(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092397
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】移動体速度推定装置及び移動体速度推定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01P 3/56 20060101AFI20240701BHJP
G01P 7/00 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
G01P3/56 Z
G01P7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208298
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】318006365
【氏名又は名称】JRCモビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】飯島 一貴
(57)【要約】
【課題】本開示は、移動体の走行状態によらず、車速パルス発生器及び加速度センサを用いて、移動体の速度を高精度に推定することを目的とする。
【解決手段】本開示は、移動体が発進し加速する段階において、(1)車速パルス信号に基づく移動体の速度及び/又は加速度センサ2が計測した移動体の加速度の時間積分値が、予め設定された所定速度以上となる前では、加速度センサ2が計測した移動体の加速度の時間積分値を移動体の速度として選択し、(2)車速パルス信号に基づく移動体の速度及び/又は加速度センサ2が計測した移動体の加速度の時間積分値が、予め設定された所定速度以上となった後では、車速パルス信号に基づく移動体の速度を移動体の速度として選択する移動体速度選択部32を備える移動体速度推定装置3である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載される車速パルス発生器が出力した車速パルス信号に基づいて、前記移動体の速度を計算し、前記移動体に搭載され前記移動体の加速度を計測する加速度センサから、前記移動体の加速度の情報を取得する移動体データ取得部と、
前記移動体が発進し加速する段階において、(1)前記車速パルス信号に基づく前記移動体の速度及び/又は前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度の時間積分値が、予め設定された所定速度以上となる前では、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度の時間積分値を前記移動体の速度として選択し、(2)前記車速パルス信号に基づく前記移動体の速度及び/又は前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度の時間積分値が、予め設定された前記所定速度以上となった後では、前記車速パルス信号に基づく前記移動体の速度を前記移動体の速度として選択する移動体速度選択部と、
を備えることを特徴とする移動体速度推定装置。
【請求項2】
前記移動体が発進する前に停止している段階において、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度の所定期間平均値に基づいて、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度のオフセット値を設定する加速度オフセット設定部、をさらに備え、
前記移動体速度選択部は、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度から、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度のオフセット値を除去し、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度の時間積分値を前記移動体の速度として選択する
ことを特徴とする、請求項1に記載の移動体速度推定装置。
【請求項3】
移動体に搭載される車速パルス発生器が出力した車速パルス信号に基づいて、前記移動体の速度を計算し、前記移動体に搭載され前記移動体の加速度を計測する加速度センサから、前記移動体の加速度の情報を取得する移動体データ取得部と、
前記移動体が減速し停止する段階において、(1)前記車速パルス信号に基づく前記移動体の速度及び/又は前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度の時間積分値が、予め設定された所定速度以下となる前では、前記車速パルス信号に基づく前記移動体の速度を前記移動体の速度として選択し、(2)前記車速パルス信号に基づく前記移動体の速度及び/又は前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度の時間積分値が、予め設定された前記所定速度以下となった後では、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度の時間積分値を前記移動体の速度として選択する移動体速度選択部と、
を備えることを特徴とする移動体速度推定装置。
【請求項4】
前記移動体が前記所定速度を超える速度で走行している段階において、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度の所定期間平均値と、前記車速パルス信号に基づく前記移動体の速度の時間微分値と、に基づいて、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度のオフセット値を設定する加速度オフセット設定部、をさらに備え、
前記移動体速度選択部は、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度から、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度のオフセット値を除去し、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度の時間積分値を前記移動体の速度として選択する
ことを特徴とする、請求項3に記載の移動体速度推定装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の移動体速度推定装置が備える各処理部が行なう各処理ステップを、コンピュータに実行させるための移動体速度推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移動体の速度を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体の速度を計測する技術が、特許文献1、2等に開示されている。特許文献1では、移動体に搭載される車速パルス発生器を用いて、車速パルス信号の周波数に基づいて、移動体の速度を計測する。特許文献2では、移動体に搭載される加速度センサを用いて、移動体の加速度の時間積分値に基づいて、移動体の速度を計測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6400450号公報
【特許文献2】特許第6003146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術の車速パルス発生器を用いた速度計測の問題点を説明する。
図1は、移動体が発進し低速域から中高速域へと加速する段階において、車速パルス発生器が出力する車速パルスを用いて計算した移動体の速度の時間変化である。
図1には車両の挙動が分かるように、加速度センサにより同時取得した移動体の加速度も併せて示している。車速パルス信号に基づく速度計算の方法は、一般にパルスとパルスの時間間隔を計測することでパルスの周波数を計算し、パルスの周波数に基づいて移動体の速度を計算する。
【0005】
移動体が発進する段階において、車速パルス信号に基づく移動体の速度は、出力遅延が生じている。また、移動体が低速域で加速する段階において、車速パルス信号に基づく移動体の速度は、分解能が低くなっている。これは、車速パルス信号の間隔が疎であり、次の車速パルス信号が検出されるまでの時間の分だけ、車速パルス信号の周波数算出に遅延が生じるためである。移動体が中高速域で走行する段階において、車速パルス信号に基づく移動体の速度は、出力遅延が生じておらず、分解能が高くなっている。これは、移動体の速度が上がるにつれて車速パルス信号の間隔が密になることで、次の車速パルス信号が検出されるまでの時間が短くなり、車速パルス信号の周波数算出に遅延がほぼ生じないためである。
【0006】
従来技術の加速度センサを用いた速度計測の問題点を説明する。
図2は、移動体が発進し低速域から中高速域へと加速する段階において、加速度センサを用いて、移動体の加速度を計測し、加速度を積分することで計算した移動体の速度の時間変化である。
図2には比較のため、車速パルス信号に基づいて計算された移動体の速度も併せて示している。加速度センサを用いた速度計算は、車速パルス信号のように周波数を計算する必要はないが、計測した加速度にはバイアス成分が含まれており、この加速度を積分して得られる速度にもバイアス成分が含まれ、多くの場合において速度誤差の要因となる。
【0007】
移動体が発進し低速域で加速する段階において、加速度センサに基づく移動体の速度は、出力遅延が生じておらず、分解能が高くなっている。これは、加速度センサは一般に高いレートで移動体の加速度を計測することができ、出力遅延が少ないためである。移動体が中高速域で走行する段階において、加速度センサに基づく移動体の速度は、車速パルス信号に基づく移動体の速度と比べて、誤差が徐々に大きくなっている。これは、加速度センサに基づく移動体の速度は、前述のバイアス成分を含む加速度を積分することにより、時間経過に伴い積分誤差を蓄積するためである。
【0008】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、移動体の走行状態によらず、車速パルス発生器及び加速度センサを用いて、移動体の速度を高精度に推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、移動体が発進し加速する段階において、車速パルス発生器及び加速度センサのうち、一方の短所を他方の長所で補完する。つまり、移動体が発進から低速域で加速する段階において、加速度センサが計測した移動体の加速度の時間積分値を、移動体の速度として選択する。一方で、移動体が中高速域で走行する段階において、車速パルス信号に基づく移動体の速度を、移動体の速度として選択する。
【0010】
具体的には、本開示は、移動体に搭載される車速パルス発生器が出力した車速パルス信号に基づいて、前記移動体の速度を計算し、前記移動体に搭載され前記移動体の加速度を計測する加速度センサから、前記移動体の加速度の情報を取得する移動体データ取得部と、前記移動体が発進し加速する段階において、(1)前記車速パルス信号に基づく前記移動体の速度及び/又は前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度の時間積分値が、予め設定された所定速度以上となる前では、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度の時間積分値を前記移動体の速度として選択し、(2)前記車速パルス信号に基づく前記移動体の速度及び/又は前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度の時間積分値が、予め設定された前記所定速度以上となった後では、前記車速パルス信号に基づく前記移動体の速度を前記移動体の速度として選択する移動体速度選択部と、を備えることを特徴とする移動体速度推定装置である。
【0011】
この構成によれば、移動体が低速域で加速する段階において、加速度センサが計測した移動体の加速度の時間積分値は、出力遅延が生じず、分解能が高くなる。一方で、移動体が中高速域で走行する段階において、車速パルス信号に基づく移動体の速度は、移動体の加速度と異なり、バイアス成分を含まないため、時間経過による誤差蓄積が起こらない。よって、移動体の走行状態(発進時、低速域及び中高速域)によらず、車速パルス発生器及び加速度センサを用いて、移動体の速度を高精度に推定することができる。
【0012】
また、本開示は、前記移動体が発進する前に停止している段階において、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度の所定期間平均値に基づいて、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度のオフセット値を設定する加速度オフセット設定部、をさらに備え、前記移動体速度選択部は、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度から、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度のオフセット値を除去し、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度の時間積分値を前記移動体の速度として選択することを特徴とする移動体速度推定装置である。
【0013】
この構成によれば、移動体が低速域で加速する段階より以前に、移動体が直近に停止していた段階において、加速度センサが計測した加速度のオフセット値が記録され、計測された加速度からオフセット値を除去する。よって、移動体が低速域で加速する段階において、加速度センサが計測した移動体の加速度の時間積分値は、バイアス成分による積分誤差を最小限にすることができる。
【0014】
前記課題を解決するために、移動体が減速し停止する段階において、車速パルス発生器及び加速度センサのうち、一方の短所を他方の長所で補完する。つまり、移動体が中高速域で走行する段階において、車速パルス信号に基づく移動体の速度を、移動体の速度として選択する。一方で、移動体が低速域で減速する段階において、加速度センサが計測した移動体の加速度の時間積分値を、移動体の速度として選択する。
【0015】
具体的には、本開示は、移動体に搭載される車速パルス発生器が出力した車速パルス信号に基づいて、前記移動体の速度を計算し、前記移動体に搭載され前記移動体の加速度を計測する加速度センサから、前記移動体の加速度の情報を取得する移動体データ取得部と、前記移動体が減速し停止する段階において、(1)前記車速パルス信号に基づく前記移動体の速度及び/又は前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度の時間積分値が、予め設定された所定速度以下となる前では、前記車速パルス信号に基づく前記移動体の速度を前記移動体の速度として選択し、(2)前記車速パルス信号に基づく前記移動体の速度及び/又は前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度の時間積分値が、予め設定された前記所定速度以下となった後では、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度の時間積分値を前記移動体の速度として選択する移動体速度選択部と、を備えることを特徴とする移動体速度推定装置である。
【0016】
この構成によれば、移動体が中高速域で走行する段階において、車速パルス信号に基づく移動体の速度は、移動体の加速度と異なり、バイアス成分を含まないため、時間経過による誤差蓄積が起こらない。一方で、移動体が低速域で減速する段階において、加速度センサが計測した移動体の加速度の時間積分値は、出力遅延が生じず、分解能が高くなる。よって、移動体の走行状態(中高速域、低速域及び停止時)によらず、車速パルス発生器及び加速度センサを用いて、移動体の速度を高精度に推定することができる。
【0017】
また、本開示は、前記移動体が前記所定速度を超える速度で走行している段階において、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度の所定期間平均値と、前記車速パルス信号に基づく前記移動体の速度の時間微分値と、に基づいて、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度のオフセット値を設定する加速度オフセット設定部、をさらに備え、前記移動体速度選択部は、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度から、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度のオフセット値を除去し、前記加速度センサが計測した前記移動体の加速度の時間積分値を前記移動体の速度として選択することを特徴とする移動体速度推定装置である。
【0018】
この構成によれば、移動体が低速域で減速する段階より以前に、移動体が直近に中高速域で走行していた段階において、加速度センサが計測した加速度のオフセット値が記録され、計測された加速度からオフセット値を除去する。よって、移動体が低速域で減速する段階において、加速度センサが計測した移動体の加速度の時間積分値は、バイアス成分による積分誤差を最小限にすることができる。
【0019】
また、本開示は、以上に記載の移動体速度推定装置が備える各処理部が行なう各処理ステップを、コンピュータに実行させるための移動体速度推定プログラムである。
【0020】
この構成によれば、以上に記載の効果を有するプログラムを提供することができる。
【発明の効果】
【0021】
このように、本開示は、移動体の走行状態によらず、車速パルス発生器及び加速度センサを用いて、移動体の速度を高精度に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】従来技術の車速パルス発生器を用いて計算した移動体の速度の時間変化を示す図である。
【
図2】従来技術の加速度センサを用いて計算した移動体の速度の時間変化を示す図である。
【
図3】本開示の移動体速度推定システムの構成を示す図である。
【
図4】本開示の発進加速段階の移動体速度推定処理の手順を示す図である。
【
図5】本開示の発進加速段階の移動体速度推定処理の具体例を示す図である。
【
図6】本開示の減速停止段階の移動体速度推定処理の手順を示す図である。
【
図7】本開示の減速停止段階の移動体速度推定処理の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0024】
(本開示の移動体速度推定システムの構成)
本開示の移動体速度推定システムの構成を
図3に示す。移動体速度推定システムSは、車速パルス発生器1、加速度センサ2及び移動体速度推定装置3を備える。移動体速度推定装置3は、移動体データ取得部31、移動体速度選択部32及び加速度オフセット設定部33を備える。移動体速度推定装置3は、
図4、6に示す移動体速度推定プログラムを、コンピュータにインストールすることにより、実現することができる。
【0025】
車速パルス発生器1は、自動車等の移動体に搭載され、車軸回転数に基づく車速パルス信号を出力する。なお、車速パルス発生器1と同様な機構は、農業機械又は鉄道車両等にも搭載されていることもある。移動体速度推定装置3は、車速パルス信号の周波数に基づいて、移動体の速度Vmeaを計算する。加速度センサ2は、自動車等の移動体に搭載され、移動体の加速度Amea(移動体の加速度の時間積分値が、移動体の速度に対応する。)を計測する。
【0026】
移動体速度推定装置3は、移動体が発進し加速する段階において、車速パルス発生器1及び加速度センサ2のうち、一方の短所を他方の長所で補完する。つまり、移動体速度推定装置3は、移動体が発進から低速域で加速する段階において、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaの時間積分値を、移動体の推定速度Vestとして選択する。一方で、移動体速度推定装置3は、移動体が中高速域で走行する段階において、車速パルス信号に基づく移動体の速度Vmeaを、移動体の推定速度Vestとして選択する。この処理の詳細については、(本開示の発進加速段階の移動体速度推定処理の手順)において後述する。
【0027】
移動体速度推定装置3は、移動体が減速し停止する段階において、車速パルス発生器1及び加速度センサ2のうち、一方の短所を他方の長所で補完する。つまり、移動体速度推定装置3は、移動体が中高速域で走行する段階において、車速パルス信号に基づく移動体の速度Vmeaを、移動体の推定速度Vestとして選択する。一方で、移動体速度推定装置3は、移動体が低速域で減速する段階において、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaの時間積分値を、移動体の推定速度Vestとして選択する。この処理の詳細については、(本開示の減速停止段階の移動体速度推定処理の手順)において後述する。
【0028】
(本開示の発進加速段階の移動体速度推定処理の手順)
本開示の発進加速段階の移動体速度推定処理の手順を
図4に示す。本開示の発進加速段階の移動体速度推定処理の具体例を
図5に示す。
図5では、移動体が発進し低速域から中高速域へと加速する段階において、車速パルス発生器1が出力する車速パルスを用いて、移動体の速度を計測し、加速度センサ2も用いて、移動体の加速度積分値から速度を計測する。
【0029】
移動体データ取得部31は、毎回の演算において、車速パルス信号に基づいて、移動体の速度Vmeaを計算し、加速度センサ2から、移動体の加速度Ameaの情報を取得する(ステップS1)。毎回の演算において、以下のステップS2~S7が実行される。
【0030】
移動体データ取得部31は、加速度センサ2が計測した移動体の加速度A
meaの所定期間平均値A
aveと、加速度センサ2が計測した移動体の加速度A
meaの所定期間分散値A
varと、を計算する(ステップS2)。ここで、加速度センサ2が計測した移動体の加速度A
meaの各瞬間値は、ばらついているが(
図1の停止している区間を参照)、加速度センサ2が計測した移動体の加速度A
meaの所定期間平均値A
aveは、出力遅延が問題とならない範囲で平均計算により平滑化される。
【0031】
移動体データ取得部31は、移動体が発進する前に停止しているかどうかを判定する(ステップS3)。具体的には、移動体データ取得部31は、車速パルス信号が入力されていない期間が、所定期間以上であるかどうかを判定する(
図1の停止を参照)。かつ/又は、移動体データ取得部31は、加速度センサ2が計測した移動体の加速度A
meaの所定期間分散値A
varが、所定分散値以下であるかどうかを判定する(
図1の停止を参照)。
【0032】
加速度オフセット設定部33は、移動体が発進する前に所定期間以上停止していると判定されたならば(ステップS3、YES)、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaの所定期間平均値Aaveに基づいて、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaのオフセット値Aоffset(=Aave)を設定する(ステップS4)。加速度オフセット設定部33は、移動体が発進する前に所定期間以上停止していると判定されなければ(ステップS3、NO)、処理を実行しない。
【0033】
図5では、加速度オフセット設定部33は、移動体が発進する前に所定期間以上停止していると判定されたときに、加速度センサ2が計測した移動体の加速度A
meaのオフセット値A
оffsetを1回のみ設定している。しかし、加速度オフセット設定部33は、移動体が発進する前に停止している段階の時間長さに応じて、加速度センサ2が計測した移動体の加速度A
meaのオフセット値A
оffsetを定期的に2回以上設定してもよい。
【0034】
移動体速度選択部32は、移動体の速度が予め設定された所定速度以上であるかどうかを判定する(ステップS5)。具体的には、移動体速度選択部32は、車速パルス信号に基づく移動体の速度Vmeaが、所定速度以上であるかどうかを判定する。かつ/又は、移動体速度選択部32は、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaの時間積分値Vint(ステップS6を参照)が、所定速度以上であるかどうかを判定する。
【0035】
ここで、ステップS5の「所定速度」は、以下の基準で設定されることが望ましい:(1)移動体の速度が0から所定速度へと変化する期間内に、加速度センサ2のバイアス成分がステップS4で設定された設定値から変動しない、(2)移動体の速度が所定速度から中高速域へと変化する期間内に、車速パルス信号のパルス間隔がある程度密であり、移動体の速度に分解能の劣化が発生しない。
【0036】
移動体速度選択部32は、移動体の速度が予め設定された所定速度以上となる前では(ステップS5、NO)、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaの時間積分値Vintを、移動体の推定速度Vestとして選択する(ステップS6)。ここで、移動体速度選択部32は、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaから、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaのオフセット値Aоffsetを除去する。
【0037】
つまり、ステップS6の「移動体の加速度A
meaの時間積分値V
int」は、数式1により計算される。ただし、t=Tは、加速度センサ2のオフセット値A
оffsetが設定された時刻からの経過時間を示す。そして、t=0では、移動体の速度は0である。
【数1】
【0038】
移動体速度選択部32は、移動体の速度が予め設定された所定速度以上となった後では(ステップS5、YES)、車速パルス信号に基づく移動体の速度Vmeaを、そのまま移動体の推定速度Vestとして選択する(ステップS7)。
【0039】
このように、移動体が低速域で加速する段階において、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaの時間積分値Vintは、出力遅延が生じず、分解能が高くなる。一方で、移動体が中高速域で走行する段階において、車速パルス信号に基づく移動体の速度Vmeaは、移動体の加速度Ameaと異なり、バイアス成分を含まないため、時間経過による誤差蓄積が起こらない。
【0040】
よって、移動体の走行状態(発進時、低速域及び中高速域)によらず、車速パルス発生器1及び加速度センサ2を用いて、移動体の速度Vestを高精度に推定することができる。そして、移動体が低速域で加速する段階より以前に、移動体が直近に停止していた段階において、加速度センサ2が計測した加速度Ameaのオフセット値Aоffsetが記録され、計測された加速度Ameaからオフセット値Aоffsetを除去する。よって、移動体が低速域で加速する段階において、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaの時間積分値Vintは、バイアス成分による積分誤差を最小限にすることができ、移動体の速度Vestが高精度に推定される。
【0041】
一般に、移動体の発進時において、大きなトルクが掛かるため車輪が空転してしまい、車速パルス信号を基に計算した速度が正しくない場合もある。本開示では、移動体の発進時において、大きなトルクが掛かるため車輪が空転したとしても、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaの時間積分値Vintを、移動体の推定速度Vestとして選択するため、移動体の速度Vestを高精度に推定することができる。
【0042】
なお、移動体の速度が予め設定された所定速度以上となる前でも(ステップS5、NO)、所定速度への到達までに時間を要するときには、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaの時間積分値Vintではなく、車速パルス信号に基づく移動体の速度Vmeaに切り替え、移動体の推定速度Vestとして選択することもできる。
【0043】
(本開示の減速停止段階の移動体速度推定処理の手順)
本開示の減速停止段階の移動体速度推定処理の手順を
図6に示す。本開示の減速停止段階の移動体速度推定処理の具体例を
図7に示す。
図7では、移動体が中高速域から低速域へと減速し停止する段階において、車速パルス発生器1が出力する車速パルスを用いて、移動体の速度を計測し、加速度センサ2も用いて、移動体の加速度積分値から速度を計測する。
【0044】
移動体データ取得部31は、毎回の演算において、車速パルス信号に基づいて、移動体の速度Vmeaを計算し、加速度センサ2から、移動体の加速度Ameaの情報を取得する(ステップS8)。毎回の演算において、以下のステップS9~S14が実行される。
【0045】
移動体データ取得部31は、加速度センサ2が計測した移動体の加速度A
meaの所定期間平均値A
aveを計算する(ステップS9、加速度センサ2が計測した移動体の加速度A
meaの所定期間分散値A
varは不要)。ここで、加速度センサ2が計測した移動体の加速度A
meaの各瞬間値は、ばらついているが(
図1の停止している区間を参照)、加速度センサ2が計測した移動体の加速度A
meaの所定期間平均値A
aveは、出力遅延が問題とならない範囲で平均計算により平滑化される。
【0046】
移動体データ取得部31は、移動体が所定速度を超える速度で走行しているかどうかを判定する(ステップS10)。具体的には、移動体データ取得部31は、車速パルス信号に基づく移動体の速度Vmeaが、所定速度を超えるかどうかを判定する。かつ/又は、移動体データ取得部31は、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaの時間積分値Vint(ステップS14を参照)が、所定速度を超えるかどうかを判定する。
【0047】
加速度オフセット設定部33は、移動体が所定速度を超える速度で走行している段階において(ステップS10、YES)、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaの所定期間平均値Aaveと、車速パルス信号に基づく移動体の速度Vmeaの時間微分値Adifと、に基づいて、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaのオフセット値Aоffset(=Aave-Adif)を設定する(ステップS11)。ここで、車速パルス信号に基づく移動体の速度Vmeaの時間微分値Adifは、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaの所定期間平均値Aaveと比べて、移動体が所定速度を超える速度で走行している段階において高精度である。加速度オフセット設定部33は、移動体が所定速度を超える速度で走行している段階でなければ(ステップS10、NO)、処理を実行しない。
【0048】
ただし、加速度オフセット設定部33は、移動体が所定速度を超える速度かつ「一定速度」で走行している段階において、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaのオフセット値Aоffsetを設定することが望ましい。これは、移動体が「一定速度」で走行しているときには(速度Vmeaの時間微分値Adif=0)、重力加速度のみが移動体に掛かっているため、加速度センサ2のオフセット値Aоffsetが正確に設定されるためである。
【0049】
しかし、加速度オフセット設定部33は、移動体が所定速度を超える速度かつ「加減速状態」で走行している段階において、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaのオフセット値Aоffsetを設定することもできる。これは、移動体が「加減速状態」で走行しているときにも(速度Vmeaの時間微分値Adif≠0)、速度Vmeaの時間微分値Adifが高精度であれば、加速度センサ2のオフセット値Aоffsetも高精度になるためである。
【0050】
図7では、加速度オフセット設定部33は、移動体が所定速度を超える速度で走行している段階において、加速度センサ2が計測した移動体の加速度A
meaのオフセット値A
оffsetを2回設定している。しかし、加速度オフセット設定部33は、移動体が所定速度を超える速度で走行している段階の時間長さに応じて、加速度センサ2が計測した移動体の加速度A
meaのオフセット値A
оffsetを1回のみ又は定期的に複数回設定してもよい。
【0051】
移動体速度選択部32は、移動体の速度が予め設定された所定速度以下であるかどうかを判定する(ステップS12)。具体的には、移動体速度選択部32は、車速パルス信号に基づく移動体の速度Vmeaが、所定速度以下であるかどうかを判定する。かつ/又は、移動体速度選択部32は、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaの時間積分値Vint(ステップS14を参照)が、所定速度以下であるかどうかを判定する。
【0052】
ここで、ステップS12の「所定速度」は、以下の基準で設定されることが望ましい:(1)移動体の速度が中高速域から所定速度へと変化する期間内に、車速パルス信号のパルス間隔がある程度密であり、移動体の速度に分解能の劣化が発生しない、(2)移動体の速度が所定速度から0へと変化する期間内に、加速度センサ2のバイアス成分がステップS11で設定された設定値から変動しない。
【0053】
移動体速度選択部32は、移動体の速度が予め設定された所定速度以下となる前では(ステップS12、NO)、車速パルス信号に基づく移動体の速度Vmeaを、そのまま移動体の推定速度Vestとして選択する(ステップS13)。
【0054】
移動体速度選択部32は、移動体の速度が予め設定された所定速度以下となった後では(ステップS12、YES)、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaの時間積分値Vintを、移動体の推定速度Vestとして選択する(ステップS14)。ここで、移動体速度選択部32は、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaから、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaのオフセット値Aоffsetを除去する。
【0055】
つまり、ステップS14の「移動体の加速度A
meaの時間積分値V
int」は、数式2により計算される。ただし、t=Tは、移動体の速度が予め設定された所定速度となった時刻からの経過時間を示す。そして、t=0では、移動体の速度はV
mea(t=0)である。
【数2】
【0056】
このように、移動体が中高速域で走行する段階において、車速パルス信号に基づく移動体の速度Vmeaは、移動体の加速度Ameaと異なり、バイアス成分を含まないため、時間経過による誤差蓄積が起こらない。一方で、移動体が低速域で減速する段階において、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaの時間積分値Vintは、出力遅延が生じず、分解能が高くなる。
【0057】
よって、移動体の走行状態(中高速域、低速域及び停止時)によらず、車速パルス発生器1及び加速度センサ2を用いて、移動体の速度Vestを高精度に推定することができる。そして、移動体が低速域で減速する段階より以前に、移動体が直近に中高速域で走行していた段階において、加速度センサ2が計測した加速度Ameaのオフセット値Aоffsetが記録され、計測された加速度Ameaからオフセット値Aоffsetを除去する。よって、移動体が低速域で減速する段階において、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaの時間積分値Vintは、バイアス成分による積分誤差を最小限にすることができ、移動体の速度Vestが高精度に推定される。
【0058】
さらに、移動体の中高速域において、急ブレーキが掛かり、車輪がロックしたとしても、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaの時間積分値Vintを、移動体の推定速度Vestとして選択するため、移動体の速度Vestを高精度に推定することができる。
【0059】
なお、移動体の速度が予め設定された所定速度以下となった後でも(ステップS12、YES)、停止速度0への到達までに時間を要するときには、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaの時間積分値Vintではなく、車速パルス信号に基づく移動体の速度Vmeaに切り替え、移動体の推定速度Vestとして選択することもできる。
【0060】
また、移動体の速度が予め設定された所定速度以下となった後でも(ステップS12、YES)、加速度センサ2のバイアス成分の影響を受けないために、加速度センサ2が計測した移動体の加速度Ameaの時間積分値Vintではなく、車速パルス信号に基づく移動体の速度Vmeaを維持して、移動体の推定速度Vestとして選択することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本開示の移動体速度推定装置及び移動体速度推定プログラムは、自動車等の移動体の走行状態によらず、車速パルス発生器及び加速度センサのうち、一方の短所を他方の長所で補完したうえで、移動体の速度を高精度に推定することができる。
【符号の説明】
【0062】
S:移動体速度推定システム
1:車速パルス発生器
2:加速度センサ
3:移動体速度推定装置
31:移動体データ取得部
32:移動体速度選択部
33:加速度オフセット設定部