(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092455
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】抗老化用又は細胞若返り用の剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/405 20060101AFI20240701BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240701BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20240701BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240701BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240701BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20240701BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240701BHJP
C07D 209/18 20060101ALN20240701BHJP
C07D 209/20 20060101ALN20240701BHJP
【FI】
A61K31/405
A61P43/00 107
A61P3/00
A61P3/04
A61P1/16
A61P13/12
A61P25/00
C07D209/18
C07D209/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022208385
(22)【出願日】2022-12-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年12月27日に大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立情報学研究所のウェブサイトにて公開
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、ムーンショット型研究開発事業、「ミトコンドリア先制医療」委託研究開発、産業技術力強化法17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】阿部 高明
(72)【発明者】
【氏名】菅野 新一郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健弘
(72)【発明者】
【氏名】橋本 功
(72)【発明者】
【氏名】笠原 朋子
(72)【発明者】
【氏名】原 文香
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC14
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA17
4C086MA22
4C086MA23
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA41
4C086MA43
4C086MA52
4C086MA55
4C086MA59
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA22
4C086ZA70
4C086ZA75
4C086ZA81
4C086ZB22
4C086ZC21
4C086ZC52
(57)【要約】 (修正有)
【課題】比較的簡便かつ安価に製造することができる低分子化合物を有効成分とする、抗老化用又は細胞若返り用の剤や老化に関連する症状若しくは疾患の予防又は改善剤。
【解決手段】式(I-1)で表される化合物に代表されるインドール化合物を含む、抗老化用又は細胞若返り用の剤である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(I
0);
【化1】
[式中、R
1は、水素原子;ベンゼン環が非置換若しくは炭素数1~7のアルキル基、炭素数1~7のアルコキシル基、フッ素及び/又は塩素で置換されたベンゾイルメチル基;非置換若しくはフッ素で置換された鎖状又は分枝状の炭素数4~6のアルキル基;又は、フェニル基、シクロペンチル基、若しくはピペリジニル基で置換されたメチレン又はエチレン;を表し、前記フェニル基はさらに1以上のフェニル基で置換されていてもよく、前記ピペリジニル基はさらにNがアシル基で置換されていてもよく、Z
1、Z
2、Z
3、Z
4は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、C1~C6のアルキル基、C2~C6のアルケニル基、C2~C6のアルキニル基、OR
8で表される有機オキシ基を表し、R
8は、C1~C7のアルキル基、C2~C6のアルケニル基、C2~C6のアルキニル基、又はベンジル基を表し、Z
5は、水素原子又はC1~C6のアルキル基を表し、R
3はOH、OR
4、NHR
4及びNR
4R
5のいずれか一つから選ばれる基であり、R
4及びR
5は同一又は異なって、置換若しくは非置換の炭素数1~4のアルキル基である。]
、一般式(II);
【化2】
[式中、R
6は水素又はメチル基であり、Xは炭素数4~6のアルキレン基、若しくは炭素数4のエーテル基であり、R
3はOH、OR
4、NHR
4及びNR
4R
5のいずれか一つから選ばれる基であり、R
4及びR
5は同一又は異なって、置換若しくは非置換の炭素数1~4のアルキル基である。]
、及び、一般式(III);
【化3】
[式中、Aはインドール若しくはナフタレンを表し、Aがインドールのとき、インドールの3位及び5位に、それぞれ酢酸基及びR
7Oが置換されており、Aがナフタレンのとき、ナフタレンの1位及び7位に、それぞれ酢酸基及びR
7Oが置換されており、R
7は炭素数1~5のアルキル基又はベンジル基を表し、該ベンジル基のベンゼン環は1又は2以上の炭素数1~3のアルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基で置換されていてもよく、R
3はOH、OR
4、NHR
4及びNR
4R
5のいずれか一つから選ばれる基であり、R
4及びR
5は同一又は異なって、置換若しくは非置換の炭素数1~4のアルキル基である。]
で表される化合物、並びに、R
3がOHのときそれらの医薬的に許容される塩からなる群から選択される1種又は2種以上の化合物を含む、抗老化用又は細胞若返り用の剤。
【請求項2】
SIRTタンパク質が、SIRT1タンパク質、SIRT2タンパク質、SIRT3タンパク質、SIRT4タンパク質、SIRT5タンパク質、SIRT6タンパク質、及び、SIRT7タンパク質から選択される1種又は2種以上のタンパク質である、請求項1に記載の抗老化用又は細胞若返り用の剤。
【請求項3】
化合物が、以下の式(I-1)、式(II-1)、式(I-2)、式(I-3)、式(I-4)、式(I-5)又は式(III-1)で表される化合物若しくはその医薬的に許容される塩である、請求項1に記載の抗老化用又は細胞若返り用の剤。
式(I-1);
【化4】
式(II-1);
【化5】
式(I-2);
【化6】
式(I-3);
【化7】
式(I-4);
【化8】
式(I-5);
【化9】
式(III-1);
【化10】
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の抗老化用又は細胞若返り用の剤を含む、老化に関連する症状若しくは疾患の予防又は改善剤。
【請求項5】
老化に関連する症状若しくは疾患が、肥満症、肝疾患、肝機能の低下、腎線維化、腎機能障害、及び、運動機能の低下からなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項4に記載の予防又は改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後述する一般式(I0)、一般式(II)、及び一般式(III)で表される化合物、並びに、R3がOHのときそれらの医薬的に許容される塩からなる群(以下、これらを総称して「本件化合物群」ということがある)から選択される1種又は2種以上の化合物を含む、抗老化用又は細胞若返り用の剤や、かかる抗老化用又は細胞若返り用の剤を含む、老化に関連する症状若しくは疾患の予防又は改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
老化制御に関する研究において、古細菌、酵母、線虫、ヒトに至るまで、低栄養にならない程度のカロリー制限が抗老化、寿命延長効果を示すことがわかっている。これらの効果に関与する分子の一つとしてSir2が同定されている。その哺乳類ホモログとして7種類のサーチュイン(Sirtuin)ファミリーが存在している。中でも最もSir2と構造や機能が類似しているサーチュイン1が注目されている。
【0003】
サーチュイン1は、NAD依存性脱アセチル化酵素活性やADPリボシル転移酵素活性をもち、生体内で重要な役割を果たしている。例えばサーチュイン1高発現マウスにおいて身体能力の改善及び生殖期間の延長とともに、糖代謝、コレステロール代謝、脂肪代謝の改善が認められている。また、高脂肪食下での耐糖能改善、脂肪肝抑制も観察されている。つまりサーチュイン1の活性化が代謝系疾患の予防、治療又は改善に有用であると考えられている(非特許文献1)。
【0004】
またサーチュイン1の活性化により、転写因子NF-κB(nuclear factor-kappa B)のp65サブユニットが脱アセチル化され、NF-κB活性が減弱する結果、炎症を抑制することが明らかとなっており、この炎症抑制作用が炎症性疾患の予防、治療又は改善すると考えられている(非特許文献1)。さらにマウスではNF-κBの遺伝子の遮断により、皮膚の増殖能が高まることが分かっており、サーチュイン1の活性化は皮膚の増殖能の亢進に有用であると考えられる(非特許文献2)。
【0005】
サーチュイン1はFOXO、p53、p73、Ku70、Smad7等を脱アセチル化し、その結果として、酸化ストレス耐性の誘導、細胞死抑制を誘導する。これらの表現型の誘導が、抗老化、長寿命化の実現に寄与していると考えられている(非特許文献1)。
【0006】
細胞老化は紫外線等の外因的ストレスに曝されることにより引き起こされる。ここで細胞老化とは永久に細胞周期が停止する現象である。サーチュイン1はTERT(Telomere Reverse Transcriptase)の発現を調節し、ヒストンを脱アセチル化することによりテロメアの安定性を維持し、WRNタンパク質(Werner syndrome protein)等の修復タンパク質を脱アセチル化することでDNA修復を促進してゲノムの安定性を維持しており、これらの機能を通して細胞老化を抑制していることが明らかになっている(非特許文献3)。
【0007】
このように、サーチュイン1は代謝系疾患改善作用、炎症性疾患改善作用、細胞老化抑制作用に加え、糖尿病改善作用、心血管保護作用、腎疾患改善作用、神経保護作用等、様々な機能を有することが明らかになっている。そのため、サーチュイン1の活性化により、代謝系疾患、炎症性疾患、細胞老化、糖尿病、心血管疾患、腎疾患、神経疾患等の各種疾患の予防、治療、又は改善に有用であると考えられている。
【0008】
サーチュイン1を活性化させる物質として赤ブドウの皮に多く含まれているレスベラトロールが知られている。近年では、ボタンボウフウの植物体またはその溶媒抽出物からなることを特徴とするSirtuin-1活性化剤(特許文献1)や、黒ウコンの抽出物由来のサーチュイン活性化剤(特許文献2)や、トンカットアリの抽出物を含有するサーチュイン1の発現増強用組成物(特許文献3)も報告されている。また、特許文献4には、サーチュイン1に対する天然アンチセンス転写物に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて、サーチュイン1を上方制御する方法が開示されている。
【0009】
一方、本発明者らは、4-(2,4-ジフルオロフェニル)-2-(1H-インドール-3-イル)-4-オキソ-ブタン酸(すなわち、MA5)が、エリスロポエチン発現増強効果及びミトコンドリア病の治療効果(特許文献5)、臓器線維化抑制効果(特許文献6)、難聴の予防又は改善効果(特許文献7)を有することを報告している。しかしながら、本件化合物群が、SIRTタンパク質の産生促進効果、抗老化効果、細胞若返り効果などを有することについては、これまで知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第5666053号公報
【特許文献2】特開2018-199680号公報
【特許文献3】特開2021-075501号公報
【特許文献4】特開2017-221221号公報
【特許文献5】国際公開第2014/080640号パンフレット
【特許文献6】特開2015-189670号公報
【特許文献7】特開2019-116453号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】化学と生物, 2009年, Vol.47, No.8, p531-537
【非特許文献2】Aging cell, 2010年, 9, pp285-290
【非特許文献3】BMB Reports, 2019年, 52(1), p.24-34
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、比較的簡便かつ安価に製造することができる低分子化合物を有効成分とする、抗老化用又は細胞若返り用の剤や、老化に関連する症状若しくは疾患の予防又は改善剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を続けている。その過程において、
(a)後述する本件化合物群が、SIRTタンパク質の産生を、効果的に促進する作用(例えば、細胞内のSIRTタンパク質の量を効果的に増加する作用)を有すること、
(b)後述する本件化合物群が、老化に関連する症状又は疾患である脂肪肝及び肥満症を改善する作用、及び、肝機能を改善する作用を有すること、
(c)後述する本件化合物群が、老化に関連する運動機能の低下を改善する作用を有すること、
(d)後述する本件化合物群が、FOXO1遺伝子の発現の上昇やIGF1シグナル経路の活性化、PPAR遺伝子によるNF-kB経路の抑制、Longevity regulating経路の活性化、多能性に関する遺伝子群の発現の上昇などの作用を有すること、
(e)後述する本件化合物群が、老化に関連するパスウェイのDNAのメチル化を抑制する効果を有すること、
などを見いだし、本発明を完成するに至った。
なお、FOXO1遺伝子の発現の上昇、IGF1シグナル経路の活性化、NF-kB経路の抑制、Longevity regulating経路の活性化、多能性に関連する遺伝子群の発現の上昇は、長寿や抗老化などに関連することが知られている。
【0014】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
〔1〕以下の一般式(I
0);
【化1】
[式中、R
1は、水素原子;ベンゼン環が非置換若しくは炭素数1~7のアルキル基、炭素数1~7のアルコキシル基、フッ素及び/又は塩素で置換されたベンゾイルメチル基;非置換若しくはフッ素で置換された鎖状又は分枝状の炭素数4~6のアルキル基;又は、フェニル基、シクロペンチル基、若しくはピペリジニル基で置換されたメチレン又はエチレン;を表し、前記フェニル基はさらに1以上のフェニル基で置換されていてもよく、前記ピペリジニル基はさらにNがアシル基で置換されていてもよく、Z
1、Z
2、Z
3、Z
4は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、C1~C6のアルキル基、C2~C6のアルケニル基、C2~C6のアルキニル基、OR
8で表される有機オキシ基を表し、R
8は、C1~C7のアルキル基、C2~C6のアルケニル基、C2~C6のアルキニル基、又はベンジル基を表し、Z
5は、水素原子又はC1~C6のアルキル基を表し、R
3はOH、OR
4、NHR
4及びNR
4R
5のいずれか一つから選ばれる基であり、R
4及びR
5は同一又は異なって、置換若しくは非置換の炭素数1~4のアルキル基である。]
、一般式(II);
【化2】
[式中、R
6は水素原子又はメチル基であり、Xは炭素数4~6のアルキレン基、若しくは炭素数4のエーテル基であり、R
3はOH、OR
4、NHR
4及びNR
4R
5のいずれか一つから選ばれる基であり、R
4及びR
5は同一又は異なって、置換若しくは非置換の炭素数1~4のアルキル基である。]
、及び、一般式(III);
【化3】
[式中、Aはインドール若しくはナフタレンを表し、Aがインドールのとき、インドールの3位及び5位に、それぞれ酢酸基及びR
7Oが置換されており、Aがナフタレンのとき、ナフタレンの1位及び7位に、それぞれ酢酸基及びR
7Oが置換されており、R
7は炭素数1~5のアルキル基又はベンジル基を表し、該ベンジル基のベンゼン環は1又は2以上の炭素数1~3のアルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基で置換されていてもよく、R
3はOH、OR
4、NHR
4及びNR
4R
5のいずれか一つから選ばれる基であり、R
4及びR
5は同一又は異なって、置換若しくは非置換の炭素数1~4のアルキル基である。]
で表される化合物、並びに、R
3がOHのときそれらの医薬的に許容される塩からなる群から選択される1種又は2種以上の化合物を含む、抗老化用又は細胞若返り用の剤。
〔2〕SIRTタンパク質が、SIRT1タンパク質、SIRT2タンパク質、SIRT3タンパク質、SIRT4タンパク質、SIRT5タンパク質、SIRT6タンパク質、及び、SIRT7タンパク質から選択される1種又は2種以上のタンパク質である、上記〔1〕に記載の抗老化用又は細胞若返り用の剤。
〔3〕化合物が、以下の式(I-1)、式(II-1)、式(I-2)、式(I-3)、式(I-4)、式(I-5)又は式(III-1)で表される化合物若しくはその医薬的に許容される塩である、上記〔1〕又は〔2〕に記載の抗老化用又は細胞若返り用の剤。
式(I-1)(実施例で後述する化合物#5);
【化4】
式(II-1)(実施例で後述する化合物#13);
【化5】
式(I-2)(実施例で後述する化合物#9);
【化6】
式(I-3)(実施例で後述する化合物#21);
【化7】
式(I-4)(実施例で後述する化合物#30);
【化8】
式(I-5)(実施例で後述する化合物#4);
【化9】
式(III-1)(実施例で後述する化合物#35);
【化10】
〔4〕上記〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の抗老化用又は細胞若返り用の剤を含む、老化に関連する症状若しくは疾患の予防又は改善剤。
〔5〕老化に関連する症状若しくは疾患が、肥満症、肝疾患、肝機能の低下、腎線維化、腎機能障害、及び、運動機能の低下からなる群から選択される1種又は2種以上である、上記〔4〕に記載の予防又は改善剤。
【0015】
また本発明の実施の他の形態として、本件化合物群から選択される1種又は2種以上の化合物を、抗老化又は細胞若返りを必要とする動物に投与する工程を備えた、前記動物における老化を抑制又は細胞を若返らせる方法や、抗老化用又は細胞若返り用の剤として使用するための、本件化合物群から選択される1種又は2種以上の化合物や、抗老化又は細胞若返りにおける使用のための、本件化合物群から選択される1種又は2種以上の化合物や、抗老化用又は細胞若返り用の剤を製造するための、本件化合物群から選択される1種又は2種以上の化合物の使用を挙げることができる。
【0016】
また本発明の実施の他の形態として、本件化合物群から選択される1種又は2種以上の化合物を、老化に関連する(好ましくは老化に起因する)症状若しくは疾患の予防又は改善(治療)を必要とする対象に投与する工程を含む、老化に関連する(好ましくは老化に起因する)症状若しくは疾患を予防又は改善(治療)する方法や、老化に関連する(好ましくは老化に起因する)症状若しくは疾患の予防又は改善(治療)剤として使用するための、本件化合物群から選択される1種又は2種以上の化合物や、老化に関連する(好ましくは老化に起因する)症状若しくは疾患の予防又は改善(治療)における使用のための、本件化合物群から選択される1種又は2種以上の化合物や、老化に関連する(好ましくは老化に起因する)症状若しくは疾患の予防又は改善(治療)剤を製造するための、本件化合物群から選択される1種又は2種以上の化合物の使用を挙げることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、抗老化用又は細胞若返り用の剤や、老化に関連する症状若しくは疾患の予防又は改善剤を提供することができる。さらに、本発明は、比較的簡便かつ高収率で製造できる低分子化合物を、抗老化又は細胞若返りの有効成分とするため、比較的簡便かつ安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1-1】マウス内耳細胞株(HEI-OC1細胞株)を、0.1%のDMSO、又は各種濃度(1μM、3μM、10μM、又は30μM)のMA5の存在下で培養し、細胞内の各種SIRT(SIRT1、SIRT2のアイソフォーム1、SIRT2のアイソフォーム2、及び、SIRT3)の発現レベルを、ウエスタンブロット法により解析した結果を示す図である。下のグラフは、上の結果における各バンド強度を、コントロールである0.1%のDMSOにおけるバンド強度を1としたときの相対値で表した結果である。
【
図1-2】HEI-OC1細胞株を、0.1%のDMSO、又は各種濃度(1μM、3μM、10μM、又は30μM)のMA5の存在下で培養し、細胞内の各種SIRT(SIRT5、SIRT6、及びSIRT7)の発現レベル及びβ-アクチンの発現レベルを、ウエスタンブロット法により解析した結果を示す図である。下のグラフは、上の結果における各バンド強度を、コントロールである0.1%のDMSOにおけるバンド強度を1としたときの相対値で表した結果である。
【
図2】NDUFS4(NADH:ubiquinone oxidoreductase subunit S4)ホモノックアウトマウス(Ndufs4-/-マウス)にMA5(化合物#5)を投与した場合の、褐色脂肪組織における褐色脂肪細胞への影響を示す図である。 上パネルは、NDUFS4ホモノックアウトマウス(Ndufs4-/-マウス)に、マウスの体重1kgあたり10mg/日の化合物#5を、50日間投与した場合[化#5投与群]の、マウスの褐色脂肪組織をHE(ヘマトキシリン・エオジン)染色した結果を表す。 下パネルは、NDUFS4ホモノックアウトマウス(Ndufs4-/-マウス)に、マウスの体重1kgあたり10mg/日のCMC(カルボキシメチルセルロース)を、50日間投与した場合[CMC投与群;コントロール群]の、マウスの褐色脂肪組織をHE(ヘマトキシリン・エオジン)染色した結果を表す。
【
図3】
図2における[化#5投与群]及び[コントロール群]の、Ndufs4-/-マウスの褐色脂肪細胞におけるUCP1(uncoupling protein 1)遺伝子、PPARγ(peroxisomeproliferator-activated receptor gamma)遺伝子、及び、FABP4(fattyacid binding protein 4)遺伝子の発現を定量PCRにより解析した結果を示す図である。 グラフの縦軸のauは、コントロール群の発現量=1とした発現量比を表す。
【
図4】NDUFS4(NADH:ubiquinone oxidoreductase subunit S4)ホモノックアウトマウス(Ndufs4-/-マウス)にMA5(化合物#5)を経口投与した場合の、脂肪肝への影響を示す図である。 図の左側のパネルは、野生型のマウスに水を与えた群における肝臓組織の電子顕微鏡画像であり、中央のパネルは、Ndufs4-/-マウスに水を与えた群における肝臓組織の電子顕微鏡画像であり、右側のパネルは、Ndufs4-/-マウスに、マウスの体重1kgあたり0.1mg/日の化合物#5を、24日間投与した群(化#5投与群)おける肝臓組織の電子顕微鏡画像である。 なお、図の左側の「X2000」や「X10000」は倍率を表す。
【
図5】C57BL6マウス(8週齢)に化合物#4を経口投与した場合の、肝機能への影響を示す図である。 「Epo」はマウスの血液中のエリスロポエチン濃度(IU/L)を表し、「TG」はマウスの血液中の中性脂肪濃度(mg/dL)を表し、「GOT」はマウスの血液中のグルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ濃度(IU/L)を表し、「GPT」はマウスの血液中のグルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ濃度(IU/L)を表し、「T-Cho」はマウスの血液中の総コレステロール濃度(mg/dL)を表し、「HDL」はマウスの血液中のHDLコレステロール濃度(mg/dL)を表す。 各パネルにおいて、「DMSO」は対照群(n=4)の結果であり、「L」は化合物#4をマウスの体重1kgあたり50mg/日の化合物#4を、7日間投与した群(n=4)の結果であり、「H」は化合物#4をマウスの体重1kgあたり150mg/日の化合物#4を、7日間投与した群(n=4)の結果である。
【
図6】RH30細胞内の、SIRT1タンパク質量をウエスタンブロット法により検出した結果を示す図である。 図の左から、コントロールである[対照群](DMSO)、MA5(化合物#5)を添加した[化#5添加群]、化合物#9を添加した[化#9添加群]、化合物#13を添加した[化#13添加群]、化合物#21を添加した[化#21添加群]、化合物#30を添加した[化#30添加群]、化合物#35を添加した[化#13添加群]の結果をそれぞれ表す。化合物#5、#9、#13、#21、#30、#35はいずれも本件化合物である。 なお、ローディングコントロールとして、β-Actin(β-アクチン)の結果を最下段に示す。
【
図7】
図6のウエスタンブロットの検出結果の各バンドを、ローディングコントロールであるβ-アクチンのバンドで標準化して定量化した結果を表す図である。 図の左から、コントロールである[対照群](DMSO)、MA5(化合物#5)を添加した[化#5添加群]、化合物#9を添加した[化#9添加群]、化合物#13を添加した[化#13添加群]、化合物#21を添加した[化#21添加群]、化合物#30を添加した[化#30添加群]、化合物#35を添加した[化#35添加群]の結果をそれぞれ表す。
【
図8】
図8は、[MA5添加群](右パネル)及び[Vehicle群](左パネル)の老齢マウスのトレッドミルでの走行時間を測定した結果を表す図である。縦軸はトレッドミルでの走行時間(秒)を表し、横軸は測定開始からの経過週数を表す。**はp<0.01を表す。
【
図9】
図9は、[MA5添加群]及び[Vehicle群]の老齢マウスのサバイバルの割合(その経過時間まで、疲労困憊せずに走り続けているマウスの割合)(%)を表す図である。サバイバルの割合が低い方の結果が[Vehicle群]の結果を表し、サバイバルの割合が高い方の結果が[MA5添加群]の結果を表す。横軸は試験開始からの経過時間(分)を表し、縦軸(Probability of Survival)は疲労困憊せずに走り続けているマウスの割合(%)を表す。
【
図10】
図10は、[MA5添加群]及び[Vehicle群]の老齢マウスの筋肉の細胞について、RNAシーケンス(RNA-Seq)解析を行い、投与前の若齢マウスの筋肉の細胞と比較して[MA5添加群]及び[Vehicle群]において発現量が変化した(増加又は減少した)遺伝子を特定した結果を表す図である。
図10において、右側の5列の結果は[MA5添加群]の結果であり、左側の5列の結果は[Vehicle群]の結果である。
【
図11】
図11は、[Vehicle群]の老齢マウスの筋肉細胞と[MA5添加群]の老齢マウスの筋肉細胞とで、多能性関連遺伝子であるKlf4遺伝子、Pou5f1(Oct4)遺伝子、Sox2遺伝子、Myc遺伝子の発現量を比較した結果を表す図である。また、Nanog遺伝子の発現量を比較した結果も示す。*はp<0.05を表し、**はp<0.01を表す。
【
図12】
図12は、[MA5添加群]の老齢マウスの筋肉細胞において発現が変動している遺伝子パスウェイ解析の結果を表す図である。上から1番目はmuscle structure development(筋肉構造の発達)、上から6番目はLongevity regulating pathway-multiple species(寿命制御経路-複数種)、上から10番目はnegative regulation of MAPK cascade(MAPKカスケードの負の制御)、下から2番目はinsulin signaling(インスリンシグナル)である。
【
図13】
図13は、[MA5添加群]の老齢マウスの筋肉細胞において発現が変動した遺伝子と、その遺伝子又はその遺伝子の上流の遺伝子の発現を制御する転写因子との関連を示す図である。図の左に挙げられた遺伝子は、[Vehicle群]と比較して[MA5添加群]において発現量が増加又は減少した遺伝子を表す。図の上に挙げられた転写因子の下流で制御される遺伝子には、その転写因子の名称の真下の箇所に印が付けられている。例えば、FOXO1の下流で制御される遺伝子には、ITGA5、RCAN1などが含まれる。
【
図14】
図14は、[Vehicle群]、[MA5低用量添加群]及び[MA5高用量添加群]の若齢マウスのトレッドミルでの走行時間を測定した結果を表す図である。横軸は、試験開始からの経過週数を表し、縦軸は、試験開始前(0week)のトレッドミルでの走行時間を1とした場合の相対走行時間を表す。なお、□は[MA5高用量添加群]の結果を表し、△は[MA5低用量添加群]の結果を表し、○は[Vehicle群]の結果を表す。
【
図15】
図15は、[Vehicle群]、[MA5低用量添加群](Low dose)及び[MA5高用量添加群](hign dose)の若齢マウスのサバイバルの割合(その経過時間まで、疲労困憊せずに走り続けているマウスの割合)(%)を表す図である。サバイバルの割合が最も高い結果が[MA5高用量添加群]の結果を表し、サバイバルの割合が次いで高い結果が[MA5低用量添加群]の結果を表し、サバイバルの割合が最も低い結果が[Vehicle群]の結果を表す。横軸は試験開始からの経過時間(分)を表し、縦軸(Probability of Survival)は疲労困憊せずに走り続けているマウスの割合(%)を表す。
【
図16】
図16は、[MA5添加群]及び[Vehicle群]の若齢マウスの筋肉の細胞について、RNAシーケンス(RNA-Seq)解析を行い、投与前の若齢マウスの筋肉の細胞と比較して[MA5添加群]及び[Vehicle群]において発現量が変化した(増加又は減少した)遺伝子を特定した結果を表す図である。
図16において、右側の5列の結果は[MA5添加群]の結果であり、左側の5列の結果は[Vehicle群]の結果である。
【
図17】
図17は、[MA5添加群]の若齢マウスの筋肉細胞において発現が変動している遺伝子パスウェイ解析の結果を表す図である。
【
図18】
図18は、[MA5添加群]の若齢マウスの筋肉細胞において発現が変動した遺伝子と、その遺伝子又はその遺伝子の上流の遺伝子の発現を制御する転写因子との関連を示す図である。図の左に挙げられた遺伝子は、[Vehicle群]と比較して[MA5添加群]において発現量が増加又は減少した遺伝子を表す。図の上に挙げられた転写因子の下流で制御される遺伝子には、その転写因子の名称の真下の箇所に印が付けられている。例えば、SUZ12の下流で制御される遺伝子には、SMYD2、MPZなどが含まれる。
【
図19】
図19は、[MA5添加群]の若齢マウスの肝臓細胞において発現が変動した遺伝子と、その遺伝子又はその遺伝子の上流の遺伝子の発現を制御する転写因子との関連を示す図である。図の左に挙げられた遺伝子は、[Vehicle群]と比較して[MA5添加群]において発現量が増加又は減少した遺伝子を表す。図の上に挙げられた転写因子の下流で制御される遺伝子には、その転写因子の名称の真下の箇所に印が付けられている。例えば、MYCの下流で制御される遺伝子には、GSTT2、SLC6A6などが含まれる。
【
図20】
図20は、[MA5添加群]の老齢マウスの肝臓細胞において発現が変動した遺伝子と、その遺伝子又はその遺伝子の上流の遺伝子の発現を制御する転写因子との関連を示す図である。図の左に挙げられた遺伝子は、投与前と比較して[MA5添加群]において発現量が増加又は減少した遺伝子を表す。図の上に挙げられた転写因子の下流で制御される遺伝子には、その転写因子の名称の真下の箇所に印が付けられている。例えば、FOXO1の下流で制御される遺伝子には、BCL6、CYP17A1などが含まれる。
【
図21】
図21は、[MA5添加群]のNdufs4ノックアウトマウスの内耳の蝸牛殻の細胞において発現が変動している遺伝子パスウェイ解析の結果を表す図である。上から5番目はインスリン様成長因子の輸送と取り込みの制御に関する経路である。
【
図22】
図22は、2種類の群(KlothoホモKOマウス未投与群[図中の「Vehicle」]及びKlothoホモKOマウス投与群[[図中の「MA-5」])の生存率を、カプラン・マイヤー法に基づく生存曲線より評価した結果を示す図である。
【
図23】
図23は、3種類の群(野生型未投与群[図中の「野生型」]、KlothoホモKOマウス未投与群[図中の「α-Klotho KO Vehicle」]、及びKlothoホモKOマウス投与群[[図中の「α-Klotho KO MA-5」])の腎臓組織における2種類の線維化関連遺伝子(αSMA[αアクチンミクロフィラメント]及びCol1a1[I型コラーゲン線維])のmRNA発現量を、リアルタイムPCR法より相対的に定量した結果を示す図である。
【
図24】
図24は、3種類の群(野生型未投与群[図中の「野生型」]、KlothoホモKOマウス未投与群[図中の「KO dw」]、KlothoホモKOマウス投与群[[図中の「KO #5」])の血漿中のスペルミジン量を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の抗老化用又は細胞若返り用の剤は、「抗老化のため」又は「細胞若返りのため」という用途が限定された、本件化合物群から選択される1種又は2種以上の化合物を有効成分として含有する剤(以下、「本件の剤」ということがある)であり、老化に関連する症状若しくは疾患の予防又は改善剤は、「老化に関連する症状若しくは疾患を予防又は改善するため」という用途が限定された、本件の剤を含有する剤(以下、「本件予防/改善剤」ということがある)であり、本件の剤や本件予防/改善剤は、それぞれの有効成分である本件化合物群を、単独で飲食品又は医薬品(製剤)として使用してもよいし、さらに添加剤を混合し、組成物の形態(飲食品組成物又は医薬組成物)として使用してもよい。かかる飲食品としては、例えば、健康食品(機能性食品、栄養補助食品、健康補助食品、栄養強化食品、栄養調整食品、サプリメント等)、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等)を挙げることができる。
【0020】
本件化合物群は、SIRTタンパク質の産生を、効果的に促進することができる。本明細書において、「SIRTタンパク質」としては、動物(好ましくはヒト)におけるSIRT1、SIRT2、SIRT3、SIRT4、SIRT5、SIRT6及びSIRT7からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられる。
【0021】
本明細書において、「SIRTタンパク質」は、バリアントが存在する場合いずれであってもよい。ヒトの各SIRTタンパク質のアミノ酸配列は、以下のアクセッション番号に開示されている。なお、ヒトや他の生物の各SIRTタンパク質のアミノ酸配列は、GenBank(登録商標)などのウェブサイトにおいて把握することができる。
ヒトSIRT1 isoforma;NP_036370.2
ヒトSIRT1 isoformb;NP_001135970.1
ヒトSIRT1 isoformc;NP_001300978.1
ヒトSIRT2 isoform1;NP_036369.2
ヒトSIRT2 isoform2;NP_085096.1
ヒトSIRT2 isoform3;NP_001180215.1
ヒトSIRT3 mitochondrialisoform a;NP_036371.1
ヒトSIRT3 mitochondrialisoform b;NP_001017524.1
ヒトSIRT3 mitochondrialisoform c;NP_001357239.1
ヒトSIRT3 mitochondrialisoform d;NP_001357241.1
ヒトSIRT3 mitochondrialisoform e;NP_001357243.1
ヒトSIRT3 mitochondrial isoform f;NP_001357244.1
ヒトSIRT3 mitochondrialisoform g;NP_001357245.1
ヒトSIRT3 mitochondrialisoform h;NP_001357246.1
ヒトSIRT3 mitochondrialisoform i;NP_001357250.1
ヒトSIRT3 mitochondrialisoform j;NP_001357253.1
ヒトSIRT4 mitochondrialisoform 1;NP_001372662.1
ヒトSIRT4 mitochondrialisoform 2;NP_001372663.1
ヒトSIRT5 mitochondrialisoform 1;NP_001363727.1
ヒトSIRT5 mitochondrialisoform 2;NP_001363737.1
ヒトSIRT5 mitochondrialisoform 3;NP_001180196.1
ヒトSIRT5 mitochondrialisoform 4;NP_001229756.1
ヒトSIRT5 mitochondrialisoform 5;NP_001363738.1
ヒトSIRT5 mitochondrialisoform 6;NP_001363740.1
ヒトSIRT5 mitochondrialisoform 7;NP_001363742.1
ヒトSIRT5 mitochondrialisoform 8;NP_001363744.1
ヒトSIRT6 isoform1;NP_057623.2
ヒトSIRT6 isoform2;NP_001180214.1
ヒトSIRT6 isoform3;NP_001307987.1
ヒトSIRT6 isoform4;NP_001307988.1
ヒトSIRT6 isoform5;NP_001307989.1
ヒトSIRT6 isoform6;NP_001307990.1
ヒトSIRT6 isoform7;NP_001307991.1
ヒトSIRT6 isoform8;NP_001307992.1
ヒトSIRT6 isoform9;NP_001307993.1
ヒトSIRT7;NP_057622.1
【0022】
本件化合物群に含まれる化合物の詳細な説明は以下に示す。
【0023】
本発明の一態様において、上記一般式(I0)におけるR1は、水素原子;ベンゼン環が非置換若しくは炭素数1~7のアルキル基、炭素数1~7のアルコキシル基、フッ素及び/又は塩素で置換されたベンゾイルメチル基である。かかるベンゾイルメチル基のベンゼン環は、置換されていてもよく、置換されたものとしては、ベンゼン環上に1~5の炭素数1~7のアルキル基、1~5の炭素数1~7のアルコキシル基、1~5のフッ素原子、又は1~5の塩素原子、若しくは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシル基、フッ素原子及び塩素原子を合わせて1~5有するベンゾイルメチル基等を挙げることができる。ここで、炭素数1~7のアルキル基としては、直鎖状・分岐状のアルキル基であってもよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、2-エチルブチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基等を挙げることができ、好ましくは、メチル基、2-エチルブチル基、2-メチルペンチル基、又は3-メチルペンチル基である。
【0024】
上記炭素数1~7のアルコキシル基としては、直鎖状・分岐状のアルコキシル基であってもよく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等を挙げることができる。
【0025】
本発明の他の態様において、上記一般式(I0)におけるR1は、非置換若しくはフッ素で置換された鎖状又は分枝状の炭素数4~6のアルキル基である。非置換若しくはフッ素で置換された鎖状又は分枝状の炭素数4~6のアルキル基としては、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、n-ペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2-エチルブチル基、及びこれらのフッ素化体を挙げることができ、好ましくは、4,4,5,5,5-ペンタフルオロペンチル基、2-エチルブチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4,4,5,5,5-ペンタフルオロペンチル基、又は4,4,5,5,5-ペンタフルオロペンチル基である。
【0026】
本発明の他の態様において、上記一般式(I0)におけるR1は、フェニル基、シクロペンチル基、若しくはピペリジニル基が置換したメチレン又はエチレンであり、前記フェニル基はさらに1又は2以上のフェニル基で置換されていてもよく、前記ピペリジニル基はさらにNがアシル基で置換されていてもよい。そのアシル基としては、アセチル基、ベンゾイル基などが挙げられる。フェニル基、シクロペンチル基、若しくはピペリジニル基が置換したメチレン又はエチレンとは、ベンジル基、2-フェネチル基、シクロペンチルメチル基又は2-シクロペンチルエチル基である。1又は2以上のフェニル基が置換したベンジル基又は2-フェネチル基としては、3-フェニルベンジル基、2-(1,1’-ビフェニル-3-イル)-エチル基、2-(1,1’-ビフェニル-4-イル)-エチル基、2-(3,5-ジフェニルフェニル)-エチル基等を挙げることができる。上記一般式(I)におけるR1としては、2-フェネエチル基、2-シクロペンチルエチル基、2-(1,1’-ビフェニル-3-イル)-エチル基、1-アセチル-4-ピペリジニルメチル基を好適に例示することができる。
【0027】
上記一般式(I0)におけるZ1、Z2、Z3、Z4としては、同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、C1~C6のアルキル基、C2~C6のアルケニル基、C2~C6のアルキニル基、OR8で表される有機オキシ基を表し、R8は、C1~C7のアルキル基、C2~C6のアルケニル基、C2~C6のアルキニル基、ベンジル基を表し、Z5は、水素原子又はC1~C7のアルキル基を挙げることができる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。C1~C7のアルキル基としては、直鎖状・分岐状のアルキル基であってもよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基等を挙げることができ、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、n-ヘキシル基、又はn-ヘプチル基である。C2~C6のアルケニル基としては、直鎖状・分岐状のアルケニル基であってもよく、例えば、エテニル基(ビニル基)、1-プロペニル基、2-プロペニル基(アリル基)等を挙げることができる。C1~C7のアルコキシル基(OR8で表される有機オキシ基において、R8がC1~C7のアルキル基である場合)としては、直鎖状・分岐状のアルコキシル基であってもよく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、n-ペントキシ基、n-ヘプチルオキシ基等を挙げることができ、好ましくは、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、n-ペントキシ基、又はn-ヘプチルオキシ基である。好ましくは、Z1、Z2、Z3、Z4は、同一でも異なっていてもよく、水素、メトキシ基、フッ素、塩素である。
【0028】
上記一般式(I0)におけるR3はOH、OR4、NHR4及びNR4R5のいずれか一つから選ばれる基であり、R4及びR5は、同一又は異なって置換若しくは非置換の炭素数1~4のアルキル基である。置換若しくは非置換の炭素数1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、R4とR5が窒素と一緒になったピロリジンや、これらのメトキシ基、フェニル基、フッ素及び塩素により置換されたものを挙げることができ、好ましくは、メチル基、モノクロロメチル基、エチル基、2-メトキシエチル基、2,2,2-トリクロロエチル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基、メトキシエチル基、イソプロピル基、ヘキサフルオロイソプロピル基、及びピロリジンであり、より好ましくは、メチル基及びエチル基である。
【0029】
上記一般式(I0)の実施態様として下記の一般式(I)で表される化合物、及び、好ましくは、一般式(1)で表される化合物が例示される。
【0030】
【化11】
[式中、R
1、R
3は、上記〔1〕で定義したとおりの意味を有する。]
【0031】
【化12】
[式中、Z
1、Z
2、Z
3、Z
4、Z
5は、上記〔1〕で定義したとおりの意味を有する。]
【0032】
式(1)におけるZ1、Z2、Z3、Z4は、水素原子、ハロゲン原子、C1~C6のアルキル基、OR8で表される有機オキシ基が好ましく、特に水素原子、フッ素原子、塩素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等のC1~C3のアルキル基、OR8で表される有機オキシ基がより好ましい。
【0033】
上記Z5は、水素原子又はC1~C3のアルキル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。
【0034】
上記R8は、C1~C6のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等のC1~C3のアルキル基、ベンジル基がより好ましい。
【0035】
前記式(1)で表される化合物の中でも、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5のいずれか1置換基が置換した化合物が好ましい。
【0036】
上記式(2)、式(3)、式(4)、式(5)、式(6)中、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5は、式(1)におけるZ1、Z2、Z3、Z4、Z5と同じ定義である。
【0037】
式(1)で表される化合物は、具体的には、以下に示す化合物を例示することができる。
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
上記化合物の中でも、(I-1)、(2-1)、(3-1)、(3-2)、(3-3)、(3-4)、(4-1)、(4-2)、(5-1)、(5-2)、又は(6-1)の化合物が好ましい。
【0044】
上記一般式(I0)におけるR1が2,4-ジフルオロベンゾイルメチル基であり、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5が水素であり、かつR3がOHのとき、一般式(I0)で表される化合物は、実施例で後述する化合物#5(「MA5」ともいう)を表し、上記一般式(I0)におけるR1が4-フルオロベンゾイルメチル基であり、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5が水素であり、かつR3がOHのとき、一般式(I0)で表される化合物は、実施例で後述する化合物#4を表し、上記一般式(I0)におけるR1が1-アセチル-4-ピペリジニルメチル基であり、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5が水素であり、かつR3がOHのとき、一般式(I0)で表させる化合物は、実施例で後述する化合物#9を表し、上記一般式(I0)におけるR1が4,4,5,5,5-ペンタフルオロペンチル基であり、Z1、Z2、Z3、Z4、Z5が水素であり、かつR3がOHのとき、一般式(I0)で表させる化合物は、実施例で後述する化合物#21を表し、上記一般式(I0)におけるR1が水素であり、Z1、Z2、Z3、Z4が水素であり、Z5がヘキシル基であり、R3がOHのとき、一般式(I0)で表させる化合物は、実施例で後述する化合物#30を表す。
【0045】
上記一般式(II)におけるXは、炭素数4~6の直鎖のアルキレン基、即ちブチレン-(CH2)4-、ペンチレン-(CH2)5-、ヘキシレン-(CH2)6-、又は炭素数4のエーテル基であり、炭素数4のエーテル基としては、メチレン-O-プロピレン基、エチレン-O-エチレン基、プロピレン-O-メチレン基を挙げることができ、ブチレン、ヘキシレン及びエチレン-O-エチレン基が好ましい。
【0046】
上記一般式(II)におけるR4及びR5は、同一又は異なって置換若しくは非置換の炭素数1~4のアルキル基である。置換若しくは非置換の炭素数1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、R4とR5が窒素と一緒になったピロリジンや、これらのメトキシ基、フェニル基、フッ素及び塩素により置換されたものを挙げることができ、好ましくは、メチル基、モノクロロメチル基、エチル基、2,2,2-トリクロロメチル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基、メトキシエチル基、イソプロピル基、ヘキサフルオロイソプロピル基、及びピロリジンであり、より好ましくはメチル基及びエチル基である。
【0047】
一般式(II)で表される化合物の中で具体的なものとして、実施例で後述する化合物#13は、上記一般式(II)におけるXがヘキシレン基であり、R6がメチル基であり、かつR3がOHである化合物である。
【0048】
上記一般式(III)におけるR7は、炭素数1~5のアルキル基又はベンジル基である
。鎖状又は分枝状の炭素数1~5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、及び2,2-ジメチルプロピル基を挙げることができる。また、前記ベンジル基のベンゼン間は1又は2以上の炭素数1~3のアルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基で置換されていてもよい。炭素数1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、及びイソプロピル基を挙げることができ、炭素数1~3のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、及びイソプロポキシ基を挙げることができる。上記一般式(III)におけるR7は、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、及び3,5-ジメトキシベンジル基であり、より好ましくは3,5-ジメトキシベンジル基である。
【0049】
上記一般式(III)においてR4及びR5は、同一又は異なって置換若しくは非置換の炭素数1~4のアルキル基である。置換若しくは非置換の炭素数1~4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、R4とR5が窒素と一緒になったピロリジンや、これらのメトキシ基、フェニル基、フッ素及び塩素により置換されたものを挙げることができ、好ましくは、メチル基、モノクロロメチル基、エチル基、2,2,2-トリクロロメチル基、1-フェニルエチル基、2-フェニルエチル基、メトキシエチル基、イソプロピル基、ヘキサフルオロイソプロピル基、及びピロリジンであり、より好ましくはメチル基及びエチル基である。
【0050】
上記一般式(III)におけるAがインドールであり、R7が3,5-ジメトキシベンジル基であり、かつR3がOHのとき、一般式(III)で表させる化合物は、実施例で後述する化合物#35を表す。
【0051】
本件化合物群から選択される化合物が不斉炭素原子及び軸不斉に係わる不斉点をもつとき、かかる化合物は、考えられ得るすべての光学異性体を含み、それら光学異性体は任意の比で使用することができる。例えば、ある光学活性化合物は、エナンチオマーでもラセミでも任意の割合のエナンチオマー混合物でも使用することができ、不斉点が複数存在するときは、任意の割合のジアステレオマー混合物で使用してもよい。
【0052】
本件化合物群における医薬的に許容される塩には、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウム及び亜鉛から生成された金属塩や、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、N-メチルグルカミン、リジン、プロカイン等から生成された有機塩などが含まれる。
【0053】
本件化合物群から選択される化合物の合成方法は、特許文献5、国際公開第2019/235455号パンフレット等に開示された方法を用いることができるが、これらの方法に限られず、一般的に知られている合成法を用いることができる。また、以下に示す化合物は、シグマ-アルドリッチ社、東京化成工業、和光純薬、関東化学等から入手することができる。また、反応溶媒、反応温度に関して、特に記載のない場合は、通常その反応に利用される溶媒、温度で反応が行われる。反応は、通常、アルゴン又は窒素雰囲気下で行われる。保護基は、Green&Wuts, “PROTECTIVE GROUPS inORGANIC SYNTHESIS” 3rded.JohnWiley&Sons, Inc.を参照し、用いることできる。
【0054】
本件化合物群としては、本願明細書の実施例において、その効果が具体的に示されている化合物#5、#4、#9、#13、#21、#30、#35が好ましい。
【0055】
本件の剤及び本件予防/改善剤の添加剤としては、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、等張剤、添加剤、被覆剤、可溶化剤、潤滑剤、滑走剤、溶解補助剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、溶剤、ゲル化剤、栄養剤等の配合成分を例示することができる。かかる配合成分としては、具体的に、水、生理食塩水、動物性脂肪及び油、植物油、乳糖、デンプン、ゼラチン、結晶性セルロース、ガム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、グリセリンを例示することができる。
【0056】
本件の剤及び本件予防/改善剤の投与形態としては、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液などの剤型で投与する経口投与や、溶液、乳剤、懸濁液などの剤型を注射、又はスプレー剤の型で鼻孔内投与する非経口投与を挙げることができる。
【0057】
本件の剤及び本件予防/改善剤の投与量は、年齢、体重、性別、症状、薬剤への感受性等に応じて適宜決定される。通常、1μg~200mg/dayの投与量の範囲で、好ましくは2μg~2000μg/dayの投与量の範囲で、より好ましくは3~200μg/dayの投与量の範囲で、さらに好ましくは4~20μg/dayの投与量の範囲で、一日あたり単回又は複数回(例えば、2~4回)に分けて投与されるが、症状の改善の状況に応じて投与量を調節してよい。
【0058】
本件化合物群は、後述する実施例において具体的に示すとおり、SIRTタンパク質の産生を、効果的に促進する作用のほか、老化に関連する症状又は疾患である脂肪肝及び肥満症を改善する作用、及び、肝機能を改善する作用、並びに、老化に関連する運動機能の低下を改善する作用などを有する。また、本件化合物群は、後述する実施例において具体的に示すとおり、FOXO1遺伝子の発現の上昇やIGF1シグナル経路の活性化、PPAR遺伝子によるNF-kB経路の抑制やDNA修復、Longevity regulating経路の活性化、多能性に関する遺伝子群の発現の上昇などの作用も有している。また、本件化合物群は、後述する実施例において具体的に示すとおり、老化に関連するパスウェイであるDNAのメチル化を抑制する作用も有している。これらのことから、本件化合物群を摂取することにより、それを摂取した対象において、老化に関連する(好ましくは、老化に起因する)症状又は疾患の進行を抑制若しくは遅延させることや、細胞若返りを生じさせることが十分期待される。
【0059】
本明細書において「抗老化」とは、老化に関連する(好ましくは、老化に起因する)症状又は疾患のうち、いずれか1つの症状又はいずれか1つの疾患の進行を抑制若しくは遅延させることを意味する。本明細書において、「老化に関連する(好ましくは、老化に起因する)症状又は疾患」としては、例えば、癌(例えば、乳癌、結腸直腸癌、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、前立腺癌);肉腫(骨肉腫、脊索腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫などの骨肉腫;悪性抹消神経鞘腫瘍、横紋筋肉腫、滑膜肉腫、血管肉腫、骨外性ユーイング肉腫、消化管間質腫瘍、脂肪肉腫、繊維肉腫、粘液線維肉腫、平滑筋肉腫、胞巣状軟部肉腫、未分化多形肉腫、明細胞肉腫、隆起性皮膚線維肉腫、類上皮肉腫などの軟部肉腫);嚢胞性線維症;神経変性疾患または神経変性障害(例えば、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症およびポリグルタミンの凝集によって引き起こされる障害);骨格筋疾患(例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、骨格筋萎縮、ベッカー型筋ジストロフィーまたは筋緊張性ジストロフィー);運動機能の低下(例えば骨格筋の筋力低下,サルコペニア、骨粗鬆症、変形性関節症);代謝疾患(例えば、インスリン抵抗性、糖尿病、肥満症、耐糖能障害、高血中コレステロール、高血糖症、脂質異常症および高脂血症、視床下部、下垂体、副腎ホルモン低下・亢進、例えば、原発性アルドステロン症);成人発症型糖尿病、糖尿病性腎症、ニューロパチー(例えば、感覚性ニューロパチー、自律神経ニューロパチー、運動神経障害、網膜症);骨疾患(例えば、骨粗鬆症)、血液疾患(例えば、白血病);肝疾患(例えば、脂肪肝、B型慢性肝炎、C型慢性肝炎、肝硬変、肝がん、アルコール性肝障害、原発性胆汁性肝硬変、自己免疫性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)などの慢性肝疾患;急性ウイルス性肝炎、薬剤性肝障害などの急性肝疾患);肥満症;骨吸収、老化黄斑変性症、エイズ関連認知症、感染症、肺繊維症、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、Fagile X症候群、多発性硬化症、ベル麻痺、アテローム性動脈硬化症、心疾患(例えば、不整脈、慢性うっ血性心不全、虚血性脳卒中、冠動脈疾患および心筋症、不整脈)、慢性変性疾患(例えば、心筋疾患)、腎線維化、腎機能障害(例えば、急性腎不全、慢性腎不全、急性糸球体腎炎、慢性糸球体腎炎、微小変化型腎炎、腎硬化症、膜性増殖性腎炎、メサンギウム増殖性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、半月体形成性腎炎、急速進行性糸球体腎炎、膜性糸球体腎炎、尿細管間質性腎炎、急性腎盂腎炎、慢性腎盂腎炎、管内増殖性腎炎、ループス腎炎等の腎炎や、アミロイド腎、膜性腎症、巣状糸球体硬化症、IgA腎症、急性尿細管壊死、ネフローゼ症候群、糖尿病性腎症、痛風腎、腎性浮腫、腎腫瘍、腎臓虚血障害、腎臓虚血再灌流障害)、2型糖尿病、潰瘍、白内障、老視、ギラン-バレー症候群、出血性卒中、関節リウマチ、炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデス(SLE)、乾癬、アトピー性皮膚炎、、変形性関節症、骨粗鬆症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺炎、皮膚老化、アンドロゲン性脱毛症、尿失禁、難聴、視力傷害、認知障害、ならびに神経細胞の死、老化または望まれない細胞損失を特徴とする他の状態に関連する疾患または症状を挙げることができる。本件の剤をこれら対象に投与すると、長寿や抗老化などに関連する遺伝子の発現を亢進すること等によって、寿命を延長したり、上記疾患や症状を予防又は治療することができると考えられる。本件の剤及び本件予防又は改善剤は、上記疾患や症状の中でも、肥満症、肝疾患、肝機能の低下、腎線維化、腎機能障害、及び、運動機能(例えば、筋力)の低下からなる群から選択される1種又は2種以上の予防又は治療に好適に用いることができる。かかる肝疾患として、脂肪肝、B型慢性肝炎、C型慢性肝炎、肝硬変、肝がん、アルコール性肝障害、原発性胆汁性肝硬変、自己免疫性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)などの慢性肝疾患;急性ウイルス性肝炎、薬剤性肝障害などの急性肝疾患;が好ましく挙げられ、中でも、脂肪肝がより好ましく挙げられる。
【0060】
本件の剤は、細胞若返り用の剤でもある。本明細書において「細胞若返り」には、細胞において、FOXO1遺伝子の発現の上昇、IGF1シグナル経路の活性化、NF-kB経路の抑制、Longevity regulating経路の活性化、メチル化抑制、多能性に関する遺伝子群の発現の上昇、及び、ポリコーム抑制複合体2(PRC2)経路の活性化、並びに、血液中のスペルミジン濃度の上昇からなる群から選択される1種又は2種以上が生じることが好適に含まれる。
【0061】
上記の「多能性に関する遺伝子群」としては、例えば、Myc遺伝子、Oct4遺伝子、Sox2遺伝子、Nanog遺伝子、及び、Oct1遺伝子からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられる。上記の「IGF1シグナル経路の活性化」としては、例えば、IGF-1、PI3K、AKT、及び、mTORからなる群から選択される1種又は2種以上から構成されるシグナル経路の活性化を意味する。上記の「NF-kB経路の抑制」としては、例えば、NF-kB、TNF-α、LPS(リポ多糖)、CD40L、BAFF(B cell activating factor)、RANKL(receptoractivator of NF-kB ligand)、LTβ(lymphotoxin β)、IL-1、IL-2、IL-6、IL-8、IL-12、COX2、VCAM(vascularcell adhesion molecule)、及び、ICAM(intercellular adhesionmolecule)からなる群から選択される1種又は2種以上から構成されるシグナル経路の活性化を意味する。上記の「Longevity regulating経路の活性化」としては、例えば、IGF-1、PI3K、AKT、mTOR、FOXO、SOD2、CAT(catalase)、ATG5、及び、SIRT1からなる群から選択される1種又は2種以上から構成されるシグナル経路の活性化を意味する。上記のPRC2経路の活性化としては、例えば、Suz12、Eed、Ezh1、Ezh2、及び、Rbbp4からなる群から選択される1種又は2種以上から構成されるシグナル経路の活性化を意味する。
【0062】
本件の剤及び本件予防又は改善剤の投与対象の生物種としては、動物が挙げられ、かかる動物としては、哺乳類(ヒト又は非ヒト哺乳動物)、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、無脊椎動物等を挙げることができ、中でも、ヒトを好ましく挙げることができる。また、動物の他の態様として、ヒト、家畜を挙げることができる。ここで「家畜」とは、ヒトが飼育し、繁殖させた動物を意味する。かかる家畜としては、非ヒト哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類;ウサギ等のウサギ目;ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の有蹄目;イヌ、ネコ等のネコ目など)、鳥類(例えば、ニワトリ、ウズラ、シチメンチョウ、ハト、アヒル、ガチョウ等)、魚類(例えば、コイ、キンギョ等)、無脊椎動物(例えば、カイコ、ミツバチ等)などを例示することができる。
【0063】
本件の剤及び本件予防又は改善剤としては、本件化合物群以外の、SIRTタンパク質の産生促進成分、抗老化成分、及び、細胞若返り成分からなる群から選択される1種又は2種以上を含むものであってもよいが、本件化合物群単独でも優れたSIRTタンパク質の産生促進効果、抗老化効果、及び、細胞若返り効果からなる群から選択される1種又は2種以上を発揮するため、本件化合物群以外の、SIRTタンパク質の産生促進成分(例えば、特許文献1に記載のボタンボウフウの植物体またはその溶媒抽出物;特許文献2に記載の黒ウコンの抽出物;特許文献3に記載のトンカットアリの抽出物;など)、抗老化成分、及び、細胞若返り成分からなる群から選択される1種又は2種以上を含まないものが好ましい。
【0064】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、軟骨細胞の培養は、25cm2フラスコを使用し、5%CO2/20%O2、37℃条件下で行った。また、軟骨細胞の培養液として、α―MEN(α-Modified Eagle Medium)(1×)(lifetechnologies社製、REF:12571-063)5mLに、10%ウシ胎仔血清(foetal calf serum;FCS)(life technologies社製、REF:26140-079)、1% Insulin Transfellin Seline(life technologies社製、REF:41400-045)、100U/mLペニシリン-100μg/mLストレプトマイシン合剤(LONZA社製、REF:17-602E)を添加したものを用いた。
【実施例0065】
1.本件化合物である化合物#5がSIRTタンパク質の産生促進効果を有することの確認
[方法]
10mLの培養液(10重量%のFBSを添加した、グルコース低含有DMEM培地(グルコース濃度1.0g/dL)を含むディッシュに、1×10
6cell/dishのHEI-OC1細胞(マウス内耳細胞株)を播種して培養した。1日後に化合物の溶媒である0.1%のDMSO、又は各種濃度(1μM、3μM、10μM、又は30μM)の化合物#5を添加し、24時間培養した([化#5添加群])。培養終了後、細胞を回収し、常法によって細胞を破壊して細胞内の各種SIRT(SIRT1、SIRT2、SIRT3、SIRT5、SIRT6、及びSIRT7)の発現レベルをウエスタンブロット法により解析した(
図1-1、
図1-2参照)。
【0066】
[結果]
図1-1及び
図1-2から分かるように、HEI-OC1細胞株を、MA5の存在下で培養すると、MA5の非存在下で培養した場合と比べ、細胞内の各種SIRTの発現量が増加することが示された。
この結果は、本件化合物群(化合物#5)が細胞中のSIRTタンパク質の産生を促進する効果を有することを示している。
【0067】
2.本件化合物である化合物#5が肥満症の改善効果を有することの確認
[方法]
NDUFS4ホモノックアウトマウス(Ndufs4-/-マウス)(28日齢)に、マウスの体重1kgあたり10mg/日の化合物#5を、50日間投与した([化#5投与群])。
また、NDUFS4ホモノックアウトマウス(Ndufs4-/-マウス)に、マウスの体重1kgあたり10mg/日のCMC(カルボキシメチルセルロース)を、50日間投与した([CMC投与群;コントロール群])。
なお、NDUFS4ホモノックアウトマウスは、ミトコンドリア機能異常マウスであり、ミトコンドリア機能異常は加齢現象の1つであるため、NDUFS4ホモノックアウトマウスは老化モデルマウスの1種として用いることができると考えられる。
【0068】
上記の[化#5投与群]及び[CMC投与群]のマウスの褐色脂肪組織をHE(ヘマトキシリン・エオジン)染色した結果を
図2に示す。
【0069】
[結果]
[化#5投与群]では、[CMC投与群]と比較して、脂肪滴のサイズの減少が認められた(
図2)。この結果は、本件化合物群(化合物#5)が肥満症の改善効果を有することを示している。本件化合物群(化合物#5)は、老化に起因する肥満症に対する改善効果を有すると考えられる。
【0070】
3.本件化合物である化合物#5の、UCP1遺伝子、PPARγ遺伝子、及び、FABP4遺伝子の発現への影響の確認
[方法]
NDUFS4ホモノックアウトマウス(Ndufs4-/-マウス)(4週齢)に、マウスの体重1kgあたり10mg/日の化合物#5を、50日間投与した([化#5投与群])。
また、NDUFS4ホモノックアウトマウス(Ndufs4-/-マウス)に、マウスの体重1kgあたり10mg/日のCMC(カルボキシメチルセルロース)を、50日間投与した([CMC投与群;コントロール群])。
【0071】
上記の[化#5投与群]及び[CMC投与群]のマウスの褐色脂肪細胞を採取した。かかる褐色脂肪細胞から総RNAを抽出し、それからcDNAを調製してmRNA発現量の測定に用いた。測定は、定量PCR法により行った。mRNAの発現量は、内部標準として用いたβアクチンとの相対比により求めた。その結果を
図3に示す。なお、プライマー及びプローブとしては、以下の市販品(Thermo Fisher Scientific社製など)を使用した。
マウス Acts(actinbeta, β-actin) Mm02619580_g1, Cat # 4331182
マウス Ucp1(uncouplingprotein 1), Mm00494069_m1, Cat# 4331182
マウス Pparg(PPARγ,peroxisome proliferator activated receptor gamma), Mm00440945_m1, Cat# 4331182p
マウス Fabp4(fatty acidbinding protein 4), Mm00445880_m1, Cat# 4331182
【0072】
[結果]
[化#5投与群]では、[CMC投与群]と比較して、PPARγ遺伝子の発現が有意に高いことが示された(
図3)。また、[化#5投与群]では、[CMC投与群]と比較して、FABP4遺伝子の発現が高いことも示された(
図3)。[化#5投与群]が肥満症や脂肪肝(後述の試験4.参照)を改善するメカニズムの詳細は明らかではないが、PPARγ遺伝子やFABP4遺伝子の発現の増加が何らかの関与をしている可能性が考えられた。また、化#5が肥満症や脂肪肝を改善することには、後述の試験結果(後述の試験9.及び12.~14.など)に示されるように、化#5が抗老化関連遺伝子、長寿関連遺伝子、リプログラミング関連遺伝子などが関与をしている可能性も考えられた。
【0073】
4.本件化合物である化合物#5が、脂肪肝の改善効果を有することの確認
[方法]
NDUFS4ホモノックアウトマウス(Ndufs4-/-マウス)(4週齢)に、マウスの体重1kgあたり0.1mg/日の化合物#5を、24日間経口投与した([化#5投与群])。
また、NDUFS4ホモノックアウトマウス(Ndufs4-/-マウス)に水を24日間経口投与した([DMSO群;コントロール群])。
さらに、野生型のマウスに水を24日間経口投与した([コントロール2群])。
【0074】
上記の[化#5投与群]、[コントロール1群]及び[コントロール2群]のマウスの肝臓組織を採取して、その切片を電子顕微鏡で観察した結果を
図4に示す。
【0075】
[結果]
図4から分かるように、[コントロール1群]では、肝細胞内に著明な脂肪沈着が認められる脂肪肝の所見が認められる肝細胞内に著明な脂肪沈着が認められる脂肪肝の所見が認められるのに対し、[化#5投与群]では、肝細胞内の脂肪沈着が明らかに軽減して脂肪肝の改善が認められる所見であった。今回の
図4の結果から、本件化合物群(化合物#5)は、老化に起因する脂肪肝に対する改善効果を有すると考えられる。
【0076】
5.本件化合物である化合物#4が、肝機能の改善効果を有することの確認
[方法]
C57BL6マウス(8週齢)に、マウスの体重1kgあたり50mg/kg/日/DMSOコーン油の化合物#4を、7日間経口投与した([L群])。
また、C57BL6マウス(8週齢)に、マウスの体重1kgあたり150mg/kg/日/DMSOコーン油の化合物#4を、7日間経口投与した([H群])。
さらに、C57BL6マウス(8週齢))にDMSOコーン油を7日間経口投与した([対照群])。
【0077】
上記の[L群]、[H群]及び[対照群]のマウスの血液を採取して、血液中のエリスロポエチン濃度、中性脂肪濃度、GOT濃度、GTP濃度、総コレステロール(T-Cho)濃度、HDL濃度を測定した結果を
図5に示す。
【0078】
[結果]
図5から分かるように、本件化合物群(化合物#4)を投与すると、GOT、GPTが減少したことから、本件化合物群(化合物#4)は肝臓保護機能を有し、肝機能の改善効果を有していることが示された。
【0079】
6.化合物#5以外の本件化合物もSIRTタンパク質の産生促進効果を有することの確認
[方法]
10mLの培養液(10重量%のFBSを添加した、グルコース低含有DMEM培地(グルコース濃度1.0g/dL)を含むディッシュに、1×10
6cell/dishのRH30細胞(ヒト横紋筋肉腫細胞株;gli遺伝子発現+、N-myc遺伝子発現+)を播種して培養した。1日後に化合物#5を30μMになるように添加し、24時間培養した([化#5添加群])。なお、化合物#5に代えて、本件化合物である化合物#9、化合物#13、化合物#21、化合物#30又は化合物#35を添加して同様に培養したものを、それぞれ[化#9添加群]、[化#13添加群]、[化#21添加群]、[化#30添加群]、及び、[化#13添加群]とした。
一方、コントロールとして、DMSO(ジメチルスルホキシド)を0.2重量%となるように添加し、24時間培養した([対照群])。
培養終了後、細胞を回収し、常法によって細胞を破壊して細胞内の各タンパク質(SIRT1タンパク質など)量をウエスタンブロット法により検出した。その結果を
図6に示す。さらに、
図6のウエスタンブロットの検出結果の各バンドを、ローディングコントロールであるβ-アクチンのバンドで標準化して定量化した結果を
図7に示す。
【0080】
[結果]
[化#5添加群]だけでなく、[化#9添加群]、[化#13添加群]、[化#21添加群]、[化#30添加群]、及び、[化#13添加群]のいずれにおいても、細胞中のSIRT1タンパク質の量は、「対照群」と比べて増加していた(
図6~
図7)。
これらの結果は、化合物#5だけでなく、多くの本件化合物群が、細胞中のSIRT1タンパク質の産生を促進する効果を有することを示している。
【0081】
7.化合物#5が、老齢マウスの運動機能の低下に対する抑制効果を有することの確認
[方法]
C57BL6マウス(92週齢)に、水に懸濁した化合物#5を与えて、マウスの体重1kgあたり50mg/kg/日の化合物#5を、2か月間経口投与した([MA5添加群]、n=5)。2か月間の経口投与後には、かかるマウスは101週齢となった。
また、C57BL6マウス(92週齢)に、水を2か月間経口投与した([Vehicle群]、n=5)。2か月間の経口投与後には、かかるマウスは101週齢となった。
【0082】
上記の[MA5添加群]及び[Vehicle群]の各老齢マウスのトレッドミルでの走行時間を測定した結果を、
図8に示す。また、それらの[MA5添加群]及び[Vehicle群]の各老齢マウスのサバイバルの割合(その経過時間まで、疲労困憊せずに走り続けているマウスの割合)(%)を算出した結果を、
図9に示す。
【0083】
[結果]
図8から分かるように、[Vehicle群]の老齢マウスでは、トレッドミルでの走行時間が有意に減少し、運動機能が低下したのに対し、[MA5添加群]の老齢マウスでは、トレッドミルでの走行時間は減少せず、運動機能の低下が抑制された。また、
図9から分かるように、[Vehicle群]の老齢マウスと比較して、[MA5添加群]の老齢マウスでは、疲労困憊までの時間が有意に向上した(p=0.0034)。
これらの結果から、化合物#5は、老齢マウスにおける老化による運動機能の低下に対する抑制効果を有することが示された。
【0084】
8.化合物#5で処理した老齢マウスの筋肉細胞において上昇制御された遺伝子経路などの確認
[方法]
C57BL6マウス(92週齢)に、水に懸濁した化合物#5を与えて、マウスの体重1kgあたり50mg/kg/日の化合物#5を2か月間経口投与した([MA5添加群]、n=5)。2か月間の経口投与後には、かかるマウスは101週齢となった。
また、C57BL6マウス(92週齢)に、水を2か月間経口投与した([Vehicle群]、n=5)。2か月間の経口投与後には、かかるマウスは101週齢となった。
【0085】
上記の[MA5添加群]及び[Vehicle群]の老齢マウスの筋肉の細胞について、RNAシーケンス(RNA-Seq)解析を行い、投与前の若齢マウスの筋肉の細胞と比較して[MA5添加群]及び[Vehicle群]において発現量が変化した(増加又は減少した)遺伝子を特定した。その結果を
図10に示す。また、老齢マウスの[Vehicle群]と[MA5添加群]とで、多能性関連遺伝子であるKlf4遺伝子、Nanog遺伝子、Pou5f1(Oct4)遺伝子、Sox2遺伝子、Myc遺伝子の発現量を比較した結果を
図11に示す。
【0086】
[結果]
図10において、右側の5列の結果は[MA5添加群]の結果であり、左側の5列の結果は[Vehicle群]の結果である。
図10のうち、上から10種類の遺伝子名は、投与前と比較して[MA5添加群]及び[Vehicle群]においてそれぞれ発現量の増加傾向及び減少傾向が認められた遺伝子群であり、下から10種類の遺伝子名は、投与前と比較して[MA5添加群]及び[Vehicle群]においてそれぞれ発現量の減少傾向及び増加傾向が認められた遺伝子群である。
図11から分かるように、[MA5添加群]の老齢マウスの筋肉細胞では、多能性関連遺伝子であるKlf4遺伝子、Sox2遺伝子、Myc遺伝子の発現量が有意に増加しており、また、Nanog遺伝子、Pou5f1(Oct4)遺伝子の発現量について増加傾向が認められた。
【0087】
[方法]
RNAシーケンス(RNA-Seq)解析において、[Vehicle群]の老齢マウスと比較して、[MA5添加群]の老齢マウスにおいて発現量が増加又は減少した遺伝子名に基づいて、[MA5添加群]の老齢マウスの筋肉細胞において発現が変動している遺伝子パスウェイ解析を行った。その結果を
図12に示す。
【0088】
[結果]
図12から分かるように、[MA5添加群]の老齢マウスでは、寿命制御経路(Longevityregulating pathway)の亢進、MAPKカスケードの抑制、インスリンシグナル経路の亢進などが生じていることが示された。
【0089】
[方法]
RNAシーケンス(RNA-Seq)解析において、[Vehicle群]の老齢マウスと比較して、[MA5添加群]の老齢マウスにおいて発現量が増加又は減少した遺伝子名の結果を利用して、ChIP-Atlasとの統合解析を行い、それらの遺伝子が関連すると考えられる転写因子を調べた。その結果を表1及び
図13に示す。
【0090】
[結果]
【0091】
【0092】
表1及び
図13から分かるように、[MA5添加群]の老齢マウスにおいて発現が増加している遺伝子が関連する転写因子には、長寿遺伝子として知られるFOXO1や、iPS細胞作製の際に必要なリプログラミング因子の一つであるKLF4、多能性関連遺伝子であるKLF2、KLF5などが含まれていることが示された。
【0093】
9.化合物#5が、若齢マウスの運動機能の低下に対する抑制効果を有することの確認
[方法]
C57BL6マウス(12週齢)に、水に懸濁した化合物#5を与えて、マウスの体重1kgあたり50mg/kg/日の化合物#5を、2か月間経口投与した([MA5高用量添加群]、n=5)。
また、C57BL6マウス(12週齢)に、水に懸濁した化合物#5を与えて、マウスの体重1kgあたり10mg/kg/日の化合物#5を、2か月間経口投与した([MA5低用量添加群]、n=5)。
また、C57BL6マウス(12週齢)に、水を2か月間経口投与した([Vehicle群]、n=5)。
【0094】
上記の[MA5高用量添加群]、[MA5低用量添加群]及び[Vehicle群]の各若齢マウスのトレッドミルでの走行時間を測定した結果を、
図14に示す。また、それらの[MA5高用量添加群]、[MA5低用量添加群]及び[Vehicle群]の各若齢マウスのサバイバルの割合(その経過時間まで、疲労困憊せずに走り続けているマウスの割合)(%)を算出した結果を、
図15に示す。
【0095】
[結果]
図14から分かるように、[Vehicle群]の若齢マウスでは、トレッドミルでの走行時間が減少し、運動機能が低下したのに対し、[MA5低用量添加群]や[MA5高用量添加群]の若齢マウスでは、トレッドミルでの走行時間の減少が、MA5の用量依存的に抑制され、運動機能の低下が抑制された。また、
図15から分かるように、[Vehicle群]の若齢マウスと比較して、[MA5低用量添加群]や[MA5高用量添加群]の若齢マウスでは、疲労困憊までの時間が有意に向上した(p<0.01)。
これらの結果から、化合物#5は、若齢マウスにおいても、老化による運動機能の低下に対する抑制効果を有することが示された。
【0096】
10.化合物#5で処理した若齢マウスの筋肉細胞において上昇制御された遺伝子経路などの確認
[方法]
C57BL6マウス(12週齢)に、水に懸濁した化合物#5を与えて、マウスの体重1kgあたり50mg/kg/日の化合物#5を2か月間経口投与した([MA5添加群]、n=5)。2か月間の経口投与後には、かかるマウスは20週齢となった。
また、C57BL6マウス(12週齢)に、水を2か月間経口投与した([Vehicle群]、n=5)。2か月間の経口投与後には、かかるマウスは20週齢となった。
【0097】
上記の[MA5添加群]及び[Vehicle群]の若齢マウスの筋肉の細胞について、RNAシーケンス(RNA-Seq)解析を行い、投与前の若齢マウスの筋肉の細胞と比較して[MA5添加群]及び[Vehicle群]において発現量が変化した(増加又は減少した)遺伝子を特定した。その結果を
図16に示す。
【0098】
[結果]
図16において、右側の5列の結果は[MA5添加群]の結果であり、左側の5列の結果は[Vehicle群]の結果である。
図16のうち、上から5種類の遺伝子名は、投与前と比較して[MA5添加群]及び[Vehicle群]においてそれぞれ発現量の増加傾向及び減少傾向が認められた遺伝子群であり、下から5種類の遺伝子名は、投与前と比較して[MA5添加群]及び[Vehicle群]においてそれぞれ発現量の減少傾向及び増加傾向が認められた遺伝子群である。
図16から分かるように、[MA5添加群]の若齢マウスでは、Tbx1遺伝子など、筋肉の分化、発達などに関連する遺伝子の発現量が増加していることが示された。
【0099】
[方法]
RNAシーケンス(RNA-Seq)解析において、[Vehicle群]の若齢マウスと比較して、[MA5添加群]の若齢マウスにおいて発現量が増加又は減少した遺伝子名に基づいて、[MA5添加群]において発現が変動している遺伝子パスウェイ解析を行った。その結果を
図17に示す。
【0100】
[結果]
図17から分かるように、[MA5添加群]の若齢マウスでは、[MA5添加群]の老齢マウス(
図12)とは異なる遺伝子経路が亢進していることが示された。
【0101】
[方法]
RNAシーケンス(RNA-Seq)解析において、[Vehicle群]の若齢マウスと比較して、[MA5添加群]の若齢マウスにおいて発現量が増加又は減少した遺伝子名の結果を利用して、ChIP-Atlasとの統合解析を行い、それらの遺伝子が関連すると考えられる転写因子を調べた。その結果を表2及び
図18に示す。
【0102】
[結果]
【0103】
【0104】
表2及び
図18から分かるように、[MA5添加群]の若齢マウスの筋肉細胞において発現が増加している遺伝子が関連する転写因子には、ヒストンメチル化を抑制するポリコーム抑制複合体2(PRC2)を構成する因子であるSUZ12、EZH2などが含まれていることが示された。
【0105】
11.化合物#5で処理した若齢マウスの肝臓細胞において上昇制御された遺伝子経路などの確認
[方法]
C57BL6マウス(12週齢)に、水に懸濁した化合物#5を与えて、マウスの体重1kgあたり50mg/kg/日の化合物#5を2か月間経口投与した([MA5添加群]、n=5)。2か月間の経口投与後には、かかるマウスは20週齢となった。
また、C57BL6マウス(12週齢)に、水を2か月間経口投与した([Vehicle群]、n=5)。2か月間の経口投与後には、かかるマウスは20週齢となった。
【0106】
上記の[MA5添加群]及び[Vehicle群]の若齢マウスの肝臓細胞について、RNAシーケンス(RNA-Seq)解析を行い、[Vehicle群]と比較して[MA5添加群]において発現量が変化した(増加又は減少した)遺伝子を特定した。それらの遺伝子名の結果を利用して、ChIP-Atlasとの統合解析を行い、それらの遺伝子が関連すると考えられる転写因子を調べた。その結果を表3及び
図19に示す。
【0107】
[結果]
【0108】
【0109】
表3及び
図19から分かるように、[MA5添加群]の若齢マウスの肝臓細胞において発現が増加している遺伝子が関連する転写因子には、iPS細胞作製の際のリプログラミング因子に関連するMYC、OCT4、SOX2、NANOGや、SIRTに関連するRXR(レチノイドX受容体)、PPARA(ペルオキシソーム増殖剤活性化レセプターα)、ヒストンメチル化に関連するTRIM28(トリパータイトモチーフ含有タンパク質28)などが含まれていることが示された。
【0110】
12.化合物#5で処理した老齢マウスの肝臓細胞において上昇制御された遺伝子経路などの確認
[方法]
C57BL6マウス(92週齢)に、水に懸濁した化合物#5を与えて、マウスの体重1kgあたり50mg/kg/日の化合物#5を2か月間経口投与した([MA5添加群]、n=5)。2か月間の経口投与後には、かかるマウスは101週齢となった。
また、C57BL6マウス(92週齢)に、水を2か月間経口投与した([Vehicle群]、n=5)。2か月間の経口投与後には、かかるマウスは101週齢となった。
【0111】
上記の[MA5添加群]及び[Vehicle群]の老齢マウスの肝臓細胞について、RNAシーケンス(RNA-Seq)解析を行い、投与前の若齢マウスの肝臓細胞と比較して[MA5添加群]において発現量が変化した(増加又は減少した)遺伝子を特定した。それらの遺伝子名の結果を利用して、ChIP-Atlasとの統合解析を行い、それらの遺伝子が関連すると考えられる転写因子を調べた。その結果を表4及び
図20に示す。
【0112】
[結果]
【0113】
【0114】
表4及び
図20から分かるように、[MA5添加群]の老齢マウスの肝臓細胞において発現が増加している遺伝子が関連する転写因子には、長寿遺伝子として知られるFOXO1、SIRTに関連するPPARA(ペルオキシソーム増殖剤活性化レセプターα)などが含まれていることが示された。
【0115】
13.化合物#5で処理したNdufs4ノックアウトマウスの内耳の蝸牛殻(cochlea)の細胞において上昇制御された遺伝子経路などの確認
[方法]
Ndufs4(NADH-ユビキノン酸化還元酵素サブユニット4)ノックアウトマウス(6週齢)に、水に懸濁した化合物#5を与えて、マウスの体重1kgあたり50mg/kg/日の化合物#5を2週間経口投与した([MA5添加群]、n=5)。
また、Ndufs4ノックアウトマウス(6週齢)に、水を2週間経口投与した([Vehicle群]、n=5)。
【0116】
上記の[MA5添加群]及び[Vehicle群]のNdufs4ノックアウトマウスの内耳の蝸牛殻の細胞について、RNAシーケンス(RNA-Seq)解析を行い、[Vehicle群]と比較して[MA5添加群]において発現量が変化した(増加又は減少した)遺伝子を特定した。その遺伝子名に基づいて、[MA5添加群]のNdufs4ノックアウトマウスの内耳細胞において発現が変動している遺伝子パスウェイ解析を行った。その結果を
図21に示す。
【0117】
[結果]
図21から分かるように、[MA5添加群]のNdufs4ノックアウトマウスの内耳の蝸牛殻の細胞では、インスリン様増殖因子(IGF)遺伝子のパスウェイが亢進しており、MA5処理によって、IGF1シグナル経路が亢進することが示された。
【0118】
[方法]
RNAシーケンス(RNA-Seq)解析において、[Vehicle群]のNdufs4ノックアウトマウスと比較して、[MA5添加群]のNdufs4ノックアウトマウスにおいて発現量が増加又は減少した遺伝子名の結果を利用して、ChIP-Atlasとの統合解析を行い、それらの遺伝子が関連すると考えられる転写因子を調べた。その結果を表5に示す。
【0119】
[結果]
【0120】
【0121】
表5から分かるように、[MA5添加群]のNdufs4ノックアウトマウスの内耳の蝸牛殻(cochlea)の細胞において発現が増加している遺伝子が関連する転写因子には、iPS細胞作製の際に必要なリプログラミング因子の一つであるSOX2、MYC、多能性関連遺伝子であるPOU2F1(OCT1)などが含まれていることが示された。
【0122】
14.化合物#5で処理した野生型マウスの内耳の蝸牛殻(cochlea)の細胞において上昇制御された遺伝子経路などの確認
[方法]
C57BL6マウス(6週齢)に、水に懸濁した化合物#5を与えて、マウスの体重1kgあたり50mg/kg/日の化合物#5を2週間経口投与した([MA5添加群]、n=5)。
また、C57BL6マウス(6週齢)に、水を2か月間経口投与した([Vehicle群]、n=5)。
【0123】
上記の[MA5添加群]及び[Vehicle群]の野生型マウスの内耳の蝸牛殻の細胞について、RNAシーケンス(RNA-Seq)解析を行い、[Vehicle群]と比較して[MA5添加群]において発現量が変化した(増加又は減少した)遺伝子を特定した。その遺伝子名の結果を利用して、ChIP-Atlasとの統合解析を行い、それらの遺伝子が関連すると考えられる転写因子を調べた。その結果を表6に示す。
【0124】
[結果]
【0125】
【0126】
表6から分かるように、[MA5添加群]の野生型マウスの内耳の蝸牛殻(cochlea)の細胞において発現が増加している遺伝子が関連する転写因子には、ヒストンをメチル化するポリコーム抑制複合体2(PRC2)を構成する因子であるSUZ12、EZH2などが含まれていることが示された。
【0127】
17.化合物#5で処理したマウス内耳細胞HEI-OC1において上昇制御された遺伝子経路などの確認
[方法]
マウス内耳細胞HEI-OC1を、化合物#5を10μM(0.1%DMSOにて溶解)含む10%FBS入のDMEM培地中で培養した([MA5添加群]、n=5)。
また、マウス内耳細胞HEI-OC1を、化合物#5を0.1% DMSO含む10%FBS入のDMEM培地中で培養した([Vehicle群]、n=5)。
【0128】
上記の[MA5添加群]及び[Vehicle群]のHEI-OC1細胞について、RNAシーケンス(RNA-Seq)解析を行い、[Vehicle群]と比較して[MA5添加群]において発現量が変化した(増加又は減少した)遺伝子を特定した。その遺伝子名の結果を利用して、ChIP-Atlasとの統合解析を行い、それらの遺伝子が関連すると考えられる転写因子を調べた。ChIP enrichment analysis(ChEA)による解析結果を表7に示し、ENCODEand ChEA consensus TFs from ChIP-Xによる解析結果を表8に示す。
【0129】
[結果]
【0130】
【0131】
【0132】
表7から分かるように、[MA5添加群]のHEI-OC1細胞において発現が増加している遺伝子が関連する転写因子には、ヒストンをメチル化するポリコーム抑制複合体2(PRC2)を構成する因子であるSUZ12、EZH2、iPS細胞作製の際に必要なリプログラミング因子の一つであるSOX2などが含まれていることが示された。また、表8から分かるように、長寿関連遺伝子であるPPARG(ペルオキシソーム増殖剤活性化レセプターγ)、iPS細胞作製の際に必要なリプログラミング因子の一つであるMYC、ヒストンメチル化に関連するTRIM28(トリパータイトモチーフ含有タンパク質28)などが含まれていることが示された。
【0133】
18.化合物#5が、若齢マウス及び老齢マウスの肝臓細胞においてDNAメチル化抑制効果を有することの確認
[方法]
C57BL6マウス(12週齢)に、水に懸濁した化合物#5を与えて、マウスの体重1kgあたり50mg/kg/日の化合物#5を、2か月間経口投与した([MA5高用量添加群]、n=5)。かかる若齢マウスの肝臓細胞のゲノムDNAのメチル化の程度を、バイサルファイト法により測定した。その結果を表9に示す。
【0134】
また、C57BL6マウス(92週齢)に、水に懸濁した化合物#5を与えて、マウスの体重1kgあたり50mg/kg/日の化合物#5を、2か月間経口投与した([MA5添加群]、n=5)。かかる老齢マウスの肝臓細胞のゲノムDNAのメチル化の程度を、バイサルファイト法により測定した。その結果を表10に示す。なお、表9及び表10において、「Count」は、pathwayに関連する遺伝子中、どれだけの遺伝子が関連していたかを表す。例えば、20個の遺伝子が関わるpathwayの中で、化合物#5の投与により発現量が変動していた遺伝子が3個あった場合は、Countは3となり、その「%」は(3/20)×100で算出される数値となる。「p-value」は、pathwayの群間比較のp値を表し、「Benjamini」は、Benjamini and Hochberg (1995)の線形ステップアップ法を用いて算出したp値を表す(算出法は例えばhttps://david.ncifcrf.gov/helps/functional_annotation.htmlを参照)。
【0135】
【0136】
【0137】
表9から、[MA5添加群]の若齢マウスでは、老化に関連するパスウェイであるWnt signaling pathway、Signaling pathwaysregulating pluripotency of stem cells、Insulin secretionのメチル化が抑制されていることが示された。また、表10から、[MA5添加群]の老齢マウスでは、老化に関連するパスウェイであるInsulin resistance、Insulin signaling pathwayのメチル化が抑制されていることが示された。これらの結果から、化合物#5は、老化に関連するパスウェイのDNAのメチル化を抑制する効果を有することが示された。
【0138】
19.α-Klothoノックアウトマウスへの化合物#5投与による生存率改善効果の確認
[方法]
早期老化動物モデルであるα-Klotho遺伝子欠損マウス(28日齢)に、水に懸濁した化合物#5を10mg/体重kg/日で経口投与し、死亡するまで経過を観察し、カプラン・マイヤー法に基づく生存曲線より生存率を評価した(KlothoホモKOマウス投与群、n=9)。
また、α-Klotho遺伝子欠損マウス(28日齢)に、水を死亡するまでの間経口投与した(KlothoホモKOマウス未投与群、n=9)。
【0139】
[結果]
図22から分かるように、早期老化動物モデルであるα-Klotho遺伝子欠損マウスに若齢期(28日齢)から化合物#5を投与すると、生存率が有意に上昇すること(p=0.0056)が示された。
【0140】
20.α-Klothoノックアウトマウスにおける腎線維化に対する化合物#5投与の影響
[方法]
α-Klotho遺伝子欠損マウス(28日齢)に、水に懸濁した化合物#5を10mg/体重kg/日で60日齢まで経口投与した(KlothoホモKOマウス投与群、n=3)。
また、野生型マウス(28日齢)及びα-Klotho遺伝子欠損マウス(28日齢)に、それぞれ水を60日齢まで経口投与した(それぞれ、野生型未投与群及びKlothoホモKOマウス未投与群、共にn=3)。
60日齢のそれぞれのマウスから定法に従って腎臓組織を採取し、市販のカラム抽出キット(RNeasy Micro Kit、キアゲン社製)を用いて総RNAを抽出し、1μgの総RNAから、ReverTraAce(TOYOBO社製)を用いてcDNAを合成した。その後、2種類の線維化関連遺伝子(αSMA及びCol1a1)由来のmRNAと、内部標準であるGAPDH遺伝子由来のmRNAを定量するために、測定機器としてQuantStudio 5 Real-time PCR system(AppliedBiosystems社製)を用い、反応液として、THUNDERBIRD SYBR qPCR MasterMix(TOYOBO社製)を用いたリアルタイムPCRを、定法に従って行った。
【0141】
[結果]
図23から分かるように、早期老化動物モデルであるα-Klotho遺伝子欠損マウスに化合物#5を投与すると、加齢に伴い進行する腎線維化が抑制されることが示された。
【0142】
21.α-Klothoノックアウトマウスへの化合物#5投与による血液中代謝物に及ぼす影響
[方法]
α-Klotho遺伝子欠損マウス(28日齢)に、水に懸濁した化合物#5を10mg/体重kg/日で60日齢まで経口投与した(KlothoホモKOマウス投与群、n=2)。
また、野生型マウス(28日齢)及びα-Klotho遺伝子欠損マウス(28日齢)に、それぞれ水を60日齢まで経口投与した(それぞれ、野生型未投与群及びKlothoホモKOマウス未投与群、ともにn=2)。
60日齢のそれぞれのマウスから血漿を調製し、化合物#5投与が血漿中代謝物に及ぼす影響を、CE-TOFMSによるターゲット解析(網羅的解析)を行った(ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ社製)。
【0143】
[結果]
図24から分かるように、化合物#5をα-Klotho遺伝子欠損マウスに投与することにより増加する血漿中代謝物として、長寿分子として知られるスペルミジンが同定された。
本発明によると、抗老化用又は細胞若返り用の剤や、老化に関連する症状若しくは疾患の予防又は改善剤を提供することができる。さらに、本発明は、比較的簡便かつ高収率で製造できる低分子化合物を、抗老化又は細胞若返りの有効成分とするため、比較的簡便かつ安価に製造することができる。