(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092439
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】セパレータおよび該セパレータを備えた蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 50/463 20210101AFI20240701BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20240701BHJP
【FI】
H01M50/463 B
H01G11/52
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208357
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】筒井 恵美
【テーマコード(参考)】
5E078
5H021
【Fターム(参考)】
5E078AB02
5E078BA27
5E078BA44
5E078BA53
5E078CA01
5E078CA02
5E078CA06
5E078DA03
5E078DA06
5E078FA02
5E078FA03
5E078FA12
5E078FA13
5H021CC09
5H021HH03
(57)【要約】
【課題】電解質の含浸性が好適に向上された蓄電デバイスを得るための技術を提供すること。
【解決手段】ここで開示されるセパレータ70の一態様では、正極50および負極60が、セパレータ70を介して積層された正負極積層構造Aを有する電極体20と、電極体20を収容する電池ケース30と、電解液と、を備える電池100に用いられるセパレータであって、一の正負極積層構造Aを構成するセパレータ70の一方の端部70Aから、他方の端部70Bに向かう方向に沿って伸びる、複数の溝部72を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極および負極が、セパレータを介して積層された正負極積層構造を有する電極体と、
前記電極体を収容するケースと、
電解質と、
を備える蓄電デバイスに用いられるセパレータであって、
一の前記正負極積層構造を構成する前記セパレータの端部から、他方の端部に向かう方向に沿って伸びる、一または複数の溝部を有する、セパレータ。
【請求項2】
前記溝部は、前記セパレータの前記端部から前記他方の端部に至るまで形成されている、請求項1に記載のセパレータ。
【請求項3】
前記溝部における前記端部のうち少なくとも一方の端部における開口幅は、前記溝部における中央領域における開口幅よりも大きい、請求項2に記載のセパレータ。
【請求項4】
正極および負極が、セパレータを介して積層された電極体と、
前記電極体を収容するケースと、
電解質と、
を備える蓄電デバイスであって、
前記セパレータは、請求項1または2に記載のセパレータである、蓄電デバイス。
【請求項5】
前記電極体は、帯状の正極および帯状の負極が、帯状のセパレータを介して積層され、捲回された捲回電極体である、請求項4に記載の蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セパレータおよび該セパレータを備えた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(BEV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。かかる電池は、典型的には、正極および負極が、セパレータを介して積層された電極体と、電解質と、を備えている。例えば、下記特許文献1および2には、かかる電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-203668号公報
【特許文献2】特開2012-243567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本発明者らの検討によると、上述したような蓄電デバイス(例えば電池)においても、電解質の浸透性向上の観点から、まだまだ改善の余地があることがわかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ここで開示されるセパレータは、正極および負極が、セパレータを介して積層された正負極積層構造を有する電極体と、上記電極体を収容するケースと、電解質と、を備える蓄電デバイスに用いられるセパレータであって、一の上記正負極積層構造を構成する上記セパレータの端部から、他方の端部に向かう方向に沿って伸びる、一または複数の溝部を有する。詳細については後述すが、かかる構成のセパレータによると、蓄電デバイスにおける電解質の含浸性の向上を好適に実現することができる。
【0006】
また、他の側面から、本開示は蓄電デバイスを提供する。かかる蓄電デバイスは、正極および負極が、セパレータを介して積層された電極体と、上記電極体を収容するケースと、電解質と、を備える蓄電デバイスであって、上記セパレータは、ここで開示されるいずれかのセパレータである。かかる蓄電デバイスは、ここで開示されるいずれかのセパレータを備えるため、電解質の含浸性が好適に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態に係る電池の内部構造を模式的に示す断面図である。
【
図2】第1実施形態に係る電池が備える捲回電極体の構成を模式的に示す図である。
【
図3】第1実施形態に係る電池が備える捲回電極体の構成を模式的に示す図である。
【
図4】
図2のセパレータが有する溝部について説明するための模式的な説明図である。
【
図5】
図4のセパレータの厚み方向における模式的な図である。
【
図6】試験例の結果について説明するためのグラフである。
【
図7】試験例の結果について説明するためのグラフである。
【
図8】試験例の結果について説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、ここで開示される技術のいくつかの実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここで開示される技術の実施に必要な事柄(例えば、本発明を特徴付けない電池の一般的な構成および製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここで開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において範囲を示す「A~B」の表記は、「A以上B以下」を意味する。また、「Aを超える」および「B未満」の意を包含するものとする。
【0009】
なお、本明細書において「蓄電デバイス」とは、充電と放電とを行うことができるデバイスをいう。蓄電デバイスには、一次電池、二次電池(例えば、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池)等の電池と、電気二重層キャパシタ等のキャパシタ(物理電池)とが包含される。また、電解質は、液状電解質(電解液)、ゲル状電解質のいずれであってもよい。
【0010】
<電池の構成>
以下、ここで開示される蓄電デバイスの一実施形態であるリチウムイオン二次電池を例に本技術について説明する。
【0011】
図1に示すリチウムイオン二次電池(以下、単に「電池100」ともいう)は、扁平形状の捲回電極体である電極体20と電解液(図示せず)とが扁平な角形の電池ケース(即ち外装容器)30に収容されることにより構築される密閉型電池である。電池ケース30には、外部接続用の正極端子42および負極端子44と、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁36とが設けられている。正負極端子42,44はそれぞれ正負極集電板42a,44aと電気的に接続されている。電池ケース30の材質には、例えば、アルミニウム等の軽量で熱伝導性の良い金属材料が用いられる。
【0012】
電極体20は、
図1および
図2に示すように、正極50と、負極60とが、2枚の長尺状のセパレータ70を介して重ね合わされて長手方向に捲回された形態を有する。正極50は、長尺状の正極集電体52の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って正極活物質層54が形成された構成を有する。負極60は、長尺状の負極集電体62の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って負極活物質層64が形成されている構成を有する。正極活物質層非形成部分52a(すなわち、正極活物質層54が形成されずに正極集電体52が露出した部分)および負極活物質層非形成部分62a(すなわち、負極活物質層64が形成されずに負極集電体62が露出した部分)は、電極体20の捲回軸方向(すなわち、上記長手方向に直交する幅方向)の両端から外方にはみ出すように形成されている。正極活物質層非形成部分52aおよび負極活物質層非形成部分62aには、それぞれ正極集電板42aおよび負極集電板44aが接合されている。
【0013】
正極集電体52としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の正極集電体を用いてよく、その例としては、導電性の良好な金属(例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)製のシートまたは箔が挙げられる。正極集電体52としては、アルミニウム箔が好ましい。
【0014】
正極集電体52の寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。正極集電体52としてアルミニウム箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm~35μmであり、好ましくは7μm~20μmである。
【0015】
正極活物質層54は、正極活物質を含有する。正極活物質としては、例えば、リチウムニッケル系複合酸化物(例、LiNiO2等)、リチウムコバルト系複合酸化物(例、LiCoO2等)、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物(例、LiNiCoMnO2やLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2等)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物(例、LiNi0.8Co0.15Al0.5O2等)、リチウムマンガン系複合酸化物(例、LiMn2O4等)、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物(例、LiNi0.5Mn1.5O4等)などのリチウム遷移金属複合酸化物;リチウム遷移金属リン酸化合物(例、LiFePO4等)などが挙げられる。
【0016】
正極活物質層54は、正極活物質以外の成分、例えば、リン酸三リチウム、導電材、バインダ等を含んでいてもよい。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(例、グラファイトなど)の炭素材料を好適に使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。
【0017】
正極活物質層54中の正極活物質の含有量(すなわち、正極活物質層54の全質量を100質量%としたときの正極活物質の含有量)は、特に限定されないが、70質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上97質量%以下であり、さらに好ましくは85質量%以上96質量%以下である。正極活物質層54中のリン酸三リチウムの含有量は、特に制限はないが、1質量%以上15質量%以下が好ましく、2質量%以上12質量%以下がより好ましい。正極活物質層54中の導電材の含有量は、特に制限はないが、1質量%以上15質量%以下が好ましく、3質量%以上13質量%以下がより好ましい。正極活物質層54中のバインダの含有量は、特に制限はないが、1質量%以上15質量%以下が好ましく、1.5質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0018】
正極活物質層54の厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm~300μmであり、好ましくは20μm~200μmである。
【0019】
負極集電体62としては、リチウムイオン二次電池に用いられる公知の負極集電体を用いてよく、その例としては、導電性の良好な金属(例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)製のシートまたは箔が挙げられる。負極集電体62としては、銅箔が好ましい。
【0020】
負極集電体62の寸法は特に限定されず、電池の設計に応じて適宜決定すればよい。負極集電体62として銅箔を用いる場合には、その厚みは、特に限定されないが、例えば5μm~35μmであり、好ましくは7μm~20μm以下である。
【0021】
負極活物質層64は、負極活物質を含有する。負極活物質としては、例えば、黒鉛等の炭素材料や、シリコン材料等が挙げられる。
【0022】
負極活物質層64は、負極活物質以外の成分、例えばバインダや増粘剤等を含み得る。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を使用し得る。
【0023】
負極活物質層64中の負極活物質の含有量(すなわち、負極活物質層64の全質量を100質量%としたときの負極活物質の含有量)は、特に限定されないが、90質量%以上が好ましく、95質量%以上99質量%以下がより好ましい。負極活物質層中のバインダの含有量は、0.1質量%以上8質量%以下が好ましく、0.5質量%以上3質量%以下がより好ましい。負極活物質層中の増粘剤の含有量は、0.3質量%以上3質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2質量%以下がより好ましい。
【0024】
負極活物質層64の厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm~300μmであり、好ましくは20μm~200μmである。
【0025】
続いて、電池100が備えるセパレータ70について詳細に説明する。ここで、
図4は、
図2のセパレータ70が有する溝部72について説明するための模式的な説明図である。
図5は、
図4のセパレータの厚み方向における模式的な断面図である。セパレータ70は、正極50および負極60が、セパレータ70を介して積層された正負極積層構造Aを有する電極体20と、電極体20を収容する電池ケース30と、電解質(ここでは、液状の電解液)と、を備える電池に用いられるセパレータである。
図2,
図4~
図5に示すように、本実施形態に係るセパレータ70は、一の正負極積層構造Aを構成するセパレータ70の端部70Aから他方の端部70Bに向かう方向に沿って伸びる、複数(ここでは、6箇所)の溝部72を有する。
【0026】
従来の電池では、注液工程において、電極体の内部の全体に渡って電解液を浸透させるためには、長時間を要する傾向にある。また、注液してから初回充電までにかかる時間が長くなると、電極集電体から金属が溶出するおそれがあるため、好ましくない。これに対して、本開示では、電池100を構成するセパレータとして、電極体20の一の正負極積層構造Aを構成するセパレータ70の端部70Aから、他方の端部70Bに向かう方向に沿って伸びる、一または複数の溝部を有するセパレータ70を用いる。これによって、電池100を製造する過程の注液工程において、短時間で、電極体20の中心領域まで電解液を浸透させることが可能となる。具体的には、電極体20の正負極積層構造Aを構成する2つの端面から中心に向かって電解液が浸透してゆくとき(ここでは、電極体20の捲回軸方向WDにおける両端部から中心に向かって電解液が浸透してゆくとき)、セパレータ70の溝部72の内部を流れるようにして浸透するため、速やかに電解液を浸透させることができる。したがって、かかる構成のセパレータ70によると、電解液の含浸性が好適に向上された信頼性の高い電池100を得ることができる。また、セパレータ70を備えた電池100においては、上述したような電極集電体からの金属の溶出を好適に抑制することができる。さらに、セパレータ70を備えた電池100は、注液工程時間が短縮されて製造された電池となるので、製造コストの観点からも好ましい。
【0027】
図2および
図4に示すように、本実施形態に係るセパレータ70が備える溝部72は、セパレータ70の端部70Aから他方の端部70Bに至るまで形成されている。かかる構成によると、電池100を製造する過程の注液工程において、より短時間で、電極体20の中心領域まで電解液を浸透させることが可能となる。具体的には、電極体20の正負極積層構造Aを構成する2つの端面から中心までの間(ここでは、電極体20の捲回軸方向WDにおける両端部から中心までの間)を、電解液がセパレータ70の溝部72の内部を流れるようして浸透してゆくので、より短時間で電解液を浸透させることができる。ただし、他の実施形態では、溝部72は、セパレータ70の端部70Aから他方の端部70Bに向かう方向に沿って、間欠的に形成されていてもよい。あるいは、溝部72は、セパレータ70の端部70Aおよび/または他方の端部70Bを外した領域(例えばセパレータ70の中央領域)に形成されていてもよい。
【0028】
図4に示すように、本実施形態では、溝部72は6箇所形成されているが、これに限定されるものではない。他の実施形態では、溝部72は1箇所のみ形成されていてもよいし、6以外の複数箇所形成されていてもよい。また、
図4に示すように、本実施形態では、溝部72の平面視の形状を矩形状としているが、これに限定されるものではない。例えば、後述する第7~第10実施形態のような種々の形状とすることができる。そして、
図5に示すように、本実施形態では、溝部72の断面の形状を矩形状としているが、これに限定されるものではない。例えば、後述する第2~第6実施形態のような種々の形状とすることができる。
【0029】
また、セパレータ70が有する溝部72の深さ(%)は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されない。ここで、溝部72の深さ(%)とは、電極体20の溝部72が形成された方向Yにおける長さP(ここでは、電極体20の捲回軸方向WDにおける長さP)に対する溝部72の深さSの割合(即ち、(S/P)×100(%))で表現される値のことを意味する(
図3および
図5を参照)。溝部72の深さの下限は、電極体20に対する電解液の含浸性を向上させる観点から、例えば0.0005%以上であり、好ましくは0.001%以上であり、より好ましくは0.002%以上であり、特に好ましくは0.003%以上である。また、溝部72の下限は、セパレータ70の強度を好適に担保するという観点から、例えば0.02%以下であり、好ましくは0.01%以下(例えば0.007%以下)である。ただし、これらに限定されるものではない。
【0030】
また、セパレータ70が有する溝部72の幅(%)は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されない。ここで、溝部72の幅(%)とは、電極体20の溝部72が形成された方向Yにおける長さP(ここでは、電極体20の捲回軸方向WDにおける長さP)に対する溝部72の幅Rの割合(即ち、(R/P)×100(%))で表現される値のことを意味する(
図3および
図5を参照)。溝部72の幅の下限は、電極体20に対する電解液の含浸性を向上させる観点から、例えば0.002%以上であり、好ましくは0.0025%以上であり、より好ましくは0.005%以上であり、特に好ましくは0.0075%以上である。また、溝部72の下限は、セパレータ70の強度を好適に担保するという観点から、例えば0.05%以下であり、好ましくは0.02%以下である。ただし、これらに限定されるものではない。
【0031】
また、セパレータ70が有する溝部72間の距離(%)は、ここで開示される技術の効果が発揮される限りにおいて特に制限されない。ここで、溝部72間の距離(%)とは、電極体20の捲回軸方向WDと直交する方向LDにおける長さQに対する溝部72間の距離Tの割合(即ち、(T/Q)×100(%))で表現される値のことを意味する(
図3および
図5を参照)。溝部72間の距離の下限は、セパレータ70の強度を好適に担保するという観点から、例えば1%以上であり、好ましくは2%以上であり、より好ましくは5%以上である。また、溝部72間の距離の下限は、電極体20に対する電解液の含浸性を向上させる観点から、例えば30%以下であり、好ましくは20%以下であり、より好ましくは15%以下であり、特に好ましくは10%以下である。ただし、これらに限定されるものではない。
【0032】
セパレータ70としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から構成される多孔性シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔性シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータ70の表面には、耐熱層(HRL)が設けられていてもよい。
【0033】
セパレータ70の厚みは特に限定されないが、例えば5μm~50μmであり、好ましくは10μm~30μmである。
【0034】
電解液(ここでは、非水電解液)は、典型的には、非水溶媒と支持塩(電解質塩)とを含有する。非水溶媒としては、一般的なリチウムイオン二次電池の電解液に用いられる各種のカーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒を、特に限定なく用いることができる。なかでも、カーボネート類が好ましく、その具体例として、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)等が例示される。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0035】
支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のリチウム塩(好ましくはLiPF6)を好適に用いることができる。支持塩の濃度は、0.7mol/L以上1.3mol/L以下が好ましい。
【0036】
なお、上記非水電解液は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した成分以外の成分、例えば、オキサラト錯体等の被膜形成剤;ビフェニル(BP)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等のガス発生剤;増粘剤;等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0037】
以上より、ここでは、正極50および負極60が、セパレータ70を介して積層された電極体20と、電極体20を収容する電池ケース30と、電解質と、を備えており、セパレータ70を備える電池100が開示される。かかる電池100は、上述したような構成のセパレータ70を備えるため、電解液の含浸性が好適に向上する。
【0038】
また、上記では一例として、帯状の正極50および帯状の負極60が、帯状のセパレータ70を介して積層され、捲回された捲回電極体(電極体20)を備える電池100について説明した。しかしながら、本実施形態に係るセパレータ70を用いて、積層型電極体(すなわち、複数の正極と、複数の負極とが交互に積層された電極体)を備える電池を構築することができる。一方、特に捲回電極体では、正負極積層構造を構成する2つの面から中心に向かって電解液が浸透する浸透態様であり、正負極積層構造を構成する4つの面から中心に向かって電解液が浸透する積層型電極体よりも、電解液の浸透に要する時間は長くなる傾向にある。したがって、特に捲回電極体は、ここで開示される技術を適用する対象として好適であるということができる。また、本実施形態に係るセパレータ70を用いて、円筒型電池、ラミネートケース型電池等を構築することもできる。さらに、本実施形態に係るセパレータ70を用いて、従来公知の方法に従い、リチウムイオン二次電池以外の非水電解液二次電池を構築することもできる。
【0039】
また、電池100が高容量になる程、電極体20のサイズが大きくなるため、注液工程において、電極体20の内部の全体にわたって電解液を浸透させる際に、長時間を要することになる。また、電極(正極50や負極60)の幅が広いため、電極とセパレータ70との隙間が狭くなり、電解液の浸透が困難になる可能性もある。したがって、高容量電池は、ここで開示される技術を適用する対象として好適であるということができる。かかる高容量電池の一例としては、高さ5cm~10cm、幅10cm~25cm、厚み1cm~5cmの捲回電極体(電極体20)を備えた電池100が挙げられる。ここで、電極体20の高さとは、
図3のZ方向における長さを示し、電極体20の幅とは、
図3のY方向における長さを示し、電極体20の厚みとは、
図3のX方向における長さを示すものとする。ただし、これらに限定されることを意図したものではない。なお、
図3のWLは捲回軸を示している。
【0040】
<電池の製造方法>
次に、電池100の製造方法について説明する。なお、本実施形態に係る電池100は、セパレータとして上述したような溝部72を有するセパレータ70を用いることを特徴としており、電池の製造方法に関する工程については、従来公知の方法に従って実施することができる。なお、かかるセパレータ70としては、予め溝部72が形成された購入品を用いてもよいし、溝部72を形成してもよい。かかる溝部72の形成方法としては、例えば溝部72形成前のセパレータに対して、溝部72に対応する凸部を有するローラーを当接する方法等が挙げられる。
【0041】
<電池の用途>
電池100は各種用途に利用可能であるが、例えば、乗用車、トラック等の車両に搭載されるモータ用の動力源(駆動用電源)として好適に用いることができる。車両の種類は特に限定されないが、例えば、プラグインハイブリッド自動車(PHEV;Plug-in Hybrid Electric Vehicle)、ハイブリッド自動車(HEV;Hybrid Electric Vehicle)、電気自動車(BEV;Battery Electric Vehicle)等が挙げられる。電池100は、電池反応のバラつきが低減されているため、組電池の構築に好適に用いることができる。
【0042】
以上、本開示の一実施形態について説明したが、上記実施形態は一例に過ぎない。本開示は、他にも種々の形態にて実施することができる。本開示は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。請求の範囲に記載の技術には、上記に例示した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、上記した実施形態の一部を他の変形態様に置き換えることも可能であり、上記した実施形態に他の変形態様を追加することも可能である。また、その技術的特徴が必須なものとして説明されていなければ、適宜削除することも可能である。
【0043】
例えば、上記実施形態では、セパレータ70の片面にのみ溝部72が形成されているが、これに限定されない。他の実施形態では、溝部72は、セパレータ70の両面に形成されていてもよい。そして、かかる場合、セパレータ70の一方の面に形成されている溝部72の態様と、他方の面に形成されている溝部72の態様とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、例えばセパレータが複数の溝部を有する場合、該複数の溝部のそれぞれの構成は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0044】
例えば、
図9は、第2実施形態に係る
図5対応図である。
図9に示すように、第2実施形態では、溝部172の断面の形状を半円状としている。第2実施形態に係る電池は、溝部の断面の形状を溝部72から変更すること以外は、上述した電池100と同様であってよい。
【0045】
例えば、
図10は、第3実施形態に係る
図5対応図である。
図10に示すように、第3実施形態では、溝部272の断面の形状を三角形状としている。第3実施形態に係る電池は、溝部の断面の形状を溝部72から変更すること以外は、上述した電池100と同様であってよい。
【0046】
例えば、
図11は、第4実施形態に係る
図5対応図である。
図11に示すように、第4実施形態では、溝部372の断面の形状を台形形状としている。第4実施形態に係る電池は、溝部の断面の形状を溝部72から変更すること以外は、上述した電池100と同様であってよい。
【0047】
例えば、
図12は、第5実施形態に係る
図5対応図である。
図12に示すように、第5実施形態では、溝部472の断面の形状を角が角Rである矩形状としている。第5実施形態に係る電池は、溝部の断面の形状を溝部72から変更すること以外は、上述した電池100と同様であってよい。
【0048】
例えば、
図13は、第6実施形態に係る
図5対応図である。
図13に示すように、第6実施形態では、溝部572の断面の形状を五角形形状としている。第6実施形態に係る電池は、溝部の断面の形状を溝部72から変更すること以外は、上述した電池100と同様であってよい。
【0049】
例えば、
図14は、第7実施形態に係る
図4対応図である。
図14に示すように、第7実施形態では、溝部672の平面視の形状をラッパ形状としている。換言すると、溝部672におけるセパレータ70の端部(70Aおよび70B)のうち少なくとも一方の端部(ここでは、両方の端部)における開口幅Vは、溝部672における中央領域における開口幅V’よりも大きい。かかる構成によると、正負極積層構造Aを構成する面からの電解液の含浸性をより好適に向上させることができる。第7実施形態に係る電池は、溝部の平面視の形状を溝部72から変更すること以外は、上述した電池100と同様であってよい。
【0050】
例えば、
図15は、第8実施形態に係る
図4対応図である。
図15に示すように、第8実施形態では、溝部772の平面視の形状を斜線形状としている。第8実施形態に係る電池は、溝部の断面の形状を溝部72から変更すること以外は、上述した電池100と同様であってよい。
【0051】
例えば、
図16は、第9実施形態に係る
図4対応図である。
図16に示すように、第9実施形態では、溝部872の平面視の形状を互い違いの形状としている。第9実施形態に係る電池は、溝部の断面の形状を溝部72から変更すること以外は、上述した電池100と同様であってよい。
【0052】
例えば、
図17は、第10実施形態に係る
図4対応図である。
図17に示すように、第10実施形態では、溝部972の平面視の形状を波線形状としている。第10実施形態に係る電池は、溝部の断面の形状を溝部72から変更すること以外は、上述した電池100と同様であってよい。
【0053】
以上のとおり、ここで開示される技術の具体的な態様として、以下の各項(item)に記載のものが挙げられる。
項1:正極および負極が、セパレータを介して積層された正負極積層構造を有する電極体と、上記電極体を収容するケースと、電解質と、を備える蓄電デバイスに用いられるセパレータであって、一の上記正負極積層構造を構成する上記セパレータの端部から、他方の端部に向かう方向に沿って伸びる、一または複数の溝部を有する、セパレータ。
項2:上記溝部は、上記セパレータの上記端部から上記他方の端部に至るまで形成されている、項1に記載のセパレータ。
項3:上記溝部における上記端部のうち少なくとも一方の端部における開口幅は、上記溝部における中央領域における開口幅よりも大きい、項2に記載のセパレータ。
項4:正極および負極が、セパレータを介して積層された電極体と、上記電極体を収容するケースと、電解質と、を備える蓄電デバイスであって、上記セパレータは、項1~項3のいずれか一つに記載のセパレータである、蓄電デバイス。
項5:上記電極体は、帯状の正極および帯状の負極が、帯状のセパレータを介して積層され、捲回された捲回電極体である、項4に記載の蓄電デバイス。
【0054】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0055】
[試験例1]
以下の試験例では、セパレータにおいて上述したような溝部の深さ(%)を変更した8種類のサンプルについて、電極における電解液の含浸性について評価した。
【0056】
<サンプルの作製>
(セパレータの作製)
セパレータとして、PEの単層構造を有する、縦:2100mm(
図4のZ方向における長さ),横:150mm(
図4のY方向における長さ),厚み:20μmの微多孔性ポリエチレンシートを用意した。そして、
図4および
図5に示すような、矩形状の溝部が6箇所形成されたセパレータであって、上述したような溝部の深さ(%)を0.001,0.002,0.003,0.004,0.005,0.006,および0.007としたものをそれぞれ用意した。また、比較対象として、かかる溝部の深さ(%)が0のものも作製した。なお、溝部の幅(%)は0.0075%、溝部間の距離(%)は10%に固定した。かかる溝部は、対応する箇所を凸部としたロールを用いて作成した。
【0057】
(負極板の作製)
負極活物質としての黒鉛と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、負極活物質:バインダ:増粘剤=100:1:1の重量比となるように混合し、溶媒としてイオン交換水を適量加え、負極活物質層形成用スラリーを調製した。この負極活物質層形成用スラリーを、負極集電体上に目付重量7mg/cm2となるように塗布した。その後、乾燥、ロールプレスを行うことによって負極板を得た。
【0058】
(正極板の作製)
正極活物質としてのリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNiCoMnO2)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、正極活物質:導電材:バインダ=100:1:1となるように混合し、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加え、正極活物質層形成用スラリーを調製した。この正極活物質層形成用スラリーを、アルミニウム箔製の正極集電体上に目付重量10mg/cm2となるように塗布した。その後、乾燥、ロールプレスを行い、正極板を得た。
【0059】
次に、正極板と、負極板とをセパレータが介在するように積層し、扁平形状にプレスすることによって、捲回電極体を得た。2枚のセパレータとしては、共に上記で作製したものを用いた。ここで、捲回電極体のサイズは、高さ7cm、幅15cm、厚み1cmであった。そして、捲回電極体に集電板を溶接した後、かかる捲回電極体を角型の電池ケースに収容し、非水電解液を注液した。なお、非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)とをEC:EMC:DMC=1:1:1の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてLiPF6を1.0mol/Lの濃度で溶解させた。その後、電池ケースを封止することによって、各例に係る評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0060】
<電極の電解液の含浸性評価>
電池ケースから捲回電極体を取り出した後、該捲回電極体を解体した。電解液の含浸性は、正極および負極の片面の全表面積を100%としたときの、目視によって確認された電解液で濡れている部分の面積の割合を算出することで評価した。結果を
図6のグラフに示した。
【0061】
図6に示すように、セパレータにおいて溝部を形成したサンプルでは、セパレータにおいて溝部を形成しなかったサンプル(即ち、比較対象のサンプル)と比較して、電極における電解液の含浸性が好適に向上することがわかった。また、
図6に示すように、かかる溝部の深さ(%)は、好ましくは0.001%以上であり、より好ましくは0.002%以上であり、特に好ましくは0.003%以上である。
【0062】
[試験例2]
以下の試験例では、セパレータにおいて上述したような溝部の幅(%)を変更した9種類のサンプルについて、電極における電解液の含浸性について評価した。
【0063】
<サンプルの作製>
(セパレータの作製)
セパレータとして、試験例1と同じ構成のセパレータを用意した。そして、
図4および
図5に示すような、矩形状の溝部が6箇所形成されたセパレータであって、上述したような溝部の幅(%)を0.0025,0.005,0.0075,0.01,0.0125,0.015,0.0175,および0.02としたものをそれぞれ用意した。また、比較対象として、かかる溝部の幅(%)が0のものも作製した。なお、溝部の深さ(%)は0.003%、溝部間の距離(%)は10%に固定した。かかる溝部は、対応する箇所を凸部としたロールを用いて作成した。
【0064】
そして、セパレータの構成を変更した以外は試験例1に係るサンプルの作製方法と同様にして、捲回電極体を得た。
【0065】
<電解液の含浸性評価>
試験例1と同様にして、電解液の含浸性評価を行った。結果を
図7のグラフに示した。
【0066】
図7に示すように、セパレータにおいて溝部を形成したサンプルでは、セパレータにおいて溝部を形成しなかったサンプル(即ち、比較対象のサンプル)と比較して、電極における電解液の含浸性が好適に向上することがわかった。また、
図7に示すように、かかる溝部の深さ(%)は、好ましくは0.0025%以上であり、より好ましくは0.005%以上であり、特に好ましくは0.0075%以上である。
【0067】
[試験例3]
以下の試験例では、セパレータにおいて上述したような溝部間の距離(%)を変更した5種類のサンプルについて、電極における電解液の含浸性について評価した。
【0068】
<サンプルの作製>
(セパレータの作製)
セパレータとして、試験例1と同じ構成のセパレータを用意した。そして、
図4および
図5に示すような、矩形状の溝部が6箇所形成されたセパレータであって、上述したような溝部間の距離(%)を5,10,15,および20としたものをそれぞれ用意した。また、比較対象として、かかる溝部間の距離(%)が0のものも作製した。なお、溝部の深さ(%)は0.003%、溝部の幅(%)は0.0075%に固定した。かかる溝部は、対応する箇所を凸部としたロールを用いて作成した。
【0069】
そして、セパレータの構成を変更した以外は試験例1に係るサンプルの作製方法と同様にして、捲回電極体を得た。
【0070】
<電解液の含浸性評価>
試験例1と同様にして、電解液の含浸性評価を行った。結果を
図8のグラフに示した。
【0071】
図8に示すように、セパレータにおいて溝部を形成したサンプルでは、セパレータにおいて溝部を形成しなかったサンプル(即ち、比較対象のサンプル)と比較して、電極における電解液の含浸性が好適に向上することがわかった。また、
図8に示すように、かかる溝部の深さ(%)は、好ましくは20%以下であり、より好ましくは15%以下であり、特に好ましくは10%以下である。また、試験例1~試験例3の結果より、例えばセパレータの溝部の深さ(%)が0.003%以上であり、溝部の幅(%)が0.0075%以上であり、溝部間の距離(%)が10%以下である場合、電解液の含浸性の観点から特に好ましいことが確認された。
【符号の説明】
【0072】
20 電極体
30 電池ケース
36 安全弁
42 正極端子
42a 正極集電板
44 負極端子
44a 負極集電板
50 正極
52 正極集電体
52a 正極活物質層非形成部分
54 正極活物質層
60 負極
62 負極集電体
62a 負極活物質層非形成部分
64 負極活物質層
70,170,270,370,470,570,670,770,870,970 セパレータ
72,172,272,372,472,572,672,772,872,972 溝部
100 電池