(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092426
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】波長選択型赤外放射制御部材
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20240701BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20240701BHJP
G02B 5/28 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
G02B5/18
H01L23/30 R
G02B5/28
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208333
(22)【出願日】2022-12-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-05-20
(71)【出願人】
【識別番号】000195029
【氏名又は名称】星和電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100164013
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 隆一
(72)【発明者】
【氏名】川添 公美子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 典生
【テーマコード(参考)】
2H148
2H249
4M109
【Fターム(参考)】
2H148FA05
2H148FA12
2H148FA22
2H249AA07
2H249AA16
2H249AA43
2H249AA44
2H249AA46
2H249AA55
2H249AA64
4M109AA01
4M109BA03
4M109EA02
4M109EC11
4M109GA05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】キャビティ表面に形成する金属被膜を特定の厚みよりも薄くすることにより、隣接するキャビティ間との光干渉と基材自体の大きな放射率の効果を重畳させて全体として大きな放射率の選択的赤外放射制御部材を提供する。
【解決手段】あらかじめ設定した波長範囲の赤外線を選択的に放射する波長選択型赤外放射制御部材であって、半導体材料または誘電体材料からなる基材の一方の面に、設定された開口形状と開口深さを有する多数のキャビティが設定された配置構成で2次元に配置され、キャビティとキャビティが形成された表面は、赤外領域の放射率が基材よりも小さな金属被膜が形成されており、キャビティが形成された表面に形成された金属被膜は、その表皮深さ以上で、かつ、表皮深さの3.5倍以下の厚みとし、キャビティに形成された金属被膜は、キャビティが形成された表面に形成された金属被膜の厚み以下とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
あらかじめ設定した波長範囲の赤外線を選択的に放射する波長選択型赤外放射制御部材であって、
半導体材料または誘電体材料からなる基材の一方の面に、設定された開口形状と開口深さを有する多数のキャビティが設定された配置構成で2次元に配置され、
前記キャビティと前記キャビティが形成された表面は、赤外領域の放射率が前記基材よりも小さな金属被膜が形成されており、
前記キャビティが形成された表面に形成された前記金属被膜は、その表皮深さ以上で、かつ、表皮深さの3.5倍以下の厚みとし、
前記キャビティに形成された前記金属被膜は、前記キャビティが形成された表面に形成された前記金属被膜の厚み以下としたことを特徴とする波長選択型赤外放射制御部材。
【請求項2】
前記キャビティは、前記開口形状と前記開口深さとの比であるアスペクト比が少なくとも1以上であり、かつ、前記キャビティに隣接する複数の他のキャビティとのそれぞれの中心間距離が少なくとも一つは異なるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の波長選択型赤外放射制御部材。
【請求項3】
前記キャビティは、前記開口形状と前記開口深さとの比であるアスペクト比が少なくとも1以上であり、かつ、前記キャビティは同一の周期で配置されていることを特徴とする請求項1に記載の波長選択型赤外放射制御部材。
【請求項4】
前記半導体材料は、シリコン、ゲルマニウム、炭化ケイ素、および、ガリウムひ素から選択された単結晶、多結晶または非晶質材料であることを特徴とする請求項1に記載の波長選択型赤外放射制御部材。
【請求項5】
前記半導体材料は、平滑面を有する基板上に、少なくとも前記開口深さ以上の厚みで成膜されたものであることを特徴とする請求項4に記載の波長選択型赤外放射制御部材。
【請求項6】
前記誘電体材料は、樹脂材料またはセラミック材料であることを特徴とする請求項1に記載の波長選択型赤外放射制御部材。
【請求項7】
前記樹脂材料は、平滑面を有する基板上に少なくとも前記開口深さ以上の厚みで形成されたものであることを特徴とする請求項6に記載の波長選択型赤外放射制御部材。
【請求項8】
前記キャビティは、多角形状または円形状、あるいは、多角形状と円形状との組み合わせからなることを特徴とする請求項1に記載の波長選択型赤外放射制御部材。
【請求項9】
発熱源を有する電子回路部が、特定の赤外線波長域で透過率の高い領域を有する封止樹脂部材により封止してなる電子機器に用いるものであって、
前記電子回路部と前記封止樹脂部材との間に配置され、前記封止樹脂部材の前記特定の赤外線透過波長域を選択的に放射するように、前記キャビティ形状と前記配置構成とを設定したことを特徴とする請求項1から8までのいずれか1項に記載の波長選択型赤外放射制御部材。
【請求項10】
発熱源を有する電子回路部が、特定の赤外線波長域で透過率の高い領域を有する封止樹脂部材で封止してなる電子機器であって、
前記電子回路部と前記封止樹脂部材との間に配置され、前記封止樹脂部材の特定の赤外線透過波長域を選択的に放射する波長選択型赤外線放射シートとを含み、
前記波長選択型赤外線放射シートが請求項1から8までのいずれか1項に記載の波長選択型赤外放射制御部材であることを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の赤外線透過波長域を有する樹脂部材において、その特定の赤外線波長領域の放射強度を大きくできる波長選択型赤外放射制御部材に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータやスマートホンなどの電子機器には多くの半導体素子が用いられており、かつ、処理速度も年々向上している。CPUなどの半導体素子は、小型化と高機能化の両立が要請されており、単位体積当りの発熱量の増加が顕著になっている。しかし、半導体素子は樹脂封止構造とすることが多いので、半導体素子で発生した熱を効率よく外部に冷却することが難しい。また、半導体素子だけでなく、種々の電子機器も小型化、軽量化の要請が強く、金属筐体から樹脂で直接封止した構造とする傾向にある。
【0003】
一般的に、熱の移動は、熱伝導、対流および熱放射(輻射)により生じる。樹脂封止した半導体素子の冷却は、半導体素子とヒートシンクとの間に高熱伝導性シートを密着させて挟み込み、熱伝導を利用した冷却を行っているのが多い。しかし、機器の小型化の要求が強まるにつれて、ヒートシンクを配置するスペースを設けることが難しくなってきている。そこで、近年、熱放射を利用して冷却する方式が注目されている。
【0004】
熱放射とは、ある物体からエネルギーが電磁波の形で放出される現象であり、0~100℃程度の低い温度範囲では、電磁波はほとんど赤外線の領域で放射される。熱放射による放熱量は放熱面積と放射率に比例し、環境温度との温度差が大きくなるほど大きくなる。熱放射により放熱するための放射材料も色々と開発されている。
【0005】
例えば、発熱源が特定の赤外線透過波長域を有する樹脂部材で覆われている電子機器において、周期的な表面微細凹凸パターンを形成する多数のマイクロキャビティが二次元配列された熱放射面を有する波長選択性熱放射材料を、発熱源と樹脂部材との間にこの発熱源を覆うように配置し、発熱源からの熱エネルギーを伝熱または熱放射により波長選択性熱放射材料へ投入し、そして波長選択性熱放射材料の熱放射面から樹脂部材へ向けて、樹脂部材の赤外線透過波長域に対応する熱放射光を選択的に放射させることにより、電子機器の放熱効率を向上させる方法とそのための波長選択制熱放射材料が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、過飽和固溶体を二相共存領域で時効処理したときに、スピノーダル分解により二相分離可能な合金基材を準備する工程と、この合金基材を二相共存領域で時効処理してスピノーダル分解させ、規則的に配列された第1の相と、第1の相の間に配列された第2の相とを形成する工程と、第2の相を所定の深さまで選択的に溶解除去して、第1の相を浮き上がらせる工程と、第2の相の溶解除去により浮き上がった第1の相を、超音波により物理的に除去する工程と、第1の相を超音波により物理的に除去した後、表面にある第1の相を選択的に溶解除去する工程と、を具備することを特徴とする波長選択性の熱放射または熱吸収材料の製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
さらに、樹脂部材の赤外線透過波長域に対応する熱放射光を選択的に放射する波長選択性熱放射材料であって、波長選択性熱放射材料は周期的に繰り返されかつ格子状に二次元配列される矩形の開口を有する多数のマイクロキャビティが形成された熱放射面を有しており、そしてマイクロキャビティは、開口比a/Λ(a;開口径,Λ;開口の周期)が0.5~0.9の範囲であり、かつマイクロキャビティを区画するキャビティ壁上部の表面粗さRzが1μm以下であることを特徴とする波長選択性熱放射材料も開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
さらに、特定の光吸収帯を持つふく射性ガス分子を効率良く加熱するために用いられる波長選択性熱放射材料であって、平面上に周期的に繰り返される微細凹凸パターンを形成するように、実質的に二次元配列された多数のマイクロキャビティと、マイクロキャビティを覆う被覆層を有し、ふく射性ガス分子の特定の光吸収帯の波長領域に対応する熱ふく射電磁波を選択的に放射する熱放射面と、を具備することを特徴とする波長選択性熱放射材料も開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010-27831号公報
【特許文献2】特開2013-32570号公報
【特許文献3】WO2015/190163
【特許文献4】特開2004-238230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の発明は、発熱源が特定の赤外線透過波長域を有する樹脂部材で覆われている電子機器において発熱源の放熱効率を向上させるために使用される波長選択性熱放射材料であり、基材としてはシリコン、ゲルマニウムなどの単体半導体、タングステンやタンタルなどの高融点金属を用い、マイクロキャビティの表面物質としては白金、金、銀、銅やアルミニウムなどの電気伝導性に優れた金属膜を被覆層として形成することが開示されている。しかし、数値解析と実施例では、被覆層として白金膜を形成することは開示されているが、その厚みについては全く開示されていない。
【0011】
特許文献2に記載の発明は、一定形状のマイクロキャビティを形成する場合に、通常行われているフォトリソプロセスとエッチングプロセスとの組み合わせ方式では工程が複雑で、コストアップになるという課題を有しており、これを解決するために規則的な構造を有する合金素材を用いてエッチング処理するだけでマイクロキャビティを形成することがポイントである。この合金素材は、電気伝導度が低く、赤外領域の反射が低くなるので、合金素材よりも電気伝導度が高い金属膜を被覆している。材料としては、白金などの貴金属、タングステン、タンタルなどの金属がよいとしており、その厚みは、最低でも電磁波の侵入深さ分は必要であるとしており、実施例では白金を100nm形成したことが開示されている。また、この合金素材を用いて波長選択型赤外放射体に要求される規則的な構造を量産レベルで安定に製造することは難しいという課題も有する。
【0012】
特許文献3に記載の発明は、基材として、(100)の結晶面の面積占有率が93%以上であるアルミニウム又はアルミニウムの合金の金属箔を用いて、異方性エッチングを行うことで、熱放射面に対し垂直に配向されたマイクロキャビティを容易に作製することが特徴である。基材としてアルミニウムを用いるため被覆層を形成していない。
【0013】
特許文献4に記載の発明は、輻射性ガスを効率よく加熱するために、輻射性ガス分子の特定の光吸収体波長と実質的に同じ周期かまたは1μm短い周期に形成することで、対象ガスの光吸収体波長域で放射率を増加させることが特徴である。基材としてシリコンウエハを用いているので、被覆層は密着性増進のためにチタン薄膜を40nm形成した後に、白金薄膜を100nm形成しているが、被覆層の必要厚みについては開示されていない。
【0014】
本発明は、特定の赤外線波長領域の放射率を向上させるために、キャビティ表面に形成する金属被膜を特定の厚みよりも薄くすることにより、隣接するキャビティ間との光干渉と基材自体の大きな放射率の効果を重畳させて全体として大きな放射率を有する波長選択型赤外放射制御部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記従来の課題を解決するために本発明の波長選択型赤外放射制御部材は、あらかじめ設定した波長範囲の赤外線を選択的に放射する波長選択型赤外放射制御部材であって、半導体材料または誘電体材料からなる基材の一方の面に、設定された開口形状と開口深さを有する多数のキャビティが設定された配置構成で2次元に配置され、キャビティとキャビティが形成された表面は、赤外領域の放射率が基材よりも小さな金属被膜が形成されており、キャビティが形成された表面に形成された金属被膜は、その表皮深さ以上で、かつ、表皮深さの3.5倍以下の厚みとし、キャビティに形成された金属被膜は、キャビティが形成された表面に形成された金属被膜の厚み以下としたことを特徴とする。
【0016】
このような構成とすることにより、表面の金属被膜の赤外線に対する遮蔽能力を低くして、隣接するキャビティとの光干渉や基材の大きな放射率も活用するようにし、キャビティからの放射率だけでなく、光干渉の放射率と基材の放射率とを相乗して結果的に大きな放射率を実現できる。
【0017】
なお、放射率は、その物体の放射(および吸収)の能率を表す尺度で、0から黒体の値である1の間の値をとる。全波長についての比率を全放射率、特定波長における比率を分光放射率という。本発明でいう放射率は、分光放射率である。また、放射率は物体の材質、表面状態(酸化、汚れ等)、表面形状(粗さ、凹凸)、温度により変化することが知られている。
さらに、表皮深さとは、ある材質に入射した電磁界が1/εに減衰する距離のことをいう。
金属は負誘電体であるので、表皮深さは下記の数式で求められる。
【0018】
【0019】
本発明では、封止樹脂部材の透過波長帯域である約3.5~5.6μmで赤外線を効率よく放射させる波長選択型赤外放射制御部材を主とする。そこで、波長を5μmとし、金属被膜の材料としてアルミニウム(Al)を用いた場合、表皮深さは17.2nmである。表皮深さの厚みを形成した場合には、電磁波のエネルギーが1/ε、すなわち-8.7dB減衰する。電磁波シールド性能の目安としては、-30dBとすることがより好ましいので、この場合には表皮深さの3.5倍の厚み、すなわちAlでは60.4nmとなる。これ以上の厚みを形成すればさらに電磁波シールド性能が大きくなるが、本発明では電磁波シールド性能を少し小さくすることで、キャビティからの放射率だけでなく、光干渉の放射率と基材の放射率とを相乗して結果的に大きな放射率を実現しようとするものである。このため、金属被膜の厚みとしては少なくとも表皮深さの3.5倍以下とすることが好ましい。一方、金属被膜が薄い場合には、波長選択性が低下する。これを回避するためには、少なくとも表皮深さ以上にすることが好ましい。Alについてみると、表皮深さである17.2nm以上で、表皮深さの60.4nm以下とすることが好ましい。
【0020】
上記構成において、キャビティは、開口形状と開口深さとの比であるアスペクト比が少なくとも1以上であり、かつ、キャビティに隣接する複数の他のキャビティとのそれぞれの中心間距離が少なくとも一つは異なるように配置されていてもよい。
【0021】
なお、キャビティは電磁場の共振器として作用すると考えられる。共振条件では入射電磁波の吸収率が増大するので、輻射増大が生じる。したがって、アスペクト比が1より小さいと共振器としての作用が生じにくいので好ましくない。アスペクト比は大きいほうがよいが、開口形状の開口径の目標値は約3μmであるので、アスペクト比が2より大きくしようとすると、キャビティ形成のエッチング加工時にサイドエッチングが大きくなり、開口形状の開口径の精度が低下する。したがって、アスペクト比は1以上で、2以下が好ましい。ただし、エッチング加工においてサイドエッチングを生じさせないようにできれば、2より大きくしても構わない。なお、開口形状の開口径は、四角形の場合には幅、円形の場合には直径をいう。以下では、開口径を開口形状とよぶ場合がある。
【0022】
このような配置構成とすることにより、一部で周期的な配列の乱れが生じ、その結果として波長と放射率が異なる複数の放射波が現出し、それらが重畳することにより、必要とする赤外線波長領域である3.5~5.6μmの積分放射率を大きくすることができる。なお、積分放射率とは、本発明では3.5~5.6μmの波長範囲における放射率を積算した値、すなわち3.5~5.6μmの範囲の放射率面積をいう。
【0023】
上記構成において、キャビティは、開口形状と開口深さとの比であるアスペクト比が少なくとも1以上であり、かつ、キャビティは同一の周期で配置されていてもよい。このような配置構成とすることにより、多数のキャビティは2次元的に一定の周期で配置されるので、特定の波長の放射ピーク強度を大きくすることができる。
【0024】
上記構成において、半導体材料は、シリコン、ゲルマニウム、炭化ケイ素、および、ガリウムひ素から選択された単結晶、多結晶または非晶質材料であってもよい。また、半導体材料は、平滑面を有する基板上に、少なくとも開口深さ以上の厚みで成膜されたものであってもよい。
【0025】
シリコンやゲルマニウムなどの半導体材料の放射率は大きいので、本発明の金属被膜を薄くすることで基材からの放射も有効に利用できる。なお、波長が0.9μmの場合、シリコンの放射率は0.69~0.71、ゲルマニウムの放射率は0.6、炭化ケイ素の放射率は0.80~0.83、ガリウムひ素の放射率は0.68である。ただし、放射率は表面状態に大きく影響されるのでこれらの値は参考値である。
【0026】
半導体材料としては、単結晶、多結晶または非晶質でもよく、単結晶の場合には集積回路製造に用いるウエハを用いればよい。また、多結晶の場合には、太陽電池などに用いられているウエハを用いてもよいし、ガラス基板や石英基板上に少なくとも開口深さ以上の膜厚で形成してもよい。また、膜生成において、必ずしも多結晶化することは必要なく、非晶質であってもよいし、非晶質と多結晶との混在状態でもよい。膜生成は、例えばスパッタリングやCVDなどの既存の成膜方法を使うことができる。基板としても、ガラス基板や石英基板に限定されることはなく、例えば平滑面を有するポリイミドシート上に形成してもよい。
【0027】
このような材料を用いることにより、放射率が大きく、かつ大面積で平滑な基板を容易に得ることができ、かつキャビティ形成のためのフォトリソプロセスとエッチングプロセスとを確実に行うことができる。
【0028】
また、半導体材料を成膜する場合、キャビティの開口深さ以上の厚みとすることが好ましい。このような厚みにすれば、エッチングによりキャビティを形成するときに、キャビティは半導体材料内のみで形成される。したがって、単結晶の半導体材料を用いた場合と同じ特性を得ることができる。一方、ガラス基板や石英基板上に半導体材料を成膜すれば、単結晶の半導体材料に比べて安価にすることができる。
【0029】
上記構成において、誘電体材料は、樹脂材料またはセラミック材料であってもよい。また、樹脂材料は、平滑面を有する基板上に少なくともキャビティの開口深さ以上の厚みで形成されたものであってもよい。
【0030】
樹脂材料は選択放射体であり、特定の波長で透過と吸収(放射)が大きく変化する。吸収(放射)が大きい波長で測定すると放射率は大きい。樹脂材料としては、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂等を用いることができる。また、セラミック材料としてはアルミナ(放射率:0.9)、マグネシア(放射率:0.91)や窒化ケイ素(放射率:0.89)等の焼結材あるいはCVDなどにより形成した成膜材あるいはバルク材を用いることができる。
【0031】
樹脂材料の場合、ガラス基板や石英基板あるいはアルミニウム箔など平滑面を有する基板上に少なくともキャビティの開口深さ以上の厚みで形成すれば、キャビティは樹脂材料のみで形成できるので、エッチング加工が容易になる。なお、樹脂材料を所定の厚みで形成するのは、例えばロールコータを用いれば容易に行える。
上記構成において、キャビティは、多角形状または円形状、あるいは、多角形状と円形状との組み合わせからなるものであってもよい。
【0032】
本発明は、3.5~5.6μmの範囲の波長における放射強度の積分値、すなわち積分放射率を大きくすることを目的の一つとしている。大きさの異なる多角形の組み合わせ、大きさの異なる円形の組み合わせ、多角形と円形との組み合わせとすれば、それぞれの形状により放射強度のピーク値が異なるので、これらを積算した積算放射率を大きくすることができる。なお、単一の多角形状や単一の円形状を用いてもよい。
【0033】
上記構成において、発熱源を有する電子回路部が、特定の赤外線波長域で透過率の高い領域を有する封止樹脂部材により封止してなる電子機器に用いるものであって、電子回路部と封止樹脂部材との間に配置され、封止樹脂部材の特定の赤外線透過波長域を選択的に放射するように、キャビティ形状と配置構成とを設定してもよい。
【0034】
例えば、CPUなどは高機能化するに伴い単位体積当たりの発熱量が大きくなっている。このパッケージは通常樹脂封止されているので、封止樹脂部材を介して熱伝導による放熱が難しい。このような電子回路部と封止樹脂部材との間に、本発明の波長選択型赤外放射制御部材を配置すれば、封止樹脂部材の透過率の高い領域からの外部への放射を大きくでき、輻射による放熱効果を高めることができる。
【0035】
つぎに、本発明の電子機器は、発熱源を有する電子回路部が、特定の赤外線波長域で透過率の高い領域を有する封止樹脂部材で封止してなる電子機器であって、電子回路部と封止樹脂部材との間に配置され、封止樹脂部材の特定の赤外線透過波長域を選択的に放射する波長選択型赤外線放射シートとを含み、波長選択型赤外線放射シートが上記記載の波長選択型赤外放射制御部材であることを特徴とする。
【0036】
例えば、CPUなどは高機能化するに伴い単位体積当たりの発熱量が大きくなっており、このような電子回路部を含む電子機器の放熱対策が求められている。これらの電子機器は通常樹脂封止されており、封止樹脂部材を介して熱伝導による放熱が難しい。このような電子回路部と封止樹脂との間に、本発明の波長選択型赤外放射制御部材を配置すれば、封止樹脂部材の透過率の高い領域からの外部への放射を大きくでき、輻射による放熱効果を高めた電子機器を実現することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明の波長選択型赤外放射制御部材は、発熱部を有する電子回路部が設けられた電子機器の発熱源からの熱を封止樹脂の赤外線透過帯域を介して放射により放熱して冷却することができ、半導体装置分野に大きな効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の第1の実施の形態にかかる波長選択型赤外放射制御部材の概略構成を示す図で、(a)は平面図、(b)は(a)のX-X線に沿った断面図である。
【
図2】第1の実施の形態に係る波長選択型赤外放射制御部材について、円形の開口形状を有し、キャビティに隣接する複数の他のキャビティとのそれぞれの中心間距離が少なくとも一つは異なるように配列した波長選択型赤外放射制御部材と一定の周期で配列した波長選択型赤外放射制御部材との放射率特性を比較した図である。
【
図3】第1の実施の形態に係る波長選択型赤外放射制御部材について、周期配列とランダム配列Aおよびランダム配列Bの配列状態を示す図である。
【
図4】第1の実施の形態に係る波長選択型赤外放射制御部材について、
図3の周期配列構成において、キャビティを形成する表面の金属膜の厚みを変化させて放射率特性を調べた結果である。
【
図5】第1の実施の形態に係る波長選択型赤外放射制御部材について、
図3のランダム配列Bの構成において、キャビティを形成する表面の金属膜の厚みを変化させて放射率特性を調べた結果である。
【
図6】第1の実施の形態に係る波長選択型赤外放射制御部材について、開口形状を四角形として周期を5μmとして周期配列した場合のAl膜厚による放射率特性を調べた結果である。
【
図7】第1の実施の形態に係る波長選択型赤外放射制御部材について、開口形状を円形として仮想円の周期を5μmとし、かつ、周期配列した場合のAl膜厚による放射率特性を調べた結果である。
【
図8】第1の実施の形態に係る波長選択型赤外放射制御部材について、
図6と
図7に用いた試料の開口形状を示すSEM像である。
【
図9】第2の実施の形態に係る波長選択型赤外放射制御部材の断面概略図である。
【
図10】第3の実施の形態に係る波長選択型赤外放射制御部材についての製造工程を説明するための断面概略図である。
【
図11】本発明の電子機器の構造を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
(第1の実施の形態)
【0040】
以下、本発明の第1の実施の形態の波長選択型赤外放射制御部材について図面を用いながら説明する。
図1は、本発明の波長選択型赤外放射制御部材1の概略構成を示す図で、(a)は平面図、(b)は(a)のX-X線に沿った断面図である。なお、
図1は模式図であり平面図と断面図とは必ずしも正確に一致するようには記載されていない。
【0041】
本発明の波長選択型赤外放射制御部材1は、あらかじめ設定した波長範囲の赤外線を選択的に放射する波長選択型赤外放射制御部材であって、半導体材料または誘電体材料からなる基材2の一方の面に、設定された開口形状Wと開口深さDを有する多数のキャビティ4a、4b、4c、4d、4e、4fが設定された配置構成で2次元に配置されている。キャビティ4a、4b、4c、4d、4e、4fと、キャビティ4a、4b、4c、4d、4e、4fが形成された表面5a、5b、5c、5d、5eは、赤外領域の放射率が基材よりも小さな金属被膜3a、3bが形成されている。キャビティ4a、4b、4c、4d、4e、4fが形成された表面5a、5b、5c、5d、5eに形成された金属被膜3aは、その表皮深さ以上で、かつ、表皮深さの3.5倍以下の厚みである。一方、キャビティ4a、4b、4c、4d、4e、4fに形成された金属被膜3bは、キャビティ4a、4b、4c、4d、4e、4fが形成された表面5a、5b、5c、5d、5eに形成された金属被膜の厚み以下としている。
【0042】
なお、上記説明ではX-X線に沿った断面図に記載したキャビティとキャビティが形成された表面およびそれに形成された金属被膜のみについて説明したが、
図1(a)からわかるようにキャビティは全面に多数配列されている。
【0043】
本実施の形態では、キャビティは、開口形状Wと開口深さDとの比であるアスペクト比が少なくとも1以上であり、かつ、キャビティに隣接する複数の他のキャビティとのそれぞれの中心間距離が少なくとも一つは異なるように配置されている。例えば、
図1(a)のキャビティ4gに注目すると、このキャビティ4gに隣接するキャビティ4h、4i、4j、4k、4lおよび4mの内、キャビティ4mとキャビティ4gとの中心間距離は他のキャビティとの中心間距離よりも小さく設定されている。他のキャビティに注目してもそれに隣接するキャビティのうち少なくとも一つは中心間距離が異なるように配列されている。
本実施の形態では、基材2として半導体材料であるシリコン基板を用いた。
図1(b)に示す形状を作製する手順を以下に述べる。
【0044】
シリコン基板の表面にフォトレジストを塗布する。フォトレジストの塗布は一般的にスピンコーティングが用いられている。本実施の形態でもスピンコーティングを用いた。
【0045】
つぎに、隣接間のキャビティのうち少なくとも一つの中心間距離を異ならせたフォトマスクを用意する。このフォトマスクを用いて露光する。開口形状Wは3μmを目標としているので、ステッパーを用いた。なお、本実施の形態では、円形の開口形状、四角形の開口形状で、かつ、種々の大きさの開口形状を有する波長選択型赤外放射制御部材を作製した。このために、フォトマスクも種々の形状のものを作製した。
【0046】
所定時間露光後、現像処理することによりフォトレジストの所定箇所が現像されてシリコン基板表面が露出する。このようにしたシリコン基板をドライエッチング装置で異方性ドライエッチングを行った。これにより所定の開口形状Wを有し、所定の深さを有するキャビティが多数配列された構造を得た。その後、フォトレジストを除去し、洗浄後、スパッタリング装置に投入して例えばAlを所定厚み形成した。このようにして所定の開口形状Wを有し、所定の深さDのキャビティが多数配列された波長選択型赤外放射部材1を得た。
【0047】
なお、成膜をスパッタリングにより行うと、キャビティが形成された表面に形成された金属被膜の厚みに対して、キャビティに形成された金属被膜の厚みは約0.5~1の範囲にすることができる。また、開口形状Wと深さDとは厳密には金属被膜が形成された後の形状であるが、エッチングで開口するキャビティは約3μmであり、金属被膜は約50nmであるので、金属被膜の厚み分はほぼ無視できる。成膜方式はスパッタリングに限定されることはなく、例えばMOCVD方式でもよいし、あるいは無電解メッキ方式でもよい。これらの方式の場合には、キャビティが形成された表面に形成された金属被膜の厚みに対して、キャビティに形成された金属被膜の厚みはほぼ同じか、あるいはやや小さな厚みにすることができる。すなわち、約0.8~1の範囲にすることができる。
つぎに、金属被膜としてAlを用い、種々の膜厚および開口形状などを変化させて作製した波長選択型赤外放射制御部材の放射率特性について説明する。
【0048】
図2は、円形の開口形状Wを有し、キャビティに隣接する複数の他のキャビティとのそれぞれの中心間距離が少なくとも一つは異なるように配列した波長選択型赤外放射制御部材と一定の周期で配列した波長選択型赤外放射制御部材とのそれぞれの放射率を比較した図である。異なるように配列した構成を以下ではランダム配列とよぶことにする。
図3は、周期配列とランダム配列Aおよびランダム配列Bの配列状態を示す図である。
【0049】
周期配列は、円形の開口形状Wを3μmとし、中心間距離を5μmとして配列した。この配列は、直径が5μmの仮想円を稠密状態で配列し、その仮想円と同心で3μmの円形の開口形状を配列すれば得られる。
【0050】
ランダム配列Aは、円形の開口形状は同じく3μmである。配列方法は、直径が5μmの仮想円を稠密状態で配列し、この仮想円内にさらに直径が4μmの第2仮想円を同心で配列し、この第2仮想円に対して円形の開口形状を、第2仮想円からはみ出さない範囲で離心させて配列してなる。
【0051】
ランダム配列Bは、円形の開口形状は同じく3μmである。配列方法は、直径が5μmの仮想円を稠密状態で配列し、この仮想円に対して円形の開口形状を、仮想円からはみ出さない範囲で離心させて配列してなる。
図3からもわかるように、ランダム配列Bはランダム配列Aよりもランダム性が高い配列である。
【0052】
配列方法の説明からわかるように、5μmの仮想円を稠密に配列して、その中に3μmの円形の開口形状を配列しているのはすべて同じである。したがって、同一面積中のキャビティの個数はすべて同じである。
【0053】
図2の放射率特性をみると、周期配列のピーク波長は4.9μm、ピーク強度は69.1である。一方、ランダム配列Aのピーク波長は同じく4.9μm、ピーク強度は67.0である。また、ランダム配列Bのピーク波長は同じく4.9μm、ピーク強度は61.4である。ピーク強度についてみると、周期配列が最も大きくなることがわかった。しかし、封止樹脂部材の赤外線透過波長帯域である3.5~5.6μの範囲についての積分放射率を求めると、周期配列は3365、ランダム配列Aは3390であるのに対して、ランダム配列Bは3598であった。この結果からみると、実質的に赤外線を放射することによる冷却効果は、ランダム配列Bのほうがよいことがわかった。これは、ランダム配列Bの場合には、ピーク強度は小さくなるが、3.5~5.6μmの波長範囲で幅広く放射率が他よりも大きくなることによる。
【0054】
図4は、
図3の周期配列構成において、キャビティを形成する表面の金属膜の厚みを変化させて放射率特性を調べた結果である。金属膜としては、Alを用いてスパッタリングにより形成した。開口形状Wは3μm、開口深さDは3.3μm、周期配列の周期は5μmである。図からわかるように、Al膜を形成しない場合とAl膜を12nm形成した場合には、明確なピークが得られず、波長選択型赤外放射制御部材としては使用できないことがわかった。Al膜厚を25nmおよび50nmとした場合には、ピーク波長は同じ4.9μmであり、積分放射率も25nmでは4307、50nmでは5096と大きな値が得られた。一方、Al膜厚を100nmとした場合には、ピーク波長はほぼ同じであるが、ピーク強度は小さくなった。さらに、積分放射率は3365となり、25nmと50nmとに比べて小さな結果が得られた。
【0055】
Alの場合、表皮深さは17.2nmであるので、Alを12nm形成してもシールド効果が得られず、5.6μm以上の長い波長帯域でも放射されてしまい、波長選択型赤外放射制御部材の効果が得られない。シールド効果を確実に得るためには、-30dBとすることが必要であるが、そのためには表皮深さの3.5倍の厚みが要求される。Alの表皮深さの3.5倍は60.4nmである。Al膜厚を100nmとした場合にはシールド効果が十分に作用する。この結果、波長が4.9μmに急峻なピークが得られ、それ以外の波長では放射率が非常に小さくなる。急峻なピークを得たい場合には、非常に優れた特性である。しかし、波長選択型赤外放射制御部材としては、3.5~5.6μmの範囲の積分放射率を大きくする方が好ましい。膜厚を100nmとした場合には、急峻なピークが得られるが、積分放射率は小さくなるので波長選択型赤外放射制御部材としての特性は十分とはいえない。
【0056】
図5は、
図3のランダム配列Bの構成において、キャビティを形成する表面の金属膜の厚みを変化させて放射率特性を調べた結果である。金属膜としては、Alを用いてスパッタリングにより形成した。開口形状Wは3μm、開口深さDは3.3μm、仮想円の直径は5μmである。図からわかるように、Al膜厚を25nmとした場合には、5.6μmよりも長波長側で放射率が大きくなったが、3.5~5.6μmの波長範囲の積分放射率も4503となり、大きい結果が得られた。Al膜厚を50nmとした場合には、ピーク強度が最も大きくなり、かつ積分放射率も4329となったが、Al膜厚を25nmとした場合よりやや小さい結果となった。それに対して、Al膜厚を100nmとした場合には、ピーク強度もやや小さくなるだけでなく、積分放射率も小さくなった。
【0057】
Alの場合、表皮深さは17.2nmであり、表皮深さの3.5倍は60.4nmである。Al膜厚を100nmとした場合、シールド効果が十分に作用するが、その結果として3.5~5.6μmの範囲の積分放射率が小さくなり、波長選択型赤外放射制御部材としての特性が十分に得られない。
【0058】
図6は、開口形状を四角形として周期を5μmとして周期配列した場合のAl膜厚による放射率特性を調べた結果である。
図7は、開口形状を円形として仮想円の周期を5μmとし、かつ、周期配列した場合のAl膜厚による放射率特性を調べた結果である。
図8は、
図6と
図7に用いた試料の開口形状を示すSEM像である。フォトマスクでは正四角形としているが、露光およびドライエッチングの影響により角部が丸みを有する形状となっており、厳密な四角形状になっていない。円形の試料については、ほぼ正確な円形状である。
【0059】
図6からわかるように、Al膜厚を50nmとした場合にはピーク強度が90を超えているのに対して、Al膜厚を100nm、500nmとした場合、ピーク強度が小さくなることがわかる。3.5~5.6μmの波長範囲における積分放射率は、Al膜厚が50nmでは14045、100nmでは10410、500nmでは9542となった。この結果から、Alの表皮深さの3.5倍よりも大きい厚みとすると、積分放射率は小さくなることがわかった。なお、放射率特性において、ピーク波長の長波長側にもピークがみられる。これは、
図8に示すように、四角形状が正確に得られていないことによると推測している。
【0060】
図7は開口形状が円形で、かつ、仮想円を5μmとして周期配列とした場合であるが、この場合においてもAl膜厚が50nmのピーク強度が最大であり、100nm、500nmともにピーク値が小さくなる傾向がみられた。積分放射率についてみると、Al膜厚が50nmでは12792、100nmでは11742、500nmでは9452となり、四角形状の場合と同様にAl膜厚を表皮深さの3.5倍よりも大きくすると積分放射率が小さくなることが見いだされた。
【0061】
なお、本実施の形態では半導体材料としてシリコン基板を用いたが、ゲルマニウム、炭化ケイ素あるいはガリウムひ素等を用いてもよい。炭化ケイ素は単結晶材料でもよいし、多結晶材料でもよい。また、セラミック材料としてアルミナ、ジルコニアなどを用いることもできる。
(第2の実施の形態)
【0062】
図9は、本発明の第2の実施の形態に係る波長選択型赤外放射制御部材10の断面概略図である。本実施の形態に係る波長選択型赤外放射制御部材10は、平滑面を有する基板11上に、少なくともキャビティ14a、14b、14c、14d、14e、14fの開口深さ以上の厚みで半導体材料を成膜し、この半導体材料に対してフォトリソプロセスとエッチングプロセスとを用いてキャビティ14a、14b、14c、14d、14e、14fを形成し、その後金属被膜13a、13bを形成することにより作製したものである。
本実施の形態に係る波長選択型赤外放射制御部材10の製造方法を以下に説明する。
【0063】
本実施の形態では、基板11としてガラス基板を用いた。ガラス基板は、液晶ディスプレイ用として薄く、かつ非常に平滑な面を有するものが大量に生産されており、利用しやすい材料である。ガラス基板11上に、プラズマCVD装置を用いて、非晶質のシリコン膜を4μm成膜した。その後、第1の実施の形態で説明した製造方法と同じ製造方法を用いて、円形の開口形状で、ランダム配列Bの構成の波長選択型赤外放射制御部材11を製造した。キャビティ14a、14b、14c、14d、14e、14fの形成のためのドライエッチングは、単結晶のシリコンの場合と同じ条件で可能であったが、非晶質材料であるので単結晶に比べるとエッチングは容易であった。
【0064】
金属被膜としてはAlをスパッタリングにより成膜した。キャビティが形成された表面15a、15b、15c、15d、15eに形成された金属被膜13aであるAlは、その表皮深さ以上で、かつ、表皮深さの3.5倍以下の厚みとし、キャビティ14a、14b、14c、14d、14e、14fに形成された金属被膜13bであるAlは、キャビティ14a、14b、14c、14d、14e、14fが形成された表面15a、15b、15c、15d、15eに形成された金属被膜13aであるAlの厚み以下とした。具体的には、キャビティ14a、14b、14c、14d、14e、14fが形成された表面15a、15b、15c、15d、15eに形成された金属被膜13aの厚みを50nmとした。スパッタリングで成膜したので、キャビティ14a、14b、14c、14d、14e、14fに形成された金属被膜13bであるAlは少なくとも50nm以下であった。
このようにして作製した波長選択型赤外放射制御部材10の放射率特性は、
図5のAl厚みを50nmとした場合の特性とほぼ同じ特性を得ることができた。
【0065】
なお、本実施の形態では、ガラス基板上にシリコン膜を形成して用いたが、ゲルマニウムや炭化ケイ素の膜を形成して用いてもよい。炭化ケイ素は放射率も大きく、かつ、色々な分野で製膜して用いられており、かつ、エッチング技術も確立しているので好ましい材料である。
(第3の実施の形態)
【0066】
図10は、本発明の第3の実施の形態に係る波長選択型赤外放射制御部材24の製造工程を説明するための断面概略図である。
図10(a)は基板21上に波長選択型赤外放射制御部材24となる樹脂シート23を、粘着性部材22を介して貼り合わせた状態を示す図である。
図10(b)は、貼り合わせた後に、樹脂シート23の所定箇所をエッチングしてキャビティ25を形成し、その後金属被膜26を形成して波長選択型赤外放射制御部材24を作製した状態を示す図である。
図10(c)は、基板21から剥離して波長選択型赤外放射制御部材24のみとした状態を示す図である。
以下、本実施の形態に係る波長選択型赤外放射制御部材24の製造方法を説明する。
【0067】
本実施の形態では、第2の実施の形態と同様に基板21としてガラス基板を用いた。ガラス基板21上に、粘着性部材22を均一に塗布した後、樹脂シート23として厚みが18μmのポリイミドシートを貼り付けた。以下、樹脂シート23をポリイミドシート23とよぶ場合がある。貼り付けるときに粘着性部材22とポリイミドシート23との間に気泡が生じないように注意が必要である。
【0068】
その後、第1の実施の形態で説明した製造方法と同じ製造方法を用いて、キャビティが円形の開口形状で、ランダム配列Bの構成をエッチングにより形成した。キャビティ形成のためのエッチングは、半導体分野で用いられているポリイミドのエッチング加工技術を活用した。具体的には、リアクティブイオンエッチング(RIE)により加工した。キャビティを形成後、全面に金属被膜26としてAl膜を50nm形成した。これにより波長選択型赤外放射制御部材24が形成される。この状態を
図10(b)に示している。
【0069】
つぎに、粘着性部材22と波長選択型赤外放射制御部材24との間を剥離する。剥離は機械的に行ってもよいし、あるいは粘着性部材22を溶解する液を注いで粘着性を喪失させて剥離してもよい。これを
図10(c)に示す。これにより、全体の厚みが18μmのポリイミドシート23からなる波長選択型赤外放射制御部材24を得た。
【0070】
この波長選択型赤外放射制御部材24の放射率特性を調べた。シリコンに比べてポリイミドは熱伝導率が小さいので、発熱部材からの熱がキャビティ25まで伝達するのに時間がかかるが、キャビティ25が加熱されると、
図5のAl膜が50nmの場合とほぼ同じ特性を得ることができた。
【0071】
なお、本実施の形態では樹脂シート23として18μm厚みのポリイミドシートを用いたが、本発明はこれに限定されない。厚みは任意に設定してもよいし、樹脂シートの材料としてもポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂やエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることもできる。
【0072】
また、樹脂シート23のエッチングにおいても、本実施の形態ではポリイミドをドライエッチングする方法としたが、ウエットエッチングでもよいし、エッチング加工ではなくインプリント方式でキャビティを形成してもよい。
【0073】
第1の実施の形態に係る波長選択型赤外放射制御部材1、第2の実施の形態に係る波長選択型赤外放射制御部材10、および第3の実施の形態に係る波長選択型赤外放射制御部材24を、発熱源を有する電子回路部が、特定の赤外線波長域で透過率の高い領域を有する封止樹脂部材により封止してなる電子機器に用いてもよい。この場合、波長選択型赤外放射制御部材が電子回路部と封止樹脂部材との間に配置され、封止樹脂部材の特定の赤外線透過波長域を選択的に放射するように、キャビティ形状と配置構成とを設定してもよい。具体的には、封止樹脂の赤外線透過率の大きな領域は、波長が3.5~5.6μmの範囲である。したがって、この範囲で積分放射率を大きくした波長選択型赤外放射制御部材は良好な放熱特性を有する。
(第4の実施の形態)
【0074】
つぎに、本発明の電子機器30について説明する。
図11は、本発明の電子機器30の構造を示す模式的断面図である。発熱源を有する電子回路部31が特定の赤外線波長域で透過率の高い領域を有する封止樹脂部材33で封止してなるものであって、電子回路部31と封止樹脂部材33との間に配置され、封止樹脂部材33の特定の赤外線透過波長域を選択的に放射する波長選択型赤外線放射シート35とを含み、波長選択型赤外線放射シート35が上記構成の波長選択型赤外放射制御部材である。なお、本実施の形態の場合、電子機器30は、基板34上に発熱源を有する電子回路部31のみでなく、発熱源を有しない電子回路部32も実装されており、これらを含めて封止樹脂部材33で封止されている。封止樹脂部材33として多く使われているのはエポキシ樹脂であるが、本実施の形態の電子機器30についてもエポキシ樹脂を用いている。エポキシ樹脂の赤外吸収特性データからは3.5~5.6μmの波長範囲が特異的に赤外線を透過させる特性を有する。そこで、本発明の波長選択型赤外放射制御部材を発熱源の上に配置すると、波長選択型赤外放射制御部材は上記の特定の波長範囲で積分放射率が大きいので、
図11の矢印で示すように赤外線が封止樹脂部材33を通り抜けて外部に放出され、輻射による冷却効率を高めることができる。
【0075】
なお、本実施の形態では、封止樹脂部材33は電子回路部31、32および波長選択型赤外放射制御部材35に密接して設けられているが、本発明はこの構造に限定されない。封止樹脂部材33と、電子回路部31、32および波長選択型赤外放射部材35との間に空間を有するように、封止樹脂部材33を設けた構造でもよい。また、発熱源を有しない電子回路部32を実装したが、本発明はこれに限定されない。どちらの電子回路部も発熱源を有する電子回路部であってもよい。
【0076】
なお、第1の実施の形態から第4の実施の形態までにおいては、キャビティの開口形状を四角形または円形の場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。キャビティは、多角形状または円形状、あるいは、多角形状と円形状との組み合わせからなるものであってもよい。例えば、多角形状または円形状の組み合わせとしては、大きさの異なる複数の多角形状または円形状を配列してもよい。さらに、多角形状と円形状との組み合わせを配列してもよい。大きさの異なる多角形の組み合わせ、大きさの異なる円形の組み合わせ、多角形と円形との組み合わせとすれば、それぞれの形状により放射強度のピーク値が異なるので、これらの積算放射強度を大きくすることができる。
【0077】
なお、第1の実施の形態から第4の実施の形態に係る波長選択型赤外放射制御部材の金属被膜としてAl膜を用いた場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。金属被膜としては導電率の大きな材料で、赤外領域の放射率が基材よりも小さなことが要求される。銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)等はこの条件に適合するが、シリコンや樹脂との密着性が悪いのでチタンなどを形成してその上に形成することが要求される。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の波長選択型赤外放射制御部材は、発熱源を有する電子回路部を封止樹脂部材により封止した電子機器などに用いて効率的な輻射による冷却ができるので、半導体機器分野に有用である。
【符号の説明】
【0079】
1、10、24 波長選択型赤外放射制御部材
2 基材
3a、3b、13a、13b、26 金属被膜
4a、4b、4c、4d、4e、4f、4g、4h、4i、4j、4k、4l、4m、14a、14b、14c、14d、14e、14f、25 キャビティ
5a、5b、5c、5d、5e、15a、15b、15c、15d、15e 表面
11、21、34 基板
22 粘着性部材
23 樹脂シート(ポリイミドシート)
30 電子機器
31、32 電子回路部
33 封止樹脂部材
35 波長選択型赤外線放射シート(波長選択型赤外放射制御部材)
W 開口形状
D 開口深さ
【手続補正書】
【提出日】2024-01-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3.5~5.6μmの波長範囲の赤外線を選択的に放射する波長選択型赤外放射制御部材であって、
半導体材料または誘電体材料からなる基材の一方の面に、設定された開口形状と開口深さを有する多数の
四角形状もしくは円形状のキャビティが
、設定された
周期配列またはランダム配列からなる配置構成で2次元に配置され、
前記キャビティと前記キャビティが形成された表面は、赤外領域の放射率が前記基材よりも小さな金属被膜が形成されており、
前記キャビティが形成された表面に形成された前記金属被膜は、
前記赤外線の波長を5μmとし、下記式(数式1)で求めた表皮深さ以上で、かつ、表皮深さの3.5倍以下の厚みとし、
前記キャビティに形成された前記金属被膜は、前記キャビティが形成された表面に形成された前記金属被膜の厚み以下としたことを特徴とする波長選択型赤外放射制御部材。
【数1】
【請求項2】
前記キャビティは、前記開口形状と前記開口深さとの比であるアスペクト比が少なくとも1以上であり、かつ、前記ランダム配列からなる配置構成は前記キャビティに隣接する複数の他のキャビティとのそれぞれの中心間距離が少なくとも一つは異なるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の波長選択型赤外放射制御部材。
【請求項3】
前記キャビティは、前記開口形状と前記開口深さとの比であるアスペクト比が少なくとも1以上であり、かつ、前記周期配列からなる配置構成は、前記キャビティが同一の周期で配置されていることを特徴とする 請求項1に記載の波長選択型赤外放射制御部材。
【請求項4】
前記半導体材料は、シリコン、ゲルマニウム、炭化ケイ素、および、ガリウムひ素から選択された単結晶、多結晶または非晶質材料であることを特徴とする請求項1に記載の波長選択型赤外放射制御部材。
【請求項5】
前記半導体材料は、平滑面を有する基板上に、少なくとも前記開口深さ以上の厚みで成膜されたものであることを特徴とする請求項4に記載の波長選択型赤外放射制御部材。
【請求項6】
前記誘電体材料は、樹脂材料またはセラミック材料であることを特徴とする請求項1に記載の波長選択型赤外放射制御部材。
【請求項7】
前記樹脂材料は、平滑面を有する基板上に少なくとも前記開口深さ以上の厚みで形成されたものであることを特徴とする請求項6に記載の波長選択型赤外放射制御部材。
【請求項8】
発熱源を有する電子回路部が、波長が3.5~5.6μmの特定の赤外線透過波長域で透過率の高い領域を有する封止樹脂部材により封止してなる電子機器に用いるものであって、
前記電子回路部と前記封止樹脂部材との間に配置され、前記封止樹脂部材の前記特定の赤外線透過波長域を選択的に放射するように、前記キャビティの開口形状と前記キャビティの配置構成とを設定したことを特徴とする請求項1から7までのいずれか1項に記載の波長選択型赤外放射制御部材。
【請求項9】
発熱源を有する電子回路部が、波長が3.5~5.6μmの特定の赤外線透過波長域で透過率の高い領域を有する封止樹脂部材で封止してなる電子機器であって、
前記電子回路部と前記封止樹脂部材との間に配置され、前記封止樹脂部材の前記特定の赤外線透過波長域を選択的に放射する波長選択型赤外線放射シートとを含み、前記波長選択型赤外線放射シートが請求項1から7までのいずれか1項に記載の波長選択型赤外放射制御部材であることを特徴とする電子機器。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3.5~5.6μmの波長範囲の赤外線を選択的に放射する波長選択型赤外放射制御部材であって、
半導体材料または誘電体材料からなる基材の一方の面に、設定された開口形状と開口深さを有する多数の四角形状もしくは円形状のキャビティ
が、ランダム配列からなる配置構成で2次元に配置され、
前記キャビティと前記キャビティが形成された表面は、赤外領域の放射率が前記基材よりも小さな金属被膜が形成されており、
前記キャビティが形成された表面に形成された前記金属被膜は、前記赤外線の波長を5μmとし、下記式(
数1)で求めた表皮深さ以上で、かつ、表皮深さの3.5倍以下の厚みとし、
前記キャビティに形成された前記金属被膜は、前記キャビティが形成された表面に形成 された前記金属被膜の厚み以下とし、
前記金属被膜がアルミニウム、銅、金または銀であることを特徴とする波長選択型赤外放射制御部材。
【数1】
【請求項2】
前記キャビティは、前記開口形状と前記開口深さとの比であるアスペクト比が少なくとも1以上であり、かつ、前記ランダム配列からなる配置構成は前記キャビティに隣接する 複数の他のキャビティとのそれぞれの中心間距離が少なくとも一つは異なるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の波長選択型赤外放射制御部材。
【請求項3】
前記半導体材料は、シリコン、ゲルマニウム、炭化ケイ素、および、ガリウムひ素から選択された単結晶、多結晶または非晶質材料であることを特徴とする請求項1に記載の波 長選択型赤外放射制御部材。
【請求項4】
前記半導体材料は、平滑面を有する基板上に、少なくとも前記開口深さ以上の厚みで成膜されたものであることを特徴とする請求項3に記載の波長選択型赤外放射制御部材。
【請求項5】
前記誘電体材料は、樹脂材料またはセラミック材料であることを特徴とする請求項1に記載の波長選択型赤外放射制御部材。
【請求項6】
前記樹脂材料は、平滑面を有する基板上に少なくとも前記開口深さ以上の厚みで形成されたものであることを特徴とする請求項5に記載の波長選択型赤外放射制御部材。
【請求項7】
発熱源を有する電子回路部が、波長が3.5~5.6μmの特定の赤外線透過波長域で透過率の高い領域を有する封止樹脂部材により封止してなる電子機器に用いるものであって、
前記電子回路部と前記封止樹脂部材との間に配置され、前記封止樹脂部材の前記特定の赤外線透過波長域を選択的に放射するように、前記キャビティの開口形状と前記キャビティの配置構成とを設定したことを特徴とする請求項1から6までのいずれか1項に記載の波長選択型赤外放射制御部材。
【請求項8】
発熱源を有する電子回路部が、波長が3.5~5.6μmの特定の赤外線透過波長域で透過率の高い領域を有する封止樹脂部材で封止してなる電子機器であって、
前記電子回路部と前記封止樹脂部材との間に配置され、前記封止樹脂部材の前記特定の赤外線透過波長域を選択的に放射する波長選択型赤外線放射シートとを含み、前記波長選択型赤外線放射シートが請求項1から6までのいずれか1項に記載の波長選択型赤外放射制御部材であることを特徴とする電子機器。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0017
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0017】
なお、放射率は、その物体の放射(および吸収)の能率を表す尺度で、0から黒体の値である1の間の値をとる。全波長についての比率を全放射率、特定波長における比率を分光放射率という。本発明でいう放射率は、分光放射率である。また、放射率は物体の材質、表面状態(酸化、汚れ等)、表面形状(粗さ、凹凸)、温度により変化することが知られている。さらに、表皮深さとは、ある材質に入射した電磁界が1/eに減衰する距離のことをいう。金属は負誘電体であるので、表皮深さは下記の数式で求められる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】