機構33の過負荷を抑える。
【0046】
そして、フライホイールモーター20Mの傾動は、電源装置52に対するフライホイールモーター20Mの相対位置や相対距離を変える。一方、スリップリング35の可動端子に対するフライホイールモーター20Mの相対位置や相対距離は変わらない。フライホイールモーター20Mに電力を供給する第2配線L2は、こうしたスリップリング35の可動端子に接続される。このため、フライホイール21の傾動角が高角度に達するとしても、フライホイールモーター20Mの傾動は、第2配線L2に巻き付けや緊張などの負荷を与えがたい。
【0047】
[効果]
以上、上記実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られる。
(1)第1配線L1と第2配線L2とがスリップリング35を介して接続される。そして、第1配線L1が電源装置52と共にフレーム15に固定され、かつ第2配線L2がフライホイールモーター20Mと共に傾動する。このため、フライホイールモーター20Mの傾動による配線の負荷が軽減される。
【0048】
(2)フライホイールモーター20M、及び第2配線L2が共にジンバル31の外表面に固定されている場合、フライホイールモーター20Mに対する第2配線L2の変位が抑えられる。このため、第2配線L2がフライホイールモーター20Mから自重によって撓んだりフライホイールモーター20Mの傾動によって揺れたりすることも抑えられる。結果として、第2配線L2の支軸30Aに対する巻き付きがさらに抑えられる。
【0049】
(4)トルクリミッター34による伝達遮断がジンバルモーター30Mの制動時に行われる。トルクリミッター34による伝達遮断は、減速機構33にジンバルモーター30Mの制動トルクを伝達しない。このため、吊荷80を水平旋回させるような外力がフライホイール21の傾動トルクを高めるとしても、制動トルクが入力されていない分だけ、減速機構33が過負荷の発生を抑制できる。
【0050】
(5)フライホイール21の傾動角が高角度に達するときに、フライホイールモーター20Mが制動トルクを出力する。これにより、傾動角が高角度を上回るような大きな傾動が制動される。高角度を上回るような大きな傾動は、フライホイールモーター20Mの配線に大きな変位を招きやすい。このため、傾動角が高角度を上回るようなフライホイール21の大きな傾動の制動は、配線の巻き付きや緊張を抑える。
【0051】
(6)また、傾動角が高角度を上回るような大きな傾動を制動するときにも、トルクリミッター34による伝達遮断が行われる。このため、上記(4)に準じた効果の有効性が高まる。
【0052】
なお、上記実施形態は、以下のように変更できる。
[電力供給系]
・スリップリング35のリング端子がフレーム15に固定され、かつスリップリング35の静止端子がジンバル31の支軸30Aと共に回転してもよい。
【0053】
・吊荷旋回制御装置10は、フライホイール21と共に傾動する検出器を備えてもよい。検出器は、フライホイール21の回転速度を検出してもよいし、フライホイール21の回転位置を検出してもよい。検出器の検出結果を伝送する信号配線は、スリップリング35に検出器を接続してもよい。この構成によれば、フライホイール21の傾動による信号配線の負荷が軽減される。
【0054】
[動力伝達系]
・ジンバルモーター30Mは、トルクリミッター34と一体でもよいし、トルクリミッター34、及び減速機構33と一体でもよいし、トルクリミッター34、及び減速機構33と別体でもよい。
【0055】
・吊荷旋回制御装置10は、1つのフライホイールモーター20Mを割愛すると共に、他の1つのフライホイールモーター20Mによってフライホイール21を高速回転させてもよい。
【0056】
上記実施形態と変更例とから導き出される技術的思想を以下に付記する。
(付記1)
吊荷の旋回制御にフライホイールのジャイロ効果を用いる吊荷旋回制御装置であって、
支軸を中心に前記フライホイールを傾動させるジンバルと、前記フライホイールと共に傾動するフライホイールモーターと、前記支軸に取り付けられたスリップリングと、前記スリップリングと前記フライホイールモーターとに接続されて前記フライホイールモーターに電力を供給する配線と、を備える。
【0057】
(付記2)
前記配線は、前記ジンバルに固定されている、付記1に記載の吊荷旋回制御装置。
上記付記2によれば、上記(2)に準じた効果が得られる。
【0058】
(付記3)
吊荷の旋回制御にフライホイールのジャイロ効果を用いる吊荷旋回制御装置であって、
前記フライホイールを傾動可能に支持するジンバルと、回転トルクを出力するジンバルモーターと、減速機構に前記回転トルクを伝達するトルクリミッターと、前記ジンバルに傾動トルクとして前記回転トルクを減速出力する前記減速機構と、を備え、
前記トルクリミッターは、前記ジンバルモーターの制動時に制動トルクの伝達遮断を含める。
【0059】
上記付記3によれば、減速機構の負荷を軽減できる。
(付記4:受動回転)
前記ジンバルモーターの駆動を制御する制御装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記ジンバルモーターから前記トルクリミッターを通じて前記減速機構に伝達する前記制動トルクによって前記ジンバルに前記フライホイールの傾動を制動させて、外力を受けた前記吊荷の水平旋回を許容するとき、前記トルクリミッターに前記制動トルクの伝達遮断を含める、付記3に記載の吊荷旋回制御装置。
【0060】
(付記5:過回転)
前記制御装置は、前記フライホイールの傾動角が所定角度に達するとき、前記ジンバルモーターに制動トルクを出力させる、付記3に記載の吊荷旋回制御装置。
【0061】
(付記6:能動回転)
前記制御装置は、前記ジンバルモーターから前記トルクリミッターを通じて前記減速機構に伝達する回転トルクによって前記減速機構に接続されたジンバルに前記フライホイールを傾動させて、前記吊荷を水平旋回させる、付記4または5に記載の吊荷旋回制御装置。
【符号の説明】
【0062】
10…吊荷旋回制御装置、20M…フライホイールモーター、21…フライホイール、30A…支軸、30M…ジンバルモーター、31…ジンバル、33…減速機構、34…トルクリミッター、35…スリップリング、80…吊荷。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7