(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092409
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】手術用顕微鏡システム
(51)【国際特許分類】
A61B 90/20 20160101AFI20240701BHJP
G02B 21/22 20060101ALI20240701BHJP
G02B 21/18 20060101ALI20240701BHJP
G02B 21/36 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
A61B90/20
G02B21/22
G02B21/18
G02B21/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208312
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】390013033
【氏名又は名称】三鷹光器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】中村 勝重
【テーマコード(参考)】
2H052
【Fターム(参考)】
2H052AA13
2H052AB01
2H052AB10
2H052AB19
2H052AB21
2H052AB24
2H052AD04
2H052AD09
2H052AF14
(57)【要約】
【課題】ドクターが視野の中央以外の箇所を観察する際に、手術顕微鏡を移動させることなく、視線をその箇所に向けるだけで、その箇所に焦点を合わせることができる手術用顕微鏡システムを提供する。
【解決手段】視線カメラ13で検出したドクターDの視線から観察点検出部14により視野E内の観察点EBの位置を検出する。オートフォーカス部8によりその視野Eの観察点EBに合致するモニターM側の観察点MBのコントラスト値を最大にすべく対物光学系6の可動レンズ5を移動させる。そうすると焦点がその観察点MBに合った状態となり、視野E内の観察点EBも焦点があった状態となる。そのためドクターDは視野Eの中央EA以外の箇所を観察する場合も、手術顕微鏡1を移動させることなく、視線をその箇所に向けるだけで、その箇所に焦点を合わせることができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
術部で反射された光束を取入れ且つ光軸に沿って移動自在な焦点距離可変用の可動レンズを含む対物光学系と、可動レンズを移動させるフォーカス手段と、対物光学系を通過した光束が導かれる変倍光学系と、変倍光学系を通過した左右一対の光束をドクターの両眼に導いて術部を一定の視野で光学的に観察できる接眼部とを備えた手術顕微鏡と、
手術顕微鏡に対して取付けられ、手術顕微鏡内の光束の一部を分岐して取込んで術部の映像を撮影し、撮影した映像信号を出力する術部カメラと、
術部カメラから出力された映像信号が入力され、該映像信号に基づく映像を接眼部から見た視野の中心と映像面の中心とを合致させた状態で表示するモニターと、
ドクターの左右一方の眼からの反射光を取入れ、その眼の瞳の動きを映像認識して視野の中央に対するドクターの視線を検出する視線カメラと、
視線カメラで検出したドクターの視線から視野の中央に対する観察点の位置を検出する観察点検出部と、
視野内の観察点に該当するモニターの映像面内の観察点における映像のコントラスト値を最大にすべくフォーカス手段に対して可動レンズをフォーカス方向へ移動させる制御信号を出力するオートフォーカス部と、を備えることを特徴とする手術用顕微鏡システム。
【請求項2】
視線カメラが手術顕微鏡内の術部カメラ用の光学要素を利用してドクターの眼からの反射光を取入れることを特徴とする請求項1記載の手術用顕微鏡システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は術部を撮影してモニターに表示することもできる手術用顕微鏡システムに関する。
【背景技術】
【0002】
脳神経外科等において使用される手術顕微鏡は、術部から反射された光束を内部に取入れ、その光束を対物光学系及び変倍光学系を経て接眼部に導いている。そしてドクターがその接眼部に眼を当てて術部を立体的に拡大観察できるようになっている。
【0003】
また手術顕微鏡には内部の光束の一部を分岐して取り込むカメラが設けられ、そのカメラで撮影した術部の映像を手術顕微鏡の近くに設置されたモニターに表示することもできる。そうすることによりドクター以外のアシスタントもドクターが見ている術部と同じ映像を観察することができ、手術の補助を適切に行うことができる。
【0004】
カメラにはオートフォーカス機構が設けられており、ドクターの視野(モニターの映像面)の中央に焦点が合っており、ドクターは見たい箇所がその視野の中央になるように手術顕微鏡を動かしながら手術を行うようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来の技術にあっては、カメラのオートフォーカス機構が、ドクターの視野の中央に焦点を合わせる構造になっているため、ドクターが視野の中央以外の周辺を見たい場合は、その都度手術顕微鏡を動かす必要があった。
【0007】
本発明はこのような関連技術に着目してなされたものであり、ドクターが視野の中央以外の箇所を観察する際に、手術顕微鏡を移動させることなく、視線をその箇所に向けるだけで、その箇所に焦点を合わせることができる手術用顕微鏡システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の技術的側面によれば、術部で反射された光束を取入れ且つ光軸に沿って移動自在な焦点距離可変用の可動レンズを含む対物光学系と、可動レンズを移動させるフォーカス手段と、対物光学系を通過した光束が導かれる変倍光学系と、変倍光学系を通過した左右一対の光束をドクターの両眼に導いて術部を一定の視野で光学的に観察できる接眼部とを備えた手術顕微鏡と、手術顕微鏡に対して取付けられ、手術顕微鏡内の光束の一部を分岐して取込んで術部の映像を撮影し、撮影した映像信号を出力する術部カメラと、術部カメラから出力された映像信号が入力され、該映像信号に基づく映像を接眼部から見た視野の中心と映像面の中心とを合致させた状態で表示するモニターと、ドクターの左右一方の眼からの反射光を取入れ、その眼の瞳の動きを映像認識して視野の中央に対するドクターの視線を検出する視線カメラと、視線カメラで検出したドクターの視線から視野の中央に対する観察点の位置を検出する観察点検出部と、視野内の観察点に該当するモニターの映像面内の観察点における映像のコントラスト値を最大にすべくフォーカス手段に対して可動レンズをフォーカス方向へ移動させる制御信号を出力するオートフォーカス部と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
本発明の第2の技術的側面によれば、視線カメラが手術顕微鏡内の術部カメラ用の光学要素を利用してドクターの眼からの反射光を取入れることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の技術的側面によれば、まず視線カメラで検出したドクターの視線から観察点検出部により視野内の観察点の位置(中央に対する座標位置)を検出する。次にオートフォーカス部によりその視野の観察点に合致するモニター側の観察点のコントラスト値を評価し、そのコントラスト値を最大にすべく対物光学系の可動レンズを移動させる。そうすると焦点がその観察点に合った状態となるため、ドクターは視野の中央以外の箇所を観察する場合も、手術顕微鏡を移動させることなく、視線をその箇所に向けるだけで、その箇所に焦点を合わせることができる。
【0011】
本発明の第2の技術的側面によれば、視線カメラが術部カメラ用の光学要素を利用するため、視線カメラ用の部品を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1~
図5は本発明の好適な実施形態を示す図である。
【0014】
手術顕微鏡1はドクターDが術部Gを拡大観察しながら手術を行うためのものである。手術顕微鏡1は図示せぬスタンド装置により術部Gの上方に支持されている。手術顕微鏡1のドクターD側には接眼部2が設けられ、術部Gで反射された光束Lを左右一対の接眼部2からドクターDの両方の眼3に導き、術部Gを一定の視野E(
図3参照)で立体的に観察することができる。視野Eの光軸Kに対応する部分がその中心点EAである。
【0015】
手術顕微鏡1の内部には固定レンズ4と可動レンズ5から成る対物光学系6が設けられている。可動レンズ5はフォーカス手段7により光軸Kに沿って移動することができ、可動レンズ5が移動することにより、対物光学系6の焦点距離Fを変更することができる。フォーカス手段7はオートフォーカス部8に接続されており、可動レンズ5はオートフォーカス部8からの後述する制御信号S4に制御されて移動する。
【0016】
術部Gからの光束Lは対物光学系6を通過後、変倍光学系9に導入されて左右に分かれた2本の光束Lとなり、ハーフミラー10a、10b及び結像レンズ11を経て接眼部2に導かれる。変倍光学系9は実際は手術顕微鏡1の内部で水平に配置され、光束Lは変倍光学系9を水平に通過した後に水平に折り返されて接眼部2に向かうが、
図2では構造を分かりやすくするために垂直に並べて図示している。
【0017】
ハーフミラー10a、10bはそれぞれ角度が同じ方向に45度傾けられている。このハーフミラー10a、10bは光束Lの半分を透過し、残り半分を反射する特性を有している。術部Gからの左右一対の光束Lは一部がこのハーフミラー10a、10bで反射されて、それぞれ術部カメラ12に導かれる。
【0018】
2つの術部カメラ12で撮影された両眼視差を有する左右一対の映像の映像信号S1はオートフォーカス部8に出力され、そこからモニターMに出力されて表示される。モニターMに表示される映像は視野Eの映像であり、その中心点MAは視野Eの中心点EAと合致している(
図4参照)。モニターMの表示はドクターD以外のアシスタントが見るためのものである。アシスタントはこのモニターMでドクターDの視野Eと同一の映像を見ることにより、ドクターDの手術を適切に補助することができる。
【0019】
ドクターDの左側の眼3に対応する光束L上に設けられたハーフミラー10bの外側には視線カメラ13が設けられている。ハーフミラー10bの内側の面は術部カメラ12側への反射に用いられるが、外側の面は左側の眼3からの反射光Nを視線カメラ13側に導くために用いられる。そしてこの視線カメラ13でドクターDの眼3の瞳3aの動きを映像認識して、ドクターDの視線を検出することができる。元々設置されている術部カメラ12用のハーフミラー10bを視線カメラ13用として兼用するため、視線カメラ13のために光学要素を追加する必要がなく、部品点数の削減をすることができる。
【0020】
視線カメラ13で検出されたドクターDの視線信号S2は観察点検出部14に出力される。観察点検出部14では、入力された視線信号S2に基づいて視野E内の中央点EAに対するドクターDの観察点EBの位置(座標位置X、Y)を検出する。この観察点検出部14で検出された観察点EBの位置信号S3はオートフォーカス部8に出力される。
【0021】
ドクターDの足下にはフットスイッチ15が設けられており、このフットスイッチ15は観察点検出部14に接続されている。ドクターDがこのフットスイッチ15を足で操作した時だけ観察点検出部14が作動し、位置信号S3をオートフォーカス部8に出力するようになっている。
【0022】
観察点EBが特定されると、次にオートフォーカス部8がモニターMの映像面内において視野Eの観察点EBに該当するモニターM側の観察点MBを特定する。そして特定された観察点MBのコントラスト値を評価し、そのコントラスト値を最大にすべくフォーカス手段7に対して可動レンズ5を移動させる制御信号4を出力する。
【0023】
モニターMの映像面のコントラスト値は映像面の焦点が正しくなるに伴って自然に増加するため、観察点MBにおける最大コントラストが検出されるまで可動レンズ5を移動させることにより、観察点MBに焦点を合わせることができる。モニターMの観察点MBと視野Eの観察点EBは合致しているため、モニターMの観察点MBの焦点が合えば、視野Eの観察点EBも焦点が合う。
【0024】
従来は視野Eの中央点EAに焦点が合っていたため、ドクターDがその視野E内で視線を変更して、中央点EA以外の観察点EBを見ようとしても、その観察点EBの高低差が中央点EAと異なる場合は、その観察点EBに焦点が合わず明瞭な観察が行えなかった。
【0025】
しかし本実施形態によれば、中央点EAとは異なる観察点EBであっても、ドクターDは手術顕微鏡1を移動させることなく、視線を変更するだけで、視野E内でその視線の先の観察点EBに焦点が合うため明瞭に観察することができる。
【0026】
ドクターDの視線は視野E内で動き続けるが、常に視線の先の焦点を合わせたい訳でない。視線の先の観察点EBに焦点を合わせたい時だけ、ドクターDはフットスイッチ15を足で操作する。そうすると観察点検出部14が作動し、視線の先の観察点EBに焦点を合わせるための位置信号S3をオートフォーカス部8に出力する。
【符号の説明】
【0027】
1 手術顕微鏡
2 接眼部
3 眼
3a 瞳
4 固定レンズ
5 可動レンズ
6 対物光学系
7 フォーカス手段
8 オートフォーカス部
9 変倍光学系
10a ハーフミラー
10b ハーフミラー
12 術部カメラ
13 視線カメラ
14 観察点検出部
D ドクター
E 視野
G 術部
M モニター
K 光軸
L 光束
N 反射光
EA 中央点(視野)
EB 観察点(視野)
MA 中央点(モニター)
MB 観察点(モニター)