IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学東セロ株式会社の特許一覧

特開2024-92411剥離力を調整可能なセラミックグリーンシートの製造方法
<>
  • 特開-剥離力を調整可能なセラミックグリーンシートの製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092411
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】剥離力を調整可能なセラミックグリーンシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/30 20060101AFI20240701BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20240701BHJP
   H01G 13/00 20130101ALI20240701BHJP
【FI】
B28B1/30 101
H01G4/30 517
H01G4/30 311Z
H01G13/00 351A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208315
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000220099
【氏名又は名称】アールエム東セロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 季和
(72)【発明者】
【氏名】飯尾 隆明
【テーマコード(参考)】
4G052
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
4G052DA02
4G052DB01
4G052DC01
5E001AB03
5E001AJ02
5E082AB03
5E082BC38
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082LL01
5E082MM13
(57)【要約】
【課題】剥離フィルム上に形成されたセラミックグリーンシートの剥離フィルムからの剥離性を適切に制御し、セラミックグリーンシートの搬送や加工の際には剥離を有効に抑制するとともに、その後セラミックグリーンシートを剥離フィルムから剥離する際には、低い剥離力で容易に剥離することができる、セラミックグリーンシートの製造方法を提供する。
【解決手段】a)セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム上にセラミックスラリーを塗布する工程、b)前記a)工程において塗布されたセラミックスラリーからセラミックグリーンシートを形成する工程、c)前記セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの前記セラミックグリーンシートが形成された面とは反対の面に対して、紫外線を照射する工程、及びd)前記b)工程において形成されたセラミックグリーンシートを前記セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムから剥離する工程、を有する、セラミックグリーンシートの製造方法。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム上にセラミックスラリーを塗布する工程、
b)前記a)工程において塗布されたセラミックスラリーからセラミックグリーンシートを形成する工程、
c)前記セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの前記セラミックグリーンシートが形成された面とは反対の面に対して、紫外線を照射する工程、及び
d)前記b)工程において形成されたセラミックグリーンシートを前記セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムから剥離する工程、
を有する、セラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項2】
前記c)工程後に前記セラミックグリーンシートを前記セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムから剥離する場合の剥離力P(mN/50mm)が、前記b)工程後前記c)工程前に前記セラミックグリーンシートを前記セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムから剥離する場合の剥離力P(mN/50mm)よりも小である、請求項1に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項3】
前記剥離力P(mN/50mm)と、前記剥離力P(mN/50mm)との比P/Pが、0.80以下である、請求項2に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項4】
前記セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムが、基材と、前記基材の少なくとも一方に設けられた剥離剤層とを有し、
前記剥離剤層が付加反応型シリコーン組成物を含有する、
請求項1から3のいずれか一項に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項5】
前記付加反応型シリコーン組成物が、
(A)1分子中に2以上のアルケニル基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン、
(B)1分子中に2以上4以下のアルケニル基を有する環状シロキサン、
(C)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、及び
(D)触媒量の白金族金属系触媒、
を含有する、請求項4に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項6】
前記b)工程後前記c)工程前に、電極印刷、ハーフカット、及び/又は打ち抜きを行う工程を更に有する、請求項1から5のいずれか一項に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のセラミックグリーンシートの製造方法によりセラミックグリーンシートを製造する工程を有する、セラミック製品の製造方法。
【請求項8】
前記セラミックグリーンシートを焼成する工程を有する、請求項7に記載のセラミック製品の製造方法。
【請求項9】
前記セラミック製品が積層セラミックコンデンサ、又は多層セラミック基板である、請求項7又は8に記載のセラミック製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックグリーンシートの製造方法に関し、より具体的には、剥離フィルム上に形成されたセラミックグリーンシートの剥離フィルムからの剥離性を適切に制御でき、セラミックグリーンシートの搬送や加工の際には剥離が有効に抑制されるとともに、その後セラミックグリーンシートを剥離フィルムから剥離する際には、低い剥離力で容易に剥離することができる、セラミックグリーンシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シート状のセラミック部材の製造においては、従来より剥離フィルム上にセラミックスラリーと塗布、乾燥してセラミックグリーンシートを形成し、形成されたセラミックグリーンシートに対して必要に応じて加工等を行った後に、セラミックグリーンシートを剥離フィルムから剥離する各工程を含む製造方法が広く用いられている。
この様な製造方法に使用するセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムが各種提案されており、例えば、一面側がセラミック塗料塗布面して用いられる帯状の可撓性支持体であって、前記セラミック塗料塗布面は、剥離処理がなされている領域と、剥離処理がなされていない領域とを有する可撓性支持体(特許文献1参照)、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に帯状の印刷層が積層され、当該印刷層が離型層で被覆されていることを特徴とする離型フィルム(特許文献2参照)等が提案されている。
【0003】
上記のセラミックグリーンシートの製造方法においては、セラミックグリーンシートの剥離を適切に行う観点からは、セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムは剥離性に優れたもの(軽剥離)であることが好ましい。一方で、剥離前にセラミックグリーンシートの搬送や加工を行う場合には、セラミックグリーンシートの浮き、剥離などを抑制する必要があり、その観点からは剥離に大きな力を要すること(重剥離)が好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献2】特開平8-130152号公報
【特許文献2】特開平10-230576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記技術背景に鑑み、本発明は、剥離フィルム上に形成されたセラミックグリーンシートの剥離フィルムからの剥離性を適切に制御し、セラミックグリーンシートの搬送や加工の際には剥離を有効に抑制するとともに、その後セラミックグリーンシートを剥離フィルムから剥離する際には、低い剥離力で容易に剥離することができる、セラミックグリーンシートの製造方法を提供すること課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム上にセラミックグリーンシートを形成する工程と、形成されたセラミックグリーンシートを剥離フィルムから剥離する工程との間に、特定の紫外線照射工程を設けることで、紫外線照射前後の剥離力をそれぞれ適切なものとすることが可能であり、これにより上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、
[1]
a)セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム上にセラミックスラリーを塗布する工程、
b)前記a)工程において塗布されたセラミックスラリーからセラミックグリーンシートを形成する工程、
c)前記セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの前記セラミックグリーンシートが形成された面とは反対の面に対して、紫外線を照射する工程、及び
d)前記b)工程において形成されたセラミックグリーンシートを前記セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムから剥離する工程、
を有する、セラミックグリーンシートの製造方法、に関する。
【0007】
以下、[2]から[9]は、いずれも本発明の好ましい一態様又は一実施形態である。
[2]
前記c)工程後に前記セラミックグリーンシートを前記セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムから剥離する場合の剥離力P(mN/50mm)が、前記b)工程後前記c)工程前に前記セラミックグリーンシートを前記セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムから剥離する場合の剥離力P(mN/50mm)よりも小である、[1]に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
[3]
前記剥離力P(mN/50mm)と、前記剥離力P(mN/50mm)との比P/Pが、0.80以下である、[2]に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
[4]
前記セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムが、基材と、前記基材の少なくとも一方に設けられた剥離剤層とを有し、
前記剥離剤層が付加反応型シリコーン組成物を含有する、
[1]から[3]のいずれか一項に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
[5]
前記付加反応型シリコーン組成物が、
(A)1分子中に2以上のアルケニル基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン、
(B)1分子中に2以上4以下のアルケニル基を有する環状シロキサン、
(C)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、及び
(D)触媒量の白金族金属系触媒、
を含有する、[4]に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
[6]
前記b)工程後前記c)工程前に、電極印刷、ハーフカット、及び/又は打ち抜きを行う工程を更に有する、[1]から[5]のいずれか一項に記載のセラミックグリーンシートの製造方法。
[7]
[1]から[6]のいずれか一項に記載のセラミックグリーンシートの製造方法によりセラミックグリーンシートを製造する工程を有する、セラミック製品の製造方法。
[8]
前記セラミックグリーンシートを焼成する工程を有する、[7]に記載のセラミック製品の製造方法。
[9]
前記セラミック製品が積層セラミックコンデンサ、又は多層セラミック基板である、[7]又は[8]に記載のセラミック製品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のセラミックグリーンシートの製造方法は、セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム上に形成されたセラミックグリーンシートの剥離フィルムからの剥離力を適切に制御し、従来技術では実現不可能又は困難であった、セラミックグリーンシートの搬送や加工の際の重剥離と、その後セラミックグリーンシートを剥離フィルムから剥離する際の軽剥離とを共に実現することができるなど、実用上高い価値を有する顕著な技術的効果を有するものであり、各種セラミック製品の製造において特に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のセラミックグリーンシートの製造方法の一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、
a)セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム上にセラミックスラリーを塗布する工程、
b)前記a)工程において塗布されたセラミックスラリーからセラミックグリーンシートを形成する工程、
c)前記セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの前記セラミックグリーンシートが形成された面とは反対の面に対して、紫外線を照射する工程、及び
d)前記b)工程において形成されたセラミックグリーンシートを前記セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムから剥離する工程、
を有する、セラミックグリーンシートの製造方法、である。
すなわち、本発明のセラミックグリーンシートの製造方法は、上記a)からd)の各工程を有していればよく、それ以外の工程を有していても、有していなくともよい。したがって、本発明の製造方法は、上記工程a)からd)のみからなっていてもよく、上記工程a)からd)に加えて、電極印刷、ハーフカット、打ち抜き等のそれ以外の工程を有していてもよい。
以下、上記各工程について説明する。
【0011】
a)塗布工程
本発明のセラミックグリーンシートの製造方法を構成する工程a)においては、例えば本技術分野においてセラミックグリーンシート製造用剥離フィルム上にセラミックスラリーを塗布するために従来より用いられている技術を適宜使用することができ、例えば以下の技術を使用することができる。
【0012】
セラミックスラリー
工程a)において使用するセラミックスラリーには特に制限はなく、例えば本技術分野においてセラミックグリーンシートの製造に従来より用いられているセラミックススラリーを適宜使用することができる。
セラミックスラリーとしては、セラミック粒子と溶剤を含有するものであることが好ましく、セラミック粒子が溶剤中に分散されていることが好ましい。
【0013】
上記セラミック粒子としては、焼結によりセラミックを形成可能な無機化合物粒子を使用することができ、無機化合物としては、金属又は半金属の酸化物、窒化物、酸窒化物、ホウ化物等を例示することができる。
無機化合物のより具体的な例としては、チタン酸バリウム(BaTiO)、チタン酸カルシウム(CaTiO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)またはジルコン酸カルシウム(CaZrO)、ジルコン酸ストロンチウム(SrZrO)などのペロブスカイト型化合物などを挙げることができる。これらの無機化合物を主成分としてセラミック粒子に用いる場合には、上記主成分よりも含有量の少ない副成分として、Mn、Mg、Si、Co、Ni、または希土類元素などを含んでいてもよい。
【0014】
セラミック粒子の粒径は、通常50nm以上2000nm以下、好ましくは50nm以上700nm以下、より好ましくは100nm以上500nm以下である。
【0015】
上記溶媒は、有機溶剤であっても水系溶剤等の無機溶剤であってもよいが、後述の工程b)においてセラミックグリーンシートを形成する際の溶剤除去の容易性等の観点からは有機溶剤であることが好ましい。有機溶剤としては、トルエン、エタノール、ヘキサン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコール、ブタノール、キシレンそれらの混合溶剤などを好ましく用いることができ、トルエンとエタノールの混合溶媒、トルエンとイソプロピルアルコールの混合溶媒等を特に好ましく用いることができる。
溶媒の沸点にも特に制限はないが、60~130℃であることが好ましく、70~130℃であることが特に好ましい。
【0016】
セラミックグリーンシートの取扱いの容易性等の観点から、セラミックスラリーは、セラミック粒子及び溶媒に加えてバインダを含んでいることが好ましい。
上記バインダとしては本技術分野においてセラミックグリーンシートの製造に従来より用いられる各種バインダーを適宜使用することができ、例えば、ポリビニルブチラール、ウレタン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂等を適宜使用することができる。中でも、ポリビニルブチラール、アクリル等を特に好ましく使用することができる。
バインダの使用量には特に制限はないが、セラミック粒子100質量部に対して、3~20質量部であることが好ましく、5~10質量部であることが特に好ましい。
【0017】
セラミックスラリーは、上記セラミック粒子、溶媒、及び所望によるバインダに加えて、可塑剤、界面活性剤、分散安定剤、帯電防止剤等のそれ以外の成分を含有していてもよい。
好適な可塑剤として、フタル酸ジブチル、脂肪酸エステル等を例示することができる。
【0018】
上述のセラミック粒子、及び有機溶剤、並びに所望によりバインダ及び可塑剤等のそれ以外の成分を攪拌混合することで、セラミックスラリーを製造することができる。
攪拌混合の方法には特に制限はなく、本技術分野において従来よりセラミックスラリーの製造に使用されている方法、装置を適宜使用することができるが、例えばボールミルを用い攪拌混合することができる。ボールミルを用いることで、セラミック粒子の粒度調整を一緒に行うことができる。
【0019】
セラミックスラリー中のセラミック粒子の含有量には特に制限は無く、剥離フィルムへの塗布の方法や、セラミックグリーンシートを形成の際の乾燥条件等に応じて適宜設定すればよいが、通常70~95質量%であり、80~95質量%であることが好ましい。
セラミックスラリーの粘度にも特に制限は無く、剥離フィルムへの塗布の方法等に応じて適宜設定すればよいが、B型粘度計で測定した粘度が2.0~1000.0mPa・sであることが好ましく、10.0~300.0mPa・sであることが特に好ましい。
【0020】
本発明のセラミックグリーンシートの製造方法において用いるセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムには特に限定は無く、例えば本技術分野においてセラミックグリーンシートの製造に従来より用いられている剥離フィルムを適宜使用することができる。
したがってセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの構成にも特に制限は無いが、基材と、前記基材の少なくとも一方に設けられた剥離剤層とを有することが好ましい。この実施形態における剥離フィルムは、基材及び剥離剤層のみからなっていてもよく、基材及び剥離剤層に加えて、帯電防止層、目止め層層等のそれ以外の層を有していてもよい。
【0021】
基材
本実施形態のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムを構成する基材には特に制限はなく、従来当該技術分野における基材として公知のものの中から任意のものを適宜選択して用いることができる。このような基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリプロピレンやポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ポリカーボネート、エチレン-酢酸ビニル共重合体などのプラスチックからなるフィルムが挙げられ、単層であってもよいし、同種又は異種の2層以上の多層であってもよい。これらの中でもポリエステルフィルムが好ましく、特にポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましく、さらには二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。ポリエチレンテレフタレートフィルムは、加工時、使用時等において、埃等が発生しにくいため、例えば、埃等によるセラミックスラリー塗工不良等を効果的に防止することができる。
【0022】
後述の工程d)における紫外線の照射を適切に行う観点から、基材フィルムは透明フィルムであることが好ましく、少なくとも紫外線領域において実質的に光透過性であることが好ましい。
より具体的には、基材フィルムの波長380~780nmにおける光透過率は、80%以上であることが好ましく、85%以上であることが特に好ましい。
【0023】
また、この基材においては、その少なくとも一方の面に好ましく設けられる剥離剤層との密着性を向上させる目的で、酸化法などによる表面処理、あるいはプライマー処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸化処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン、紫外線照射処理などが挙げられ、これらの表面処理法は、基材フィルムの種類に応じて適宜選ばれるが、一般にコロナ放電処理法が効果および操作性の面から好ましく用いられる。
基材の厚さには特に制限は無く、機械的強度や製造及び使用における取り扱いの容易さ等から適宜厚さを設定すればよいが、通常10~300μmであり、好ましくは12~200μmであり、特に好ましくは15~125μmである。
【0024】
基材の剥離剤層側の表面の算術平均粗さ(Ra)は0.1から70nmであることが好ましく、1~60nmであることが好ましい。
基材の剥離剤層側の表面の算術平均粗さ(Ra)が0.1から70nmであると、基材のハンドリング、導通不良抑制等の点で好ましい。また、表面の算術平均粗さ(Ra)が1から70nmである基材は比較的容易かつ安価に入手可能なので、本実施形態のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの入手容易性や製造コストの観点からも好ましい。
【0025】
基材の剥離剤層側と反対側の表面の算術平均粗さ(Ra)は、5~70nmであることが好ましく、10~60nmであることが特に好ましい。
基材の剥離剤層側と反対側の表面の算術平均粗さ(Ra)が上記下限値以上であることで、本実施形態のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの巻き取り時等におけるブロッキングを効果的に抑制することができるともに、上記上限値以下であることで、剥離剤層の表面を平滑にすることが容易になる。
【0026】
剥離剤層
本実施形態のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムを構成する剥離剤層の材質には特に制限はなく、本発明の目的、特にセラミックグリーンシートの剥離フィルムからの剥離性を適切に制御すること、に反しない限りにおいて、任意の材料を使用することができる。
【0027】
付加反応型シリコーン組成物
セラミックグリーンシートの剥離フィルムからの剥離性を適切に制御する観点からは、付加反応型シリコーン組成物を含有することが好ましく、より具体的には下記(A)から(D)成分を含有する付加反応型シリコーン組成物を含有することが好ましい。
(A)1分子中に2以上のアルケニル基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン
(B)1分子中に2以上4以下のアルケニル基を有する環状シロキサン
(C)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
(D)触媒量の白金族金属系触媒
【0028】
(A)1分子中に2以上のアルケニル基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン
上記付加反応型シリコーン組成物を構成する(A)1分子中に2以上のアルケニル基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサンは、回転粘度計を使用して測定される25℃の絶対粘度が0.04Pa・s以上であることが好ましい。
上述のとおり(A)成分は1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を持つものであり、その好ましい具体例として、下記一般式(1)で示される構造を有するものが挙げられる。
【化1】

(式中、Rはアルケニル基、Rは脂肪族不飽和結合を含有しない1価の有機基又は水酸基を示し、X1は下記式(2)
【化2】

で示される基である。
a3、b3、c3、d3、e3は(A)成分のオルガノポリシロキサンの25℃の粘度が0.04Pa・s以上、30質量%トルエン溶液での25℃の粘度が70Pa・s以下を満たす正数から選ばれることが好ましく、b3、c3、d3、e3は0であってもよい。α及びβは0又は1~3の整数である。)
【0029】
は、ビニル基、アリル基、ブテニル基などの好ましくは炭素数2~6のアルケニル基、Rは炭素数1~20、特に1~8のものが好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素数1~12のアルキル基、シクロヘキシル基などの炭素数4~20のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基などの炭素数6~20のアリール基あるいはこれらの基の炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部をハロゲン原子、シアノ基などで置換したクロロメチル基、トリフルオロプロピル基、シアノエチル基などの置換1価炭化水素基、更にはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、メトキシエトキシ基などの炭素数1~12のアルコキシ基、水酸基、炭素数2~20のエポキシ基を含む1価炭化水素基、例えばグリシジル基、グリシジルオキシ基、エポキシシクロヘキシル基置換アルキル基などから選択される1価の有機基であるが、脂肪族不飽和結合は含有しない。
はビニル基が工業的に好ましく、(A)成分の直鎖状のオルガノポリシロキサン全体に含まれるRはその少なくとも80モル%がメチル基であることが製造上及び特性上好ましい。
【0030】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの1分子が持つアルケニル基は2個以上であるが、望ましくは、オルガノポリシロキサン100g当たりの含有量として0.001~0.3モルである。相当する式(1)及び置換基X1のa3、b3、c3、d3、e3としては、1分子が持つアルケニル基の数c3+b3×(e3+β)+2αが2~2,500の範囲になるように選ばれることが好ましい。
【0031】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの主骨格構造は直鎖であるが、b3が0でない場合で示されるような分岐鎖構造を含むものも、ここでいう直鎖に包含される。
【0032】
(B)1分子中に2以上4以下のアルケニル基を有する環状シロキサン
上記付加反応型シリコーン組成物を構成する(B)1分子中に2以上4以下のアルケニル基を有する環状シロキサンは、好ましくは、上記基材と上記(A)成分及び後述の(C)成分から形成される非粘着硬化皮膜との間を繋ぐカップリング剤のように働くものと推定される。
【0033】
(B)成分は、1分子中に2以上4以下のアルケニル基を有する環状シロキサンであればよく、それ以外の制限は特に存在しないが、下記(B’)成分を特に好ましく使用することができる。
【0034】
(B’)成分は、製造が容易であり、入手やコストの面で有利である。また、(A)成分と同じシリコーン化合物であり、本付加反応型シリコーン組成物に安定して溶解又は分散でき、組成物の製造や貯蔵の面にも利点がある。
(B’)成分は、好ましくは、回転粘度計を使用して測定される25℃での絶対粘度が0.04Pa・s未満の、シロキサン重合度の低い低分子量とし、アルケニル基を0.3~2.0モル/100g、好ましくは0.3~1.3モル/100g、特に0.4モル/100g以上の高含有とすると共に、アルケニル基を含む置換基がケイ素原子に結合している2個のシロキサン単位相互を近接配置することで、周辺の有機性を高めてアルケニル基が基材へ接近するのを容易にしてラジカル反応による反応及び相互作用を有利にすることができる。絶対粘度の下限も特に制限されないが、0.1mPa・sであることが好ましい。
【0035】
(B’)成分は、アルケニル基を含む置換基がケイ素原子に結合している2個のシロキサン単位が直接又は該置換基がケイ素原子に結合していないシロキサン単位を3個以下介在した状態で結合している構造を有する環状シロキサンである。
【0036】
この場合、(B’)成分は、下記一般式(4)で示される構造を有する下記組成式(3)で示すものであることが好ましい。
[M]m1[Mm2[D]d1[Dd2[T]t1[Tt2[Q]q1 - (3)
【化3】

(式中、Rは炭素数2~10のアルケニル基を含む置換基を示す。AはR又は酸素原子を介して結合した式(3)を満たすように選ばれるシロキサン残基を示し、1個のケイ素原子に結合する2個のAが-O(SiR 2O)y-として環構造を形成してもよい。Rは炭素数1~10の非置換又は置換の1価炭化水素基、xは0~3の整数、yは式(3)のオルガノポリシロキサンの平均重合度2~50を満足するように選定される整数である。
M、MA、D、DA、T、TA、Qは以下のシロキサン単位であり、O1/2は隣接するシロキサン単位と酸素原子を介して結合していることを示す。
【化4】

m1、m2、d1、d2、t1、t2、q1は以下の式を満足する数である。
t1+t2+2×q1≦m1+m2≦2+t1+t2+2×q1
0≦d1+d2≦48、0≦t1+t2≦30、0≦q1≦20
0.25≦(m2+d2+t2)/(m1+m2+d1+d2+t1+t2+q1)≦1)
【0037】
また、Rのアルケニル基を含む置換基としては、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、アクリロイルオキシプロピル基、メタクリロイルオキシプロピル基等の(メタ)アクリロイルオキシ基置換アルキル基等が挙げられる。
の1価の有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基等の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基のほか、ビニル基、アリル基等のアルケニル基などの非置換の1価炭化水素基、これらの非置換の1価炭化水素基の水素原子の一部又は全部がハロゲン原子で置換された基、あるいは上記アルキル基の水素原子が(メタ)アクリロイルオキシ基で置換された、例えば(メタ)アクリロイルオキシプロピル基等が挙げられる。従って、RはRであってもよい。
【0038】
Aは、R又は酸素原子を介して結合した式(3)を満たすように選ばれるシロキサン残基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロキシプロピル基、-OSi(CH32(CH=CH2)基、-O-Si(CH33基、-O-Si(CH32(C65)基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等である。また、1個のケイ素原子に結合する2個のAが-O(SiR 2O)y-として環構造を形成してもよく、具体的には、
【化5】

であってもよい。
【0039】
なお、(B’)成分の平均重合度は2~50、特に2~40であることが好ましい。この平均重合度はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値である。
yは上記平均重合度を満足するように選定されることが好ましいが、特に好ましくは0~10、特に1~8の整数である。
【0040】
上記式(4)から明らかなように、(B’)成分のオルガノシロキサンは、2個の-SiRA-基が-O-(SiA2O)x-(x=0~3、特に0又は1)を介して連結している構造を有するものであることが好ましい。ケイ素原子に結合するアルケニル基を有する2個の-SiRA-基が近接して存在しているので、この場合Aがアルケニル基であれば当然近接しているものであるが、Aがメチル基等のアルキル基やフェニル基等のアリール基であっても-SiRA-相互が近接しているものであり、この近接の程度を示すxが最大で3、好ましくは0又は1であることが好ましい。
【0041】
上記式(3)の構造を有するオルガノシロキサンの具体例として、下記式(5)又は(6)の直鎖状又は分岐状のオルガノポリシロキサンを挙げることができる。
【化6】

(式中、R、Rは上記の通り。Yは下記式(5a)
【化7】

で示される基であり、式(5a)において、R、Rは上記の通りである。Y1は下記式(5b)
【化8】

で示される基であり、式(5b)において、R、Rは上記の通りである。
a2、b2、ay、byは0~48、好ましくは0~45、更に好ましくは0~40の整数であり、c2、cyは0~30、好ましくは0~25、更に好ましくは0~20の整数であり、d2、dyは0~20、好ましくは0~18、更に好ましくは0~15の整数である。
【0042】
式(5)、(5a)、(5b)はそれぞれランダム構造を示すが、Rのアルケニル基を含む置換基がケイ素原子に結合している2個のシロキサン単位が直接又はRがケイ素原子に結合していないシロキサン単位を3個以下介在した状態で結合している構造を少なくとも1個含む。)
【化9】

(式中、R、Rは上記の通り。Zは下記式(6a)
【化10】

で示される基であり、式(6a)において、R、Rは上記の通りである。Z1は下記式(6b)
【化11】

で示される基であり、式(6b)において、R、Rは上記の通りである。
a2、b2、ay、byは0~48、好ましくは0~45、更に好ましくは0~40の整数であり、c2、cyは0~30、好ましくは0~25、更に好ましくは0~20の整数であり、d2、dyは0~20、好ましくは0~18、更に好ましくは0~15の整数である。
【0043】
式(6)、(6a)、(6b)はそれぞれランダム構造を示すが、Rのアルケニル基を含む置換基がケイ素原子に結合している2個のシロキサン単位が直接又はRがケイ素原子に結合していないシロキサン単位を3個以下介在した状態で結合している構造を少なくとも1個含む。)
【0044】
上記(B’)成分としてより具体的な構造は、例えば下記式
【化12】

で示される直鎖状のオルガノポリシロキサン(但し、xは上記の通り。)、
【化13】

で示される三官能又は四官能シロキサン単位で主骨格が形成される分岐状構造のオルガノポリシロキサンも可能である。
【0045】
ここで、上記分岐状構造のオルガノポリシロキサン中のシロキサン残基Bとしては、下記のものが例示される。
【化14】

(但し、R20はR又はRを示す。Rは-O-(SiR20y6-SiR 20を示し、yは上記の通り。y1+y2+y6=yであり、y1及びy6は0以上、y2は1以上の整数である。y3+y4=yであり、y3、y4は0以上の整数である。y5=yである。)
【0046】
より具体的には、下記のものが挙げられる。
【化15】
【0047】
また、(B’)成分として下記一般式(7)で示される環状構造のオルガノポリシロキサンを用いることも好ましい。
【化16】

(式中、R、Rは上記の通り。RはOH基又はSiH基を官能基として持つ置換基、又は炭素数1~10の脂肪族不飽和結合を持たない非置換又は置換の1価炭化水素基を示し、a1は0又は1、b1は1~6の整数、c1は0~5の整数であり、a1+b1+c1は2以上の整数である。)
【0048】
上記式中、RのOH基又はSiH基を官能基として持つ置換基としては、ケイ素原子に結合した水酸基及び水素原子のほか、-CH2CH2CH2-O-CH2CH2-OH等が挙げられる。
の1価炭化水素基としては、アルケニル基を含まない以外はRで例示したものと同様のものが挙げられる。
【0049】
工業的に望ましい具体的な(B’)の例は、上記式(7)において、Rがビニル基、Rがメチル基、Rが水素原子、a1=0~1、b1=1~4、c1=0~1である。更に望ましくは、a1=0、b1=2~4、c1=0である。
【0050】
(B’)成分をはじめとする(B)成分の分子量は小さいことが有利な場合が多いが、本組成物が基材へ塗工され加熱された場合、分子量が小さすぎると気化が速すぎて反応しないまま組成物から除去されてしまう心配がある。そのため(B)成分の沸点が80℃以上となるような分子量とすることが望ましい。温度が高くならないよう紫外線照射を用いることはこの影響を軽減するのには有効である。
【0051】
(B)成分の配合量には特に制限は無いが、(A)成分100質量部に対して0.1~10質量部が好ましく、より好ましくは0.2~9質量部である。(B)成分の配合量が0.1質量部以上であれば実質的な添加効果が実現でき、10質量部であれば硬化性を低下させるおそれもない。
【0052】
(C)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
上記付加反応型シリコーン組成物を構成する(C)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、下記平均組成式(8)で示されるものが好ましい。
SiO(4-f-g)/2 (8)
(式中、Rは上記の通り、fは0~3、gは0~3で、f+gは1~3の正数である。)
【0053】
分子構造は直鎖状、分岐鎖状もしくは環状のいずれであってもよい。回転粘度計を使用して測定される25℃での絶対粘度にも実質的な制限は無く、数mPa・s~数万mPa・sの範囲であればよい。(C)成分の具体例として、下記のオルガノハイドロジェンポリシロキサンが挙げられる。
【0054】
【化17】

(但し、上記式において、Meはメチル基、h、l、nは3~500、m、p、sは1~500、i、j、k、o、q、r、t、u、v、wは0~500である。)
【0055】
上記(C)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、含有されるSiH基のモル数が、(A)成分に含まれるアルケニル基の合計モル数の1~10倍に相当する量であることが好ましい。(C)成分が含有するSiH基のモル数が(A)成分に含まれるアルケニル基の合計モル以上なので硬化性が十分である、10倍以下なので効果が飽和しない上、重剥離化を抑制できる。
【0056】
(D)白金族金属系触媒
上記付加反応型シリコーン組成物を構成する(D)白金族金属系触媒としては、従来から公知のものを全て使用することができる。例えば、白金黒、塩化白金酸、塩化白金酸-オレフィンコンプレックス、塩化白金酸-アルコール配位化合物、ロジウム、ロジウム-オレフィンコンプレックス等が挙げられる。
(D)白金族金属系触媒(付加反応用触媒)の添加量は触媒量であり、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の合計質量に対し、白金又はロジウムの量として5~1,000ppm(質量比)配合することが、十分な硬化皮膜を形成する上で好ましいが、前記成分の反応性又は所望の硬化速度に応じて適宜増減させることができる。
【0057】
上記付加反応型シリコーン組成物には、塗布にあたって(E)有機溶剤を添加することが好ましい。これにより、処理浴安定性及び各種基材に対する塗工性の向上、塗工量及び粘度の調整を行うことができる。(E)有機溶剤として、具体的には、例えば、トルエン、キシレン、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサン等の、付加反応型シリコーン組成物を均一に溶解できる有機溶剤が使用できる。トルエン/ヘキサン/メチルエチルケトンの混合溶媒を特に好ましく使用することができる。
(E)有機溶剤を配合する場合の配合量は、(A)成分100質量部に対して100~9,900質量部が好ましい。
なお、(E)成分は任意成分であり、配合しない場合は使用塗工装置で適切な塗工性が得られるよう(A)、(B)、(C)、(D)成分の粘度を変更して調整すればよい。
【0058】
上記付加反応型シリコーン組成物は、前記(A)、(B)、(C)、及び(D)、並びに所望により(E)、の各成分を均一に混合することにより容易に製造することができるが、十分なポットライフを確保するため、(D)成分はコーティングをする直前に添加混合することが好ましい。また、(E)成分の有機溶剤を使用する場合は、(A)成分及び(B)成分を(E)成分に均一に溶解した後、(C)、(D)成分を混合することが好ましい。
【0059】
剥離剤層は、本実施形態の目的に反しない限りにおいて、上記の付加反応型シリコーン組成物以外の成分を含有していてもよく、例えば、上記付加反応型シリコーン組成物の(A)から(C)成分以外のシリコーン化合物、及び/又は触媒、エポキシ化合物、アクリル化合物、レベリング剤、ラジカル発生剤、光増感剤、帯電防止剤等を適宜含有することができる。
【0060】
剥離剤層は、基材の少なくとも一方の面に剥離剤層の原料、好ましくは上記の付加反応型シリコーン組成物等の硬化性組成物を塗布した後乾燥し、又は光等の活性エネルギー線の照射により、硬化させることで形成することができる。
塗布方法には特に制限は無く、例えば、グラビアコート法、バーコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ダイコート法等が使用できる。
【0061】
乾燥温度は、70~120℃が好ましく、90~100℃が特に好ましい。乾燥時間は、5~60秒が好ましく、10~20秒が特に好ましい。乾燥後に養生を行ってもよい。
活性エネルギー線としては、通常、紫外線、電子線等が用いられる。活性エネルギー線の照射量は、エネルギー線の種類によって異なるが、例えば紫外線の場合には、光量で100~1000mJ/cmが好ましく、特に150~300mJ/cmが好ましい。また、電子線の場合には、0.1~50kGy程度が好ましい。
【0062】
剥離剤層の厚さは、0.05~2μmであることが好ましく、特に0.2~1.5μmであることが好ましい。剥離剤層の厚さが0.05μm以上であることは、剥離剤層表面の平滑性や、セラミックグリーンシートのピンホールや厚みむらの抑制の観点から好ましい。剥離剤層の厚さが2μm以下であることは、剥離剤層の硬化収縮によるカールの発生を抑制する観点から好ましい。また、ブロッキングや帯電の抑制の観点からも好ましい。
【0063】
それ以外の層
本発明で用いるセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムは、上述の基材と剥離剤層以外の層を有していてもよく、例えば保護層、接着層、帯電防止層等を有していてもよい。
基材と剥離剤層とは直接積層されていてもよく、接着層等のそれ以外の層を介して積層されていてもよい。
【0064】
セラミックスラリーの塗布
工程a)において、スラリーを塗布する方法は、工程b)において形成するセラミックグリーンシートの種類や厚さに応じて適宜選択することができる。、
例えば、アプリケータ、オンロールダイコータ、減圧ダイコータ、オフロールダイコータ、スリットコータ、カーテンコータ、引き上げコータ、ナイフコータ、キャストコータ、リバースロールコータ、ブレードコータ、スクリーン印刷法などを適宜採用することができる。
【0065】
塗布速度は、50~500m/minとすることが好ましい。
塗布厚みにも特に制限は無いが、工程b)において形成するセラミックグリーンシートの厚みの5.0~20.0倍であることが好ましく、5.0~10.0倍であることが特に好ましい。具体的な厚みとしては0.5~10μmであることが好ましく、1.0~8.0μmであることが特に好ましい。
【0066】
b)グリーンシート形成工程、
工程a)において塗布されたセラミックスラリーから、工程b)において乾燥等により溶剤を除去することで剥離フィルム上にセラミックグリーンシートを形成することができる。
工程b)において乾燥を行う場合の温度及び時間には特に制限は無いが、通常60~100℃、好ましくは70~100℃で、通常30~300秒、好ましくは30~120秒間乾燥を行うことができる。
【0067】
工程b)における乾燥時間が30秒以上であることで、乾燥が完了するまでにシート内の粒子を均一かつ密に配列させることができ、それによってグリーンシート内の空隙を低減することができる。
工程b)における乾燥時間が120秒以下であることで、セラミックグリーンシートの製造工程における生産効率を向上することができる。
【0068】
工程b)における乾燥温度を70℃以上とすることで、セラミックグリーンシート中に溶媒が実質的に残存せず、焼成工程でセラミック中にボイドが発生するのを防ぐことができる。また、乾燥温度を100℃以下とすることで、溶媒の急激な揮発によるグリーンシートの表面におけるふくれやへこみの発生を抑えることができる。また、乾燥ゾーンを複数にして、各々の乾燥ゾーン毎に温度を変えてもよい。
【0069】
工程b)において形成されるセラミックグリーンシートは単層であっても多層であってもよい。多層である場合には、複数のセラミックグリーンシートのみで多層構造が構成されていてもよく、電極等の他の層を含んで多層構造が構成されていてもよい。
工程b)において多層のセラミックグリーンシートを形成するため、工程a)においてセラミックスラリーを複数回塗布してもよく、その間に電極等の他の層を形成してもよい。
【0070】
c)紫外線照射工程
工程c)において、前セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの前記セラミックグリーンシートが形成された面とは反対の面に対して、紫外線を照射する。
工程c)において紫外線照射を行うことで、剥離フィルムに形成されたセラミックグリーンシートの剥離性が向上することができる。すなわち、工程c)後にセラミックグリーンシートを剥離フィルムから剥離する場合の剥離力P(mN/50mm)を、工程b)後工程c)前にセラミックグリーンシートを剥離フィルムから剥離する場合の剥離力P(mN/50mm)よりも小とすることができる。
【0071】
剥離力P(mN/50mm)と、剥離力P(mN/50mm)との比P/Pは、好ましくは0.80以下であり、より好ましくは0.7以下であり、特に好ましくは0.6以下である。
実用的には、照射前の剥離力P(mN/50mm)を重剥離とし、照射後の剥離力P(mN/50mm)を軽剥離とすることが好ましい。
【0072】
本発明においては、工程c)において紫外線照射を行うことで、、剥離フィルム上に形成されたセラミックグリーンシートの剥離性を適切に制御し、セラミックグリーンシートの搬送や加工の際には剥離を有効に抑制し安定的に搬送や加工を行えるとともに、その後セラミックグリーンシートを剥離フィルムから剥離する際には、低い剥離力で容易に剥離することができ、セラミックグリーンシートの破損や変形を有効に抑制することができる。
【0073】
工程c)において、前セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの前記セラミックグリーンシートが形成された面とは反対の面に対して、紫外線を照射することでセラミックグリーンシートの剥離性を適切に制御できるメカニズムは必ずしも明確ではないが、紫外線照射により、セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムとセラミックグリーンシートとの界面の構造に変化が生じ得ることと何らかの関係が有るものと推定される。
【0074】
工程c)における紫外線照射量には特に制限は無いが、100~1000mW/cmで照射することが好ましく、150~300mW/cmで照射することが特に好ましい。積算の照射量としては、100~500mJ/cmであることが好ましく、100~300mJ/cmであることが特に好ましい。
紫外線の波長にも特に制限は無いが、250~440nmであることが好ましく、300~400nmであることが特に好ましい。
工程c)における紫外線照射は、従来公知の紫外線照射装置により実施することが可能であり、高圧水銀灯、メタルハライド灯、フュージョン灯、LED灯等を適宜使用することができる。
【0075】
d)剥離工程
工程d)において、b)工程において形成されたセラミックグリーンシートをセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムから剥離する。
工程d)における剥離の方法には特に制限は無く、セラミックグリーンシートの材質や性状、その後の工程などに応じて適宜選択すればよく、例えば加熱を行ったり、剥離フィルム上のセラミックグリーンシートのみを切断した後に剥離フィルムを変形させるなどして、セラミックグリーンシートを剥離することができる。
本発明においては、工程d)における剥離力が低い(軽剥離)ので、セラミックグリーンシートの破損が有効に低減される。
剥離工程における剥離力は、10~300(mN/50mm)であることが好ましく、15~200(mN/50mm)であることが特に好ましい。
【0076】
電極印刷工程、ハーフカット工程、打ち抜き工程
本発明のセラミックグリーンシートの製造方法は、上記工程a)からd)に加えて、工程b)後工程c)前に、電極印刷、ハーフカット及び/又は打ち抜きを行う工程を更に有することができる。
本実施形態においては、工程b)後工程c)前の剥離力Pが比較的高い(重剥離)ので、電極印刷、ハーフカット及び/又は打ち抜きを行う際に、グリーンシートの剥離フィルムからの剥離、浮き等が有効に抑制され、安定的に高い精度で電極印刷、ハーフカット及び/又は打ち抜きを行うことができる。
工程b)後工程c)前の剥離力Pは、15~400(mN/50mm)であることが好ましく、50~200(mN/50mm)であることが特に好ましい。
【0077】
本発明の製造方法により得られたセラミックグリーンシートを焼成することで、各種セラミック製品を製造することができる。
工程b)後工程c)前に電極印刷工程を有する上記の実施形態によれば、電極印刷後、工程c)(紫外線照射)、工程d)(剥離)、積層圧着、切断分離、焼成、外部電極形成工程を経て、積層セラミックコンデンサや多層セラミック基板を製造することができる。
【実施例0078】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これにより何ら限定
されるものではない。
【0079】
セラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの作製
(A)1分子中に2以上のアルケニル基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン、(B)1分子中に2以上4以下のアルケニル基を有する環状シロキサン、及び(C)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含有するシリコーン剥離剤X-62-1980、(D)触媒量の白金族金属系触媒を含有するシリコーン用触媒CAT-PL-50T、並びにシリコーン用反応制御剤CAT-PLR-2(いずれも信越化学工業株式会社製)を質量比で100:1:3で混合し、これをトルエン/ヘキサン/メチルエチルケトン=4/6/3の混合溶媒で希釈し、1.2%希釈溶液を形成した。
基材として厚み38μmのKOLON社製ポリエチレンテレフタレートフィルム(CE900)を使用し、当該記載上に、メイヤーバーNo.4(9.14μm)を用いて上記希釈溶液を塗布し、95℃で20秒乾燥後、40℃で3日間養生し、基材と剥離剤層とからなるセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムを作製した。
【0080】
セラミックスラリーの調製
チタン酸バリウム(堺化学工業株式会社製、BT-01)、ポリビニルブチラール(積水化学工業株式会社製、エスレックBH-S)、フタル酸ジブチル、トルエン、及びエタノールを、100:8:2:50:50(質量比)で混合し、セラミックグリーンシートの原料となるセラミックスラリーを調製した。
【0081】
(比較例1)
上記にて作製したセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムの離型剤層側に、アプリケータにて同じく上記にて調製したセラミックスラリーを厚み50μmで塗布し、70℃で2分間乾燥して、厚さ8μmのセラミックグリーンシートを形成した。
【0082】
グリーンシートの剥離強度の測定
グリーンシートの剥離性評価として以下のようにして剥離強度を測定した。
離型フィルム及びその上に形成したセラミックグリーンシートを50mm×200mmの短冊状にカットし、テンシロン(株式会社エー・アンド・デイ:RTG-1210)にて離型フィルムからグリーンシートを180°の角度で剥離しその剥離強度を測定した。
【0083】
上記の評価方法にしたがい、形成されたセラミックグリーンシートの剥離を試みたところ、セラミックグリーンシートが破断し、剥離力を測定することができなかった。
同様のサンプルを使用して剥離を行ったところ、やはりセラミックグリーンシートは破断したが、破断前に剥離力300mN/50mmで剥離することができた。
更に同様のサンプルを使用して剥離を行ったところ、やはりセラミックグリーンシートは破断したが、破断前に剥離力310mN/50mmで剥離することができた。
【0084】
(実施例1)
セラミックグリーンシートの形成後、グリーンシート剥離力の評価前に、高圧水銀灯を用いて、剥離フィルムのセラミックグリーンシートが形成された面とは反対の面から紫外線照射を行った以外は、比較例1と同様にしてセラミックグリーンシートを形成して、剥離力の評価を行った。紫外線照射は、242mW/cmで、通算200mJ/cm行った。
グリーンシート剥離力は165mN/50mmであった。
離することができた。
【0085】
(実施例2)
紫外線照射の条件を209mW/cmで、通算204mJ/cmに変更したことを除くほか、実施例1と同様にしてセラミックグリーンシートを形成して、剥離力の評価を行った。
グリーンシート剥離力は180mN/50mmであった。
【0086】
実施例1及び2の剥離力は比較例1の半分程度であり、紫外線の照射により剥離力を大幅に低下させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のセラミックグリーンシート製造用剥離フィルムは、セラミックグリーンシートの剥離フィルムからの剥離力を適切に制御し、セラミックグリーンシートの搬送や加工の際の重剥離と、その後セラミックグリーンシートを剥離フィルムから剥離する際の軽剥離とを従来技術の限界を超えた高いレベルで共に実現するものであり、各種セラミック製品の製造に好適に利用することができるので、電気電子産業、電子部品産業、機械産業、自動車産業をはじめとする産業の各分野において高い利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0088】
1:セラミックグリーンシート製造用剥離フィルム
2:セラミックスラリー
3:塗布ローラー
4:乾燥
5:紫外線照射
6:巻取りローラー
図1