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▶ 株式会社永谷園の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092398
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】インスタント食材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20240701BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240701BHJP
   A23L 7/148 20160101ALI20240701BHJP
【FI】
A23L7/10 H
A23L5/00 J
A23L7/10 Z
A23L7/148
A23L7/10 A
A23L7/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208299
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】592061902
【氏名又は名称】株式会社永谷園ホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】石川 拓也
【テーマコード(参考)】
4B023
4B025
4B035
【Fターム(参考)】
4B023LC05
4B023LE20
4B023LE26
4B023LG04
4B023LK17
4B023LK18
4B023LP16
4B025LB13
4B025LG03
4B025LG36
4B025LG56
4B025LG58
4B025LP19
4B035LC03
4B035LE01
4B035LG34
4B035LG48
4B035LG50
4B035LG51
4B035LK19
4B035LP41
4B035LP42
(57)【要約】
【課題】穀物の形状を保持し且つ復元性に優れたインスタント食材を実現し得る技術を提供する。
【解決手段】インスタント食材の製造方法は、吸水させた穀物を、前記穀物の吸水前の質量に対する酵素活性の合計の比が10乃至900U/gの範囲内になるようにアミラーゼ、セルラーゼ及びヘミセルラーゼからなる群より選ばれる1以上の酵素を含んだ温水中での酵素処理へ供することと、前記酵素処理後の前記穀物を加熱処理へ供して、デンプンの糊化を生じさせることと、前記加熱処理後の前記穀物を凍結乾燥へ供することとを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水させた穀物を、前記穀物の吸水前の質量に対する酵素活性の合計の比が10乃至900U/gの範囲内になるようにアミラーゼ、セルラーゼ及びヘミセルラーゼからなる群より選ばれる1以上の酵素を含んだ温水中での酵素処理へ供することと、
前記酵素処理後の前記穀物を加熱処理へ供して、デンプンの糊化を生じさせることと、
前記加熱処理後の前記穀物を凍結乾燥へ供することと
を含んだインスタント食材の製造方法。
【請求項2】
吸水させた穀物を、前記穀物の吸水前の質量に対するアミラーゼの酵素活性の比が20乃至400U/gの範囲内になるようにアミラーゼを含んだ温水中での酵素処理へ供することと、
前記酵素処理後の前記穀物を加熱処理へ供して、デンプンの糊化を生じさせることと、
前記加熱処理後の前記穀物を凍結乾燥へ供することと
を含んだインスタント食材の製造方法。
【請求項3】
前記温水はセルラーゼ及びヘミセルラーゼを含まない請求項2に記載のインスタント食材の製造方法。
【請求項4】
前記温水は米麹を含み、前記1以上の酵素は前記米麹に含まれるものである請求項1又は2に記載のインスタント食材の製造方法。
【請求項5】
前記酵素処理は、30乃至80℃の温度範囲内で、5乃至90分の時間に亘って行う請求項1又は2に記載のインスタント食材の製造方法。
【請求項6】
前記加熱処理は、前記酵素処理後の前記穀物を加圧加熱することを含んだ請求項1又は2に記載のインスタント食材の製造方法。
【請求項7】
前記凍結処理に先立って、前記加熱処理後の前記穀物を加水処理又は水洗処理へ供することを更に含んだ請求項1又は2に記載のインスタント食材の製造方法。
【請求項8】
前記凍結処理に先立って、前記加熱処理後の前記穀物を加水処理へ供することを更に含み、前記加水処理は、加熱処理した前記穀物を、前記穀物の吸水前の質量に対するアミラーゼの酵素活性の比が0.5乃至10U/gの範囲内になるようにアミラーゼを含んだ水と混合することを含んだ請求項1又は2に記載のインスタント食材の製造方法。
【請求項9】
前記穀物はもち麦である請求項1又は2に記載のインスタント食材の製造方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の製造方法によって得られるインスタント食材。
【請求項11】
前記穀物はもち麦である請求項10に記載のインスタント食材。
【請求項12】
湯戻しすることにより、硬さが0.25乃至0.75kgfの範囲内にあり、弾力性が0.80乃至1.00の範囲内にある復元物を生じる請求項11に記載のインスタント食材。
【請求項13】
請求項10に記載のインスタント食材と調味料とを含んだインスタント食品。
【請求項14】
前記穀物はもち麦である請求項13に記載のインスタント食品。
【請求項15】
前記インスタント食材は、湯戻しすることにより、硬さが0.25乃至0.75kgfの範囲内にあり、弾力性が0.80乃至1.00の範囲内にある復元物を生じる請求項14に記載のインスタント食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスタント食材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、調理の手間が省け、簡単に喫食できる食品に対するニーズが高まっている。そのような食品の研究及び開発が進められ、多数の製品が市場に出回っている。
【0003】
これら食品の中でも、湯戻しすることにより喫食可能になるインスタント食品は、保存性に優れるとともに、軽量であるという特徴を有している。これらの特徴から、インスタント食品は、広く普及している。
【0004】
インスタント食品としては、麺類や汁類が代表的である。インスタント食品としては、米などの穀物を蒸煮などによる糊化及び乾燥へ順次供してなるインスタント食材を含んだものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62-19061号公報
【特許文献2】特開平8-294365号公報
【特許文献3】特開2016-189727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
穀物を糊化及び乾燥へ順次供してなるインスタント食材には、復元性について改善の余地があるものがある。
【0007】
本発明は、穀物の形状を保持し且つ復元性に優れたインスタント食材を実現し得る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によると、吸水させた穀物を、前記穀物の吸水前の質量に対する酵素活性の合計の比が10乃至900U/gの範囲内になるようにアミラーゼ、セルラーゼ及びヘミセルラーゼからなる群より選ばれる1以上の酵素を含んだ温水中での酵素処理へ供することと、前記酵素処理後の前記穀物を加熱処理へ供して、デンプンの糊化を生じさせることと、前記加熱処理後の前記穀物を凍結乾燥へ供することとを含んだインスタント食材の製造方法が提供される。
【0009】
本発明の他の側面によると、吸水させた穀物を、前記穀物の吸水前の質量に対するアミラーゼの酵素活性の比が20乃至400U/gの範囲内になるようにアミラーゼを含んだ温水中での酵素処理へ供することと、前記酵素処理後の前記穀物を加熱処理へ供して、デンプンの糊化を生じさせることと、前記加熱処理後の前記穀物を凍結乾燥へ供することとを含んだインスタント食材の製造方法が提供される。
【0010】
本発明の更に他の側面によると、前記温水はセルラーゼ及びヘミセルラーゼを含まない上記側面の何れかに係るインスタント食材の製造方法が提供される。
【0011】
本発明の更に他の側面によると、前記温水は米麹を含み、前記1以上の酵素は前記米麹に含まれるものである上記側面の何れかに係るインスタント食材の製造方法が提供される。
【0012】
本発明の更に他の側面によると、前記酵素処理は、30乃至80℃の温度範囲内で、5乃至90分の時間に亘って行う上記側面の何れかに係るインスタント食材の製造方法が提供される。
【0013】
本発明の更に他の側面によると、前記加熱処理は、前記酵素処理後の前記穀物を加圧加熱することを含んだ上記側面の何れかに係るインスタント食材の製造方法が提供される。
【0014】
本発明の更に他の側面によると、前記凍結処理に先立って、前記加熱処理後の前記穀物を加水処理又は水洗処理へ供することを更に含んだ上記側面の何れかに係るインスタント食材の製造方法が提供される。
【0015】
或いは、本発明の更に他の側面によると、前記凍結処理に先立って、前記加熱処理後の前記穀物を加水処理へ供することを更に含み、前記加水処理は、加熱処理した前記穀物を、前記穀物の吸水前の質量に対するアミラーゼの酵素活性の比が0.5乃至10U/gの範囲内になるようにアミラーゼを含んだ水と混合することを含んだ上記側面の何れかに係るインスタント食材の製造方法が提供される。
【0016】
本発明の更に他の側面によると、前記穀物はもち麦である上記側面の何れかに係るインスタント食材の製造方法が提供される。
【0017】
本発明の更に他の側面によると、上記側面の何れかに係る製造方法によって得られるインスタント食材が提供される。
【0018】
本発明の更に他の側面によると、前記穀物はもち麦であり、湯戻しすることにより、硬さが0.25乃至0.75kgfの範囲内にあり、弾力性が0.80乃至1.00の範囲内にある復元物を生じる上記側面に係るインスタント食材が提供される。
【0019】
本発明の更に他の側面によると、上記側面の何れかに係るインスタント食材と調味料とを含んだインスタント食品が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、穀物の形状を保持し且つ復元性に優れたインスタント食材を実現し得る技術が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
【0022】
実施形態に係るインスタント食材の製造方法では、先ず、インスタント食材とすべき穀物を準備する。穀物は、例えば、禾穀類又は擬禾穀類である。
【0023】
禾穀類は、単子葉植物であるイネ科作物の種子である。禾穀類としては、例えば、大麦、小麦、燕麦、蕎麦、鳩麦、及びライ麦等の麦類が挙げられる。
【0024】
擬禾穀類は、双子葉植物の種子である。擬禾穀類としては、例えば、高黍、キヌア、アマランサス、粟、及び稗が挙げられる。
【0025】
穀物は、一例によれば、大麦である。大麦には、二条大麦と六条大麦とがある。大麦は、二条大麦、六条大麦、及びそれらの組み合わせの何れでもよい。大麦は、裸麦であってもよい。大麦は、好ましくは六条大麦である。
【0026】
大麦には、もち性のものと、うるち性のものとがある。大麦は、もち性の大麦は、「もち麦」と呼ばれている。もち麦は、アミロースを殆ど含んでおらず、糊化した場合にモチモチとし且つプチプチとした食感を与える。うるち性の大麦は、「うるち麦」と呼ばれている。うるち麦は、アミロースとアミロペクチンとを含んでおり、糊化した場合に、サラッとし、あっさりとした食感を与える。ここで、「もち麦」は、全国精麦工業協同組合連合会による定義に従う「もち性大麦」である。もち性大麦(裸麦を含む)は、もち性遺伝子型を有する大麦である。
【0027】
大麦は、もち麦、うるち麦、及びそれらの組み合わせの何れでもよい。一例によれば、大麦はもち麦である。
【0028】
穀物からは、外皮を除去しておく。穀物は、糊粉層の少なくとも一部を更に除去したものであってもよい。穀物は、他の処理を更に施したものであってもよい。例えば、穀物が大麦である場合、大麦は丸麦であってもよい。ここでは、一例として、穀物は、もち性の大麦から外皮と糊粉層の少なくとも一部とを除去して丸麦としたものであるとする。
【0029】
穀物は、乾燥品である。穀物の水分含有量は、好ましくは4乃至20質量%の範囲内にあり、より好ましくは8乃至16質量%の範囲内にある。
【0030】
次に、穀物を吸水させる。例えば、穀物を水に浸漬させて、穀物の水分含有量を高める。この吸水は、例えば、0乃至50℃の温度範囲内で、60乃至1800分の時間に亘って行う。この吸水は、4乃至30℃の温度範囲内で、120乃至1440分の時間に亘って行うことが好ましい。また、この吸水は、吸水後の穀物の質量が吸水前の穀物の質量に対して、130乃至240%の範囲内になるように行うことが好ましく、170乃至210%の範囲内になるように行うことがより好ましい。
【0031】
次に、吸水させた穀物を酵素処理へ供する。この酵素処理により、穀物粒子の少なくとも表面において糖化を生じさせる。この糖化を適度に進行させると、穀物の吸水を促進するとともに、後述する加熱処理において粒子からデンプンが過度に溶出するのを抑制することができる。
【0032】
酵素処理は、アミラーゼ、セルラーゼ及びヘミセルラーゼからなる群より選ばれる1以上の酵素を、穀物の吸水前の質量に対する酵素活性の合計の比が10乃至900U/gの範囲内になるように含んだ温水中で行う。ここで、アミラーゼ、セルラーゼ及びヘミセルラーゼの酵素活性は、以下の方法によって得られる活性を1単位(U)としている。
【0033】
即ち、アミラーゼの酵素活性は、デンプン(溶性)を基質とし、40℃、pH5.0において、30分間に1%デンプン溶液1mLを、ヨウ素呈色度が波長670nm、光路長10mmで66%の透過率を与えるまで分解する活性を1単位(U)としている。
【0034】
セルラーゼの酵素活性は、カルボキシメチルセルロースを基質とし、40℃、pH4.5において、1分間に1μmolのブドウ糖に相当する還元力を生成する活性を1単位(U)としている。
【0035】
ヘミセルラーゼの酵素活性は、主体としているキシラナーゼについて、キシロースを基質として測定する。1質量%のキシラン溶液へキシラナーゼ水溶液を加えて40℃の温度に30分間保った場合に生じる還元糖をソモギー法により定量し、1mgのキシロースを生成する活性を1単位(U)としている。
【0036】
酵素処理に使用する温水がアミラーゼを含む場合、穀物の吸水前の質量に対するアミラーゼの酵素活性の比は、20乃至400U/gの範囲内にあることが好ましく、30乃至100U/gの範囲内にあることがより好ましい。
【0037】
酵素処理に使用する温水がセルラーゼを含む場合、穀物の吸水前の質量に対するセルラーゼの酵素活性の比は、10乃至300U/gの範囲内にあることが好ましく、30乃至100U/gの範囲内にあることがより好ましい。
【0038】
酵素処理に使用する温水がヘミセルラーゼを含む場合、穀物の吸水前の質量に対するヘミセルラーゼの酵素活性の比は、10乃至200U/gの範囲内にあることが好ましく、30乃至100U/gの範囲内にあることがより好ましい。
【0039】
温水中に米麹を含有させ、米麹が含むアミラーゼを上記酵素として利用してもよい。この場合、米麹の量は、穀物の吸水前の質量に対するアミラーゼの酵素活性の比が上記範囲内になるように調節することが好ましい。米麹の量は、吸水前の穀物100質量部に対して、5乃至50質量部の範囲内とすることが好ましく、10乃至30質量部の範囲内とすることがより好ましい。
【0040】
酵素処理は、30乃至80℃の温度範囲内で行うことが好ましく、40乃至70℃の温度範囲内で行うことがより好ましい。酵素処理は、5乃至90分の時間に亘って行うことが好ましく、10乃至60分の時間に亘って行うことがより好ましい。
【0041】
酵素処理における加水量、即ち、上記温水の量は、吸水させた穀物の質量と温水の質量との合計が穀物の吸水前の質量に対して、200乃至450%の範囲内になるように行うことが好ましく、280乃至380%の範囲内になるように行うことがより好ましい。
【0042】
次に、酵素処理した穀物を、加熱処理へ供する。これにより、デンプンの糊化を生じさせる。
【0043】
加熱処理は、例えば、蒸煮、常圧での煮沸、又は加圧加熱である。復元物がモチモチとした食感を与えるインスタント食材を得るうえでは、加熱処理は、酵素処理した穀物を加圧加熱することを含んでいることが好ましい。
【0044】
蒸煮は、1乃至50分の時間に亘って行うことが好ましく、3乃至35分の時間に亘って行うことがより好ましい。常圧での煮沸は、15乃至50分の時間に亘って行うことが好ましく、20乃至35分の時間に亘って行うことがより好ましい。加圧加熱は、105乃至135℃の温度で行うことが好ましく、115乃至125℃の温度で行うことがより好ましい。加圧加熱は、1乃至30分の時間に亘って行うことが好ましく、3乃至18分の時間に亘って行うことがより好ましい。
【0045】
次いで、加熱処理後の穀物を、好ましくは加水処理へ供する。加水処理は、例えば、加熱処理後の穀物への水を散布することにより行う。この加水処理を行うと、穀物粒子間の結着が弱まる。
【0046】
加水処理には、アミラーゼを含んだ水を使用してもよい。例えば、加水処理には、米麹を含んだ水を使用してもよい。
【0047】
アミラーゼを含んだ水を使用すると、粒子間の結着を更に弱めることができる。アミラーゼを含んだ水を加水処理に使用する場合、穀物の吸水前の質量に対するアミラーゼの酵素活性の比は、0.5乃至10U/gの範囲内にあることが好ましく、0.8乃至3U/gの範囲内にあることがより好ましい。
【0048】
また、この加水処理を行うと、穀物の水分含有量を更に高めることができる。加水処理は、穀物の加水処理後の質量が穀物の吸水前の質量に対して、250乃至500%の範囲内になるように行うことが好ましく、350乃至450%の範囲内になるように行うことがより好ましい。
【0049】
加水処理の代わりに、加熱処理後の穀物を水洗処理へ供してもよい。水洗処理でも、穀物粒子間の結着を弱めることができる。
【0050】
加水処理又は水洗処理を行うと、品質により優れたインスタント食材を得ることができる。
【0051】
その後、穀物を凍結乾燥へ供する。この凍結乾燥において行う凍結は、急速凍結であってもよく、緩慢凍結であってもよい。凍結乾燥は、穀物の水分含有量が、0.1乃至10質量%の範囲内になるように行うことが好ましく、0.5乃至5質量%の範囲内になるように行うことがより好ましい。
以上のようにして、凍結乾燥品をインスタント食材として得る。
【0052】
このようにして得られるインスタント食材は、インスタント麺等とは異なり、穀物の形状を保持している。
【0053】
また、このインスタント食材は、復元性に優れている。即ち、このインスタント食材は、短時間の湯戻しで、芯が残っているなどの硬い食感を喫食者へ与えることがない状態まで復元する。例えば、このインスタント食材は、80℃の湯で3乃至5分間に亘って湯戻しすることにより、芯残りがない状態にまで復元する。そして、このインスタント食材がもち麦から得られたものである場合、その復元物の硬さは、例えば、0.25乃至0.75kgfの範囲内にある。この場合、特に好ましいインスタント食材は、その復元物の硬さが0.50乃至0.70kgfの範囲内にある。なお、この「硬さ」は、サタケ社製の硬さ・粘り計RHS1Aを用いた測定によって得られる値である。
【0054】
また、上記の方法によって得られるインスタント食材は、復元した場合に喫食者へ優れた食感を与え得る。例えば、もち麦から上記の方法によって製造したインスタント食材は、復元した場合に、適度な硬さと、高い弾力性とを有し得る。
【0055】
特に、穀物としてもち麦を使用し、酵素処理において酵素としてアミラーゼを使用した場合、インスタント食材の復元物は、ぬめりや粘りがなく、プチプチとした食感を喫食者に与え得る。そして、穀物としてもち麦を使用し、酵素処理において酵素としてアミラーゼを使用し、加熱処理において加熱温度を高くするか又は加熱時間を長くし、アミラーゼを含んだ水を使用した加水処理を行った場合、インスタント食材の復元物は、ぬめりや粘りがなく、プチプチとし且つモチモチとした食感を喫食者に与え得る。例えば、このインスタント食材の復元物の弾力性は、0.80乃至1.00の範囲内にある。そして、特に好ましいインスタント食材の復元物の弾力性は、0.82乃至0.90の範囲内にある。なお、この「弾力性」は、サタケ社製の硬さ・粘り計RHS1Aを用いた測定によって得られる値である。
【0056】
更に、上記の方法において酵素処理に米麹を使用すると、復元物が穀物臭を発しないインスタント食材を得ることができる。
【0057】
上記のインスタント食材は、その復元物を単独で喫食可能なインスタント食品とすることができる。或いは、上記のインスタント食材と、調味料などの他の食材と組み合わせて、インスタント食品とすることができる。このようなインスタント食品の一例は、インスタントスープである。
【0058】
調味料は、例えば、粉末調味料、液体調味料、又はそれらの組み合わせである。調味料は、袋などの包装体内に収容されていてもよい。粉末調味料は、上記のインスタント食材と混ぜ合わされていてもよい。
【0059】
上記のインスタント食品は、これを収容した包装体とともに、インスタント包装食品を構成することができる。一例によれば、包装体は袋である。他の例によれば、包装体は、上方に開口を有する容器本体と、その開口を塞ぐ蓋体とを含んだ容器である。
【実施例0060】
以下に、本発明に関連して行った試験について記載する。
【0061】
<1>インスタント食材の製造
(例1)
先ず、穀物として、600gの丸麦を準備した。ここでは、丸麦として米国産のもち麦を準備した。このもち麦の水分含有量は、9.5質量%であった。
【0062】
次に、このもち麦の全量を、温度が18℃の水に、2.5時間に亘って浸漬させた。これにより、もち麦を吸水させた。
【0063】
次いで、吸水させたもち麦を水切りし、これに、乾燥米麹と水とを加えた。この乾燥米麹は、水分含有量が8.9質量%であった。乾燥米麹の量は60gとした。即ち、乾燥米麹の量は、吸水前のもち麦100質量部に対して10質量部とした。これにより、もち麦の吸水前における質量に対するアミラーゼの酵素活性の比を40U/gとした。また、ここでは、この工程で加えた水の量と前工程においてもち麦に吸収させた水の量との合計が1800gとなるように、水の量を調節した。即ち、この工程で加えた水の量と前工程においてもち麦に吸収させた水の量との合計が、吸水前のもち麦100質量部に対して300質量部となるように、水の量を調節した。続いて、もち麦と米麹と水とを含んだ混合物を、60℃で20分間に亘る酵素処理へ供した。
【0064】
次に、酵素処理後のもち麦を加熱処理に供した。ここでは、101℃で30分間に亘る蒸煮を行った。
【0065】
次に、加熱処理後のもち麦へ、加水処理を行った。具体的には、加熱処理後のもち麦へ、乾燥米麹を含んだ水を散布した。乾燥米麹としては、酵素処理において使用したのと同じものを使用した。乾燥米麹の量は2gとし、これにより、もち麦の吸水前の質量に対するアミラーゼの酵素活性の比を1U/gとした。また、ここでは、この工程で加えた水の量と、これよりも前の工程においてもち麦に吸収させた水の全量との合計が約2200gとなるように、水の量を調節した。即ち、この工程で加えた水の量と、これよりも前の工程においてもち麦に吸収させた水の全量との合計が、吸水前のもち麦100質量部に対して370質量部となるように、水の量を調節した。
【0066】
その後、これを凍結乾燥へ供した。ここでは、-7℃の温度で16時間に亘って冷却することにより、もち麦を凍結させた。続いて、これを凍結乾燥させることにより、インスタント食材を得た。
【0067】
(例2)
酵素処理において乾燥米麹の代わりにアミラーゼを使用したこと以外は例1と同様の方法により、インスタント食材を製造した。酵素処理において、もち麦の吸水前における質量に対するアミラーゼの酵素活性の比は、例1と同様に40U/gとした。
【0068】
(例3)
酵素処理において乾燥米麹の代わりにヘミセルラーゼを使用したこと以外は例1と同様の方法により、インスタント食材を製造した。もち麦の吸水前における質量に対するヘミセルラーゼの酵素活性の比は、65U/gとした。
【0069】
(例4)
酵素処理の時間を20分間から50分間へ変更したこと以外は例1と同様の方法により、インスタント食材を製造した。
【0070】
(例5)
酵素処理の温度を60℃から50℃へ変更したこと以外は例1と同様の方法により、インスタント食材を製造した。
【0071】
(例6)
酵素処理において乾燥米麹の代わりに乾燥米麹とヘミセルラーゼとを使用したこと以外は例1と同様の方法により、インスタント食材を製造した。酵素処理において、もち麦の吸水前における質量に対するアミラーゼの酵素活性の比は、例1と同様に40U/gとした。また、もち麦の吸水前における質量に対するヘミセルラーゼの酵素活性の比は、65U/gとした。
【0072】
(例7)
加熱処理として蒸煮を行う代わりに加圧加熱を行ったこと以外は例1と同様の方法により、インスタント食材を製造した。加圧加熱は、125℃の温度で5分間に亘って行った。
【0073】
(例8)
加熱処理として蒸煮を行う代わりに加圧加熱を行ったこと以外は例1と同様の方法により、インスタント食材を製造した。加圧加熱は、120℃の温度で12分間に亘って行った。
【0074】
(例9)
加熱処理として蒸煮を行う代わりに加圧加熱を行ったこと以外は例1と同様の方法により、インスタント食材を製造した。加圧加熱は、115℃の温度で15分間に亘って行った。
【0075】
(例10)
加水処理の代わりに水洗処理を行ったこと以外は例1と同様の方法により、インスタント食材を製造した。
【0076】
(例11)
加熱処理として蒸煮を行う代わりに加圧加熱を行い、加水処理を省略したこと以外は例1と同様の方法により、インスタント食材を製造した。加圧加熱は、125℃の温度で5分間に亘って行った。
【0077】
(比較例1)
酵素処理の代わりに以下の処理を行ったこと以外は例1と同様の方法により、インスタント食材を製造した。即ち、酵素処理の代わりに、60℃への加温及び20分間の保持を行わなかったこと以外は例1の酵素処理と同様の処理を行った。
【0078】
(比較例2)
酵素処理の代わりに以下の処理を行ったこと以外は例1と同様の方法により、インスタント食材を製造した。即ち、酵素処理の代わりに、米麹の使用を省略したこと以外は例1の酵素処理と同様の処理を行った。
【0079】
(比較例3)
以下の点を除き、例1と同様の方法によりインスタント食材を製造した。即ち、酵素処理の代わりに、米麹の使用を省略したこと以外は例1の酵素処理と同様の処理を行った。また、加熱処理として、蒸煮を行う代わりに、加圧加熱を行った。加圧加熱は、125℃の温度で5分間に亘って行った。
【0080】
<2>評価
例1乃至11及び比較例1乃至3において製造したインスタント食材の各々から10gを量り取り、これを茶碗へ入れた。次に、茶碗へ80℃の湯150gを注ぎ、3分経過後に芯残りの有無を確認した。
【0081】
芯残りがなかったものについては、食感及び臭いに関する評価を行った。また、芯残りがなかったものについては、サタケ社製の硬さ・粘り計RHS1Aを用いて、硬さ及び弾力性を測定した。この測定は、湯切りし、更に水冷した試料7gを測定用下皿へ充填し、常法に従って行った。
【0082】
芯残りがあったものについては、復元時間を3分から5分へ変更したこと以外は、上記と同様の方法で熱湯による復元を行い、芯残りの有無を確認した。そして、上記と同様に、食感及び臭いに関する評価と、硬さ及び弾力性の測定とを行った。
【0083】
また、もち麦を含んだ市販のインスタント食品についても、それらの復元物の各々からもち麦を採取し、上記と同様の方法で硬さ及び弾力性を測定した。ここでは、市販のインスタント食品として、凍結乾燥されたブロック状の粥(FD粥)と、凍結乾燥されたスープ(FDスープ)とを使用した。
【0084】
更に、もち麦を含んだ市販のレトルト食品についても、それらを指定通りに加温した後、各々からもち麦を採取し、上記と同様の方法で硬さ及び弾力性を測定した。ここでは、市販のレトルト食品として、2種類のレトルト粥(レトルト粥A、レトルト粥B)と、レトルトもち麦とを使用した。
結果を、以下の表1乃至3に記載する。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
表1及び2に示すように、例1乃至11において製造したインスタント食材は、湯を注いでから5分以内に、芯残りがない状態まで復元した。特に、酵素処理に米麹及びヘミセルラーゼの少なくとも一方を使用した例1及び4乃至11において製造したインスタント食材は、湯を注いでから3乃至5分以内に、芯残りがない状態まで復元した。これに対し、酵素処理を行わなかった比較例1乃至3において製造したインスタント食材は、湯を注いでから5分経過しても、芯残りがない状態まで復元しなかった。
【0089】
また、表1及び2に示すように、例1乃至11において製造したインスタント食材は、復元物の硬さが0.53乃至0.70kgfの範囲内あり、弾力性が0.80乃至0.85の範囲内にあった。これに対し、酵素処理を行わなかった比較例1乃至3において製造したインスタント食材は、復元物の硬さが0.80kgf以上であった。そして、酵素処理を行わずに、加熱処理を高温且つ短時間で行った比較例3において製造したインスタント食材は、復元物の弾力性が0.76であった。
【0090】
なお、表3に示すように、FD粥及びFDスープの復元物から採取したもち麦並びにレトルト粥の再加熱品から採取したもち麦は、硬さが0.21kgf以下であり、弾力性が0.94以上であった。即ち、これらは、弾力性に富むが、非常に軟らかいというものであった。また、表3に示すように、レトルトもち麦の再加熱品から採取したもち麦は、硬さが1.39kgfであり、弾力性が0.78であった。即ち、このもち麦は、硬く且つ弾力性が低いというものであった。
【0091】
また、酵素処理にヘミラーゼを使用せずに米麹又はアミラーゼを使用した例1、2、4、5、及び7乃至11において製造したインスタント食材は、復元物がプチプチとした食感を与えた。但し、酵素処理の温度を低くした例5において製造したインスタント食材は、復元物が与えるプチプチとした食感が弱かった。また、酵素処理にヘミラーゼを使用せずに米麹又はアミラーゼを使用し、加熱処理として蒸煮の代わりに加圧加熱を行った例7乃至9において製造したインスタント食材は、復元物がプチプチとした食感に加えて、モチモチとした食感を与えた。これに対し、酵素処理にヘミラーゼを使用した例3及び6において製造したインスタント食材は、復元物にぬめり又は粘りを感じた。また、酵素処理を行わなかった比較例1乃至3において製造したインスタント食材は、復元物を硬く感じた。酵素処理を行わず、加熱処理として蒸煮の代わりに加圧加熱を行った比較例3において製造したインスタント食材は、復元物を硬く感じるとともに、復元物に強い粘りを感じた。
【0092】
そして、表1及び2に示すように、酵素処理に米麹を使用した例1及び4乃至11において製造したインスタント食材は、復元物に穀物臭を感じることはなかった。これに対し、酵素処理に米麹を使用しなかった例2及び3並びに酵素処理を行わなかった比較例1乃至3において製造したインスタント食材は、復元物に穀物臭を感じた。