(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092444
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】表示装置
(51)【国際特許分類】
H10K 50/165 20230101AFI20240701BHJP
H10K 50/17 20230101ALI20240701BHJP
H10K 50/18 20230101ALI20240701BHJP
H10K 50/15 20230101ALI20240701BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20240701BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20240701BHJP
H10K 101/30 20230101ALN20240701BHJP
H10K 101/40 20230101ALN20240701BHJP
【FI】
H10K50/165
H10K50/17
H10K50/18
H10K50/15
H10K85/60
G09F9/30 365
G09F9/30 349Z
H10K101:30
H10K101:40
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208363
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】502356528
【氏名又は名称】株式会社ジャパンディスプレイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】眞名垣 暢人
【テーマコード(参考)】
3K107
5C094
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107DD50
3K107DD72
3K107DD75
3K107DD76
3K107DD78
3K107FF13
3K107FF14
3K107FF15
3K107FF19
5C094AA31
5C094BA27
5C094DB03
5C094JA01
5C094JA02
(57)【要約】
【課題】 寿命向上が可能な表示装置を提供する。
【解決手段】 表示装置において、電子輸送層は、高濃度層と、低濃度層と、を含み、前記高濃度層は、電子注入層との界面に隣接し、前記高濃度層に含まれるLiq濃度は、70%以上90%以上であり、前記低濃度層に含まれるLiq濃度は、10%以上50%以下であり、前記高濃度層の膜厚は、前記電子輸送層の膜厚の5%以上15%以下である。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、
正孔注入層と、正孔輸送層と、電子ブロッキング層と、発光層と、正孔ブロッキング層と、電子輸送層と、電子注入層と、を含む有機EL層と、
陰極と、
を備え、
前記電子輸送層は、高濃度層と、低濃度層と、を含み、
前記高濃度層は、前記電子注入層との界面に隣接し、
前記高濃度層に含まれるLiq濃度は、70%以上90%以上であり、
前記低濃度層に含まれるLiq濃度は、10%以上50%以下であり、
前記高濃度層の膜厚は、前記電子輸送層の膜厚の5%以上15%以下である、表示装置。
【請求項2】
前記電子輸送層の膜厚は、22.6nmであり、
前記高濃度層の膜厚は、2.6nmである、請求項1に記載の表示装置。
【請求項3】
前記高濃度層に含まれるLiq濃度は、80%である、請求項1に記載の表示装置。
【請求項4】
前記低濃度層に含まれるLiq濃度は、20%である、請求項1に記載の表示装置。
【請求項5】
前記発光層は、青色を発光する、請求項1に記載の表示装置。
【請求項6】
前記電子注入層及び前記電子輸送層のLUMOエネルギー差を、ΔE1_LUMOとし、
前記ΔE1_LUMOは、0.2eV以下である、請求項1に記載の表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機エレクトロルミネセンス(Electro Luminescence:EL)発光材料を用いた表示装置が開発されている。表示装置は、発光材料を含む有機EL層を有している。有機EL素子の有機層内では、電子と正孔とが再結合することにより発光材料が励起され、発光材料が基底状態に戻る際に発光が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2009/069434号
【特許文献2】特開2008-098582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本実施形態は、寿命向上が可能な表示装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態に係る表示装置は、
陽極と、
正孔注入層と、正孔輸送層と、電子ブロッキング層と、発光層と、正孔ブロッキング層と、電子輸送層と、電子注入層と、を含む有機EL層と、
陰極と、
を備え、
前記電子輸送層は、高濃度層と、低濃度層と、を含み、
前記高濃度層は、前記電子注入層との界面に隣接し、
前記高濃度層に含まれるLiq濃度は、70%以上90%以上であり、
前記低濃度層に含まれるLiq濃度は、10%以上50%以下であり、
前記高濃度層の膜厚は、前記電子輸送層の膜厚の5%以上15%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、実施形態の表示装置の全体斜視図である。
【
図2】
図2は、表示装置の概略的な構成の一例を示す部分平面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す表示装置の線A1-A2に沿った断面図である。
【
図4】
図4は、画素電極、有機EL層、及び、共通電極を説明する部分拡大断面図である。
【
図5】
図5は、比較例1の表示装置のエネルギーバンドを示す図である。
【
図6】
図6は、比較例2の表示装置のエネルギーバンドを示す図である。
【
図7】
図7は、実施形態のスタガ状構造を有する表示装置のエネルギーバンドを示す図である。
【
図8】
図8は、実施形態のウェル状構造を有する表示装置のエネルギーバンドを示す図である。
【
図9】
図9は、有機EL層を説明する断面図である。
【
図10】
図10は、実施形態及び比較例の構成における時間に対する輝度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明の各実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0008】
本明細書で述べる実施形態は、一般的なものでなく、本発明の同一又は対応する特別な技術的特徴について説明する実施形態である。以下、図面を参照しながら一実施形態に係る表示装置について詳細に説明する。
【0009】
本実施形態においては、第1方向X、第2方向Y、及び、第3方向Zは、互いに直交しているが、90度以外の角度で交差していてもよい。第3方向Zの矢印の先端に向かう方向を上又は上方と定義し、第3方向Zの矢印の先端に向かう方向とは反対側の方向を下又は下方と定義する。なお第1方向X、第2方向Y、及び、第3方向Zを、それぞれ、X方向、Y方向、及び、Z方向と呼ぶこともある。
【0010】
また、「第1部材の上方の第2部材」及び「第1部材の下方の第2部材」とした場合、第2部材は、第1部材に接していてもよく、又は第1部材から離れて位置していてもよい。後者の場合、第1部材と第2部材との間に、第3の部材が介在していてもよい。一方、「第1部材の上の第2部材」及び「第1部材の下の第2部材」とした場合、第2部材は第1部材に接している。
【0011】
また、第3方向Zの矢印の先端側に表示装置を観察する観察位置があるものとし、この観察位置から、第1方向X及び第2方向Yで規定されるX-Y平面に向かって見ることを平面視という。第1方向X及び第3方向Zによって規定されるX-Z平面、あるいは第2方向Y及び第3方向Zによって規定されるY-Z平面における表示装置の断面を見ることを断面視という。
【0012】
[実施形態]
図1は、実施形態の表示装置の全体斜視図である。表示装置DSPは、基板SUB1に表示領域DA及び表示領域DAの周辺に設けられた周辺領域FAが設けられている。表示装置DSPは、表示領域DA内に配置された、複数の画素PXを有している。表示装置DSPでは、裏面からの光LTが表面に透過し、逆もまた然りである。
【0013】
表示領域DAの上面には封止材としての基板SUB2が設けられている。基板SUB2は表示領域DAを囲むシール材(非表示)によって、基板SUB1に固定されている。基板SUB1に形成された表示領域DAは、封止材である基板SUB2とシール材によって大気に晒されないように封止されている。
【0014】
基板SUB1の端部の領域EAは、基板SUB2の外側に配置されている。領域EAには、配線基板PCSが設けられている。配線基板PCSには、映像信号や駆動信号を出力する駆動素子DRVが設けられている。駆動素子DRVからの信号は、配線基板PCSを介して、表示領域DAの画素PXに入力される。映像信号及び各種制御信号に基づいて、画素PXが発光する。
【0015】
図2は、表示装置の概略的な構成の一例を示す部分平面図である。複数の画素PXは、赤色を発光する画素PXR、緑色を発光する画素PXG、青色を発光する画素PXBを有している。画素PXRは、画素PXBと、第1方向X及び第2方向Yに沿って隣り合って配置される。画素PXGは、画素PXBと、第1方向X及び第2方向Yに沿って隣り合って配置される。画素PXBは、画素PXRと第1方向に沿って隣り合って配置され、画素PXGと第2方向Yに沿って隣り合って配置されている。
【0016】
図3は、
図2に示す表示装置の線A1-A2に沿った断面図である。基材BA1は、例えばガラスや、樹脂材料で構成される樹脂材料で構成される基材が挙げられる。樹脂材料としては、例えばアクリル、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等を用いればよく、いずれかの単層又は複数層の積層で形成してもよい。
【0017】
基材BA1上には、絶縁層UC1が設けられている。絶縁層UC1は、例えば酸化シリコン膜及び窒化シリコン膜を単層又は積層して形成される。
【0018】
絶縁層UC1上に、トランジスタTrと重畳して、遮光層BMが設けられてもよい。遮光層BMは、トランジスタTrのチャネル裏面からの光の侵入等によるトランジスタ特性の変化を抑制する。遮光層BMが導電層で形成される場合は、所定の電位を与えることで、トランジスタTrにバックゲート効果を与えることも可能である。
【0019】
絶縁層UC1及び遮光層BMを覆って、絶縁層UC2が設けられている。絶縁層UC2の材料としては、絶縁層UC1と同様の材料を用いることができる。絶縁層UC2は、絶縁層UC1と異なる材料であってもよい。例えば、絶縁層UC1は酸化シリコン、絶縁層UC2は窒化シリコンを用いることができる。絶縁層UC1及びUC2を併せて、絶縁層UCとする。
【0020】
絶縁層UC上に、トランジスタTrが設けられる。トランジスタTrは、半導体層SC、絶縁層GI、ゲート電極GE(走査線)、絶縁層ILI、ソース電極SE(信号線)、ドレイン電極DEを有している。
【0021】
半導体層SCとして、アモルファスシリコン、ポリシリコン、又は酸化物半導体を用いる。絶縁層GIとして、例えば、酸化シリコン又は窒化シリコンを単層又は積層して設ける。
【0022】
ゲート電極GEとして、例えば、モリブデンタングステン合金(MoW)やチタンアルミニウム合金(Ti/AL/Ti)等を用いる。ゲート電極GEは、走査線GLと一体形成されていてもよい。
【0023】
半導体層SC及びゲート電極GEを覆って、絶縁層ILIが設けられている。絶縁層ILIは、例えば酸化シリコン層又は窒化シリコン層を単層又は積層して形成される。
【0024】
絶縁層ILI上には、ソース電極SE及びドレイン電極DEが設けられている。ソース電極SE及びドレイン電極DEは、それぞれ、絶縁層ILI及び絶縁層GIに設けられたコンタクトホールを介して、半導体層SCのソース領域及びドレイン領域に接続される。ソース電極SEは、信号線と一体形成されていてもよい。
【0025】
ソース電極SE、ドレイン電極DE、及び絶縁層ILIを覆って、絶縁層PASが設けられる。絶縁層PASを覆って、絶縁層PLLが設けられる。
【0026】
絶縁層PASは、無機絶縁材料を用いて形成する。無機絶縁材料は、例えば酸化シリコン又は窒化シリコンを単層又は積層したものが挙げられる。絶縁層PLLは、有機絶縁材料を用いて形成する。有機絶縁材料は、例えば、感光性アクリル、ポリイミド等の有機材料が挙げられる。絶縁層PLLを設けることにより、トランジスタTrによる段差を平坦化することができる。
【0027】
絶縁層PLL上に、画素電極PEが設けられる。画素電極PEは、絶縁層PAS及びPLLに設けられたコンタクトホールを介して、ドレイン電極DEに接続されている。
【0028】
画素電極PEは、例えばインジウム亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide:IZO)、銀(Ag)、IZOの3層積層構造で形成される。
本実施形態では、基材BA1から絶縁層PLLまでの構成を、バックプレインBPSとする。
【0029】
隣り合う画素電極PEとの間に、バンクBK(凸部、リブともいう)が設けられる。バンクBKの材料として、絶縁層PLLの材料と同様の有機材料が用いられる。バンクBKは、画素電極PEの一部を露出するように開口される。また、開口部OPの端部は、断面視でなだらかなテーパ形状となることが好ましい。開口部OPの端部が急峻な形状となっていると、後に形成される有機EL層ELYにカバレッジ不良が生じる。
【0030】
画素電極PEと重畳して、隣り合うバンクBKとの間に、有機EL層ELYが設けられている。有機EL層ELYは、正孔注入層HIY、正孔輸送層HTY、電子ブロッキング層EBY、発光層ELL、正孔ブロッキング層HBY、電子輸送層ETY、電子注入層EIYを含んでいる。
【0031】
有機EL層ELY上に、共通電極CEが設けられている。共通電極CEとして、マグネシウム-銀合金(MgAg)膜を、有機EL層ELYからの出射光が透過する程度の薄膜として形成する。本実施形態では、画素電極PEが陽極となり、共通電極CEが陰極となる。有機EL層ELYで生じた発光は、共通電極CEを介して、上方に取り出される。すなわち表示装置DSPは、トップエミッション構造を有している。
【0032】
共通電極CEを覆って、絶縁層SEYが設けられる。絶縁層SEYは、外部から水分が有機EL層ELYに侵入することを防止する機能を有している。絶縁層SEYとしてはガスバリア性の高いものが好適である。絶縁層SEYとして、例えば、有機絶縁層を、窒素を含む無機絶縁層2層で挟持した絶縁層が挙げられる。当該有機絶縁層の材料としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。当該窒素を含む無機絶縁層の材料としては、例えば、窒化シリコン、窒化アルミニウムが挙げられる。
【0033】
絶縁層SEY上に、基材BA2が設けられている。基材BA2は、基材BA1と同様の材料で形成されている。基材BA2及び絶縁層SEYとの間に、透光性を有する無機絶縁層や有機絶縁層が設けられていてもよい。有機絶縁層が絶縁層SEYと基材BA2を接着する機能を有していてもよい。
【0034】
図4は、画素電極、有機EL層、及び、共通電極を説明する部分拡大断面図である。
図4では、画素PXにおいて、画素電極PEから共通電極CEまでの構成要素について示している。ただし、バンクBKの記載は省略している。
【0035】
画素PXは、画素電極PE上に、正孔注入層HIY、正孔輸送層HTY、電子ブロッキング層EBY、発光層ELr(ELL)、正孔ブロッキング層HBY、電子輸送層ETY、電子注入層EIY、共通電極CEを有している。
【0036】
有機EL層ELYでの発光は、発光層ELLの材料の最高占有分子軌道(HOMO、一般にイオン化ポテンシャルとして計測される)へ注入された正孔と、最低非占有分子軌道(LUMO、一般に電子親和力として測定される)へ注入された電子によって生成された励起子の励起エネルギーが緩和するときに光を放出することによって得られる。
【0037】
正孔注入層HIY、正孔輸送層HTY、電子ブロッキング層EBY、正孔ブロッキング層HBY、電子輸送層ETY、電子注入層EIY、共通電極CEは、複数の画素PXに亘って、全面に設けられている。いわゆる、ベタ膜として形成されている。
【0038】
正孔注入層HIYの材料は、陽極(画素電極PE)からの正孔の注入効率が高い材料である。正孔輸送層HTYは、注入された正孔を発光層ELLに輸送する。電子ブロッキング層EBYは、陰極(共通電極CE)から注入された電子を発光層ELLに留め、正孔輸送層HTYに漏れ出すのを抑制する。
【0039】
電子注入層EIYは陽極から電子を注入し、電子輸送層ETYは注入された電子を発光層ELLに輸送する。正孔ブロッキング層HBYは、陽極から注入された正孔を発光層ELLに留め、電子輸送層ETYに漏れ出すのを抑制する。
【0040】
本実施形態の画素PXでは、発光層ELLから出射した光は、上方又は下方に出射する。上方に出射した光は、共通電極CEを介して、外部に取り出される。なお下方に出射された光を、画素電極PEに設けた反射層により反射させてもよい。共通電極CEにも反射層を設け、反射された光は、画素電極PE及び共通電極CEそれぞれとの間で光を反射させてもよい。これにより、発光層ELLが発した光のうち、共振波長の光だけが増幅される。その結果、ピーク強度が高く、幅が狭いスペクトルを有する光を取り出すことができ、表示装置DSPの色再現範囲を拡大することが可能である(マイクロキャビティ効果)。
【0041】
また、正孔注入層HIY及び正孔輸送層HTYについて、画素電極PE(陽極)からの正孔注入障壁(陽極の仕事関数と正孔輸送層HTYの材料のHOMO準位との差)を低減することにより、正孔をスムーズに流すことができる。
【0042】
電子注入層EIYまたは電子輸送層ETYについては、共通電極CE(陰極)からの電子注入障壁(陰極の仕事関数と隣接する電子輸送層ETYの材料のLUMO準位との差)を低減することにより、電子をスムーズに流すことができる。
【0043】
図5は、比較例1の表示装置のエネルギーバンドを示す図である。正孔輸送層HTYを画素電極PE(陽極)との間に設ける際には、画素電極PEから正孔注入及び正孔輸送をより効果的に行わせるため、画素電極PEのフェルミ準位から発光層ELLのHOMO準位まで、各層の界面で、階段状のポテンシャル障壁となるように、正孔注入材料及び正孔輸送材料を選定する。このような階段状のポテンシャル障壁を、スタガ状構造とする。
【0044】
同様に、電子輸送層ETYを共通電極CE(陰極)との間に設ける際には、共通電極CEから電子注入及び電子輸送をより効果的に行わせるために、共通電極CEのフェルミ準位から発光層ELLのLUMO準位まで、各層の界面で、階段状のポテンシャル障壁となるように、電子注入材料及び電子輸送材料を選定する。階段状のポテンシャル障壁とすることで、発光層ELLへのキャリア注入性が改善され、発光性能が向上する。
【0045】
電子注入層EIYと、電子輸送層ETY及び正孔ブロッキング層HBYとのポテンシャル障壁を、ΔE1_LUMOとする。電子輸送層ETY及び正孔ブロッキング層HBYと、発光層ELLとのポテンシャル障壁を、ΔE2_LUMOとする。
【0046】
正孔輸送経路であるΔE1_HOMO及びΔE2_HOMO、並びに、電子輸送経路であるΔE1_LUMO及びΔE2_LUMOを可能な限り小さくすることで、キャリアがスムーズに流れ、画素PXの電圧(V)-電流(I)特性(VI特性ともいう)が向上する。
【0047】
図6は、比較例2の表示装置のエネルギーバンドを示す図である。
図6では、発光層ELLのHOMO準位と、隣り合うキャリア輸送層(正孔輸送層HTY及び電子輸送層ETY)とのポテンシャル障壁は、当該HOMO準位の方が低い。発光層ELLのLUMO準位と、隣り合うキャリア輸送層(正孔輸送層HTY及び電子輸送層ETY)とのポテンシャル障壁は、当該LUMO準位の方が高い。
図6に示すポテンシャル障壁を、ウェル状構造(井戸状構造)とする。
【0048】
図6においても、正孔輸送経路はΔE1_HOMO及びΔE2_HOMOであり、電子輸送経路はΔE1_LUMO及びΔE2_LUMOである。ΔE1_HOMOは隣接する材料間のHOMOのエネルギー差を示す。ここで例として、正孔注入層HIYと正孔輸送層HTYのHOMOエネルギー差を示す。同様にΔE2_HOMOは電子ブロッキング層EBYと発光層ELLのHOMOエネルギー差を示す。ΔE1_LUMOは隣接する材料間のLUMOエネルギー差を示す。ここでは例として、電子注入層EIYと電子輸送層ETYのLUMOエネルギー差を示す。同様にΔE2_LUMOは、正孔ブロッキング層HBYと発光層ELLのHOMOエネルギー差を示す。
【0049】
上述のように、ΔE1_HOMO、ΔE2_HOMO、ΔE1_LUMO、及びΔE2_LUMOは、電流をスムーズには流すためには、可能な限り小さいことが好適である。
【0050】
しかしながら、ΔE2_HOMO及びΔE2_LUMOが小さすぎると、有機EL層ELYのV-I特性が悪化する恐れがある。発光層ELLにおける電子と正孔の再結合は、キャリアの2乗に比例するため、発光層ELLにバリア層としての機能がなくなると、キャリアの閉じ込めが弱くなることが原因として挙げられる。つまり、発光層ELLにキャリアが流れやすいという利点は、発光層ELLからキャリアが流れやすいという欠点ともなるということである。
【0051】
そこで本実施形態では、発光層ELLをワイドギャップ化することにより、キャリアを閉じ込める。これにより、発光層ELLからキャリアが流れにくくすることができ、有機EL層ELYの発光寿命が向上する。
【0052】
図7は、本実施形態のスタガ状構造を有する表示装置のエネルギーバンドを示す図である。
図8は、本実施形態のウェル状構造を有する表示装置のエネルギーバンドを示す図である。
【0053】
図7及び
図8において、発光層ELLのHOMO準位と、隣り合うキャリア輸送層(正孔輸送層HTY及び電子ブロッキング層EBY、並びに、電子輸送層ETY及び正孔ブロッキング層HBY)のHOMO準位は、発光層ELLのHOMO準位の方が低い。発光層ELLのLUMO準位と、隣り合うキャリア輸送層(正孔輸送層HTY及び電子輸送層ETY)とのLUMO準位は、発光層ELLのLUMO準位の方が高い。
【0054】
電子輸送層ETY及び正孔ブロッキング層HBYと、発光層ELLとのポテンシャル障壁であるΔE2_LUMO、並びに、正孔輸送層HTY及び電子ブロッキング層EBYと、発光層ELLとのポテンシャル障壁であるΔE2_HOMOを、特に区別しない場合は、ΔE2と呼ぶこととする。ΔE2は、0.1eV以上0.5eV以下(0.1eV≦ΔE2≦0.5eV)が好ましい。ΔE2が0.1eVより小さい(ΔE2<0.1eV)と、
図5及び
図6において説明したように、キャリアが流れやすくなってしまう。これにより、励起子の発光寿命が長くなり、効率が低下する。
【0055】
ΔE2を上記の範囲にするには、発光層ELLを成膜する際に、発光層ELLをワイドギャップ化させることが可能な材料(以下、ワイドギャップ化材料という)を共蒸着すればよい。またΔE2を上記の範囲にするには、適切な材料を選定することや、膜厚を適切な厚さにすることが挙げられる。
【0056】
電子注入層EIYと、電子輸送層ETY及び正孔ブロッキング層HBYとのポテンシャル障壁であるΔE1_LUMO、並びに、正孔注入層HIYと、正孔輸送層HTY及び電子ブロッキング層EBYとのポテンシャル障壁であるΔE1_HOMOを、特に区別しない場合は、ΔE1と呼ぶこととする。ΔE1は、0.5eV以下(ΔE1≦0.5eV)が好ましい。さらにΔE1は0.35eV以下(ΔE1≦0.35eV)が好ましい。さらにΔE1_LUMO≦0.2eVが最良の構造である。ΔE1_LUMOは電子注入層EIYと接する共通電極CEの仕事関数は3.5eVを想定した。
【0057】
キャリアの閉じ込め膜厚は、正孔又は電子の移動度のうち低い方に影響を受ける。例えば、電子の移動度の方が正孔の移動度が低い場合を考える。電子の移動度が1×10-6cm2/Vsのとき、膜厚は30nm以上40nm以下が好適である。電子の移動度が1×10-10cm2/Vsのとき、膜厚は20nm以上30nm以下が好適である。
【0058】
ここで本実施形態の表示装置DSPの寿命低下について考える。有機EL層ELYにおける電子及びホールのキャリアバランスは、表示装置DSPの寿命低下の一因となる恐れがある。
【0059】
本実施形態の電子輸送層ETY(
図4参照)は、共蒸着法により成膜する。電子輸送層ETYの材料は、n型キャリア注入材料を含んでいる。n型キャリア注入材料として、例えば、(8-ヒドロキシキノリノラト)リチウム(Liq)が用いられる。また、本実施形態の正孔注入層HIY(
図4参照)は、共蒸着法により成膜する。正孔注入層HIYの材料は、p型ドーパントを含んでいる。p型ドーパントとして、例えば、2-(7-ジシアノメチレン-1,3,4,5,6,8,9,10-オクタフルオロ-7H-ピレン-2-イリデン)-マロノニトリル(NDP-9)を用いる。p型ドーパント濃度は1.0%乃至1.5%が好ましい。
【0060】
電子輸送層ETYの成膜において、p型ドーパント濃度に対して、Liq濃度により、電子供給量が決定される。電子供給量を増やすため、Liq濃度を増加すると、電子注入層EIYとしても機能するLiqと、電子輸送層ETYとの間のΔE1_LUMOが大きくなってしまう(
図7及び
図8参照)。これにより、電子供給量が飽和又は低下してしまう。さらに、表示装置DSPの寿命が低下してしまう恐れが生じる。
【0061】
本実施形態では、有機EL層ELYのうち電子輸送層ETYを改善することにより、表示装置DSPの寿命向上を可能とする。
【0062】
図9は、有機EL層を説明する断面図である。
図9に示す例では、電子輸送層ETYのうち、電子注入層EIYの境界付近に、高濃度のLiqを含む層を形成する。電子輸送層ETYのうち、当該高濃度層をLQとし、高濃度層LQ以外の低濃度のLiqを含む層を低濃度層NDとする。
【0063】
図9に示す例では、電子輸送層ETYの厚さは、22.6nmである。電子輸送層ETYの低濃度層NDは、10%以上50%以下、より具体的には、20%のLiqを含んでいる。
【0064】
高濃度層LQは、70%以上90%以上、より具体的には、80%のLiqを含んでいる。高濃度層LQの厚さは、1nm以上3nm以下、より具体的には、2.6nmである。発光層ELLは、青色を発光する発光層である。高濃度層LQの膜厚は、電子輸送層ETY全体の膜厚の5%以上15%以下である。
【0065】
低濃度層ND及び高濃度層LQを共蒸着法で形成するには、例えば、複数のチャンバを用意し、それぞれに共蒸着の蒸着源を設置すればよい。当該チャンバの開閉を制御することにより、濃度の異なる2つの層を成膜する。
【0066】
図10は、実施形態及び比較例の構成における時間に対する輝度を示す図である。実施形態の電子輸送層ETYは、上述の通り、電子注入層EIYの境界に高濃度層LQが形成されている。比較例の電子輸送層は、電子注入層EIYの境界に高濃度層が形成されない。
【0067】
図10において、実施形態のプロットPL1を実線、比較例のプロットPL0を点線で示している。
図10の横軸は、発光の開始からの時間(TIME)(h)、縦軸は相対輝度(RELATIVE LUMINANCE)である。
【0068】
図10に示すように、比較例のプロットPL0は、実施形態のプロットPL1に比較して、時間に対しての輝度の下がり方が急峻である。つまり、高濃度層LQが形成される実施形態の構成では、比較例より寿命が長い。このように、本実施形態の表示装置DSPは、寿命を向上させる効果を奏する。
【0069】
Liqの分子は、他の共蒸着分子に比べて強固である。よって高濃度層LQを設けることで、電子輸送層ETYの界面が強固となる。これにより、本実施形態の表示装置DSPは、寿命の向上が可能であると考えられる。
【0070】
本発明の表示装置では、青色の色度はCIEx=0.141、CIEy=0.05であり、CIEyが画素の設計に重要な役割を果たす。
【0071】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0072】
DSP…表示装置、EBY…電子ブロッキング層、EIY…電子注入層、ELL…発光層、ELY…有機EL層、ELr…発光層、ETY…電子輸送層、HBY…正孔ブロッキング層、HIY…正孔注入層、HTY…正孔輸送層、LQ…高濃度層、ND…低濃度層、PL0…プロット、PL1…プロット、PX…画素。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0059
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0059】
本実施形態の電子輸送層ETY(
図4参照)は、共蒸着法により成膜する。電子輸送層ETYの材料は、n型キャリア注入材料を含んでいる。n型キャリア注入材料として、例えば、(8-ヒドロキシキノリノラト)リチウム(Liq)が用いられる。また、本実施形態の正孔注入層HIY(
図4参照)は、共蒸着法により成膜する。正孔注入層HIYの材料は、p型ドーパントを含んでい
る。p型ドーパント濃度は1.0%乃至1.5%が好ましい。